白銀武専用機『伊邪那岐』 正式名称:第六世代相当戦略級戦域制圧可変型戦術機『VFG-TYPE12 伊邪那岐-参型』 造られた当時の夕呼をして「XG-70dに並ぶ兵器」と言わせた決戦兵器である。門級の生体組織を利用することにより可能となったBETA支配地域での短時間航空飛行。この世界においては唯一の対BETA航空戦力である。しかし、そんなものも「伊邪那岐」にとってはおまけに過ぎない。その真価はそのメインコンピューター部分に納められているのだから……。 『00Unit:Second』‘アーリャ’ 2011年に誕生した『00Unit:First』‘鑑純夏’に次ぐ、第二の00Unitである。「伊邪那岐」のメインコンピューターであり、「伊邪那岐」を未来の世界において最強たらしめたその最大要因。00Unit+ムアコック・レヒテ型抗重力機関搭載型戦術機。これこそ「伊邪那岐」の正体である。 そのアーリャは今、ODL浄化施設において緊急の浄化処理を受けている。この世界に来て20日以上、奇跡的にもアーリャは稼動状態―――武はこの言い方が嫌いなので「生きていた」という言葉を使う―――であった。しかし相当危険な状態であったらしく、しばらくは浄化処理が必要らしい。 だがこれで、「伊邪那岐」は真の意味で最強の称号を取り戻すことになる。「しっかし、まあ……ホント化け物よね」 この機体について一体何度呆れたかわからない。夕呼は再び呆れた声で武に言ってきた。「あんた‘ら’だけで、ハイヴ……攻略できんじゃないの?」 その問いかけにはっきりと「できない」と答えられぬことをどうしたものか。「さ、さすがにフェイズ3以上は……」「フェイズ2以下ならどうだっていうのよ……?」「……」 ここで下手に答えようものなら本当に一人でハイヴに特攻させられそうだ。そもそもこれは生存を考えない場合であり、しかも成功率100%ではない。「……冗談よ。あたしのもつ最高戦力をそんな使い方して失くしたくないわ」 その言葉で安堵の息をつき、胸をなでおろす武。 しかし、よかった。これによって「伊邪那岐」は本当の強さを取り戻したし、00Unitも手に入った。純夏の00Unitとしての誕生も時間の問題だ。「アンタから提出されたあの娘に関する書類……」 夕呼が手元の書類をノックするように叩く。この書類は数日前にまとめて提出してあるので、これが読むのが初めてではないだろうが、それだけ興味深いということか。そこにはまとめると以下のことが書かれている。 『00Unit:Second』’アーリャ’ 2010年の日本帝国軍戦略呼称甲23号目標オリョクミンスクハイヴ制圧作戦時に発見された史上二人目のハイヴ内生存者。第一発見者は同作戦に参加していた白銀武中佐。生存者といっても発見時はやはり例の姿であった。それをオルタネイティヴ4で確かな実績を上げた香月夕呼が接収。翌年2011年、『00Unit:Second』として誕生することとなる。完成当時はやはり錯乱状態。純夏の場合は武の存在があったが、アーリャは正真正銘天涯孤独だった。親兄弟は全員死亡。友人関係なども不明。そのため調律にはかなりの時間がかかった。 調律に当たったのは武だ。理由はいくつかあったが、一番は本人の希望だった。それから武とアーリャの親子のような兄妹のような不思議な関係が始まった。寝食をともにすることからはじまり、勉強、遊び、さまざまなことをアーリャに経験させた。そして一年近い共同生活と霞の協力もあり、なんとかアーリャは年相応の人間らしさを取り戻したのだった。「‘アーリャ’ね……それにしてもいい名前じゃない」「え?」 まさか目の前のこの夕呼が人の名前をほめるなんて思いもしなかった。「‘人民の守護者’なんて00Unitにはおあつらえ向きじゃない」 ああ、なるほど。彼女が言っているのは語源のことだ。ソ連で愛称がアーリャということは、本名はアレクサンドル―――起源はギリシャ語で‘人民の守護者’という意味だ。確かに人類最高兵器である「伊邪那岐」のメインコンピューターである00Unitにはうってつけの名前かもしれない。「『伊邪那岐』にML機関が搭載されているとわかったことで、今まで用途不明だった機能のいくつかにも納得がいくわ」 ほかに「伊邪那岐」について忘れていることはない……と思いたい。まあ、忘れている時点でわからないのであれこれ悩んでも仕方がない。 ふと、時計を見るともうすぐみんなが朝食を食べ始める時間。今日も武は207分隊のみんなに戦術機教習を行わないといけないので、いつまでもここにいるわけにはいかない。アーリャのことも心配だが、浄化処理が終わらない限り会うことは出来ない。武は夕呼の部屋を後にすることにした。「よ~し、今日はこのぐらいにしとこうか」 武の一言で、5基のシミュレーターは停止。中から強化装備に身を包んだ207分隊の面々が出てきた。長時間のシミュレーターで疲れているかと思いきや、みんな始めて自分の手で戦術機を動かした感動のほうが大きいようだ。だれもが嬉々とした表情を浮かべていた。「どうだった?初めて戦術機を動かした感想は?」 そんな彼女たちに武は尋ねる。「どうって……想像していたよりずっと難しかったわ」 先頭にいた榊が答えた。「まあ、いきなり動かしたのが新OS搭載型の吹雪だからな」 これが旧OS搭載の撃震ならもっと操縦系に遊びがあって、ある意味大雑把で気が楽なのだが、吹雪などではより精密な操縦が要求される。 だがさすがは優秀な207分隊の面々というべきか。武の要所要所のアドバイスもあって今日一日だけでそこそこ動かせるようにはなった。やはり才能があるのだろう。「初日でアレだけ動かせれば、たいしたもんだ」 その言葉で照れたような表情を浮かべる面々。むっ、調子にならないように釘を刺しておくべきか……と考え、やめた。彼女たちがこれくらいで天狗になるなんてことはありえない。「そういえば武……その新OSとは?」 いち早く真面目な顔に戻ったのは冥夜だった。「ああ、先日開発さればばかりの新型でな。国連軍でもこの横浜基地の一部隊のみにしか配備されてないものだ」「「「「「!」」」」」「おっと心配するな。新型と言っても、先日その部隊が実践でしっかり有用性を確かめてきたんだからな」 みんなの驚きを、新型ということでその安全性に身構えたのだろうと推測した武はその心配を取り除いてやることにした。だが、「そ、そんなこと心配してないよー」「なんで一介の訓練部隊であるボク達にそんなOSが与えられるの!?」「不可思議……」 あー、そっちの驚きだったのか。さて、なんと説明したものか。「オレが教官だから?」「いくら武が少佐であってもそのようなOSを自由にする権利は与えられていないであろう!?」「ああ、心配すんな。そのOSの基礎概念を考えたのはオレだ」「「「「「!?」」」」」 新型OSといってもまだまだデータが足りず、未完成。しかし、これが全軍に配備されれば確実に戦術機の性能は飛躍的に上がり、戦いで死んでいく将兵の数も激減する。実戦証明主義の連中を納得させるためにも早期に完成させたい。今はすこしでもデータがほしい。この207分隊は(武の独断で)概念実証機のテストパイロットに選ばれた、と説明した。「まさか、武の才能は技術方面にまで手を伸ばしているとは……」「ホント、その年齢で少佐っていうのもなんだか納得できてきたわ」 二人がいい加減驚くのも疲れたという顔をしていた。「オレのことはいいんだよ。このOSが全軍に配備されるのが早まるか遅くなるかはお前ら次第なんだからな」 その言葉でようやく事の重大さを理解したのか、顔を引き締めるみんな。その顔に満足する武。「明日にはお前たち専用の吹雪が搬入されるからな」「「「「「!?」」」」」 顔を引き締めた瞬間、その知らせにより再び驚愕の表情をつくる面々。 驚きすぎだ、と苦笑する武だった。『白銀少佐、今日はご機嫌ですね』「え?」 夜。A-01部隊の演習のときに、風間少尉がそんなことを言ってきた。『そうなのよねー。なんかもう戦術機がスキップしてるみたいに幸せオーラが出てるって言うか』 なんか気持ち悪いぞ、それ。腰に手を当て、スキップする戦術機を想像してげんなりした。「そ、そんなに態度にでてますかね、オレ?」『ええ、ハッキリと』 ニッコリと笑って言う風間。武にとってアーリャとの再会は、知らず態度に出るほど嬉しいことだったらしい。『一体どうしたんだ、白銀?』 まりもも不思議に思っているらしい。別に再会できたこと自体は隠すことではないので、正直に言うことにした。「実は少し前に離れ離れになった人と再会できましてね」『なに?それって白銀の彼女?』『『えっ!?』』 速瀬の言葉に異様に反応する二人がいた。新任の高原と麻倉だ。『な、なにあんたら?どうしたの?』『い、いえ、なんでもないです』『……はい』 慌てて答える二人。『フフフ』 それに宗像だけが笑っていた。「恋人じゃないですよ。今のオレにそんな存在はいませんしね」『え?白銀ってフリーなの!?』 それに驚きの声を上げる茜。なんだ?オレがフリーだとそんなにおかしいのか?『白銀って顔もいいし、頭もいいみたいだし、その年であれだけの技術をもってるから人気あると思ったんだけどなー』 な、なんか褒めちぎってないか、柏木。『女性と付き合っていたことはないのか?』 伊隅のそんな問いかけ。しかしその問いはA-01全員が気になっているようだった。「昔はいたんですけどね……」『お、その言い方なら別れたのね。どっちが悪かったの!?いやこういうときは男が悪いに決まってる!』 そんな風にはやし立てる速瀬に、寂しげな微笑を浮かべ、「みんな……死んじゃいました」『『『『『……え?』』』』』 その一言で沈黙するA-01部隊。中でも深刻な顔をしているのが速瀬と涼宮の二人だ。愛するものの死。それはこの二人にとって、とても根深いものだった。「あーやめやめ!この話題やめにしましょう!」 そして、この暗い雰囲気を変えようとした武だったが、誰一人のってこようとしない。『白銀……アンタ――』 何かを言おうとした速瀬。その速瀬の乗った戦術機が武の吹雪のペイント弾によってまだら模様にコーティングされた。『……』「ほら、ボーっとしてるからそんな弾くらうんですよ。どうします?このまま国連軍カラーを全部ペイント弾でなくしてあげましょうか?」 その挑発で、『~~~~っ!やれるもんならやってみなさいよ!』「ははは、一人でいいんですか?どうせなら全員相手してもいいんですよ?」 吹雪を高く噴射跳躍させる。『宗像―!アンタはそっちから回り込みなさい!』『はいはい、了解しましたっと』 そうしていつのまにか元の空気に戻っていた。それに安心した武だったが、A-01部隊全員の心の中には、先ほどの影を落とした武の姿がしっかりと刻まれたのだった。 次の日。「――ケル!ねえ起きて、タケル!」「んあ?」その日、武はそんな言葉で意識が覚醒した。いつもの霞の声ではない。もっと幼い声だった。しかし、この声どこかで……。「……………………………アーリャか!」 慌てて体を起こし、目を開けようとすると、 ――フニッ。 何かやわらかいもので目をふさがれてしまった。「目……開けちゃ、ダメ……!」「……なんで?」「ダ、ダメったら……ダメなの!」 どうやらこれはアーリャの手のようだ。それをつかって武の両目をふさいでいるようだ。まぶた越しに小さな手の感触が感じられた。 なぜそんなことをしているのかはわからないが、「……アーリャ、だよな?」 コクンと頭を下げる気配が感じられた。 それによって武の中にじわじわと喜びが生まれてくる。声のしていた方向へゆっくりと手を伸ばす。サラサラした何かに触れた。髪だ。それをたどって頭に手をつけた。そしてゆっくりと頭を撫でる。「……んっ……」 アーリャの体から力が抜けていくのが分かる。 武にとっては娘や妹のような存在。ループした今ではずいぶんと年齢差が縮まったが、その認識は変わらない。2011年以降ではもっとも多く同じ時をすごした者でもある。その彼女にこうしてループした世界でも会うことが出来た。それがただうれしかった。「また、会えて……よかった」 武の目から流れた一筋の涙がアーリャの手を濡らすのだった。「タケル……ここ、どこなの?」 しばらくしてアーリャがそんなことをたずねてきた。そうだった。彼女は「伊邪那岐」の内部にいる間、ほぼ自我は活動停止状態だったのだ。自分が過去にもどったなどとわかるはずがない。「ユウコはいた……でも、ユウコじゃなかった」 アーリャからすれば10歳以上も若い夕呼なのだ。戸惑うのも無理はない。しかし、その割には武には最初から普通に接してきたのが不思議に思う。「伊邪那岐」と繋がっていたとき、強化装備のデータが流れてきたりしたのだろうか。「アーリャ……落ち着いて聞いてくれ」 アーリャには武に対してリーディングが不可能な処理を施してある。口頭で説明するしかない。 武は今現在の状況を話し始めた。 しばらくしてすべてを説明し終えた。「―――じゃあ、ここは昔なの?」「まあ、昔かな」 すべてを説明する間、アーリャはただじっと聞いていた。以前目はふさがれたままだったが……。「じゃ、じゃあ……」「ん?」「ここにはタケルの言ってた‘メイヤ’とか……‘イインチョウ’がいるの……?」「あ、ああ」 珍しく興奮状態のアーリャに驚く武。「‘タマ’も‘アヤミネ’も‘ミコト’も‘ヴァルキリーズ’も!?」「みんな生きてるよ」「……‘スミカ’も?」「……あいつだけは、もう少しだけ待ってくれ」 そうだ、もう少し、あと少しなんだ。アーリャが来たことで彼女の00Unitとしての完成も目前だ。 それを聞いたアーリャは、「―――会ってみたいな」 このときのアーリャはさぞかし恍惚とした表情を浮かべていたことだろう。長い武との暮らしの中でアーリャは耳にタコができるぐらい彼女たちの話を聞かされていた。そして、その話を聞いていくうちにこの幼い少女のなかで彼女たちの存在が理想の女性像と化していたらしい。(ちょ、ちょっと誇張した表現もあったかもな~) と自分の発言を省みる武だった。「あ、でも……」 どうしたというのか。いきなりアーリャの声が沈んでしまった。さっきまでの勢いはどこへ言ったやら。「タケルはここでもいっぱい戦うんだよね……」「……ああ、そうなるな」 でも、と泣きそうな声を出す「タケルはいっぱい苦しんで、悲しい思いして……!」 まだアーリャに武に対する抗リーディング処理がされていないとき、アーリャは幾度となく武の内面を見ていた。そこにあったのは深い悲しみと後悔。何人もリーディングしてきたアーリャだがそのような暗いものを抱え、背負った人物は武しかいなかった。それは武がループしておきながら、たくさんの人を死なせてしまったことに原因があるのだが、アーリャはそれを知る由がない。「ユウヤもミリアもトウドウもステラもみんな、死んで……!」 それは未来の世界戦友と呼ぶべき人物たちだった。いくらXM3で死者の数が激減してもBETA戦において死者が0なんてことは有り得ない。BETAと戦えばかなりの数の死者がでる。その中には当然、武の親しかった人物も多くいた。 アーリャがついに泣き出してしまった。 アーリャの頭においた手を移動させ、両手をアーリャの背中に回す。そしてそんなアーリャを抱き寄せた。武の胸にすっぽりと収まるアーリャ。「……オレはな、アーリャ。今度こそみんなを護るために戦えることが嬉しいんだ」 ぎゅっと抱き寄せる。「今度こそみんなで笑えるハッピーエンドを目指してやる……!」「……どうしても?」「ああ」「目……閉じててよ」 アーリャも武の背中に手を回してきた。小さな手が武の服をぎゅっとつかむ。「……」「そのためにも……お前の力を借りたい……大丈夫。お前のことはオレが絶対護ってみせる」 胸の辺りでフルフルと首を振るアーリャ。「……タケルは、私が護る」 ありがとう、といっそう強くアーリャを抱きしめる武だった。 そこで気づいた。アーリャの背中に回した手が感じる感触が変なことに……。「ひゃっ!?」 これは布地ではない。もっと暖かくやわらかいそうまるで人肌のような――。 そういえば、どうしてアーリャは武の目をふさいだりした?それは自分が今見られたくない状況であるから。それはなぜ?確か、アーリャはODL浄化処理中ではなかったか。ODL浄化処理中は00Unitは裸に……。―――ウィーン………………………ウィーン。 だ、誰かがこの部屋に入ってきて何もせずにそのまま出て行った!?ま、まずい!武の頭が今の状況をかなり悪い状態だと認識し始めたとき。そのとき、廊下のほうでドタドタという音が聞こえてきた。そしてそれはだんだんとこの部屋へと近づいてくると―――「白銀!あのアーリャって娘ここに来なかっ……た?」 目を閉じていても声で分かる。これは夕呼だ。しかし、今の状況かなりマズイので……は。「……これはまた失礼しました」 ――ウィーン(おそらくスライドドアが閉じた)。「……」「……」「ちょっと待った夕呼先生!!!」 我先に事態が最悪の状況へ動いていることを理解した武は慌てて夕呼を呼び止めるために立ち上がろうとしたら、「目開けちゃダメ!」「うおっ、すまん!」 それをアーリャに止められる。「……もう少し静かにしないとみんなにばれちゃうわよ?」 また夕呼の声が聞こえてきた。「そう思うんならどうにかしてくださいよ!」 早朝の横浜基地に武の悲鳴があがるのだった。「ゆ、夕呼先生でよかった~」 武は夕呼の部屋で心底深い安堵の息をついた。その姿は今の武より20年は老けて見えるような姿であった。あのときのアーリャはやはり裸であったらしい。それに適当な布を巻きつけただけの非常な危険な状態。もし夕呼以外に見られていたと思うと……。「アンタが○○○○だったとは……」「だ~か~ら~」「冗談よ、冗談」 迫る武にあっけなくからかうことをやめる夕呼だった。ちなみに夕呼の前にやってきていたのは、武を起こしにきた霞であった。あの後なんとか誤解を解くことに成功する。……成功したよな?「それにしてもこっちは本当にびっくりしたのよ?ODL浄化処理中のあの娘が今朝になっていきなり姿を消してるんだから」 どうやらアーリャは目が覚めた瞬間、00Unit持ち前のハッカー技術でヒョイヒョイと最高セキュリティーの数々を突破して武の部屋までやってきたらしい。まあ、目が覚めた瞬間自分がわけのわからないところにいるのだから、一刻でも早く信頼できる者に会いたいのは無理もないだろう。 当のアーリャは現在、霞の服を借り、武の後ろに隠れている。「ま、目が覚めてくれたことは朗報よ。これでさっそくこちらの00Unitにも着手できるんだから」 そういって夕呼はにやりとした顔をアーリャに向ける。先生、その笑顔は子供相手には怖いと思いますよ。案の定、アーリャはより武の背中に身を隠してしまった。 それにむっとする夕呼。「白銀~何とか説得してくれない?」 仕方なくアーリャに向き合う武。そしてどうしても00Unitの設計データが必要なことを説明する。「な?お願いだから」 すると、アーリャが夕呼のパソコンに向けて手を伸ばした。「……送った」「え?」 その一言でパソコン画面を確認する夕呼。至極真面目な顔で画面に映されたものを眺めていた夕呼だったが、その顔が次第に笑顔に変わっていく。そして次の瞬間、「これよ!これなのよ、私が言いたかったのは!」 子供みたいにはしゃぎまわる夕呼。向こうのあたしサイコーとか、天才やっててよかったーとか言ってる。そして次第に武に近づいてくる夕呼。あ、やばい……このパターンは。「アンタも最高よ!白銀!」(キターーーーーーーーーーーーー!!!) グワーッという感じで迫ってくる夕呼。あの接吻地獄再びか!?と身構えた武だったが、その間に割り込む小さな影があった。アーリャだ。「……あら?」 それを見て動きを止める夕呼。「タケルに近づいちゃ……ダメ!」 そう言って小さな体で精一杯両手を広げるアーリャ。それを見て夕呼は、「ふ~ん……へぇ……」 そして白銀のほうを見て、「かわいいレディじゃないの」 それだけ言って自分の机へと戻っていった。接吻地獄がこなかったことで胸をなでおろす武。 アーリャは完全に夕呼が武から離れたことを確認して再び武の後ろへと隠れてしまった。「そういや先生、アーリャってこの基地じゃどういう扱いにするんです?」 アーリャもこれからはこの基地で暮らすことになるのだ。そうなれば、夕呼や武以外と会う機会もでてくる。そのときこの横浜基地にアーリャのような幼い少女がいることをどう説明したものか。「そりゃ00Unitって言うわけにはいかないでしょ。霞の例もあるんだし、アンタのほうで適当に理由付けしときなさい。あたしがそれに合わせてあげるから」「わかりました」 ならば夕呼先生の研究つながりでなにか特殊な才能がある少女としておくか。まあ、詳しく説明しなくても確かに霞の例もあるのだ。どうにかなるだろう。「ほら、私はこのデータを解析するんだから、アンタらは出て行きなさい」「出て行きなさいって……アーリャの浄化処理はどうなったんですか?」 それなら9割方終了しているわ、とパソコンに目を向けたまま答える夕呼。それなら安心か、と二人して夕呼の部屋を出るのだった。「――タケル……誰、その娘?」 PX。朝食をとっていた207分隊の面々は唖然とした顔で武にピッタリと寄り添う少女を見るのだった。 つづく