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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 8話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/05/21 00:11
2001年5月11日 0145 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク北方5km地点 ゲイヴォルグ』戦闘団


「警戒ライン北東方面に新たなBETA群! 方位0-4-0! 距離1万7000! BETA群個体数、約700! 突撃級50、要撃級100を含む!」

「左翼のグルカ旅団より警報! 北西方面よりBETA群、約550が浸透中! 距離1万5000! 推定個体群、突撃級40、要撃級80を含む!」

「バーンサパーン方面のBETA群、戦術機第1部隊“ドラゴン(最上大尉指揮)”が取り付きました、迎撃戦闘開始!」

「補給隊より連絡! 榴弾砲、ロケット弾の残量、45%まで減少しました!」

「機装兵第2中隊より、“人員損失、10%”との事です!」

「機装兵第1中隊、小型種掃討戦闘完了。 帰還します!」

次々と溢れる様に入ってくる情報。 時をおかず判断し、各担当幕僚に必要な対応を指示する。 仮設作戦図盤の戦術作戦地図に、本部付下士官が必要な情報を書き込んでゆく。
現在、西方の海岸線近くのバーンサパーン市街跡で、最上大尉指揮の1個戦術機甲中隊が侵入して来たBETA群の殲滅戦を行っている。
BETA群は約200、大型種の居ない戦車級を中心にした小型種だけの群れだから、掃討に時間はかからないだろう。 問題は北東と北西、両方向からくる2群への対応。

「―――長瀬、グルカ旅団に支援砲撃を頼め。 ヴァン大尉に命令、戦術機第2部隊を北西方面に当らせろ。 ユカギール中尉の機装兵第2中隊を後方3kmに配置。
中央の“ハリーホーク(八神大尉指揮)”を第1部隊に付ける。 “ドラゴン”は掃討が済み次第、補給に戻らせろ。 “アイリス”と一緒に、中央に戻す」

「はっ!―――グルカ旅団砲兵大隊、支援砲撃了解しました。 目標座標、知らせ、との事です。 第2部隊指揮官へのリンク、繋げます」

「北東方面は、第1部隊と機装兵第1中隊で対応します」

「よし―――いや、待て、来生。 自走砲とロケット砲を北東方面に割り振れ、北西方面はグルカ旅団の支援砲撃に任せろ。 高射中隊と重迫中隊は?」

「重迫中隊は、半数が“ドラゴン”の面制圧支援に。 高射中隊は陣前2kmに展開、残数5輌」

戦術機部隊の損失は、各中隊それぞれ2~3機。 戦闘団5個大隊全体で10機が完全被撃破、ないし大中破。 9機が小破修理中。
戦術機稼働機数は指揮小隊を含めて45機。 衛士損失、戦死8名、重傷2名、軽傷3名。 他に機装兵2個中隊、392名中、戦死22名、重傷10名、軽傷7名。 残員数353名。
戦闘車両は自走高射砲が1輌全損、乗員全員戦死。 戦闘団全体では、損失は10%弱。 まだまだ(BETA大戦では)許容範囲。 だが問題は弾薬の残量。
後方の橋の崩落による遅滞は、グルカ旅団工兵隊の仮橋設置が40分前に完了し、足止めを喰らっていた部隊が続々と渡河中だ。 だが1本の仮橋故に時間もかかる。

「・・・兵站と衛生は、どの位かかる?」

カンテラに照らされた野戦指揮所で、戦術作戦地図盤の前に陣取った周防少佐が、戦闘団情報幕僚の向井中尉に地図を睨みつけながら尋ねる。 

「先程、牧野大尉から連絡が入りました。 渡河完了、後方陣地到着は30分後の予定」

夜間、暗闇の中を車載ランプが有るとは言え、所々悪路が残る路上を移動するのだ。 制限速度を30km/hにしていたから、到着時刻はそんな所だろう。
後方陣地到着後、部隊を展開し、補給物資を降ろして整理し、補給隊(輸送隊)へ渡して・・・この本部後方の補給ポイントに集積されるのに、更に2時間ほどかかる。

「・・・戦闘開始から、約4時間半。 弾薬消費は55%か」

―――団本部の兵站機能回復まで、およそ2時間半。 ギリギリだな。 今までの様な少数のBETA個体群が、途切れ途切れに浸透してくれば、という条件付きだが。

周防少佐も内心で懊悩していた。 これまで4時間以上、BETA群は第1、第2防衛線各所を食い破って浸透してきたが、その数は精々500前後、多くて700から800体。
前方の防衛線各所で半ば孤立しているとは言え、師団毎で、あるいは軍団単位で、南へ突進するBETA群の側面や後方からの攻撃で、削れるだけ削っているお陰だった。
それでも、大隊規模で孤立した部隊の中には、連絡が途絶した部隊も多い。 BETA群の大波に飲み込まれ、混乱の内に文字通り全滅した部隊もあったのだ。

本来ならばこうした少数のBETA群が、次々に波状攻撃をかけてくるのは始末に負えない。  周防少佐自身も昔、イタリアのカラブリア半島で経験したが、息が抜けないのだ。
だが今回はあの時と違い、左翼に機装兵と戦車大隊が主力のグルカ旅団に南ベトナム旅団が展開し、更にその左翼には親部隊である第15旅団、そして南遣兵団が展開している。
自身が率いる戦力も、あの時とは大違いに大きな戦力だ。 カラブリア半島では、当時所属していた国連軍戦術機9個小隊で、30kmの前線を守らされたのがから。

「自走高射砲を前進させろ、機装兵第1中隊の後ろで抜け出した個体を掃討させる。 北西の機装兵第2中隊の側面に、“アイリス(指揮小隊)”の3機を」

『プリマス』自走榴弾砲6輌から甲高い音を立てて、155mm榴弾砲が砲弾を発射する。 発光炎で闇夜が一瞬、まばゆい光に包まれた。

―――部下達には悪いが、暫くはこの状況が続けば・・・せめて、第2防衛線沖合に張り付けになっている、インドネシア艦隊の支援が受けられる時間まで。

もし今の状況で数千規模のBETA群に殴りかかられては、正面防衛は不可能だ。 後退するか、グルカ旅団に合流して左翼から、海岸線を南進するだろうBETA群の側面を叩くか。 
いずれにせよ、未だ部隊展開を終えていない後方部隊は、大混乱状態になる。 第2軍の予備戦力3個旅団と、最終防衛線の国連軍3個師団は下手をすれば各個撃破されかねない。
唯一の朗報は帝国海軍聯合陸戦第22陸戦団が、2時間後には後方10kmの海岸に上陸を開始する事だ。 1個戦術機甲連隊を中核とする、陸軍の旅団より強力な友軍が。

―――戦術機部隊ならば、あと1時間半ほどもすれば増援を受ける事が出来る。 兵站補給も聯合陸戦隊随伴の補給船団から、余剰物資を回して貰う事も・・・

何より、聯合陸戦団は一般に『旅団』と分類されるが、実質戦力は陸軍の乙編成戦術機甲師団(戦術機甲1個連隊中核)に準ずるほどの、強力な攻撃力を有する。

―――あと90分。 あと90分だけ、俺が下手を打たなければ・・・

表面上の、如何にも戦争慣れした表情と違い、周防少佐も内心では綱渡りを渡っている心境だったのだ。





全員がすっかり禿山になった山裾に、追加装甲で掘った簡易なタコツボに身を潜ませていた。 打ちあがる照明弾のお陰で、外部視界は困らない。 

「スネーク・シーフより盗人ども。 いいか、大型種の相手はするんじゃねぇぞ。 そんなモン、戦術機に押し付けろ。 チョコチョコ動き回る小型種は、全部喰っちまえ」

網膜スクリーンに浮かぶ戦術情報を見比べながら、レ・カオ・クォン大尉が部下に繰り返し指示を出している。 本部陣地北東、『354高地』と味気ない名の付いた小高い小山。
まだ距離は有る、およそ1万m。 後方の自走砲や自走ロケット砲からの面制圧砲撃が終わり、戦術機部隊がBETA群の先頭に取り付いたばかりだ。

『誰もそんな、馬鹿な事はしやしませんよ、自殺志願者じゃあるまいし』

『戦闘自体は結構、楽なんすがねぇ? 何と言っても、未だに光線級にお目に掛りやしねぇ。 第2防衛線前じゃ、結構ひでぇ目に遭っている部隊も居るって話ですぜ』

ベトナム以来の部下、チャン・ドゥオック少尉とグエン・オン少尉、そしてドン・ヴァン・カイ少尉の3名が、溜息交じりの声で言う。 部下達の言いたい事は判っている・・・

『しょうがねぇ、こうも波状攻撃を仕掛けて来るとはよ。 後ろであの、ジープンの少佐殿も、頭を抱えているだろうぜ』

先任で第1小隊長のヴァン・クォック・ロン中尉が、叩き上げの古参下級士官ならではの『政治的発言』で、要約して言う。 
後任士官たちの不満、息が抜けない連続出撃には、BETA群の波状攻撃を持ち出して状況がそれを許さない、と言う事で戦闘団本部への批判を封じている。
同時に戦闘団指揮官(周防少佐)が頭を抱える、と言う事で、今の事態に適切な対処が出来ていないのでは? と暗に非難しつつ、後任や部下達の不満を上官に伝えていた。

「・・・少なくとも、今のところは、合格点なんだろうよ」

レ・カオ大尉も、表立っての批評は避けた。 ここで彼が何か言えば、それは中隊全体に影響を及ぼす。 ひいては難しい多国籍部隊の統率に、悪影響が出る事になる。

(全面攻勢はもってのほか。 後退も今の状況じゃ、出来ねぇ。 後手の対応を強要される状況で、何とか今の作戦区を守っている・・・)

まあ、上々の指揮振りだろう。 欲をいやぁ、もうちょい隣に遠慮せず、思いきって欲しいモンだがね―――レ・カオ大尉の、周防少佐への評価はまずまず、と言ったところか。
その時、網膜スクリーンの戦術情報画面がポップアップした、同時にBETAの接近警報。 どうやら前方の戦術機部隊の迎撃網をくぐり抜けた、小型種の群れが接近中らしい。
戦車級と兵士級、そして闘士級、併せて約450前後。 戦術機部隊はどうやら、大型種掃討の際に小型種も100ばかり削った様だ―――暗闇の向こうに、蠢く影が大きくなった。

「馬鹿話はお終いだ―――擲弾、フレシェット。 アルファ(第1小隊)、アタマ。 ブラボー(第2小隊)、ケツ。 兵士級と闘士級を殺れ。 
チャーリー(第3小隊)、デルタ(第4小隊)、HE(Type-90高爆発威力弾頭ロケット弾)、真ん中の戦車級。 全弾一斉発射、その後は何時も通りだ―――殺れ!」

空中からのフレシェット弾の矢衾と、高爆発威力弾の一斉発射の後で、マルチディスチャージャーに装備したサーメート(テルミット焼夷弾)と12.7mm機銃弾の弾幕射撃。
前方、後方を攻撃した直後に群れの中ほどに叩き込む。 果たしてBETAに感情が有るのか知らないが、少なくともこの攻撃手法が連中の行動を掻き乱す事は、実証されている。
今回は1個小隊に2~3名が装備している、Type-92式LOGIRロケット弾ランチャーⅢ型。 第1、第2小隊の擲弾手14名が、各々18発のフレシェット弾頭ロケット弾を一斉発射した。
250発を越すロケット弾が、甲高い飛翔音を残してBETA群に殺到する。 そして目標手前、距離150mでフレシェットが放出され、直後に矢状の弾体が6.5度の範囲で拡散する。

『―――アルファ、ターゲット・キル』

『―――ブラボー、オン・ターゲット』

フレシェット弾1発は、約40m四方の範囲をカバーする。 幅1km、縦深200m程の範囲内に居た、先頭集団と後方集団の小型種BETAが、ズタズタの肉塊に変わった。
同時に再び甲高い発射音がした、第3、第4小隊の擲弾手15名が、今度は群れの中ほどに居る戦車級に対し、HE(高爆発威力弾頭ロケット弾)を放ったのだ。
250発近いHEロケット弾が、戦車級の群れに殺到する。 照明弾が照らす青白い夜の戦場に、感覚的にはあっという間に曳光を残して着弾した。

『―――ブラボー、ターゲット・ヒット』

『―――デルタ、ターゲット・キル』

機装兵のオプション兵装であるグレネーダー・ユニット―――Type-92・LOGIRロケット弾ランチャーⅢ型は、18発の小型ロケット弾を格納・発射できる。
戦術機のソレと異なり、極めて小型のロケット弾であるから、大型種BETAの撃破は不可能だ(対大型種戦闘には、Type-98対BETA誘導弾発射機をセレクトする)
しかし戦車級以下の小型種には、有効な兵装だった。 高速と高貫通力を有するフレシェット弾は、兵士級や闘士級をズタズタに切り裂き、ただの肉片に変える。
HEロケット弾の直撃を喰った戦車級は内部を弾けさせ、体液と内蔵物を撒き散らして卒倒する。 至近弾の炸裂でも、行動力を奪う程度の損害を与える事が出来るのだ。

「シックスより各隊、距離1000でキャリバー50(12.7mm重機関銃)、弾幕射撃。 目標は戦車級」

かなりの数を削ったとは言え、未だ300体前後の小型種が残っていた。 当然ながらこちらに気づいており、戦車級を先頭に禍々しい波をなって押し寄せて来た。
レ・カオ大尉の命令と同時に、各小隊長達が部下に指示を下す。 今度は銃手の出番だ。 中隊生き残りの約170名の機装兵が、両腕に装備する2門のキャリバー50(ブローニングM2重機関銃)の弾幕射撃は、戦車級の突進を阻止できるストッピング・パワーを持つ。

「200まで入り込まれたら、サーマートを喰らわせてやれ。 それで消し炭だ」

銃手最後の射撃・投擲兵装、2基装備したマルチディスチャージャー。 それは各種の擲弾を6連発で発射できる。 今回はサーメート(TH6テルミット焼夷弾)を選択していた。
米軍歩兵部隊が使用する、AN-M14/TH3焼夷手榴弾を改良・大型化したものだ。 加害半径を6mに広げ、燃焼時間は2秒、燃焼温度は摂氏で約4000度。 射距離最大250m。
鉄骨さえも溶かす高温で、BETAを消し炭にする。 大型種にも効果的で、要撃級に迫られた機装兵が苦し紛れの全弾発射で、要撃級BETAを撃破した例が報告されていた。

「1600・・・1400・・・1200・・・1000! ファイア!」

突如として神経を逆なでするような、連続した重低音が戦場を支配する。 なにしろ340門前後の12.7mm重機関銃が、一斉に火を噴いたのだ。
戦場の暗闇を、無数の太い曳光弾の帯が切り裂く。 空間を支配したその死の光帯は、見事な低伸弾道を描いて迫り来る、黒々と蠢くBETA群に襲い掛かった。
光量調整された網膜スクリーンの世界で、戦車級BETAが、兵士級BETAが、闘士級BETAが、無数の肉片に寸断されてゆく姿が見えた。 
1200発/分の発射速度を誇るM3M/GAU-21を流用している、射撃時間は1連射で2秒とか3秒。 それでも60~90発の12.7mm機銃弾を砲口初速890m/sで叩き込むのだ。

(―――ちっ、前の方の連中、バラけやがるか?)

レ・カオ大尉が戦場を見回すと、BETA群の先頭集団生き残りの兵士級BETAが30体程、群れから逸れて団本部方向に移動するのが見えた。
1個小隊、振り分けるか?―――そう考えたが、次の瞬間、その方針を放棄する。 次の浸透が何時有るか判らない状況で、戦力の分散はしたくない。 それに・・・

「―――“スネーク・シーフ”より“ラマ”(チベット軍自走高射砲中隊)、そっちに兵士級30、行ったぜ」

『―――“ラマ”より“スネーク・シーフ”、ラジャ』

生真面目なドカー大尉(ユトー・ツェテン・ドカー・チベット軍大尉)の声が聞こえた。 これで良い、残飯はチベット野郎に押し付ける。

(―――にしても、相変わらず愛想のねぇ野郎だ・・・)

自分の不良ぶりを、遠い棚に押し退け、レ・カオ大尉が再び戦場を見回した時には、粗方のBETA群は消滅していた。 レーダーで反応を確かめる、2時方向に約10体前後。

「シース・ファイア(撃ち方、止め)! シックスよりデルタ、2時方向の残飯を片付けて来い。 残りは残弾確認、アルファから順次、後ろでロケット弾とグレネードの補充だ」

強化外骨格の頭部前面装甲を跳ね上げる。 途端にネットリと熱い東南アジアの夜の空気と、硝煙の臭い、そしてBETAのはみ出した内蔵物の、鼻がひん曲がる臭気が襲い掛かる。
周囲で部下達が『取りこぼし』の個体が居ないかどうか、山麓のタコツボから出て周辺警戒に当っていた。 スロットルに付けられた無線リモコンボタンを弄り、周波数を変える。

「・・・あんまし、良いネタがねぇな・・・」

聞こえて来る通信内容は、どれもこれも、増援要請や救助要請、それに至急の兵站要請ばかり。 景気の良いネタは聞こえてこなかった。 レ・カオ大尉も顔を顰める。
戦闘団通信系以外の周波数帯の『盗聴』は、建前上は禁止だった。 しかし今回の様な『遊軍』的な部隊編成では、いちいち本部にお伺いを立てていては遅いケースも出て来る。
戦闘団長の周防少佐も、各隊長達が『盗聴』している事は知っている様だったが、特に何も言ってこない。 むしろその辺は『臨機応変にやれ』と、暗に言っている訳だ。

「ま・・・こちとら、命令されたら、やるだけなんだけどな」

―――それでも、最大限に拡大解釈して、ってのは、アリだよな。 あの少佐だったら、その位の遊びは大目に見てくれそうだ。










2001年5月11日 0235 マレー半島 マレー半島東岸 タイ王国・バーンサパーン・ノーイ県南部、チャンレク北方5km地点 ゲイヴォルグ』戦闘団


失敗したのか? 俺は、失敗したのか?―――周防直衛少佐は先程から、内心で何度もそう自問していた。

「戦術機第1部隊より緊急信! 『BETA群3000、急速接近中! 面制圧砲撃、及び増援を乞う!』、以上です!」

「第2部隊、ヴァン大尉より戦闘団長あて、緊急信! 『BETA群、1500と接敵、後続の1000が急速接近中! 単独での防戦は不可能と判断』です!」

「機装兵第1中隊からです! 『BETA群2000! ズラかろう!』・・・と、言って来ておりますが・・・?」

真北からBETA群が2000、北西から3000、西北西から2500の、合計6500。 とても戦闘団だけで防戦し切れる数では無い。
お陰で戦闘団の支援砲撃も分散してしまい、効果が出ない。 重迫と自走高射砲はさっきから本部陣地前面に迫る小型種の掃討に、砲身や銃身がオーバーヒート気味だ。

戦闘団が命じられた作戦目標は、第2防衛線背後の東側海岸線の確保。 及び最終防衛線主力が展開を終えるまでの間、作戦域を死守する事。
隣接する友軍との間のバランスを考える余り、戦力を分散させ過ぎたのか? いや、今まではそれで正しかった筈だ。 小刻みに浸透攻撃をしかけるBETA群を迎え撃つ分には。

「英軍グルカ旅団より通信! 『戦術機2個中隊の増援を乞う!』」

「南ベトナム旅団、押されています!」

「支援の旅団本隊戦術機部隊、第2大隊が引き返します! 長門少佐より直接通信、入ります!」

通信員が回路を切り替える、途端に周防少佐のヘッドセットから友人の、切羽詰まった声が響き渡った。

『直衛! すまん、駄目だ! 旅団前方にBETA群が出やがった! 俺は反転して、向うを叩く! 棚倉と伊庭も、手が回らないらしい!』

親友で僚友の声が、かなり切迫した事態だと知らせている。 もう9年以上も共に肩を並べて戦って来た親友だが、戦場でここまでの声色を出したのは、余り記憶が無い。

「判った・・・圭介、無理はしても、無茶はするなよ?」

『お互い、その位は判る程度には年を取った、って事だよな。 お前も無茶はするな、ここで壊滅しても、何の得にもならんぜ?』

「木伏さんのセリフだな、それは―――第2大隊、支援に感謝する」

『今頃、くしゃみでもしているだろうさ―――分遣隊、武運を祈る』

『無理』とは身体・精神の限界を超える事を理解しながらも、それを理解した上で何かを行う事。 『無茶』とは身体・精神の限界を超える事を理解せず、無視して何かを行う事。

『―――無理はしても、無茶はするな。 自分で一度やると決めたのなら、とことんやり抜け!』

レーダーに映る第2大隊の輝点が、次々に反転して行く。 旅団本隊前方の阻止戦闘と、隣接する同期生の指揮官との間で融通を付け合っての、分遣隊への支援。
それを同時に為してくれた親友に感謝しつつ、ひとつの言葉を思い出した。 そう、無茶は誰でも出来る。 しかし無理は、真にその覚悟と勇気、そして才覚を求められるのだ。
10年以上前の陸軍衛士訓練校時代、期指導官だった教官の中佐から教えられた言葉だったと思い出したのは、周防少佐がひとつの決断をした時だった。

「―――グルカ旅団に返信。 『我に余剰支援能力なし。 戦術機戦力の増援は不可能、貴部隊にて対処されたし』 ディール・シャムセール中佐に繋げ、話す。
長瀬、第1、第2戦術機部隊を引き戻せ、前方のBETA群2000の殲滅に当てろ。 向井、聯合陸戦隊の行動開始時間は? 変わらずか?」

「はい。 先程の定時連絡では、戦術機部隊の発進可能海域到達は0315時。 本隊上陸は0345時です」

戦術機部隊が発進したとしても、全機発艦・空中集合に10分。 そこから巡航速度で戦域到達は15分後。 つまり増援は0330時まで見込めない。 あと1時間弱。

「戦闘団前面に、戦力を集中する。 3群の行動速度に時間差が有る、各個撃破でいく」

同時に予備の戦術機1個中隊も出して、5個中隊で第1防衛線を張る。 直後に機装兵2個中隊と自走高射砲中隊、その背後に重迫中隊。
自走榴弾砲中隊と自走ロケット砲中隊も、前方に向けて一斉に面制圧支援砲撃を行い始めた。 作戦目標は、戦域の維持と後方部隊の展開時間を稼ぐ事。 ならば・・・

「戦闘団長あて、グルカ旅団先任参謀のシャムセール中佐から通信です!」

通信手からの報告に、急ぎ仮設の通信ブースに接続するよう指示を出す。 音声だけでなく、画像も繋がった。 どうやらまだ有線は切れていないらしい。

『周防少佐! 出せないのかっ!?』

開口一番、浅黒い精悍な顔を紅潮させたグルカ旅団の先任参謀・ディール・シャムセール中佐が怒鳴り声に似た口調で言ってくる。
それに対して周防少佐は、無言で首を振る。 相手は1階級上位の上官だが、同一国軍でも無ければ、命令系統が同じ訳でも無い。 戦場では礼を失する事が無い程度で良い。

「手広く分散させれば、各個に消耗させるだけです。 部下達を無駄に死なせるつもりは無い」

『こちらも、隣の南ベトナム旅団も、戦術機甲戦力が少ない。 2個旅団合わせても、貴部隊の戦術機甲戦力以下なのだ!』

グルカ旅団も、南ベトナム旅団も、戦術機戦力はそれぞれ、2個中隊しか保有していなかった。 だから『ゲイヴォルグ戦闘団』から常時、1~2個中隊を支援に回していたのだが・・・

「私は、戦力を集中させることを提案します、中佐。 如何に山岳戦が得意なグルカ旅団とは言え、今の編成は機甲大隊が主力の機動打撃旅団です。 山岳戦には不向きだ」

『・・・君、親部隊の側面を、ガラ空きにしろ、そう言っているのだな?』

探る様な視線で、シャムセール中佐が問いかける。 目には『どこまで本気なのだ?』と、探りを入れる様な色も見えた。

「どの道、このまま戦況が推移すれば、南遣兵団の側面はガラ空きになります、我々の壊滅の結果で。 ならば・・・」

『どこまで下がる?』

最後まで言わせず、次の話に入った。 どうやらシャムセール中佐も認識した様だ、この若い日本軍の少佐が、腹を括ったらしいと言う事を。
確かにここでグルカ旅団、南ベトナム旅団、日本軍南遣兵団分遣隊が下がってしまえば、日本軍南遣兵団の側面が空く。 軍事作戦上では極めて不味い状況となる。
しかし、相手はBETAだ。 これまでのBETAの侵攻ルートを見るに当たり、過去の事例の範疇を覆す動きは見せていない。 つまり、山岳地よりも平地を選んで移動する。

「我が軍の第22海軍聯合陸戦団が上陸するのは、ここから30km後方、バーンサパーン・ノーイ県とチュムポーン県の県境に位置する、この海岸線です」

作戦戦域、エリアB4―――バーンサパーン・ノーイ県とチュムポーン県の県境に位置し、7~8kmのなだらかな砂浜が続く海岸だった。 かつてはリゾート地だったらしい。

「上陸地点の北、10km地点からは標高100m前後ですが、丘陵地帯が連続して県境沿いに、東西に続いています。 他にも遮蔽に使える地形が所々に。
その北西方面3km程の場所からは、標高200~300m程度の小山の連なりが、国境の山岳地帯に向けて繋がっています。 
南ベトナム旅団があと10km下がれば、後続のネパール軍第1旅団と合流できます。 南遣兵団の南東後方、10km地点です」

南遣兵団自体は、2個旅団に数個の各兵科連隊を含んだ師団規模の部隊だから、早々簡単に喰い破られはしない。 それに東側面は、南東後方のガルーダス2個旅団が守る形になる。

『・・・身軽なネパール第1旅団、ブータン第1旅団が、後方15kmまで進出して来た。 展開を終えるのは、20分後だそうだ。 国連の3個師団は相変わらずだが』

ネパール・ブータンの両旅団は南遣兵団の直ぐ南方、増援兵力として穴を埋める事が出来る位置まで、ようやくの事で進出して来た。 最後のチベット軍第1旅団は・・・

「では、チベット旅団は共に汗をかいて頂きたい―――そう、お伝え願えますか?」

『図々しい男だな、君は。 私にメッセンジャー・ボーイの役をやれと?』

そう言いながらも、シャムセール中佐は面白いものを見た様な、興味津津の視線を隠そうともしない。 
作戦目標を達成する為に、親部隊まで一時的にせよ、危地に追い込む様な拡大解釈の行動をとるとは。

「中佐、日本軍の若造の少佐が話しても、チベット旅団司令部は首を縦に振らないでしょうから。 それにネパール軍に話を付けるより、グルカにとっては抵抗が無いでしょう」

元々、『グルカ族』などと言う民族は存在しない。 民族的にはネパールの、マガール族、グルン族、ライ族、リンブー族などの少数民族の総称なのだ。

『・・・判った。 パルバテ・ヒンドゥー(ネパールの最大・中核民族)の連中とは、話もしたくないからな。 では、35kmの後退戦、楽しもうじゃないか』

国土が維持されていた頃のネパールには、支配民族のパルバテ・ヒンドゥーと、山岳少数民族、そしてマデシと呼ばれたインド国境付近の少数民族との、深刻な差別や対立が有った。
それにネパール民族はインド・イラン語派に属するネパール語を話すヒンドゥー教徒だが、グルカと呼ばれる複数の山岳少数民族はシナ・チベット語派の言語を話す仏教徒が大半だ。
民族的にも言語的にも、そして宗教的にも昔からのしこりは大きく残っていた。 実を言えばその点に賭けてみた、と言う気分が周防少佐には有る。

今回で言えば、純粋に軍事的・戦術的な面から見て、後退するしかないと言うのがひとつ。 このままでは『ゲイヴォルグ戦闘団』は壊滅する、側面を失うグルカ旅団も危ない。
2つの部隊の長所―――『ゲイヴォルグ戦闘団』は比較的多くの戦術機戦力を有し、グルカ旅団は大隊規模の機甲戦力と機装兵戦力、それに砲兵戦力を有する。
ここで、開けた地形でBETA群を迎え撃つよりも、後方の遮蔽地形が有る場所で迎撃した方が生き残る可能性は上がる。 作戦目標も達成できるかもしれない。
もうひとつは、グルカ旅団はネパール旅団との協同を嫌うだろう、そう推測した事だ。 昔、合衆国の大学に短期留学した際に専攻した、比較歴史学で学んだ断片を思い出したからだ。

「長瀬、戦術機部隊に突出しない様に、指示を出せ。 これから35kmの後退戦だ。 来生、本部の撤収作業の指揮官をやれ、向井を使え。
それと後方の牧野に伝えろ、合流地点はエリアB4。 先に行って陣地を見繕っておけと。 自走砲と自走ロケット弾中隊に伝えろ、今から全力射撃を許可、但し10分間だけだ」

通信ブースから出て来た周防少佐の指示に、幕僚団が目を丸くする。 戦闘団本部がにわかに慌ただしくなる。 何しろBETA群を迎撃する最中で、後退戦をするというのだ。
その様子を見ていた周防少佐が、次の難題に直面していた。 後退戦を行うのは良い、しかしキモは戦術機部隊の動かし方だ。 突出もダメ、早過ぎる後退もダメ。
先任順でヴァン・ミン・メイ大尉に統合指揮を執らせるか? いや、彼女自身も中隊指揮と第2部隊指揮を掛け持ちしている、これ以上の負担は誤断を招きかねない。
そう言う意味では、本来の部下で先任中隊長の真咲大尉もダメだ。 彼女も中隊指揮と第1部隊指揮の二足草鞋を履かせている。 他は全て、彼女達より後任の大尉ばかりだ。

(・・・阿呆か、俺は? 自分が出ればいいだけの話だ)

後退しつつの支援砲撃は、サハリナ・プラダン大尉に一任する。 機装兵はレ・カオ・クォン大尉、あの男ならば生き残る為に、精々拡大解釈しての臨機応変な戦闘をするだろう。
重迫と自走高射砲はアンナ・ヴェルブリンスカ・プラテル・加藤大尉に任す。 難民出身の、下士官上がりだ。 生き残り方は心得ていて然るべきだ。

「遠野! “アイリス”全機、準備は出来ているか!?」

『こちらアイリス・リーダー、何時でもどうぞ!』

指揮小隊長の遠野中尉から、即応で返事が返って来た。 どうやら小隊長の判断で機内待機をさせていた様だ。 

「出るぞ」

『了解!』

そう判断するや、周防少佐は各支援部隊を統合指揮させる指揮官達に概要だけを知らせ、『良いと判断したなら躊躇するな』と伝える。 無論、その事を戦闘団戦闘記録に記して。
そして戦闘団本部に使っていた簡易テントを出るや、一目散に戦術機の簡易ハンガー(只の平地)に向かう。 大隊長機―――大隊旗機の94式『不知火』は出撃準備を終えていた。

「手持ち無沙汰だったか?」

「どうせ大隊長の事ですから、直に痺れを切らせて出撃するだろうなぁと。 チェックは全て完了しております、A-OK!」

大隊長機の機付き長―――古参の整備軍曹が笑って答える。 この男も一兵卒の頃から大陸派遣軍を経験して来た古強者だ、何時でも機体コンディションは維持させているのだ。

「古狸は、これだから・・・チェック、OK。 俺が出撃した後は、団本部と一緒に後ろに下がれ、ここは放棄する」

「了解です。 ご武運を、大隊長!」

「―――有難う。 長瀬! “ゲイヴォルグ”、レディ・トゥ・ゴー!」

≪CP、ゲイヴォルグ・マムよりゲイヴォルグ・ワン! クリア―ド・トゥ・テイクオフ・ランウェイ-1-5! ご武運を!≫

「“ゲイヴォルグ・ワン”、クリア―ド・トゥ・テイクオフ!」

周防少佐の94式『不知火』が跳躍ユニットを吹かして夜空に噴射炎をなびかせつつ、そのまま巡航噴射飛行に入る。 指揮小隊“アイリス”の3機がそれに続いて行った。










2001年5月11日 0245 マレー半島 タイ王国南部・ヤラー県ベートン北方15km 日本帝国軍南遣兵団特殊砲兵部隊 第108砲兵旅団


「―――気象データ、入力完了」

「―――射撃諸元よし、砲口内異常無し」

「―――第16斉射、撃て!」

00式超々長射程砲―――129.9口径・508mm砲が12門、轟音と共に一斉に闇夜を切り裂く閃光を発して、巨弾を発射する。 
目標は800kmほど先の、第2防衛線前のBETA群。 着弾は約3分50秒後。 砲側小隊がモニターで砲腔内をチャック、弾薬小隊が台車からクレーンに吊った次砲弾を運び込む。
装填小隊が砲尾栓を開き、目視で異常の有無を再確認した後、次砲弾を受け取り押し込んだ。 尾栓を閉鎖して小隊長が大声で『装填完了!』を叫ぶ。
気象観測データを受け取った射撃管制小隊がデータを再入力、一部を修正して中隊本部へ転送する。 全ての準備が整った事を先任下士官から連絡を受けた中隊長が、命令を下す。

「―――第17斉射、撃て!」

この間、約1分。 発砲から着弾までの間に、各砲4発の、旅団全体で48発の超々長射程・超高速(終速・M9.98)・大口径砲弾が、目標に対し撃ち込まれる。
第20斉射を終えた時点で、旅団本部から射撃中止の命令が入る。 第16斉射の砲撃効果報告が、要請のあった第2防衛線各部隊から、そろそろ入るからだ。 
都合、60発の129.9口径508mm砲弾の嵐。 いかな重光線級とは言え、早々レーザー迎撃できるものではない。 1体、2体のレーザー照射で蒸発する程、柔な代物ではないのだ。

「第2防衛線、ガルーダス北部第2軍第3軍団より、砲撃効果報告! 『昨日の地震より余程酷い、汝が震源地なりや? とまれ、BETA約1500が消滅せり』以上です」

1回の斉射でBETA群、約1500を仕留めた。 砲撃は都合5斉射、都合よく解釈すれば7500体前後のBETA群を消滅させ得る、と言う事か。

「BETAもバラけ始める頃でしょうから、大目に見積もって6000体前後、少なく見積もれば4000体前後・・・平均して5000体前後は、始末できますな」

それまでの砲撃効果を確認していた旅団射撃副調整官の大佐が、旅団長に報告する。 確かに1個砲兵旅団の全力砲撃を行えば、5斉射でその位は始末できるだろう。

「・・・問題は、次の斉射までの時間だな。 砲腔内温度が落ち付くのに、あとどの位かかるかね?」

「はっ、おおよそで・・・約30分後であります、閣下」

確かに『00式超々長射程砲』は、最大で1発/分と言う、この手の砲としては異常なまでに高い発射速度を有する(『86式超々長射程砲』も同じである)
しかし、その代償として今回の様な所謂『バースト射撃』を行えるのは、5斉射まで。 砲腔内温度が異常上昇して、再砲撃までの時間がかかるのだ。
温度が砲撃許容範囲に落ち着き、砲身・砲腔内の異常の有無を確認し、再装填の上で射撃諸元を再入力して再度の砲撃までに有する時間が、約30分。
それを回避する為には、1発/5分程度の砲撃間隔で砲撃しなければならない。 その発射速度でなら、30分間の継続砲撃が可能だった。

「ふむ・・・やはり、必要なのは数だね。 佐渡島へは、最低でも毎分10発から15発は撃ち込みたい」

「となりますと、最低でも5個旅団は必要になります。 現在3個旅団、編制途上の特殊砲兵旅団が現在4個。 その内、2個は九州へ配備予定ですから・・・ギリギリ、ですか」

新設3個旅団は508mm砲の『00式超々長射程砲』配備の特殊旅団が1個、381mm『89式超々長射程砲』配備の特殊旅団が3個。 現在、砲の受領は完了し、練成訓練中だった。
来るべき佐渡島奪回作戦の折には、東関東の辺りから超遠距離砲撃での制圧支援砲撃を行うプランが有るのだ(それでも、射程距離は精々300~400km程度の『短距離』だ)

5個旅団(超々射程砲60門)で毎分平均12発を撃ち込んだとして、30分間の連続砲撃で大口径砲弾を360発。 
同口径の戦艦主砲を遙かに上回る威力だ、BETA群の2~3万は殲滅可能と、陸軍上層部は想定して期待していた。
同時に九州でも、熊本や宮崎辺りに配備すれば、ギリギリH20・鉄原ハイヴまで砲撃が可能だった(射程750km)

砲兵旅団が、その効果に手応えを感じていたその時、前線から悲鳴の様な砲撃支援要請が入って来た。

「―――南遣兵団より、緊急支援砲撃要請! バーンサパーン・ノーイ前面15kmにBETA群、約6500! 分遣隊が孤立しかけております!」

無理だ―――旅団長と旅団射撃副調整官の大佐が顔を見合わせ、同時に無言でそう、表情で言い有った。 旅団は次の砲撃まで、あと30分かかる。

「・・・109か、110旅団へ支援出来んのか? 南遣兵団ならば、第2防衛線の後ろだ。 89式砲でも十分、射程内だろう?」

「109、110旅団とも、第1と第2防衛線の間に侵入したBETA群の殲滅砲撃に手が一杯との事であります!」

直ぐに支援砲撃を行える旅団は無い。 兵団の砲兵旅団は?―――自分の目の前で手が一杯なのだろう。 最終防衛線部隊は?―――路上で渋滞に巻き込まれている、駄目だ。
海軍は? 第5戦隊は第1防衛線から、第2防衛線前までの支援艦砲射撃で手が回らない。 ガルーダスの戦艦部隊も、第2防衛線前に殺到しているBETA群相手に忙殺されている。

「―――30分、粘れと言え! 30分後に支援砲撃を再開すると!」

南遣兵団の分遣隊―――バーンサパーン・ノーイ付近に、戦術機1個大隊を基幹として派遣されていた、あの連中か。 ガルーダスからも増援を受けているらしいが・・・

「―――30分後に、まだ部隊が残っていれば、奇跡でしょうな・・・」

旅団射撃副調整官の大佐が言う通りだった。 6500のBETA群に対し、連隊以下の戦力しか無い分遣隊では、30分も保たないだろう。

「・・・聯合陸戦旅団が上陸するのは、丁度、壊滅した直後くらいか。 哀れだな、時間稼ぎの捨て駒にされたか」

「しかし、それでも、いえ、それが軍人であります。 それが軍隊です」









2001年5月11日 0350(日本時間) 日本帝国 帝都・東京 千住 周防家


明け方近い4時前、子供の夜泣きの泣き声に、周防祥子は目を覚まされた。 布団から起き出し、ネグリジェの上にガウンをひっかけて隣の部屋に続く襖を開ける。
部屋の電気を灯けると、双子の息子と娘が仲良く揃って泣いていた。 最初に息子を抱きあげ、次に娘を―――赤ん坊とは言え、2人抱きあげると結構重い。

「あらあら、どうしたの? よしよし、直ちゃん、祥っちゃん、ママ、ちゃんと居るわよ? ほぅら、良い子、良い子・・・」

娘は余り手のかからない赤ん坊だが、息子は夫に似たのか、結構むずがり屋の赤ん坊だった。 それでも抱き抱えてあやしてあげると、大抵は機嫌が直ってスヤスヤと眠るのに。
今夜に限っては、息子は何時まで経っても泣きやまない。 娘も珍しくむずがっていた。 どうしたのかしら? お腹が空いている訳でもなさそうだし。 おねしょでも無いし?

その時、不意に嫌な感じがした。 理由は無い、何の根拠も無い。 しいて言えば女の直感、子供を持つ母親の直感、そんなものだろうか。

「・・・あなた・・・」

彼女の脳裏に一瞬、戦場に血まみれで横たわる夫の姿が浮かんだ。





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