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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 西部戦線 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/19 01:46
D-Dayプラス1時間50分 0635 福岡県博多市 国鉄博多駅


「押さないで! 押さないで下さい! 列車は増発しています、直ぐにでも乗車できますから! 押さないで!」

「さっきから、そればかりじゃないか! 全然、列が動かないのに!」

「早く! 早く乗せろ! BETAが直ぐそこに上陸したんだろう!?」

「子供! 子供だけでも! お願い、乗せて!」

「押すなっ! 人が倒れた! おい、押すなって言ってるだろうが! この馬鹿!」


早朝の博多駅前構内は、既に飽和状態。 駅前の国道から既に大博通りの果てまで、既に人込みの大渋滞と化している。
BETA上陸直前での、福岡県の疎開率は約22%だった。 500万人程の県人口の内、110万人程が疎開できていたに過ぎない。
残る400万近い県民は、各種地方行政等で止むなく居残っていた場合も有るが、大半は疎開先が決定せずに『疎開待ち』だった人々だ。

彼等は明け方前のBETA本土上陸と言う、未曾有の非常事態を知らせる緊急サイレンによって眠りから叩き起こされた。
そしてTVやラジオ、それに自治体が行う広域放送で事態を理解するや否や、我先に家を飛び出した。
駅へ、港へ、そして車で高速道へ。 福岡市内だけでも、100万人以上の人々が一斉に限られた場所に集中したのだ。 
何とか事態を整理しようと、そして管制しようとしていた福岡県庁、そして現場で整理に当った福岡県警の努力は、大波の前の砂上の楼閣に等しかった。

駅構内では怒号が響き、子供の鳴き声が聞こえ、ヒステリックに騒ぐ声がそれをかき消す。 駅の外はもう既にカオスだ。
道路は人と車で埋まり、全く動かない。 中には群衆に押されてひっくり返り、そのまま打ち捨てられた車輌すらある。

「指揮官! 本部より連絡が入りました! 空港周辺道路、百年橋通りと空港通りを、軍が封鎖しました!」

部下の報告に、何とかこのカオスを少しでも統制しようと、躍起になっていた県警の現場責任者が思わず目を剥く。

「福岡空港を第12師団砲兵連隊と、西部軍集団の第2砲兵旅団が占有すると! 付近道路は戒厳令での合囲地境宣言によって、軍司令部が管轄すると!」

頭に上った血が、血管を千切りそうだった。 西方からの避難ルートのど真ん中に位置するエリアが、一切の立ち入り禁止。
地図を見る。 市内中心部へは、県庁側か、大きく南を迂回するルートか。 いずれにせよ、混乱に拍車をかける事は必定だ。


「吉塚通りから県庁前、東公園、妙見通りがマヒ状態です!」

「比恵新橋で、群衆が御笠川に転落事故! 第17班から緊急応援要請!」

「消防本部からです! 身動きが取れず、事故現場まで到達は不可能!」

福岡市民だけでは無い。 上陸地点となった古賀市や隣接する新宮町、その他、付近の自治体から一斉に群衆が殺到してきているのだ。
この、地獄の入口から脱出するには、鉄道・道路等の交通インフラが最も整った博多市から脱出するのが最も早い。
そして群衆心理。 今現在、推定で200万人弱の群衆が一斉にこの場所に殺到してきていると、県警では想定していた。

「博多港の港湾管制本部からです! 『博多港は、0630時を以って封鎖。 港内避難民を、駅へと誘導する』、です!」

「無茶言うな! これ以上増えたら、もうどうしようもない!」

「天神(西鉄福岡)の方へ、回せないのか!?」

「無理だ、向うもマヒ状態だ! 国体道路を見ろ! 向うからこっちに人の流れが出来ている!」

「封鎖しろ! 封鎖だ! 阻止線を張れ!」

「出来るか! 何処にそんな余白が有る!? もう人込みで、那珂川にさえ行く事も出来ないんだぞ!」

どうしようもない―――本当に、どうしようもない。 国鉄は普段の過密スケジュールの更に上をいく、超々過密スケジュールの運行ダイヤをこなそうとしている。
私鉄も採算など、遠い宇宙の彼方にすっ飛ばしたかの如くの運航協力をしてくれている。 消防はもう既にフル回転状態、そして県庁と市庁、県警は職員総動員で事態に当っている。

―――それでも、どうしようもない。 もう、本当に、どうしようもない。

「・・・つまるもんかい(良い訳ないだろう)」

警察に奉職して30年。 自分の使命は、市民の安全の保護だ。 
そうやって30年間、地道に奉職してきた、ここで『どうしようもない』などと。

「もう一度、国鉄に打診しろ! 客車で無くともいい、最悪は貨車を解放して運べと! 本部に連絡! 避難民の1次避難経由地を増設の意見具申!
宮崎や佐賀、熊本辺りまで行けば空路がまだ使える筈だ。 航空会社のパイロットは半分軍人だろう! 低空飛行で近畿まで運ばせろと!」

やるしかない。 やるしかないのだ。 生き残る為に、自己の責務を果たす為に。
ふと、家に残してきた家族の事が、一瞬脳裏をよぎった。 優先移民の話を断った。 第1次疎開の優先枠も蹴った。
仕事馬鹿の夫を、父を、長年見てきた家族だ。 理解してくれると信じたい。 或いは冷たい夫、冷たい父親と思っただろうか?
だが、これだけは信じて欲しかった。 自分は何よりも、家族を愛していると。 そして何よりも、仕事に誇りを持っていると。
だからこそ、信じて欲しかった―――本当は、何よりも、真っ先に脱出させたかったのだと、それが本心だったのだと。

「軍は国を護る。 我々警察は、市民の安全を守る―――必ずだ、一命に代えても」















D-Dayプラス2時間45分 1998年7月7日 0730 熊本県熊本市 帝国陸軍西部軍集団総司令部(西部軍管区総監部)


次々に情報が入電し、オペレーター達は血相を変え、次第に声のトーンが高くなってゆく。 

「第3軍司令部より入電! 『博多の第3軍団、唐津の第13軍団、両戦線を維持中。 増援を乞う!』、です!」

「第3軍団57師団司令部より、『遠賀川で道路網寸断、現在工兵隊による応急架橋を実施中。 終了予定、4時間後』、以上!」

「第4軍司令部より入電、『大分自動車道、湯布院、九重付近で避難民車両の事故渋滞! 戦力移動は宇佐別府道路から10号線経由』、大分県警、消防庁からも同様の連絡有り!」

「博多戦線に第9師団到着! 『我、これより全力応戦を開始す』、以上です!」

「第21師団司令部より、『唐津湾到着予定、10分後。 戦域支援砲撃開始、5分後の見込み』、第13軍団へ転送しますか!?」

「佐世保鎮守府より入電! 『第2艦隊第2遊撃部隊、出撃す。 今暫し持ち堪えられたし』、呉からも第2艦隊第1遊撃部隊、出撃しました!」

連絡将校は各地の部隊への通達に躍起になり、情報将校は次々に舞い込む戦況報告を整理しようと、脳の血管が切れそうな思いで情報を整理する。


「戦況の状況整理は? どうなっている?」

その喧騒を見下ろす形で、1段高い場所に設けられた戦闘管制指揮所。 西部軍集団司令官・横山勇雄陸軍大将が、居並ぶ参謀弾を見まわし問う。 
その表情は捗々しくない。 当然であろう、遂に帝国本土へのBETA上陸、そしてその矢面の九州防衛を一身に負う身ともなれば。
司令官の問いに、G2(情報参謀部長)が努めて平静な口調で報告する。 G2自身、動揺は少なからず有ろうが、それをいちいち表すのは参謀では無い。

「はっ! 上陸地点は2箇所、福岡市北東の福津市南部と古賀市北部の海岸線。 そして佐賀県唐津湾一帯です。
福岡方面に上陸したBETA群は約1万2000、師団規模です。 唐津には約9000、こちらもほぼ師団規模、総計約2万1000」

―――2箇所に師団規模のBETA群、約2万強。 事前情報では、対馬にはB群2万9000と、D群3万2000が確認されている。 総計6万1000。
恐らく今後も五月雨式に1万、2万と言った師団規模・軍団規模のBETA群の上陸が発生するだろう。 最低でもあと2回、多くて6回。

「現在、福岡防衛線には第3軍の第3軍団から福岡駐留の第12師団(戦術機甲)と、古賀駐屯地駐留の第33師団(機甲)が即応。 
更に10分前に第3軍団主力の第9師団(戦術機甲)も到着、応戦を開始しました。 北九州方向への突破阻止任務です。
第3軍団予備の部隊、第27師団(機械化歩兵)は大宰府を防衛、これには斯衛第3聯隊戦闘団を指揮下に置きます。
ただし、北九州市駐留の第57師団(機械化歩兵)は、道路網寸断の影響で移動が大幅に遅れております」

「・・・東部方面の突破阻止、9師団だけで可能かね?」

その問いに、傍らの参謀長が難しい表情で答える。

「今後のBETAの動向次第かと・・・ 現在の戦況は海岸線から縦深4kmラインを死守中、九州自動車道への突破阻止です。 北東は東福間で宗像・北九州方面への突破阻止。 
南西は無論、博多市内への突破阻止を、神宮町を拠点に対応中。 現在戦線を維持、突破を許しておりません」

BETA上陸後約3時間弱。 たまたま、本当にたまたま、第3軍団主力の1つ、第12師団の直近に上陸してくれたのが、せめてもの救いだ。
上陸地点に布陣していて、侵攻を真正面に受けた第33師団は、流石に損耗が激しいとの報告が入っている。
が、しかし未だ戦闘力を喪っていない。 主力の片割れの第9師団も到着した。

「唐津方面は、第13軍団第39師団(機械化歩兵)防衛陣地正面への上陸でした。 接敵直後から全力応戦を開始、戦闘初期段階での南と東への突破を防ぎました。
これは海軍のEFから、海中進行中のBETA群警報を、直前にですが受ける事が出来たのが大きな要因です。
軍団主力の第34師団(戦術機甲)が1時間前に到着、応戦を開始。 更には第21師団(戦術機甲)も、間もなく戦場到着予定です。
現在は唐津道路(西九州自動車道)内面の防衛ラインを維持しております」

唐津方面はBETA群9000に対し、3個師団を投入した。 まずは何とか阻止出来る戦力だろう。
しかしその前に手を打たねばならない。 唐津後背の佐賀平野に侵入されれば、北九州西部防衛が破綻する。

「13軍団予備・・・ 25師団と32師団の対応は?」

「現在、多久市と小城市で待機中です。 命令有り次第、北上が可能」

「ふむ・・・ 海軍は玄界灘に出る気だな。 ならばその支援を受ける為にも、海岸線にBETAを縛り付ける必要が有るか」

「軍集団砲兵旅団群、各部隊、投入可能位置に着いております」

「では、仕事をさせたまえ」













D-Dayプラス6時間45分 7月7日 1130 福岡県博多北西防衛線 福津市光陽台南付近 国道3号線 第9師団


36mm砲弾が小型種の群れを一掃する。 両腕に保持した87式突撃砲の残弾は、36mmが右1400発と、左が1550発。 120mmはまだ残している。
不意に視界の右片隅に、レクチュアルが赤く点滅するのを認識した。 同時に無意識の動作で機体を軸回転で90度旋回させ、正対する。

『02より01! 3時方向、600! 要撃級6、戦車級30、小型種100!』

戦域MAPを確認する。 海岸線付近に光線級が居る、不用意な跳躍は出来ない。

「制圧支援、残弾叩き込め。 B小隊、突っ込んで片付けろ、跳躍は使うな、ランで行け!A小隊、Bを支援! C小隊は左翼警戒!」

『了解! いくぞ! B小隊、続け!』

『C小隊、上西郷方面からの突進を警戒! 陣形を崩すな、トライアングルを維持しろ!』

B小隊の3機が、要撃級にランで突っ込んで行く。 要撃級BETAがその硬い前腕を振り上げたその瞬間、ショート・ブーストを使い横方向へ軸回転させながら移動する。
同時にそのタイミングに合せ、A小隊が120mm砲弾を撃ち込む。 前腕でその砲弾をブロックした事で、B小隊の目前には無防備な側面を晒した要塞級の姿が飛び込んだ。

『撃ッ!』

小隊長の射撃命令と同時に、36mm砲弾が柔らかい横腹に叩き込まれる。 連続した砲弾命中で体液と内臓物を吐き出しながら、要撃級が横転する。

「B小隊! 3時、戦車級!」

中隊長の警告と同時に、3機が一斉にバックステップで距離を取る。 同時にA小隊から120mmキャニスター弾が戦車級の群れに降り注いだ。

『ビンゴ! 吹っ飛びました!』

B小隊長の声が弾む。 これであとは、さして脅威の無い小型種ばかりを掃討すればいい。

『03より01! 新たな小型種の群れ、海岸線方向! 1600!』

「全部相手どるな! こんな廃墟の場所じゃ、どれだけ探しても見落とす!―――『クマソ』! こちら『サラマンダー』だ、任せて良いか!?」

協同する、自走高射砲中隊の指揮官を呼び出す。

『クマソよりサラマンダー。 国道沿いの連中は、こっちで片付ける。 10時方向の廃墟に突っ込んで来る連中、任せて良いか?』

視界の限られた戦闘車両では、大方倒壊したとはいえ、家屋や雑居ビルの並ぶエリアは発見が難しい。

「判った、そっちはこちらで何とかする。 もう無人の廃墟だしな、上からキャニスター叩き込んでやるさ」

『あまりいい気はせんがね、仕方が無い。 よし―――来るぞ! 中隊、800で射撃開始!』

「リーダーより各機! 弾種、キャニスター! 撃て!」

2機を喪い、10機に減じた戦術機中隊は、何とか担当戦区を防衛する為に奮闘を再開した。






戦闘開始から、4時間以上が経過した。 BETAの上陸後も、一気の突破を許さず、何とか海岸線から4kmラインを死守している。
最もその間、休みなど全くない。 防衛ラインの高速道路後背に設置された補給コンテナから、武器弾薬と推進剤の補給を行うだけだ。
機内備え付けの流動食は既に呑み込んだ。 残っているのはペットボトルの水と、各種ビタミン配合の錠剤、それと塩の錠剤。 味気ない事この上ない。

戦闘直後の小休止、錠剤をのみ込む以外は、水は僅かに喉を湿らす程度に済ませる。

後方から飛翔音が連続して鳴り響く。 途端に前方のBETA群のなかから、数十本のレーザー照射が上空に向かって立ち上った。
途端に発生する爆発、そして蒸発したAL砲弾が生み出す重金属雲。 砲撃は一時的に全力射撃を開始したのだろうか、砲弾量がそれまでとは段違いだ。

≪CPよりサラマンダー・リーダー。 これより第12師団、全力攻撃に転じます。 9師団はこれに呼応、戦線を福間南=上西郷のラインまで押し上げます!≫

CPから全体攻勢の概略を知らされる。

「お休みは終了か。 CP、当然、他の連中もだよな?」

9師団だけが戦線を押し上げても意味が無い。 連動させなければ何処かに隙が出来るし、そこにBETAが入りこんで来る。

≪12師団は戦線を、古賀市と新宮町の境まで押し上げます。 33師団が九州自動車道沿いのラインを確保、海岸線に圧力をかけます。
支援は師団砲兵の他に、軍集団の第3砲兵旅団(5個大隊基幹)が全力支援を行います≫

3師団の師団砲兵(連隊)に、軍集団直率の砲兵旅団。 都合、砲兵14個大隊の全力支援。 203mm自走榴弾砲が36門、75式155mm自走榴弾砲が108門。
多連装ロケットシステムMLRSが6個中隊で、M270自走発射機が54輌。 それと師団砲兵の227 mm ロケット弾12連装発射機が9個中隊で81輌。

「で、俺達にはどれ位の配当が? 出来れば203榴の1個連隊に、MLRSもてんこ盛り、なんて有り難いが?」

≪第2大隊前面は、師団砲兵から1個大隊と、第2砲兵旅団のMLRSが1個中隊、割り振られます≫

「海岸線付近は、ちょっと近付けないな」

≪制圧砲撃中は、当然ですが接近禁止です―――全力砲撃開始、10秒前・・・ 5、4、3、2、1、開始!≫

とたんに彼方からとてつもない、連続した重低音の砲撃音と、ミサイルに飛翔音が聞こえてきた。 そして着弾。
いや、何割かはレーザー照射で叩き落されている。 全弾着弾など、BETA相手に、光線級相手に有り得ない。

≪続いて第2射、今!≫

再びの轟音、そして飛翔音。 立ち上るレーザー照射。 発生する重金属雲。

「・・・さて、野郎共に女朗共! 楽しい地獄めぐりの再開だ! いいか! 余計な事を考えるな、俺の指示通りに動け! いいな!?」

―――『了解!』

部下の唱和に、ふと思う。 自分の新任時代は、苛烈な戦場で有ったが、それでもまだ余裕が有ったと言う事か。
今の新任達は、初陣からして下がるべき場所すらない、故国での戦闘を強いられるのだから。

≪CPよりサラマンダー! 面制圧砲撃終了後に攻撃開始!―――無事でッ・・・!≫

CPより攻撃開始指示が入る。 そして最後の一言が、普段は冷静なCPが漏らした本心だと判る。
それにしても―――それにしても、本来なら連隊本部付き通信士官である彼女が、前任者が事故入院した為にまさか自分の中隊CPになるとは。
久賀直人大尉は、CP―――自分の新妻の顔を網膜スクリーンの片隅に見ながら、今は違う部隊に居る同期の戦友に向かって呟いた。

(―――確かに、生きる理由だよな、周防・・・)














D-Dayプラス7時間25分 1998年7月7日 1210 玄界灘 帝国海軍第2艦隊 第1遊撃部隊(第4航戦) 戦術機母艦『天龍』


迫りつつある台風の影響か、波濤が高い。 艦の動揺はスタピライザーで最小に抑えられる筈が、発艦限界に近い揺れに感じる。
第1次攻撃隊が発進してから20分近い。 そろそろお呼びがかかる筈だ、1回こっきりの支援出撃で済む筈が無い。

ジリジリと時間が過ぎてゆく。 緊張してか、先程から身じろぎもせず固くなったままの者、ソワソワと辺りを見回す者。 初陣か、初陣間もない新米衛士達。
隣と雑談する者、見た目のんびりと何か飲み物が入ったカップをすする者、目を閉じて軽く寝息を立てている者。 虚勢でも、それを張る余裕のある中堅やベテラン衛士達。

『第2次攻撃隊、発進準備。 第2時攻撃隊、発進準備。 搭乗員、搭乗開始せよ』

やがて搭乗開始の指令がかかる。 ハンガー脇の衛士待機室から飛び出した各衛士達は、自らの『愛機』に駆け寄る。
リフトでパレットに乗り上がり、戦術機ガントリーに固定され、上半身を起立させた状態の機体のコクピットに乗り込んだ。

各機付き整備長が搭乗ハッチの閉鎖を確認し、デッキクルーに合図する。 
整備パレットが押し上げられ、ガントリーの自走機構が作動してリフトまで戦術機を乗せた状態で移動する。
完全にリフトに乗った時点で、戦術機が起立。 ガントリーはそのまま逆の手順で、元のハンガー位置まで戻ってゆく。
やがて戦術機を乗せたサイドリフト(舷側リフト)が、飛行甲板まで上げられる。 第2次攻撃隊の84式戦術歩行戦術機『翔鶴』、12機が次々と姿を現す。

『リードより各機。 古参は今更だから聞き流せ。 新米共は、よーっく聴け。 発艦はコントロールがタイミングを全て指示する。
貴様等はそのタイミングを逃さずに、スロットルを開ければ良い! それと離艦した瞬間は機体が沈み込むが、我慢してゆっくり引き起こせ!』

網膜スクリーンに映った部下達の顔。 古参連中は余裕か虚勢か、それでもふてぶてしい表情だが、今回が初陣の半数以上の部下達は顔が引き攣っている。

『いいか! 機速は十分だ、そのまま浮かび上がる! 慌ててスティックを引くなよ? 逆に失速して海にドボンだ!』

それにしても、母艦戦術機甲部隊で今更ながら、この様な指示を出さなくてはならないとは。 母艦乗りなら、発艦の初歩だと言うのに。

―――『了解!』

うん、何とか声は出る様だ、喉に詰まりそうな声だが。 攻撃隊指揮官はその様子を一瞬眺めた後、発艦ルーチンに集中し直した。
網膜スクリーンの中、黄色いジャケットとヘルメットを被った誘導員が、誘導用の指示発光体を持って、右前方の方向へ指示を出す。
指揮機の操縦衛士は戦術機の右腕をL字に曲げ、上下に振る―――脚部ロックを外せ。

誘導員は注意深く主脚に取り付けてあったロック解除ボタンを操作し、固定が外れた事を確認すると元の位置に戻り、右腕を水平に伸ばしてサム・アップする。
これでカタパルト上まで何の障害物も無い事が確認された、 そして別の誘導員を指し示す。 
誘導引き継ぎ。 誘導員が両腕を肘から先だけ上に曲げ、前後に揺らす―――前進せよ。

『タキシング―――デッキ・アプローチ』

スティックに設けられたオート・ラン・ボタンを作動位置に入れる。 ゆっくりと歩き出す戦術機。
誘導員の指示に従い、機体を発進甲板前部に設けられた2基のカタパルト、その左舷側真後ろへ進入さす。
赤いジャケットの兵装要員が、機体各部の目視点検を行う。 搭載装備―――問題無し。 機体状態―――問題無し。

兵装要員が機体から離れるのを確認した緑色のジャケットとヘルメットの発進関係兵装要員が、手にしたボードを掲げる。
射出重量が記載されたボードを、衛士とカタパルト・コントロール・ステーションに示している。
指揮官は網膜スクリーンの機体情報エリアから、その数字を確認。 機体の右腕を前に突きだし、肘から先を2度、上に曲げて同じ値である事を合図する。
衛士とコントロール・ステーションの確認を取り、この重量に合わせたカタパルト蒸気圧がセッティングされる。

そして先程とは別のカタパルト要員が、発艦制御用のトレイルバーを主脚につける。 衛士はスティックの別のボタンを押し、機体のランチバーを下ろした。
カタパルトクルーがこれを、カタパルトシャトルのスプレーダーにくわえ込ませる―――発艦準備が完了した。
これで機体は何時でも『空中への投身自殺』への準備がOKになった。

(―――第1次の12機は、生還7機。 2艦で24機中、生還15機、生還率62.5%。 第4次で実質攻撃力は無くなるな・・・)

93年の『九-六作戦』と、94年の『大陸打通作戦』の戦域支援任務、そして96年の南満州支援。
出撃に度に、衛士の損耗率は30%から多い場合は60%を越した。 96年末時点で海軍母艦戦術機甲部隊の衛士充足率は、底を打っていたと言っていい。

その為に97年度から、それまでの少数精鋭主義をかなぐり捨てて、衛士訓練生の大量採用を行った。 
だが焼け石に水だ、練度は訓練と経験に比例する。 1年少々では、まだまだ圧倒的に時間が足りない。
足りないのは、新米達の訓練時間や経験だけでは無い。 指揮官すら足りないのだ。 本来なら未だ小隊長をしている筈の、中尉の中堅連中でさえ、中隊長に抜擢されている者もいる。

(―――連中の悪運を、信じてやるしかないか・・・)

やがて右舷艦尾近く、比較的コンパクトに纏められた艦橋構造物―――アイランドの頂点から『神託』が下る。

『エア・ボス(飛行長)より“アーチャーズ”(第242戦術機甲中隊)、発艦を許可する。 送レ』

『アーチャーズ・リード、ラジャ。 リードより発艦する。 送レ』

『海岸線付近は地獄の大釜だ。 陸軍が苦戦している、全力支援だ。 それと今回はジャク(未熟練者)が多い、気を付けろ』

『多い、ではなくて、ジャクばかりですよ』

『生きて帰れば、次の機会が生まれる。 困難だが―――だが全員帰還しろ、でなければ軍法会議だ』

飛行長の言葉に、第242戦術機甲中隊指揮官が思わず苦笑を洩らす。 『帰還せず』とはすなわち戦死だ、軍法会議もない。 
飛行長の声色が全てを物語っていた。 困難な戦場に、新人や未熟練者さえ投入せざるを得ない現状。
『何としても全員、無事に生還してくれ』―――部下達を送り出す、飛行長の本心だろう。 自分もそうだ。


JBD(ジェット・ブラスト・ディフレクター)が立つ。 同時に網膜スクリーンに映った、発艦管制指揮所の発艦管制将校から合図が入る。
右手でV字、常用定格推力(ミリタリー推力)―――ロケット点火を行わない状態での最大推力だ。 

『スロットル、ミリタリー(常用定格推力)』

『ミリタリー、了解』

タンデム配置された砲手席から、RIO(兵器・索敵管制衛士)が復唱を返す。 そして同時に操縦衛士がスロットルをミリタリーまで押し込む。 
2基のJ79-GE-3Aが咆哮を上げて推力値が高まり、やがて規定推力に達する。
衛士はその推力値を確認し、異常が無い事を確かめ、網膜スクリーンに映る発艦管制将校敬礼を送る。

これを合図に、カタパルト将校が大きく脚を曲げ、甲板に倒れ込むようにしながら手を振りおろしカタパルト操作員に合図を送る。
カタパルト操作員が射出ボタンを押し―――カタパルトが作動、蒸気シリンダ内部を猛烈な勢いでピストンが走行する。 
ピストンに連結されたシャトルが、繋げられた機体を同時に猛烈に加速させた。 そして射出。 
機体は2秒の間に300km/hまで加速され、猛烈なGを衛士に加えながら中空へと舞い上がってゆく。


振り向いて母艦を見ると、既に2番機がカタパルトにセッティングされていた。 僚艦の『神龍』からも、 “バッカニア”(第244戦術機甲中隊)が発艦しつつあった。
15分後、全機発艦を終えた第242戦術機甲中隊“アーチャーズ”、第244戦術機甲中隊“バッカニア”の第2次攻撃隊24機の84式『翔鶴』は一路、海岸線を目指す。
背後の95式自律誘導弾兵装担架システムに、比較的大型の92式改弐型多目的自律誘導弾システムを2基、そして肩部にも2基背負っている。
陸軍戦術機が使用するより大型の、95式多目的自律誘導弾を搭載する為、1基当たりの装弾数は9発に減少していた。

≪FAC『ニンジャ・コマンド』より“アーチャーズ”、“バッカニア”! 目標は福岡市北西の福津=古賀の海岸防衛線、西南方2kmのBETA群!
突撃級が突破を図っている、陸軍の第12師団が相手にしているが、さっきから悲鳴しか入ってこない!
第1次が95式をお見舞いしているが、上陸したBETA共の数が増えてきた。 福岡市内方面への突破は何としても阻止してくれ!≫

『アーチャーズ、ラジャ』

『バッカニアだ、任された』


やがて目標から80km地点に達する。

『ようし! アーチャーズ、高度30!』

『バッカニア全機、匍匐突撃!』

海軍母艦戦術機甲部隊の、海面スレスレの低空突撃が始まった。 24機の『翔鶴』が、海軍戦術機特有の低空高速機動で突進していく。

『うあっ・・・!』

『こ、こんな高度ッ・・・!』

悲鳴を出しているのは、半年程古い新米達だろう。 この春に卒業した連中は、声も出ない状況だろう。

『リーダーより各機! 高度を上げるな! 上げたら海岸線と対馬の光線級に、狙い撃ちされるぞ!』

『し、しかしッ・・・!』

『うわッ! う、海がッ・・・!』

ほとんど海面に激突寸前の超低空突撃。 レーザー照射から身を護る為に、海面激突の危険を無視して突撃する。
ベテランでさえ、無意識に恐怖を押さえ込む。 慣れないジャク連中でそれを完全に為せと言うのは、端から無理だったのか。
堪え切れなかったか、無意識の操縦ミスか。 数機の高度がほんの僅かに上がった。 ほんの僅か、ほんの20mも上がっていない。
途端に、先程から上空から飛来する砲弾やミサイルを迎撃していたレーザー照射が、直ぐ上空を擦過する。 

『アーチャーズ7番機、被弾、爆発!』

『バッカニア8番機、11番機、レーザー直撃!』

『高度を下げろ! 30以上に頭を出すな!』

『陣形を維持! B、C小隊、トライアングル(陣形)に変更、穴を埋めろ!』


衛星情報リンクで目標の座標は掴んでいる、既にロックオンした状態だ。 そして75km地点。
ミサイルに『火を入れる』様に指示を出す。 兵装担架システム起動―――70km地点

『アーチャーズ4番機、レーザー直撃! 12番機、海面に突っ込んだ!』

『バッカニア5番機被弾! B小隊長戦死!』

『全機、95式発射!』

『撃て! 全弾発射!』

1基の92式改弐型多目的自律誘導弾システムから、9発の95式多目的自律誘導弾が発射される。 
戦術機1機でこれを4基搭載、合計で36発。 6機減った18機で実に648発。

アクティブ・レーダー・ホーミングによるレーザー誘導弾が、音速の数倍の早さで低空を突進してゆく。
F-14Dに搭載されるフェニックスミサイルに比べると、小型で威力も劣る。 反面、小型・軽量故に搭載弾数は1.5倍となり、自律誘導性能、飛翔速度も大幅に優る。
改良型は射程距離70-80kmで『撃ちっ放し』能力が付加された為、光線級のレーザー照射を直接気にしない位置から攻撃が可能になっていた。

戦術MAPにミサイルを示すマーカーと、BETA群が映し出される―――海岸線付近は赤色で、ほぼ塗りつぶされている。
発射後、20秒―――レーザー照射が開始された。 自律回避が起動するも、やや高度が高かった2割強が墜とされる。
25秒―――レーザー照射がいったん止まった、光線級のインターバル。 残ったミサイルは70%強、504発。
30秒―――インターバルは、後7秒で終わる。 だが勝負はこちらの勝ちのようだ、95式多目的自律誘導弾の速度はマッハ6.0に達した。 到達時間は24秒後。
やがて戦術MAP上でミサイルのマーカーが、BETA群の中で次々と消滅する。 続いて通信回線から初めて聞く声。

『ベア01より、海軍! オン・ターゲット! 良い腕前だ、BETA共は吹き飛んだ!』

スクリーン情報には『第121戦術機甲連隊・第22中隊“ベア”』とあった。 恐らく中隊長だろう。
洋上からも、母艦戦術機部隊による誘導弾攻撃の結果がはっきりと見えた。 博多市内方面へ突進しているBETA群に、叩きつけたのだ。 
何回かレーザー照射が上がっていたから、数十発は喰われたと思えるが、それでも数百発もの中型誘導弾が白煙を引いて殺到する様は見物だった。

『アーチャーズ01より、陸軍。 残念だが今日中に出前できる回数は、あと2、3回が限度だ。 ところで、地上戦闘支援は必要無いか?』

『ベア01より、海軍。 気遣い感謝する。 が、必要無い。 取りあえずまだ戦力はある。
それより、また支援要請をすると思う。 早速母艦に戻って、再出撃準備をしてくれないか?』

『人使いの荒い事だな。 判った、陸軍、持ち堪えろよ―――健闘を!』

『ここで潰されても、守らにゃならん。 お互い様だ、海軍―――そっちこそな!』













D-Dayプラス7時間55分 1998年7月7日 1240 福岡県博多市 国鉄博多駅


「久留米で脱線事故!?」

「鹿児島本線と久大本線、両方とも現在は不通です! 復旧の目処は、未だ立っていないとの事です!」

悲鳴の様な部下の報告に、呆然とする。

(―――脱線事故。 不通。 群衆・・・ BETA!)

県警の現場指揮官は、背筋に冷たい汗が流れ落ちる感触に、身震いし続けた。






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