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No.35776の一覧
[0] Muv-Luv Lunatic Lunarian; Lasciate ogni speranza, voi ch[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[1] プロローグ[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:39)
[2] 第一話 地獄への道は、善意によって舗装されている。[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:50)
[3] 第二話 善悪の彼岸[カルロ・ゼン](2012/12/14 04:52)
[4] 第三話 Homines id quod volunt credunt.[カルロ・ゼン](2012/12/05 04:02)
[5] 第四話 最良なる予言者:過去[カルロ・ゼン](2012/12/05 03:59)
[6] 第五話  "Another One Bites The Dust" [カルロ・ゼン](2012/12/13 02:31)
[7] 第六話 Die Ruinen von Athen[カルロ・ゼン](2013/02/19 08:41)
[8] 第七話 Si Vis Pacem, Para Bellum[カルロ・ゼン](2013/02/27 07:44)
[9] 第八話 Beatus, qui prodest, quibus potest.[カルロ・ゼン](2013/06/26 09:01)
[10] 第九話 Aut viam inveniam aut faciam (前篇)[カルロ・ゼン](2013/03/08 07:24)
[11] 第一〇話 Aut viam inveniam aut faciam (中篇)[カルロ・ゼン](2013/03/12 05:11)
[12] 第一一話 Aut viam inveniam aut faciam (後篇)[カルロ・ゼン](2013/04/25 09:45)
[13] 第一二話 Abyssus abyssum invocat.(前篇)[カルロ・ゼン](2013/05/26 07:43)
[14] 第一三話 Abyssus abyssum invocat.(中篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:38)
[15] 第一四話 Abyssus abyssum invocat.(後篇)[カルロ・ゼン](2013/08/25 08:37)
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[35776] 第一二話 Abyssus abyssum invocat.(前篇)
Name: カルロ・ゼン◆f40da04c ID:f05b6601 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/05/26 07:43
Svalinn heitir,     スヴァリンと呼ばれしは
hann stendr solo fyr,  太陽の前に立ちし物、
scioldr, scinanda goði; 輝く神の前に立つ楯。
biorg oc brim      山も波も
ec veit at brenna scolo, 燃え上がるであろうと私は知っている、
ef hann fellr ifrá.   もしその楯がそこから落ちてしまえば。


ソーフス・ブッゲ『Norrœn Fornkvæði』(1867年)より引用


2個軍団規模のBETAに対し、第一世代機からなる500機弱の戦術機甲部隊でもって間引きを敢行。
損耗率僅かに2割にて殲滅に成功。
加えて余裕のある限定攻勢下での損耗故に衛士の人的損耗はさらに下がる。
艦隊・支援部隊の損耗についても人的損耗については実に軽微。

懸念されていた各国軍の指揮系統・連携も課題は山積するとはいえ作戦には大過を及ばさず。

国連の旗の下で主導された、初の大規模作戦。
結果は『反撃の成功』として華々しく喧伝されるに足る結果を収めた。
少なくとも、メディアに見える範囲においては。

それ故に、人類世界に木霊したのは勝利の速報だ。
大々的に人類の反攻と勝利を祝うニュースは直ちに行き渡り喝采を人々に叫ばせる。
人類は、少なからず安堵したのだ。
先行きの見えない泥沼かに見えた対BETA戦。
少なくとも、人類は団結し、そして勝利を収められるのだ、と。


だからこそ、来客を事務室に迎えるターニャ・デグレチャフ事務次官補は不愉快げ眉をしかめて見せる。
従卒に用意させた珈琲を儀礼的に進めつつも、その態度は勝利を祝いというものとは程遠く苦々しいもの。
だからこそ社交辞令の応酬と単純な形式的会話が済んだ後に残るのは、珈琲よりも苦みのある現実だ。

「…それで?こんな馬鹿げた勝利を素直に祝え、と。」

「事務次官補、お言葉ですが…苦しい中での勝利が世界を勇気づけたことをご理解ください。」

だが、当たり前だが誰かが発表して欲しい知らせとは『ニュース』ではなく『プロパガンダ』というやつなのだ。
実際のところ、権力の監視機構としてのマスメディアに求められるのはその真逆。
誰かが報道してほしくない『事実』を『ニュース』とすることである。

最も、皮肉気に気難しいとされるデグレチャフ事務次官補に弁明する若い事務官の言葉も別に間違ってはないないのだ。
こと総力戦において、宣伝戦は重要な要素。
対BETAという観点から見た場合、権力の監視機能ではなく人類の統合という事がメディアに求められるのは別段不思議でもない。

そして、国連や各国政府が頭を悩ませていたBETAに対する前線国家群の恐怖にも似た感情の緩和が叶うとすれば。
国連を始めとする関連機関が、とりあえず戦えるという事で安堵し、次に希望を見せられることで肩の荷が軽くなったと感じるのは無理もない話だ。

「世界が勇気づけられたのは、なるほど。結構なことだ。で?」

だが、それはBETA戦に対して悲観も楽観もしていない前線やリアリストの一団にしてみれば今更の話。
士気が上がるのは結構なことだろう、とは言ってもよい。
別段、戦意喪失した兵隊や頭がトチ狂ったに違いない恭順派やらに蠢動されるよりはよほどましなのも理解している。
何時の日か、BETAを打倒し、祖国に帰還できるともなれば難民の動向も少しはましになるだろう。

だから、本来であればターニャとてお気楽なことだと呆れつつもここまで嫌味は口にしなかっただろう。

少なくとも、銃口を突きつけて従わせるよりも自発的従軍の方が管理も楽だ。

そういった観点からみれば、本来は歓迎すらしよう。

そう、本来は、だ。

だからこそ、珈琲を飲み干し一息入れたターニャはため息と共に毒を吐く。

「砲身寿命と、空っぽになった弾薬廠を考え怯えるしかない私を勇気づけてはくれないのかね?」

『まだ』天然ものの珈琲を味わえる程度に余裕もあるのだ。
本来ならば、砲弾にしても砲身にしても深刻な欠乏に苦しむ時期でもない。
兵員の基本的な食糧一つとっても、配慮が出来る程度に余裕があるのだ。

勝利を記念して昨日大々的に開催された国連軍司令部での祝勝会。
『時節柄簡素を心がけた』というメニューでワインとトナカイ料理だ。
北欧戦線ということを差し引いても、生態系にすらまた余裕があると言えるだろう。
自然環境が残っているのは喜ばしい。
土木機械のBETA共が我武者羅に行っている整地作業を砲弾で散々妨害した甲斐があるというものだ。

だが、本来ならば北欧にハイヴも建設されかねない状況で阻止に成功しているのは間違いない。
問題の多い多国籍軍の運用にしてもある程度は目処がついているのだ…たとえ極々初期のレベルであるとしても、だ。

こんな状況で、砲弾が届かないというのは生産能力の問題以外の何かに原因がなければ説明がつかない。

そして、どんな理由だろうともターニャにしてみれば砲弾の遅配など冗談ではない。

国連が『勝利』やら『希望』やらをばら撒くのは、まあそれ自体は良いことだろう。
少なくともプロパガンダを行うのは、広報機関の職務として、それは良い。
厭戦気分で崩れるよりは、希望を抱いて死んでくれる方が比較にならない程ましだ。

だが、プロパガンダとは信じさせるものであって、自分達までそれに酔っては全く無意味。
勝利を確信し、前進するコミュニストは砲弾避けになる。
が、勝利を確信し、前進を命じる無茶口将軍やつじーんと同レベルの指揮官は人類にとって有害だ。
同様に、浮かれた挙句に必要な備えを怠られては堪ったものではない。

「組織として有機的に機能する統一的な指揮を可能とするべく統合された国連軍なのだろう?」

無理だとわかっていても、建前として国連軍は人類の統一的かつ効率的な対BETA戦遂行が義務なのだ。
東西ドイツに代表される分断国家や、東西対立。
内紛を抱え、イデオロギーの対立に直面し、前線国家と後方国家の相克を克服するなどそれだけで人類にはハードルが高すぎる。

期待されている国連とて、国際機関ではあっても、主権国家の主権を一部たりとも制限しうる超国家的な存在ではないのだ。
だからこそ国連は失敗できないし、実績でもって統合の旗を振る正統性を示し続けねばならないという実に危うい状況にある。

まあそもそも。
第二次大戦後の戦勝国で構成された国連以外に統一的な人類統合機関が存在しないという時点でかなり致命的なのだが。

「昨日、耳が壊れていなければ確かにそう聞いたが…砲弾は手配してくれないのかね?」

「…鋭意、手配すべく最善をしております。」

その薄氷の統合を、無難に行うための一石でもあったのだ。
表向きの理由である初の統合作戦がある程度成果を上げたことを喜ぶのも別に否定まではしない。

が、当然ながら実績ありきの世界ならばそのための手はずは絶対に整えて貰わねば困る。
砲弾の手配が出来ません、というのでは最低限度の体裁も取り繕えては居ないだろう。
もちろん、砲弾が足りないからといってターニャ自身が砲弾の欠乏で苦しむわけではない。
それは、貴重な肉壁であるWTOと、民主主義と自由な個人を守るNATOの兵士たちだ。

が、費用対効果の観点から言えばそもそも訓練された兵員で編成された軍隊を摩耗させるという事自体が狂気の沙汰だ。
陣地に拠っての防衛戦で辛うじてBETA西進を遮っているDDRのそれは、そもそも攻勢に出られるだけの余力がないことの証左でもある。
その点で、間引きという限定攻勢とはいえ攻勢をかけられる程度に統率・訓練された兵員は非常に貴重なものだろう。

相対的に見た場合、人的資本価値が高い人命と鉄量を投じ、時間を稼ぐための漸減作戦を開始した段階なのだ。
表向きの統合だの、戦意高揚だのにかまけて肝心の間引き作戦に投資するという当初の意義を忘れられては困る。

そして、苛立たしいことに連日報道されている人類の反抗成功という知らせ以外に北欧戦線司令部に届く知らせはない。
補給も、整備も、碌に手当されていないのが実態なのだ。

「そうか、ところで話は変わるがどうだね、此処のオフィスの珈琲は。」

だからこそ、唐突にターニャは簡素な執務室には不似合いなほど芳醇な芳香を漂わせる珈琲について話題を変える。

「は?」

「いやなに、拘りが強いわけではないが珈琲党でね。少し、贅沢をしているのだが。」

「なるほど道理で泥水ではないと。私物ですか?」

そう、私物だ。
厳密に言うならば、『国連軍』の倉庫には無いにもかかわらず『正規かつ平時の市価』で『誰でも』購入できる食料品店から購入してきた私物だ。

物がないわけではないという非効率性の匂いが、だからこそ勝利の内実を知っている人間にとっては苛立たしい。
物流以前に管理制度の問題であって、生産力どころか運搬能力にすら余裕があるのだ。
なにしろ国連軍のPXで軍指定の『珈琲豆』が切れたがために、民間の食料品店から『珈琲豆』を調達出来るほどに物が溢れている。

「ああ、その通り。何故か、国連軍のPXには無くても市場にはあるようでね。…横流しを疑うべきと貴官は判断するかね?」

当然、横流し品が横流し中に品質向上を為すことは有りえない。

「っ、それは。」

「珈琲ならば、代用も聞く。そこらで買ってくることもできる。では、珈琲同様に届かない砲弾はどこから買えばいいのかね?」

スーパーで買えばよいのかな?それとも、合衆国上りらしく壁マートにでもお願いすればいいのだろうか。
確かに、ウォールなお店ならば銃砲の取り扱いもあるだろうがそもそもここは北欧だ。
狩猟用ライフル以上の砲弾を、市販している店があるとは聞いたことがない。


「だからこそ、念を押して要請したのだ。それこそ、本来ならば弾薬庫に何をさておいても積み上げられるべき砲弾が届いていないのは何故か?」

「予算措置の問題が…。」

現実など、テレビと比較すればそんなもの。
そうシニカルに割り切れれば簡単なのだろうが、手持ちの砲弾を悉く射耗した人間にしてみれば冗談ではない。
戦艦群の艦砲に緊急で整備が必要にも関わらず、戦艦用のドッグが不足しているという既存設備の限界はまだ我慢できる。
なにしろ、艦艇が整備された時点でそこまでのハイペースで砲身交換を必要とすることは想定されていない。
懸命に、ドッグを増設していることを考えればむしろ良く頑張っていると満足できる。

問題は単純だ。

第一次世界大戦時、遥か古代というべきほど昔に量産できた砲弾。

それが、何故かBETA大戦という実に進歩した不愉快極まりない戦争では足りないのだ。
前線の将校にしてみれば人類の生産能力には理解しがたい、何か退化でもあったのかと声を荒げるのは不可避だろう。
雲霞のごとき物量に対し、兎も角ありったけの弾薬をばら撒くことで漸く『間引く』ことが出来ているのだ。
砲弾が切れれば、その瞬間に物量に蹂躙されるのは目に見えている。

「ギリシャで懲りた、という事は宜しい。だが、合衆国の兵器廠には砲弾があるはずだが。」

だから、あらかじめ万事手配してある。
国防省にはあらかじめ話を通し、多少の事務決済で兵器廠の砲弾を融通させる手続きを取っておいた。
財務省の官僚にも、話が通っているのだ。

苦々しい表情だろうとも、国連を通じての兵站活動に合衆国はゴーサインを出している。
少なくとも、一定程度の枢要に位置しているターニャの知る限りにおいては間違いなく砲弾は出されるはずだった。

「…その、合衆国の予算/砲弾提供の許可が下りる見込みがありません。」

が、国連の事務官が語るのは真逆の事態だ。

「下りない?そんなバカな。国防総省から許可は取り付けたはずだが。」

理解しかねる。

手のひらを反して砲弾の提供を拒否?馬鹿な…合衆国は安全保障政策について常に大真面目な国だ。
此処まで整備された状況をひっくり返すことがあり得るはずがない、とターニャとしては訝しむほかにない。

「すまないが、理解しかねる。…国連の予算委員会は何をしているのだ?」

「事務次官補、お国のカッセバウム修正条項をご存知でしょうか?」

「ああ、あの加重投票制を要求した条項か。確かにアレは予算措置に制約を付けるものだが、“コンセンサス”方式で誤魔化せるはずだが。」

が、若い事務官が口にするのは国連財政に興味でも抱いていなければ存在すら意識しないであろう一つの細則だ。
曰く、国連の一国一票制度は加盟国の負担を公平に別たない以上合衆国としては『負担』に見合った『票』を要求するという法案。
国連の非効率性に対する費用対効果の疑問提起が目的で上院が通した国連への要求。
認められなければ、合衆国の国連供出金を40%までに削減するという一種の脅迫だった。
が、実際のところ国内の有権者向けのポーズも多分にある引き締め政策の一つ、というのが実務者の見解である。

『投票』ではなく『コンセンサス』と意思決定過程を誤魔化すだけで予算措置が維持できる政治的配慮は取られていた。
言い換えれば、加重投票制は投票がなければ問題とはならない。
だから、国連において多数の国が明白に賛同し、合衆国のコミットした方向が維持されるのならば。

潤沢な戦費が国連には約束されているはずだった。

「…内々の話になりますが、コンセンサスが国連で成立する見込みがありません。」

「は?」

「前線国家群の意向と後方国家のそれが纏まらず、コンセンサスは期日になれども不成立です。投票を求める羽目になるでしょう。」

ただ一つ。

コンセンサスが、国連において、成立する限りにおいて。
そして、それは『良識』に依存する法案なのだ。

合衆国上院の行動は実に単純だ。
『現状はベストではないが、少なくとも我慢はできる』
『我慢はするが、しかし、同時に不快感と改革の要求を提示する』

その上で、当面は現状を維持しつつも改革の意欲が国連にあるかを問うただけだ。
言い換えれば、どのみち予算が成立する国連軍に大量の資金と物資は提供し続ける腹。

問題はたった一つ。

その物資の使われ方に、不満をもつ前線国家が多すぎた、ということだろう。
まだ、その程度ならばなんとでもなったかもしれない。
なにしろ、最前線は真面目に戦争しているのだ。
コンセンサスの議論を深め、ある程度適切に修正が施されたやも知れない。

が、問題だったのは、国連の予算があまりにも『国連軍』に吸い取られることに対する『開発途上国』の不平も無視できなかった、ということ
だ。

合衆国にしてみれば、人類種の危機にあって対BETA戦を一丸となって遂行していくのは当然である。
問題は、BETAという安全保障上の脅威に対する優先度が、国連加盟国間で全く異なっている、ということだ。

取りまとめは、内々で秘密裏に行われるために『誰もが成立して当たり前』と思い込んでいるコンセンサスはついに成立しないという事態は最後の最後になって火を噴く。

「・・・・・・・・つまり、トリガー条項が炸裂する、と。ああ、結構。」

合衆国上院にしてみれば『BETA』という共通の敵を前に『コンセンサス』が成立しないというのは理解しかねる事態だった。
あるいは、良くも悪くも『州』の利益代表者である彼らが『合衆国』のために団結しえることで楽観視したのかもしれない。

実際、実務に携わる前線の軍人らにしてみても、優先順位は余りに明白なのだ。
BETA相手には、いくら砲弾と資金を投じても足りることがないという共通理解。
BETA大戦に携わる関係機関の当事者レベルでの危機感は共有されていた。

良識的に考えれば、ここで予算を通さずに前線を混乱させることがどれほど恐ろしい事態を招くか想像すら行えないものだ。
当然、各国の選良たちは嫌々だろうとも予算を通す、と前線でも、粗方の司令部でもこの点に関しては楽観視していた。
ターニャですら、予算措置は通るものだと思い込んで前線の状況に注視していたのは否めない。

当たり前だ。

誰が、ユーラシアの、ひいては人類の前線を崩壊させるような真似をするだろうか?

呆れるしかないが…そんな現実は小説よりも恐ろしい。

まだ、正式には『投票』が実行されていないために『自動削減』というトリガー条項は発動していない。
が、同時に『コンセンサス』が成立していないために合衆国からの財源は提供されてもいない。
そして、恐るべきことに『コンセンサス』が成立しないまま『投票』が実行されようとしているのだ。
無為に時間を浪費した挙句に。

俄かには、信じがたいものの、そういうことになるらしい。

「し、失礼します!」

「…何事かね?」

いっそ、諦観すら抱きかねない程に碌でもない知らせでターニャの精神は酷く疲れていた。
だが、悪い知らせという連中はよほど連れ立って訪れてくるものらしい。

「ッ緊急です!警報!複数の軍団規模BETAが北進中!すでに、前線観測拠点と通信が途絶しました!」







顔面を蒼白にし、通夜ムードと言わんばかりの国連軍司令部。
当たり前だ。
散々贅沢に用意されていたはずの砲弾も物資も使い果たし、補給を待つべきところへのBETAによる大規模侵攻。

国連の弱い一面…自主的な財源を欠くという要素ははっきりと言えば国連軍の兵站に重大な制約を及ぼすものでもある。
が、そんな次元の議論は今となっては最早どうでもよい。

「馬鹿な!?漸減させたばかりだぞ!?」

「いや、我々が引き受けた分は、本来DDRになだれ込む分、という事だろう。クソッタレ。」

「とにかく、邀撃戦を…。」

「砲弾備蓄率をご存知ですかな?…我々には、砲弾が足りていないのですが。」

「予備の艦隊を出しましょう。第三打撃群ならば砲弾にも余裕があるはずです。」

砲弾が、ないとはつまり選択肢がないという事でもある。
…AL弾がなく、空間飛翔体で光線級のつぶらな瞳ちゃんを独占できないとすれば。
戦術機甲部隊が照射を浴びるしかないのだ。

それも、第一世代の鈍重な戦術機で、だ。

前線の維持は、文字通り鉄血の盛大な浪費によってのみ賄われることになるだろう。
それは当然、損耗比を人類にとって耐え難い水準にまで跳ね上がらせることになるのだ。

そして、届くべく補給が届いていないという事実が国連軍という一つの枠を縛り付ける。

無論、合衆国が無策にことを放置しているわけではない。
『NATO』に対する緊急支援措置として、合衆国兵器廠は砲弾と物資の搬送をコンセンサスの成立が怪しくなった瞬間から手配してはいる。

問題はたった一つ。

官僚機構とは、迅速な対応に努めようとも速度に限界があるという事だ。
とりわけ、緻密さを求められる海運での兵站ともなれば即応は困難。

戦争とは、つまるところどこまで行っても兵站である。
いみじくもフリードリヒ大王が喝破したように補給物資がなければ精兵だろうとも木偶の坊にならざるを得ない。

「まあ、それは結構ですが・・・例の保険を使う時期では?」

だが、そんな国連軍司令部の混乱と葛藤の最中にあって。
いっそ冷笑というべき皮肉気な笑みとともにターニャ・デグレチャフは保険を用意しておいてよかった、と心から複線化の成果を喜んでいた。

本来は、間引き作戦が間に合わずにフィンランドにハイヴが建設されることを想定しての計画。
保険というのは、何時の時代も使わないに越したことはないが、あるに越したこともないのだという真理の再確認でもある。
こんな馬鹿げた理由で使う羽目になるとは思いもしなかったのは事実だが。

「事務次官補?」

「こんなことも想定し、一応の保険を用意してあります。」

大半のスタッフが訝しむなかで、ごく少数の事情を知らされている人間が異様な緊張度合いを見せるソレ。

「北欧戦時防衛計画、Svǫl計画。国連軍参謀本部とフィンランド政府の内諾を得た防衛計画です。」

楯と名付けた命名者は、おそらく皮肉を込めたに違いない。

「…こう言ってはなんですが、人口密度の低い北欧ならではの作戦でしょう」

「人口密度…まさか!?」

「反応弾を使用しての、焦土防衛計画です。遺憾ですが、通常兵力の摩耗を抑えるためにも即時発動されるべきでしょう。」

全てを燃え尽くす核でもって、全てを蹂躙するBETAに相対する。
実に単純ながらも、窮極のジレンマだ。

「幸い、北欧諸国の疎開は順調です。人口密集地帯からも遠い。」

何としても、何としても祖国を守らんとする人々の決意。
崇高な目的と、理念のために手段を選べないという事態はさぞかしに皮肉だろう。
守るべき祖国の大地を、焼き払わねば何一つとして守れないと来れば涙するのだろう。

心から同情しても良いほどだ。
補償し、経済支援を行い、医療も提供するにやぶさかではない。
だから、さっさと吹っ飛ばしてもらわねば。

「間に合わせていただきたい。ここで、北欧を失うことが欧州防衛にどれほど高くつくかを考えれば万難を排して行うべきです。」









ミッション・ターゲットは、重レーザー級。
BETA群後衛集団に護衛されつつ、スカンジナビア半島を北進中です。

BETA群後衛集団は、要塞級を中心に構成された、極めて大規模なBETA群です。
これがターゲットそのものではない以上、まともに戦う意味はありません。

従って、今回のミッション・プランは
対レーザー弾による重金属雲を使用して、一気にBETA群後衛内へ入り込み
速やかに重光線級を排除する流れとなります。

なお、国連軍参謀本部は、光線級の排除にもボーナスを設定しています。
それ以外は、特に優先排除目標とはなりません。

ミッションの概要は以上です。
ハイヴの分化阻止と、人類防衛線死守のための絶対に譲れない作戦になるでしょう。
国連軍は、あなたを高く評価しています。

よいお返事を期待していますね。






あとがき
Q:どうして、どうして皆新兵器をガンガン開発して、どんどん砲弾を撃ち込めるんですか?(´∵`)?
A:それはね、補給なんて無粋なものにオリーシュが煩わされちゃいけないからなんだ。(´・ω・`)

Q:じゃあ、どうして本作では砲弾が足りなくなったり、トリガー条項が炸裂したりするんですか? (。´・ω・)?
A:それはね、書いてる人がお金で苦労しないと立派なオリーシュになれないという親心をもっているからだよ。愛だね(*´ω`*)

Q:ぶっちゃけ、カッセバウム修正条項ってなんですか?
A:一応、史実よりも前倒しして出しましたが…オリジナルが存在します。早い話が、お前ら無駄使い辞めないとお小遣いカットするぞというアンクルサムの国連へのお説教です。ちなみに、カッセバウム上院議員は外交を知らないどころか真逆の人間で、しかも穏健派の真面目なお方。オルタ世界の国連だって、乱脈ぶりは酷いはずという独断と偏見で本条項は目出度く採用されました。(国連財政に興味がある方はぐぐってください)

足りない砲弾。
炸裂するトリガー条項。
だがしかし、僕らにはまだ秘策がある!

『Now I am become Death, the destroyer of worlds』

次回、太陽が人類の未来を照らし、森羅万象が震撼する中、人類の反撃が!!!!

ちょい忙しめなので、後程加筆修正するやもしれません。
(今月中に、もう一本投稿することを前向きに頑張りたい所存。)
なんか、ズレがあったので、修正しました。


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