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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] クーデター編 騒擾 1話
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:c7483151 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/12/29 18:58
2001年12月5日 0212 日本帝国 千葉県 陸軍松戸基地 第15師団


「Seraphim three-ten , Tower, Cleared to taxi runway nine zero.(セラフィム3-10号機(第3中隊10番機)へ、地上管制塔より、滑走路90へのタキシングを許可)」

『Tower, Seraphim three-ten , Roger』

深夜の、そして突然の夜間訓練。 既に2個大隊(151=ゲイヴォルグ、152=アレイオン)が発進している。 今は154大隊(セラフィム)が全機発進完了間際だ。

「Seraphim three-ten , Tower, you are cleared for takeoff.(セラフィム3-10号機へ、管制塔より、離陸を許可)」

轟音を上げて跳躍ユニットの推力を全開で、夜空に向かって飛び立つ『不知火壱型丙Ⅲ(TYPE94-1E)』 1998年より改修と言う名の改悪を繰り返してきた機体。
しかし3年目にしてようやく、現場のベテラン衛士達をして『戦場の蛮用に耐えうる』との評価を得られる程度に、改善が為された。
アラスカでのXFJ計画、『不知火弐型』のロールアウトは3か月ほど前であるが、その後の大規模テロ発生など、不確定要素がたたり、未だ帝国陸軍へは引き渡されていない。
『不知火壱型丙Ⅲ』は、『不知火弐型』までの繋ぎの機体として改良が為された機体だが、大方の予想を裏切り、現場・前線の満足いく機体に仕上がった事は、嬉しい誤算だった。

それまでの『不知火壱型丙Ⅰ/Ⅱ(TYPE94-1C/N)』の極端にピーキーな機動特性(C型)、機体稼働時間低下(燃費の悪化・N型)に対する回答が、十二分に為された機体だ。
ひとつはXFJ計画の『副産物』と言える、ロータリーエンジン搭載型のAPU(補助動力装置)、これをボーニング社から『多額の』ライセンス料で生産・供給が可能となった。
そしてもうひとつは、完全に帝国軍第1技術開発廠(陸軍担当)と、機械メーカーの合同プロジェクトの結晶、永久磁石同期発電機の開発成功だった。

これにより、壱型丙Ⅰ/Ⅱ(1C/N)で大型化した機体ジェネレーターは、逆に初期型の壱型甲(TYPE94-1A/B)に搭載していたジェネレーターより小型化を実現できた。
出力は1C/Nに対して8%向上している(1A/Bに対して24.2%向上) そしてそれまで完全なアンマッチだった、専用OSと燃料・出力制御系のプログラムも改善された。
実はOSの問題と言うよりも、それを搭載するCPUの能力不足が大きな問題だった。 その問題は2年前に、ひとつの出口が見つかっていた―――『ダイヤモンド半導体』である。

1999年、日本の国立研究所と日本企業の連合体が、この技術を確立させた。 そして翌2000年初頭、ダイヤモンド半導体の基盤となる大型単結晶基板を作る事に成功する。
そして2000年末、ダイヤモンド格子に欠陥を与えずに、ホウ素イオンなどをドープする技術を確立させていた。 現在は主に軍事技術として、帝国軍内に広まりつつある。
帝国の産・軍技術陣は総力を挙げ、この『ダイヤモンド半導体』と、従来確立させていた『ボール・セミコンダクタ(3次元球面集積回路)』との融合を、一応ながら完成させた。

『ダイヤモンド半導体』は、従来の『シリコン半導体』に比べて数十倍から数百倍の大幅な高速化が可能であり、耐熱性や耐久性も極めて優れている。
また、宇宙空間の様な過酷な環境下でも、まず間違いなく確実に動作する。 そして『ボール・セミコンダクタ』は、回路表面積は従来の平面基盤の4~5倍である。
大出力ジェネレーターと、燃料・出力制御系の改良された専用OS/プログラムの搭載を実現した高速処理演算機、コンパクトで大容量送電が可能な電力ケーブル、高周波フィルタ。
これにより『不知火壱型丙Ⅲ(TYPE94-1E。 1Dは試験機)』は、極端にピーキーな機動特性と機体稼働時間低下と言う『2重苦』から解放されたのだ。

近接格闘能力や生存性が初期通常型(1A/B)に比して格段に差があり、稼働時間は壱型丙Ⅰ/Ⅱに比して大幅に延長し、機動特性も初期型の『素直な』特性に戻った『壱型丙Ⅲ』
現在では生産数も軌道に乗り、月産60機の生産数を確保している。 2001年の年初から生産が開始され、既に約600機以上が生産・配備されていた。
主に第1線師団を中心に配備が進められている。 即応部隊の第10、第15師団、北関東絶対防衛線主力の第14師団が、この機体を受領していた。


「よし・・・154は全機発進だな。 次は?」

「0350から、第2陣の訓練開始だ。 153(ユニコーン)、155(ケルベロス)、156(イシュタル)の順だ」

コーヒーカップの代用飲料を啜りながら、管制官が管制塔のボードに記されたタイムスケジュールを確認する。 訓練は1時間ずつの2交代で行われる予定だった。
師団管制官達が皆、深夜の超過勤務労働に、やれやれと言わんばかりの口調だ。 戦場では超過勤務どころか、24時間体制であるが・・・

「せめてホームベースでは人並みの勤務をしたい、と言うのは人情だろう?」

「しかし、どうして今夜になって?」

「知らんよ。 管制本部でも、首を傾げることしきりだ。 師団長か、副師団長・・・そのあたりに聞けば?」

「聞けるかよ・・・」

抜き打ちの緊急呼集。 そして予定に無かった全戦術機甲部隊の夜間訓練(松戸基地は同時に戦術機甲部隊の基地だ) 今頃は機甲部隊や砲兵部隊でも、てんやわんやだろうか。
衛士連中も寝耳に水だったらしく、某悪所に繰り出していたらしい第151大隊の八神大尉(第2中隊長)などは、香水の匂いをプンプンさせながら、不機嫌そうに帰隊していた。

「大隊長連中も、半分は訝しげだったな」

「間宮少佐や有馬少佐も、不思議そうだったが・・・佐野少佐なんか、八神大尉と一緒に『どうして、あと1時間待ってくれなかった・・・!』とか、言っていたっけな」

「生殺しか。 ご愁傷様だ」

「その割には、古参の大隊長たちは、妙に表情が硬かったぞ?」

「そう言えば、あの周防少佐や長門少佐が、深刻な顔をしていたな。 荒蒔中佐は、何か考え事の様な顔だった」

「何かあるか・・・?」

「うん・・・」

そんな会話の最中だった。 それまでルーチンワークとしてレーダーを見ていたRADOP(レーダー操作員)が、不思議そうな声を上げた。

「・・・っと、んん? なんだ、これ・・・」

「どうした?」

「はっ! ベクター3-0-5より、高速移動体、多数接近! これは・・・戦術機です」

「戦術機? 発進した151(ゲイヴォルグ)か、152(アレイオン)でなくて?」

「はい。 151も152も、ベクター0-3-5に向けて飛行中です。 154も続行しています。 待って下さい・・・でました、府中の3rd-TSF・Rg(第3戦術機甲連隊)です」

「3連隊だぁ?」

府中市の陸軍府中基地には、最終防衛線を守る第1師団に属する、第3戦術機甲連隊が展開している。 実の所、『第1戦術機甲連隊より戦場慣れしている』と言われる精鋭部隊だ。
その第3戦術機甲連隊所属の3個戦術機甲大隊が、なぜかこちらに向かっている。 北関東の演習場に向かうのであれば、方向が90度違っている。

「おい、今夜、こっちに3連隊が来る予定はあったか?」

「いいや? 明後日に相馬原の14師団(臨時駐留)の3個大隊が、先遣隊で来る予定はあるけどな・・・?」

この時の第15師団管制部を、『怠慢』の一言で片づけるのは、いささか酷であったろう。 BETAを国内(佐渡島)に迎えているとは言え、ここは関東。 その中心部なのだ。
ましてや、接近中の戦術機は同じ帝国陸軍、友軍部隊。 同じく帝国陸軍の頭号師団、第1師団の所属機なのだ。 もしかすると、第1連隊(練馬基地)への移動かもしれない。

「おい、通信。 一応、誰何しておけ。 練馬への道は、もっと南ですよ、ってな」

「了解です」

通信員が苦笑気味に応じたその時、RADOP(レーダー操作員)が悲鳴の様な声を張り上げた。

「熱源体、高速接近中! 誘導弾です! 向かってくる、多数!」

「何ぃ!?」

管制官たちが外を―――西の夜空を見たその時、無数の光が高速で迫ってくるのが見えた。 そして次の瞬間、その無数の光は基地に落ち、連続した爆発音とともに、紅蓮の炎となった。





「被害状況!」

誘導弾が着弾した瞬間、第15師団最先任戦術機甲部隊指揮官である第153戦術機甲大隊の荒蒔中佐は、衝撃で執務室の椅子から投げ飛ばされた。
衝撃波で粉々に割れる窓ガラス。 そして爆発音。 続いてあちこちから聞こえる悲鳴と怒号。 不意に室内の電灯が消える。 間違いない、攻撃だ。 詰まる所・・・

(・・・先制拘束は、失敗したのか・・・)

第15師団の大隊長クラスで、『その事』を知っている者は少ない。 荒蒔中佐と、あとは2、3人だけだ。 救いはその少ない事情を知る指揮官たちが2人、既に発進している事。
荒蒔中佐は内心の焦燥を押さえ乍ら、大隊本部―――管理棟に急いだ。 そこには小規模ながらも、通信設備がある。 内外とも連絡を取り合える。

「第4、第5ハンガーに直撃弾多数!」

「整備班に負傷者! 救急隊はまだ動けません!」

「第6ハンガー、半壊! 戦術機、多数破損!」

「第1燃料タンクに直撃弾! 大規模火災発生!」

「第1、第2発電施設、損傷!」

最初に飛び道具(戦術機)と燃料・動力源(燃料タンクと発電施設)を叩いたか。 くそ、連中、手際が良い。 そうか、第3連隊にはあの男が居たな、久賀少佐が・・・

「予備発電に切り替えろ! 師団司令部はまだか!?」

「師団司令部、出ました!」

大隊本部の通信員が、受話器型の通話機を差し出す。 それをひったくるように受け取ると、荒蒔中佐は少しだけ声を落ち着けて応答した。

「153大隊、荒蒔中佐」

『―――荒蒔か? 藤田だ』

第15師団第1(A)戦闘旅団長・藤田伊与蔵准将だった。 

「閣下、御無事で?」

『俺と名倉(名倉幸助大佐、第2(B)戦闘旅団長)、それに熊谷さん(熊谷岳仁准将、副師団長)は、取り敢えずな。 師団長(竹原季三郎少将)が負傷された。
軽傷だが、念の為に軍医長に来てもらった。 佐孝(佐孝俊幸大佐、第3(R)戦闘旅団長)が誘導弾の破片を腹に喰らった、重傷だ。 参謀長の河原田(河原田仁大佐)もだ』

師団長と参謀長、そして第3戦闘旅団長が負傷。 第3旅団長と参謀長は重傷の様だ。 他にも軽傷の幕僚が数人出たらしい。

『―――連中、手際が良い。 本部通信隊は壊滅状態だ。 TSFは?』

「・・・153、155は3割以上、地上撃破されるでしょう。 156は半数が第4、第5ハンガーでしたので・・・」

『くそっ、156は壊滅か。 153と154も、全滅判定・・・やられたな!』

通信機の向こうから、藤田准将の忌々しげな声がした。 『敵』はまず、レーダーと通信、そして発電施設に燃料庫を叩き、そしてハンガー内で無防備の戦術機群を叩いた。
それも問答無用でだ。 こちらの連中にしてみれば、まさかの友軍による奇襲攻撃。 『誇り高き』第1戦術機甲連隊なら、まず行わないだろう、戦場慣れした攻撃だった。

「指揮しているのは、多分、久賀です」

『―――あの男か・・・151と152、それに154を至急、呼び戻せるか?』

その問いに、荒蒔中佐は脳裏でチラッと彼我の位置関係を描いてみた。 151と152、それに154の3個大隊は発信して未だ数分から10数分だ。 

「出来ます。 それと154は、北から府中との間に入れて連絡線を絶たせます。 流石に久賀と遣り合うには、間宮(第154戦術機甲大隊長)では、荷が重いですので」

『―――数は151と152でも、相手の2/3だぞ?』

「壊滅は出来ません、無理です。 ですが実質の相手は、1個大隊だけです。 引かせる事は十分可能です」

荒蒔中佐の言はつまり、第151大隊と第152大隊の2個大隊で、第3戦術機甲連隊の3個大隊に拮抗し得る。 注意すべき相手は、久賀少佐指揮の1個大隊であると。

『―――よし。 責任は俺が持つ。 やれ、荒蒔』

「了解しました」

『極秘事前情報』を得ていた2人の高級幹部の会話。 阻止し得なかった軍部上層部への、かすかな不信。 
しかし彼らは職業軍人だった。 それから数分後、能う限りの最大出力で発信された、松戸基地からの通信文。

『―――我、松戸基地。 奇襲を受ける、被害甚大。 『敵』は第1師団。 これは演習に非ず。 繰り返す。 これは演習に非ず!』





120機もの戦術機の群れが、漆黒の夜空で大規模な編隊飛行を行っている。 1990年代初頭から半ばまでの、ベテランが十分に存在した頃なら、珍しくない光景。
しかし、1998年のBETA本土進攻を機に、1999年の明星作戦と、経験豊富なベテラン衛士が次々に命を落としていった現在では、余程の精鋭部隊でなければ不可能。
本土に敵を迎え撃つと言う事は、安全な後方が無い―――訓練を十分に行えないことを意味する。 ベテランを失った補充は、いつも経験不足の新米たちばかり。
そしていきなり実戦に投入された新米は、右も左もわからず、あっという間に死んでしまう。 そしてベテランもまた、疲労と数の不利に晒され、普通なら死なない状況で死んでしまう。

『―――と言う訳だ。 151と152は全力で基地に反転。 『敵』を引かせろ。 154を府中との間に入れて、連中の連絡線を搔き回せ。 できるな、周防?』

基地からの通信に、最小限度の照明と機器の発光だけに照らされた若い顔が歪む。 網膜スクリーンに投影された、調光された外部の夜景の向こうを睨みながら、簡潔に答えた。

「・・・随分と、楽しい状況です。 C4Iは生きています、出来ます」

『―――よし、5分だ。 5分以内に攻撃を開始しろ』

「了解」

時間にしてほんの2、3分。 その間に基地と演習場への途上にある2人の指揮官たちは、現状を把握し、対応を検討し、決定した。 周防少佐はそのまま、部隊間通信回線を開く。

「“ゲイヴォルグ・ワン”より、“アレイオン”、“セラフィム” 聞いての通りだ。 COP(共通作戦状況図)、CTP(共通戦術状況図)、セット―――全機反転! AH(対人戦闘)用意!」

『“アレイオン・ワン”、了解―――陣形、ダブル・ウィング! 154はベクター3-0-8で、ポイントデルタ01から南下!』

深夜、演習場に向けて飛行中だった3個戦術機甲大隊で、2通の緊急命令が発せられた。 第151戦術機甲大隊長の周防少佐。 第152戦術機甲大隊長の長門少佐。

『―――154より151! 152! どういう事です!?』

最後任指揮官の第154戦術機甲大隊長、間宮少佐から先任の2人に向け、驚いた声色で確認が飛ぶ。

「聞いての通りだ、間宮! 松戸から受信したな!? 『奇襲を受け、被害甚大。 敵は第1師団、演習に非ず』だと!」

『―――位置関係から、第3連隊だ! 間宮、お前は大隊を率いて、府中との間を遮断しろ!』

『2個大隊で行く気ですか!? 相手は1個連隊―――3個大隊ですよ!?』

「殲滅戦にはならない! 追い払えばいい! 後方の連絡を遮断しろ! 場合によっては府中基地への攻撃を許可する! 先任権限だ!」

『府中へ攻撃!? くっ!―――りょ、了解・・・!』

3個大隊のうち、最後尾を飛んでいた1個大隊―――『不知火壱型丙Ⅲ』が40機、跳躍ユニットを吹かして、夜空に鮮やかな光の細い帯を多数残しながら、轟音を上げて転針する。
残る2個大隊の80機は見事な空中での陣形変換を行い、前後4つの鶴翼陣形を保ち、その場で編隊変針を行った。 昨今、これ程の大機数での編隊運動を出来る部隊は少ない。

『―――久賀か?』

長門少佐が、部隊間通信回線で周防少佐に問いかけた。 それは疑問と言うより、確信の確認、と言ったニュアンスだった。 周防少佐も少し詰まった後、言い切った。

「・・・3連隊の3人の大隊長で、あそこまで戦慣れしているのは、奴しか居ない」

それ以上は2人とも無言になる。 3人は陸軍衛士訓練校の同期生だ。 そればかりでなく、少尉時代から幾度も激戦をともに潜り抜けた戦友で、親友だった。

『・・・躊躇うなよ?』

「・・・お前もな。 奴を補足したら・・・躊躇するな、トリガーを引け。 でないと・・・こちらが殺られる」

互いに力量は判っている。 2対1だと、まず負けはしない。 普通なら。 しかし、向こうは既に一線を越している精神状態だ。 一瞬の躊躇が死に直結する。
長い戦歴の中で、そんなことは骨身に沁みて、体で理解している。 BETA相手の戦闘なら、一切の躊躇はしないし、今更そんな精神状態にもならないだろう。
だが今回は、AH(対人戦闘)で、しかも『敵』は、2人の少佐にとっては、最も親しい同期の期友だ。 北満州、華北、地中海、ドーヴァー。 何度、共に死線を潜った事か。

『―――ドラゴン・リーダーよりゲイヴォルグ・ワン! 大隊長、状況は・・・!』

『―――ハリーホーク・リーダーです! 大隊長、どう言うこってす!?』

『―――クリスタル・リーダーより、ゲイヴォルグ・ワン! 大隊長、部下の動揺が・・・!』

部下の中隊長たちから、しきりに応答の確認通信が入っている。 彼らは何も知らされていなかった。 中隊の部下を叱咤し、戦闘隊形を維持しつつ、彼ら自身も事実を知りたいのだ。

「・・・“ゲイヴォルグ・ワン”より“ゲイヴォルグ”全機・・・」

畜生、どうしてこうなった? どこで道が分かれてしまった? 貴様は何を望んで・・・内心の葛藤を仕舞い込んで、指揮官機―――周防少佐から、大隊全機に命令が飛んだ。

「―――敵は、第1師団。 基地攻撃部隊は、第3戦術機甲連隊。 これより攻撃に入る! IFF、Mode 4 からMode Sに切り替え!」

これにより、2個大隊のIFFは暗号化された質問信号とは別途に、識別信号を設定して個別の戦術機のみから応答を引き出す事になる。
つまり、『味方』だけを認識し、『敵』戦術機を判別する―――BETA大戦下で、まさかこのモードを戦場で使用しようとは。

80機の戦術機が、跳躍ユニットの轟音を響かせ、『敵』を誘導弾の射程内に収めたのは、それから3分20秒後の事であった。





『―――ッ! ベクター0-4-5より、熱源飛翔体、高速接近! 誘導弾です!』

小型種BETAの制圧・掃討にもっぱら使用される、対空自走砲―――87式自走高射機関砲が1輛、36mm砲弾を上面装甲に受け、一瞬後に爆散した。
燃え盛る松戸基地の、戦術機発進路の中ほどで、久賀少佐は部下の報告を聞いた。 周囲はかなり大規模な火災が発生している。 戦術機ハンガー、発電施設、燃料タンク・・・

「・・・奇襲開始から、約6分40秒で本格的な反撃開始か。 早いな、流石は即応部隊」

同時に、発進路周辺の部下の全機に、緊急乱数回避を命じる。 戦術機の誘導弾はASM(空対地ミサイル)であり、SAM(地対空・艦対空ミサイル)の様な迎撃能力は無い。
回避命令と同時に、自分も乱数回避を行いながら、誘導弾が飛来した方向を確認する。 網膜スクリーンに映るFCI(兵力統制情報)によるCTP(共通戦術状況図)は不十分だ。

「・・・通信傍受では、151と152・・・周防と長門か」

厄介だ。 出来る事なら、連中をファースト・ストライクで叩いておきたかった。 偶然か、必然か。 どうやら連中、事前発進をしていたようだ。 情報が漏れたか?

「いや・・・だったら、連中じゃなく、憲兵隊に踏み込まれているか・・・」

つまり、向こうにとっては辛うじて『保険』が間に合ったと言ったところか。 だが2個大隊、こちらの70%弱の戦力―――そうか、奇襲は成功したわけだ。

『―――第1中隊、誘導弾攻撃、1機被弾、爆散!』

『第2中隊、1機大破! 1機中破!』

『第3中隊です! 1機中破、行動不能!』

やってくれる―――中破した機体は、使い物にならない。 一気に4機を失った。 

「―――第2大隊より第1、第3大隊! 目的は達成した、長居は無用!」

『第3大隊より、第2大隊! 即応部隊を迎撃すべき!』

「第3大隊! 第2大隊だ。 ここで消耗すべきでない、連中は精鋭だ。 勝利しても、甚大は損害をこちらも受ける。 事の成就の為、それは許されない」

下手をすると周防か長門か、どちらかの相手をしている間に、残りの第1と第3が壊滅される危険性もある―――久賀少佐の本心は、そうだ。
第1師団の練度は高いが、実戦の駆け引きの経験は雲泥の差がある。 第15師団は全帝国軍中、最も戦場経験の多い指揮官たちに率いられた、紛れもない最精鋭部隊のひとつだ。

「敵戦術機部隊の突入まで、あと15秒! 離脱する!」

連中は実戦経験が豊富だ、つまり負け戦慣れしている。 緒戦の不利を、どう挽回すればいいか、己の命を授業料に散々学んできている連中だ。

「第3、第1大隊、緊急離脱! 第2大隊全機、全力射撃開始! 防御火網を作れ!」

2個大隊の戦術機群が、次々と跳躍ユニットを吹かして離脱を始める。 同時に殿部隊の久賀少佐の大隊が、全機で突撃砲の36mm砲を戦力射撃し、防御火網を夜空に撃ち上げる。
だがその戦術も、猛追してくる2個大隊の指揮官は織り込み済だったのだろう。 見事な夜間編隊飛行を解くや、80機ほどの『敵』戦術機部隊は複数の梯団―――中隊に分かれた。

「ちっ! 躾が行き届いているなぁ! 周防! 長門!」

即座に不利と判断した久賀少佐は、自分の指揮する大隊にも緊急離脱を命じた。 中隊単位で、背部兵装担架に搭載した予備の突撃砲を後方に向けて発射しながら、離脱する。

『くっ・・・! 被弾! 落ちるっ!』

『4番機! デッドシックス!』

『振り返るな! 全力で離脱しろ!』

つい先ほどまで、奇襲による圧倒的な優位を保っていた攻撃側が、一転して背後から狩られる立場になる。 それでも中隊陣形を崩さず、相互支援を保っての離脱は、1師団ゆえか。

「そろそろっ・・・こっちも離脱かっ!」

目前に迫った2機の戦術機の連携攻撃を躱しながら、同時に部下の脱出を見届けた久賀少佐は、いよいよ最後に自分と指揮小隊の離脱を決意する。
周りは『敵』―――第15師団の戦術機が押し寄せつつある。 このままでは包囲殲滅されるだけ。 そう判断し、部下の指揮小隊長に離脱命令を・・・

『だっ、大隊長!』

不意に右前方―――指揮小隊の4番機が爆散した。 まだ18歳の、衛士訓練校を4月に卒業した若者だった。 爆炎の向こうから、3機の戦術機・・・不知火が現れた。

「トライアングルを組め! 強行突破だ!」

『―――させません!』

通信回線の混線か。 相手部隊の指揮官の様だ、まだ若い女の声。

『萱場! 宇嶋! 左の2機を牽制! 機動を止めるな!』

その不知火―――肩部に細い白線が1本、小隊長機だ―――が、地表面噴射滑走で小刻みに進路を変えつつ、高速で迫ってくる。 突撃砲は乱射せず、1回の射撃時間は長くて2秒。

「・・・良い腕だ」

本当に良い腕だ。 状況の判断も良い、戦場で随分と揉まれたのだろう。 だが・・・

「惜しいな、惜しい」

まだまだ、自分を撃破できる腕ではない。 敵の突撃を、噴射パドルの極短時間逆噴射と電磁伸縮炭素帯の絶妙な衝撃吸収で、あっさり躱して体勢を入れ替えた。 
交差の瞬間、突撃砲を放った。 だが敵衛士も、戦場で揉まれた衛士ならでは。 咄嗟にショート・ブーストを仕掛けて離脱を図ったが・・・

『くっ! があぁ!』

『小隊長!』

小隊長機の片脚を突撃砲の砲弾が撃ち抜き、パワーバランスを崩した一瞬だけ機体がよろめく。 目の前のそんな隙を逃すほど甘くはない、これで撃破だ―――視界に影がよぎった。

「―――ッ! くそっ、貴様かっ!」

『―――俺の部下を、殺すなよっ!』

衝突寸前まで接近し、36mm砲弾より大口径の57mm砲弾を叩き込んだ機体。 咄嗟にショート・ブーストで距離を取る。 肩部に太線1本と細線1本―――大隊旗機、大隊長だ。
2機の戦術機が、激突寸前で交差した。 そのままもつれ合うように、高速機動を行いながら飛び去って行く。 お互いに付かず離れず、危険な程の近接距離交戦。

「周防、かっ!」

『久賀っ!』

その距離を保ちながら高難易度の『ダンス』を行って、互いに突撃砲を射撃し、遮蔽物をギリギリで抜け、跳躍し、反転し、射撃し、交わす。 その間距離が開かない。

「俺は、部下を殺されたぞ!」

『久賀! 貴様、ルビコンを渡ったのだろう!? 今更、言うなっ!』

水平噴射跳躍から一気に逆噴射制動、互いの突撃砲(周防少佐機のそれは、近接制圧砲だった)が被弾する。 即座に投げ捨て、背部兵装担架の長刀を取り出す。
サイドステップで機体を回転させた、その慣性力を利した長刀での斬撃、受け止められる。 返す刀での強烈な突きを、咄嗟の垂直軸反転で交す。
そのまま短噴射跳躍、そして逆制動、同時に片肺をカット。 機体制御の慣性力を利して機体を捻り込み、瞬時に相手の背後を取るも駄目、相手も驚異的な垂直軸反転で迫りくる。

『萱場! 北里(北里彩弓中尉、大隊指揮小隊長)を確保しろ! そのまま後退!』

『了解です! 宇嶋! 牽制射撃!』

一瞬、2機の動きが止まった。 と同時に互いが強烈な踏み込みで相手に迫る。 久賀少佐機はそのまま、1本の刀身の如く上段から猛速の斬り下ろしを。
周防少佐機は更に噴式補助主機を短噴射して、後脚のタメを一気に解放しての強烈な突きを入れる―――交差するほんの一瞬前、直前で2機が離れた。 曳光弾が擦過する。

『大隊長! 離脱を!』

久賀少佐の部下の1機が、2人の少佐の戦闘に待ったをかけた。 今は決着をつける時ではない。 久賀少佐は『蹶起部隊』の先任戦闘指揮官として、必要な存在なのだ。

「高殿(高殿大尉)か!? ちっ! 引くぞ!」

跳躍ユニットを吹かす。 どうやら相手は追撃して来ないようだ。 部下の大半は離脱した、そして向こうも僚機が損傷している。 そして自分たちの決着は、そう短時間ではつかない。

『追うな! 周辺警戒! 損害を報告しろ!』

後方に遠ざかる機体、かつての、いや、今でも親しい友人の搭乗する機体から、妙に懐かしく感じる声が聞こえた。 
懐かしいと感じる事に、一抹の寂寥感を感じながら、久賀少佐は機体を離脱させた。 もう、あの声を聞く事は無いだろうと思いながら。









2001年12月5日 0225 日本帝国 帝都・東京 大手町・国家憲兵隊司令部


「・・・確かか?」

「はっ! 軍用無線傍受です。 発信は第15師団。 第1師団は応答せず」

部下の報告に、国家憲兵隊副司令官・右近充陸軍大将は内心で臍を噛んだ。 『完璧』などこの世に存在しない。 だがそれにより近づけさせることは出来る。
つまり―――初手は失敗したのだ。 完全に先手を打たれた。 『対応部隊』の筆頭に予定していた、帝都周辺の最有力即応部隊を潰されたか・・・
恐らく、帝都の中心部へは第1師団の歩兵部隊、そしてそれに呼応する一部部隊が殺到しつつあるだろう。 目標は多岐にわたるが、第1目標は・・・

「―――首相官邸は?」

「警視庁のSPが1小隊。 武装憲兵隊の警護部隊が1個中隊です」

無理だな。 少しばかりの抵抗は可能だが、いずれ殲滅されてしまう。

「・・・官邸の地下脱出路は?」

「無理です。 官邸警護中隊より通信がありました。 第1師団歩兵第1連隊の2個大隊が重包囲中です」

首相は・・・無理だ、諦める。 となると、次に為す事は・・・

「大貫司令官(大貫源次郎陸軍大将、国家憲兵隊総司令官)は、ご自宅だな?」

「はっ! 警護小隊には連絡済です、脱出成功の成否は・・・」

「司令官の御運に任せる。 おい―――逃げるぞ」

希代の諜報屋に、『逃走』と言う言葉は忌避感が全くない。 国家憲兵隊、特に特務工作・諜報に携わる者たちは、一般の軍人とは思考が異なる。
時には汚く卑怯ともいえる諜報活動を行う事を、平然と受け入れる。 二重・三重スパイとなって相手を撹乱するなど、あくまでも任務を遂行すべきよう教育されている。
そんな彼らにとって『戦場での見事な戦死』は、最も忌むべき、最も愚かしい結果に過ぎない。 ここでクーデター部隊を迎え撃っても、何の糧も得る事は無いのだから。

右近充大将と彼の腹心たちは、国家憲兵隊庁舎地下から、憲兵隊内でさえ知る者の殆ど居ないルートを使い、脱出を開始した。









2001年12月5日 0345 日本帝国 帝都・東京 紀尾井町 貴族院議員宿舎


「・・・首相殺害。 国防相、内務相、蔵相も殺害」

臨時の『蹶起軍司令部』とした紀尾井町の貴族院議員宿舎の一室。 衛士強化装備のままの久賀少佐が、『行動結果』の報告を受けていた。 1枚の紙に記された結果。

「外相に、他の閣僚は辛うじて脱出に成功・・・GISIG(国家憲兵隊特殊介入部隊)が動いたのか・・・」

他に、帝都周辺の有力部隊だった立川基地の第12師団が、奇襲を受けて稼働戦術機の55%を破壊された。 第1目標の第15師団も、稼働戦術機の40%を破壊されている。

以降の時系列である。

0350 国会議事堂、国営放送局占拠。 警視庁急襲・特別高等公安警察急襲、交戦となる。
0312 本土防衛軍司令部、相馬原基地の第14師団へ『有事緊急出撃』下命。
0315 江戸川の第3師団、水師準備。
0318 国家憲兵隊襲撃。 交戦となる。
0333 市ヶ谷の国防省、統帥幕僚本部、本土防衛軍司令部襲撃。 交戦となる。

既に第14師団が完全に『敵』に回った。 佐渡島奪回の最重要・最重点部隊に指定されている、アジア最強級の重戦術機甲師団が。
その他にも第3師団が水師準備を開始―――敵対姿勢を見せている。 乙部隊とは言え、第14師団と連携された場合、北と東に有力な相手を背負う事となる。

「12師団は早くて今夜だ。 14師団も先発の1個連隊は昼過ぎには松戸に入るが、主力は夜に入ってからだな。
だが、一部の即応軽歩兵部隊は既に応答し始めている・・・市街戦で怖いのは、むしろこっちの方だ。 戦術機部隊など、市街戦では歩兵の的にしかならない」

「と、言う事は・・・」

「我々に残された時間は、楽しいほど短い、そう言う事だ。 おい、高殿。 沙霧(沙霧尚哉大尉)は?」

「乃木坂に」

「乃木坂? あそこに戦術機部隊を連れて行っても、仕方なかろう?」

「第1偵察隊が同行しています。 洞院伯爵家があります」

その言葉に、久賀少佐の顔から一瞬、表情が消えた。 

「・・・武家の支持など、糞の役にも立たん。 城代省は統制派寄りで固まっている」

「情報省の、『あの男』によれば・・・」

「戦力を分断される。 沙霧は見境なく、将軍を追うだろう。 目標が分散されるのは、作戦上好ましくない」

―――摺合わせが必要だ、それも大至急。 

久賀少佐には、早くも計画の瓦解が始まったと見えた。









2001年12月5日 0410 日本帝国 帝都・東京 市ヶ谷 国防省庁舎D棟


「少佐殿ッ! 突入部隊がッ!」

「怯むな! 防げッ!―――撃てッ!」

M3A1・11.4mm短機関銃、81式小銃が火を噴く。 少数の91式騎兵銃(カービン)も。 だが、『敵』が身を隠すコンクリート壁に阻まれる。

「・・・くそ、威力が足りないか・・・!」

指揮官用のM9・9mm機関拳銃の銃把を握りながら、国防省機甲本部の部員である綾森祥子少佐は、臨時編成の『部下(実際は本部附の下士官たち)』を指揮しながら呟いた。
国防省が『正体不明の』武装勢力に襲われてから、約40分が経った。 今では第1師団が中心となった、クーデター部隊だとわかっている。 判っているが・・・

「所詮、軍政や軍令組織・・・実戦部隊じゃ、ないんだからッ・・・!」

国防省も統帥幕僚本部も、そして本土防衛軍司令部も、軍政や軍令組織であり、実働部隊ではない。 中には多くの勅任・判任文官や、軍属などの職員も多い。
少しだけ顔を出した『敵』に向けて、M9の9mmパラをお見舞いする―――外れた。 彼女が銃を握って白兵戦をするのは、9年前の大連での『事件』以来だった。

「祥子! E棟は完全に制圧されたわッ! A棟への通路、階下でも交戦中!」

向こうで近距離通信傍受をしていた、同期生の三瀬麻衣子少佐―――兵器行政本部・第1開発局第2造兵部員―――が、焦燥感を滲ませた表情で叫ぶ。

「何とかして、薬王寺門(反対側のB棟脇)か、厚生棟裏まで行かないと・・・ッ!」

三瀬少佐の視線の先には、胸部に被弾して、大量の出血跡を残す河惣巽大佐が、フロアの床に横たわっていた。 応急処置と医療ジェルは付けているが、弾丸が体内に残ったままだ。
兵器行政本部・第1開発局第2造兵部長の河惣大佐は、『クーデター部隊』の投降説得を拒否。 その際のやり取りで激昂した若い少尉に、拳銃で撃たれた。

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・わ、私に・・・構うな。 貴様たちだけ・・・で、行け・・・」

息苦しそうに、顔色を土色に変え乍らも、気丈にそう言う河惣大佐。 そう、彼女を置いていけば・・・もしかすれば、A棟への通路進出を拒んでいる敵小隊を・・・

「きゅ・・・92年の・・・北満州・・・き、貴様らに、助けられなければ・・・ごほっ! ごほっ! な、無かった、この命だ・・・!」

92年の北満州。 帝国陸軍大陸派遣軍。 92式戦術歩行戦闘機『疾風』の採用試験。 河惣大佐(当時少佐)はそこで、BETAに食い殺される運命から救われた。

「大佐っ! 今は、そんな昔話は、後です! 佐川軍曹! 1班率いて、前方の通路を確保しろ!」

「ここを脱出して・・・『友軍』に合流してから・・・いくらでも聞きますわっ! 右だ! 牽制しろ!」

突入を敢行しようとする、クーデター部隊の1個中隊。 それを辛うじて阻止している、綾森少佐と三瀬少佐の指揮する、臨時編成小隊。

「少佐殿ッ! 三瀬少佐殿ッ! A棟連絡通路下、半分が制圧された模様ッ!」

「綾森少佐殿ッ! 外部から新たな部隊が侵入してきましたッ!」

綾森少佐と、三瀬少佐が顔を見合わせる―――兎に角、一刻も早くA棟へ。 辛うじて脱出路が確保されている、本部棟へ。

「和気軍曹! 1班連れて続けッ! 突破口を開くッ!」

綾森少佐が、比較的重武装の(とは言え、武装は精々自動小銃の)1個班を率いて前面に出る。 先行させた1個班が、前方の通路を確保している。
あそこから、階下からの攻撃を避けつつ、何とかしてA棟へ・・・! 様々な銃弾が、建物内で飛び交う。 階上と階下―――エントランスの上下でも。

「麻衣子! ここで援護する! 大佐を先に!」

M9を階下に向けて乱射しながら、綾森少佐が叫ぶ。 向こうから先行させた1個班も、援護射撃を行い始めた。

「お願い、祥子! 三輪伍長! 谷本伍長! 大佐を! 残りは壁になれ! 行くぞ!」

2人の下士官が、重傷の河惣大佐を両脇から支え、必死に駆け出す。 その側面を4人の下士官と三瀬少佐が守り、銃を乱射しながら可能な限りの速さで駆け抜ける。

「ぐあっ!」

「佐藤! 佐藤!」

「よせ、前原! 奴は死んだ!」

「走れ! 走れ!」

交錯する銃弾。 やがて河惣大佐を守っていた三瀬少佐は、6人の『部下』のうち、1人を喪いながらも、辛うじて先行班に合流する。
それを見た綾森少佐は、少しだけ光明が見えた気がした。 あの場所からA棟への通路は直ぐだ。 未だクーデター部隊は到達していないはず・・・

「よし、最後は我々だ。 和気軍曹、先頭を切れ。 殿は私がやる」

綾森少佐のその言葉に、いかにも古参の下士官、と言った巌の様な顔つきの和気軍曹がチラッと少佐を見てから、中腰のまま背筋を伸ばして言う。

「・・・指揮官率先。 誠に敬意を払うべき、ですが・・・ここは少佐殿、貴女に生き残って頂かねばなりません。 おい、柘植伍長。 貴様、少し運動せんか?」

「うっす」

「先頭を切れ。 殿は俺がする―――少佐殿、貴女は柘植伍長の後を」

「・・・和気軍曹、戦場で会っていれば、心強かっただろう。 柘植伍長、貴様も―――いや、ココも戦場か。 頼む」

「光栄であります、少佐殿」

そう言うや、柘植伍長―――まだ、20歳くらいの若者―――が、81式自動小銃を階下に向け、射撃しようとしたその瞬間。

「ッ! 後ろッ!」

「伏せろッ! 軽機!」

「盾になれッ!」

先行班の悲鳴の様な声と同時に、途端に鳴り響くM249・ミニミ軽機関銃の軽快な発射音。 5.56mm NATO弾が、背後を取られて無防備になっていた先行班に降り注ぐ。

「ぐはっ!」

「くそっ・・・やめろっ・・・ぎゅふっ!」

「くそっ、くそっ・・・!」

どうやって、後背に―――そこまで意識を取り戻した綾森少佐の視界の隅に、有り合わせの障害物を積み上げて、階下からよじ登ってくる歩兵部隊の姿が見えた。 流石は本職。
エントランス通路を挟んで、残った綾森少佐率いる殿の1個班は、目前の光景を呆然と見つめていた。 通路の向こうで、次々と被弾し、血を吹きながら倒れる『戦友』達。

「あ・・・あ・・・」

M9・9mm機関拳銃を放っていた三瀬少佐の額から、ぽっと赤い液体が出た。 次の瞬間、彼女の後頭部が爆発するように弾け、糸が切れたように、ゆっくりと倒れて動かなくなった。

「ああ・・・うあ・・・」

重傷を負い、身動きの取れない河惣大佐の全身に、無情に降り注ぐ5.56mm弾の雨。 ビクン、ビクンと痙攣する様に体を跳ね上げている―――既に絶命していた。

「う・・・あ・・・くあああああっ!!」

絶叫と共に、M9・9mm機関拳銃を、階下に向けて乱射する綾森少佐。 即座に応戦するクーデター部隊の歩兵たち。

「ぐうっ!」

「少佐殿っ! 柘植! 少佐殿を引きずり倒せ! 的になる!」

「くそっ・・・くそっ・・・くそおぉ!!」

「少佐殿! 綾森少佐殿! 駄目です、的になるだけだっ!」

「放せっ! 放せっ! 殺すっ! 殺してやるっ!」

「駄目です、少佐殿っ! 出血していますっ! おい! 2人手伝え!」

柘植伍長と、2人の兵長が3人がかりで激昂する綾森少佐を引き摺り倒し、床に抑え込む。 跳弾が掠ったか破片か、少佐の左上腕が切り裂かれ、出血している。
一人が最後に残った医療パックから、応急治療ジェルを取り出し、暴れる少佐の体を押さえつけながら貼り付ける。 

「おいっ! 聞こえているだろう!? 投降する! 負傷者が居る、衛生兵を!」

「軍曹っ!」

「少佐殿っ! 限界でありますっ! それに・・・河惣大佐殿や、三瀬少佐殿を、あのままに?」

「ッ!」

3人の若い下士官兵に抑えられた綾森少佐の体が、一瞬だけビクンと震えた。 次の瞬間、完全に脱力する。 そして押さえ付けられた下から、呻くような声で和気軍曹に指示する。

「・・・和気軍曹、総員の武装を解除・・・投降する」

「はっ!」

やがて、突入部隊の指揮官らしき若い中尉が、姿を見せた。 綾森少佐の階級章を見て、背筋を伸ばして敬礼する。 そして通路の向こう側を見て・・・

「・・・河惣大佐殿を撃った事は、完全に当方の非であります、少佐殿。 当の少尉は、拘束しております。 あれが無ければ・・・」

こちら側も、ここまで過激な抵抗はしなかっただろう。 『天誅』? あの若い少尉は、そう叫びながら大佐を撃った。 河惣大佐は『天誅』など、下される様な方ではなかった。

「・・・河惣大佐、三瀬少佐、それに・・・『戦死』した下士官兵たちの最後の名誉は、守れ・・・良いな、中尉?」

「無論であります、少佐殿―――貴女は我々の捕虜です」

それだけを言うのに、その中尉指揮官はありったけの勇気を振り絞らねばならなかった。 何故なら、一般論として美女と称される程には整った顔立ちの少佐は・・・

「忘れるな、中尉―――最後に銃殺隊の前に立っているのは、貴様たちだと言う事を」

物理的な圧力さえ感じる程、それは『戦場』で生死をかけて戦い抜いて来た者が持つ、圧倒的な威圧感だった。




2001年12月5日 0435時 国防省・統帥幕僚本部、クーデター部隊により占拠される。





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