<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] 伏流 帝国編 2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/03/17 00:19
2001年2月10日 1400 日本帝国 北陸・信越軍管区 第1次防衛ライン 新潟県旧長岡市付近 第15旅団戦区


曇天に小雪が舞い散る天候、海も荒れ始めていた。 積雪は山間部で350cmを越した、平野部でさえ100cmに達しようとしている。
軍事行動が極めて制約される日本海側の湿った積雪の中、師団規模以上の部隊が展開を続けていた。 数日前から警戒レベルの上がっていたBETA上陸、その実現によって。

『BETA群、約4000が上陸。 佐渡島の飽和個体B群、旅団規模です。 上陸地点は越前浜、内野浜、小針浜の3箇所。
第1派は突撃級、約300。 後続に要撃級、戦車級他の小型種多数。 光線属種は未だ確認出来ず』

『第8軍団第23師団、交戦を開始しました。 第28師団砲兵連隊と軍団砲兵群、阿賀野川防衛ライン後方より面制圧砲撃開始。 第28師団主力、阿賀野川を渡河』

『軍団予備の第58師団、長野・新潟県境に展開完了しました』

『海軍第2艦隊より入電、『我、コレヨリ艦砲射撃ヲ開始ス』―――第2戦隊戦艦『駿河』、『遠江』、第5戦隊戦艦『出雲』、『加賀』の4隻、越前浜・内野浜への艦砲射撃開始!
第6戦隊戦艦『三河』、『伊豆』の2隻、佐渡島・松ヶ崎への艦砲射撃を開始しました! 巡洋艦群、駆逐艦群、SLM-2(90式艦対地ミサイル)発射開始しました!』

『第8軍団司令部、第28師団に側面強襲攻撃を下命。 第28師団第281戦術機甲連隊、BETA群北方側面に突入開始』


管制ユニット内で各種情報を呼び出し、戦況を確認する。 通信回線からは今の所、作戦が順調抜推移している事を示す会話しか流れてこない。
アクセス権限が飛躍的に上昇した現在、得られる情報は局所戦術情報のみでなく、旅団本部とのダイレクト通信の他にも、協同する第8軍団司令部の情報も一部確認出来た。
上陸したBETA群は、10日程前から上陸の可能性が指摘されていた佐渡島のA群、B群の内のB群・約4000。 これに対しA群の約4000は未だ、佐渡島南東海岸に留まっている。
第8軍団司令部は上陸したB群の殲滅を第1目標とし、佐渡島のA群に対しては大湊から出撃して来た海軍第2艦隊の戦艦2隻での、艦砲射撃による減滅を依頼していた。

距離が有る為に目視は出来ないが、UAVから送られてくる映像情報は確認する事が出来る。 上陸したばかりの突撃級BETAの頭上から、戦艦の大口径砲弾が降り注ぐ。
出雲級の460mm、駿河級・加賀級の406mm砲弾はいずれも陸軍の火砲には無い、特大の巨砲だ。 その砲弾重量と落下速度とで、一撃で突撃級の装甲殻を粉砕する威力が有る。
各砲塔毎の交互射撃だ。 出雲級戦艦は3連装4基12門、駿河級と加賀級は3連装3基9門(改修後) 10秒おきに460mmと406mmの巨弾が着弾する。
中には『九四式通常弾』も混じっている様だった。 空中で特大の花火が咲き、瞬く間に地表が業火に包まれる。 996個の焼夷・非焼夷弾子を内蔵したクラスター砲弾。

『旅団本部より各部隊。 上陸したBETA群はその数を急速に減じつつあり。 なお、当初計画に変更無し、各部隊は所定区域の警戒を厳にせよ、オーヴァー』

応答も、確認の余地も与えずに通信を切った旅団本部に対して苦笑を禁じ得ない。 どうやら旅団長も『あの程度』の上陸個体群の迎撃に、わざわざ駆り出されたのが不満なのか。
しかし、それでは困る事も確かだ。 何せ今回の『出張』では、あれこれと試したい(と、軍が考えている)モノが多いからだ。 このままでは折角の『モルモット』が無くなる。

『―――『ヨッヘン・ワン』より、『ゲイヴォルグ・ワン』へ。 こりゃ、次の機会かな?』

突然通信回線―――上級指揮官用秘匿回線で、わざわざ協同予定の機甲部隊指揮官から通信が入った。 そのボヤキに似た声に少し呆れる。

『―――『ゲイヴォルグ・ワン』より、『ヨッヘン・ワン』 開店休業なら、それに越した事は無いと思うがね。 好んで奴らと遊ぶ事も無いだろう?』

『―――違いないな。 っと!?』

急に網膜スクリーンの戦術情報エリアに、警戒情報が入って来た。 主に各部隊指揮官―――大隊長級指揮官への事前戦術情報だ。

『ちっ! たまには素直に殺られろってんだ、性懲りも無く・・・!』

『柏崎市か、場所的には理想的だな。 第8軍団を背後からレーザー照射できる』

『が、こちらも当然警戒している訳でな。 連中の時間差・分散上陸のパターンは解析済みだって―――151機甲大隊全車、対BETA戦! 音源評定、急げ!』

『第1戦術機甲大隊全機、戦闘出力! 第1、第2中隊、鳶ケ峰から高河内山に予定通り布陣せよ。 第3中隊、南西尾根向うの鯨波へ。 良いと言うまで隠れていろ』

同時に旅団司令部より、戦術作戦回線経由で各部隊へ迎撃態勢指示が出された。 第2戦術機甲大隊と機械化歩兵装甲大隊は、北面の突破阻止戦闘。
自走砲大隊は旧柏崎黒姫CC跡地より、面制圧射撃開始。 自走高射砲大隊と機動歩兵大隊は363号線と262号線の封鎖、及び小型種に対する掃射攻撃。

『で、こっちは稜線からトップアタックか。 頼むぜ、接近されたら最後、こっちはひとたまりも無いからな』

『了解。 支援砲撃宜しく―――来るぞ!』

日本海に面した海岸線、その波打ち際が急に盛り上がったと思うと、次の瞬間には醜い姿の異形の化け物―――BETAが姿を表した。
同時に後方から砲撃音。 自走砲大隊が面制圧砲撃を開始したのだ。 同時に海上から第2艦隊の一部、大型巡洋艦『鈴谷』、『熊野』が長砲身30.5cm砲で、支援砲撃を開始した。
駆逐艦も何隻かが対地ミサイルを発射していた、SLM-2が何10発と降り注ぐ。 海岸線は経験の浅い衛士には陸海両方の面制圧砲撃によって焼き尽くされ、破壊しつくされた様に見える。 
だがそれが幻想だと知るベテランにとっては、景気づけの花火のようなものだ。

『来たぜ―――『ゲイヴォルグ・ワン』、周防さん、手筈通り頼む。 こっちは大物喰いに徹する』

『了解した、『ヨッヘン・ワン』 篠原さん、戦車級は絶対に接近させない。 突撃級と要撃級は、任意に逸らして良いな?』

『ああ、それで良い』

それだけの通信の後、周防少佐の率いる第1戦術機甲大隊『ゲイヴォルグ』の94式『不知火』、40機が一斉に跳躍ユニットを吹かせ、吹雪いてきた前線へと躍り出た。
その姿を見送りながら、篠原少佐率いる48両の装甲車両―――46両の90式戦車、2両の87式偵察警戒車がその砲口を海岸線に向け、待機に入った。

≪CP、ゲイヴォルグ・マムよりゲイヴォルグ・ワン。 少佐、柏崎に上陸したBETAは重光線級5体と光線級15体を含む模様。
その他、要撃級・戦車級など混在の合計約700体です。 対レーザー照射警戒戦闘発令・・・迎撃レーザー照射、来ます!≫

大隊CP・長瀬大尉の警告と同時に、海岸線付近から数本のレーザー照射が曇天に向け放たれた。 太いレーザー光が2本、比較的細いレーザー光は9本。 それ以外は無かった。

『・・・ゲイヴォルグ・ワンだ、迎撃レーザー照射を確認した。 重光線級2体、光線級9体だ。 残りは艦砲射撃に潰された様だな。
よし、『フリッカ(第1中隊)』と『ドラゴン(第2中隊)』は、2大隊(第2戦術機甲大隊)の動きに合わせてBETA共をケツから叩け。 『ハリーホーク(第3中隊)』はそのまま』

光線属種の斬数を確認した大隊長・周防少佐から、大隊各中隊に命令が飛ぶ。 2個中隊で戦線を形成、1個中隊は予備戦力だろうか?

『フリッカ・リーダー、了解。 リーダーより『フリッカ』全機へ! 鵜川沿いに押し上げる! 河口付近までは行くな! 突撃級の相手はするな、戦車級を狙え!』

『ドラゴン・リーダー、ラジャ。 ドラゴン全機、戦車級は『フリッカ』が始末する、こっちのメインディッシュは要撃級と他の小型種だ。
それと突撃級は10体程後ろに逸らせろ、全部喰うなよ? 要撃級も同数だ・・・残りは好き嫌いせず、全部喰っちまえ! 行くぞ!』

2個中隊・24機の『不知火』が、数百体のBETA群の背後に襲い掛かる。 既に北方の全面から第2戦術機甲大隊、40機の『不知火』が交戦状態に入っていた。
同時に兵士級、闘士級と言った小型種BETAを、機械化歩兵装甲部隊が相手取っている。 但しそれまでの面制圧砲撃で半分以下に減じているBETA群は、格好の『カモ』だ。
突撃級BETAの突進を交し、そのまま中隊全機でBETA群の中に躍り込む。 目標は戦車級BETA、ただし100体も居ない。 12機の『不知火』が36mm砲弾の斉射で葬って行く。

『いいかっ! 大型には目をくれるな! 戦車級だ、連中を殲滅しろ! ただし不用意に接近するな、集られたら慌てずにエレメント僚機の支援を受けろ、いいな!』

第1中隊長の真咲櫻大尉が叫ぶ。 如何に数が少ないとはいえ、戦車級BETAは集られるとやはり怖い相手に変わりは無いからだ。
後方と海上からは相変わらず上陸地点に対して、面制圧砲撃が続けられている。 BETAの総数は既に500体前後まで減っている、殲滅は難しくない。
第1中隊『フリッカ』が陽動を仕掛け、BETA群の一部を分離させる事に成功した。 200体程のBETA群が方向を転じ、南西方面へ突進を開始し始めた。
第1中隊が戦車級BETAを選別して相手取っている間に、突進を続けるBETA群に今度は第2中隊『ドラゴン』が側面から襲い掛かった。 こちらの相手は主に要撃級BETA。

『・・・よぉーし、新しいオモチャを試すか。 砲撃支援、2機とも準備は良いか?』

『ドラゴン07、A-OK』

『ドラゴン09、準備よし』

第2中隊長・最上英二大尉の声に、砲撃支援を担当する2機の衛士達が落ち着いた声で返答を帰す。 砲撃支援機と言えば、ピンポイント狙撃で全体の穴をカバーする役目だ。
それなりに広い視野とバランス感覚、戦場を見渡せるセンスと落ち着きが必要とされる。 指揮官向きの資質かもしれない、彼等が落ちついているのは元々の資質故か。
そして第2中隊の砲撃支援機には、帝国陸軍が装備していない火器を装備する姿が見えた。 長い銃身、2脚架、欧州の戦場では良く見られる火器だ。

『じゃ、まずは小手調べだ。 遠慮なしでぶっ放せ!』

重低音と共に比較的遅い発射速度で、中口径の57mm砲弾が高速で発射される。 1秒間に2発の割合で発射される57mm砲弾は、確実に要撃級BETAの側面を貫いていた。
側面からの攻撃を察知したBETA群が方向を転じるよりも早く、第2中隊主力がBETA群に殴りかかった。 同時に方向を転じて、南西方向へと誘導する様な戦闘機動を見せる。

『B小隊、ケツから突撃級を殺れ! ただし10体残せ、戦車隊の前におびき出せ! 砲撃支援! 2機とも要撃級に狙いを絞れ! こっちも10体残して残りは食え!
他の雑魚は併せても100体も居ない! 全部喰え! いいか、指揮小隊に最後の美味しい所を掻っ攫われるなよ!? 吶喊!』





どんな精鋭部隊にも新米はいる。 その衛士は第1戦術機甲大隊に配属されてから、通算でまだ2回目の実戦だった。 
『死の8分』は越したが、その時は少数のBETA群殲滅作戦だった。 相手取ったBETAも、中隊で高々50体程。 彼女自身は小型種を数体、36mmの掃射で片付けただけだった。

『ふっ、ふう・・・! うわっ!』

不用意に前に出過ぎてエレメントの先任少尉機との間に、2体の要撃級BETAが入り込んだ。 咄嗟の事で気が動転し36mm砲弾をばら撒いたが、あっさり前腕で弾き返される。

『ひっ! くあっ!』

要撃級の前腕が瞬時に機体に迫った。 無我夢中で機体を後退させようとしたが、深い積雪に脚部が埋まって咄嗟の機動を妨げたのがマズかった。

『がああ!』

『おい、11! 大丈夫か!? 後退しろ、早く!』

中隊は20体程の要撃級を相手取っていた、他にも小型種が何10体か。 本当なら遅れを取る様な数じゃない筈なのに・・・! 
そして気付いた、自分だけが中隊主力から離れた場所でダウンしている事に。 前に出過ぎ、中隊の相互支援のエリアから外れ過ぎた!

『ひっ・・・た、たすけ・・・たすけて・・・』

機体のステータスは中破、ただし主機も跳躍ユニットも健在。 右腕が全損、センサー視界も右1/4が死んでいるが、それ以外は無事。
まだまだ戦える、ベテラン連中ならそう判断するだろう。 彼らなら片腕だけでも、視界情報が限定されても、長年の勘で何とかする。
だがその衛士は実質、今日が初陣のようなものだった。 恐怖感と高揚感で舞い上がっていた。 先任の警告を聞かずに突出してしまったのだ―――体が動かない。

『ひっ・・・ひぃ・・・』

先任衛士の声が聞こえる。 要撃級BETAの前腕が振りあがった。 初配属、そして初陣。 仲間達、上官に先任。 あ、お母さんからの手紙、読んで無い―――死ぬ!

『ッ・・・!』

声にならない絶叫を上げかけたその時、目前の要撃級BETAが吹き飛ぶように体液を吹き出しながら倒れた。

『・・・え?』

何が起こったのか判らなかった。 そして続けさまに近くに接近して来たもう1体の要撃級にも、突如数10か所の射孔が生じ、勢いよく体液が飛び出してどうっ、と倒れ込んだ。
茫然としてしまった次の瞬間、1機の戦術機が噴射跳躍から至近に着地して来た。 周囲のほんの僅かな数か所ある平坦地、そのひとつに。 着地誤差は精々10数センチも無い。

『―――機体損傷は? まて・・・中破か。 負傷はしているのか?』

通信回線から突然、普段中隊系通信で聞く以外の声がした。 誰だろう? ふとその『不知火』を見て別の意味で震えが来た。 機体の肩部に白い太線と細線が1本ずつ。
細線1本だとエレメント・リーダー。 細線2本が小隊長。 太線1本が中隊長で・・・太線1本と細線1本は言わずと知れた・・・

『だ、大隊長・・・!』

目前に『ゲイヴォルグ』大隊の大隊旗機―――大隊長機が立っていた。 その両腕に装備している火器は、普段見慣れた突撃砲では無い。 全体にやや大型の中口径砲だった。

『少佐! 急に飛び出さないでください! 何かあったら、どうなさるおつもりですか!?』

『03、周辺警戒入ります。 04、萱場少尉、山側をお願い』

『04、了解です、北里中尉!』

新たに『不知火』が3機、相次いで着地する、指揮小隊の面子だ。 4番機の萱場少尉は半期上で知っている。 それにエレメントの先任、いや中隊の各機も集まって来た。
助かった―――そう思った瞬間、体が瘧にかかった様に震えだした。 情けない、戦闘はまだ終わっていないのに! みんな、まだ戦っているのに! 私だけ!
そう、中隊はまだ戦闘を継続している最中だ。 たまたまBETA群がこっちに向かって来たから、移動しただけ・・・え? BETAがこっちに!?

『・・・最上、コイツを後方へ持って行った方が良い、バイタルが不安定だ。 このままだと、むざむざ死なすだけだぞ』

大隊長機から周防少佐の声がする。 大隊長機は両腕に装着した火器で、迫る小型種BETAを一掃していた、残る指揮小隊の3機も同様だった。 そして中隊長の最上大尉の声も。

『了解―――おい、武藤(武藤義重少尉)。 貴様、美浪(美浪奈江少尉)を連れて一端、魚沼(旅団本部陣地)まで戻れ。 ついでに今日はもう、上がっていいぞ』

『うっす。 おい、美浪、お前の機体の自律制御、貰ったぞ―――帰ります、中隊長。 お後宜しく、小隊長!』

『え? あ?―――きゃ!』

僚機の自立制御権限を上官から移譲された先任の武藤少尉の指揮で、2機の『不知火』がサーフェイシングで後方へと遠ざかって行った。

『最上、本部から2機回すか?』

2機が離脱した為、第2中隊の戦術機は10機になっている。 編成上のバランスが悪い。

『いえ、大丈夫です。 あらかた片付きましたし、後は万が一の時に八神のケツ持ちだけですから』

『そうか。 だが念の為だ、北里(北里彩弓中尉)、萱場(萱場爽子少尉)、2中隊の指揮下に入れ。 こっちの背中は遠野(遠野万里子中尉)が居れば、当面問題無い』

『了解です』

『はい!』

『やれやれ・・・今のセリフ、奥さんが聞いたらやっかみますぜ?―――北里、萱場、B小隊だ。 上苗!(上苗聡史中尉)、綺麗ドコロ2人預ける、傷モノにするなよ?』

『了解。 丁重にコキ使います。 北里、2番機頼む。 萱場、お前さんはそのまま北里のトコな』

一連の会話に周防少佐が何か言い返す前に、最上大尉はさっさと第2中隊を西部の尾根の陰に移動させた。 次の作戦段階での、攻撃予備として待機する為だった。
その姿を見送りながら、周防少佐は戦域MAPを再確認していた。 こっちに向かって来たBETA群はあらかた片付けた。 残ったのは後方に逸らした20体程の突撃級と要撃級。
これは事前の打ち合わせ通り、問題無いだろう。 海岸線からは相変わらず迎撃レーザー照射が上がっているが、太いのはもう1本しか無い。 細いのも5本だけ。

不意に周防少佐が厳しかった表情をふと緩めて、苦笑する様に小さく呟いた。

『そう言えば、そろそろ出番をやらんと、やいの、やいのと煩いのが残っていたな』

『第3中隊は、所定の場所で展開を完了させています』

指揮小隊長で、大隊長のエレメントも務める遠野中尉が、落ち着いた綺麗な声で補足報告をして来る。 お膳立ては出来た、そろそろ試して良いか―――周防少佐が命令を下す。

『よし―――ゲイヴォルグ・ワンより射撃管制! 海岸線への砲撃中止を要請! 繰り返す、海岸線への砲撃中止を要請! 第3段階に移行する! 
八神、お待ちかねの出番だ。 『レーザーヤークト(光線級吶喊)』! 本日の締めくくりだ、下手を打つなよ?』

『ようやくですか! 待ちくたびれましたよ、もう!』

第3中隊長・八神涼平大尉が、溜息交じりの口調で言う。 その間にも砲火は徐々に薄くなり、そろそろ残余の光線級からのレーザー照射を気にする状況になって来た。
その声を流しながら、周防少佐は全体の戦況状況を確認しつつ、任務を完了した第1中隊を念の為、機甲部隊のフォローに回らせた。

『貴様が志願したんだろうが―――じきに支援砲撃が直撃範囲を外れる。 その瞬間だ、タイミングを外すなよ? 焼き鳥になりたくなければな!』

『了解―――よぉし、『ハリーホーク』全機! 出番だ! 無粋な連中は誰も居ないってよ! グラマー娘1匹に、小っこいロリータが5匹だ!
可愛い子ちゃんばかりだからって、ガツガツ奪い合いするなよ!? たっぷり嬲って蹂躙してやろうぜ!―――よし、今だ! 『レーザーヤークト』、開始! 吶喊しろ!』

『―――応!』

八神大尉の陽気な声と共に、南西部の尾根向うに潜んでいた12機の『不知火』が一気に噴射跳躍で尾根を飛び越え、次の瞬間にパワーダイヴに移る。
砲弾やミサイルの迎撃照射に集中していた残る僅かな光線属種の群れは、その為に至近まで接近して来た戦術機群の察知がほんの数瞬遅れた。
各機からの火線が、あっという間に光線属種に集中する。 36mm砲弾より太く、120mm砲弾よりも細い―――57mm砲弾だった。
威力は大きい。 重光線級でさえ立て続けに撃ち込まれる高速57mm砲弾を、数100発も同時に叩き込まれては、あっという間に吹き飛ばされて倒れ込む。
小型の光線級に至っては、ほぼ原形を留めない程のミンチ状態と化していた。 尾根越しの攻撃開始から僅か10数秒、残った光線属種が全滅した。

『よぉし! 本日のメインイベント、完了!』

『あらら・・・出番が全くねぇな・・・光線属種の殲滅、確認完了です』

『フリッカ・リーダーよりゲイヴォルグ・ワンへ。 大隊長、機甲部隊が残余の突撃級と要撃級の撃破を完了しました』

≪CPよりゲイヴォルグ・ワン。 南西部のBETA群殲滅を確認。 大隊損失は中破1機、衛士損失無し。 第2大隊で2機が中破、衛士は無事です。 旅団損失は以上≫

八神大尉、最上大尉、真咲大尉、そして大隊CPの長瀬大尉から、三者三様の報告が入る。 精々が700体程のBETA群を、2個戦術機甲大隊を含む旅団戦力で相手したのだ。
これで損失が大きければ、東日本地域全般を担当する即応部隊だなどと、大きな顔も出来ない(西日本担当は、大阪・八尾基地の第10旅団)

『旅団本部より各部隊。 旧新潟市内へ上陸した旅団規模BETA群の殲滅に成功した。 第8軍団の損害は軽微。 
なお、海軍第2艦隊による佐渡島への間引き砲撃も完了した。 推定でBETA群(佐渡島A群)の内、約2000体を殲滅した模様』

最早、ルーチンワークと化した佐渡島への間引き攻撃と、周期的な上陸BETA群の殲滅作戦。 現状では精々が旅団規模での上陸しか生起していない。
将兵に経験を積ませるのには、もってこいの状況が続いていた。 これが師団規模の万単位の上陸だと、隣接する第17軍団(3個師団)も含めた軍管区全力迎撃が必要だろうが。

何はともあれ、本日はこれで店仕舞いだ。 それに天候もかなり崩れてきた、早いうちに仮設基地まで戻った方が良いだろう。

『よし、ゲイヴォルグ・ワンより大隊全機、これより帰還する。 CP、全機RTB!』

≪CPよりゲイヴォルグ・ワン。 『ゲイヴォルグ』、RTB、ラジャ。 オーヴァー!≫

激しくなる吹雪の中、38機になった大隊の『不知火』が跳躍ユニットからジェットの轟音と噴射炎をたなびかせ、次々と飛び立っていった。
飛び立つ部下達を確認していた周防少佐が、ふと佐渡島の方角を見る。 いつか、必ずいつかあの地へ降り立つ。 そして攻略する。

(ああ・・・そう言えばあの地には、省吾と史郎が眠っている。 早く行ってやらないとな・・・)

2年半前のBETA本土上陸、その一連の激戦の最中、佐渡島に上陸したBETA群から民間人を助け出す救出作戦で、周防少佐の2人の従弟達が戦死していた。
いや、従弟達だけでは無い。 今も横浜港の沖で眠っている、戦死した自分の兄も。 必ず奪回しなければならない、彼らの死はその事によって意味を為す。

『少佐? どうかなさいましたか?』

既に大隊の全機はこの場を離れた。 2機だけ残された形で、エレメントの遠野中尉が少し心配そうな声で聞いて来る。
今は無責任にも感傷に浸っておれる立場では無い、その事を思い出した周防少佐が振り払うように頭を振った。

『―――いや、何でも無い。 帰るぞ、遠野』

『―――はい、少佐』









2001年2月11日 1500 日本帝国 新潟県魚沼 帝国陸軍・魚沼補給基地 第15旅団


「―――昨日来の戦闘での損失は、第1大隊が戦術機1機中破、1機小破。 第2大隊が2機中破。 衛士損失無し。 機体も小破機体は修理完了、中破の3機も明日には復帰か。
流石だな、実質的な損害は全く無しだ。 機甲や砲兵にも目立った損失は無い、精々慌て者が車輌から飛び降りた際に、足を捻挫した程度か・・・」

仮設本部の旅団長室で、第15旅団長・藤田伊予蔵准将が報告書を手に、満足そうに笑みを浮かべる。 旅団長就任後、初の軍管区部隊との協同作戦だ。
それが殆ど損失無しに、しかも上陸したBETA群を完全に殲滅した。 無論第8軍団の2個師団(第8軍団は3個師団編成)との協力でだが、『即応部隊』の面子は十分守れた。

「うん、『アレイオン』(第2戦術機甲大隊)は正面からの阻止戦闘で、この程度の損失で留めたのは良くやった。 長門少佐、君は攻守両面の粘りに磨きがかかって来たな」

「は、恐縮です」

准将の向かいの椅子に座る長門少佐が、軽く頭を下げる。 その表情は気負うでもなく、淡々として平静だ。 昨日程度のBETA群との戦闘は、もう激戦の内には入らない。
長門少佐は新任少尉の昔から、攻勢・守勢、どちらかに偏る所の無い男だったが、部隊指揮官の経験を積む内に、バランスの取れた粘りの指揮は有数の指揮官になっていた。

「それと『ゲイヴォルグ』(第1戦術機甲大隊)、実質損失は1機中破のみ。 1機小破は帰還時の着地事故か、陽動・誘因を完全にやってくれた。
機甲大隊もお陰で試験は上々だ。 周防少佐、君は攻勢の面が強いと思っていたが、なかなかどうして、その場に応じた臨機応変の指揮を取る様になった」

「攻勢馬鹿では、自分も部下達も生き残れませんから」

長門少佐の隣に座る周防少佐が、シレっとした顔で答える。 少尉時代の少佐を知る准将が、何か言いたそうに、可笑しそうに笑った。
昔からずっと突撃前衛をこなしてきた周防少佐は、周囲からは攻勢の指揮官だと思われているが、中隊指揮を行う様になって以降は、むしろ防御戦闘での指揮経験が多い。
自身の気質ではやはり攻勢向きの指揮官なのだろうが、後天的に手にした防御戦闘や遊撃戦闘の指揮経験が、上級司令部にとって『使い手のある』部隊指揮官にしたようだ。

「私は君等に、知将でも猛将でもなく、勇将になって貰いたい、そう思っている。 曰く『敵の大群が攻めてきた折に、猛将は敵を求め出陣し、知将は降伏と見せかけ夜襲を仕掛け、
勇将は城に立て籠もり援軍を待つ。 自軍壊滅の折に、猛将は敵中に突撃し、知将は謀略を持って追撃を退け、勇将は兵を纏め戦いつつ退却する。
戦が終わった折に、猛将は皆から愛され、知将は神格化される。 されど勇将は皆から忘れ去られ、静かに退役する』 私は勇将で在りたいと思っているし、君等をそう評価している」

「・・・自分は、再び閣下の下で戦える事を、内心で喜んでおります。 今も昔も、自分の目標は閣下と、戦死された早坂閣下(早坂憲二郎准将、戦死後2階級特進)です」

長門少佐が静かに言う。 特に故・早坂憲二郎准将は長門少佐にとって、消して越えられない、しかし追いつかねばならない壁の様な人だった。

「自分には、目標としている先達が何人かいます。 奥様の広江中佐もそうですし、国連軍時代の上官、ユーティライネン大佐とアルトマイエル中佐もそうです。
それ以前に・・・満洲時代、自分等を率いて下さっていた閣下は、大目標でも有るのです。 『勇将』―――その言葉、非才の限りですが、胸に刻みます」

周防少佐も、真摯な口調でそう言う。 戦いの場で生死を預け得る上官ともなれば、本当に1人、2人いるか居ないかだ。 2人の少佐にとって、准将はそんな上官だったようだ。
2人の部下をそれぞれ評し、その言葉を得た藤田准将が、もう一度満足そうに頷く。 その時、扉が開き、藤田准将の副官で有る三宅大尉(三宅純子大尉)が入って来た。 
トレイに3つのコップ、コーヒーだろう。 代用コーヒーでも、この寒さでは有り難い。 三宅大尉が退室した後、准将はもう一つの報告書を手に取り、暫く眺めた後で徐に言った。

「うん、これは・・・よし、2人とも付いて来い。 丁度、兵器庫にお客が来ている頃だ」

准将はそれだけ言うと席を立ち、さっさと旅団長室を出てゆく。 否応も無い命令に2人の少佐も慌てて着き従う。 廊下から階段を下りて屋外へ、防寒着を着込む。
管理棟から兵器庫へは当然ながら途中で外に出る。 2月初旬の新潟、気温は氷点下だし積雪も多い。 除雪されているとは言え、所々で氷結した場所も有った。
白い息を吐きながら、曇天の下を歩く。 前線基地での通常服装で有る冬季BDUに防寒具、冬季防寒長靴と略帽のスタイルは同じだ。 将官と佐官で袖章の違いは無論あるが。
3人とも帝国陸軍冬季BDUを着込んでいるのは同じだが、上級指揮官、それも前線部隊の指揮官が良くやる様に、防寒コートを各自がオーダーメイドで細部を好きに作っている。
略帽はベレー帽だが、これまた千差万別。 世代によってベレーの崩し方の好みが出ている。 准将と2人の少佐では、見た目も若干の違いが見えた。

やがて兵器庫の入口に着いた、警備の哨兵が小銃を立てて敬礼して出迎える。 答礼を帰し、開いた扉をくぐって中へ入るとまた、警備詰所が有る。
ここも3人は素通りだ、今回この兵器庫に収まっている『オモチャ』の現地試験管理総責任者は藤田准将だったし、周防少佐と長門少佐はその一部の試験実施責任者だった。

庫内に入るとそこは十分空調が為されていた、途端に暑さを覚える。 防寒具を脱いで庫内に集まっている者達に近づくと、こちらに気づいた1人が敬礼をした。
何名かは帝国軍人―――国防省兵器行政本部第1開発局(旧陸軍兵器局)の陸軍軍人だったが、中には第2開発局(旧海軍艦政本部)の海軍軍人も居る。
目立つのは、その中に欧米系の人間がいる事だ。 会話の内容から、どうやら英独の人間と判った。 軍人が数名に、民間人と思しき技術者が数名。

その中から1人の女性佐官がこちらに歩いてきた、藤田准将に敬礼し挨拶をする。

「閣下、わざわざお越しいただき、申し訳ございません」

第1開発局第2造兵部の三瀬(源)麻衣子少佐だった。 藤田准将が軽く微笑む、三瀬少佐もかつては准将の部下だったのだ。

「久しぶりだな、三瀬君。 河惣君の下で良くやっている様だね」

「慣れぬ事も多いですので、中佐にはご指導を頂いてばかりおります」

「まあ、向うは兵器開発行政のキャリアが違うよ。 もう戦術機には乗らないのかい?」

「―――どうでしょう? 命令次第ですが。 自分ではこちらの方が、性に合っている気もします」

「ならば、そうしたまえ。 源君(源雅人少佐)も、奥さんが前線に出なければ安心するだろう」

一通りの挨拶が済んだ後、試験兵器についての状況確認が行われた。 日本側は藤田准将の他に、第1開発局の三瀬少佐、第2開発局の藤木海軍中佐、課員の大尉達。
それと部隊指揮官の周防少佐と長門少佐、旅団先任参謀の元長中佐も参加している。 後は河崎重工、富嶽重工、光菱重工のメーカー3社に、システム開発の帝国電工の技術者達。
英独からはCRÈME(英軍王立電子・機械技術軍団)、ブンデスヴィーア(ドイツ連邦軍:西ドイツ軍)の技術将校達が3~4名ずつ。 あとは軍需企業の人間達。
ラインメイタル社、BAE-SLS社、ラインメイタル・マウザー・ヴェルケAG、エリコン・ラインメイタルAG。 主に戦術機の携帯火器、そして射撃管制システムメーカーだ。

現在、帝国陸海軍が導入を検討中、若しくは導入を検討する前にその実戦性能を確認する、そんな何段階かの候補兵器が、今回第15旅団に託されて実戦性能試験を行っていた。
無論のこと、即時導入がまじかの兵器も有れば、あくまで構想の1候補に過ぎない兵装も有る。 採用が有力な所でBK-57、構想に過ぎないのはMk-57と、色々である。

藤田准将も交えた全般に渡る評価試験結果の検討の後、数グループに分かれてのヒアリングとなった。

『周防少佐、以前にお会いした事は有りませんでしたかな?』

ラインメイタル・マウザー・ヴェルケAGの担当エンジニアが、記憶を探るような仕草で聞いてきた。 周防少佐もちょっと考える様な表情の後、ようやく記憶が思い当った。

『・・・94年7月のイベリア半島。 国連軍カディス基地です、ヘル・ブルームハルト。 BK-57の先行量産型の説明の際、お会いしましたよ』

そのエンジニア―――周防少佐より7~8歳年長かと見える、ロルフ・ブルームハルト技師も思い当った様だ。

『おお、そうだ。 あの時、カディスの国連軍衛士達に、BK-57の仕様と取扱説明をした時ですな。 若い東洋系の衛士が2、3人居られた。 そうでしたか、あの時の・・・』

『3人いました。 1人は今、帝都の部隊に居ますが、もう1人は向うに居る長門少佐です』

『ほう! では3人とも、無事に母国へ帰還が叶ったのですな、素晴らしい事だ』

母国をBETAに蹂躙され尽した国の人間でありながら、いや、であるからこそ素直に、若い東洋の衛士が遠い欧州での戦いを終え、母国に戻れた事を素直に祝福していた。
その後暫く、欧州方面の近況話となった。 日本でも世界中の戦況は判るが、やはり現地の緊張感は現地の人間にしか分からない。 欧州も何らか手を打たねばならぬ時期らしい。

『・・・このBK-57-ⅡB(ツヴァイ・ベー)は、従来のⅠシリーズ(アイン)に比べると幾つかの改修点があります』

ひとつは銃身長の伸長。 従来の58口径長から62口径長へと銃身を伸ばしている。 

『機関部も改良して大きさを短縮できた結果、全体長は従来の3382mmから150mmの延長で済みました、3532mmです。 取り回しには邪魔になりませんよ』

『ええ、実際に使用してみて感じましたが、特に取り回しの不便さは感じませんでした』

発射速度は変わらないが、砲口初速は従来の1085m/sから一気に36%も増加して、1480m/sとなっている。 有効・最大射程も25%ほど上昇していた。

『その割に、弾倉は800発入りから960発入りと、1.2倍に増加しています。 これは? クルツ(短砲弾)タイプですか? だとすると、貫通能力は?』

『ご心配無く。 フランスの戦場での実戦試験の際に、3秒間のバースト射撃―――距離は400mでしたか、それで突撃級の装甲殻を射貫したとの報告があります。
リヴォルヴァーの回転数は1200rpmでしたので、1秒間に20発、3秒で60発を叩き込んだ計算ですな。 理論上では600rpmの3秒バーストでも射貫できます、距離300mで』

L44・120mm滑腔戦車砲で同一箇所に3発叩き込めば、突撃級の装甲殻は射貫出来る。  半分程の中口径砲でどうだろうと思ったが、意外と威力がある、周防少佐はそう思った。
対BETA戦闘での近接砲戦距離は、射撃距離300m以下で行う事が多い。 57mm砲弾でもほぼ同一箇所に3秒間で30発も叩き込めば、装甲殻を射貫出来るのは魅力だ。
これが要撃級以下が相手だと、もっと有効だろう。 要撃級でも1、2秒の射撃で倒せるだろう、戦車級以下なら薙ぎ払いながら始末できる発射速度だ。

『それとこのセレクター機能、これは従来型には無かったものですね。 使い勝手が良かった』

昨日の戦闘で使用してみて、意外に使い手が良かった点を挙げて見た。 するとブルームハルト技師は我が意を得たり、とばかりに破顔する。

『ええ、そうです。 フルオート/3secバースト/単射の、切替えセレクター機能を追加で付けました。 今まではフルオートしか、ありませんでしたのでな。
戦場に慣れたベテランなら、1回の射撃時間は1秒か2秒、長くても3秒です。 しかし経験の浅い衛士は、どうしてもトリガーを引きっぱなしになる・・・
突撃砲の36mm砲弾は2000発入り弾倉ですが、それと同じ感覚で射撃してしまうと、最短だと40秒で全弾を撃ち尽くしてしまいます』

その結果、早々に予備弾倉も撃ち尽くして、後は長刀やナイフでの不慣れな近接格闘戦となり、命を落とすケースが散見されたと言う。
英仏独、さらには欧州国連軍からも改善要求が相次ぎ、メーカー側は大至急の開発でセレクター機能を追加した後期型『BK-57-ⅠE(アイン・エー)』を開発した。
これで3秒バーストにセットしておくと、どれだけトリガーを引き続けても、3秒で射撃が終了する。 一度トリガーから外して、再度引かなければ砲弾は発射されない。

『今回のⅡBは日本との技術交流の結果、実現出来たのですがね』

『・・・色々と聞き及んでいますよ』

日欧、特に日本と英国・西ドイツ両国は今BETA大戦以降、軍事技術を中心とした各種技術の相互供与・基礎技術の協同開発を行っている。
共に『西側』諸国であるが、米国とは微妙に距離を置く有力国同士として。 日独はWW2での同盟国としての心情も有り、日英はその昔の日英同盟時の気分も復活しつつある。
その為に色々な噂が流布している。 最も有名なのは欧州第3世代戦術機『EF-2000・タイフーン』の基礎技術として、日本側が94式『不知火』のデータを渡した、と言う噂だ。
世界初の実戦配備第3世代機として、戦術機開発史に名を残す『Type-94(94式)』 難航していたEF-2000開発が、再開後に加速度的に完了した背景には何かがある。

―――日本帝国が、米国内の戦術機産業界を牽制する目的で、欧州に戦術機開発データを渡したのではないか?

そんな噂もあながちウソと言い切れない程、日本と欧州、ことに英独両国とは密接に協同し合っているのが、昨今の『西側』有力諸国の情勢で有る。
今回もその一環として、欧州の戦術機携帯火器の実用試験を持ち込んで来たのは、欧州側だった。 在英日本大使館附武官経由で接触があり、費用は欧州持ちで実戦試験となった。

『BK-57-ⅡBも、Mk-57-ⅢC(ドライ・ツェー)も、新型装薬の開発成功で性能が飛躍的に上がりました。 貴国の帝国化成工業社、その会社が新たな技術を実用化したのですよ』

新たな技術―――と言っても、火薬に変わりは無い。 何が違うのかと言うと、ナノテクノロジー分野での技術を実用化し、量産化出来た事が大きかった。
中国・唐の時代(7世紀初-10世紀初)に世界最初の黒色火薬が開発された、と言われてから既に10世紀以上、TNTが開発されてから100年以上が経つ。
しかし現在で最も強力な最新鋭爆薬のC-20(HNIW)でさえ、TNTの2倍程度の威力でしか無い。 S-11の基幹爆薬である『金属水素電子励起爆薬』は用途が全く異なる。

『ホウ素骨格火薬・・・従来の火薬は全て炭素骨格火薬でした。 100を越える元素の中で炭素だけが、無限の多様性を持つ物質を作る、その材料になり得るからです。
近しい元素には、珪素が有りますかね。 しかし珪素は炭素に比べると結合の安定性が低いので、炭素程の多様性は持たない。
そう言えば、『珪素生命体』の様な議論も有りますな。 昔から炭素と同族で原子価が4つであり、『生命のようなもの』が出来るのではないかと、珪素は注目されていました。
しかし実際には常温常圧での珪素は、2重3重結合を殆ど作らず不安定です。 ダイヤモンド型構造しか、安定した構造を取れないのですな・・・』

―――話がどんどん、飛躍して来た。

『と言う事はですね、つまり芳香族化合物が出来ない、単結合しか基本的に出来ないのですよ。 量子力学という、『珪素生命体』にとって最強にして最悪な敵が根底にいます。
これと勝負して、全ての矛盾に勝たないと説明出来んのですよ。 この宇宙にいる限り、量子力学からは逃れられませんからな。 今のところ、珪素は惨敗記録更新中です
いや、私も遠い昔の少年時代に読んだ、アシモフの作品短編集のアース博士の推理が面白くてね・・・おっと、話が逸れましたな』

『・・・博士の様に乗り物嫌いまで、同じくならなくて良かった。 そうなっていたら、ヘル・ブルームハルトも、この国にやっては来なかったでしょうから』

周防少佐も少年時代、戦死した兄が持っていたアシモフやハインラインの翻訳本を読んでは、遠い未来の宇宙の物語にワクワクした口だった。
同好の士を見つけたマニア同士と言うのは、時に世代や育ち、民族も言語も、そして宗教さえも超越する。 曰く、『聞け、イスラエルよ。 汝の神は唯一なり!』なのである。

それ以降、2人は急に打ち解けたようになり、様々な点を確認しては検討し、次の試験に盛り込む様な方針を(半ば勝手に)進めてしまっていた。

『話を戻すとね、直衛。 つまり理論上、炭素骨格よりもホウ素骨格の方が、2倍以上のエネルギーを発生させることが判っている』

『2倍? とするとC-20の様な爆薬を作ったとして、単純計算でも同量でTNTの4倍の爆発力かい? ロルフ』

―――すでに、ファーストネームで呼び合うようになっていた。

『そうだ。 長年、ホウ素は原子にするのが困難だったが、ナノテクノロジーの発達でホウ素骨格爆薬が開発可能になったんだ。 それを実用化したのが、日本帝国だよ。
爆薬威力もTNTの2倍以上。 ロケット推進薬として利用した場合は、約30%の射程延長が実現されている。 君の国のミサイル、射程距離が新型では伸びた筈だろ?』

『ああ。 そうか、そう言う事だったのか・・・いや、技術資料報告書には目を通しているけど、専門的な事はなかなかね。 特に化学は昔から苦手だった・・・』

『はは、僕もウチの会社の専門家からの受け売りさ。 で、この『ボロン(ホウ素)・コンポジット(BC)』の実用化で、装薬量はかなり軽減できた、砲弾全長も短縮出来たしね。
その分のスペースはご推察の通り、装弾数の増加を実現出来たのだ。 弾倉のサイズを変えず、薬室のサイズとレイアウトを少々変えるだけでね。 これは凄い事さ!』

BK-57-ⅡBが、前作のIシリーズと比較して初速が大幅に上がり、装甲貫通力も飛躍的に上昇したのはその結果だと言う。 無論、砲弾も国連基準の新型砲弾だ。
当然ながら、この『BC』装薬はMk-57-ⅢCにも使用されている。 前作のMk-57-ⅡG(ツヴァイ・ゲー)が長砲身に関わらず、突撃級の装甲殻を射貫する距離は400mだった。
しかも同一箇所に立て続けに、20発程撃ち込まねば射貫出来なかった。 しかし新作のⅢCでは距離700m、10発も撃ち込めば完全に射貫出来ると言う。 5秒の射撃時間だ。
確かに欧州の『オールTSFドクトリン』に、合致した兵器体系と言えるだろう。 内陸奥深くに機甲部隊を展開させるには、自走だけではまず不可能だ(戦車はデリケートだ)
戦車トランスポーターでもまだまだ不十分。 帝国でも本土防衛線の際は、機甲部隊を列車輸送で軍団司令部最寄駅まで輸送し、そこから師団管区までトランスポーターで運んだ。
BETAに浸食された欧州内陸部での、その様な輸送手段は夢のまた夢だ。 今の所、機甲部隊の展開は沿岸部での作戦か、精々がリヨン・ハイヴ攻略時しか出来ないと予想される。

『そうだね。 オールTSFドクトリンは、装甲車両の損失もさることながら、実は兵站部門の強い後押しが有ったと言う事は、意外に知られていない事実だね』


かくして、2人の日独の軍民のマニア達は、後日の再会を約して別れた。 当然ながら自分のコレクションを手土産にしてだった。






「なかなか、話が弾んでいた様だな、周防君」

検討会が終わり、旅団長室に藤田准将、元長中佐、周防少佐、長門少佐の4人が集まっていた。 准将の副官で有る三宅大尉は席を外している。

「傍で聞いていると、半ば趣味の話になっていましたがね」

長門少佐が冷やかすように言うと、周防少佐はそっぽを向いて素知らぬ振りをしている。

「しかし途中で英語では無くなっただろう? 俺は語学は、仏語の専修だったから、何を言っているのかさっぱりだったよ」

元長中佐が、胡散臭そうに周防少佐を見て言った。 流石に周防少佐もバツが悪そうだ。

「私も露語が専修でな、独語は判らん。 長門少佐、君は少し判ると言っていたな? 周防少佐とあの技師、何の話題で盛り上がっていたのだ?」

藤田准将まで、話題に喰いついてきた。

「私も露語が専修です。 独語は国連軍時代に少しだけ齧った程度で、日常会話なら辛うじて・・・と言うレベルですよ、さっぱり判りませんでした。
この男の様に、昔の上官に独語を教わったり、軍学校で独語を専修したりと言う訳では。 何せ、独語で女を口説けますから。 口説いていましたし、この男は」

「おい、長門少佐! 勝手な嘘を言うな! 俺はそんな事をした事は無いぞ!?」

流石に周防少佐も、慌てて苦情を申し入れる。 こんな所で変に話が回っては、後々が大変だ。 藤田准将の細君の広江直美中佐は、周防少佐の妻の綾森少佐とはツーカーだ。

「本当か? 本当にそう言い切れるか? お前あの頃、翠華以外の女と、そう言う関係にならなかったと言い切れるか? 一夜の相手も含めてだぜ?」

「うっ・・・だ、だとしたら、お前も同罪じゃないか。 整備隊に居たロシア系の女性伍長、彼女はまだ18歳だったよな!? それに衛生隊のポーランド系の女性軍曹も!」

「お前だって、主計隊に居たドイツ系の未亡人少尉はどうした!? 通信隊のオーストリア軍から出向していた人妻中尉は!?」

―――2人とも、上官の前で旧悪のバラし合いになっている事に、全く気づいていない。

「あー・・・つまり、あれだな? 2人とも、任務を終えて家に帰る頃には、覚悟を決めた方が良いな。 閣下は愛妻家で、閣下の奥さんは綾森少佐と伊達大尉を可愛がっているからな」

元長中佐の一言に、周防少佐と長門少佐が思わず固まる。 恐る恐る藤田准将を見ると、苦笑しながら手を振っていた。
どうやら『旧悪』の件は細君には言わない、そう言う事らしい。 周防少佐と長門少佐が、思わず深い息を吐き出していた。

「それはそうと、妻の事で思い出した。 周防君、『ゲイヴォルグ』の件、受けてくれて感謝する」

「あ、いえ、はあ・・・」

藤田准将の謝意に対し、周防少佐は何となく歯切れが悪い。 本来なら第1戦術機甲大隊の部隊コードは『デビルス』だった。 1年前はそうだったのだ。
周防少佐が大隊長復帰に際し、市ヶ谷(国防省)からわざわざ足を運んで来た広江中佐が、ひとつの提案をした―――『周防、『ゲイヴォルグ』の名前を継げ』と。

『・・・なに言ってんですか。 ウチは『デビルス』ですよ』

『いいや、貴様は『ゲイヴォルグ』だ。 それ以外は許さん』

『部隊コードです、別に中佐の許可は不要ですがね?』

『貴様だけは、私の許認可制とする!』

『そんな、理不尽な!』

そんなやり取りを恐る恐る、大隊副官の来生中尉と、指揮小隊長の遠野中尉が聞いていた。 両中尉にしてみれば、国防省のお偉いさん(広江中佐)はまさに雲上人だ。
そんな人と言い合わそう、ウチの大隊長・・・大丈夫なのかしら?と。 それだけなら噂も広まらなかっただろうが、間の悪い事に長門少佐もその場に居たのだ。
たちまちの内に、昔の仲間達の間にその話が広がった。 そして今は第14師団で大隊長をしている木伏少佐がわざわざ帝都まで出張って来て、こうのたまったのだ。

―――『これより、『周防少佐、ゲイヴォルグ継承戦争』を開催する!』

場所は帝都・九段の東京偕行社(帝国陸軍将校・准士官の、親睦・互助・学術研究組織。 将校集会所や社交場でも有り、飲食や宿泊も一流ホテル並み)
観戦武官は木伏少佐、源少佐、三瀬少佐、長門少佐、神楽大尉、間宮大尉、仁科大尉の7名。 揃いも揃って、理由をでっち上げて公務出張して来た不届き者達だ。
対戦者達は、広江直美中佐と、周防直衛少佐。 対戦方法は・・・『酔い潰した方の勝ち』だった。 『・・・どうしてこうなった・・・』周防少佐が青い顔をしていた。

かくて両者共に泥酔状態になりながらも、辛うじて広江中佐が勝利を収めた。 『継承宣誓書』には、酔って潰れた周防少佐の指に朱肉を押し付けた長門少佐が、勝手に指印を押した。
翌日、途中からの記憶が無い周防少佐が自宅で目覚めると、夫人である綾森少佐が枕元に正座して、『継承宣言書』なるものを無言で見せた、そして溜息をつきながら言った。

『あなたって・・・時々、変に子供みたいな馬鹿をするのだから・・・』


「・・・あれだよ、妻も君を特に可愛がっていた。 自分の部隊名を誰かに継いで欲しい、内心でそう思っていたのだろうね。 もう、戦術機に乗れない身体だからね」

藤田准将の表情はどこかしら、ホッとした様な表情だった。 周防少佐も判っている、誰かが継がなくては、そう皆が考えていた事を。
北満州時代、激戦に次ぐ激戦を戦い抜いた、栄えある部隊名だ。 皆が若い中少尉時代を駆け抜けた、その証の部隊名だった。 思い入れはどんな名よりも深い。

「タイミング的に丁度良かったしな。 お前が米国から帰国して、大隊長を拝命した時だったし。 お前の『フラガラッハ』は、摂津(摂津大介大尉)に譲ったんだろ?」

今は第14師団の第143戦術機甲連隊第2大隊の第1中隊『フラガラッハ』は、かつて周防少佐が初代中隊長をしていた隊だ。 その中隊と部隊名を、後任の摂津大尉に任せたのだ。

「口には出さないけどね、君に継いで貰いたかったのではないかな? 迷惑だろうが、ここは大目に見てくれんか?」

「いえ、迷惑だなどと・・・少々荷が重いですが、『ゲイヴォルグ』、継がせて貰いますよ」

そこで初めて場が和んだ。 しかし和んだとは言え、そこは前線基地、そして即応部隊、話す事は明日以降の試験内容と、沿岸部哨戒計画。 
BETAがいつ何時、奇襲上陸をするかもしれないのだ。 ここは国内で最も厳しい最前線。 全く気は抜けなかった。









2001年2月20日 1430 日本帝国 帝都・東京 千住 周防家


「・・・あなた、何をしてらっしゃるの?」

赤子を抱き抱えてあやしながら、周防夫人(綾森少佐)が小首を傾げながら夫に聞いた。 彼女の夫は何やら、しきりに押し入れの中を探っている。

「なに? 直衛。 見つかったら非常にマズイ舶来物とか?」

含み笑いをしながら、隣家の長門夫人(伊達大尉)も、我が子を抱っこしながら冷やかしていた。

「ちょっと、愛姫ちゃん。 変な事、言わないでよ・・・」

「あー・・・祥子さん? あまり旦那を全面的に信用しない方がいいですよ? ウチの宿六なんて、この間欧州から国際便で届いた書籍、米国版の無修正ですよ? まったく!」

「そう言えば・・・あなた? あなたにも届いていたわね!? 見せて頂戴!」

「あ・・・後でな・・・ああ、有った、有った、これだ」

周防少佐は冷汗をかき、(『直秋のボケめ! 直送して来やがって! 少しはファビオを見習え!』)などと従弟を内心で怒鳴りながら、1個の段ボール箱を取り出した。
段ボールには癖のある字で、『直武、小説類』と大書きしてある。 懐かしい兄の字だ。 兄が結婚した時に、実家に置いていった書籍の一部だった。

「あら、それって・・・お義兄さまの遺品じゃないの?」

「遺品って程の物でもないよ。 兄貴に『勝手に読んで良いぞ』って言われてた。 実際は貰った様なものさ。 えっと・・・ああ、これだ、これ」

何冊かの小説を取り出した。 随分と古い、表紙も結構黄ばんでいる。 長門夫人が横から覗き込んで、表紙の題名を読んだ。

「なになに・・・? 『宇宙帝国興亡史』? こっちは・・・『銀河の戦士』、『地球帝国の危機』? あ、これって知ってる。 圭介も何冊か持っていたわ」

「俺の兄貴が、圭介にも何冊かあげたんだよ。 中等学校の頃はあいつ、俺の家によく遊びに来ていたからな。 兄貴も俺と同じ感覚で、弟分にしていたよ」

その時呼び鈴が鳴って、隣家の長門少佐がやって来た。 手に何冊かの本を持っている、小説の様だった。
やがて庭に面した縁側に座り込み、2人とも黙々と読書を始めてしまった。 2人の妻達は『しようがないわね』とばかりに顔を見合わせ、苦笑しただけだった。 
彼女達にはまだ仕事が残っている。 子供をお昼寝させて、家事を済ませた後で夕食の献立を考え、それから買い物に行って・・・




2001年2月・如月、少なくとも帝都の一角は今この瞬間、平和だった。 まだ帝国はその本当の危機を、実感していなかった。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.03603982925415