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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 前夜 最終話(前篇)
Name: samiurai◆b1983cf3 ID:c7483151 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/10/20 22:17
『―――当時を振り返り、かの『12.5事件』ほど不可解な騒乱は近年に無い、そう言われる。 何故か? 当時を振り返って検証してみる。
当時の日本帝国は、1998年にBETAの本土侵攻を許していた。 翌99年にかの『明星作戦』により、一応は甲22号目標(横浜ハイヴ)を陥した。
とは言え、未だ佐渡島には甲21号目標(佐渡島ハイヴ)があり、半島には甲20号目標(鉄原ハイヴ)が存在し、日本海側一帯はBETAの脅威に晒されていたのだ。
そして国内は大量の国内・国際難民を抱え込み、軍事予算の突出は歴史上の経験則に従えば、まさに敗戦間際の亡国に等しい状態であった』

『その中で生起したクーデター事件。 当時クーデター部隊の中心であり、精神的な支柱とされた沙霧尚哉・元陸軍大尉(第1師団)は、どの様な構想を描いたのか。
一説には沙霧元大尉は、時の政威大将軍・煌武院悠陽(当時18歳)による『摂政直接政治』の復活を望んだ、とも言われている。 果たしてどうであろうか?
既に当時の日本帝国の政治実権は、五摂家から議会政治に移って久しかった。 いや、既に日露戦争後の1910年代初め頃には、五摂家の政治的実権は有名無実化しつつあったのだ』

『そして1920年代後半の世界大恐慌に端を発する、国内経済の崩壊と貧富格差の極大化。 それに伴う社会不安。 後に日本帝国が2度目の世界大戦へと向かった萌芽。
その時、五摂家は何の手も打つ術を持たなかった。 いや、むしろ巨大化しつつあった財閥との結びつきさえ、五摂家は行っていたのだ―――荒廃しつつある国内で生き残る為に。
2001年のクーデター事件の折、『蹶起』を起こした青年将校団が言ったといわれる言葉、『政府は民を想う殿下(政威大将軍)の御心を踏みにじっている』 は、果たして?』

『そうなのだ。 かの青年将校団が言う言葉はすでに、その時を遡る80年ほど前にはもう、五摂家自身の手を離れていた。 その結果、暴走し続けた日本は・・・
1941年12月8日、対英米仏蘭に対し、宣戦を布告する。 第2次世界大戦の太平洋戦線、その始まりである。 結果は・・・2年8か月後の条約付降伏である。
果たしてこの時、政威大将軍は、五摂家は、何をしていたのであろうか? 近年の第1次資料調査で判明している事は、『国体護持』を主張していたと判明している』

『そして1944年8月、米英仏蘭に対する条件付降伏の際の、政威大将軍と摂家の『降伏条件』がこれまた、『国体護持』とある事は、既に自明である。
これは如何なる事なのか? 『彼ら』にとっての『国体護持』とは即ち、自らの特権的地位の確保、それに尽きると言われてもおかしくない。 それ以外の類推が成り立たない』

『―――話が逸れてしまったが、2001年12月の騒乱に於いて、クーデター将校団の行動に、全く理性的な一面すら伺えない、そう主張する海外歴史学者の言に、筆者も同調する。
国内外の困難。 軍事的には甲21号目標と、甲20号目標から侵攻してくる飽和BETA群の脅威は、北陸・東北の日本海側と北九州、山陰方面に直接的な重圧であった。
更に縦深防御を見込める西日本に展開していた部隊(甲20号目標からの防衛を担当した)に比べ、細長の国土故に甲21号目標の脅威度は遥かに高い関東を含めた東日本。
その東日本の中心、ひいては日本帝国の中心で、政治的・軍事的空白を作る愚かさを、果たして彼ら・・・クーデター将校団は理解していたのであろうか? 全く疑わしい』

『彼らの望みは、先にも言った通り、時の政威大将軍・煌武院悠陽(当時18歳)による『摂政直接政治』の復活である、と言われている。 少なくとも公の主張では、そうなのだ。
その為に、『憲法で記された』議会選出による内閣首班(総理大臣・榊是親)を含む、政府閣僚の数名をも殺害している。 『君側の奸』と言う名目のもとで。
この行動に、理性を見い出せ得るだろうか?―――筆者は見出せない。 少なくとも当時の国内外情勢、その一端をさえ理解していれば、そこに理性は見出せ得ぬであろう』

『国家と国民にとり、統治者から『象徴』へと移りつつある政威大将軍。 仮に統治権を取り戻し、親政を始めたとて、恐らく成功しなかったであろうと言うのが、現在の趨勢である。
様々な主義主張の議会、各政党、そして国家統制色を強めつつあった中央官庁。 その中でも最も力を有する軍部。 聡明と言われたと言え、18歳の少女に何が出来たであろうか?
その18歳の少女が相手にするのは、内には様々な思惑と巨億の利権と利害が複雑に絡み合い、そして国外にもその関係が絡まり混迷している『政・軍・産・官複合体』である。
外にはユーラシア大陸を荒廃のもとに喰らい尽くし、今なお人類の生存権を脅かし続けるBETAと言う異質な脅威である。 言おう、政威大将軍による『親政』は無理であったと』

『更には今日に至っても、多くの人々が誤った見識を有している事がある。 それは成立時から当時に至るまで、『城代省』は政治統治機構では有り得なかった、と言う事だ。
『城代省』は明治の初期、宮内省より分離独立した『政威大将軍と五摂家の為の、公の家宰組織』である。 そこに帝国の政治・行政に携わる権限は与えられていなかった。
国と国民の実質的支持を持たない『摂政親政』、果たしてそれを『摂政』と言うのであろうか? ましてや、己を支えるブレーンすら持たない18歳の少女に為し得るであろうか』

『もう一度言おう、城代省は政治・統治機構ではない。 更に城代省の軍事部門の斯衛軍に至っては、不可思議な事に法律上は『私兵集団』であるのだ。 斯衛は警備組織ではない。
城代省と斯衛軍が、政治と軍事に直接的な干渉を行うことは、当時でも明らかな憲法違反であり、公には政威大将軍と五摂家による、皇帝陛下に対する大逆罪に問われる事となる。
政治的、軍事的、双方で実権力を有さない政威大将軍。 その『親政』は、何を根拠土台として、強大な利権結合体である『政軍産官複合体』を、従え能うと考えるのか?
城代省は、現実政治に携わる事は能わない。 斯衛軍は国土防衛の主体たり得ない。 政治力と国家の暴力装置、双方の掌握を許されない存在、それが当時の政威大将軍であった』

『そして当時の騒乱の最中に会って、『統制派』と『皇道派』、2つの軍・官の対立派閥は少なくとも、己の愚行と偽善を理解していたとされる。
クーデターを利して対立派閥を叩こうとした皇道派。 クーデターを黙認してまで、皇道派の一掃を意図した統制派。 彼らはその事による混乱と偽善を理解した、偽悪趣味の徒だ。
皇道派はその成功取引として、米国内の一勢力(CIA・AL5計画派と言われてきたが、近年の研究では、一概にCIA・AL5派と一括りに出来無いとされる)と手を握った。
統制派は甲20号目標からの不意の飽和BETA群による侵攻、と言うリスクを敢て容認する事で(防衛計画自体は存在した)、クーデターを潰し、その罪を皇道派に背負わそうとした』

『―――詰まる所、日本帝国における国家総力戦。 その手法をめぐる対立軸は、2001年末の時点で終末点に到達していたのだった。
誰の目も、日本帝国と言う名の弧状列島を、BETAの侵攻の咢から護り抜くには、どうすれば良いのか? その事を考えていた。
その事に付随する様々な事柄―――利権や利害、汚職など―――は、最早些末と言ってよい状況であった。 『滅亡さすか、滅亡させられるか』 当時の日本の実情を表す言葉だ』

『対BETA戦争における究極の2択の現実の前で、最早他の事柄に意味が無さなくなった当時の日本帝国。 残酷ではあるが、『生存』にのみ焦点を合わせざるを得ない国情。
諸々の内外乱、そして諸々の思惑が、『生存』と言う一点にのみ収束する過程で、諸々の混乱と混沌が絡み合い、煮え滾る国情を、政威大将軍は果たして統率し得たであろうか?
実務権力を握る中央高級官僚団。 国内外の各界にパイプを持ち、そして絡め取り、絡め取られた政党議会。 利益を追求する経済界。 そして国家総力戦を遂行する軍部。
奔流する流れが、一転に収束してゆく終末で、暴発する寸前であった日本帝国。 その中で突如現れた、純粋にして愚かな道化、それがクーデター将校団であった・・・』

(私撰・帝都帝国大学史学部国史研究科編・『現代日本帝国史』より抜粋―――本書は『私撰』であり、学界では2次資料以下の扱いを受けている事は、読者諸兄の存ずる通りである)










2001年12月4日夕刻 日本帝国 帝都・東京 某料亭


軍御用達の料亭と言うのは実の所、とんでもなくガードが固い。 そしてあらゆる手立てと人脈を使い、一切の取り込みを拒否し、そしてすべての勢力に最大限の便宜を図る。
ここもそう言った、軍御用達の料亭のひとつだ。 料亭の運営資金には、密かに軍の機密費から幾ばかの金が流れている。 その見返りに、この場の事は一切外に流れない。

「少佐。 貴公はどう思う? 我が帝国は、長期持久戦が能うと思うかね?」

不意に聞かれた問いに、少しだけ考える。 手にした杯に注がれた酒精が波打っている。 それをまるで敵の如く飲み干し、言い切った。

「・・・我が帝国単独では、能わず、でしょう」

「ふむ。 で?」

その先は言わずもがな。 その陸軍少佐は偽悪な笑みを浮かべながら言った。

「長期持久・・・そうなれば確実に、太平洋の対岸の囲い者になるより、手はありませんな」

「ごつい男妾じゃな」

対面する将官―――陸軍大将の階級章を付けている―――も、煮ても焼いても食えぬ、まさにそんな表現しか出ないような表情で笑う。

「・・・如何に産業界を東南アジア・オセアニアへ避難させ、そこで経済力の上乗せを図ろうとも・・・元の土台が違うのだよ、太平洋の対岸とは」

何と言っても、資源が無い資源小国だ。 故に南方資源の確保の為に、東南アジアとオセアニアへ産業生産施設を移転させた。
それにより現地の雇用を生み出す。 相手国政府も国民の雇用の安定と、そして安定した税収を見込める。 帝国はその見返りに、資源を格安で入手できる。

だがそれにも限界はあった。 単一国内での経済生産・流通ならともかく、国家間の話となれば、一方の思惑の通りに事は進まない。
故に東南アジア・オセアニア諸国を抱き込んでのリムパックEPA(環太平洋自由貿易経済連携協定:Rim of the Pacific Economic Partnership Agreement)を推し進めた。
更には日中韓統合軍事機構と、大東亜連合軍統合作戦本部、これにアンザック(ANZAC:Australian and New Zealand Army Corps)がオブザーバー参加した連合軍事連絡会議も。

だが所詮は、地域国家連合体の域を超えてはいなかった。

「・・・故に『短期決戦』ですか」

「そうじゃな。 儂は、それを唱え続けてきた」

統制派と皇道派。 この2つの派閥対立は、元々を正せば思想対立ではなかった。 発端は1978年の『パレオロゴス作戦』の瓦解と、それに続く欧州戦線の全面瓦解だった。
当時の日本帝国内では、前年に77式(F-4J) 撃震の実戦配備が開始され、来るBETAの東進を予測しての国防計画案が密かに、しかし激しく論じられていた。

所謂、『国家総力戦』―――その中で主流を占めた2つの論派。 ひとつは『長期持久戦論』 国内各種産業を含めた国の地力を高め、国防力を向上させる。
かつ四方を海に囲まれた日本の地政学上の条件を考慮し、周辺各国との協調(その頃はまだ、中国=共産党との正式な国交樹立はしていなかった)を全面的に入れる。

「当然ながら日米同盟は堅持する。 と言うよりも、米国の支援無しに単独の防衛は、さしも『長期持久論』を唱える者たちも、帝国の国力を盲信しては、おらんかった様だの」

「大陸で、あれだけBETAに叩かれ続ければ。 地政学条件を考慮すれば、あながち誤りとも思えませんが・・・」

「国家に、それに耐えうる、基礎体力があればの話だな」

今ひとつは『短期決戦論』―――帝国の国力は、未だ今次BETA大戦において、自力での長期持久は能わず。 一気呵成の短期決戦を用い、BETA侵攻の足を止めて時間を作る。
短期決戦論者も、いわば『戦術的短期決戦』であり、『国家戦略的長期持久』には変わりない。 要はそのための時間―――BETAに対する足止めの方法論の違いである。
1980年代後半に入り、米国が示したハイヴ攻略戦略のひとつ―――『G弾』 実は『短期決戦論者』達は、日本帝国内の『G弾許容論者』の先駆けでもあったのだから。

「では、次もG弾使用は止む無し、と?」

「復興させたところで、あの島・・・佐渡島に民間人が戻りうるのは、半世紀は先じゃろう。 半世紀と言う時間が、残されれば・・・の話じゃがな」

日本海を挟み、半島に甲20号・鉄原ハイヴ。 沿海州からアムールを遡って甲19号・ブラゴエスチェンスクハイヴ。 佐渡島は『最前線の島』となるだろう。

「・・・現段階で、通常戦力以外の方法で、最も大きな打撃を加え得る方法は、核とG弾です」

「流石・・・実戦を潜り抜け続けた漢の言葉には、重みが有るの、少佐」

帝国内部にも『第5計画』、その戦略的・戦術的優位性を認め、支持する者が居ない訳ではない。 その彼らの多くは軍人だった。 おかしな話ではない。
軍人とは如何に効率良く、如何に損失を少なく、如何に最大の戦果を挙げるか。 その為には、悪魔にさえ魂を売って然るべき者達だ。

「が・・・今の現状ではの。 所詮、主導権争いに敗れた者の遠吠えじゃな」

「・・・が、その実、伏せて噛みつく機会を伺っておられた」

現在の日本帝国内は、『長期持久論者』が主導権を握っていた。 だがここで問題が発生する。 国防力とはすなわち、国家の地力である。 
例えば正面戦力のみ、最新鋭の兵器で武装しても、その支援体制を国内で樹立できねば意味が無い。 戦争とはすなわち、大量の物資の生産と流通・運用、そして消費の場である。
その為に『長期持久論者』達は国防のみならず、各産業界、国家行政、その他の分野をも視野に入れた『国家改造論』を、まず唱えることに変換し始めた。

これは各種産業を国家統制のもとに育成し、国家防衛計画に沿った結果を誘導する。 その為には質の良い労働力も必須となる。 彼らは農地改革、教育改革まで踏み込んだ。
現代においても日本帝国は、まだまだ前時代的な残滓が強く残る国であった。 1944年の『条件付き降伏』は、日本帝国の東アジア・東南アジアでの権益こそ奪い去った。

「だが、国内の統治体制には、全くと言っていいほど手が入っていないのだ。 その結果として、1867年の大政奉還以降、綿々と築き上げた日本帝国の形は残された・・・」

「今に至るも、帝国内には大地主と自小作農、と言う前時代的な形態が残っておりますな」

五摂家や貴族を筆頭とする身分制度は残り、産業は少数の大財閥が依然、かなりの独占状態を占めた。 大土地所有制度は残り、大地主と自小作農(完全な小作農ではない)が残った。
BETA本土侵攻直前の1997年度調査でも、小作地の割合は全国で25%が残るという結果だ。 つまり、日本全土の耕作地のうち、25%が少数大地主の土地だった。
(なお同じ立憲君主国である英国では、20世紀初頭で90%が、1960年代に入って50%が小作地であった。 BETAとの英本土防衛戦が始まった1986年で35%が小作地であった)

『長期持久論』を唱える者たちは、この事も問題とした。 良質な労働力とは、十分な高度の教育を受けた労働力を言う。 最低でも旧制中学、新制高等学校以上の教育をだ。
しかしながら1980年代前半、日本国内での大学進学率は約45%、その分母である高等学校進学率は約65% つまり35%は中等学校卒(旧制中学3年修了程度)の学歴である。
また教育界には依然として、『身分高きは、より高度な教育を』 逆に言えば庶民に高等教育はあえて必要なし、と言う風潮も1944年以前の通り残っていた。 身分制度の残滓だ。

「連中は、些か進歩的過ぎたのじゃよ・・・」

「後退よりは、マシと思われますが・・・」

対面の将官の酒杯に酒を注ぎながら、少佐が答えた。 その言葉に、将官は苦笑しながら言う。

「少佐、貴公は存じて居るか? ソ連での革命初期、『進歩的な』産業改革の結果、ウクライナでは数百万人とも言われる餓死者が出た事を?」

「・・・欧州派遣時代の同僚に、ウクライナ人がおりました。 彼らはレーニンを蛇蝎の如く、忌み嫌っておりましたな」

身分制度の形骸化(全廃化は内乱の危険性すらあった)、農地法の改正、労働法の改正と財閥法の改正。 『長期持久論者』の論は軍事の範疇を超えた。 まさしく革命的だった。

「・・・閣下らは、そこに目をつけられた」

「流れとしては、当然じゃな。 相手の弱みを突く。 軍事でも同様じゃ。 正面から正々堂々と? お伽噺の題材には、良かろうて・・・」

そこでひとつの警告が発せられる。 それは『長期持久論は、政威大将軍の統帥権代行権、更には皇帝陛下の統帥権をも、犯すものではないのか?』と言う問題だった。
確かに国家の一組織たる軍部、その高官といえども課せられた職責は、国防(この場合は純粋に軍事面)のみ。 国家行政は彼らの職責に非ず。

この事は当時、『統帥権干犯問題』として、日本国内を大いに騒がせた。 

その為に『長期持久論者』達は時の野党、そして在野の憲法学者や思想界からも、その超越した介入論が批判を浴びた。
当然ながらそこには、思想や政治のみならず、日本人の無意識も濃厚に絡み合っている。 『前例続行』、それこそが日本人と言う民族の、ひとつの習性なのだ。

「この国は・・・まだ、次の段階に進むには、成熟しておらんのだよ」

そしてその対極を張ったのが、『短期決戦論者』であった。 彼らもまた、日本国内の各種矛盾や非合理的・前時代的社会構造を理解していた。 
各種産業界の、財閥独占による発展の阻害。 既に世界5位の経済大国と化した日本帝国とは言え、その頃にはすでに成長は頭打ちになっていたのだ。
かの英国でさえ、本土にBETAを迎え撃っての激戦(バトル・オブ・ブリテン)で著しく疲弊した結果、『日本が上がったのでなく、英国が滑り落ちた』為に世界9位となったのだ。

『―――日本は長期持久に耐えられない。 特に東アジアの『兵站基地』足り得る基礎体力は未だ無い』

当時の経済学者の言である。 それを『長期持久論者』も、『短期決戦論者』も、双方正しく理解していた。 その理解をどう解決するかの手法が異なったのだ。
そしてそれが一朝一夕で改革され得ぬと、『短期決戦論者』達は考えていた。 当時の『短期決戦論者』であった、陸軍参謀本部次長を務めたある陸軍中将は、こう言った。

『日本人は外部からの高圧によらぬ、自らの出血を覚悟しての改革に、未だ耐えられぬ』

「・・・当てが外れた、と言えば、中共の連中じゃな」

「半島もですが?」

「連中は、我が国以上に持久に不向き・・・否、不可能じゃったよ」

その流れが変わり始めたのが、1990年代半ばから後半だった。 中国の完全陥落(華南と福建の両橋頭堡は、辛うじて維持したが)と、朝鮮半島での戦況悪化であった。
BETAは中国大陸のほぼ全てを飲み込み、東南アジア方面への圧力も日に日に高まりつつあった。 そしてついにBETA群が中韓国境の長白山脈、蓋馬高原を突破した。

当時の日本帝国軍は、長年に渡り大陸派遣軍を派兵し、その戦争経験を積んではいた。 だが国内の防衛体制については、各産業―――生産力の海外移転は完全でなかった。
その結果、1998年のBETA本土侵攻。 その後に続く『3600万人の死の夏』と、西日本経済圏の完全崩壊。 その傷は中部・東海や関東経済圏にも深刻な傷を残す。

『遅すぎた決断』―――当時の内務省高官の言である。 全面戒厳令の布告と、全面国家統制令の布告とその実施。 BETAの侵攻は『短期決戦』では阻止しえなかったのだ。
以後、日本帝国は『長期持久論者』が『国家統制論者』に『ランクアップして』、全体主義国家もかくやと言う国家統制政治を驀進する事となる。

「アラスカに逃れたソ連共産党の連中も、さぞや驚いておる事だろう。 自分たち以上の全体主義国家が、自分たちの対立陣営に現れたのだからのう・・・」

「・・・米国とて、国家統制と言論統制については、実のところソ連共産党や、昔のナチス・ドイツに負けず劣らず・・・FBIは世界最大の、国内弾圧組織の一面を持ちます」

「我が国の国風には、向くまいて。 だからこそよ、儂が動いたのは・・・」

だが『短期家戦論者』もそのまま引き下がった訳ではない。 動き始めたのは1999年の秋以降、すなわち『明星作戦』終結の後だ。
彼らは彼らで、既に既出の『統帥権干犯論』に揺れる軍部、その中堅・若手将校団の一部を引き込む事に成功していた。 
前時代的社会構造の残滓、とも言われる、『五摂家崇拝』によってだ。 薄れたとはいえ、創軍時から日露戦争の頃までの『五摂家による徴兵体制=陸軍私兵体制』の残滓と言えよう。 

―――『我らが殿様』の空気は、驚くことに1990年代に入っても残っていた。

教育法改正から10年余、特に若手将校団にその傾向が強かった。 彼らは10代初めから半ばの頃から、改正された教育法に則った教育を受けた世代だ。
そしてその結果として、一部の前時代的な残滓を強調した教育を受けた若者達は、『皇帝陛下と将軍殿下』に無私の忠節を尽くす事こそが、国軍の、軍人の務めであると意識した。 
そんな彼らにとって『統制派』とはまさに『君側の奸』 その動きを押し留め様ともせず、ましてや一部促進する政治姿勢の現政権も『君側の奸』であった。

更には国内の難民情勢が、彼ら若い将校団の過激性に拍車をかけた。 難民予算は増額されず、一部によっては削減される始末(その分は国防予算・産業育成予算に上積みされた)
国土にBETAの侵略を許し、数千万の同胞を死に至らしめた拙い国家指導と国防戦略。 その責任を負わず、未だ権力の座にのうのうと居座る権力の亡者たち―――そう映った。

「故に・・・閣下ら『短期決戦論者』は、その衣を『皇道派』に着替え、中堅・若手将校団の一部を取り込んだ。 彼らが激昂する『G弾の使用』については、口をつぐんだままで」

「弾劾するかの? 少佐?」

「そこらの青道心(若者、未熟者の意)では、無いつもりですが」

一部の青年将校団に横溢している『統帥権干犯』と言う意識。 それは純粋さと無知とが合わさり、入り混じり、既に暴発の半歩手前である。
皇道派の高官たちは、敢て青年将校団の主張に理解を示す態度を取る事で、若い彼らの支持を得ていた。 クーデター後の主導権を握る事を目的として。
そして皇道派は青年将校団とは逆に、既得特権の喪失を恐れる一部の貴族層(特に武家貴族)や、一部の大財閥に地主層と言う『世論』の一部を取り込む事にも成功している。

『皇道派』は、彼らは彼らで、本土のすぐ横腹(佐渡島・H21=甲21号目標)の存在を軽視している訳ではない。 むしろその脅威を誰よりも脅威と感じているのだ。
故に彼らは焦っていた。 通常の戦術作戦でハイヴ攻略が可能なのか? 情報が欲しい、戦略・戦術を立てるための情報が。 特にハイヴの地下茎情報を。

「だからよ。 故に儂らは『2本立ての保険』を掛けた」

ひとつは『G弾による甲21号目標の破壊と攻略』 もうひとつは『第4計画接収による、ハイヴ情報の取得』である。
皇道派とて、帝国軍部の高官が参加している。 日本帝国が誘致し、推進している『オルタネイティヴ第4計画』、その詳細のかなりの部分まで把握する手段があるのだ。
それ故に、『安保マフィア』経由での、米国内の一部勢力から打診された謀略にも1枚噛んだ。 CIA極東支部の活動にも、その制約を一部解除する事すら、働きかけた。

「ワシントンのホワイトハウス・・・そこの決定事項ではあるまいよ。 恐らくは米国産業界のタカ派、そしてそれに連なるCIAと米軍部タカ派・・・の一部。 そんな所だ」

帝国内が大きく2分した対立軸にあるのに対し、米国内も表向きは大別してAL4支持派とAL5支持派と言う対立軸がある、そう言われている。
が、本当のところは、そう簡単ではない。 AL4支持派でも、対日融和派と対日干渉派が。 AL5派にも即時強硬派と、対AL4連動派(AL4利用派)など・・・
合衆国の頭も、大小多数存在する。 その中の1派が、国内に有力な地盤を有する1派が、皇道派に接触した。 そして皇道派も『利害関係を計算した結果』、握手したのだ。

その結果として、より多くの関係を『安保マフィア』と繋がる事となる。 いや、今や彼ら『皇道派』こそが、『安保マフィア』の主流だった(統制派にも『安保マフィア』は居る)
日本帝国内の軍需産業、及び、その周辺につながる各種産業界や業界団体。 そして米国の同業者・・・日米に広がる巨大利権。 その利権は一部、国防予算にも流れていた。

「儂は、儂に今の地位と名誉と、そして財を与えてくれたこの国を―――日本帝国を、心底愛しておる。 儂は凡人だからのう、誰もが認める、な」

その言葉を鵜呑みにする程、少佐も単純ではない。 目の前の将官は、確かに凡人であろう。 かつての名将・名提督に比するまでもない。

「そして儂は勿論、聖人などでもない。 参謀本部時代から、軍人として・・・人として大っぴらに言えぬ様な事も、数多くやってきた。 
無論、私腹も肥やした。 今も肥やし続けておる。 安保マフィア・・・そう、『あれ』は皇道派、統制派を問わす、高級軍人・・・軍官僚が群がる蜜の味の宿主よ。
儂の収集癖のコレクションの中にはの、表に出せないものもある。 儂は世間で言われる通り、国と民に寄生している軍官僚でしかないのじゃろう・・・」

確かに軍需利権に群がり、そのお零れを貪る利権軍官僚。 それが目の前の将官に対する、軍内外の一般的な評価だった。
皇道派を名乗りながら、安保マフィアの一員として米国の利権業者とも繋がりがある。 同時に国防族議員との繋がりも強い。

「だがの、宿主があってこその寄生者である事は、弁えておるつもりじゃ。 馬鹿者は宿主を滅ぼして、己も滅ぶ・・・が、儂はそこまで愚かでないつもりだ」

「寄生、ですか・・・」

「のう、少佐。 寄生虫は気持ち悪い、悪玉・・・ふむ、一般的にはそうだ、そうだとも。 貴公の感覚は正しい。 およそ自然界では、様々な生命体が互いに関わりあって生きている。 
その中で『寄生』と呼ばれる関係は、宿主に有害な場合のみ。 つまり寄生虫が嫌いだという感覚は、宿主として当然であり、正常なのだ」

するとこの目の前の欲の亡者は、己が醜い寄生虫だと、正しく理解している訳だな―――少佐は腹の中でそう確信した。

「が、だからと言って、寄生虫を全否定することは出来ぬのだよ。 寄生虫は退化した怠惰な生物だという見方は、フェアではない。
寄生虫はこれでいて、高度に進化した生物なのだ。 そして寄生虫との戦いによって、宿主も進化してきた事は、まぎれもない生物学上の事実なのだよ」

ならば、帝国がこの男の様な『寄生虫』を戦いによって駆逐する事もまた、帝国自体の『進化』と言えるのか。 少佐がそう思ったとき、将官が絶妙のタイミングで言葉を吐いた。

「学者に言わせればの、『寄生虫こそ、進化の原動力』なのだそうだ」

―――笑える。 この世はすべからく、驚きと笑いに満ちているのだろう! ああ、そうだとも! まさに滅亡しかけんとしている、この国でさえ!

「ふむ? 話が逸れてしまったな。 つまりだ、儂は宿主が気付かぬ程度のお零れで十分。 それでも儂個人が潤うには、過ぎるほどだ。 
ソ連のノーメンクラツーラ。 台湾に逃れた中共の太子党、あの馬鹿者ほどではないわ。 彼奴らは国と民に寄生し、そして宿主を壊してしまいおった」

「・・・或は、摂家をすら凌ぐ財力。 そう見受けますが?」

「宿主が肥えれば肥えるほど、儂が得るお零れもまた、大きくなる。 宿主が安定すればするほど、儂の人生も豊かに安定する・・・故に儂の財は、帝国の財の大きさだ。
儂はこれを信念として生きてきた。 その信念に従い、軍務を務めてきた。 軍政・軍令のラインから外された後も、政治家どもや財界人との折衝を請け負った」

この将官は90年代半ば以降の郡内権力闘争に敗れたのち、軍事参議官と言う名の閑職に追いやられた。 だがその分、軍務より、政財界の要職と接する時間を得たのだった。

「予算を捥ぎ取り、必要な物資を調達する為の融通を、裏で調整し続けた。 確かに儂は戦場で大軍の指揮を執る事はなかった。
大陸でも半島でも、そして本土防衛戦でも。 政争が儂の戦争じゃったからな。 が、少なくとも前線で、弾薬不足や食糧不足を発生させた事は無かった・・・どうかね?」

「・・・米軍の様に湯水の如く、と言う訳ではありませんが。 それでも、弾薬切れでBETAに潰された部隊は、寡聞にして聞きませんな。 飢えで壊滅した部隊も」

大陸派遣日本帝国軍は少なくとも、己の食い扶持は、己で用意出来るほどには、兵站を充実させていたことは事実だった。 その根源となる生産・運用計画もだ。
BETAの数の暴力の前に抗しきれず、力戦空しく濁流の中に飲み込まれて壊滅していった部隊は数多い。 だが弾薬燃料、それに糧食が無くなり自滅した部隊は、実はほぼ居ない。

「この国は儂に、豊かな財を与えてくれた。 その財は儂の人生を豊かなものにした。 儂はもう60代じゃ、余生の長さを考えれば―――余生があればじゃが―――十分過ぎる。 
柄にもなくな、恩を返しても良い頃合いだ、そう思うのだ。 ましてやこの国は・・・人類全般がそうだが、死に過ぎた。 人も、国もな。 
宿主は今や瀕死の重傷患者だ。 そして、それを治せる名医も特効薬も、存在せん。 ならせめて、貯め込んだ財の分くらいは、汚れ役をやってもいいかもしれん、とな」

それだけ言うと、将官は酒杯をぐっと飲み干し、少佐に向かっていつになく鋭い視線で言った―――欲望交じりの。

「とまれ、現状では恩恵を受けた寄生者が出張るしか、手段はあるまいて。 宿主が滅びれば、寄生者も生きては行けんのだからな」

「そして、寄生者は宿主を乗っ取る、と?」

「まさか、まさか。 宿主を乗っ取ったとて、寄生者には宿主の役目は能わぬよ。 寄生者の役目はな、宿主を死なせず、如何にお零れを得て生きてゆくかだ。
少佐、貴公は童話など、読んだ事はあるかね? 儂は孫娘に読んで聞かせる機会があっての。 ほれ、『鏡の国のアリス』と言う作品があろう?」

―――この男から童話とは! しかも、『鏡の国のアリス』だと? 何と言う滑稽で、そして醜い組合せか!

「あの中でアリスは、赤の女王と走るが・・・前に進めぬ。 女王はアリスに言うのだよ。 『ここではね、同じ場所に留まる為にには、思いっきり走らなければならないの』とな」

「・・・『もっと早く! もっと早く!』・・・進化もこれと同じ、と言う事でしょうか?」

「ふむ・・・らしいのう。 同じ場所に留まるには、進化し続けねばならない。 走らねばそこには留まれず、やがて滅びてしまう。 
例えそれが、寄生虫との戦いであろうともじゃ。 いや・・・お互いに進化するために、戦い続けるのじゃろうな。 なればこそ、この国も内なる戦いをせねばなるまいて」

その将官は言う―――今更、幕藩体制の昔に戻れる訳も無し。 政威大将軍やら、五摂家やらは、無用の長物なのだと。 
彼らは同じ場所に留まる為に、走ろうともせぬ。 ただただ懐かしげに、過ぎ去った過去の光を、後ろに見ておるだけだと。

「いずれにしてもだ・・・この国の実権は、我々か統制派か、どちらかが握る。 でなくば早晩、帝国は崩壊する。 儂らは宿主を考える寄生者だが、武家どもは考えぬ寄生者だ。
それにな、少佐。 いったい、今、この日本で、どれ程の国民が将軍親政を望んでおるかな? 国民は願うのは、BETAに脅かされぬ暮らし。 そして十分な衣食住」

「つまりは、基本的な生存権」

「要は、上古の昔から民が為政者に求めてきたものだ。 彼らは将軍家、摂家であるから崇めたのではない。 内外の暴力からの安全と収入の確保、昔で言う『治水・法度・守護』
それを保証したからこそ、全国的に同一の保証を与えたからこそ、130年前に五摂家は天下を取れた。 幕府に代わってな。 が、今ではもう駄目だ。 その力など全く無い」

そこまで自認するか―――久我少佐は内心で、少し可笑しく思った。 確かにこの時世にあって、民を想う、民への慈悲・・・そんな為政者は、それだけで罪だ。
今はどれ程冷酷であろうが、非情であろうが、兎に角も『生き残れること』を為す為政者でなくてはならない。 でなければ、早々にBETAによって喰い滅ぼされてしまうだろう。

「生きるか、死ぬか。 滅ぼすか、滅ぼされるか。 我々も、統制派も・・・本来の意味での立憲君主国による、国家総力戦を目指す。 そこに摂家も斯衛も、存在する余地は無い」

「・・・だからですか。 ラングレーの息のかかった者を抱えた、ハワイからの招かれざる客を黙認したのは?」

「統制派も同じことよ。 最後の尻拭いは、暴発する若い連中と、それに米軍に拭かせる。 即時退場か、少しの時間をおいての退場か・・・ま、その程度の違いだ。
残念なことに、現政権・・・榊政権は、そこの辺りを正しく理解していなかった。 いや、違うか? 理解したつもりだった、と言う事か。
歴史を動かす者はな、非情に徹する者ではない。 非情が許される者だ。 若い連中も摂家も、そして現政権も・・・そこをはき違えておったのだよ」

軍部高官主導による、政威大将軍排除の謀略か。 ふん、畜生。 糞喰らえだ―――内心で面前の将官、軍事参議官・帝国陸軍大将・間崎勝次郎の顔を見ながら内心毒ついた。 

―――そして、自分自身にも。

自分はなぜ、こうして動いているのか? 物欲か? 金銭か? 違う、もうそんなものに関心が持てない。 出世欲? 名誉欲? 馬鹿な、ここまで墜ちて、出世も名誉もあるものか。
ふと、無意識に胸ポケットに手が行く。 そこに入れた小さなブローチ。 中に入っているのは・・・新婚当時の自分と、亡き妻の写真。

(―――最も救い難い愚か者は、俺なのだろう・・・)

「明日、仏暁だったな? 少佐」

その問いに、少佐―――帝国陸軍・久我直人少佐は、一瞬の間をおいて答えた。

「―――仏暁であります、閣下」

内心を押さえながら、久我少佐は一礼してその場を去った。

―――ならば、俺もやろうじゃないか。 最早、武人たらんと戦場で果てることは望まない。 もうその折り返し点はとうに過ぎた。 ポイント・オブ・ノーリターンは地平の彼方だ。





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