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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 予兆 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/08/25 03:01
2001年8月10日 日本帝国 帝都・東京 某料亭


「総理、それは難しいですな」

帝都の一角、とある高級料亭で2人の政治家が密談していた。 ひとりは最大野党の党首で、新保守主義の、ひいては親アメリカ派の巨魁と目される民政党の党首。

「しかし、大泉さん。 何もかも、あの国に寄り添う事は出来んのだ」

ひとりは政権与党、政友党の党首であり、内閣総理大臣を勤める榊是親首相。 両党の党首たちは、表向き話せない事をこうして密談の場で調整し合っていたのだ。

「我が党とて、日本の窮状は認識しておるよ。 佐渡島の奪回、それに続く山積みの内政問題への対応。 しかしね、榊さん。 これはもう、我が国だけで対処出来んよ」

「だからこそ、国連や大東亜連合、オセアニア諸国やEUと歩調を合わそうと言うのだ、大泉さん」

「国連はアメリカの意向に左右され易い。 それに言わば究極の利害調整機関だ、アレは。 それに大東亜にEU? 国土を荒らされた者同士で、傷を舐め合うのが上策かね?」

だから、頼るべきはアメリカ―――軍事、経済、工業生産力、共にもはや世界で唯一の超大国たり得る、アメリカとの共存(反対派は従属と言う)、それ以外に道は無い。
新保守主義は、言わば『パックス・アメリカーナ』の傘の下での、国土回復を目指すという一面を持つ。 そして日本の伝統主義者は、それに拒否反応を示している。

「民意を納得させられんよ、それでは」

「ならば、まだ統制派の方がマシ、と言う事かね? 連中にとって、政治家とは単なる仮面に過ぎん。 全ては官主導であって、政治家はそのスピーカー程度だ。
納得出来るか、榊さん? お互いに政治を志して数10年。 今さら官の操り人形で政治生命を腐らせる事が? 考えは違えど、私もアンタも、政治を志したのだぞ?」

国内の認識と微妙に違い、実際のこの国の政治は軍部や中央官庁の官僚群(統制派)、与野党の綱引き、一部武家社会の反発、そして財界の動きなど、危ういバランスの上に成り立っている。
榊是親首相は、それら諸勢力の意向をある時は受け入れ、ある時は敢然と反対しつつ、そのバランスを壊さぬように最新の注意を払いながら、難しい国家の舵取りを行っている状況だった。

「若い連中が叫んでいる、国家改造論など論外だ。 あんなもの、現実が見えない若造どもが浮かれて熱病にかかって言っている様なものだ。
中にはそれに同調する振りをして、組織内の主導権を掌握しようとしている馬鹿共も居る・・・呆れてモノも言えん」

国粋派の高級将校・高級官僚たちの事だった。

「・・・殿下に現実政治の困難さを、押し付ける訳には参らぬ。 一部武家が騒ぐ、大政奉還論なども同様だ。 大泉さん、私は今更、摂家に現実政治に韜晦して貰いたく無い」

「長らく現実政治から遠ざかっていた、やんごとなき方々だよ。 今更、下々の事など判る筈も無いだろう、摂家には」

五摂家、それぞれ得意分野があるとは言え、国家を統治するのはまた違う。

「皇帝陛下の御宸襟を、これ以上乱し奉る訳にもいかない。 現実を見るに、統制派のやり方は参考になる。 しかし主導権は我々政府が―――政治家が握るべきなのだ。
だから大泉さん、協力してくれないか? 統制派の、身も蓋も無いやり方では無く、国粋派の時代錯誤でも無く・・・日本が、民意ある国として、この国難を乗り切る為に」

与野党大連合、挙国一致内閣の成立。 まず、早急な(出来れば本年内に)甲21号―――佐渡島の奪回作戦の発動、その後の内治の充実を目指す。

「でなければ、この国は終わりだ。 終わりなのだ、大泉さん。 あなたなら、民政党内を抑え込める。 アメリカの・・・ウォール街に、待ったをかける事も出来る」

でなければ、これ以上、軍部の不満を抑え込めない。 国家戦略が迷走しては、軍部の方針も二転、三転する。 大攻勢なのか、それとも暫く専守防衛なのか?
国土防衛と言う任務を与えられた巨大な暴力装置は、今では引き絞られた弓の弦の如く、ギリギリのところで抑え込まれている状態なのだ。

「大泉さん、頼む、この通りだ」

「・・・わたしには首相、あんたの見方の甘さが、どうしても払拭できんのだよ」

かくして、今夜の密談は成果を見る事無く終わった。










2001年8月12日 日本帝国 帝都・東京 某ホテル


「おや、周防さん。 お久しい」

「ああ、これは前岡さん。 いや、どうにもこう言う場は、慣れませんでねぇ」

「はは、それは、それは。 流石は『現場の鬼』と呼ばれた、あなたらしいが・・・しかし、これからはそうも言えないでしょう?」

帝都東京、その中心街にほど近いホテルの会場。 つい今しがたまで行われていた経済同友会の政策委員会、その内のひとつである『農林水産業・食料生産改革委員会』
それが終わった後での、会員同士の懇親会が開かれていた。 経済同友会は日本経済団体連合会、日本商工会議所と並ぶ『経済三団体』の一つである。

企業経営者が個人の資格で参加し、国内外の経済社会の諸問題について一企業や特定業界の利害に囚われない立場から自由に議論し、見解を社会に提言することを特色としている。
それ故に様々な政策委員会を開いていた。 企業経営、成長基盤強化、成長フロンティア開拓、国家運営、財政・税制・社会保障、教育、被災復興、安全保障・・・

大日本食品工業株式会社の取締役常務(技術本部長)である周防直史氏もまた、会員として経済同友会の『農林水産業・食料生産改革委員会』に参加している。
話しかけて来た人物も、1部上場の某製造業企業の取締役専務で、経済同友会の会員の1人であり、同年代と言う事で何かと話し事も多い人物だった。

「・・・それより周防さん、あなたもお聞きになったでしょう? 経団連(経済団体連合会)の会長と、日商(日本商工会議所)の会頭が、派手にやり合った事を?」

「あ~、うん、まあ・・・お二人とも、微妙に立場が、アレですからなぁ・・・」

経団連は元々、執行部を財閥系や各重厚長大産業(鉄鋼、電力、電機など)が独占し、その利害が各種国内外問題に対する見解や主張に反映される。
経団連会長は俗に『財界総理』とも呼ばれ、与党や有力野党に政治献金を行い、政界・経済界に大きな影響力を持った組織と言われている。

日商は日本各地の商工会議所を会員として組織した団体で、商工業の振興に寄与する為に、全国の商工会議所間の意見の総合調整や、国内外の経済団体との提携を図る機関である。
東京商工会議所の会頭が日商会頭を兼務するが、経団連と異なり全国の商工会議所の意見が強い為に、どちらかと言うと地域復興・振興、中小企業政策の提言などが多い。

為に、政界への影響力・官界への圧力団体と化しつつある経団連と、BETAの本土侵攻で被災した地方の復旧・復興を望む日商とでは、当然ながら意見は平行線だった。
日本の『経済三団体』の経団連と日商がその調子で、では最後の経済同友会はと言うと・・・これまた、問題を抱えていた。 周防氏が溜息交じりに呟く様に言う。

「そう言えば我々も、理事の奥寺さん(奥寺豊子理事・人材派遣会社代表取締役社長)が、この間の帝都新報のインタビューで、派手にやらかしましたなぁ・・・」

その理事は新聞のインタビューで、『難民(国内避難民)派遣労働者の過労死は、自己管理の問題。 他人の責任にするのは間違っている』とぶち上げ、国内の反感を買った。
更には『労働組合が労働者を甘やかしている』と発言。 そして『労働基準監督署も不要』、『祝日も一切無くすべき』と発言し、巷に大きな論議を呼んだ。
他にも難民派遣労働者に付いて、『貯蓄をせずに自己防衛がなってない』、『企業や社会が悪いなどと言うのは、本末転倒である』などと批判している。
その理事の会社は、経団連主要企業に対して、格安の労働条件で国内難民派遣労働者を斡旋している企業だった。 因みにその理事は、政府の労働政策審議会のメンバーでもある。

「経団連の会長は、早く日米関係を元に戻したいと言う、急先鋒ですからなぁ。 あの人、この間もN.Y.まで特別機を仕立てて、ロックウィードに詣でていましたな」

相手の会員も、渋い顔でそう言う。 日本の財界(主に経団連)の希望は、国民感情とは方向性が異なる。 企業利益増加を最優先とし、世論に反した独善的な提言も多い。
政党に対するあからさまな政治献金とあいまって、その利益誘導的な姿勢には以前から批判も数多く、BETAの本土侵攻後は『日本経済国家親衛隊(経済SS)』などと揶揄される。

「榊総理は、労働条件問題も頭が痛い事でしょうな。 日商の会頭などは、口を極めて経団連と労働政策審議会を、こき下ろしておりますよ」

「とは言え、我々の会社の会長や社長は、経団連では完全に傍流の業種の経営者ですし。 この経済同友会も経団連の『財界人養成所』と言われる始末ですしなぁ・・・」

経済同友会の要職を経て、経団連の要職に転ずる財界人が余りにも多い為、その様に揶揄されている。 そして経団連は親米派、いや、米国密着派が多かった。

「最近、民政党(第1野党)に経団連が、多額の政治献金をしましたな。 周防さん、あなたはどう見ます?」

「政友党(与党)は、榊総理が米国とは距離を置いていますからな。 次の選挙、経団連は民政党支持でしょう。 軍や官界からも、日米同盟の再締結を、と言う声も有りますし」

「逆に、日商は政友会支持でしょうなぁ・・・そう言えば周防さんはお聞きになりましたかな? 地方の商工会議所の演説会に、国粋派の高級将校達が盛んに出席している話を?」

「・・・地方は中小企業が多い上に、そこの労働者は難民出身派遣労働者が、過半以上を占めますからな。 経営者も、経団連主要企業の下請け、孫請け叩きに立腹しています。
だからと言って、日商が政友会支持とも言えんのでは無いですかな? 政友会としても、選挙を勝つ為には経団連の金は是非とも欲しい。 榊総理も党内の突き上げが厳しい様ですな」

国内難民問題、そして難民派遣労働者の労働条件悪化問題は、現政権が抱える主題のうちの、ひとつだった(最大の主題は当然、甲21号―――佐渡島奪回である)
国民の多くが疲れ果て、希望を持てないでいた。 佐渡島ハイヴのBETAに怯えていた。 そしてその恐怖と悲観を排除できない政府と軍部に、不満を募らせていた。

「まぁ、我々としても国粋派の言う『日本改造論』など、ハタ迷惑以外の何者でも有りませんが・・・」

「下手糞な全体国家社会主義に、民族主義をまぶした様なものですな。 長年に渡って現実政治から遠ざかっている将軍家や摂家の方々では、国家の舵取りは出来ませんよ」

「はは、これは・・・手厳しいですな、周防さん」

相手の会員は苦笑して、そして次に辺りを見回し、声をひそめて話し始めた。

「・・・その将軍家や摂家の方々に、経団連の一部が金を積んでいる、と言う話は、お聞きになりましたかな・・・?」

「・・・訝しんでおりますがね、どう言う意図で献金しておるのか・・・斉御司家に九條家、それに崇宰家辺りだとか?」

「・・・ええ。 煌武院家と斑鳩家が入っていない所が、どうにも。 いやはや、露骨と言うか、何と言うか・・・」

五摂家は『内政の煌武院家』、『軍事の斑鳩家』と言う様に、政威大将軍を最も輩出している煌武院家、斯衛軍の主流を占める斑鳩家(とその門流=家臣筋の武家)と言われる。
そして他の3家もまた、『外交の斉御司家』(三極委員会に家筋の者が参加)、『経済の九條家』(一族で財閥を形成)、『官の崇宰家』(分家や家臣筋に高級官僚が多い)と言われる。

聞き及んだ話では、軍部国粋派将校団が接近している斑鳩家、そして煌武院家の分家筋に対して、官界・財界、そして外交筋から対抗しようと言う様相を呈し始めている。

「五摂家・斑鳩家が門流(譜代家臣)の洞院家(清華家・赤)御当主は、大政奉還論の急先鋒(この場合は将軍親政論)、何より斑鳩家御当主の懐刀で、斯衛軍軍務部長を務める方。
それに聖護煌武院家(煌武院三分家=聖護、青蓮、大覚煌武院家の筆頭分家)御当主は、未だ御本家嫡孫だった当時の現将軍家の廃嫡を主張した方、未練も有るのでしょう」

「国粋派の高級将校団は、聖護煌武院家に接近しておるようですな。 日商(日本商工会議所)からの裏での資金援助を、聖護煌武院家に献金しておるそうで」

「聖護煌武院家は、御自身が思っている程、傑物ではありませんからな。 むしろ操り易く、乗せやすいお人柄です。 国粋派の上も、神輿に丁度良いと思っておるのでしょう。
しかしながら、国粋派の中堅以下の将校団は、現将軍家(煌武院悠陽)支持者が多い・・・あそこもまた、内部がギクシャクしておりますなぁ・・・」

恐ろしきは、商売人―――大企業の情報収集能力と、そのネットワークと言うべきか。 

「・・・そして、結局は統制派がどう動くのか? 特に軍部統制派は・・・?」

日本帝国最大組織、そして戒厳令下の現在では恐らく最強の政治集団にして、圧力集団と化している日本帝国軍。 その中の最大派閥である、統制派。
その現主流派である統制派の動き方はどうなのか? 企業人としては、そこが最も気にかかるところだった。

「さて、どうでしょうな? どちらにも動きそうな気もしますが、どうなるか・・・」

「ふむ。 周防さんの所も、未だ掴んでおられない?」

探る様な眼だ。 大日本食品工業は食料生産関連全般企業として、軍部との繋がりも深い。 いわば『軍需企業』の一面を持つ。 だから探りを入れて来たのだろうが・・・

「私の所は、主に主計畑の軍人さん相手ですからなぁ。 枢機に関わる事は、皆さんご存じありませんでねぇ・・・」

―――嘘だった。 大日本食品工業取締役常務・周防直史氏の義弟は、国家憲兵隊副長官(特務作戦統括担当)の、右近充義郎陸軍大将(2000年8月1日進級)だ。
右近充陸軍大将は、巷でも統制派の首魁の1人と目される人物だった。(憲兵兵科階級は中将まで。 大将に昇進すれば出身軍部の階級に戻る。 右近充大将は陸軍出身)

(『―――義兄さん、経団連の阿呆どもや、国粋派の馬鹿共とは付き合うなよ? あいつらはいずれ、共倒れになる。 政友党と民政党、それに摂家筋の一部の夢遊病者達も』)

妹の夫である右近充陸軍大将と、先月酒を飲んだ時にポツリと忠告された。 家では次女(右近充京香陸軍少佐)や三女(右近充涼香陸軍看護大尉)の婚期にヤキモキする男だ。
そして実は、未だに戦死した次男(故・右近充史郎海軍大尉)の事を思い出して、夜ひっそりと仏壇の前に座り、無言で涙を流す様な義弟だった。

だがそんな心配症の父親、子供好きな涙もろい父親の顔を持つ半面、職務に対しては冷静を通り越して、冷酷と言えるほどの現状認識能力と判断力、そして決断力を持つ。
『極東の魔王』と、各国の同業者たちから恐れられる、諜報戦の裏の裏まで知り尽くした、そしてその冷酷さ、酷薄さが身についた男でも有る。

(『―――今更、将軍や摂家に何が出来る? 素人が手を出して、大火傷じゃ済まないぞ、今の状況は。 それとアメリカのケツを舐めて、儲けを追及する馬鹿共も、お灸が必要だ』)

統制派は、対米政策においては実は反米では無い。 全面依存では無いが(それは民政党主流の新保守主義者たちだった)、部分協調、部分対話。 そして他の国際勢力との協同。
つまり米国に対しては・・・『俺の財布に手を突っ込むな、馬鹿野郎。 だけど貿易しよう、儲けさせろ。 その代わりにお前の利益も確保してやるから』である。
軍事については、『俺の国が無くなったら、お前の国(アラスカ)が矢面になるぞ? だから援助しろ。 その代わりに米軍基地は復活させてやる。 日米地位協定は見直しで』
外交は、『腐っても鯛、腐っても常任理事国。 英仏とソ連・中国とは仲良くしておこう。 米国よ、あまり独善過ぎると国連で叩くぞ? だから互いの分を守って仲良くしよう』

―――各種の交渉の余地は残しておく(一方的な主張が通る国際社会でも無い) だが基本スタンスはこんな感じだった。
反米に走るでも無く、パックス・アメリカーナの傘の下で隷属(特に安全保障的には、まさに『隷属』だ)するを良しとせず。
国内を国家統制の元に敷き、国外では国連や地域連合体(大東亜連合や欧州連合など)と強調しあい、あわよくば援助を引き出す(見返りは当然与える訳だが)

その流れの延長線上で米国との関係も、一旦は破綻したのを修復しようと試みている。 国防、安全保障、その背骨となる兵站―――国家戦略的な大兵站、ロジスティクスの面で。
なぜならば、日本帝国の国家戦略の背骨―――甲21号目標、佐渡島ハイヴの奪回による国内復旧・復興、それに続く内政の安定化に欠かせない要因だからだ。
国家戦略的な大兵站―――国家大戦略、グランド・ストラテジーの前では、現在の国民感情(の一部)や苦痛、在野勢力の不満は『無視すべき事柄』になり得るのだ。

「―――いずれにしても、統制派の動向には注意が必要でしょうなぁ。 何か判れば、お知らせしますよ」

「ええ、では当社も色々と探ってみますよ。 じゃ、周防さん、今夜はこれで」

教えない訳ではない。 ギリギリの時期になればリークすればよい。 そうすれば彼は、それを恩に着る事だろう。
社内もそうだ、社長が舵取りを間違えない時期に、それとなく伝えれば良い。 そうすれば社内外での自分の影響力は随分と増す。

(―――情報は、企業でも武器だな。 いやいや、企業だからこそ、だな。 直衛、息子よ、お前はどこまで掴んでいる? どこまで判断で来ている?)

もしも彼の息子―――次男の周防直衛陸軍少佐が、義弟の言っていた連中と付き合っていたのならば。 親として諌める事はあっても、組織人として情報を漏らすだろうか?

(―――父さんはな、直衛。 お前まで死なせたくない、直武だけで十分だ。 父親を失った孫達を、これ以上増やしたく無いのだよ、直衛)

彼の息子の性格からして、国粋派の主張は水と油だと、そう確信はしている。 が、それでも不確実極まりないのが世の中というものだ。
うん、それとなく匂わしておこう。 第一、義弟も折を見て色々と吹き込んでいる様だし。 息子も今更、精神的逃避に走る様な未熟さからは、縁が無くなっただろうし。

BETAの本土侵攻を受けた後の惨状を直視できず、『日本はこんな国では無かった筈だ』と、自己の中の精神的楽園に逃避しているのが国粋派だ、彼はそう考えていた。
同時に経団連主流派や民政党の新保守主義者の様な(その尻馬に乗る、経済同友会の一部も)、突き抜けた利益至上主義者の羞恥心の欠如も、周防直史氏は持ち合わせていなかった。


そろそろ人の少なくなってきた懇親会場を見渡し、この辺で義理は果たしたし、そろそろ帰宅しようか、そう思った。
家には40年来付き添ってくれている妻と、戦死した長男の嫁。 そして父親を喪った、だからこそ余計に可愛い孫たちが、夫の、義父の、そして『お爺ちゃん』の帰りを待っているのだ。









2001年8月14日 日本帝国 帝都・東京 帝国陸軍・東京偕行社


陸軍衛士訓練校―――文字通り、陸軍における戦術機甲乗員・衛士を養成する為の教育機関である。 世の中学4、5年生、或いは高等学校生の年代の少年少女が訓練を受ける。
中学や高校と異なる点は、その教育課程を終える事は、即、BETAとの実戦の為に実施部隊へ配備されると言う事。 つまり『卒業』は『戦死』への片道切符だと言う事。

「はっ! 貴様もいよいよ、世の親父の道へ、まっしぐらか!」

「何抜かす! 貴様こそ、最近は真っ先に帰宅しているらしいじゃないか!?」

それだからこそ、戦場を戦い抜き、生き抜き、こうして同期生の顔を再び見られる事は、何よりも嬉しい事だった。
多感な10代半ばから後半にかけて、共に切磋琢磨し、苦しみ、悩み、涙し、そして笑いあった間柄。 年々減って行くその懐かしい記憶の中の顔が、今もこうして目の前に居る。

「見ろよ、どうだ!? 将来は美人になるぞ、俺の娘は!」

「嫁さん似で、本当に良かったなぁ・・・貴様に似れば、目も当てられん!」

卒業して戦場を往来する事、実に9年と4カ月。 日本帝国陸軍衛士訓練校・第18期A卒。 卒業368名。 戦死274名、残存94名。 戦死率74.4%・・・ 
7割以上を消耗した期であり、91-92年の大陸派遣初期から戦場で戦ってきた期の中では、17期Aの戦死251名、18期Bの戦死263名を従え、最も戦死者の多い期で有った。

「へえ? 周防、貴様の所は双子だったのか。 息子と娘? どっち似だ?」

「おい、どっち似って。 貴様、周防の嫁さん、知っているのか?」

「知っているも何も、あの人だろう? 1期上の・・・確か、綾森さんだ」

「ああ、あの人か。 美人で有名だったなぁ・・・」

「少尉の頃から有名だったものねぇ・・・『周防が姉さん女房の尻に敷かれている!』って! 私は伊達や神楽に聞いたのだけれど?」

既に20代後半で、ほぼ全員が佐官(少佐)になっている彼等は、当然ながらほぼ全員が(ごく少数を除き)結婚していた。 子供の1人、2人もいる者も珍しくない。
となれば、青道心だった少尉・中尉時代の様な馬鹿騒ぎで無く、流れは自然と子供自慢になってくる。 すっかり父親・母親の世代になったと言う事だ。

「決まっている、娘は嫁さん似の美人だ。 息子は俺に似た、イイ男になる」

「・・・言い切ったよ、この馬鹿・・・」

「おい、周防。 貴様のトコ、双子だろ・・・?」

「男と女だから、二卵性だ!」

「・・・逆だったら、どうするのよ?」

「問題無い。 娘は美人になる! 息子も男前だ!」

「・・・こいつも、相当の親馬鹿だ・・・」

皆、嬉しいのだ。 懐かしい同期の顔を見れた事が。 そして結婚し、子供が生まれ・・・身近な『守るべき証』が自分と共に在る事が。

8月、夏の一夜。 帝都の一角でささやかな同期会が催されていた。 関東周辺の部隊に配属になっている者、官衙(各本部や教育機関)所属の者。 或いは移動中に立ち寄った者。
長く顔を合わせていなかった者同士。 訓練校が異なっていた為、驚くべき事に10年目にして初対面の者同士―――そんな事は関係無い。
宴もたけなわになって来ても、乱れ暴れる者もいない。 あちこちに輪を作り、何やかやと和やかに談笑しあっている。 酒を楽しみ、食事を楽しみ、会話を楽しみ・・・

「そう言えば伊達、アンタって出来ちゃった婚だったわよね? ひょっとして、狙っていたの?」

「長門のヤツ、焦らしていたしね。 流石にアンタも、焦れて強襲作戦に出たのね?」

「ちょっと、永野? 人を何だと思ってんのよ、アンタは・・・否定はしないけど?」

「あ、しないんだ? ッテ事は、『突撃1番(避妊具)』にポチっと穴を開けて?」

「男どもってさ、普段は付けるの嫌がる癖に、こっちがその気になったら途端に及び腰! 直ぐ付けたがるのよねー。 伊達、アンタのトコもそうだったんでしょ?」

「うーん、周りに子供が出来た先輩も居たし。 そろそろ年齢的に良いかなぁー、って思ってさ! くふふ、細工した訳よ」

「へー、やっぱり? だってさ、長門?」

「お、おい! 愛姫!?」

―――確かに、一部はやや乱れ気味ではあるが・・・

「神楽、アンタもまた、良いタイミングでお目出度ねぇ? もう8カ月だっけ? お腹、随分と目立つ様になったわねぇ~・・・」

「当然だ。 時折、ピクッ、ピクッとする胎動を感じる。 私も母になるのだな、と実感するぞ」

「・・・豪快な母親になりそうね・・・」

「だから! アルコールは厳禁って言ったでしょ! 酒瓶は寄こしなさいって、緋色!」

「むっ・・・せめて一杯くらい、良いではないか、愛姫・・・」

「「「ダメ!!」」」

「み、皆で声を揃えなくとも・・・むうぅ・・・」

―――いや、確かに、全体に乱れ始めているが・・・

気楽な集まりとあって、その内それぞれ話の合う者同士が固まり、やがて時間も過ぎた頃には数人ずつ集まって河岸を変える為に席を立って行く。
会費は最初に集めているし、予定外の飲食分は自己申告だ。 将校たる者、卑しくも飲食で誤魔化すべからず。 不足するより過大に支払え。
身に沁みついた習慣で、自分が記憶する分よりやや多めに申告して払ってゆく。 余った分は戦災孤児基金や何やらに寄付をしてゆく。 帝国三軍の将校に共通の習慣だった。

「おい、周防、長門、貴様らも行かんか?」

1次会が終わって、これから悪所に繰り出すのだろう。 数人の同期生達から声を掛けられた周防少佐と長門少佐は、一瞬腰を浮かしかけて、慌てて席に戻った。

「あ・・・い、いや。 俺は今夜は止めておく。 今度また、誘ってくれ・・・」

「あ、ああ、俺も・・・だ。 済まんな・・・」

何故か後ろめたさたっぷりに、言い訳じみてそう言う二人。 そんな姿を見て、何やら悟った同期生達が冷やかし気味に言う。

「何だ、何だ? 結婚してから日和りやがったな、周防? 貴様、それでも突撃前衛上がりか!? この一穴主義者め!」

「長門、貴様もだ。 それとも・・・やっぱり貴様も周防と同じか? 伊達の尻に散々敷かれているって話だしな、ははは!」

「お、おい・・・!」

「・・・要らん事を・・・!」

顔を引き攣らせた周防少佐と長門少佐が、そっと後ろを見ると・・・表面上はニコニコと、しかし目が笑っていない伊達愛姫少佐(長門少佐夫人)が、笑いながら言う。

「あら? 圭介。 せーっかくの同期のお誘い、無下にしちゃ悪いわよぉ? それと直衛、アンタもねぇ・・・?」

その横で、宇賀神少佐(宇賀神緋色少佐、旧姓:神楽。 2001年4月1日進級)が、ややジト目で睨んでいた。 こちらはこちらで、直截的で怖い。

「・・・私も今更、少尉や中尉の頃の様な、小娘じみた事は言わぬ。 これでも人妻な故な。 しかし、周防、長門・・・?」

ここまで圧力をかけられては、妻の目を盗んで、等と出来ようはずも無い。 周防少佐の夫人は1期上だが、周防家と長門家は隣家同士だ。 妻同士の仲も良い。
更には宇賀神少佐も、2人の妻達とは仲が良い。 途端に、それまで誘った揚げ句にニヤニヤとして居た同期生達が、腹を抱えて笑い始めた、彼等も知っているのだ。
周防少佐と長門少佐、同期生の中でも戦歴の豊富さで知れる2人が、愛妻家で有ると同時に、意外に恐妻家の一面を持っている事に。

「ま、お熱いと言う事で! また今度な、周防、長門!」

「おい伊達! 余り旦那を尻に敷き過ぎるなよ!?」

「夜の戦場で疲れ果てて、BETA相手の時に、ヘロヘロにならん程度にしてやれよ? 神楽、貴様もな!」

「やっかましー! 余計なお世話よ、この宿六共!」

「むっ!? そう言うセリフは、奥方を満足させてから吐け!」

伊達少佐は兎も角、少尉の頃から堅物で通って来た宇賀神(神楽)少佐の言葉には、皆が一様に目を見張り、その直後に爆笑が沸き起こったものだった。





1次会が終わり、それぞれがグループに分かれて2次会に突入と相成った。 男連中はこれから繁華街の悪所や、料亭・待合などに繰り出すのだろう。
子供のいる伊達少佐や、身重の宇賀神少佐、夫が家で待っている永野少佐などの女性陣は、これでお開きにすると言って、帰って行った。

「にしても、ほぼ1年ぶりの同期会だな」

料亭で酒肴を味わいながら、国枝宇一少佐が同期生達を見回しながらそう言う。 周防直衛少佐、長門圭介少佐、大友祐二少佐、そして関西から参加の伊庭慎之介少佐が頷く。
芸妓がまだ来ていないので、男同士5人で酒を飲む。 少佐になっても、同期生同士は腹を割って話せる、得難い間柄だった。

「これで、全員が少佐かぁ・・・昔じゃ、考えられない進級速度だな」

大友少佐が嬉しさ半分、呆れ半分でそう言う。 彼ら18期A卒は本来、昨年10月進級の第1選抜以降、今年4月の第2選抜、10月の第3選抜、来年4月の第4選抜の予定だった。
それが今年1月の第2選抜、4月の第3選抜、7月の第4選抜と、急に進級速度を速めての進級となった。 半年後任の18期Bも4月の第1選抜、7月の第2選抜が少佐進級だ。

「大隊数の増強、ひいては99年の『明星作戦』で大損害を被った師団の回復・・・指揮官の数が足りなかったからなぁ、今までは・・・」

国枝少佐が、酒杯を傾けながら言った。 国枝少佐、大友少佐、共に第3選抜で本来なら今年10月に進級予定だったのだ。 それが半年も早まっていた。
陸軍は大損害を被った98年-99年からの回復を目指しており、兵員数ではなんとか目標数字を達成出来そうだった。 しかし指揮官はそうもいかない。
特に実戦経験を積んだ中堅指揮官―――戦場の大隊長・中隊長クラスの不足が案じられた。 中隊長は、中尉の在任年限を2年に短縮(従来は2年半から3年)する事で対応した。

しかしながら、戦場での最小単位の戦術単位である大隊指揮官―――大隊長の育成は、これ程簡単にはいかない。
窮余の一策として、既に第1選抜が少佐に進級している陸士・各専科学校(衛士訓練校も専科学校のひとつ)の各期の、第2選抜以降の進級速度を速める事で対応した。

「ま、今じゃ、『師団会議で、石を投げれば18期(A・B)に当る』、と言われるからなぁ・・・」

「訓練校の教官団にも、結構いるしな。 次いで17期か」

現在少佐の階級にある者は、陸軍士官学校第97期から第101期、衛士訓練校では15期Bから18期Bまでが、それに当る。
そんな中で彼ら18期A出身の少佐達は、若手佐官として戦場での活躍を期待される世代だった。 気力と体力、精神力、そして経験値が最もバランス良く調和された世代だった。

「そう言えば、聞いたぞ、伊庭。 貴様、婚約したんだって?」

国枝少佐が話を振ると、伊庭少佐が嬉しそうに頷く。 そして何故か周防少佐は、ゲンナリした表情になっていた。

「おう。 取りあえずは婚約な。 年が明けたら式を挙げる」

「相手、2歳年上とか?」

「U幹(一般大卒将校)だよ。 同じ少佐で」

「あん? 周防、どうした? 気分でも悪いのか?」

「あ・・・いや・・・」

何故か恨めしそうな目で、伊庭少佐を見る周防少佐。 そんな周防少佐を、長門少佐が爆笑して笑い飛ばす。

「なんだ、長門? 貴様、何か知っているのか?」

「くくく・・・伊庭の婚約者はな、直衛の従姉殿だ。 つまり、この二人は今後、親戚同士ってわけさ」

「ああ・・・成程ね」

ようやく訳が解ったとばかりに、半ば不憫そうな目で国枝少佐が周防少佐を見て、頷いた。

「ったく・・・早過ぎるだろ、貴様。 マレー半島から還って来て、速攻でプロポーズするか!?」

「俺と京香さん(右近充京香陸軍少佐、伊庭少佐の婚約者、周防少佐の従姉)は、愛し合っているからな!」

「・・・言うな、伊庭。 俺は寒気がしてきた・・・」

しかし目出度い話に違いは無い。 何やかやと音頭のネタを見つけては、乾杯の連続となった。 やがてほろ酔い加減になった所で、ふと長門少佐が今更気付いて言った。

「そう言えば、久賀のヤツはどうした?」

「ん? いつの間にか消えた」

「最近付き合い悪いな、あいつは」

長門少佐の問いに、大友少佐と国枝少佐が答えた。 大友少佐も国枝少佐も、以前は久賀少佐と同じ第1師団配下の第57戦術機甲連隊で、中隊長を勤めていた。
それが少佐進級に伴い、大友少佐は第3師団の第6戦術機甲連隊第3大隊長に。 国枝少佐は第13師団の第131戦術機甲連隊第3大隊長に、それぞれ転出となった。

「最近は何やら、考え込んでいる様だ。 部下を押さえるのにも、苦労しているらしい」

「あいつの第3戦術機甲連隊(第1師団)は、第1戦術機甲連隊と同じで、国粋派の若手や中堅将校が多いからな」

同じ第1師団でも、比較的のんびり?した気風だった第57連隊(千葉県佐倉)に居た国枝少佐や大友少佐には、第1や第3連隊の姿が異様に見えたと言う。

「実際の所、第1軍団で警務隊に目を付けられているのは第1師団でも、第1と第3戦術機甲連隊、それに第1機械化装甲歩兵連隊と第1機動連隊、それに富士教だよ。
禁衛師団は『皇帝陛下の師団』で、摂家とは折り合いが悪いし。 第3師団は2割程度かな? 俺の部下には居ない、むしろ『馬鹿馬鹿しい』って感じている奴が多い」

第3師団(第1軍団)の大友少佐が言う。 すると第13師団(第4軍団、第1軍所属)の国枝少佐も頷いた。 
西関東防衛任務の第4軍団は、心情的には第7軍(北関東絶対防衛線部隊)に近しいものを持っている。

「・・・とは言え、このままの国内状況が続くと、今は少数派でも今後はどうなるか判らんな」

周防少佐がツマミを食べながら、ポツリと呟く。 国内に溢れる難民と、それに関わる多大な不安材料、内政問題は山積みのままだ。

「かと言って、甲21号を奪い返す以外の最優先戦略課題は他に無いぞ。 内政問題は、それからになるだろう」

長門少佐が酒杯を傾けながら、渋面でそう言う。 彼等にとっても他人事ではない、部下の中には親兄弟が難民キャンプで苦労している、西日本出身者も多いのだ。
そう言う意味では、西日本の状況はどうなのだろう? BETAの本土侵攻で壊滅を免れた西日本地域は、沖縄地方を除くと南九州と近畿中南部、四国南部、そして東海地方だ。

「関西はまあ、元気だな。 と言うか、京都を中心に要塞都市化するのに、大量の軍需物資が必要になった訳だが・・・」

その時の関西経済界、いや、特に『大阪商人』の逞しさは、呆れと共に語り草になっている。 中には壊滅した広島や北九州にまで、営業をかけに行ったそうだ。
曰く、『商売して稼いで、そんで食わな、死んでまうやん。 それに儲けが目の前にあんのに、指咥えるだけなんか、アホや。 損なだけやんか!』と・・・
京都が壊滅し、その結果として尊王意識も摂家への忠誠心も、欠片程も持ち合わせない大阪が西日本の主流となった結果、西日本での国粋意識は非常に希薄だった。

「ははは・・・何しろ大阪は、大昔の『ゴーストップ事件』の伝統があるからなぁ」

『ゴーストップ事件』は昭和一桁の時代に、大阪市のある交差点で起きた陸軍兵と巡査の争い、およびそれに端を発する陸軍と警察(内務省)の、大規模な対立である。
元々この地域は、政府(官)の威光を軽視する向きが強かった。 『商都』として町人自治の歴史が長く、面子や建前よりも実利を重んじる気風が強い。
国粋主義者の主張は、『それやったら、自由に商売が出来へんやんか!』と、この地域では全く相手にされていないのが実情だった。

「・・・元々、右派の学者が捏ねくり上げた思想を、現代風に焼き直したものだ。 血気盛ん過ぎる若い連中が、青筋立てて騒いでいるけど、実情に合っちゃいない」

周防少佐の言葉に、伊庭少佐が続ける。

「俺もな、この間、棚倉(棚倉五郎少佐、第10師団)と飲んだ時に話したんだがな。 ほら、俺らの世代はな、少尉の頃に大陸派遣で中共を見て来ただろう?」

中国共産党は、ソ連をも上回る強圧独裁を持って対BETA戦争に臨んでいたが、結局は大陸から叩き出され、今は台湾で『間借り人』となっている。

「九-六作戦の時もそうだった。 連中、戦略上の必要が有れば自国民の1000万人位、平気でBETAの餌に投げ出していた。 何せ、13億人だからな。
俺達はそれを見て来た、逆にその位やらないと、まともに大規模なBETAの侵攻を押し止められない事を。 それでもまだ、不足だった事を」

周防少佐、長門少佐、国枝少佐、大友少佐が頷いている。 彼等は皆、1992年4月から大陸派遣軍の一員として、満洲方面で戦った経験があるのだった。
そして中国共産党が満洲を完全に失ったのは、1996年の事。 日本の本土侵攻に先立つ、約2年前の出来事だった。

「まともに中共の戦略を見て来たのは、精々19期辺りまで。 それ以降は大半が半島防衛戦以降の経験しか無い。 一部は南満州防衛戦を経験しちゃいるけどな。
違うんだよな、受け取り方が―――『この程度で済んで、何とかなる』と思っている俺たちの世代と、『こんなはずじゃない、日本はこんなはずじゃない』って思っている世代と」

世代の意識格差は、特に中堅指揮官達が強く思っている事だった。 大陸派兵を経験して来た大隊長や古参の中隊長クラスと、経験していないより若い世代との格差。
特に当時、大陸派遣任務に無かった本土防衛軍に所属していた者達の間に、その格差が大きい様に感じられるのだ。

「久賀の所は、大陸派遣軍上がりが殆ど居ない。 ほぼ、当時は本土防衛軍に居た連中だ。 大陸の状況を知らない」

「だからかな? 若くても派遣軍を経験した連中は、今の政府の状況を達観している。 が、経験の無い連中は憤っている。 無理も無い話かもしれんが・・・」

「少佐に進級する前に、第3連隊との合同演習があってな。 終わった後の懇親会で、久賀の奴が苦労していた。 酒に酔った部下の国粋論を宥めるのにな」

「奴も、無碍には出来ないんだ。 第1師団には員数増強で、九州で壊滅した部隊の生き残りが多く配属されている。 同郷で、故郷の防衛戦で共に苦労した部下達だからな・・・」

国枝少佐、大友少佐の話に、周防少佐も長門少佐も、そして伊庭少佐もしんみりとなってしまう。 彼らにも判る、苦労を共にした部下との繋がりと言うものが、どれ程のものか。

「それより俺は、早く本年度戦略目標計画の策定をして欲しい」

周防少佐が愚痴る様に言った。 他の4人も同様に頷く。

「噂通りの年末大攻勢なのか? それとも暫くの間、専守防衛なのか!?」

長門少佐が吐き出すように言う。

「士気の問題も有る。 専守防衛じゃ、サンドバッグとどう違うんだ? って思う連中が増える」

国枝少佐が溜息をつく。

「訓練だってなぁ・・・ハイヴ突入戦に重点を置くのか、それとも防衛戦闘訓練に重点を置くのか・・・計画が決められん!」

大友少佐が、憮然と言う。

「最近は、中隊長連中からの突き上げも酷くなってきたよ。 連中も下から、やいの、やいのと言われているようだがね・・・」

伊庭少佐が溜息交じりに零す。

そうなのだ、国家戦略の迷走ぶりは、現場の方針にも多大な影響を与えている。 特に現場と後方の司令部とを繋ぐ立場の、大隊長クラスの中間管理職の苦労は計り知れない。

---その時だった。

「今晩は」

「まあ、何かしんみりなさって。 さあさ、どうぞ一献」

芸妓衆が入って来た。 こんな国情となっても、遊興の場の仕事に就く者は必ず居る。 社会としての需要は決して無くならないのだ。

「おっ! 綺麗ドコロ、待ってました!」

「えーい! 辛気臭い話は、止めだ、止め! おい、こっちも酌をしろよ!」

「もう、今夜はどうでもいい! 女房がなんだ! 俺は飲むぞ!」

「こっち来い! 綺麗ドコロで両手に華だ!」

「俺は気にしない」

その夜は結局、深夜までどんちゃん騒ぎが繰り広げられた。





「むっ・・・く、痛っ・・・くそ、飲み過ぎたか・・・?」

周防少佐が目を覚ますと、そこは自宅の寝間だった。 はて? いつ、どうやって帰って来たのだろう? 全く記憶が無い。
時計を見れば朝の8時過ぎ。 今日は非番で良かった、本気でそう思った。 眠い目をこすりながら洗面台で顔を洗い、食卓の有る居間の方へ向かう。
廊下から襖を開けて居間に入ると、朝食の用意がしてあった。 彼の妻が双子の幼子をあやしている―――何やら、得体の知れないプレッシャーも感じる。

「・・・おはよう、祥子」

「・・・」

が、妻は無言である。 珍しい、普段は優しく朗らかな妻なのだが。 何か得体の知れない地雷を踏みそうな気がして、周防少佐は黙って自分でご飯をよそう。
そして小さな声で『いただきます』と食べ始める事暫く。 黙っていた妻が子供達をあやしながら、怒気を含んだ声で話しかけて来た。

「・・・同期会は、軍でも大事な行事だから、とやかく言いません。 私も自分の同期会には出席するし・・・」

「・・・祥子?」

「たまに深酒が過ぎても、それで目くじら立てたりもしないわ。 普段はそうじゃないって解っているから」

「あの・・・奥さん?」

「でもね・・・アレはどうかと思うの。 いくら夫婦とは言え・・・!」

「えっと・・・俺、何か気に障る事でも・・・?」

途端に美しい顔に柳眉を逆なでにして、怒り始める周防夫人。

「覚えていないのっ!?」

「スミマセン、記憶が吹っ飛んでいます!」

両親の大声にびっくりしたのか、幼い双子の子供達が吃驚して泣き始めた。 慌てて子供を抱きかかえてあやしながら、妻―――綾森(周防)祥子少佐が涙目で抗議する。

「酔っ払って帰って来て! 揚げ句の果てに玄関口で、私を押し倒したじゃない、あなた! わたし、イヤだって言ったのに!」

「・・・え゛?」

思わず手に持った箸を、ポトリと落とした周防少佐。 それに追い打ちをかける様に、妻の文句は続く。

「揚げ句の果てに、昨夜は何度も・・・! 子供達が泣いているのに、私を離してくれなくって・・・!」

「あ・・・あう・・・」

冷汗が止まらない。 全く記憶が無いのだから。

「反省して頂戴、あなた! お酒は飲んでも、飲まれないで! 判ったのっ!?」

「は、はいっ! 肝に銘じて・・・!」

責める姉さん女房に、平謝りに謝る年下の夫。 まあ、どこにでも有る光景だった。 最後に『危険日だったのよ、3人目かも?』と言われ、周防少佐は何とも言えない表情だった。

そして朝食後に家の外の隣家との協同の『喫煙場』で一服していると、頬に鮮やかな手形を付けた隣家の主人―――長門少佐が出て来た。 お互いに何とも言えない表情だ。

「・・・3人目かも、って言われた・・・」

「・・・俺はこの通り、ビンタの後で『2人目も欲しい』だとさ・・・多分、お前と同じ事、やっちまったし・・・」

夏の朝、空は快晴で今日も暑くなりそうだった。 蝉の声が大きく鳴り響いていた。




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