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No.33107の一覧
[0] 【チラ裏から】 優しい英雄[ナナシ](2013/10/12 01:03)
[1] 導入[ナナシ](2012/05/12 14:02)
[2] 一話[ナナシ](2012/05/13 12:00)
[3] 二話[ナナシ](2012/09/03 14:45)
[4] 三話[ナナシ](2012/09/03 14:49)
[5] 四話[ナナシ](2012/08/16 19:00)
[6] 五話[ナナシ](2012/06/23 15:14)
[7] 六話[ナナシ](2012/09/03 17:23)
[8] 七話[ナナシ](2012/09/28 19:31)
[9] 八話[ナナシ](2012/09/28 19:31)
[10] 実験的幕間劇 黒兎の眠れない夜[ナナシ](2012/11/07 02:45)
[11] 九話[ナナシ](2012/10/23 02:10)
[12] 十話[ナナシ](2012/11/07 02:48)
[13] 十一話[ナナシ](2012/12/30 19:08)
[14] 十二話[ナナシ](2013/02/22 17:30)
[15] 十三話[ナナシ](2013/04/05 02:10)
[16] 十四話[ナナシ](2013/06/06 01:43)
[17] 十五話[ナナシ](2013/06/06 01:41)
[18] 十六話[ナナシ](2013/10/17 18:12)
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[33107] 十五話
Name: ナナシ◆5731e3d3 ID:e64705e1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/06 01:41
合計6機の不知火がビル群の隙間を縫う様に飛び交う。詳しく観察してみれば5機が固まる様に動き、1機だけが単独で行動していることが見て取れるだろう。
全ての機体が一瞬たりとも足を止めることなく、敵の射線に立たない様に努めている。機動力を重点においた戦術機の特性を生かした、極めて模範的な機動と言えた。だが一般の衛士が見たのならば、その異様さに瞠目するはずだ。
単騎の不知火が固まる不知火らの36mm弾を回避しながら撃ち返し、5機の不知火は着地した瞬間に跳躍ユニットを吹かすことで機体に当たる筈だった弾丸を回避した。その所作は一切止まることなく次の行動に繋がっていく。それは本来戦術機にはとることのできない動きだ。
機体の処理上、どうしても幾許かの間ができるはずなのだ。修羅場を潜り抜けてきた一握りの精鋭が鍛錬の果てにそれを限りなく零にすることはできるが、無くすことは決してできない。だからこそ模範的とも言える6機の機動は、常識破りのものだ。
そしてその常識外の中の1機、5機に立ち向かう不知火のそれは群を抜いている。跳躍ユニットと脚部ユニットにより機体が地面に縫いとめられていることは時間はほぼ存在しない。合計5にもなる射線を嘲笑うかのようにひらりと交わし続けていく。
5機は相手の火力不足から、1機は自身の軌道から互いに落ちることなく射撃戦が続いていった。だが先に5機の集中力が切れたのか、段々とその精細さを欠いてく。そして完璧な機動を崩さない1機はその気を逃さないとばかりに5機に立ち向かった。





「あーっもうなんで勝てないのよ! あのクソガキの鼻っ面をへし折ってやりたいわ!」

新人達の後ろの席で、速瀬がそれこそ口から火でも吐きかねない程の剣幕で同僚の涼宮に喚いているのを、高原は合成玉露をすすりながら横目で見やる。涼宮はその天然さでのらりくらりと宥めていることを鑑みると、やはり良いコンビなのだなと高原は実感した。
そこで今度は自身の同僚、涼宮 茜に視線を移すと溜息が出かけてしまった。同性の高原でさえ整っていると感じられる彼女の顔は、現在眉間にうっすらと皺が寄っている。高原と柏木にしか分からない程薄らとだが。
午前に行われた新人と白銀中佐との演習においてもあったそれに、高原の精神力はごりごりと削り取られている。


「茜ちゃん……。この合成竜田あげの甘酢あんかけ、すごくまずいよ。でも私頑張って食べるから!」
「わあっ。それを私に一々言う必要はないでしょうが! というかなんでひっつくのよ」
「普通においしいと思うのですが」
「えー。麻倉ちゃんすごい!」
「麻倉がすごいってよりも、単純に好き嫌いの問題だと思うけどね」

わいわいと4人の仲間は無駄話に花を咲かす。この馬鹿騒ぎで悩みも吹き飛んでくれれば高原も嬉しいのだが、そうはいかないのが涼宮だ。強い責任感と絶え間ない努力によって高原達新人の牽引力になっている彼女。皮肉屋であると自負している彼女でさえ手放しで褒め称えてやりたい人材だ。
けれども何でもかんでも一人で抱え込む癖がある上に、何ともならないことも、ひたすらうんうんと唸り続ける悪癖がある。

(悩んでもしょうがないだろうに。あの良く分からんXM3とやらも中佐の発案だ。本家に簡単に勝てるはずもない。それでいてあの年齢で中佐。正にスーパーマンだ。まあ、涼宮が意識するのも仕方がないと言えば仕方がない。年齢もほぼ一緒であるだろうし、聞けば中佐のポジションは
突撃前衛。目標をいきなりかっさわられた感じかな?)

あのOSが発表された演習以降、涼宮が突然に現れた新しい上官、白銀 武に強い意識、端的に言えば対抗心を抱いていることを高原は感じ取っていた。
冷静に分析していると茜と高原の視線が交錯する。

「何よ、高原。あんたもその魚が嫌いなの?」
「いや何。ただ考え事をしていただけだよ」
「どうせ皮肉の一つや二つ考えていただけでしょ」

考えていたのはお前のことだよ、とは口が裂けても言えなかった。適当に相槌打つと、魚の身をほぐして口に入れる。美味しくもまずくもなく、酢特有の酸味が口の中に広がった。そして今回は重傷だなと高原はぼんやりと思考する。
前回の様に単純に項垂れてくれれば慰めの仕様があるが、今の涼宮のように隠されてしまってはどうしようもない。問いかけようがだんまりを決め込むのがいつもの常だ。前と今回の衝撃で、相当涼宮の中に負の感情が根を張っていた。自己解決すれば良し。だが溜めこんだ末に壊れてしまうことを高原は危惧していた。素直に相談して欲しい。この感情は仲間の輪を乱すことへの懸念ではなく、純粋な涼宮個人を心配してのことであった。
今度は柏木と目が合った。周りの仲間達に気付かれない様にこっそりと柏木は苦笑いした。処置なし。しばらくは安静に観察するほかなし。表情がそう語る。無理なものは無理と割り切り、今に集中できるのが高原に無い柏木の美点であった。確かに押しても引いても涼宮は今はどうしようもない。ならば注意深く観察し何か起こればいち早く対処するしかあるまい。一人納得すると高原は食事を終える。
対症療法を施すのは当然だけれどもね。高原は独りごちるとテーブルの上にある食器類を素早く片付け立ち上がる。柏木はさすがというか既に食器を返却し立ち去ろうとしている。麻倉は何時の間にかだが存在が消失していた。何時もの通り凄まじい隠密性だった。
そして涼宮と築地は絡み合っているため仲間達が立ち上がっていることに気付かない。後ろで喧しかった速瀬中尉の叫び声が小さくなりだしたことにも気付けない。
そっと高原も食器を返しPXを後にする。数十秒後だろうか。高原の仲間2人の叫び声がPXから廊下に響き渡った。

「私がいつも皮肉ばかり考えているはずがないだろうが、茜。まあお前が本当にピンチの時はしっかりと助けてやるさ」

翡翠色のポニーテールが揺れる。










それは見事な光景であった。シンメトリー、左右対称であることはそれだけでどこか人の琴線に触れるところがある。そしてそれは完成が困難であればあるほど引き付ける魅力というものが増す。古代や中世の建造物たちがそれを証明してきた。
つまりは体格や筋力、性格までも違う彩峰と榊の拳が、腕が互いに交差しながら相手の顔面にのめり込む様は一種の優美ささえ醸し出していた。無様な両者の呻き声は余計であったが。ぜえぜえとお互い睨みやる。

「だから言ってるでしょうが! 教官を相手取るなら囲んで時間を掛けて攻撃する方が安全策だわ」
「違う。あいつの一撃は強力。やられる前に一気にいくべき」
「それは単に何も考えずに突撃しているだけじゃない!」
「……頭でっかちに言われたくない」
『っ!』

見えぬゴングが叩かれたかのように再び二人は取っ組み合いを始める。そして二人に集まる視線が3つ。呆れながら苦笑する御剣。心配そうにする珠瀬。眺めながらも全く別のことを考えに耽っている鎧衣。PXのテーブルに3人は座っていた。彼女達の周りの基地員達は呆れながら、そして興味なさげにちらちらと見ている。そもそも夕食後であり、PX内の人数はひどくまばらであった。
あの決闘まがいの勝負に勝利して以来、彼女達の関係には左程の変化はない。むしろ拳を交える乱闘が加わり見かけ上は悪化さえしている。しかしそのかわり彼女達個人が張っていた障壁の様な拒否感は、緩やかに取り払われ始めていた。御剣の身を挺しての暴露がその引き金となった。
隠さなくても良い。触れて傷付いたのならば謝り許しを乞えば良い。それはゆっくりとだが彼女達が仲間に触れ合うことを促していた。その発露こそが榊と彩峰の殴り合いだろう。近づいたからこそ、歩み寄ったからこそぶつかるのだ。
彼女達は幼い。特殊な出がそれに拍車をかけている。言葉だけで軋轢のあった相手と打ち解けるには未だ経験が足りなかった。それでも拙い歩みだろうが前に踏み出しているのは成長だ。後は時間が解決してくれるだろう。確執の一番の象徴であった彩峰と榊の仲も解決され始めている。


「にしても午後は中佐がいなかったけれどもなんでだろうねー」

鎧衣が間延びした声で皆に話しかける。

「そ、そうですね。いつも座学の後に私達と訓練なのに」
「佐官ともなれば役目も多い。むしろ今まで私達にかかりきりという状況こそおかしかろう」

現在207の訓練は座学を中心として組まれており、日頃課されている基礎訓練を除けば、白銀との組手以外は無かった。

「……でも、総戦技、評価演習が、中止とは驚いたわ……」
「あいつの顔にいつか絶対一発入れる……」

何時の間にか取っ組み合いを終え、テーブルにうつ伏せになっている榊が息も絶え絶えに話に加わる。彩峰は肩で息をしているが勝ち誇った顔をしていた。ちなみに御剣の見立てでは榊の方が数発多くくらい、話し合いでは榊の意見で二人合点がいったようであった。

「中止になったってことは私達が認められたのでしょうか?」

珠瀬が疑問の声を上げた。白銀が提案した結果彼女達が行う訓練内容が前倒しになっている。具体的には戦術機課程に至るまでの道のりをほぼ全て省かれていた。よって今彼女達が学ぶ座学は戦術機に関するものだ。確かに白銀が彼女達の実力を認めていると考えてもおかしくない。
けれども御剣は苦い顔でそれを否定する。

「いや……そうではなかろう」
「御剣、またその話? 中佐が私達を見ていないとか」
「微妙に分からない話ではないけど」

同年代の彼女達が共有する話題は意外なほどに少ない。趣向や好きな食べ物一つをとってもばらばらだ。よって彼女達の話題は自然と普段一緒に受ける訓練、そして最近新しく来た白銀に集まる。

「どういうこと鎧衣?」
「うーんとね。中佐はなんかこう僕達から視線をはずす時が多い気がするんだよね」
「そんな細かいことに気付くなんてすごい。私なんて怖くて全然見れなくて」
「違う、そんな具体的なことではなくてだな」

御剣は腕組みをする。白銀の態度はあの日以来改善した。訓練さえ受けさせてもらえない立場から、ようやく訓練生として認めさせることができた。けれども御剣にはどこかしこりが残っている。未だ一人前の兵士であると認めさせることができないからではない。もっと根本的なことだ。
訓練で悪い点があれば白銀はしっかりと指摘をする。彼女等個人の特徴を的確に掴んだアドバイスも適宜入れている。それでも御剣はやるせなさを感じているのだ。しっかりと御剣達を見据えていない。まるで自分達の向こう側の誰かに向かって話しかけているように。
だから御剣は漫然とした不満を募らせる。上官である白銀にそんなことをおいそれと聞くことはできない。

「私には武の考えていることが分からぬ」
『うえぇっ』

御剣以外の4人全員がすっとんきょうな声を上げる。表情は驚きと畏怖。それこそ神に反逆する人間に向けるものだ。

「御剣、あんたいくら不満が溜まっているからって」
「す、凄いです!」
「尊敬する…..」
「僕にはとても言えないよっ」
「どうしたのだ、そなたらそんな驚いて」
「だって御剣今教官のことを『タケル』って」
「何っ!」

指摘されて御剣は周りの4人以上に驚いた。彼女は決して目上の人物を呼び捨てになどしない。例えいくら一時悪感情を抱いていたとはいえ、白銀の意図を理解した御剣が彼を貶めようと思うはずがないのだ。むしろ彼女が武と言った時の感情はまったくもって逆。親愛に近い感情の筈であった。
何故自分は失礼にも上官を呼び捨てにしてしまったのか。御剣は反省する。けれども御剣は口にしたとき全く疑問や違和感を感じてはいなかった。それこそ何年もそう呼んできたような気やすささえ存在していた。
とにかくも気を付けよう。御剣はそう自分に戒めるとともに、仲間達に弁解した。














「どう? 部隊の調子は?」

執務室の机を挟みながら、香月は伊隅に質問していた。手には数枚の資料が携えており、視線が伊隅とその資料に行き来する。伊隅は部隊長らしく風格を保ちながら、されど疲労の色を見せながら答えた。

「は。持ち込まれたXM3への慣熟は比較的順調です。私達ベテラン組は少々手こずっていますが、それでも現有のOSよりは段違いの機動ができています」
「いますが、って所かしら」
「は……」

香月は面白そうに伊隅に言葉を投げると、伊隅は目を瞑り言葉を濁す。素直に言って良いものかと躊躇っている。それを香月は顎で続きを催促した。

「正直に申し上げれば白銀中佐のOSにより総合戦力は大幅な増強が望めるでしょう。中佐が部隊に編入されたこともプラスになることは断言できます。ですが彼の意志がどうしても気になります。拒否とまでは言いません。それでもなにかしらの私達に想うところがあるのでしょう。
連携は上手くいっていますが、それも経験で無理やり回しているのが実情です」
「ふーん。訓練生のも加味すれば、必要だから見ている、でも感情はそれとは別ってところかしら」
「それはどういうことですか?」

香月は右手を顎に当て考えるそぶりをしている。いつも彼女が悪巧みする時の姿勢だ。こうなってしまえばしばらくは外部から話しかけても反応は無い。時には笑い、時には無表情と香月の表情は変化していく。そして思考が終わったのか伊隅に眼を移す。

「あいつはあんた達と行動を共にする気はないってことよ」
「ですが中佐は部隊の最高位者です」
「でも指揮系統は全然いじってないでしょ? つまりはそういうことよ。あいつが欲しいのはあんた達の指揮権だけ」

伊隅は眼を見開く。それはつまりは副司令の懐刀を奪取しようとしているだけではないか。

「……副司令。命令であれば私達は従います。死地に行けと言えば犠牲を最小限にし、戦果を最大限にしてみましょう。軍人とは死ぬのも仕事の内ですから。ですが部下を無駄死にだけはさせられません。
白銀中佐を上に置き部下を無駄死にさせようというのであれば、どうか御再考をお願いいたします」
「そう考えているから白銀は指揮権をとってあんたたちを鍛えているのでしょうね」

香月は手に持った資料を机に投げ出す。紙がぱさりと落ちる音が二人の間に響く。

「あんたがどう考えようが白銀はあのまま据えるわ。これは命令。それに一応聞いておくけど、白銀があんたらになんか殺意や悪意を見せたりした?」
「いえ……」
「そう、ならそれが答えよ。あいつはあんたらを絶対に害さない。絶対よ。それこそ私の貴重な頭脳をかけてもいいわ」
「了解しました」

伊隅は反論を全て飲み込んで了承する。その時彼女が香月の嫌う敬礼の姿勢を見せたのは、香月に対するささやかな批判を込めたからか、それとも気配りができぬ程注意力が散漫となったからか。

「ならこの話は以上。後近々あんた達に出てもらいわよ。具体的には10日以内に」
「はっ」

伊隅の顔からは不満が一切消える。久方ぶりの出撃だ。彼女は自身の部隊の状態を再確認しながら、出撃までの準備を脳裏に描いていく。話は終わりとばかりに香月は椅子を回転させ彼女に背を向けてしまう。伊隅は立ち去ろうとし、ふと気になったことを香月に聞く。

「そういえば白銀中佐はどちらに」
「彼なら帝都よ」


平穏が終わり、戦いが彼女達に再び近づこうとしている。


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