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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 伏流 米国編 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/01/21 22:44
2000年10月6日 1150 アメリカ合衆国 ニューヨーク市パークアヴェニュー299 在N.Y.日本帝国総領事館


「―――次回交渉会議の資料! 本国からまだ届かないか!?」

「―――この数値、検証は? まだ? あと3日しか無い、早く済ませてくれ。 ああ、明日中にだ!」

「ワシントンの代表部に連絡、予備資料の世論調査結果がまだ出ない!」

「おい、ペンタゴン(米国防総省)に誰か、伝手を持っている奴は?」

「国連政府代表部から、矢の催促だ! EUと大東亜連合との調整が、難航しそうだと!」

「なに? 本国でまた、デモが発生!? 今度も国粋主義団体が?―――RLF(難民解放戦線)も絡んでいそう? 国家憲兵隊の仕事だろ、それは!」

総領事館の一室、広さにして10畳ほどの広さしか無いそこに、10数人の軍人が血相を変えて詰めていたとしたら、他からどう見られるだろうか?
しかし現実だ。 本来なら領事業務を担当する総領事館に、軍人が居る筈は無い。 その手の軍人なら、大使館の駐在武官や、駐在武官補だ。

「おい、周防さんよ。 参ったよ、総領事館の連中、通信機材をまともに使わせてくれない」

「U.N.プラザの、国連帝国政府代表部は?」

「もっと酷い、あそこは外務省の牙城だ。 野蛮な軍人に貸す器材は無いとさ」

2人して頭を抱える。 どうしようか? このままじゃ、ワシントンに送る資料が遅延する。 真っ先に参事官や理事官に怒鳴りつけられるのは、俺達2人だ。

「仕方ないよ、2人で総領事に土下座でも何でもして、とにかく使用許可を取ろう。 アンタの身内に、外務省の偉いさんが居るのだろう? 周防少佐?」

「居る事はいるが、本省の人間だしなぁ・・・ 総領事館の連中とは、どう言う派閥になっているのか、良く判らん。 場合によっては藪蛇だぞ? 篠原少佐」

「やらんより、マシだよ。 まったく、この交渉の忙しい時に。 中央の縦割り意識丸出しにしやがって・・・」

同僚の愚痴に苦笑するが、俺も内心そう思わないで無い。 これじゃ、前線で戦っている方が余程、気が楽かもしれない。
前に経験した師団参謀の頃も、軍官僚と交渉する経験は有ったが、それでもまだ同じ帝国軍人同士だった。 今回は同じ官僚でも、気位の高さでは追随を許さない外務官僚・・・

「愚痴っていても、仕方ないよ、行こう―――おい、みんな、済まんが昼飯は暫く我慢してくれ。 俺と篠原少佐が戻り次第、ワシントンに全資料を転送するからな」

室内で仕事と格闘していた全ての部下(全員、大尉達だ)が頷いた。 連中も外務省の連中との交渉が、どれ程不毛で根気が居る事か、この数カ月で身に沁みているからな・・・
とにかく、目指すは総領事室。 目的は総領事の黙認。 まるでBETAの大群を目前にした、小部隊の指揮官の様な心境だった。





嫌味な、実に嫌味な総領事のネチネチした正論攻撃に耐え、精神的装甲をすり減らしてようやく器材の使用許可を得たのは30分後だった。
部下をせっついて大量の(暗号化された)データを送り込み、向うからの受信完了連絡を受け取り、ようやく午前中の業務が終わったのが、1330時。

「・・・さて、まだ昼飯食えるかな?」

「食えるよ。 近くに知っている店が有るから、そこへ行こう」

「助かるよ、アンタが土地勘有って。 俺だけじゃ、途方に暮れるよ・・・」

部下は全員出払った。 そして半数が帰ってくるのを待って、ようやく食事だ。 ここを無人にする事は出来ないからな。 そんなことして情報漏洩すれば、軍法会議だ。
総領事館の入っているビルを出て、パークアヴェニューを東49丁目まで。 そこから49丁目沿いにマディソン・アベニューへ。 
この界隈、東49丁目から東47丁目まではレストランやグリルが多い。 どこもランチサービスはしている。
アッパークラスのビジネスマンが多いから、ちょっと割高になるが。 まあいい、進級して俸給も増えたし。 少しばかり贅沢しようか。

「・・・和食が恋しいよ。 味噌汁飲みたい、米の飯を食いたい。 漬け物食いたい、梅干しなんかも良い」

「余計に食欲なくなるぞ? 経験から言うとだ、そんな妄想、忘れちまえ」

「・・・あんた、よく3年も我慢したよな」

「仕事だし・・・」

入ったのは48丁目のステーキハウス。 昼間からどうかと思うが、喰わなきゃ保たないぞ、本当に激務だ。 肉でも喰わなきゃ、体力が保たない!

俺が再びこの地にやって来たのは、一言で言えば帝国の置かれた状況、その打開策としての、ある条約交渉のお陰だった。
今年の初め、シベリア・カムチャツカ半島への派遣を終えて、2月の中旬に本国へ帰還した。 その後も独戦の大隊長として、南樺太・北海道に3月一杯まで駐留していた。
そして4月、第53、第55師団が乙師団に増強再編成されて北樺太に常駐となり、『明星作戦』の損失から回復した第14軍団(第7、第47、第49師団)が北海道に配備された。
これで従来は北海道・南樺太に2個師団だけだったのが、一気に5個師団まで増強された上、千島には独立守備旅団が数個、配備される様になった。
これは1月の『極天作戦』の結果、極東ソ連軍の戦力が言われるほど頼れるものではない、そう判明した結果の、北部軍管区増強の一環だ。

それと同時に、それまでの4個独戦大隊は本州に呼び戻された。 俺と圭介の第101、第102独戦大隊は千葉県松戸基地に移動した。
棚倉と伊庭の第103、第104独戦大隊は関西の八尾基地に移動となった。 それぞれ、関東・関西での総予備戦力としてだ。
その頃には祥子―――妻も市ヶ谷(国防省)勤務に変わっていたから、東京は千住の方に家を借りて、そこから通い勤務をしていた。
仙台から東京への『再遷都』は2月頃から徐々に行われ、4月頃には半数が移転を完了していたし、住民の疎開限定解除も行われた結果、東京の人口は増加傾向に有った。
松戸でそれまでの実戦経験を再確認させる為、訓練に勤しんでいた5月の中旬だ、思いもよらぬ辞令に急襲される羽目になったのは。

『帝国陸軍大尉 周防直衛殿 日米安保条約 第2次安保条約締結予備交渉 帝国政府代表団 代表随員補佐(ニューヨーク駐在)、管理官補に任ず』

最初は何の事か、さっぱり判らなかった。 第2次日米安保条約交渉―――これは知っている、当然だ。 そのお陰で国内の右派勢力と、軍内国粋派の鼻息が荒いのだから。
しかし―――帝国政府代表団、代表随員補佐? 管理官補? なんだ、それは!? 最初の感想は、正直言ってそんな感じだったな。
大体が、ノンキャリア将校の俺が、どうしてそんな軍事同盟交渉の代表団(の、下っ端)に選ばれるのか? そんなもの、キャリア組―――陸士出身者の仕事だろう?

『―――有体に言えば、陸士出身の同年代の連中にな、結構、国粋派が多いのだ。 条件としては国連派の将校だが、居るには居るが、全員派遣する訳にもな。
連中は連中で、国内や欧州、大東亜連合にアフリカ連合・・・そう言った勢力の軍部との交渉に不可欠だ。 とてもニューヨークまで出す人数が居ない』

国防省人事課長の、その時の残念そうな表情と言ったら・・・腹が立つ。

『君は国連軍出向時代に、N.Y.滞在経験が有ったな? 確か向うの大学に、短期留学も経験したとある。 必要なのは、代表団の下働き・・・コホン、縁の下の力持ち役だ。
我が陸海軍で、米国留学経験者や、駐米大使館附武官・武官補経験者で残っていた者達は、根こそぎ動員してしまった。 
だがそれでも足りない。 ここはひとつ、君自身の経験を生かしてだな・・・』

結局、帝国政府と軍上層部主流派(統制派)は悟った訳だ。 帝国単独では、恐らく佐渡島奪回は不可能だと。 『明星作戦』の経緯を検討した結果、そう結論付けた様だ。
昨年の冬にはその結論は出ていた筈だ。 その辺りから噂が飛び交っていたのだから。 それが半年以上遅れての交渉再開とは・・・
日米再安保を巡る国会審議は、関連する新ガイドライン法案の概略説明すら審議可決されず、前年から持ち越し継続審議となり、今も調整中だ。
結局、国内の諸勢力との調整、或いは恫喝、或いは切り崩し工作、そう言った裏の作業に時間を取ったのだろう。 野党、国内右派、軍部国粋派の反発は凄かった。
それだけでない、中央官庁にも反対派は少なからず居た様だし、野党・民政党は五摂家を抱き込む形で、政府批判を国会で連日行っていた。

『―――国内に溢れかえる難民の援助問題を棚上げにして、また米軍を呼び込むと言うのか!? 本来ならば難民支援に必要な予算を、米軍への貢物にしようと言うのか!?』

『―――政府与党は国内難民問題、そして国際難民問題を、どう考えるのか!? 米軍に『快適に過ごして』貰う為に、我が国民を困窮の底に止め置くと、こう言うのか!?』

『軍は一体、軍事予算の急激な増加をどう考えるのか!? 一昨年に比べ、昨年度国防予算は実に178%に増えた。 今年度要求は193%である!
それほど莫大な国民の血税を独り占めにしながら、帝国軍単独の佐渡島奪回は不可能と、こう言うのか!? ならばその予算は、一体何の為の予算なのか!?』

―――リラベル派、もしくは夢想主義者とも揶揄される一部の議員達は、この国会発言の後、『某国との密議』の嫌疑で国家憲兵隊に一時拘束された。
その後も政府・与党・軍主流派による切り崩し工作が続いた。 国家非常事態宣言―――全面戒厳令は延長され、各所で軍部が首を突っ込み始めた。
野党への監視も厳しさを増し、野党が抱き込んだ五摂家にも国家憲兵隊の監視が、24時間体制で行われる様になったと聞いた―――噂では無い、親玉の1人から聞いたのだ。
軍内部でも、統制派と国粋派の暗闘が熾烈化した。 国粋派高級将校はかなりの数が中央を追われ、地方の軍管区へ追いやられるか、予備役編入・即時召集で閑職に就かされた。
その反動として、一部の国粋派将校団が反乱計画を―――具体的には統帥派の領袖達を襲撃する計画を立てた。 最も余りに稚拙な計画で、簡単に露呈してしまったが。

中堅・若手将校で国粋派と見なされた者は、九州や新潟、北海道・北樺太の『最前線』部隊への転属命令を受けた。 少なくとも帝都からは姿を減じたのだ。
それでもまだ幾らかは、国粋派高級将校は軍の要職に残っているし、帝都防衛第1師団を始めとする主要師団にも、国粋派の中堅・若手将校は存在する。 
余りに露骨な粛軍は、返って国粋派、特に中堅・若手将校の暴発に繋がりかねない、そう考えたのだろう。 彼らを軍保安隊と、国家憲兵隊が密かに監視している、と噂される。

そうした国内工作を為し得た上で、政府と国防省、外務省は対米予備交渉に入った。 とは言え、双方の感情、利害、思惑、各々が様々に入り乱れる。
まず今年一杯は部局長級の予備交渉で、お互いの感触を探り合う。 そこで進捗が見えれば、来年春からの次官級交渉。

全権特命大使による2国間正式交渉は、再来年―――2002年の夏頃と言う予想だった。

交渉の主戦場は、ワシントンD.C. 帝国の拠点は当然ながら、駐米日本帝国大使館。 そこに代表団が根城を置いている。
今回はまだ『予備交渉』、局長級交渉だ。 これが成功すれば、次官級交渉、その後で閣僚級会談が行われ、最終的に特命全権大使による本交渉が行われる。
言わば本番前の根回し時期、それも3つ前の段階に過ぎない。 過ぎないが、ここで骨子を詰めない事には、全く先に進まない。 誠にハードな交渉なのだ。
交渉団長は外務省北米局長、副団長に国防省国防政策局長(中将)。 この2人のブレインとして、外務省北米局から日米安全保障条約課長と北米第一課長が。
国防省国防政策局から国防政策課長、日米国防協力課長、国際政策課長(いずれも大佐)が代表団員として派遣された。

それだけでは無い、代表団随員として外務省と国防省から参事官(大佐)、理事官(中佐)と管理官(少佐)が参謀として随員する(全員、キャリア組だ)
参事官は国防省から3名、外務省から2名。 理事官は国防省から6名に、外務省から4名。 お偉いさんばかりが20人程。 管理官は俺とは同格だ、20名ほど居る。
更に更に、ワシントンD.C.だけでは無い。 『日米安保再開』ともなれば、極東・太平洋方面の軍事バランスに大きな影響を与える。 世界規模の影響と言っても良い。
国連安保理、国連軍事参謀委員会でも重大な関心事だ。 N.Y.の国連帝国政府代表団は連日、国連・欧州連合代表団・大東亜連合代表団等と、公式・非公式会談を行っている。
ここにも『参謀』として、外務省と国防省から、参事官だの理事官だの、管理官だのと言った中央の連中が陣取っている。 言わば『予備司令部』だ。

ワシントンD.C.と、N.Y. この2箇所の『国際外交』の場を有機的に連結させ、滞りなく交渉を進める―――駐米日本大使館や、大使館付武官室では、胃痛で倒れる者が続出した。
その結果、現地要員だけでは間に合わず、急遽本国から『代表団随員補佐』と言う名の、雑多な要務の雑用係が国防省・外務省双方から送り込まれた。
とは言え、大国同士の軍事同盟交渉だ。 国防軍側では下士官や准士官、新米将校等では対応や権限の関係で無理な訳で。 
結局は陸士・訓練校を出て7~8年の、陸海軍各科古参大尉達が『生贄』と言う名の雑用係に指名され、泣く泣く赴任したと言うのが真相だった。

早い話が、現地の情報収集、諸々の予備会談のセッティング、資料の纏めと各方面への配布作業、お偉いさんのお供に警護。 その他、諸々の雑務。
ワシントンD.C.と国連代表部にも同じような連中はいるが、双方から『独立して』、言ってみれば総務的な雑務をする部署、それが『国防省N.Y.臨時出張事務所』
ワシントンの大使館や、U.N.プラザの国連帝国政府代表部に余分なスペースが無い為に、無理をしてN.Y.の総領事館内に1室を借り、そこで業務を行っている。
事務所長は現在、目前の篠原恭輔少佐。 第18師団時代に運用課で、一緒に勤務した事が有る男だ。 副所長兼連絡事務主任は俺、周防直衛少佐(2000年10月1日進級)
元々、俺も篠原少佐も、6月に大尉でここにやって来た。 その時の事務所長(海軍中佐)と副所長(陸軍少佐)は別の人だった。 そして9月に陸士出身の篠原大尉が少佐に進級。
翌10月、つまり今月の頭に俺が少佐に進級して、前任の所長と副所長は喜び勇んで本国に帰って行った(帰朝命令が出たのだ) 何の事は無い、貧乏くじの申し送りだ。

「まさかなぁ・・・俺は機甲科の、野戦将校だぞ? 戦車乗りだぞ? そりゃ、陸士は出たさ。 でも卒業成績は恩賜組って訳じゃないし・・・」

「篠原さん、アンタが言うか? それなら俺は、訓練校出のノンキャリア将校だぞ? どうしてこんな・・・それも6月にだぞ!?」

「ああ、そうか。 あんた、嫁さんが・・・で、どうした?」

「・・・『産まれそうになったら、腹押さえて産院に駆けこめ』って言い残して着任したよ。 泣くに泣けなかったよ、あの時は。
結局、実家に戻っていた時に産気づいて。 2週間後だったよ、産まれたのは。 まあ、タイミング的には良かったけどな・・・」

「男か? 女か?」

「双子だよ―――男と女の。 長男と長女だ」

2000年6月14日、妻が、祥子が無事出産を終えた。 N.Y.に着任して2週間後、目の回るような忙しさの中、軍事通信で知らせてきた。
一瞬、電文の文字の意味が理解出来なかったな、本当に。 頭の中が真っ白で。 やがて頭の中で理解できて、その次には思わず歓喜で叫んでいたよ。
長男・直嗣(なおつぐ)、長女・祥愛(さちえ)―――まだ見ぬ我が子への想いは、日増しに募るばかりだ。

「そりゃあ、良かった。 この交渉も多分、今月一杯だ。 どうなるか判らんが、それで俺達は目出度く帰国できる。 アンタも子供を抱いてやれる―――可愛いぞ、子供は」

「アンタのトコは、去年に産まれたんだったな?」

「ああ、もう直ぐ1歳だ―――チクショウ、早く国に帰りたいよ・・・」

「―――まったくだ」

レストランの窓から、外を見る。 通りの向こうに空が小さく見えた、西の方角だ―――北米大陸を横断し、太平洋を越えた向う、祖国・日本。

早く家族の待つ祖国に、帰りたくなってきた昼下がりだった。










2000年10月8日 1930 ニューヨーク市 マンハッタン区ソーホー(SoHo)


ハウストン通りの南。 元々、『ソーホー』とは『ハウストン通りの南(South of Houston Street)』がなまった言葉だ。
俺がN.Y.に居た5年前はそうでもなかったが、今じゃ高級ブティックに高級レストランが立ち並ぶ、何時の間にやらセレブな街並みになっていた。
そのソーホーの東地域、リトル・イタリーに近い場所に、そこそこ洒落たイタリアン・レストランが有った。 
うん―――『トラットリア(大衆食堂)』じゃなく、ちゃんとした『リストランテ』だ。 これなら、あのうるさい女も文句は無いだろう・・・

「―――ちょっと? その『うるさい女』って、誰の事? 口に出ているわよ! まったく、5年経っても、ちっとも変わらないんだから・・・」

ここはレストランの店内。 清潔で真っ白なシーツを敷いたテーブル、灯る蝋燭、美味いイタリア料理に、これもカリフォルニア産だが、美味いワイン―――勿論天然モノだ。
そしてテーブルの向かいには、長い髪をアップに纏め、ワインレッドのドレスを着込んだ20代半ば頃のブロンド美女が居る。 普通なら舞い上がりたい状況だ。

「―――うん、その口調。 君も変わらずに何よりだよ、ドール」

「・・・忌々しい男ね、アンタも。 まだその呼び名、覚えていたなんて・・・」

「懐かしき、青春の思い出さ。 ミス・ドロテア・シェーラー」

「私には、忘れたい過去の汚点よ? ミスター・ナオエ・スオウ?」

懐かしい昔の学友―――5年前の95年、国連軍出向時代に中堅将校教育で放り込まれた、ニューヨーク大学(NYU)時代の友人。
俺は短期留学で終えたが、ドロテアは卒業後、更に大学院に進み修士号を取得した後、あるシンクタンクに入って、そこで働きながら博士号課程で学んでいると言う。

「みんな、元気にしているわ。 フェイにマリア、ルパートも」

「そうか、それは何よりだな。 イルハンは母国軍に復帰したよ、あれから。 今頃は北アフリカか、東地中海かな・・・?」

「そうなの・・・ あ、そうそう、知っているかしら? ペトラが結婚したのよ? お相手はほら、アーミー(米陸軍)のミスタ・カーマイケルよ。
今はシアトルに住んでいるわ、ご主人も少佐になったとかで。 彼女も、今は合衆国陸軍少佐夫人よ。 子供も産まれたって、手紙が来たわ」

「ああ、ペトラの事は知っている。 去年、オーガストとは日本で会った。 そうか、子供が産まれたのか」

「去年って・・・『オペレーション・ルシファー』? 直衛、貴方も参戦したの?」

「うん・・・これ以上は言えないけれど」

流石は、ヘリテージ財団研究員。 合衆国政府、特に保守共和党政権の政策決定に大きな影響力を持つシンクタンクの所属だな。 直ぐに判ったか。

「ま、きな臭い話は抜きにしよう。 せっかく誘ったのに、雰囲気を壊したくないな」

「そうよ? これ程の美人を前にして、色気のない話はやめにしてね?」

「―――こっちも渋いダンディと言って欲しいな。 どうだい?」

「なかなかお似合いです事、借りてきたダークスーツでも! お国の言葉で何て言ったっけ? 確か・・・『マゴニモイショ』だっけ?」

「それじゃ、『遺書』だよ。 『馬子にも衣装』だ。 って、おい。 これでも自前だぞ?」

ドロテアはワインレッドのロングドレス。 言わば女性の準礼装に近い。 俺は一応、濃紺の三つ揃えのスーツ姿だ。
ドレスコードはそれ程やかましくない店だったが、それでもインフォーマルな略礼装位はマナーだしな。

お互い、笑い合う。 5年前とは立場も全然違うが、ひと時位は良いじゃないか・・・

既に生ハムサラダのアンティパスト(前菜)、プリモピアット(第1の皿)のキノコのリゾットも終え、メインのセコンドピアットの肉料理が出ている。
たっぷり量の有るステーキを頬張る、美味い。 何せ、天然のステーキだ。 久しぶりだな、本当に。 野菜の付け合わせも、瑞々しい鮮度で美味しい。 ワインも美味い。
ふと思った―――祥子は、海外派兵は大陸と半島しか経験が無い。 彼女はこんな料理は、それこそ子供の頃以来、食べていないんじゃなかったか?
ここに居るのが俺の家族で、妻と子供達で、もうちょっと時が経っていて・・・ もし、こんな戦争が無かったら・・・そんな妄想が、一瞬頭をよぎった。

「・・・どうしたの? 奥様の事?」

ドロテアが、一瞬すごく優しげな表情で聞いてきた。 驚いたな、彼女ももう、大人の女性だったと言う事か。

「聞いたのか? ペトラ辺りから?」

「ええ。 昨年の春だそうね。 まったく、水臭いったら、連絡くらい寄こしなさいよ―――改めておめでとう、直衛。 お子さんは?」

―――最近、良く聞かれるな。

「―――2人。 双子の、息子と娘だよ」

デザートのコーヒーアフォガート(アッフォガート・アル・カッフェ。アイスクリームやジェラートにエスプレッソをかける)を食べながら、答える。
コイツと同じだな―――甘さと苦み、そして濃い風味。 人生、そんなのが混ぜ合わさった様なものなのだろうな、これからも。
俺のそんな表情を見ながら、ドロテアがまた微笑んでいた。 昔の、気の強い才女ぶりは何処へやら。 本当に人ってのは変わるモノだ。

「―――『私たちの人生は、私たちが費やした努力だけの価値がある』―――モーリアック。 まさにそんな感じね?」

「・・・『人生を喜びなさい。 なぜなら人生は愛し、働き、遊び、そして星を見つめるチャンスを与えてくれたのだから』――― ヘンリー・ファン・ダイク。 こんな時代でもね」

「乾杯しましょう―――『別れる事がなければ、めぐり逢う事もできない』、古い諺の言う通りよ」





レストランを出て、10分ばかり歩いた所にあるバーで、2人で一杯飲む事にした。 実はこれからが、彼女を誘った主目的なのだが・・・

「・・・で? 私から、どんな情報を得たいの? 日本帝国陸軍、周防直衛少佐殿?」

淡い間接照明の店内に、テーブルの上に暖色系のビーチグラスランプが灯る。 スコッチグラスを傾けながら、ドロテアの顔を見ていた。

「幾ら久しぶりでも、いきなりよ? それもこの状況で。 貴方の友情を疑う訳じゃないわ、でもお互い、今は今でしょう?」

カクテルグラスを傾けながら、ドロテアが俺を見据えてそう言う。 ま、間違っちゃいないんだけどね。

「・・・正直なところ、この国の保守勢力は今回の交渉、どの位の成功率と見ているんだい?」

「私に、それが判るとでも・・・?」

「ヘリテージ財団、国家安全保障研究チームの君ならね」

「はあ・・・油断も隙も無い男ね、貴方って。 いいわ、これを見て」

溜息をつきながら、ドロテアがバッグから取り出した数枚のペーパー。 ヘリテージ財団が良く使うと言われる手法の、『ブリーフケーステスト』と呼ばれるレポートだ。
表紙をめくり、中を読む。 国内情勢―――経済、産業、景気に世論。 太平洋域の各国情勢、日本帝国の経済、産業生産、景気に戦況、国防方針に国内世論・・・

「予想では―――30%の成功率を得るかどうか、その辺りね。 世論は民主党支持に傾き始めているわ。 それに共和党支持者層でも、動揺が広まっているの」

「・・・動揺?」

「夫や兄弟、それに息子や娘が、柩に入って帰って来る事を望む妻や母親や姉妹はいない。 そう言う事よ」

成程ね。 合衆国軍は―――海外遠征軍は、その数的主力を市民権取得希望の難民出身者に依存しているが、それが全てじゃ無い。
割合で6割ほどはそうだ、特に兵員については、8割方がそうだと言える。 下士官は逆に3割に落ちるし、将校は尉官で半数程、佐官は1割も居ない。
つまるところ、合衆国市民もBETAとの戦争で多くの命を失い続けている、そう言う事だ。 特に全地球規模で部隊を展開している、合衆国統合軍がそうだ。
その海外遠征軍ならば、戦死者はとっくに10万のオーダーを越している。 昔から欧州方面の支援を行い、近年ではアジア・極東方面やシベリア方面でも戦っているのだ。

「アーリントン墓地に行って御覧なさいな。 墓標の数は、年々増加しているのよ。 そこで泣く妻達や、母親達の姿もね。 みな、合衆国市民よ。
誰が言ったのかしらね? 『合衆国は安全な後方国家』だなんて!―――私の弟は、志願入隊の陸軍少尉だった。 昨年、フランス北部の海岸線で戦死したわ・・・」

合衆国軍で、フランス北部―――イングランド駐留の第7軍か。 96年、ドーヴァーの戦場で共に戦った事が有る。

「・・・慰めにかける言葉が無い。 俺も多く身内を失った、だからどんな言葉も、慰めにならない位、哀しい事は判る」

お互い、暫く無言でグラスを傾けた。 嫌な事をしている。 『今回の交渉がまとまれば、少なくとも極東地域の合衆国軍の損失―――指揮系統の未定による混乱は防げる』
弟を失ったドロテアに、俺は暗にそう言おうとしているのだ。 他の、この国の姉達が、弟を亡くす哀しみを味わう事のない為にも。
そうだ―――俺は彼女の悲しみに付け込んででも、可能性を探らなければならない。 何故か? 俺は職業軍人だからだ。 良き私人にして、悪しき組織人、そうなのだ。

「・・・見くびらないでね、直衛? 貴方と接触している事がバレたら、私にだってFBIの尾行がつくのよ? その位のリスクは覚悟しているのよ、私だって。
民主党政権になれば、私達のシンクタンクはまず真っ先に目の敵にされるわ。 人員削減で済めば御の字ね。 このまま、共和党政権が続いて貰わなければ、大変なのよ」

「問題は、世論・・・と言うより、それを冗長するメディアか。 その裏の暗闘がややこしそうだな」

「大学時代に教わったでしょう? 復習しなさいな。 あ、それと紹介状を書いてあげたわ。 ルパートは今、ブルッキングス研究所に居るの」

「ブルッキングス研究所? 確かリラベル・中道の・・・民主党寄りのシンクタンク?」

「そうよ、商売敵ね。 私の情報だけじゃ、片手落ちでしょう? どこまで彼が話してくれるかでしょうけれど、会って損は無いと思うわ」

「ああ、感謝する。 感謝するよ、ドロテア・・・」






ドロテアを途中まで送り、どこをどう通ったものか、はたまたどう言う気の変化か。 気がつけばトライベッカを歩いていた。
懐かしい街並みだ、NYU(ニューヨーク大学)時代、良く足を踏み入れた場所だった。 この辺は芸術家達の街。 そして売れないミュージシャンや、小さい劇団の多い街だ。
今も、昔は倉庫だっただろうロフトから、アマチュア劇団の演劇の模様が覗き見出来るし、そこかしこから音楽が聞こえる。 こう言う雰囲気が好きだったな。
思えば、帝国内しか人の営みを知らなかった俺が(派遣軍や国連軍は、基地と戦場だった)、初めて知った『異文化の街』だったな。 自由で、奔放で、活力に溢れた街。

そんな過去を思い出しながら歩いていたせいか、不意に建物から飛び出してきた人影に気づくのが遅れた。 モロに正面衝突だ。

「―――きゃっ!」

元気よく飛び出してきた女性―――いや、良く見ればまだ少女だ―――が、可愛らしい悲鳴を上げる。

「―――どうした?」

「―――大丈夫? ケガは?」

建物の中から、恐らく友人達と思われる若者の一団が、顔を見せた。

「ああ、うん、大丈夫、大丈夫。 私が急に飛び出しちゃったから・・・失礼しました、ミスター・・・」

「ん、ああ、こちらこそ不注意だった。 怪我は無いかな、お嬢さん? ・・・ん?」

辺りが暗かったから、気付かなかった。 その少女が吃驚した表情で、俺を見上げている。 はて? 年の頃は・・・10代半ばか? 欧米系は大人っぽく見えるが、その位だろう。
しかし、そんな相手は知り合いに居ないぞ? しかもN.Y.でなんて・・・ 待て、N.Y.? 10代半ば? 出会ったのは5年前だ、あの頃、あの子は10歳そこそこ・・・

「・・・やっぱり、直衛だ・・・ 直衛だぁ!」

「うわっ・・・! きゅ、急に抱きつくな・・・! って、アルマ、どうして君がここに!?」

嬉しそうに、俺の名前を連呼しながら抱きついて、首筋にぶら下がる少女―――アルマ・テスレフだった。 5年前、何もしてやれず見送るしか出来なかった、あの少女だ。
あの女の子が、あのアルマが、眼の前に居た。 随分大きくなって、随分大人っぽくなって。 そして、とても幸せそうにして、再び出会えた。










2000年10月12日1830 アメリカ合衆国コロンビア特別区ワシントンD.C. 在米日本大使館


マサチューセッツ・アベニューに面した日本帝国大使館、両隣に亡命インド政府大使館、そして亡命韓国政府大使館に挟まれた場所にある。
その中の新本館の南東に接して、旧来大使公邸として1931年に建てられたネオ・ジョージアンスタイルの大使館イースト・ウィング。 現在は駐在武官室が入っている。
古き良き時代のアメリカを象徴する様な建物、その1階の大会議室で延々と会議が続いていた。 もうかれこれ、4時間以上も。

「―――合衆国案を、全て飲む事は出来ませんな」

如何にも貴族外交官然とした(実際、確か爵位持ちの筈だ)、交渉団長の外務省北米局長が冷ややかな声色で話している。

「―――当然の事。 我が帝国軍は、米軍の従属軍では在りませんからな」

副団長を務める国防省国防政策局長の海軍中将閣下も、似たり寄ったりの声色で相手に返している―――堪らんな、この雰囲気。
現在、予備交渉を4日後に控えての事前摺り合せ会議中。 国防省側と外務省側とで、見解の不一致が有っては事だと言う事で。
目前には、向かい合う大テーブルに国防省と外務省のお偉方が陣取っている。 その後ろの列に、両省庁の参事官・理事官(国防省側は、大佐や中佐の課長級、課長補佐級高級将校)が、参謀然として控えている。
一番後ろに、管理官(国防省側は少佐級)がズラリと、御用伺いの如く控えている、と言うのが本会議の様子だ。 俺も御用伺いの1人だった。

「―――外交交渉など、最初は無理なハードルを承知で言ってくるモノです。 それを如何に交渉で下げさせ、妥協点を見出すか。
感情に流され、場を蹴って立ち去るなど、国際外交の何たるかを知らぬ愚者の短慮。 駆け引きを行うと言う事も、相手に交渉継続の意思あり、を見せる誠意なのですよ」

「―――ご高説、有り難く拝聴した。 では、実際の所どこまで『値切る』かなのだが・・・?」

外務省北米局長の得意げな言葉を、あっさり聞き流して現実問題に戻した国防省国防政策局長の言葉に、外務官僚達が微かに舌打ちしている。
大方、戦争しか頭に無い野蛮人が、何を聡しらかに国際外交の真似事を語るか、そう言った所だろう。 もう、空気が悪いのなんの。

「―――実際の所、完全な妥協点は本交渉で決着をつけるとして。 本予備交渉、つまり事務交渉では『可能性の確認』も重要な任務だ。
帝国側の案と米国側の案、双方をすり合わせ、我が帝国はどれ程の成功を手中に収める事が可能か? 事前に想定しておかねば、交渉にもなるまい」

どこまで押すか、どこで引くか、どこを再調整するのか。 お互い、相手に出した要求が全て為し得る訳でないと判っている。 
では本交渉での軟着陸点を、どの辺に設定するか? 25%? 30%? それとも欲張って、一気に50%を目指す? 相手の予想を読んだ結果は?

「―――外務省としては、40から最大45%は確保出来る、或いはそれ位の成功を収めねば、次回交渉が著しく不利になる、そう結論しました」

外務省日米安全保障条約課長が、四角四面な外見通りの(眼鏡が余計にその印象を強める)声色で、国防省側に説明する。
同時に北米第1課長が、外務省作成の資料を提示して補足説明を始めた。 合衆国の経済、産業、景気に世論、国防政策と外交政策の要点。

「―――彼等は極東アジアを、何としても失いたくない。 日本が滅ぶと言う事は、そのままアラスカ方面への脅威度が飛躍的に高まる事を意味する事は、国防省もご承知の通り。
カナダの防衛力は当てに出来ず、米国世論は危機感に溢れかえる。 世情は混乱し、経済は信用不安に反転しかねない。 この国の産官軍複合体は、その状況を許容しません」

その見解は、国防省側でも一致している。 だから米国は、日本帝国の投げたボールを投げ返してきたのだ。

「―――双方共に、日米安保の再条約締結の必要性を、痛切に確認しております。 そして内容も今次世界状況に合せた内容でなくてはならぬ、と言う事も。
サンフランシスコ講和条約時の第1次条約(1951年)、サクロボスコ事件(1967年)以前の改定新安保条約(1960年)、帝国にとっては大幅な見直しの絶好の機会です」

かと言って、全てを米国が飲む事は有り得ない。 結局の所、7:3か、良くて6:4位の感覚で、日本は米国の下風に立たざるを得ないだろう。

「―――それは国防省側も重々承知している。 要はどこまでの成果をもって、本予備交渉の成功と見なすか。 つまり次の次官級会議へ繋げるのか。
まずはそこの意識・・・いや、決定を双方共に共有しておかねば。 先程、日米安全保障条約課長は40%から45%と言われたが、国防省側としては過度な期待値と判断する」

国防省日米国防協力課長の大佐が、相手の甘さを指摘する。 外務省側は本来の専管事項の検討を『甘い』と言われ表情を硬くしている。

「―――国防省側としては、30%前後、最大限甘く見積もったとして、35%を設定している。 恐らく本会議では、30%の成果を巡っての交渉となる。
とてもあと10%から15%の上積みは不可能だ。 それは次の次官級会議、つまり我が帝国が『それなりの誠意を示した』と米国が認識した後に、得られるモノだと考える」

「―――国防省はそれだけの成果で、国内の世論を抑え切れると、そうお考えか?」

国防省側の指摘を聞いていた、外務省北米局長―――今回の交渉団長が、副団長たる国防省国防政策局長を見据え、問い質した。
つまり、今現在国内で噴出している日米再安保条約反対の空気に対し、たったの30%の成果―――多大な譲歩を行って、国内世論を抑え切れると考えているのか?と。

「―――『継続交渉事案』、そう発表する事になりましょうな。 国民にはまず、『成果』を大体的に、全面的に発表する。 ここまで為し得た、引き出したと。
譲歩した内容については、『継続交渉事案』に含めて発表すれば宜しい。 『双方共に、前向きに検討中である』と。 本条約締結の際に、わざわざ発表する事でも有りませんが」

「―――成果は大体的に発表する、譲歩部分は有耶無耶の内に・・・ですかな?」

「―――外務省の、お得意技でしょう?」

「―――国防省もですな。 方針については了解しました。 しかし先程の数字根拠、あれは?」

「―――ご説明しましょう。 周防少佐」

「―――はっ!」

うう、この場面で説明役にご指名か。 早速、胃が痛くなってきたぞ・・・ 国防省、外務省双方のお歴々が、『この若造が、何を話すのか?』と、険しい視線を送って来る。
特に外務省だ、自身の数字を否定する説明を、俺がするとなれば尚の事。 些細な点もしっかり突いて来るだろうし、国防省側からも恐らく援護は無いだろうな・・・
国防省側の事前会議でも、今回の数字はお偉いさん方が計算した数字を、若干下回っていた。 けど、客観的根拠を示したのが『例の』ペーパーだけなのだから。
観念して、最後列の席を立ってスクリーンの前に移動する。 パソコンを操作して、『例の』ペーパーをプロジェクターで表示させ、説明を始める事にした。

「こちらは、米ヘリテージ財団・国家安全保障研究チームが纏めた『ブリーフケーステスト』と呼ばれる、上院・下院議員に対する議会委員会用のレクチャー・レポートです。
これは今回、米上院の軍事委員会内の即応・管理小委員会、外交委員会内の東アジア・太平洋地域小委員会にて、与党・共和党の各上院議員に配布されました。
また推定ですが同じ上院の国土安全保障・政府問題委員会での連邦財政管理・政府情報・国際保安小委員会、また米下院の該当委員会におきましても、配布されたと考えられます」

例の、ドロテアから入手したレポートだ。 勿論、そのまま何の裏付けも無しに、報告している訳じゃない。 情報省が同様のレポートの写しを、裏から入手していた。
同時にドロテアに対する身辺調査も、急ぎ行われた。 カウンターインテリジェンスの可能性を確認する為で、こちらは米国内にアンダーカバーで入っている軍情報部が行った。
たった4日しか無い、急ごしらえの調査だったが、一応の確証は得たと報告が有った時点で、このレポートは『一次資料』となった。

「現状では、日米安保再締結を推進する共和党内でさえ、対日交渉の成果は30%内外、と言う予想を行っております。
また、本レポートの内容につきましては、やはり同じ共和党の米国家安全保障会議メンバー、米国家経済会議メンバーも共有する所である事は、ご承知の通りと思います」

ここで一息入れる。 見回すと、国防省側はまあ、納得した表情だ。 当然か、事前会議で何度も検討した結果だし。
反対に、外務省側の視線の痛い事、痛い事。 もう、まるで親の仇を見る様な視線を向けて来る連中もいる。 主に調査担当の管理官クラスだ。
米国与党の、政府高官や上院議員達へのレポート。 こんな『大物な』情報ネタは早々手に入らない。 それを外交交渉が専門でもない、軍のノンキャリの少佐が・・・だろうな。

「恐らく、米国野党・民主党の反対は、これ以上と考えられます。 与党・共和党は野党と国内世論に対するコンセンサスを得る為に、我が国へ強い要求をすると考えられ・・・」

つまり、このレポート中に有る『30%』と言う米国側の数字を実現するには、帝国側も相応の妥協、或いは再考を迫られる、と言う事だ。
でなくば、米共和党は、民主党や世論に対し、説明責任を負う事が出来なくなる。 日本も同様だが、アメリカ側も国内に対し、説得せねばならない相手が居るのだ。
納得させる相手は何も野党だけじゃない、与党・共和党支持者層に対しても、相応の説明が必要だろう。 そもそも保守主流派は、連邦政府の上からの強圧を忌避する層だし。
しかし、交渉はお互いの駆け引きと同時に、信用の獲得の場でも有る。 今回、例え30%としても、次回の50%や60%に繋げる30%でなくてはならない。

レポートに対する一通りの説明が終わる。 即座に外務省側から質疑が上がって来た。

「―――そのレポートは、まことに興味深いが、どこから入手したものなのか?」

「―――情報源につきましては、小官には答える権限が有りません。 主管は国防政策課長ですので、確認を願います」

「―――カウンターインテリジェンスの可能性は? 要するに、君がアメリカ側から『一杯かまされた』と言う事だが?」

「―――疑義の確認は、情報省北米支局、ならびに国防省情報本部北米支局にて、最終確認を得たとの報告が入っております。
小官は情報の疑義について、審議する権限を有しておりませんので、確認は担当部局へ問合せ願います」

くそ―――予想の通りだ、情報の内容よりも、入手した俺個人、或いは俺の入手ルートの落ち度を見つけて、そこから反対意見を展開しようとしていやがるな。
こんな時は、軍も所詮官僚社会だ。 敢えて俺を擁護しようとする高級将校達は居ない。 なもので、俺も原則論者に徹するしかない。
あくまで情報を入手しただけ。 それの背景を確認し、情報の内容を検討し、その情報に価値を見出したのは、主管する専門の連中やお偉方です。 俺は、一担当官です。
内心でそんな情けない言い訳を、延々と唱えた。 外務省連中の嫌味な攻撃を、正直なところ嫌いな筈だった官僚主義に凝り固まった回答で、終始している。

「―――本情報の検討については、本国でも為された。 そして本予備交渉での指針にと、昨日通達が有った。 当然ながら外務省にも有ったかと思うが?」

副団長の海軍中将閣下が、皮肉っぽく団長の外務省北米局長に投げ返した。 同時に目で俺に『戻って良い』と命じていた。
内心でホッとしながら、席に戻る。 国防省側の最後列にある自席に戻って、ほうっと、自然に息を付いていた。

「ご苦労さん」

隣席に座る篠原少佐が、苦笑半分、憐れみ半分で言う。

「ああ、本当に。 所長が逃げたからなぁ・・・」

「ネタを持ちこんだのは、副所長だし」

小声で軽い言い争い?をしている内に、どうやら『双方の本国事務方の対応遅れによる、情報伝達のすれ違い』が有った様だと、そうこじ付けた様だ。
可哀そうに、これで何人かの本国の事務屋が訓告か減給か、いずれかの処分になるのだろうか? ま、見て見ない振りをするしかない。

結局その日の会議は、確認内容が修正されて、『目標成果を30%』とする事で国防省・外務省側の認識が一致した。
これを成し遂げる事が出来れば、次のステップに進める。 問題はどの部分を押し通して、どの部分を引くかだが・・・

(―――ま、それは俺の仕事じゃない。 お偉いさんの判断だしな)

俺はあくまで、総務的な仕事の臨時出張事務所、そこの副所長だ。


やがて会議が終わった頃には、もう陽がどっぷりと沈んだ後だった。 現在時刻、2015時、実に6時間近く会議をしていた事になるのか・・・
会議にはN.Y.の『予備司令部』から来ている、両省庁のお偉いさん達もいるが、彼等は今夜、ワシントンの高級ホテル泊まりだ。

「・・・帰りの飛行機、何時だ? 周防さんよ」

「えっと・・・ナショナル空港(ワシントン・ナショナル空港)を2130時発のユナイテッド。 ラガーディア(ニューヨーク・ラガーディア空港)着は2245時」

「今からタクシー捕まえて、地下鉄に飛び乗って、空港まで急げば何とか・・・?」

「多分、何とか―――急ぐぞ、篠原さん!」

篠原少佐と頷き合い、お偉いさんを見送った後で、一目散にタクシーを飛ばして地下鉄駅まで急いだ。
俺達に外泊出張なんてそんな、贅沢な経費は認められていなかったからだ。 にしても、N.Y.=ワシントンD.C.間の日帰り出張なんて・・・もう、やりたくないと思った。
N.Y.に戻れば、また平常業務が待っている。 それでもここで、ネチネチと外務省の精神攻撃に晒されるより、余程マシだ。

(・・・あ、そう言えば明後日、アルマと約束が有ったな)

つい数日前に再会した、北欧系難民出身の少女との『約束』が有ったのを、唐突に思い出しながら、疲れた体に鞭打って、帰路についた。




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