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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 6話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/22 22:14
2001年5月6日 1530 マレー半島 タイ王国 チュムポーン県 ムアンチュムポーン クラ海峡最終防衛線 日本帝国軍南遣兵団 第15旅団第1戦術機甲大隊本部前付近


「―――不公平です!」

「え!? どうしたの、北里中尉? 急に・・・?」

「不公平ですよ! 爽子、そう思わないっ!?」

「北里中尉~・・・私に振らないで下さぁい・・・」

「だから、一体何が・・・」

現在、警急待機は第2中隊『ドラゴン』 第3中隊『ハリーホーク』は通常待機中で、第1中隊『フリッカ』と指揮小隊は整備待機中。
大隊本部から見えるビーチで色とりどりの華が咲いていた―――マレー半島派兵が決まって、神経の図太いベテランは水着を新調し、新米も軍採用のモノを忍び込ませていた。

「だからぁ! 『持っている人』には、判らないんですよ!」

「彩弓、残念ながらアンタは、『持っていない人』だものねぇ? あ、萱場もか」

「・・・ケンカ上等だからね、遼子・・・!?」

その大きさを誇示する様に、両腕を胸下で組んでわざと押し上げる美竹中尉。 その仕草に青筋を立てている北里中尉。 脇の木陰で眺めていた楠城少尉と高嶋少尉が、溜息をついている。

「ああ・・・また北里中尉と、美竹中尉が・・・」

「いつもの事でしょ?」

「それで、シベリアじゃどれだけ迷惑被ったか、忘れたの? 千夏?」

「慶子、言っても無駄よ」

見た限りはどうやら、とある身体格差の様だ。 判っている人は判っているが、判っていない人(主に遠野中尉)は、全く判っていない様子。

「はぁ・・・だから、一体何が・・・美竹中尉?」

「遠野さん、遠野さんって、バストサイズは?」

「え? 87のEだけど・・・?」

「ですよねー? 私は89のE! 千夏は86のEだっけ?」

「―――です」

未だに、いまいち事態を把握しきれない遠野中尉と、完全に悪乗り状態の美竹中尉。 何気に勝ち組みに鞍替えする楠城少尉。

「つまり、私達は『持っている人達』 で、こっちの『持っていない人達』は・・・」

「悪かったわね・・・どうせ、私は82のBよ・・・くっ! この不公平な胸部格差・・・もはや国内の貧富格差なんて、メじゃないわ・・・!」

「っ・・・! 80のAで、悪かったですねぇ!」

「うっ・・・ううっ・・・わ、私なんか、77のAAですぅ~・・・」

悔しげに握りこぶしを握る北里中尉に、親友が勝ち組みに鞍替えしたのを悔しがる高嶋少尉。 自分の胸を悲しそうな目で見る萱場少尉。 

その時、更なる巨峰が登場した―――真咲大尉だった。

「何を馬鹿言っているの、アンタ達は・・・」

「あ、真咲大尉・・・って、大きい・・・大尉、サイズは!?」

「ん? 93のFよ」

―――神託が下った。

「・・・やっぱり、中隊長って大きい・・・」

「大隊イチ、巨乳だもんね・・・」

「眼福~! 今夜、夜這いに行きますから」

「いいけど、美竹。 アンタ明日の朝、タイランド湾に沈みたかったら、すれば?」

「そんなツレナイ所も、そそります、大尉・・・じゅる・・・」

「この・・・ヘンタイ」

真咲大尉、美竹中尉、楠城少尉はかなり大胆なデザインの、黒や紫のビキニタイプ。 北里中尉と高嶋少尉は、少しハイレグ気味のブルーや赤のセパレート。
遠野中尉と萱場少尉は、軍採用の濃紺色の女性用水着姿で、各々の性格が出るチョイスと言える。 ただいま絶賛休息中だ。 男連中もいる筈だが、敢えて無視する。

「所で遠野、大隊長は?」

「あ、はい。 少佐でしたら先程、ガルーダス軍のヴァン大尉と将集(に指定された、コテージのなれの果て)に」

「古い戦友同士なんですってね、少佐とヴァン大尉って、確か」

「少佐が国連軍出向で、欧州に居た頃の戦友って聞いたわ。 でも・・・どう見ても、私より年上には見えないわねぇ、ヴァン大尉は・・・」

ビーチの上に座り込んで、日焼け止めを塗りながら真咲大尉が答える。 周防少佐とは1期違いの大尉だから、結構昔の事も知っていた。

「ええ!? そうなんですか!?」 

「てっきり、私と同じ位か、もしかしたら年下かと・・・」

「大尉の階級で、それは無いでしょう? 少佐が欧州に居たのって、93年から96年の夏前よ? 北里、美竹、アンタ達はその頃はまだ、訓練校にも入っていないじゃない」

「そうですよね・・・私も遼子も、99年卒業ですから。 真咲大尉は、93年卒でしたっけ?」

「そう、19期のA卒よ。 少佐の1期下ね。 ヴァン大尉って、少佐と同い年なのよね。 私の1歳年上・・・」

「あの童顔じゃあね・・・」

「なんだか、可愛らしい人ですね。 上級将校に向かって失礼ですけれど」

「親近感を覚えます」

「胸が?」

「悪かったわねっ!」





「―――クチュン!」

「ん? 風邪か? ミン・メイ?」

「ん~ん・・・誰か、噂してるよ~・・・絶対に」

「そう言う所、妙に勘が良かったな、昔から」

大隊本部に隣接する将校集会所―――実際は仮設の将校食堂―――で、周防少佐と南ベトナム軍のヴァン・ミン・メイ大尉が話していた。

「にしても、驚いた。 いつ、こっちに戻ったんだ? ミン・メイ」

「去年だよ? 去年の雨季が終わる頃だからぁ・・・10月だね。 私も向うに行って、丁度7年経ったし、そろそろ良いかなぁ? って思ったの。 ティウも指揮官になったし。
あ、直秋も元気でやっていたよ。 でもって、直衛の従弟って事が知れ渡ったせいで、ファビオなんかに、良い様にオモチャにされていたけどねー・・・」

「その辺は、ノーコメント。 遣欧旅団と協同作戦、よくやったのか?」

「うん。 駐屯地も一緒だったしね。 大隊長の和泉少佐や、美園大尉なんかとは、よく一緒に飲んだよ」

相変わらず、ほんわかした話し方と雰囲気の古い戦友に、周防少佐も思わず顔が綻ぶ。 若年士官だった頃に、共に母国軍から国連軍へ出向して、遠く欧州・地中海で戦った戦友。
そんな彼女が変わり無く、そして生き抜いて母国軍に復帰していた(彼女の母国は、既にBETAの腹の中だったが) それが嬉しい。

「あとで、圭介にも知らせるよ。 アイツ、すっ飛んで来るぞ。 懐かしい顔、見たさにね」

「え~? 私って、なんだか動物園の動物みたいじゃない? それだと? でも良かったよー、直衛も圭介も、こうして無事で。 直人は日本?」

「ああ。 久賀は今、帝都の第1師団に居る」

「へぇー!? 凄いじゃない? それって?」

和気藹藹とした雰囲気。 ただヴァン・ミン・メイ大尉がここに居るのは、何も旧友を懐かしんで、訪ねて来たという訳ではない。 話は数日前に遡る。





「増援を―――戦術機大隊だけの分遣隊で、この東海岸線を守れと? せめて、小型種掃討任務の機装兵(機械化歩兵装甲部隊)と自走高射砲、それに機動歩兵を。
機甲部隊を、とは言いません。 しかし、戦力が偏り過ぎです。 戦術機1個大隊に分遣隊本部(大隊本部)と衛生中隊に整備中隊、後方支援中隊だけ。 これでどうしろと?」

『まあ待て、周防。 確かに分遣隊と言っても、戦術機に偏り過ぎと言うのは判っておる。 今は兵団司令部に打診中だ、予備から機装兵と砲兵くらいは手配する』

「・・・本当ですね? 副旅団長?」

通信モニター越しに、渋い顔をしている第15旅団・副旅団長の名倉大佐。 周防少佐も防衛任務の成否がかかっているので、喰らい付いている。

『兵団予備の各連隊から、せめて戦車と自走砲と機装兵、それぞれ1個中隊を出してくれと交渉中だ。 旅団からは出せん、こっちもギリギリだ。
とにかく、数日待て。 何とかしてやるから。 分遣隊を押し付けた以上、恰好がつく様にしてやる。 BETAはまだ、お寝んね中だ、まだ間に合う』

周防少佐と名倉大佐の交信内容。 今回は旅団の直接指揮下から離れ、マレー半島のクラ海峡北東部海岸線の防衛、その一部を周防少佐率いる分遣隊が担う事になった。
ただしこの時点で、正面打撃戦力は戦術機甲1個大隊だけ。 何でも偏り過ぎている。 マレー半島は第1防衛線以南には、まだ密林地帯が何割か残り、山岳地帯も残っている。
こんな熱帯雨林地帯では、特に小型種BETAの発見・掃討には機動歩兵部隊・機械化歩兵装甲部隊や自走高射砲部隊が不可欠なのだが、それが一切なかった。

「お願いします、大佐。 この辺りから海岸線を北上する場所には、まだ結構な密林地帯が残っています。 戦術機部隊だけでは、必ず見落としが出ます」

そう言う訳で、旅団司令部と南遣兵団が協議の結果、『一部は出せるが、他はガルーダスに出させる』と言う事になった様なのだ。





「まさかねー、私も直衛の『部下』で働く事になるなんてね。 向うのみんなが聞いたら、驚くだろうなぁ」

「・・・どう言う意味で? ミン・メイ?」

「疑り深いよ、直衛? オジさんになった証拠だね!」

「良く言うよ、年は同じだっていうのに・・・それにしもなぁ・・・こんな戦力、どうやって使おうか・・・?」

「それは、直衛のお仕事よ。 頑張ってね、『ゲイヴォルグ戦闘団長』殿!」

戦闘団長―――今回は公式には大隊戦闘団となる、一応は。 戦闘団長、つまり指揮官は日本帝国陸軍の周防直衛少佐。 戦術機甲大隊長も兼ねる。
基幹戦力は戦術機が5個中隊と1個指揮小隊。 日本軍から1個戦術機大隊と、1個独立戦術機中隊。 これに南ベトナム軍から、1個戦術機中隊が加わる。

南遣兵団予備から、エリカ・マイトラ帝国陸軍大尉が率いる第502独立戦術機甲中隊(92式弐型装備)、アンナ・プラテル・加藤帝国陸軍大尉が率いる自走重迫中隊。
それとヴァドゥル・ユカギール帝国陸軍中尉の、1個機械化歩兵装甲中隊が合流した。 いずれも日本帝国陸軍では『外人部隊』と言われる、国際難民出身者の部隊だ。
ヴェルブリンスカ・加藤大尉はポーランド系ソ連人の亡命難民で、日本人男性と結婚した。 夫は戦術機メーカーの技術者をしている。
マイトラ大尉はエストニア系亡命ソ連難民の出身。 かつてソ連による併合後に、故郷からシベリア地方に強制移住させられた、エストニア系住民の子孫だった。
ユカギール大尉はシベリア少数民族系の、亡命ソ連難民出身。 いずれも日本国籍への帰化資格を得る為に、帝国軍(外国人志願枠)に志願入隊した人材達だ。

他にはネパール軍・サハリナ・プラダン大尉の自走砲中隊(『プリマス』自走榴弾砲6輌)、チベット軍・ユトー・ツェテン大尉の自走高射中隊(M90スーパーダスター自走高射機関砲6輌)
ブータン軍・ソンツェン・ガンポ大尉指揮の自走ロケット砲中隊(GMP-80自走多連装ロケット砲6輌)、英連邦軍グルカ旅団・マトリカ・バンダリ中尉率いる戦闘工兵中隊。
南ベトナム軍からヴァン・ミン・メイ大尉の率いる1個戦術機甲中隊と、レ・カオ・クォン大尉指揮の1個機械化歩兵装甲中隊が加わる。 

いずれもガルーダスからだ。 先任順位に従い、ヴァン・ミン・メイ南ベトナム軍大尉が、戦闘団次席指揮官を務める。

「戦術機が5個中隊、機装兵2個中隊に、自走砲と自走高射砲、自走ロケット砲、自走重迫に戦闘工兵、これらが各1個中隊か・・・
なんだかな、微妙に扱いづらい戦力だな。 せめて戦車が有れば・・・贅沢なんだけどさ。 にしても、規模的には大隊戦闘団どころか、連隊に準じる規模だぞ、まったく・・・」

「そうだねー。 少なくとも、少佐が指揮する規模じゃないよねー・・・日本から要請があって、とりあえず予備でブラブラしている隊を、適当に送りつけたみたい・・・」

それに兵站と整備の問題が有る、通信もだ。 統一通信帯を兵団とガルーダス軍の間で、再設定して貰わねば、戦闘団内の相互通信もままならない。

「それに糧食・給食に輸送隊、防疫給水部隊に・・・ああ、戦闘車両の整備隊も、来て貰わなきゃ。 東南アジアの仏教徒って、食の戒律ってあった?」

「特にないよー。 ムスリムやヒンドゥーじゃないから、その辺は心配しなくていいよ。 でもチベットやブータンと、他のヒンドゥー・・・インド軍は隣接させない方がいいかも。
タイ軍とムスリムもね、特にタイ南部出身のムスリムで、マレーシア軍に入っちゃった連中が居るから。 この辺が顔合わすと、BETAそっちのけで大喧嘩だよー?」

―――胃が痛い、ガルーダス内部は民族と宗教が厄介だ。 顔でそう言って、周防少佐がペットボトルに入った炭酸入りミネラルウォーターを飲む。 美味くないが、仕方が無い。
これは分遣隊附き衛生隊長・陽詩慧(ヤン・シィフィ:日本語読み・よう・しえ)帝国陸軍軍医中尉から、口を酸っぱくしてレクチャーされた事だ。

『宜しいですか、少佐。 ガルーダス軍将兵は地元ですので大丈夫ですが、我が帝国軍将兵には、必ず徹底して頂きたい点が幾つかあります』

台湾先住民の高砂族―――正確にはアミ族出身の彼女は、中共の台湾避難後の混乱で故郷を捨て、沖縄に移住した一族の1人だ。 
その後、帝国大学の医学部卒業と同時に大学病院で医師をしていたが、召集されて軍医中尉に任官した。 専門は伝染病内科、今回にはうってつけだった。

『気を付けなければならないのは、ひとつは感染性腸炎による下痢。 これは発熱と嘔吐を伴い、病名は病原大腸菌腸炎、コレラ、アメーバ赤痢、腸チフスなどが有ります。
全て細菌感染です、この辺りの国の水道水は、危険と考えて間違いありません。 特に雨季に入った今は、雨の後の水は確実に危険です。
飲料は軍支給のミネラルウォーターのみにして下さい。 南の市街地(要塞都市)で買う事もあるかもしれませんが、絶対に炭酸入りを購入して下さい』

陽軍医中尉が言うには、歯磨きの際に口をすすぐ水やシャワーの水からも、病原菌に感染する場合もあり得ると言う。 また雨季は川や湖、池や沼で泳ぐのも危険、絶対禁止。
凍らせると細菌の数は減少するが零にはならず、長期間氷の中で生存し続ける。 だから飲酒での水割りやオン・ザ・ロックの水も氷も、軍支給のミネラルウォーターで作る。

『熱いコーヒー、紅茶は安全ですが、アイスティー、アイスコーヒーは駄目です、飲まないで下さい。 市街で購入する、市販のミネラルウォーターも安全とは言えません。
特にガス無し(炭酸無し)のミネラルウォーターの中から、細菌や原虫が見つかる場合があります。 ガス入り(炭酸入り)の水の方が安全です。
炭酸で水が酸性になるため、細菌が死滅しますし、大腸菌や腸チフス菌も1万分の1まで菌数が減ります』

確かに、BETAとの戦闘を目前にして、衛士達が腸炎やコレラ、アメーバ赤痢や腸チフスで、一斉に下痢と嘔吐、発熱で戦闘不能だったとすると・・・

『・・・国に帰れないな、指揮官としては・・・』

『ご理解頂けたようで、何よりです。 ミネラルウォーターが不足した場合は、全て煮沸消毒した冷まし湯を飲料にしたいと考えます。 では、次の留意点ですが・・・』

陽軍医中尉の説明続く。 分遣隊防疫給水部責任者の彼女としては、戦闘以外での戦力ダウンは彼女にとっての敗北と同意だ。

『他に南方で気を付けねばならない事は、何と言っても蚊を媒介する伝染病です』

マラリアとデング熱、この2種の蚊媒介の感染症は、十分に注意すれば防げると言う。 まず、無暗に密林地帯に入らない事。 日本人はガルーダス将兵ほど、免疫力が無い。
いずれもハマダラ蚊が媒介するが、これは昼間は刺さない蚊だ。 夜、蚊に刺されないように注意し、長袖のシャツやズボンを着用して、網戸などで遮蔽した部屋にいる事。

『また防虫加工した蚊帳も有効です。 ですが、立哨や当直などでどうしても夜間活動は有りますので、基本は長袖、長ズボンに防暑靴の着用、防虫スプレーは必ず着けて下さい』





「あはは、そうだねー。 私も、7年も欧州に居たから、帰った時は、なまっちゃって。 さっそく腸炎に罹患しちゃったよ。 あの時は吃驚したよ、まさか私がー! なんてね」

「ウチの隊は、寒い場所は結構慣れているんだ。 真冬の樺太駐留経験もあるし、冬のシベリア戦線にも派遣された。 予備の独立中隊は北欧系や東欧系が多い。
だけど、流石に東南アジアの戦場は初めてでね・・・衛生面もさることながら、戦場の情報もさっぱりだ。 イメージでは、雨季は軟弱な地盤なんだが・・・」

「んー、そうね。 それはあるよ。 足元の設定、東アジアの戦場よりも、もっと接地圧の設定とかシビアにしておいた方がいいよ。 腐葉土とかもあるしねー」

「後は?」

「あとはー・・・まあ、戦場を徒歩で離脱するなんて非常事態になったら、水際は避けて通る、かなー? BETA以前に、ワニに食べられたく無ければねー」

「―――ワニ!?」

「うん、まだいるよー?」

「ワ、ワニね・・・うん、覚えておくよ・・・」

心なしか、周防少佐の顔が引き攣っている―――あの手の大型爬虫類が、実は苦手なのだ―――確認事項を整理して、ひとまず区切りがついた。

ふと思い出したように、周防少佐がヴァン大尉に確認する。 本業での話、ヴァン大尉が搭乗している戦術機の事だ。

「F-18E・スーパーホーネットか・・・昔、アラスカに居た頃に少しだけC型に乗ったけど、あれとは別物だって話だね」

「そうだねー。 一言で言うと『優等生』だよー、あの子は。 F-15EとF-16E・・・前はF-16C・Block 60って言っていた子の、中間ぐらいかなー?
Type-92ⅡC・・・『ヴァイパー・ゼロ』と同じくらいなのかなぁ? 近接の取り回しは『ヴァイパー・ゼロ』の方が良い子だけど、砲戦はスーパーホーネットも良い子だよー」

「ガルーダスは、機種は相変わらずF-18系とF-5系だね。 F-4系で発展して来た日本とは系統が違う。 一部、92式系(壱型/弐型の輸出タイプ)もあるけど」

「うん、なにせ『寄せ集め』だしねー、ウチはね」

周防少佐の言葉に、ヴァン大尉も同調して頷く。 大東亜連合軍は元々が東南アジア諸国の連合軍なのに加え、それぞれが持つ背景から、東アジア諸国の戦術機とは系統が異なる。
地上軍の質的な最新鋭戦術機はF-18E・スーパーホーネットだが、これはガルーダス全軍で119機しか配備されていない。 他にホーネットはF-18Cが256機、F-18Aが583機。
数的主力はF-5系だった。 F-5E・タイガーⅡが1908機、その現地改修発展型のF-5G・タイガーシャークが518機で、残りはType-92系(92式壱型/弐型)600機程を保有している。

「数的主力は、F-5系か。 まあ安価で小回りが利く機体だから、東南アジアの戦場には向いているのかな? F-18や92式はその辺、どうなんだい?」

「うん、両方とも良い機体だよー。 Type-92ⅡC(92式弐型丙)とF-18E、ほとんど互角かなぁ? こっちに戦場にも合うよ。
重量の割に大出力だから、地面にのめり込んでも咄嗟に足を抜けだせるしねー。 これがF-15系になっちゃうと、多分ちょっとしんどいかなぁ?」

「乗ってたの? イーグルに?」

「うん、ほんのちょっとだけどねー。 こっちに帰ってちょっとの間、国連軍の方に居たのね。その時に試験部隊に回されてぇ・・・
部下にやたらと機体を壊す子がいてね、元気な良い子なんだけど、その度に私も上や整備に頭を下げてね。 
でもネガを潰させると、ホント上手い子だったよ。 今はアラスカに行ったよ、例の国連軍主導の戦術機計画、あれの試験開発衛士に抜擢されてね」

「へえ、アラスカに・・・懐かしいね、俺も居たよ。 もっとも、工事の手伝いだったけど。 しかし、この分遣隊も94式に92式、それにF-18と、見事にまぁ・・・」

ガルーダス全軍の保有戦術機中、F-5系の2426機、F-18系の958機には及ばない、3番手の位置に甘んじている600機の配備機数のType-92系。
その内の350機はType-92ⅠE(92式壱Ⅳ型)で、250機がType-92ⅡC(92式弐Ⅲ型)だ。 だがAH戦では、F-18系に対して若干の優位を維持している。
そして基本性能の高さと、日本製戦術機の近接戦能力の高さは、ガルーダス軍衛士達に好まれていた。 F-5に慣れた衛士達は、F-18よりType-92への機種転換を望むと言う。
結果としてガルーダス軍内部の戦術機は、F-18系、F-5系、Type-92系(壱型・弐型)が混在している。 それぞれが猛烈なセールスを展開中だった。

「ああ・・・また、整備パーツ手配の苦労が増えた・・・胃が痛い・・・」

「直衛、BETAと戦う前に、胃潰瘍で戦病死しない様にねー?」

「・・・ミン・メイ、性格、変わった・・・?」

「私も、苦労したのー」





ヴァン・ミン・メイ大尉との雑談の後、周防少佐は各派遣部隊の様子を見回っていた。 例え部下達が『バカンス代わりの派兵』と洒落こもうと、トップはそれなりにやる事が有る。

「大隊規模程度のBETA群に対する面制圧砲撃なら、我々とガンポ大尉のロケット砲中隊とで、何とかできます。 しかしBETA群が連隊規模以上になれば、厳しいです」

浅黒い肌の端正な顔立ちを少ししかめて、サハリナ・プラダン大尉が汗をぬぐいながら言う。 ネパール軍の女性砲兵将校、彼女もやはり、この高温高湿は慣れない様だ。

「支援砲撃力は、私の中隊の『プリマス』自走榴弾砲が6輌と、ガンポ大尉の『GMP-80』自走多連装ロケット砲が6輌。 バースト射撃なら、瞬間火力投射量はかなりの物ですが・・・」

「それは最後の手段だな、継戦時間が最優先だ。 済まないが大尉、砲の性能諸元を教えてくれるか? 概要で良い」

目前の自走砲を見ながら、周防少佐も汗を拭い言う。 東アジアの戦場では見た事の無い自走砲だ。 確かシンガポール軍が開発して、現在はガルーダス全軍の主力自走砲の筈。

「はい、少佐。 『プリマス』は『SLWH ペガサス』155mm榴弾砲を自走砲化したものです。 『SLWH ペガサス』自体が、前作の『FH-2000』より軽量化された砲です。
この『ペガサス』自身も各国の同クラスの155mm自走砲に比べ、軽量小型化に成功しています。 39口径155mmの軽量榴弾砲です。
射程は通常砲弾で1万9000m、ERFB-BB弾で3万m。 発射速度は急速射撃3分間で毎分4発、持続射撃30分間で毎分2発です」

と言う事は、1分間に12発の155mm砲弾を継続して、叩き込めると言う訳だ。 他に『GMP-80インドラ』自走多連装ロケット砲が6輌ある。
こちらはソ連の『BM-21グラート』を、ガルーダス軍か改造して配備している40連装122mm自走ロケット砲である。 
単射で1発/5秒。 一斉射撃時には40連発を20秒で発射できる。 ただし撃ち尽くすと、再装填に2分かかる(BM-21は3分かかったが、この点も改良されている)
車体はチェコのタトラ社から招聘した技術陣が開発した、タトラT813の改良型、『タトラT815』を流用して搭載している。
氷点下40度の酷寒に耐え、また過去に北アフリカで示した酷暑の砂漠での耐久性、東南アジアでの高温高湿での耐久性、柔軟な全輪独立懸架による悪路踏破性は世界に類を見ない。

ちなみに『プリマス』155mm自走砲も、この『タトラT815』を車体に使っている。 世界中でも装軌式で無く、装輪式自走榴弾砲と言うのは珍しい。
他にはチェコ軍の『ダナ』152mm自走榴弾砲があるだけだ。 不整地走破能力は装軌式よりやや劣るが、整地での速度と長距離自走が可能となった分、戦略的機動力が向上した。

「インドラ(GMP-80)を3輌ずつの小隊毎に、1輌毎に一斉射撃させるとして・・・毎分155mm砲弾が12発と、122mmロケット弾が120発か。 持続射撃時間は?」

「確か、インドラの即応弾数は4セットです」

「2分でロケット弾を1セット、撃ち尽くす。 インドラの持続射撃は一斉射撃だと8分か・・・」

思案のしどころだ。 ロケット砲を単射で撃たせるか、それともここぞの場面での一斉射撃で、一気に面制圧を掛けさせるか。

「・・・予備は? どの位ある?」

「155mm砲弾でしたら、合計1基数(240発)です。 持続射撃2時間が可能です。 ロケット砲も、1基数(12セット)あります」

「判った、状況次第で指示を出す。 戦闘時の通信帯は、後ほど本部から連絡を入れる。 支援砲撃、任す」

「はっ!」





「ひとつ、はっきりさせたいんですがね、周防少佐。 アンタはジープン(日本人)の吶喊馬鹿なのか? それともやたら死守命令を出すだけの、兵隊将校なのか?」

南ベトナム軍・機械化歩兵装甲中隊『スネーク・シーフ(コソ泥)』の中隊長、レ・カオ・クォン大尉が、浅黒く精悍な顔に不敵な笑みを浮かべて聞いて来る。

「・・・俺は、根が臆病者だよ」

「ふぅん・・・だったらいいや。 臆病者って事は、生き残る為には色々と考え抜く奴だ。 そんな臆病者が、生き残って少佐にまでなっているって事は、まあ、一応信用しますぜ」

「違ったら、どうしていた?」

周防少佐の際どい質問にも、レ・カオ大尉はふてぶてしく答えるだけだ。

「その時はアンタを見捨てて、ズラかる算段をしますよ。 言っときますが少佐、俺はジープンが大嫌いだ。 無能なジープンなら、BETAより先にぶっ殺してやるくらいに。
ただし、戦場で臆病なまでに生き残る算段をするヤツは、そうでもねぇ。 そいつが俺を生き残らせるんだったら、ジープンでも何でも構わねぇですぜ」

「・・・ああ、俺も戦場で吶喊ばかり掛ける、真面目な馬鹿は大嫌いだ。 それより意地汚い位に、生き残る奴の方が良い。
それと、俺は部下のケツを蹴り上げて、戦場で死なせるのが仕事だ。 BETA共を殲滅して、他のより多くの部下を生き残らせる為にな」

一瞬、周防少佐とレ・カオ大尉は、獣の様な笑みを浮かべて視線を衝突させていた。 が、次の瞬間レ・カオ大尉が苦笑と同時に表情を改め、敬礼と共に言った。

「南ベトナム軍派遣、独立第658機械化歩兵中隊。 レ・カオ・クォン大尉以下、指揮下に入ります」

「日本帝国軍南遣兵団・分遣大隊戦闘団長、周防直衛少佐だ。 レ・カオ・クォン大尉以下、着任を許可する」





「第4中隊に関しては、整備パーツのご心配は要りません。 我が中隊は92式弐型装備ですので、いざとなればガルーダスより融通を付けて貰う事が出来ます」

兵団直轄の独立戦術機甲中隊長、現在は分遣戦闘団・戦術機甲第4中隊『バルト』中隊長、エリカ・マイトラ日本帝国陸軍大尉が答える。
祖父にエストニア人義勇兵の元ドイツ武装親衛隊少佐を持つ、エストニア系亡命ソ連難民からの志願入隊者。 鮮やかな金髪と碧眼の24歳になる女性大尉だ。

「第5中隊(南ベトナム軍・ヴァン・ミン・メイ大尉指揮の『アオヤイ』)もF-18Eだから、ガルーダスで兵站を持ちますよ。 問題はType-94だねー・・・」

戦闘団G4(第4係主任、兵站・後方幕僚)の宮部宗佑中尉が、渋い顔をする。 旅団本部からも、伝手を頼った兵団本部からも良い返事を貰えなかった為だ。

「海軍の96式は摩周型輸送艦が、最初から随伴していましたから心配ありませんが・・・」

「まあ、その問題は今ここで話しても、仕方が無い。 最悪、ガルーダスに話を付けて92式の余剰分を回して貰えるか、打診中だそうだ。
真咲、最上、八神、強化装備側のデータはバックアップ出来ているな? 挙動に違和感が出るが、何とかしろ」

「92式は搭乗経験がある者も多いので、大丈夫でしょう」

「違和感を感じて、どうこう言う様な、そんな後方ボケをしている奴は居ませんよ」

「そもそも、そんな繊細でお上品な奴は、この部隊には居ませんって」

戦場でいざとなれば、それまでの搭乗機体から予備機へ、または引っ張り出した中古の機体へ乗り込んで戦場に舞い戻るなど、大陸ではよくあった話だ。

「ま、古参の連中に、そんな繊細な神経なんぞ、端から求めていない。 加藤大尉、重迫の方はどうだ? 機装兵部隊との連携は?」

「順調です。 砲弾の予備も届きましたので、全力支援砲撃5回分は可能です」

亜麻色の髪に同色の瞳、穏やかな笑みのポーランド系美人のアンナ・プラテル・加藤大尉が答えた。 28歳、周防少佐より1歳年長で、日本人と結婚した人妻でも有る。
『ポーランド版ジャンヌ・ダルク』、19世紀ポーランドの革命家・伯爵夫人であり、ポーランド軍リトアニア歩兵連隊の女性連隊長だった、エミリア・プラテルを先祖に持つ。

「機装兵第1中隊は、何時でも、命令が有れば」

寡黙で鋭い狩人の様な眼をした、ヴァドゥル・ユカギール日本帝国陸軍中尉が短く答える。 シベリア少数民族出身の彼は、先祖がそうであったと同様、BETAを狩る狩人だ。

「機械化歩兵装甲は、日本もガルーダスも『ギガンティ(Type-97 Mechanized infantry Armoring(MA)Powered exoskeleton“Giganty”)』だったな?」

「はい」

「そうっすよ。 日本製工業製品は、信頼出来ますぜ」

ユカギール中尉と、レ・カオ大尉が答える。

戦闘用強化外骨格、97式機械化歩兵装甲。 日本帝国を始め、大東亜連合、インド、中東連合、南米の一部など、世界シェア第1を誇る大空寺製の戦闘強化外骨格。
固定兵装はブローニングM2重機関銃・M3M/GAU-21(1200発/分)を2門、両腕にマウントする。 他に標準オプションとして追加装甲と近接戦用爆圧式戦杭(パイルバンカー)
6連装マルチディスチャージャー(サーメート(AN-M16/TH6テルミット焼夷弾))、92式LOGIRロケット弾ランチャーⅢ型、98式対BETA誘導弾発射機を選択出来る。
92式LOGIRロケット弾ランチャーは50グレインフレシェット弾頭ロケット弾10発、HEAT弾頭ロケット弾4発、高爆発威力弾頭(HE)ロケット弾4発の18発を発射できる。

戦車級以下の小型種BETA制圧に、非常に有効な兵装だ。 特に50グレインフレシェット弾頭ロケット弾は、目標150m手前でフレシェットが放出され、高初速と貫通力を有する。
矢状の弾体が140m飛翔し、約6.5度の範囲で拡散する。 フレシェット1発が約40m四方の範囲をカバーするから、10発を一斉発射した時の制圧有効範囲はかなり期待出来る。
98式対BETA誘導弾発射機は、98式対BETA/APKWS誘導弾(M98・APKWSAB)を4発発射可能。 セミ・アクティヴレーザー誘導の成形/金属サーモバリック複合弾頭。
こちらは要撃級BETAならば、直撃すれば撃破が可能だし、突撃級BETAも装甲殻は射貫出来ないが、そのほかの部位に命中すれば動きを止める事が十分可能な兵装だ。

他に狙撃手用として、96式対物・対BETA狙撃銃(FN-AMR96)がある。 15.5mm(15.5×118mm弾)、全長2250mm、有効射程2500m、銃口初速1100m/s
FN社が1990年に開発を中止したFN・BRG-15重機関銃をベースに、FN社と日本が協同開発した対物・対BETA用狙撃銃。
従来の12.7mm級対物ライフルでは戦車級以上の撃破は難しく、より大口径の対物ライフルを必要とした。 そこで採用を見送られたFN社と日本が協同で開発したのが本銃だ。
欧米諸国の12.7mm級対物・対BETA用狙撃銃に比べ、重量はさほどの増加は無い。 威力・射程・低伸弾道性に優れる。

居並ぶ日本と大東亜連合各国の将校達を前に、周防少佐が作戦地図から視線を上げて、『部下』達を見て言った。

「そちらは良いか・・・よし。 戦闘序列は後ほど正式に伝えるが、戦術機第1部隊(第1、第2中隊)は真咲大尉指揮。 第2部隊(第4、第5中隊)はヴァン大尉指揮。
砲撃支援はプラダン大尉、機装兵2個中隊はレ・カオ大尉、直協支援は重迫と自走高射機関砲の両中隊を加藤大尉、各々指揮を執れ。
本部、工兵、衛生、通信の各後方中隊は、牧野大尉指揮下とする。 全般指揮は俺が執る、戦闘団副指揮官、ヴァン・ミン・メイ大尉。
戦術機第3中隊と戦術機甲指揮小隊は、戦闘団指揮官の直率。 各隊、戦闘団通信系を確認の事―――以上、質問は?」

全員が無言で首を振る。 今の状況でこれ以上の変更は、必要無いだろう。

「よし―――最後に、日本も大東亜連合も、関係無い。 ここに居る者達は、全て一蓮托生だ。 俺は貴官等のケツを蹴り上げ、戦場に送る。 しかし最後まで戦場に居るのは、俺だ」










2001年5月8日 マレー半島 タイ王国南部・ヤラー県ベートン北方15km 日本帝国軍南遣兵団特殊砲兵部隊 第108砲兵旅団


「旅団長、砲の設置はあと3時間で完了の予定です」

「ん・・・ご苦労、大佐。 にしても暑いね、ここは」

「はは・・・派遣された将兵の誰もが、同じ事を言っておるでしょうな。 しかし、雨季とは少々心配です、地盤が・・・」

「うむ・・・まあ、必要以上に心配しても始まらん。 それに図体程、発射時の反動が大きい訳ではない。 むしろ海軍の戦艦主砲の方が、反動は大きいからな」

旅団長の准将と、射撃副調整官の大佐の面前には、とんでもない長さのパイプの化け物が居た。 パイプの所々に、突き出した突起が有る。 実はこのパイプ、歴とした砲で有る。
『00式超々長射程砲』―――日本帝国陸軍が1994年に遼東半島に持ち込み、『大陸打通作戦』時に発射運用試験を行った『86式超々長射程砲』の後継砲で有る。
砲口径は508mm(20インチ)、砲長身は66m、最大射程は980kmにも及ぶ。 86式が砲口径381mm、砲長身50m、最大射程750kmだったから、かなり性能は向上している。

要員は砲1門につき、砲兵1個中隊を要する。 これ程の巨砲だが、発射速度は1発/毎分と早い。 旅団全体で12門―――12個中隊が必要で、他に多数の支援部隊が付く。
日本とガルーダスとの交渉で、『00式超々長射程砲』の実戦テストが行われる事となった。 前線遙か後方、タイ=マレーシアの国境付近から、第1防衛線前に砲弾を叩き込める。
初速は秒速5.8km(M16.52)、そこから980km彼方の攻撃目標に突進し、最後は秒速3.5km(M9.98)で着弾。 運動エネルギーと衝撃波で、目標とその周辺を粉砕する。

「こちらは、どうやら使えそうですが・・・あの『試作1200mmOTH砲(超水平線砲)』、どうやらお蔵入りになりそうですな」

「ナンセンスだよ、1200mm口径など。 しかもそれが戦術機での運用前提だなどと、大口径砲の何たるかを理解せぬ、どこかの大馬鹿者が官僚文書ででっち上げおって」

「確か、中東連合で1000mm口径の超大口径多薬室砲を開発して、カイロ辺りからマシュハド(H2・マシュハドハイヴ)を砲撃しようと言う計画も、有りましたな・・・」

1998年、前年に北アフリカに逃れた中東連合内で、超々射程でハイヴを直接叩く計画が浮上した。 日本の『86式超々長射程砲』と、遼東半島の砲撃実績を踏まえてだった。
中東連合とアフリカ連合内のムスリム諸国は当初、日本帝国に対して『86式超々長射程砲』の供与を打診した。 見返りは北アフリカ産原油の、日本への安価・安定供給。
日本側も中東失陥によるエネルギー不足問題が、国内で盛んに議論されており、寧ろ日本の方が乗り気だった。 『86式超々長射程砲』の性能向上型の開発も、議題に上った。

だがこの計画は1999年末に頓挫する。 まず、中東連合が求める要求仕様がとんでもなく突飛だった事。 当時日本は、86式の後継砲として508mm(20インチ)砲を開発した。
後の『00式超々長射程砲』だが、中東連合の要求仕様はこれをはるかに上回り、1000mm口径、最大射程1500km、発射速度毎分2発、と言うとんでもない要求性能だった。
技術的に難しい。 多薬室砲は砲身内の圧力をそれほど高くしなくても、高い初速を得られる。 砲身内のガス圧は最大でも、それほど高くならないのだ。
砲身(特に尾栓部分)を頑丈に作らなくて済むので砲の軽量化が可能であり、また大口径・長距離射程砲でも尾栓部に大きな負担が掛からないので、強度的な改良は必要無い。
しかし―――しかし、1000mm口径なのだ。 いくら砲身の強度を求められないとは言え、これ程の口径の巨砲など歴史上、製作された事が無い。
かつて作られた史上最大口径の方は、第2次大戦末期に作られたアメリカの『リトル・デーヴィッド』重迫撃砲の36インチ口径砲(914 mm)が最大だった(実戦投入なし)
実戦投入された砲としては、ドイツ軍の80cm列車砲(グスタフ、ドーラ)が有名である。 日本陸軍も要塞砲(榴弾砲)として、410mm口径の『試製四十一糎榴弾砲』を製作した。

「―――確か通産省の次官だったか、当時に馬鹿な事をほざいたのは」

「ええ―――『このままでは、帝国の余剰原油は半年で底をつく。 何としても、中東連合の要求通り開発して貰わねば困る』 あのコメントが、マスコミに漏れましたな」

1998年4月、BETAの本土進攻をまじかに控えた時期の事だ。 日本は北海道・苫小牧の帝国製鋼所が中心となり、この大要求を満たすべく、特殊鋼での砲身開発に取り掛かった。
しかし、その直後のBETAによる本土進攻。 鉄鋼生産は輸出向け兵器では無く、本土防衛の為の生産枠へと大幅に振り分けられる。 帝国製鋼所も特殊砲身どころで無くなった。

また、アフリカ連合に『居候』する中東連合でも、厄介な話が持ち上がっていた。 『超々長射程砲』を危険視する国々が、アフリカ連合内で声を大きくし始めたのだ。
それは主に、サハラ以南の非ムスリム国家群だった。 アフリカは民族対立の他に、ムスリムと非ムスリムの対立も深刻だった。 
『超々長射程砲』を配備するのは中東連合と北アフリカ諸国、すべてムスリム国家だ。 本当に、ハイヴ砲撃用か? 北アフリカ南部からだと、サハラ以南の国家群が射程圏内だ。

日本がBETAによる本土進攻を死に物狂いで戦い、そして99年の『明星作戦』で形としては『本州奪回、ハイヴ攻略』を成し遂げた頃、アフリカ連合常任理事会は大荒れに荒れた。

「で、99年の12月だ。 正式に中東連合からキャンセルが入ったのは。 米国がアフリカ連合内の非ムスリム諸国を、裏でけしかけたと言う話もある」

「北米産、あるいは中南米産原油の価値を吊り上げる為に。 我が国と北アフリカ諸国との密月は、あの国のエネルギー産業界にとって面白い話ではありませんからな」

そして宙に浮いた『試作超々長射程砲・改』用の砲身は宙に浮いた。 ここで官僚世界が関わってくる、兎に角も予算を使い切らねば、余った分は次年度予算が削減される。
何かいい方法は無いか? 陸軍砲兵部隊向けの超々長射程砲は、『00式超々長射程砲』の予定でほぼ確定している、押し込む隙がない。

「で、戦術機での運用を前提とした、『超々長射程砲の機動的運用』とか何とか。 戦術機甲閥の連中も、目を丸くして呆れておりましたな」

「当然だろう、あんなのを押し付けられても、戦術機での運用など出来るものか。 砲身の特殊鋼開発も、中途の状態でいきなり1200mm口径に上げおって・・・」

帝国陸軍砲兵閥からは呆れられ、戦術機甲閥からは思い切り迷惑がられた『試作1200mmOTH砲(超水平線砲)』は、最終的には国連軍横浜基地へ『供与』の形で押しつけられる。

「ま、あんな遺物の事はどうでもよかろう。 それより実戦試験だ、装薬燃焼タイミングの制御も、新しい制御システムのお陰で万全だ。 思い切りやろう」

「はっ! 『光量子コンピューター』様々ですな。 お陰でどの様な気象条件下でも、最適な燃焼タイミング制御を行えるようになりました。
それに第109、第110砲兵旅団も、『86式超々長射程砲』の改良型を持ち込んでおります。 3個旅団で36門、破壊力は戦艦4~5隻・・・いえ、それ以上ですからな」

マレー半島には、帝国陸軍特殊砲兵軍団(第108、第109、第110特殊砲兵旅団)が南遣兵団の枠外で送り込まれていた。 戦闘時には南遣兵団に協力する。
超々長射程砲が合計36門、うち20インチ口径砲は第1防衛線前までを射程圏内に入れ、24門は第2防衛線前までを射程圏内に収める。

艦載電磁投射砲、光量子コンピューター、超々長射程砲、日本帝国は佐渡島奪回に向けての下準備として、各種新規開発兵器の実戦試験を、このマレー半島で行う予定だった。









2001年5月10日 0830 インド洋アンダマン諸島 国連印度洋方面第1軍 中アンダマン島・オースティン基地


「うおっ!?」

「くっ! ゆ、揺れるっ・・・!」

「地震か!?」

スマトラ島沖、ニアス島付近でマグニチュード8.6の巨大地震が発生した。 後の観測結果で震源地深さ30km、震源域350kmの巨大地震と判明。
津波の高さはインドネシア・シムルエ島で最大3m程度だったが、スマトラ島、ジャワ島、マレー半島各地で建物の倒壊、火災、道路網の寸断が生じた。
被災犠牲者は最終的に、大東亜連合全域で約2000人に達し、震源地付近では新たな島が出現する程だった。

「被害報告! 確認、急げ!」

「警戒網の途絶はっ!? あるのかっ!? 海底探知網だっ!」

「ガルーダスへの確認、急げっ!」


基地への損害は幸いにも軽微で、将兵たちはひとまず胸をなでおろした。 しかし別の場所では、深刻な事態になりつつあったのだ。 3時間後、狂報が飛び込んできた。

「ガルーダスより緊急連絡! マレー半島防衛線各所で、道路網が寸断されているとの事です! 戦略的機動が、かなり制限されるとの事!」

その場の全員が声を失ったその時、管制部隊より更なる狂報が舞い込んだ。

「日本より緊急入電! 日本の偵察衛星がBETA群の動きを確認しました! A群、B群、C群、全てが一斉に南下を開始! マレー半島に殺到します! 防衛線到達予定、1600時!」


―――本番の幕が上がった。




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