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No.32864の一覧
[0] Muv-Luv Red/Moon/Alternative[大蒜](2012/04/21 02:12)
[1] 1、「また夢の話を聞かせてくれ」[大蒜](2012/05/17 12:54)
[2] 2、「なるほど、ミュータントじゃな」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[3] 3、「あれが、戦術機……!」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[4] 4、「世界最強の人間だ」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[5] 5、「ウゥゥゥーーーラァァァァ!!!」[大蒜](2012/05/17 12:56)
[6] 6、「ここに人類の希望を探しに来た」[大蒜](2012/05/17 12:56)
[7] 7、「光」[大蒜](2012/09/19 22:17)
[8] 8、「俺の名前を呼んでくれ!」~A.W.0011~[大蒜](2012/10/23 23:34)
[9] 9、「待っています」[大蒜](2012/05/18 20:43)
[10] 10、「大佐を信じて突き進め!」[大蒜](2012/05/18 20:44)
[11] 11、「ひどい有様だ」[大蒜](2012/05/18 20:44)
[12] 12、「秘密兵器」[大蒜](2012/09/19 22:21)
[13] 13,「どうしてこんな子供をっ!?」[大蒜](2012/09/19 22:15)
[14] 14、「やはり、あいつは甘すぎる」[大蒜](2012/09/19 22:17)
[15] 15、「メドゥーサ」[大蒜](2012/08/25 00:36)
[16] 16、「雷帝《ツァーリ・ボンバ》」[大蒜](2013/03/09 21:40)
[17] 17、「あなたに、力を……」[大蒜](2013/01/15 00:46)
[18] 18、「トップになれ」[大蒜](2012/10/22 23:58)
[19] 19、「Lolelaiの海」~A.W.0015~[大蒜](2012/10/23 23:33)
[20] 20、「ようやく来たか」[大蒜](2013/06/24 00:41)
[21] 21、「何をしてでも、必ず」[大蒜](2013/06/24 00:42)
[22] 22、「謝々!」[大蒜](2013/06/24 00:42)
[23] 23、「二人が揃えば」[大蒜](2013/03/24 19:08)
[24] 24、「私を信じてくれる?」[大蒜](2013/04/30 15:56)
[25] 25、「天上の存在」[大蒜](2013/06/17 11:22)
[26] 26、「絶対駄目っ!」[大蒜](2015/01/07 01:55)
[27] 27、「僕がニュータイプだ」[大蒜](2016/08/13 23:27)
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[32864] 6、「ここに人類の希望を探しに来た」
Name: 大蒜◆9914af20 ID:86f1a2a8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/17 12:56
6、「ここに人類の希望を探しに来た」~Prologue:Reincarnation~


***1987年 6月12日 タルキートナ基地 第一戦術機ハンガー 戦術機MiG-27機内***

 いくつもの戦術機が立ち並ぶ格納ハンガー。
 その中の一機、ソ連の第二世代機MiG-21アリゲートルの管制ユニットの中にユーリーはいた。

[歩行・跳躍制御システム スタンバイ]

[間接統計思考制御システム 接続状態…正常]

[可動兵装担架 正常 項目…………CIWS"ストレット"、予備弾倉4]

[K-35-300A、B 推進剤充填率100%]

[着座情報転送]

 鋼の巨人を動かすためのプログラムが刻々と立ち上がっていく。
 次々と流れる見慣れぬ表示の文字列をユーリーは淡々と目で追った。

 予定では第五世代人工ESP発現体が戦術機実習訓練に進むのは一次性徴が終わる12歳になってからだが、通常の訓練兵育成プログラムとは異なりIQが格段に高く、そしていつ計画が前倒しされるかわからない第五世代ビャーチェノワ達は前倒しで戦術機関連の知識だけは教えられている。

 しかしどうせMSと大差ないだろうと高を括って真面目に聞かなかったユーリーにとって初めて座った戦術機の管制ユニットは驚きと困惑の連続だった。 
 システム周りは勿論、起動手順も操縦桿の配置からシートの座り心地まで何もかもがMSとは違う。特に初めて受けたレーザー網膜投射映像は機械に自分の視界を奪われるようで大変気味が悪かった。

『こちらCP(コマンドポスト)トルストイ中尉だ。どうだ? 初めての戦術機、それも工廠から送られてきたばかりのモリ大尉のアリゲートルに乗った感想は』

 視界の隅に新たなウィンドウが表示されそこに映った若い士官がロシア人らしからぬ陽気な声で話しかけてきた。

 今ユーリーが搭乗しているのはザンギエフの副官であるモリ大尉がここタルキートナに赴任するに際して配備された新品のアリゲートルである。別に嫌味や悪意でそうしたわけではなく、戦術機での対戦を受けたザンギエフがユーリーに好きな機体を選ぶように言い、ユーリーは一番状態の良さそうな機体を選んで自然とそうなったのだった。

――ちなみに装備は迎撃後衛(ガン・インターセプター)仕様。これは主腕にA-97突撃砲と多目的追加装甲(シールド)を、背部の兵装担架ユニットにスーパーカーボン製の戦斧(ストレット)と予備弾倉を持たせた遠近両用の万能装備でユーリーは前世で乗っていたGXやドートレスの装備に比較的近いという理由からこれを選んだ。

「……意外と静かだ。ジェット戦闘機の派生兵器だからもっとやかましいのを想像していた」

 ユーリーの声に先程までの激しさは無い。
 今は戦う時。特に先程リュドミラを犠牲にした心の弱さをユーリーはただのパイロットに戻ることで埋めようとしている。

『主機のジェットやロケットは跳躍か飛行時にしか起動しないし、そもそも主動力は燃料電池の電力による炭素伸縮繊維だからな。音なんて出ようが無いのさ……っとそろそろ起動シークエンスはいいぞ、殻付きボウヤ。歩き方はわかるか?』

「大丈夫だ」

 操縦桿を僅かに前に倒すと同時に強化装備に付属したフットペダルを押し込む。
 すると思ったよりあっけなくアリゲートルは動き、格納ハンガーの扉を潜ることができた。

『よし、統合仮想情報演習システム――JIVESを起動する』

 トルストイ中尉の声と共に網膜投射映像で送られてくる景色が見慣れた基地の搬送道路から雪深いロシアの荒野へと変わり、同時にレーダーに三つの赤い光点――エネミーを示す光点が表示された。

 それを見て顔をしかめるユーリー。
 今回のザンギエフ大佐との決闘は一対一のはずだ。
 CPに抗議するために端末に触れようとする寸前で再び彼から通信が入った。

『さて、ひよっこボウヤ。私は詳しい事情は知らないが、察するにどうやら今回の決闘《タイマン》は君から大佐へ吹っかけたらしいな』

(決闘……)

 フラッシュバックする光景。
 あの巨人のようなモヒカンの男。背筋の凍りつくような舞闘と地面の味。
 そして血まみれのリュドミラ。

「………………」

『ああ、怒っているわけじゃないんだ。大佐がこういった挑戦を受けるのはいつものことだ。だが生意気なだけの新人士官ならともかく戦術機に乗ったことすら無い子供ってのは初めてでね』

 参ったね、とウィンドウの中のトルストイ中尉が大仰な仕草で両手を挙げた。先程の会話といい、彼はロシア人にしてはかなり大らかな性格のようだった。

『私はCPとしてお前をサポートをするよう大佐から言われている。だが戦術機に関して俺から言えるのは"考えるな、慣れろ"という事だけだ。幸い大佐の機体は空輸されたばかりだからイリューシンから降ろして調整が終わるまであと20分はかかる。つまりあと20分の内に君は基礎動作の習熟を終え、大佐を超える腕を身に付けさせなきゃいけない。……ハハハッ、絶対無理だけどな。けど大佐に強化装備を着させるだけの手間をかけさせたんだ。一応体裁だけは取り繕わなきゃいけない。そこでJIVESの仮想演習機能だ』

 中尉が手元を操作すると先ほどまで視界の端にあったレーダーマップが拡大される。
 表示された敵は3体。極々簡単な行動ルーチンのみを与えられたそれらは互いに連携を取る事無くバラバラに狭い範囲の中を移動している。

『訓練兵がシミューレーターで使う仮想敵戦術機のバラライカを三体入れておいた。これで存分に練習したまえ。なんなら撃墜できなかった分を本番で味方として登録してやってもいいぞ。大佐もそれくらいのハンディキャップなら認めてくれるさ』

「馬鹿にするな、ハンデなんていらねーよ!」

『あ、おいっ――』

 気遣う中尉の言葉を見下されたと感じたユーリーはCPとの通信を強制的に切る事で答えた。

「………………」

 再び管制ユニット内に静寂が戻る。
 レーダーに映された赤い光点と自機との距離は手前から8000、8500、9000。
 手始めに主武装である突撃砲と飛行能力の性能を確認するため、とりあえず近づいて一機落とそうとアリゲートルのバーニアを・・・・・吹かしたところで予期せぬ出来事が彼を襲った。

「うわっ! わわっ!」

 操作に従って跳躍ユニットに点火し、ロケット機構から推進剤を噴出した反動で大空に舞い上がったアリゲートル。
 だが跳躍ユニットが腰にあり、しかもAMBACではなく空力で飛ぶという戦術機の特性をすっかり忘れていたユーリーは戦術機の予想外の軽さと操作に対する反応の鈍さに慌ててしまい、操縦桿を無茶苦茶に動かしてしまった。
 そのせいで跳躍ユニットはあらゆる方向ににデタラメに向けられることになり、アリゲートルは空中でバーテンダーが使うカクテルシェーカーの中に入れられたかのようにガクガクと上下に揺さぶられる。

「ク―――ッ!! 」

 無論、そんな事をして無事に飛行し続けられるほど戦術機は便利にできていない。
 無茶苦茶な機動のせいで完全に揚力ようりょくと安定を失った機体は急速にその高度を落として地面に近づいていく。

[高度警告! 墜落の危険があります]

 高度30メートル。どうにか操作感を掴んだユーリーが再度跳躍ユニットを吹かして機体を立て直したのは、墜落を予期した自動衝突回避装置が管制ユニットの操作へ介入する寸前であった。

『ヒューッ! 今のは危なかった! 開始前に墜落しちまう所だった。冷や汗かいちまったよ』

「う、うるせーよっ! ちょっと空中機動の把握に手間取っただけだ!」

 勝手に再接続してきた中尉の通信に怒鳴り返すユーリー。
 だが内心では彼も相当焦っており、強化服でなければ冷や汗でぐっしょりと濡れていたのは間違いない。

(そうか、機体重量に対して跳躍ユニットの推力が高い分、空中での操作がデリケートなんだ。これが戦術機……いつまでもMSパイロットの感覚じゃだめだ。機体の特性を掴まないと……)

 そう決意すると今度は若干慎重に操縦桿を動かす。
 最初は高度をとって簡単な通常の機動を、そして徐々に高度を下げて戦術機特有のNOE――光線級の攻撃を受けないための地面ギリギリでの匍匐飛行を試す。
 それから上がったり下がったり更に急加速と急制動を繰り返したユーリーは通常機動を一通りマスターしたと判断して、今度は戦闘機動を行うために一番手近な敵へと向かっていった。

 JIVESに設定された標的は戦術機の源流であるF―4ファントムのライセンス生産機であるMiG-21バラライカ。
 今尚多くの衛士が搭乗し確かな運用実績を誇る傑作機であるが、無人で低出力の跳躍ユニットしか持たないそれらは低空でゆるく飛行を続けており、時折思い出したように左右に機体を向ける以外は全く戦術機らしい機動をとってはいない。

 物足りない感はあったが、そこは武装の確認のためと割り切って直線軌道のまま前方にA-97突撃砲を向ける。そしてカーソル表示がロックオンになるのを待ってから操縦桿の引き金を引いた。

 A-97の銃口から断続的にマズルフラッシュが起こり、吐き出されたペイント弾がJIVESに表示されたMiG-21をすり抜けて地面へ撃ち込まれる。撃墜と判定されたバラライカがポリゴン崩壊のチープな演出とともに消滅した。

『うまいじゃないか! おめでとう、初撃墜だ。ハハハッ! どうだ嬉しいか? これが20年前ならあと9機でお前はエースだぞ』

 まともな訓練も受けていない子供が初めて乗った戦術機で低速とはいえ不規則に動き回る敵機を一射で撃墜。
 例えその功績の殆どが搭乗した戦術機のロックオン機能と航空機動制御のおかげだとしてもトルストイ中尉からの将来の優秀有望な衛士への賛辞に嘘はない。

 だがトルストイにとって不幸なことにこの子供は彼が思っている以上に無感動で生意気だった。

「……こんなんじゃ駄目だ」

『は?』

「おい中尉、もっとバラライカの動きを良くできないのか? こんなんじゃ紙飛行機でも撃ってた方がまだましだ」

『こ、この糞餓鬼……!』

 それまでの新人を見守る先輩としての気分を台無しにされたトルストイは手元のコンソールを操作してバラライカの行動レベルを最大にまで上げる。それは通常、仕官した衛士が本格的な対人戦闘訓練で用いるプログラムだ。
 同時にそれまでバラバラに逃げていた2機のバラライカはまるで示し合わせたかのように軌道を変更。合流し一直線にアリゲートルの方へ向かってくる。

『これで希望通りだ、ひよっこボウズ! もう知らないぞ、大佐と戦う前に赤っ恥かいて泣いちまえ!』

 熱くなる一方のトルストイ中尉を気にもせずに、ユーリーは敵が連携を取り始めたことを冷静に分析して、一方的に挟み込まれないようにJIVESによって表示されている仮想の市街地へと機体を移動させた。

――距離1800,1700。

 赤い光点は高速で、しかも時折交わりながらアリゲートルの隠れている廃ビルの方へ近づいてくる。

――1100、1000

 そして互いの突撃砲の射程ギリギリで散開し、バラライカが左右から挟み込もうとしたところでアリゲートルはビルの陰から飛び出した。

 即座に反応し突撃砲での迎撃を行うバラライカ。
 前後から襲い掛かる火線をアリゲートルは噴射地表面滑走サーフェイシング中に右足で地面を蹴り左にステップすることで避けるが、それはユーリーが思い描いていた動きよりも遥かに遅い。

 なんとか一発ももらわずに避けきったが、反撃として突撃砲のトリガーをひいた時には既に前方のバラライカは回避行動に移っており、ユーリーはまともに反撃もできないまま再びビルの陰に隠れる羽目になった。

(動きが固い! それにさっきの挙動、36ミリの反動も受け流せないのか!)

 乗ることで初めて知った戦術機の反応の鈍さと主腕の華奢きゃしゃさ。

 例えば先ほどの回避行動。右足で地面を蹴った後、本来なら着地の直前にもう一度左足で地面を蹴ってバラライカに接近戦をしかけるはずだった。
 そしてその後の反撃もロックオンによる自動照準を待たなければ、もしくは一拍遅れた射撃でも連射の反動で銃口さえぶれなければ何発かは命中したはずだ。
 回避行動を阻害したのは自立姿勢制御プログラム、そして反撃を遅らせた自動照準。
 本来なら衛士を守り戦闘を助ける二つの機能だが、彼という秀逸な乗り手の前では技能を縛る枷にしかならない。

(クソッ! 泣き言なんて言えるか! この戦いにはリュドミラの自由と俺の意地がかかってるんだ!)

 機体アリゲートルが自分についてこられないならば自分が機体に合わせればいい。

 追撃をかわし、アリゲートルを三度みたび、適当なビルの影に隠れさせたユーリーは手を操縦桿から離して大きく深呼吸をした。

「ふぅぅぅ、はぁーーー」

 目をつむり深呼吸と共にユーリーは自分のパイロットとしての思考を組み替えていく。
 動作終了後の制御プログラムによる硬直。そして自動照準と連射時の突撃砲の挙動。それらを乗り越えるには自分は突出した技能を持つニュータイプであってはいけない。
 目指すは最速ではなく最適。言うなれば精密機械。反応速度や第六感に頼るのではなく、隙を作らない堅実な機動と淡々と敵を追い詰める戦略が必要なのだ。

『どうしたひよっこ? 気分でも悪いのか? それとも降参するか?』

 突然機動を止めたユーリーに対して中尉から通信が入る。
 バイタルモニターはフラット。だがユーリーが着ている強化装備はブカブカの物(それでも国連軍で支給している物の中では一番小さかった)をバンドで無理矢理止めた急造品であり、先ほどから度々バイタルデータをロストしているのでアテにならない。

――戦術機の管制ユニットはその恐ろしい揺れから慣れない者や衛士適正の無い者にとっては地獄に等しい。そもそも専門のトレーニングを積んだ現役の衛士でも強化装備のフィードバック無しには戦えないほど戦術機は激しく揺れるのだ。
 それはこの世界の科学技術もっても解決できない問題であり、人道などおかまいなしのオルタネイティヴ3ですら人工ESP発現体が戦術機で闘うのは12歳になってからと規定した理由である。

「ふぅぅぅぅ……いや、心配無用だ」

 目を瞑ったままユーリーが答える。

『……そうか。まあ問い詰めても仕方ないからこれ以上聞かないけどよ。気分が悪くなったらすぐに降りろよ。吐くくらいならまだしも、お前みたいな子供なら戦闘機動で口から内臓が出てきてもおかしくないんだからな』

「了解……っと」

 それまで陰に隠れたアリゲートルの出方を窺うようだった二機のバラライカの動きが変わった。
 まるで痺れを切らしたかのように一機のバラライカがユーリーが隠れているビルに3発もの120mmを打ち込む。
 ビルの倒壊とともにバラライカは噴射跳躍しながらシースから短刀を引き抜きアリゲートルの頭上から迫った。

 薄目を開けるユーリー。

 静かに半歩、最小限の動きだけで瓦礫の雨とバラライカの短刀をかわす。
 空振りしたバラライカはすぐさま姿勢を整え再攻撃しようとするが、それよりも早く背部装甲に突きつけられた突撃砲からゼロ距離で36mm弾が放たれた。

『仮想敵B撃破……! なんだ、今の動き……?』

 背中から管制ユニットを貫かれたバラライカがポリゴンとなって崩れ落ちる。同時に残るもう一機のバラライカより放たれた火線をユーリーは上昇することで逃れた。

 僚機を失ったバラライカもアリゲートルを追撃すべく若干遅れながらも空へと躍り出る。

 だが軽やかに空に突き抜けたアリゲートルに対しその動作は明らかににぶくてぎこちない。先ほどは連携に気を取られてユーリーにはそこまで見る余裕は無かったが、敵は結局は第一世代戦術機、それも粗末なプログラムだけで組まれた仮想の無人機なのだ。
 連携行動は教本をそのまま写せばいいが、高度な判断と複雑な制御を要求される個人機動に関してはやはり圧倒的に能力が不足していた。

 上空を取ったアリゲートルが眼下のバラライカに向けて突撃砲の引き金を引く。わずか一秒の連射。
 銃口から飛び出したのはたったの六発の弾丸だったが狙い済ましたその攻撃はバラライカの右肩部に命中しその攻撃力と姿勢バランスを奪う。先程までのアリゲートルの照準精度からすれば考えられないほどユーリーの射撃は正確だった。

「トドメッ!」

『あ、おい! 何をする気だ!?』

 そう叫ぶとユーリーは若干左足を曲げた状態で跳躍ユニットを地上へ向け噴射降下ブーストダイヴする。右足を矢のようにまっすぐに伸ばし光の尾を引きながら猛烈な速度で降下するアリゲートルと、その先には右腕を失ってフラフラと飛ぶバラライカ。

――刹那の交錯。

 実態を持たないバラライカをすり抜けたアリゲートルは何事も無く地上へ着地。
 レーダーには既に赤の光点はない。

 そう。まったく馬鹿げた話だが、彼はカンフー映画顔負けの飛び蹴りでバラライカを墜としたのだ。

『仮想敵C、頭部破損のうえ墜落……撃墜判定』

 もはや驚きの声も出ないといった様子で中尉が告げた。


**同時刻 同基地 第4戦術機ハンガー横 ドレッシングルーム***

「ザンギエフ大佐! これは一体どういうことじゃ!?」

 ザンギエフがハンガー横のロッカールームでソ連陸軍の強化装備(特注サイズ)に袖を通していると突然、白衣の老人が怒鳴り込んできた。

第五世代ビャーチェノワは未だシミュレーター訓練どころか簡易適正審査すら行っておらんのだぞ! 戦術機などに乗せてもまともに戦えるはずあるまい。こんなことに一体なんの意味がある!?」

 が鳴り立てる老人に強化装備を着ける手を止めるザンギエフ。
 いかにもうっとおしいというように目線だけを老人に向けた。

「……オルタネイティヴ計画の技術責任者ラフマニノフ教授か」

「そうじゃ。ここでは技術中佐などという階級を貰っておるが……計画に関する実質的な権限はザンギエフ大佐、おぬしより上だと思ってもらいたい!」

「それで、何か問題が? オレはここには教官として派遣されている。生徒の訓練内容に関しては一任されているはずだ」

「だが訓練で事故を起こす・・・・・・許可は出とらんはずじゃ。おぬしのおかげで優秀なESP発現体が一人危篤状態に陥っておるというのに、今度は子供相手の実機演習など党や基地司令が許可するはずなかろう!」

 二人の視線がぶつかり合い火花を散らす。
 教授は老獪な政治家でもザンギエフのような強面こわもてでもないが、こと研究対象のことになるととてつもない集中力と胆力を発揮するタイプである。

 あれから2時間。
 セルゲイ達オルタネイティブ3チームが意識の戻らないリュドミラを医務室に緊急搬送しCTスキャンにかけた結果、彼女の頭部には深刻な頭蓋骨骨折と脳挫傷が確認された。
 人工ESP発現体の生産は既に止められているため、第五世代ビャーチェノワ――それも第六世代シェスチナに準ずるほどのESP能力を持ったリュドミラは"人命並みに"貴重である。
 すぐさま非番だったニコライを呼び戻し、オルタネイティヴ計画直属の医療スタッフ総動員で懸命の手術オペレーションが行われたが、リュドミラの治療はそれでも難しいという程状況は切迫していた。

 だがセルゲイ教授にとって本当に重要なのは自身の研究成果の結晶たるリュドミラの方ではなくイレギュラーであるユーリーである。
 彼の持つ特殊な能力はセルゲイにとって未知の領域だ。彼が産まれて八年。一時は行き詰っていたESP能力の開発もユーリーを研究することで徐々に勢いを取り戻しつつある。
 ここで彼を失うのはなんとしても避けたい故の抗議だった。

「訓練許可なら先ほど下りた。そもそも、私がここに来たのは党からあのユーリーという子供を制御下に置くよう依頼されたためだ」

「何じゃとっ!?」

 教授の顔が驚愕に染まる。
 ソビエト連邦政府にとってオルタネイティヴ3計画の進捗の重要度は高い。セルゲイ教授自身もソビエト政府に資材を発注し、報告書を送っている以上あの突然変異ミュータントに関してもいずれは言及されるだろうと覚悟はしていた。
 だがいくら重要な機密を含む仕事であるとはいえ、送られてきたのがあのザンギエフ大佐! 書記長(ソビエト連邦共産党の最高職)の信頼も厚く国土防衛の切り札である彼を、一体どんな手を使えばただ一人の子供のために派遣することができるのか。

「…………ッ! そうか、セラウィクの全連邦党大会! ヴィクトールの奴、英雄殿を政治の舞台から引き離す口実で国連軍に引っ張ってきたのか」

 武勇高くソ連に並ぶ者無き赤きサイクロン。
 公平で潔癖な性格は軍人に信奉者が多い一方で、後ろ暗いところのある官僚や党の議員からは脅威として見られていた。
 例えザンギエフ本人にその気は無くともその名前はあまりに大きく、ザンギエフが活躍する度にいつかは"公の場で自分の不正を弾劾されるのではないか""政治家となり自分の地位を脅かすのではないか"という不安は募っていく。その不安が最高潮に達するのが本日から行われている全ソビエト連邦領から代議員が集まるセラウィクの党大会であった。

 一方で国連軍人にしてオルタネイティヴ計画の監視役であるヴィクトール・ガスパロフの党への貢献は大きい。元々の名声もあるが、オルタネイティブ計画の誘致から研究内容のソ連への利益誘導まで、彼は国連軍少将として使えるあらゆる手管てくだを使って党に貢献してきた。
 恐らく彼は最高評議会へはオルタネイティブ計画のためにと言い、もう一方でミハイル・ザンギエフを党大会に出席させないために彼を国連軍に出向させたのだと教授は確信した。

「否定はしない。だが勘違いするな。確かにここにきたきっかけはヴィクトールが手を回した事だが、それだけではない。オルタネイティヴ計画に関わりたいというのは私自身の意志だ」

「馬鹿な! 力も、名誉も、軍からの独立行動権すら認められた程の人間が今更何を望む? BETAへの復讐か? 心を見るESP能力か? それとも病を治す遺伝子技術か?」

 真意が見えないザンギエフの言葉にセルゲイは驚き、問い詰める。
 超能力、最先端の遺伝子治療技術。普通に人間ならば喉から手が出るほど欲しい物だ。BETAへの復讐を考えない衛士もこの世界にはいないだろう。
 だがザンギエフは首を振ってそれら全てを否定した。

「希望だ。私はここに人類の希望を探しに来た」










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