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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 前夜 2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:2441b9c2 前を表示する / 次を表示する
Date: 2013/06/23 23:39
2001年11月25日 1500 日本帝国 群馬県 帝国陸軍相馬原演習場


BETA侵攻によって廃墟と化した旧市街地をも演習場に取り込んだ事で、その円周状の広さは帝国内でも屈指となっている。
その演習場を複数の部隊が交錯していた。 互いに砲弾を浴びせかけ―――演習用の模擬弾だが―――互いに相手を包囲しようと、複雑で高速の機動を繰り返す。

「―――ゲイヴォルグ・ワンより『ハリー・ホーク』 そのまま北西へ誘いこめ。 『クリスタル』、北への迂回を阻止しろ。 『ドラゴン』は現地点で待機継続」

周防少佐は網膜スクリーンに展開されるCTP(共通戦術状況図)情報、そしてもう1段階上位システムであるCOP(共通作戦状況図:Common Operational Picture)を見比べた。

『―――ハリー・ホーク、ラジャ』

『クリスタル・リーダーです。 北の台地を迂回して、廃墟群の北方へ迂回中』

『ドラゴン・リーダー、了解です』

CTP情報は『Who(誰が)、What(何を)、 When(何時)、Where(何処で)』である。 対してCOPはそれを踏まえ『Who(誰が)、Why(何故)、So what(従ってどうするか)』だ。

(・・・敵第1部隊による、市街地北部での北方向への機動突破。 こちらの本隊を迂回包囲する為に・・・よって、これを北西部での罠で阻止した上で、一気に南下する)

第152戦術機甲大隊が隣接戦区で敵第2部隊を押さえ、第153戦術機甲大隊が大きく迂回機動を始めている。 相手の本隊を迂回機動で叩く、『後の先』の戦術を旅団は取った。

(・・・ここで、俺の大隊が敵第1部隊を殲滅、あるいは打撃を与えて片翼を形成する・・・典型的な突出部を挟みこんで叩く、包囲殲滅戦か・・・)

古典で言えば、『鶴翼の陣』とでも言うべきか。 勿論の事、使用する兵器も通信手段も、古代のそれからは大きく異なるが・・・洗浄心理と言うのは人間、古代から変わらない。
第2中隊が敵戦術機甲部隊に対し、付かず、離れずの距離で接敵しながら後退戦闘を繰り返していた。 戦術指揮で最も難しいとされる、だが第2中隊の練度ならやれると踏んだ。
第3中隊も敵部隊の北への突破を押し込みつつ、第2中隊方向へ誘導する様な戦術機動を行っている。 下手に踏み込み過ぎれば大火傷をする。 こちらも練度が無ければ無理だ。

だが時々無性に自分で、戦場に突っ込みたくなる誘惑に囚われる事が有る。 今では大人しく大隊指揮に専念する事がスタイルになりつつあるとは言え、元々は前衛上がりだ。
大隊指揮官の中にも、色々なスタイルの指揮官が居る。 多いのは己もまた、前線に乱戦の中に身を置くタイプの指揮官だ。 本土防衛軍第1軍や、斯衛部隊に多い。
次が予備隊と共に中衛的なポジションで、己も支援攻撃を行いつつ、大体全体の指揮を行うタイプの指揮官。 前線部隊の指揮官に多く、帝国軍中で最もこのタイプが多い。
最後に、大隊指揮小隊と共に最後尾、或いは予備隊と共に位置しつつ、大隊指揮に専念するタイプの指揮官。 己の機体の防御は、指揮小隊に委ねている。

周防少佐は、本来の気質から言えば最初のタイプの指揮官に思える。 或いは戦歴からの経験で、2番目のタイプの指揮官か。 とにかく、己も刃を交わすタイプだ。

「ハリー・ホーク、30秒後にエリアF7Sまで誘いこめ。 クリスタル、20秒後にF9Tまで移動しろ。 ドラゴン・・・」

実際は最後のタイプの指揮を、よく執る様になっている。 指揮小隊と共に予備隊のやや後方に位置し、全体を把握出来る位置から各中隊を動かす。
帝国軍内では『帷幕指揮官』などと呼ばれ、余り良い顔をされないスタイルの指揮方法なのだが・・・代わりに、『大隊長機が最初に突入、最後に離脱』は、必ず守る。

大陸派遣、欧州派遣、その後の大陸撤退戦、本土防衛戦に海外派兵・・・様々な戦歴から、大隊指揮官が緒戦の混戦で戦死し、その後の混乱で壊滅した部隊を数多く目にしてきた。
そこから出した結論は、『頭』―――指揮官は最後まで生き残るべき、だった。 小隊でさえ、小隊長が居るのといないとで、大きく違う。 部隊規模が大きければ、尚更の事だ。

『CPよりゲイヴォルグ・ワン。 エリアD7R、ポイントNW-91-132に友軍部隊展開完了しました。 コードは『レイン』 オーヴァー』

CPより第1中隊と連携を組む、友軍部隊の展開完了の報告が入る。 COPに友軍部隊の表示と行動が記されている。 その意図は旅団司令部の方針に合致していた。

「ハリー・ホーク、後退速度を少し落とせ・・・」

「クリスタル、次に一度、大きく突け。 ただし一撃離脱だ」

「ドラゴン、『レイン』の射界を確保しろ」

『戦場』の北西の外れ、台地上の地形の西端に指揮小隊を従えて、刻々と移る戦況を確認して微修正を加える。 その情報もまた、CTPにより各級部隊指揮官・司令部が共用する。
CTP(共通戦術状況図)情報で、敵部隊が針路を大きく北西に転じ始めた事を確認する。 第152大隊が担当戦区で攻勢をかけ始めた、第153大隊は迂回機動の最終段階だ。

『CPよりゲイヴォルグ・ワン。 旅団HQより『蓋を閉じよ』です』

「ゲイヴォルグ・ワン、了解した。 マム、5kmほど後退しろ」

『ゲイヴォルグ・マム、ラジャ』

レーダーからCP部隊を示すティルとローター機の輝点が、ゆっくりと遠ざかってゆく。 部隊同士の殴り合いの場に、管制部隊を置く馬鹿な指揮官は居ない―――そろそろだ。

「ゲイヴォルグ・ワンより各隊! 状況開始!」

『ラジャ』

『了解!』

『了解です』

北西の市街地跡―――廃墟の袋小路の手前で、第2中隊が南に転じて展開する。 同時に第3中隊は西に高速移動を開始。

『CPよりゲイヴォルグ・ワン! 敵部隊、高速機動! 接近中!』

「了解・・・連中は猪か。 罠を疑わないのか・・・?」

まあいい、予定通りだ。

「ゲイヴォルグ・ワンより『レイン』 お客さんは玄関に入った。 もう直ぐ客間に入る、宜しくお願いする」

『レイン・リーダーよりゲイヴォルグ・ワン。 せっかくの第1軍団からの演習派遣部隊・・・カモネギの上客だ、盛大におもてなししよう』

その言い草に、思わず苦笑する。 レーダーで敵部隊の輝点が高速で移動する。 廃墟群が切れる場所へ。 少しでも多くの機体が、戦闘機動を確保できる空間へ―――来た。

『レイン・リーダーよりカク、カク! 斉射・・・撃っ!』

廃墟の中や窪地に身を隠していた87式自走高射機関砲が2個中隊、一斉に90口径35mm対空砲KDAを2門ずつ、水平射撃で砲弾の弾幕を張る。
毎分発射速度550発の35mm×228弾は、SAPHEI-T(Semi-Armour Piercing High Explosive Incendiary)だ。 砲口1000m/sの砲弾は、戦術機の軽装甲など問題にしない。

30輌、60門の90口径35mm対空砲KDAから発射された35mm×228弾が、次々に敵部隊戦術機に着弾し、その装甲を貫徹する。 次々に爆発を起こして破壊される戦術機。
衛士達は何が起こったのか理解する時間を与えられぬまま、死んでいっただろう。 元々87式自走高射機関砲は、高速で飛行する航空機の迎撃用に開発されたのだから。

『シース・ファイア! シース・ファイア!』

レイン・リーダーが射撃止めを命じた。 その瞬間、今度は周防少佐が部下へ命じる。

「―――1機も残すな。 蹂躙しろ」

跳躍ユニットの片方を中破して、機動力が激減した敵部隊戦術機の1機に、無慈悲に01式近接制圧砲の57mm砲弾を10発以上叩き込み、爆発させながら周防少佐がそう宣言した。





演習後の講評会は、酷い物だった。

「・・・まともに接敵もせず、こそこそと策を弄し、揚げ句は帝国軍伝統の近接戦闘を軽視・・・否、否定するかの作戦などっ・・・!」

第2戦術機甲連隊から派遣された少佐が、憤っている。 周囲の人間は半ば以上、白けきった表情だった。 個人的な憤懣をここで言い放って、一体何の為になるのか?

「駒場少佐の言葉は、少々良い過ぎの感は有るが・・・我々はここに、部隊間の技量交流も兼ねて演習に来ている。 それが、全くこちらの土俵にすら上がらぬとは・・・?」

第1師団派遣の中佐参謀も、根っこは同じらしい。 第15師団側からは、もはや白けきった以上の、嫌悪感さえ漂い始めた。

「技量交流と言うからには・・・君らも、他部隊の方針を悪し様に言い放つのは、如何なものかな?」

第15師団第3部長(作戦・運用・訓練担当主任参謀)の三浦多聞中佐が、第1師団の同業者を見返し反論する。 部隊指揮官たちはもう、いい加減終わってくれと言わんばかりだ。
しかしながら、同じ帝国陸軍内でここまで認識が違うとは・・・特にその傾向が顕著な戦術機甲部隊指揮官達の間には、嫌悪さえ通り越した呆れが漂っている。

「我々は、緊急時の即応部隊だ。 国内外を問わず、事態に即応せねばならない。 そして事態を収束させるか、増援到着まで戦線を維持せねばならん。
その為には確実に、そして少しでも長く、戦闘力を維持する必要がある。 近接戦闘の有効性を否定する訳ではない、状況によっては我々もその選択肢を選ぶ。 だが・・・」

先任戦術機甲大隊長の荒巻中佐が、発言の後を継いだ。 それを第1として選択すれば、即応部隊・・・その戦術機甲部隊としての役目を果たす事が出来なくなる。
それ故に、第15師団は・・・いや、関西の即応部隊である第10師団も、この2個師団は特に機動砲戦戦術の技量を磨き上げ、工夫をし続けてきた。

だが帝都を護る、『帝都守護師団』としての意識が、変な方向に延びてしまったとしか言い様が無い今の第1師団にとっては、伝統無視の外国かぶれに映るのだろうか。
特にその部隊指揮方法を悪し様に言われた周防少佐と長門少佐などは、完全に第1師団派遣部隊を無視した格好で、後ろの方であくびを噛み殺しながら聞き流していた。

「個別の技量比べは、後日の小隊戦闘訓練か、単機毎の戦闘訓練で切磋琢磨すれば良かろう。 今回の演習趣旨は部隊指揮手法の研究会を兼ねる。
その場で端から、己の手法以外の指揮方法を頭から否定するなど・・・諸君は公務を一体どう考えているのか!?」

暫くは第1師団側と、第15師団側で不毛な嫌みの応酬が有った。 その結果として、講評は後日への持ち越し―――事実上、取り止めとなった。





「まったくな・・・あんなのが大隊長とはな。 同じ第1師団だ、久賀の奴も苦労しているだろうよ・・・」

演習場の片隅、本部棟から部隊指揮官級の宿舎までの道路。 並んで歩く長門少佐が、隣の周防少佐へ溜息交じりに言う。

「何なんだろうな、あの根拠のない近接戦優位論は・・・実戦に出てみれば、新米にだって判るもんだがな・・・」

周防少佐も溜息をつく。 第1師団の指揮官が、実戦経験が無いと言う訳では無かった。 その様な指揮官が、帝国陸軍の頭号師団の部隊長に任じられる筈が無い。
確かにその傾向は昔からあった。 周防少佐、長門少佐が未だ駆け出しの新米少尉だった、9年前の大陸派遣時代でも、既にその傾向は多少あったが・・・

「でもなぁ・・・少なくとも、昔の第1師団はもう少し何と言うか・・・頭が柔軟だったぜ? 早坂さん(故・早坂憲二郎准将)も、第1師団出身だったがよ・・・」

1998年の京都防衛戦に先立つ前哨戦、阪神防衛戦で戦死したかつての上官の名を、長門少佐が持ち出した。 確かに早坂中佐(当時)は、第1師団叩き上げ出身の衛士だった。
そして近接戦闘の名手だった。 周防少佐や長門少佐の世代では、恐らく3指に入る近接戦闘の名手・宇賀神緋色少佐(旧姓神楽)さえ、寄せ付けない程の。

「そんな早坂さんも、野戦では近接戦闘より機動砲戦を・・・と唱えていたっけな。 近接戦闘は、時と場所を選ぶとも」

「BETA共に囲まれた際の、最後の脱出手段。 あるいはハイヴ内戦闘での小型種排除手段・・・その位か? あの近接戦の名手でさえ、そう言っていた位だぜ?」

「実際、俺達はそうして来たしな。 そう教えられてきたし、そう経験して来た。 あの第1師団の・・・駒場少佐だったか? どう考えているんだか・・・」

プレブリーフィングの情報では、半島撤退戦と京都防衛戦を経験していると有った。 『明星作戦』には参加していない、九州方面の防衛部隊に居たらしい。

「・・・それが第1師団に転勤になって。 でもって、張り切り過ぎて、変に感化されちまったか?」

「今の第1師団の若手指揮官連中は、真っ先に近接戦闘を、部下に教え込むらしいし」

特に中隊長級や、古参小隊長級の将校にその傾向が顕著らしい。 実際に中隊単位での訓練は、大隊長は直接口を挟まない。 方針は中隊長が決定する。
大隊長が決定する事は、もっと上位の意志決定―――大隊の戦術行動に耐えうる、部隊練度の発揮と維持。 その中で近接戦闘技量や、砲戦技量向上の為の訓練計画を策定するが。

「日頃の訓練は、中隊長達の管轄だしな・・・」

第15師団でもそうだ。 が、この師団は中隊長や小隊長級の指揮官にも、機動砲戦優先主義が染みついている。 これまでの戦歴がそうさせた。

「おい、ちょっと待ってくれんか」

背後からの呼び掛けに、周防・長門両少佐が振り向くと、そこには今しがた話題にしていた第1師団の駒場少佐が居た。 内心で面倒だな、と周防少佐は思う。

「・・・何か? 駒場少佐」

「ああ、いや、その・・・うん、さっきは少し感情的過ぎた、すまない」

ん?―――周防少佐と長門少佐が、顔を見合す。 そして徐に駒場少佐を見れば、彼はバツが悪そうな表情をしていた。

「どうにも、普段の癖でな・・・いや、俺も機動砲戦を否定している訳じゃないんだ。 無いんだが・・・」

駒場少佐の歯切れの悪い事がを要約すれば、普段から部下達の突き上げ(に似た意見具申)で、知らず知らずに近接戦闘優位主義になっていた様だ、と言う。

「俺もな・・・昔は半島や京都防衛戦じゃ、どちらかと言うと機動砲戦主体で戦ってきたんだ。 その後に配属された九州の部隊でもね。
鉄原ハイヴから対馬海峡を渡って散発的に上陸して来るからな、向うのBETA共は。 それがこの春だ、転勤で第1師団に配属になってな・・・」

九州の最前線の防衛師団から、帝国陸軍の頭号師団へ。 陸軍の野戦将校ならば、本来は身に震えが来るほどの栄転配属だ。
だがそこで待っていたのは、駒場少佐が想像もしなかった程の国粋主義に凝り固まった中堅以下の部下達と、それを見て見ぬ振りをする保身に走った同僚や上官たちだった。

「何て言うのかな・・・国粋主義と近接戦闘優位論が、どう繋がるのか・・・俺も未だはっきり判らんのだがな。 とにかく、目が逝っちまっているんだ、俺の部下達は・・・」

「・・・それでもな、そんな部下達を諌めるのも、アンタの仕事だろうがよ・・・」

長門少佐が呆れ顔でそう言う、周防少佐も無言で頷いた。 そんな両少佐の言葉と表情に、駒場少佐が益々バツの悪い表情をする。

「いやな・・・俺もそう思った、そう考えた。 そうすべきだと判断した。 でもな・・・訓練や演習で散々、近接戦闘で負けてばかりの大隊長の言葉を、まともに聞く連中が・・・」

「負けてばかり?」

周防少佐が訝しげに言う。 資料の情報が正しければ、目の前にいる少佐は半島の撤退戦と京都防衛戦を戦い抜いて生き残り、そしてその後の九州の防衛戦指揮もこなしてきた。
年の頃は30前後だろうか、士官学校の出身者だそうだから、卒業時期は周防少佐や長門少佐と同じ頃の筈だ。 つまり、既に9年前後の軍務経験を有する、中堅の域に入った少佐。

「負けてばかり、って・・・アンタの部下達ってのは、それほど凄腕揃いな訳か?」

帝都守護を自任する第1師団の面々が、自分達をして『精鋭』と自称している事は知っていた。 その度に周防少佐達は内心で、苦笑していたのだが。

「いや・・・俺の部下で、俺より技量の高い者は居ない。 近接戦でも俺は大隊の面々に勝てる程度の腕は有る。 これでも半島帰りだ・・・」

そこまで行って、駒場少佐は少し忌々しそうな表情を見せてから、呻く様に言った。

「第1連隊・・・第1大隊の沙霧大尉。 近接戦の鬼だ、あいつは・・・」

沙霧尚哉大尉、第1師団きっての近接戦闘の名手。 周防少佐も知った人物だが、それほど詳細には知らない。 確かに遼東半島の撤退戦では、近接戦が上手い奴だと感じたが。

そして・・・

「日頃から、国粋主義に被れた若い連中が、あいつを慕っている。 その影響かもしれん、1師団で近接戦闘優位論が蔓延し始めたのは。 
もうな、あいつの相手は、3連隊の久賀少佐くらいだ、出来るのは・・・俺も機動砲戦じゃ負ける気はしないが、近接戦だともうダメだ。 お陰で部下の支持はガタ落ちさ・・・」

思わぬ所で友人の名が出た事に、周防少佐と長門少佐がまた、顔を見合す。 そう言えば第1師団だ、彼らの共通の友人の所属部隊は・・・

「んん・・・ところで駒場少佐。 さっき、国粋主義云々って話が出てきたが・・・第1師団は皆がそうなのか?」

周防少佐がなんとなく、カマをかける。 長門少佐はそんな友人の様子に、何か言いたげだったが無言だった。

「ん? ああ、いや・・・騒いでいるのは、もっぱら尉官連中が多い。 佐官にも居ない事はないが・・・あれほど狂信的じゃない。
いや、俺だって九州出身だ。 生き残った親族は、未だ難民キャンプ暮らしだ。 政府に言いたい事の10や20は有るさ。 でもな、それはまず、前提を除いてからだろう?」

悔しそうな口調で、絞り出すように言う駒場少佐。 彼もまた国内に置かれた難民の現状に憤りを感じている一人だ。 親族がその中に居れば尚更の事。
が、同時に彼は、軍の中堅幹部に属する1人だった。 国が置かれた現状、軍の現実、どちらも冷静に見る事が出来る、またその様に求められる地位と階級に居る者の1人だった。

「難民政策を最優先させても、佐渡島からBETAを追い出せないし、ハイヴを叩き潰す事も能わない。 大を生かす為に、小を切り捨てる・・・って言葉は嫌いだが。
だが今の日本は、そんな個人の感情を優先できる状況じゃないって事位、判っているさ。 3600万人も死なせたんだ。 ここで10万人、20万人が加わっても、って事ぐらいな」

もっとも、その中に俺の妻や子が入るのは、我慢出来ないがな―――それは周防少佐や長門少佐も抱く、個人的な感情だった。 あくまで個人的な感情。

「若い連中は、どうもそれを混同しがちだ・・・そう思えて仕方が無い。 俺も苦言しているけどな、支持されない大隊長の虚しさってヤツでな・・・」

第1師団の大隊長クラスで、駒場少佐と同じ境遇にある指揮官は少なくない―――いや、一部を除けば大方がそうだと言う。

「東部軍(東部軍管区、第1師団が所属する関東方面軍管区)参謀長の田中中将や、第1軍司令官の寺倉大将も、国粋主義に許容的だから・・・やり辛いよ」

最後の方は愚痴になったが、決して頑迷な人物ではないと言う事を示して、駒場少佐はその場を去って行った。

「・・・おい、直衛。 話が有る」

駒場少佐の後ろ姿を見ながら、長門少佐が幾分の迫力を込めた口調で、周防少佐に言う。 言われた側は苦虫を潰したような渋い表情だ。

「・・・ここじゃ、聞けない。 基地に帰ってからにしてくれ」

「・・・よし。 逃げるなよ?」

どうせ、逃がす気も無いくせに―――周防少佐は益々、苦虫を潰したような表情になってしまった。










2001年11月26日 1830 日本帝国 帝都・東京 市ヶ谷 国防省ビル


「ん? んん? あれは・・・おい、久賀! 久賀少佐!」

「え? あら、本当に。 久賀君、お久しぶり。 今日はどうして市ヶ谷に?」

広大な駐車場で、所用を終えて基地に戻る為に公用車に乗り込もうとしていたら、不意に呼びとめられた。 声の先に2人の人影が有った。
その光景に少しだけ絶句したのは許されるだろう。 久賀直人少佐にとって、彼女達は昔の上官であり、先任将校なのだから。

「・・・藤田大佐、綾森さん。 ご無沙汰しております。 ああ・・・今日は人事局へ野暮用でして」

濃緑色の帝国陸軍軍装に身を固めた久賀直人少佐が、目の前で微笑んでいる藤田直美大佐と、綾森祥子少佐(軍内では旧姓を使用)に敬礼する。
彼女達は軽く黙礼をしただけで、まとわりついている幼子・・・綾森少佐は2人の幼児をあやしていた。 その姿に何とも言えぬ寂寥感を抱いてしまう。

「お子さんですか?」

「ああ、もう6歳になった。 来春には小学校だ、早いモノだな」

そう言って藤田大佐は、母親の陰に隠れる少女の頭を優しく触って、『ほら、ご挨拶は?』と諭す。

「・・・藤田、加奈です」

大佐の娘は母親似なのだろう。 まだ人見知りするのか、母親の軍服のスカートを握りながらも、恐る恐る挨拶する。 その様子に破顔する久賀少佐。

「はじめまして。 お兄さんは久賀・・・久賀直人。 お母さんの・・・お友達だよ」

上官・部下、戦友・・・まだ6歳の幼女には、難しいだろう。 しゃがみ込んで視線を同じ高さにして、挨拶がてらそっと彼女の頭を撫でる。

「綾森さん、その子たちが・・・?」

「ええ、この子が息子の直嗣で、ベビーカーの中でお眠なのが、娘の祥愛よ」

母親に抱かれた、恐らく1歳を過ぎた程度の幼児が、久賀少佐を不思議そうな表情で見つめている。 ふと、父親の面影が濃い子だな、と思った。

「・・・あいつも父親ですか。 こうして会って、初めて実感しましたが・・・想像付きませんね」

「ふふ・・・小さな子供が2人と、大きな子供が1人、居る様な感じかしら? お隣さんも、似た様な感じね」

「あはは・・・周防家も長門家も結局、旦那は嫁の尻に敷かれているな」

「まあ!? 大佐、変な事言わないで下さい」

初冬の暗闇が迫る時間帯。 彼女達は勤務を終えて帰宅する所なのだろう。 近くに軍の託児所が有る、保育園や幼稚園も。
そうか、そう言えばこの2人はもう、完全に戦術機を降りたのだったな・・・藤田大佐は軍中枢のエリート組故に。 綾森少佐は戦傷の後遺症故に。

その後の少しの時間、一体何を話したのか、はっきり覚えていない。 その代わりに時々、彼女達の姿が亡き妻の姿に置き換わり、内心で酷く動揺した事だけは覚えていた。
もし、妻が生きていて、自分達の間にも子が生まれていたら・・・その子が成長した未来が有ったなら・・・久賀少佐は被りを振って、その思いを振り払う。

「・・・久々で、積もる話もあるのですが。 今夜は基地で会議がありまして・・・」

嘘だ。 基地では無い。

「む? そうか・・・いや、呼び止めてすまなかった、久賀。 また時折でも、顔を見せに来い」

「それじゃ、ね。 今度、家に来て。 主人も喜ぶし・・・お隣さん、愛姫ちゃんや圭介さんも喜ぶわ」

「そう・・・ですね。 特に伊達とは、随分会って居ませんし・・・」

長門圭介少佐、そして長門少佐夫人の伊達愛姫少佐、2人とも訓練校同期の、古い戦友だ。 そして綾森少佐の夫の、周防直衛少佐。
周防少佐と長門少佐とは、欧州に左遷された時に、共に支え合った親友だった。 生きて母国に戻れるか、全く希望が持てなかったあの頃。
あの苦しい時期を、若い3人の将校達で励まし合い、支え合い、時に衝突しあって、何とか生き抜いて日本へ帰国出来たのだ。

久賀少佐はじっと、綾森少佐を見ていた。 そしてその子供達を。

「ん? どうしたの、久賀君?」

「・・・いえ。 そうですね、近いうちにお邪魔しますよ」

それだけ言って、目礼だけして公用車に乗り込んだ。 発射した車内から、バックミラー越しに彼女達とその子供達が見えた―――パーツは埋まらない。










2001年11月26日 2100 日本帝国 千葉県 帝国陸軍松戸基地


戦術機甲部隊が良く使う小会議室に、数人の佐官達が集まって難しい顔をしている。 第15師団の各戦術機甲大隊長達が集合していたのだった。

「どうしても・・・か?」

ふぅ、と溜息をつきながら、相手を見据えたのは、最先任大隊長の荒蒔芳次中佐。 師団内での実質的な戦術機甲部門担当G3(作戦参謀)で、全体を統括する立場だ。

「どうしても。 これ以上、部隊内の動揺と緩みを押さえたければ。 訓練も練度が上がりません」

対象的に厳しい表情でそう言うのは、戦術機甲部隊No.3の序列に居る第152戦術機甲大隊長の長門圭介少佐。 特に戦術機甲部隊の訓練計画を担っている人物だった。
長門少佐は荒蒔中佐にそう一言答えてから、同時に中佐の傍らの人物に視線を移す。 周防直衛少佐―――戦術機甲部隊の作戦計画を担う人物であり、長門少佐の親友でも有る。

「無論、作戦担当主幹にも、その辺は話して頂きたいが」

「・・・」

長門少佐は少し語気荒く。 周防少佐は無言で顔を逸らす。

「やむを得ん・・・か」

「中佐?」

「判っている筈だ、周防少佐。 このままでは、戦術機甲部隊全体の足並みが乱れかねん。 少なくとも我々、部隊長級の指揮官団の意志統一は必要だろう」

荒巻中佐の言葉に、周防少佐が無言で、渋々ながら了解する。 彼らとて、いざと言う時に各部隊指揮官間での意見衝突は避けたいのだ。

荒巻中佐が概要を説明する。 上位意志決定は本土防衛軍副司令官。 恐らく本防軍の主流であろう事。 陸・海・航空宇宙の3軍全てが関与している事。
『監視対象』は陸軍第1師団を含めた、第1軍団所属のいくつかの部隊や、国防省直轄の複数の部隊。 その中には『富士教』も対象に入っている。

「・・・『監視対象』に対する制圧任務は、第1派は全て中即軍(帝国軍中央即応軍)だ。 朝霞の中即団(CRF)、航空宇宙軍からは百里の第5輸送航空隊。
それに我々緊急展開軍団第15師団・・・海軍からも第4艦隊と、それに第5陸戦任務群が加わる。 緊急即応・強襲上陸作戦の専門部隊だ」

海軍第5陸戦任務群は、戦術機甲連隊規模の戦術機戦力を保有する。 第4艦隊の第7航戦も、2個戦術機甲大隊規模の艦載戦術機部隊を運用していた。
そして第15師団は6個戦術機甲大隊・・・2個戦術機甲連隊相当の戦力を保有している。 帝都防衛第1師団に匹敵する、或いはやや上回る戦力になる。

「・・・中即団の1挺団(第1挺身戦術機甲団)は?」

第155戦術機甲大隊長・佐野慎吾少佐が小声で聞いた。 知らず知らずに、皆の声が小さくなっている。

「・・・アレを動かすには、法的根拠が流石に融通を付けられん様だ。 なにせ形の上では、首相直属の特殊任務部隊だしな」

中央即応団の第1挺身戦術機甲団(旅団規模)は、形式的に首相直属の特殊作戦任務部隊であり、本土防衛軍司令部のラインに繋がっていない―――形式的には。

「それにあの部隊は『佐渡島』用に、帝国が供出する軌道降下部隊だ。 消耗させる訳にはいかない―――諸外国と国連への対応上な。 今は北海道で『訓練中』だ・・・」

もはや、誰もそんな事を信じる純粋な者は居なかった。 1挺団は餌だ。 首相の廻りから、有力な特殊作戦部隊・・・それも旅団規模の部隊が遠く北海道に離れた。

「・・・第1派と言う事は、第2派の制圧部隊もあるのでしょうか?」

第154戦術機甲大隊長・間宮怜少佐が、周防少佐を見て問うた。 間宮少佐は少尉時代、周防少佐―――当時古参少尉―――の下に居た事がある間柄だった。

「そこまで詳細な情報は、与えられていない。 だが・・・関東近辺の部隊配置、防衛線の状況を考えると・・・」

新潟防衛戦が終わった後、そのまま宇都宮の基地へ帰還せず、立川基地に居候しながら合同訓練を行っている第14師団。 第1師団とは何かと折り合いの悪い、江戸川の第3師団。
あとは横須賀の海軍第3陸戦旅団。 他にも西関東の第4軍団と北関東の第7軍からそれぞれ、あと各1個師団程度は抽出可能だろう。

「第4軍団は第1軍内部で第1軍団と、差をつけられている不満がある。 第7軍の嶋田大将は穏健中立派だが・・・暴挙を見逃す程、枯れた方では無い」

「むしろ、その下の第18軍団長の福田中将が、軍団全部で総出撃しかねない、そうなったら・・・」

「禁衛師団は・・・止めておこう、皇城には一歩も入れないだろう、あの部隊が居る限り」

他にも、関東周辺の独立旅団がいくつか。 その中にはもしかすると、『向う側』に着く部隊もあるかもしれないが・・・

「じゃあ・・・『向う』は第1師団を入れて、およそ2個師団相当・・・そう考えていいのですか? 周防さん」

第156戦術機甲大隊長・有馬奈緒少佐が周防少佐に聞く。 第15師団の戦術機甲大隊長達は、この6人で全てだ。 有馬少佐の問いに、周防少佐が無言で頷いた。
2個師団相当・・・帝都で事を起こすには、充分過ぎる程の大兵力だ。 奇襲が成功すれば、首相官邸を含む中央官衙は、1時間以内に完全制圧されてしまうだろう。

「逆にこっちは・・・初動で我が師団と中即団と・・・海軍の陸戦団とで、約2個師団相当。 『向う』と同等戦力。 これで綱引きに持っていって、第2派の制圧戦力で制圧?」

「どのくらいの時間を要するか、それによるわ。 多くの民間人の居る帝都で、制限される戦闘を強いられるとなれば・・・」

「他に何か状況は? 荒巻中佐、周防さん・・・」

後任者3人(佐野少佐、間宮少佐、有馬少佐の3名は、周防・長門両少佐より卒業期が半期後だ)が、荒巻中佐と周防少佐に問うた。 だが2人とも首を振る。

「我々も、これ以上の詳細を聞かされていない。 実質的に・・・何も知らないのと同じなんだよ、佐野君」

「周防さん・・・それで、皇軍相撃つ、の覚悟をしろと?」

「こちらから、事を起こす事はない・・・はずだよ。 必要なのは、『向う』が事を起こした時に、我々の内部で意志の齟齬が無い様にする為だ。 
君は・・・トリガーを引けるか? 命令を下せるか? 同じ軍旗の下で、同じ敵を相手に戦ってきた、同じ軍の部隊相手に」

「・・・馬鹿にせんで下さい、周防さん。 同じ軍旗の下で、同じ敵を相手に戦ってきた、同じ軍の部隊だからこそ・・・そんな馬鹿な真似をする連中には、容赦出来ません」

怒気を含んだ佐野少佐の言葉。 見れば間宮少佐も有馬少佐も、同じ様な表情をしている―――これまで、何の為に命をかけて戦ってきたというのだ。
皇帝陛下と国家と、そして国民から託された武力を、己の主義主張を通す為に私用する事など、許される事では無い。 今まで死んでいった連中に、どう弁明する気なのだ。

周防少佐が視線に気付くと、長門少佐が苦笑しながらこちらを見ていた―――少なくとも、この連中は判っている。 判る程度には、世の理不尽を見てきた経験がある、と・・・

「・・・判っているだろうが、この事は諸君の胸中に留めておいてくれ。 部下達・・・中隊長クラスの者にも、他言は無用だ」

荒巻中佐が、重々しい声で面々を見回して言う。 部隊長だけの認識で留めろと、そう厳命している。

「連中を信用しない訳ではないが、何処から漏れるか判らない。 若い中尉・少尉連中にとっては、感情的にも抑え難いだろう」

自身も年若い少尉・中尉時代に、感情を抑制し切れたとは言い難い過去を持つ周防少佐が、改めて言う。

「誰が、何故、どんな理由で、事を望み、起こそうとするのか・・・それは判らない。 我々程度には、その情報は明かされないだろう。
だが諸君、今のこの時期に、帝都なのだ―――その様な事態になれば、阻止せねばならん。 例え皇軍相撃つの汚名を被ってでも。 この国が・・・崩れる」

一体誰がその様な擾乱を望み、画策し、引き起こそうとするのか。 そして明らかにその情報を察知している軍主流が、それを見逃すのか。
わざと発生させようとしている―――そう考える以外、他に選択が無い気がする。 実際にそうなのだろう、多分。 だがどうしてだ?
そこまでして・・・国と国民を守る為の軍を割ってまで、その様な擾乱を引き起こそうとする、その意図は一体何なのだ? 皇軍相撃つという醜態を晒してまで?

だが同時に、彼等は軍人だった。 それもまだ少年・少女の年の頃から訓練を受け、徹底的に軍人と言う鋳型の枠に嵌め込まれてきた軍人だった。
野戦将校の常として、そして海外派兵の経験者の常として、彼等はまだ柔軟な考え方をする事は出来る。 だが軍人なのだ。
国が崩れる―――愛する者達、守りたいもの、故郷の風景・・・残っている者は、その残る光景を。 残っていない者は、その記憶を。 その為には、国を崩す事は出来ない。

第1師団の面々―――若手将校達は、恐らく利用されているだけだろう。 朧げながら、そう思う。 ある意味で純粋すぎる彼らが、国に秘して事を成し遂げられるとは思えない。
中佐に少佐、軍の中堅幹部である佐官になると、将官程ではないにせよ、それなりの機密情報に接する事になる。 様々なピースを当て嵌めていけば、大まかな概要を想像出来た。

「随分と後味の悪い事ですね・・・」

「それでも・・・軍上層部の不興を買って、死地に送り込まれるより、マシだろう」

「はあ・・・こっちにも、こっちの都合がありますからね・・・」

人間は誰しも背景を持っている。 生まれ育ち、家族や恋人、知人友人・・・それらを簡単に振り切れるほど、人は勁くない。 その為には『長い物に巻かれる』
『人類の為』、『人類の勝利の為』・・・そんな言葉で行動してしまえる者は、背景を持たない、何の経験も持たない特異者か、或いは洗脳状態になっている者だけだ。
彼等は良くも悪くも軍人だった。 良い様に解釈すれば『良識派の軍人』とも言えた。 その寄って立つ物―――国家、そして軍。 それが崩れて、BETAを駆逐出来ない、そう考える。

「いいな・・・この場で話した事は、一切他言無用。 そして『事が発生』した際には、我々の意志は統一・・・阻止する為の行動を取る、いいな?」

「恐らく師団長や旅団長と言った上層部は、明確な命令を受けられていると思うが・・・確認はしない。 前提からして、確実だろうしな。
それと・・・他兵科の同僚たちにも、他言は無用だ。 もしかすれば彼等も、どこかから同様の命令を受けているかもしれないが・・・探りを単独で入れるなよ?」

荒巻中佐と周防少佐の念押しに、同僚達が頷いた。 それまで無言を貫いていた長門少佐が、ボソリと言った。

「・・・確信犯になるのは、俺達、部隊長までで十分だ。 部下にそれを押しつけられない」










2001年11月26日 2230 日本帝国 帝都郊外 某所


『―――もはや救い難し。 彼の者らには私が直に手を下す・・・!』

誰も居なくなったその部屋で、彼は独り天井を見つめながら、薄らと乾いた笑みを浮かべる。 先程までの熱に浮かされた会合が嘘の様に。

(・・・救い難し。 救い難いのは・・・どっちだ?)

自嘲する様に笑う。 同時に純粋培養された若い尉官達を思えば、些かの憐憫さえ覚えた。 それは己の偽悪の裏返しでもあった。

(・・・決行は12月5日未明。 それに先立ち、富士教が『演習』の輸送名目で厚木に入る・・・)

彼の率いる第1師団第3戦術機甲連隊第3大隊は、決起時には皇城の禁衛師団を牽制する役目を負っている。

(・・・同時に仙台臨時政府を樹立。 そこから戒厳司令部を発足させ・・・司令官は間崎大将。 はは、散々、若い連中を煽っておきながら・・・)

いざと言う時は、制圧する側に真っ先に変身するか―――もっとも、それは自分も同じだ。 第3大隊の裏の任務は、北から圧力をかけるだろう制圧部隊を誘導する事。
最後の最後で、決起部隊を裏切る事だ。 恐らく北や北西・北東からは彼が知る限りで最も実戦経験豊富な連中がそろった部隊・・・第14、第15師団が殺到するだろう。

(さて・・・連中は、どんな顔をするかな? さぞ、蛇蝎の如く罵られるだろうな・・・)

第14師団も第15師団も、昔の戦友が多い。 特に大隊長クラスの指揮官達は、彼が新任少尉時代から中尉時代まで、共に戦い、苦しみ、喜びあった戦友達だ。

(だがその前に・・・戒厳司令部は帝都近郊・・・出来れば帝都東部に入ろうとする筈だ。 勝負はその時か・・・)

昏い目で天井を見上げる。 その度に心のどこかで、欠けたパーツが有る事を自覚する。 もう取り戻せない。 だから・・・

(救い難い・・・どいつも、こいつも救い難い。 俺も救い難い・・・)

数時間前の情景が目に浮かぶ。 国家統制、派閥争い、日米再安保、政威大将軍、膨大な国内難民・・・救い難い。

(救いたいのは・・・救いたかったのは・・・)

昏い目で天井を見上げる。 結局はこの俺も、独り善がりの救い難い人間なんだ・・・日本帝国陸軍・久賀直人少佐は、ずっと天井を見つめ続けていた。








2001年11月26日 0650(日本時間26日2350時) 合衆国カリフォルニア州・合衆国戦略軍宇宙航空軍団司令部 エドワーズ宇宙軍基地


「・・・damn it(クソっ)!」

蒼穹の空を見上げながら、DIAの男―――ハインリッヒ・オスター中佐が忌々しげに吐き捨てた。 彼のここ数カ月の調査は、土壇場で水泡に帰したのだ。
部下に待たせてあった特殊な改造を施したワゴン車に戻る。 その中は充実した通信装備が所狭しと搭載されていた。 通信機の受話器を手に、相手と交信する。

「・・・イエス・サー。 連中は宇宙に上がりました、申し訳ありません、閣下・・・は・・・」

無線機の向うの上官の声は、平静と変わらなかった。 だがDIA内で『外套と短剣』の仕事を誰よりもよくこなす彼の上官が、その声色通りの甘い男でない事は知っていた。

「恐らく『目標地点』からの誘導が、行われるものかと。 射殺した1名は、軌道管制をステーションから行う役割だったようです。 残りは逃しました・・・宇宙です」

通信を切る。 最後の最後で、ベストに染みを作ってしまった。 後は・・・もう、彼の範疇では無かった。




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