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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 予兆 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/07/08 23:09
2001年7月18日 1120 日本帝国 帝都・東京 市ヶ谷 国防省庁舎D棟 兵器行政本部第3会議室


「―――ですので、以上の理由により、『試製99型電磁投射砲』の海外搬出は妥当ではない、との見解を装備施設本部として申し上げます」

装備施設本部から出席していた海軍中佐が、部局の意見を言い終わり着席する。 その内容に同意、とばかりに頷くもの多数。 顔を顰める者少数。
そして次に挙手をして、発言を求める者が居た。 長いストレートの黒髪をアップに纏めた陸軍の女性少佐。 国防省戦術機甲本部第1部第2課で、新任の企画班長を勤めている。

「―――機甲本部、綾森少佐。 意見具申」

「―――綾森少佐、どうぞ」

議長役の国防省兵備局の大佐が発言の許可を与えると、綾森祥子陸軍少佐は席から立ち上がり、意見を述べ始めた。

「はい―――本第6項、『試製99型電磁投射砲のシベリア戦線移送』に関しまして、機甲本部よりの意見を申し上げます」

それは要約すると、大体以下の内容だった。

ひとつ、『試製99型電磁投射砲』の運用要員の安全が、十全に計られているとは言えない事。
ひとつ、『試製99型電磁投射砲』の実戦運用試験は、新潟、或いは北九州でも十分事足りる事。
ひとつ、『試製99型電磁投射砲』の運用検討は諸兵連合部隊での運用検討でこそ、我が軍の運用想定に合致する事。
ひとつ、『試製99型電磁投射砲』の戦場運用実態の調査研究に当の帝国軍、つまり機甲本部、兵器行政本部、技術研究本部の不参加は、データ蓄積の上で甚だ不合理である事。

「―――特に現運用要員につきましては、全てがメーカーへの出向教育を施した上で、『試製99型電磁投射砲』の運用・整備における我が国唯一の専門家集団であります。
来るべく制式採用後、各配備先の整備部隊に対する教育・指導等、中核的な責務を背負うに足る人材と、機甲本部で確信をしております人材達です」

然るに、ソ連は形の上では未だ仮想敵国。 しかも『試製99型電磁投射砲』関連の教育、実戦試験、運用検討は戦術機甲本部内でも極秘中の極秘。
それを仮想敵国と言う、しかもアラスカでは無く、カムチャツカと言う北東アジア戦線の最前線での運用―――人員の喪失、或いは器材の破損・喪失に対する可能性と懸念。

「―――また情報本部より提出の有りました、昨今のソ連大使館付武官主導による、一連の軍事情報漏洩未遂事件。 お忘れでしょうか、ソ連が『仮想敵国』である事を。
そして現地における機密情報保持のレベルは、国内よりも数段以上劣るものとなります。 以上の見地より、機甲本部としましては、反対せざるを得ません」

戦術機甲部隊・機甲部隊・機械化装甲歩兵部隊への専門教育、関係学校の管理、諸兵連合部隊の調査研究に整備、外国軍採用実態、戦場運用実態の調査研究。
これらは全て、国防省機甲本部の所轄する専管事項だ。 今回の『試製99型電磁投射砲』関連の運用・整備員教育、運用調査と検討等も、戦術機甲本部が主管して行っていた。 

―――よって、その主管部署が『反対』と言えば、『試製99型電磁投射砲』を持ち出せない。

いや、現物自体を持ち出す事は出来るだろう。 兵器行政本部、統帥幕僚本部第2部(国防計画部)、国防相兵備局の同意さえ得られれば。
ただし、あくまで現物だけだ。 その取扱いに精通した運用・整備要員を出す事が出来なければ、性能を発揮出来ないところか、まともに稼働すらできない。

「―――議長、宜しいか?」

静かに、ゆっくりと挙手をして発言を求めたのは、国防省兵器行政本部・第1開発局第1部(造兵)の巌谷榮二中佐。 陸軍では珍しい、斯衛からの逆移籍組だ。

「先程の装備施設本部、ならびに戦術機甲本部の綾森少佐のご意見、最もと認識する次第。 しかし事は我が日本一国の話だけではない事を、諸官には認識して頂きたい」

巌谷中佐の意見は、要約すれば次の様な事であった。

ひとつ、『試製99型電磁投射砲』を日本帝国だけが保有したとしても、その事が『世界中の』脅威の排除―――ハイヴ攻略の要には成りえない事。
ひとつ、広く諸外国、特に現実的な脅威に晒されている最前線諸国への配備が進む事により、全世界規模の戦況回復と同時に、日本帝国への国際信頼は計りしれない事となる。
ひとつ、レールガンの技術自体は、古くから知られた古典技術に過ぎない。 産業用レールガン自体は1980年台には実用化されており、機密技術ではない事。
ひとつ、我が国での公射データの信憑性の低さ。 これは長年に渡り、兵器開発面で諸外国との協同開発等を拒んできた弊害である。
ひとつ、故に先述公式データの信憑性を高める事は、帝国の国際信頼向上―――即ち、潜在的同盟諸国の有形・無形の協調体制を促進し得る事。

「故に本官は、『試製99型電磁投射砲』のシベリア移送―――国連軍への一時移送を賛同して頂く事、諸官にお願い申し上げる次第であります」

これに対し、先程発言した戦術機甲本部の綾森少佐がまた、挙手をして発言を求める。

「失礼ながら、巌谷中佐―――中佐の内容はかなりの部分で、政治的要素が色濃く出ている様に見受けられます。 確かに、それは認識の根本ではありますが・・・
現在は『試製99型電磁投射砲』、その海外移送・海外実戦運用試験の実用性を問う、予備検討会の筈です。 問うべきは実用性、『試製99型電磁投射砲』の実用性です」

―――政治向きの話は、この後で行われるであろう部局長級会議での参考意見として言ううべき。 綾森少佐の目は、そう言っていた。

所詮、彼ら、彼女等は中佐や少佐であり、各部署では各課の各実務班長や、課長代理に過ぎない。 政治色の強い決定事項は、部局長級会議で将官達が決定する事案だ。

「―――失礼した。 だが我が国を問わず、戦場では一日も早く、確実にBETAを殲滅し得る兵装を望んでいる事を、忘れないで頂きたい」

「―――承知しておりますわ、中佐。 小官も神戸での戦闘負傷で片腕、片脚を疑似生体移植で衛士資格を喪失する前は、大陸と半島で6年間の実戦を戦って参りました」

貴方がデスクワークに入った頃、激化する大陸戦線、そして本土防衛戦で、汗と涙と血と、そして泥を食んで戦ってきた身だ。 最前線について、教えられる事など無い。
『試製99型電磁投射砲』が制式採用された際の戦況への影響や、最前線将兵のモラールなど、中佐に語られる以前に肌身で理解出来る―――綾森少佐の目は、静かにそう語っていた。

どうやら、藪蛇をつついた様だ―――そんな感じで苦笑しながら、巌谷中佐はそれ以上の発言を求めなかった。 
そしてその日の、帝国軍兵器行政予備会議(佐官級の実務者予備会議)は、結論を見る事無く、次回へと持ち越しとなった。





「ご機嫌斜めね、祥子?」

綾森少佐が国防省庁舎厚生棟の食堂(佐官以上が利用する食堂)で、遅めの昼食を食べていると上から声が降って来た―――同期生で、兵器行政本部勤務の三瀬麻衣子少佐だった。

「麻衣子・・・んー、ご機嫌斜めと言うか・・・引っ掛かるのよね・・・」

「もしかして、さっきの巌谷中佐の事?」

兵器行政本部第1開発局第2部の第3課で、分析班長を務める三瀬麻衣子少佐は当然ながら、先程の予備会議に出席している。 
そして戦術機開発関連全般の行政管理全般は、第2部の掌握する所であり、その企画担当課の第3課は今回の事案、反対の立場だった。

陶器製の食器(上級将校用の食器は、3軍とも陶器製の高級品だ!)に盛られた合成のメンチカツを箸でつつきながら、食欲無さ気に綾森少佐がこぼす。

「だって、順当に考えれば誰だって無理な話だと判るじゃない? 一体どこの国に、極秘開発中の兵器を海外で実戦運用試験する国があるの? それも運用を自国軍で無く。
運用も、実戦試験も、自国軍ではなくて他国軍に任す国って、あると思う? 今回は国連軍だけれど、余計に始末が悪いわよ? どこでどう、情報が飛び交う事か・・・」

国連軍の情報部署は、ある面で各国軍情報機関の出先組織の一面を有する。 綾森少佐の呆れに似た言葉に、三瀬少佐も訝しげに同意して呟く。

「そうね、確かに我が軍の公試発射データが、信憑性が低い事は確かだけれど、まだ試験開発中だしね。 データの信憑性云々を言うのなら、売り込み時に証明すれば良い話だし」

「巌谷中佐が進めた、国連軍の『プロミネンス計画』への参加。 あれは私も賛同するの。 主人も言っていたわ、『外からの刺激無しに、向上は無いんじゃないか?』って」

「祥子のトコのご主人、あちこちで色々な機体に搭乗しているしね。 ウチの主人も、試験隊を率いているから・・・参謀本部の大友中佐の様な人の意見には、合わないみたい」

「そうでしょうね・・・でも、源君は温厚な常識人だから心配無いけれど・・・ウチの主人は、頭に血が上ったら何を言いだすか・・・実戦部隊である意味、良かったわ・・・」

三瀬少佐の夫君、源雅人少佐は国防省技術研究本部の第1技術開発廠審査部部員であり、同時に4個戦術機試験中隊を統括する、試験部隊司令・兼・審査主任をしている同期生だ。
綾森少佐の夫君。周防直衛少佐は本土防衛軍司令部直轄の即応部隊、第15師団で戦術機甲大隊長をしている。 こちらは1期後任、つまり綾森少佐は1歳年上の姉さん女房だった。
共に若かりし少尉時代から戦術機に搭乗して同じ隊で、あちこちの戦場を共に戦い、生き残ってきた間柄だ。 それだけに本音も言える。

「―――私個人としてはね、条件次第では出しても良いと思っているの」

「条件って?―――お行儀悪いわよ? 祥子」

ご飯の盛られた茶碗を持ったまま、箸でつつきながら話す親友に、笑いながら続きを促す三瀬少佐。 
これ以上食欲が無いのか、7分目で食事を終えた綾森少佐が、熱いお茶を啜りながら答えた。

「いずれ、戦場での実射試験はしないといけないし。 でも新潟も北九州も、ここ数カ月はBETAの活動が不活発と推定されるでしょう?
反面、カムチャツカ方面はBETAの活動が活発化してきている事は、偵察衛星からの情報でも明らかだわ・・・実射試験フィールドとしては、お手頃なのね」

シベリア・カムチャツカでは、光線属種の存在が確認されていない。 人類にとってある意味『最悪のBETA種』とも言える光線属種がいなければ、実戦試験に申し分ない。

「そうねぇ、でも問題は、機密保持と収集データの信憑性ね・・・もしかすると、どこぞの国の息のかかった国連軍の一部が、改竄データを送りつけてくる可能性も否定できないし」

「それに、運用場所がソ連国内じゃね。 GRU(ソ連軍参謀本部情報総局)第9局(軍事情報)が、黙っていないわ。 
場合によってはKGB第1総局A局(秘密作戦)やS局(イリーガル)を呼び込む事になりかねないかも・・・」

だからこそ、『試製99型電磁投射砲』の実射運用試験を行う、と言うのであれば、その運用人員を帝国―――機甲本部か技術研究本部の審査部が、現地で行う。
無論、機密保持の観点から大隊規模の警備部隊も派遣する必要があるし、運搬手段として運輸本部にも協力を。 機密保持の現場指揮は情報本部から要員を・・・

「流石にKGBは無いのじゃないの、祥子? 考え過ぎじゃないかしら? ご主人に毒されたの? 確かお身内が・・・」

「ふう・・・右近充の叔父様の影響かしら? 何気に意味深な事を仰る方だから・・・」

国家憲兵隊特殊作戦局長・右近充憲兵中将は綾森少佐の夫君、周防少佐の叔父である。 その職務上、GRUやKGBとは『深いお付き合いの間柄』だった。
日本帝国軍とソ連邦軍、特に海軍同士は親ソ的、親日的な土壌が互いに形成されつつある。 しかし陸軍同士は良く言って『冷ややかな礼儀』状態だし、国家は互いに仮想敵国だ。
そして国家の情報・防諜組織―――帝国情報省、内務省警保局外事局と特別高等公安警察、それに軍情報部と国家憲兵隊は、ソ連邦GRUとKGBを敵対組織と認識している。

「―――カムチャツカのソ連軍は事実上、ソ連邦中央軍事会議の直轄下でしょう? 国防省も参謀本部も、上位下達だけで・・・
中央軍事会議で最近、国家保安委員会議長が党政治局員の資格で力を付けている・・・って、回覧情報で回っていたじゃない?」

少佐で国防省(の、外局各本部)の実務班長にもなれば、かなりのレベルの外秘情報に接する事もある。 それが憲兵中将ともなれば・・・

「・・・ここだけの話、ウチの課長も上から圧力をかけられているみたいなのね」

「・・・本当なの?」

三瀬少佐の言葉に、綾森少佐が眉を顰める。 兵器行政本部第1開発局第2部の第3課長は、この6月に昇進した河惣巽陸軍大佐がその任に付いている。
古くは92式戦術歩行戦闘機(『疾風』)の制式採用に功の有った人物だ、三瀬少佐も綾森少佐も、その頃からの付き合いがある人物である。

「本当よ。 この間、ウチに来た藤田大佐(旧姓・広江。 6月進級。 結婚後の姓に変更)と、怒鳴り合いの大喧嘩よ―――怒鳴っていたのはもっぱら、ウチの課長だけれど」

「藤田大佐と?―――統幕(統帥幕僚本部)の国防計画課長が、わざわざ!?」

藤田直美陸軍大佐は、統幕第1局第2部(国防計画)の国防計画課長を務める。 日本帝国の戦争遂行計画を事実上決定する、極めて重要なポジションの人物だ。

「ええ、どうやら上・・・政治的判断ってのが、既にある程度決定している様ね。 だから巌谷中佐も、大人しく引き下がったのよ、多分」

「・・・もう既に、内定済って訳ね? それじゃ、河惣大佐も怒るわよ。 兵器行政は大佐の専管なのだし。 でも不思議ね、巌谷中佐はどこでそんな、政治的な糸を?」

例えばこれが自分の夫ならば、叔父の右近充憲兵中将に囁くだろう。 或いは第5戦隊司令官から軍令部第2部長(軍備担当)に栄転した、これも叔父の周防海軍少将辺りに。
夫自身は政治的な伝手など持たない、純然たる野戦指揮官だが、夫の叔父たちは政治的影響力を持つ、或いは持っている政府要人に繋がりを持つ人物達だ。 

だからこそ、綾森少佐は不思議だった。

「いくら、巌谷中佐が斯衛出身とはいえ・・・確か、家格は山吹か白でしょう? 武家とは言っても・・・それに五摂家を始め、武家は現実政治から遠ざかっているし・・・」

「その辺は不明ね。 噂では情報本部(国防省情報本部)や、2局(統幕2局5部:防諜)が動いているとも・・・本当かどうか、怪しいけれど。 で、祥子。 機甲本部としては?」

「・・・『政治的判断』が決定したのなら、従うしかないわ。 文民統制よ。 でもそうね・・・マスターコードの閲覧権までは、与えられないわ」

「現地責任者が、一介の中尉じゃね。 で、どこら辺まで?」

「―――『異常在らざる場合にのみ、自爆コードを受け入れる』かしら? こんな所で手を打たない? 麻衣子?」

「ソ連側がちょっかい出して、不正アクセスをかけた場合、セキュリティプログラムが数段上のレベルで働く、アレね?
そうなっちゃえば、ハードは兎も角として、ソフトはセキュリティにソフト・キルされた後だから・・・いいわ、兵器行政本部としては、異論無しよ」

兎に角も、2人の実務班長同士の合意は為された。 後は不機嫌で有ろう上司を宥める事だ。 その時、綾森少佐も三瀬少佐も、後日に懸念が実態化するとは、確信していなかった。









2001年7月20日 1325 日本帝国 東京湾上木更津沖 帝国第3食料生産プラント


一辺が5km四方もある巨大な埋め立て地、そこに巨大な食糧生産プラントが複数、建設されていた。 本日から全面稼働が開始され、そのセレモニーが終わったところだった。

「・・・これで、首都圏の食糧事情も、ある程度改善されますな。 周防さん、ご苦労様でした」

農林水産相・石黒義篤大臣が、傍らの民間人の労を労わる。 『農政の神様』と呼ばれ、一端は破たんした日本国内農業生産の立て直しを、一身に背負う人物。

「いえいえ、未だ第4プラントは建設中ですし、第5プラントも着工しました。 仙台の第1、第2プラント、函館湾の第3プラントで北日本の食糧事情は改善できましたが・・・」

その民間人―――今回の第3食料プラントの建設を受注し、完成稼働にこぎつけた大日本食品工業の重役・周防直史取締役常務(技術本部長)は、まだまだ先が長い、そう言う。
仙台の第1、第2プラントは光菱が、函館の第3プラントは石河嶋が、それぞれ受注して建設した。 いずれも重工関連の複合財閥だった。
そして今回の第3プラントと、建設中の第4プラント、着工した第5プラントは、近年になって食品加工、化学産業全般に乗り出してきた大日本食品工業が受注している。

「・・・後は、伊勢湾の第6、第7プラントと、大阪湾堺沖の第8、第9プラントが完成すれば。 そうなれば、我が国は食料の安定供給―――自給率100%を達成可能だ」

「―――諸外国から、いらぬ圧力が減りますかな?」

「ははは・・・周防さん、それはデュポント(米デュポント社。 大日本食品工業の提携企業で米3大財閥のひとつ。 世界第2位の化学工業企業)からのネタですかな?」

際どい話だ。 この食糧生産プラントについても、米国からは様々な圧力をかけられているし(日本は米国にとって、食糧輸出の大口顧客だ)、他からも色々と・・・

「プラントの一部に使用しています透過皮膜は、デュポントが特許を持っております。 彼等にとっては、食糧生産プラントの需要が多ければ多い程、有り難いと言う事です、大臣」

「・・・同じ米国内でも、立ち位置が異なれば見解も違う、そう言う事ですな」

「時に商売とは、国家間や国際社会の範疇外で動きます」

「そして、気が付けば国策や国際外交に影響を与える・・・貴重な情報だ、感謝しますよ」

そして石黒大臣はもう一度、食料プラントを見渡した。 米や麦、雑穀の生産プラント工場が25棟、各種野菜の生産プラントが18棟。 
他に畜産生産プラント21棟、魚介類養殖生産プラント21棟、合成タンパク生産プラント38棟。 これに各種加工プラントが22棟、各種浄化・処理施設、送配水管が縦横に走る。
巨大な施設だ。 ここだけで年間約800万人分の食料を生産出来る。 これまでで帝国は、約4000万人分の食料の自給を達成する事になった。

「・・・私は農政馬鹿だ、国民の腹を満たす方法を考えるしか、他に能の無い男です。 ですがそんな私でも思う、もしこの技術を・・・プラントを輸出できれば・・・」

「東南アジア、南アジアに北アフリカ、ヨーロッパ・・・親日国家や、親日的な国家連合体が、グッと増えましょうなぁ・・・」

「統制派はそれをまだ望んでいません、いずれはその方向にと考えている事は確かなようですが。 国粋派に至っては、『帝国技術の真髄を、海外に流出させるとは!』などと・・・」

「・・・私も、家に石を投げつけられました。 まあ、私と老妻だけならば如何様にでも、と言いたいところですが。 
家には戦死した長男の子供達・・・孫達も嫁と同居しておりまして。 いっそのこと、嫁と孫達は次男の家に身を寄せさそうかと、考えております」

「それは・・・ご愁傷様です。 どうでしょう、周防さん? 内相(内務大臣、国内治安も担当する)に話しておきますので、ご自宅周辺の警戒をして貰っては?」

「いえ、そこまでして頂いては・・・まあ、何とかなりましょう。 次男夫婦も、長女夫婦も帝都に暮らしておりますので」

「息子さんは・・・ご次男さんは、何をなさっておいでか?」

「陸軍将校を。 今は少佐になりましたか、戦術機乗りなどしております。 長女の夫は内務省の官吏でしてな。 ま、他に弟や、妹達の家も近くにあります。 大臣、ご心配なさらず」

痩身の、如何にも技術畑出身、という印象を裏切らない、大日本食品工業社の周防常務。 彼の次男は帝国陸軍で、第15師団の第151戦術機甲大隊長をしていた。

「いずれにせよ大臣、これで帝都周辺の難民の方々にも、十分な食料配給が可能になりましょう。 そう、今年の暮れ頃までには・・・」

「それまで、何とか辛抱して貰う―――それが、私に課せられた任です。 『農政馬鹿』の一念、この国難を支えて見せましょう」











2001年7月22日 1630 日本帝国 栃木県宇都宮市 東部軍管区第7軍・第18軍団司令部 第1大会議室


「―――『赤軍』第15師団、第2機動旅団、側面迂回攻撃開始」

「―――『青軍』第40師団第1機甲大隊、側面攻撃被弾。 損害・・・38%」

おおっ!―――どよめきが走る。 損害38%、もはや部隊として何の役にも立たない程の損害を受けたと、そう判定されたのだから。
これで第40師団は有効な近接砲撃支援戦力を喪失した、正面からは『赤軍』の第15師団第1、第3機動旅団の猛攻に晒され、側面から新しい圧力をかけられ・・・

「―――第40師団、損耗31% 第401戦術機甲連隊第3大隊、壊滅」

「―――『赤軍』第49旅団、壊滅判定。 第14師団第141戦術機甲連隊、前進開始。 損失11%」

「―――『赤軍』第15師団、全面攻勢開始。 第40師団司令部壊滅とする」

統裁官が無情にも宣告する。 これで第18軍団の一角が崩れた、防衛線左翼に位置する第40師団が崩れた為、隣の第14師団は新たな脅威に直面する。

「―――『青軍』第14師団、第1、第2旅団戦闘団。 第15師団全面へ」

「―――第14師団、第3旅団戦闘団、『赤軍』第51旅団へ攻勢開始」

しかし、3個戦術機甲連隊を中核とし、並みの師団2個から3個分の重火力を有する甲編成の第14師団の場合、単独で軍団規模の戦闘力を有する。
瞬く間に1個旅団戦闘団が、残った『赤軍』の1個旅団に襲い掛かり、残る2個旅団戦闘団―――第15師団の全力とほぼ同数―――を、第15師団全面に展開させた。

「・・・やり難いですね、14師団は」

「何と言っても、甲編成師団だ。 乙編成師団で構成された軍団規模の戦闘力を持つ・・・来た様だな、第2だ。 先頭は・・・永野君の第142の第2大隊か。 准将?」

「まず、我が全力で敵の分力を撃つ、だな。 荒蒔君、有馬君、R機動旅団で第2大隊を牽制しつつ、周防君、間宮君のA機動旅団で左翼、長門君と佐野君のB機動旅団で右翼。
最低でも永野君(永野蓉子少佐)の第2と、高浜君(高浜恒義少佐)の第3は叩ける。 宇賀神君(宇賀神勇吾中佐)の第1が後ろに下がる直前で、周防君、君の大隊を突っ込ませる」

地形上の関係で第14師団の各戦術機甲連隊は、1本道を大隊毎に突破せねばならない。 演習状況で高所に光線属種―――自走高射砲大隊が居座っているからだ。
直線飛行を強いられれば、戦術機も自走高射砲で撃破できる。 いや、そもそも戦術機以上の高速で、高空を飛来する航空機に対して開発された兵器だ、戦術機を撃破する事は難しくない。

「―――第14師団、第142戦術機甲連隊第2、第3大隊、損失59%」

定数40機の内、24機から25機を失った2個大隊は、急遽後退を決定する。 後方に位置した第1大隊―――副連隊長で、最先任指揮官の大隊も後退を開始する。
その瞬間に頭上の尾根越しに、第15師団A機動旅団の戦術機群―――要撃級BETAを想定した一群が逆落としの攻撃を仕掛けた。

「―――第14師団第142戦術機甲連隊、防御射撃開始」

「―――第15師団A機動旅団、損失11%」

「―――第14師団第142戦術機甲連隊、損失67% 指揮官全滅」

もう混沌だった。 第142が壊滅している間に、戦場を迂回機動で移動して来た第143戦術機甲連隊を中核とする、第3旅団戦闘団が、今度は第15師団の側面に痛撃を与える。

「―――第15師団、B機動旅団壊滅。 指揮官戦死」

「―――第14師団第3旅団戦闘団、側面攻撃をうけつつあり。 損失22%」

「―――第15師団、全面攻勢開始」

最後は地力で勝る第14師団が、何とか第15師団司令部を陥した時点で、兵棋演習が終了した。





「まいったのう、お前、何時の間にあんなに腕を上げたんや?」

宇都宮基地の一角、厚生棟の中の将校集会所である。 第14師団の木伏一平少佐が、コーヒーカップを傾けながら、若干悔しそうに言った。

「腕を上げた・・・と言うより、嫌がる事をしただけですけどね。 自分が戦場で『この状況は嫌だ』と思う事をね・・・」

第15師団の周防直衛少佐が、少し首を竦めながらそう言う。 木伏少佐の大隊は今回の兵棋演習で周防少佐の大隊に側面強襲を受け、壊滅判定をされたのだった。

「ですがその前の・・・周防少佐と長門少佐が1個中隊ずつを抽出して、側面から囮攻撃を仕掛けようとした時の、統裁官の叱責は凄かったですね」

そう言うのは、第15師団第155戦術機甲大隊長の佐野慎吾少佐。 周防少佐と長門少佐が苦笑しながら、お互い顔を見合わせて言う。

「ん、ああ・・・頭をガツンとやられた、アレは。 自分では判っていたつもり・・・なんだけどなぁ・・・」

「大隊を任されてから、少し有頂天になっていたかもな。 直接率いる部隊の規模、戦場での戦況に与える影響力・・・」

軍で最も美味しいと言われる役職は、海軍や航空宇宙軍での艦長、そして陸軍の大隊長だ。 いずれも1個の独立した戦術戦闘単位を指揮し、その自由度も高い。

「―――『無識の指揮官は、殺人者なり』か・・・そうやのう、大隊にしても、数十人の衛士達を直接指揮しよるし、支援部隊を含めたら数百人や。
その命が掛ってるんや、指揮官たる者、より最善の方策をいかに見出すか、身を削る様な勉強、研究をして、実戦での研鑽を勤めてこそ『指揮官』やわなぁ・・・」

周防少佐と長門少佐の少し自己嫌悪じみた反省の言葉と、木伏少佐の『指揮官とは?』と言う言葉に、周囲も頷く。 ここには14、15師団の戦術機大隊長、その少佐達が集まっている。
木伏一平少佐は、その中の最先任。 91年から実戦で戦い続けている歴戦の猛者である。 周防直衛少佐、長門圭介少佐、永野容子少佐は木伏少佐の2期下、これまた92年春から。

第14師団の宮岡慎吾少佐と大竹基少佐の2人は士官学校の出で、92年の8月から大陸で戦ってきた。 陸士出だが、指揮幕僚課程に興味を示さない『現場タイプ』の指揮官。
高浜恒義少佐、守部厚志少佐、間宮怜少佐、佐野慎吾少佐、有馬奈緒少佐の5人は周防少佐達の期より訓練校が半年後の18期B卒。 92年10月から実戦を戦っていた。

最初は神妙に、今回の演習の反省会をしていた彼らだが、軍人、それも前線の野戦将校の常で、そんな真面目な話は長続きしない。

「そう言えば、宇賀神中佐の奥さん、3ヵ月でしたっけ?」

「そんな頃かな? いやあ、アレには吃驚した。 親父、やる事やっているねぇ・・・」

「ちょっと! 高浜! 変な言い方止めなさいよ!」

「何だよ、間宮? ひょっとして・・・うらやましいとか?」

「いや、ここは焦っている、と言うべきだろうな。 何せ半期上の先任が・・・」

「守部・・・永野さんが怖い目で睨んでいるぜ?」

「・・・と言えと、佐野が言っていましたよ、永野さん」

「守部! 貴様ぁ!」

最年少の少佐である18期B卒の彼等も、そろそろ結婚して子供が出来る者も多くなってきた。 その上の18期A卒は、生き残りの大半が結婚している。
話に出て来た宇賀神中佐(第14師団第142戦術機甲連隊副連隊長)の細君は、18期A卒。 周防少佐や長門少佐、それに永野少佐とは同期生だった。

「くっ・・・! 伊達(長門少佐夫人)はおろか、神楽(宇賀神中佐夫人)にまで先を越されるだなんて・・・!」

「旦那に言え」

「あ・・・地雷」

長門少佐の一言に、周防少佐がポツリと反応した瞬間、永野少佐の怒りの矛先が長門少佐に向いた。

「大体、アンタが悪い! 長門!」

「なんでだよ!?」

「結婚前に、伊達を孕ましたのは、一体どこの誰よ!?」

「俺だ」

「そうよ! アンタが悪い! 予定じゃ私の方が・・・くうぅ!!」

普段の永野少佐からは見られない乱れ様に、同期生の周防少佐がふと見ると、永野少佐がボトルを独り占めしていた。

「・・・永野、こいつ何杯飲んでいるんだ?」

「そうだな、さっきからストレートで4、5杯は飲んでいるよ」

「宮岡さん、判ってたんなら、止めてよ・・・」

「同期がするもんだろう? 周防さんよ?」

久しぶりに会った旧知の戦友、同期生達。 新たに知己を得た戦友。 そしてアルコールはその潤滑剤。 いつしか興に乗って、軍歌など歌い始める始末。

「結婚と言えば、おい直衛。 伊庭の馬鹿はどうした?」

長門少佐から話を振られた周防少佐が、少し複雑な表情を見せた。 それを見逃す長門少佐では無い、伊達に15年近くの付き合いでは無いのだ。

「俺はな・・・奴を、伊庭を同期生としては、頼もしい奴だと思っている。 戦場で背中を預けても安心できる奴だとな・・・」

「で? その心は?」

「・・・圭介、お前・・・あいつが『親類』になったとして、想像出来るか?」

「限りなく、想像したくない。 そうか、どうやら『撃墜』したのか?」

「正確には、まだ『小破』程度だそうだ。 この前、伊庭から電話があってなぁ・・・野郎、なんだかんだ理由を付けて、関西から出張してやがる」

周防少佐の同期生、第10師団の伊庭慎之介陸軍少佐が、これまた周防少佐の従姉の右近充京香陸軍少佐を『落とす!』と宣言したのは、マレー半島での作戦直前だった。
そして無事生還して帰国後は、半月に一度は東京まで上京しては、こまめにアタックしていると言う。 もしこれが『撃破』まで進めば・・・周防少佐としては、複雑だった。

「ま、良いんじゃね? 伊庭もそろそろ、落ち着いた方がいいだろうしな。 お前のその従姉も・・・2歳上だろう? 来年は大台だぜ?」

「そうなんだよなぁ・・・って、おい圭介。 そろそろ、その手の言葉はこの辺りじゃタブーだぜ? ・・・っと?」

「あ、居た。 って、永野少佐、もう出来上がっちゃって、まあ・・・」

「お前が連れて帰れよ、瀬間?」

「女手ひとつで? つれないですね、摂津さん?」

「仁科さんと2人なら、3人力だぜ?」

「・・・おいこら、その内の2人力が私って事か? そうなのかい? 摂津くぅん?」

将校集会所に顔を出した、旧知の大尉達―――仁科葉月大尉、摂津大介大尉、支倉志乃大尉、瀬間静大尉の4人が、呆れた表情をしている。

「あ・・・タブー予備軍・・・」

「阿呆! 黙っとけ! お、おう、久しぶり。 元気か? 4人とも・・・」

「お陰さまで・・・真咲は元気にやっています? 周防少佐?」

「元気・・・になったよ、最近は。 マレー半島でな、俺の指揮ミスであいつの部下を4人、死なせてなぁ・・・」

「そんなん、真咲も判っていますって―――で、何です? 『なんやら予備軍』って、長門少佐?」

「いやぁ、仁科、空耳だ。 それよりも、往年の第119旅団第5大隊、その第2中隊の問題児新任少尉2人組がねぇ・・・と思ってさ」

「・・・第1中隊の無茶振り先任少尉に、言われたくありません」

途端に当時を知る間宮少佐、そして有馬少佐が懐かしそうに声を上げた。

「うっわ・・・第119旅団! 懐かし過ぎる・・・93年の5月だったよね?」

「・・・私の、不運の付き始め・・・同じ中隊に、当時の長門少尉が居た・・・」

「何か言ったかぁ? 有馬ぁ?」

「・・・耳が遠くなりました? 年のせい?」

先任の仁科大尉の遣り取りに、残る3人の大尉達が苦笑しながら、ヒソヒソと話している。

「93年? 俺まだ訓練校だ、戦術機操縦課程の2年生だったよ」

「私も。 基礎訓練課程の1年生でした」

「私は・・・女学校の3年生(15歳)でした・・・」

「若いな、瀬間」

「若いわね、瀬間」

「1、2歳しか、違わないじゃないですか」









2001年7月23日 0430 日本帝国 栃木県宇都宮市 東部軍管区第7軍・第18軍団司令部 大会議室


朝の0400時、幹部将校達が一斉に叩き起こされた。 7月のこの時期は夏季課業に入っているので、軍での起床時刻は0530時なのだが・・・

「一体、何だ?」

「判らない。 だけど2部(情報)の連中が、飛び回っていたな」

「まさか・・・BETAの大規模侵攻!?」

「だったら、こんな悠長に集めないさ。 とっくにスクランブルが掛っている筈だ」

ザワザワとざわめく大会議室、主に佐官級の将校が数十人集まっている。 その一角で第15師団の面々も、借りてきた猫宜しく、大人しく座っていた(ここは15師団のホームでは無い)

「何が起きたかな?」

「新潟にBETAが大挙上陸、何て事だったら、有無を言わさず今頃スクランブルだしな」

「想像がつかない、帝都で政変とか・・・クーデター?」

「笑えるけど、笑えないのが哀しいな、それ」

そうこうするうちに、首脳部が姿を現した。 最上段に軍団長・福田定市陸軍中将。 その次に軍団参謀長・宮本忠相陸軍少将と軍団参謀団が右の列に。
左の列には第14師団長・森村有恒陸軍少将、第40師団長・天谷直次郎陸軍少将、第15師団長・竹原季三郎少将。 以下、師団司令部要員。
第18軍団参謀副長、朝霞紀彦准将が壇上に上がった。 手にした書類を忌々しげに眺めながら、やるせない口調で話し始める。

「―――諸官には、残念な報告をせねばならない。 先程、第7軍経由で東部軍管区司令部からの緊急報を受け取った。 府中の陸軍燃料廠で、大規模な爆発事故が発生した」

全員が息を飲む。 府中の燃料廠が!? 規模は!? いや、それより失われた燃料の規模は!? 作戦行動に支障は有るのか!?

「原因は不明だが・・・貯蔵燃料の15%が失われた、更に20%が消失の危機にある。 皆も承知の通り、推進剤など消火の難しい種類が多い・・・
政府からは付近住宅、半径5km圏に緊急避難命令が発令された。 今のところ、民間居住区への延焼の様相は無いが」

全員が顔を真っ青にしている。 下手をすれば、府中陸軍燃料廠の貯蔵量、その35%が失われると言う。 本土防衛軍、東部軍管区4個軍団の燃料貯蔵がだ。

「この報を受け、第18軍団は本日以降に実施予定であった、第15師団との野外演習の中止を決定した。 諸官は各部隊での動揺を鎮める事に全力を尽くせ。
なお、不足する燃料は東北軍管区、東海軍管区より、幾らかを融通する事が決定した。 他にも、国防省燃料本部で追加調達が検討されている・・・」





その日の昼を過ぎる頃には、大よその概略が伝わって来た。 勿論、上級将校の間でだ。 第15師団の面々も、苦渋に満ちた表情になっている。

「・・・推定原因は、燃料廠勤務の要員の作業ミス、か・・・」

「徴兵の、まだ16歳の少年兵か・・・責められんな、その兵も火災に巻き込まれて殉職している」

周防少佐の呟きに、長門少佐が速報の回覧情報を見ながら溜息をついた。 それに間宮少佐、佐野少佐、有馬少佐が加える様に言う。

「危険物取扱管理責任者の、有資格者なしでの作業だったとか・・・」

「最近は、どこもかしこも、似た様なものね。 頭数は揃えたけれど、教育が全面的に不足している・・・」

「軍だけじゃない、社会全般がそうだ」

「50代以上と、10代の混成か・・・20代、30代は戦死か殉職か・・・生きていても軍務についているかですもんね」

「社会の中堅が居ない。 西日本の壊滅は、痛いな・・・」

本土の約半数が壊滅した結果、あちこちに無理が生じている。 軍が大量徴兵を行った事も一因だし、3600万人を失った事も大きな原因だった。
そして新潟の第17軍団、北九州の第3軍団、北海道・南樺太の第11軍団以外の部隊には、1カ月の行動規制がかけられた。 理由はひとつ、燃料不足。

「仕方が無いな。 暫くはシミュレーション訓練だ。 各中隊で奪い合いにならぬ様、事前に訓練計画をすり合わせておく」

最先任戦術機甲大隊長の荒蒔芳次中佐が、後任者の少佐達を見回して言う。 残念ながら、今はそれしか出来なさそうだ。 それと、余計な動揺を防ぐ事。

「各中隊長には、追加燃料補充の話はしておきましょう。 連中もただ『うろたえるな!』だけでは、手札が少なすぎます」

「良いだろう、私から師団本部へ上申する。 周防少佐、長門少佐、各部隊の巡回を頼む。 間宮少佐と有馬少佐は、2人に付いてくれ。 佐野少佐、整備に持ち込んだ残燃料量の確認を」

「了解です」

「はっ」

それぞれに同意して、立ち去ってゆく少佐達。 その背中を見ながら、これだけの規模の事故、隠蔽も出来ないぞ? 軍上層部は国民の不安をどうする気だろう?―――荒蒔中佐はふと、そう考えた。










2001年7月25日 1630 日本帝国 帝都・東京 某所


「はあ・・・ふう・・・」

汗まみれの女が1人、ベッドに横たわっている。 その側には男が1人。 情事の後と言う訳だ。

「ねえ・・・もう帰るの?」

物憂げな表情で艶っぽく尋ねる女。 男は―――明らかに訓練で鍛え抜かれた体つきの―――は、短く刈った頭を掻きながら立ち上がり、シャワーを浴びに行くついでに答える。

「―――隊への帰隊時刻は、1900時なんだ。 今からだと飯を食って・・・良い時間だろう?」

「そう・・・寂しいけれど、仕方ないわね。 我慢するわ」

たっぷりと情の籠った笑みを返すと、男も満更ではない表情で浴室に入って行く。 すると途端に女の顔から表情が消えた。 何も身に纏わず、サッとベッドから降りる。
男の手鞄を開き、中から何かの書類を取り出して、特製の小型デジタルカメラで書類の中身を撮影する。 それだけでなく、男の手帳の類もパラパラとめくってはカメラに収めた。
それらの作業を素早く済ますと、今度は元の通りにキチンと直して戻す。 シャワーの音が消えた。 女は小型カメラを自分のバッグの中にしまい込むと、そのままベッドに戻る。

「ねえ・・・今度は、何時会えるの?」

「・・・2週間後くらいか。 そのころにまた、『勉強会』があるからな」

「2週間も? 私を放っておくつもり?」

拗ねた表情で男を見上げながら、シーツだけを身にまとった姿で見上げる女。 その姿に男はゴクリと喉を鳴らしてしまう。

「我慢してくれ。 それよりも、その時がきたらお前を迎えに行く。 今の女房とは、別れるさ・・・」

「本当ね? 本当に、奥様と別れて下さるわね?」

そう、そうなる。 そうせねば・・・妻の実家は、財閥に関わりの有る家系だ。 そしてその財閥は、現政権に近しい―――故郷を、家族を見捨てた政府に!
それに、妻との仲も冷え切っている。 元々が、士官学校を卒業して7年、閨閥を得る為に結婚した相手だ。 しかし、現主流派は統制派。 妻の実家は海外に強い。

(―――実際、気位ばかり高い、欧米好みの女は、好きになれない・・・)

そんな時、偶々知り合ったのがこの女。 内務省の事務職員で閨閥など皆無だが・・・何とも自分好みの色情を醸し出している女。

(―――あるいは、妻とは別れずとも・・・いやいや、『会』の皆はそれを潔しとしないだろう。 どうせなら、スパッと別れるのも良いか・・・)

現政権も、統制派も、そして巨利を貪り欧米になびくだけの財閥も、この国の事を真剣に考えている奴など居はしないのだ!

「―――ああ。 必ずそうする」





「―――ご苦労様」

名残惜しげに、艶一杯の表情で男を見送った後、背後から声を掛けられた女は、それまでと一転して事務的な表情に戻り、声の主に目礼した。

「―――随分、なびいてきました、主任。 そろそろ『獲得』出来そうですが?」

「そうね・・・いえ、もう少し待ちましょう」

上司(女だった)の言葉に、少し訝しげな表情を見せる女。 もう充分だと思うのだが・・・それともまだ何か、自分の気付いていない不安要素があるのだろうか?

「―――そう言う訳ではないわ、私の判断よ。 係長には私から報告します、貴女はこのまま一旦、『帰宅』しなさい」

部下が用意していたワゴンに乗りこむのを見送ったその女は、暫くの間その場に佇んでいた。 陽の暮れた帝都の一角。 昔ながらの色と欲の渦巻いた街。

「・・・『獲得』ってのもね、状況次第なの。 要はあの男と貴女が、本気で愛し合って始めて、獲得に動くものよ・・・」

「―――酷い話ねぇ? 特高(特別高等公安警察)は相変わらず、エグイと言うか、何と言うか・・・」

後ろから第2の人物―――これも女―――が現れた。 その姿を見た最初の女が苦笑しながら言い返す。

「何よ・・・情保(帝国軍統帥幕僚本部・情報保全本部)だって、十分えげつないじゃない? 横から喰らいついてさ・・・どうなのよ? 京香姉さん?」

「あらぁ? 帝国軍相手に『ハニートラップ』なんて、面白そうな事している都子ちゃんの事を心配して、『協力』してあげているのにぃ?」

その言葉に思わず苦笑する藤崎都子警部補、所属は内務省特別高等公安警察局・調査部調査1課・第2係で主任を務める。

「嘘ばっかり。 『調査』の段階で煮詰まって、こっちの手を見て速攻で手を突っ込んで来てさ。 京香姉さん、今夜はデートじゃ無かった?」

その言葉に、ちょっと嬉しそうに微笑む右近充京香陸軍少佐。 今は統帥幕僚本部・情報保全本部の防諜1課に所属していた―――マレー半島から帰国後、直ぐの配置転換。
2人の情報機関の情報工作監督官―――プライベートでは従姉妹同士―――は、暫く無言で居たが、やがて藤崎警部補が声をひそめて、呟く様に言った。

「・・・場合によっては、右近充の伯父さんに話を通したいの」

「・・・父さんに? それって都子ちゃんの独断? なら、止めておきなさい。 消されるわよ?」

「・・・まさか。 課長の指示。 お相手は多分、ウチの部長(特高調査局調査部長・警視長クラス) 伯父さんと話すには、釣り合い取れるでしょう?」

藤崎警部補の『伯父』、右近充少佐の『父』―――右近充義郎は、帝国国家憲兵隊中将の階級にあり、国家憲兵隊特殊作戦局長の任にある人物だった。

「最初はカンパニー(米中央情報局:CIA)か、DIA(米国防情報局)の影かな? と思ったのよ。 でも、その内に・・・」

野党政党、財閥、在野の右派政治勢力だけでなく、軍部の一派や武家勢力―――摂家の影も見え隠れし始めた、と言う。

「インテリジェンス・レポート(帝国の情報関係組織間の、共有情報伝達回覧)にあったけれど、今年の『三極会議』には、斉御司公爵家の傍流が出席したそうね」

「・・・そうなればもう、ウチ(調査1課)の出る幕じゃないわ。 防諜1課か特調(特別調査課=秘密工作課)ね。 そちらも、でしょう?」

軍内部での防諜を担当する、情報保全本部防諜1課だが、そこまで手が広がっては全てを『監督』する事は出来ない。 他組織との重複が面倒になるのだ。

「情報省がどう動くのか、いまいち読み切れないけれど・・・悪名高い『国家憲兵隊特殊作戦局』か。 我が父ながら、呆れるわね」

「まぁね。 でも得な事もあるわ。 直ちゃん(周防直衛少佐)が国連軍から復帰した時よ。 身上調査、口を利いたのって、伯父さんでしょう?」

―――それが無ければあの子、多分ずっとどこかの僻地の駐屯地で、定年まで飼い殺しだったわよ?

取りあえず、本日の『成果』は後日情報共有する事で話が付いた。 歩き去ってゆく従妹の後ろ姿を見ながら、右近充京香少佐は何となく気分がささくれるのを覚えた。
途中で待たせていた部下に必要な指示を与えると、取りあえず本日はお役御免だ。 そしてこのささくれ立った気分を回復する為に、一刻も早く待ち合わせの場所へ行きたかった。

「はぁ~あ・・・私も本気で、身を固めようかなぁ・・・で、そろそろ引退する、と」

今夜の相手は、従弟の同期生。 戦術機乗りと言う事で、何時戦場で戦死するか判ったものではないが・・・

「それでも・・・私が良いって言ってくれる、可愛い男だもんね」

―――そうだ、今夜は自宅のマンションに呼ぼう。 絶対、帰さないから。

そろそろ盛夏にかかり始める帝都の一角。 程良い涼風が吹きぬける夜空。 これから男との逢瀬。


―――2001年7月 帝都の夜にも、確実に何かが蠢き始めていた。




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