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No.28072の一覧
[0] 光菱財閥奮闘記!! 【9月25日 本編更新】[カバディ](2012/09/25 15:32)
[16] 第Ⅰ章<始動編> 2話 契約 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:32)
[17] 第Ⅰ章<始動編> 3話 目標 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:33)
[18] 第Ⅰ章<始動編> 4話 会議 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:35)
[19] 第Ⅰ章<始動編> 5話 瑞鶴 《7/6改訂更新分》[カバディ](2012/07/06 18:36)
[20] 第Ⅰ章<始動編> 6話 初鷹 《7/6改訂更新分》[カバディ](2012/07/06 18:36)
[21] <第Ⅰ章>設定 1980年編 [カバディ](2011/10/13 18:12)
[22] 第Ⅱ章<暗躍編> 1話 商売 《10/28改訂更新分》[カバディ](2012/01/04 16:09)
[23] 第Ⅱ章<暗躍編> 2話 政治 《10/30改訂更新分》[カバディ](2011/10/30 15:50)
[24] 第Ⅱ章<暗躍編> 3話 戦況 《11/4改訂更新分》[カバディ](2011/11/12 16:50)
[25] 第Ⅱ章<暗躍編> 4話 量産 《11/8日改訂更新分》[カバディ](2011/11/19 16:59)
[26] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormnt‐》 第1話  集結 [カバディ](2012/01/04 16:10)
[27] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第2話  東欧 [カバディ](2012/01/04 16:11)
[28] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第3話  戦場 [カバディ](2012/01/04 16:13)
[29] 第Ⅱ章<暗躍編> 5話 愚策 《11/12改訂更新分》[カバディ](2011/11/19 16:57)
[30] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第4話  場景[カバディ](2012/01/06 19:10)
[31] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第?話  日常[カバディ](2011/09/12 23:32)
[32] 第Ⅱ章<暗躍編> 6話 冷戦 《11/21改訂更新分》[カバディ](2011/12/03 14:27)
[33] 第Ⅱ章<暗躍編> 7話 現実 《12/3改訂更新分》[カバディ](2011/12/03 14:18)
[34] 第Ⅱ章<暗躍編> 8話 権威 《12/21更新分》[カバディ](2011/12/21 20:06)
[35] 第Ⅱ章<暗躍編> 9話 理由 《12/21更新分》[カバディ](2011/12/21 20:09)
[36] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-1話 乱戦[カバディ](2012/07/07 20:08)
[37] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-2話 調整 [カバディ](2011/10/26 19:36)
[38] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-3話 対立[カバディ](2012/01/06 16:08)
[39] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-4話 結末[カバディ](2012/01/06 19:29)
[40] 第Ⅲ章<奮闘編> 1話 新造 《7/8新規更新》[カバディ](2012/09/25 14:27)
[54] 第Ⅲ章<奮闘編> 2話 増援 《9/25新規更新》[カバディ](2012/09/25 15:32)
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[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-3話 対立
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/06 16:08
※お知らせ※

イラスト『GF-4J 瑞鶴』をPIXIVにて上げました。

「光菱財閥 Pixiv」などで検索していただければ見つかると思います。


***************



1985年1月18日 1540 ルーマニア社会主義共和国 コンスタンツァ軍港付近 国連派遣軍増設基地群 G棟地下2階フロア 戦域情報管制室




目の前の画面の前に佇む男。

歳をとり戦果を重ねるごとに、あったはずの髪がなくなりちょび髭を生やした…見るからに傲慢不遜な中年男性。

そのような外見を持つ男が俺の目の前に佇み、反論を重ねてくる少将、

国連統合軍地中海総軍 第1軍所属 第37師団 師団長 レイヤ―・ムティグーチ少将、その人である。

国連内では最大派閥である親米派に属し、その対極に位置する者から見れば、フィリピン陸軍出の『勇猛果敢すぎる少将』と評されるこの男。

今回の作戦で見てみれば、未だ影響力が低い東欧などの黒海周辺地域でのプレゼンス能力を見せつけるために、さて活躍してやろうかと活き込んでいたいたところ、最近拡大の一歩をたどる親日派の連中に先を越され、主導権を握られたことに腹が立つ一味であり、その代表格である。

そのおっさんが俺に何度もいちゃもんを突き付けてくるのだ。

「何度も言っておりますが、黒野大佐。先ほどから何度も要請したとおり、我が第37師団への補給物資が滞り始めている件と例の追加部隊の話だが、どうにか融通ができませんかな?」


「レイガ―・ムティグーチ少将…確かに少将の師団の出撃比率は他の部隊に比べ、高かったことは記憶しております。
ですが3日前の補給物資をもうお使いになるほどではなかったとも記憶しておりますが、その件にはいかに?」

先ほどから、相手をバカにする態度―――軍ではその個人が納める最高位の位か地位で呼ぶのが通例となっているのにもかかわらず大佐と呼ぶこの少将。

まだ国連軍という組織がここ数年で急激に拡張されたことで、国連に将官、士官がいない現状。

国連では各役職に権限に加えて、その役職に座り続ける間限定の将官としての地位が付随させることでお茶を濁しているのもあるがどうみても「この若造に主導権を渡すとは軍の上の連中はなにをやっとるのだッ!!」とか思っているのが見え見えの少将。

その気持ちもわからないではないが、(だって無理やりやらされてるわけだし)どうにかこの作戦を上手くまとめるためにその息巻いている口を閉じてもらいたいのだが…臭そうだし。

まあ先ほどのことを踏まえれば本来ならば本部長代理(中将相当官)で呼ぶか、その用途から最低位の基地司令代理(准将相当官)で呼ぶものなのだから、それを意図的に無視する目の前の男に関して、旅団内からの評価が絶賛最下位記録更新中の将官でもある。

「あの量では2会戦も持たないと何度いったらわかるのですかっ!!即応部隊であり、機甲部隊である我が部隊は十分な補給が無ければ、その期待に足る戦果を実現できないが…それでよろしいので?いま戦力に余裕があるのは海を使っての輸送ができるここだけなのですぞ!!」

ですぞってムックかおまえは。

だが言っていることはその通りだろう。機甲師団、戦車や装甲兵、戦術機を含む少将の部隊を動かすのであれば、それ相応の補給を満たさなければ結果がとも合わないものだ。


だが

「それは確かにそうでしょうが、なによりも貴下の師団の攻勢作戦の出撃は当分ないのです。

少将の師団に求められていたのは撤退路の維持、後退する部隊の周辺警護の任務だったはず。そうであれば少将の師団への補給は十分持つ量、そのはずだったのですが。」

「―――それは我が師団が任務放棄をしていると?」

「そうとは言いません。ですが現状、その補給量に限りがある以上、少将の師団にも我慢してもらわなければならない。そう言っているのです。それがここ、国連軍と東欧の現状とご理解していただきたい。」


「……」

その言葉も真実であることを知る少将としても黙らざるおえないものなのだが、腹立たしいのだろう。顔面から怒気がにじみ出ている。

…もちろん俺のような若手が上司であること自体許さないというのは分かる。どこから来たかもわからない若手、日本が最近になって力をつけ、今回の人事にねじ込んだ。そうも見える者からしたら敵でしかない。

確かにその通りである一面もあったが…まあこれ以上は言うまい。今わかれば良いのはこの人のような派閥は俺に憎悪し、その部分からくる作戦方針への反対しているという一点だけだ。



そもそもその派閥の代表と目される少将の戦果、その特徴としては十分な後方支援のもとで最大の活躍する、そのようなタイプの将官だ。

が悪く言えば、その後援であるアメリカからの補給物資量に頼った戦い方しかできないということであり、兵站、補給に関してまったくといってこちらの理解を示さない、やっかい極まりない男ということになる。

確か出自でしては大戦中にフィリピンに流れた日系と噂されており、その分功績を上げようと躍起になっているらしいのだが、補給を考えずに行って、部下が帰ってこないという最悪に近い将官でも有名だ。

あのアメリカ派閥の将官は生粋のアメリカ将兵ならば、最優秀とは行かないまでも日本帝国よりか平均では"軍の方針がわかってくれる"将軍が多いのだが…他が優れない。

ここまで勝手にできるのは、その戦果に見合った?結果をなんどか上げているためでもあるのだが……一番大きいのは国連部隊に転属された当初、ほとんど偵察を行わずに連隊全体で勇猛果敢な突撃を敢行。

その勝手な突撃に近隣部隊が助攻を開始したおかげで、見事に戦果を上げたらしいのだが、そのことを国連の上部新規加入組がいたく気に入ったらしいのだ。

実際、アメリカ派閥の他国将官は経験不足や実戦不足からか、パッとしない者が多く、逆に言えば堅実な者が多い。

だがその堅実というのも対人戦闘を考慮していた昔の名残の教育線上の物であり、BETAに対しても堅実とはいかず失敗が多いのも事実だ。

そんな中その過程はどうとしても、結果を残した少将は評価されるべきではある。

が、その助攻をした部隊が3つとも国連派遣された使い捨て米移民兵集団であったために、「米派閥に属する他国将官の評価を上げる必要がある」として政治的な介入が成されたためにその評価にプラスαがついているのも見逃すべきではないだろう。

それ以後、親米諸国将官内での急先鋒として各地で活躍したこの男は、アメリカからの優先的な補給態勢と部隊整備を受けられることからそれに頼った攻勢を峰とし、そのためその幸せなほどの後方支援を"普通"と考える癖がついている。

…あの国の兵站能力を普通と考えてもらっては困るのだが、彼から言わせればこちらの怠慢で、どこかでピンはねしているとこちらを疑ってきているのだろう。

少し後ろのことも学習してほしいものだ。戦前の日本じゃあるまいし。


話は進み、少将の
「未だ米軍傘下になっている我らに対して、そちらに出撃命令権はあっても、自発的な出撃を止める権利はないはずですが?」

という言葉から始まる国連の問題に差し掛かった。

これは今の国連において最大の問題点となっている『指揮権が絶対的でない』という部分の弊害、その象徴だ。

BETAに対して集団で対処する、それしか人類がBETAに勝つことが出来ない。それは誰しもが口をするがその重要性を本当に第一としている者は限りなく少ないのが現状である。

それは戦場から遠ざかるほど比重が小さくなりもので、国家間の妥協が無ければ現状のような《国連軍》としての形でさえ作れはしなかっただろう。

そしてその国連軍にしても日本からの新しい影響があったとしても妥協の産物でしかない。

それは今に置いてもその『妥協による弊害』は作戦を阻害しており、

今回の緊急時のような指揮権の順位付けが成されておらず附属が軍レベルで違う場合、上位者に対し作戦を否定することは出来ずとも、自発的な行動を制限することは国連としてできないのだ。

これは指揮としての問題としてゆゆしき事態であり、たかだか数年で急速に拡大した国連軍としての問題点でもあるのだ。


「…確かにそれはそうですね。自発的な協力を第一とした、前年まで実施されていた義勇軍。それを形にした現状の国連に少将の行動を作戦行動無しに阻害することはできません。ですが、今の全体の動きに対して悪害としか成りえない行動をとるおつもりなのですか?」

それは暗にそちらがそう動くのならば、こちらもその部分を使ってお前らを邪魔してやるぞと言っているに等しい。大人の喧嘩は敬語でルールに則ってやるから伝わりづらいものがあるが言っていることは子供の喧嘩と変わりない。それによって守るのがプライドに付随した利であることも。


「もちろん極論です。ですが我が部隊に対しての補給は今回、作戦司令部からは十分な量を約束されているはず。
確かに現状ではそれを物理的に満たすことは不可能であることは将官も重々理解しておりますが、それを打開するために支援を要請する必要があると考えますが?」

来たよ…一番言って欲しくない問題点なのにさあ


「―――と言いますと?」

「今からでも"こちら側"に任せて戴けるのなら、ここ全ての部隊が5会戦分の補給を行えると試算が出されているのです。
こちらは現在の東欧の現状に憂いております。それを助けるためにも我が部隊が送られ、それに追加して補給物資を臨むことも可能かと考えますが…どうかな?」

"こちら"と言っているように国連も一枚岩ではない。そしてそのこちらとは少将の後ろにいるアメリカの軍部、それもこちらに反対する派閥のことであり、とてもやっかいな相手だ。実力うんぬんではなくアメリカということだけで。


「(まずいな…ここでこの少将との関係をこじらせると後で大きなしこりとなることは必定。どうにかして問題を納めたいものだが…あちらは納めようとする意志が無い。非常に拙い…)」


それは日本とアメリカとが国連内部で主導権争いをしているという証左、しかも日本とアメリカとが直接ではなく、表向き以上に親米派の諸国と親日派の諸国とが対立化が進んでいることに他ならない。

この反日派と呼ばれる国連派はアメリカの抑えが効かず、どちらかといえば放置しているとも見れなくもないが、今回のようなあいまいな部分をついてくるケースが近年多発している。

それはアメリカというボスに頼った「虎の威を借る狐」に見えなくもない。

だが、絶対的なアメリカによる世界の安定、他者から見ればアメリカの覇権が揺らぎ始めている現状を許せない。そういうアメリカの派閥が協力して介入しているらしく、アメリカ最大の長所である後方支援を武器に主導権を確固たるものにしようと動く急進派の仕業でもあった。


これは国連の内部に起こった新たな火種であり、日米両国政府が沈静化を推し進めようとも収まらないほどまでに発展、人類の中で新たな問題となっているのだ。


…見誤った、と言って良いだろう。今回の"根の張り"が甘かったこともそうだが、アメリカへの対応を間違えなければ今回の問題は『国連と同盟』だけ、そう考えていたのだから。

だが実際は違う。アメリカも西欧の状況を知ることで東欧の危機に関し、拙速を選んだことに間違いではないと判断していたし、今回に限れば即断してこちらの主導権を肯定してくれた。

だが、その下がそうとは限らなかったようなのだ。またもや日本が独断で行動を起こしたと、そう思いこもうとしている。

まったく度し難い。その主導権争いによって死者は増加し、責任がこちら側にある以上、その死者の増加はあちら側の利となる皮肉。

だからこそ止まろうともしない輩。それが正義と信じその死者をただ単なる数字として見ている者は非常に多く、相手への問題点として刷りかえる者は悲しいことに少なくない。

アメリカの覇権、それによる人類の主導こそが正義と信じて。


だが一つ忘れてはならないのは我々光菱、ひいては日本は相対的利益として、アメリカの国益を損ねたことは一度もないのだ。

目的としてもアメリカに意見を言える組織を作りたいがためで、アメリカの地位を転落させたり、決して一位、世界の警察としての立場になりたいわけでもない。

経済規模が小さくなっている現状、アメリカの成長はある程度不正を働いたとして注意するぐらいで阻害しようとしているわけではなく、現に日本が行動を急転換した1981年、そこからの米経済は良くなっている。

しかも利益を上げているのは日本と協調した部分であり、あの国際戦術機選定計画によって激変した戦術機のシェアにしたって、シェアとしてのアメリカの割合は確かに激減しているが、パイが大きくなった影響でアメリカの利益としては前年と比較しても激増しているのだ。


結局のところ『感情』 それが問題であり、アメリカの過剰な恐怖心によって超されたものなのだろう。

そう、こちらと強調しているアメリカの派閥は危惧している。

さてさて問題はアメリカからの支援、それをどうにかすることだったな。少し俺も疲れているのだろう。


「…それが行える部隊を国連経由で回していただけるのならば、こちらは何も言うことはありません。

現にアメリカからの物資量は日々増えており、それに関して私達は国連を代表してお礼を言わなければならないでしょう。」

「それはそうでしょう。BETAが押し寄せてから早3日、我々を含む国連大西洋方面総軍からの派遣部隊も順次活動が可能となっておるのです。

この機に新たに陸揚げされた2個師団を戦線に投入し、未だ後方に取り残されている東欧の友邦達を救出するべきではないか、そう新たに来た国連将兵は嘆いておりましたぞ?」

それを言っているのはおまえだろ…


「確かに現時点で撤退が完了していない、第4軍隷下の第25、28歩兵師団が要塞線第3陣地にて孤立しており、早々に撤退を完遂させるべきではありますが、それは私に言うべきではないかと。なにせそちらは東欧の管轄ですので。」

まあこれに関しては、方便でしかないのだが。

「だからこそ、こちらの戦術機甲部隊を中心に決死隊を募り、あちらの部隊を救出しようと言うのです!!

『我々は味方を見捨てない』かの有名な京都協定で日本の首相が述
べられたことではないですか!」

確かに現時点、3日立った今でも全ての部隊が撤退出来る状況には程遠い。

それをどうにかするためにもこの少将は戦術機甲部隊を中心とする部隊で西進。黒海から内陸に150キロ、カルパティア山脈の付け根より東に20キロの部分に籠っている友軍約4万をこちらから救い出そうと言うのだ。

確かにそこは要衝ではある。交通の要として重点的に整備され、山脈側とデルタ側の中間に位置する一番弱い場所を守る軍への補給線でもあるからだ。

だが

「では正直に述べますが、そこの部隊は必要だからこそ、そこにいるのです。逃げられないわけではない、撤退するべき我々を逃がすためにそこに張り付き、部隊全てが撤退することを今か今かと待っているのです。その努力を無駄にしないために我々を動いている、そう我々は考えております。
―――今の現状が撤退戦であることからして。」

ここにいる我々は結局のところ、港を使って撤退する東欧の部隊を守るためにいるのであり、大きく動いてはならない。

部隊を増強しすぎれば補給に限度がある以上、今でも溜まり続けている敗残兵に飯を食わせられなくなり、自然全体としての動きは遅くなる。

だからこそ海と、陸、山三つの撤退が終わるまで、その攻勢の囮となる部隊が点在しているのであり、先ほど述べた2個師団もその一部なのだ。

いわゆる殿部隊というやつで、撤退と言う負け戦において一番被害が多くなる敵の追撃を、撤退する本隊に及ばさせないためにいるのだ。

その彼らを救うために兵を出しては彼らの目的にそぐわない。それはその部隊を侮辱することに等しい。

「だが、助けられるほどの充実した戦力がここにいるのならば助けるべきではないのですか?現時点においてここ、同盟が呼称する第1次防衛ライン周辺には13万ものBETAが犇めいているのです。それよりもそこの部隊をこちらに移し、協力して当たることの方がよろしいと考えますが、いかがかな?」


そう、北から来るBETAは約一三〇〇〇〇に減らしてはいるが、今だルーマニア国境線から南に50キロまでわんさかいるのだ。

通常であらば撤退するまでに張り付けている戦力はすり減り、救い出すべき戦力が摩耗していくのは自明の理であり集団で対処するのは的を得ている。


「戦力を点在させることは敵に各個撃破される…そう言いたいのですね」

「然り」

「ですが、現状がそれを許しません。たかだか5個師団が7個師団になろうと敵が多すぎる。ただ呑まれるだけでしょう。

しかもBETAから撤退した部隊ということは、人員を優先させた後退によって戦力を維持できておりません。

そうなれば戦力が低下した2個師団。他を含めれば6万にも及ぶ人間が撤退するまで防戦となるのは必至。そこに打って出るべき戦力を持ちながらです。それは全体として痛手でしかない、そう考えるのが自然なのではないですか?」

「…ならば見捨てろと?我々は救出を旨としてここに来たのですぞ?」

て め え が そ の 活 動 を 阻 害 し て ん だ よ っ!!気づけ豚っ!!

「確かに2個師団の撤退を行えたらとは私も思います「ならっ!!」…最後まで話を聞いて戴きたい。」「…」

「ですがさきほども言った通り、ここに集まりすぎれば奴らはここに集まっている我々を第一目標にして集まってくるでしょう。

それは2個師団といったひな鳥が頑強な巣穴から飛び出し、こちらに移りこもうと獣の目の前をヨチヨチ歩きでこちらに来ようとしているのと同じなのです。

それに釣られるのは2個師団を攻撃している集団だけではなく、各地で陣地を壊して回っている個体も招き寄せる結果に繋がるでしょう。

我々がなぜ部隊を点在させつつ、伏撃や遊撃に努めているかお分かりか?」


「確かにそうですが…」


「それは急激な部隊活動によってBETAを招き過ぎずに撤退を行っているからであり、敵にここが重要拠点であることを知られては困るからです。

敵は人間ではなく、BETAなのです。

今現在、機動力という点に置いてこちらが勝っている唯一の兵器、戦術機を使って各地に散った個体を狩り、撤退路確保。違う部隊が付近のBETAを狩ることでBETAを各特火点に誘引。特化点が派手に騒ぐことで敵集団の目を特化点と殿部隊が引きつけ、撤退をスムーズに進められているのです。
決して撤退がスムーズにいっているのは運やBETAの気まぐれだけではありません。だからこそBETAが足を取られている現状、こちらが行方をくらませつつ、小部隊ではぐれたBETAを狩ることこそが今求められているのです。」

本来ならばこの窮地に戦略的に行える策はそう多くない。

戦線戦力の順次後退。

いわゆる戦略的撤退というやつだが、これはBETA相手に有効か?と聞かれれば首をひねらなければならない。

なにせ相手はBETA。こちらよりも圧倒的に速く強靭で、人を見つける察知能力もずば抜けており、尚且つ補給いらずに渋滞知らず。

そのような相手に手負いの人間が逃げられるわけがない。

それはBETAとの戦史にも表れており、その特徴というのは撤退するべきところで撤退が行えないと言う点なのだ。一度戦線が崩壊すればそれでそこの兵は喰われる。そうまで言われるほどの被害が撤退時に出てしまうのがBETAとの戦いなのだ。

それを知らずにもし、人を相手にするようなただの順次撤退を行えば、こちらが戦線と言う巣穴から出るひな鳥のように相手は見えるだろう。その中でひな鳥はどれほど生き残るか。

人と人との間に起こる撤退戦でさえ被害を抑えるのは難しく、その被害の多くは追撃戦にこそ出ると言われるほどのものであり、BETA相手であらば速力や体力といった面で圧倒的に負けている分、その殲滅速度は加速度的に上がる。

本来ならば部隊丸ごと見捨てるのが、BETAとの戦いでの一番良いものだが、人はそれを許せずいらぬ被害をこうむるのが常であり、本来ならばここまで体制を崩されては撤退というのは愚策に等しい。

先の少将が述べる味方を救うための攻勢は、撤退まで十分な支援と戦力が整っていれば行えるもので、今、たかが2個師団を救出するために割いて良いものではない。


そしてもう一つが西欧側の強襲。

相手が攻めてくるならば逆側の部隊が攻勢をかけ、こちらに来ているBETA群を後退させる。これがBETAに効くものかわからないが、確かに西欧が攻めれば東欧が戦術機等で攻める、その方針によって敵の戦力は今のように分散している。

だが今回はそれが敵わない。ミンスクからだけではなく複数からなる敵集団はミンスクの個体数にかかわらず攻勢を続けるだろうし、尚且つ今現在、北欧、西欧ともに小規模2万程度の攻勢撥ね退けている最中で身動きが取れない。


そして最後に後方予備軍が後方に進出したBETAを掃討するまで、戦線の大部分がその場所を死守することだ。

本来であればその土地に固執する将というのは愚将と蔑まれるものだが、撤退がただの蹂躙戦となる以上、土地にこだわり贄となってもらったほうが幾分かマシだ。

一番怖いのは未だ12万という数のBETAが戦線を超え、そのままこちらになだれ込んでくることなのだから。

これが一番現実的な策と見られ、戦線の戦力はすり減るだろうが、通常の撤退よりかは戦力が減ることはないだろう。長くて1週間。

戦線に備蓄されている物資ならば十分に耐えられるはずだ。


―――と日本と光菱がここに干渉しなればそう判断していただろう。


だが今回の東欧は違った。


東欧は早々にある決断に踏み切ったのだ。それがドナウデルタを含む、第1防衛ラインの決壊とその破棄である。

この決壊というのはダムの崩壊と同義であり、プルート川、シレト川、そして国際運河に指定されているドナウ川の下流に位置するドナウデルタ全ての栓を外し、最近の雨量増加によって貯められていた水をオランダのウォーターラインのように、意図的に洪水を起こさせる…というものだった。


それによりBETAの一部は足場の不安定な大地に飲み込まれており、その間にカルパティア山脈に戦術機甲などを集中。

それまでプールト川、シレト川、そしてカルパティア山脈の3重線であったカルパティア山脈防衛線を、前二つの川を破棄することで、安定させることに成功した。

そのカルパティア山脈と第2次防衛ラインとして建設されたプロイエシェティとコンスタンツァを繋ぐヤロミツァ川要塞線(ルーマニア国境線より後方70キロ)を繋ぎ、第2次防衛ラインを急造でも完成させようというのだ。

敵もドナウデルタ陣地のほうに集まり始めていた時に決壊した影響で、洪水が勢いのある時間、多くのBETAがそこに停滞していた。

そしてその洪水が強い中、整備された地下道などを通って人員などを中心に撤退。

今まで行っていた要塞線という線ではなく、先ほど少将が述べた点在する部隊というのは、その洪水の中でも進んでくるBETAを中世の城塞都市のように閉じこもってひきつける役目としてそこにいるのであり、自らを餌とし、我々を撤退させるためにそこにいるのだ。

幸い戦術機は下が水で満たされていても、跳躍しながらの移動が可能だ。そうして先の殿部隊が敵を引きつけつつ、そこに派遣された戦術機部隊が騎兵のように打って出ることで被害を稼ぎ、さらに敵を引きつけてくれている。

そうして数を減らしたBETAが、完全ではない第2防衛ラインに来たとしても、殲滅は可能な規模にまで減らすことには成功している。

このパターンで敵の密集度を下げつつ数を減らしているのだ。


「奴らはこちらが何もせずに明け渡した広大な土地を目にして、洪水の勢いが無くなり始めた今、更地にしようと躍起になっているでしょう。

それはこれまでの経験からもはずれは無く、洪水によって足場が不安定となり突撃力を失ったBETAとの間に距離が出来たことから、目的はすでにそちらに移っているBETAが大半となっているのです。

やつらがその餌に群がるのならばそれで良い。その間にこちら整えられるのならば、です。

ですが、たかが洪水だけで敵が止まるはずもなく、その更地に全てのBETAがあつまるわけでもない。

だからこそ、先ほど少将がおっしゃった二個師団、それ以外にも各地に点在している部隊がいる部隊をその場に点在させているのです。

部隊がいる場所は交通の要衝であり要塞の重要区画、それ故に鉄道による撤退と補給、そして地下道が整備されております。

現に今も部隊が逃げに適した戦術機甲部隊などに代えられ、数の多い部隊は順次撤退しているのです。

ならば我々は食事に勤しむ獅子の集団から外れた者どもを殲滅、もしくは遊撃による消耗を促し、逃げ帰ってくる。

そうして、後ろの防衛ラインが整うまで時間を稼ぐ、それが同盟と国連がだした答えではないのですか?」


そう、ここは要塞陣地だったのだ。各重要地点。撤退時に基幹と成る部分には地下鉄網や地下道といったものが地下水道と同じく蜘蛛の巣のように敷設されており、そのほとんどが使用可能である今、それを使って人を撤退させている。

また先の点在している基地関して言えば、撤退するために人がそこに集められ地下や鉄道で撤退する以上、必然的にBETAは集まってくる。

その攻勢を凌ぐのは確かに危険ではあるが、その巨大な基地へ攻勢を仕掛ける以上、BETAが溜まりそうな場所というのは軍も要塞を構築する以前からわかっている。

だからそこに、光線級や大型BETAが佇んでいたり、渋滞になっていそうな隘路や囲地といった奇襲をかけやすい場所付近へと通じる(直接ではない)地下道が作られているのだ。

そこに強化外骨格部隊――日本の光菱と技術提携を結んだ遠田技研製の中型パワードスーツ「ASIMOZ」に始まり、昨今の日本戦術機関連技術の各段の進歩の余波を受け、地下道を通れる小ささと安価でありながら機動性の富んだ強化外骨格が日本から東欧へと流れており、歩兵では運ぶのが難しい大型機関砲から、対光線級用無反動砲、大型迫撃砲などを使って伏撃や逆襲撃をかけている。もちろん費用的に余裕のない東欧では歩兵も付随してはいるが。



「ならばBETAが貴官の言うように足を止めているのならば、逆襲の時ではないか!!そう、そうだ。日に日に増加する国連軍を使ってノルマンディ作戦のように逆上陸をかければ良い。

ここは幸い海に近い。海軍からの支援砲撃、今だ国連海軍の体制が整えられていないのならばアメリカに頼めば、海兵隊と空母による殲滅も可能だろう。どうだ?」


どうだじゃないだろう…口を慎め豚。こちらがアメリカと問題を起こさないために放置していたが…後で法務部あてに苦情を出すのは確実なことを今、目の前でしている。コイツほんとに少将か?

「逆上陸作戦を計画するだけで時間がかかるものです。それに何より同盟とともに計画をならない以上、この場でどうこう言えるものではないと考えますが?」


「貴官が気にする同盟だが、今は国がどうこう言うべきではないはずだ!ここを救うべきとしてこちらに従ってもらうしかないのではないか?

それに貴官にはこの作戦においていろいろな権限を与えられているはずだ。今イギリスにいるはずのアメリカ第4艦隊に応援を要請するべきだと考えるがどうだ?

あのアメリカより先んじて支援部隊を派遣し、3日でここまで部隊が収容出来たのだ。日本側ならば出来ぬはずもあるまい?」

「…我々は撤退しているのです。今だBETAの数は10万、周辺に散らばった個体を含めれば13万に迫るでしょう。その集団を叩くほどの部隊をBETAの食事が終わる前に揃えるのは非現実的です。

そしてなにより、ボスポラス海峡の現状から見ればこれ以上の運航ペースを上げられません。守勢に回るしかないのですよ少将。」

「―――!!」

確かにアメリカ軍の兵站能力の高さは人類屈指だろう。だがボスポラス海峡を通った海運に慣れたいるのだろうか?

ここ2年で日本はボスポラス海峡を通じた民間、軍両方の海運能力によってここ、東欧に物資を運んできた。船舶の国籍は違うが、それを運用している企業は全てこちら側の人間であり、それ相応の訓練が必要でもあったのだ。

なにせあの南欧、ボスポラス海峡にはBETAが幾度か進出しているのだ。警戒等を含めればそれ相応のリスクと費用が必要になってくる。

今回だって結局のところここに物資を運んでいるのは地中海での国連事業を手掛ける日本海運企業連合であるし

実際に支援砲撃を行っているのはクレタ国連軍基地の地中海国連海軍。それから送れること二時間、拡大建造中の対ガシアンテップ前線基地「キプロス要塞群」に停泊中の日本海軍遠征第3派遣艦隊が今だ中心となっているのだ。

これだけ見ればボスポラス海峡を対BETA用に拡大事業が行われた影響で、大型船舶が渡航できるようになった影響もあり、東欧と南欧の協力体制を確立させる上で大きな役割を果たしている。

だが、そのローテーションや独特の海流、そして民間護送船団方式など一朝日中に行えるわけがないし、空母などといった大きな部隊を廻すことは出来ず、第3派遣艦隊のように中規模の艦隊が交代で補給をするしかないのだ。


「そして前にも言いましたがこれは撤退作戦であり、無駄な消費や突撃を国連軍も、ましてや救われる側の同盟は求めてません。ただ友軍が安全に撤退出来る退路を確保できればよいのです。

幸い、カルパティア山脈の一部を奪回できたことから山脈側の山砲台群と黒海からの国連海軍からの火力特化点は多く、脚を取られているBETAを無人機で見つけて狙い放題なのです。

その支援を受けながら戦術機甲部隊が迂回侵攻、こちらにBETAを引き寄せつつ大規模な集団がこちらに攻めよせればさきほどの火力特科点…足場悪い場所におびき寄せ、数を削っていくことが現時点において求められています。」

これは負け戦であるにも関わらず、20万を超えていたBETA群を今や8万近く削っていることからもわかるだろう。

第1防衛ラインが崩れることは、早くはあるが長期的にわかってはいたために、その防衛ラインをこちらの意図的に決壊させることで広大な沼地と化し、相手の利点であった機動力を減ずることに成功した。

それはルーマニアの国土を4分の1ほど(約6万km2…北海道の4分の3ほど)減らした代貨ではあるが、20万もの攻勢を退けるのには安いもの…と上が判断したのだと周りは言っている。


「そしてその山砲台群が軸になっている現状、我々とそちらに回される補給量に優劣はなく、ここに陸揚げされた物資の7割ほどは第2次防衛ラインとカルパティア防衛ラインに回さなければこの作戦は成り立ちません。

ここに入ってくる物資の量がこの短期間のうちでは決まっている以上、これ以上の攻勢は必要とせず、今は眠る獅子の眠りを邪魔する蚊のように戦術機を使い、ここから脱出する東欧の人々を無事届け出すことこそが我々の最善だと、そう考えて戴きたい。」


「……了解した。だが我が部隊の補給について、そちらで一考いただきたい。では失礼する。」

と苦虫をつぶしたような顔をしながら画面から消える少将。感情的にはアイツの部隊どこかに放り込んで、消してやりたいがそれは少将が指揮する師団の者たちがかわいそうだ。なにより貴重な戦術機甲連隊と機甲部隊を持つ師団だ。感情のままに潰していいものではない。

…あの師団の参謀とか大変なんだろうな…あの少将諌めるのに

「やっと納得したか…な?」

とつぶやいたその時、周りの「やっとあの少将の声を聞かずにすむ」「ほんとだよ」などという情報管制官たちの愚痴にまぎれて俺に話しかけてくる声が聞こえてきた。

「そのようであれば良いのですが、基地司令代理。」

「おっ?吉良中尉。サリチオラ基地から帰ってきていたのか。」

最前線に属するサルチオラ基地、そこには今や最前線部隊しか存在しない。

それは今帰ってきたこの吉良中尉を含め、今や2年近くお世話になったその基地に旅団員の者はほとんどいなくなったことを意味している。…さびしくなったものだ


「さきの少将閣下が嫌みを言いたかったのは救援に来た我々が、覚悟していた殿部隊でもなく、応援でもなく…言わば今行っている『盗賊行為』を軍の花である戦術機に行わせているのが機に喰わないからでしょう。黙ることは合っても納得することはないでしょうね。」

「だってこちらの戦術機は沼地でも活動が可能で、足が速いんだ。

モンゴル騎兵よろしく、後ろから横からかけ回して敵の集中を反らすことで、BETAをその場に釘つけにする。

そうすれば未だ見つかっていない味方の撤退を助ける役割に繋がるんだし…まあ要請には従っているだけましか。飛び出しすぎだけど。」

確かに先のムティグーチ少将に言ったように現時点では、ここの国連軍は戦術機による遊撃を大隊から中隊単位で繰り返しており、守るべき物が近くになく攻略するべき目標が無いため、部隊存命を第一に好き勝手に殺しまわっている。

もちろん目標としては撤退している部隊を狙うBETAではあるが、護衛対象を狙うBETAを無人機による偵察で見つけ、戦術機で遊撃をかけ、誘導。各地に点在する地雷陣地や砲撃特化点で慚減作戦を行っているわけだ。

ここまで攻撃的に立ちまわれるのは相手の足場を失っていることと、
各地に点在する餌となった殿部隊。そして第1防衛ラインという広大な土地に捨てられている電子装備を破壊することに躍起になっているからだ。

その間にBETA相手にゲリラ作戦、いやテロを企て戦術機による盗賊行為に徹しているのが花の戦術機甲部隊。感情的にはわからんでもない。19世紀の騎兵科に盗賊行為を行えと言うようなものだからだ。

「しかし先の少将の話は置いといて、東欧もそうそうに堤防を決壊させるとは、思い切りの良いことをやりますね。
少し昔の日本であらばいつであっても遅功よりも拙速を選び、失敗していたでしょうから、それだけ見れば組織の長として同盟議会は役割をこなしているようですから軍として見習うべき部分なのでしょう。」

「それは違うんだ、吉良中尉。そうしなけらば友軍を得られないと暗に国連と日本がけしかけたからなんだよ、今回の決壊に関しては。もちろんそのための根回しはここに来た当時から進めていたし、そのために軍部は元より早期に撤退派に味方し、理解を広めていたのは、他ならぬ日本だからね。」

「なッ!?」

あの吉良君が口をあんぐり開けて驚いている。珍しいものを拝めたものだ。写真に収めておきたかった。

とまあ、吉良君が驚く理由もわからなくはない。立派な内政干渉だからだ。同盟が強固な国家連合と成っている時点で、その国家を守る国防の方針に関して他国が判断して良いものではない。

だが対BETAではその失った国土に比例して凄惨な自体を招くため、どうしても当事者の判断は遅れがちとなるのが常だ。それが崩壊に繋がり、ひいては他国の危険性が増す。

そうさせないためにも以前から東欧の将官などに対し、日本が推し進める広域撤退戦術を理解させようとしていたわけだから、未来が見えているとしか言いようがないほど日本が根回していたことになる。

ましてやその指示に従ったことによる見返りも大きかったらしいし、今頼れる国を失うことを避けたかった東欧としては間違ってはいないだろう。感情以外では。

「なにせここの陣地を作るための金を貸しているのは国連と、その通販網によって貯められた国際救済基金の使用道を決定する日本がほとんどだからね。金借りた者がこちらの言うことを聞くのが普通なんじゃない?」

この国際救済基金というのはなんてことのない、通販や電子書籍など、国際ビジネスに置いて課税のことだ。

世界を救うという名目でネット網が世界に広がる中、先の京都協定によって決められた関税限度を不公平のないよう埋めるために創設されたもので、その課税分はその国家の国連負担費代わりとされている。

そして驚くことにその課税分を動かす部署というのが、国連の外部組織なのである。

日本でいう日本ユニ○フみたいに国連とは協力しつつも、実際にはその命令に従わなくて良い特別行政法人であるそれは、国連の了承、方針の元、具体的なその課税の使用に関してはこの部署が行っている。そしてその部署こそが光菱・日本の方針によって動かされており、献金などの不正はないが、こちらの思惑通りに金を使えることができ、そこから金や援助をもらっている東欧は、その親玉の日本に対して、頭を上げることはできない。(もちろん、日本からも多額の援助や借款があることも付け加えてだが)

「そう簡単なものではないと思いますが…」

「確かにそう簡単ではないけど、大筋そんな感じなんだよ。ここの防衛ラインにしたって、東欧よりも国連から借りた金やODA。それによる汎太平洋諸国企業産の物資があってこそ作られたものなんだし、もはや国家の金の流れをこちらに掴まれた時点で東欧は、対等な国とは事実上言えない。」

「しかし…それは植民地と同じなのでは?」

「まあ表面上というか金流れをこちらに掴まれたからと言って、すぐ植民地や保護国とはいかないよ。

現に法制上も同じ刑罰に処されるし、関税も平等だ。ただここが単独でBETAに勝てない以上、それを金と物資で援助している国にこの同盟が大きな口を吐けないのは仕方がない。今、援助した国とされた国が同列に扱われるほど世界は平和じゃないしね。」

もともと同盟に日本が干渉し、国連を経由した各物資と重機によって4年の月日をかけて完成された第1防衛ライン。

だが、いくら金をかけたとして短期間の急造品でBETAを一歩たりとも入れられない防衛線の構築など不可能であることは同盟自身が分かっていたのだ。

戦力の枯渇もそうだが、将来的に見てもこちらから干渉のできない西欧のドイツ、南欧のギリシャが破たんすればそれはすなわち東欧の陥落に繋がることを含め、四面楚歌と言ってよい状況だった東欧。

だからこそ日本と国連からの支援を受け、両者が定めた方針による第1、第2防衛ラインの構築計画を東欧は受託した。

1982年初めには幸い東欧へのBETAの数はそれほど多くなく、東ドイツ側が主攻であったため、どちらかと言えば難民問題のほうが東欧の財政大きく降りかかっていた。

だからこそ、その当時モルドバとウクライナの一部まで防衛戦の内側まで入っていたことを活かし、公共工事と称して要塞線を構築。

国連直轄地に国民の一部を質に入れ費用を稼ぎ、川の流れを活かした配置にして、万が一守れなくても決壊することで、第2防衛ラインまで引く時間を稼ぐ方針を取ることになっていたのだ。

その中で確約されたのが、先に述べられた国連側に使用時の主導権を与える条件だった。

その分、戦費補償や直轄地の優先受け入れと東欧同盟国民への恩赦(利率引き下げ)であり、第1次防衛ライン周辺には国民がいなかったが、第2次防衛ライン近くには多くの国民がいるため、強制立退きを行うための受け皿とその補償をこちらに要請してきたのだ。(あくまで了承できるラインを匂わせてだが)

「まあそこまで金与えて、時間は足りなかったとしても計画は順調だったはずなんだけどね…さすが宇宙生物。思ったよりも被害が大きいな。特に後方に集数でも回られたのが痛かった。」

「地下侵攻…と予想されているものですね。」

「十中八九そうだけど、日本からの教えがなかったらそのような夢物語をしんじていなかっただろうね。」

日本が来ていなければ地下空洞を使った侵攻として処理されたであろうその穴。

多分に予想を含んではいるが、失地奪還が適わなかったからこそ戦闘後の調査が行われず、「迂回した」「戦線を浸透した」「地下の空洞を使われた」などと憶測で処理されるだろうと見られる、その痕跡は人類にとって認めたくない事実を現わしていた。

まあその『認めたくない』というのは己の過失を表に出さないための杜撰な管理体制による弊害であり、硬直化した組織に流行がちな隠ぺい体質によるもので、負けが込んでいる者ほど良くはやる病だが…まあそのは話は良いだろう。問題のその痕跡だ。

幸いなことに地下からのその穴の数は決して多くない。


ミンスクの主攻は長らく欧州北方、ドイツ側であったためルーマニア国境線付近に溜まったBETAが各自で掘り進めたものと判断されており、

その穴にウラリスク、ヴェリスクの飽和個体群の一部がミンスク組と合流しつつ後方に浸透したと上層部は判断すると予想されている。

そうして主攻である3本の地下侵攻グループにしたって1万ほど、それ以外は小型や戦車級を主軸にした小型少数の規模でしかない。

しかし、これが現に第1防衛ラインの兵站に大きな痛手を与えた。

「1匹いれば30匹はいる」とされる闘士級と戦車級。
それが1匹確認されただけでも道路は封鎖され、輸送部隊への護衛を厳重にするために輸送効率はどうしても悪化する。

そして確認された場所に派遣する部隊を決めるだけでも時間はかかり、その分の時間は何も武器を持たない民間の者や、後方部隊が虐殺され、行った時には移動して雲隠れ…などざらにある。

そのような移動が困難な状態こそ、ヘリや飛行機の出番になるはずなのだが、光線級がいるため安全空域は制限されており、無いよりはマシでしかない。


しかも今現在来ているBETAは5年以上も成熟したBETAの成体とも言える精鋭集団である。

いろいろな戦場に回される我が部隊ならば誰しもが知るが、同じ属種に属する個体でも個体差が生じ硬度やら、耐久力が変化する。

それは生物の成長、個体の成熟度が違うためというのが大きい。

それ以外にも反応炉から補給や、度重なる爆撃等で体力を消耗するのはBETAも同じであるためなのだが…一番大きいのは先ほどいった個体の成熟度の違いにあるだろう。

今現在、この東欧戦線に降りかかるBETA供は、いつもの定期便で来るミンスクが主体ではなく、もっと成熟したウラリスク、ヴェリスクといったハイヴ、その後方から来ていると予想されている。

それらは人類との勢力圏に触れていないハイヴであり、年月を重ねて成長した個体が多く、そこから溢れた個体は必然的にとても硬く、強靭なのだ。

これは生物として当然考慮されるべき問題であり、ハイヴ内にいる個体群よりも外周部、溢れたモノ達の方が精鋭となる。(だからこそ幼い巣穴であるフェイズ1ハイヴには成長しきった強者が多い。)

それらが何十万単位で襲い来る恐怖。

それは数以上の力を持っているのだ。

「さすがに今回のようないきなり後方へと出現したケースには手を焼いたようですが、3日後には無視して良いほどに数を減らせたようですし、戦術機による哨戒で大きく5つある撤退路に関して安全は補償されているようですが…その分要塞線の被害が甚大となっていますね。」

戦術機が各地から収集され後方の憂いを無くした東欧だが、その分前線に回されるはずだった応援部隊が減少したということで、穴埋めをするための部隊は日に日に摩耗していった。

数値で見れば分かりやすいがこの防衛戦において投入された戦術機甲大隊、そのうち前線に張り付けられた部隊の半分は損耗率50%を超えている。

それ以外にも山脈の一部にとりついたBETAを駆除するのに戦術機甲1個連隊と、山岳強装旅団(強化外骨格部隊)が二つ消え、他にも激戦区で精鋭部隊が血を流し、取り残された部隊も決して少なくない。

それでも戦略的成功を収めたと言ってよいのだから戦争は悲惨だ。

なにせ防衛に失敗してはいるが、撤退戦としては成功している今回の事象においても死亡・KIAと認められた兵士の数は13万を超える。

それ以外にも軍属に属する民間人も含めれば16万に迫る今回を見ても、BETAを相手に防衛に失敗すればどれほど被害でるかわかるだろうか。

「22万、この戦いがこのまま終わったとして推定される被害者数だそうだ。まったくやってられないな。これでも甘い見積もりなんだから」

「22万ですか…その中に知人の兵士がいなければと願ってしまうのは、士官として半人前なのでしょうね。」

「その一員に入る可能性が高い東欧の将官が、先ほど少将が述べていた師団の将官だ。死守を言明されている以上、もう一度会えるかわからないが…あの少将の言葉に乗っていれば救えたかも、とそう考えてしまった自分もいる。君だけではないよ。」

「大佐もですか…」


「今は司令代理だ。中尉。
…そうだな。一、人としてならばそう願うのは自然だろう。だいたいにして万人の他人よりか一知人の死のほうが心にくるものがある。

だが将官として、人の上に立ち、このような自体を招かないために上にいくのであれば、それを表に出さない努力をするべきだ。そう私は誓っている。」

人はただ数値に現わされるだけではその凄惨さは理解できない。数字による理解は経験によって仲間と共にその被害に合わなければどのような物かは想像でしかないからだ。が

だからこそ、その凄惨さを知る昔の人間は強かった。力ではなく心が。確かに人の死が老衰など、「しょうがない。良く生きた」と評される死が増えたことは文明として誇るべきものだ。

だが、その『死』という不幸を感じられなくなった人間、もっと言えば今の生に価値を見出せなくなった時代は幸せなのだろうか。

今、戦場に佇みながら考えることではないし、疲れによる逃避なのだろうことはわかっている…がそう考えずにはいられない。今、ここで死んでいく兵たちを知りながら、遠く本国で遊びふけっている人間がどうしても憎らしい。

なにせ1週間にして日本の年間出産数の約4分の1が消えたことになる。

これは東欧全ての人口と、日本の人口が似通っていることからも同じ比較が出来たからであるが

…もっと言えば日本のトヨタの社員が北海道ごと消えるということだ。

その言葉の意味が通じたのかわからないが吉良君がうなずく。やっと上に行く決心がついたようだ。今までその器ではないと固持していたが、そうも言ってられなくなったのかもしれない。なにせ10年後は日本がこうなっていてもおかしくなく、これ以上になるかもしれないのだから。


「…了解しました。

っと、…国連作戦本部より基地司令代理に連絡が。

『作戦通り東欧軍第4軍、第12軍団の残り2師団と、第3軍第14軍の2個師団が攻勢を開始。

近隣のBETAがそちらにむけて移動を開始。規定数以上の飽和を確認後、作戦通りに発動させるとのこと』

……だそうです。」

作戦。いわくありげな電文が届いたわけだが、それが指し示すのは一つしかない。


「未だにウラリスクやヴェリスクからの飽和個体が来ている以上仕方ないが…まさか《あの計画》の一端を日本が担ぐとはね。」


その言葉の意味を知る吉良中尉は、さきほどの少将よりも味の苦そうな虫をすり潰した顔をしている。

彼はこれからどうなるか、中尉という階級であっても俺の雰囲気と、最善となるであろう策を知っているのだろう。







―――戦略兵器投入と言う最後の策。

あの、「ドナウの奇跡」が核の炎に彩られて消えていくであろうという未来と共に。



~後半へ続く


************************************
次元管理電脳より追加報告です

1984年6月より日本に新しい戦術機が配備されました。NEW!!

【GF-4J改 瑞鶴】

84式戦術歩行戦闘機として正式配備されたこの機体は、その開発経緯には紆余曲折した経歴を持つ、極めて特殊な戦術機として配備される前から注目を集めていた。

斯衛専用戦術機開発計画。本来それは79年より開発がスタートし、
82年配備後すぐにF-14がアメリカで配備されることで時代に遅れた代物と成り果てるはずだった。

しかし、早期配備のためのスケジュールの短さとアメリカとの隔絶した技術差からその機体の有用性に疑問視されてきた計画でもあったことから、日本では議論が過熱。

80年から急速に成長を見せていた光菱財閥のよってその計画、城内省と政府、そしてメーカーとの妥協の産物であるこの計画にもメスを入れることを決定。

計画自体の必要性から抜本的な見直しを測り、81年に計画の延長、82年にはITSF計画との共同計画(実質的には吸収合併)にまで見直しが図られることになった。

そうして生まれたこの瑞鶴。84式戦術歩行戦闘機との正式名称が決められたこの機体は、国際計画で生まれたF-4の改修機(GF-4型)をさらに斯衛仕様に改修。

計画の遅延、合併など妥協を強いられ続けた城内省による苛烈きわまる要求仕様を実現しようとメーカー側は日夜努力を重ねたが、その計画を主導した孝明も

「無理強いしたのはこっちだけど、いくらなんでもむりじゃね?F-14以上の運動性とかさ…めっちゃ改造してほとんど形変わってるけど元はF-4なんだぜ?」

と投げ出すほどであった。

結局のところ、半ばやけくそ気味に取り付けることになった補助推進ユニット―――徹夜で頭がハッピーになっていた一人の技術者が「もう4発で良いんじゃないですか?どうせ斯衛に稼働時間を考慮する×××なんてないですし。あとは羽付けて終いでしょ。ねっ?解散しましょ?」との言葉を本気で開発陣が考えだしたため―――

が肩に取り付けられ、翔鷹の開発によって燃費等、跳躍ユニットの性能がアップしていたことも重なり、グリフォンシリーズ随一の運動性を稼働時間の僅かな減少を代償に実現することとなった。

その分、コストは上がることとなるのだが多くて300機ほど、日本帝国陸軍が配備するとしても1000機を超えないため、問題点に上がるほどではなく、前線での実戦試験機の活躍。光線級吶喊任務に駆り出された機体の活躍などにより、その運動性に目をつける各国軍が多かったことから量産して輸出する門徒も開かれることと相成った。

他のGF-4型との変更点は頭部形状、GF-5型との部品共有によって足と腕などが似通っている点である。



計画を主導した孝明だが

「あれ?本気で開発している翔鷹より、いい加減に作った瑞鶴の方順調に進んでるってどういうこと?なにこれ?」とも発言していたりする。





以上、次元管理電脳からの追加報告を終了します。


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※筆者です

なげえ…そして行き当たりばったりで書くと矛盾が溢れて、泣きそうに。

短期更新で上げる人は本当すごいと思うこのごろです。

あとイラスト見ていただけたら感謝です。どうみてもやっつけですし…瑞鶴よりも武御雷のほうが似ている。黒なのは一般機ってことで。

では次回にて


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