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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 帝国編 5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/15 00:13
2001年5月2日 1400 マレー半島 タイ王国 チュムポーン県 ムアンチュムポーン クラ海峡最終防衛線 日本帝国軍南遣兵団 第15旅団第1戦術機甲大隊本部


―――照り付ける太陽、焦げる様な大地。

「あぢぃ~・・・」

「5月初旬で気温34度って、一体何の冗談だよ・・・暑いぜ、くそー・・・」

「・・・マレー半島ですからっ!」

―――南西季節風が運んでくる、じっとりと湿った暑気。

「気象班に聞いたら、明け方で最低気温が26度、殺人的だぜ・・・日本で5月初旬って言やぁ、精々が日中でも20度位だぜぇ? あぢぃ~・・・」

「暑さもまいるが・・・何だ、この湿度?・・・89%って、サウナじゃねぇぞ・・・」

「・・・熱帯雨林気候ですからっ!!」

―――目前に広がるエメラルドグリーンの遠浅の海、真っ白な砂浜、澄み切った青い空。

「ホント、へばりそうね。 春真っ盛りの日本から、いきなり酷暑期の東南アジアなんて。 部下達の体調も心配よね・・・」

「どうです? いっちょ、目の前にザブーン! ってのは?」

「・・・したいけどよ。 後が怖いぜ? でもよ、折角のリゾート地なのになぁ・・・」

「ああ、平和な時代に来てみたかったわぁ・・・水着も新調して・・・」

「・・・任務ですからっ!!!」

―――戦慄く口元、小刻みに震える手。

「遠野よぉ・・・クソ真面目も良いけどよ、疲れねぇ?」

「たまにゃ、息抜きも必要だぜ?」

「ホント、この娘ったら生真面目よねぇ・・・ま、そうでなきゃ、指揮小隊長は出来ないけどねぇ・・・」

―――ついに、遠野中尉が爆発した。

「あっ~! もうっ! いい加減にして下さいっ! 八神大尉はまだしも、最上大尉までっ! あまつさえ、真咲大尉までもっ! 
いいですかっ!? 我々はリゾートに来たんじゃありませんっ! 任務ですっ! 大東亜連合軍の、クラ海峡防衛の増援でっ! 
日本帝国軍を代表して、ここまで来ているんですよっ!? お三方、判ってらっしゃるんですかっ!?」

迷彩パターンのインナーTシャツに、半袖の熱帯2型防暑服と防暑下衣、熱帯防暑靴の帝国陸軍熱帯標準軍装の遠野万里子中尉。 流石に額には汗が噴き出している。
インナーを盛り上げる豊かなバストが、激しく上下している・・・とは、最上大尉と八神大尉の内心である。 いや、真咲大尉も内心『・・・勝った!』と思っているのだが。
場所は第一戦術機甲大隊の本部。 大隊長他、数名の大隊幕僚は不在の様で、3名の中隊長達が油を売りに来ていた。

「判っているけどよぉ・・・何しろ、暑くて、暑くて・・・遠野、お前さん、よく平気だな、そんな格好で・・・それに今、何気に酷い事言ってねぇ? お前よ・・・」

「見た目に暑苦しいぞ? せめて防暑服くらい脱げよ・・・本音が出たな、そうか、遠野の評価では、八神はそう言う評価か・・・」

「ホント、ホント。 もしかしてダイエット中? あ、八神の事は今に始まった訳じゃないわよねぇ」

「遠野、酷ぇ・・・」

「別にそんなっ! それに、これは我が軍の熱帯標準軍装ですっ! あと、ダイエットなんかしていませんっ! 私、体重は48・・・なっ、何を言わせるんですっ!? 真咲大尉!」

「・・・アンタが、勝手に言ったんじゃない・・・」

益々興奮する遠野中尉に、明らかにからかって遊んでいる3人の大尉達。 因みに最上大尉は標準タンクトップに防暑下衣と防暑靴。 真咲大尉だけは衛士強化装備姿。
八神大尉に至っては何処で入手したか、国連軍のハーフトラウザーを穿いている。 確かにこの酷暑では、遠野中尉の出で立ちの方が見た目に暑苦しい。
大隊本部はかつてリゾート地として計画された、タイ湾に面した海辺のリゾートホテル群の跡地。 BETAの東南アジア侵攻以降、放置されたのを本部に使っている。
そのひとつ、コテージ風の建物に第1戦術機甲大隊本部が置かれていた。 周囲に簡易戦術機ハンガー、補給隊、通信分遣隊や、各戦術機甲中隊が使う建物もある。

「・・・止めておけって、遠野中尉。 この3人にまともに言っても、からかわれるだけだぞ?」

「そうそう。 なにせ大隊長の仕込みだしな、最上と八神は。 真咲さんも新任の頃は・・・だし」

「むう、酷い言い様ね? 牧野? それって、どう言う意味? 大内君?」

「事実だろう? 真咲」

「言葉通りです、真咲さん」

大隊G3(運用・訓練幕僚)の牧野多聞大尉が、団扇を仰ぎながら同期の真咲大尉をジロリと睨む。 『あまり遊ぶな』、目でそう言っていた。 
最上大尉の同期になる、大隊G1(人事・庶務)の大内和義大尉も同様だった。 真咲大尉が肩を竦める。 最上大尉は知らぬ顔。
2人とも元々は衛士で大陸派遣軍に居たが、朝鮮半島の戦闘で負傷し、復帰後は主に訓練教官や大隊幕僚畑を歴任している男達だった。 牧野大尉は副大隊長も兼務している。

「ガルーダス(大東亜連合軍)は既に第1防衛線、第2防衛線に布陣を終えているが。 肝心のBETA群がピクリとも動かない。 ここは待つしかないか・・・」

「早く来い来い、BETAさんっと・・・マジ、この暑さと湿気、勘弁しろ・・・」

「BETAとの戦闘前に、この高温高湿で体調不良になるか、伝染病で後送されるか。 はたしてどちらが先かしらね・・・」

そんな声を無視して、牧野大尉も大内大尉も遠野中尉も、黙々と書類との格闘を再開する。 どうやら言うだけ無駄、と悟った様だ。
茹だる様な真昼の厚さの中、大隊本部全体がやや弛緩した様な状態の中、簡易戦術機ハンガーの方向から1人の将校が勢いよく向かってくる―――お怒りの様だ。

「おいっ! 大隊長はどうしたっ!?」

「どうしたって・・・どうしたんスか? オヤジさん?」

「児玉のオヤジさん。 大隊長なら、ガルーダスとの打ち合わせに出張っていますけど?」

八神大尉と最上大尉の言葉に、第1戦術機甲大隊付き整備中隊長の児玉修平大尉が、日焼けした顔を赤黒く染めで、怒気も露わに詰め寄る。

「なんだと・・・? じゃあ、俺が申請しておいた、整備パーツ物品の兵站要請書類は・・・?」

「・・・あれじゃ、ないスか・・・?」

八神大尉が目線で示す先―――大隊長のデスクの上の『未決書類』の箱の上。 数枚の承認待ち書類・・・児玉大尉の癇癪玉が炸裂した。

「あんの・・・ドアホめぇーっ! ワシが散々、これが無いと後々、整備出来へんようになるぞって、言うとるのにっ・・・! 
まぁーだ、判子押しとらんのかぁー! あのボケェ! なにさらしとんじゃ!? こらっ、八神! どう言うこっちゃ!? これはっ!?」

「い、いや、オヤジさんっ 俺に言われても・・・承認するの、大隊長だし・・・」

その剣幕に、流石に大隊イチ、横着な八神大尉もタジタジになる。 向うでは真咲大尉と最上大尉が、ソロソロと場を離れつつあり・・・要は逃げ出したいのだ。

「ええかっ!? この高温高湿条件下やとなっ! アビオニクスの管理が滅茶苦茶ムツカシイんじゃ! 本土の半分チョイの稼働時間で、もう役立たずなんやで!?
お前かて、クソBETAを目の前にして、いっきなしシステムダウンで死にとうないやろが!? ああ!?―――真咲! 最上! お前らもじゃい!」

「も、勿論ですわ、児玉大尉!」

「ああっと・・・大隊長、探してくるか・・・」

「そうやろ!? 普通、そうやろ!? せやから、ワシら整備隊がこうやって、くっそ暑い最中でも、ちゃーんと整備したってんのやっ!
せやのに、肝心のアビオニクスの予備パーツが来ぇへんとは、どう言うこっちゃ!? ワシら、お前さん等を死なせる為に整備しとるんやないでっ!? それをあのボケがっ・・・!」

数分間、児玉大尉の罵詈悪言のワンマンショーだった。 流石に3人の中隊長も、大隊幕僚の牧野大尉も呆れている。 遠野中尉に至っては、未知の生物を見る様な表情だった。
ようやく収まったのは、児玉大尉の部下の第1機体整備小隊長・櫻井加津子少尉がすっ飛んで来て、上官を後ろから羽交い締めにして引き摺って行って、ようやくである。

「兎に角や! 大隊長に言うとけっ! さっさと書類を上にあげんと、シバキ倒すぞってな!」

「はいはい、判りました、判りましたから中隊長、向うで整備の指揮をして下さいって。 あ、牧野大尉、遠野中尉。 申し訳ありませんが、結構急ぎなので」

―――死にたくなかったら、急ぎで大隊長をせっついて下さいね。

そう言い残して、整備隊の幹部2人は本部に隣接する林の向こう、簡易戦術機ハンガーへと消えて行った。 
暫く呆気にとられていた大隊幹部連だったが、その姿が見えなくなって初めて、大隊G3の牧野大尉がポツリと呟いた。

「・・・あそこまで大隊長をクソミソに言う人って、そうはいないな・・・」

「オヤジさん(児玉修平大尉)以外だと、『棟梁』(旅団整備大隊長・草場信一郎少佐)くらいか・・・」

「名倉大佐も、いい加減口が悪いけど・・・流石に将校同士、あそこまではねぇ・・・」

「草場少佐と言い、児玉大尉と言い、確か周防少佐の昔からの兄貴分だと言っていたよな・・・」

「俺、少尉の頃、あの2人がすっげー怖かった・・・」

「・・・暴言が過ぎます・・・」

真昼の暴風が去った直後、向うから土煙を上げて96式汎用小型軍用車両(新1/2tトラック)が近づいてきた。 やがて本部前に止まり、数名の将校が降りて本部に入ってくる。

「・・・なんだ、貴様ら? 俺の顔に、何か付いているか?」

私物のサングラスを外した、長身の少佐―――第1戦術機甲大隊長の周防直衛少佐だった。 大隊G2の向井奈緒子中尉、G4の宮部宗佑中尉、副官の来生しのぶ中尉が続く。
半袖の熱帯2型防暑服と防暑下衣、熱帯防暑靴は遠野中尉と同じ。 ただしインナーはタンクトップの様だ。 どこで入手したか、英軍のⅡ型ブッシュハットを被っている。

「あ・・・いえ、別に?」

「え、ええ・・・ねぇ?」

「何でもありません。 所で大隊長、ガルーダスとの協議は・・・?」

部下達が口籠るのを訝しげに見ていた周防少佐だったが、大隊長席に座ると疲れた様な表情で天井を見上げ、ポツリと言った。

「・・・しばらく、このまま待機」

その言葉に、大隊幹部達もガクリと肩を落とす。 いっその事、早くBETAが来てくれないか。 このまま生殺しでは、部下達の士気にも関わる―――そう目が言っていた。
何しろ、目の前が絶好のロケーションなのだ。 直ぐにでも命の洗濯をしたい程の。 だが現在は24時間の即応待機中(1個中隊・8時間交替)で、お預けを喰らっている。

「現状はマンダレーのA群、約2万8000が第1防衛線の北350km、タイ王国中部の旧ナコーンサワン県、ムアンナコーンサワン周辺で留まっている。
ボパールからのB群、約2万1000体はその西北西300km、旧タイ=旧ミャンマー国境付近のターク県メーソート周辺。 
重慶からのC群、約1万2000体は旧ラオス領内を南下、現在はタイ東部、旧ラオス国境のノンカイ周辺・・・」

机上に広げた軍用地図に赤鉛筆で、それぞれのBETA群の動向を記入しながら説明する周防少佐。 情報幕僚のG2・向井中尉がレポートを上官に示して、補足説明をしている。
現在のところ、BETA群はタイ王国中部・東部に侵入した後は、パタリと脚が止まった状態だった。 その状態が、かれこれ1週間も続いている。

「第1防衛線のガルーダス北部第2軍第1、第2軍団。 北部第3軍の第5軍団。 第2防衛線の北部第2軍第4、第5軍団と、北部第3軍の第6、第7軍団・・・
それに最終防衛線の国連軍太平洋方面総軍第12軍の第37、第38軍団と戦略予備。 我々も含め、23個師団と20個旅団。 どう動くかは、BETAの動向次第という事だ」

「叩けませんかね? 先制攻撃で・・・」

最上大尉の言葉に、周防少佐が無言で首を振って否定する。 そしてG2(情報担当)の向井中尉を見て、説明をするよう命令した。 僅かに頷き、向井中尉が各地の情報を説明する。

「ただいまの最上大尉の案ですが・・・ガルーダスも国連軍も、先制攻撃は不可能と判断しています。 理由はBETA群の所在地です。
海岸線から最短のメーソートでも、アンダマン海から約100km内陸です。 ムアンナコーンサワン、ノンカイ、共にアンダマン海、南シナ海から約600km内陸にあります。
つまり、洋上からの火力支援を受けられる位置にありません。 メーソートは無理をすれば、一部は可能ですが・・・なにより、地上軍の兵站線が持ちません」

「結局、BETA次第なのよね、毎度のことながら・・・」

強化装備姿の真咲大尉が溜息をつく。 ハイヴに対する攻略作戦以外、定期的な間引き作戦の他は基本的に受け身の戦争なのだ、BETA大戦と言うヤツは。

「待機に変更は無い。 但しレベルを即応待機から2時間待機(命令後、2時間で警急1個中隊が出撃可能)に変更する。 このままでは無意味に消耗するだけだ」

周防少佐の決定に、各中隊長、大隊幕僚達が頷く。 この状態が続けば確かに体力・集中力、共に擦り減る事になってしまう。

「警急部隊は1個中隊とする。 BETA群が動き出したとして、第1防衛線に引っ掛かるのは早くて3時間強はかかる。 我々の居る最終防衛線は、そこから更に200km南だ。
出番は第1・第2防衛線から、底の最終防衛線前面の国連軍防衛ラインを破ってくるBETA群が居れば、その殲滅戦になる。 最速でも6時間後、予想では9時間後」

地図の上を、指でなぞりながら周防少佐が説明を続ける。 全体作戦計画は、第1防衛線の3個軍団が戦線を維持しつつ、2箇所を故意に『開ける』
そして南部の第2防衛線、更に最終防衛線から北上してくる国連軍と協同し、南北から殲滅戦を展開する。 東西に狭い地形を利用し、アンダマン海、タイ湾から洋上砲撃も行う。
日本帝国軍南遣兵団主力はタイ湾から内陸に20km地点、最終防衛線峡北部のワンマイに陣を張る。 第15旅団第1戦術機甲大隊は、分遣隊として海岸線付近の防衛に当っている。

「旅団主力も即応待機を解除した。 各中隊は交替で、1時間ずつの休憩を取れ。 ・・・どうせ、水着の類も隠し持って来ているのだろう?」

周防少佐の言葉に、居並ぶ大隊幹部連も苦笑する。 第1防衛線のガルーダスには申し訳ないが、最終防衛線の国連軍、一部抽出のガルーダス各部隊も、ご同様なのだから。

「よし、以上―――何か他に、質問は有るか?」

最後に周防少佐が見まわした時、部下達が何とも言えない表情をしている事に気付いた。 

「何だ? 言いたい事が有るのか? 有れば言え。 牧野? 真咲?―――こら、顔を背けるな、八神! いったい何なのだ!?」

「はあ・・・あのですね、大隊長・・・」

「何だ?」

同僚の無言の圧力(?)に負けた八神大尉が、おそるおそる、と言う風で周防少佐に言う。

「そのぉ・・・さっきですね、オヤジさん(児玉大尉)が、ハンガーからすっ飛んで来ましてですね・・・その、未決書類の一番上の書類を見て、えらい剣幕で、ハイ・・・」

周防少佐が自分の執務机の上に置いてある、整備隊からの申請書類に目をやる。 たちまち渋い表情になって、部下を見渡して絞り出す様な声で聞いた。

「・・・怒っていたか?」

「はい」

「激怒です」

「当分、あの人の前に出たくないです」

益々渋い顔になる周防少佐。 隣で副官の来生中尉が、心配そうな表情で上官を見ている。 何しろ相手は階級が下の大尉でも、周防少佐が頭の上がらない人の1人だ。

「あの、少佐・・・輸送船団の件、児玉大尉にはまだ、仰ってられなかったのですか?」

「・・・来生、お前から言ってくれるか?」

「ええっ!? そ、それはあんまりですっ! 少佐! ご自分のミスですよ!? それを・・・! 断固、拒否させて頂きますっ!」

「「「・・・どう言う事です?」」」

輸送船団? 他の部下達が訝しげな表情をする。 本土から追加の物資を満載した輸送船団が一昨日、マレーシア南部のバシルグダン港(ジョホールバル港)に入港した。
その船団が実は、ルソン海峡(台湾南部とルソン島の間の海峡)を通過後、悪天候を避ける為に一時的に大陸寄りの航路を取った。 そこで悲劇が発生したのだ。
偵察衛星すら捉え切れなかった、極少数のBETA群―――恐らく、重慶ハイヴからのC群の極一部―――が南シナ海の大陸棚を移動しており、船団の1隻が攻撃を受けた。

「・・・あの辺の海底は浅い。 偶々、本当に偶々なのだが・・・1隻の輸送船に、要撃級BETAが数体、海底から『飛び付き』をかけた。
輸送船はキール(竜骨)をへし折られて轟沈。 積み荷は南シナ海の海底だ。 幸い、護衛隊が始末して乗員を救助したらしいが・・・13名の船員が行方不明、恐らく死亡した」

「で、それとオヤジさんへの言い訳と、どう繋がりが・・・?」

「八神! 言い訳と言うな! ったく。 その輸送船に積載されていた物資な、本当に偶々なのだが・・・戦術機のアビオニクス関係のパーツ全て、満載していたそうだ・・・」

皆が天を仰ぐ―――駄目だ、こればっかりは、大隊長に言って貰わないと割に合わない、そう皆が思った。

「じゃあ、予備パーツは・・・どうなるんでしょうか?」

先任中隊長の真咲大尉が、不安気に聞いて来る。 児玉大尉の言葉が現実になりそうで、内心で冷汗をかいているのだろう。

「兵団の兵站部が、予備をすべて放出する。 ただし、それでストックは無し。 正真正銘、素っからかん―――あと、40時間は保つが、それ以上は苦しい。
と言う訳で、本土から第2陣が大至急で編成されている。 到着は2週間後の予定だ。 BETAがいつ本格的に動き出すか次第だがな・・・」

現在、1個中隊の1日当りの平均稼働時間(哨戒任務と戦闘訓練)は、約2時間。 都合20日分だが、一端戦闘が始まると瞬く間に故障が早まる(1日当り稼働時間が長い)
現状で行けば、6万からのBETA群が本格侵攻した際の防衛戦闘が生起すれば、全戦闘時間は推定で約30時間前後。 或いはそれ以上―――アビオニクスが保たない。

「最新のAESA(アクティブ電子スキャンアレイレーダー)などは、800時間は保つが、まだ換装出来ていない内に派兵だったからな・・・
仕方が無い、整備には俺が説明する。 不可抗力だ、児玉大尉も納得してくれるだろう・・・全く、不可効力なんだぞ? 不可抗力・・・」

本部を出て、戦術機ハンガーへと向かう周防少佐は、何度も『不可抗力、不可抗力』と呟き続けていた。










2001年5月4日 1530 マレー半島東方 タイランド湾 タイ王国シンゴラ(ソンクラー)泊地 日本帝国海軍南遣艦隊 第5戦隊旗艦・戦艦『出雲』


「熱い・・・」

照りつける太陽に甲板上は焼ける様な暑さだ。 砲術科の砲術士であり、高射指揮官の元、左舷両用砲群射撃幹部の綾森喬海軍中尉は、甲板に出るなり顔を顰めた。

「分隊士、砲腔内チャック完了。 ・・・にしても、暑いですなぁ」

「酷暑期に入ったからかな、急に気温が上がりましたね。 明星作戦後に東シナ海や南シナ海に行った時も暑かったですけどね・・・時に掌高射長は、この辺の経験は?」

「はは、わたしゃ、応召組でね。 昔は南シナ海からタイランド湾、インド洋と・・・あちこち回りましたよ。 ここら辺も懐かしいですなぁ」

年嵩の兵曹長(陸軍准尉に相当)の掌高射長が笑っている。 定年で海軍を退いた後、明星作戦後の『大損失』の補充で、再び呼び戻された超ベテランの砲術科准士官。
現配置は綾森中尉と同じ、左舷両用砲群で射撃幹部をしている。 とは言え、こちらは若手の士官と異なり、海軍の隅々まで知り尽くした海千山千の准士官。 掌長配置だ。
高射指揮官の右腕となり、配置に必要な物を、必要な時に、必要な分、必ず整えておく、と言うベテランでなければ不可能な如意腕と如意顔を持つ。 戦闘配置は高射砲長である。
そんな超ベテランの准士官相手では、海兵出の中尉など小便垂れの小僧っ子である。 階級は上でも綾森中尉の口調が丁寧なのはその為だ。 掌高射長はそのまま兵員達と艦内に。

「おい、綾森」

背後から声を掛けられ、振り返ると1人の若い士官―――中尉が暑さに辟易した表情で近づいて来る、艦の航海士だった。 海兵の同期生、内海左近中尉だ。

「何だ、内海。 貴様、上(艦橋)は良いのか?」

「副直交替だよ。 それより綾森、見たか? この泊地だけでも4隻。 この前、リンガ泊地からプーケット泊地に移動したマレーシア艦隊に2隻と・・・」

「―――だな。 あっちに並んでいるのは・・・タイ海軍の『トンブリ』に『スリ・アユタヤ』か。 元々は『金剛』と『榛名』だよな」

「ああ。 右舷艦尾方向のあの2隻は、インドネシア海軍の『サマディクン』と『マルティダナタ』―――元々は『扶桑』と『山城』だ」

「プーケット泊地には、マレーシア海軍の『アリーネ』と『ローナ・ドーン』が居る筈だ、元は『伊勢』と『日向』 何とまぁ、婆さん戦艦がそろい踏みだね。
そう言えばインド海軍の『ネアルコス』は、元々は英海軍の戦艦『クィーン・エリザベス』だし、『イラワジ』は『ウォースパイト』だったな」

1944年に日本の条件付き降伏で終結した大東亜戦争(第2次世界大戦)。 その後、日本帝国海軍は生き残った戦艦群のうち、旧式戦艦、空母の何隻かを連合国へ引き渡していた。
日本海軍の戦力は低下したが、引き取った連合国側も『今更』だった様で(既に新鋭戦艦群、新鋭空母群を配備していた)、回りまわって戦後独立した新国家群へ無償で譲渡される。

戦艦『金剛』、『榛名』、空母『雲龍』はタイ王国(タイは戦前から独立国だったが)へと譲渡され、戦艦『トンブリ』、『スリ・アユタヤ』、空母『チャクリ・ナルエベト』となった。
同時に戦艦『扶桑』、『山城』、空母『天城』の3艦は、インドネシア海軍の戦艦『サマディクン』、『マルティダナタ』、空母『ハサヌディン』に。
航空戦艦『伊勢』、『日向』、空母『葛城』は、マレーシア海軍の戦艦『アリーネ』、『ローナ・ドーン』、空母『アデン』に生まれ変わっている。

大戦後の財政難に喘ぐ英国もまた、インドに戦艦『クィーン・エリザベス』、『ウォースパイト』の2艦を売却。 インド海軍戦艦『ネアルコス』、『イラワジ』として現役。
そしてマジェスティック級空母『ハーキュリーズ』、セントー級空母『ハーミーズ』も売却して、インド海軍空母『ヴィクラント』、『ヴィラート』となった。

日本海軍に残された主力艦は『長門』級以上の戦艦群と、母艦戦力では空母『瑞鶴』、『準鷹』だけだった。
(『瑞鶴』、『準鷹』、他の軽空母は後日、予備役艦籍編入後にスクラップ。 正規空母の雲龍級3番艦以降は建造中止。 現第5航戦の『飛鷹』、『準鷹』は2代目の中型戦術機母艦)

「でもまぁ、婆さん戦艦とは言え、古いのは艦体だけだしな。 主砲や機関は日本で10年前に換装しているし、副砲や高角砲に変わって速射砲・・・Mk-45(127mm単装砲)だっけ?」

「内海・・・覚えておけよ、同盟国の艦の事ぐらい。 Mk-45 mod2を装備しているのは、インドネシア海軍の2隻だけだ。 他は違う。
タイの2隻はオート・メラーラの127/64ライト・ウェイト砲(64口径127mm軽量単装砲) マレーシアの2隻は英海軍の55口径4.5インチ (114 mm) Mk-8艦砲だ。
Mk 41 mod2 VLS(64セル/64セル)2基って言うのは、3国とも共通しているけどな。 インド海軍は英海軍と同じ、GWS.26 短SLM用VLS(61セル/61セル)2基だ」

「おお、流石は歩く『ジェーン海軍年鑑』―――って、綾森。 貴様なぁ、趣味が『ジェーン海軍年鑑』の読書ってなぁ、M(モテる、の海軍士官隠語)にゃ、ならねぇぞ?」

「・・・ほっとけ」

今回はアンダマン海方面から、インド海軍とマレーシア海軍の4戦艦が。 タイランド湾から日本帝国海軍とタイ海軍、インドネシア海軍の6戦艦が、艦砲射撃支援を行う予定だ。
タイ、インドネシア、マレーシアの『ガルーダス・ネイヴィ』機動任務部隊の主力、大改装された戦術機母艦『チャクリ・ナルエベト』、『ハサヌディン』、『アデン』
この3隻は定数24機の戦術機を搭載している(F-18B/Dホーネット) 更にインド海軍の『ヴィクラント』、『ヴィラート』も同数の戦術機(F-4MファントムFGR.2)を搭載。
従って日本艦隊と合わせれば、現在タイランド湾とアンダマン海に展開する機動任務部隊全体で、192機の艦隊戦術機を投入可能だった。

「陸軍さんは、2個旅団で戦術機が160機、全部94式(不知火壱型) それと南遣兵団直轄予備の6個独立戦術機甲中隊が、92式弐型(疾風弐型)を72機の、合計232機」

「ガルーダスは、クラ海峡後方の戦略予備を入れると、戦術機も4000機を越すそうだしな(大東亜連合陸軍の全保有戦術機数は4071機) 海峡の北側には6割くらい?」

「と言うな。 でも俺達、艦隊乗組みには直接関係無いけどね。 今回は距離を取っての援護砲撃らしいから、『明星作戦』の時の様な事は無いだろう。 主役は陸さんだし」

「明星作戦か・・・あの時、貴様は『信濃』で負傷したんだったな、綾森。 俺は『美濃』だったけど、クラス(海兵同期生)やコレス(海機、海経同期生)が何人か戦死したよ」

「こっちもさ。 候補生で、初陣だったよな、お互い」

既に同期生の何割かが、戦死者の列に加わった。 果たして今回はどうか?

「ガルーダスと陸軍、それにBETA次第だよな・・・」

「悪いが、ガルーダスの婆さん戦艦に、頑張って貰うとか」

「14インチ砲や、15インチ砲にか? 18インチ砲搭載戦艦の名が泣くよ、それじゃあ」

「はぁ・・・やっぱり今回も、矢面かぁ・・・ん? あの艦・・・『伊吹』か?」

わざとらしく溜息をついた内海中尉が、ふと目をやると新たに泊地に入ってきた艦が有った。 帝国海軍だ、巡洋艦クラス―――イージス巡洋艦『伊吹』だ。

「本当だ。 どうしたんだ? どうして『伊吹』が?」

今年3月に竣工した最新鋭イージス巡洋艦の『伊吹』級ネームシップだが、本来ならまだ慣熟訓練中の筈だ。 その艦が第2艦隊の分遣艦隊に、どうして?
綾森中尉も内海中尉も知らなかった話だが、『伊吹』は2000年10月からある改装工事を施され、ようやく完成して『運用試験』としてマレー半島沖に派遣されたのだ。
外見で一番変わった点が有る。 本来艦首と艦尾に2基搭載されている筈の、55口径203mm単装速射砲(82式20.3サンチ艦砲)の砲身が、8インチ砲にしては細い。

「あれ? あの砲・・・8インチじゃないだろ? 細過ぎる」

「ああ・・・5インチ砲か?」

内海中尉の指摘に、綾森中尉も目を凝らして『伊吹』の艦載砲を見る。 なによりも82式20.3サンチ艦砲の特徴である、砲尾部を収容する砲塔後部の突出部が無い。
米海軍が採用を見送ったMk-71・8インチ単装速射砲のパテントを日本が買い取り、改良を加え(軽量化・射撃式装置の更新)、1982年に制式採用した砲では無かった。

「にしては大きいなぁ、あの砲塔。 Mk-45やオート・メラーラの127mmコンパクト砲より、ずっと大きい」

「砲身は確かに細い。 だけど砲塔は82式艦砲並みだ・・・なんだ、あれは?」

綾森中尉と内海中尉が訝しがった2基の砲塔―――『試作01式64口径127mm電磁投射艦砲(単装砲)』だった。 全体に砲塔が大きいには、各種システムのせいだ。
陸軍が運用試験を進めている『試製99式電磁投射砲』は、戦術機兵装として開発された。 その機関部や他の重要部はブラックボックスとして、国連軍横浜基地から提供されている。
しかしその『試製99式電磁投射砲』の運用試験は正直芳しくない、特に冷却系と大電力供給システムの安定性が。 何より『横浜』からのブラックボックスの点が気に入らない。

そこで日本帝国軍は『横浜』に頼らない方法を、独自に模索し始めたのだ(安定供給にも、大いに問題が有る) 背景には『明星作戦』があった。
99年の横浜ハイヴ攻略戦、その最終段階でのハイヴ内偵察戦闘(G弾投下後)で、帝国陸軍は数個戦術機中隊を、国連軍・米軍とは別個に投入した。
そこで得た成果―――アトリエへの極秘先行突入の成功―――が関係してくる。 国家の最高機密に属するが、G元素の何割かを獲得に成功していたのだ。
それまでG元素を独占するのは米国、『明星作戦』でその一角を崩したのが国連軍(横浜基地)と言われるが、違ったのだ(米国と国連は、当時から日本に強い疑念を持っていた)

日本帝国は、国内での極秘計画を1998年冬からスタートさせた。 帝國理化学国立研究所・旧京都帝大・旧大阪帝大(現・帝都帝国大学)の研究グループによるML機関研究だ。
特に帝國理化学国立研究所は、量子物理学における『ループ量子重力理論』を。 帝都帝国大学は同じ分野の『M理論』を研究し、世界のトップを争っていたビッグ3だった。
(最有力は米国・ロスアラモス研究所アクロイド博士の研究チームが研究する『超弦理論』で、『明星作戦』でG弾即発超臨界状態での、ラザフォード場の拡大抑制を実戦で証明した)

日本の研究計画グループは、『G元素(グレイ11)の抗重力反応は、未臨界での『定常状態反応』では、ラザフォード場を生成しない』と言う特性をつきとめた。
核反応などでは未臨界であると、連鎖反応の量が反応を持続できるほどの規模に達しておらず、核分裂生成物質(エネルギーも)は時間とともに減少する。
しかしG元素(グレイ11)では連鎖反応が60%以上の未臨界状態で抗重力反応が発生し、80%以上の連鎖反応状態でラザフォード場が生成される事を、日本は99年12月に発見する。

(※この原理は全く判っていない。 原子炉での未臨界炉核分裂反応は、陽子加速器を利用して生じさせた大量の中性子を未臨界の原子炉に送り、核分裂反応を起こさせる。
G元素に於いては余剰次元への重力子伝播の際の『何か』が作用し、未臨界炉の陽子加速器の役割を果たすのではないか? と推測されている)


そこでまず、軍事転用が計画された。

―――『試製99式電磁投射砲』は、未だ時期尚早。 

そう判断した研究グループと帝国軍技術研究本部は、異なるアプローチを始める。 『艦載砲への、電磁投射砲の流用』だった(同様の計画はアメリカでも進行している)
陸軍の『試製99式電磁投射砲』は、あまりにコンパクト化し過ぎた点にも、問題が有る。 ならば安定したプラットフォーム―――大型艦艇に搭載すれば? と言う事だ。

日本は『ムアコック・レヒテ機関』をダウングレードした『ML発電機関』の開発に着手した。 これはG元素(グレイ11)の抗重力反応を利用した発電方法だ。
大前提として、量子力学で想定される『ブレーンワールド』モデルを用いている。 『ML機関』の臨界試験では、膨大な余剰電力が発生する事が確認されている。 
これは素粒子の相互作用が4次元世界面(ブレーン)上に閉じ込められ、重力(重力子)だけが余剰高次元(5次元目以降の、最大23次元まで)方向に伝播できるとされる。
その際に次元を移相する『伝播エネルギー』が、一種の『重力子起電力』を出現させるのではと、日本の研究グループは考えた。

事前の計算では極少量(約500グラム)で、原子力発電所の発電力(約350MW-約450MW)に匹敵する発電力が生じると計算された。 ウラン235の160トン相当である。
2000年2月、極秘実験において約50グラムのグレイ11の未臨界連鎖反応(約70%)で、40MWの電力を発生させる事に成功する。 独自の電磁投射砲開発の第1歩だった。
日本はその実験結果を検討し、『ML発電機関』の試作を2000年7月に完成させ、建造中の最新鋭イージス巡洋艦『伊吹』に急遽搭載した。


「なんだろね、あれって・・・?」

「さあ、な・・・?」

綾森中尉も内海中尉も、未だ一介の艦隊乗組の若手中尉。 軍の最高機密など、知る由も無かった。





「―――暑いですな」

「一番、暑い時期だそうです。 教授、艦内に入られた方が宜しいでしょう」

「中佐は、一向に平気そうですなぁ。 いや、老体には堪えます」

海軍中佐の階級章を付けた士官と、一見すれば海軍士官の防暑服に似た、海軍軍属用防暑服を着た初老の学者風の人物が、『伊吹』の後甲板からマレー半島を眺めていた。

「システムは順調に作動しています。 帝国電機の山口技師長も、太鼓判を押していますよ」

「それは良かった・・・何せ、未臨界反応制御のキモですからな、あの制御装置は・・・」

軍人の方は、帝国軍技術研究本部の赤川中佐。 軍属の人物は帝都帝大(旧京都帝大・旧大阪帝大が合併)量子物理学研究センターの高殿信久教授(大佐相当官)だった。
慣れない気候に高殿教授が参っている様だ、赤川中佐もマレー半島は生涯で2度目。 兎に角涼しい艦内に戻った方が良い。

「統合電力システム (IPS)からの供給電力は、試験発射時は45MWの予定です。 毎分22発の発射速度で、127mm砲弾を叩き込めます」

「毎分22発と言うのは、早いのかね? 遅いのかね?」

「普通の127mm艦砲と、ほぼ同じですな。 しかし初速が違う、砲口初速2600m/s、この気温ですのでマッハ7.39になります。 砲弾運動エネルギーは64MJに達します。
因みに陸上の直接火力で言えば、120mm戦車砲がAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)を使用した時の砲弾運動エネルギーで約8MJですから、約8倍です。
射程も最大で300km前後・・・もっとも、そんな砲戦距離では戦いませんが。 射程2万メートルで、突撃級BETAを正面から軽々とミンチに出来ます」

艦の推進機関はMLTE(Moorcock-Lechte Turbo-Electric)方式。 G元素を用いた、全く新しい、世界初の推進機関だ。 非常にコンパクトで、ガスタービンの35%の容量。
グレイ11の未臨界反応で生じる膨大な電力を、艦の全ての動力として使用している。 推進器として全速航行時には約70MWが供給される。 約3年間の無補給航行が可能。
その推進機関が発生させる余剰電力を、電磁投射砲のローレンツ力を生み出す電力に供給している。 『01式64口径127mm電磁投射艦砲』だ。
その抗重力制御全体を管制するシステムが、帝国理化学国立研究所(理研)・英国国立宇宙センター・仏国立科学研究センター・独マックスプランク物理研究所で協同開発された。

―――『512qubit光量子コンピューター』 

2000年に米国ロスアラモス研究所・IBM社の連合体と、日本・欧州の連合体は時期を同じくして、まだ黎明期のヨチヨチ歩きながらも『量子コンピューター』の試作品を完成させた。


1994年―――日本の『理研』が甲虫の外殻キチン質の構造を雛型とし、フォトニック(光子)結晶の開発に成功する。

1995年―――米国・ロスアラモス国立研究所で、安定した光コンピューター・チップの作製に成功。

1996年―――英国にて、光量子コンピューター用のプログラミング言語である、QOCL (Quantum Optics Computation Language) の開発に成功。

1997年―――日本と欧州の各研究機関の連合体が、光コンピューターの核となる光(光子)を完全に制御(伝播・発光・速度)、蓄積する技術『光池(電池の光子版)』を開発。

1998年―――米国・ロスアラモス国立研究所にて、光集積回路(シリコンフォトニクス)上で、128qubit光量子コンピューターの実装を実現(スーパーコンピューターの数千倍)

1999年―――日本の帝都帝大工学部において、光集積回路(シリコンフォトニクス)上で、256qubit光量子コンピューターの実装を実現。

2000年―――米ロスアラモス国立研究所にて、256qubit光量子コンピューターの小型化に成功。 IBM社、256qubit光量子コンピューターの小型化量産試作タイプを完成させる。
同年、日本・欧州の開発連合体が512qubit光量子コンピューターの実装を実現。 日本の帝国電機、256qubit光量子コンピューターの小型化試作タイプを完成させる。

2001年―――米国と日欧は揃って、512qubit光量子コンピューターの小型化試作タイプを完成させる。 この大きさはほぼ同じ、縦2m×幅1m×奥行き0.7mのサイズだった。
同年、奇しくも同じコンセプトの軍用艦である日本帝国海軍イージス巡洋艦『伊吹』と、米海軍DDG-114イージス駆逐艦『ラルフ・ジョンソン』が、運用実験艦として就役する。


「兎に角、我が帝国独自の量子工学分野での成果です。 何としても成功させねば・・・」

「自信は有るのだがね。 この分野は、元々は京都と大阪の両帝大が日本のトップを走っていたんだよ。 東京帝大のあの、異色の女の子が出て来るまではね。
それでもさほど、引き離されていないよ。 理論ではどっこいどっこいだ、こちらの方がスタートが遅かったからね、今は後塵を拝しているが・・・数年後には、逆転するよ」

「ですな。 東京帝大の応用量子物理研究室には、負けておりませんよ」

現国連横浜基地・AL4研究本部には、日本人研究スタッフは東京帝大の物性研究所(応用量子物理研究)、医科学研究所など、香月夕呼博士の出身母体の研究者が中心となっている。
長年、東と西で日本帝国の各種学会を二分して来た『西の横綱』としては、是が非でも横浜を上回る成果を出したい。 学者のエゴではある。 
赤川中佐も旧京都帝大出身の技術将校で、心情的に高殿教授寄りである。 そして東京帝大の研究者を引き抜かれた日本では、帝都帝大の研究陣が文字通り『国内最高峰』の研究スタッフなのだ。


国連軍横浜基地・AL4研究本部がその研究テーマにより付随開発した技術は、実の所、日米欧の国家プロジェクトが異なるアプローチで猛追していたのだ。





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