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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 10話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/06/06 23:04
2001年5月11日 0315 マレー半島 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク南南西10km地点 『ゲイヴォルグ』戦闘団・戦術機第1中隊


「光線級のレーザー照射間隔は12秒だ! 遮蔽地形への退避も含めれば攻撃時間は10秒! 各小隊長はタイムアウトに留意しろ!」

後方からの155mm榴弾砲、多連装ロケット弾が唸りを上げて降り注いでくる。 中隊長の真咲大尉が遮蔽地形の影から飛び出すタイミングを計りつつ、部下に注意を喚起する。
その言葉が終わらない内に、地形の向うから数十本のレーザー照射が立ち上った。 秒速800/s超、マッハ2.4~2.5で降り注ぐ砲弾を次々に迎撃・蒸発させてゆく。

「・・・よしっ! 今だ! 『フリッカ』全機、吶喊!」

跳躍ユニットの噴射炎を吐き出し、12機の94式『不知火』が一気に噴射跳躍に移る。 遮蔽地形を瞬く間に飛び越え、そのまま全速でパワーダイヴに移ると、一気に距離を縮めた。
先頭を突き進む突撃前衛小隊の4機が、4門全門展開させた突撃砲から、120mmキャニスター弾を連射で吐き出す。 広範囲にばら撒かれた子弾が光線級BETAを薙ぎ倒した。

「連中のど真ん中に飛び込め! 重光線級の位置を最重要で把握するんだ! 対角線上に常に重光線級を背負って戦え!」

真咲大尉の指示は、光線属種殲滅戦のセオリーのひとつ。 まず、ど真ん中にスペースを作り、そこに陣取って小型の光線級BETAから仕留めてゆく。
その間、重光線級の位置を常に把握して、重光線級同士の対角上に部隊を置く。 そうすれば『同士撃ちはしない』BETAの性質を利用でき、かつレーザー照射の心配が極減する。
中隊は光線属種の群れのど真ん中に飛び込み、そこから円周陣形に瞬く間に転換して、今度は36mm砲弾を全方向に撃ち出した。 光線級BETAが赤黒い霧へと変わって行く。

(6秒・・・8秒、9秒、今!)

「―――中隊全機、離脱!」

光線級BETAのレーザー照射間隔の12秒間が終わる。 確実な安全を確保する時間が過ぎれば、いくら同士撃ちをしないBETAの特性を生かそうが、どこかで絶対に齟齬が生じる。
だから実戦慣れした戦術機甲部隊指揮官は、10秒以上は光線属種の群れの中に入らない。 戦場に絶対はあり得ない、戦場の状況は常に変化する、それを多くの死で学んだ彼等は。
跳躍ユニットを吹かして、戦術機が次々に元の遮蔽地形の裏に戻ってくる。 8機・・・10機・・・12機。 12機、中隊全機。 よし!

「―――“フリッカ”リーダーより“ゲイヴォルグ”、光線属種駆逐戦、ファーストストライクは完勝です! 撃破個体数、42体! 引き続いての支援砲撃を要請します!」

『―――“ゲイヴォルグ”より“フリッカ”、面制圧砲撃は続行される。 タイミングはグルカFDC(砲兵部隊射撃指揮班)に伝えろ。 コードネーム“サラマンダー”、オーヴァー』

上官である周防少佐の声が、即応で帰って来た。 心なしか早口だ、恐らく“フリッカ”の吶喊と同時に行われた筈の、前方の要撃級の反転阻止を直接指揮しているのだろう。
ガルーダス軍のグルカ、ネパール両旅団が装備している榴弾砲は、M198・155mm榴弾砲だ、発射速度は最大で毎分4発。 とは言え今回、そんな発射速度で砲撃要求は出来ない。
こちらも遮蔽地形に隠れてから、戦況の確認と損失状況、弾薬・推進剤消費量の確認に、次の攻撃へのタイミングの算出・・・どう見ても、15秒から20秒のインターバルは欲しい。

「―――“フリッカ”より“サラマンダー”、座標2011-1550、標高35、方位角3600。 初弾着弾点の正面100、縦深200、効力射を要請、オーヴァー」

『―――“サラマンダー”より“フリッカ”、座標2011-1550、標高35、方位角3600。 初弾着弾点の正面100、縦深200、効力射、ラジャ・・・ファイア、ナウ!』

再び砲撃を開始する、グルカ・ネパール両旅団の砲兵大隊群。 そして再び繰り返される、光線属種の迎撃レーザー照射。 AL砲弾とロケット弾が迎撃され、重金属雲が形成される。

『―――“サラマンダー”より“フリッカ”! 重金属雲発生! 重金属雲発生! 第4斉射、ファイア、ナウ!』

立て続けに発射される榴弾砲とロケット弾。 これで残った光線属種も、レーザー照射のインターバルと言う最大の弱点を突かれて、後は殲滅されるだけだ。
特急列車が頭上を通過する様な甲高い轟音を耳にした瞬間、真咲大尉は好機が来た、そう判断した。 重金属雲でレーザー照射は極めて影響を激減される、ここで飛び出せば・・・

「―――リーダーより“フリッカ”全機! これでカタをつける! 吶喊!」

再び12機の『不知火』が噴射跳躍で躍り出た、目標は砲撃の雨に晒された筈の、生き残った『僅かな』光線属種。 さっきと同じタイミング、あれを繰り返せば、殲滅出来る。

「―――よし! このまま・・・ッ!?」

不意に真咲大尉の背筋が凍った。 網膜スクリーンに突如として浮かび上がった、信じられない警報。 3次元戦術レーダーの片隅に捉えた、居る筈の無いBETA群。
誰を責めるべきなのか。 グルカ旅団がBETA分布データを見落としたのか? 作戦を命じた周防少佐の確認ミスか? 部隊指揮官である真咲大尉の思い込みか?

「なっ・・・別の群れ・・・だとぉ!?」

中隊が突撃砲を猛射しながら、先程の光線属種の群れの空白地にランディングした瞬間だった。 重光線級BETAが複数機からの120mm砲弾を受けて弾け飛ぶ。
光線級BETAが数体、横殴りの36mm砲弾の斉射で赤黒い霧に変わる。 まさに、その瞬間だった。 中隊の10時方向―――北北西の丘陵地が、突如として閃光に包まれたのは。

『えっ・・・ぎゃっ!』

『なっ、なにっ!?―――光線級!?』

『まっ、前田!? よっ、4番機、レーザー直撃!』

『回避しろ! 乱数回避・・・ぐうっ!?』

『おっ、おいっ! 秋生!』

『あっ、熱いっ! 熱いいぃ!!』

『脱出よ! 高嶋ぁ! 脱出しなさっ・・・ぎゃあ!』

一瞬のうちに10数本のレーザー照射を、側面から受けた第1中隊“フリッカ”が崩れる。 一瞬の空白、そこから最初に我に返ったのは、指揮官の真咲大尉だった。

―――即時後退! 元の遮蔽地形!? ダメ、頭を押さえられる! 4時方向!? 馬鹿! 平坦地だ! だったら・・・! 一瞬でそこまで思考を進め、即座に決断した。

「リーダーより全機! このまま全速で前へ! 10秒以内に前方の丘陵部の陰に飛び込め! 鳴海! 宇佐美! 行けっ!」

『了解! B小隊、続け!』

『小隊長!』

『槇島(槇島秋生少尉)は、もう駄目だ! 半村ぁ(半村真里少尉)! 先頭切れ、行けっ!』

『ちっ・・・くしょう! 伊丹(伊丹誠吾少尉)! 来いっ!』

『C小隊! B小隊に続け! 楠城(楠城千夏少尉)! ボケっとするなっ! 死にたいのかっ!? 行けぇ!』

B、C小隊の6機が続けさまに脱出にかかる、残りはあと8秒。 咄嗟に戦場を見回す。 A小隊2番機の美竹中尉機と、3番機の高嶋少尉機が中・大破。
他にB小隊3番機の槇島少尉機も大破、C小隊4番機の前田多佳子少尉機は、管制ユニットを撃ち抜かれている。 前田少尉は蒸発しただろう。

『あついっ・・・助け・・・てっ・・・たす・・・け、て・・・!』

『ごふっ・・・つ、ついてねぇな・・・』

『痛っ・・・ちゅ、中隊長・・・行って下さい・・・早くっ!』

中隊の副官的な役目を果たしてきた美竹中尉の、息苦しい声が聞こえたと同時に36mm砲弾の発射音が響いた。 装甲を貫く音と同時に、悲鳴を上げていた高嶋少尉の声が止んだ。

『あ、あと・・・6秒! 行って下さいっ!』

恐らく、想像を絶する大火傷―――それも瀕死の大火傷を負ったのだろう高嶋少尉の苦痛を、これも負傷しただろう美竹中尉が、その苦痛を終わらせてやった音だった。

『私とっ・・・槇島で、少しは・・・時間を稼ぎますっ! あと4秒!』

「ッ・・・! 曽根!(曽根伸久少尉)! 続けっ!」

『りょっ、了解っ・・・!』

跳躍ユニットを吹かせて地表面噴射滑走に移った真咲大尉機の後を、A小隊の最後任、1番年若い曽根少尉が引き攣った表情で、必死になって機体を操り中隊長に続行する。
その姿をダウンした機体の管制ユニットの中で、美竹遼子中尉がホッとした表情で見ていた。 あの速度、あの高度、あの位置関係―――大丈夫。

『ぐっ・・・槇島、まだ生きているね? やるよ・・・』

『はあ・・・はあ・・・はあ・・・ト、トリガー位なら、引けますよ・・・もう、目が見えないっスけどね・・・』

『・・・そのまま、前に撃ち出せばいいよ・・・行くよ! 撃てぇ!』

ダウンした美竹中尉機と槇島少尉機から、中隊に大損害を与えた別の光線級の群れに向けて、36mm砲弾が飛び出した。 殆どカスリもしなかった、頭上を越しただけだ。
だがその弾道を確認していた美竹中尉は、光線級BETA群が反応した動きに満足した。 連中はこっちに注意を向けた、退避しつつある中隊から目を逸らせた。

『・・・やったよ、槇島ぁ・・・連中、こっちを見やがった・・・』

―――ザマぁ見ろ、これで中隊は生き残った。 お前らの好きにさせてやるか、意地でもこっちに向かって撃たせてやるからね!

『は・・・ははは・・・槇島? 槇島・・・逝っちゃったか・・・』

相変わらず美竹中尉は、トリガーを引き続けていた。 残弾も残り少ない、でも止めるつもりは無い、私は最後まで戦って死んでやる。
望遠モードの視界の向こうで、不気味な怪物のひとつ目玉がこっちを見ていた。 でもなぜか、不思議と恐怖を感じなかった―――重度の火傷で、美竹中尉の意識も混濁していた。

『・・・はぁ・・・揉みたかったなぁ、あの胸・・・』

どこか、場違いだな・・・自分でそう思ったその時、視界が閃光に包まれた。

―――抱きたかったなぁ・・・真咲大尉・・・割と、本気だったんだけどなぁ・・・






「確認の取りこぼし!?―――取りこぼしだとっ!? シャムセール中佐! どう言う事だっ!?」

機体を反転させながら、迫り来る要撃級BETAの前腕の一撃を交し、その側面に57mm砲弾を叩き込んだ周防少佐が、目を血走らせながら通信相手に怒鳴っていた。

『―――こちらも、万全の哨戒を行える状況では無いのだ、周防少佐! どこの群れからはぐれた連中かも判っておらん! 確実なのは、君の部下が孤立している事だ!』

通信相手のグルカ旅団参謀のシャムセール中佐も怒鳴り返す。 “フリッカ”が殲滅し損ねた光線級と重光線級の群れ10数体が、グルカ旅団を捉えそうな位置に進んでいるのだ。
そうこうしている間にも、要撃級の群れが次々に襲い掛かってくる。 現在、2個中隊と1個小隊―――28機の戦術機で押さえているが、BETAの数が多過ぎる。

『あと10数分もすれば、我々は確実に光線属種のレーザー照射に絡め取られる! 光線級吶喊を行おうにも、戦術機が足りん! 半数は君の指揮下だ!』

「今更、何を言うかっ! 一気に4機を喪った! 光線級殲滅も失敗した! そっちがUAVの損害をケチっていなければ、こんな事態にはっ・・・!」

BK-57を正面の要撃級に向け、3点バーストで叩き込む。 赤黒い体液を噴出して倒れ込む要撃級、その後ろから新手が襲い掛かって来た。
咄嗟に噴射パドルを全開にして後ろへ飛ぶ、その空いた空間にエレメントの遠野中尉機から120mm砲弾が撃ち込まれ―――突進した要撃級BETAの側面に大穴が空いた。

≪―――取り込み中、済まんがな。 日本側の指揮官は誰だ? 私は日本帝国海軍『伊吹』艦長、川崎海軍大佐だ≫

唐突に通信回線に割り込んできた声に、周防少佐もャムセール中佐も一瞬、怒気の方向をはぐらかされる。

≪―――聞こえんか? 私は日本帝国海軍、『伊吹』艦長の川崎大佐だ。 日本陸軍指揮官、応答せよ≫

「―――第15旅団分遣隊、“ゲイヴォルグ”戦闘団長、周防陸軍少佐。 川崎大佐、用は後ほど・・・!」

≪―――そちらの鉄火場を、何とか消せるとしてもか?≫

『―――どう言う事でしょうか、大佐?』

苛立ちを押さえながらも、シャムセール中佐が先任士官として聞き返す。 周防少佐も一時、怒気を抑え込む様に黙って聞いていた。
一時的に最後方まで引いた周防少佐の機体を、指揮小隊の3機が取り囲んで周辺を警戒する。 前方の2個中隊の防御ラインを、破って来た要撃級BETAを撃ち倒しながら。

≪―――『伊吹』は現在、チャンレク東方海上10海里の地点だ、まもなく海岸線を目視しての艦砲射撃圏に入る≫

「・・・BETAを、海岸線まで誘導しろと?」

≪―――正解だ、周防少佐。 この艦には、少々特殊な主砲を搭載してある。 突撃級の正面装甲殻程度なら、一撃で射貫出来る。
5インチ単装砲だが2基ある、毎分20発でも2基で40発。 5分も貰えれば、150から200程度の突撃級は始末できるのだがな・・・≫

5分で、150体から200体の突撃級BETAを!? 馬鹿な、陸軍がそれだけの突撃級BETAを始末するのに、一体どれだけの労力と犠牲を払っているか・・・!

≪―――技術革新と言うヤツだよ、どうするのかね? 乗るのか? 乗らんのか? こちらも、本来は南遣兵団司令部を通さねばならん所だがな。
そうも言ってられん様なので、陸海軍統合指揮協定を無視してこうして、直接渡りをつけているのだ。 因みに本艦を単艦で急派させたのは、5戦隊司令官だ、周防少佐≫

そのセリフを聞いた瞬間、周防少佐は腹の底から怒りと、情けなさと、悔しさと、そして認めたくないが嬉しさの混じった感情が沸き起こるのを自覚した。
5戦隊司令官、5戦隊司令官! 戦艦部隊の司令官! 『伊吹』を臨時に指揮下に置いていたのか! そして恐らく、川崎大佐も知っているのだろう―――くそっ!

周防少佐が通信システムを弄りながら―――複数の通信帯を弄りながら、作戦変更を伝えた。

「―――シャムシール中佐! もう一度だ! もう一度、今度はバースト射撃を要請する! 取りこぼした群れと、新たな群れの頭上にだ!
マイトラ大尉! エリアD7Rに移動せよ! バースト射撃終了後、新たな光線属種の群れを潰せ! 光線級吶喊を命ずる! 
バハドゥル大尉はエリアD3Eへ! こっちも光線級吶喊だ! ガルーダスの前に出ようとしている連中を潰せ、こっちはガルーダス正面の2個中隊と協同できる筈だ!」

『―――少佐、ここの維持を指揮小隊のみでは、不可能です!』

『―――私かマイトラ大尉、どちらかの中隊を残すべきでは?』

「―――構わない。 5分間、保たせればいい。 早く行け!」

『・・・了解!』

『―――はっ!』

要撃級の群れから距離を取って、次々に噴射跳躍をかける92式『疾風』弐型の群れ。 飛び去った後には、視界を覆い尽す要撃級の群れだけが残る。

「CP、長瀬! 第2部隊を呼び出せ!」

≪―――CP、了解。 ・・・第2部隊、ヴァン大尉、出ます!≫

入れ替わりに第2部隊指揮官、ヴァン・ミン・メイ大尉の姿が網膜スクリーン上に現れた。 こちらもかなり疲労の色が濃い様だが、まだいける―――そう判った。

「ヴァン大尉、第2部隊を一時解隊する。 1個中隊を戦闘団前面に戻してくれ、ガラ空きだ!」

『―――了解、ディン(ディン・モウ・ハン南ベトナム軍大尉)の隊を行かせるね。 で、私は?』

「―――5分以内に、ここへ。 俺と一緒に、要撃級800ほどを相手に、時間稼ぎだ」

『―――相変わらず、楽しいなぁ、直衛は・・・了解だよっ! ディン! 海岸線! 戦闘団正面で防御戦闘! “アオヤイ”全機、私に続け!』

地響きを立てて向かってくる、数百体の要撃級BETAの群れ。 向かうのはたった4機の94式『不知火』のみ。

「遠野! 北里! 萱場! エレメントを崩すな! 近接戦は絶対にするな、時間を稼げばいい!」

『―――はいっ!』

『『―――了解!』』

兎に角、時間を稼ぐ。 いくらなんでも、たったの4機では効果的な攻撃など望むべくも無い。 だったら、増援の12機が来るまで連中の脚をここに留める。
そう言うと、周防少佐機を先頭にして4機の戦術機は、要撃級BETAの群れの外縁ギリギリを地表面噴射滑走で高速移動し始める。 時折、突撃砲を放ってBETAの注意を引く。

「―――“ドラゴン”、“ハリーホーク”! もう一仕事だ! 海岸線まで連中を引っ張り出せ! 削らなくていい、兎に角、連中の向きを変えろ!」

『―――無茶、言ってくれますね、大隊長! もう弾薬は底を尽きかけです! “ドラゴン”! 突っかかるだけでいい! 連中の頭を東に向けるぞ!』

『―――推進剤も心配なんすけどね・・・畜生! “ハリーホーク”! 距離50以内に近寄るなよ!? 突っかかって、誘導する! 攻撃は嫌がらせ程度だ、いいな!?』

大体通信系はオープンに変更してあった。 だから当然、“ドラゴン”の最上大尉も“ハリーホーク”八神大尉も、全体の状況を把握できた筈だ。
要撃級の群れの圧力が凄まじい、瞬く間に北側の小高い岩山との間に押し込まれる。 ギリギリのタイミングを計って、絶妙のタイミングで部下に回避を命じる。
機体を捻りながらの噴射跳躍―――垂直軸反転―――噴射パドルを全閉塞しての失速域制御機動―――岩壁を蹴っての短距離噴射跳躍―――機体を半回転させて逆噴射降下。

「―――撃てっ!」

部下達も周防少佐程とは言えないまでも、何とか一連の機動をこなして要撃級の圧迫から脱出して背後を取る。 同時に120mm、36mm砲弾を一連射叩き込んで、また移動する。

「・・・残り、2分か・・・」

自分は良い、まだ推進剤に余裕はある。 その程度の燃費を考慮しての戦闘など、今まで嫌という程こなしてきた。 せざるを得なかった。
機体を操りながら、部下の機体のステータスを見る。 遠野中尉機はまだいい、平均以上の燃費効率を上げている。 北里中尉機も大丈夫だ、しかし・・・

「―――萱場! 貴様は一端、離脱しろ! 推進剤を補充後は、“ドラゴン”の指揮下に入れ!」

『だっ、大隊長!?』

やはり、一番経験の浅い萱場少尉(萱場爽子少尉)の機体の推進剤消費量が大きい。 恐らくこのままだと、あと10分程度の戦闘で立ち往生してしまうだろう。

『―――小隊長命令! 萱場少尉は一端後方へ離脱! 補給後に第2中隊の指揮下に入れ! 復唱!』

上官の意図を組んだ直属上官の遠野中尉が、驚く萱場少尉に隊長命令を発した。 大隊長と直属上官の小隊長、2人の上官から同時に命じられた萱場少尉が、悔しそうに顔を顰める。

『―――わっ、判りましたっ! 萱場少尉、一時離脱します! 補給後、第2中隊の指揮下に入ります!』

跳躍ユニットを吹かして離脱する萱場少尉機を見ながら、遠野中尉が周防少佐に話しかけた。

『―――少佐、有難うございます・・・』

遠野中尉も、萱場少尉機の燃費状態は把握していた。 そしてこのままでは遠からず、死ぬしかないと言う事も。

「―――どうせ戻っても、推進剤は殆ど残っていない。 整備中隊長には、俺が指定した機体以外への補給を禁じてある」

『・・・え? で、では・・・』

「―――萱場は、これで一時退場だ。 甘いと思うか?」

『・・・』

「―――残念だが、甘い夢を見させるのは、もう暫く先だ。 今は1機でも、1人でも多くの機体と衛士を確保しておきたい。
海軍から補給の融通を付けさせて貰えるようになれば・・・俺はまた、遠慮なく貴様達のケツを蹴り上げて、戦場に送り込む」

―――もう6機、喪ったからな。

それだけ呟いて、周防少佐は再び要撃級BETA群の外縁に突進していった。 遠野中尉と北里中尉もそれに続く。
確かに周防少佐が指揮を執って以来、大隊がこれだけの短期間に被った損害としては最大の損害だった。






「・・・あの馬鹿野郎、無理し過ぎだぜ・・・」

戦術機の管制ユニットの中で、第15旅団第2戦術機甲大隊長の長門少佐が顔を顰めた。 通信回線に飛び込んできた親友の声、そしてリアルタイムでの戦況も判った。
さて、どうする? このままでは多分、アイツの部隊は酷い有様になるだろう。 素直にくたばるとは思えないが、第1大隊は再建に困難を覚える損害を受ける危険性が高い。

「・・・始末書は、ひとりで書けってんだ。 同期を巻き込むなよな・・・」

そう愚痴りつつも、通信システムをあれこれと弄り始める。 やがて目指す相手に繋がった、本来なら上級司令部を通して離すべき相手。

「―――おい、棚倉、伊庭。 あの馬鹿野郎が泣きを入れて来た、どうする?」

『―――長門、貴様が握っている、兵団予備の2個中隊を寄こせ。 そうしたら15旅団前面は、俺が請け負ってやる』

同期生で僚友の、第10旅団の棚倉少佐が、事もなげに言う。 いくら防衛戦闘の盟主と呼ばれる彼でも、荷が重いだろうに。

『―――さっき、兵団が握っていた最後の2個中隊を、ウチの副旅団長が分捕った。 但しウチの10旅団前面にくる連中、全部を引き受ける事は出来ないぜ?』

さらにこれも同期生の伊庭少佐が、本来なら2個大隊で1個旅団の全面を守る筈なのに、あっさりと自分1人で引き受けると言った。

「―――充分だ、3割位はこっちに流せよ、伊庭。 同期生4人、仲良く始末書の山に埋もれようぜ」

『―――ったく。 周防と言い、長門、貴様と言い・・・俺の査定評価まで、下げてくれるなよ・・・』

『―――俺は気にしないがね! 周防に恩を売っとくのも、良い手だしな!』

『―――奴の従姉殿か?』

「―――ああ、あの・・・ふん、伊庭。 貴様、このドンパチが終われば精々、盛大に恩を嵩に来て紹介して貰え。 やるぞ、軍法会議覚悟の独断専行だ!」

『―――了解!』

『―――ワクワクするぜ!』









2001年5月11日 0320 マレー半島 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク東方海上10海里 日本帝国海軍イージス巡洋艦『伊吹』


『―――ML発電機関、安定運転中』

『―――速力、第1戦速(18ノット) AIM(先進誘導電動機:Advanced induction motor)、安定しました。 供給電力45MW』

『―――IPS(統合電力システム)からの供給電力、45MW。 FERS(フライホイール・バッテリーエネルギー回生システム:Flywheel-battery-Energy-Recovery System)、蓄電量97%』

『―――冷却部、絶縁性冷却ガス注入を完了』

『―――統合管制システム、オールグリーン』

海原を切り裂き突進し続けていた艦が速力を落とし、同時に艦首と艦尾に1基ずつ搭載した127mm単装速射砲を陸地に向けて回転させる。
艦の奥深くでは静かな、しかし聞き慣れない高周波音が微かに聞こえる。 それは膨大な電力エネルギーを生み出しつつ、陸地に向けて神代の雷光を再現しようとしていた。

『―――CICより各部、BETA群は海岸線内陸10km地点、東に向かって侵攻中。 速度約40ノット(約74km/h)、突撃級BETA300体を含む』

『―――陸軍部隊、第15旅団先遣隊より入電。 光線属種、内陸32km地点に2群有り。 これより第2次光線属種吶喊を敢行す―――以上』

『―――砲術長より艦長。 FCS-4、弾道計算、演算完了。 ターゲット、ロックオン。 何時でもどうぞ』

真っ暗闇の大海原の中、微かに陸地が黒い染みとして認識出来るか出来ないか、そんな状況下で既に目標を補足・照準を終えていた。
JTIDS(統合戦術情報伝達システム)戦術データ・リンクであるリンク16からの衛星中継通信を受けた、MOFS(海上作戦部隊指揮管制支援システム)からの情報入力。
この後に、FCS-4(01式射撃指揮装置)が水平線越しに砲の照準を合わせ、自動追尾モードに入ったのだ。 気象データも計算要素に入れた、数兆回に及ぶパターン演算の結果だ。

『―――陸軍部隊より入電! 第2次光線属種吶喊、開始した!』

『―――BETA群先頭集団、海岸線より25kmに接近!』

それまで黙って報告を聞きながら、艦橋の向こうに広がる漆黒の海原を、そして更に深い闇に包まれたぼんやりと朧気に霞む陸地をじっと見ていた艦長―――川崎大佐が命令を発した。

「―――01式電磁投射艦砲、撃ち方、始めっ!」

次の瞬間、艦の前方と後方で異様な高周波音が発生した。 同時にまばゆいプラズマ光が闇夜の漆黒の海原を照らし出す。
瞬きする間も無く、超高速の光の矢が内陸に吸い込まれた。 日本帝国海軍が生み出した神代の電光は、21世紀のレール・ガンとして放たれたのだ。






もう直ぐ海岸線が見える筈だ、そこまで目の前の化け物どもを引っ張って行けば、何とか任務は果たせる―――第2中隊長の最上大尉は、声を枯らして部下を叱咤し続けていた。

「脚を止めるな! 当らなくても良い、牽制でも何でも、とにかく連中の頭を東に吊り上げろ!」

左右の突撃砲を乱射しつつ、第2中隊“ドラゴン”を率いる最上英二大尉は、部下達に大声で指示を出し続けている。 まともにぶつかっては、数分で全滅させられそうな相手だ。
デジタル戦術情報通信システムを使用する現在では、『聞き取りにくい』などと言う事は無いのだが、そこはやはり人間だ。 アドレナリンが上がると歴戦でも知らず声量が増す。

「B小隊、上苗(上苗聡史中尉)! 2時方向の個体を潰せ! あそこに間隙を作る!」

『―――ドラゴン02、了解! 武藤、遠藤、美浪、付いて来い!』

『『『―――了解!』』』

突撃前衛小隊の4機がダブルのトップ・アンド・バックで突撃級の群れ、その外縁部近くに突撃する。 そこに穴を開ければ、群れの正面に出る事が出来る筈だった。
突撃前衛小隊長の上苗中尉機が、正面に迫った突撃級BETAの直前で、地表面噴射でスライド、側面から120mm砲弾を叩き込む。 
同時に僚機の遠藤少尉機が前方の個体の節足部に、36mm砲弾を纏めて叩き込んだ。 2機はそのままスケーティングの様な機動で突撃級BETAの間隙を縫ってゆく。
その直後にBエレメントの2機―――武藤少尉機と美浪少尉機が、空いた隙間に飛び込んで左右に砲弾を浴びせる。 突破と拡張、突撃前衛の仕事だ。

「三島! B小隊前方に誘導弾!」

『了解! 12、蘇我! 全弾発射!』

『―――ドラゴン12、フォックス・ワン!』

C小隊の制圧支援機から、10数発のアクティヴレーダーホーミング・ミサイルが発射された。 A小隊の制圧支援機は既に、先程の光線級に頭を押さえられた戦闘で戦死している。
誘導弾はB小隊の前方から、ようやく方向転換を終えて突進して来た数体の突撃級BETA、その節足部に狙い違わず全弾が命中する。 バランスを崩した個体同士が激突し、隙間が出来た。

「よし! そのまま突破しろ!」

いける―――最上大尉がそう確信したその時、先頭を突進していたB小隊Aエレメント2番機、遠藤貴久少尉機が突然バランスを崩して倒れ込んだ。

『ッ! 遠藤!』

小隊長の上苗中尉の叫び声。 しかし上苗中尉は僚機の危機を考慮せずに、そのまま突進を続ける。 B小隊の他に2基も同様だ。 彼等の役目は突破だ、例え僚機が倒れても。
直後にA小隊とC小隊が、猛速で通過する。 最上大尉がすれ違いざまに、遠藤少尉機の方向へ120mm砲弾を叩き込んだ。 倒れた突撃級の影から突進して来たもう一体の個体。
それが遠藤少尉機の側面に、至近距離で接触したのだ。 120mm砲弾は突撃級の胴体側面を貫いたが、遠藤少尉機もまた、踏み潰され圧壊していた―――損失、3機目。

『―――最上さん、こっちはなんとか吊り上げた!』

年少の僚友で、第3中隊“ハリーホーク”を率いる八神涼平大尉の声が聞こえた。 見ると北西方面から突撃級BETAの壁を割って、次々に『不知火』が姿を現した。
1機・・・3機・・・5機・・・8機、9機。 9機だ、さっきから1機足りない。 第3中隊も第2中隊同様、光線級の罠から脱する時に2機を喪っている、こちらも3機損失だ。

「―――誰だ?」

『―――今江(今江美恵少尉)。 片脚が突然ロックした』

脚部作動機構の破損か。 電磁伸縮炭素帯の疲労値が、許容限界を越えたか。 いずれにせよ、戦場で生じれば即、死に直結する。

『整備もままならない! 補給に至っては、コンテナを探す為に推進剤を無駄遣いする有様だぜ! ったくよ!』

「それでもまだ、補給コンテナの射出の手配をしてくれているだけでも、マシだぜ? お前さんは知らんだろうが、北満州撤退の時はもっと酷かった」

『俺、若人だし。 そんな前時代の出来事なんか、実体験していないし―――C小隊、8時方向だ!』

「B小隊、迂回してC小隊の左側面をカバーしろ!―――そうかい、そうかい。 後で、少佐に伝言しておいてやるよ」

『げっ! 根性悪い・・・少佐は丸9年以上・・・もう10年目だろ? 古代人だよ、衛士の寿命からしてみれば!』

「・・・俺も、今年の10月で目出度く丸8年になる。 9年目に突入なんだけどな?―――正面、3連射、撃てっ!」

『いよっ! 敬老会!―――C小隊、弾幕、薄いぞ!』

衛士の平均寿命は、他の兵科と比較しても若干短い。 特に最前線国家の衛士の寿命は、後方国家の一般市民の平均寿命に比べれば、驚くほど短い。
衛士平均寿命、19.83歳―――『人生25年、2割引き』 日本帝国陸海軍衛士が、自嘲気味に口にするネタは、決して誇張でも何でもなかった。
つまり、大半の衛士達は戦場に出て2年以上、生き長らえる事が出来ない。 そんな中で9年以上に渡って、現役で衛士を続けている事自体が、既に驚異的なのだ。

「けっ、言いやがれ―――帰還したら八神、お前さん、真咲さんにもシメられるぜ? あの人は俺の半期上だからな。 お前さんの言で言えば、立派に婆さん衛士だ」

『俺が言ったんじゃねぇぞ? 最上さん、アンタが言ったんだぞ? 真咲さんにはその辺、ちゃんと言っておくから!―――よし、あと3kmだ! このまま引き釣り出せ!』

馬鹿な事を言い合おうが、与太を飛ばそうが、少なくとも2人の中隊長は死に物狂いで部隊を掌握して指揮を執っている。
そして命令通りにBETA群を海岸線まで転じさせる、という困難な任務を達成したのだ。 その苦労も後、僅か数分で報われる筈だ。

『・・・真咲さんトコ、一気に4機、喰われていたな・・・』

「ああ・・・はぐれの光線級の群れが、居た様だったな。 大隊長も、どこに怒りをぶつければ、って感じだったな」

ようやく、光度を調整した網膜スクリーンの視界に海岸線が目視出来た。 リンク16からの情報では、この向うの水平線あたりに海軍の巡洋艦が居る筈だ―――見えはしないが。

「―――“ドラゴン”リーダーだ! CP、長瀬大尉! BETA群を海岸線に引っ張り出したぞ!」

『CP、ゲイヴォルグ・マムよりドラゴン・リーダー! 直ちに5km南へ後退せよ! 繰り返す、直ちに5km南へ後退せよ!―――砲撃に巻き込まれるわ!』

「ッ!? 了解した! 八神!」

『―――おう!』

2個中隊、18機の戦術機が砂塵を捲き上げながら、海岸線を南へと急速退避する。 それを合図にしたかのように、彼方の海岸線が急に明るく輝いた―――衝撃が来た。

『なっ!? なんだ? ありゃあ!?』

「本当かよ・・・突撃級の装甲殻が、ボール紙みたいに撃ち抜かれていやがる・・・」

水平線上から信じられない超高速で、次々と撃ち込まれる艦砲射撃(だと思われる) それが海岸線に姿を現した突撃級BETAの悉くに、信じられない命中精度で命中する。
冗談かと思えるのは、命中精度だけで無かった。 陸軍では常識の『突撃級の正面装甲殻は、同一箇所に複数発命中させて、初めて射貫できる』、これをあざ笑うかの様な事態。
1発命中すれば、正面装甲殻に大穴が空く。 次の瞬間に命中の衝撃で(砲弾自体の運動エネルギーで)、突撃級BETAの巨体が10数mも、宙に跳ね上がっているのだ!

『なんだよ、あれって・・・!』

『し、信じられない・・・突撃級が・・・突撃級BETAが、1撃で・・・!』

『み、見ろよ・・・も、もう50体以上が・・・いや、60・・・70・・・ウソだろっ!?』

『ちっくしょう・・・! やれ! やっちまえっ!』

興奮して目前の情景を、中には涙を流しながら見つめる部下達とは反対に、指揮官の最上大尉と八神大尉の表情に緊張が走った。
2人同時にシステムから、索敵詳細情報を呼び出す、位置、侵入方向、推定数、種別・・・間違いない、でもどうして急に、こんな!?

「―――“ドラゴン”リーダーよりCP! 第2防衛線はどうなった!? 真北にカンボジア第3師団が居た筈だ!」

『CP、ゲイヴォルグ・マムより大隊長命令! 全中隊、至急20km後退せよ! 繰り返す、全中隊、至急20km後退せよ!
急にBETA群が海岸線に集まり始めたわ! 北からも、西からも!―――カンボジア第3師団は『全滅』よ! 生存者なし!』

真北から2万以上のBETA群の大波が押し寄せていた、それだけではない、マレー半島の西側を侵攻していたBETA群の約2万4000もまた、進路を東に変じた。
今まさに海岸線に向かって突進しているBETA群、約5600(戦闘団との交戦で400体が倒れた)、真北からの2万、北西からの2万4000―――合計で4万9600体。

『南遣兵団司令部は、後方30km地点まで後退を決定したわ! 海軍聯合陸戦隊の上陸作戦は、一時中断! 上陸地点がBETA群に飲まれそうなのよ!』

『どうしろってんだ! 大隊長は!?』

『ちょっとまちなさいよ、八神大尉! 大隊長からは・・・!』

『―――最上、八神、聞こえるか?』

混乱の中、大隊長―――戦闘団長の周防少佐の声が聞こえた。 少し疲労の色が感じられるが、言葉は明瞭だった。

『―――聞いた通りだ、いつもの通り、連中の気まぐれが生じた。 兵団は南ベトナム第12師団、チベット・ブータン両旅団と共に、一端後退する』

そこで周防少佐は1度言葉を切った、部下の衝撃が少しでも収まるのを待って。

『―――戦闘団はこれをもって、グルカ・ネパール両旅団と連携して後方25kmまで下がる。 そこで国連軍第12軍(第37、第38軍団)、ガルーダス第3軍予備と合流を果たす』

国連軍第12軍は、5個師団を基幹とするこの地域で最大の国連軍兵力集団だ。 ガルーダス第3軍予備は全てムスリム系部隊だが、1個師団と3個旅団の戦力は得難い。
まだ南部は道路網の寸断は、比較的損害が少ない。 戦力を東海岸線に集中させれば、8個師団に7個旅団(兵団は師団規模以上の戦力)の戦力で迎撃できる。

『―――艦隊も、半島最狭部北方まで全速で移動中だ。 タイランド湾の3個艦隊も、アンダマン海の2個艦隊も』

マレー半島最狭部は、40km少ししかない狭い地形だ。 射程を伸ばした現代の戦艦主砲ならば、タイランド湾・アンダマン海、双方から半島を越して反対側に撃ち込める。
戦艦10隻の艦砲射撃付き、それに日本とガルーダス海軍は、搭載機数は少なめながら、母艦戦術機戦力もある。 
今まで手控えていたのは、余りに広範囲に浸透されてしまって、効果的な支援が出来ないと判断されたからだ。

『―――場所は、クラ海峡北方45km地点。 タイ王国バーンサパーン・ノーイ県とチュムポーン県の県境の5km南方、ドンヤン付近の狭隘部だ。
国連軍5個師団が南方から押し上げる、兵団は西側面のタイ・ミャンマー国境線付近の山間部に陣取る、戦闘団も兵団本隊に合流する』

「―――ガルーダスの連中は、どうなるんですか?」

周防少佐の説明に、落ち着きを取り戻したらしい最上大尉が、今まで共に戦ってきたガルーダス軍からの派遣部隊の事を口にした。
彼等にしても、中には親部隊がどこで立ち往生しているのか、或いは壊滅したのか、さっぱり判らないと言う連中もいる筈だ。

『―――この戦闘が終結するまで、戦闘団は維持される。 但し、グルカと南ベトナムから追加配備された2個戦術機中隊は、原隊に戻す』

と言う事は、元通りに戦術機5個中隊主力の―――定数割れの5個中隊が頼りの、恐らく側面支援が主体の戦闘団、と言う事か。

『―――万全とは言い難いが、グルカ、ネパールの戦闘工兵も協力して貰って、対BETA地雷原を敷設した。 海岸線に溜まったBETAの相手は、暫く海軍に代わって貰う。
最上、八神、大至急で部隊を下げろ。 聯合陸戦隊は上陸作戦の一時中断の代わりに、大量の補給コンテナを射出してくれた。 戦術機部隊の発進も始まった』

どうやら海軍は、陸戦隊本隊の上陸作戦が困難になった代わりに、補給物資をコンテナに載せての射出と、機動力は問題無い戦術機甲部隊の発進は行った様だ。

「そりゃ、助かります。 補給もそうだが、新手の戦術機1個連隊―――海軍では、戦隊でしたっけ? とにかく、新手の120機、それも96式ってのは・・・」

『美味しい所を掻っ攫われるのは、ちょっと癪に障りますけどね・・・ま、連中にも俸給分の仕事はして貰わんと・・・』

『―――CPより“ドラゴン”、“ハリーホーク”、移動地点を転送しました。 タイ・ミャンマー国境線付近、エリアB7R ドンヤン西方20km、バンラン・タッポーン!』

兵団の支援部隊―――兵站部隊、整備部隊、衛生部隊が先廻りでそちらに急行している。 戦闘団支援部隊もまた、陣取っていた後方陣地から15km程の距離を飛ばしていた。

『―――補給だ、それと簡易整備。 それが無ければ、戦えん。 真咲の中隊を先に向かわせた、貴様達は続け。 俺は第2部隊を率いて、遅滞後衛戦闘をしてから行く』

―――相変わらず、無理が好きな人だな。 よりによって、夜間の遅滞後衛戦闘とは。

『旅団の前面は、どうしたんですか?』

当然の疑問を、八神大尉が口にする。 周防少佐が分遣隊指揮官として不在、第2大隊長の長門少佐もまた、遅滞後衛戦闘となれば、旅団本隊を守る戦術機部隊が居なくなる。

『―――10旅団の棚倉少佐が引き受けてくれた、10旅団前面は伊庭少佐が張っている。 もうじき長門少佐が、第2大隊を連れてやって来る』

―――そしてどうやら、第2大隊を率いる長門少佐も、お出ましらしい。 ああ、この4人、同期生同士だったな・・・

「・・・始末書、ご苦労様です。 “ドラゴン”、全機、エリアB7Rまで後退する! 続け!」

『俺の同期に、こんな物好きは、まさか居ないだろうな・・・? “ハリーホーク”、一端下がるぞ、付いて来い!』

後方に再構築される予定の防衛線まで、あと20km。 兎に角、一端後ろに下がって補給と、出来れば簡易整備だけでも行いたい。
戦術機部隊が跳躍ユニットを吹かして飛び去った後、吹き飛ぶBETAは突撃級だけでなく、要撃級や戦車級BETAも混じり始めていた―――大規模な群れが出来始めたのだった。









2001年5月11日 0330 マレー半島 タイ王国南部・ヤラー県ベートン北方15km 日本帝国軍南遣兵団特殊砲兵部隊 第108砲兵旅団


『―――座標2108-1956、標高25、方位角4200。 左右分布8500、縦深6200』

『―――弾種、HE(榴弾)』

『―――仰角20度、右5度・・・回頭、完了』

『―――射撃諸元、入力よし』

『―――第25斉射、撃てッ!』

轟音―――同時に周囲の土砂が衝撃波で跳ね上げられる。 超々長砲身の508mm砲が、再び猛火を吐き出し始めた。









2001年5月11日 0335 マレー半島 タイ王国南部・チュムポーン県北方海上10km 日本帝国海軍南遣艦隊 第22聯合陸戦団 戦術機母艦『千歳』


「―――“ウンディーネ”リーダーより全機! 高度30で夜間低空突撃だ! 下手な操縦で海に突っ込むな! そんな馬鹿は、海軍名物『バッター』の嵐を喰らわすわよっ!?」

『『『―――イエス、マーム!』』』

部下の行き足の有る(元気の良い)声に破顔した鴛淵貴那海軍少佐は、光度調整をしてさえ、なお瞑い闇夜の洋上を睨んで叫んだ。
『千歳』や他の軽戦術機母艦(いや、戦術機揚陸艦と言った方がいいか?)から、次々と海軍の96式『流星』が飛び立って行く。

「―――“ウンディーネ”の名を継いだからには、下手は打てないと思え! 菅野(菅野直海大尉)! 鹿取(鹿取精一大尉)! 市村(市村吾郎大尉)! 行くぞ!」

“ウンディーネ”―――母艦戦術機隊の“セイレーン”と並び、数々の激戦をくぐり抜けた部隊名称。 参謀に転出した白根斐乃中佐の後を継ぎ、鴛淵少佐がこの名を継承した。
海軍聯合陸戦隊、その戦術機甲部隊の精鋭。 その名を自分の代で汚す訳にはいかない。 知らず知らず、鴛淵少佐も肩に力が入ってしまっていた。

『―――おい、鴛淵。 そんなに肩に力が入っていたら、最初に白根さんの『修正』を貰うのは貴様になるぞ?』

通信回線から、海兵同期生で僚隊指揮官である、大野竹義海軍少佐の笑い声が流れた。 同時に1期上で先任指揮官の笹井醸次海軍少佐の含み笑いの声も。

「大野、貴様に私の気苦労が解って堪るか! 笹井さん、なんですか、その笑いは!? 笹井さん!?」

3人の指揮官の遣り取りを余所に、120機もの『流星』が一斉に噴射炎を漆黒の夜空に輝かせ、地上へ向けて突進を開始した。





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