<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28
Name: テンパ◆790d8694 ID:9438d8b5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/16 21:30
※長くなりすぎたため、二話に分割しました。

「こんばんはー……ってあれ?」
 夜遅く、PXでの武誕生会もいつのまにかお開きになり、武は酔いつぶれた何人かを部屋に運んだあと、その足で、地下の夕呼の部屋を訪ねた。だが、そこに夕呼の姿はなかった。
 どうやらどこかに出ているようだ。彼女は睡眠のほとんどをこの部屋でとるので直に帰ってくるだろうと考え、それまでこの部屋にいることにした。

 ただ、ボーっと待っているのも時間の無駄だ。武はスリープ状態になっていた夕呼のパソコンを立ち上げ、とあるフォルダを開いた。パスワードを打ち込み、その中身を開く。それは文書ファイルだった。
『甲21号作戦報告書』
 簡潔につけられた名前。そこにはここ数日で調べられた今回の作戦での戦果、被害状況などあらゆることが記されていた。

 被害状況――作戦に参加していた帝国軍全体の34%、国連軍は32%。フェイズ4ハイヴを攻略したことを考えれば、異常なほど低い数値だ。今までの作戦であれば、これ以上の被害を出して、敗北していたわけなのだから、これに関しては十分と言えるだろう。

 その次に今回の作戦で得られた戦果について目を通した。
 まずはもちろん佐渡島ハイヴの攻略というこの事実だ。G弾を用いていずに達成したこの成果は、世界に大きな影響力を持ち、兵士の士気にも影響する。特にオルタネイティヴⅣの成功という事実は、残ったオルタネイティヴⅤ推進派の息の根を早くに止める足掛かりともなり、そうなれば夕呼と武が考えているオルタネイティヴⅥへと移る準備も早々にできる。
 また、あの戦闘のなか、アーリャと純夏が行ったリーディングと、反応炉前にてA-01部隊が到着するまでアーリャが行ったリーディングの結果、各ハイヴの詳細なマップデータ、BETAの初期配置などなど、今後のハイヴ攻略戦に大いに役立つデータがたっぷりと手に入った。

 反応炉前でヴァルキリーズを待っている間に、アーリャは間近でより精密なリーディングを行った。これでBETAに関するあらゆるデータが手に入り、今も寝る間も惜しんで、情報部が解析を行っているはずだ。

 次に、ハイヴ内に貯蔵されていた大量のG元素。それは武の記憶と照合してもフェイズ4ハイヴに貯蔵されているとは考えられないほどの量だった。もしかしたら奴らは近いうちに――それが何ヶ月後、何年後かはわからないが――日本に大攻勢をかける準備でもしていたのかもしれない。
 一応作戦終了後、今日まで、奴らの襲撃を警戒していたのだが、その予兆も見つけることはできなかった。12月16日に佐渡島ハイヴの戦力の全てがあの島に集っていたのか、それとも佐渡島ハイヴを前の世界とは違う形で落としたことで、彼らの行動に変化があったのか。その理由は分からないが、襲撃がないというのはそれだけで安心できるものだった。

 そして、次の成果は、ヴァルキリーズや多くの将兵に実際のハイヴ攻略戦を経験させることができたこと。特にヴァルキリーズは実戦で反応炉到達という結果までたどり着くことができた。シミュレーターではなく実戦で、だ。これは彼女たちの自信にもつながるし、実戦で何か彼女たちなりにつかめたものがあるかもしれない。
 ヴァルキリーズには、とりあえず3年以内に武抜きで難易度Aクラス(陽動率40%以下、支援砲撃率40%以下)のフェイズ5ハイヴ演習で反応炉到達90%以上の結果を出してもらいたい。

 すべてが武一人で片付けばそれでいい。しかし、そううまくいくはずがない。圧倒的強さを見せつける武だが、その武でさえ、過去何度となくBETAに殺された最後を迎えている。武の記憶の中で、多くのループの経験上、その死因のほとんどがBETAとの戦闘中の戦死だ。……まあ、中には暗殺とか不慮の事故とかもあるのだが、それはまあ例外だ。
 とりあえず、武が死んだあともこの世界が助かるために彼女たちを鍛えておきたい。武はそう考える。もちろん、武には死ぬ気などないが、保険は必要である。

 そして、再び画面をスクロールした。そろそろこのファイルの最後だ。そしてスクロールする手が止まる。そこに――
 
 <門級BETA:一体>と記されていた。

 G元素を保管していた広間を守るように位置していた少々小柄な門級。だが、それとて門級BETAであることには変わりない。
 こいつを使えば、伊邪那岐のほかにもう一機可変型戦術機を造ることができる。伊邪那岐を解析して、新たな可変型戦術機生産の目処が立つのはどう短く見積もっても1年近くはかかるだろう。だが、開発の方はいいとしても、問題はその可変型戦術機に誰を乗せるか、ということだ。

 今のところはヴァルキリーズの中から選ぼうと考えているが、彼女たちのなかに可変型戦術機特性が一定値を超えているものがいるかどうかが問題だ。普通の戦術機に乗るのでさえ、適正検査が行われ、篩(ふるい)にかけられ、残った選ばれた者が衛士となる。可変型戦術機はその特異性故、さらにその中から適正を持った者に限られる。
 それは本当にごく一部。もし、ヴァルキリーズの中にその特性を持っている者がいなければ……、

「そのときは――世界に目を向けるか」
 あの美しい銀髪を持つ姉妹を思い出す。
 武の記憶では、武と他3人いる可変型戦術機の衛士の次に可変型戦術機適正値が高かった姉妹。未来の世界において伊邪那岐――そして‘天照’、‘伊邪那美’などの可変型戦術機以外に新たな可変型戦術機が造られた場合、その機体はおそらく彼女たちのものとなっていただろう。二人で一人の衛士。
(あの二人の場合、複座に……そうなると多少の大型化はやむを得ないか……)

 だが、まだヴァルキリーズの面々が可変戦術機特性を持っていないとわかったわけではない。もしかするとあの姉妹、あるいは武よりも高い数値を叩きだすものがいるかもしれない。武はその考えを途中で止めた。

 そして、次に戦死者のリストに目を通していたときだった。いくら世間で大成功の作戦と騒がれていても、それはかなりの人数の犠牲の上に成り立っている。所属も性別も年齢も詳細に記録されたそれ。

「斯衛軍は湊さんの指揮か……さすがだ。この損害率の低さ」
 一人一人読んでいたらそれだけで朝が来てしまいそうな膨大な人数を流し読みしていく。おそらくこのほとんどが遺体も見つかっていないことだろう。遺族に送られるのは紙切れ一枚。
 そしてその中にもやはり何人か武の知っている人物がいた。そういった名前が目に入るたびにスクロールする手が止まってしまう。そして二度三度とその名前と顔と所属を見て、自分が知っている人物だと確信するとすぐまたスクロールを開始した。

「――な!?」
 だが、とある二人の名前を見つけたとき武は勢いよく立ちあがった。見間違いではないかと、何度もモニターに映るその名前と顔を見返した。しかし、そこに書いてある名前も所属も年齢も、そしてその顔も、すべてが武の知っている二人であると教えていた。
「……っ」
 ドサッと椅子に腰を下ろす。一度目を閉じ深呼吸をしてからもう一度戦死者のリストを見始めた。全員を見終わるまでさらに20分はかかり、最後の一人を終えてからパソコンの電源を切った。

 夕呼の机から緩慢な動作でソファに移動する。そして目がしらを親指と人差し指で押さえ、天井を仰ぎみるような形で顔をあげた。
 それから今日見た‘あの二人’の様子を思い出した。どこか様子がおかしくなかったか。無理をしている様子ではなかったか。なぜ気付かなかった。いや、気づいたところで武にできることはない。
「……くそっ」
 必死に頭の中から今日一日の彼女たちの様子を思い出す武だったが、

「あ~ら、白銀~」
 その時、ドアが開いて、そこから普段見たことのないような万面の笑みの夕呼が入ってきた。その顔は少々赤く、その足取りは千鳥足だ。ふらふらと危なげな足取りで近寄ってくる。武に対しての挨拶なのか、あげた片腕ではひらひらと手が揺れていた。

 武はとりあえず先ほどの思考を完全に頭の中から消し去って夕呼のほうを向いた。その夕呼はうっすらと赤い顔の満面の笑みをさらに強め、
「聞いてよ、もう最っ高! つい数日前まであたしの研究馬鹿にしてたやつらが今はあたしのとこにやってきて酌をしながらペッコペコ頭を下げるのよ~。もう愉快ったらありゃしないわ」

 あっはっはと見たこともない上機嫌。しかも相当酔っているらしい。
 佐渡島を落とした後も、純夏たちが手に入れた情報の解析。佐渡島に貯蔵されていたG元素の調査。各国家への対応。国連本部へのオルタネイティヴⅣ成功の報告。作戦後の00Unitの経過観察。門級BETAに対する処置などなど、いろいろと内容の濃かった3日だ。彼女のことだ。おそらくその間は一睡もしていないだろう。
 それらの多忙に追われたあと、ようやくやってきた一時の安らぎ。それで今まで我慢していた彼女の嬉しさも爆発したのかもしれない。この人は、酒は飲んでも酒に呑まれるようなことは滅多にない。だが、その彼女が今このような状態であるということから、彼女の喜びが量り知れる。

 二回目の世界ではこうはならなかった。それは、あの作戦がオルタネイティヴⅣとしての成果は残したが、伊隅、柏木を失い、凄乃皇も失い佐渡島を消滅させるという到底人類の完全勝利とは言えないようなものであったからだ。

「んふふ~白銀~」
 聞いたこともないような甘ったるい声を出して、背後から武の首に腕を回してきた。この人、相当酔ってるな……。
「ふ~~~~」
「うわっ」
 息を吹きかけられる。
「ふふ……これが高級酒の味よー。ガキにはもったいないかしらねー」
「味じゃなくて臭いでしょうが! もう酒臭いなぁ!」

 完全に酔ってるよこの人。だが、酒臭い息の中にも彼女の髪から漂ってくるのか、それとも体から漂ってくるのか、女性特有の甘い匂いが武の鼻を刺激した。
 一瞬お酒の匂いとともにその甘い匂いに気をとられたその時、
「いぃっ!?」
 グイッと首を引っ張られ、体は大きく態勢を崩し、気づけばソファの上に押し倒されていた。

「何を――!」
 体を起こそうと、腹筋に力を入れた瞬間、またがるようにして上にやってきた夕呼に両肩を抑えられ、ソファに押し付けられてしまう。いわゆるマウントポジションである。

「――静かにしなさい」
「!」
 そこにいたのは先ほどまでの泥酔した姿の夕呼ではなく、いつものように薄い笑みを顔に浮かべている夕呼だった。武を上からじっと見下ろし、その頬に細い指を合わせた。冷たい、細い指が頬に触れる。
「……酔って……ますね?」
 夕呼の突然の変貌に多少の驚きは見せるが、変に抗うことはせず、その瞳をまっすぐに捉えた。夕呼はその言葉に笑みをさらに強めて、
「ふふ……そうよ。私は今かなり酔ってるわ」
 そして、武の耳元にその唇を近づけて、


「だから……‘何をされたって’明日には何も覚えてない」


 そう言って体を密着させてくる。今気づいたのだが、彼女の服は胸元までボタンが空けられており、その魅力的な谷間が視界一杯に広がった。武の鍛えられた胸板に押し付けられ、その豊満な胸が大きく形を変える。顔も次第に近づいてきて、再び不思議な匂いが鼻孔をくすぐる。
「年下には興味なかったんじゃないんですか……?」
 そんな状況にあっても武は慌てふためくことなく、まだなんとか平静を保っていた。こんな状況は‘何度か’あった。

「ふふ……アンタはあたしより年上なんでしょ?」
 妖艶な笑みとともに武を見つめる。いつもはあの性格に惑わされ、また立場上の問題もあって彼女をただの女性として見ることは少ないが、実際のところ彼女は、男性の誰もが振り返るような美貌の持ち主であり、その肉体は男の視線をくぎ付けるには十分すぎる魅力がある。それを改めて意識してしまうと、武も動揺しだす。
「いいじゃない……あんたもご無沙汰なんでしょ?」

 武は内面の動揺をなんとか隠す演技として、あきれたという風に目をつぶって、
「そういうセリフは素面(しらふ)の時に言ってほし――むぐっ!?」
 途中で唇を塞がれてしまった――唇で。
「……ん……ちゅっ……」
「!?」
 触れあう唇は柔らかくて、少し湿っていて、酒の味がした。
 押し返そうとするが、武が驚くほどの力で夕呼は体ごと唇を押しつけてくる。

「んんっ!?」
 新たな侵入物に武は目を見開く。
 こんにゃろ、ここまで来たら、
「……っ」
 自分の口腔に侵入してくるもの、それを武は軽く噛んだ。

「つッ!?」
 舌を噛まれたことに驚いた夕呼が体を少しだけ起こす。その隙をついて武は起き上がった。腕をのばして、彼女の脇の下に手を入れて体を持ち上げる。そして一気に抜け出た。
 逃がすまいとする夕呼の手をヒラリと交わして、彼女の腕を掴み、合気道のようにポフッと今度は彼女をソファの上に寝かせた。しばらく暴れていた夕呼だったが、自分が油断もしてない武に勝つことなど不可能だと気付いたのか、その身を大人しくソファに沈めた。
「……にゃにすんのよ」
 ……まだ痛いのか。舌を出したままだったので、舌っ足らずになっていた。

「い、いい大人が悪酔いするからですよ……ほら、今日はもう寝てください。甲21号作戦からこっち、あまり寝てないんでしょう?」
 近くに掛けてあった毛布を掴んで無造作に投げる。それは空中で広がって、夕呼の顔にかかるようにしてソファにたどり着いた。
 武の唇にはまだ柔らかい感触の余韻が残っていて、武の動作は慌てている。

 けだるそうに自分の顔にかかった毛布をのけて、夕呼の顔が現れる。そして武をにらみながら言う。
「……もうこんなチャンスないかもしれないわよ」
「酔っぱらいに何言われたって」
 武が肩をすくめると、近くにあった分厚い何かの専門書を投げてきた。だが、重い専門書は夕呼の細腕では2メートルもいかず地に落ちる。
 聞きわけのない子供がしぶしぶといった様子で彼女は毛布で体を覆った。そしてもぞもぞと動いて、武に背を向ける。

「……ハァ」
 それを見届けると、武は今この状態で用件を伝えても無駄だろうと考え、また後日出直すことにした。夕呼の毛布を端までしっかりとかけなおしてやり、それから少し乱れた自分の服装を直した。その間も彼女は一言も発さなかった。
 だが、武がこの部屋から出て行こうとしたときだった。

「……白銀」

 その声が先ほどまでとは雰囲気が180度違っていたので、つい立ち止まり振り返ってしまう。夕呼は体を起こすことなく、ソファで横になったまま天井を見上げていた。
 そして、握りこぶしを作った腕の一本だけをゆっくり立てると静かな声で、
「――やったわね」
 たった一言でありながら、あらゆる気持ちが込められているように感じられた。案の定、彼女は笑みを浮かべていた。

 そして武も落ち着いた声で答えた。
「ええ……やりましたね、博士」
 いつものように先生という呼称は使わなかった。それは、彼女の長きに渡る成果に対する武なりの賞賛の仕方だった。
 佐渡島ハイヴ攻略から4日後、二人はようやく作戦の成功を確かめ合ったのだった。



「……簡単にはいかない、か」
 酒と……そして別の何かで火照った体にはこの部屋の少し肌寒い空気は気持ちいい。夕呼は遠ざかっていく足音を聞きながらそう呟いた。
 私はすでにあの男をかなり信用している。衛士としても、協力者としても――男としてもだ。

 あいつは私がしたことを知ってる。知っていて一緒に背負おうとしてくれている。
 まりもは親友だ。だが、自分が軍という階級に縛られたこの場所に所属している限り、彼女と共有できるものは少なくなる。彼女にはなにも言わず、人道的に許されないこともしてきた。彼女には教えたくない、知られたくないという気持ちもある。

 今回のあれは何も気の迷いというわけでもない。あの男になら体を許してもいいと思っていた。それはあの男に対する礼であり、夕呼の望みでもあった。
 あいつが、たった一夜共にしたことを引きずるような子供ではないことはわかっている。

 誰にも言わず、誰にも言えず、長いこと一人で背負ってきた。しかし、誰か一人が自分を支えてくれていると知っただけで、こんなにも気持ちは軽くなるのか。

 夕呼は自身の唇を赤い舌でなぞり、機嫌良さそうに言った。
「ふふ……ごちそうさま」
 そうして、ようやくやってきた深い睡魔に身を委ねるのだった。


◇ ◇ ◇


 部屋に戻って一人。アーリャと霞はPXでいつの間にやら寝てしまっていた。アーリャと純夏にはODL浄化後の経過観察が残っていたので、二人を地下の00Unit専用区画まで運び、今日はそこで寝てもらうことにした。彼女たちが眠っている間に技術者たちが彼女たちに異常がないかどうかをしっかりと調べてくれるだろう。彼女たちもあの作戦で大活躍、そのあとは00Unitとしての力をデータの解析や情報処理で使っていたので、肉体的にはわからないが、精神的には疲れがたまっているはずだ。今日はぐっすり眠れるだろう。霞もついでだったので、彼女たちがいるフロアの一室に運んでおいた。

 今日は珍しく武は部屋に一人だ。夕呼の部屋からこの部屋へ寄り道せずに帰って、まず持ち出したのは、部屋の隅に隠されるようにして置かれた通信機だ。それを引っ張り出して、机の上に置く。
 そして一度だけ部屋を出て、廊下を右から左へと人の気配がないかどうかを確かめておく。そして誰もいないことを確認すると、部屋に戻り、椅子に座って通信機を起動した。

 相手が出るかどうかは賭けだったが、意外にも通信機はすぐにノイズ混じりの声を返した。

『白が――……――すね?』

 ここ一月で聞き慣れた声。そして画面に現れるのは見なれた白を基調にした着物。
 相手が国家元首であろうと、武は変に畏まらずに声をかけた。
「殿下……おひさし――!?」
 だが、その姿が鮮明に映った時、武は言葉に詰まった。

『――‘白銀武様’、ありがとうございました』

 ――そこに映っていたのは三つ指ついて頭を下げる日本帝国の国家元首だった。
「っ!?」
 勢いよく立ちあがって、誰もいないと分かっているのに周囲を慌てて見回してしまった。政威大将軍に頭を下げさせる姿なんて誰かに見られたらどうなるかわかったもんじゃない。そもそもこの通信自体が問題であるというところまでは頭が回っていなかった。

「あ、頭を上げてください、殿下!」
 動揺しながらも何とか頭を上げてもらうことにする。武も座り直して、とりあえずその行動の意味を尋ねた。すると、悠陽は頭を上げたもののその姿勢は崩すことなく答えた。
『月詠たちや湊様より聞いております……そなたが佐渡島での戦いで、一騎当千、万夫不当の働きをしたこと。先ほどは日本の政威大将軍として、また一人の日本人として感謝の意を伝えたまでです』

 あれは別に武一人の力ではない。伊邪那岐がでることができたのも、想定時間内にBETA撃破数が一定数に達したからであり、それは国連軍や帝国軍衛士の力に他ならない。武や純夏は最後の仕上げを少し手伝っただけだ。
『謙遜をしないでください、白銀』
「いえ、本当に帝国軍の将兵たちの頑張りがあったからこそです」
 みんな、それほど祖国の地を取り返したかったのだろう。
 作戦終了後、佐渡島の上で泣いて抱き合う兵士たちの姿を何人も見た。泣き崩れている兵士を何人も見た。それで彼らの喜びが計り知れた。

『戦場での映像は私も拝見させていただきました。そなたの機体が戦場に現れたとき、あの――白い光がハイヴから飛び出し、次にそなたの機体が空を舞ったときには、帝都にありながら、この身が震えました』
 彼女が言っているのは、反応炉を落とした直後の話だろう。

「最後の一撃は冥夜の手によるものですよ」
 それを聞くと彼女はハッと息を呑む。
『まったく……あの子を忌子などと言ったのは誰ですか』
 静かな声だが、その顔には怒りの感情が見え隠れしていた。武としても双子が凶兆など信じてもいないが、昔からの仕来りなどを尊重する必要がある場合もあるのだろう。しかし、それについてここで論議しても詮無きことだ。

 そろそろ本題に移る。今回の通信、もちろん佐渡島陥落の旨を自分から伝えるという意味もあるが、それよりも武が悠陽に確認しておきたいことがある。あの作戦前に悠陽に頼んでいたとある要件についてのことだ。

「では、殿下、以前頼んでいたことについて」
『ええ……わかっています』 
 武の言葉を待つことなく、彼女は頷いた。そして、今まで以上に背筋を伸ばし、武の顔を正面から見つめる。その顔は、若くして政威大将軍を預かる気迫を感じさせるものだった。

『あの将軍機を基にした‘武御雷改造計画’――TYPE00-2『武御名方(タケミナカタ)』の件、必ず城内省に認めさせましょう』
 お願いします、と武は頭を下げた。

「完成した暁には――」
『――冥夜の新たな剣となるのですね』
 それにしっかりと頷いた。
 アーリャが有していた2機の戦術機の設計図。それはXM3と同じく、将兵の命を少しでも長く生きさせるためのものだ。武は、夕呼に頼み、それらを光菱、富嶽、遠田技研にそれぞれ預けてあった。そして、それを早めるための難関が一つ突破されようとしている。
 武は、その後、彼女と簡単な打ち合わせを行った。そして、そろそろ時計の長針が半周するころになりようやく話しは終わった。

 これで、今回の目的は達成した。あとは彼女に任せよう。
 小難しい話はこれっきりにして、彼女と何気ない会話に移った。この基地に戻ってからの冥夜やA-01の様子、戦場で見た斑鳩湊氏の勇猛果敢ぶりなど、しばらく穏やかな時間が過ぎた。

『し、白銀……』
 会話がひと段落したとき、悠陽がどこかそわそわとしつつ、武の名を呼んだ。その様子がどこか先ほどまでとは違って見えた。チラチラと武の顔を見たり、逸らしたりしつつ、なかなか本題を切り出そうとはしない。しかし、しばらくそんな様子を見せていた彼女は、意を決したように口を開いた。

『そ、その……軍の広報部で、そなたを軍のPRに使いたい、という話が出ていまして』
「俺を?」
 その言葉に武は首をかしげた。
『そ、そなたが国連軍所属であることは重々承知しています! しかし、今回の作戦成功の立役者である者が日本人であるという事実は、我々日本人にとって希望となるものなのです!』
 つい先日までその生命を脅かされていた日本人。武もここ数日で喜び浮かれるそんな人たちを見てきた。あの島から生還した兵達には、誰も彼もが賞賛し、感謝の言葉を述べていた。兵士達は、その言葉を受けながらも、より一層の気合を入れていた。もう、この笑顔を失ってはならない、と。

 軍のPR。そんなことでこの勢いを失わずにすむのであれば、お安い御用だった。
「ええ、わかりました。香月博士と相談してみます」
 その言葉を聞いた悠陽は、花の綻(ほころ)ぶような笑顔を浮かべた。
『で、ではいつ帝都に来ますか?』
 身を乗り出すようにして聞いてくる。武は思いもよらぬ彼女の勢いに面食らいながらも、
「い、いえ……まだ詳しい予定は、後日になりそうです」
 ハイヴを落としたとして、武と夕呼が暇になったわけでは決して無い。しかし、寝る間もなく多忙というわけではない。軍のPRのため程度の日程は近いうちにとれるだろう。

『……わかりました』
 彼女は、シュンと目に見えて落ち込んでいた。

 そろそろ夜も遅い。
 彼女も多忙を極める身、これ以上引き止めるのはあまりよろしくないだろう。
「では、殿下……いい夢を……」
『ええ、白銀……また、会いましょう』

「……」
『……』
「……」
『……』
「……で、殿下?」
 いつまで経っても通信機を切らない悠陽に武は痺れを切らした。立場のことも考慮して彼女が通信を終えるのを待っていたのだが、なぜか十数秒間も見詰め合うだけという時間を過ごしてしまった。

『……そなたのほうで切ってください』
「わ、わかりました」
 悠陽のそんな要望に答える。しかし、通信を切る際、最後に見た彼女の姿はどこか寂しそうに見えた。





 部屋をノックする音。もう夜遅い時間だというに、誰だろう。武は机の上の通信機を急いで部屋の隅に隠して、ドアを開けた。
「はーい。誰ですか?」

 そして、ドアを開いて目の前にいた女性。彼女を目にして武は体が強張った。
「白銀……一杯付き合わないか?」
 それはグラス二つと酒の瓶を抱えた宗像中尉だった。
「――!」
 このタイミングで彼女が尋ねてくる理由。それに一つしか心当たりのない武は、ゆっくりと頷いて、その誘いを受けたのだった。

                                         つづく

あとがき
 
 「あれ? 天照は?」と思いの方、申し訳ありません。今回、彼女の登場まで行き着くことができませんでした。
 本来、先に更新した26話、今回の27、28話、次回の29話の天照登場まで含めて、26話だったのですが、アレも書かなきゃ、コレも書かなきゃとあまりにも話が長くなりすぎたため、一話で収まりきるはずもなく分割して投稿することになりました。
 彼女は次の話で、この横浜基地に現れる予定です。……いろんな意味で嵐を伴って。
 オルタネイティヴ本編では、作戦から数日後BETAに襲われていましたが、もうBETA戦は23~25でいいや、と作者が思っているので、今回は無しにしました。本編とは違う形で佐渡島ハイヴを落としたことで歴史が変わったとして処理します。

 本作は、25話までは、あくまでマブラヴオルタネイティヴの本編再構成という形をとっていました。
 しかし、今回から話は、マブラヴを下地にしたほぼ完全なオリジナルになります。
 ゲームプレイ時、あのマブラヴの絶望的な世界で、あがく登場人物たちに心打たれた人は多いと思います。桜花作戦のあと、あの物語が終焉を向かえ、その余韻に浸りながらも、どこかでもっと爽快な人類の反撃を見たいと考えました。
 そんな想いから書き始めた本作ですが、これからは今まで以上に作者の中で膨らんだ妄想を垂れ流す駄文になってしまうかもしれません。それでも構わないという方、これからも宜しくお願いします。

 更新再開の祝福をしてくれた方々へ
 4年という長い時間を空けてしまい本当に申し訳ありませんでした。これからも度々更新に時間をあけることがあるかもしれませんが、一話一話しっかりと更新していこうと思います。

 26話の感想をくれた方々へ
 登場人物の言葉遣いは特に注意して書いている部分ですが、どこかいつも不安をぬぐいきれません。感想の多くが、更新再開に関するものだったなか、貴重なご意見ありがとうございます。ふとした一文にも感想を頂き、励みになりました。中には光栄にも拙作がss第一号という方もいらしましたが、数々の創作物を読み、目の肥えた読者様にもなんとか満足いただけるよう頑張ります。
 
 >武以外の歴史を知る誰かが干渉して変えた
 この言葉はその通りで、武以外の因果導体を出すというのは、更新初期のころから考えていました。19話の唯衣の言葉にも歴史が変わっているという旨の複線を張ってありました。ラトロワ中佐は死なすには惜しい人物です……本当に。
 また、今回の更新から、感想をいただいた方には以前のように一人一人返信していこうと考えています。忌憚なきお言葉お待ちしております。
 あとがきでは硬い言葉になっていますが、どのようなものでも構いません。「おい、もっと月詠中尉だせよ」や「白銀もげろ」や「ポロリ回かけよ」などの要望でも可です。ただし、白銀はもげません。これからも自重しません。

 最後に。
 この長いあとがきをここまで読んでいただき感謝します。人類とBETAの戦いを硬派に書かれる作品も多いなか、私はエクストラのようなラブコメドタバタ感があってこそのマブラヴだと思っているので、戦いを描きながらも、それらも大切にしていきたいと思います。とりあえず、新キャラとA-01の修羅場は書くつもりです。ノリノリで書くつもりです。
 それでは、29話をなるべく早く更新できるように頑張ります。

 個人返信
>エデさん
 動画の八話拝見させてもらいました。キャラの表情、BGMの切り替えなど自分の思い描いていたものと同じで感動しました。自分はこの話を作るとき、どこかでゲーム画面を思い描いています。そのせいで、一人称と三人称がよくごっちゃになる変な文になるのですが、もう開き直りました。本当にありがとうございました。
>renzan さん
 The TSF Forefront の完成、心待ちにしています。マブラヴをやった者なら一度は思い描く、戦術機を操縦して見たいという願望、それを実現させる最高の作品だと思います。拙作を更新しつつ、楽しみに待たせていただきます。


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.02538800239563