<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.32864の一覧
[0] Muv-Luv Red/Moon/Alternative[大蒜](2012/04/21 02:12)
[1] 1、「また夢の話を聞かせてくれ」[大蒜](2012/05/17 12:54)
[2] 2、「なるほど、ミュータントじゃな」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[3] 3、「あれが、戦術機……!」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[4] 4、「世界最強の人間だ」[大蒜](2012/05/17 12:55)
[5] 5、「ウゥゥゥーーーラァァァァ!!!」[大蒜](2012/05/17 12:56)
[6] 6、「ここに人類の希望を探しに来た」[大蒜](2012/05/17 12:56)
[7] 7、「光」[大蒜](2012/09/19 22:17)
[8] 8、「俺の名前を呼んでくれ!」~A.W.0011~[大蒜](2012/10/23 23:34)
[9] 9、「待っています」[大蒜](2012/05/18 20:43)
[10] 10、「大佐を信じて突き進め!」[大蒜](2012/05/18 20:44)
[11] 11、「ひどい有様だ」[大蒜](2012/05/18 20:44)
[12] 12、「秘密兵器」[大蒜](2012/09/19 22:21)
[13] 13,「どうしてこんな子供をっ!?」[大蒜](2012/09/19 22:15)
[14] 14、「やはり、あいつは甘すぎる」[大蒜](2012/09/19 22:17)
[15] 15、「メドゥーサ」[大蒜](2012/08/25 00:36)
[16] 16、「雷帝《ツァーリ・ボンバ》」[大蒜](2013/03/09 21:40)
[17] 17、「あなたに、力を……」[大蒜](2013/01/15 00:46)
[18] 18、「トップになれ」[大蒜](2012/10/22 23:58)
[19] 19、「Lolelaiの海」~A.W.0015~[大蒜](2012/10/23 23:33)
[20] 20、「ようやく来たか」[大蒜](2013/06/24 00:41)
[21] 21、「何をしてでも、必ず」[大蒜](2013/06/24 00:42)
[22] 22、「謝々!」[大蒜](2013/06/24 00:42)
[23] 23、「二人が揃えば」[大蒜](2013/03/24 19:08)
[24] 24、「私を信じてくれる?」[大蒜](2013/04/30 15:56)
[25] 25、「天上の存在」[大蒜](2013/06/17 11:22)
[26] 26、「絶対駄目っ!」[大蒜](2015/01/07 01:55)
[27] 27、「僕がニュータイプだ」[大蒜](2016/08/13 23:27)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[32864] 20、「ようやく来たか」
Name: 大蒜◆9914af20 ID:86f1a2a8 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/24 00:41
20、「ようやく来たか」~Muv-Luv:Reduced Moon~



***1989年12月16日 8時00分 日本帝国 千葉県 成田国際空港***

――1989年。
 この年、国連が月周回軌道上に設置したSHADOWが成果を上げた。
 二度にわたるBETA着陸ユニットの飛来を受け、国連安保理が1975年に構築を決定した月軌道監視網・L1早期核投射プラットフォーム・地球周回軌道核攻撃衛星群による最終迎撃ラインの3つを柱とする対宇宙全周防衛拠点兵器群「シャドウ(SHADOW:Spaceward Hardwares for All-Round Defensive Ordnances and Warheads)」がついにその有用性を証明したのだ。
 月面より飛来したBETA着陸ユニットと思われる物体に対し、対宇宙全周防衛拠点兵器群 SHADOWによる迎撃を初展開、この軌道を逸らせることに成功する。
これによって人類が何よりも恐れていた後方国家へのハイヴ建造による対BETA二正面作戦の可能性は回避することができた。

 そしてこの年の日本帝国は治安良好にして大陸戦線の活発化に伴う軍需によって経済も好調。
 極東最大にしてもはや唯一の経済大国となったこの国の玄関口、成田空港に極北の国から二人の姉弟が降り立った。

「ここが日本かぁ……私、ついに外国に来ちゃった」

 少女が感慨深げに辺りを見回す。

 2人がいるのは千葉県成田市に11年前に建設された成田国際空港だ。
 東京へのアクセスの不利や面倒なチェックが多いせいで羽田空港ほどの利用客は無いが、羽田と違って米軍に航空管制権を握られていないのでソ連の旅客機の発着はこちらが主になっている。
 成田自体は温暖な千葉の中でも比較的内地にあり、周囲に大きな山が無いせいで冬はやや厳しい。

 とはいえそこはロシア人である二人。この程度は涼しいくらいにしか感じない。
 二人は祖国を出立する際にコートと毛皮の帽子―ロシア人のシンボルであるウシャンカ帽―を用意していたが、この予想外の気温のせいで今や余計な荷物となっていた。

「おい、見ろよリュー、食い物屋に蛸≪シミノォク≫の絵が描いてあるぞ! 日本人≪ヤポンスキ≫お得意のゲテモノ料理だ! 行ってみようぜ!」

「ちょ、ちょっと待ってよ! 私達、まだルーブルしか持ってないのよ!」

 リュドミラは置いて行かれまいと慌てて荷物を掴んで走り出した。
 その途中でなんとか両替所を見つけ旅行用の財布の中身をすべて円に両替してもらう。

 彼女がようやく店にたどり着けばユーリーはすでに注文を終えていて、店主がレジに数字を打ち込んでいる所だった。

「おい、美味いぞ! 見えなきゃタコも食えるもんだな」

「むぅ……」

 リュドミラに半分残した皿を差し出し、唇についたソースを舐めとるユーリー。
 納得いかない様子でリュドミラは支払いをしながらソレを受け取る。

 お店で出していたのはたこ焼き――ボール型のピザのような食べ物だった。
 後方国家の日本にも食糧難の余波はあったらしくタコ以外の食材は合成物であったが、それでも前線で出すカロリーと見た目だけの食事とは雲泥の差だ。

「思ったより高かったわ……あれだけあったルーブルがエンになるとこんなに心細くなるなんて……日帝恐るべし」

 財布を握りしめて戦慄するリュドミラ。
 舟の半分を食べてたこ焼きの味には納得したが、たかが軽食で500円も取られるとは思ってもみなかった。

「ルーブル安の円高だしな。大陸の戦況悪化で安全な南半球や島国に資本や産業が集まってる。台湾や東南アジアと違って大規模な米軍基地を抱えて戦術機の独自開発を行っているこの国は今一番狙い目の投資先になってるんだ。ま、どうせ国に帰っても前線勤務で金の使い道なんてないんだし、今日は旅行と割り切ってぱぁ~っと遊ぼうぜ!」

「ぱぁ~っとって言われても……、スケジュールはどうなってるの?」

「18時にヨコハマの白陵迎賓館って所でレセプションが行われるらしい。一応博士から代理の一筆もらってるけど、俺達はどう見ても子供だからな。面倒くせえ事聞かれないようにギリギリに入る。トーキョーならどこでも寄れるぜ」

「ふーん。……あ、そうだ。私この国のスポーツが見たい」

 ポンと手のひらを叩いてリュドミラが言った。

「日本のスポーツ……? あの大男が裸で戦うスモーってやつか? それなら多分チケットとれるぜ。ザンギエフのおっさんの知り合いにオーゼキタイトルがいたはずだ。セラウィクの葬儀に来てただろ? あのやたらと声のでかい歌舞伎男」

「ううん、スモーじゃないわ。もっと別の物よ。このガイドブックによると400年以上前から伝わる|日本人≪ヤポンスキ≫究極のスポーツがあるんだって」

 彼女が広げて見せたガイドブック――どこで手に入れたか気になる胡散臭い出版社の物――の挿絵には白い陣羽織をはだけて上半身にサラシを巻いたサムライの姿がある。
 どこかの野外で大勢のギャラリーに囲まれる中、鬼気迫る表情で佇む姿はまさしく試合に臨むアスリート、という風にユーリーには見えた。

「この絵、どっかで見覚えがあるな……? けど、究極のスポーツなんて代物だったか?」

 ガイドブックを見るが競技の名前と挿絵以外は大した情報が載っていない。
 国交の少ないソ連に伝わっている程なのだから、よほど有名なスポーツなのかもしれないと推測できる。

「ねえユーリー。とりあえず東京の方に行ってみましょうよ。横浜までの通り道だし、途中で〝国技館"って場所に寄れば実際にこれを見られるかもしれないわ」

「そうだな。俺たちも少しは日本語喋れるし、向こうで誰かに聞けばわかるだろ。えーっと〝ワタシワ"……なんだっけ?」

「ふっ、まだまだ勉強が足りないわね。いい? 私達ナァスは"ワタシタチ"、見たいヴィーデチは"ミターイ"だけどこの場合は丁寧語になって"ミセテクダサイ"。だからこの場合は――」

 文章が続かず、日本語の教科書を取り出したユーリーに先んじて、リュドミラが胸を張って鼻高々に言い放つ。

「――"私達にセップクを見せてください"って聞けばいいのよ!」


 あまりに間違えた彼女の発言に、周囲の日本人達が一斉にズッコケた。




***12月16日同日 17時30分 神奈川県横浜市柊町 第2児童公園***


「ふぃ~遊んだ遊んだ」

「お城、凄かったね」

 夕暮れから夜へと差し迫った柊町の公園のベンチで休む二人。
 今日はほぼ一日かけて成田から両国、日比谷、お台場、浅草そして横浜を回ってきた。
 二人は前線はもちろんソ連のセラウィクですら見られないような土産物や食べ物を見つける度に、財布を軽くしながらしながら日本を満喫していったのだ。
 レセプションの開始まではあと少し。既に日は沈みかかっていて街では街灯が灯されている。
 再び遊びに向かうには短過ぎ、しかしただ立っているには長すぎるこの時間のために、二人は偶然通りかかった公園に腰を落ち着けることにしていた。

 公園自体は少し高い場所にあるのか、ここからは町全体が見渡せる。
 街には各家庭に電灯が通い、どの民家からも夕食と風呂の準備によってアチコチから暖かそうな湯気が上がっている。穏やかでありながら賑やかな光景。
 電力制限や24時間の工場可動によって常に誰かが働いているセラウィクでは有り得ない、眩しいほどの平和の光景だ。

「……いい国だな。BETAもいねえし飯も美味ぇ。緑もあるし何より活気がある」

「そうだね。歩いてる人達、みんな暖かい色してた」

「外国語を喋れる奴が少ないってのは難点だけどな」

「――だねっ! あはははっ!」

 成田空港を離れる際に日本人たちが身振り手振りで一生懸命本来の"セップク"について説明しようとしていた様子を思い出してリュドミラは笑い出した。

「あ、誰か来るよ」

「……子供?」

 二人の方へ近づいてくるのは気の強そうな茶髪の男の子とその影に隠れる赤い髪の女の子だ。見た感じでは二人はユーリーとリュドミラよりも年下。

 
――や、やめようよ~。あの人たちの言葉、なんだか英語っぽくないよ? ちゃんと通じないかもしれないよ?

――うっせーぞ純夏。本場の英語は聞き取り辛いって先生も言ってただろ。それに大人よりも子供の方が話しやすいに決まってる

 日本語は半分ほどしか聞き取れないが、リーディングで大体の思考がわかる。
 敵意はなさそうだ。

 リュドミラとユーリーがベンチに座りながら二人組を眺めていると、近寄ってきた茶髪の男の子の方がたどたどしく片手を上げた。

「は、ハロー!」

「Привет! (よう!)」

「ぷ、ぷりヴぇ……? えっ?」

 悪戯心を発揮したユーリーの反撃にあって、目論見を崩された男の子は狼狽えた。

「А как тебя зовут?」

「え、ええとその……」

 半泣きになる少年。

「Я из――痛ってぇ!」

 これは面白いとユーリーがさらに畳みかけようとした瞬間、頭頂部に鋭い拳骨が飛んできた。

「イジワルは禁止! ――ビックリさせてゴメンね。私達少しはニホンゴ喋れるよ」

「えっ? そ、そうなのか?」

「うん。私はリュドミラ。それでこっちが私の弟」

「ユーリーだ。あ~~、いてぇ。……ま、日本語なら今日一日でコツは掴んだと思うぜ」

「――あの、お兄さん達は横須賀から来たんですか?」

「ヨコスカ……? ああ、在日米軍の基地か。違う違う。俺たちソビエト連邦から来たんだ」

「ソビエト――って確かロシアの国で、何十年も戦争してるんですよね? あ、あの! 私たちに戦争の事について教えてくれませんか?」

 日本語ができるとわかると赤毛の少女が身を乗り出すようにして聞いてきた。

「――戦争の事を? お前ら、ひょっとして軍人になりたいのか? 止めとけ止めとけ。俺達が言えた義理じゃないけど、ロクなとこじゃないぜ。シンドいし、給料安いし、汗臭いし、上下にうるさいし、朝も早い。あとついでに命も危ない」

「ユーリー、子供の前でそんな風に言っちゃうのはちょっと……」

 ジト目でリョドミラが睨みつける。

「私達、この間横須賀のベースのお祭りに行ったんです。その時にナントカっていうロボットを見て――」

「――ロボットじゃねえ、戦術機だ! それより、教えてくれよ。俺、衛士になりたいんだ! でも衛士ってなるには軍隊に入る前から、いっぱい勉強しなくちゃいけないんだろう? 俺も純夏も勉強苦手だからさ、戦場に近い国の人から色々聞いておきたいんだ!」

「ほぅほぅ」

 二人共かなり積極的だ。
 単なる外国人珍しさで近寄ってきた子供だと思っていたユーリーとリュドミラは素直に感心した。

「その年でフィールドワークとはな。よしよし、勉強熱心な子供達にお兄さん達がちょっと教えてやろう。お前らも知ってると思うが戦術機ってのは最新技術の結晶だ。戦術機ができる動きは人間の体とはかなり違う。空は飛べるし、四重構造の関節は逆に曲がる。それに背中や腕から武器を取り出すための背部兵装担架も付いてる。逆に人間の体ほど器用じゃないし、コンピューターの処理の関係で動作ごとに硬直もある。とにかく人間のカラダと全然構造が違うんだ。それらの機能を効率的に運用するためには――って……」

「「………………」」

 気づけば茶髪の少年は目を虚ろに、赤毛の少女はポカンとしている。
 年齢以上の熱意を持っていると言っても、所詮は小学生だった。

「難しすぎたか……。要するにイメージだよ、イメージ。自分が脳みそだけになって直接操縦する所を想像しろ。手足を動かしてレバーやペダルを操作するんじゃなくて、自分が求める動きを直接機体に反映させるんだ。早く前に進みたきゃ、ドシドシ走るんじゃなくてブワーって飛ぶんだよ。腰のロケットも背中のアームも、戦術機の機能を付属品じゃなくて自分の体の一部だと考えられるようになれば、衛士になるのなんて簡単なもんさ!」

「なるほど……」

「お、今度はわかったか?」

 理解の色を示す少年に安堵するユーリー。
 だが――

「いや、ほとんどわかんねえ。でもそこで目を回している純夏よりはマシだぜ!」

「そ、そそそそそんな事無いよ、バッチリだもん! 大体、私のほうがちょっぴりお姉さんなんだからね! 年下にわかって年上にわからないわけないじゃない!」

「はははは、やっぱ純夏は馬鹿だな! 残念でした。俺は今日が誕生日。お前と同い年だぜ!」

「――あっ、そうだった……。あうあう~~」

「……そういえば、お兄さん達も俺と純夏とそんなに年は変わらないよな? どうしてそんなに戦術機のこ」「あ――――っ!」

 少年の言葉を遮ってリュドミラが絶叫を上げた。
 彼女はベンチを立ち上がるとそばに置いていたトランクケースを大急ぎで引き寄せる。

「ユーリー! 時間!」

「ん? ――おっ? うぉおおおおお!?」

 公園の時計が指す時間は6時10分。迎賓館はここから車で5分の距離とは言え完全に遅刻だ。

「やべぇ! 急いで着替えないと……おい、お前ら! ちょっと荷物見ててくれよ!」

「ええっ?」「ふぇっ?」

 慌てた様子でビニールに包まれた服を持って茂みに消えていくユーリーとリュドミラを二人は呆然と見送る。

 それは果たしてどんな早業か。一分もしない内に服を着替え茂みを出てきたロシア人の姉弟は赤星付きの完璧な正装――ソビエト連邦陸軍の二種軍装の姿をしていた。
 二人の変身に驚きながらも、少年はその胸元に煌く翼の紀章に気がつく。

「あ、あんたら、そのウィングマーク……!」

「ごめんね、二人共! 私達これから用事があるの!」

「少年とスミカ! もし軍隊に入って訓練が厳しくても挫けるなよ! 好きな人、好きな場所……なんでもいい! 一度何かを守りたいと思ったら、どんな時でも絶対に譲るな! ――ヘイ、タクシー! 白陵迎賓館だ!」

 リュドミラとユーリーはそれだけを告げると、風のような速さで公園を飛び出し通りかかったタクシーを掴まえる。
 タクシーはタイヤを焦がしながら急発進し、話のお礼どころか挨拶をする間もなく二人は行ってしまった。

「……なんだかすごい人たちだったね」

「……そうだな」

 平和な日本で育った幼い二人には、前線国家で育つ実感を込めた言葉を完全には理解することはできない。
 だが彼らの言葉が大げさだとは感じない。子供ながらの直感で、彼らが言おうとした事はとても大事なのだと感じ取っていた。

「なあ純夏。俺やっぱり大人になったら軍人になるよ。軍隊に入って衛士になればあの外国の人達が言ってた事がわかるかもしれない」

 ポツリと呟いた少年の背丈は年相応に小さい。
 だが少年をずっと見てきた少女にはこの短い時間だけで彼が少しだけ大きくなったように見えた。

「仕方ないなぁ。じゃあ私は武ちゃんのロボットを直す整備士になるよ。そしたら私達ずっと――」

 赤毛からピンと跳ねた少女の髪の一房がクルクルと動いてハートマークを象る。
 続くセリフは彼女にとって一生に一度の大勝負となるはずだったのだが――

「――はぁ~!? 整備士ぃ~~? おい、純夏、お前なんでそんな地味なのになろうとしてんだよ?」

「なぁっ!? そ、それは、……ゴニョゴニョ……整備士と衛士との恋愛は鉄板ってラジオドラマで……ゴニョ……」

「小声で喋るなよ、聞こえないぞ。それより俺が衛士になってもお前の整備した戦術機なんて絶対乗らねえからな。お前のことだ。うっかり部品何個か忘れてそうだ」

「う、うるさいなー! 整備士を馬鹿にしたら許さないんだから! 謝れ! 世界中のうっかり整備士さんに謝れ!」

「……馬鹿だ。やっぱ馬鹿だわ、お前」

「ムキィーーーーッ!!」

 周囲はすっかり暗い。
 二人は賑やかに家路を急ぐ。

 子供たちは迎賓館で何が行われるか知る由もなく、横浜柊町は今日も平和を謳歌していた。



***同日 18時15分 柊町白陵迎賓館***

 やたらとノリのいいタクシー運転手にお礼を言って、姉弟は目的地の迎賓館へと降り立った。
 迎賓館の門に立っていたボーイに招待状を見せてその白亜の扉を開く。

 オレンジ色に煌くシャンデリア、吹き出す暖房の熱気と料理の匂い。
 先進戦術機技術開発計画という近未来を語るレセプションであるにもかかわらず、会場はまるで中世の舞踏会のようだった。

 世界中から集められた技術者(大半は無名の人物)は煌びやかな照明の中で皆料理を片手にお互いの情報交換に勤しんでいる。その中には談笑しつつ油断なく周囲に目を配っている者もおり、少なくない数の諜報部員がここに紛れ込んでいるようだ。

「東郷って人はどこかしら?」

「わかんねえ。でもここに残っている奴らは殆どが金を掠め取る事しか考えてない詐欺師かスパイばっかりだ。もしトーゴーって奴がそんな中にいれば身動きが取れなくなる。きっとどっか別の場所で目当ての奴らを待ち構えているはずだ」

 ユーリーはキョロキョロと周囲を見回すが迎賓館の中は中央ホールは広く、人通りも多い。
 さすがのリーディングも、名前しか知らない相手のイメージを捉えるのは困難だった。

「別れて探しましょう。一人一人読んでいけば、誰か居場所を知っている人がいるかもしれないわ」

「ああ」

 頷いて、リュドミラと分かれて人ごみの方へと歩き出す。

 会場には老若男女国籍を問わない多くの集団があったが、大まかに官僚や議員らしきグループと技術者のグループに分かれているらしい。
 周囲の色をリーディングで捉えながらユーリーは前者のグループの方へと近づき一人一人の表層を"見て"いく。ふと、そのグループ中でも殊更派手な装いをした集団の中にザラついた思念を感じた。

(………………?)

 思念は感じる。だが、色が見えない。

 肉眼で確認しようにも、思念の主は背が低いらしく大人達の中にあってその姿が見えない。
 もっとよく見ようと、背伸びしたその時――

「――これ、そこの露助ろすけ。名も名乗らずに妾を盗み見ようとは、無礼が過ぎるのではないか?」

「――――ッ!」

 凛、と女の声が響いた。
 まるで使用人にベルを鳴らしたかのように、それまで集まっていた人だかりをユーリーに向かって二つに割れる。

 下僕たちの中央に居たのは14、5の少女だった。
 白皙の肌に磨かれた銅線のごとき赤銅あかがね色の髪を翻し、孔雀の尾を写したような深い緑色の瞳が勝ち気に光っている。胸元には大きなロザリオ、瞳と同じミントグリーンのドレスを身に纏い、キセルから煙を吹かした少女は視線を下から上へと向け、舐めるように自分を品定めしていた。

 驚嘆すべきはその存在感。
 とにかく格が違う。この煌びやかな会場の中でも更に彼女の周囲だけが極彩色で描かれたようになっている。

 貴族――いやそれ以上。王族だ。

生憎今まで一度も高貴な人間とやらに会ったことの無かったユーリーだが、たった今彼女を見て特殊な血統の意味を否が応にも理解させられた。 

「――ふむ……其方、名はなんと申す?」

「ソビエト連邦陸軍のユーリー・アドニー・ビャーチェノワ中尉です姫殿下」

 やや緊張しながら、しかし礼を欠かないよう背筋を伸ばす。
 当てずっぽうで姫と言ったが周囲の取り巻きの反応がない事からこれが正解なのだと知れた。

「そうか。妾はアロウラ・エルナディス・マリーア・デ・サヴォイア。スペイン国王アマデオ2世陛下が第3王女である」

「サヴォイア……?」

 うろ覚えの記憶によればスペイン王室といえばブルボン家。世界でも最も権威のある王室の一つだったはずだ。
 元いた世界では王政こそ廃止されて久しかったもののスペインのブルボン王家は国家の顔としてニュースに登場していたはずだ。

 そんなユーリーの僅かな逡巡を見て、王女の視線が鋭く凄みを帯びた物になる。

「ほう……そなたこちらの・・・・歴史には疎いらしいな。ところでユーリー某、もし妾が"昔の官姓名を名乗れ"と問うたら、そなたは何と答える?」

「――――ッ!!」

 先ほどのザラついた感触を思い出す――彼女も進化した人類、それも力に慣れた強力なニュータイプだ。
 加えてこの質問で彼女が自分と同じ東郷一二三が呼び寄せた"記憶持ち"の一人なのだと確信した。

「――思い出せません。しがないエースパイロットでした」

「……ふ、はははっ! なるほどのぅ! その年でエースパイロットときたか! あいわかった。――これ、そなた達。妾は少し酔ってきたので休む。後はこの露助にエスコートを任せるゆえ、この場はお開きといたせ」

 ユ-リーとアロウラ意味不明のやりとりに周囲の取り巻きは頭に幾つもハテナマークを浮かべていたが、王女の命令とあっては仕方がない。渋々といった様子で散っていく。
 周りに人がいなくなったのを確認したアロウラはキセルとワイングラスを手に会場の奥へと歩き始めた。

「なあ、おい! あんたもあのガンダムの設計図を見て来たんだろ? 俺と同じ地球連邦軍の人間だったのか?」

 ユーリーは取り巻きがいなくなったのを確認して、素の口調に戻す。
 一国の王女に話しかけるにはあまりに馴れ馴れしい態度にアロウラは目を丸くした。

「そなた、存外肝が太いのぅ……まあよい。以前の妾は地球に降りたことは一度もないコロニー生まれのコロニー育ちじゃ。もっとも、今生はコロニーどころか宇宙に行けるかどうかもわからんがな」

「コロニーつーことは、宇宙革命軍の側か……――ああ、別に前世の恨みがどうこうってわけじゃないぜ。同じ世界の人間だって確認したかっただけだ」

 空気を悪くしないよう、ユーリーはにこやかに笑いながら手をヒラヒラ。
 だがアロウラは振り返ると、こちらを推し量る冷たい氷のような視線を向けた。 

「宇宙革命軍……? ……これ露助、東郷の手紙で気になったのは本当に設計図だけか?」

「ああん? そりゃ、大事なモンだし一応何度か読み返したけど――」

 首を傾げて記憶を漁るが、送られてきたのはガンダムの設計図とV作戦とやらの計画概要、それに今日のレセプションへの案内だけ。

「――大事なのはあの設計図だけだろ。ガンダムって名前を合言葉にして、俺達みたいな記憶持ちをより分ける気なんだろうさ」

「そうか……」

「それより、どこに向かってんだよ」

「そなたも東郷とやらを探しているのであろう? 生憎、妾はこの会場に一番乗りでのぅ。大体の目星はついておる。あそこの奥の扉じゃ。先程から何人かそれらしいのがあそこへ入って戻っておらん」

「ん? ……――――――ッ!」

 彼女の指の射す方――誰も通らないような通路の奥に一つだけ、宇宙ステーションで使うようなエアロックのドアがある。
 ドア一枚を隔てた空間から放たれる猛烈な威圧感を受けて、ユーリーは体中の毛が逆立つような感触を覚えた。

(ちょっと顔合わせのつもりだったが……これはこれは。俺、とんでもねぇ化物共の巣窟に来ちまったみたいだな)

 あの中に東郷がいるのは間違いない。リュドミラを呼ぶという選択が意識の端に昇るがすぐに打ち消した。
 あんな人外魔境に入ってもし何かあっては、さすがの自分も姉を逃がしきる自信はない。

 怯んで足を止めたユーリーに対し、隣りのアロウラはワインを空けながら自室に戻るような気軽さでプレッシャーの元へと近づく。
 彼女がドアの端末を操作すると、あっけないほど簡単にそのドアは開かれた。

「――ようやく来たか」

 男の声。

 そして次の瞬間、ユーリーは7人の死神の視線を受けた。

「――――――ッ!」

 部屋は照明が落とされていて殆ど見回せない。
 暗く清潔で暖かい部屋だが、この部屋からはこれまで自分が渡り歩いてきたどんな戦場よりも死の匂いがする。
 見えるのは唯一の光源――プロジェクターに写された種々の技術情報と壁際に沿って立っている7つの人影だけ――

 いや、隣にいたアロウラがなんでもないように部屋に入り、その輪に加わるのを見てユーリーはこの人の死神が全員、自分と同格以上の実力を持つ恐るべき猛者達である事を理解した。

「――二人共、よく来てくれた。私は国連軍所属の東郷一二三とうごうひふみ中尉だ」

 闇の中からプロジェクターの光に照らされて男が現れた。
 国連軍の軍服を着て、肩までかかる長い髪に釣り上がったキツネのような顔をしている。パーソナルデータによれば今年で19歳。東郷一二三という人間は想像に反して線の細く神経質そうな男だ。

「アロウラ・エルナディス・マリーア・デ・サヴォイアである」

「ユーリー・アドニー・ビャーチェノワだ」

「――対価は持ってきているな? データなら端末に、書類ならスキャナに入れる」

 差し出された東郷の手にユーリーとアロウラが事前に用意しておいたデータスティックを乗せた。
 部屋の奥へと戻った東郷がプロジェクターに接続されたコンピュータにデータスティックを挿入する。

「――79年型のチタン・セラミック複合材にヘリウム3を使わない小型核融合炉。……素晴らしい。これで全てが揃う」

「………………」

 ガスパロフには自信のある風に言ったが、今回の遠征はユーリーにとって大きな賭けだった。
 ユーリーが渡したデータスティックの中身は、この三ヶ月間レセプションに間に合わせるためにソビエトの前線全ての光線級掃討跡を駆けずり回って手に入れた小型核融合炉の情報だ。
 後期生産型ドートレスのために開発されたこの主機はガンダムタイプのメインジェネレータとまではいかないが、これまで戦術機が使っていた燃料電池に比べてケタ違いの発電量を得ることができる代物である。
 無論こんな物を流出させたと国家保安委員会KGB《カーゲーベー》に知られれば機密漏洩の角で拷問付きの死刑になるのは間違いない。

 だが重要なのは中核部品とは言え、たった一つの部品分の情報を手に入れるのにロシア中を三ヶ月も回らなければ手に入らなかったということだ。

 ある程度の部品は戦術機のもので代用するにしても、開発が飛躍的に進まなければ、MS――特にガンダムの開発は10年、15年先になってしまう。それまで生きていられるかどうか分からないし、仮に完成してもそこまで戦争が続けばもはや人類の劣勢を覆すことはできないかもしれない。

「さて、諸君。今日は世界各地から遥々ご苦労だった。この部屋に集まったという事は、諸君らが私と同じくこことは違う世界での一生の記憶を持つ人間ということでよろしいだろうか?」

「――――――」

 沈黙。誰も答えない。
 肯定の意味だ。

「よろしい。では前世の名前を思い出せないのも、戦場に出ることで軍事技術を獲得する事も間違いないか?」

「――――――ッ」

 今度は僅かに声が漏れた。ユーリーの物だった。

「私は自分に起こった現象の正体を探るべく幾つかの実験と情報収集を行った。結論から言おう。我々が別の世界の記憶を持ってこの世界に生まれた理由はわからない。だが、もっとも不可解な技術の取得に関してはある程度原因が判明した」

 電子音がしてプロジェクターの画面が切り替わる。
 表示されたのは大きな球体が重なり、小さな粒子がその周囲を飛び交っている原子のモデル図だ。

「――これは米国のウィリアム・グレイ博士が発見した17種類のBETA由来物質、通称〝G元素"の一つ。中でも"用途不明元素"と呼ばれるグレイ・ツーのラザフォード図だ。BETAの着陸ユニットから発見されたG元素はそれぞれ常温超伝導、重力作用など人類がこれまで発見した元素には無い性質が確認されているが、その中でも特に光線属から発見されるこのグレイ・ツーと呼ばれる元素は際立ったものを持っている」

 プロジェクターの画面が動き出し、それまで原子核の周りをランダムに動いていた小さな球が合流し、核の上で天使の輪のようになって回転を始める。通常の元素では有り得ない変化だ。

「グレイ・ツーの周囲にあるのは未知の素粒子だ。この素粒子は普段は電子と同じく原子核の周囲を覆っているだけだが、0,5G以上の重力を受けるとこのように集合し重力に対して水平、時計回りに運動を行う性質がある。この運動状態となったグレイ・ツーは人体で一定量以上集まると今度は素粒子同士で結合を起こし、その後突然不活性状態となる。ここからは私の推測になるが……恐らく素粒子の持っていた運動エネルギーは別の世界の因子を持つ我々の中に入ることで平行世界――隣り合う世界への扉を開いた。そして望んだ情報の対価としてエネルギーが消費されるのだ」

 東郷はなかなか努力しているようだった。
 BETA由来の物質、特にG元素の詳細なんてものはオルタネイティヴ計画に深く関わっているユーリーにも知らされていない。一介の衛士である東郷がそんな高度な情報を得るには相当な資金の投入や危ない橋を渡る必要があったはずだ。

「ちょっと聞きたいんだが――」

 7人が黙って聞いている中、ユーリーが声を上げた。

「要するに俺達が光線属からそのグレイ・ツーって物質を手に入れて、それが一定量を超えた時にあの頭痛が起こるんだよな? その不活性状態ってのはどれくらい続くんだ? つまり技術を得る代わりにそのグレイ・ツーって物質が不活性になるなら、どうにかして再活性させればいくらでも取り寄せられるんじゃないか?」

「再活性化までの期間については結論が出ていない。素粒子結合が発見された時から7年近く観測が続けられているが、未だに不活性状態からの回帰は確認されていない」

「チッ、やっぱりこれまでどおりチマチマ光線属のBETAから集めるしかないってことか……」

「いや、そうとは限らない。原因がBETA由来の物質にあり、着陸ユニットにそれが大量に搭載されていることがわかったのだ。もはや我々が戦線の維持などという雑務に忙殺されることはない」

 東郷は戦線の維持を雑務と言い放つと、プロジェクターに繋いでいた端末からデータスティックを抜き出し8人それぞれにむかって放り投げた。

「今君たちに渡したデータスティックには今日この場に提出された全ての技術情報をコピーしてある。真のV作戦……これを持って我々は念願であったMS〝ガンダム"の製造を行い、その武力を持って敵の巣窟であるハイヴを強襲する」

 突如、それまで暗かった部屋に照明が灯される。

「――――っ!?」

 部屋の壁と床一面に掲げられた船の錨《いかり》のような懐かしい地球連邦の旗。そしてこれまで闇に隠れていた"記憶持ち"達の素顔が顕になった。

「ハイヴを陥落できれば我々は大量のグレイ・ツーを入手し更なる戦力強化ができる。我々は共同でそのサイクルを繰り返す事で力を蓄え、不甲斐ない米国や国連に変わってこの地で人類の真の守護者たる地球連邦を再建するのだ! そしてその未来でこそ、我々のV作戦は再びアースノイドの希望として歴史に刻まれるだろう!」

「「「…………………………」」」

 東郷の目は熱を帯びていてどこか遠くを見ている。強い執着と依存。近づきがたい冷たい色が彼の周りを覆っている。
 周囲のだれも彼についていけていないがそれを気にした様子もない。

「――ぷっ! ははっ、あはははははっ!」

 壁際に立っていた一人、ユダヤ人風の衣装を着た性別不詳の子供が堪えきれずに吹き出して笑っていた。

「貴様、何がおかしい!」

「あーあー、嫌だ嫌だ。やはり下等生物の考える事は滑稽だな! 真の守護者? 地球の救済だって? ハハッ、どこのマイスターが生まれ変わったのか知らないけど、たかだかガンダム一機のデータを集めたくらいで支配者気分とは。さては、僕を笑い殺す気かい?」

「――なっ!?」

「生憎、僕は君の革命ごっこに興味はない。こちらはこちらで好きなようにやらせてもらうよ」

 それだけ言うとユダヤ人の子供は止める間もなく部屋を出て行く。

 唖然とする東郷に、今度は腕や顔にネイティヴアメリカン風のタトゥーを施した筋骨隆々の大女が近づいた。

「アタシもひとついいかい? さっきから気になってたんだけどねぇ! あんたら、本当にガンダムファイターかい? いっぱしの格闘家を名乗るにしちゃあどいつもこいつも体格、筋肉の付き方が貧弱すぎるように見えるよ」

「――ガンダムファイター? 格闘家だと? 何を言っている? お前こそ、本当に地球連邦軍の人間なのか?」

「地球連邦軍? ハンッ、あんたこそ何を言ってるのさ。あたしぁ向こうでは地球全土を回ったけど、そんな組織はついぞ聞かなかったねぇ!」

「――なんだと!?」

 言い放つ筋肉女と混乱する東郷。
 先ほどのユダヤ人といい、風向きが怪しくなってきたとユーリーは感じた。

「貴様もあの設計図を見て来たのではないのか!?」

「設計図は見たよ。確かにあれはガンダムだ」

「ならば連邦軍は存在しているはずだ! あれは我が軍の兵器だぞ!」

「さあね。あのオカマっ子と同意見ってぇのは癪だけどね、あたしも自分より腕っ節の弱い男と手を組む気なんてない。悪いね、ここは降りさせてもらうよ」

 筋肉女が部屋を後にすると、残りの五人も無言のまま東郷の側を通り過ぎ部屋を出て行った。
 部屋に残るのはユーリー、アロウラと混乱する東郷の三人。

 話しかけにくい雰囲気ではあったが肩を落とす東郷の様子が余りにも哀れに見えて、ユーリーは思い切って彼の肩を叩いた。

「盛大にフラレたな。ま、安心しろよ。俺は元連邦軍だ。自分の名前は思い出せねーけど、所属はブラッドマン中将の直属の特務部隊だった」

「そうか……私は月方面フォン・ブラウン市駐留艦隊所属の第113試験小隊だ」

「あ……?」

 記憶が確かなら自分の元いた世界の連邦軍は月に駐留艦隊なぞ置いていなかったはずだ。フォン・ブラウン市などという地名にも全く身に覚えがない。

 頭上にハテナを幾つも浮かべるユーリーの前に、キセルを咥えたアロウラが進み出た。

「――お主ら、まだ気づかんのか? くだらん寸劇も今日で3度目となるともはや愛想笑いも起きぬわ」

 可愛らしいピンクのルージュで光る口元は悪戯っぽく笑っている。

「のう、東郷。この露助が戦っていたのは"宇宙革命軍"なる軍隊だそうじゃ。お主が知っている連邦軍の敵とは別口――そうであろうフォン・ブラウンの狩猫よ?」

「な――っ!? 貴様、なぜっ!?」

「他にも色々知っておるぞ。お主が一年戦争末期から軍に入ったこと。戦場では新鋭のMSを乗りこなして多大な戦果を出したが、敵のエースや精鋭部隊と戦ったことはない。雑魚《ザコ》や臆病者《チキン》でばかりスコアを稼ぐことから猫と呼ばれた。ああ、そうそう、お主はそれを大層コンプレックスにしておったな」

 アロウラはニヤニヤと笑いながらキセルをクルリと回した。
 派手なキセルだった。吸い口は宝石で飾られ、火皿は赤地に金で作った家紋のような物が象られている。

「そのキセル――!! 貴様、まさか――!?」

「ほう、ようやっと気が付きおったか。向こうでは何度もシミュレーターの相手をしてやったというに。てっきり妾の親愛なるグレミー・トトの名前を出さねばならんかと思ったぞ」

 東郷の視線が困惑から敵意のこもった物に切り替わる。何やら因縁のある相手らしい。
 19の青年が14の少女を睨みつけ、睨まれた少女はキセルを咥えながらニヤニヤ笑って青年を挑発している。

 完全に二人の世界に入りつつあるこの部屋で、会話から締め出されていた10歳児――ユーリーがおずおずと手を上げた。

「あー……あのさぁ、結局どういう事なわけ? 2人が知り合いってのはわかったんだけど……」

「なに、難しい事などない。こんな世界に来てまで故郷と同じ兵器を作ろうなどと、自分が元の世界の戦争に未だに囚われている事に気づいておらぬ。我ら9人全員がガンダムという言葉に縛られた阿呆だったというわけじゃ」

「お、俺も、囚われているってのか……!? あの戦争に……」

「そうでなければ今頃、そなたは自分の国で真面目に兵器開発に取り組んでおるはずじゃ」

 鋭く突き刺さるアロウラの言葉。
 だが内心で少しだけ、その通りだと認める自分がいる。

「――――クソッ」

「お主はどうする? 東郷は地球連邦を作るらしいぞ。そちらは知らんが、我々の世界の地球連邦は戦争組織、破壊の権化よ。もし人殺しの戦争をやりたいというのならここに留まるがいい」

「貴様ッ! 勝手なことを!」

 東郷が抗議の声を上げた。

「そうでないのならデータだけ失敬して国へ帰るがよかろう。その場合、こやつの面目は丸潰れじゃがな!」

 キセルを咥えながらカカカッ、と年齢に見合わぬ笑いをアロウラが零した。

********


お待たせしました。ようやく20話の投稿となります。
しかし最初から考えていたとはいえこの展開にキャラ増加、読者の離れる未来が見える……。というかセップク丸知っている人いるのかな。

今回の新キャラクターは4人(8人ですが未消化4)一人一人が主人公と同程度かそれ以上の能力を持っています。
彼らは全員元の世界でガンダムと深く関わった事があるという設定のオリジナルの登場人物で、原作には直接関わりません。
 あと一応、ユダヤ人の性別不詳はこの世界では人間として生まれています。前世がアレで今も米怒としての能力を持っているという事で人間を見下しています。

 以下は蛇足になりますが、彼らは一人であれば地球を救う事ができます。多くのSS作者様が書いてらっしゃる通り、強力な単一兵器によるハイヴの攻略と主力兵器や戦術戦略の近未来化を推し進める事が人類勝利の最短路なわけですから、彼らの能力はそれにうってつけの物です。


 しかしG元素の争奪、前世の因縁、信条の不一致などから同盟を組めなかった彼らは今後オルタ世界の国家関係と合わさって二重の勢力争いへと突入していきます。
 二次創作の他の作品に対してメタな展開になってしまいますが、オルタの一つになれない人類というテーマとも重ねられるという事で、この展開で進む事となりました。あとガンダムX自体メタテーマを取り扱う作品でもありますしね。

 何はともあれ次回からはようやくガンダムの開発に取り掛かれます。いやー長かった。
 拙い作品ですが、今後も頑張って書き続けていきたいと思います。
 読者の皆様、何卒よろしくお願いいたします。







前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.027194023132324