<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23
Name: テンパ◆790d8694 ID:f5437548 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/01/15 02:32
 2001年12月16日午前8時54分

 ここは、日本、佐渡島沖合い。天気は快晴。そして目の前には憎きBETAの前線基地であるハイヴを有する佐渡島があった。
 それを睨むようにして洋上に展開する何百隻もの戦艦、戦術機母艦。これに加えて宇宙で目を光らす国連宇宙総軍。帝国軍と極東国連軍の総戦力の半数もの大部隊である。
今か今かと砲撃を待ち望む黒光りする砲身。同じく、発進を待ち望む鉄の巨人たち。帝国軍は、日本を取り戻すために。祖国を失った極東国連軍は、これを祖国奪還の第一歩として、それぞれの想いを胸に秘め、作戦の開始を静かに待っていた。

 『甲21号作戦』。
 今回の作戦名である。朝鮮半島の『甲20号目標』と並び、BETAの日本進行における前線基地。西日本全域を緩衝地帯に持つ九州戦線に対し、『甲21号目標』は日本の柔らかい横腹に突き立てられた剣である。この脅威を取り除くことにより、樺太、日本、台湾、フィリピンからなる極東防衛ラインの戦略的安定をさらに強固なものとするのだ。作戦目的は『甲21号目標』の無力化、並びに敵施設の占領および、可能な限りの敵情報収集である。
 
 海上に展開した戦力からもわかるが、この作戦は99年の『明星作戦』に次ぐ大規模反撃である。失敗が許されるものではない。これだけの戦力を投入しておいて失敗すれば、極東絶対防衛線の要たる日本が崩れかねない。

 帝国海軍第三艦隊。
「―――国連機動爆撃艦隊、所定の機動を周回中」
「第一次砲撃開始まで300秒」
 そのうちの一隻、戦艦『大和』。その艦の中でオペレーターたちは、せわしなく情報を取り扱っていた。そして、その中に険しい顔でハイヴを睨む男がいた。大和艦長の田所である。

『―――小沢提督、阿部です。第二戦隊信濃以下各艦、戦闘配置完了。後は、攻撃命令を待つばかりであります』
『うむ……貴官らは本作戦における地上戦力の先鋒だ。心して任務に当たられよ』
『―――はっ、畏まりました!』

 聞こえてくる通信は、信濃艦長阿部と聯合艦隊を指揮する最上艦長小沢のものである。士官学校のころより、よく知っている阿部の気合の入りように、自然と笑みがこぼれた。
『阿部君、随分と逸っているな』
 どうやら自分と同じことを思っていた者がいたようだ。
「我々も、似たようなものだよ、井口さん」
 通信機をとって、そう答えた。話しかけてきたのは武蔵艦長の井口である。
『ふふふ……確かに』

 井口はそれを肯定した。それもそのはず、なぜなら、
「あの島が奴らの手に落ちた日……あの日も我々はここに居たのだから」
 悔しさを心にそう口にした。
 それは1998年のこと。BETAの日本本土侵攻。光州作戦の損耗が回復する間もなく、重慶ハイヴから東進した大規模BETA群が朝鮮半島から日本海を横断し、この日本へと侵入してきた。あっという間に本土が蹂躙されていくなか、佐渡島にも海を渡ってBETAが上陸した。
 自分達はその時もこの海にいた。必死の反撃もむなしく、BETAの圧倒的物量の前に佐渡島を奴らに指をくわえて明け渡すしかなかった。

『ああ、今でもあの日の事は夢に見るよ……忘れられる訳が無い』
 そう、もちろん悪夢として……。日に日に大きくなっていく佐渡島のモニュメントを見て、何度涙を流したことだろう。何度、あの島を取り戻したいと願ったことだろう。
「まさか生きてこの日を迎える事ができるとは……夢にも思わなかった」
 そしてその願いが今日、自分たちの手で叶えられようとしている。

「あの日、この地で失われた幾多の命に報いるためにも、必ずこの作戦は成功させねばならない」
 かつての戦友、部下たちの顔が頭に浮かぶ。彼らの無念を晴らすために、自分は今まで生き恥をさらしてきたのだ。
「BETAを叩き出し、あの島を……我が国土を我らの手に取り戻そう。先に逝った者達も見守っている」
『うむ……そうだな』

 決意新たに、今一度ハイヴを睨んだ。フェイズ4ハイヴ。未だかつて人類が攻略したことのない強大な敵だ。だが、勝算はある。
「国連の……かの横浜の香月博士の新兵器とやらに期待させてもらうとしよう」
『ああ……話によれば‘二つ’あるらしい』
「……その一つのためのこの陣形か」

 真野湾沖に広がる戦術機母艦。広域に広がっている戦艦と比べ、その陣形は一隻の戦術機母艦を先頭に、そこから後ろに行くほど順に広がっていき、途中からは横2列で縦に並ぶアローヘッドのような形であった。しかも、船と船との間が極端に狭まっていた。普通ならこのような陣形は考えられない。なぜなら、一か所にまとまるほど、光線級や重光線級のレーザー照射を受けやすくなるからだ。だが、かの香月博士はこの陣形を要求してきた。

『一機でも多くの戦力を佐渡島に上陸させたいならこちらの指示に従ってください』
 作戦会議のとき、反対する我らに彼女が言った言葉だ。結局は小沢提督がこの陣形をとることを決断した。
 その艦隊の中、先頭にいるのは国連軍の戦術機母艦。通常なら戦術機がすぐに出撃できるように上方は開けているはずなのだが、その戦術機母艦はそこを固く閉ざしていた。件の新型兵器がその中にあるのは明確だろう。

「それが我らの期待に沿うものであればいいが……」
 田所がそう呟いた時だった。

「――国連軌道爆撃艦隊の突入弾分離を確認ッ!」
「――!」

 それと同時、佐渡島上空が多数の光線級のレーザーによって覆い尽くされた。すぐに爆炎と黒煙で赤と黒に染まる空。
「佐渡島上空に重金属雲発生!」
『目標、河原田一帯、――ってぇ!!』
 第二戦隊の阿部の怒号。
 ついに作戦が開始された。



 外から聞こえるのは爆音。艦砲及びロケットが次々に発射され、命中する音である。ついに『甲21号作戦』が開始された。
 そんな中、A-01部隊の面々は、佐渡島北西、両津湾沖にてエコー艦隊の中にある戦術機母艦の中で静かに自分たちの出撃を待っていた。
「ついに始まったか……!」

 冥夜は自身の不知火の中、網膜に映る作戦状況を見ながらそう呟いた。
 正規兵となって初めての実戦。そのことに体は武者震い。昂る気持ちを必死で鎮めていた。だが、それは冥夜に限ったことではない。同じ新任である榊たちもそう。それに、先任たちにとってもこのような大規模作戦は初めてだ。

 数回に分けての深呼吸。
 今の自分が実戦でどれだけやれるか。そんなことを考えた。実戦にでることが恐くはない。それは自分が今まで望んできたことなのだから。そして、今自分には力がる。XM3を長く扱ってきたという経験と、あの自分が見てきた中で最強の衛士、白銀武の教導があったからだ。

「タケル……」
 その彼の名を呼んだ。今この場に彼の姿はない。いるのはヴァルキリーズのみ。なら彼は今どこにいるのか。
『白銀は今回の作戦で単独行動を行うわ』
 それが作戦概要説明時、香月副司令から教えられた武の動きだった。

 それに自分たちは驚いた。当然だ。あのBETAが支配する戦場で単独行動など正気の沙汰ではない。最小単位も二機連携(エレメント)。だが、困惑する自分たちに彼女は言った。
『あなた達が人の心配なんてする余裕あるの? そんなことを心配する前に「自分たちは白銀より弱い」という事実を思い出しなさい!』
 全員がハッと息をのんだ。そして改めて自分たちの力量と彼個人の力量を比べ、その差に打ちひしがれる。自分たちとは個人ではない。部隊としての力と彼個人の力量を比べて、さらに差があるのだ。

 そんな自分たちに追い打ちをかけるように、
『白銀が単独行動を行う理由はいくつかあるけど、大きなものに「誰もこいつの機動についていけない」というのがあるの。仮にあなたたちが行動を共にしてもこいつの‘足手まとい’にしかならないわけ。わかる?』
 
 その辛辣な言葉に隣にいた武が何もフォローしなかった。そのことで、その事実が本当だということを物語っていた。
 ……くやしかった。わかってはいたことだが、改めて突き付けられる事実が心に突き刺さった。自分では強くなっていたつもりだが、確かにまだ彼の足もとにも及ばない。私では戦場で彼の助けになることはできない。ならどうやってこの恩を返せばいいというのだ。

 冥夜の前にいた速瀬中尉は悔しさで唇を噛んでいた。私たちはいつまで彼の背中を見続ければいいのだろう。いつになれば肩を並べて戦うことができるようになるのだろうか。

『HQより帝国海軍第17戦術機甲部隊、上陸開始せよ。繰り返す、上陸開始せよ』
「!」
 ついに上陸作戦が始まる。



『全艦最大戦速――全スティングレイ離艦せよ!』
 その言葉を待っていたスティングレイ1はすぐさま部下に命令した。
「スティングレイ1より各機―――海兵隊の恐ろしさを思い知らせろ! 全て蹴散らせぇ!!」
『『『『『――了解ッ!』』』』』

 海神(わだつみ)がそれぞれ潜水母艦の艦首より出撃する。何十機もの海神が佐渡島に向け、水中を最大戦速で移動する。
 近くなった水面からは、砲撃の閃光がたびたび水中の海神を照らす。
陸はすぐに迫ってくる。海神各機はそれぞれ水中形態から陸上戦闘形態へと変形。海面からその顔をだし、ついに佐渡島の―――戦場の土を踏んだ。

 海中から出現すると同時、両肩に装備された120mm滑空砲とミサイル、また両腕の計12機の36mmチェーンガンを何も考えずに前に斉射した。
 自分たちの役割は後に続くウィスキー部隊の戦術機のために上陸地点を確保すること。この一帯のBETAを一匹残らず駆逐するのだ。
「日本からっ……出ていけぇぇぇ!!」
 スティングレイ1もまた、この佐渡島が奪われたとき、この海にいた。奮戦むなしく、本部から出された撤退命令――佐渡島の破棄。多くの部下の仇を討てぬまま、涙をこらえ撤退した。国土が蹂躙されるという屈辱はもうたくさんだ。

 自分の正面にいる突撃級、要撃級、要塞級、兵士級、戦車級、種類によらずすべてを駆逐するべく全弾使い切るつもりで撃つ。命中したところから、赤紫色の血をぶちまけ、BETAが倒れていった。だがその後ろからぞろぞろとまたこちらへ向かってくる。
 10体ほどの突撃級がほぼ横一列でこちらに突撃してくる。この海神にそれを避けるなんて器用な真似ができるわけはない。海神にできるのはただ圧倒的火力で敵を殲滅するのみ。それがモース硬度15以上の装甲を持つ突撃級でも例外ではない。
『うおおおおおおおおおおおお!!!!』

 部下が叫ぶ。自分も叫んだ。耳から入る爆音、轟音。目から入る、閃光、鮮血。
『う、うわああああああ!!』
 部下が一人、突撃級の波にのまれた。隊長機である自分の機体にその損害情報がすぐさま入ってきた。機体全壊―――中に乗っていた衛士は……即死。

『むっ、村田ぁぁぁあ!!!』
「振り返るなぁ! 倒れた仲間のためにも、前を向けぇ!!」
『くっ! ……了解ッ! くっそぉぉぉ!!!』
 今の自分たちには一人の死を悲しむ間すら与えられていない。鬼籍に入った友の死を無駄にしないためにも作戦を成功させる。それが今できる最高の手向け。

 攻撃の手は休めず、死んだ部下を想う。気さくな、自分とは酒の好みが合う奴だった。
「この作戦が終わったら、オレの秘蔵の一本をくれてやる!」
 そう、勝利の知らせと共に彼の墓前に……。

「スティングレイ1よりHQ――上陸地点を確保! 繰り返す、上陸地点を確保!」
 辺りは硝煙と土煙で満ちていた。所々に点在するBETAの死骸。これが戦場。
『HQ了解。ウィスキー部隊、各機甲師団の上陸を開始せよ――繰り返す、ウィスキー部隊、各機甲師団の上陸を開始せよ!』
 
 HQのその命令で、海上で待機していた戦術機母艦と揚陸艦が、例の国連軍の戦術機母艦を先頭に最大戦速で佐渡島に向かってきた。
それを目視で確認し、再び前に向いた時、さきほどまでたちこめていた土煙の向こうに光線級の忌まわしき瞳が現れた。

「っ! スティングレイ1よりHQ――支援砲撃要請! ポイントS-52-47! 重光線級が接近中だ――戦術機母艦が危ない!!」
 とっさにそう叫びながら、自身もその地点に向かって36mmを撃ちこんだ。
『――HQ了解』
 だが、その時、重光線級たちの照射粘膜が不気味に光った。
「しまった!」

 彼らが向くのは自分たちではない。こちらへとまっすぐ向かってくる多数の戦術機母艦群だ。
「急げ! レーザー照射来るぞぉ!!!」
 だが、その言葉虚しく、支援砲撃は間に合わない。合わせて20のレーザーが戦術機母艦群に向けて放たれた。
「くっそぉ!!」
 だが、彼らは次の瞬間、信じられないものを見ることとなる。



 ――佐渡島へと向かう戦術機母艦群、その先頭の戦術機母艦の中にそれはいた。薄暗い収納スペースの中、片ひざをつき待機する鉄の巨人。日の下では映える銀の装甲もただ鈍い光をかえすのみ。
重光線級の一撃がその艦に迫りこようとするとき、その巨人の瞳に赤い光が宿った。



「っ! フレイム1出るぞ!」
 彼がいるのは戦術機母艦群の第二列目の母艦。上陸地点に重光線級が現れたことにより、発せられた第一級レーザー照射警報。このままここにいたら艦とともに運命をともにすることになる。戦う前から死ぬなんて御免だ。そう考えた衛士の多くは、ここから佐渡島までNOEで近づくことを決める。こちらに照射粘膜を向ける重光線級。もはや一刻の猶予もない。そしていざ飛び立とうとしたとき、その彼らに通信が入った。

『――まだ動くな!!』
『『『『『!?』』』』』

 若い男の声だった。そのあまりの迫力に一瞬の躊躇。だが、それが致命的な隙だった。しまった、と思った時には幾筋ものレーザー光。後悔ばかりが頭のなかをよぎる。先頭の艦にレーザーが照射されたそのときだった。すべてを溶かしつくす破壊の光。それなのに、

 ――そのレーザーが……‘曲がった’。

『『『『『なっ!?』』』』』
 誰もが驚愕の声を出す。なにかに阻まれたようにレーザーは進路を変更。遥か空の彼方まで飛んで行ってしまった。
 自分は夢でも見てるんじゃないだろうか。目の前の出来事が信じられなかった。
『だ、第二照射来るぞぉ!!』
「!」

 再び突き刺さるレーザー。だがまたしてもそれは‘曲がった’。
 ここまでくればこれは夢ではない。人類の誰もが夢見た。レーザーの無力化。国連軍はそれに成功したというのか。
 そのとき、岸一帯に戦闘艦からの支援砲撃の嵐が舞い降りた。一掃される重光線級。
『今だ! 全機突っ込め!!』

 さっきの男の声だった。
『CPよりウィスキー部隊、各機出撃せよ、繰り返す、各機出撃せよ!』
『『『『『―――了解ッ!』』』』』
 あれがなんなのか。それを今考える必要はない。必要なのは「レーザーが曲がった」という純然たる事実のみ。
本当に勝てる。そんな考えが生まれた。

 全力NOEですぐに佐渡島に近づく。そしてついに自分たちも佐渡島の土を踏んだ。
 海神のすぐ隣に降り立つ。

「スティングレイ1、御苦労だった! この先は我らに任せてくれ!」
『佐渡島を……いや、日本を――!』
「ああ、取り戻そう! ――全機続けぇ!!」
 戦友(とも)と言葉を交わし、戦場へ。長刀を掴みさっそく目の前のBETAに切りかかった。さあ、我らの戦いが始まった。



「す、素晴らしい!」
 作戦旗艦、最上。その中で艦長である小沢はさきほどの光景を見て、そう言葉を漏らしていた。かつて、戦場においてこれほど興奮したことがあっただろうか。それだけ、さきほどの光景は衝撃的だった。
「‘A-03’ラザフォード場(フィールド)広域展開成功しました。歪曲率許容値以内です」
「ピアティフ、あと1分でA-03の艦を後退させて……十分下がったら主機を落とさせて」
「了解しました……HQより告ぐ――」

「A-03……いやはや、あなたは本当にすばらしいものをつくってくれました」
 小沢は横に立つその女性に礼を述べた。だが、その女性―――香月夕呼は先ほどの光景に特に心動かされた様子もなく、淡々と答えた。
「提督……作戦はまだ始まったばかりです」

「いえ、ですが未だ嘗て、これだけ兵力を消耗させずに上陸を成功させた作戦があったでしょうか……!」
 少なくとも自分の記憶にはない。長年にわたり人類を苦しめ続けてきた忌まわしき光線級。その攻撃を防ぐ手立てがなかったからだ。
 だが、さっきのあれはどうだ。あの忌まわしき光を防いだのだ。香月博士があの陣形にこだわっていた理由が分かった。彼女はレーザーを一か所に集中させたかったのだ。そのおかげで、上陸作戦としては異例の損害の低さで戦術機を戦場に送ることができた。

「ウィスキー部隊、旧八幡新町を確保! 部隊損耗3%!」
 早い。作戦予定よりも十数分も早くに確保できている。しかも損害率が異常なほど低い。これが新OSの力か。
「ウィスキー部隊、旧河原田方面へ移動を開始!」
「阿部君、支援砲撃位置を旧千種に変更。BETAを高瀬方面に追いやってくれ!」
『はっ、了解しました! 目標旧千種方面に変更! ―――ってぇ!』
 ここから先は我が帝国の将兵の力を信じるのみ。
「弾着確認―――!」



 両津港沖。
『ヴァルキリーマムより各機―――エコー揚陸艦隊は現在、両津港跡に向け最大戦速で南下中。戦域突入まで―――』
「!」
 涼宮中尉の声だ。自分たちの乗った艦が戦場へと近づいている。
『揚陸艦隊の被害軽微、作戦の続行に支障なし! 轟沈22、うち戦術機母艦11……』

「!?」
 信じられないほど損害の低い数値だ。冥夜は自分の記憶を掘り起こして、今まで座学で習ってきた数々の作戦のことを思い出した。しかし、そのどれもが作戦開始と同時に甚大な被害を被っていたはずだ。しかし、この数値はなんだ。いったい向こう側ではどんなことが起こっているのか。

『HQよりウィスキーアルファ。旧高塚まで南下しつつ戦線を維持せよ!』
 ……月詠や神代たちは大丈夫だろうか。彼女たちの強さは知っている。しかし、戦場において絶対などというものは存在しない。どうか、無事で……、
『――ヴァルキリー1より中隊各機。エコー部隊の両津港上陸も近い。各機緊急事態に備えろ』
「!」

 ウィスキー部隊の陽動で、多くのBETAが南に引きつけられているとは言え、佐渡島の上ではどこからでもBETAがでてくる可能性があるのだ。
『いつレーザー照射がくるとも限らない! いつでも発進できるようにしておけ』
「『『『『――了解ッ!』』』』」
 A-01全員の声が重なる。それは自分も含めていつも以上に気合の入った返答だった。

『甲21号目標より、師団規模のBETA軍出現、ウィスキー本隊を目標に南下中』
 今のところ陽動はうまくいっているようだ。
『――HQよりエコー艦隊。現時刻を以て作戦はフェイズ3に移行。砲撃を開始せよ!』

 フェイズ3、両津湾沖に展開した、アイオワ、ニュージャージー、ミズーリ、イリノイ、ケンタッキーの五隻を基幹とする国連太平洋艦隊と大和・武蔵の二隻を中心とする帝国艦隊第3戦隊が制圧砲撃を開始。その後、エコー本隊が揚陸を開始。つまりはついに自分たちの出番だ。
 聞こえてくる幾度もの砲撃音。

『――HQよりエコー揚陸艦隊。全艦艦載機発進準備! 繰り返す全艦艦載機発進準備!』
 ――来た!
 その言葉と同時、機体がリフトで持ちあがる。上から下へと移動する景色の中、集中力を研ぎ澄まさせる。ここから先は死と隣り合わせの戦場。一瞬の隙が死を招く世界。
 艦上に出ると、同じようにA-01の機体が、また他の艦上にも多くの戦術機が並んでいた。壮観とも言うべきその光景。戦艦からの砲撃が空気を震わせる。これが戦場!

『エコーアルファ1よりHQ! 全艦艦載機発進準備良し!』
『――HQ了解。全機発進せよ! 繰り返す、全機発進せよ!』
 力強い発進の合図。

『――行くぞヴァルキリーズ! 全機続けぇっ!!』
「『『『『――了解ッ!』』』』」

 跳躍ユニット最大出力。伊隅大尉の後に続いた。視界に入るのはあちこちで黒煙の上がる佐渡島、そして遥か遠くにそびえたつハイヴの威容。
 島が近づくにつれて、BETAのおぞましい姿が見えてきた。
「……!」
 生まれて初めて見る実物のBETA。シミュレーターのデータなんかではない。質量をもった本物の化けものだ。だが、恐れることはしない。やつらをこの世界から排除するために今まで精進してきたのだから。

 佐渡島に降り立つ。周囲にも同じようにヴァルキリーズの面々が降り立った。すでに戦闘は開始されている。
『私たちはこれからエコー本隊とは別行動をとり、A-02砲撃地点に向かう』
 A-02――鑑の乗る凄乃皇弐型のことだ。今回の作戦の目玉。香月副司令は帝国軍も極東国連軍もすべては凄乃皇の護衛と言っていた。それほどまでに、今回あの兵器は期待されている。それを守るのが自分たちヴァルキリーズの役割。
『途中のBETAはすべて喰らい尽くせ!』
『B小隊、先陣を切るのは私たちよ! しっかりついてきなさい!』
『『「了解っ!」』』

『白銀の教導に報いる働きをしろ! 全機いくぞ!』
 私たちの戦いが始まった。



「こっのぉ!」
 ヴァルキリー6、柏木は目の前で大型種の相手をする突撃前衛のために彼女たちに群がる小型級BETAを支援突撃砲で適格に撃ち殺した。弾倉をすぐさま交換。戦場を見まわし、誰を援護するかを決める。
 その前に自分に向かってくる二体の突撃級の存在に気づいた。跳躍前宙でその突進をやり過ごし、後ろからすぐにその柔らかい背面に突撃砲を数十発撃ちこむ。すると、音を立てて、突撃級は崩れ落ちた。

『やぁっ!』
『せいやっ!』
 みんなの気合の入った声で通信機ごしでも気迫が伝わってくる。私たちがここまできたルートを確認するのは簡単だ。BETAの死体をたどればいいのだから。
 それにしても、すごい。つい3か月前までは考えもできなかった機動。先月行われた新潟防衛線、そのときよりも確実に力が付いている。私たちはいったいXM3を手に入れてからどれだけ強くなったのだろう。

『左翼の13体を片づける! C小隊ついてこい!』
「了解ッ!」
 作戦は順調すぎるほど順調。散在と存在するBETAたちには組織的な動きはまだ見られない。規模でいう小隊から中隊ほどで散発的に私たちに攻撃を仕掛けてくる程度だ。

 そしてその戦闘の中、元207B分隊の面々の活躍はすばらしいものだった。とても初の実戦とは思えない。そして後ろからみているとわかるが、彼女たちの動きのところどころに白銀の面影を見ることができるのだ。いや、彼の本来の動きと比べるとはっきり言って雲泥の差なのだが、大元というのだろうか、彼女たちの雛型とでもいうべき動きが白銀のそれなのだ。

 自分たちとは違い、昔の戦術機概念から戦術機操縦に入らなかったのも原因だろうが、それよりも訓練時代のときからずっと彼の指導を受けてきたことが大きい原因だろう。
「……ちょっと妬ける……かな」
 戦闘中にも関わらずそう呟いていた。A-01部隊の戦力増強のために彼女たちの早期任官が必要だったというのはわかるのだが、それでも自分たちより彼女たちが優先されたように感じてしまった。

(嫉妬……かな?)
 元B分隊組が白銀を多少なりとも男として意識しているのは、はたからみていると丸わかりだ。鑑は言わずもがな。最近では風間少尉、茜なんかも怪しい。そんな中、自分はどうだろうか?
(ん~……よくわかんないや)

 柏木はすぐにその思考を破棄した。今は作戦中。この作戦を成功させることだけを考えればいい。
 このまま、A-02――鑑の乗る凄乃皇弐型のテストが完璧に行き、あの兵器が実戦配備されることになれば、弟たちは闘わなくてすむのだろうか。
「そのためにも、絶対成功させないと……ヴァルキリー6、フォックス3!!」



「はぁっ!!」
 右腕に装備された92式多目的式追加装甲の先端が折れ曲がり、拳を覆う補助武器となる。目の前の突撃級の死骸をよじ登ってきた戦車級をそれで殴り飛ばした。六角形のリアクティブアーマーが戦車級の正面をとらえる。肉の拉(ひしゃ)げる音とともに高く飛ばされる戦車級。それが200mほど前方に落ちた時、周囲にBETAはいなくなっていた。

『B小隊16体の要撃級を撃破――増援なし。襲撃は組織的に非ず』
「ヴァルキリー1(伊隅)了解。補給は各隊隊長の判断で行え」
『ヴァルキリー2(速瀬)了解』『ヴァルキリー3(宗像)了解』『ヴァルキリー0(神宮司)了解』
 伊隅は各隊に指示を出しながら、周囲を全方位警戒。突撃級の死骸に隠れた光線級などがいないとも限らない。部隊の隊長として、部下のため、任務のために万全を期す。

 そうしながらも各隊員――特に元B分隊組のバイタルデータに目を走らせた。初めての実戦がこのような大規模作戦。砲弾音が支配し、目に入ってくるのはBETAのグロテスクな姿。またここにいたるまで、自分たちもほかの隊の戦術機が無残にもBETAに破壊される光景を少なからず見ている。そのような状況にあって、衛士――とくに新兵というのは、身近に迫る死の恐怖などの過度の戦闘ストレスによって砲弾ショック――所謂シェルショックとなってもおかしくはない。

 だが、自分の機体に入ってくる情報はそれらとはまったくの無縁の状態。戦場ということでいつもの訓練時以上の興奮状態を示してはいるが、それとて戦場の衛士としては当たりまえ。つまりまったく問題がなかった。
(まったく頼もしいやつらだ)
 薬や催眠療法を必要とする者もいない。この死が支配する世界において、彼女たちは冷静だった。

『ヴァルキリーマムよりヴァルキリー1。 A-02は予定通り進行中』
「ヴァルキリー1了解――ヴァルキリー1より各機、A-02は予定通り進行中だ。進行ラインにはBETAを一匹も近づけるな! 特にプランBの攻撃開始地点には絶対だ」
 涼宮から伝えられたことをすぐに部隊全員に伝える。
「オルタネイティヴ計画直属部隊の意地と名誉に懸けて、帝国と国連将兵の挺身に応えて見せろ。いいな!」
『『『『『―――了解ッ!』』』』』

 今のところ作戦は順調に推移している。帝国、国連両軍に配備された新OSのおかげで正面陽動を行っているウィスキー部隊も12%という損耗率だ。
(ウィスキー部隊、か……)
 この部隊には先日までともに腕を磨き合った月詠中尉たちも随伴しているはずだ。彼女たちのことだ。今までの状況から言ってまず生き残っているだろう。
 だが伊隅には、彼女たちのほかに気になる人物が二人、ウィスキー部隊に配属されていた。
機密保持の関係上直接は聞いていないが、リストを見たときに見つけた二つの名前。

 ――‘伊隅あきら’と‘前島正樹’。

 前者は妹であり、後者は想い人である。いくら帝国、国連両軍にXM3が配備されたとはいえ、正面陽動部隊が一番損耗率が高いことに違いはない。心配でないはずがなかった。
 A-01が秘密部隊であるということから、彼らはこの佐渡島に自分がいることを知らない。それはそれでよかった。彼らが戦闘中にとらわれる事柄が一つなくなったということなのだからだ。
 
 自分でさえ、これだ。あきらなどは若いから余計そのことが安心だった。
 また正樹にも死んでもらっては困る。まだこちらの想いを伝えてはいないのだ。あの鈍感め……。手ごわい3人の競争相手――あきらもその一人だが、自分を含めて4人のアピールにも全く気づいた素振りを見せない。

 周りには完璧主義者などと言われている自分だが、こと恋愛に関しては臆病だった。
まあ、あの二人のことは確かに心配だが、あの娘やあの男、その仲間たちを信じる他にできる事はない。私は私の任務に集中するだけだ。

『――HQより全軍に告ぐ。作戦は第四段階へ移行。繰り返す――作戦は第四段階へ移行』
「――っ! 」
 それと同時にレーダーに映る機影。空から降ってくる一団。

「ヴァルキリー1より各機――第6軌道降下兵団(オービットダイバーズ)のお出ましだぞ!」
 第6軌道降下兵団――ハイヴ突入部隊。
「――全機、突入殻(リエントリーシェル)の落下に備えろ! 落下軌道予測のデータだけで安心するな!? 敵の迎撃でコースは常に変化するぞ!」
『『『『『――了解ッ!』』』』』

『ヴァルキリーマムより各機――現在、旧上新穂地区への落下軌道を取る突入殻は確認されていない。引き続き警戒せよ』
 その言葉が終わると同時、それは来た。次々と地面に突き刺さる突入殻。それが振動となって自分たちの位置まで伝わってきた。激しく揺れる機体。轟音と地鳴り。佐渡島全体が震えているのではないかと思うほどだ。
 伊隅も直に体験するのは初めてだった。
 これがハイヴ攻略戦――本当のBETAとの戦い。その迫力に言葉が出なかった。


◇ ◇ ◇


「――ザウバー1よりCP。第12層N19『広間(ホール)』を確保――繰り返す、第12層N19『広間』を確保」
『――CP了解。引き続き「主縦坑(メインシャフト)」を目指し進軍せよ』
 佐渡島地下約400mの地点で、第6軌道降下兵団所属のザウバー小隊は薄暗いハイヴの中を行軍していた。再突入殻ここまでの迅速な行動。途中散発的な戦闘はあったものの特に問題もなくここまでやってこられた。

「後続の状況が知りたい。有線データリンクがうまく機能してないらしいんだ」
 有線データリンクを介した通信はノイズが返ってくるのみだ。網膜にも何の情報も映らない。
『――了解。ウィスキーJ、K大隊が第10層までを完全制圧。L大隊がM15「広間」まで到達しているので、もうすぐ追いつくはずだ』
 地上での陽動も異常なまでの損害率の低さで機能しているらしい。地下茎構造(スタブ)内の兵站も第10層まで確立されているらしいので、有線データリンクもすぐに回復するだろう。

「ザウバー1より各リーダー。聞いたな? ゴースト隊はルートスキャン、レザール隊は正面横坑(ドリフト)を前衛警戒」
『――ゴースト1了解』『――レザール1了解』
 すぐさま先行しているほかの隊から返事が届く。この広大な地下トンネル……どこにB ETAが潜んでいるか分かったものではない。
「急げよ。突入してから41分経過している。ルートスキャンは2分で済ませるんだ。残りは全方位警戒だ!」
『『『『『――了解ッ!』』』』』

 通信が一端やむと、戦術機の動く音だけが聞こえるだけの静けさ。‘不気味’なほど静かだった。地表の陽動がうまい具合にほとんどのB ETAを引きずり出した……そう思いたいところだが、そんなに甘くはないだろう。
「フェイズ4ハイヴの最深到達記録は511mだ。記録更新まであと71m……今回俺たちの機体は新OS搭載機なんだ。なんとしても記録を更新……いや、反応炉にたどり着いて見せるぞ!」
『『『『『――了解ッ!』』』』』
 部下の力強い返事を聞いて、戦術機を前に進めようとしたときだった。

『――こちらレザール1! 振動と音紋に感あり! 下だ。下の階層からだ……』
 回線が開いたと思えば、聞こえてきたのはレザール1の切迫した声。その知らせは悪い予感が的中したことを示していた。部隊内に緊張が走る。
『データリンク来てますッ! 部隊内データリンクは正常』
 レザール1 が観測した情報に目を通す。これは明らかにBETA。しかも師団以上の大規模移動だ。

「レザール1、こっちでも確認した! ゴースト1ッ!?」
『スキャンで確定した進行ルートの先から……全ての分岐路の先から終結している!』
「なんだとっ!?」
 絶望的なその知らせ。その知らせを裏付けるようにハイヴ内が振動し始めた。‘やつら’の足音だ。それは次第に強くなっていく。

『いや、まて――それだけじゃない……下の層の全ての縦坑(シャフト)と横坑(ドリフト)を移動しているぞッ!!』
「――!?」
 データリンクシステムによって送られてきたそのデータ。センサーが振り切っている。測定限界値ということは推定個体数――4万以上!

『いったいどこに……そんな数が……!』
「バカ野郎! ハイヴの中は小さいのがうじゃうじゃいるんだ! いちいち数にびびるなッ!」
 数にしり込みする部下をしかりつけた。こと戦場では気持ちが折れたものから死んでいく。それがザウバー1が今までの経験で得た答えの一つだった。

「レザール隊下がってこい! 全部隊でN19『広間』まで後退するッ! 後続と合流して迎え撃つぞッ!」
『『『『――了解ッ!』』』』
 すぐさま後退を指示。4万以上の数を相手にするのはこの通路は狭すぎる。激しく揺れる地下茎構造内。奴らはすぐそこにまで迫っている。もはや一刻の猶予もない。

「ザウバー2、後続のL大隊に状況を伝えろ! ――ザウバー1よりCPッ! ザウバー1よりCPッ!」
『――こちらCP。ザウバー1どうした?』
 上に展開する部隊のためにもこのことを知らせなければ……ついに奴らが動き出した、と。
「13層より下から4万以上の BETAが地表に向けて移動中だッ!」
 だが返ってきたのは絶望的な答え。
『こちらCP。ノイズが酷くて聞き取れない。繰り返せ』
「――だから13層より下から4万以上のBETAが――」

『隊長ッ!』
 部下に通信を遮られた。これ以上いったいなにがあるというのだ。
『お……おかしいです……変な座標に音源が……』
 データを見る。確かに‘変な’座標だった。なぜならそこには縦坑も何もないはずなのだから……まさか奴ら!?
『――こっちでも確認しているッ! 今まで縦坑がなかったはずの座標を上に移動しているんだッ!!』
「……バカなッ!? 新しい縦坑を掘っているというのか!?」
(横浜基地の忠告は本当だったのか!?)

 作戦の数日前に横浜基地から提示されたBETAの特殊行動の可能性。だが自分達はそれを冗談半分に聞いていた。だって今までの数十年にも及ぶBETAの戦いで奴らはそんなことを一度もしたことがなかったのだからだ。
 だが今ある情報。これを整理するとそれが事実だと認めざるを得ない。奴らは掘りながら進んでいるのだ。

「まずいぞ!! ザウバー2全ての突入部隊にデータを送れッ!」
 こんな行動をするなんて、下手したら後ろをつかれた突入部隊が全滅しかねない。
『ダメですッ! 有線は完全に死んでいます!』
「なにぃッ!?」
『コ、CPとの通信が――』

『――うわああああああああッ!?』

 横の壁が大きな音を立てて崩れた。それと同時にその土煙にのまれるザウバー2。そしてそれを踏みつぶし奴らは現れた。
『出やがったなこの野郎ォォォォォ!!』
 興奮した部下が手当たり次第に発砲してしまう。現れたBETAは明らかにこちらの想定以上。
「――バカ野郎! 撃つなッ、同士討ちになるぞ!?」
 だが一度冷静さを失った衛士にこちらの言葉は入ってこない。混乱した奴は簡単に戦車級の波にのまれた。
『ひいぃィィィィ!』
 あの強靭なあごが装甲を次々とかみ砕く音。もうやつは助からない。そして土煙の奥へ消えた。

「――クッ! 各機新OSの特性を生かして、後退しろ!」
 もはやこうなっては陣形なんぞあったものではない。まずはここから生きて逃れることが最優先だ。

「いいか!? 何としても生き残れッ!!」

◇ ◇ ◇

どこか遠くから地響きが聞こえてくる。伊隅機がその動きを止めた。
「……何だ?」
 それは次第に大きくなっていき、地面を揺らし始めた。悪い予感がする。ここまで順調だった分、その想いは強かった。
『――ヴァルキリーマムより各機。ハイヴに先行突入した全部隊が撤退を開始、また数部隊と通信途絶。第一層突入中のM、Nの各隊は地表へ撤退中』
『そんな!?』
 榊の信じられないというような言葉が聞こえてきた。

 それは伊隅も同じだ。あれほどの大部隊が撤退を開始……まさかこんな短期間でそれほどの損害を受けたとでもいうのだろうか。ハイヴ突入部隊は、軍の中でも選りすぐりのエリート軍団。しかも今回の搭乗機はあのXM3搭載機だというのに!
『作戦はテストプランBへ移行。繰り返す――作戦はテストプランBへ移行。A-02の攻撃を以てハイヴの無力化を試みる』

 あれこれ考えても仕方がない。今はハイヴ突入が失敗したという事実だけを認めればいい。
「――ヴァルキリー1了解。A-02攻撃開始地点の確保を継続する」
『尚、ハイヴ周辺の各「門(ゲート)」からBETAが出現中。警戒を怠るな』
 センサーはさっきからずっと測定限界を示している。ということは4万以上の振動発生源があるということだ。それがハイヴから出てきているということはついにやつらが本気を出し始めたということかもしれない。
『現在の所、個体数及び種属構成は不明。レーザー属種の存在を想定した警戒態勢を継続せよ』

 最初の掃討作戦で駆逐したはずのレーザー属種がまだいる可能性もある。
 そのとき、目の前の地面が爆ぜた。そこから飛び出してくる要撃級。
『『『『「!?」』』』』
「――新手の登場だ! 全機、手厚く歓迎してやれ!」
『『『『『了解ッ!』』』』』

「速瀬、宗像ッ! 幸い光線級は存在しないが、数が多い――小隊単位で対処しろ!」
『『了解ッ!』』
すでに作戦開始から3時間が経過しようとしていた。

〈――過去のデータでは、突入から約4時間後には、地上の支配権も奪回されてしまう事が殆どだ〉

 これは新任たちへの初めての講義で、伊隅自身が教えた対ハイヴ攻略戦の実情であった。作戦は順調。だが、なぜだろう。この言葉が頭をよぎる伊隅だった。
                                    つづく


前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.024370193481445