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No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
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[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26
Name: テンパ◆ce1e0981 ID:9438d8b5 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/02/21 18:00
 おひさしぶりなんてレベルじゃないですね。本来書いてた26話とは違うものだけど、つなぎの話。



「ハァッ……ハァ……ハァ!」
夕刻、帝都の街を駆けまわる一人の少年の姿があった。

「ご、号外! 号外!!」
 
 その腕には大量の新聞紙。それをそこらにばら撒きながら、帝都の道を走り抜けた。少年の手を放れた新聞が風にのって高く舞い上がる。
 何度も足をもつれさせながら、自分が周りの人にどんなに不格好に見えていたとしても気にせず、とにかく走り続けた。その様子を付近にいた人は首をかしげて見る。
 そして通行人が何気なく拾ったその号外を広げ、内容を読んだ瞬間、目を見張った。

『佐渡島ハイヴ陥落』

 その驚愕の記事がそこに堂々と書かれていた。
 誰かが大声でその題を叫んだ。その声で、誰もが慌てて地に落ちた号外を我先にと拾う。拾えなかった者は隣の人のそれを覗き込む。瞬く間に、街を歩いていた人たちは新聞を中心にいくつかの集団をつくった。
 ポツリとその新聞に水滴が落ちた。それを読んだ人の目から落ちた雫だった。
 夫をBETAに殺された人がいた。息子をBETAに殺された人がいた。故郷をBETAに奪われた人がいた。だれもが等しく涙を流し、そして――歓喜した。

 それよりほんの少し前、どのテレビ局もその時間帯の番組をすべて切り替えて佐渡島陥落を報道した。なにぶん急なことだったため原稿も何もない。キャスターがカメラに向かって思い思いの言葉を必死に言い続けた。途中でその女性キャスターは泣き崩れた。代わりのキャスターが続けた。だがその人も次第に嗚咽混じりになっていき途中から何を言っているのか聞き取れなくなった。だが、テレビを見ていた人たちには十分伝わった。

 チョップ君が突然終わったことに対して、首をかしげる子供。その父親のいない子供を、涙を流しながら後ろから強く抱きしめる母親の姿があった。あなた、あなた……何度も口にもらしながら。

 雨風がしのげる程度の仮設住宅地帯。我が家を追われ、この地ですら、いつまで安全なのかわからないという絶望感は重い空気となってこの場をいつも漂っていた。しかしそんなものもこの知らせで一気に吹き飛んだ。
 初めてだろう。この場が笑顔で占められたのは。
 老若男女、誰もが手を取り合い、肩を抱き合い、喜びを分かち合った。中には佐渡島出身の者もいた。

 たかだか数百キロ先にまで迫っていた死の恐怖。それは彼らをここまで追い詰めていた。
 佐渡島ハイヴが消滅した。その知らせはあっという間に日本全土―――いや、‘世界中’を駆けまわった。


◇  ◇  ◇


アメリカ合衆国 アラスカ州 ユーコン陸軍基地

 国連主導の「先進戦術機技術開発計画」、通称「プロミネンス計画」により、世界各国の軍隊が新型戦術機の開発を日夜行っているユーコン陸軍基地。ここにも早々に佐渡島ハイヴ攻略の知らせは届いていた。
「おい、ユウヤッ! ユウヤ!」
 日本帝国と米国ボーニング社の共同による不知火改修計画―――「XFJ計画」を担当するアルゴス試験小隊整備班所属、ヴィンセント・ローウェルは、先ほど仕入れたばかりのビッグニュースを親友に知らせるべく、アルゴス試験小隊に割り当てられた戦術機格納庫の中を走っていた。

 探し求めていた親友――ユウヤ・ブリッジスはすぐに見つかった。ヴィンセントは、駈け寄りながら、矢継ぎ早に言葉を発する。
「さ、佐渡島ハイヴの陥落聞いたか!?」
「――ああ、知ってるよ、ヴィンセント。……チョビがはしゃぎまわってた」
 興奮したヴィンセントに比べ、ユウヤはひどく落ち着いていた。
 だが、興奮状態のヴィンセントはそんなことには気付かず、人類初の偉業に対して、
「すげーすげーよ! G弾を用いないでハイヴ攻略に成功したのって言うまでも無く人類初だろ!?」
 G弾運用を前提とした米軍出身の彼であるが、G弾の威力を知っていれば、それが土地に及ぼす悪影響も知っている。使わずに済めば、それに越したことはない。そういった風に考えるのは米軍内に決して少なくない。

「タカムラ中尉が帰って一カ月以内にこれって……もしかして彼女、今回の作戦に参加するために呼び戻されたのか?」
 XFJ計画日本側開発主任、帝国斯衛軍篁唯依中尉が急遽代わりの人員と交代して日本へと帰還したのは、ほんの数週間前だ。なにぶん急なことで、こちらも困惑していたが、それ以上に本人が困惑していた。

「佐渡島ハイヴっていったらフェイズ4だぜ? フェイズ2ハイヴですら、人類は今まで攻略できてなかったっていうのに……クソッまだ情報が足んねえ。いったい国連と日本はどうやって……」
 と、そこまで話して、話し相手であるユウヤの反応が鈍いことにようやく気付く。彼はさきほどからずっと自分の目の前にある機体を見上げていた。白と黒のモノトーンに右肩の日の丸をワンアクセントとした鉄の巨人――XFJ-01a不知火・弐型試験一号機である。

 それに気づくと、ヴィンセントも同じように弐型を見上げる。
「どうせなら今回の作戦……このセカンドを間に合わせてやりたかったな」
 そう言った。それが無理なことなどわかりきっている。AH演習が終了しても、その次に実戦試験、その後量産体制を整えるにはまだ時間が足りない。ただ、ユウヤの胸中を思って口にしただけだ。ただでさえいろいろと‘想定外の出来事’があって、遅れているスケジュール。
 ユウヤはヴァレリオの言葉に短く、「ああ」とだけ答えた。

 現在ユウヤがこれほど反応の薄い理由。今や基地中がこの知らせに沸いている中、彼の反応は珍しい。同じアルゴス小隊のタリサ・マナンダル少尉などは文字通り飛んで撥ねて大喜びしていた。
 ユウヤも別に嬉しくないわけではない。この知らせを聞いたときは確かに興奮をし、喜びもあった。それはつい先日までの絶望的な状況に追いやられていた人類にとって当然の反応であろう。

 今回の作戦では反応炉に到達した。ということは地下茎構造内で数々の戦闘を繰り返したということだ。ユウヤもヴォールクデータを幾度か行ったことがあるが、あの狭い空間で多数のBETAを相手にする地下茎構造内での近接戦闘こそ、今の弐型で挑戦したいシチュエーションであった。
 従来のTYPE-94に比べ、脚部の延長と大型化による運動性、機動性の向上と推進剤容量の増大。稼働時間の30%増加。背部ブレードマウントの改良。全てが近接機動格闘能力を向上させている。

 かつての米軍戦術機運用に凝り固まったユウヤは、BETAとの刀を使った近接格闘戦など正気の沙汰などと思えなかったが、篁唯依の操るTYPE-00Fとの戦闘や、カムチャッカでの経験で、今では日本の戦術機運用の有用性を認めている。そして主席開発衛士として、弐型を最高の機体に仕立て上げたいと願っている。

「……」
 今の自分と、今の弐型でいったいどれだけのことができるのか。今回の作戦に参加した日本の衛士たち――この弐型を使うことになるであろう彼らはどれほどの力量なのか。一度気になりだすと止まらなかった。彼らの機動を見てみたい。自分の力を試してみたい。衛士としての欲求が止まることがなかった。そんな自分を鎮めようと彼は一人、弐型のところまで来ていた。だが、気持ちは鎮まるどころか、弐型を見ているとどんどん膨れ上がっていった。

 そんなユウヤの心情をなんとなく察したヴィンセント。彼はそんな親友にとっておきのカードを切ることにした。
「そういや知ってるか? 俺らの間でちょっと話題になってる戦闘映像があるんだが」
「? ……なんだそれは?」
 ようやくユウヤが反応らしい反応を見せる。戦闘映像という言葉に反応したのかもしれない。そのどこまでも衛士な親友に苦笑する。

「はっきり言って、お前はまだ日本製の戦術機の操り方を試行錯誤しながら自分で向上させようとしていたから、隊のみんなと話合って見せるのはもっと後にしようかとも思ったんだがな」
「もったいぶるな、早く言えよ」
 なかなか切り出そうとしない親友を急かす。それに隊のみんなということは、ヴァレリオやステラも知っていたのだろう。自分だけが仲間外れにされて、多少なりとも不快である。これが数ヶ月前の自分なら、隠されても仕方ないだろうが、今の自分はカムチャッカ半島でBETAの群の中を生き延びた実戦経験者だ。様々な人とも触れ合うことで、自分なりにしっかりと成長したという自覚はある。こういった場合の特別扱いは気に入らなかった。
 親友はユウヤがそれほど気が長くないことを知っている。ヴィンセントはニヤリとした笑みをユウヤに向けて、

「TYPE-00の一個小隊とTYPE-97一機の模擬戦闘だよ」
「……は?」
 ヴィンセントが言ったとんでもない組み合わせに、初めてユウヤはヴィンセントのほうへ向いた。開いた口がふさがってない間抜けな顔でヴィンセントを見る。
 TYPE-00とTYPE-97――つまり武御雷と吹雪だ。かつてユウヤも似た組み合わせで戦ったことがある。篁唯依の操る山吹色の武御雷と自身の操る不知火弐型である。そのときに、十分武御雷の強さは知ることができた。インペリアルガードの操るあの機体は歩行戦においては世界でもトップクラスのマシンポテンシャルである。その武御雷は、同小隊所属のタリサとヴァレリオの乗るF-15・ACTVを軽くあしらった。武御雷と吹雪のタイマンでは、相手が衛士として一定の腕を持っていたなら、ユウヤは絶対勝てるという自信がない。あまつさえ、1対4など――
「そんなもん試合になるわけ――」
「――引き分けだ」
 ユウヤの言葉は途中で遮られた。予想もしていなかった言葉で。

「な、何が……?」
 自分でもバカなことを聞いていると思った。この場でヴィンセントの言葉の意味することは一つである。しかし、信じられなかった。
「何って……その戦闘の結果だよ」
 ユウヤの言葉を予期していたのか、ヴィンセントは笑いながら答えた。

「た、TYPE-00の衛士が素人だった……とか?」
 ユウヤはわずかな可能性にかける。というより、その状況で引き分けなどそれしかありえない。だが、
「いんや、4人とも篁中尉に勝るとも劣らない腕前だった。特にレッドカラーのTYPE-00は抜き出てたよ」

 ユウヤは一瞬のうちに何度も頭の中で同じシチュエーションを繰り返した。しかし、どんな場面を想定しても自分が勝利する結果は得られなかった。それこそ、F-22A(ラプター)とF-15E(ストライクイーグル)の戦いのように100回やって一度も勝てない。
「……化け物かよ」
 それをやってのけたという衛士を想像して、ユウヤは無意識にそう呟いていた。

「そう、化け物……化け物だよ。だが、その衛士も人間だ。そいつに出来て、お前に出来ない道理がどこにある?」
 ヴィンセントは挑戦的な笑みでユウヤを見、次に不知火弐型を顎で指した。TYPE97は弐型と同じ第三世代機と言えど、その実はただの高等練習機だ。明らかに弐型よりは性能的にほぼすべてにおいて劣っている。TYPE97に出来て、弐型にできないことなどまずあり得ない。
 それを、ユウヤとともに弐型を作り上げてきたヴィンセントはわかっている。そして親友が、負けず嫌いという子供のような傾向があるということも熟知していた。

「今すぐ見せろ、ヴィンセント!」
 案の定、ユウヤは食いついた。ものすごい剣幕でヴィンセントに迫り、今にも胸ぐらをつかまんとする勢いだ。ヴィンセントもこれ以上彼にお預けを食らわせるつもりはない。今の彼ならあの映像から様々なことを学習してくれるはずだ。

「ようやくいつものお前に戻りやがった。静かなお前なんて気色悪いって」
 そう言って、先ほどまでのユウヤの態度を茶化す。

 ようやく始まった人類の反撃。その勢いを失う前に弐型を日本へ、前線へ届けたい。今のユウヤならばこの機体を最高の状態にまで仕上げてくれる。その確信がヴィンセントにはあった。
 彼は親友に急かされ、弐型の前を後にした。




「ふふ、はしゃいじゃって」
 格納庫内を出口に向かって急ぐユウヤとヴィンセントの姿を少し離れたところから見る女性の姿があった。アルゴス試験小隊の一員である、ステラ・ブレーメルである。その傍らには一人の男がいた。格納庫内に乱雑におかれたコンテナのひとつに腰掛ける彼もまたユウヤたちを見ていた。
「あの様子じゃヴィンセント、ユウヤにあのTYPE97のこと教えたようだな」
 二人が格納庫から出ていくのを見届けた後で、その手に持っていた酒瓶を一気にあおった。

「……いいの、ヴァレリオ? こんな昼間からそんなものを飲んで……中尉に怒られるわよ」
 そんな彼――同隊所属、ヴァレリオ・ジオコーザに向かって呆れを含んだ声でステラはそう言う。

 この基地に佐渡島ハイヴ陥落の一報が入ってきたのは、2時間前。それから1時間は情報の混乱などがあり、真偽を確かめるのに時間がかかり、ようやくそれが完全無欠の真実であることがわかったのはほんの1時間前だった。
 そしてそれがわかるやいなや、この男は酒瓶をどこからか持ち出して、こんな昼間から一人で酒盛りしている。

「こんな日に……飲まなくれていられるか」
 そういって、再び酒瓶を呷った。つまみはなにも無くても、この日の酒は最高の味がした。
 その顔からは笑みがこぼれる。そして、傍らにある自分の機体、次に格納庫の入り口の方向へと目を向けた。

「見てろ。次はヨーロッパだ」
 彼の視線は故郷であるヨーロッパを見ていた。その言葉にステラも小さく頷いた。
 ヴァレリオは、無言で手に持った酒とグラスをステラに差し出した。
「ふふ、ありがと」
 礼を言ってグラスを受け取り、その中に琥珀色の液体が注がれる。
「人類の反撃に――」
「――乾杯」
 そう言って彼女も極上の酒をちょうだいするのだった。確かにその酒は最高の味がした。





 ユウヤとヴィンセントが格納庫から小走りで出てくる。ヴィンセントはほとんどユウヤに背中を押されながらの移動だ。そんなユウヤに苦笑しながらも、ヴィンセントも足を急がせる。
 そんな二人に遠くから気づいた少女がいた。
「・・・・・・ユウヤ?」
 光を反射しそうな綺麗な銀髪。まだあどけなさの残る少女ではあるが、その身に纏うのは強化装備。それはこの少女が衛士であるということを示していた。そして開発衛士(テストパイロット)という各国のエリートたちが集うこの場にいるということは、まだ十代半ばに見えるこの少女が衛士の中でも特に優秀な衛士ということである。

 少女は百メートルほど先を行く二人を目で追う。それが米粒ほどまで小さくなったとき、背後に気配を感じる。ユウヤたちを目で追うのをやめ、背後を振り返ると、そこに同じ銀の髪をもつ少女がいた。
「’イーニァ’、時間だよ」
 少女――イーニア・シェスチナは、それに「うん」と頷き、自身の名を呼んだ少女の元へと小走りに近づく。

「今日は何するの、’クリスカ’?」
 隣までくると首を傾げながらそう尋ねる。イーニァより頭半分ほど背の高い少女ーークリスカ・ビャーチェノワはイーニァと並んで歩きだしながら、それに答える。
「今日も’あの機体’の機動研究だって」
 
 それを聞くとイーニァは顔をしかめた。
「ぜんぜん真似できないのにまた?」
「うん……でも、イーニァもくやしいでしょ? ’あのとき負けた’こと」
 嫌がるイーニァにクリスカは母親のように慈しみをもって優しく言う。それに控えめながらもイーニァは首を縦に動かした。

「いい子にしてたら、また出撃させてくれるかもしれないから」
 その言葉にイーニァはなんとか自分を納得させ、クリスカの背について行った。




◇  ◇  ◇




ソビエト社会主義共和国連邦 カムチャッカ半島

 一人掛けのくたびれたソファ。中佐という佐官の立場にあってもその私室には上等な家具など何一つない。そんな家具の内の一つに腰かけて、ついさきほど手に入れたばかりの世界を揺るがす大事件が記された書類に目を通していると、部屋のドアが唐突にノックも無く荒々しく開かれた。
 そのような無礼な入室の仕方をした自分の副官は、しかしそんな自分の行いなど気にした様子も――気にする余裕も無く、すぐに目の前の自分の上官に向かって口を開いた。

「中佐、お聞きになられましたか? 佐渡島ハイヴの――」
「ああ、聞いたよ」

 まだ年端もいかぬ少女――自分の副官がすべてを言い終える前にその言葉をさえぎりそう言った。部屋に入ってきた少女の興奮した姿から何を口にするかはすでに分かっていた。上官の部屋へのあるまじき入室の仕方も特に咎めることはない。この出来事を前に落ち着けというのが無理な話だ。

「日本人(ヤポンスキー)がやってくれたな 」
 そういって自分が見ていた書類を目の前の机に置く。それを顎で指して、副官に目を通させる。特にその戦いの詳細などわかっていないが、なにやら国連の新兵器が投入されたということだけが分かる断片的な情報。まあ一次報告などそんなものだ。しかし、その中には決して見過ごせない内容が書かれていた。

「お前は信じられるか? ‘戦闘機が空を飛んだ’というのは……」
「――!?」
 戦闘機が空を飛ぶ。それは当り前の事実だが、それがことBETAとの戦いになると特殊な条件下で無い限りあり得ない。特に光線級が大量に出現するハイヴ攻略戦などでは航空兵器のいずれも当てにしてはならない。それはこの世界での常識であり、覆しようのない現実だった。
 だが、この度行われた作戦ではそのあり得ないことが起こったらしい。

「そ、損害率35%以下!? なんです、このあり得ない数字は!?」
 手元の情報に目を見張る副官。損害率35%以下というこの数字はフェイズ4ハイヴという巨大なBETAの巣窟を攻略したにしては‘異常なほど低い’数字だ。
 これは国連側が真っ先に公開した情報。虚偽がないと言い切れはしないが、そもそもハイヴを攻略したという人類史上初の偉業に対してはこのようなウソを混ぜる必要はない。例え損害率80%を越えていようと、そのようなものハイヴを攻略したという功績に対しては当然の犠牲だ。
 ということはこれは事実の可能性が高い。

「……さて、やつらは一体どんな手品を使ったと思う?」
 試すような自分の物言いに、彼女はすぐに心当たりを思い浮かべる。
「例の……新OS!」

 数週間前に世界中に流された、日本帝国軍のTYPE-00とTYPE-97の多数対一の戦闘映像。何者かによってばらまかれたと思われるその映像で両機が見せる機動は、到底従来の戦術機の動きからは考えられないものばかりであった。それは前線、後方問わず多くの軍関係者の度肝を抜いた。
 今回の作戦の損害の低さ。これは新兵器だけでは説明がつかない。戦力の要となる戦術機一機一機の性能の向上が必要だ。十中八九このOSが用いられているはずである。

 元は国連軍で開発された新OS。しかし、この度の作戦で、機体の多くを生還させたのは国連軍だけではない。この作戦に参加していた部隊の内の半数――帝国軍もまた同様にその機体の多くを失っていない。
 この作戦では新OSが用いられたため、この損害率の低さになった。そう考えるのであれば、帝国軍の機体にもまたそのOSが搭載されていたはずである。国連と帝国の間でどのような取引が行われたかは知らないが、これはそのほかの国にも配備される可能性を示している。もちろん、自分たち、ソ連軍にも……。

「我が軍にも配備されるでしょうか……?」
 副官がその顔に、わずかの希望を浮かべて言う。今回の作戦でその有用性を実証したOS。戦場でBETAに殺される衛士が少しでも減少する。それはこの損害率の数字を見ても明らかだった。
 このカムチャッカ半島は、エヴェンスクハイヴに対峙する最前線。オホーツク海を越えてくるBETAによる度々の大規模侵攻にさらされている。自分も副官も多くの仲間を失ってきた。その結果、まだ十代半ばである彼女が大尉などという立場で、自分の副官を務めている。彼女にとって兄、姉や弟、妹ともいえる者たち。これ以上仲間を失うのはごめんであった。
 しかし、確実に部隊の損耗を抑えることのできるこのOSを導入するかどうかは自分たち下の者が決めるのではない。

「知らんよ。そんなものは‘アラスカのロシア人’に聞いてくれ」

 自身も同じ民族でありながら、心底忌々しそうにつぶやく。
 最前線を被支配民族に押しつけ、早々に海を越えたアラスカにしっぽを巻いて逃げたロシア人特権階級の者たち。奴らは前線で戦わない代わりに、政争という名の泥沼の戦いを繰り広げている。
 
 それを聞いて副官は目を伏せ、ため息をもらした。わめこうが罵ろうが事態が好転することがないということは彼女にもわかっている。
 この話はとりあえずここで切り上げることにした。

 見終わった書類を自分に手渡してくる副官。そのときふと今日の本来の予定を思い出した。その予定からすると、今副官がこの場にいるのはおかしい。本来なら今頃部隊とともに演習場にでているはずである。
「部隊は今どうしている?」
 この問いに肩を軽く震わせた副官は答えにくそうに、
「それが・・・・・・みんなこの件の追加情報がないかPXのテレビにかじりついていまして」

 その答えにこれみよがしに大きくため息をついて見せた。
「今すぐ第2格納庫へと集めろ。情報など待っていなくとも時間が過ぎれば勝手に入ってくる。今必要なのは、自分たちが一分一秒でも長く生き残る為に強くなることだ」

 そう命令して、自身も部屋を出るために立ち上がる。副官は自分が立ち上がり、歩き出すのを待ってその後に続いた。
 部屋を出る直前、振り向くことはせずに副官の名を呼ぶ。
「‘ターシャ’」
 愛称を呼ばれた少女はその足を止める。そして自分の言葉に耳を傾けた。

「・・・・・・おそらく今回の件で、しばらくは日本と極東国連軍が中心となって世界が動く。じきに、地理的に近い私たちにも出番がまわってくるだろう」
 佐渡島ハイヴを落とした日本。次は鉄原ハイヴ、そしてこの地のエヴェンスクハイヴを落とし、守りを盤石なものとしたいだろう。
 そうなれば、その作戦に自分たちが投入されることはほぼ確実と考えられる。

「これから忙しくなるぞ」
 それに副官――ナスターシャ・イヴァノワは敬礼を決めながら答えた。
「どこまでもお供します――’ラトロワ中佐’」
 その言葉を背中に受け――フィカーツィア・ラトロワ中佐は自室を後にした。

「’何の因果か生き残った命だ’。せいぜい、有効に使わせてもらおう」
 最後に彼女は、そう呟いていた。



◇  ◇  ◇



グレートブリテン島南端 国連大西洋方面第1軍ドーバー基地群

 将来的な欧州奪還を見据えて建設されたドーバー基地群――俗に言う‘地獄門’。1985年の英国本土防衛線の後建設され、1996年に完成。それ以来、ドーバー海峡を渡って英国へとやってくるBETAたちを退けている世界的にも重要度の高い一大防衛拠点である。

 そこに一人の少女がドーバー海峡を越えた先にある大陸を見つめていた。
 後ろでひとまとめにした金髪が、海峡に吹く寒風で揺れている。しかし、その身を切るような寒風にも微動だにせず、少女は海の向こうを見つめていた。切れ長の瞳は一点を見つめたまま、まったくぶれない。
 その服装は国連軍のもの。右肩に描かれた隊章には三つ首の獣――ケルベロスが描かれている。西ドイツ陸軍第44戦術機甲大隊‘ツェルベルス’所属の証であるその隊章を身に付けた少女は、風に揺れる自身の髪を軽く撫でた。

「何を見ている?」
 そんな少女に声をかける者がいた。その声で、少女は海の向こうを見据えていた瞳を自分の背後へと向けた。
「……‘ヘルガ’」
 声をかけてきたのは少女と同じ年齢のこれまた少女。青みがかかった髪をポニーテールでまとめ、その服装は同じ国連軍のもので、肩に書いてある隊章も同じものであった。
 ヘルガと呼ばれたフォルケンマイヤー侯爵家長女、西独陸軍第44戦術機甲大隊所属――ヘルガローゼ・フォルケンマイヤー少尉は、もう一度その問いを投げかけた。

「……何を見ていた? ‘イルフリーデ’」
 その問いに、同隊所属イルフリーデ・フォイルナー少尉は視線を大陸側へと戻しながら答えた。
「東を……ここからは到底見えもしない極東の国を見ていたの」
 彼女が見ていたのは、祖国がある大陸ではなかった。そのはるか遠く、海を越え、平野を越え、山を越え、そしてまた海を越えた先にある極東の小さな国だ。
 今やユーラシア大陸ほぼすべてをBETAに支配されたなかで、この場と同じく、常にBETAの脅威にさらされていた国だ。それは喉元にナイフを突きつけられているのと同じこと。だが、その国はついにそのBETAの脅威を退けた。

「佐渡島ハイヴの件……基地は大騒ぎだ」
 今、極東と聞いて、出てくる単語は佐渡島ハイヴ以外にない。
「基地だけじゃないわ。世界中大騒ぎよ」
 ヘルガの行ったことを少しだけ訂正した。そうだったな、とヘルガは肩を軽くすくめた。
 
 その後、一時の沈黙があり、ヘルガもまたイフルリーデと同じ方向を見つめた。
 一際強い風が二人の髪を揺らす。風がさらっていく髪を押さえながら、イルフリーデは口にした。
「私が生まれたときにはすでにBETA戦争の真っただ中……私は幼いころから、数々の英雄譚を聞かされて育ったわ。英国本土攻防戦の七英雄、F-16を駆るアラブの戦姫、至高のサムライ、クジョウ」
 幼いころを懐かしむようにイルフリーデは言う。
「サムライ……か」
 その言葉をつぶやくヘルガ。自身もまた東へとその目を向けた。

「今回の作戦でも、そんな『英雄』が現れたのかしら?」
 イルフリーデとしては答えを期待して言ったことではなかった。案の定ヘルガはほとんど独り言のようなイルフリーデの言葉には答えず、その足を基地に向けた。
「隊長が呼んでいたぞ」
「そう……わかったわ」
 イルフリーデもヘルガの後を追うため、大陸に背を向け、基地に向けて歩きだした。しかし、数歩だけ進むとすぐに立ち止まり、ゆっくりと振り返る。

 そして、こう言った。
「滅亡へのカウントダウンは――止まった」



◇  ◇  ◇



日本 東北地方のとある光菱工場

「――てめぇら! はしゃぐのは後だッ! 今は目の前の作業に集中しろ!」
 そんな言葉程度で収まるほど今回の騒ぎは小さくない。なにせ、つい先日まで数百キロ先にあって、自分たちの身を脅かしていた存在が消えたのだ。今日は作業にならないなと、この工場の責任者はため息をついた。

 そして、あきらめをもってせっかくなので、自分も彼らとともに喜ぼうと思った。現に彼は大声を張り上げて注意しながらも、その顔はかすかに笑みが浮かんでいた。

 ――横浜がついにやってくれた!

 今回の作戦、まだどのような経緯で攻略に至ったかの詳細な情報は届いていない。だが、彼は横浜の力が働いたということを確信していた。自分たちに‘アレ’を託した横浜の魔女がなにかをやってくれたに違いない。
 緩んだ顔を隠せぬまま、自分の部屋へと戻る。そして真っ先にPCを起動させてとあるファイルを開いた。

 そこに映し出される機体の設計図。何度これを見ただろうか。何度こいつの完成形を思い描いただろうか。すでにこれを見た回数は3桁を越えているが、未だに興奮からから来る体の震えは止まらない。

 推定されるマシンスペック、戦場に投入された場合の戦果。
「オレ達ものろのろしてられねえ……! 横浜から託されたこいつを早く前線に届けてやるんだッ!」
 その地下で――上半身だけ組まれ宙に吊るされた金属の巨人が虚空を見つめていた。

◇ ◇ ◇



 佐渡島ハイヴの陥落。この出来事によりーー世界は大きく動き始める。



◇ ◇ ◇


 東日本のとある森の中。
 
 佐渡島陥落から三日後。横浜基地から数百キロ離れたその地点に漆黒の戦術機が膝をついていた。その頭部の一つ目には一切の光も宿っていなく、その肩には鳥が数羽とまっていた。その機体の名を‘天照(アマテラス)’と言う。
 その機体のコックピットで、
「お腹……空きました」
と強化装備越しに、自分のお腹に手を当てた少女の姿があった。

「まったく……作戦終了後、早々に横浜基地に戻ってくれればいいものを……あの男は」
 呪詛の念をこめてそう呟く。
 本当は三日前のあの甲21号作戦の後、すぐにあの男のもとを訪ねるはずだった。しかし、あの作戦の後、彼の行方がわからなくなってしまったのだ。
 おそらくは香月女史とともにあの佐渡島ハイヴの近くにいたのだろうが、自分が今そこに近づくわけにもいかない。まずこの機体。この時代には存在しない所属不明機である。近づく前に攻撃されてもかなわない。おそらくあの香月女史のことだから、米国やその他の国が漁夫の利を得ることを相当警戒しているはずだ。それに自分。自分はこの時代では‘死んでいる’のだ。その場に彼がいれば、すんなりといけるとは思うのだが、必ずいるとも限らない。
 
 仕方なく、彼が所属する横浜基地へ帰ってくるまで大人しく待つことにした。しかし、すでに機体内にあった食料は食べてしまい、かれこれ20時間ほどなにも口にしていない。
 空腹感を必死に、
(ダイエット……ダイエット……)
と考え、紛らわしている。

 だが、そんな単純な思考だけでごまかせる空腹感ではなく、仕方なくここ数日で調べた彼の‘これまでの動き’についておさらいしてみた。
(まずは……日本におけるクーデターの阻止ですか……)
 自分の記憶にあるその事件が起きたのが十二月初頭とあるので、今現在の日にちから考えてあのクーデターを彼が何らかの方法で阻止したのは明白だろう。延期された、という可能性もあるのだが、あの男の性格から考えてそれはないだろう。

(他には……国連軍の一部と帝国軍へのXM3の普及)
 先日の作戦に参加していたそのほぼすべてがXM3搭載機だった。おそらく後数年とかからずに世界中の戦術機に配備されることだろう。

(光菱が不知火のラインをひとつ止めてなにやら造っていましたね……おそらくは‘TYPE-06’か‘TYPE-18’のどちらかだとは思いますが……)
 少し調べただけなのだが、光菱の工場の一つが、ほぼ完全に情報を遮断して光菱内で独自の動きをしていた。
 伊邪那岐がきているとなれば‘あの娘’もいる可能性は非常に高い。
 ‘あの娘’もいるのならそれを製造することも可能だろうという推測をする。
 ここ数日軽く調べただけでもこれだ。なにやらあの男いつも以上に気合が入っているではないか。

 あの男の寂しげな笑みが思い出される。‘かつて自分のとなりにいた彼’。
「今回は……後悔が残らないといいですね」
 少女はそう口にして目を閉じた。
                              つづく

 みなさん、あけましておめでとうございます。

 更新から短い時間で大変多くの方に反応していただき、作者自身驚いています。

 pv数も知らぬ間にこんなことになってたんですね。更新が途切れている間も読みに来てくれた方々、ありがとうございます。

 このlast loopは25話の佐渡島ハイヴ陥落で一区切りがつきました。
 マブラヴ本編で例えるのなら、1~25話までがUNLIMITED編、26話からがAlternative編が始まるようなものになります。

 更新初期のような更新速度は無理でしょうが、
 一話一話しっかりと更新していきたいと思います。
 
 今のところ27話は25話の約2倍程度の文というわけのわからない長さになっています。しっかりと書き上げることができ次第更新をします。もしかしたら2話にわけるかもしれません。
 それではまた27話を更新時にお会いしましょう

 テンパでした。

ps.次回の更新については、12日~15日になると思います。仮に15日に完成していなくとも、完成している分については更新予定です。


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