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No.28072の一覧
[0] 光菱財閥奮闘記!! 【9月25日 本編更新】[カバディ](2012/09/25 15:32)
[16] 第Ⅰ章<始動編> 2話 契約 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:32)
[17] 第Ⅰ章<始動編> 3話 目標 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:33)
[18] 第Ⅰ章<始動編> 4話 会議 《7/6改訂更新》[カバディ](2012/07/06 18:35)
[19] 第Ⅰ章<始動編> 5話 瑞鶴 《7/6改訂更新分》[カバディ](2012/07/06 18:36)
[20] 第Ⅰ章<始動編> 6話 初鷹 《7/6改訂更新分》[カバディ](2012/07/06 18:36)
[21] <第Ⅰ章>設定 1980年編 [カバディ](2011/10/13 18:12)
[22] 第Ⅱ章<暗躍編> 1話 商売 《10/28改訂更新分》[カバディ](2012/01/04 16:09)
[23] 第Ⅱ章<暗躍編> 2話 政治 《10/30改訂更新分》[カバディ](2011/10/30 15:50)
[24] 第Ⅱ章<暗躍編> 3話 戦況 《11/4改訂更新分》[カバディ](2011/11/12 16:50)
[25] 第Ⅱ章<暗躍編> 4話 量産 《11/8日改訂更新分》[カバディ](2011/11/19 16:59)
[26] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormnt‐》 第1話  集結 [カバディ](2012/01/04 16:10)
[27] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第2話  東欧 [カバディ](2012/01/04 16:11)
[28] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第3話  戦場 [カバディ](2012/01/04 16:13)
[29] 第Ⅱ章<暗躍編> 5話 愚策 《11/12改訂更新分》[カバディ](2011/11/19 16:57)
[30] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第4話  場景[カバディ](2012/01/06 19:10)
[31] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第?話  日常[カバディ](2011/09/12 23:32)
[32] 第Ⅱ章<暗躍編> 6話 冷戦 《11/21改訂更新分》[カバディ](2011/12/03 14:27)
[33] 第Ⅱ章<暗躍編> 7話 現実 《12/3改訂更新分》[カバディ](2011/12/03 14:18)
[34] 第Ⅱ章<暗躍編> 8話 権威 《12/21更新分》[カバディ](2011/12/21 20:06)
[35] 第Ⅱ章<暗躍編> 9話 理由 《12/21更新分》[カバディ](2011/12/21 20:09)
[36] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-1話 乱戦[カバディ](2012/07/07 20:08)
[37] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-2話 調整 [カバディ](2011/10/26 19:36)
[38] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-3話 対立[カバディ](2012/01/06 16:08)
[39] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第5-4話 結末[カバディ](2012/01/06 19:29)
[40] 第Ⅲ章<奮闘編> 1話 新造 《7/8新規更新》[カバディ](2012/09/25 14:27)
[54] 第Ⅲ章<奮闘編> 2話 増援 《9/25新規更新》[カバディ](2012/09/25 15:32)
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[28072] 外伝《東欧の地獄編‐Dracula lui mormânt‐》 第4話  場景
Name: カバディ◆19e19691 ID:f630435c 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/06 19:10
1984年 9月13日 ルーマニア社会主義共和国 トゥルチャ県 ドナウデルタ防衛陣地


眼下の戦場は先ほどの火山のような砲撃は身をひそめ、軽自動車を主軸とした掃討部隊の出番となっていた。

それは守勢が成功を収め、戦況は掃討戦に移行し始めていたことの証。

現に強化外骨格を着た機械化歩兵を軸に、現代において人肌を晒していることで頼りなさそうに見えてしまう歩兵部隊までもが残党狩りをおこなっていた。

もちろん相手はBETA。
撃ち漏らした闘士級などの小型BETAや、死に体の要撃級に止めをさしていく。

彼らの活躍は、さきほどまで塹壕に籠っていたことが嘘のようなその情景はこれまでの戦場通り、今でも歩兵が戦争の主役であることを物語っている。


しかし兵士の被害もこの気の抜けてしまった空気に比例して大きくなる。

そうなることを危惧した古参兵士は新人に檄をいれ、最後の仕事に取り掛かり始めている。


BETAの化け物じみた生命力、それを知らない新人ほど道連れにされて死んで行くからだ。

勝ちが決まった戦場で死ぬことほど遺族とその個人が悔しいものはない。


「終わりましたね。」


「ああ、そうなるな。」

そう言葉少なに会話を交わすのは、30代後半にして大佐となった人物と、それに随伴する形でここにいる吉良イズル中尉である。

―――まあ大佐と言うのはオレなわけだが。

その俺と吉良中尉に眼前に示されている友軍の奮闘。

それを地上で観戦武官のように眺めているのだが…やる気の出ない仕事に変わりはない。

「…話終わっちゃいましたよ、大佐。」

「ん~退屈だ。」

「(無視ですか)そう言えば、なぜ自分が大佐と同席することを最後まで教えてくれませんでしたね。他に適任な人がいたのでは?」


「もう教えても良いかな?今回のパーティーは高度に政治的なものだからね。そんなところに連れてくれる優秀な部下として君を連れてきたんだ。確かバイリンガルだったよね?」

そう、今回のこの退屈な仕事というのは前線の奮闘を肴に同盟やそれの友邦が集まって開かれる、立食パーティーに出席するという、とても面倒なものなのだ。

そこに上司から行けと言われたわけだが…急過ぎるわっ!!

何度か本国でパーティーは参加して、やっと空気に慣れたぐらいの俺になんでこんな「金持ちと権力者」しか参加できないものに出席しなければならないのか理解に苦しむ。

戦場で36mmばら撒いているほうが幾分か楽だ。


「それは…ありがとうございます。ですがバイリンガルなのは大佐もでしょうし、自分より檜久木中尉の方が先任ですし優秀ですよ?」

たしかにね

「檜久木君かぁ…彼仕事出来るし部下の面倒も良いんだけどなあ。外見と違って気が弱い所あるでしょ?だから他の仕事回してあるんだよね。」

今回のパーティーというのは、ミスの許されない戦いでもある。

良くある社交界において無駄にゴージャスな仕様というのは古今東西それが必要なものであるからで、無駄というわけではない。

個人的にはそのゴージャスさを低減させて装備を充実させる方向に回せないかと思うのだが…必要なのだ、そう思わないとやってられない。



それは今回の今目の前にしている大ホールも変わらず、とても煌びやかである。…光線級に狙われないか不安になるほどに。

そんな会であるからこそ、連れてこれる部下と言うのも厳選しなければならないのだ。

戦闘屋なおれの部隊からそんな者いるか?と思ったものだが意外にいたものだ。

少佐や大尉でいるのでは?と聞こえてきそうなものだが、今現在その高級士官達は戦場で勤しんでいるか、準備などで時間は取れないらしいのだ。

暇とされる者も日本の中で他の派閥と目されてしまい、いろいろと問題があったり、そもそも参加したら大惨事になることが必定の者(更木とか更木とか涅とか)しか残らず、俺プラス従者としての中尉一人となったのだ。

で選ばれたのが吉良くんだったわけ。彼の使い勝手の良さは異常だ。
檜久木くんは中尉階級でも面倒見が良く、大尉が足りない中で部隊をまとめてくれる人なので基地でお留守番してもらっている。

「(檜久木さん…大佐に内面バレてますよ)はあ…自分もネガティブなところがあると思うのですが」

あらら、吉良君のダメなところが出た…

「君は大丈夫。今じゃなくて後で落ち込むタイプだから」

「(断定されたっー!!しかもなんとなく当たってる気がする!!)」


「そういうことで、今回はBETAの侵攻規模も小さいから、旅団はお休み。俺達は同盟のお偉方と一緒に前線を見て回っているわけだけど、なんて言えば良いのか退屈だし居た堪れないね。」

先ほどまで、小規模の争いを肴に同盟内の高官達と談笑していたわけだが…

その談笑の中身を知っている自分達からしたら、眼前で戦っている同盟の兵士に対して申し訳なく思ってしまうんだよね。


「ポーズとしてもあるんでしょうね。最近の支援をしてくれる日本の士官と同盟の日本派が一緒に前線を回るというのは。」

吉良中尉の言うとおり、東欧内で確固たる地盤を築いた"同盟"「東欧社会主義同盟」という国家連合組織。その高官達がこのような前線の視察に来ているのはただ単なるポーズでしかない。

その高官達とのおしゃべりに参加しているのは、日本派閥に属する各国官僚と財界の大物…の片腕クラスが数人、そして日本の中で急成長を遂げている光菱の者達だ。

所謂同盟内部へのプロパガンダであるが、それをしてこちらに媚を売っているのだろう。

以前の東欧国家の惨場からしたらまだマシではあるが…

「って言ってもこんな大佐一人に周りに群がるのはやめてほしいものがあるよ。そうでなくとも日本人の庶民出の俺にとっては居づらい空間だし。」

「あはは、日本の庶民からしたらパーティーというのはテレビの中の物ですからね。慣れないのも無理はないと思います。

ですが、今回参加されている日本勢の中では大佐が一番大物ですからね、群がるのも仕方ないでしょう。」

吉良中尉、言ってくれるね…自分でこのような評価を下しのはあまり良いものではないが…

おれは大物だっ!!もう一度言う、俺は大物だっ!!


これは冗談でもなんでもなく、光菱に早々に捕まった俺は光菱派閥に属する部隊の長を任されていることが大きい。

実際に光菱と繋がりのある日本帝国軍内の高官は数知れないが、光菱の指揮権下に属する部隊であるこの旅団の長というのは結構なステータス…らしいのだ。

いやあ…ビックリ。無理やり光菱傘下に入れられたわけだが、結局同期内で一番の昇進頭となっており、若手筆頭の権力者となっているのだから人生なにがあるかわからない。


そんなもんで、光菱、ひいては日本国内を牛耳る者達の直属部隊のような認識であり、今回の任務のような非正規任務を任せられる重要人物と見込まれているのだ。

何せ非正規とは言え増強師団(中将クラス)を任されている現状からして周囲の目からしたら異常に写るのだから仕方ないと言えば仕方ない。

本人としてはたまったものではないが。



「まあこのパーティーをやっていること自体、前線の兵士からしたら溜まった物ではないと思うけどね。」

「ですね。戦術機甲の連中がわざわざこちらに寄ってまで、活躍しようとしていましたから。」

わざわざ、高官が見えるほどの場所にBETAを引き込み、戦術機の活躍を見せる。それを実現するのはどれほどの血が必要なのかわからないが、出血を強いられる行為には変わりない。

それほどまでして得たいものはこちらとの繋がりなのだろう。



現在、東欧における同盟の勢力基盤は盤石ではある。
東ドイツを盟主にしたい一派や、ソ連との関係性を第一にしたい派閥など、政治権力を第一にした有力な者達はBETAの脅威によって国その物が瓦解した。

愚者とは失敗から学ぶ者だが、権力者の中の愚者とは愚かしいもので、国民の大半をBETAに喰われながらも権力にしがみ付こうとすることには変わりなかったのだ。

その窮地の中で救ったのは、同盟、ひいてはその同盟を支援した日本政府と光菱の働きというわけで東欧内では、同盟議会に対し盤石と言って良い人気を誇っている。


もちろん同盟内で口外などされておらず、上層部に置いてもタブーとされているのだが、もっとも当てになる国として誰しも上げる名前は日本以外にはないだろう。

それほどまでに支援が充実しているのである。

前線で兵士が死なず、今の戦線を維持することに成功しているのはそれがもっとも大きな要因だろうとも言われるほどに。


「確かに日本が誇る海運と貿易網は、大国にふさわしいものですからね。アメリカがいなければ十分超大国に入るでしょう。」

「最近のGDPの伸びはまた黄金期に入ったと言われるくらいだからな。」


日本から来る物資と、同盟などが持つ貧弱な流通網を越える、世界第1位の海運能力とネットなどで新しい広がりを見せる日本の貿易網。

さすがに軍事としての流通網としてはアメリカに何歩も劣るものだが、今現在しているのはBETAとの戦いであり、海上交易網は通常と変わりない。

ならば、だ。


割高になっている資源を得るために、世界各国への輸出をまい進してきた日本にとっては、今回の東欧への物資支援など通常の輸出を少し難化させたほどであることには変わりない。

それが、それこそが海洋国家日本の真髄であり、アメリカを凌ぐ唯一の部分、日本を世界第2位の経済大国に押し上げている原動力でもあるのだ。

それに加えて昨今の好景気だ。1982年、83年と連続してGDP成長率は10%を超え、日本の産業はフル回転となっている。

その国家規模からして貿易量も巨額に上り、日本にいる人間には分からないかもしれないが、その支援量は戦争全体を逆転させるほどではないが、戦況を変えられるほどには巨大となっている。

それに加えて前線国家への支援についても、国が赤字国債を発行までして援助しつつ、銀行を通じて各国への投資まで行っている日本。

そのため経済の成長以上に貿易への依存度、外需(国連直轄地と租借地も含め)の割合が大きくなっているのだ。


「結局は政治的な駆け引きを前線に持ち込んでいるだけなんだけどね…」

「ソ連を盟主にしていた時点で政治遊びが好きになるのは分かっていましたが。」

そしてその中の最大組織、光菱と繋がる俺や、財閥から派遣されている者との懇談会と言うものは同盟の中で、いかに自分達が奮闘しているかを見せる絶好のチャンスなのである。


彼らがそんなことをする理由もわかるのだが、思わず愚痴が出てしまうのは許してほしい。


わざわざ懇談会をこんな前線でやる精神が良く分からないからだ。


戦況を楽観的に考える者達からしたら、自分達はさぞや勇敢に写るのだろう。こちらから見るのと間逆なように、な。


「…話を変えよう、気がめいってしまうよ。」

「そうですね。他の話ですか…
ああ、そういえば今回の襲撃の対処を見て思ったのですが、東欧のほうも戦力の補充がなってきましたね。」

「そういえばそうだね…2年前と比べるととんでもない差だよ。戦術機も軍用車両のほうも」

そう言って二人が見るのは、先ほどまで活躍していた兵士。その使っていた兵器たちの中でもっとも脚光を浴びている兵器、戦術機に移っていく。

「今考えても、あの東欧がソ連と離れて独自の戦術機路線に行くとは思いませんでしたが、現物の活躍を見てしまうとなんとも言えませんね。」

「こちら側の干渉があったとしてあそこまで舵をきれるところは評価しないとな。」

「まさかグリフォンを採用するとは…」

そう言われている当機、今吉良中尉の目に前にて編隊機動を取るグリフォン トラッシェ2G東欧仕様機に話は移る。


もともと東欧にて採用されていた戦術機は去年まで3機種であった。


1983年中ごろから光菱製のF-4パーツの一部(?)を使っているため大分F-4に近くなったと噂されるMiG21。

ソ連初の純国産戦術機にて第2世代戦術機であるMiG23。(東ドイツ、ルーマニア配備)

そのMiG23で見つかった問題(量産性・整備性)を解決したMiG27。(東ドイツ一部)

そのどれもがソ連が開発・改修した機体であり、そのもっとも優れた部分である、機体寿命を犠牲にした安価性と主機出力・跳躍ユニットの性能の高さによるいうスピードとパワーの高さは世界の中で確固たる地位を得ている。

東欧各国もアメリカ製の戦術機の優等生ぶりには惹かれながらも、盟主であるソ連の前線国家の心情を理解した方向性に対し、盟主だからという理由を抜きにしてもその性能に満足はしていた。



だが、同盟は違った。

頼りにならなくなったソ連にいつまでもすがりついて居られないという自主性の開花。

海外からの支援の充実と新たに頼りになる日本という国の誕生。

この二つの理由と同盟内部での同盟議会の求心力を得るための行動として同盟は1984年に入って大きく舵を切る。


西側諸国製の戦術機を入れた、同盟内主力戦術機の選定だ。

普通ならば、同盟という東側諸国でも大きな国家群であるものが西側を導入する見込みも打ちたてない。


そして比較検証されて実現したのが、西側諸国で短期間でベストセラー機となったグリフォンGF-5型の導入だ。

依然影響力を持つソ連のMiG27を正式に主力選定して同盟で量産するか、それより優れる機体を選ぶかで荒れに荒れた同盟議会であったが結果を見てみれば、同盟の求めているものは明らかだった。


それは年々、欧州にその存在を消失させているソ連よりも、日本などの第3世界を仲介した支援の増加を期待しているという政治的理由に加えて、もうひとつ、グリフォンの見せたコストパフォーマンスの高さだ。

そもそもグリフォンとは厳密にはその機体名ではなくITSF計画を昇華させた新しい計画のコードネームであった。

その名にふさわしく、各国との合成獣のように改良、改修を前提にしたブロック別の構造は、"アーマードコア"と呼ばれる技術を使っているらしく、その機体は段階を上げるごとに性能を上げていく摩訶不思議なまでに進化していく機体になる。


1983年中ごろにて量産が開始されたトラッシェ1型(現行F-5改修機)において出された課題を即座に修正しつつ、純正機として製造されたトラッシェ2型は、1984年の初めに量産が開始されたのだが、それまでの戦術機との違いは明白であった。


何も機体のスペックが高いと言うわけではない。

ソ連製のMiG27やアメリカで先月配備が開始されたF-15に比べ、主要な項目において全て負けているか同程度といって良いほどの低スペック性である。



しかし元々がF-5という安価な第1世代戦術機を改修したトラッシェ1型。

そこから派生した機体には共通部品も多くあったが、日米欧で製造された純正パーツに持ちいれられた新装甲素材などにより脅威的な量産性を生んでいたのだ。


それに付け加える形で取りざたされるのは、空中でダンスをしていると言われるほどの機体制御性の高さと精密性である。

従来の考え方であれば主機出力、跳躍ユニットの出力などによるパワーで物事を解決する方向性が戦術機の中で強かった。

それは戦術機の外見にも見て取ることができ、面倒な空気抵抗値を考えた機体制御よりも、WW2時代に比べて脅威的なほど進んだ跳躍ユニットなど、パワーで外乱を押しつぶす形が採用されており、スペックデータがそのまま性能に直結する今までの兵器となんら変わりはなかった。


それを変えたのが、このグリフォンである。


OSとフラバイワイヤの採用と日本からの各種技術を採用したことに加え、外部装甲にまで空力特性を考え抜かれたそれは、安価性を残したまま、接近戦、遠距離戦の両方で必要になってくる運動制御を容易にした。

これによってコスト比でみた諸戦対応能力と言う部分で、このグリフォンに勝てる戦術機は無く、その仕様変更の容易性も相まって少々の質を維持しつつの量産性を持つ第2世代機が誕生したことになる。


この量産性は元より、開発スピードの速さは世界各国からの技術者を集め、その研究・開発・量産までもが国連直轄地という特殊な地で大規模に進められた成果でもあるのだが、何より日本の出した基礎構造の素晴らしさにあるだろう。

ソ連機のように機体寿命を最低限に、各国が求めた仕様変更に外部を変化させることで最低限ではあるが満たせるその構造。


それにはあのアメリカでさえ声が出ず、日本への疑惑の目線を向けることになるのだが、現にその国際社会への働きが日本の国益に比べて大きな物と成っていることからして、国際社会で発言することは各国共に控えられている。

これもその機体の成果を大きな物と証明づけている証拠と言えよう。


そうした国際計画機であるグリフォンを採用することに決定した同盟は、日米欧で完成されたトラッシェ2型ABCD型の4機種からDー2型、ギリシャ・イタリア採用機を選択。

それをさらに東欧仕様に改修した機体はG型という機体番号をふられて、国連直轄地内部にある東欧施設群を中心に大量生産を開始されることになる。
(東欧の比率は約4割。跳躍ユニットはソ連製ラ国、1984年6月開始)

「確かにグリフォンは良い機体です。各国が最低限必要と見込んでいる最低ライン(第2世代基準)全ての性能を満たしつつ、各国仕様にすることで、もっとも必要と見込まれる部分を重点的に改修することで、その国が求めている機体を実現できてしまう。

さすがは第2世代最弱の機体とアメリカやソ連から揶揄されつつも各国が採用する機体ですね。」


「あの北欧でさえ各国と共同して国産仕様機を開発中だからな。
2割ほどF-5のパーツを残していたA~D型と違ってG型以降は全て純正品だからもはや"F-5"と言う別称も使えなくなる。」

「それに83式支援擲弾砲も東欧を始め中東、西欧でも使用されていますから、規格の合うグリフォンの評価も上がっていくでしょうしね。」

そうして全世界で規格を統一することになったグリフォンは、西側と東側でのソフト技術の違いがあるとは言え同レベル機体であり、欧州諸国の貴重な外貨獲得手段となっていた。


その量産性もあって全てのトラッシェ1型は1年と少しで3000機を軽く超し、トラッシェ2型を合わせると5000機に迫る計算になる。

これは1年と少しという短期間で現時点で世界で第3位の戦術機保有数を誇る日本と同じ機体数を製造した計算になる。

これを実現したのは、日米欧が協力したこともそうだが、世界の先進国のほとんどが投資して実現した国連直轄地という共同地において大規模工場群を建設出来たことが大きい。

そこから誕生した基本部分に、各国仕様に変更する仕様別組み立て工場(ここが東欧や欧州などの前線国家の資本比率が高い部分である)に流れることで生まれた量産性というわけだ。




「日本の上層部もF-4Jの払い下げに反対していた連中も最近はテレビに出てこなくなって笑ったもんだよ。もはや時代は第2世代機だからね。」

日本国内ではびこっていた国産戦術機の貯蔵計画。

国内で製造した戦術機を海外に輸出せずに持ち続けることで、対BETA戦に見られる戦力の減衰をどうにか凌ごうというものなのだが、持っているだけでもコストのかかる機体でどのように凌ぐのか聞いてみたかったのだが…

結局は国の方針としてF-4の輸出仕様と合わせて中東、欧州に払い下げることに決定し、その分が次期採用機への研究費などにまわされることになっている。

「日本の国家方針としての国際支援路線でしたが、発表した当初に劇的な変化を植え付けるには、現有兵器を回さなければなりませんでしたからね…」

「それほどまでに戦術機の役割は大きい。なにせ今の兵器では苦手とする部分を全てあの兵器一つに任せているんだからな。」

そもそも戦術機に求められていたのは撃墜のされにくい低空を、地上戦力では実現できない高速で移動できる速度からであった。


それに加えて実現したヘリでも実現できないその対応能力と、弾薬が切れたからと言って後方に下がる必要も無く、輸送部隊から弾薬、燃料を受け取ればその場で即座に補給し、1日中同じ戦域で活躍し、窮地になったら即かけつけてくれる"戦術機"というのは前線の兵士にとってとても心強い味方であった。


戦車なども強い味方で在り続けていたのだが、BETAに汚された戦場や市街地、大部隊が移動して沼地のような陸地で戦うことが強いられることが多くなった今大戦。


その死骸などから視界が遮られたり、市街地戦において上から急に戦車級が落ちてくるケースなど、緊急的な被害が増加している機甲部隊では、どうしても救援要請に間に合うにはクリアする課題が山積みとなっている。

その救援までの道のりに戦車級などの恐ろしいBETAがいないとも限らず、車両と言うことから避難民の波に遭遇するケースが余りにも多いのだから。

それに加えて自己完結性の高い戦術機というのは、あらゆる緊急事態にも対応できる数少ない希望であり、万が一、自分達が愛する国土にハイヴが建造された場合、そのハイヴを攻略することが可能と見込まれる数少ない兵器であり、戦車や歩兵などはハイヴの環境からして入ることもできない点は戦術機に疑問を持っている軍人までもが認めている。


そうした今回の大戦で出てくる数々の問題に対し、対応の出来る摩訶不思議な兵器を完成させ、実用的な兵器にまで仕立てたアメリカに対し、東側各国も評価しているのだ。

それはソ連までもが、このような夢あふれる"戦術機"という玩具を、実用的な兵器として認めたという証であり、そうでなければ冷戦構造の中対立していたソ連が、F-4の配備後すぐに購入を打診することはありえない。

どのようにしてここまで完成させることができたのか、という疑問を持ちながらだが…


「戦術機もそうだけど、2年前と比べると随分ここら辺も要塞化してきたね…」

そう言いながら眺める景色には多くの車両と、灰色のコンクリート陣地が目立つ。

「そこらへんは社会主義国の強い所と言いますか…」

「無理やり住民を国連直轄地へと移住させつつ、その土地に陣地か車道からレールを引いてまで進めた要塞線だからねえ。日本じゃ出来ないよ」

わずか2年でここまで堅牢な要塞陣地を何個も建造できているのは、いくつも理由があるが国民への退去勧告などが容赦ないことが挙げられるだろう。

経済活動を促進させるためでもあるが、この2年で拡充されたインフラ網というのはそれはもうすごい勢いで建造された。

その中には国連所属の民間ゼネコン企業も混ざっており、人型に近い重機も活躍していたことは今も記憶に新しい。

もちろん、それらが出来上がるまで犠牲になった軍人は数知れない。

どうにかして戦況を変化させたいこちらとしても、一時的な戦力補強と義勇軍の派遣によって支援はしたが、後退に後退を重ねた戦況を変化させたかった1983年。

金か命のどちらかを犠牲にするしか他に道は無く、前線の兵士たちには無理をさせてしまう結果を残している。

それでも1981年からしたら天国だ、と言われたが。



「そんなこんなで今では東欧はソ連よりもイタリア、ギリシャ、スイス、オーストリアに距離を縮めようとしてますし、光菱からしたら予想通りと言うことですかね、大佐」

「そうなるのかな。あくまで光菱の方向としてはだけど。
あとは地政学的にもリビア、エジプトとの距離も近いわけで、東欧も一人ぼっちになることは避けられたようだね。」

欧州の中央、カザウ防衛ラインにて共同してことに当たっているイタリア等の南欧軍と、イタリアを落とされた場合、窮地に陥るチュニジア、リビアなどの北アフリカ諸国。

それらと同盟は距離を近づけており、その国債発行の引き受け手としてブラジルやアルゼンチンなどの南米新興国家がそこに入ってきており、徐々に世界での存在感を露わにしてきている。


「やはり国家群そのものが、対BETA戦に特化し始めたことが周辺各国への心情を良くしているようですね。」

「最近の東欧の輸出でも好調なのが兵器関係、日本が推し進めた民生品を活用した車両に取り付ける兵器たちだからね。

これを進んで買ってくれる軍と、民生車両自体を買ってくれるのは支援してくれる国民達を持つ諸外国。
結果的には両者への心情を良くしてくれているようだしこれには日本も助かっているよ」



グリフォンなどで実現した戦術機などを始めとする機動部隊の充実。
それは東欧にとって望ましい変化であろう。

しかし重要になるのは主力。

戦闘車両や陣地に籠るための兵器たちのほうである。

昨今のBETAとの戦いで陣地防御を採用した東欧は、日本とある取引を持ちかけたらしい。

その内容は民生品を使った機械化部隊創設計画に一部噛ませてほしいというものだった。

日本としては一般兵器の売り上げが伸び悩んでいたこともあり、その部分を東欧に譲る換わりに対米貿易摩擦で焦げ付き、伸び悩みを見せていた自動車産業を支援できるとして合意した。

その結果が今目の前の戦場でも活躍しているテクニカルと呼ばれる車両や大型トラックを改良した民間転用戦闘車両群だ。



制空権などが無くなった今の地上戦に置いて、支援砲撃という役割の大きさは年々肥大化している。

それまでは巨大な列車砲や遠距離誘導ミサイルなどを始めとする東側自慢の重砲撃部隊が主軸としてその支援砲撃任務を行っていた東欧諸国。

しかしその的の大きい兵器たちは光線級の迎撃網を抜けられず、対BETA戦において、ただただ消費を繰り返す現実的でないガラクタになり下がってしまった。


ならばと日本と共同して進められた軍の主力、戦闘車両に民間のを使った計画が始動したのだ。

本来兵器と言うのは時代が進むにつれ、その技術進化と合わせて性能が向上していくと見られている。

そうして全体的に質を高め、非戦時には数を少なくしつつキルレシオなどを上げていくわけだが、その方向性であっているのかという基本的な疑問帰った前線国家。


なにせ相手は人間ではなくBETA。しかもこちらとしてはこれまでの戦争ではなく、恒常的に戦い続けなければならない闘争に近い。


ならば装甲などを排除して数を揃えることが第一ではないか、と立ち返ったのがこの計画の主軸である。


そうして思いで実現した兵器たちは、当初すこぶる評価が低かった。

装甲を軽視した、そのチープな外装、そして一台当たりの性能の低さに前線の兵士からは「俺らは革命軍ではなく正規軍ではないのか、そこまで落ちぶれたのか」と批難が続発した。

しかし世界からの支援で充実し始めた前線での各陣地を結ぶインフラ網が充実し始めてすぐに、結果を残す。

車両のほとんどが日本が開発した軍民用車両と言うこともあり(車体は東ドイツ民によるライセンス生産、国連直轄地、そして重要な区画は日本製)装輪式車両であることを加味しても脅威的な燃費を実現。

それは大型トラックでも変わらず、インフラ整備や後方支援にも使われる装軌式の重機群や車両と共通化したその車体は性能の割に兵站への負担が低く、

またその背中に背負い込んだ、迫撃砲と多連装ロケット砲台などの重火器群は、射程の短さ(ロケット、迫撃砲共に10キロ程度)というハンデを打つ消すほどの連射性能を発揮し、西側の支援砲撃の中核、155㎜自走砲部隊よりも強力な制圧力によって敵の攻勢を撃滅できるようになった。



それは正しく数だった。

民生品を使った車両と昨今向上した砲兵の練成速度、そして最近日本で導入され始めたナビがついた民生車両を活かしたデータリンク。

一部分では最新の技術を使いながら、ほとんどが民生品と共通し、背負う兵器などは安価で簡単な作りである兵器たち。


それらが合わさり、支援部隊の充足速度は脅威的に上がることになった。

そうなったことで陣地と陣地を繋ぐ道を使って、近場の部隊が敵が来る前に待ち伏せ、光線級から隠れた場所からの即支援を開始。

消費する弾薬を共通からされた車両を使う兵站部隊によって、ピストン輸送し継続的な支援砲撃によって撃滅する最近のパターンを実現した。



それはBETAの移動速度に合わせて照準を変えられるように変更が可能になったおかげでもあり、その速度を決めるだけで評定射撃実施後すぐに効力射に移れる仕様と、装甲が無いおかげで容易となった補給作業スピードの向上による結果でもある。

(それに加えて迫撃砲の性能が上がり、自走砲よりも単位時間あたりの炸薬投射量が4倍になるケースも報告されている)


そうして数を実現させつつ、集中的に火力を集中させる支援部隊と
、補給が容易になった歩兵が主軸の塹壕戦で敵を殲滅することが可能になった、やっと実現できたBETAに抗しうる絶対の防御線。


ここまでしてやっと後退を止めることができたのである。


「ここに来た当初は負けがこんでいる軍、そのものだったわけですが、ここまで敗軍が盛り返すとは…どれだけテコ入れすればここまで逆転できるでしょうね。」

「最近の日本国債のほとんどは前線国家や国連直轄地への円借款のためだから…最低でも年、5兆円。そのうちの1兆円は確実にここに貸し出されているわけだから…軽くその2倍はここに回されているんだろうね。」

吉良君が「中規模国家の国家予算レベルじゃないですか」と愚痴をこぼしているが事実そうなのだから仕方ない。


「普通だったら、そんな資金を返せるわけがない前線国家に貸すわけがないんだけどね。」

「その見放されることを回避したのは、前線国家が戦争の中で稼ぐ手段を得たからですが。」


「これも光菱の技術の賜物だから、なにも言えないけど…BETAを資源にしてしまうとはね。」

1984年5月、日本と国連によって正式発表された一つの情報がまたもや世界を激震させた。

それは最近、光菱を始めとする日本と国連などから良く出る、「刺激的なニュース」という枠を超えたものであり、またもや世界を騒がした。


それは光菱企業に連なる企業達と日本帝国大学とが共同して行っていた研究、「BETA素材の活用法」

それをさらに低コストで確立したというものだった。


その報告に世界各国は驚く。それまで実用的と見られるBETA素材の活用法というのは無いに等しかったからだ。


もともとその分野においてソ連、中国が先を行く形で実用化していたのだが、使い方としては加工、研磨が精一杯というレベルであり、そのコストは原始的な方法である点からとても高価な方法でしか有効活用が不可能であった。

その理由としてBETAが生物である点が大きいらしい。

人間もそうであるが、生物の構成している物のほとんどは複合材料であり有機物によって出来ている。

それはBETAも変わりなく、複雑に何種もの材料によって生成されたその身体は、金属のように溶かしての再利用法などは不可能であり、電気への反応も人と同じに近いため、原始的なやり方でなければ商品にはなり得なかった。

唯一の利用法として化学分解などが希望とされてきたのだが、何万回もの実験を試してみても今までうまくいった試しがない。


そうして人類はBETAの外皮や外殻などの一部に限定して実用化を目指し、結局はその一部でもコストが高いことからお手上げ状態となっているのだ。



また生物であるからして、生体部分は腐る。

これは戦場に置いても解体作業においても大きな問題とされており、利用価値の少ないBETAの死骸ではあるが放っておくと腐り、その地球外生命体であるからして、地球上には存在しえない毒素を出すのだ。

そのような死んでまでも迷惑極まりないものとして人類に降りかかる不幸は、戦場にまで影響する。

これが戦場で地味に効くのだ。


ただでさえ腐る時点で悪影響なのに、硫黄のように毒素を立ち上らせるそれは、本来であれば燃やすことが最善とされているのだが、相手の数は膨大でそのような暇はない。

片づける前に死骸にある劣化ウラン弾などの有害な物質に加えて、内部にもつ毒素が拡散。

化学対処班を呼ばなければならない事態にまで戦場で発展してしまい、バイオハザードになって前線が崩れたケースも多く前線で確認されているのである。

それにまた加える形で、燃やしても埋めても内部の毒素と、劣化ウラン弾など環境に悪影響を及ぼす存在によって、死骸を積み重ねるだけで年々、人の不利な地形となっていく。


「良くもまあ、あの死んでからも害になるBETAを資源に出来たと言うか…光菱には天才が何人いるんですかね。」

「それはアメリカのほう…とは最近言えないか。
以前まではノーベル賞なんかもそうだけど、目覚ましい研究成果は全てアメリカ、次いでイギリスだったのに。

今世界でもっとも必要なものとして上げられる
BETAに有効な化学兵器の開発。
BETAの死骸の有効活用術。
BETAの情報を知るための方法。の3つの中で一つをクリアさせてしまったわけだからね。」

それがBETAの死骸の有効活用術。

1982年当初から光菱内最大の研究所『総研』において最重要研究と位置付けられたそれは、2年の時を置いて開花する。

各種類に対しての物理的な解体法としてウォーターカッタ―などに始まり、化学薬品と電気分解、温度変化による方法は、低コストでBETAの死骸から十分な利益を出す魔法の技術を生み出した。


そのようにBETA素材の低コスト解体技術と画期的な利用法を確立したおかげで、昨今の前線国家は次第に健全な財政に戻りつつあり、

東欧では、貴重な外貨獲得手段としてBETAの素材を、国連と光菱の企業に輸出している。

「先ごろは同盟の貴重な収入源ですから、BETAの回収作業も比例して効率的になっているようですし。」

「そのための回収任務にも戦術機などの人型重機が使われているのは未来って感じがするな。」

その量は膨大なものであり、一番ポピュラーな戦車級の歯と骨格は1体当たり300キロを超え、これに貴重素材を含めると人件費が低い国家からすれば金になる。

利益率が高いのが上から光線級の保護皮膜を始めとした体内機関、地雷で殺した突撃級の装甲殻、要塞級の溶解液と脚、要撃級の腕などとなっており、東欧では非公式に部隊に賞金を出しているほどだ。



そもそもこのBETA自体がとんでもない兵器である。

人の筋肉の10倍を超える重量当たりの筋肉組織から始まり、戦車の装甲を容易に引き裂く戦車級の歯。モース高度15を超え 靭性の高さ 耐熱性の高い突撃級の装甲殻と要撃級の腕。

大型のBETAに使われる骨格自体、超軽量、超高硬度、超高靭性を兼ね、人が作りだす各種治金技術よりもコストパフォーマンスが非情に高い。

それが大々的に実用化されなかったのは、前線国家と後方国家の物流が乏しかったこともあるがそれに人手を割けなかった情勢と、未熟な加工技術にある。

その肉は国連によって少量利用されてきたのだが、使用せれる肉の中に銃弾を始めとした毒素を含んだ状態では、工程を多く取り入れなければならず、とても実用化できたものではなかったわけだ。

利用できそうな骨素材でさえ、耐熱性とその堅さも相まって、加工技術を確立することができなかった。

そこに出てきた光菱が関係した新技術。

プラズマ微細加工技術と要塞級の溶解液を利用した高分解溶液、各種化学薬品と新種のバクテリアによって、なんとか商業化できるものに変えた。


そうしてなんとか実用化に踏み切った光菱は国連にある程度のマージンを振り分けつつ、前線国家を含んだ行程段階を作ることに成功した。


前線で回収された各BETA死骸は内蔵機関と骨格などに複数に分けられつつ、バクテリアによる分解や炭素化(4000度以上の高温)処置によって一時処置が施され、日本か国連直轄地に輸送。

実用化された軍用の物では

ケブラーや炭素繊維よりも強靭で軽い筋肉繊維を使ったBETA繊維。

量の多いBETAの骨格を一気に分解、化学薬品によって再結合を促されたBETA骨子は、分解前よりかは強度などは下がるが、十分なほどの重量当たりの強度を持ち、高い耐熱性を持つ。

モース硬度15など、高い硬度と靭性を持つ突撃級の外骨格などは、砲弾や大型ナイフの添付材としても役に立ち、その高い耐熱性から再突入駆逐艦の低部に使われることが内定している。


他にもマグマを直行出来るBETAの外皮は、耐熱性と靭性、伸縮性に富んでいることから民間にも使用されており、体内にある地球上には存在しえない毒素まで、民間での利益になる。


他にも高電流密度耐性、熱伝導特性、高機械強度、固体電解質など、機械分野から半導体にまで使用できる特性が見られる材料の加工法が、研究段階から商業化に進んでいる途中であり日本国内で貯蔵が開始されているのだ。

「実際にはまだ商業化できる素材の数は少ないようですが、将来性を見込んで国連によって貯蔵が開始されていますからね。

後々から出てくる技術の中には、時代を20年早めるとまで噂される素材もあるようですよ。」


世界規模のBETA素材活用までの行程を作るのに半年、事前準備を含めると約1年でここまでできたわけだ。

全てで無いにしろ、事業として進める限りには利益が無ければ誰も進めないわけで、たった2~3年でここまでとは…

最近の開発スピードやその閃きの異常さには驚いてばかりだが、これについては日本にエリア51があるという噂も本当なのかもしれない。もちろん場所光菱財閥の私有地だが。

「そこまでは知らなかったが前線国家が戦争によって稼ぐ手段を得たことは非常に大きいな。とても喜ばしいことだね。」

「普通であれば革新的な新素材などはその業界に反対されるものですが、売れてもらわなければならない理由もありますし、民間で使うとして量が多すぎない点も経済には好影響のようですよ。」


このBETA素材活用産業と良い所は人件費の低さが物を言う点と科学技術が発達した分野にきっちりと分かれている点だ。

日米など、一人当たりのGDPが高くなった国では採算が合わないため、前線国家群はBETAの素材について共同して値段を決めている。OPECのようなものだ。

供給が安定していないことがネックではあるが、国連商業プラントでは難民を起用した工場で、肥料から始めて大型機械の素材加工にまで実用化されることが決まっており、さらに国連の規模が上がることが見込まれている。

「量が少ないのはしょうがないと思うけどね。なにせ狩りをしているわけだし。せかされる軍もたまったものじゃない、」

「そうは言っても人類が久しぶりに狩猟をして得ようとしている工業品ですからね。
…なにか、石器時代の男に戻ったようにも感じますね。」

「今度はマンモスじゃなくて、BETAだけどな。」

「マンモスよりも凶悪で、人類が負けそうですけどね。

まあ数が多いですから主要三品目については量の確保を容易ですが、問題は光線級や、固体内に微小にしか存在しない素材ですね。

その量からしてレアメタル、レアアース、とまではいきませんが部分的にはそれに準じるものとなるのは間違いないです。」


そしてこのBETAの死骸を活用する上で問題になるのが、安定供給が必ずとは言えないと言う点だ。

なにせ狩猟による、素材の確保だ。

食事用ではなく、ほとんどが工業用として使用することが見込まれるそれは、工業用だからこそ安定供給が大切になってくる。

そしてその活用素材自体だが、ゴミとしては大量ではあるが民間の商品として使うとなると量が少ない。

年、数十万体という個体を殺しても回収できる個体、回収しても利益になる部分を取り出せる個体を考えれば、良く考えても半分ほど。

そして一体当たりで必要となる部分は、体重比でも半分いけば良いほどであり、何種類も実現した活用素材の種類で割ると、さらに種類当たりの年間収穫量が減る。


G元素を抽出できないか、という案も出されたようだが、どうやら作られる時に使われるもので個体の体内にはない、または極々微小にしか存在しないため、商業化は不可能と考えが出されたらしい。


まあ軍に稼ぎの手段が生まれたのは人類にとって大きな前進だ。

まだまだ未来がある。5年前ソ連から見放された遠い異国、この東欧にも。



「それにしても君BETAの素材について詳しいね…一般では知られていないんでしょ?」

「これでも東京帝国大学 理学部 化学学科卒ですから、そこらへんは癖のようなもので調べてしまうんですよ。」

「…えっ?なんでそんなエリートがこんなところにいるの?」

「衛士特性にエリートもヤンキーも関係ありませんよ。」

「それはご愁傷様、だね。」

「まあ軍に入ることが決まったことには絶望しましたね…
入ってからの軍の惨場を見てさらに絶望しましたよ。」

「さらにご愁傷様…これはおれもか。
確かに軍の硬直具合はひどかった。70年代後期に入ってからの軍の躍進を勘違いしたバカが多かったからね。
今はどうにか抑え込めているけど、それがどうなるか…俺達リベラル派みたいな連中が頑張らないと将来軍がダメになりそうだけどね。


…ってもうこんな時間か。もうそろそろパーティーも中盤のようだから休憩所に長居するのも不自然がられるだろうし…そろそろ行こうか。」


「…了解しました、大佐殿。」

まったくもってしょうがない。慣れない仕事ではあるが、旅団のためだ。

それに2年間でここ、東欧にも愛着がわいている自分がいる。知り合いも出来たし、可愛い娘のような存在も得た。それらを泣かせないためにもあの豪華絢爛なシャンデリアの元、顔に笑顔を貼り付けて頑張りますか。




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筆者です。焼き直しのような形に近いですが、他の者からの目線ではどうなのかを書いてみました。
前線の現状変化を次話と含めて書いていきたいと思います。

三日後におまけ話を上げて、少し更新スピードを下げたいと思います。


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