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No.34254の一覧
[0] MuvLuv Alternative Possibility (TE&Alt) オリ主[Haswell](2013/03/11 22:45)
[1] プロローグ[Haswell](2013/08/23 18:40)
[2] 横浜基地にて[Haswell](2013/08/23 18:41)
[3] 想い[Haswell](2013/08/23 18:46)
[4] MANEUVERS[Haswell](2013/08/23 18:51)
[6] War game[Haswell](2013/08/23 19:00)
[8] Alternative[Haswell](2013/08/25 16:33)
[9] 番外編 試製99式電磁投射砲[Haswell](2012/10/29 02:35)
[10] Day of Days[Haswell](2012/10/27 22:34)
[11] Project  Diver[Haswell](2012/11/06 23:11)
[12] Dog Fight[Haswell](2012/12/03 20:55)
[13] Active Control Technology[Haswell](2013/03/12 21:28)
[14] Tier1[Haswell](2013/06/13 16:56)
[15] FRONTIER WORKS[Haswell](2013/08/23 01:10)
[16] ATM[Haswell](2014/01/02 03:12)
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[34254] MANEUVERS
Name: Haswell◆3614bbac ID:7ca50f2d 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/08/23 18:51
戦術機戦は書くのが難しいですね。

名前と苗字の間に・を入れるべきではないかとのご指摘を頂きました。
確かにおっしゃる通りなのですが、和名でそれをやるとなんとなく違和感が感じられるの
で、名前と苗字の間に隙間を開けることで対応しました。 

説明回が終わりここからが本番です。




……えっ?










「日本製の戦術機を扱ったことはあるか。」
唐突に大佐はそういった。
「俺にはそんな経験ねえよ。」
私は即座に切り返したのを覚えている。俺にはそんな経験はないし、今後もそんな機会は
ない。それに第一興味がない。私がそう答えると大佐は私の事を殴った。
「馬鹿を言うんじゃない。戦術機ってのはな、お前やお前の仲間が衛士を止めるまで命を
預けることになる棺桶だ。戦術機に詳しくない衛士に衛士の資格はない。そのウイングマ
ークを今すぐ返してこい。この馬鹿たれ。」

「ちっ。痛ってーな。何すんだよ馬鹿。ヒッ 」
悪態をつく私に大佐はもう一度拳を振り上げる。大佐の一撃はとても重い。二発目を食ら
えば大の大人でもただでは済まないだろう。
「生意気な口をきくのは結構だが、俺の元にいる間にお前には戦術機オタクと呼ばれるく
らいには戦術機の知識と国別戦術機の操縦について学ばせてやる。ほら来い。」
大佐はそういうと私の軍服の襟首を掴んで引きずって行くのだった。







Part One
    MANEUVERS  

PM19:00  December21 1999
  横浜

香月 夕呼に割り当てられた研究室で博士と二人の衛士が対峙している。
男は国連軍C型軍装を着用し右胸には銀星章が光っている。
名を蘇芳 林太郎 という。
そしてその隣、金髪のショートカットに後頭部から一房の髪を伸ばした女。
名を エレン エイス という。
2人はついこの間まで国連宇宙総軍軌道降下兵団に所属していた。
2名は香月に敬礼をすると香月の正面に直立不動でたった
「まずは長旅ご苦労様。ここに呼ばれた理由について何か聞かされているかしら。」

「いえ。」
 蘇芳中尉が一歩前に出て質問に答える。

「そう。あなたたちをここに呼んだ理由を教えてあげる。 最も検討くらいついているで
しょうけれど。」
香月夕呼が二人を見る目は厳しい。 自分たちの体に穴が開くのではないかというくらい
の鋭い視線に二人は身じろぎをした。
「あなたたちをうちの部隊に引っ張ったの。最も本当に入隊できるかどうかはわからない
わ。」
「入隊するために自分たちは何をすればよろしいでしょうか。」

「練馬にある演習場で2人には演習をしてもらうわ。明朝1100時に迎えを寄越すわ。話は
以上よ。
エイス少尉は下がっていいわ。蘇芳、あんたは残りなさい。」

一瞬二人は目を合わせたが、どちらともなく頷くとエイス少尉は退出した。

「あんたをここに残した理由はわかる?」

「いえ、自分には皆目見当もつきません。」

「あんたの軍歴を詳しく調べたといったら?」

中尉は暫しの間逡巡を見せたが。首を横に振った。

「降下兵団は人員不足で大変だそうね。あなたのその胸に輝いてるの銀星章でしょう。つ
まりダイバーの間では英雄ってわけ。そんなあなたを一体どうして引き渡したのか気にな
るのは普通の事じゃないかしら。」

蘇芳は言おうか言うまいかどちらにするかを天平にかけているように見える。
香月という女は待つことがとても嫌いである。彼女の我慢の限界はあっさり切れた。

「いいから言いなさい!」

「はっ! いくつか思い当たる事柄はありますが、その最大の理由は自分が現在のハイヴ攻
略戦の戦術に常々疑問を持っていた為だと考えています。そしてそれについて上官に聞か
れてしまった事も無関係ではないと思っています。」

蘇芳の一言に香月は少々驚いた。何せ香月にとってもハイヴ攻略の話は他人事ではない。
旧来の戦術に変わる何かがあるとすれば気になるのが道理というものだろう。

「続けて頂戴。」

「現在のハイヴ攻略戦は1フロアを完全に制圧してから補給線を確保し次のフロアに向か
う。 ということを繰り返しています。ですがこれではいつまでたってもハイヴは攻略で
きません。ですからハイヴ内のBETA共の一切を無視して反応炉まで到達し反応炉を破壊
すればハイヴを攻略することが出来ます。」
BETAを無視する。その一言が放った衝撃は大きかった。普段は全く動じることのない香
月ですらペンを取り落してしまうくらいには。


「そんなことが可能なのかしら。私にはとてもそうは思えないわ。」

「機材さえ貸していただければすぐにでも証明して見せます。ですから…」

しかしたった其れだけでつられるほど香月も甘い人生を歩んではいない。

「勘違いしないでちょうだい。すこし驚いただけよ。戦術なんて所詮は小手先、その程度
じゃ人類は救えない。でも、そうね。あなたが明日の演習に勝ったら考えてあげなくもな
いわ。話は以上よ。行きなさい。」

蘇芳は言いたかった残りの言葉すべてを飲み込んで、部屋から立ち去った。



AM08:35 December22 1999 
   練馬駐屯地

「何処のどいつだか知らないけど、私たちの訓練を邪魔するなんていい度胸じゃないの。」

今日の彼女はすこぶる機嫌が悪かった。隊員が大幅に減少し隊としての機能を果たせなく
なってしまった今、自分にできる事―すなわちシミュレーターによる訓練をこなそうと思
っていたところに先の命令である。にじみ出る不機嫌さと殺意を隠そうともせず、廊下を
歩いている部下を見て伊隅みちるは少し呆れてしまった。

「速瀬。いつまでそうしているつもりだ。」

「だって大尉。訓練以上に大切な任務ってなんですか。大体何処の馬の骨ともわからない
奴をうちの部隊に…」
これ以上の不満を伊隅は言わせなかった。
「そこまでだ。少尉。現在A01は人員が不足している。来年に訓練校から上がってくる新
兵も2人のみだ。今は一人でも優秀な人間が欲しい。わかるな。」

「…はい。」

速瀬の焦りもわからなくはない。彼女は先の明星作戦で大切な人を亡くしている。
本人から直接聞いたわけではないが、私はその相手を知っている。私は部下の色恋の読み
を外したことは決してない。だがそれだけではなく、速瀬の事を彼から良く聞いていた。
なぜなら、彼もまたA01に所属していた私の部下だったからだ。
BETAへの憎しみが強烈な原動力となっている今の彼女にとって、訓練のお預けは受け入
れがたいものだろう。 だがそれとこれとは別だ。
それにおそらく相手は。

「速瀬。香月司令がそんな軟弱な奴をうちの部隊に引っ張り込むと思うか。」

ここは一つ相手を利用させてもらうことにしよう。

「え。」

困惑する速瀬少尉に爆弾を一つ。

「つまり、今までの訓練成果をここで見せるときだということだ。おそらくこの演習には
香月司令も同席なされる。香月司令にA01こそが世界で最も優秀な部隊であることを証明
するまたとない機会だ。気を引き締めろ。」

「はい。よーしやってやるんだから。」
速瀬は鼻息も荒く廊下を駆け出した。その背中を見て、自分で吹っかけておきながら相手
の衛士にご愁傷様と言わずにはいられなかった。


AM10:00 同日 横浜

あのあと私と少尉はとりあえず横浜基地で一晩を明かした。翌朝にPXで朝食をとり―合成
食にしては中々の味だった―ピアティフ中尉に香月博士の居場所を確認すると、彼女はも
う練馬のほうにいるという話だった。どうやら昨日のうちに横浜を出たらしい。私たちは
指定された時間に横浜基地の内部から出る。空は晴れていて雲一つない。時折頬を擽る風
は冷たく、今が12月であることを教えてくれる。
やがて香月博士の言葉通り横浜基地の入り口 現在建設中の警備兵詰所の横を73式小型ト
ラックがこちらに向かってやってくる。73式小型トラックなどと呼ばれているがその実
JEEPであるそれは私たちの手前で減速し、ちょうど目の前で止まった。ドアが開き中から
ブラウンの長い髪を波打たせた女性軍曹が降り立つ。一見厳しそうなまなざしの中にやさ
しさを垣間見ることが出来る。その雰囲気になんとなく昔を思い出してしまう。 かつて
の隊長であり、戦線をともに戦い抜いた戦友で、そして何よりも大切だった人。ある日置
手紙だけを残して忽然と姿をくらましてから随分な月日が経つのだった。
「中尉どうかなされましたか。」
軍曹は私が一切の動きを止めてしまったことを訝しんだのであろう。彼女の一言は色々な
思い出が蘇って懐かしいやら何やらで、いっぱいいっぱいの私を現実に引き戻した。
私と少尉は案内されるがままに後部座席に乗車した。
窓の外を柊町の街並みが流れていく。かつては100万人以上の人口を抱えた柊町も今や廃
墟である。倒壊したビルの合間に時折、戦術機の残骸が姿を見せる。ビルのほうはもうず
いぶん雨ざらしになっており、中性化したコンクリートがポロポロと落ちている。それに
比べて戦術機はまだその役目を終えてからここに置かれたのが新しい。これはついこの間
柊町が激戦の末、再び人類の手に戻ってきたことを示していた。これから先多くのハイヴ
を破壊するに当たり人類が払わなければならない代償はこんなものではないだろう。今日
の演習で私が勝てば、今まで認められてこなかった私の主張を検証する場を手に入れるこ
とが出来る。
私は無意識にではあるがこぶしを握りこんでいた。

「やはり、緊張なさいますか。」

静かな車内で、神宮寺軍曹がミラー越しに語りかける。

「ええ、とても。今から行われる演習は私にとっての分水嶺ですから。」

勝てば望むものすべてを手に入れられ、負ければ私のすべてを失う。普段なら選択しない
であろう危険な賭けだが、今回はそれでもいいと思えた。蘇芳にとって今回の賭けはそれ
ほどの意味を持っている。
神宮寺軍曹が難しい顔をする。

「中尉、私は軍曹です。差し出がましいことを申し上げるようですが、階級が下の者に丁
寧語を使えばなめられます。」

「ええ、わかっています。ですが軍曹にはあまりなんというかその。」


「命令口調は気が引ける?」

エレン少尉の合いの手が入る。

「ああその通りだ。」

軍曹とかつての隊長がかぶって見えてなんとなくためらわれるのだ。しかしもうこの話は
終わりにしたい私は違う話題を振ることにした。

「軍曹は、今から我々が戦う部隊の事何かご存知ですか。」

「ええ皆良く知っています。私が訓練しました。」

「軍曹が、ですか。」

彼女から発せられた意外な一言に私とエイス少尉は驚きを禁じ得なかった。

「ふふふ、教え子の為にわざわざ偵察を?」

エレン少尉が悪戯っぽく笑う。

「そうかもしれませんね。」

「まずいぞ。基地の前からここまで相当な時間が経過している。相手にだいぶ情報を与え
てしまったな。」

そういって皆で笑った。車内に流れていた殺伐とした空気が幾分か和んだ。
先ほどまでの静かな空気とは打って変わって互いの話で盛り上がっているうちに練馬駐屯
地にあっという間についてしまった。神宮寺軍曹は警備兵に通行証を見せた。警備兵は小
さくうなずくと遮断機を上げる。JEEPは敷地内に滑り込んだ。

駐屯地の敷地内を神宮寺軍曹の案内で進む。
グラウンドでは帝国の訓練兵が完全軍装で行軍演習を行っていた。自身の訓練生時代を思
い出し蘇芳は目を細める。見ればひとり訓練兵が脱落しかけている。教官があらん限りの
罵詈雑言を投げかける。 

どうした訓練兵。ここでへたるような奴は帝国軍には必要ない。

今すぐ走るのを止めろ。そうすれば晴れて俺ともおさらばだ。

国連軍であろうとアメリカ軍であろうと帝国軍であろうと教官が訓練兵にかける言葉の
数々は変わらないらしい。その様子が少し面白い。そして教官は大概、訓練兵に嫌われる。
教官も人間だから様々な考えの人がいる。俗にいうあたりと外れだ。外れの教官にあたっ
てしまえばもう果てしのない拷問のような日々が待っている。しかし軍隊は教官を選ばせ
てはくれない。任官後の上官にも同じことが言える。故に任官前の兵士の話題の実に半分
は、自分たちの上官が有能なのか否かだ。訓練兵は自分たちの上官がどんな人物なのかに
言い知れない不安を感じてしまうのだ。新兵を自分の部隊に迎えるときこれは頭の痛い問
題になる。隊長になって最初に悩むことはたいていこれだ。そして次の悩みは…

「なーにを考えているんですか。中尉」

額に痛みが走った。エレン少尉がデコピンをしたようだ。かなり痛かった。

「軍曹が待っていますよ。」

前を見れば確かに神宮寺軍曹が足を止めてこちらを待っていた。私はあわてて軍曹に追い
ついた。

「懐かしいですか。」

「ええ。とても。 軍曹も今はここで教鞭をとっていらっしゃるのですか。」

「部隊は違いますが。今はこちらで訓練兵を見ています。横浜が本格的に稼働を始めれば
横浜に移る予定です。」

やがて私たちは駐屯地の中でも奥まったところにひっそりと佇む建物の前に到着した。
なるほど、この中が決戦の地というわけだ。意を決して一歩を踏み出す。
建物の中は、水を打ったような静けさだった。廊下には複数の扉があるがそのどれも誰も
いないようにも見える。 しかし軍曹は迷わずまっすぐ進み、突き当りを右に曲がった一
番奥の部屋に入った。私たちも後に続く。


「ようやくご登場ね。」

部屋の中には香月博士を筆頭としてあと二人の姿が見える。管制ユニットを模した多数の
機械が横たわっている。言わずもがなシミュレーターである。この二人が本日の対戦相手
だろう。2人とも99式衛士強化装備を身にまとっていた。2人のうち右側の青いポニーテ
ールの女性から猛烈なプレッシャーを感じる。青い髪をポニーテールで束ね、髪色と同色
の瞳は自信に満ち溢れている。容姿は整っているがその殺気立った雰囲気がすべてを台無
しにしていた。一言でいえば、ご馳走を前に待てを言い渡された犬、というべきだろうか。 
いや、それではこの場合どう見ても私達が餌ということになる。まさかそこまで獰猛な女
性ではないと思うのだが、不用意に手を出せば噛みつかれそうというのはあながち間違い
ではないはずだ。この時の私の比喩は正鵠を射ていたのだが私がそれを知るのは少し先の
話になる。胸には少尉の階級章が止めてあり、この女性は転属先になるかもしれない部隊
の隊長ではないことを示していた。正直なところ少しほっとした。
そして獰猛な女性の隣、髪の色をこのような言葉で表現するのははばかられるのだが、暗
褐色の髪をショートで纏めたいかにもできる女といった風の女性が立っていた。問答無用
で噛みついてきそうな隣の女性とは豪い温度差がある。こちらがあちらを観察しているよ
うに向こうもこちらを色々チェックしているようだった。
私と少尉は3人に向かって敬礼する。向こうの軍人2人もそれに返す。
そして香月博士が切り出した。

「昨日も伝えたとおり今日は演習をしてもらうわ。私はあなたたちの上司としてその実力
を把握しておく必要がある。わかるわね。演習の形式は2対2のAH戦よ。フィールドは
都市部の廃墟に設定してあるわ。今すぐ強化装備に着替えて、いいわね。」

香月博士に急かされ我々はそれぞれ隣室のロッカールームに急いだ。
衛士強化装備とは衛士が戦術機に乗る際に必要となるパイロットスーツのようなものであ
る。耐G、防刃性能は言うに及ばず、長時間にわたる任務にも耐えられるよう、バイタル
モニター、体温・湿度調節機能、飲料水パック、排泄物パック等の様々な機能がついてい
る。しかし体の凹凸がはっきりわかってしまうボディースーツのような設計は女性衛士に
あまり評判が宜しくない。 
私は降下軌道衛士に支給されている強化装備を取り出すと手早く着替える。
外に出ると私とちょうど同時にエレン少尉が隣のロッカールームから現れた。
先ほどの二人は既にシミュレーターに乗っているのか姿を見ることが出来ない。我々もシ
ミュレーターに乗り込んだ。F-15Eストライクイーグルの管制ユニットとはまた少し違っ
た作りの計器類が目に飛び込んでくる。操作は昨日マニュアルで読んだから手順のほうは
全く問題ないが、機種転換訓練もなしにいきなり他国の新型を扱えというのも無茶な話で
ある。少し戸惑いこそあったが網膜投影システムを起動する。眼前には朽ちたビル群があ
る。画面右端にエレン少尉の顔が映る。操作にすこし戸惑っているようだ。
そこへ香月博士からの通信が入った。

「聞こえているかしら。流石に転換訓練もなしに機体を完璧に動かすのは無理だと思うわ。
だから時間をあげる。10分で仕上げなさい。」

「じゅっ10分!?」
少尉が驚きに目を見開いていた。その珍しい光景につい笑ってしまったら少尉に怒られた。
私たちは与えられた短い時間内でズレを修正すべく機体を動かしている。エレン少尉はか
なり苦戦をしているようで小さなウインドウでもわかるくらいに額に脂汗を浮かせている。

「少尉、不知火は主機出力が機体の能力に比べて若干足りないように感じるはずだ。米国
機を使った後ならなおさらな。それは米国軍機と帝国軍機の機体の設計思想の違い、つま
り主眼に置いている戦闘機動の違いから感じるズレでもある。射撃中心の米国軍機は直線
運動を得意とし加速性と最高速度の速さは他の追随を許さない。一方の帝国軍機は近接格
闘を中心に戦術が組み立っている為、円運動を基本とした非常に人間味あふれる動きをと
ることが出来る。
頭部のウイングを少しずらすだけで機体の進行方向をずらすことが可能だ。急降下、急上
昇ではなく緩旋回だ。念頭に置いておいてくれ。」

「りょ了解。」

「そろそろいいわね。演習を始めるわ。」
エレン少尉がだいぶ機体の特性を理解し始めたところで無情にも演習開始の通達が流れる。
機体の装備を選択するための時間でざっと作戦の打ち合わせを行う。

「少尉、機体の制御に関しては向こうに分がある。特にあの獰猛な方はバリバリの突撃前
衛だ。こちらが連中に付き合って前に出てやる必要はない。敵をおびき出し奇襲で仕留め
る。」

「獰猛な方って…」
エレン少尉は呆れ顔だが、名前を知らないんだから獰猛な方と言ったら獰猛な方なのだ。
私は打撃支援装備を少尉は強襲掃討装備を選択した。
私は87式支援突撃砲を構える。

「あの獰猛な少尉に詰められたら厄介だ。接近される前にこいつで始末する。」

87式支援突撃砲とは簡単に言えば87式突撃砲を狙撃用途に改良したものだ。87式突撃砲
上部に存在していた120㎜滑空砲ユニットを取り外し、ロングバレルユニットに付け替え
たことにより、通常よりも高い攻撃精度を手に入れた反面、連射が効かない、両手で支え
なければならないという欠点が存在する。

「準備はいいな、行くぞ。」

主機に火を入れ敵との遭遇を警戒しつつも格好の待ち伏せ可能な地形を探す。しばらく
NOE(地形追随飛行)で移動し高低差が激しくビルの倒壊具合が著しいエリアに到着する。

「止まれ。待ち伏せには絶好のポイントだな。敵がすでに紛れている可能性がある。周囲
を警戒しろ。俺は罠を仕掛ける。」

「了解。周辺を警戒します。」

エレン少尉は熱源探知を避けるため、主脚歩行で周辺の窪地や倒壊したビルの下、敵が潜
伏しやすい場所を虱潰しに調べ上げる。降下中に塵尻になってしまうことの多い降下衛士
にとって、安全な集合場所を確保することは最も重要な任務である。故に降下衛士はポジ
ショニングに最も長けているといっても過言ではない。

「異常ありません。」

「よし。ここで敵を待ちかまえる。設置した仕掛けの場所を確認しろ。」

両機はそれぞれ手頃な空間に潜んだ。主機の出力を最低限にして息を殺してじっと待つ。


機体を隠してだいぶ時間が経つのだが、敵は未だこのエリアの索敵には来ていない。目を
皿のようにして索敵をしているのか、あるいはもうこちらの存在に気が付いてどう始末す
るか算段を立てているのか。どちらにせよ姿を確認できなければすることがない。
狭い管制ユニットの中、ただひたすら待ち続ける。やがて甲高いエンジン音と共に青白い
アフターバーナーを棚引かせ、1機の不知火が現れる。87式突撃砲一丁右腕に持ち、左腕
には92式多目的追加装甲(盾)、機体の後ろ、可動兵装担架システムからは74式近接戦闘長
刀が2本覗いていた。これは突撃前衛装備だ。機体の高度はビル群よりも高い。索敵には
絶好の高さだが、同時に相手に自らの位置を示すことになる。しかし眼前に現れたのはた
ったの1機。これが指し示すことはただ一つ。

「獰猛な方がおいでなすったか、しかしこりゃ完全にばれてるな。誘ってやがるぞ。 …
…いいだろう誘いに乗ってやる。あいつは狙撃で仕留める。少尉は後方を警戒。」


「了解」

87式支援突撃砲を構える。銃口を飛翔中の不知火にピタリと合わせた。スコープ越しに覗
いている不知火とこちらにはまだだいぶ距離がある。敵がこちらに気が付いたとしても対
抗する手段は一つもないだろう。敵の視覚外かつ射線をなるべく隠匿できる絶好のチャン
スが来た。悪いがこの演習勝たせてもらう。

87式支援突撃砲が火を噴く。36㎜HVAP弾が飛翔する不知火に向かって一直線に吸い
込まれていく。不知火は砲弾の接近に気付かず管制ユニットを貫かれ、なすすべもなく墜
落するはずだった。しかし、相手の不知火は着弾直前に砲弾に気づき慌てて機体を射線か
らそらす。その速度たるや目を見張るものがあった。

「躱した!?」

少尉が驚愕の声を上げる。
完全には躱しきれずに右腕に被弾しているが、そもそもあの狙撃を回避した時点で相当な
力量があることは否定できない。こちらの存在を知られてしまった以上残しておくわけに
はいかない。立て続けに2発目、3発目を発射する。しかし相手も馬鹿ではない。機体を
こちらと正対させると追加装甲で機体正面をカバーしこちらの砲弾を防ぐ。敵はそのまま
高度を落としビルの陰に隠れた。着陸地点はかなり近い。私は87式支援突撃砲をパージ
し稼働兵装担架システムから87式突撃砲を取り出した。

「敵にこちらの位置がばれてしまった。ここで仕掛ける。僚機が来る前に奴を挟み撃ちに
するぞ。」
2機の不知火は主機の出力をミリタリーまで引き上げる。若干の遅延ののち座席に体を押
し付けられる感覚。アフターバーナーに点火しビルの合間を縫って敵に接近する。

不意にカメラアイが3時の方向から急速に接近する機体を捉えた。敵は左腕に長刀を構え
突撃の姿勢に入っている。突撃前衛としては見事な吶喊だろう。長刀以外のすべての武装
をパージして機体を軽量化し、近接戦に挑む様は日本古来の武士の生きざまを感じさせる。
だがそれに付き合えば私たちの負けは濃厚だ。私は右後方にいる少尉を機体の右腕で抑え、
機体を右方向にねじる。急激な姿勢変更による強烈なGが私を襲った。それに構わず敵に
向かってトリガーを絞る。突撃砲から激しくマズルフラッシュが瞬き数十発の砲弾が弓な
りになって飛翔する。俗にいう曲射という奴である。敵不知火の管制ユニットに今度こそ
砲弾が叩き込まれ、不知火は徐々に高度を落としビルに激突した。周囲を爆炎がつつむ。
しかし状況は私たちを休ませてはくれない。

「まずは1機。 っ!散開しろ。」

その時、機体より警告。機体後方から大量の砲弾が発射される。少尉と私は速やかに散開
する。私はバレルロールを行い緊急回避。敵が少尉に食らいつく。発射された砲弾のうち
何発かがエレン少尉の機体に命中した。

「中尉っ。」

「任せろ。此方で仕留める」

少尉の不知火の後方にぴったり張り付く敵機の後方、距離にして4機分後ろに陣取る。目
標に銃口を合わせる。ところが少尉と敵の不知火との距離が近すぎてIFF(敵味方識別装置)
が反応し思うようにロックがかからない。これを狙っていたのか。内心で舌打ちを一つ。
コンソールからトランスポンダの設定を呼び出しActiveからPassiveへ。途端にがなり立
てていたIFFの警告は沈黙した。少尉を執拗に付け狙う敵不知火に対して手動で砲弾をば
らまく。そのうち数発が被弾し、相手は対レーザースモークを展開しながら慌てて離脱を
図った。

「少尉。大丈夫か?」

「ええなんとか。しかし機体の振動が止まりません。」

見れば機体の主機の片方から黒い煙が上がっていた。他にもちらほらと被弾の跡が見える。
相手もかなりのやり手ではあるが、それは部下を守れなかった言い訳にはならない。私自
身まだまだ精進が必要だ。

「その状態で戦闘は不可能だな。残敵は私が仕留める。」

「しかし。」

「異論は認めない。第一その状態での戦闘機動は危険だ。指揮官として容認できない。」

そう言い残して機体を反転。離脱した敵機を追う。

機体の各所から煙を上げている敵を追跡するのはそう難しいことではなかった。
随所から火花が飛んでいても敵の不知火からは未だに闘志を感じることが出来る。
多目的追加装甲で機体を守りながらこちらに対して銃口を向ける姿からは隙が一切感じら
れなかった。ビルとビルの間にある幹線道路。この両端で私と相手は対峙する。
しばらくの間、互いに相手を見つめていた私たちは最後の決着をつけるべくどちらからと
もなく動き出す。不知火の主機が唸りをあげ鋼鉄の肉体を前へ前へと押し出した。相手は
私を倒すべく砲弾の雨あられをお見舞いしてくる。私は砲弾を直前までひきつける。そし
て機体を一気に沈み込ませる。主脚を折り曲げ力をためているその様はクラウチングスタ
ートを切る陸上選手のように映るだろう。

 


帝国軍機は急降下急上昇に弱い。



機体は大きくジャンプしビルの壁面を蹴りあがる。




ならば今ここにあるものを使えばいいのだ。


空に飛びあがった不知火の後ろを一歩遅れて火線がついてくる。


敵の不知火は突撃砲をパージし、ナイフシースより65式近接戦闘短刀を取り出す。そして
こちらに向けて投擲の体制に入る。

―遅い。


私の不知火は太陽を背に相手の真上に躍り出た。不知火を上から下まで貫く絶好の射角を
手に入れる。敵を捕らえトリガーを引くと今あるすべての弾丸を敵に叩き込んだ。


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