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No.3444の一覧
[0] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop(29話更新しました)[テンパ](2013/05/15 22:24)
[1] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 2[テンパ](2013/01/09 22:48)
[2] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 3[テンパ](2013/01/01 23:43)
[3] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 4[テンパ](2008/11/18 21:33)
[4] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 5[テンパ](2013/01/14 19:00)
[5] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 6[テンパ](2013/01/14 19:05)
[6] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 7[テンパ](2013/01/14 19:10)
[7] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 8[テンパ](2013/01/14 19:13)
[8] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 9[テンパ](2013/01/14 19:18)
[9] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 10[テンパ](2013/01/14 19:24)
[10] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 11[テンパ](2013/01/14 19:31)
[11] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 12[テンパ](2013/01/14 19:40)
[12] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 13[テンパ](2013/01/14 19:44)
[13] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 14[テンパ](2013/01/14 19:49)
[14] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 15[テンパ](2013/01/14 19:53)
[15] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 16[テンパ](2013/01/14 19:58)
[16] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 17[テンパ](2013/01/14 20:01)
[17] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 18[テンパ](2013/01/14 20:03)
[18] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 19[テンパ](2013/01/14 20:06)
[19] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 20[テンパ](2013/01/15 02:33)
[20] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 21[テンパ](2013/01/14 20:13)
[21] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22[テンパ](2008/12/09 23:07)
[22] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 23[テンパ](2013/01/15 02:32)
[23] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 24[テンパ](2013/01/11 02:38)
[24] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 25[テンパ](2013/01/15 01:57)
[25] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 26[テンパ](2013/02/21 18:00)
[26] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 27[テンパ](2013/01/16 22:54)
[27] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 28[テンパ](2013/01/16 21:30)
[28] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 29[テンパ](2013/05/16 17:59)
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[3444] Muv-Luv オルタネイティヴ Last Loop 22
Name: テンパ◆790d8694 ID:f5437548 前を表示する / 次を表示する
Date: 2008/12/09 23:07
※感想は随時募集中♪「面白い話」「笑える話」「ニヤニヤできる展開」日夜それだけを考えて執筆にあたっております。そのうちのどれかでも楽しんでくれたら幸いです。



―――ユサユサ。
「……ん……」
―――ユサユサ。
 体を軽く揺すられる感覚で目が覚めた。
―――ユサユサ。
「……アーリャ、霞……すまん、もうすこし」

「むっ!」
―――ユサユ……。
 ゆさぶりが止まる。一時期は二人で武を起こすことを競いあい、日が経つごとに起床時間が早くなっていたが、ピアティフ中尉の提案により当番制になってからは毎朝平和な起床を迎えることができるようになった。
「いい子だ、二人とも……」
 そして、もう一度まどろみの中へ―――

「フンッ!」
―――ボフッ!
「んぐぁっ!!!」
 腹部に感じた強烈な衝撃で一瞬のうちに意識が覚醒した。猛烈な痛みと呼吸困難。
「なにしやがっ―――」

「起きた~?」
 目を開けると、目の前に黒い笑顔の純夏がいた。寝起きの頭で状況整理。なぜここにこいつがいる。しかもなぜに朝っぱらから強烈な一撃を腹部にもらわなければならないのか。時計を見る。すると、いつも起きる時間より20分も早いではないか。横を見ると、まだスヤスヤと眠っているアーリャと霞の姿。
「純夏……とりあえず弁明を聞こうか?」
「弁明……?それってどういう……」
「そうか、ないか。わかった……とりあえずそこにまっすぐ立ってくれ」

「?」
 素直にこちらの言うとおりにベッドの横にまっすぐ立つ純夏。武はベッドから上半身を起こし、それから片腕を振り上げ、
―――ボガッ!
 純夏の頭に渾身の一撃をくらわせた。

「いっっっっっったぁぁぁ!なにすんのさ、タケルちゃん!」
「そりゃこっちのセリフだ!朝っぱらからなに人の腹に一撃くらわせてくれてんだ!?」
 武の一撃がクリーンヒットした個所を両手で押さえて、涙目で怒り露わにする純夏だったが、武としては何もしてないのに腹部に一撃もらう方が理不尽に思えてならない。

「しかもこんな早い時間に起こしてくれやがって!昨日もお前との訓練で疲れてんだから、朝の数分間は非常に貴重なんだぞ!」
「だ、だって、だって!いつもの時間だったら霞ちゃんか、アーリャちゃんが起こしちゃうしー!」
「いいじゃねえかよ、それで」
「だ、ダメだよー!タケルちゃんを起こすのは私……ってそもそもなんでこの二人がタケルちゃんの部屋で寝てるのさー!?」

 純夏が今更なことを質問してくる。
「別に誰にも迷惑かけてないんだからいいだろ」
「む~!だったら私もここで寝る!」
「なんでだよ!?」
「だって、ずるいよー!」
 そんな二人の喧噪で霞とアーリャも目を覚ます。

「あ!」
 純夏とすでに起きている武を見て、アーリャが声を上げる。先をこされたのがそんなにくやしいのか、純夏のことをかわいらしく睨みつける。その隣では不気味なウサギの人形片手に、まだ明りに目をシパシパさせて、眠気眼をこする霞の姿。
 ここ数日ですっかり馴染みつつある朝の行事であった。



「おや、タケル……と、鑑もいっしょか」
「御剣さん、おはよー!」
 PXには、すでに冥夜やほかのA-01の姿も数多くあった。先に部屋を出ていたアーリャと霞も席についていた。もう食事を始めている者もいて、自分たちも急ぐことにした。

「タケル“ちゃん”、今日は何にする?」
「「「「「……」」」」」
「んー、サバ味噌でいくか」
「サバ味噌か、わかった。私がもってくるから座っててよ」
 そう言い残すと、スタコラサッサとカウンターのほうへ走って行った。武はアーリャの隣へと座る。

「「「「「……」」」」」
 だが座った瞬間、なぜか居心地の悪い気がしてならなかった。その原因は、なぜか周囲からあてられる無言のプレッシャーであった。なぜか先日、A-01に207小隊を紹介したときから、これは始まっていた。厳密に言えば、純夏を紹介した時からなのだが、武はそれに気づいていない。

 カチャカチャと箸と食器の触れる音だけがする中、左隣にいた冥夜が恐る恐ると言った様子で武に話しかけてきた。
「タケル……少し、聞きたいことがあるのだが」
 ご飯を待つ以外することのなかった武は、冥夜のほうに向いた。そのとき、カチャカチャという周囲の音が止んだ。
「いや、答えられぬのならいいのだが……」
 真剣な面持ち、意を決したように、
「タケルと鑑は―――」

「―――お待たせー!はい、サバ味噌定食!」
「ん、ああ、サンキュ」
 そこに現れた二つのトレイを手にした純夏。自分は武の向かい側に座り、武の前にサバ味噌定食を置く。そして両手を合わせ、元気よく「いただきます」。

 武は箸をとりながら、今一度冥夜に向き直った。
「で、なんだって?」
「……いや、いい」
 あれ。さっきまであんなに聞きたそうにしていたのにおかしなかことだ。しかも若干不機嫌ではないか?冥夜はすでに食べ終えていた。食器を片づけ、PXをでてしまった。

「?」
 おかずを口に運びながら首をかしげる。だが、すぐに「ま、いっか」と顔を元の位置に戻して、ふと横にみると、目に映ったのはアーリャと霞の姿。なぜかお互い箸をもったままじっと見つめ合い、時折周囲に目を配らせていた。それは警戒しているようでもあり、武は気付かれぬように、二人の様子を盗み見た。

 すると次の瞬間、それぞれの箸が動いて、アーリャはピーマンを、霞はニンジンを相手の皿の上に乗せた。食事の度に何かと競い合っていた二人だが、最近ではこのようにある種の停戦協定が結ばれたらしい。だが、お父さんとしては、好き嫌いは見過ごせぬわけですよ。
 それぞれの皿にのったピーマンとニンジンを元の位置に素早く戻してやった。
「「っ!」」

 すぐに二人は武のほうを向いて、
「「……」」
 無言のプレッシャー。だが武の教育方針はそんなもので変わるものではない。何食わぬ顔で自分の食事にとりかかった。結局二人は、黙って嫌いなものを食べるしかないのであった。

◇ ◇ ◇

「くっ、強い!さすがは斯衛の猛者!」
 伊隅は交えていた長刀を弾きながら口にした。伊隅が操る不知火の前にいるのは、同じく長刀を構えた赤の武御雷。月詠中尉の操る機体だ。
『このぉ!』
 その400m後方で激しい銃撃戦を繰り広げているのは、速瀬の不知火と篁中尉の黄の武御雷だ。篁中尉はまだXM3に触れて数日しかたっていないはずなのにその動きはこちらとほぼ同等クラスであり、搭乗機が武御雷という高性能機であるということを考慮しても篁中尉の高い操縦センスが伺えた。

 なぜ自分たちA-01と彼女たちがこのような異機種間戦闘訓練(ダクト)を行っているのか。それは白銀が帝都から帰ってきたときにまでさかのぼる。彼は帝国軍へのXM3受け渡しの交換条件の一つとして斯衛軍の5人を預かってきたらしい。そして、その目的と言うのが今回のようなダクトによる自分たちA-01の強化。
 日本が世界に誇る超高性能機―――XM3を搭載した武御雷との模擬戦は確かに自分たちのためになるものだった。近接戦闘特化の武御雷と渡り合うために近接戦闘のスキルも上達する。近づかれる前に始末しようと、罠を張り狙撃で仕留めようとする。

だがそう簡単にいかないのが斯衛の者たちだ。
目の前には、赤、黄、白の三色の武御雷。武御雷の色分けは、周囲の兵士の注目を集めることによりその出身に恥じない戦いを本人に強いるためと、またその規範となる行動によって、周囲の兵士の士気を高めることを目的としているわけだが、この五人はそれを見事に体現していると言っていい。

だが自分たちとてオルタネイティヴ計画直属の実行部隊。その任務に失敗は許されないし、自分の腕にもそれなりの自負がある。こんなところで無様に負けるわけにはいかない。
現在の状況はまだ両者一機も失っていない。7対5という状況。7がこちらで、5が斯衛だ。機体性能が上の分、斯衛の機体は少なくなっている。ここらでそろそろ勝負にでるべきだろう。
まずは連携の甘い篁中尉から仕留める。いくら斯衛の衛士といえど、
「白銀の化けもの機動に比べれば、勝てないものではない!」



「これがA-01部隊の力か!」
 月詠は武御雷を引かせながら先ほどまで刃を交えていた伊隅大尉の不知火をにらんだ。オルタネイティヴ計画直属部隊で腕利き揃いと白銀から聞かされていたが、まさかこれほどとは思わなった。我が斯衛の精鋭たちと比べても何ら遜色ない。

 こちらの弱点となりうるのが篁中尉との連携。それは何も篁中尉の腕が劣っているわけではない。つい先日に結成されたばかりの新造チームなので連携に難があるのはしかたのないことだった。その中でもこちらにある程度合わせることのできる彼女は間違いなくエース級だ。
 だがほんの少しの連携の甘さが、このレベルの戦闘では致命的な弱点となる。敵が狙うとすればここだろう。一機でも落としてしまえば、残りは4対7。機体性能はこちらが上回っているが、むこうには長い間XM3に触れていた経験と一糸乱れぬチームプレーがある。勝負は今のところ五分五分だ。

『月詠中尉!』
 篁中尉からの通信。見ると、篁中尉のマーキングの周囲に二機の敵機が迫っているではないか。ついに相手も勝負に出たということか。
すぐさま応援に向かうべく、跳躍噴射で大きく飛び上がったとき、

「!」
 頭上のビルから長刀を構えた不知火が飛び降りてきた。慌ててもっていた長刀で防ぐが、跳躍で稼いだ高さを一瞬にして0に戻されてしまった。地上で相対する二機の戦術機。すぐに不知火が踏み込んできた。
『月詠中尉、ここから先へは通しません』
「っ!冥夜様!」

 長刀による猛攻を防ぎながら、月詠は忠誠を誓うその名を口にした。
 その冥夜は以前に吹雪で相手したときよりはるかに技量が上がっていた。
「ここまで強くなられていたとは……!」
 それもこれも新OSと、白銀の錬成のおかげということだろうか。だがしかし、今は模擬戦、敵同士。わざわざ負けるつもりはない。いますぐ彼女を突破して篁中尉に合流しなければならない。その後は神代たちが相手している者も含めて各個撃破していく。
 伊隅大尉や速瀬中尉などのかなりの強者もいるが、それとて、
「白銀の化けもの機動に比べれば、なんということはない!」



『白銀の化けもの機動に比べれば、勝てないものではない!』
『白銀の化けもの機動に比べれば、なんということはない!』

「化けもの化けものうるさいです!傷つきますよ、オレ!」
そうやって管制室にいた武が叫んだとか叫んでないとか……。
 またそんな武を見て、管制を行っていた涼宮中尉にピアティフ中尉がクスクスと笑ったとか笑ってないとか……。

◇ ◇ ◇

 さて数日前にA-01部隊に配属された元207訓練部隊。彼女たちには、まずBETAやハイヴの特性といった講義から始まった。訓練課程での三か月の後期カリキュラムをすっ飛ばしてのスピード任官なので、それを数日で頭に詰め込まなければならない。それと並行して、シミュレーターや先任との模擬戦、あるいは斯衛軍とのダクトによる新人たちの適性判断。訓練時代のデータはあるが、それはあくまで参考程度。こればかりは実際に部隊内に入ってその動きを見て判断すべきだ。

 だが、シミュレーターで行った初めてのハイヴ内演習で、元207B訓練部隊の技量の高さに舌を巻くこととなった。白銀が戦術機過程をすべて受け持っていたというのは聞いていたが、まさかこれほどとは思わなかった。それぞれの長所は先任のそれに迫るものがあるし、XM3を手足のように扱うその姿は先日まで訓練生とは考えられないものであった。あとの問題は場慣れのみ。伊隅、速瀬、宗像、白銀、まりもの話し合いでそれぞれのポジションも決まりつつある。実のところ、現在のA-01部隊の最終ポジション決定権は夕呼から一任されている白銀にある。だが、彼はあくまで教官であり、A-01部隊所属ではないというのが現状だ。

 まあ、とにかくそんなハードなスケジュールをここ数日でこなしていたことになるわけだが、白銀が連れてきた最後の新人―――鑑純夏は前述の講義はすでにパスしているらしい。そして彼女は不知火には搭乗しないとの驚きの事実を告げられた。涼宮中尉と同じCPなのかと思えば、初日の補足説明で白銀がこう言っていた。
『純夏はある特殊な兵器を運用するために訓練された衛士なので、訓練にはもう少しあとから合流します。それが完成するまでに一応部隊に慣れておいたほうがいいと思い早期着任させました』

 その言葉から数日がたったが一向に彼女が訓練に参加する気配はなかった。ここ数日でわかった鑑純夏という少女は明るくポジティヴ思考でちょっぴりドジな少女であった。協調性を重んじるような性格であるようだが、白銀に対してだけはたびたび強気な態度をとっている姿をみかける。
 コミュニケーションをとってほしいと言われたが、さすがに乗る機体もわからない、いつも訓練に参加しない。そのほかにも謎の多い彼女と仲良くなるには少し壁があった。いや実のところ、壁の理由はそれだけではない。なによりも大きい理由、それが……

「タケル‘ちゃん’、ご飯食べに行こうよ~!」
 ……これだ。タケル‘ちゃん’だ。PXでも訓練中でもこの呼び名。この呼び方だけで彼女と白銀の間に何かあると推測するのは簡単だ。A-01部隊内では白銀の方針上、堅苦しい物言いは滅多にせず、呼び名もとくにこだわっていないが、それでも「白銀」「タケル」「タケルさん」というのが限界だ。いくら自由に読んでいいと言われても自分たちの年齢でいきなり‘ちゃん’づけで呼ぶ者はいない。

 そして彼女がA-01に配属されてから数日。ついに耐えられなくなったのかだれが尋ねたか、白銀と彼女の関係。だれもが聞き耳を立てるなか、それに白銀はこう答えた。
「純夏とオレは幼馴染ですよ」
この一言は彼自身の墓穴を掘ったことに等しい行いであった。だが、ある意味この言葉のおかげでA-01部隊と鑑純夏は「白銀武」という共通の話題を得て、より近づくことになるのだった。



 そしてその日の夕食、PX。
「―――それでねタケルちゃんってば私が割ったアンモナイトの代わりにかたつむりを置いて、案の定先生にばれてね~」
「アハハ、タケルさんってばそんなのでだませると思ってたんですか~?」
「プッ……あ、いやすまない」
「フッ……馬鹿だね」

「ヤメテ……もうヤメテ。人の恥ずかしい過去を暴かないで」
 武は一人食卓の上に突っ伏して頭を抱えて、震えていた。無邪気に笑って武の心をえぐるたま、密かに噴き出す伊隅、単純だがかなり効く彩峰の嘲笑。どれもが武の精神ゲージを削っていった。もうやめて!武のライフは0よ!

「ダメよ!せっかく幼馴染っていうアンタの過去を知る鑑がいるんだから、いつも弱点ないアンタの化けの皮をはいでもらわないと」
「鬼か……アンタは……」
 そんな武をよそに純夏の武過去暴露話は進んでいく。武自身ですら忘れていた話も多く、その羞恥プレイという公開私刑にも等しい行いに武は「いっそひと思いに殺してくれ」とコメントしたという。
 A-01に合流するまでの数日の間に、純夏には記憶にあるここ4年程度のことは話すなといっておいたが、彼女はその言いつけを守り、‘4年以上昔’のことしか話さなかった。しかし、でてくるでてくる武の過去話。どうでもいいことから、武も忘れていたものまでひっきりなしに出てきた。こちらの世界の記憶と混ざり合っているおかげか、特に矛盾する話もなかった。

 そして驚きなのが、この話にA-01部隊全員、さらにアーリャ、霞まで興味津々で食事を終えて純夏の周りに集まっているということだ。だれ一人PXを去ろうとしない。なんだ、オレの恥ずかしい過去をそんなに聞きたいのかあんたらは!?
「先生に対する言い訳が『生まれ変わった』に『脱皮した』だよ~」
 脱皮説は割と本気だったんだぞー。
「プッ、ククク……タケルにもそのような時代があったのだな」
「これはおもしろいことを聞いた……」

 ……そしてさらに不運なのが、今日の食事が帝都から派遣された月詠中尉たちと一緒だったということだ。月詠はいつもは負けっぱなしの武の恥ずかしい過去を聞けたことで主導権を握れることが嬉しいのか、ニヤリとした笑みを武に向けた。
「勘弁してくださいよ、‘真那’さん」
「っ!?」

 その言葉で場がざわめいた。所々で「真那さん!?」「真那さんだって!?」という言葉が聞こえてくる。三馬鹿も信じられないという顔つきで月詠と武を見ていた。
「き、貴様一体何を!?」
「え?だってこの前帝都で名前で呼んでいいって……」
「ば、バカ者!確かに名を呼ぶ許しは与えたが、それは姓のことだ!貴様が望むのなら階級をつけなくてもよい、と!そもそも時と場を考え―――」
「あれ?そうだったんですか?」

 だが、それとて名を呼ぶことを許したという事実に違いはない。先日の帝都でこの二人の間に何かがあったのは明白。
「月詠……詳しく話を聞かせてもらえぬか」
「め、冥夜さま!……ええい、鑑少尉!ほかにこの者の情けない過去などないものか!?」
「ぬっ、逃げたな!」

 月詠に話を振られた純夏は、少し考え込み、すぐに「とっておきを思い出した」という顔をして、
「タケルちゃんが『Hな本』持ってたこともあった!しかもベッドの下に隠しといてくれればいいものを堂々と部屋の中においてたんだよ~!」
「「「「「っ!」」」」」
 その言葉は、みんなの意識を月詠からそらすには十分で、

「B小隊続け!白銀の部屋に突撃よ!」
「「「了解っ!」」」
「C小隊はここで白銀の足止めだ!」
「「「了解っ!」」」
「そういう連携は訓練で発揮しろおおおおお!」
 訓練でも見せたことのない機敏な動きと阿吽の呼吸による連携に武は耐えきれず突っ込んだ。

「美冴さん……さすがに白銀少佐の私物を勝手にあさるというのは……」
 おお、C小隊唯一の良心、風間が宗像に掛け合った。いいぞ、風間少尉!もっと言ってやっ―――
「馬鹿だな、祷子……ここでその本を見つけておけば白銀の好みがわかるかもしれないのに(ボソッ)」
「白銀少佐、ごめんなさいね」
 あっさり寝返ったぁ!?

 にっこり笑って、裏切り宣言。一体その悪魔に何を吹き込まれた風間少尉ぃ!?
 そしてC小隊の面々に囲まれている間にB小隊はPXを出て行ってしまった。それをなすすべなく見送るしかできない武であった。



 そんな彼女たちの様子を唯依は少し離れた位置から見ていた。帝都で圧倒的なまでの強さを自分たちに見せつけた白銀少佐。その姿はそこになかった。そこにいるのは、女性たちに囲まれ、ただ一人の男性として肩身の狭い思いをする少年の姿だった。A-01の面々も、軍における少佐に接する態度ではなく、思いっきり砕けたものであった。

 速瀬中尉たちがPXを出て行ってしばらくC小隊の面々と対峙していた白銀だったが、すぐに肩を落として「あきらめた」の意思表示。そのまま、彼女たちに背を向け、こちらのほうへ歩み寄ってきた。

「騒がしくてすみません」
 苦笑気味に唯依に言ってきた白銀。そのまま、唯依のとなりに腰かけ、脱力したように突っ伏す。
 向こうでは鑑少尉が再び話し始めた。みんなの意識は必然的にそちらへ。
「ここは、いつもこのような感じなのですか?」
 だが、唯依はとなりにいる白銀に話しかけていた。

「まあ、今日は一段と騒がしいですけど、だいたい似たようなもんですよ」
 溜息、苦笑。彼自身もこの状態を楽しいとまではいかずともそれなりに受け入れているようだ。
「この部隊はオルタネイティヴ計画直属の部隊……先には過酷な任務ばかりが待っています。だからこんなときばかりはそんなことを忘れ、楽しむのもいいでしょう」
 そう言ってにぎやかに話す彼女たちを見る白銀少佐。その目はなんとも穏やかな光を携えていた。

 本当にこの少年一体今までどのような人生を歩んできたというのだろうか。
 唯依は一人、隣にいる少年を見ていた。



 二日後。A-01部隊は訓練前のブリーフィングで夕呼を前にしていた。ついに鑑が訓練に参加することになるらしい。それと同時に副司令自らによる鑑専用機の説明。
「じゃあ、あなた達に紹介するわ。これが……鑑が操ることになる対BETA戦力の切り札」
 前に出た夕呼が手にしたリモコンを操作する。そしてミーティングルーム正面の巨大なスクリーンに‘それ’が映し出された。
「―――XG-70b……凄乃皇弐型よ」
「「「「「っ!?」」」」」

 そこに映し出されたものは自分たちの想像のはるか上を行く代物だった。
 まず戦術機ではなかった。そして桁違いなのがそのでかさ。高さだけで対比物として横に表示された戦術機の軽く五倍以上はありそうなそのスケール。戦術機の胴体に見えなくもないが、腕の代わりにつけられた円筒形の何か。また足の部分につけられた後方に長くのびる何か。自分の知識ではそれが何で、何のためにあるのかすらわからなかった。それにそもそもそれは足ではなかった。気付くと、対比物である戦術機は地面に足を下ろしているが、凄乃皇というそれは浮いていた。

「XG-70bは米国軍の『HI-MARF計画』が生み出した、戦略航空機動要塞の試作2番機よ。この極秘計画のスタートは1975年。ちなみにコードネームが和風なのはこっちで勝手に付けたから」
 米国は密かにこんなものを造っていたというのか。
「戦略航空機動要塞は、単独で敵支配地域の最奥部まで侵攻し、短時間でハイヴを破壊するという、夢のようなオーダーを叶える兵器。搭載されたムアコック・レヒテ型抗重力機関から発生する重力場で、BETAのレーザー兵器を無力化し、重力制御の際に生じる莫大な余剰電力を利用した、荷電粒子砲による攻撃でハイヴを殲滅するのよ」

 ムアコック・レヒテ?それらのことは門外漢の自分たちにはわからないが「レーザー兵器を無力化」「荷電粒子砲による攻撃」という部分はしっかりと理解した。そんな夢のようなことが本当にできるのだろうか。
「まあ、そんな欲張りな要求仕様だったから、こんなデカブツになっちゃった上、結局完成せず87年にお蔵入り……理由は―――ってまあ、こんなことはどうでもいいわ。ま、そのあと紆余曲折があってあたしたちがオルタネイティヴ計画で、モスボール処置されていたこの機体を接収して、完成させたってわけ」

 スクリーンに映っていた機体が消えた。
「もちろんまだ実戦テストなんてやったことはないわ。でもね、この機体が本当に要求通りの働きをしてくれたら本当に人類反撃の切り札となることは間違いないわ」
 だけど、と夕呼は口にした。
「この兵器の本来の目的は、対BETA情報収集にあるの。防御力はともかく、攻撃力はおまけ。ラザフォード場にしたっていつまでも光線級の攻撃を防げるわけじゃないわ……そこであなたたちにお鉢が回ってくるってわけ。A-01の作戦目的はこの機体の護衛。凄乃皇を安全かつ迅速にハイヴに送り届けることを任務とするわ」

 あのデカブツを光線級から守るとなればかなりのハードな任務になりそうだ。だが、副司令がやれと言った限り、自分達は黙ってその任務を遂行するのみだ。
「近々、この機体のテストを兼ねた大規模作戦が展開されるわ」
「「「「「!」」」」」
「あんた達はそれまでにシミュレーターでみっちり特訓しときなさい」

 その言葉を最後に、続きを白銀が受け継いだ。
「それと同時にA-01部隊の各自新規ポジション発表をする」
「「「「「!」」」」」
 新任を加えての新たなシャッフル。それぞれの長所を最大限生かせるように、チームバランスをしっかりとるように、ここしばらくの演習結果を踏まえての最終決定だ。

「まずA小隊からヴァルキリー1伊隅大尉、右翼後衛迎撃」
 まあ、これは当然だ。A-01部隊の隊長は彼女なのだから、隊長のポジションであるそこにつくのは明らかである。そしてA小隊に配置されるものは伊隅大尉の指示下で部隊右翼中後衛のポジションとなる。
「ヴァルキリー10榊千鶴少尉、強襲掃討。ヴァルキリー11鎧衣美琴少尉、制圧支援。ヴァルキリー12珠瀬壬姫少尉、砲撃支援」
 残りのメンバーは207小隊から選出されていた。最前衛を少し後ろから冷静に見る榊、視野広く部隊全体をカバーする鎧衣、最後衛から部隊を狙撃で守る珠瀬という組み合わせだ。

「次にB小隊。ヴァルキリー2速瀬中尉、突撃前衛長」
 突撃前衛長。それはこと戦闘だけにおいては部隊内最強の証。そこに速瀬がつくことは納得だ。B小隊に配置されるものは速瀬中尉の指揮下で部隊最前衛でのポジションとなる。BETAを蹴散らして突破口を開く役割なので、必然的に突破力の高い者が選出される。
「ヴァルキリー13御剣少尉、突撃前衛。ヴァルキリー14彩峰少尉、突撃前衛」
 この二人は訓練時代から高い近接戦闘能力を発揮しており、戦術機においてもそれを遺憾なく発揮していた。新任だが、この配置は納得のいくものだった。だが、これではB小隊がたったの3人。1トップ、2トップのどちらで考えても突破力が少々低い。かと思ったら白銀が最後にもう一人の名を告げた。
「―――ヴァルキリー5涼宮少尉、突撃前衛」

「……え?」
 名を呼ばれた本人は呆けた声を上げた。
「『え?』じゃない、お前だ涼宮。ちなみにエレメントは速瀬中尉となっている」
「え……えええええええええええ!?わ、私が突撃前衛!?しかも速瀬中尉のエレメントって!」
「何よ、茜?私じゃ不満だっての?」
「そんな滅相もありませんよ!」
 ブンブン首を振る茜に武は笑いかけながら言った。

「ここ最近のお前の動きを見て速瀬中尉達と決めた結果だ。部隊での先鋒、お前に任せた」
「そゆこと。茜、あたしの背中あんたに任せたからね」
「は、はい!」
 念願の突撃前衛。しかも憧れの速瀬とのエレメントということで、茜は舞い上がっていた。しかし、武の判断は間違っていない。ここ最近の彼女の動きは昔あったある種の危うさというものがなくなっており、無茶な機動などなくなっていた。自分だけ背伸びをせずに実力に合った動きで仲間を信頼し任務をこなす彼女ならば突撃前衛を任せられると判断したのだ。

「それじゃ、次にC小隊。ヴァルキリー3宗像中尉、左翼迎撃後衛」
 部隊NO3。彼女の指揮するC小隊は部隊左翼中後衛のポジションとなる。
「ヴァルキリー4風間少尉、制圧支援。ヴァルキリー6柏木少尉、砲撃支援。ヴァルキリー9麻倉少尉、強襲掃討」
 実戦経験も豊富な風間、状況判断において即座の取捨選択を可能とする柏木、思い切りの良さと機動力の高さで麻倉。

「そして、D小隊。ヴァルキリー0神宮司大尉。ヴァルキリー7築地少尉。ヴァルキリー8高原少尉」
D小隊。最近A-01に作られた新たな部隊だ。配置は部隊前衛よりの中央。この隊は戦況に応じて各隊のカバーに入る役割となる。装備は作戦内容によっても変えるが、基本は応用力の高い強襲前衛となる。最初は各三隊に一人ずつ振り分けられるが、まりもの指示によりその配置は刻一刻と変わっていく。富士教導隊出身であるまりもの戦術眼に依る部隊である。また、まりもには、部隊全体を伊隅と違った視点でみるという別の役割もある。影の隊長、そのようなものだ。

「ヴァルキリーマム、涼宮中尉、CP……以上。これは現時点での最適のポジションだから、しばらく変更はない」
 これでA-01部隊全員の配置が判明した。全員女性。まさに戦乙女隊(ヴァルキリーズ)だ。
「じゃあ、この後、シミュレーターによる初の凄乃皇を加えての実習とする。最初から厳しい条件でいくので覚悟しておくように」
 最後に白銀がそうしめくくることで、お開きとなった。



「……でっかぁ!」
 速瀬はシミュレータ機の中で網膜に映る凄乃皇弐型の実寸大を見て、改めてその大きさに驚いた。今速瀬の不知火と凄乃皇の間は20mほど。それでも全貌を見ることはできなかった。
「これを光線級から守るって……そりゃハードだわ」
 任務の困難さを再認識する。

「鑑~もうすこしスリムにならないわけ~」
『そんなこと私に言われても……ってなんかそれじゃ私のほうが太ってるみたいじゃないですか!?』
「はい、通信良好~」
『~~~っ!』
 鑑とのスキンシップもほどほどに、指示を待つ。

『ひとつ言っておくけど、荷電粒子砲のほうはデータ不足でシミュレーターで再現することはできないわ。だから今の凄乃皇はまさにただの的。そこんとこ気をつけてね』
『はっ!』
『それでは演習を始めます』

 遙の声で、網膜に映る風景はところどころ岩が点在する平野部に変わる。それと同時、さっきまで隣に映っていた凄乃皇が消えた。
今回のシミュレーターでは40分後にこの場にやってくる凄乃皇のために、脅威となる光線級、重光線級を可能な限り減らし、40km先のハイヴ入口まで凄乃皇を誘導することになる。

しかし、本当にあの凄乃皇を鑑が動かせるのだろうか。いつものあの少女を知っているとどうも不安になって仕方がなかった。



 夜。武は自室に戻って特に何をするわけでなくボーっとしていた。アーリャはODLの浄化処理だし、純夏も同じだ。そしてその二人に霞もついていってしまった。珍しく一人で時をすごす。
 とりあえず、今日の訓練を思い出した。純夏の操縦技術にはみな驚いたようで、初めて直援機を率いたとは思えない動きで、戦場を駆けていた。ここ数日の武との訓練で、しっかりと凄乃皇の機動特性はつかんでいるし、A-01のデータを使ってのシミュレートも何度も行っている。今日の訓練は結果的にはハイヴ入口にたどり着けなかったのだが、まあ初日にしてはよくやったという評価をあげてもいい。
「だけど……まだ足りないな」
 
あのままでは実戦では必ず死者が出る。今の武、目標のためなら自らの手を汚すことも厭わない武が人一人の死で立ち止まるようなことはない。戦場である以上、死者がでるのは必ずだ。戦場にでるものがだれ一人死ぬことなく、終われるなんて甘い考えをもっているわけではない。だが、今回はそれすらも極力無くしたい。だれにも言わない、武が心に秘めたその想い。
「……強くなってくれ」

 口からでたそのつぶやき。そのとき部屋のどこからか何かの電子音が鳴り響いた。
「……これは」
 すぐに体を起こし、ベッド横に置いてあったそれを持ち上げた。そこにあったのは画面付きの通信機。現在これに連絡してくる人物は一人しかいない。
 少し操作するとすぐに映像が映った。

『?……これは、どこをどう押せば……ここでしょうか?』
 そこには眉根にしわ寄せ、通信機と格闘する悠陽の姿が映っていた。その様子がおかしかったので今しばらく何も言わずに放っておく。だが、悠陽はすぐに武に気づいた。
『え?……し、白銀!?』
「こんばんは、殿下」

 もうバレたかと内心少し残念だったが、ここはひとまず夜の挨拶。そんな武の第一言に悠陽はアタフタ慌て、
『し、白銀、あの今回のはですね……この通信機がちゃんとつながるかどうかを試したかっただけで―――』
「……」
『特に、用事……は……あの、その……』
「……」
『あとでまた連絡をします!』

 そう言って画面は再び真っ暗に、だがその中央には、
『Sound Only』
の文字が浮かびあがっていた。

『か、鏡!櫛(くし)!そ、それよりも……真耶さん、真耶さん!』
『……悠陽様、なんでしょうか?』
『この前買ってきてもらったあの服はどこでしょうか!?』
『は?……あのようなものをなぜ今?』
『よ、よいから、早くしてください!』
『はっ、承知しました!』

 そして30分後。映像が復活した。
『……そなた、ずっと通信機の前にいたのですか?』
 コールしてすぐに出たことが驚いたのだろう。そう問いかける悠陽はいつもの和服姿ではなく、その姿はカジュアルな服装。白のワンピースの上に焦げ茶色の透かし編みセーター。こういってはなんだが、普通の女の子のようだった。

「似合ってますよ、殿下」
『そ、そうでしょうか?このような服はなにぶん初めてで……帝都の者の間で流行っているとは聞いてはいたのですが……』
 ほんのり頬染め、自分の姿を見下ろす悠陽。服を着替えた理由はよくわからないが、もしかすると煌武院ではなく悠陽としてここにいるという意思の表れなのかもしれない。それならばそれでよかった。今この時ぐらいは政威大将軍の枷を解かれてもいいだろう。

「今日は何の用でしょうか?」
『えっと……ただ顔を見たくなっただけというのは(ボソッ)』
「え?」
『いえ!あの、この前の礼を改めて伝えたいと思ったのです』
 それは帝都にいたときに、たくさんもらったので、もう十分だとおもうのだが。

『先日、私が帝都の演習場に視察に行ったときです。衛士や整備兵たちの輝く顔を見ているうちに、そなたが帝国にもたらしてくれた新OSというのは、本当にすばらしいものだったのだと再認識したのです』
 ふむ、一応軍部最高責任者。視察などもするだろう。帝国軍のみんなは新OSという新しいおもちゃを気にいってくれたようだ。
『紅蓮も自らが戦術機に乗り、若い者たちの指導に当たっていました。「若いものにはまだ、負けてられん」だそうですよ』

 その時のことを思い出したのか、口に上品に手をあて、含み笑い。たぶんあの紅蓮ならあと20年ぐらいは現役で居続けるのではないだろうか。
『そなたに負けたことを指摘すると「あいつは化けものだ」だそうですよ』
 化けものって褒め言葉に使っていいものだろうか。それともただ単に嫌味なのだろうか。武は本気で考えた。

 その後も悠陽の近況、こちらの近況などを笑い話も入れながら、にこやかに話していると、武の部屋のドアがノックされた。ちょっとまってくださいと悠陽に断りを入れて、通信機を入口からは見えない位置へ。
「はーい、誰だー?」
 そして来訪者を迎えた。

「タケル、私だ」
 ドアの外にいたのは、冥夜だった。
『っ!』
 武の耳にだけ、悠陽が息をのむ声が聞こえた。
「一体何のようだ?」

「ああ、今日これから外に走りに行こうと思ってな。タケルもどうかと思ったのだ。以前はよく付き合ってくれたが、最近は私も忙しいので音沙汰なしだったからな」
「あー折角の誘いだが、ごめん。今日はちょっと用事があって」
「……そうか。わかった。無理をいってすまなかったな」
 断った時冥夜はこころなしか残念そうだった。

「お待たせしました。殿下」
 冥夜もいなくなり、武は脇に寄せていた通信機を引っ張ってきた。待たせたと言ってもほんの1分ほどなのだが、そこには不機嫌顔の悠陽がいた。
『白銀は……冥夜とずいぶん仲が良いようですね。お互い名前で呼び合い、夜二人きりになるためわざわざ誘いにくるとは……』
 二人きりて……いや訓練なのですから変なことはまったくないですよ?

『……さっきのは、私と冥夜とで……その、私を優先してくれたということでしょうか?』
 上目使いに尋ねる悠陽。いつもこの基地で会える冥夜とたまにしか連絡をとれない悠陽にしたら、今選ぶとしたら悠陽だろう。その旨を伝えると、
『そうですか』
 柔らかな笑みを携え、満足そうに言った。コロコロと変わる表情。幾度のループでも自分と違う女性と言う生物は未だ理解しがたいものだった。
 そのとき、武は冥夜が来たことである要件を思い出した。こればっかりは国連所属である自分が勝手に行うことはできず、政威大将軍の悠陽に許可を求めないといけないこと。武はその要件を悠陽に伝えた。
「―――というわけなんです」
『まあ、あの武御雷を?』
 はい、と武は頷いた。

『確かにあれは私の専用機……しかしことがそれだけ大きくなると私の一存で将軍機を好き勝手にしていいものではありません』
 やはりそうか。予見していたものの武はその答えに沈んだ。
『―――それ故、白銀……』
 だが、まだ悠陽の言葉は続いていた。

『次回の佐渡島の戦いで確固たる戦果をあげなさい。それさえできれば、それを盾に私がなんとしてもその要件を城内省に納得させましょう』
 確固たる戦果。それはもちろんハイヴを落とし、BETAをこの日本から追い出すということ。武はそれにしっかりと答えた。
「はっ、了解しました!」

◇ ◇ ◇

『―――白銀少佐に感謝しなさい、真那』
 横浜基地から帝都への定時連絡。真那に向けられた真耶の一言目がそれだった。
「い、いきなり何を……」
 さすがに面食らう。挨拶やなによりも先にこの言葉である。

『ついに冥夜様が任官なさったでしょう?』
 そうだ。帝国に紛れ込んでいた米国の手先の者。ほとんどは横浜基地が提供してくれた情報で捕縛することができたが、二名を取り逃がしてしまったらしい。しかも、冥夜様という情報を国に持ち帰って……。その影響で、冥夜様の政治的利用価値は喪失。それにより冥夜様は任官することとなった。そこに城内省上層部のあわよくば戦場で冥夜様が戦死……という思惑があるのは甚だ遺憾ではある。

「しかし、それがどうしたというの?」
『考えてもみなさい。冥夜様の政治的価値が喪失したということは今までのように警護をつけておく理由は一切ないわ』
 そういえばそうだ。自分達は今まで冥夜様の警護役ということで例外的にこの基地に駐留することができていたのだ。
『あなたも冥夜様に対する警護の任を解かれている。本来なら、すでに九州か北海道の戦線に回されていたとしても不思議はないわ』

 だんだんと真耶の言いたいことが分かってくる。
『それなのになぜ、あなたが横浜基地に……冥夜様の御側に居られ続けるのか。それは白銀少佐のおかげにほかならないわ』
 白銀が自分たち斯衛を必要としてくれなかったら、確かに私は日本のどこかの戦線に送られ、日々冥夜様の身を案じる日を過ごしたことだろう。しかも冥夜様が所属した部隊はオルタネイティヴ計画直属の特別部隊。外部に情報が流れることは滅多にない。

『さすがに門外漢である斯衛が作戦に随伴することはできないけど、それだけでもあなたには十分、白銀少佐に感謝する理由はあるでしょう?』
 確かに……そうだ。ここにきて初めてその事実に気づく。だが、口では伝えない。彼に感謝の意を表すためにも自分に課せられた任務、仮想敵(アグレッサー)としての役割をしっかりとこなすのだ。
 その次の日から、真那の訓練に対する意気込みは神代たちが驚くほどすごいものになっていた。

◇ ◇ ◇

 そして一週間。A-01部隊は訓練に明け暮れた。凄乃皇の護衛任務、斯衛軍とのダクト、ハイヴ内突入。
そして、今、彼女たちは全員ブリーフィングルームへと集められている。
 彼女たちの前にいるのは、ラダビノッド司令、香月副司令、白銀少佐の三人。ピリピリとした空気の中、ラダビノッド司令が口を開いた。

「―――本日未明、国連軍第11軍司令部及び、帝国軍参謀本部より、『甲21号作戦』が発令された」
                                 つづく

※ついに次回から佐渡島の戦いへ。次回は同時2話うp予定。(あくまで予定)

ちょっと紹介。
ttp://www.nicovideo.jp/watch/sm5155606
最近メッセでお知り合いになった和さんという方がすばらしいものを作ってくれました。試作版を見せられた時から「すげええええ」の一言でしたが、そのあと、自分が少し改良してもらったものです。MADとしてもすばらしい出来なので是非見てみてください。また、和さん制作の他のマブラヴMADも大変すばらしい出来です。2作目の「たった一つの想い」は自分がリクエストして作ってもらいました。あの曲の歌詞は非常にマブラヴの世界(特に武)に合ってると思いますよ、ホント。そんなすばらしいものを作ってくれた和さんに感謝!


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