混迷する時代には常に『英雄』が求められる。
絶望的な状況の中から希望を見出すため。死の恐怖さえも振り払い、一心に仲間や守るべき者のために戦うため。
人々の指針となり、そして光明となる存在。
そんな意味では、彼は最もふさわしい存在と言えた。
XM3の開発者。オリジナルハイヴからの唯一の帰還者。地球からのハイヴの一掃と、人類に再び月をもたらした若き少将。
誰もが彼が英雄であるということには異論は挟まないだろう。
誰もが彼を尊敬し、彼のようになりたいと欲するだろう。
だが彼自身はそうは思わない。それどころか自分は罪人とさえも考える。
なぜなら
脳髄の状態になってまでも自分を求め続けた彼女を裏切り、彼女のいる世界への帰還を拒んだのだから。
己の命を捧げ、人類に勝利をもたらした仲間の挺身を、これから踏みにじることになるのだから。
彼は自分の行為の愚かさは分かっていた。
自分の身勝手さは分かっていた。それでも彼は歩を止めることを拒んだ。
矛盾を無視し思いを犠牲にしてでも叶えたい、そして達成しなくてはならない願いがあった。
皆の笑顔が見たい。一人も欠けることなく。
そんな途方もなく、現実性のない夢。
だけれども叶えなくてはいけない夢。
そして夢に向かって彼は歩き出す。理解も同情も栄光も。全てを捨てて彼は進みだす。
これはそんな独りよがりで優しい英雄と、それを支える少女達のおはなし。