1985年1月18日 2130 ルーマニア社会主義共和国 コンスタンツァ軍港付近 国連派遣軍増設基地群 G棟地下2階フロア 戦域情報管制室核兵器人が作りだした最強、最悪の兵器はなにかと言われれば真っ先の名が出るであろう、20世紀を語る上で無くてはならない兵器であるそれは、この世界に置いてもその"残虐性"は色あせることはない。その破壊力は以前の兵器と比べれば雲泥の差が生じるほどのものであり、人類が2度の大戦を経た上での後悔と、それ自体の破壊力を持ってして列強同士の戦争自体を無くしてしまったほどだ。史実(※マブラヴ世界)にはドイツに二発の核、一つはベルリンに落とされ、先進諸国である欧州にその名とその悲惨さを教え込んだそれは、今でもその映像を簡単に見ることが適うほど世に出回っている。それは先進諸国に落とされたこともそうだが、あのドイツを文字通り完膚無きまでに痛めつけた代物ということで、戦争に入っていた我が祖国日本帝国の首脳陣に「敗北する未来」を刻みつけるほどのものだった。その核が今、目の前で花開いている。「合計4個師団がたかが1時間、核使用準備まで敵を吸引するためだけにその5分の1が消耗、あの核を使用してやっと撃破数が8万を超えたあたり、ですか…」そう呟くのは俺の副官としての仕事をこなすようになった吉良中尉だ。「やはり来るものがあるのかい?君の世代は」その吉良中尉は現在の状況と"目の前のあること"に嘆いているらしい。今現在、東欧は核による敵の残減段階に移行しており、その計画はおおむね予定通りに推移している。それはBETA総勢24万。当初予想された規模を遥かに超えたその侵攻を人類は初めて防衛に成功したことになる。初期の混乱による被害は大きかったが、同盟司令部が迅速果断に撤退に移行できたことに加え、国連からの支援砲撃等によって被害は抑えながら遅滞なく撤退を行うことが出来たためだ。もちろんその24万全てが一度に攻めてきたならば東欧を防衛することは不可能だっただろう。だが今回は初期の攻勢を退けられるほどの陣地があり、その要塞の放棄による足場の崩壊と敵目標の瓦解。そうしたことで逐次投入されたBETAの一群が迷子になり、BETA側の得意とする『脅威的な戦力の集中』を防ぐことに成功したため防衛が成ったわけだ。もちろん兵の踏ん張りの成果でもあるが、どうにか軍の努力と政治的な介入による早期の施設放棄によって、求めうる被害としては(BETAとの戦いにおいてだが)最低限に抑えることができたと言って良いだろう。24万という数字にしたって、後から来た何もしていない後半勢も含めたもので、果敢に攻めてきたのは14万を超えたところ。光線級も重光線級などほとんどおらず、足場が水浸しになっていたために迎撃の精度も欠けていた等、いくつもの特別な要素が重なったためにここまでの奇跡が生まれたのであり、学べることはそう多くない。逆に国連内部の問題や勝ちすぎたことで東欧がいらぬ自信をつけないかのほうが心配であり、政治的な強権による圧迫と介入でいらぬ恨みを買ったことの方が今後の課題となるだろう。まあたかだか大佐ではそこまで関わり合いにはならないが、心配ぐらいはして良いだろう。さて今は目の前のことに集中するか。…といっても特に今やることはなさそうだが。今現在、結果からしても今の核を用いる段階になっていることからもわかる通り、これから戦術機を使っての掃討戦に移っていくはずだ。それだけを見てみれば嘆く部分はまったくと言って無い。現にここ、国連派遣部隊の統轄司令部(仮)には3日前の悲痛さに似た緊張感は薄れており、指揮権としても救援部隊として出撃している各部隊長を中心に委ねられており、ぶっちゃけ2日前ほど忙しいものではなくなっている。「確かにそうなのかも知れません。自分は他の同世代の者達よりかは正確に"あれ"のことを把握していたと思っていたのですが、結局のところ同じだったようです。」「核への恐怖、か」吉良中尉が先ほど「近代軍が核の封印を解いてでさえそれだけしか倒せないのか」と言いたげに現実の厳しさを口にしたのはそういう理由なのだろう。日本人の若い兵に多い、戦恐症。数字では知っていたのに、現実として見た対BETA戦の凄惨さとのギャップによってやられているわけではなさそうだ。防衛に成功したのにも関わらず数日で数千、数万の命が散ったのだからそう思うのも無理からぬものだが、彼はそうではない。1年以上もまがりなりにも前線にいたのだから。だとしたら核への恐怖しかないだろう。たしかにそれに恐れを抱くのも自然なのかも知れない。この世界では前回の大戦の折、戦争をしていた欧州人の感情…世界の中心であるはずの自分達が地に落ち、結果としてアメリカ…植民地人の傘下に収まってしまったということから、アメリカへの皮肉と嫌みのために実際よりか悲惨な物として核の恐ろしさが世界へと広まってはいる。いわゆる『核アレルギー』というやつだ。さらに欧州のど真ん中、ドイツに落とされその凄惨さを目のあたりにしている欧州人からか、原子力発電などは欧州では小規模でしかなく、BETA中東侵攻でもっとも被害を受けたのは欧州とされたのも近代史の一部として習うだろう。石油を使う火力発電などが多かったからだ。確かに核、原子力発電と言った核分裂による環境への悪影響などは無視して良いものでもないし、それが及ぼす影響を正しく知り、本来ならば使うべきものではないのはその通りではある。しかし、吉良中尉達の年代、20代~30代前半の者達の義務教育から、その教えの過激さが増しており、知識として士官教育で習う核の危険性を知っている彼であっても、小さい時からの「教え」というものは抜けきらないものなのだろう。だからこそ先の吉良中尉の発言のように「核を使用してまで」といった"禁忌の兵器"に位置付けられている現状を生んでしまった。なにせ、その地で生まれた者達の祖先に放射線による後遺症、それが発病する可能性がいつまでも残る『呪い』のような考えが根づいてしまっているのだから。『公開される情報というのは真実だけを伝えなくてはならず、そこに一方的な感想や脚色を交えて伝えるべきではない。それが公的で、尚且つ与える影響が大きな物であるほどに』この基本を守れない情報を扱う組織をというのは、古来より多くあり、その時代の正に“悪害”にしかなり得ないものの代表格だろう。こう言ってはなんだが、国の根幹である教育に対しても事実が歪曲され、偏向的に流された結果がこの吉良君達の教育なのであり、いかに教育が大事なのかわかるだろう。教育とは集団で生き抜くために必要な"正しい"とされる感性とその集団を反映させる"正しい"知識を得るためにあるのだから。世に恐ろしいもので、「被爆者に触れただけで感染する」「使ってはならず、使って環境を壊すならば滅んだほうがマシ」このような戯言がまことしやかに囁かれ、果てには「BETAに相対するには国家の軍を全て解体し、国連軍として全て統合するべきだ。そうすれば全ての兵を前線に張り付けることができる」など戦略シュミレーションゲームでもやらない『夢の手』をテレビで堂々と語る軍事アナリストやコメンテーターがいるのだから末期であろう。そのような妄想を語る輩が跋扈し、その意見に賛同する者が大勢いる世の中であるのは何時の世も変わらず、中世の魔女狩りのことを現代人はバカにできないだろう。それだけ民衆と言うのは愚かなのだから。「確かに改変された"事実"に基づいた恐怖心も加わっているのはわかるけど、やりきれないという気持ちには賛同してしまうものがあるよ。使用者にさえ恐ろしいと感じさせてしまうほどの兵器だからね、核は。」「『神の火』。その詐称もわかるほどのものですからね。」しかし目の前でその『核』の恐ろしさを見たらその歪曲されて広まった"事実"も真実に見えてしまう。軍人はその実際の影響を知るが、この悲惨な映像を植え付けられた人間からしたらBETAと変わりない。今この時からここは『死の大地』とされ、住み着く人間がいなくなるのだろう。「だがその核を有効に使ったとして滅することはできない、か」そう、その土地を死してまで使った核でさえBETAの数を減らすだけで、全てを殺すことは出来ない。現に今作戦において核使用を行っている段階にしたって、あと数万匹は生き残っていることは確定している。それはこれまでのBETAと戦史の中からでも読み取ることができるほどだ。そもそもBETAを個体としてみると、個体戦闘力や持久力に目が行きがちだが、その真の恐ろしさはゴキブリより恐ろしいそのタフさ、言いかえれば死にづらいというところだ。「正に死を避け、こちらに死を寄越す化け物、そう呼ばれるだけの個体ポテンシャルを持つということは知識としてわかっていたことですが、実際に見るとでは…違いますね。地球上の生物であのような悪環境で生き残れる生物などいませんからそれだけで、地球上生物の頂点にいることを理解してしまいますよ。まあ宇宙で生活している時点で大概ですが。」元来、宇宙で活動するための宇宙外生命体であるBETA。その耐久性は凶悪な宇宙線やγ線の中平気で活動するほどであり、その劣悪な環境で生き抜くためにも放射能に対しても強い耐性を持っている。またその環境適応能力は0~10Gといった『もう慣れた』環境に対し即座に対応できるほどで、戦略兵器である核によって人が死ぬ原因の一つである無酸素状態、真空に関してもへっちゃらな化け物が相手では、この地球上では厚さ寒さといったものから『死の灰』が積もる場所に至るまでBETAに軍配が上がってしまう。その耐性を超えても作り直されているようなのだから、そのタフさがわかるだろうか。また宇宙での活動を行えることから温度差に対しても強く、極寒の大地から活動中のマグマ近くを通ることからもその耐熱性、耐寒性の高さが窺え、核の熱に対しても十分ではないが効く範囲が狭いことには変わりない。もちろん核爆弾の破壊力に置いてもっとも効果をもたらす爆風に対しては、BETAに対して十分効く。だがそのタフな身体が影響して見た目が悲惨な状況でも1~2時間は活動は可能なのだからその『BETAの死に辛さ』といった言葉の意味がわかるだろう。なにせ爆風による影響は人の場合、まず目や耳、肺といった弱い部分に影響し、その多くがショック死によって生物に死を与えるわけだが、宇宙に適応できる生物として進化した(と予想される)BETAにとってそのような生物の弱さを臨むべきではない。それに加えて、その活動から予想される“資源回収”と言った目的の方向性による進化が半端ではない。その傷が死に繋がるとしても体内で応急手当を行えるように、と生物として進化(自己設計とも)したことで、身体の重要部分がやられない限り即死というものはなく、生物としては異常なほどに死ぬまで時間がかかる。それはどうやらハイヴに帰りさえすれば、治されるか作り直されるかわからないが、戦力への回復に繋がるためにタフでとても"鈍い"。また宇宙環境で生き抜いてきたBETAは呼吸をしなくて良い影響からか、体内から焼かれたり真空によって破裂することもないため、爆風で脚が吹き飛ぶか、体表面を大きく損じるかしない限り動き続けることも大きいだろう。そんなタフさとBETAの増殖速度、そして核を受けた地区に集中してくる状況では次第に人類側の形勢は悪くなる一方なのかはわかっていただいただろうか。なにせ放射能汚染と、核の爆発によりBETAの死肉も蔓延し、放っておくと戦場でよくあるバイオハザードにも繋がるからだ。「その核の業火でさえ生き抜くBETAはなんと呼べばいいかわからないけど…今回だけで言えば作戦は成功、数を大きくは減らせてはいるんだからね。」「戦術核を6個と準戦略核1個を使って、8万。昨日からさらに援軍としてきた2万も加えて、約15万のうち8万を行動不能及び撃破に落ち入れさせたのですから成功と言って良いのでしょうね。それだけ見れば一攫千金ではないですが、効率よく使えた計算になります。本来核地雷は効率の良いものではないですから」確かにそうだ。予想通りの"予想外の援軍"2万。ここが汲みに安し、と考えているだろうBETA側の対応として続々と援軍が来てはいるが、それを含んだとしても核を有効に持ちいれる今の現状では、苦になるものではない。今現在用いれる最善の策が核と少数の兵、そして広大な国土を犠牲にした上での苦肉の策だということを自覚していてもだ。「…そういう割に顔が優れないね。」「…そうでしょうか?」たしかに言っていることとその顔が現わす感情が違う。子を戦地に送る親のように顔が歪んでいるのだから、その顔は悲痛さしかない。現にこの核を使用したこのフェーズに入った今、“万が一”がない限りそのままBETA共を殲滅、悪くても今回の攻勢を凌ぐことはできる。それは環境と引き換えがあってだが、それでも今を凌げるのであれば安い買い物だろう。それなのに吉良中尉の顔は曇っている。普通に考えておかしいだろう。その疑問がわかったのか、吉良中尉が自分を説得するためのようにしゃべりだした。「確かに今までの線ではなく、各地に点在する形にすることで敵を各地に分散集中させることには合理性が持てます。敵の目標が一貫してこちらの防衛線を貫こうと、もしくは後方へ撤退する我が軍を追ってくるという形であれば、それは下策と呼んでよろしいものでしょう。地下やあらゆる軍の行動によって攪乱されているBETAとしては今現在、支配領域が増えたことも重なり、右往左往している個体が増えており、点となった基地に惹かれる個体と、第2次防衛ラインまで直進する個体、そして支配領域の資源…と言って良いのか建築物や自然を壊している多くの個体にばらけておりますから、今現在危惧するべき敵の戦力密集、もっと言えば光線級の数が集中することを防げております。そのまばらとなった状態を各重要拠点基地で攻勢をしかける段階に引き上げ、敵を吸引。即席地雷陣地や砲撃特火点を用いて防衛戦を派手に行うことでさらに引き寄せられる個体。これは以前から決められていたここ東欧戦線の撤退計画の根幹ですし、その基地への負担は大きな物となるでしょうが、被害者の数はこれまでのBETAからの撤退戦に比べても格段に少ないのでしょう。だからこそ、核を使用する必要はあったのか、そう思わずにいられない自分がいるのです。その感情が表情に出てしまったのかも知れません。…士官失格ですね」核を、少数ではあるが結果的に巻き込まれる部隊を想定してまでやる必要があったのか。それ以外でもやり方があったのではないか。そう吉良中尉は言っているのだろう。感情の面だけでだが。これは少しフォローしてあげたほうが良いかな?「現状、核というものに制限数があることを加味すれば地雷、拠点爆破がもっとも良いのは君も知るところなのだろう?だからこそ表情に出るだけで抑えていた。それをその歳で出来るならば大した者だよ。十分にね」「…司令代理にお誉めいただけるとは、誠に光栄ですよ。1生徒として誇りと思いますよ。」こらこらいきなり冗談を言うなよ。でも先生か…俺が。今考えてみる俺が平和な時はどういう職に就いていたか。そう想像することは一度や二度ではない。…う~んそうか、生徒なのか、君は。「そうか。生徒か…そうだな。そういうのも良いものなんだろうな。将来の夢は先生だったんだ。僕はね。」どう言えば良いのかわからない。そんな困ったような顔でこちらを見る吉良中尉。少し感傷に浸ってしまったようだ。その優しそうな目をしている目の前の中尉。感情のコントロールがまだ完璧とは言えないが、自分を律することができる青年将校に好感が持てるのは自分が歳をとったからなのか。とても嬉しく思う自分がいる。彼はこの戦いに参加して参謀という職を目指すことを決意したと言う。それはこの戦いで上、高級将校が見せたふがいなさもあるが、前線の状況を知る上官の大切さを知ったらしい。彼は日本の学閥社会からすれば本来、こんなところでくすぶっている人間ではない。国連の拡大が進む上で人材の枯渇が至上問題と成っている現状。それがあってこそ、若手の下剋上がなる社会になっている。本来であれば他国のようにその競争率に比例して戦死が付きまとうものだったのだが、日本において昨今の経済力を使って、負の要素は少なくなっている。あるとしたら怠慢と癒着ぐらいだろう。少なくとも人は死なない。そんな状況に置いて上にスペースが空いている今、若手のホープとして期待された彼が本来、こんな吐き貯め…とまではいかないが軍の裏を知る場所にいるべきではない。それは日本の学閥社会においてあの有名大学を首席で卒業、コミュニケーション能力など全てにおいても群を抜いていることからしてもわかるだろう。しかしどういうわけか彼は上に行く気が無かった。それはその軍に入ってからの経歴からしても、どこか能力を故異に落としている節があったことからして明らかであり、だからこそここにいる。そういう心のどこかに問題があったり、色々な事情がある人間がここに集められ、教育をしてほしいという上の願いがあったわけだ。まあそんな願いがなくとも、人の成長を見るのはここの楽しみの一つにもなっているのでいらぬ忠告でもある。相手の借りにして後で回収することを忘れたわけではないが。まあそんなことはない。彼がここにいる原因だった。それはたぶん目的がなかったのだろうと思う。たまたま衛士特性を持ち、本来は軍ではなく学業に打ち込みたかったらしいからしたら、この今の社会、世界を恨み、その中で無力感に苛まれたからではないだろうか。どこまでいっても予想の反中を超えいないものだが、軍が彼に求めれられているのはただ一つ、自身の才能を育てろ。それだけだ。それだけ人材が枯渇しているからでもあるが、彼の才能は確かに惜しい。たぶん熱血教師だったら可愛さ余って殴り倒している。では俺は、今目の前にいる青年の成長を促すにはどうしたら良いか。意志は持った。現状を知って。ならその夢、参謀に必要な物を教えてやることだろう。参謀に必要な技能の一つに、その知識を使ってどう他者に説得できるか、がある。これは人材の枯渇によって熱しやすく未熟な(技能ではなく精神力が特に)上司が多いからでもあるが、BETAとの戦いにおいて非情になることを求められることが多い今、参謀に、特に彼のような才を持ちながら恨まれにくい者にとって必要とされる技能となっている。まあうだうだ言ってきたが、どう上司を良い判断を下せるようにさせるかきたえてやろうか、ということだ。「君が生徒と言うのであれば、なぜ核の使用方法が地雷形式なのか、その現状を僕に説明してくれるかな?まあ気負わず、概要だけで良いから。あっ、もちろん採点はするよ?部隊長側の人間としてだけどね。」あっ吉良中尉が『げっ』って顔になった。以外に顔にでてしまうようだ。最近になってようやく上に行く決心がついたらしい吉良中尉だけど、部隊の長として応援してやりたいものだ。日本だと前線に出た尉官を評価する流れが強いからでもあるが。…そう考えると、吉良中尉はいつもは後ろ向きな感じであまり好かれるタイプではなさそうだし、問題を抱え込みそうなものだけど…一歩引いた目線だからこそできるものがあると俺は考えている。以外にお茶目だし。そういうところは檜佐木くんに似てはいる。表面上の特性と心象的な特徴が違うところとかだけど。両者とも上司として、見れる者からすればもろい所が目につくものなのだが…庶民出身士官ってのは後ろ盾が無いことから、つぶされやすい。これは将家が未だ根強いからでもあるが、だからこそ、光菱から回され「実力はあるが、心身的問題を抱えた若手士官組」の一人としてここに来ているわけだ。ってこう見るとココって実戦経験で揉んでくる場みたいになってて困ったものだな。もちろんまるっきり素人ってわけではないから戦前見たいな「前線で一躇揉まれてこい、新人」みたいなものではないが、この2年で回されてくる者の重要度はおかしい。試験部隊から斯衛、はたまた若手から中堅の士官の主席から次席もめずらしくなく、かといって移民の中にも歴戦が紛れ込んでいる。その中でも一番困るのが「光菱が見つけてきた将来役に立ちそうな者」リストだ。今や東欧の2大戦術機甲大隊の一つとなっている《シュヴァルツェ・ハーゼ》の連中もこの中に入っていたし、生き残らせ、軍から見て使えるモノになるまで苦労したものだ。もちろん部下としての愛情からだが。…っと吉良君の考えがまとまったようだ。ダメだな、変な方向に思考、だいたいは愚痴に考え込んでしまうことが最近多い。治さなければ。ああ吉良君のご高説の御拝聴よろしく。「かなり厳しいものになりそうですけど…わかりました。…そうですね。まず第一に核というものに関して、BETAは異常に鼻が効くことが上げられます。ミサイルなどに積んで、他のデコイと混ぜても光線級によってピンポイントに迎撃されることが多く、なぜ知っているのか、スパイでも潜り込んでいるのではと疑いたくなるほど"当てて"きますから、これは第一の脅威であり問題として人類に降りかかっておりです。それは光線級、特に重光線級になると人が扱う陸上機動物など3秒もかからずに無力化されてることを含んでおり、その対策としてまず考える、弾殻をされに装甲で覆うことも有効とは言えません。…破壊力の減衰にも繋がりかねませんからね。それに核を使用する場合はその特性上、緊急性のある撤退戦が主ですから、使用に制限がかかることも無視できるものではないでしょう。」なぜあの核がBETAへの必殺足り得ないのか。それには色々な理由がある。まずは人類の状況として核を使用するケースが敗走になってからが圧倒的に多いためである。敗走という急がなかればならない場合、どうしても味方を巻き込みがちのため計画が急になり、爆発せず地中を掘り返されて齧られたり、逆に急いで爆発を早めて効果を得られなかったり…という例は数多くあるのだ。(なんせだいたいが戦車級であり、時速80キロ…爆心地まで10分と、時間がかからない場合が多い)そのためか緻密な計画の元でしか核というのはBETAに対して、コストに見合った結果を残してくれないのは軍の常識となっているのだ。それ以外にもBETAの中で『核兵器』の脅威度が高いことが影響している。一番使用したい形である、飛来物…ミサイル―――このタイプであれば空中で核を爆発させられるため、放射降下物による土壌汚染が少なくなり、極論では何度か同じ場所で核使用が可能。―――といった形では経験則からなのか、BETAによって優先して撃破されることが非常に多い。「それであれば迎撃された瞬間、爆発すれば良いじゃん」と言った声が聞こえてきそうなものだが、そこまでハイテクなものなど今東西探しても有りはしないし、コストはとんでもないことになるだろう。核爆弾とはかなりデリケートでもあり、迎撃された場所が予想外の場所であった場合、被害を喰らうのは人類側かもしれないのだから。他にも光線級によって迎撃できる地上目標に仕込んだ場合にも、芳しい結果を残しておらず、自然、地下に埋めることで「一応は爆発が可能」という理由から、もっとも使いたくない使用法である「核地雷」という使い方が多くなる今の現状に繋がってくるのだ。「そうなると撤退したあとに置く、今回のような地雷など拠点使用法に変わってくるわけですが、BETAの行動が先読みできる確率というのが低いためこれも良いとは言えない。というのが現状です。」しかし吉良中尉言ったように核地雷が良いとは言えないというのも事実ではある。それは核地雷は所詮待ち伏せ方式であり、相手の行動によって成功か失敗かを左右されてしまうからだ。前提条件として、軍が維持している領域内においてしか使えず(後述する条約により核使用が不自由であり確実性が求めれる)、味方を巻き込みかねない事態を考慮する時間が必要があるという制限もかかり、とても使いづらい地雷方式。だが、その方式に頼らなければならない「そうだね。核を使った防衛手段に関しては、本来制限のないはずのソ連や中国が欧州より10年も前から行ってはいるけど、中ソとも結局はその問題のせいで、後退しなければならなくなっているんだろう。」「はい。また中ソの状況から鑑みても、核による放射性汚染物質の影響も甚大です。中ソ共に破壊力とコストを重視している影響も相まって、放射線による汚染は年々進んでおり、汚染濃度が人体に悪影響を及ぶすまでになっております。これに先ほど述べた、核と言う兵器に対して必要以上の嫌悪感を持つ者が多いという理由も重なり、そのことから来る士気低下。食糧輸出の低価に拍車をかけており、無視できない問題として世界経済への停滞にも繋がっています。」放射線汚染物質。それは原子力に関わる技術を使っている時点で避けられないものであり、億の年月をかけなければ無くならない永遠と言って良い怨嗟の呪いだ。その呪いの影響によって人体の影響は元より、自然環境の破壊による周辺諸国を含めての国力の低価が問題視されており、現にブータンなどの南アジアと中ソとの仲は険悪化しており前線国家間の協力の妨げにもなっている。また核を使用した同陣地での防衛は、それ以前の数倍の困難を伴うものという数値が出されており、結局は中ソとも破棄して後退することを繰り返しているのだから、その結果も芳しいものではない。それは遮蔽物を無くしたことで光線級の射程圏を広げることに繋がっていることもあるだろう。そのようなリスクともともとの核兵器製造コストを加味すれば、核というものは兵器として決して良い代物とはいえず、戦略的に考えても核を使えば使うほど核の脅威度が高くなる影響から、例え成功してもその戦域に近場のハイヴから増援が来る始末で、いたちごっこになっている。以上、補足説明終わりっ「で…それだけかい?」「あとは土地的事情と言いますが、ここは東欧ですからその影響を多分に含んでいます。前線国家において小さいと言うだけで罪ですから。詰みでもありますが。」またこの東欧という土地柄もいただけない。「例えば?」「ここルーマニアを例にとれば、東欧同盟軍としては目の前のウクライナ(ソ連領)の大地に核を埋設する陣地を多く作っておきたいものですが、ソ連と中国という常任理事国たちがごり押しした核兵器の使用に関する条約が邪魔をしている、というところですね。」「国際法となった核使用制限条約のことだね。」それは核生産国以外の国の場合、国連(実質核生産国を許される常任理事国)の元で一元管理された核を使用しなければならず、他国の国土での使用はその使用国家の許しと国連での周辺諸国からの賛成多数を得なければならないというもの。「士官教育で知りましたが、核に関しては敏感である国民はその制限する法に関してはあまり興味を持たず、核使用に制限をかけられていることを知りませんから、核のその破壊力に比べて、BETAの被害を単純比較しがちです。そう見ると核に魅力を感じず、「自然を破壊するならば」とさらに制限をかけるループに入っていることも大きいと考えています。日本にとっては核拡散防止条約による縛りもありますし。」加えて1982年には誕生していた核拡散防止条約の元、核開発は事実上常任理事国と一部、許された国家でなければ開発もできないため、中小国家の核兵器使用制限は非常に大きなものとなっているのだ。これは1970代当初、中ソの大地にて増え続けるBETAに業を煮やした周辺諸国(特に欧州)が自国内に核ミサイル基地をアメリカの協力の元、推し進めようとしたことから始まったもので、中ソはこれに大きく反対。それからすぐに起きたカナダへの『オリジナルハイヴ核集中投射事件』において大国の強権的な核使用について、南米諸国などから中ソの意見に同調する『核の使用を国際的に承認する制度にするべきであり、その影響を受ける国の許しを得ずに核を使用するべきではない。』といった国際世論が生まれたためだ。最初はアメリカを筆頭に反対していたが、中東の核使用の余波をイスラエルが受けたために突如方針を変更。ならばとアメリカは常任理事国を丸めこみ、その国益のために「これ以降の核使用に関し、使用する核は国連が管理し、製造も国連の信用の厚く、国力のある国(実質的にその当時の常任理事国だけであり、その後インドも許された)だけに制限するべきである。そうすることで核の使用場所の周辺諸国への配慮した場を設け、国連で話合う形にしなければその怨恨から世界的な核戦争に繋がりかねない。それを喜ぶのはBETAだけだ。」という論調を押し込み、アメリカお得意の多数決によって見事可決。欧州といった前線国家の反対を丸めこみ、平和ボケした日本もその真意を知らず、消極的賛成をしたおかげで日本も核使用自由が失われたのは笑えない事実として今問題になっている。言ってしまえばアメリカ、ソ連といった勝ち組の常任理事国が核と言う破壊力を恐れて生まれた条約であり、そのとばっちりを東欧など前線諸国の中小国が受けているというわけだ。会議と制限制になればどうしても判断が遅くなりがちであり、製造元であるソ連領内での核の使用など行えるはずが無い。そんな状況を覆すためのS-11なる新兵器も国連の元、米国が主導する形で開発しているが未だ完成してはいないようだし、長期間の管理が難しく、核以上に高くつく代物らしい。これは余談だが、日本でも核使用の是非が争われており、現政権まで続く自由党が党理としてきた、武器輸出三原則から続く『核に対する否定』的な態度は日本の教育にも影響しており、軍事の否定が完全に出来なかった日教祖はその矛先を核に変え、核を必要以上に劣悪な物として教えており、必然的に世論は核使用に対してとてもデリケートな社会となっている。それ以前にその土地の狭さと、自然宗教が強い今の日本からしたら環境に悪影響な核を使用することは感情的に許さないのだろう。理論ではわかってはいても。「…まあ合格、かな。概要だけを正確に伝えることに関して良いけど…そうだね、+αとしてもう少し相手に知識がないことを含みつつ、相手の疑問を誘導することで、それを看破してやれば説得力を増すと思うよ。」「…えっと…ありがとうございます。」「ほら照れるんなら、目をこちらに向けて。下に向いては本当にその評価に納得しているか、こちらに伝わってこないよ?あとそうだね。前に形式通りに説明しすぎと言ったことを覚えていたことを今回に行かせたようだね。なによりだ。どうにかして気楽な話し方で伝えようとしていることが伝わってきたから先生としてはうれしいものだよ」「はい、気をつけます。あと…先生ですか///自分で行ったことですが、なんか恥ずかしいですね。」「コラコラ、君から始めたんじゃないか。あとはおじさん連中にはその気楽さの中に歴史の流れを用いて補助してやれば喜ぶからそれも試してみな。あとただ条約の名前だけ言っても相手の理解を促せないって考えで名前を相手に言わせたのはOKだね。」「そこまで褒めると生徒が図に乗ってしまうのではないかの、先生。」「おっ?帰ってきていたのかい?四楓院家の当主様。」「四楓院少佐、出撃お疲れ様です。」いきなりの登場とはびっくりする。彼女、現在戦術機甲第4大隊を率いている四楓院夜一少佐が何時の間にか帰ってきていたようだ。斯衛の赤に属する将家の名家出の物でありながら、自分から進んで国連に一時出向をした変わり者、そのように評される彼女はその家碌にとらわれず、人を区別なく扱う優秀な大隊指揮官だ。自信をネコのようだと評するようにBETAの居場所を感で当ててしまう(もちろん経験を含んだ総合的なものだ…と思うが)その察知能力から、以前は偵察中隊を率いていたのだが、晴れて大隊を率いている。もちろん斯衛からは苦情をもらったが。その彼女が率いる大隊がこうも余裕があるということは、あらかたの光線級の集団を片づけ終わったということらしい。これで戦況は安定したと言って良いだろう。「大佐殿もわしを茶化さないでほしいですな。」その性格もネコに似て会話に茶々を入れるこの少佐だが、その出自から扱いにも困ったが、今はかなり慣れた。慣れざる得なかったと言って良いが。「なら君も言葉づかいは治さないのかな?少佐。」「失礼しましたな。司令代理殿。たしか一大佐が非常事態でなく、周りによそ者がいないのであれば言葉づかいに関しては何も問わないとおっしゃっておりましてな。記憶違いでなけらばですが。」「…これは一本取られたね。」「良く言いますの。」「…そうだ、君のほうからなにか吉良君に助言はないか?」「全てを聞いていたわけではないから、なんともいえませぬが…そうじゃの。翻訳機のことを気にすることも大事かと」「翻訳機…ですか?」そう、首をかしげながら四楓院少佐の方を向く吉良中尉だが、その言葉の真意がわからなかったらしい。「そうじゃ。日本人独特の言い回しや四字熟語、ことわざなどは自動翻訳機では十分に翻訳できるものではないからの。実際には会話の間にいちいち解説入るのだから聞いているほうからすれば聞きづらく、理解しづらいものじゃ。お主もここでそれを経験したことがあるじゃろ?」「そういえば、そういうこともありましたね」「まあそこらへんを含んで説得することを覚えれば、国家を問わず活躍できるんじゃないかな。なに、高学歴で実力もある君ならば本土勤めでも佐官まで速攻さ。すぐに僕に追いつくほどにね。」これは普通であればベッタベタのお世辞にしか聞こえないが、幸い日本軍は改変期、いやもはや激変期とまでよべるほど規模を拡大させている。それは日本が持つ自国軍以外にも汎太平洋同盟や、国連軍に長期派遣される部隊、そして国連軍内の日本派閥移民部隊など含めて拡充させている最中のことを指しており、それに応じて現在日本では士官の数がまったくと言って足りていないということと、前線で日本に属する部隊が活動するためにも軍が優秀な将官を求めているのだ。これも大国に連ねる『義務』というやつらしく、本来なら昇進には空気が読めることから人脈が必要なものだが、今ならば実力があれば上にいけるのだ。「はあ…ありがとうございます。」あらら、謙遜しているみたいだけど日本だと学歴社会だからけっこうステータスになるんだよ?頑張れ青年っ!!「(とか考えていそうだけどなあ、この人。僕が大佐を追い越せるわけないでしょうに…確かに大佐より部隊指揮能力において上の者はたくさんいる。はっきり言って大佐が指揮していた第1大隊が精鋭足り得たのは大佐の指揮ではなく、事前準備とフランクリンさんやマチさん達外人部隊の部下に古参が多く、それを補助していたためだ。それは大佐自身も言っている通り、浮竹・京楽両中佐のほうが戦果を上げていることからも、とっさの判断に優れ大隊を良く把握しているのは両少佐のほうだろう。衛士の実力にしたって中の上が良い所。それほど重要視されるほど優秀な成績を残したと言うわけでもないようだ。兵站幕僚もこなしながらの指揮官として地味だったらしく、一度大尉時代に上官に意見をしすぎて窓際に配置されたらしい。ここまでで言えばどう見ても、目立たない日本の軍拡に乗る形で出世した只のラッキーな佐官。だが光菱が大佐を見つけたのは彼が軍部に出したレポートが原因と言われているが…行幸と言えるだろう。なにせ今現在、彼ほど将来を有望しされる佐官はいないのだから。もちろん平民だからやっかみもあるだろうが、世界がそれを許してくれないだろう。それほどの戦果と人脈を各国の将官の間に作り上げている。それに日本に数少ない、兵站を熟知し国際化が著しい軍界にもその政治力と交渉力で対処できる軍略家、東欧で唯一と言って良い、上にも下にも頼られる存在として勇名をはせるようにまでなっているのだから彼自身が外交カードになっている。それにハッキリ言って今回の防衛戦、この人がいないだけで損害は倍にまでなっていただろう。この人の部隊全体の把握能力、そして部隊を上手く動かせる環境を整える力は飛びぬけている。防衛戦から今まで、数々の将官や前線指揮官に対し、光菱からの物資や戦力の提供を遅滞なく行い、緊急時にも関わらず国連軍全ての部隊を有効に活用する手管。東欧同盟議会に対し、国連が働きかける伝手まで完成させているとは仮に未来を知っていたとしてもできることではない。現にこの人は光菱派に収まってから海外派遣部隊の指揮官としてなんども大部隊を指揮・補助しており、考えられる上で最低限の被害で任務を全うさせており、その力を見せている。それはもちろんあの光菱がバックにいるためにやりやすい環境を整えてもらっていることも関係しているだろう。だが中佐から連隊、旅団、師団まで事実上軍団規模まで指揮を任されたその才能は覇格と言って良い。なにせその部隊を任された上で、全体での作戦の遅滞を許していないのは、あの人の力量が大きく関係しているのだから。その卓越した部下・部隊を管理・運営する能力。派遣先の将官との協力関係を作るコミュニケーション能力の高さと言うのは、日本人として異例だろう。師団といった軍の規模は他国内においてただ指揮する能力があっても上手く動かせない。周りに対しての気配りができていなければ恨みを買うのだ。なにせ東欧という異国の土地で、唯一と言って良い日本部隊は僕達旅団だけなのであり、そのバックに光菱がついていることを加味しても、海外派遣でここまで上手く立ち回る将官はいないだろう。それは日本が海外派兵に乗りだす前から、国連に派遣されて部隊をひきていた、日本人としてもっとも経験を積んだ指揮官でもある実績も影響しているのだろうが「戦場」を経験し、日本人でもっとも信頼がある指揮官になれたのは大佐の才能だろうと思う。ただの将家のお坊ちゃんとは違う。その実力は現作戦でも発揮しており、齢40にして東欧での国連の活動、全ての兵站を管理、補助しつつ、東欧と国連との仲介をこなすとは人間業ではない。しかも緊急だった今回の件でも、それまで練られていた計画を緊急事態に合わせて数々の案から独自に修正しつつ、国連軍と同盟軍の仲介を適切に行った。確かに部下にも優秀なものが多かったし、仲間や人脈によって助けられた部分も多い。だが、そこまで人脈を作りつつ"人を使える"人間であるのも一種の才能だ。ただの庶民出佐官に出来るものじゃないが…普通に考えてあきらかにおかしい。いきなり起きたこの防衛戦。ここまで兵站や作戦、人事においてまで上手くいきすぎるのだ。ならば、だ。…その権限を当て得られたということもあるだろうし、あの得体が知れない光菱と繋がっていることからある程度情報が回っていたこともあるだろうが…たぶん、ここがこうなると見越していたんだろう。何カ月も前に。先見の明。言葉で言えばたやすいことだが、実践することはひどく難しい。確信が無ければ動けないからだ。しかし大佐は確信をもっていた。光菱からの情報もあるだろうが、ここまで正確な対応ができるのは大佐自身も予想していなければ出来ないことだ。だから前線にも出たし、東欧将官との顔合わせも積極的に行っていた。それをこなす人員を廻してもらい、人脈と金脈まで掴んでいた。最初はパッとしないおじさんとは思っていたが、一年をすぎるとかっこよく見えるから困る。もしかしたら唯一の軟身でもある懐の甘さも、捕まっていた女とその縁者を考えれば、逆に人脈として利用していたと考えられるんじゃないか?確かにそう考えてみると軍集団司令長官の娘であるミハエラ大尉から、同盟の英雄として影響力を持つ二つの部隊にも顔が効く。他にも明らかなスパイの東欧将兵に、その時は流すべきではない情報をしゃべっていたが…あとから考えればこちらの優位に運んでいる…この人何者だ?というかそもそも光菱自体もおかしいんだ。企業としての成長や政治力の増大に対してはいろいろとおかしくはあるが、あり得なくはない。それほどの実績が過去にあるからだ。だが大佐以外にも西欧戦線や北欧、南欧、本国でも光菱派と属する将官や士官が実力を見せつけるように活躍し始めていることは別だろう。そのほとんどが端省き者とされた者達。それをほとんど外れもなく、見つけ出すとはどういうことだ?未来でも知っていると言われなければ納得できないレベルだぞ…)」…なんか吉良中尉が俺の顔を見ながら顔を青くしたり、しかめたりして考え込んでいる。なにコレ怖い。また女性に優しくしすぎとか注意されるのかな、中尉なだけに。ククッ中尉に注意。クククッ…あれっ?今シベリア行きとか言ったヤツいなかった?なんだ?妄想だけの親父ギャグなんだから許してくれよ。と言っても女性に優しくするのは男のマナー…というわけではないが、息子よりも娘がほしい俺としては顔がにやけてしまうのだから仕方ない。なんでこんな少女が前線にいるのかとこの世界の現状に嘆いてしまうものだが、その分大人の俺達が優しくするべきではないかと思うのだ。それに内緒だが1年前、一度日本へ帰った時(もちろんすぐとんぼ返りすることに)に妻とハッスルしたことがクリ―ンヒットしたらしく、身籠ったとのこと。まあ幸いなことに前線にまで張り付いて働く佐官だから、金には余裕がある。光菱に頼んでメイドさんとボディガード等を頼んでいたため(浮気が怖かったからでは決してない)に無事、出産出来たとのこと。しかも女の子であることを奥さんから衛星テレビ電話聞いた時は一日中ニヤニヤしていたものだ。…ああマジで帰りてええええぇぇだが帰られない変えられない事情があるのだ。これもかけてますよ、ククッ光菱はなぜか俺を中心に派遣先の将官やお偉方と繋がろうとするため、いらない人脈と金脈があり、帰るときにその人脈の受け継ぎも行わなければならないため、「ここに派遣部隊であるほどさらに海外滞在期間が長くなる」という負の連鎖に入っている。だからこそ、この作戦が順調に終われば俺はここから帰れると言われれば本気にならずにはいられないだろう。この2年間全てを念入りに準備したし、死ぬ危険性のあるものは全てクリアして回ったものだ。本当、この1年これまでの人生がなんだったのかと思うほど注意を効かせて問題を対処してきたし、くっだらない親父たちとの会談に赴いたもんだ。たぶん生涯で一番輝いていただろうね。それもこれも全てはまだ見ぬ娘のため。そうだ俺、この戦いが終わったら娘を抱っこしに本国に帰るんだっ!!「(ま~た性懲りも無く部下の前でニヤケ面しおって…気持ち悪いのう。どうせ前言っておった生まれたばかりの娘のことでも考えておるのだろうな、この大佐は…まったくなっておらん。吉良はなぜか畏敬のまなざしで見ておるが、そ奴はただのたらしじゃ。有能ではあるがの)」なんか四楓院少佐がこちらをバカにしているような目でこちらを見ている。しょうがないじゃないか。こどもは可愛いんだから。と呆けるのはここまでにして今回の防衛についてだ。なにしてもいろいろとぎりぎりすぎて今回はやばかった。やけに本国の連中の動きが早くて“偶然”助けることができたけどこんなこと何度も出来るとは思えない。どこかで邪魔が入るかミスがあるだろう。それになにより今回の作戦で死傷者など、目に見える傷は少なくて済んだけど、もっとも堅牢とされた第一次防衛ラインが予想より早く崩れたことを忘れてはいけない。長らく使うはずだった防衛線が無くなったのだ。どうしても第2次では抑えられないだろうから戦略の見直し、もしかしたら全体計画の見直しにも発展しそうな問題だろう。戦略的な関知から見ても第1次に比べて第2次防衛ラインはそこまで持つとは到底思えないし、後退しているのはこちらなのだ。負けは負け。それを自覚出来ているかだが、難しいだろう。被害が少なすぎるし、政治として国連が深く関与したことが見えない傷を残しているし、日米派閥の争いも次は作戦に支障を残すかもしれない。将兵が日米の不和に気づいてしまったんだ。これは大きな障害だ。問題は時間だが…かけすぎてもBETAがさらに戦力を集中させてきたら一気に押し込まれることも考えられる。今現在、24万のうち殲滅に成功しているのは核を使ってやっと10万を超えたほど。あとの14万の半分は一度退却し、モルドバ付近に散っている。これからの掃討戦で討ち取れるのはいって後5~6万といったところだろう。それならばBETAの欧州攻勢においての余剰戦力はあと30万はいるということになる。ハイヴを含めればその倍は下らないだろう。そう見ればBETA共のとって今回の失敗は痛手にはなり得ても、攻勢を挫くまではいかないのだから時間を置かずに再侵攻もありえる。まあ一番考えられるのは1~2年の休戦期が得られることだが楽観もできないだろう。内憂外患とはこのことだが…楽観論が広まりそうな今それを自覚しているのはどれぐらいか……新たな要素を入れないとここは時期に堕ちるかもしれないな。それを黙って見ている光菱でもないとは思うけど、周りはどうかわからない。実際にBETAを殲滅出来ている以上、捉え方次第では本国でも楽観論が生まれかねないし…一応レポートにして送っておこうかな。光菱と軍の両方に。後の事後処理もあるけどこちらも大切だろう。だが光菱もこれまでに少なからず恨みをかっているし、経済的な動向としても不安を隠せない。どう報告したものか…「たい、あ司令代理。ここにいたんですか。国連派遣司令部のジョン・カーター准将がお持ちです。」また仕事か。まあ良いか。国連の派遣部隊のほうでもいろいろと派閥はあるだろうし、楽観していない者もいるはずだ。准将にそれとなく聞いてみよう。よし頑張ってみようかな。~つづく*************************************次元管理電脳より追加報告です。国家連合組織『ASEAN』について追加報告をお伝えします。《ASEAN参加国》NEW!!・インドネシア 東南アジア1の人口を誇る大国であり、一人当たりの平均所得は低いが、近年の日本企業の進出とネットインフラを推し進めたことにより、好景気を享受しており、軍の近代化を急いでいる。またその影響と親日国家ということもあり、日本製の兵器購入の大口顧客でもある。※東ティモールは近年の軍事路線から独立を果たしていない…・シンガポール中国のBETA侵攻に伴い、香港からの欧米企業脱出相次ぎ1960年代から経済成長を続けてきたが、未だ陸続き(1989年、タラ海峡開通)であるためBETAの脅威感と最近インドネシアの発展からジャカルタに顧客を奪われていることや、人口が少ないため軍事の力が乏しく、東南アジアでの地位は年々低くなっている。・タイ近隣の東南アジア東側陣営がソ連、中国の後退により頼る国を無くした影響で相対的にその影響力が上昇している。日本とアメリカに対して友好的であるが、どちらかによるということはなく、日米の東南アジア地域の主導権争いに対しては中立的立場をとっている。・フィリピンシンガポールと同じく香港からの欧米企業脱出組に加え、アメリカの影響が強まったのは1970年代後半。その影響から来る米軍基地の増強と米企業の進出が進み、それに華僑が進出することで経済は史実よりも発展してはいる…だが、横領にまみれたマルコス強権政治がアメリカの後押しの元、続いているため、近年3年で比較しても経済成長がとても高い…というわけではない。台湾との関係も近年強化を図っている。・マレーシア昨今のBETA侵攻から中国の難民が大きな問題となっているが、日本に好意的であるマハティール政権の元、民主化の推進と経済の活性化を目指した影響で東南アジアでも1、2位を争う経済成長を遂げている。・ブルネイ1981年イギリス自治領より独立。BETAによる影響で石油、天然ガスの値段が高騰したことを受け、相対的にブルネイの価値が上昇したことで独立運動が活発化し、イギリスとの良好な関係を続ける協定の代わりに、独立を勝ち取っている。・ベトナム1975年に南北ベトナムが統一され、ソ連よりの姿勢とカンボジアへの侵攻により起こった中越戦争(1979年)はBETAとの戦争に忙しい中国の内部事情により小規模に終わり、カンボジア内に居座り続けることになる。そのため世界から孤立し、中国との国交正常化はASEANに1984年に入るまで断絶したままであった。現在は将来の東南アジア危機の元、団結する機会を得てASEANに入り、所有権や契約など、資本主義に必要な民法が出来たことで日本を中心とする勢力(特に中東)との協力の元、冷え切った経済の立て直しを図っている。尚アメリカとの関係は1985年に入ってから緊張緩和を成しているが、正式の国交正常化には未だ成っておらず、日本が行った国際協調路線の元の「ASEANの強化」と「加盟国の増加」に伴う、日本とベトナムとの国交正常化は「日本の先走り」として批判する米政治家も多い。・カンボジアポルポト政権の元、毛沢東主義である「原始共産主義社会」を目指し、国民を死の淵に追いやったことで有名なカンボジア。その正確な数は不明だが内戦からアメリカからの空爆、ポルポトの虐殺を含めると、少なくとも100万、多くて200万人ほどの人々が死んでいったとされる。(当時の人口は1000万人以下)その後のベトナムの侵攻によりポルポト政権は瓦解、サムリン政権によるカンプチア人民共和国が樹立され、諸外国からベトナムの傀儡政権であるとして承認されることはなかった。しかしサムリン政権にとって肝心となるソ連がBETAとの争いで国際政治から存在感を喪失させ、1970代後半からアメリカとの関係が強めてきた東南アジア諸国からの影響と、対BETA戦の恐怖から国内の反発が強まり始めたのが1980年代の初め。その影響による現政権の弱体化とベトナム、カンボジアの荒廃を知っていた日本…光菱の働きにより・ベトナム軍のカンボジア国内からの退避を行うことを了承すること・カンボジア政権へのベトナムの関与の否定、・資本主義の一部導入と反対派閥の政党の設置を行うことで荒廃したベトナムとカンボジアの国内食糧状況を改善させるための日本を通した経済援助とASEANの加盟、カンボジアと共に国際政治への復帰が適っていることなどの政治的な協力を得たことで東南アジア諸国連合軍に兵力を提供できるまでになっている。これに対し、無理やりすぎるのではないか。アメリカへの配慮を。と言った声が騒がれたがベトナム、カンボジアの立地を考えた場合、東南アジア諸国連合の後に非協力的な国があることは政治的以上に軍事的危険性が高いことと、アメリカに対し意固持になっている両国を段階的な民主化に進ませるには、新たな道を進む日本が動くしか道はないと説明した大臣の説明がいろいろと問題にされたのは記憶に新しい。・ミャンマー(1985年現在の名称はビルマ)戦前に日本軍の訓練を詰んだ「三十人の志士」の一人であるネ・ウィン将軍が現政権を保っている。この世界では対日反乱は起こさず、傍観に勤めていたこともありクーデター後、日本での戦後も日本との関係は良好である。外交では厳正な中立主義を続けてきたが、ソ連、中国の東側陣営の荒廃と、フランス、イギリスの没落もありアメリカとの関係性を深めようとしていたが、南米での急激なアメリカの影響力強化を見て、態度を硬化。1980年代からは日本政府との関係性を強化する方向に変わっていった。しかし軍事独裁体制への変更を余儀なくされている状況であり、社会主義の信用が低下し始めている中、資本主義の一部導入を余儀なくされ、印橋や華僑の受け入れを最近になって開始しており、軍事と経済、政治の分化に対して前向きな姿勢を見せている。友好国はユーゴスラビア、敵対国は中国・ラオスソ連、中国の敗退が続くことで社会主義という主義自体の不安と、頼れる国を失ったことにより、1970代より社会不安が増していったラオス。将来BETAからの侵攻は避けられない現実となることを知った政府は1980年代に入って、「チンタナカーン・マイ(新思考)」の理念に基づいた経済改革を実施し、国家計画経済から、規制を緩和し開放市場経済への転換を始めている。総合して日本の戦前の影響力もあり、日米と比較して日本に対し協力的な国が多いASEAN諸国。近年の日本の行動方針転換についても好意的であり、反日的な者からは「日本の庭と成り果てた」とまで言われている。その言葉もありアメリカでは日本の勢力拡大を懸念する動きが激化の一途を辿っている。以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。****************************************外伝の主人公たる黒野大佐の俺SUGEE話だった今回ですが、あくまでこの作品の主人公は孝明くん只一人です。忘れないであげてね?話のほうですが、中途半端ですがこれにて第3部に移ろうと考えています。その第3部ですが…プロットなどがまるまる消えてしまったので読者様に対して大変申し訳ないのですが、上げるのがとても遅くなる…と思います。では次回にて