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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 北嶺編 4話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/21 00:26
2000年1月19日 1605 カムチャツカ半島 ペトロパヴロフスク・カムチャツキー軍港 ソ連極東軍管区ビル


派遣部隊に気を使ったのか、ソ連側が用意した建物は、そう悪くは無かった。 軍港からやや外れた場所にある、主にソ連陸軍が集まった建物群の一角。
その中の3階建ての建物、部屋数は1フロアで8部屋ほど。 広さはそれぞれかなりある。 その建物の2階の西側の半分を占める会議室に、各指揮官が集合した。
外はもう薄暗い。 数年前、アラスカでも経験したが、極北地方の冬の日照時間は本当に短い。 午前中遅くにようやく陽が昇ったら、夕方にはもう日没だ。

「まずは、全般状況の説明を行う」

旅団参謀長の笠岡中佐が、プロジェクターに映し出された戦域地図をポインターで示しながら、カムチャツカ=極東シベリア戦線の状況説明を始めた。

「まず、ハイヴ状況。 H25・ヴェルホヤンスクハイヴ、H26・エヴェンスクハイヴの建設が昨年末より確認された事は、周知の通り。
今回、これら両ハイヴからの飽和BETA群が、活発化している事が確認された。 数はH25からの約2万6200、H26からの約1万7000」

―――合計で、4万3200か。 確かに、ちょっとした数だ。

「尚、今後はH26の飽和BETA群をA群(約9600)、B群(約7400)。 H25の飽和BETA群をC群(約1万2000)、D群(約1万)、シェリホフ湾沿岸のE群(約4200)とする」

H25・ヴェルホヤンスクハイヴからのC、D群は直進せず、一旦東のチェルスキー山脈の北麓を周り、コルイマ低地に出た。 それが20日前後前の事だ。
そこから東進してコルイマ川を渡り、支流沿いにコルイマ山脈とアニュイ山脈に囲まれた渓谷沿いに侵入した所まで、判明している。
支流の上流地点は、ソ連軍の最重要要塞都市・アナディリまでは直線距離で約300km、北東ソビエト最終防衛線がそこにあるのだ。

「更には今年に入って、H26でもBETAの活動が最終的に確認された。 エヴェンスクだ、こちらはキジガからパレンに向けて、ペンジナ湾沿いを北上した。
A群、B群の2群で1万7000、他にシェリホフ湾沿いに南下したE群が約4200。 フェイズ2の飽和BETA群としては最大級だ。
だがほんの少し前に、フェイズ1からフェイズ2に成長したハイヴで、4万以上もの余剰飽和個体が直ぐに出来るとは考えにくい。
我が軍もソ連軍も、更には国連軍、米軍共に同様の見解だ。 今回の飽和個体群、これを叩けば数カ月は、両ハイヴの活動は停滞するだろう」

H25、H26が確認されたのは、昨年末。 約1カ月とちょっと前だ。 そこから僅かな時間で、フェイズ1からフェイズ2へと成長している。
これはかなり驚くべき速さだ、横浜や佐渡島でさえ、フェイズ1から2へは半年ばかりの時間がかかっている(世界の他のハイヴの平均値も、そうだ)
それがわずか1カ月。 そしてここに来ての、いきなりの4万以上の飽和BETA群。 恐らくハイヴ内に余剰個体は少ないのではないか、それが上層部の認識だった。

―――本当にそうかな? そう上手くいくかな?

我ながら、疑い深くなった。 今まで散々、痛い目に遭わされて来たからか。 今回はどうか? 同じか? それとも予想通りに運ぶのか?

「迎撃計画は、極東シベリア戦区、カムチャツカ戦区に分かれる。 北東ソビエト最終防衛線に沿った形だ。 まず、アナディリ正面の極東シベリア戦区・・・」

ここはソ連アラスカ・シベリア軍管区の2個軍(軍管区全体は4個軍)、第2軍と第41軍。 自動車化狙撃兵師団10個、戦車師団3個、戦車旅団2個、戦術機甲旅団9個を主力とする。
これに砲兵旅団8個、ロケット旅団7個と支援部隊。 そこに極東国連軍派遣の2個師団と、米軍アラスカ統合任務部隊(JTF-AK)が3個師団。
特に米軍のJTF-AKは、欧州派遣経験が豊富な第34戦術機甲師団『レッド・ブル』と、第7機械化歩兵師団『バヨネット』を出してきた辺り、それなりに本気の様だ。

対するカムチャツカ半島は、ソ連極東軍管区の3個軍、第5親衛軍と第35軍、第42軍。 ただし、第42軍は戦力の30%を北樺太に駐留させている。
自動車化狙撃兵師団10個、戦車師団3個、戦車旅団2個、戦術機甲旅団11個、これに砲兵旅団10個と、ロケット旅団が9個の戦力は、シベリア方面とほぼ同等だ。 
これに極東国連軍が1個師団と、1個連隊戦闘団(2個戦術機甲大隊主力) そして日本帝国海軍聯合陸戦隊第4師団と、陸軍遣蘇派遣旅団。

双方合わせて31個師団、60個旅団相当の戦力。 数だけを見れば、あの京都防衛戦や、『明星作戦』を遥かに上回る巨大な、巨大過ぎる戦力だ。

「他に、我が帝国海軍第2艦隊。 戦艦4隻、空母4隻を中心とした高速機動艦隊だ、合計33隻。 水上打撃力と面制圧能力を備えた、強力な支援艦隊だ。
これに米第3艦隊が21隻参加する。 戦艦『ミズーリ』、『ウィスコンシン』、空母『ハリー・S・トルーマン』と『ニミッツ』を中核とする打撃艦隊。 第2艦隊に匹敵する。
最後に、ソ連もなけなしの太平洋艦隊―――持てる最後の水上戦力を出す。 戦艦『ソビエツキー・ソユーズ』、『ソビエツカヤ・ベロルーシヤ』を中心に26隻。
空母は居ないが、艦砲の数は日米に劣らない―――ただし、命中精度は期待するな。 昔からロシア人は、砲撃の下手さ加減では有名だからな」

あちこちから失笑が湧く。 海軍だけじゃ無い、陸軍だって、ソ連軍砲兵部隊の砲撃精度は誉められたモンじゃない。 何度ヒヤっとした事か。
それに今回、ソ連海軍は空母―――戦術機母艦は無し、か。 『ウリヤノフスク』と、『アドミラル・クズネツォフ』は・・・例の場所か?

「・・・例の噂話、どうやらビンゴかな?」

隣の圭介が小声で囁いてきた。 同感だったので、頷いた後で俺もまた小声で返す。

「・・・叔父貴が外務省の情報担当部局に居るが、前に言っていたよ。 『ウリヤノフスク』と『アドミラル・クズネツォフ』が、パナマ運河を通過したと」

その後は軍内部、主に海軍の間で噂になっていた。 今は『公然の秘密』の類いだ―――ソ連の2隻の空母が、米国の支援で近代化改修を受けている、と。
行先はルイジアナ州のエイボンデール造船所か、ミシシッピ州のインガルス造船所か。 いずれもノースロック・グラナン・シップ・システムズ(NGSS)傘下の造船所だろう。
戦術機メーカーとして知られるノースロック・グラナンだが、受注・売上額では寧ろこちら―――造船部門の方が圧倒的に上だとは、余り知られていない。
他に合衆国の民間最大の造船所で、ニミッツ級空母を建造可能な唯一の造船所である、ニューポート・ニューズ造船所。 ここでは巨大タンカーやコンテナ船も建造している。

「・・・ニューポート・ニューズは有り得ないだろう? あそこは合衆国海軍の艦艇建造機密の塊だ。 ノーフォーク海軍造船所は、自前の近代化改修で手一杯だろうし?」

海軍事情には俺ほど詳しくない圭介が、探る様に聞いて来る。

「ああ、やっぱりエイボンデールか、インガスルだろうな。 前は帝国や英国の話もあったらしいが、何時の間にか立ち消えになったようだ。 ま、情勢が情勢だしな」

「にしてもソ連サン、尻に火がついて、ようやくか。 あのままじゃ、確かに艦載型戦術機の運用なぞ、無理な艦体だと聞くし」

『ウリヤノフスク』と『アドミラル・クズネツォフ』は、元々は共に『重航空巡洋艦』と言う、何だか訳のわからない艦種として建造された。
建造途中に何度も設計が変更されたが、その結果として『ウリヤノフスク』は16機、『アドミラル・クズネツォフ』は12機しか搭載出来ない『戦術機揚陸艦もどき』となったのだ。
このままでは、海軍の打撃戦力として見込めない。 そこで近代化改修計画が持ち上がったのだが、自前の造船所はもう、大半がBETAの腹の中に収まっていた。

当てになるのは『旧仮想敵国』の西側諸国―――日米英の3国だけ。 最初は日本に打診が有った、96年の事だ。 だがその2年後の、BETA本土侵攻で計画はご破算。
英国ではBVT サーフェス・フリートがグラスゴーに所有する軍用造船所、ロサイス造船所の1号乾ドックか、民間のハーランド・アンド・ウルフ社が持つ、世界最大のドックか。
その2つの内、どちらかで受注すべく英国政府が動いていたが、ロサイス造船所は『クイーン・エリザベス』級空母の3番艦、『プリンス・オブ・ウェールズ』の起工でご破算。
ハーランド・アンド・ウルフ社のベルファストのドックも、やはり『クイーン・エリザベス』級空母の1番艦『クイーン・エリザベス』の近代化改修が入って、これまたご破算。

結局、かつて最大の仮想敵国(実は、今でもそうだ)である米国に、内心で腸が煮えくりかえる想いで、打診した様だ。
米国も、これまた色々と思う所(国際関係や、謀略の意味で)が有ったのか、実にあっさり上院・下院を通過して、受け入れを表明。
1999年の5月に、2隻とも受け入れたらしい。 らしい、とは、米ソ両国ともこの情報は一般には公開しておらず、改修内容も一切が不明―――公式には―――だからだ。
ただ、少なくとも日英の両国海軍は、詳細に近い概要を把握しているとも聞く。 艦体の延長と艦内ギャラリーデッキの拡大、艦内支援設備の近代化。
それに電磁式カタパルトを含む、電磁式戦術機発艦システム(EMALS)の搭載(これは米国のニミッツ級や英国のQE級、日本海軍の戦術機母艦も、搭載を始めている)
やはり、これらの近代化改修工事を一気に為し得るのは、残念ながらノースロック・グラナン・シップ・システムズ(NGSS)のエイボンデール造船所か、インガルス造船所。
はたまた、世界最高の軍用艦建造・近代化改修技術を有するノースロック・グラナン・ニューポート・ニューズ造船所(同じNG社だが、NGSSとはセクタが違う)しかない。
予想では、Su-33Kを『ウリヤノフスク』では60機前後、『アドミラル・クズネツォフ』では40機前後、搭載・運用を可能にする改修計画らしい。

「何せ、飛行甲板前部に長距離対地巡航ミサイルのVLSが埋め込まれている、なんて、笑い話の様な艦だからな、2隻とも。
今回はそれを全廃するだろう、って話だ。 じゃないと、幾ら艦体を延長しても、戦術機の搭載数を、一気に40機や60機前後まで増やせない」

まあ、今回はソ連の2空母は無し、と言う事だ。 いても現状では、さして役に立たないが。
ぼそぼそと小声で話し合っている内に、参謀長の話が進んでいた。 マズイ、マズイ、聞き逃したら大変だ。


「・・・これに、カムチャツカのソ連第2空軍と、アラスカの第1空軍から重爆が出て来る、天候次第だがな。 Tu-95MS『ベア』だ。
各1個飛行大隊で27機、合計54機。 『ベア』の全運用機体の半数が出撃となる。 ああ、Tu-22は出てこない。 あの機体はソ連軍内でも、赤錆だらけだ」

だろうな。 いくら音速重爆撃機と言っても、精々マッハ2クラスじゃ、光線属種が出てくれば静止目標と同じだ。 目標地点の遥か彼方で、叩かれて終わりだ。
それに爆弾搭載量でTu-95MSに比べ3,000kg少なく、航続距離に至っては半分以下だ。 中・高高度からの対地爆撃なら、音速はいらない。 と言うか、音速での爆撃は無理だ。
寧ろ、ターボプロップ機のTu-95の方が安定しているだろう。 それに遅いと言っても、Tu-95も最高速度は900km/hを越す。 信頼性込みで、使い勝手が良いのだろう。

それに今回は戦場までの距離が短い。 弾倉に満載すれば、500ポンド爆弾(米軍のMk82・500ポンド爆弾のライセンス生産)を1機当たり60発は積み込める。
カムチャツカ方面には1個飛行大隊で27機。 支援は1個中隊(9機)単位としても、合計540発の航空爆弾が降り注ぐ。
高度2000mの低高度から投下したとしても、落下速度の終末速度は約340km/h。 自由落下での最終エネルギーは4.45MJに達する。
これは88mm砲弾の至近距離からの装甲貫通力とほぼ同じ、一般的な圧延鋼板で200mmの厚さを貫通するエネルギーに匹敵する。
勿論、すべて理論通りに行く訳も無い。 風向・風速、気象条件で色々と変わる。 だが数発命中すれば、突撃級の装甲殻でも貫通可能だ、要撃級は確実に貫通する。

それに攻撃ヘリ。 今回はソ連軍の攻撃ヘリ部隊が主力だが、光線属種が存在しない戦場でならば、対BETA戦闘での攻撃ヘリは『近接攻撃の絶対王者』となる。
何せ、BETAには光線属種以外に『飛び道具』を持つ種は存在しない。 ヘリ部隊は攻撃を受ける恐れも無く、悠々と地上のBETAを殺戮しまくれる訳だ。
これが波状攻撃で、航空支援を受ける事が出来れば・・・冬のオホーツク海に艦隊は、結氷の為に侵入できないから、艦隊の支援攻撃の代わりにはなるか。

「コルイマ山脈からアニュイ山脈の間に、ソ連軍第2軍と第41軍が展開する。 コルイマ東山麓のウスチ・ベーラヤとマルコヴォ間に、国連軍の2個師団と米第34戦術機甲師団。
これが第2戦線を作る。 最終ラインのアナディリ前面に米軍第7機械化歩兵師団と、第97師団。 アナディリの後詰には、アラスカからソ連第3親衛軍も入る予定だ」

―――第3親衛軍。 ソ連が、今まで何があっても動かさなかった、アラスカ常駐の虎の子2個軍の片割れが動くのか。

「カムチャツカ方面は半島付け根のマニルイに、ソ連軍第35軍がコリャーク山脈を背に布陣する。 そのすぐ南、ベンジナ湾東岸沿いにソ連軍第5親衛軍が展開。
その南、レスナヤ北方からオッソラ=コルフ間の西岸を結んだ半島横断防衛線に、国連軍1個師団と海軍聯合陸戦隊第4師団が展開する。 この方面へは、艦隊の支援が可能だ」

―――とにかく、半島の付け根で阻止しなければ。 入り込まれたら最後、カムチャツカ半島全体をカヴァーする戦力が無い。

「総予備、そしてシェリホフ湾東岸のE群に対応するのが、第42軍と我々帝国軍遣蘇派遣旅団、そして国連軍先遣連隊戦闘団だ。
E群のBETA個体数は約4200。 他のAからD群の半数前後と、規模が小さい。 予想される上陸地点はティギリ、パラナ、レスナヤのいずれか。
Ц-04からでは、ティギリへの。 Ц-03からではパラナへの対応がギリギリのラインだ。 いずれかの増援に回る事になる」

Ц-04からティギリまで、直線距離で約300km。 幾ら戦術機部隊でも、巡航速度で1時間はかかる。 増援連絡を受けてからでは、遅すぎる。
なのでЦ-04から200kmほど進出し、その地点で待機する事になる。 Ц-03も同じだ、戦車部隊他は、戦況を見てから進出させるかどうか、検討するのだろう。

最後に旅団長が壇上に上がり、説明を締め括った。

「いずれにせよ、我々の役目はソ連軍第42軍の支援になる。 穴が空きそうな場所に駆けつけ、穴が空いた場所を塞ぐ。 あちこち忙しくなるぞ、気を引き締めろ」





「第101大隊の兵舎は、こちらになります」

基地所属のソ連軍女性少尉の案内で、B-115兵舎に移動する。 大隊ブリーフィングも終わり、もう1830を回った、いい加減に休みたい。

「何か解らない点、不明な点が有りましたら、基地内線通信でES-222までアクセスして下さい。 No.11901が、私の直通回線になります。
尚、明日の起床時刻は0630  メスルームの101大隊占有区画はE-101-205となります、E-101棟2階の205ルームです。
あと、申し訳ありませんが、他区画への立ち入りは禁止されております、ご注意ください―――何か他に、ご質問は?」

「いや、特に無い。 ご苦労だった、少尉」

ジェスチャー込みで、もういい、と返答する。

「はっ! では、失礼します」


立ち去って行くソ連軍少尉の薄路姿を見送り、改めて兵舎を振り返る。 見た目、結構老朽化している。 だが例え老朽化していてもだ、これでやっと休める。
兵舎の中に皆が移動する、灯りがなんとなく薄暗い。 それにやはり、結構老朽化しているな。 帝国の最前線基地も言えた義理じゃないが、これより遥かに『近代的』だ。

「あ~・・・疲れた。 早くメシに行こうぜ」

「半村、貴様は輸送船の中でも、待機所でも、熟睡していたじゃないか」

「んなこと言ってもよ、する事無くって、暇で、暇で・・・返って疲れたぜ。 体動かしている方が、なんぼもマシだぜ」

「では半村、それに槇島も、2人とも明日からずっと当直第1直だ。 精々頑張ってBETAを探せ」

「げっ!」

「ちゅ、中隊長! どうして自分まで・・・!」

―――あれは、真咲の中隊の・・・その第2小隊の新人だ。 半村(半村真里少尉)に、槇島(槇島秋生少尉)だな。
少しだけ、直接指揮を執った中隊だから覚えている。 新人だが、鼻っ柱の強い連中だ。 初陣は北樺太だったが、恐怖を感じながらも果敢に攻めていた。

「連帯責任だ、槇島、貴様は半村の保護者だろう?」

「違いますよ、中隊長! この馬鹿とは只の幼馴染・・・腐れ縁です!」

「酷ぇなぁ、秋生。 色々、馬鹿やった仲じゃん?」

「馬鹿は手前ぇだ、真里!」

―――こういう馬鹿共は、手綱を握ってなければ簡単に死ぬが、反対にしっかり手綱を握っていてやれば、大きく化ける可能性があるな。
2度目の実戦でも、初陣の恐怖感を覚えていながら、しっかり連携を取っていやがった。 うん、やっぱり伸びる馬鹿だな、あの2人は。


その内、夕食の時間になった。 全員で食堂に移る。 本来ならば大隊長クラスは上級将校団と共に食事を摂るのだが、受け入れ側の問題か、大隊毎の食事となった。
まあ、久しぶりにこう言うのも良い。 この1年ほど、師団長や上級参謀やら、連隊長や大隊長やらと、お偉いさん方との食事が続いていたし。 ああ言うのは、肩がこる。
食事は決まったメニューが配食される。 ライス添えのビーフストロガノフ、シチー(キャベツがベースの野菜スープ)、ニシンの酢漬け、黒パンに紅茶。
合成食材で味気無いし、日本人の味覚には、少々合わないが・・・ 他に無いのだから仕方がない。 それに味気無い料理は、国連軍時代に慣らされてきたしな。

が、そんな事はどうでもいい。 食事時の雰囲気が、いかにも気拙いのだ。 向うにソ連軍将兵の一団がいる。 ウィングマークから衛士だ、こちらを睨んでいる。
訳は―――彼らの食事を見れば判るだろう。 黒パンに紅茶は同じでも、他はチェブレキ(合成羊肉を挽いて、生地に詰めて揚げたもの)だけ。
どうやらソ連軍側は、『国際援軍』に対して相当、奢ったようだ。 だが逆に、自軍将兵への日頃の給食事情の悪さが、見える形で露呈したと―――食い物の恨みか。

「・・・んだよ、この野郎。 やんのか・・・?」

「上等だ、この馬鹿野郎・・・いつでもやってやんぞ?」

―――阿呆め。 半村と槇島が、判りもしないだろう日本語で挑発し、睨み返している。 確か人事調書ではあの2人、訓練校入校前は、横浜で相当悪ガキ共だったらしい。
言葉は通じなくとも、雰囲気は判る様だ。 向うも2、3人が怒気を含んだ表情で見返してきた。 顔立ちからしてロシア系、いや、スラヴ系じゃないな。 中央アジア系か?
さて、どうしようか? そろそろ引かせないと、向うと揉める事になるかもな。 あちらさんの部隊長は誰だ? その辺に居るか?

「―――上等だ! 馬鹿野郎!」

「なに、ガンくれてやがんだ! 潰すぞ、手前ぇら!」

―――遅かったようだ。 ウチの大隊の馬鹿が2人、突っ込んじまった。 それに釣られて、他に若い連中が5、6人。 向うもほぼ同数、14、15人が乱闘を始めた。

「止めろ! 止めんか、この馬鹿共!」

「喧嘩はBETA相手だけにしろ! 貴様ら、纏めて営倉にブチ込まれたいか!?」

「止めろと言うのが、聞こえんのか! このサカッた大馬鹿が!」

中隊長達が声を枯らして静止しているが、興奮した馬鹿共はまるで聞こえちゃいない。 小隊長達が間に入って止めようとするが、逆に1、2発喰らって逆切れしている。
見る見る内に人数が増え、今や双方で15、16人ずつくらい、総数で30人前後が入り混じっての大乱闘になっている。 さてさて・・・

「・・・あの、大隊長。 『さてさて・・・』ではなく、お止になった方が宜しいのでは?」

遠野が遠慮がちに、だがはっきりと、『止めるべきだ』と意見して来た。 それはそうだが、この大乱闘、どうしたモノかな?
と、その時向うから1人の大男が近づいてきた。 浅黒い肌に、濃い口髭を生やし、眼は有る種の獣の様な光を湛えた男だ―――中佐の階級章を付けている。

『おい、ヤポンスキー。 馬鹿騒ぎを納めるのは、これだぜ』

そのソ連軍中佐が、2つ持ったうちの一つを俺に手渡した―――ふうん、確かにな。 国連軍時代も、一度他部隊との大乱闘時に、当時のアルトマイエル大尉がやっていたな。

『そいつは、希少な前期型だ。 グリンコに逃げたCZ-USAが作った出来損ないの後期型や、イタ公がでっち上げた紛いモノの、タンフォリオ TA90なんかじゃ、ねえぞ?』

ふうん、チェスカー・ズブロヨフカのタイプ75。 俺は相も変わらずFN社のM1935・ブローニングHPを使っているが、同じ9mmパラで一度試してみたかったヤツだ。
―――Cz75、前期型。 1975年、迫りくるBETAの波に欧州全体が怯えていた時代、少しでも外貨獲得の為に、チェコ兵器廠国有会社が意地で作った9mmオートだ。
握ってみる―――思ったより握り易い。 思いのほか、人間工学を考えた的な形状だな。 そう言えば米国には、これを模した『ブレン・テン』って10mmオートがあったな。

髭面の中佐を見た、ニヤリと笑ってやがる。 銃口を天井に向け、2、3度振って合図して来た、向うは大型軍用拳銃のスチェッキンだ―――いいぜ、調子を合せてやるさ。
隣で遠野と来生が、驚いたように目を見開いている。 まさか自分達の大隊長までが、こんな馬鹿な事を―――そんな所だろう。 北里は相変わらず、目を丸くしたままだ。
生憎だったな。 こう言う馬鹿は、国連軍時代の少尉、中尉時代に散々仕込まれてきたよ。 仕込んだ奴が退役後に死んだのは、オチにもならんが。

「さて・・・と」

突然、乱闘が続く食堂内に連続した銃声が木霊した。 同時に全員が床に伏せる―――宜しい、それでこそ訓練された将兵の動きだ。
銃声が止んで、ようやく伏せた体勢から頭をあげた連中が、吃驚した表情で見つめていた。 何せ、自分達の大隊長が、軍用拳銃を天井に向けてぶっ放したのだから。
ソ連軍側の連中は、慣れた表情だった。 どうやら時々あるようだな、こういう状況は。 その後に騒ぎを聞きつけた、基地内の憲兵隊が駆けつけた。
が、件の髭面中佐が二言三言、言葉を交して追い返してしまった。 憲兵もどうやら本職じゃなさそうだ、顔立ちが中央アジア系だった。

髭面中佐が改めて近づいてきた。 俺の目前で立ち止まり、その長身(俺も183cmあるが、この中佐は190cmを越えていると思う)から、覗き込むように言った。

『・・・サハリンで見かけたヤポンスキーとは、お前さんはちょっと毛色が変わっている様だな。 面白い。
俺の名はサイード・カキエフ、中佐だ。 『ザーパド』大隊を率いている。 ヤポンスキー、お前さんの名は?』

『・・・周防。 周防直衛、日本帝国陸軍大尉』

『スオー? スオウ? どっちだ?』

『発音しやすい方で言い、カキエフ中佐。 派遣4個大隊の内の一つ、第101戦術機甲大隊、『デビルス』大隊長』

『ふん、『デビルス』・・・『シャイターン』か。 なかなかご立派な名前だ、戦場で名前負けせんように、精々気張ってくれ。 足手まといにならん程度にな』

『そちらも。 BETA西進のドサクサ紛れに、独立派を虐殺しまくったのとは訳が違う、対BETA戦闘は』

一瞬、連中の空気が凍った。 ソ連軍第66独立親衛戦術機甲旅団第2親衛大隊『ザーパド』、悪名が鳴り響いているチェチェン人部隊だ。 表向きは親露派で、民族派とは対立。
BETA西進の混乱の最中、ドサクサ紛れにグロズヌイ市内の反連邦派の者達を、大量虐殺しまくった部隊。 その結果、共産党から『親衛』称号を授けられた部隊。
パレオロゴス作戦の3年前だから、もう25年前だ。 目前の髭面中佐は30代半ば頃か、当時は関わっていないだろうが、それでもそれ以降も、何かと悪名を響かせる部隊だ。
中佐と大尉、相手は階級にして2階級も差がある上位者だが、同じ大隊長だ。 こう言う国際協力作戦の難しい面だ、舐められたら最後まで貧乏くじを引かされる、戦場でだ。

『・・・ふん、少しは楽しませてくれるようだ。 クソッたれなBETA共は、まだ対岸でお休み中だ。 機会が有ればその大口、確かめさせて貰う』

『何時でも』










2000年1月20日 0730 カムチャツカ半島 ペトロパヴロフスク・カムチャツキー Г(ゲー)-05基地


「で、お前は旅団本部に呼び出されて、始末書を書かされて、か? 馬鹿かよ?」

出撃の2時間半前、既に朝食は済ませ、30分後からブリーフィングが始まる。 その前に、昨日の騒ぎを起こした馬鹿者達の監督をしている訳だが。
聞きつけた圭介が早速、茶々を入れて来た。 確かこいつの大隊は、アゼルバイジャン人部隊と一緒だったな。

「抑え込んでの収拾も、出来たけどな。 何となく、しこりが残りそうだった。 ま、あの後は向うさんと、不味い飯を分け合っていたし。 あれはあれで、良いと思った」

銃声で毒気を抜かれたのと、なし崩しにあの後、合成ヴォトカが出回って(ソ連軍では、必須の給食品だ)、日ソ双方とも何だか分らない内に、一緒になって飲み始めた。
それまでは良かったのだが、騒ぎを聞いた旅団本部に、俺が呼び出された。 日本側の責任者と言う事で。 そこでまあ、お小言を頂く羽目になったのだ。
同盟軍との協調やら、帝国軍の品位やら、軍規やら・・・まあ、要するに旅団参謀長の笠岡中佐から、ネチネチと叱責を受けた上で、始末書を書かされて放免、と相成った訳だ。

―――戦場での始末書なんか、無罪放免と同じだけどな。

俺の方はそれでケリはついたが、やはり指揮官として部下達には、それなりのペナルティを課さねばならなかった。 じゃないと、部下からも舐められる。
と言う事で、乱闘騒ぎを起こした連中には現在、戦術機ハンガー周りの除雪作業をさせている。 除雪車なぞ使わせない、シャベルと押し車だけの人力でだ。

「何時間、経った?」

「そろそろ、1時間か。 飯を食わせた後で、ずっとさせている。 あと30分は休ませない」

「これは、結構きついな。 本土の雪と違って、ガチガチの氷だ。 ツルハシも要るんじゃないか?」

「5人、持たせてある」

「用意周到な事で・・・経験が? ああ、確かお前、昔にアラスカに居たな」

そう、居た。 今の国連軍ユーコン基地、あれが計画の本拠地に決定する前の、予備準備の頃。 まるで工兵隊さながらに、手伝わされた。
アラスカもそうだが、この辺の凍土もツルハシなんかじゃ手に負えない。 油脂を染み込ませて、火で炙って、その後で爆破しないと、穴も穿てない。

「それ、判っていてやらすか? 嫌な性格の大隊長だな」

「罰作業だ。 楽をさせて、どうする?」

「ご尤も」

氷点下22℃の中、それもまだ太陽が昇っていない暗い中、サーチライトに照らされたハンガー周りを、黙々と除雪作業に励む部下達―――与太を飛ばす余裕も無いか。
騒ぎの発端になった半村と槇島の2人が、歯を食いしばってシャベルを凍った雪に叩き込んで、割っている。 そうしないと除雪出来ないからだ。
流石に若い連中でも、顎が上がり始めている。 何せまだ一度も、休憩を取らせていないからな。 防寒装備の下は、汗だくだろう。

「大隊長、指揮官ブリーフィングは0800から、大隊ブリーフィングは0900から30分間の予定です」

大隊副官を務める遠野が、俺が乗り込んだ借用ジープ(アメリカからのレンドリース品だ)に歩み寄ってきて、そう言った。 そろそろ0750か、連中も切り上げさせるか。

「判った。 遠野、連中を切り上げさせろ。 それと、ソ連軍の連絡将校に言って、シャワー室の使用許可をとれ。 あのままじゃ、BETAと戦う前に風邪をひいてダウンだ」

「了解です―――大隊長、次は、あの様な事は・・・」

「判っている。 心配するな、戦闘も近い、馬鹿はしない」

少し心配そうな表情だったが、無理に自分を納得させたか、或いは本当に信用したか。 遠野がニコリと笑って『了解です』、そう言って罰作業中の連中の方へ歩いて行った。
さて、今日はミリコヴォに移動だ。 旅団丸ごと運ぶ輸送機はカムチャツカに無いそうで、延々9時間以上をかけて陸路を移動しなければならない。
その前に指揮官ブリーフィング。 昨夜の衛星情報(帝国の偵察衛星と、米国の偵察衛星の情報だ)からでは、シベリア方面とカムチャツカ北部は今日、明日にでも交戦しそうだ。
シェリホフ湾西岸のE群(約4200体)に、その後の兆候は有ったのか? それ次第では、ミリコヴォへは陸路では無く、戦術機甲部隊だけ先発する必要が有る。

そんな事を考えながら、旅団司令部が間借りしている、ソ連極東軍管区のビルへ歩いて行った。










2000年1月21日 1215 カムチャツカ半島 コリャーク山脈上空3000m マニルイ東方50km


『コシューキン01より地上管制、コサック16、目標に変わりは無いか?』

≪コサック16よりコシューキン01、目標、変わり無し。 座標、変わり無し。 光線属種は確認されず―――派出にばら撒け≫

晴天のシベリア上空、9機編隊のTu-95『ベア』の編隊が、上空でファイナル・アプローチ―――最終爆撃進路に乗せた。 そのまま直進しつつ、爆弾槽を開ける。
2重反転ペラを回す、強力なターボプロップエンジンを4基積んだ、世界最速のレシプロ重爆撃機。 プロペラの高周波音を極寒の大空に響かせ、目標に迫る。
やがて目標上空に差し掛かった、山脈が終わった平原上空だ。 デジタル画面で兵装管制担当士官が、照準を合わせた―――投下。 60発の500ポンド爆弾が放たれた。
9機合計で540発の500ポンド爆弾が、金切り音をあげて地上へと落下して行く。 BETAにそれを阻止する手段は無い、光線属種がいないからだ。
やがて、赤黒く染まった地上で無数の炸裂光が発生した。 それはたちどころに帯状になって、数kmの範囲に広がっていった。

≪コサック16よりコシューキン01、BDA(爆撃損害評価)は後で入ると思うが・・・大打撃だ、BETA共、こぞって吹き飛んだぞ!≫

小型種なら、直撃でなくとも爆風で数体から10数体は、1発の爆弾で纏めて吹き飛ばせる。 大型種でも、直撃すれば貫通だ。
戦車級や闘士級、兵士級の小型種BETAが直撃で文字通り吹き飛び、至近弾による爆圧で、内臓物が内部から爆ぜて飛び出している。
要撃級は弱い上面に、1発の500ポンド爆弾が直撃して貫通。 爆弾が内部で炸裂し、その巨体毎、爆ぜ飛ぶようにして停止した。
突撃級も、至近で炸裂した爆弾に節足部を吹き飛ばされ、停止する個体や、纏めて数発の直撃弾を喰らい、装甲殻を貫通される個体も出てきた。

『コシューキン01よりコサック16。 次の第1中隊は30分後だ、それまで大丈夫か?』

≪問題無い。 砲兵もロケット弾部隊も、それに攻撃ヘリも出番待ちをしている。 それに『友軍』が来ているからな。
戦力の少なさは、連中が埋めてくれるさ。 手土産はBETA殲滅のお手柄、これで満足するだろうよ、連中も!≫

『土産をやろうにも、BETA以外は何も無いしな! 次は30分後、俺達は1時間半後だ。 第3中隊はシェリホフ湾東岸の支援に回った。 向うもBETAが動き始めた』

≪大丈夫かよ? あそこは42軍しか、居ないんじゃなかったか?≫

『ヤポンスキーとキタイスキー(中国人の事)、それにベトナムスキーが6個大隊、戦術機部隊を連れて来た。 支援の戦車隊とか、砲兵隊もいる』

≪そりゃ、豪勢だ。 42軍の連中、上手い事やりやがったな≫

今日は天気も珍しく良い、絶好のBETA狩り日和だ―――そう交信して、Tu-95の編隊は基地の有るペトロパヴロフスク・カムチャツキーへ向けて、変針して行った。









2000年1月21日 1250 カムチャツカ半島 ティギリ西南150km


≪CPよりデビルス・ワン。 出撃命令です。 第2戦区、ティギリ方面にBETA群、約3000が上陸。 天候が悪化しつつあります、爆撃機編隊の航空支援は見合わせです。
現地はソ連軍第33自動車化狙撃師団、第208戦車旅団の他、砲兵旅団とロケット旅団各1個が防戦中。 第66独立親衛戦術機甲旅団、交戦開始しました≫

「了解。 攻撃ヘリ部隊はどうか?」

≪現在、ハインドF(Mi-24VP)の1個中隊が出撃しました≫

攻撃ヘリ1個中隊(1個小隊欠の9機)だけじゃ、余り有効な近接航空支援にはならないな。 それに師団・旅団と言っても・・・

『・・・なあ、3000程度のBETA群、それも光線級はいないんだろ? それでなんで、1個師団に4個旅団もの戦力あんのに、こっちが出撃すンだよ?』

『俺が知るか。 中隊長か、大隊長に聞けよ』

―――これは、半村に槇島か。

『2人とも、黙れ。 ・・・ソ連軍部隊は、定数を揃えているのはアラスカの部隊だけだ、他は全て定数割れを起こしている、額面通りの戦力では無い』

第1中隊長の真咲が、注意を兼ねて改めてレクチャーをしている。 確か前に、座学で教えた筈だがな? 後でもう一度、『厳重に』叩き込んでやるか。
定数割れだけじゃ無い、ソ連軍の部隊編成は総じて小型だ。 日本や米国の部隊編成に比べ、例えば『師団』は、日米の『旅団』程度の定数でしか無い。
そして『旅団』は、『連隊』に毛が生えた程度だ。 つまり今、ティギリ正面のソ連軍防衛戦力は、1.5個師団程度の額面戦力。 定数割れを考えれば、1個師団を割る程度だ。

「デビルス・ワンよりCP、了解した。 大隊はこれより急行する―――大隊長より各中隊、噴射跳躍で急行する! ティギリ東南方向よりBETA群を下から叩く! 続け!」

指揮小隊を先頭に、3個中隊が続行する。 跳躍ユニットから発炎光を引きながら、700km/hオーバーの速度で戦場へ。 12、13分程度で到着だろう。
途中、目標手前100km地点で第102大隊―――圭介の『アレイオン』と合流し、70km手前地点で美鳳の『龍女(ロンニュイ)』大隊と合流する。
92式『疾風』弐型が80機、殲撃10型(J-10)が40機、総計120機の戦術機が、綺麗に陣形を形成しつつ飛行する様は、ちょっとした光景だった。


『アレイオン・ワンよりロンニュイ、デビルス。 連中、狙撃兵師団まで食い込まれている』

戦術MAPを見ながら、圭介が注意喚起をして来た。 馬鹿め、陣形が拙過ぎる。 よりによって、海岸線付近に狙撃兵師団を布陣させていたとは。
お陰で後続の戦車旅団が、目標を定められずに右往左往だ。 砲兵旅団とロケット旅団も、面制圧支援を行えていない様だ。

『・・・ロンニュイ・ワンよりデビルス、アレイオン。 見て、直衛、圭介。 戦術機部隊がBETA群後方へ突入したわ―――狙撃兵師団は、見捨てる様ね』

ソ連軍3個戦術機甲大隊―――定数の半分程度もなかった―――が、混乱している戦場に突っ込んだ。 恐らく狙撃兵師団を餌に、BETA群を殲滅する気だろう。
それでも戦術機の数が足りない。 大幅定数割れの半個大隊以下が3つ、精々1個大隊強程度の戦力では、狙撃兵師団を破って戦車旅団に殺到するBETA群を、食い止められない。

「デビルス・ワンよりロンニュイ、アレイオン。 デビルスは戦車旅団の前面に強襲降下。 ロンニュイは側面から突入、アレイオンはソ連軍戦術機甲部隊の支援、どうか?」

『アレイオン、了解。 連中に代わって、全部平らげようか。 所詮、光線級はいない』

『ロンニュイも了解よ。 直衛、間に割って入ったら、突撃はしないで、距離を保って頂戴。 ロンニュイが側面から殲滅します』

3人の意見が一致した。 ソ連軍狙撃兵師団は助けない、助けられない。 運が良ければ幾ばかは、生き残るだろう。

「アレイオン、頼む。 ロンニュイ、了解。 戦車部隊の優位を確保した後、デビルスとロンニュイはBETA群に突入、ソ連軍とアレイオンの支援に回る」

『それでいい―――アレイオン・ワンよりアレイオン全機! 突入!』

『ロンニュイ全機、BETA群戦闘集団の南側面、距離200で砲撃戦、開始せよ!』

「デビルス・ワンより各中隊、BETA先頭集団と、戦車旅団の間に割って入る! 距離を保て、突入はするな、『ロンニュイ』の流れ弾に当たるぞ。 かかれ!」

距離は5kmを割った、一気に戦場に突っ込む。 視界の左手、海岸線の混戦状態の中から、突撃級と要撃級の一団が割って出て来た。 右手にはソ連軍戦車旅団。
旅団と言っても2個大隊も無い、1個大隊にプラス1個中隊、そんな所か。 BETAの集団を押し止める戦力じゃないが、それでもソ連にとっては虎の子の近接砲戦戦力。
125 mm滑腔砲を撃ちまくっているが、突撃級の装甲殻を貫通するまでには至っていない。 側面の節足部を打ち抜いた場合だけ、行動停止に成功していた。

噴射跳躍のまま、一気に距離を詰める。 700km/h超の速度で地表が迫る、ちょっとした度胸試しだ、タイミングを間違えれば機体ごと激突して終わり。
網膜スクリーンに浮かんだ照準レクチュアルに、ピパーが重なった、トリガーを引く。 120mmAPFSDS弾が突撃級の側面に吸い込まれた―――射貫、動きを止めた。
同時に逆噴射制動をかける。 跳躍ユニットの噴射制御パドルを全閉塞、同時に逆噴射パドルを一気に全開。 着地と同時に正面の突撃級に向けて、120mmAPFSDS弾を見舞う。
着地の逆噴射と、突撃砲の砲口からの発射波で、周辺の雪が盛大に舞い上がる。 サラサラの粉雪だが、一瞬だけ熱源センサーが狂う―――大丈夫、震動と音響は問題無い。

『日本帝国軍、第101戦術機甲大隊≪デビルス≫だ。 戦車旅団、一旦引け! 距離を開けろ!』

僅かに空電。 自動翻訳が利いている筈だ、少なくとも指揮官は聞き取れている筈・・・

『第208戦車旅団、1000後退する。 ヤポンスキー、日本軍、感謝する!』

T-72の主砲有効射程は1,800~2,000m、距離による威力減衰とBETA群からの距離を考えれば、1000後退―――BETAとの砲戦距離1,200mは妥当か。
70輌程の戦車―――T-72BMが砲を前方に向けながら、一斉に後退を始めた。 貴重な近接砲撃制圧戦力だ、ここで無意味に潰していては、今後の展開が不安になる。

「大隊長より各中隊、BETA群との距離200を維持。 近接戦闘は禁止する、砲戦で仕留めろ。 
1中隊、正面。 2中隊、右翼。 3中隊、左翼。 陣形、ウィング・スリー。 滞空NOEを許可」

『『『―――了解!』』』

3人の中隊長から、応答が同時に入った。 数秒後には大隊陣形を整え、迎撃砲戦に移っている。 

『―――バンデッド・イン・レンジ! エンゲージ・ディフェンシブ!』

『フリッカ08より05! バックアップ、入ります!』

『ドラゴン・リーダーより各機! 足を止めるな、動け!』

『ハリーホーク10、FOX01! ファイア!』

1中隊、真咲の中隊で正面を受け止め、左右から最上と八神の2個中隊がかき回す。 今の所は、上手くいっている。 さて、他の大隊は・・・

『ロンニュイ・ワンより全機! 砲撃戦、開始!』

側面から美鳳の大隊が、砲撃戦を開始した。 先頭集団の突撃級や要撃級の側面に120mm砲弾と36mm砲弾が、雨あられと降り注ぐ。
正直言うと、統一中華の82式戦術突撃砲(WS-16C改)の命中精度は、帝国陸軍では評判が悪い。 だが程度問題だ、逆に日本人が細か過ぎるだけかもしれない。
それが証拠に、40機からの殲撃10型から放たれる砲弾は、ほとんど無駄弾なく、BETAに吸い込まれている。 側面を破られ、突撃級と要撃級の突進力が低下した。
よし、いいぞ。 これで正面と側面、2方向からのキル・ゾーンが形成された。 後は距離を保ちつつ、先頭集団を殲滅する。

「デビルス・ワンより大隊全機! 砲撃殲滅戦を続行せよ!」






目前で要撃級が爆ぜた、背後から攻撃ヘリの23mm砲弾を、たらふく見舞われたのだ。 頭上をMi-24VP『ハインドF』が1機、フライパスして行く。
遠くで砲声が鳴った。 残った僅かな要撃級BETAが数体、125mm砲弾の直撃を受けて倒れ込んだのが見えた。 戦車旅団も生き残った様だ。
同時に120mmキャニスター弾を、前方100に見舞う。 左右からも同時にキャニスター弾が放たれた。 100体以上の戦車級BETAが赤黒い霧の様になって霧散した。

『大隊長、当該戦区に残存BETAの個体は、確認されません』

副官の遠野が報告する。 確かに戦術MAP、震動・音響・熱源センサーでも、BETAを検知していなかった。
周囲には指揮下の3個中隊が、警戒態勢を敷いている。 どの中隊からも、BETA確認の報は入ってこない。

「―――大隊の損失は?」

『ありません。 第1中隊≪フリッカ≫、第2中隊≪ドラゴン≫、第3中隊≪ハリーホーク≫、共に損失機無し。 小破4機ですが、修理可能と判断されます』

損失無し。 よし、近接格闘戦を禁じた甲斐が有った。 あの程度の数のBETA群を相手に、俺と美鳳の2個大隊が当って、近接格闘戦をする必要も無い。
3000体の内、約2000体はソ連軍と、圭介の≪アレイオン≫が拘束していた。 こちらが2個大隊で殲滅したのは、1000体程。 その後は残りの掃討にも参加した。
ソ連軍部隊は若干の損害を受けていたが、≪アレイオン≫、≪ロンニュイ≫とも、僚隊に損害は見受けられない。

「よし―――デビルス・ワンよりCP、BETA群の掃討を完了。 戦況知らせ」

≪CPよりデビルス・ワン。 旅団司令部は、第2戦区のBETA群を殲滅したと判断。 ソ連軍より同様の報告有り。
なお、第1戦区のレスナヤに侵攻したBETA群、約1200も殲滅完了。 第3戦区のパラナには、侵攻したBETA群は無しです≫

第1、第2戦区で、合計4200のBETA群を殲滅完了。 これでシェリホフ湾の氷上を渡って来たE群は、全て殲滅した事になる。
にしても今回、棚倉と伊庭は楽をしたな。 あの2人は今回、第3戦区の支援を担当していたからな。 旅団本部と主力も、第3戦区に向かったが、空振りだったか。

≪アナディリ前面は、ソ連軍と国連軍・米軍の連合軍が押え込みに成功しました。 カムチャツカ半島北部も、航空支援の元、優勢に押し戻しています。
大隊は1430まで現地点で警戒続行、その後RTB。 推進剤の補給は、100km東南に補給コンテナを配備しています≫

推進剤の残量を確認する―――巡航で飛んでも到底、Ц-04前線補給基地までは保たない。 100km先か、そこまでなら何とかなる。

「―――1430まで警戒続行、その後RTB。 デポ・パッケージはES-100にて補給。 了解した、アウト」

周囲を見回す。 少し雲が厚くなった気がする、恐らくこのまま天気は悪化しそうだった。 全く運がいい、吹雪になる前に攻撃ヘリ部隊の支援を得られた。

『―――ギリギリになっての支援、感謝するぜ、周防大尉』

皮肉っぽい声が、通信回線に流れた。 大丈夫、上級指揮官用の回線だ、部下達には聞かれない。 見ると1機の戦術機が近づいてきた、Mig-27『アリゲートル』 
右肩に大隊長機を示す太い帯線が2本入っている―――『ザーパド』大隊長、サイード・カキエフ中佐。 網膜スクリーンにあの、獣の印象を与える髭面がポップアップした。

『そちらの司令部から、なかなかお呼びがかからなくてね。 もしかすると、忘れてくれたのじゃないかと、密かに幸運を喜んでいた。 
が・・・残念ながら、土壇場で思い出されてしまった。 折角、楽が出来ると踏んでいたのに、残念だ』

一応、国際公用語(認めない国は今でも多いが)である英語で返す。 ソ連軍の語学教育は知らないが、この前の乱闘騒ぎ、あの時カキエフ中佐は英語を話していた。

『後で旅団(第66独立親衛旅団)司令部の豚どものケツを、蹴り上げてやる。 狙撃兵師団は人員の80%を失った、壊滅だ。 見事だ、歩兵共を見捨てた時の、判断と即断は』

その言葉に、チラッと戦場を見回す。 撃破したBETAの残骸の他に、胴体を食いちぎられた歩兵、頭部が無くなった歩兵、両腕を失い失血死した歩兵・・・
様々な死に方をしたソ連軍狙撃兵師団将兵の、多数の『残骸』が散らばっている。 ざっと目に入った限りでこれだ。
実際は戦場全体で数千体の死体が、虚しく転がっている筈だった―――もっとも、もう何の感傷も生じない。 もう何年も見慣れた光景だから。

『・・・都合の良い無敵部隊じゃあるまいし。 あの状況で、狙撃兵師団を助ける事は出来ない。 後方の戦車旅団や砲兵旅団に突っ込まれていた』

出来る事と、願望を一緒にするな、戦場で。

『くく・・・勘違いするな、ヤポンスキー。 ありゃ、頭のイカれた、馬鹿なロシア人師団長の自業自得だ。 奴め、アラスカに戻りたい一心で、結局はここで死にやがった』

『・・・どう言う事だ、中佐?』

―――ああ、それは・・・

カキエフ中佐がそう言いかけた時、別の人物が回線に割って入って来た。

『サイード、ここは片がついた。 戻るか?』

猛禽の様に鋭い眼、そして酷薄さを映し出した様な眼の色。 ソ連軍3個大隊のひとつ、『ヴォストーク』大隊長のスリム・ヤマダエフ少佐。 これまたチェチェン人部隊長だ。

『スリム、そっちに損害は? それと、あの女は?』

『大隊に下手を打った奴はいない、中破が2機、修理で何とでもなる―――あの『スーカ』か? 生きているぞ』

―――『スーカ』、ロシア語のスラングで、『牝犬』と言う意味の罵倒語だ。

『それは結構。 アゼルバイジャン人共の面倒を、見る奴が居ないとな』

『96(第96独立親衛戦術機甲旅団)に居るじゃないか、アゼルバイジャン人は』

『こっちの戦力が下がるのは、頂けねえ。 スリム、余りあの女を、いたぶるなよ?』

『ベラルーシは、趣味じゃねえ』

―――なんだ? 一体何の話だ?

話に入って行けず、聞き流していたら圭介と美鳳が回線に入って来た。 途端にヤマダエフ少佐が回線をカットする。
カキエフ中佐も二言、三言話して回線をカットした。 どうやら俺たちじゃ無く、もう一人のソ連軍指揮官に原因が有る様だ。
その、最後の、3人目の大隊指揮官が回線に入って来た。 少し驚いた、急な作戦展開で面通しさえ出来ていなかった事もある。
カキエフ中佐の先入観も手伝ってか、てっきりこのソ連軍戦術機旅団は非ロシア系、それも中央アジア系とばかり思っていたのだが・・・

『増援、感謝する、周防大尉。 趙少佐と長門大尉には名乗ったが、ソ連軍第66独立親衛戦術機甲旅団第2大隊、リューバ・ミハイロヴナ・フュセイノヴァ少佐だ』

―――確か、第2大隊はアゼルバイジャン人部隊の筈。 それが、指揮官がスラヴ系・・・?

網膜スクリーンのウィンドウの向うで、明らかにスラヴ系と思しき女性衛士の顔が有った。




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