<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

Muv-LuvSS投稿掲示板


[広告]


No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[20952] 伏流 米国編 最終話【後編】
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/20 20:01
2000年11月4日 1450 合衆国N.Y. マンハッタン イースト・ビレッジ


セントラルパークを出たら、ジョゼが『ちょっと行きたい所が有るの』と言うから、ご希望に沿ってみた。 場所はイースト・ビレッジ、3番街と4番街の間の12丁目沿い。
地下鉄の4ラインで68丁目駅から乗って、14丁目駅でLラインに乗換え。 そこから3駅で3番街駅。 駅を上がって西へ、昔ながらの建物も多い場所の一角。
『少女の夢が形になった』アンティークショップ、『Cure Thrift Shop』 慈善中古品店だが、まさしく女の子の夢の様な小物が揃った、可愛らしい品揃えのアンティークショップ。

「・・・」

―――で、ここに入るのか? 俺も!?

「? お兄さま? どうかしたの?」

「・・・いや、なんでもない」

―――ええい、旅の恥はかき捨てだ!

入ってみると外観から想像したより、ずっと奥へと広い店内になっている。 女の子が喜びそうな小物のアンティーク雑貨や、ビンテージのワンピース。
それだけではなく、大きなアンティークな家具や古いピアノまで、綺麗に陳列された様々な品々があった。 ジョゼが目を輝かせている。
客層はと言うと・・・予想の通り、大半が10代の女の子、チラホラと20代前半位の若い女性。 それに女の子と一緒に来ている母親らしきご婦人方。 男は俺1人だけ。

そんな居心地の悪さを感じていると、向うでジョゼが見知らぬ女性と話しているのが見えた。 俺を手招きしている、傍に歩み寄って行くと、その女性を紹介された。
この店のオーナーだそうだ、まだ20代半ばか後半くらいの、アフリカ系女性だ。 ジョゼも交えて話している内に、何故ジョゼがこの店に来たのか、ぼんやりと判る気がした。
オーナーの女性は、10歳の頃から大病を患っていた事もあり、この店の利益の半分を『病気の子供支援基金』へ寄付している。 最近は難民キャンプへも、しているそうだ。
幼い頃からお母さんと一緒に、ショッピングするのが好きだった女の子。 が、大病を患い長く闘病生活を余儀なくされた。 そんな女の子(オーナー)がオープンした自分の店。

「―――自分に身近な社会貢献活動を行うために、自分のアンティークショップを開きたいと決めたのです。
もちろん自然に病気について何かできないか、となりました。 私は自分でとても気になっていた2つの事を、一緒にしてみたんのですよ」

そして最近になって、別のNPO団体の会合で世界中の難民キャンプの惨状と、そこで蔓延する病気の数々、碌に治療を受ける事の出来ない難民の子供達の様子を知ったと言う。

「―――私が出来る事は、何なのだろうって。 限られますよね、戦える訳じゃないし、政治に参加している訳でもないですし。
で、思ったのです。 私が苦しい闘病生活をしている時、夢に見ていた事を今、出来ているのだって。 だったら、難民キャンプの子供達も将来、夢を見れるようにって」

―――本当に、ささやかですけれどね。

そう言って、少しはにかむ様にして笑うその笑顔が、実に魅力的に思えた。





店を出て、ちょっと街中を歩こうと言う事で、街をブラブラと歩いている。 4番街からパーク街に出て、23丁目で左折してマディソン街へ。
マディソン街から延々北上すれば、ジョゼの家が有るアッパー・イースト・サイド(セントラルパーク東の超高級住宅街)だ。 そこまで歩きはしないが。
この辺りもどんどん高級ブティックなんかが進出しているな、お隣の5番街化が進んでいる。 庶民には手の出無い高嶺の華、そんな街だ。

「・・・私ね、ずっと今まで、何不自由なく暮らせて来たって、そう思うの」

隣を、俺のジャケットの端を持ったまま歩くジョゼが、ポツリ、ポツリと話す。

「・・・お父様は、ずっと昔に戦死なさったし、顔も覚えていないわ。 でも、そんな子はたくさんいるでしょう?
それに私にはお母様も、お婆様も、曾お婆様も居て下さったわ。 爺やもね。 小さい頃はお屋敷で不自由なく暮らせていたし、病気もせず元気だったわ」

スコットランド時代か。 誰にも有るよ、何も考えずに済む、幸せな幼少時代ってのは。 反面で世界には、それも許されない境遇の子供達も多いが・・・

「アメリカに来てからもね、お婆様に付いてロスアラモスに行った時も、全然不自由なんか無かったわ。 お母様も曾お婆様も居らっしゃったし。
私は地元の学校に行って、お友達もできたわ。 みんな、研究所の関係者の子供達だったけれど、そんな事関係無かった。 楽しかったわ、自然も多くて・・・」

ロスアラモスの街自体が、ロスアラモス研究所で持っている街だと聞く。 あの研究所は2万人以上の科学者・所員が勤務していると聞いた事が有る。
当然、家族持ちも多く、その数だけ家庭が有る。 それを支える社会インフラが必要になる。 あの街は研究所の街だ。

「でもね、ニューヨークに移って来て、色んな事を知って、思い始めたの。 私って、何か出来る事をやっているのかな?って。 出来る事・・・夢が有るのかなって」

思春期に入って、色々と世の中の事が見え始めて。 でも、その中で答えを探し出すには、まだ幼くて。 この子も、悩んでいると言う事だ。

「あのオーナー、ミス・オランジェね、小さな子どもの頃から病気を患って生きていく事って、楽な訳がないわ。 夢を抱くことすら、難しいと思うの。
そんな状況だったとしても、ちっとも不思議じゃないのに。 自分の事だけじゃなくって、最初から世の中の為になるお店を出したいって・・・
どうしてそんな、どうしたらそんな思いを持ち続ける事が出来るのかしら・・・って、最初そう思ったの。 でもね・・・」

―――それは間違いだ、そう気がついた。 ジョゼはそう言った。 どうして、どうやったら、と思うのではなく、夢は何時でも、何時までも見続ける事が出来るのだと。

「―――アルマなんて、私からすれば物凄い子よ。 故郷を追われて、難民キャンプを転々として、一時期は不法居住までして、またキャンプに押し戻されて・・・
それでも彼女、『先生になる!』って夢をずっと追いかけているのよ。 今年のサマーキャンプでね、アルマってば、子供達のキャンプで先生役のボランティアをしていたのよ。
笑って言っていたわ、『将来の予行練習だよ!』って。 あのね、お兄さま・・・私、将来は舞台に立ちたいの。 舞台女優を目指したいの」

「舞台女優? 学校もそっち方面へ?」

「できれば。 お母様にはまだ、お話していないけれど・・・ 私はアルマみたいな経験はしていないし、ミス・オランジェの様な経験も無いわ。
でもね、色んな人と交わって、その人達のお話を聞く事は出来るわ。 私は舞台で、その人達の歩んできた苦労や辛さ、それでも持ち続けた夢や希望・・・
そんなモノを、舞台の上で演じて、みんなに知って貰う事は出来る。 いいえ、知って貰いたいの。 色んな世界や、色んな人達がいるって・・・」

例えば難民達、飢えや病気に苦しむキャンプの子供達。 それを必死に支援するボランティアの人々。 闘病生活を続ける子供達、困難な治療、必要な支援。
そんな小さなきっかけでも良い、それで関心を持ってくれれば。 そして世界が、色んな世界が有ると言う事に、みんなが気付いてくれれば。

―――ジョゼの父親も、BETA大戦で戦死しているのだ。

「そうすれば・・・そうすれば、色んな国も、もう少し仲良くできるのではないかしら? そう思うの」

「・・・ジョゼの公演、その最初の客に、今から予約を入れておくよ」

思わずジョゼの頭をなでていた。 あの小さかった子が、もうこんな事を考える年頃になったのかと。
はにかみながら笑うジョゼの顔を見て、嬉しい半面、職業軍人として、公の立場の大人として、この子が言った言葉が胸にちょっと苦しかった。





ジョゼの家はアッパー・イースト・サイドのコンドミアム。 セントラルパークを見下ろせる、最高のロケーションだ。 マンハッタンで1、2を争う超高級住宅地。
ちょっと北に行けばアルマの家が有るヨークヴィル―――88丁目だが、両者の間には歴然たる差が有る。 88丁目も立派に中流層が住む街だけど。
昨夜に引き続き、今夜はジョゼの家で夕食に招待された。 先月挨拶に行った時は、所用も有って早々に辞したので、今回は失礼の無い様、招待を受ける事に。
とは言え、肩肘張ったものではない。 ジョゼと遊びに行った後で、『夕食でもいかが?』と言った調子だから、服もそのまま。

ジョゼの母親、ミセス・シルヴィア・セシリー・アクロイドは、もう30代後半―――確か38歳―――になるが、まだ30代前半には見える若々しい女性だ、ジョゼに良く似ている。
彼女と娘のジョゼがキッチンに入って、あれこれと母親が教えながら、娘と一緒に料理をしている。 ふと将来、祥子と祥愛も、あんな感じになるかと妄想してしまった。

「―――本当に、ごめんなさいね。 孫が無理を言ったみたいで・・・」

「いえ、お気に為さらず。 私も充分、楽しめましたし」

食事が出来るまで、居間のソファで話し相手をしているのは、何とロスアラモスに居るとばかり聞いていた、レディ・アルテミシア・アクロイド博士その人だった。
吃驚したのなんの、家に付いて、玄関口に立って迎えてくれたのが、この人だったのだから。 ジョゼも吃驚していた、まさか祖母が来るとは、聞いていなかった様だ。

「ほほ・・・溜まりに溜まった休暇をね、思いっきり纏めて取ったのよ。 研究も目処が立って、大きなヤマを越した事ですしね。
新年まで完全休暇ね、感謝祭とクリスマスは、娘や孫娘と一緒に過ごす事にしたの。 ウィルやカール、リティには申し訳ないですけどね」

「スコットランドのお屋敷も、どうにかせんと、ですじゃ、奥様」

「・・・爺さん、元気そうだね」

「まだまだ、若いモンには負けんよ、はっはっは!」

ジョージ爺さん―――もとい、ゲオルグ爺さんまで来ていたかよ! もう、ジョゼが喜ぶのなんの。 あの子が大好きな『爺や』だったしな、ゲオルグ爺さんは。
にしてもこの爺さん、もう80歳だろう? 1920年生まれと聞いたから、丁度80歳の筈だ。 にしては、早々くたばりそうも無いほど元気だよな、良い事だけど。
ゲオルグ爺さんが席を外したので、ちょっと会話が途絶える。 拙いな、そう思うがなかなか気の効いた話題が出てこない。 理由は判っている。

「―――レディ、先程の『ウィル』や『カール』に『リティ』とは・・・同僚の方々ですか?」

俺は多分、最悪の質問をしたかもしれない。 レディが事もなげに返してきた言葉に、思わず絶句した。

「ええ、そうよ? 周防少佐・・・いえ、直衛で良いわね? 直衛も聞いた事は無いかしら? 結構な有名人だと思うのですけれど、ロスアラモスの主任研究者達よ」

―――G元素研究の第1人者、『ウィリアム・グレイ博士』 ML機関の発明者、『カールス・ムアコック博士』と、『リストマッティ・レヒテ博士』

もう80代に達している筈だが、まだまだ矍鑠としている、BETA大戦史にその名を刻んでいる、伝説的な大科学者たち。

「ほほ・・・好奇心旺盛な、それを幾つになっても抑え切れない、子供の様な年寄りたちよ、あの人達は・・・」

そう言い切るレディも、とんでもない人だな・・・ しかし、『研究の目処が立った』か。 レディがロスアラモスに移った経緯を知る身としては、日本人としては複雑だ。
そんな俺の表情を見てか、レディが不思議な事を言った。 『横浜の研究は、恐らく失敗する事でしょう』と。 それはあれか? 政府が推進めて誘致した、『あの』横浜か?

「以前、スコットランドの時にも言いましたね? 香月夕呼博士。 彼女の研究の事です」

「・・・どうして、そう言い切れるのでしょう?」

だとすれば、日本帝国は良い面の皮だ。 膨大な資金を投入して、結局は失敗だ等と。 非公式に軍内部で聞くあの計画への投資金額は、思わず目眩がしそうなほどだ。

「―――ロスアラモスにはね、2万人を越す科学者や研究員、所員が居るのよ。 協力している軍の研究所や大学、企業などを含めれば、4万から5万人は居るの」

4万から5万人の科学者や研究者、所員・・・一体、どれ程の規模になるのやら。 資金も膨大な額になるのだろうな。

「香月博士・・・夕呼は本当に天才よ。 ロスアラモスには彼女ほどの天才は、多分居ないわ。 でもね、逆説的に言えば夕呼1人だけなの、横浜は・・・」

「・・・と、言いますと?」

「ロスアラモスは確かに、核やG元素と言った軍事機密研究を行っています、世界中が承知の通り。 でもね、それだけでは研究は成り立たないのですよ。
同時に生命科学、ナノテクノロジー、コンピュータ科学、情報通信、環境、レーザー、材料工学、加速器科学、高エネルギー物理、中性子科学、非拡散、安全保障・・・
様々な分野で、多岐に渡る先端科学技術について、広範な研究を行っています。 勿論、基礎科学の分野も怠っていませんよ?」

―――何となく、言いたい事が判る気もするが・・・

「現代の最先端科学の研究開発はね、かつての様に1人の専門科学者の『天才』で解決できる程、単純では無くなってしまっています。
一見無関係に思える分野との、綿密な連携と意見交換、情報の共有と共同研究。 議論を交え、他の視点から見つめ返す。 その限りない繰り返しです。
横浜は100のレベルの天才である夕呼の、トップダウン型の研究施設でしょう。 ロスアラモスは80から90のレベルの研究者、数千人がリンクし合う相互ネットワーク型です。
どちらがより広範に、そして大量に、同時並列で多くの研究内容に成果を出す事が出来るか・・・お判りでしょう? 風の便りでは、夕呼はスランプ気味だとか」

言われれば、言われるほど頷かざるを得ない。 『横浜の魔女』―――軍内部でも、政府関係者でもそう呼ぶ者は多い。
軍内に流れる非公式の話を耳にする限り、俺としても日本帝国政府主導で推進する筈の計画が、どうして1人の研究者に、ああも牛耳られねばならないのか、とも思う。
その影響ゆえか、それともそれ以前の原因故か、帝国の各研究機関の頭脳―――帝大や、国立研究所、民間企業の研究所は、かなり非協力的だとも聞く。

確かに言われてみれば、どれほどマルチな才能の人物でも、その限界は限りが有る。 1人だと当然ながら体はひとつだけだ。
だとしたら、そう言う1人の『天才』が全ての方向性を決定するトップダウン型の組織で、そのトップがスランプだとすれば?―――組織は全く機能しない。

「夕呼の他にも、科学者や研究員は居る事は居るでしょうけれど、彼女と同格ではない様ね。 それも精々、数10から多くて数100人では・・・」

「・・・残念な事です。 それとは別に、レディ、いつぞや教えて下さった『量子重力理論』とやら、それが完成したのですか?」

内容を聞いても、さっぱり訳の判らない話だったが、確かそう言っていたよな。

「いいえ? それに行きつくひとつ前の理論、その諸端をこじ開けた、そう言うべきですね。 これでも、この分野では恐らく世界初ですのよ?」

―――世界初。 とんでもない話だ。 

「―――『M理論』と言うの。 これが完成すれば、その先の『超弦理論』に行きつき、『Dプレーン』、『プレーンワールド』の証明が出来る・・・
それが出来て初めて、『量子重力理論』も完成できるでしょう―――私1人の力だけでなく、多くの科学者や研究者の努力によって、ね」

「―――それが証明できれば、『オルタネイティヴ第5計画』は完成すると?」

最近、少佐進級に伴い、情報アクセスレベルが上がって初めて知った事だ。 アメリカは96年にAL5予備計画を召集、97年にAL5予備計画が米国案で決定した。
現在、『オルタネイティヴ』計画は第4と第5が並列で動く、異常事態を呈している。 このお陰でユーラシア・カナダ・オセアニアと、アメリカ・南米・AUとの温度差が大きくなったとも。

「・・・その内の、成果のひとつ、そうとだけ申しておきましょう。 直衛、お話はここまでにしましょう。 私も少し、話が過ぎましたわ」

「―――いえ、こちらこそ失礼しました。 思わず懐かしさのあまり、貴女のご好意に甘えていた様です」

―――俺は日本帝国陸軍少佐。 レディは合衆国国立ロスアラモス研究所の、主任研究者の1人。 今やお互いの立場は、かなり微妙だ。 こうやって会う事さえ。
しかし先程の一言、『―――風の便りでは』か。 引っ掛かるな。 ついでだ、機会が有ればこの事も、右近充の叔父貴に話してみるか・・・





思えば危うい会話をしたものだ。 折角、好意で招待して頂いたのだから、もう野暮は言うまい。 丁度料理が出来上がった様だ、ジョゼが嬉しそうにキッチンから顔を出した。
本当の事を言えば、『スコットランド料理』と聞いて、密かに恐れていた事がひとつだけあった―――『ハギス』だ、あれはスコットランド発祥の料理なのだ。
昔、レディの屋敷で初めて食べた時の、あの絶望にも似た悲壮感が蘇る。 もし出てきたらどうしよう? 食べない事には失礼だし。 しかしそんな勇気も無い・・・

が、幸いな事にそれは杞憂だった。 食卓に出てきたのは、ごく普通のスコットランドの家庭料理。 メインは、ローストビーフとヨークシャー・プディング。
それにヨークシャー・プディングの生地に、ソーセージを入れて焼き上げた『トード・イン・ザ・ホール』、ボウルに大盛りのフレッシュサラダ。
それとパンに、ワインが赤と白の両方。 ジョゼにはアップルジュース(彼女はワインを飲みたいと言ったが、周りの大人全員に怒られ断念した)
良く食べ、良く飲み、良く話した。 俺も無粋な先程の話題は頭から飛ばして、料理とワインと会話を楽しんだ。 
何せ、もう6年近くになる、こうやってこの一家と親しく食事をする事は。 お互いに色々と有っただろうが、その辺はお互い気を付け有って、昔話に花を咲かせる。

「ほほ・・・ジョゼと言えばあの頃、まるで大きなお兄様が出来た様な、大層な喜びようでしたね・・・」

「ええ、それにペトラにも懐いていましたわ。 この国に来てからも、彼女には時折お世話に・・・まるで、妹が姉に甘えるようでしたわ、ジョゼは」

「何せ、ロスアラモスに立つ時にゃ、直衛が居ないってんで、大泣きしましたもんなぁ、お嬢様は・・・」

「も、もう! いいじゃない! 酷いわ、お婆様も、お母様も! それに爺やまで! 私ばっかり、そうやって笑い話の種にして!」

食後のデザートは、カスタードプディングとトライフル(固めのカスタード、フルーツ、スポンジケーキ、フルーツジュース、泡立てたクリームで作る)
両方とも、ジョゼの大好物らしい。 女の子は本当に、甘いものが大好きだな。 プティングにしても、大皿に作って好きな分量を取る方法だ。 俺は普通に1人前で充分。
それと紅茶。 あ、やっぱりスコットランドも連合王国なのだな。 コーヒーよりも紅茶なのか。 茶葉、貰えないかな? 祥子が喜ぶ・・・

「はは・・・そう言えば、ペトラと言えば今はシアトルですか。 友人の話では彼女、お子さんが産まれたとか。 ご存知ですか?」

ペトラは今、オーガスト・カーマイケルと結婚して、夫の任地近くのシアトルに住んでいる。 
フィンランド出身で、地獄の北欧戦線を戦ったあの不思議雰囲気の女性衛士も、幸せを掴んだか。

「まあ、本当に? 存じませんでしたわ・・・では、何かお祝いをしなければ。 ね? お母様?」

「そうねぇ・・・あの娘さんにも、随分とお世話になったモノです。 何がいいかしらねぇ?」

「赤ちゃんでしょう? だったら、可愛いブランキーなんか良いと思うの」

ジョゼの言う『ブランキー』は、所謂『ブランケット』の愛称。 日本語で言うと『毛布ちゃん』みたいな感じだろうか?
アメリカでは赤ん坊や小さな子供が使う毛布の事を、愛情を込めて『ブランキー』と呼び、一番仲の良い友達の様に扱う文化があると聞いた。
『それは良いわね』、と、ミセス・アクロイドが良い、『じゃ、選ぶのはジョゼにお任せしましょう』とレディ・アクロイドが言った。 ジョゼは面目躍如で嬉しそうだった。










2000年11月17日 0735 合衆国ニューヨーク州 N.Y.クイーンズ区 ジョン・F・ケネディ国際空港


「ふう、何か月ぶりだ? 帰国できるのは・・・」

隣で軍服姿の篠原少佐が、やれやれと言った表情で呟く。 今年の6月に着任して以来、実に5ヵ月半ぶりの帰国だ。 長い出張だった。

「何とか最低限の成果は出せたし、今後も継続を見込めるし。 まずは上々、じゃないか?」

11月半ば、いよいよ帰国の途に就く。 N.Y.から帝国本土への直行便は、既に停止されて久しい。 国連はBETA勢力圏から800km以内での、民間機の飛行を禁止している。
一端、N.Y.からハワイ・ホノルル空港まで飛び、ホノルルから東京府の小笠原空港(軍民共用)まで飛ぶ。 小笠原からは軍の定期便で、成田基地(旧国際空港)まで。
これも軍人の特権か、民間では(数は非常に少ないが)小笠原から定期の船便で35時間近くかけて、仙台港まで行かなければならない(東京湾はまだ、軍事解除されていない)
このJFK空港を0830時発で延々19時間と30分、ホノルル着は2300時予定だ(時差がある)。 そこで1泊し、ホノルル発は明日の1030時、小笠原着は明日の1600時予定。

朝の早い時間、チェックインカウンター付近にはまだ人はまばらだった。 まだ0730時過ぎ、先程ようやくボーディングチャックを終えた所だ。
これから出国カウンターを通り(ただし、外交官特権=武官特権でフリーパスだが)、ターミナルに向かう。 長い旅だ、ちょっとうんざりする。

そろそろ出国カウンターに向かうか、そう思った矢先、篠原さんが脇を突いてきた。 何事かと思うと、視線で向うを指している。 
様々な旅立つ人々の群れ、その中に見知った顔が居た。 そして篠原さんが示す、その先には・・・

「あ~・・・俺は先に行っておくわ。 他言はしないからさ、周防さんよ」

「・・・別に、改めて言わんでも良いって。 ま、吹聴せんでくれたら、有り難いけど」

そう言って、先に出国カウンターに向かう篠原少佐。 俺はと言えば・・・

「こら、学校はどうした、学校は? 2人して全く・・・」

「えへへ・・・自主休校!」

「えっと、私は・・・お母様がお風邪で、お婆様もギックリ腰で、えっと、それから・・・」

―――多分、アルマが考えたセリフだな。 ジョゼのしどろもどろで判る。

アルマとジョゼが居た、今日は平日だと言うのに。 JFK(JFK国際空港)からマンハッタン中心部までは、リムジンバスで『渋滞が無ければ』約30分。
これから引き返せば確実に渋滞に引っ掛かる、1時間は掛ってしまうだろうな、学校は遅刻確実だ。 それを見込んでの、サボりとは・・・

「・・・アルマ、勉強は当然だが、普段の素行も大切だぞ? それとジョゼ! 悪い事は見習わず、注意するのも友達だよ。 判ったかい!?」

―――何か、生活指導の先生になった気分だ。

ジョゼは神妙に、アルマはチロっと舌を出して、『反省してます』だと。 ったく・・・

「だってさ、ちゃんとお別れの挨拶、したかったし」

「前は、いつの間にかロスアラモスとニューヨークで、お兄さまもその後すぐに別の任地に行ったし・・・ご挨拶、して無かったもの」

「そうか・・・ま、やっちまったものは仕方が無い―――2人とも、元気でな。 仲良くな、しっかり勉強して、たくさん遊んで、色んな経験して・・・大人になりなさい。
それと、夢を諦めないで、挫けないで、頑張りなさい。 周りの人たちはみんな、君等の味方なんだよ、それを忘れないで。 君等が忘れない限り、周りも忘れない」

―――何か、最後はお説教じみてしまったが、ま、いいか。

「うん、私、絶対自分の夢を叶えるから」

「私も―――私も、自分の道を歩きたいから。 もう、流されないから」

思わず、破顔していた。 嬉しかった。 そう、それでいい。 彼女達の頬に、お別れの挨拶のキスをして、荷物を手にした。 その時アルマがもう一言、言った。

「あ、そうだ。 直衛、ミゲルから伝言が有るの」

―――ミゲル。 ああ、この子達の友人の。 確か、ミゲル・ガルシアとか言う、あの少年か。

「あのね・・・『僕はウェストポイント(米陸軍士官学校)を目指します。 迷ったけれど、僕も兄同様、この国を愛しています。 この国を守りたい。
僕は自分の意志と、市民としての義務を果たす為に、軍人を志します。 そして、例えどう言われようと、派遣されれば世界中で戦います、宇宙からの侵略者と。
それがアメリカを守る事にもなるからだと、そう思うから。 兄と同じように、僕は、僕の意志で戦います』 ・・・だって。 直衛に、そう伝えて欲しいって」

―――うん、それで良い。 いずれ戦場に立てば、戦う理由は他にも出来るだろう。 実際に戦う為の理由は。
だけど、その想いが根底にあるならば、思い違いはしないだろう。 ミゲル、君が歩きたいと信じる道は、まさしく正道だ。

「・・・ミゲルにな、『いずれ相まみえたらならば、共に』と。 僕がそう言っていたと、伝えてくれるかい? アルマ、ジョゼ」

「うん、任せて」

「はい、判りました」

―――さて、そろそろ本当に時間だ。

「じゃあ、そろそろ行くよ。 2人とも、元気でな」

「うん。 次に会う時は、吃驚するような美女になっているからね!」

「もう、お兄さまに、お小言は言わせません。 淑女になってみせますから!」

「楽しみにしているよ―――『My Fair Ladies』 そう呼べる日をね」

身を翻して、出国カウンターへと向かう。 カウンターに入る直前に振り返ると、ここでの、『N.Y.の小さな妹達』が、ずっと手を振ってくれていた。

「直衛ー! 『See you later』!」

「お兄さま、絶対、絶対ねー! 『See you later』、絶対ねー!」

―――ああ、そうだね。 会う予定はないけれど、もう一度会いたい『See you again』じゃないね。 直ぐでは無いけれど、後で必ず会おう・・・

「―――『See you later』、アルマ、ジョゼ。 再び、必ず」










2000年11月19日 2015 日本帝国 帝都・東京 千住


辺りは住宅街と言う事も有って、この時間だと人通りも少ない。 駅前から徒歩15分、地元の小さな商店街を脇に入って、少し行った所の1戸建て。 勿論、軍の借り上げ。
玄関の灯りが付いている、玄関の表札には『周防』と―――なんだか、気恥ずかしいな。 5か月以上も留守にしていて。 この家には2カ月程しか住んでなかったし。

思い切って、呼び鈴を鳴らす。 暫くして、『はぁーい』と言う声。 懐かしい声。 玄関の戸が開く、顔を見せたのは・・・

「―――お帰りなさい、あなた」

「―――ただいま、祥子」

―――妻の、祥子の笑顔が、凄く嬉しかった。



何だかんだ言って、『我が家』だ。 こんなに落ち着くとは、思ってみなかった。 久しぶりに日本の風呂に入って、祥子の手料理を食べて。

―――その前に、我が子との初対面をした。

「・・・髪の毛が、もう生えているんだ」

小さな布団の中で、眠っている2人の赤ん坊。 そして第一声がそれかよ!? と、自分に我ながら呆れた。

「もう。 いつ頃の話をしているのよ。 もう生後半年よ? 直嗣も祥愛も少しなら、お出かけ出来るし、名前を呼べば振り返るわ」

「へぇー、そんなに・・・ 大きいのかな? 小さいのかな? お隣さんと比べたらとか・・・」

「うーん・・・ お隣の圭吾君と比べたらこの子達は、まだちょっと小さいかしら? それでも体重は7kg以上あるし、背丈も70cm近くあるわ、心配無いわよ」

直嗣も祥愛も、すやすやと眠っている。 まだ小さな、本当に小さな手をちょっと咥えた直嗣。 時折、可愛らしい欠伸をしている祥愛。
初めて見る我が子、初めて出会う我が子、初めて触れる我が子。 初めて―――血を分けた、俺と祥子の子供達。
2人の子供達の小さな手に、そっと指を当てて見ると、反射的に握り返してきた。 小さな、弱々しい、それでも温かい手で。

「はは・・・小さいなー・・・」

「そうよ。 だから、守ってあげてね? パパ?」

祥子が横に座って、頭を俺の肩に預けてきた。 暫くそうして、2人で子供達の寝顔を見ていた。 
出来る事なら、時間を巻き戻したい。 子供達の今までの成長を、自分の目で見て見たかった。

「ご苦労さまでした。 ・・・でも、ちょっと淋しかったな」

「―――ちょっと?」

「ううん―――とっても。 やっと、帰って来てくれた・・・」

ああ、そうか―――俺は、この子達に、光に満ちた未来を見せてやりたい。 この子達と、祥子に。 アルマの苦悩も、ジョゼの寂しさも、味あわせたくない。

「いるよ、これからは。 ずっと」




2000年11月19日、俺は長期の駐米派遣任務を、無事に終えた。




前を表示する / 次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.034787893295288