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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 西部戦線 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/10/04 00:25
1998年7月7日 2355 気象庁情報

「―――台風8号情報。 中心気圧890hPa、瞬間最大風速120ノット(61.7m/s)、最大暴風域半径220nm(約407km)、平均速度24.7ノット。 
針路を北東に転じ、四国に上陸の見込み。 予想上陸地点、高知市。 なお、九州全域は暴風域より外れるも、強風域に留まる見込み」


1998年7月8日 0025 福岡県北九州市 第57師団

「おい、この震動波・・・!」

「間違いない、BETAの移動震動波だ! 推定数・・・ 1万! アラート発令!」

「若松半島にBETA群上陸! 推定数、約1万! 至急来援乞う!」


1998年7月8日 0035 長崎県松浦市 第39師団

「くそっ! 岩陰が邪魔で・・・!」

「撃て! 撃て! 市内に侵入させるな!」

「北松浦半島、松浦市沿岸にBETA群! 1万! 我の被害甚大! 増援乞う! 増援乞う!」


1998年7月8日 0045 福岡県博多市 第33師団

「戦車は!? 戦術機は!? 早く! 早く!」

「1中より大隊本管! もう幾らも保たない!」

「糸島半島にBETA群再上陸! 個体数1万以上! 博多市内への突破を阻止出来ない! 駄目だ、抜かれる!」


1998年7月8日 0055 佐賀県唐津市 第21師団

「畜生! 風に流されて射線が・・・!」

「駄目だ! 防げない!」

「唐津湾にBETA群、再上陸開始した! 推定1万! 光線級もいる、頭を上げられん! 砲撃支援を! 砲撃を頼む!」










1998年7月8日 0230 熊本県熊本市 西部軍集団司令部 作戦会議室


「北九州の第57師団、損失47%に増大!」

「博多市内、第12師団突入するも被害甚大! 戦力68%に減!」

「唐津湾防衛線、突破されました! 第21師団の損失、54%! 第34師団の損失、60%!」

「大宰府から第23師団、出撃しました! 斯衛第3聯隊戦闘団、帯同します!」

「松浦の第39師団司令部、応答有りません!」

「第3軍砲兵支援軍団より入電! 『風雨が激しく、制圧砲撃不可能!』です!」

「博多市西部の第33師団司令部、応答無し。 第33師団、応答無しです・・・!」

「第13軍団第25師団、伊万里市に急行中!」

「第3軍司令部より入電! 『第4軍の増援を乞う。 我、支えるを能わず』・・・!」


軍集団司令部内は最早パニック状態に陥っていた。
夜半、それも、超大型の台風が間もなく直撃しようかと言う状況下での、約4万ものBETA群の再上陸。
前線に張り付いていた第3軍で、無傷なのは3個師団のみ。 頼みの戦術機甲戦力の中核である第9、第12、第21師団は、多かれ少なかれ損害を受けていた。
そして悪夢のような、4か所同時上陸。 第1派上陸時の様に戦力を集中する事が出来ず、各所で1~2個師団づつの防衛を強いられてしまった。
それも、多くが手負いの状態の部隊が。 現時点で、2個師団から応答が無い。 恐らく師団本部までが陥落、全滅の憂き目にあったのであろう。

九州北部を担当する第3軍司令部からは、悲鳴のような増援要請が飛び込んで来ていた。

「・・・閣下、第4軍を北上させますか?」

参謀長が、暗に今手を打たなければ、手遅れになる、そう言外に滲ませて確認する。
先程までの会議では、強硬に戦略予備を北上させるよう進言してきたのが、この参謀長だった。

「しかし、参謀長、そうなってしまっては、九州中南部の避難民脱出拠点の確保がままなりません」

異を唱えるのは、作戦主任参謀だ。 彼の中では、九州北部防衛は既に破綻したと踏んでいた。
元々、迅速な部隊移動での、機動防御戦を想定していたのだ。 それが相次ぐ台風の影響で、根底から崩れ去った。

「第4軍はこのまま、中部防衛線に張り付けるべきです」

作戦主任参謀の言葉が続く。

「第3軍は第13軍を佐賀西部・長崎の防衛に。 第3軍団を北九州市の増援に回すべきです、関門海峡は守らねばなりません」

そうでなければ、九州防衛全体のバランスが崩れる。 そうしなければ、避難民脱出の為の拠点の維持が困難になる。

「関門海峡防衛は、第3軍団に。 今からでも遅くない、第12師団を博多から足抜けさせるべきです。
関門海峡の向こう側には、中部軍集団第2軍の第2師団と第10師団(共に第2軍団)が配備されています。
岩国には国連軍―――米第2戦術機甲師団と、大東亜連合派遣の統一中華軍が1個旅団、韓国軍1個戦術機甲旅団もいます」

合計、4個師団相当。 北九州の残存兵力をかき集めれば、2個師団は集まる筈だ。 そうなれば6個師団程の戦力になる。
それに山陰沖に展開中の海軍部隊からも、支援を当てに出来る筈だ。 戦術機部隊がこの悪天候で展開できずとも、戦艦の巨砲なら問題は少ないだろう。

「・・・」

「閣下、ご決断を」

「閣下!」

参謀長以下の幕僚が、それぞれ必死の形相で迫る。 が、未だ決断がつかない。
その時、通信士官が血相を変えて会議室へ飛び込んで来た。

「中部軍集団司令部より緊急電! 『本日0215、島根県出雲市海岸線に、BETA群上陸。 約3万8000』です!」

会議室が凍りついた。

「・・・釜山に集まっていたA群だ。 連中、海底を移動していやがったんだ・・・」

一瞬の静寂。 そして怒号がそれを打ち破った。

「第3軍司令部に通達! 現時点を以って博多=唐津の防衛を放棄! 第3軍団は北九州、第13軍団は長崎に至急移動させろ!」

軍集団司令官が大声で指示を出す。

「第4軍司令部には、中部防衛戦を固めさせろ!」

「はっ! 佐世保の海軍には!?」

「協力要請を出せ! 向うにも1個連隊規模の戦術機部隊が残っていた筈だ!」

「別府湾だ! 何としても防衛するんだ! 避難民が集中している!」

「博多!?―――済まん、放棄だ・・・!」

「第23師団を大宰府まで下がらせろ! 出来る限り、南下を喰い止めるんだ! 斯衛!? 使え! 使える者は何でも使え!」


戦況図を見直す。 北部九州は4ヵ所で同時上陸を喰らったお陰で、各戦線が分断された。
まず、第4軍の6個師団で大分=熊本のラインを防衛しなければならない。 そして第3軍の方割れ、第13軍団残余で佐賀西部と長崎を。
BETAが有明海に進出すれば、その後の捕捉が困難になる。 そして第3軍団は北九州、そして関門海峡を死守。
それ以外の土地は―――放棄するしかない。 土地も、人も。

「中部軍集団司令部より続報! 『第50師団(第12軍団、愛媛)、瀬戸内海を渡る』、『第7軍団(岡山)、出撃準備中!』、『第9軍団(大阪・兵庫)、西進』、以上です!」

中部軍集団が動いた。 指揮下の17個師団の内、11個師団を一斉に投入したのだ。
これで残る手持ちは、帝都防衛軍団である第1軍団の4個師団と、四国の第12軍団の内の2個師団のみ。

「・・・堪え切れるか?」

西部軍集団司令官の呟きは、とても小さく、周りの者には聞こえなかった。
だが、彼は恐れていた。 今まで上陸したBETA群は、A群、B群、D群の9万9000。
では、確認されていた残る鉄原ハイヴに到達していた筈のB群、4万はどこだ? それ以前に鉄原ハイヴ周辺に溢れていた、推定1万以上のBETA群は!?


「堪え切れるのか・・・?」

その呟きは、恐怖が滲んでいた。










7月8日 0310 博多市西部 第12師団


「撤退? 撤退だと!? 何処に撤退すると言うのだ!」

暗闇の中、赤外線探知モードの網膜スクリーンの視界の中から、妙に温度分布の均一な怪物が迫りくる。
要撃級の前腕の一撃をサイドステップで交わしつつ、側面を取った92式弐型の突撃砲から、36mm砲弾が吐き出される。
柔らかい横腹を瞬く間に蜂の巣にされた要撃級が、旋回途中の慣性のままに回転しつつ倒れ込む。

≪CPよりベア・リーダー! 師団命令です、北九州市へ即時移動、第57、第9師団と共に関門海峡を防衛せよ、との事です!≫

「ふざけるな! 我々がここで引いたら、未だ市内に残る100万以上の市民はどうなる!? BETAの餌だ! 退かんぞ!」

≪それでは、軍令違反になります! 戦場での命令違反は、即時銃殺になってしまいます!≫

―――銃殺でも何でもしろ! 今ここで無力な民間人を置き捨てて逃げ出す、後味の悪さに比べたら!

網膜スクリーンの中で、レティクルとピパーが合さった。 ロック・オン!
突撃砲から36mmの高初速砲弾が吐き出される。 腹に響く重低音と、射撃の反動が僅かに伝わってくる。 
5秒程の射撃で突撃級の片側前後2本の脚を吹き飛ばす。 片脚全てを吹き飛ばされた突撃級がバランスを崩して横転、その場でもがく様に止まる―――よし、次だ。

「兎に角だ! 実際問題として今ここを引いたら、一気に後方部隊まで突っ込まれるぞ! 寝言は寝てから言えと、師団本部に返してやれ!」

≪し、しかし! 既に第1、第3中隊共に徐々に後退を始めています! このままでは中隊の両翼が! BETA群の中に孤立する事に!≫

―――ちっ! 日和りやがって!

同じ大隊の同僚達に、内心で八つ当たりする。 中隊長である彼とて判っているのだ、このまま市内中心部への阻止は既に不可能である事は。
博多市の直ぐ西に突き出た糸島半島にBETAが再上陸した時、その方面には守備部隊が全く存在しなかった。
この方面の主力である第9師団は、博多市北東部の福津市に、同じく機甲打撃戦力である第12師団は、博多市内を挟んで反対の東に位置していた。

第1派との戦闘での損失が大きく、一時的に市内南部に下がっていた第33師団が最も早く動けたのは皮肉か。
最もそのお陰で、第33師団は第1派、第2派ともに初期阻止戦闘で真正面から、BETAの圧力を受けると言う羽目になってしまった。
現在、第33師団は、師団司令部ごと応答が無い。 レーダーの広域モードで見ると、司令部の有った市内西部外縁は既にBETAで赤く染まっていた。

今はやや市内西部に喰い込まれながらも、第12師団が全力で防衛戦闘を展開していた。 だが、全てを完全に防げている訳ではない、市南部への侵入を阻止出来ていない。
このままでは、BETA群に九州中央部への突破を許す事になってしまう。 博多市南部の大宰府には、第23師団と斯衛第3聯隊戦闘団が展開しているが・・・
挟撃して殲滅出来る程の戦力では無い、第12師団は相当数の戦力を喪っている、もう2、3個師団は投入しなければ。 


『こちら“サンダーボルト(大隊本部)、“ベア”、命令に従え!』

大隊長の声が飛び込んで来た。

「ベア・リーダーよりサンダーボルト! 我々の任務は、博多の防衛で有った筈です!」

倒壊したビルの陰から、戦車級の一群、約20体程。 数が少ない上に、随分と『開けた』場所となってしまっては、さほどの脅威に感じられない。
目標が僚機と被らないよう、確認しつつ可能な限り素早く、正確に射撃―――そろそろ、36mm砲弾も心細くなってきている。 予備はあと2本。
新手の突撃級が、もうそこまで迫って来ていた。 サーフェイシングで交わし、エレメント機と挟みこむように左右に展開して、120mm砲弾を叩きつける。

『任務内容は永劫ではないぞ! 貴様のやっている事は、個人的な感情に従っているだけだと、何故判らんのか!?
指揮官が、個人の感情に走ってどうするか! それで部下を死地に追い込む気か!』

「しかし! このままでは多くの市民が!」

『馬鹿者!―――最新情報だ、BETAが山陰地方に上陸した。 中部軍集団が全力阻止に当る予定だが・・・ 下関の第2軍団も、移動する事になるやもしれん。 
そうなったら最後、関門海峡は無力だ、BETAに押し渡られる! 北九州の第57師団は、すでに継戦が困難な程に叩かれている!』

「・・・第9師団は? 増援に向かった筈・・・」

『移動に何時間かかると思っている!? この悪天候だ、第9師団が向うに着く頃には、第57師団は存在せんかもしれん。 しかし防衛せねばならん。
第33師団は壊滅した、第57師団も悪戦苦闘だ。 我々第12師団と第9師団が向かわねば、関門海峡はBETAの草刈り場だ』

「第23師団は、どうするのです? ここで孤軍奮闘、全滅せよ、ですか!?」

『感情的になるな、23師団と斯衛部隊は、一時的に第13軍団指揮下に入る事が決定した。 大宰府から小郡市まで下がって、第8軍団の先鋒と合流する。 
判ったら、戻って来い!―――貴様の部隊、現在地は西区だな?』

「今宿、光菱電機の工場跡です。 85号線以北の今津湾沿岸は、BETAがひしめいています!」

『よし、そこからバイパスまで下がれ。 今宿新道沿いを福重JCTで南下、外環状道路を月隅JCTまで迂回、空港に入れ。
空港に陣取った砲兵旅団群が、最後の突撃破砕射撃を準備中だ、それまで外縁陣地を死守せねばならん。 
いいか、“ベア”? 我々の背後には、未だ1億以上の国民が居る事を忘れるなよ?』

「・・・了解」

通信はそこで切れた。 内心の葛藤は兎も角、大隊長の言葉にも『軍人として』頷ける所は有った。 後は、自分の中でどう折り合いをつけるかだ。
九州北部と、残る日本帝国の国土。 100万人と1億人。 少数と多数。

「ひとつ、軍人は忠節を尽くすを本分とすべし・・・」

中隊長の口から、知らず呟きが漏れた。

「忠節とは国に報ゆるの心也。 報国の心堅固にして国家を保護し国権を維持するは、是、聖上の御恩に報い、民平成に安んじる為也・・・」

本当に忠節を尽す事になるのだろうか? 本当に国民が平成に暮らしてゆけるのだろうか?
葛藤する内心を隠し、指揮下の中隊残存全機に命令する。 ここを離れ、撤退の為の―――いや、博多放棄の為の移動を行う事を。

「ひとつ、軍人は信義を重んずべし・・・」

まるで呪文の様に、唱える様に、問い続ける。

「されば信義を尽くさんと思わば、始めより其事の成し得るべきか、得からざるかをつまびらかに思考すべし・・・」

部下達から、撤退命令に対して意見の具申が相次ぐ。 それは先程まで、指揮官自身が大隊長に言った事と殆ど同じ内容だった。
そして、その事に対する答えは、指揮官自身が大隊長に言われた内容と、同じ内容で有ったのだ。

忠節とは何だ? 信義とは何だ? 国に、陛下に忠節を誓う事とは? 国民に対する信義とは? 内心で問い続ける。

「小節の信義を立てんとて大綱の順逆を誤り、或は公道の理非に践迷いて私情の信義を守り、あたら禍いに遭い身を滅ぼす・・・」

国家の興亡。 国民の生死。 己が忠節と信義。 その誓約と行為―――そして今ここに在る現実。

「屍の上の汚名を後の世まで残せる事、その例し、少なからぬものを深く戒め有るべき・・・」

―――畜生め。 汚名など、後の世など。 BETAに喰い尽されたら最後、そんなモノ、在る未来など考えられん・・・

それでも彼は軍人だった。 忠節を誓い、そしてその行いを国と民に誓約したのだ。

7機に減じた中隊各機が、サーフェイシングで公道上を高速移動を始めた。 まだ比較的背の高い建物が残っている、光線級の認識範囲から逃れる事も可能だ。
振り返れば、港湾地域に無数のBETAが侵入してきている。 いずれ喰い荒されれば、あの個体群は市内に侵入してくるであろう。
その時に惨状を思い浮かべて戦慄する。 一体軍とは、そして国家とは、何なのだろうか? 国民を護る為に、国民を切り捨てる軍と国家。
自分の行う事は、果たして己が誓約に従った事なのだろうか? 

「リーダーより各機、これより外環状道路沿いに空港まで急ぐぞ」

砲兵部隊が、最後の全力突撃破砕射撃を行うと言う。 恐らくはそれ以降は撤退支援の為の砲撃に変わる。
ある程度、BETAが『そこに居る』と想定しての無観測射撃、面を想定しての盲撃ち。 流れ弾は当然、逃げ遅れた市民の上にも降り注ぐ。

7機の92式弐型が疾走する。 まるで何かから逃げるかのように。













0335 大宰府 第23師団 師団本部


「馬鹿な! 今ここで博多を放棄せよと!? 国防軍は無辜の民、100万以上を・・・ いや、九州北部に点在する300万以上の民を見殺す所存か!?」

「今ここで決断せねば、九州全域に散らばる1000万以上の民間人が、BETAに喰い殺される可能性が高まるのだ。 国防軍としても、苦渋の決断である!」

「自らの備えの不備を、無辜の民の命に押し付けるとは、是如何に!?」

「何を言うか! では斯衛こそ一体何なのか!? この大宰府から、一歩も出られずにいる貴官らこそ!」

「我らを愚弄する気か!?」

「そちらこそ、全責任を国防軍に押し付ける腹だろうが!」

師団司令部の中で、師団先任参謀の陸軍大佐と、臨時に編入されている斯衛第3聯隊戦闘団長の斯衛大佐が、一触即発の状態で睨み合っている。
事の発端は博多放棄、そして大宰府より南下した小郡市までの撤退、そこで友軍と合流しての防御線の再構築。
その決定により、当初は博多方面への増援とされた第23師団が、反対の南へ『転進』する事になった決定で有る。

「我ら斯衛の任は、将軍殿下、そして摂家、更には皇家縁の地の警護! そしてこの国に生きる民の守護!
己が誓約と責務、その双方により、南への転進は承服しかねる!」

「貴官らは今現在、第23師団指揮下の部隊だ! その言は、戦場での命令不服従、ひいては敵前逃亡にもなるのだぞ!?」

「敵前逃亡、ふむ、貴官らにこそ、国防軍にこそ相応しい罪状で有るな」

「何だと!?」

「斯衛は退かぬ!」

そう言い放つと、斯衛大佐は師団長で有り、臨時の『上官』である陸軍少将を見据えて言い放った。

「閣下、我々、斯衛第3聯隊戦闘団は、これより博多戦線へ進撃致す。 貴師団は心置きなく、南へ下がられたい!」

余りと言えば、余りの暴言。 司令部内は一斉に息を飲む音が響いた。

「・・・上級司令部、そして城代省辺りからも、貴官の部隊を無事に畿内へ撤退させろと、言ってきておるのだがな? 伊集院斯衛大佐?」

師団長は軽く睨みながら、伊集院と呼ばれた斯衛大佐を見る。 しかし伊集院斯衛大佐は、その言葉を一向に気にした風では無かった。

「所詮、城代省内の小役人共が、世間体を気にしての言で有りましょう。 あの者達は多くが地下(じげ)の者達(一般市民出身者)、斯衛の何たるかを理解出来ませぬ。
閣下、我ら斯衛第3聯隊、今ここでその責務を放棄するは、まさに何故に我らが今まで存続を許されてきたのか、その根幹に反しまする。
―――どうか、斯衛の今際の我儘、お許し願いたい!」

1.5世代機とは言え、1個連隊108機に上る『瑞鶴』を戦力外とする事は痛い。 師団の固有戦術機甲戦力は、師団戦術機甲大隊の36機の『撃震』しかないのだ。
しかし―――そう、しかしだ。 実際問題として、もう博多の防衛線は穴だらけだ。 偵察報告では、各所で破れた戦線からBETAが南へ突破しつつあると。
では、師団が小郡まで転進する間の時間をどうするか? このままでは友軍との合流以前に、BETAと会敵してしまうだろう―――時間が欲しい。

「先任参謀、小郡までの移動時間は?」

「約2時間、迎撃準備を完了するのは3時間30分を想定しております」

「では―――伊集院斯衛大佐、師団命令を発する。 斯衛第3聯隊戦闘団は、師団の殿軍を務めよ。 BETAを押し止めるのだ、師団が小郡に達するまで」

「閣下・・・ では?」

「戦闘戦域の設定は、戦闘団長が判断せよ。 但しこれだけは厳命する、師団が迎撃体制を完成させる0700時までは、BETAを一歩も通すな。
0700時以降の行動判断は、戦闘団長に一任する。 西へ向かうか、東へ向かうか、はたまた南か―――生き残っておればな」

苦虫を潰した表情の師団先任参謀の横で、奇妙に達観した表情の伊集院斯衛大佐が、微かに笑みを受けべ敬礼し、本部を出て行った。
その後ろ姿を見、そして師団長に振り返った師団先任参謀が、師団長に問う。

「―――名誉か、死か、ですか?」

その言葉に、奇妙なものを見たかのような表情を浮かべた師団長が、言い放った。

「名誉? 違うな、単なる遅滞戦闘だよ―――生還を許されない、な」

師団長は斯衛第3聯隊戦闘団に対し、絶対死守の遅滞戦闘―――殿軍の戦さを厳命した。
引く事は許されず、例え生き残っても『そこ』はBETAの大群の真っただ中だ、援軍は一切来ない。
その代償として、『博多市内を戦闘戦域に認める』事を、暗黙のうちに承認したのだ。 ただし、あくまで口頭での暗黙の承認、文書では無い。
例え、後から城内省辺りが噛みついてきたとしても、一指揮官の暴走で有り、逆に斯衛が陸軍の命令権威を軽視した、と言い返せる余地を残して。

「時間が欲しい。 その為に、時間を稼ぐ為に、全滅してくれる部隊が必要だ。 彼等で有れば、うってつけではないかね?」

「・・・確かに、第23師団は一兵も失わずに、ですから。 軍団司令部への報告は如何されますか?」

「ん・・・ 『損失、1個戦術機甲連隊、及び支援部隊』、それで良かろう」













0345 島根県斐伊川町 穴道湖西岸・出雲空港管制棟 中部軍集団第2軍 第2軍団第15師団


『面制圧、第12射開始』

『第151機甲連隊より入電、『損失29%、戦術機甲部隊の来援乞う』です』

『第15機械化歩兵連隊、戦線下がります!』

『師団砲兵連隊、弾薬消費率35%!』

『師団戦術機甲大隊、鳶が巣山、鼻高山防衛線から動けません! BETA群2700と交戦中!』

『工兵隊より連絡、山陽自動車道、山陽本線、山陽道、161号線、全ての橋脚に爆薬セット完了』

『第24師団、穴道に到達しました! 第241戦術機甲大隊、出雲空港に展開完了、出撃します!』

未明のBETA群上陸。 そして益々酷くなってゆく天候。 恐らく戦術機甲部隊が行動出来るのは、あと1時間程しかないだろう。
それまでに何とかして、『事を』済ませねばならない。 それを思うと気が重くなる事は事実だが、為し得なかった場合を考えるとそれ以上に恐ろしい。
既に出雲市内は阿鼻叫喚の地獄だった。 全くの不意打ち、海岸防衛線に展開する時間さえ無く、斐伊川を挟む東側から面制圧砲撃を加えつつ、戦力を後出しするしかなかった。

多くの市民は、寝入った所に突如として現れたBETAによって、訳も判らぬままに喰い殺され、踏みつぶされて行った事だろう。
或いは気がつかぬままに、冥土へと旅立った者も多かったかも知れない。 案外それは救いか、BETAに喰い殺される自分を見つつ、残末魔に苦しみながら死ぬよりは。
師団将兵の少なからぬ数が、市内に家族を残してきている。 彼等の親兄弟は、妻子は、今頃は既にBETAの腹の中なのだ。
たった1個師団―――僚隊の24師団はお隣の松江駐留―――で、3万8000ものBETAの大群を1時間30分もの間、釘づけにしている。
この戦果の根源は、そう言った家族をまじかでBETAに殺された、そして見ているしかなかった将兵達個人の戦意の高さ、いや、個人的復讐心の高さ故だ。

「戦線を、斐伊川以東に移動させろ。 工兵隊に連絡、部隊が渡り終えたタイミングで、橋を全て爆破」

「・・・前線部隊からは、未だ市内に民間人が残っていると、報告が入っておりますが」

「間に合わん、何もかも、間に合わんよ、先任参謀」

恐れているのは、出雲市から穴道湖を経て松江に侵入される事だ。 南は余り心配せずとも良かろう、西日本でも屈指の山岳地帯が連なっている。
標高は低くとも、険しい地形の連続する地形だ。 BETAの習性からすれば、出雲から東へ突進する危険性は高いが、南への侵入は可能性が低い。

「松江から鳥取までの海岸線、あの低地部を突進されては敵わん。 防衛戦力が展開出来ていない。
南下されて、軍団主力(第2、第10師団)の背後に回られたら厄介だ」

「第7軍団が、岡山方面を強化しております」

「連中は、広島方面への戦略予備だ。 山越えは現代でも難しいぞ? 日本海側へは来ないだろうよ」

「現実問題としまして、2個師団のみで3万8000ものBETAの大群を、阻止出来ません」

「・・・オフレコだ、まだ誰にも言うな?」

「は・・・」

「京都は、西日本を諦めた。 状況が急激に過ぎ、対応は不可能と判断したようだ」

「・・・では?」

「九州南部と四国を、将来の反攻拠点として維持する為の死戦は展開されよう。 だが、西日本戦線は今後、鳥取=岡山のラインにまで下がる事となる。
山口、広島、島根は放棄が決定した。 九州北部も放棄、中部での防衛戦闘となる―――未だ、統合軍令本部内の一部での決定事項だ、漏らせば軍法会議での極刑だぞ?」

師団長が何故知っているのか―――そうか、この人は親族が軍令本部に居たな。
そうぼんやり考えながら、余りの事の異常さに先任参謀はしばし立ちすくんでいた。

「斐伊川の橋を爆破後、師団司令部は松江に移動する。 穴道湖北部は24師団、南部は我々15師団の受け持ちだ! 急げよ!」

師団長の声が、何処か別の世界の声の様に聞こえた。













0415 大阪府豊中市 第18師団駐屯基地


「中隊長、全機、移動準備完了しました」

連隊本部を出た周防大尉の元に、中隊副官である瀬間中尉が報告に来た。 
基地の中は、皆が緊張感と殺気を漂わせた雰囲気に満ちている。 その中でも歴戦の連中は表向き、動じていない様にも見える。

「全員、飯は食ったか? クソは済ませたか? 『おむつ』は持ったな?」

「準備万端です」

「よし、行くぞ。 まずは岡山だ。 そこから西に行くか、北へ上がるかは・・・」

「BETAのご機嫌次第、ですね?」

歩きながら報告を受け、指示を出す周防大尉の目に、本来ならここに居る筈の無い機体が映った。
82式戦術歩行戦闘機、『瑞鶴』 伊勢の斯衛第5聯隊戦闘団が移って来たのだ。
軍上層部は、第18師団が近畿から抜ける事を危惧した。 そして戦時体制における国防軍=斯衛軍協同体制協定を逆手にとったのだ。
平時ならば、斯衛が国防軍の移動命令に従い、その指揮下に入る事はない。 しかし戦時はその限りに非ず。
その文言を盾に、強引に畿内中央部の結節点であるこの地の防衛戦力として、三重県から引っ張り出した。

その機体の前に、見知った人物が立っていた。 斯衛の軍服を着用している。 向うもこちらに気付いた様だ。 歩み寄ってくる。

「周防大尉、いよいよ西部戦線へ出撃ですね」

「初陣以来、6年と2ヵ月。 まさか本当に本土で戦う事になるとは、思いもよりませんでしたが。 この場を宜しくお願いします、神楽斯衛大尉」

周防大尉の初陣は92年5月。 神楽斯衛大尉の初陣は93年9月。 いずれも大陸戦線だった。
あの頃、大陸国家が抱えていた苦悩を、今まさに帝国が直面しているのだ。 その困難たるや、一体どれ程の日本人が自覚しているだろうか。
お互い何も言わないが、その危惧は両者の共通で持つ危惧だった。 彼等はそれを直に見てきたのだから。

「・・・斯衛で、鼻息の荒い連中が居る様ですね」

「私の出来得る限りで、鎮める所存です。 この戦い、名誉も無ければ、伝統を守る事でも有りません。 ただひたすら、生存の為の戦い」

その言葉に周防大尉も頷く。 そしてそれが判っているのならば、猛る者達をどう鎮めるかも判ると言うものだ。
これは『戦争』ではない。 生存を賭けた『喰らい合い』なのだ。

「何にせよ、ご武運を」

「悪運だけで生き残って来ましたから。 底をついていなければ、しぶとく生き残るでしょう」












0430 副帝都・東京 帝国国防省


「・・・全く」

不機嫌そうな声で、高級参謀の准将が受話器を置く。 その姿を見た課員である参謀中佐が、訝しげに問いかけた。

「どうされました?」

「どうもこうも・・・」

准将の話では、電話の相手は与党に所属する帝国議会議員。 
なんでも、九州から未だ脱出できていない家族の身の安全の確保と、一刻も早い脱出を。 そう捻じ込まれたらしい。

「余分な兵力は、もう一兵たりとも有りませんよ。 しかしまた、どうして議員先生の家族がまだ脱出していなかったのです?」

「選挙対策だ。 戸籍謄本、住民票などの書類が完備している限り、避難所生活であっても選挙権を失わない、そう議会で承認されたな?」

「・・・地元を最後まで見捨てなかった、我らが先生、ってヤツですか? それにしても、その為に家族を置いておくなんて・・・ 迷惑な話です」

多かれ少なかれ、帝国議会に所属する議員は今回の国難をすら、次期選挙の格好のPRの場と捉えている。
西日本選出議員の多くが、ギリギリまで家族を地元に置き止めた事が確認されていた。

「どうせ連中、地元を後継に譲って世襲しようって連中でしょう。 その跡取りが死んでは、元も子も無かろうに・・・」

「知らんよ、京都に愛人の子でもいるのだろうよ。 いざという時のリザーブにな」

「洒落になりませんな」

この、胃に穴が空きそうなほど忙しい時に。 全く何と言う。
しかし受けねばなるまいな、准将はそう判断した。

「家族は、小倉から南へ脱出中だそうだ。 幸いと言うか、未だ喰い殺されていない事は確認されている。 身近な部隊は?」

「第9師団が、一番近いですな」

「どうせ、今から北九州へ向かっても、第57師団は壊滅しているだろう。 よし、本土防衛軍総司令部第2部(作戦)に話を付けろ。
現場が文句を言ってくるようなら、俺の名を出していい。 場合によってはウチの部長の名を出せ、大抵はそれでケリがつく」

今回泣きついてきた議員は、世間では軍部べったりの国防族議員として名が通った男だ。
何の事はない、軍部と軍需産業に寄生するだけの男だが、軍部にとっては何かと使い道が有る。
何より、議会で軍事予算をもぎ取ってくる為の手駒でも有る。 その程度のサービスはしてやっても良いだろう。

「1個小隊も付けてやれば良い。 どこか適当な港まで護衛して、畿内までの船便を見繕ってな」

それだけ言うと、准将はその件は解決済みとばかりに頭の中から追い出した。
実際問題、彼の管轄する職務では、現在の大混乱はその忙しさに拍車をかけていた。 
一議員の泣き事にこれ以上付き合う時間など、逆さに振っても出てこないのだ。









1998年7月8日 0600 帝国軍統合軍令本部、本土防衛軍総司令部は、国内防衛線を九州中南部、四国、そして岡山=鳥取間に決定する事を密かに内定させた。




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