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No.33107の一覧
[0] 【チラ裏から】 優しい英雄[ナナシ](2013/10/12 01:03)
[1] 導入[ナナシ](2012/05/12 14:02)
[2] 一話[ナナシ](2012/05/13 12:00)
[3] 二話[ナナシ](2012/09/03 14:45)
[4] 三話[ナナシ](2012/09/03 14:49)
[5] 四話[ナナシ](2012/08/16 19:00)
[6] 五話[ナナシ](2012/06/23 15:14)
[7] 六話[ナナシ](2012/09/03 17:23)
[8] 七話[ナナシ](2012/09/28 19:31)
[9] 八話[ナナシ](2012/09/28 19:31)
[10] 実験的幕間劇 黒兎の眠れない夜[ナナシ](2012/11/07 02:45)
[11] 九話[ナナシ](2012/10/23 02:10)
[12] 十話[ナナシ](2012/11/07 02:48)
[13] 十一話[ナナシ](2012/12/30 19:08)
[14] 十二話[ナナシ](2013/02/22 17:30)
[15] 十三話[ナナシ](2013/04/05 02:10)
[16] 十四話[ナナシ](2013/06/06 01:43)
[17] 十五話[ナナシ](2013/06/06 01:41)
[18] 十六話[ナナシ](2013/10/17 18:12)
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[33107] 六話
Name: ナナシ◆5731e3d3 ID:3c22942b 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/03 17:23
10月23日 横浜基地 グラウンド ≪月詠 真那≫

 勝負がついたか。
 背の低い訓練生が腹に蹴りを入れられ、地面に倒れ伏せるのを見届ける。最後の一人となり泣きながら突撃したのだが、やはりあの男の前には無力であった。
正確に言えば冥夜様が御倒れになった時点で彼女らの命運は決まっていた。最後の奴は明らかに後衛であり、前の三人が沈められた時点で勝負ありだ。

『『『……っ』』』

 所持している無線から、グラウンドの四方に散った部下たちの押し殺した声が聞こえる。あいつ達が飛びだしたいのを我慢しているのだろう。
いや声色から察するにいつ介入をするか分からないほどに切羽詰まっていた。

「手をだすなよ。ここで何かすれば斯衛の、いや冥夜様の名誉を傷つけることになるぞ」

『『『了解……』』』

 部下たちを何とか踏みとどまらせる。納得のいかない、不承不承の態度であったが致し方あるまい。
しかし私の今の冷静な態度は何故だ?
 我ながら部下を諌めた今の自分の現状に疑問を持つ。 
冥夜様に訓練とはいえ見ず知らずの、もしかしたら危険な人物が危害を加えたのだ。普段の私なら、褒められたことではないが激昂してあの人物に突貫してもおかしくはないはず。
 
事実部下の三人は私が止めなければ何をしていたか分からない。それだけの不埒なことをあの男はしたはずなのに、なぜか『あれ』が当然だと感じてしまっている。
あの不条理をおかしくないと受け止めてしまっていた。
 いや何故だか理由は分かる。この光景は見慣れた、そして体験したものだからだ。だが何故一体それが目の前で繰り広げられているのだ?

「あの年齢で」


 そう、あれは私が戦術機に乗る前に、私が今でも尊敬する人々、かつての教官達が見せていた態度だ。暴虐的で理不尽で無慈悲であり、実戦を乗り越えてから初めて理解できる温かみを含むそれ。
 それが記憶の底から浮き上がっているからこそ憤怒などではなく、今私はある種の懐かしさとともに静観できているのだ。

 だが何故あの青年ともいえる男が持っているのかが理解できない。

 これはただ単に衛士としての技量だとか士官としての度量といった単純なものではないのだ。
戦術機の腕が良いというのならば別に特筆することではない。才能や努力さえあれば、容易くとはいかないまでも習得できるものであった。
 上官としての技量もまた同様だ。部下を持ち、実戦を潜り抜けていけば嫌でも身に付く。それができないのならば、化け物どもの腹の中に部下共々入るだけだ。
 
けれども人材育成の要である教官職は違う。
 才能、技量、経験。これらが余すところなく必要であることは言うまでもなく、教官職に就くためには『時間』も要求される。
単純な軍事知識だけではなく、文字通り、人を教え導くにはある程度の人格や人生経験が不可欠であるのだ。

 あの人物がいかに才気溢れる者であり、いくら実戦を体験しようともこの職に求められるものは満たせないはず。これは個人の優秀さでは決して補えるものではない。
そしてなにより彼がとる行動、部下達が激怒し私がどこか納得してしまう今の行為は彼の世代ではとれるはずがない。
 
 しかし実際にそれを成し遂げている者が眼前にいるのだ。
 その疑念に対する憶測が頭の中にいくつか浮かぶも、すぐにその思考を停止させる。私の任務は冥夜様の警護であって、間諜の類ではないのだ。
仇なす人物であるならば排除する。それが私がとるべき行為であり、全てなのである。

これは調査を急かさなくてはならぬやもしれん。

 なにか出てくればもちろん黒、綺麗すぎてもあの男の風体ならそれすらも怪しい。
 ともかくも彼の人物の警戒度は上げねばならないだろう。敵に回せば厄介な存在になるはずだ。

 思案に耽るなか、倒れた冥夜様たちの状態を確認していた男と、ふと私は目が合ったような気がした。


 視点変更《伊隅 みちる》

 グラウンドに赴く私の心情はこの上ないほど荒れていた。
 歩調もその心に影響されてか、目的の人物の元に向かう中でいつのまにか速まっている。
 表情にしても今の自分は見れたものではないと思う。先程通路ですれ違った曹長など最敬礼で私に道を空けていた。
 これでは先日の戦闘で機体を中破し、それを新人連中に当たり散らしていた速瀬といい勝負だ。
 
 しかしそれでも承服しかねることばかりなのだから仕方ないではないか。
 結局社 霞に部屋を割り当ててから部隊のところに行った。ただでさえその時点で私は疲労していたのにそれからがさらに大変だった。
 たかが一機に翻弄されて落ち込むやら激昂している仲間に、さらに事の顛末は機密であるとして一切の説明をしなかったのだ。
 いくら軍規をわきまえている連中でも、これにはひと波乱あった。

 そして今日になってみれば昨日の不審人物は中佐になっている。
 副司令の無理は把握していたつもりであったが、まだまだ私の認識が甘かったと言わざるを得ない。
 大佐階級にいる佐官が副司令一人しかおられないことを鑑みるに、あの白銀『中佐』は今や基地内のNo3にいると言っても良い。これはもはや大盤振る舞いを通り越して冗談か何かにしか聞こえない。

 そしてトドメに中佐側についているだろう社 霞が今副司令となにやら対峙しているらしく、それの仲裁に中佐を呼んできてくれとピアティフ中尉に頼まれ今のこのざまだ。

 いくら事情を知る人物の方が良いとしても大尉を小間使い扱いはないだろう!
 いつもは副司令の無茶ぶりで慣れていることだが、それが良くわからないしかも敵だった上官のせいなら別である。憤慨するぐらい許されてしかるべきだ。
 
 私が歩く周辺は訓練部隊以外はほぼ人がいない場所であることをいいことに、この怒りを隠す努力をやめた。
 思い切り顔をしかめて乱暴な歩きをする。足早にそして腕も大振りになる。
 激情を身体全体で表すと心無しか気分が落ち着く。
 隊長職につく者は多少の場合があるが、部下に見せようと意図する以外の怒りや悲しみといった感情は悟られてはいけない。
 よってある程度は隠すことになるのだが、やってみると案外きついものなのだ。こういった自分の心をまったくもって隠さず表現する事は息抜きになりうる。

 頻度はそうないが人がいない自室で時々やっていたりしていた。
 条件反射からか、しばらく続けていると心も落ち着いてくる。そして少々の余裕も生まれ冷静にもう一度思考し直すことができた。
 自分に対して言い聞かせたとも言っても良い。

 ここであの男にもう一度対面しておくことは必要なことなのだ。
 あそこまで露骨に戦術機の操作技術をこちら側に晒したのだ、あの男がどのような立場に立とうとするかは知らないが戦場には立つはず。
 とすれば副司令子飼いの私達部隊が行動を共にすることになることは必定。部隊の仲間たちに引きあわせる前に私自身が確かめることは有意義なことなのだ。

 そしてここで私は先程までとは違う意味で難しい顔をする。 

 あの男の衞士単体としての能力ならば極上。申し分もない。額面上捉えるなら是非仲間に欲しいと手を上げたい。
 けれどもそれが部隊運用になるならば別である。個の力では部隊の実力は決まらない。飽くまで全体が叩き出せる効用の多寡が問われている。
 軍人であるのならば例え昨日の敵だろうが手を携えなければならないのは当然だ。
 だがその人物が部隊の頂点に突然就任することなぞ、理屈では納得してもどうしても拒否感がでる。
 
 実践経験のない隊員を抱えている今の部隊は非常に不安定だ。精鋭として常に精強さが求められている私たちには致命的とも言っていいかもしれない。
 そんな不安定な中で、あの男の参入が及ぼす効果は正直測りかねる。
 
 私達の部隊にとっての死神にも成り得るし、それこそ今抱える問題を抱える幸運の女神にもなるかもしれない。
 そう考えるならば確かめるということでこの使いも悪くない。

 とここで中佐がいるグラウンドに行き着いたことに気づく。無意識に顔を引き締める。
 近づくに連れ中佐の姿とともに何人かの人影も目に入る。
 地面には見知らぬ訓練兵四人が倒れ伏していた。胸部が上下しているあたり、さしあたっての問題はない。

 訓練兵には悪いがこの光景を目にして私は安堵する。
 教導のできるほどならば私が引いた目は良いものである可能性が高い。

 既に中佐は私に気づいており、その視線を受けてある程度距離を詰めて敬礼する。

「白銀中佐」

「どうした大尉。訓練はまだだが。待ちきれないのか」

 先日の襲撃戦から思ったことだが、この男は年齢を感じさせない喋り方をする。他の佐官階級の士官の受け答えと遜色が無い。

「いえ、実弾を使った訓練ならば今すぐ付き合いたいところですが」

 他の上官にこんな口を利けば物理的な『修正』を受けかねない言葉だが、昨日あれだけ敵意を振りまいた相手だ。今更といったところである。

 そんな言葉も白銀中佐は肩を竦めて受け流す。

「大尉。俺は突撃前衛だ。ウラン弾を後ろから叩きこむ機会なぞいくらでもあるから我慢しろ」
 
 なるほど。中佐という肩書きもらう程度には経験はあるらしい。
 信用するには程遠い相手だが軍事方面の実力だけならば評価しても良い。

「とすれば何だ? 貴様がここにいる以上なにかしらあるのだろう?」

「はっ。中佐に直に副司令の執務室に来て頂きたいと伝えに参りました」

「副司令が? どうせ後で寄る話になっているはずだが」

 不思議そうに中佐は首を傾ける。

「いえ。正確にはピアティフ中尉の要請ですね。『中佐の』社 霞とどうやら何か起こしたらしく、至急来て欲しいそうです」

 どうしたことか、私の発言に直様目の前の男の顔色が変わる。上官としての余裕をかなぐり捨てた態度であった。
 今の皮肉のどこにこの男を揺さぶる要素があるかは理解できなかったが、中佐は非常に動揺している。

「伊隅。その要請はいつ受けた?」

「は? そうですね......30分前ですが」

「了解した。後は任せる」

「えっ。 それは」

 私が言葉を挟む前に、私を置いて基地へと向かっていってしまった。


 無論そこに転がる所属も分からぬ訓練兵たちを置いて(ついでにそこに置かれたクリアケース等も含めて)

 ............

 天を仰ぎしばし黙る。
 喚いたり怒鳴り散らしたりなどはせずに落ち着いて、普段絶対に言うことがない言葉を口にする。

「ちくしょうめ」
 


 横浜基地 執務室 <社 霞>

 博士と私は互いの視線を外すこともなく只々相手の瞳を覗き込んでいました。
 テーブルに置かれていた珈琲からは既に湯気も立たず、視界には博士も含め動くものは一切無い。時間の感覚を失ってしまうかのような空間。
 そこで私は母でもあり、私にとっての断罪者に成りうる彼女と対峙している。

 私がこの部屋に入室した瞬間。彼女が私を見た瞬間に部屋の雰囲気が一変しました。
 その時になって私は理解したのです。
 彼女が私が『入れ替わった』ことに気づいていなかったことを。
 私の顔を見た瞬間にそれを悟ったことを。

 そして今は互いに何も言わず時間が過ぎていくのを待っている。

 この世界の『私』を消したのは私で、それに加担したのはあちらの博士で。
 消されてしまったのはかつての私で、『私』を奪われたのはこちらの博士。

 それが分かっているからこそ目の前の彼女は口を閉ざしている。
 けれども私はそれをしてはいけない。明確な意志で消したのだから、私は逃げてはいけない。
 だからこそ口火を切り出すべきは私なのです。

「拳銃を。懐の拳銃をお使いになるのでしたら、それは正しいことでしょう」

「......」

「けれども私は死ぬ気はありません。抜いたのなら全力で身を守らせて頂きます」

 毅然と率直に彼女に言葉を叩きつける。

「私はこれから計画の利になることもあれば害になることもあります。しかし貴方の心に添うことは恐らくないでしょう」

 昔の社 霞の関係に甘えてはいけない。それはこの世界の『社 霞』のものなのだから。私と彼女。新しい繋がりを作る必要がある。

 博士はそれらの言葉を噛み締めるように聞き、

「そう」

 ただ一言だけ呟いて頷く。おそらくは出したい言葉を呑み込み、今必要とされている言葉だけを紡ぐ。
 それは弱音や恨みつらみを言わない彼女の強さであり、私に対する優しさなのだろう。結局私は博士に頼りっぱなしだ。
 それでも後一言だけ、彼女の強さを頼りに言わなくてはいけない。

 私は頭を下げる。深々と、この世界と今の両方の私の感謝を表すために。

「ありがとうございます。貴方が私を『社 霞』にしてくれた。貴方は私『達』にとっての母親でありました」

「ずるいわね.......その言葉」

 苦笑。それは普段の博士の笑いからは程遠いもので、強さではなく、博士らしからぬ強がりでした。

「ねえ」

「はい」

「貴方の目的聞かせなさいよ」

 博士の問に答える前に私は気づいた。
 私の能力があの人が近づいてくるのを感じる。
 焦っていて急いでいて、軍人として見える顔からは程遠い気持ち。いつまでたっても変わらず、弱い心のクセに全部抱え込もうとする強い人。

 笑っていて欲しいのに勝手に苦しんで。
 逃げて欲しいのに立ち向かっていって。

 そんな人が私を助けようと来てくれることに喜び微笑む。
 そして博士の問に答えようとする。できるだけ誠実にして、彼女に私の気持ちを伝えようとする。
 
 後ろでドアが開く音がした。そして荒い息も聞こえてくる。私はそれに振り返り笑顔で言葉を紡ぐ。

「男ですよ。香月博士」










あとがき

伊隅大尉にデジャブを感じる.......。そしてこの物語のグダり方。おかしいな、プロット立てた時にはこうじゃなかったのにな。


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