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No.34254の一覧
[0] MuvLuv Alternative Possibility (TE&Alt) オリ主[Haswell](2013/03/11 22:45)
[1] プロローグ[Haswell](2013/08/23 18:40)
[2] 横浜基地にて[Haswell](2013/08/23 18:41)
[3] 想い[Haswell](2013/08/23 18:46)
[4] MANEUVERS[Haswell](2013/08/23 18:51)
[6] War game[Haswell](2013/08/23 19:00)
[8] Alternative[Haswell](2013/08/25 16:33)
[9] 番外編 試製99式電磁投射砲[Haswell](2012/10/29 02:35)
[10] Day of Days[Haswell](2012/10/27 22:34)
[11] Project  Diver[Haswell](2012/11/06 23:11)
[12] Dog Fight[Haswell](2012/12/03 20:55)
[13] Active Control Technology[Haswell](2013/03/12 21:28)
[14] Tier1[Haswell](2013/06/13 16:56)
[15] FRONTIER WORKS[Haswell](2013/08/23 01:10)
[16] ATM[Haswell](2014/01/02 03:12)
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[34254] Tier1
Name: Haswell◆3614bbac ID:2f94f520 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/13 16:56
かなり久々の投稿になります。 色々忙しく更新の脚が遠のいていました。久しぶりに書いたために、現在のクオリティーには不満もありますが やはりまずは更新することが大事だと思い投稿しました。
更新しない傑作よりも、最後まで更新しきる駄作を目指したい。
そんな目標があります。











「まあ座れ。」
大佐はそういうと自らの隣を指で二度叩く。
大佐からかすかに香る草臥れた機械のにおいがした。始めてあった日を昨日の事のように覚えている。実際に大佐とあってから多くの年月が経過したわけではない。それなのに当初よりもその背中は少し小さく感じられた。私は彼の隣に腰掛け、続く言葉を待った。

「私の教え子たちの中でお前たちは特別優秀な部類に入る。嘘じゃないさ。練度、士気どれをとっても文句の付け所がないさ。特にお前はな。」

大佐はそこで言葉を短く切る。

「この世には生まれながらにして戦うことを宿命づけられた人間がいる。彼らは戦いの女神に愛され、戦いの女神を愛する。彼らは良くも悪くも常に世界を変えてきた。そしてお前もまた人々にとって特別な存在になるだろう。」

そういうと大佐は私の頭にその手を乗せる。子供のように扱われる事を何よりも嫌っていた私だが、この時大佐の手を振り払う気にはなれなかった。

「お前に最後に特別な者たちの間に伝わる大事な原理原則を教えておこう。」

戦場で大切なものは
憎しみを持たぬこと―
生き残ること―
そして自分の決めたルールを
守り抜くこと



「ルールですか。それはいったい…」


「他人に答えを聞くな。なぜならお前が見つけるお前自身のルールだからだ。他人の鎧では戦えまい。」

大佐はそういって席を立ち出口へ歩き始めた。

「大佐はっ。 大佐はその答えを見つけられたのですか。」

私は何かに急き立てられるようにして席を立った。




「そもそも私は、特別な者ではなかったよ。」


Part Seven
Tier1



Tier1 それは最強の衛士にのみ与えられる称号。彼らは生ける精密兵器と呼ばれ、その数は世界でも数えるほどしか存在しない。









明星作戦で孝之を失った。私は憑りつかれた様にただひたすらに訓練を重ねた。開いている時間を見つけては、ひたすらシミュレータに搭乗する。私の生活は寝ても覚めてもBETA一色となっていた。努力の甲斐あって、私の腕は伊隅 大尉をしのぐほどの物になっていた。最前線で突撃前衛として戦えることに私は歓喜した。努力の結果が報われた気がしてうれしかった。アイツにやられたときそれらすべての努力をつぶされた気がした。そして何よりも突撃前衛のポジションを奪われることが怖かった。でも本当は気づいていたのかもしれない。
私がすらすらと述べるそれは、私自信、本当に望んでいた事ではないって事を。











「捧げ銃!」



断続的に鳴り響く銃声。やまない雨。

棺を蓋う日の丸がきれいに折りたたまれていく、白と赤の鮮やかなコントラストがやけに場違いであった。
式が終わり、棺が残される。儀仗隊も手慣れたもので足音一つ立てず速やかに退出した。参列した衛士たちが順繰りに棺にウイングマークを打ち付ける。
素手とはいえ棺にウイングマークを刺している以上、場内に大きな音が轟く。辺り一帯を覆う静けさを打ち破るように何度も、何度も。 
孝之の家族を横目で見る。所属する部隊の関係上、遺族たちには死の本当の理由は告げられることはない。 斯く言う私も孝之が死んだ状況の仔細を教えられてはいなかった。
訓練時の事故によって任官が遅れた私と遥と違い、孝之と慎二は無事任官をした。 
そんな二人が半年と経たずして棺に収まって戻ってくるなど誰が考えようか。
孝之は遺書を残してこの世を去った。私と遥にそれぞれ一枚。葬儀の最中隣で泣いていた遥を余所に私は涙が出てこなかった。

官舎に戻り軍服の裾を緩める。ふと箪笥の上に飾られた一枚の写真に目が留まる。

事故前、4人で撮った写真。互いの夢を語り合った白陵でのあの頃にはもう戻れない。


何をしていても隣に孝之がいない、たったそれだけの事なのに
そこにいるべきはずの人が、物が、ない。それがどこか空寒い。

現実がどこか空虚なものに感じられた。






AM6:00 January 6 2000
横浜基地


起床ラッパの音で目が覚める。体の節々が痛い。いつもとはだいぶ違う視界にまだ覚醒し
きらない頭で状況の把握に努める。どうやら扉にもたれ掛ったまま寝てしまったようだ。 
 そのせいであんな夢を見てしまったのかもしれない。
わずかばかり、ひりひりと痛む頬を拭う。朝の点呼で、伊隅 大尉と顔を合わせなければな
らない。昨日の醜態を思えば、大尉に合わせる顔がなかった。手早く顔を洗い、ぼさぼさ
の頭髪や身だしなみを整える。5分と掛からず全てを終えると、私は扉を開け、自らの部屋
の前に直立する。既に扉の前に立っていたエレン少尉と軽く敬礼を交わす。私に少し遅れ
て遥が扉を開けて出てきた。遥がちらちらとこちらを見やる。どうやら昨日の騒動は隣の
遥の部屋まで響いていたようだ。私は少し気まずい気分になった。
遥は何かを言おうと私に詰め寄る。
遥が口を開きかけたタイミングで伊隅 大尉がアイツを引き連れて私たちの前に現れた。
遥は言いかけた言葉を飲み込むと、私から離れた。
隊内での生活は朝の点呼から始まる。点呼を受け、身だしなみを隊長が確認する。教育隊
に配属されていた頃は、軍曹が靴の裏に靴墨がついているか否かまで厳しく目を光らせて
いた。一般部隊に配属されてからというもの特別勤務に就くものを除けば、教育隊水準で
の服装チェックを受ける者はそう多くはない。教育隊では訓練兵に軍隊がいかなる場所な
のか教え込む意味も兼ねて一般部隊よりチェックが厳しいのだ。 蘇芳の奴が私たちの対
面に立ち、伊隅 大尉が一列に並ぶ私たち一人ひとりの前を通り過ぎる。

伊隅 大尉が私の目の前に立つ。何を言われるのだろうかと内心身じろぎした。そんな私
の内心を知ってか知らずでか、伊隅 大尉は普段と特に変わった様子はなく、私の前を通
り過ぎる。緊張状態が一気に弛緩する。

「実弾を使用したヴァルハラ(訓練施設)での射撃演習を08:00から行う。知っての通り今日
の訓練は12:00までだ。それと速瀬 お前は朝食後、私の執務室に来い。以上だ、解散。」

昨日のことを忘れてしまったのかと淡い期待を抱いたのだが、現実は非情であった。

私は朝食後、重い足取りで伊隅 大尉の執務室に向かう。昨日の自分の発言を思い出す。
それだけでバツの悪い思いだった。伊隅 大尉は良くも悪くも軍人らしい人だ。私の昨日
の発言は伊隅 大尉からすれば予想だにしないものだといえる。伊隅 大尉の執務室前で
ドアを数回ノックした。

「誰だ。」

「速瀬 水月、ただいま出頭しました。」

「入れ。」



ドア越しに伊隅 大尉の声が聞こえた。私は意を決して中に入る。

「そういうわけだから、そこのところも考慮して訓練をして頂戴。」

「わかりました。そのように調整しておきます。」

執務室内には既に先客がいた。よれよれの白衣を着て、寝癖で少し外に跳ねた紫の長髪。
コーヒーを片手に楽しげに伊隅 大尉と話すさまは、その人物が当基地の最大権力者であ
ることを感じさせない。伊隅大尉の執務室に香月 副司令が出向いている。普段とはまる
っきり逆の状況に速瀬は目を白黒させる。香月 副司令と伊隅 大尉は話をやめ、こちら
を向いた。


「伊隅に聞いたわよ。あんた最近色々すごいんですって。」 

副司令はニヤニヤしながら言った。普段なら軽口の一つでも返すのだが、状況が状況なだ
けに私は黙り込んでしまう。

「あら、ほんとに重症ね。」

副司令は心底驚いたといった風にこちらをじろじろと観察した。何もかも見透かされてい
るようでその鋭い眼光が今日はとても恐ろしく感じた。

「あんたずいぶん派手にやられたじゃない。」



私は目を伏せた。意味をなさない言葉が唇を滑る。

「なんか私が悪いことしてるみたいじゃない。まあいいわ。伊隅からも要請があったこと
だしあんたに再戦のチャンスをあげる。」

香月 夕呼はそういって笑った。


PM22:00 January 6 2000
横浜基地



「わかっているだろうが、概要は先程説明したとおりだ。」

ヘッドセットに伊隅大尉のバストアップが映る。強化装備を着ていない伊隅大尉のバスト
アップに少し違和感を覚えた。 戦術機に乗ったときは必ずと言っていいほど伊隅大尉に
背中を預けでいたのだと、今更ながら思い知る。

「大尉、その…昨日はすいませんでした。」

「本当なら小言の一つや二つでは済まないが、今回は大目に見てやる。悔いの残らないよ
うにしろ、私から以上だ。」

「はい!」


速瀬の乗る不知火は目標座標へ一路急いだ。







「速瀬 少尉が指定座標へ移動中。」

室内にいる三名の顔がモニターの光を反射する。最近、モニタールームに詰めていること
が多くなったように感じる。私は手にしたコーヒーを手渡しながら、横の人物に率直な疑
問をぶつけた。

「自分で提案しておきながら言うのもなんですが、いいのですか?」

いぶかしむ伊隅からコーヒーを受け取り、香月は言った。

「速瀬なんかは言葉でどうこう言うより殴り合ってなんとかするタイプじゃない。」
そう語る香月 夕呼の目は爛々と輝いている。


速瀬と蘇芳がうまくいっていない。
そう現状報告に訪れた伊隅が冗談交じりに漏らした一言が、副司令の琴線に触れたらしい。
ナイスよ!なんて言いながら進んで準備しているさまを見て、ただ単に娯楽がほしいだけ
なんじゃないかと内心で思ったりもした。
伊隅の生暖かい視線に気づかずに副司令は速瀬と対になるおもちゃを手に入れてご満悦だ。


エレン少尉の提案内容とはだいぶかけ離れた形となったが、これで何とかなってほしい。
そう祈らずにはいられない。

モニターに映る定点が目標座標へと到着する。


ここで部下をどれだけ案じてもなるようにしかならない。

伊隅はそう思いつつも、高鳴る胸の鼓動を抑えきれない自分自身がいることに気づく。



所詮は私も衛士ということか。  
伊隅の口元は緩やかな弧を描いていた。

「私は少し用事があるから退出するわ。」

「お戻りになられるのですか。結果は後ほど報告し「ちょっとした野暮用よ、始まる前ま
でには戻ってくるわ」」

「だいたいこんな面白そうなこと見逃すわけがないでしょ。」
副司令はそういって不敵な笑みを浮かべる。

香月 夕呼が退出した後、モニタールームは何とも言えない沈黙に包まれた。

「やっぱり香月副司令に相談したのは失敗だったんじゃ。」

「言うな。」









廃ビルの屋上にその身を伏せて管制ユニットで一人静かにその時を待つ。
稼働状況は最小限にした。これで姿を察知されるはずはない。目視で視認されてしまった
らその時はその時だ。
やがてメインカメラが第二演習場に地を這うように侵入する不知火を捉えた。やがてそい
つは私の眼前で機体を停止する。 


今だ。

92式多目的自律誘導弾システムを起動し上方に照明弾を打ち上げた。その後誘導弾システ
ムを投棄する。私は87式突撃砲のセレクターをセミオート射撃に設定し、引き金を3度引
き絞る。 
弾丸は現在のあの男の不知火の位置とその左右に飛翔するが、不知火はそれを後方に回避
することで避けた。


それでいい。 

私は不知火の主機に火を入れ照明弾を背にして一気に躍りかかった。背後で照明弾が炸裂
しまばゆい光が辺りを照らす。夜間視認性の向上のためにナイトビジョンを起動していれ
ば視界が一瞬ふさがれるはずだ。不知火の全体重をかけた74式近接戦闘長刀の一撃を相手
に見舞った。 アイツは多目的追加装甲を前面に展開し私の一撃を防いで見せた。
曲がりなりにも私を倒した男だ。この程度でやれるとは思っていない。
私の目的は他にある。
彼我の差は0mになった。

「正々堂々と近接で私と戦え!」

A-01のナンバー2は譲れない。そこは私の場所だ。 



眼前の不知火は多目的追加装甲を手放し跳躍ユニットを逆噴射。
多目的追加装甲でこちらの視界を塞ぎ、距離を引き離しにかかる。 

やっぱり。


速瀬 水月が蘇芳 林太郎と再戦するにあたって手始めに彼の個人プロファイルを調べた
ことは言うまでもない。蘇芳 林太郎という人間の経歴はあいまいな部分が多い。 オー
ビットダイバーズの訓練センターに送られる以前の経歴の一切は不明。だが速瀬にとって
大事なのは訓練をアメリカで行った。その一点のみだ。日本や中華統一戦線、欧州の一部
の部隊と違い、米軍をはじめとする後方国家や軍事的にその援助を受けている前線国家、
そして国連軍ではあまり近接戦闘について重点的に教えない。F15をはじめとして、そも
そも刀や剣など近接戦闘を行うための装備は短刀を除いて存在していない。対BETA戦に
おいても合衆国海兵隊や合衆国海軍の部隊は懐に切り込まれることを最も苦手としている。


そんな米国出身の衛士に育てられたのであれば、近距離はまず間違いなく苦手だろう。
私の睨んだ通り、蘇芳機は私から距離を取ろうとしている。 
私はペダルを強く押し込み加速し、74式近接戦闘長刀で眼前の多目的装甲を弾き飛ばす。 
開かれた視界に87式突撃砲を構える不知火が映った。本来であればRWSがうるさいまで
の警報を鳴らすところだが、こいつとの対戦ではRWSが作動したことは一度もないといっ
てもいい。信じがたいことではあるが、どうやらFCSの自動照準を切って運用しているら
しい。 
速瀬の脳裏に長刀を振りかぶり吶喊した結果、無様に地に伏した苦い記憶がよみがえった。
戦術機は一つの動作を完了するまで、次の動作を行うことができない。 つまり今全力で
前方に向かって機体を加速している状況下において、その推力のベクトルを他方向に変更
することは不可能だった。
素早く対レーザー級スモークを展開し相手の視界を遮った。レーザー級スモークは戦術機
のFCSを遮ることはできない。もし蘇芳がFCSにしたがって速瀬機を捉えていたのであ
ればそのまま射撃を続行することができただろう。 しかし現実には、自動照準によるわ
ずかな遅延を嫌い自動照準を切っていた。 それは結果として速瀬による再びの接近を許
す結果を招いてしまう。

「これで。おちろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ。」


速瀬は全力の一撃を叩きつける。その一撃は煙を切り裂き何の手ごたえもないまま下段ま
で振り下ろされた。蘇芳機は機体を右に半歩ずらすことでその一撃を避け、鮮やかな手つ
きでナイフシースから短刀を取り出す。速瀬機に突き立てんと迫るその刃に、速瀬は一度
振り切った長刀の側面をかざす。短刀は火花をたてながら側面を滑り落ちる。その際に生
じる何とも言えない嫌な音に速瀬は顔をしかめた。動作完了点までこの音がやむことはな
い。速瀬は額を伝う汗を拭い、次の一手を模索し始めていた。






「二人ともなかなかやるわね。」


「私が見てきたあらゆる衛士の中で二人は突出しています。」

伊隅と香月は眼前のモニターに映る死闘を食い入るように見つめる。速瀬機が剣の舞踏を
披露し、蘇芳機が短刀と突撃砲を使い剣先を巧みに避ける。それは伝え聞く闘牛と闘牛士
の闘いの様でもあり、また日本武者と西洋騎士の闘いを見ているようでもある。これほど
の闘いを目にする機会が幾度あるだろうか、いいやあるまい。管制室では皆、手に汗握る。
交わす言葉も少なめだ。カップに満たされたコーヒーはとっくに暖かさをなくしていた。
この戦い恐らく先に一撃をもらったほうが負けるだろう。
しかしこれほどまでとは

蘇芳の近接戦闘技術に伊隅は驚きを隠せなかった。近接戦闘に持ち込まれたとき、だれも
が勝負はあった。そう感じていたはずだ。だが現実には今もまだ激しい攻防が繰り広げら
れている。

「これほどの部下を持つことが出来る幸運に、感謝しないといけませんね。良く引き抜い
てこられたものです。」

「まあ色々ね。」

副司令はそういって笑う。きっとまた誰かが被害をこうむったのだろう。魔女と言われる
所以はこのようなところにあるのだ。副司令が上機嫌である内に私は内心の疑問をぶつけ
ることにした。

「当初より、速瀬にとって有利な条件で状況が開始されましたが、これでいいのでしょう
か」


「ええ、これでいいのよ。」

副司令は何でもないという風に答えた。

「蘇芳 林太郎という男は戦場を作ることが出来る。これは中々ない能力だけど、敵の思
惑を知ったうえで火中の栗を拾いにいかなければならないことだってある。そうでしょ。」


「速瀬と蘇芳の中を取り持つ。たったそれだけの成果で満足するわけないじゃない。私は
一つの行動でより多くの成果を手に入れたい。そういう女なの。」

私と話しながらも副司令は何でもない事のようにモニターから目を離さずにいった。それ
は私に目の前に立つ天才と途方もない距離を感じさせた。努力なしに何でも上手にこなす
姉の面影を副司令に重ねてしまう。

何を馬鹿な事を考えているんだろうな。

私は自らの愚かな思考を振り払った。 モニターを見やれば未だに両者ともに実力が拮抗
しており、勝敗は全く読めなかった。決着がつくよりも先に推進剤を使い切るのが先かも
しれない。蘇芳機が極至近距離から突撃砲を発砲し、速瀬機を引き離す。先ほどの銃撃で
残弾が空になったのかまだ発射煙が消えきらない突撃砲を地面に投棄する。事態は再び振
り出しに戻ることになった。

「それにあんた達だって口では関係ないって言ってるけど本当は近接戦での腕の良しあしについて気にしてるんじゃないの?」


本当にこの人にはかなわないな。









速瀬はもはやなまくらと化した長刀を投棄し、可動兵装担架より最後の一振りを引き出す。
この束の間の静寂に乱れた呼吸を整えると、未だ眼前に君臨する不知火を見やった。これ
だけの猛攻を受けても傷一つない。


強い。

得意の近接戦に持ち込んでも敵は私をあざ笑うかのように巧みに機体を操り、私を翻弄し
た。









私は機体の計器を確認する。右腕関節、右足に警告マーカーが点灯し推進剤も心もとない。
全ての状況が私に不利であることを知らせていた。

アイツはただひたすらに私の剣戟をいなし続けていたわけではなかった。こちらの機体を
摩耗させるべく常に同じ剣戟を放つように私を誘いこんで。


心のどこかではわかっていた。

あの男の実力が借り物でも何でもない事は。



出撃前、私の為にこの場を作り出してくれた副司令や大尉に報いるためにも


そして、私が私であるためにはここで負けるわけにはいかない!


「私はお前を討つ!」

私は切っ先を奴に向け宣言する。奴は私の宣言を聞きナイフシースより短刀をもう一本取
り出すと両手に構える。




「あー盛り上がってるところ悪いんだけど、私も忙しいからさっさと勝敗つけてくれない
かしら。 早く決められるように貴方たちがさっさとそうねえ負けた方はA-01全機体の清
掃。そういうことにしましょう。」




場の空気が凍った。


A-01 4機のうち2機は現在戦闘中だ。つまり汚れている。これを清掃するのをたった一
人でやる…

あまりの恐ろしさに速瀬は身震いする。


副司令の隣に立つ伊隅 大尉も心なしか冷や汗をかいていなくもない。
遥に至っては私から目をそらす。



これは是が非でも負けられない。


全ての恥も外聞もかなぐり捨てて勝ちを拾いにいかなければ。



「はぁぁぁぁぁぁぁ」


私は機体清掃の栄誉を上官に押し付けるべく、機体出力を全開にし不知火に迫った。







戦場には一機の不知火が立つ。

長い死闘の末ようやく決着を見たのである。蘇芳は汗を拭い。自らの労をねぎらった。

何とか機体清掃からは逃れることが出来た。これを祝わずして何を祝うのか。
蘇芳が口を開きかけたその時、まるで地の底から這うような声が管制ユニットに響き渡っ
た。

「あんた、機体をそんなにボロボロにしておいてまさか掃除しなくてもいいとかそう思ってないでしょうねえ。」


横浜の魔女のあまりの気迫に蘇芳は無駄に背筋が伸びる。これほどの緊張は初陣以来かも
しれない。

「せっ僭越ながら申し上げます。清掃は敗者のみと先ほど「だれが模擬戦で機体を壊して
いいといったかしら。」」


確かに蘇芳の不知火は右腕中ほどまで長刀が食い込み見るも無残な有様になっている。
速瀬機に関しては更に言葉では言い合わらせない惨状であった。罰ゲームの恐ろしさに両
者ともに訓練であることを忘れてデットヒートし香月博士を怒らせてしまったようだ。
しかし蘇芳もここで折れれば清掃という地獄が待っている。可能な限り言葉を選びつつ博
士の機嫌を取ろうとする。

「もういち「清掃」」


「勝った「清掃」」


「なにとぞ「清掃」」


取りつく島もなかった。 蘇芳は内心血涙を流し運命を呪った。














「なるほど。はじめからこうなることが織り込み済みだったわけですね。」

モニタに映る2人の姿を眺めながら私は副司令の手腕に驚かされた。

「あら、何のことかしら。」
副司令はとぼけて見せた。

魔女だ何だと冷酷な評判ばかりが一人歩きするこの人が時折見せる一面。
平時であれば神宮司 教官とはまた違った意味で良い先生になったのだと思う。
口に出して言うことははばかられるが私自身の目標でもある。



Part eight ON YOUR MARK


「よく頑張ってくれた。」


蘇芳は不知火を見上げ機体を労った。右肩から手先までのアーム部分のユニットが完全に
外されており、装甲板の随所に戦闘によってついたと思われる細かい傷がある。 因みに
演習前までは工場直送の新品であったのだからなんとも罪な男である。戦闘を楽しんでい
た整備兵たちも機体がボロボロになり始めた時点で別の意味でハラハラしていたらしい。

整備兵には少し申し訳ないことをしてしまったな。

整備兵たちは明日からアームの取り付け作業にかからねばならない。それはもう大変な忙
しさだろう。 少し罪悪感を覚えながら、私は機体の整備をすべく不知火の胸部に駆け上
がり自らの体を固定するロープの一端をフックで固定する。これでいざ体が落下しそうに
なっても自らの体が下まで落下するのを防ぐことが出来る。 


「中尉」

深呼吸してさあこれから、といったところで声がかかった。後ろを振り返れば先ほどまで
の戦闘相手である速瀬 少尉がタラップに足をかけ何か言いたそうにしていた。

「機体が壊れてしまったので中尉の機体を一緒に清掃するようにと副司令から言われて…」

蘇芳は先ほどの戦闘で速瀬機はもはや整備がどうのという状態ですならない程に破壊され
ていたことを思い出す。

まだ帝国軍ですら全ての部隊に配備が完了していない最新鋭の機体をこうも簡単に壊され
れば香月博士が怒るのも無理はない話だろう。


「なら少尉は右半分を、私は左半分をやる。」

話は以上だとばかりに作業に戻った蘇芳 中尉に、速瀬は何か言いかけて、口を閉じた。

今は二人しかいない格納庫に重い沈黙が漂う。 蘇芳は機体の表面の汚れを落としていく。
今朝方伊隅 大尉と言葉を交わした言葉が脳裏に浮かんだ。

「速瀬の事あまり悪く思わないでくれ。」 
伊隅 大尉はそういって廊下で立ち止まる。

伊隅 大尉と当日の訓練予定や機体の整備状況など廊下を歩きながら互いに報告する。
その過程で速瀬 少尉の事が話題に上るのは別段不思議な事ではない。

自己解決するに任せていたが一向に改善の兆しが見えず、外部から当事者に対し働きかけ
ることで解決を図ろう。 大方そういったことなんだろう。現状があまり芳しくないこと
を蘇芳とて認識してはいるものの、それをいったいどうやって解決すればいいのか考えあ
ぐねていた。降下兵団では自分より階級が下の者の中に隊での経験が長い人物が存在しな
かったことも現状をうまく処理しかねている遠因といえた。

「訓練校時代、あいつと涼宮には仲のいい同期がいてな、ある理由で速瀬と涼宮だけ任官
が遅れて速瀬と涼宮の同期――鳴海と平だけ私の部下として明星作戦に参加することにな
った。」

伊隅 大尉の口調は重くその後の彼らのたどった運命が決していいものではないことを暗
に示していた。

「結局二人は生きて帰ってくることはなかった。まあ戦場ではよくある話だ。それ以来あ
いつには戦術機しかないんだ。自信をつけていたところで酷くやられたからな。本人の心
の整理がまだついていないんだ。だからと言って上官に対してあのような態度をとってい
い理由にはならないがな。」





機体の清掃が終わり二人並んで機体の真下に立つ。 きれいに磨き上げられた不知火の前
で蘇芳は満足げにうなずいた。ここまで二人の間に言葉はなかった。先程から速瀬 少尉
の何か言いたげな視線に蘇芳はたびたび気づいてはいたもののあえてその視線を無視した。
それは決して速瀬 少尉のことが気に食わないからではない。



「少し歩かないか。」

蘇芳の問いかけに速瀬は少し身じろぎし一言 はいとうなずいた。





風が吹かない格納庫内と違って外は風が吹いている。風から身を守るものが全くない。あ
まりの寒さに速瀬は身震いした。前を歩く蘇芳は何を考えているのか速瀬には皆目見当も
つかない。再戦して、また負けて冷静になって考えてみれば、今までとったあまりにも無
礼な態度に自分自身でも閉口してしまう。おまけに難癖をつけて再戦をしても見たが得意
とする近接ですら結局勝つことはかなわなかった。反抗的な態度をとって、言い訳した上
で負けて…。2度の敗北は自分自身の実力が蘇芳中尉に全く及んでいない事を意味していた。
いっそ中尉には思いきり笑い飛ばして馬鹿にしてほしい。そう思わずにはいられない。
しかし中尉は黙ったまま今も私の前を歩き続けている。




中尉は警備の兵士を労うと正門を超えてやがて立ち止る。

そこには一本の桜の木が生えていた。

横浜基地いるものすべてにとってこの桜は特別な意味を持つ。蘇芳がそれを教えられたの
はこの基地に配属されてから1週間と立たないある日のことだった。

神宮司 軍曹のご厚意で横浜基地全体を案内してもらった際、最後に立ち寄ったのがこの
桜である。もとは帝国軍の訓練校であったこの基地では基地につながる急な斜面の両側に
正門まで続く桜並木が生えていたらしい。BETAによって侵略され人類の手に取り戻すた
めにG弾が使われた。 結果、G弾は半永久的に重力偏差を発生させ、かつ植生異常を引
き起こす事が判明した。横浜には二度と植物は生えてこない、そういわれている。
そんな中ただ一本だけ枯れずに今もかつてと同じ姿を保った木がある。それがこの桜の木

幾多の苦難を乗り越え生き残っている“奇跡”
人類のBETAに対する反攻の象徴なのだと神宮司 軍曹は教えてくれた。


桜の木の前に立つ蘇芳に速瀬は並ぶ。

「さすがにまだつぼみもないか。」

そういうと蘇芳は苦笑した。

水月は困惑する。何のためにここに連れてこられたのか皆目見当がつかない。
そんな水月を横目に捉えると蘇芳はもう一度苦笑した。

「まだ横浜基地が白陵基地と呼ばれ帝国軍の訓練校だった時分にはこの坂道の両脇には多
くの桜の木が植えられ、春になると満開の桜が訓練生を迎えたと聞いている。」

道の両端には確かに等間隔に道路から土がのぞいておりそこに桜の木が植わっていたこと
を想起させる。もし桜の木が現存していればそれは言葉には代えがたいほどの美しさで今
もなお将兵を楽しませただろう。しかし現実はBETAに蹂躙され白陵基地は跡形もなくな
った。BETAはここを拠点とし多くの動植物を根こそぎ奪っていった。そしてG弾の投下。
今、坂道に姿を残すのはたった一本の桜のみ。

「仲間たちは皆この世を去った。だがこの桜は未だにこの過酷な大地で懸命に生きている。 
少尉はどう考える。」

蘇芳は一度かつての桜並木があったであろう道を見渡し、次いで桜に目を向けた後じっと
水月を見据える。

「それは、私には……わかりません。」

蘇芳 中尉の刺すような視線に全てを暴かれてしまうような気がして水月は目を伏せた。
蘇芳は水月から目を離し再び桜を見上げた。
「自らが奇跡となることで残された人類の希望となること。そしてなにより自らが存在し
続けることで仲間たちがいたかつての白陵を皆の心の中にとどめておくことができるから。
私はそう考えている。」

この木も戦っているのさ。そう語る蘇芳 林太郎という男の横顔に差した影を水月は見逃
さなかった。

「速瀬 少尉 君の戦う理由は何だ。」

蘇芳は改まって水月を問いただす。その顔は一分の嘘も許さないと明確に語っていた。
水月は言葉に詰まる。普段ならすらすらと言えていたはずの戦う理由が今日に限っては喉をつかえて出てこなかった。
これじゃあまるで今まで口にしていた理由は偽りではないか。
水月は必死に向き合うまいとしてきた自らの心の内を今更暴露されまいと声を振り絞る。
唇はわなわなと震え、顔は青ざめていた。

「わ私は…私は仲間の敵―BETAを一匹でも多く倒すために…」

「本当か。 私には貴官が死に場所を探しているように見える。そのためにあえて死傷率
の高い突撃前衛を志望しているのではないかとも思っている。」

その言葉が耳朶をうつ。心臓が跳ね上がる。気づいていなかったと言えば嘘になる。戦場に出てBETAに追い詰められるたびに感じる高揚感、
そして基地に帰ってきてから失望が胸の内に漂うあの感覚。


「最近来たばかりの癖にまるで昔から知っていたような事を言うんですね。」

水月の内心とは裏腹に驚くほど冷たい言葉が口をつく。自らの内心を悟られまいとして水
月は視線をあげ蘇芳をにらみつける。いつの間にか敬語は何処かへ吹き飛んでいた。
蘇芳はそんな水月の殺気を気にしたそぶりもなく先を続けた。
「過去を知らなくてもわかるさ。少なくない衛士が通った道だからな。私も、そしておそ
らく神宮司 軍曹も。」

「えっ」

蘇芳の口から出た意外な名前に速瀬は今まで眼前の男を睨みつけていたのも忘れ、目を瞬
かせた。無遠慮な視線にさらされてさすがの蘇芳も身じろぎする。しかし気を取り直して
今日伝えたかった言葉を口にする。

「前線に出て一度でも生き残った衛士なら皆経験することだ。過去を忘れて前に進めとは
言わない。だが戦う理由が死に場所探しというのだけは止めろ。これは命令だ。」


「随分と簡単に言うじゃない。」

じゃあどうしろっていうのよ。 内心でかかった言葉をすんでのところで飲み込んだ。

「もう私には何一つ残ってないのよ」
水月は弱弱しく誰にともなくつぶやいた。

蘇芳はそんな水月の様子を気にしたそぶりはない。

「お前の死に場所探しに周りを巻き込むな。何か忘れているようだが少尉は一人じゃない。」

そういって蘇芳はある一方向を見据え軽く顎をしゃくった。

視線の先を見て速瀬ははっとなった。
何かを口にしかけて速瀬は言葉に詰まる。建物の陰に隠れるようにしてこちらをうかがう
のは今や唯一の同期となってしまった心優しい少女。
知らず知らずのうちに私は遥を巻き込んでいたんだ。その事実に水月はぞっとする思いで
あった。同時に親友だと公言しておきながらその存在をないもののように扱ったことに罪
悪感を覚える。

「一人になったつもりでいたか。まだ少尉は一人じゃない。そのことを忘れるな。」

何かを逡巡していた少尉はこちらを向き姿勢を正した。その様子に蘇芳も居住まいを正す
と少尉に向き合った。

「今までごめんなさい。」

「なに、気にしてないさ。それより早く少尉の所に行ってこい。」


速瀬 少尉は駆けだした。







「なかなかのロマンチストだな。」

速瀬 少尉の頭が正門の向こうに消えたあたりで伊隅 大尉が現れた。

「盗み聞きとは趣味が悪いですね。」


「これも仕事のうちだ。許せ。」


しばらく二人して桜の木を眺める。二人の間に言葉はない。


「もし明星作戦の時、私が早期に撤退を命じていれば今頃は鳴海も平も連隊の多くの者が
ここにいたかもしれない。」

伊隅 大尉の声はわずかに震えていた。人間的な指揮官であれば誰しもが悩む“もし”。
仲の良かった二人を裂いてしまった自分自身の責任をずっと今まで背負ってきたのだろう。
だから私はあえてわかりきったことを大尉に述べた。当然のことであっても、改めて他人の口から聞くことで気が楽になることもある。

「大尉がもし持ち場を離れれば、戦線は食い破られ多くの人間が死んだでしょう。BETA
にかじられる奴。レーザーに焼かれる奴。友軍誤射される奴。誰が死に、誰が生きるか、
それは大尉には決められない。」


「だが米軍がG弾を投下しなければそもそも「それは大尉には止めようがなかった。考え
ても仕方がない事です。……戦争に犠牲はつきものだ。」」

「お前の言う通りかもしれない。部下であるお前に、こんな話をしてしまってすまない。」

「今は悩んでいても仕方ない。すべきことは分かっている。ならばそれを成すだけです。」

「ああ、その通りだな。」

そう言って伊隅 大尉は微笑んだ。


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