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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 北嶺編 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/13 22:17
2000年1月8日 1300 日本帝国北海道 札幌市 第11軍団司令部ビル


「何だろうな、急な召集って」

「しかも、独戦(独立戦術機甲大隊)の指揮官が4人、雁首を揃えてだ」

棚倉の疑問に、伊庭が更に疑問を加える。 俺と圭介も顔を見合わせ、首を捻る。 第2線級の戦線とは言え、樺太戦線も全くBETAの来襲が無い訳じゃない。
一応、第55師団が駐留しているが、あの部隊は丙編制師団だ、戦術機部隊は師団編制の中で、1個大隊しか無い。 3個の独立旅団は、戦術機中隊が1個ずつだけだ。
合計で2個大隊分。 だから俺達、4個の独戦が樺太での戦術機甲戦力の中核になっていたのだ。 それが揃って、指揮官不在で良いのか?
それだけじゃない、俺達だけじゃなくて、他の部隊の連中も来ていた。 見知った顔はいないな、どうやら第53師団とも、第55師団とも違うのか?
そんな疑問が浮かんだその時、数人の幹部連が入室して来た。 第11軍団参謀長に、作戦主任参謀、情報主任参謀。 あと2人は・・・見慣れない顔だ。

「諸君、楽にしてくれ」

参謀長がまず、そう声をかけた。 俺達を含む少佐、大尉達が着席する。 それを見計らって、参謀長が話をし始めた。

「さて、今日ここに集まってもらったのは、他でもない。 帝国軍は来月早々にでも、シベリア派兵を行う」

―――シベリア派兵。 この時期に。

「薄々、判ったとは思うが、ソ連軍との共同作戦だ、極東国連軍も参加する。 戦略目的は、BETAのカムチャツカ半島への突破阻止」

昨年末から年明けにかけて、極東方面で凶報が発生した。 ソ連領の2箇所で新たに確認された、ヴェルホヤンスクとエヴェンスクの両ハイヴで、BETAの動きが確認されたのだ。
噂は飛び交っていた。 カムチャツカが陥落すれば、千島列島沿いに南下されたら、北海道は陥ちる。 今、道内はちょっとした混乱が発生している。
参謀長に代わって、見慣れない参謀中佐が壇上に上がって来た。 自己紹介で誰か知れた、やはり中央から来た人間か。

「諸君、私は参謀本部の樋口中佐だ。 今回の召集は、その目的は先程参謀長閣下が申された通り、シベリアへの派兵だ。
帝国軍はソ連軍極東軍管区、極東国連軍と共同で、カムチャツカへのBETA侵入を断固阻止する。 シベリア方面はソ連軍アラスカ軍管区に、国連軍が主力となる。
シベリアへは他に、アメリカ北方軍(米軍統合軍のひとつ)から、アラスカ統合任務部隊(JTF-AK)が参加する」

どよめきが広がる。 かなり大規模な作戦だ。 ヴェルホヤンスクとエヴェンスク、2つのハイヴに対する、『絶対阻止作戦』か・・・

「だが、諸君らも疑問に思うだろう。 我が軍は、本土防衛軍の中でも、陸軍部隊は大幅な部隊再編成の真っ最中だ。 動かせる師団は、まだ回復していない」

そうだ、軍管区所属の師団以外、根こそぎ戦力を投入した、あの『明星作戦』 あの損害から回復しきっていないのが現実だ。

「ソ連も国連も、我が国の現実は正確に把握している。 流石に大規模な地上戦力の派遣は要求してこなかった。 主力は海軍だ、大湊の第2艦隊だ」

大湊軍港を母港にしている、帝国海軍第2艦隊。 あの艦隊は『明星作戦』には参加していない、戦力を維持している。
戦艦『駿河』、『遠江』の2隻に軽巡5隻、駆逐艦20隻を有する。 ソ連海軍太平洋艦隊より遥かに強力な、水上打撃戦部隊だ。
それに情報では、近々ようやくの事で再編成が完了した、母艦戦術機甲部隊―――第6航戦と第8航戦が復帰するらしい。 1年半振りに再建為った、海軍母艦部隊が。

「派遣戦力の主力は、残念ながら海軍だ。 第2艦隊に、修理の完了した戦艦『出雲』、予備艦から復帰させた戦艦『加賀』の2隻を加え、戦艦が4隻。
それに第6、第8航戦に戦術機母艦が4隻復帰した。 5個大隊分の母艦打撃戦力だ、期待させて貰おう。 
そして上陸戦力は、これも1年半ぶりに再建された第4聯合陸戦師団。 舞鶴で壊滅した聯合陸戦旅団を、拡大再編成した部隊だ」

聞けば聞く程、陸軍が派兵する必要は無いのじゃないか? そう思える戦力だ。 だがそうも言えなのが、国内のパワーバランスと言う奴か。

「陸軍からは、樺太駐留の独戦4個大隊、それに道東の第105戦車大隊、道北の第104戦車大隊、第119機動歩兵連隊から第2大隊。
それと第502砲兵大隊、道南の第207後方支援連隊を付ける。 指揮官は都築准将閣下、部隊名は『遣蘇派遣旅団』となる」

―――戦術機4個大隊に戦車が2個大隊、機動歩兵と砲兵が各1個大隊と支援連隊。 旅団以上、師団以下の戦力か。 『増強旅団』と言った所だな。
抽出された部隊は、見事に軍管区直率の独立部隊か、再編成で北海道に来ていた、運の無い部隊ばかり。 どうやら本州の虎の子部隊は、動かす気は無い様だ。
にしても、攻撃力に偏重した編制だ。 攻撃は良いが、耐久戦になると大いに不安が残るぞ、この部隊編成は・・・

最後に、見慣れない高級将校のもう1人―――准将閣下が、壇上に上がった。 この人が指揮官か。

「諸君、私は遣蘇派遣旅団長、都築高治准将だ。 初めに言っておく、諸君らを無駄にすり潰す余裕は、今の帝国には無い。
我が旅団は従って、第2戦線の予備部隊として参加する事になる。 友軍、特にソ連軍からの風当たりは強かろうが、そんなモノは聞き流せ。
まだ佐渡島にハイヴが残っておる、諸君はその奪還まで、何としても生き残って貰わねばならぬ。 いいな? 無駄死にだけはさせん、諸君もするな、以上だ!」

俺も圭介も、棚倉に伊庭も、数少なくなった大陸派遣軍の生き残りだ。 恐らく戦車隊も歩兵も、歴戦の連中達なのだろう―――再編成を必要とする程、激戦を戦い抜いた。

「―――簡単に死ぬつもりは有りませんな。 満洲でも半島でも、京都前面でも西関東の防衛戦でも。 『しぶとく生き抜け』、これが我が隊のモットーですので」

戦車隊の指揮官の1人―――中佐だった―――が、不敵にそう言う。 戦車乗り特有の、ふてぶてしい、あの突き抜けた様な雰囲気を纏った人物だった。
同時にあちこちから、似た様な声が上がる。 勿論、俺達戦術機乗りもご同様だ。 簡単にくたばる程、素直な性根は戦場に置き忘れて久いな。
その場の空気に、旅団長の都築准将が破顔する。 戦力としては小さくとも、そう簡単に潰れはしない。 そんな旅団になるかもしれない、楽しみだ。
俺自身としても、ほぼ1年半振りに大規模作戦で部隊を指揮する事になる。 死への恐怖は当然あるが、それでもこれ程の作戦で大隊を指揮できる、その興奮の方が大きかった。









2000年1月13日 1430 樺太県 豊原基地


「大隊長、大隊全機体の整備報告書、及び補充物資の受領報告書を、お持ちしました」

執務室で書類と格闘中、柔らかい声が上から降って来た。 顔をあげると、大隊副官の遠野(遠野万里子中尉、22期A)が、書類を纏めて持って来てくれていた。

「ん・・・後で目を通す。 そこに置いておけ」

「はい。 それと、本日の訓練状況ですが、第1中隊は実機訓練、第2中隊はシミュレーター訓練です。
第3中隊は昨日実機訓練でしたので、今日はアフターミーティングの後、基礎体力練成訓練となります。 詳細は・・・来生中尉?」

「こちらです、副官。 大隊長、どうぞ」

「ん・・・そこに置いておけ」

もう一人、来生しのぶ中尉(23期A)が、次の書類を持ってきた。

「あと、我々指揮小隊の連携訓練ですが、本日1500より1時間、シミュレーターにて行う予定です。 調整は今、北里少尉(北里彩弓少尉、24期A)が行っております」

「ん・・・判った」

―――さっきから、同じフレーズを繰り返しているな、俺・・・

部隊指揮官に戻って、思い出した事、その壱。 『指揮官にとっての最大の敵は、書類である』 だけど、以前に比べたらまだマシかもしれないな。
中隊長の頃は、副官をしていた瀬間や、時々は先任小隊長で戦死した四宮なんかに、手伝わせていたが(手伝って貰っていたが)
大隊長になった今は、事務的な補佐役はこの遠野中尉と、来生中尉の2人が仕切ってくれている。 俺は概要の確認に決定と、最終承認をすればいい。

いや、優秀な副官と、その補佐役で助かる。 参謀職の頃もそうだったが、正直、書類仕事は苦手だ。 そう再確認した、うん。
しかし、それにしても・・・指揮小隊を寄こせ、寄こせと、しつこく言い続けた甲斐が有って、実戦経験のある、優秀な若手が来てくれたが・・・

「大隊長、どうぞ」

「ん・・・ありがとう」

書類と内心の狭間で、ボーっとしていた頃に、タイミング良く遠野中尉がお茶を出してくれる。 お茶受けの菓子を来生中尉が出してきた。

「大隊長、副官、シミュレーターの調整、完了しました」

ドアが空き、元気な声で入って来たのが、北里少尉。

「ご苦労さま。 少尉、貴女も頂きなさい」

「あ、有難うございます」

(・・・何だかな? この、ほのぼのした雰囲気は・・・?)

面前の、3人の女性将校達は皆、指揮小隊の面々だ。 小隊長・兼・大隊副官の遠野万里子中尉。 以前は西関東防衛線で奮戦していた衛士だ、期で言えば瀬間中尉の同期になる。
腕も良い様だが(この間の実機訓練では、俺の機動に全く遅れずに追従していた)、それ以上にこの書類処理能力! 長い黒髪の、まあ、美人だ。 基地内で結構な人気らしい。
2人目の中尉、来生しのぶ中尉。 23期Aは、従弟の直秋の半期下になる。 前は九州の部隊に居た、九州の防衛戦で初陣を踏み、その後の南九州防衛を戦い続けた衛士だ。
来生もまあ、段取りと要領の良さで重宝する。 遠野を補佐して、2人で大隊の事務処理を切り盛りしている。 
ふわっとカールした長い髪で、母方の祖母が幼い頃に満洲に逃れてきた、白系ロシア人だと言うクォーターで、ちょっと日本人離れした美貌の持ち主だ。
最後の北里彩弓少尉は24期A、俺がちょっと前まで直率していた中隊の、美竹少尉とは同期になる。 性格は・・・陽性だな、ボーイッシュな可愛らしさ、とでも言うか。
元気一杯、ついでに食欲も一杯。 かつての愛姫を彷彿とさせる位、食べる。 それ程背も高くない、体型もまあ、悪くない。 そのどこにあれ程の食事が・・・不思議だ。

「? 大隊長、お気に召しませんか?」

「あ? ああ、いや、そんな事は無い。 美味いよ」

「そうですか、良かったです」

そう言って、遠野と来生がにっこりと、微笑み合っている。 なんかこの2人、どこかで似た様な光景を見た記憶が有るんだ、どこだったか・・・
ああ、思い出した。 ニコールと美鳳だ。 雰囲気があの2人に、とても似ているのだ―――何気に合わさなきゃならんこっちも、大変なのだぞ?
と、そこまで思考を進めた時、デスクの上で電話の内線が鳴った。 受話器を取ると、営門の詰所からだ。 来訪者を伝えていた。

『大尉殿、国連軍派遣部隊指揮官殿が、お付きです』

「判った。 こちらへ通してくれ」

今回の派兵、在日国連軍も一部の部隊を出す。 その先遣部隊が、樺太まで移動して来たのだ。 この後、揚陸船団が南樺太の大泊で編成され、移乗する事になる。
戦術機甲部隊が2個大隊と、支援大隊が1個。 指揮官は国連軍の中佐と聞いた。 数日の間、豊原基地に居候して船団に乗り込む。
どうせなら、向うから直接乗り込めばいいのにとも思ったが、揚陸艦の都合でこの樺太で乗り換える必要が有ると言う(耐氷設備の有無らしい)
俺の大隊ハンガーに2個中隊、圭介の所に1個中隊、棚倉の所に2個中隊と、伊庭の所に1個中隊。 それぞれ居候する予定だった。

―――コッ、コッ、コッ

小気味良い足音が近づいてきた、それもどうやら複数。 やがて部屋の前で足音が止まる。 突然、笑いを含んだ声がした。

「―――何だ? 大隊長席にふんぞり返って、しかも美人の部下を3人も侍らせて。 良いご身分だな? 周防?」

嗚呼―――地獄で仏、ならぬ、地獄で閻魔、とはこの事か・・・? 思いっきり人の悪い笑みを浮かべた、国連軍先遣隊司令、周蘇紅『国連軍』中佐が、こちらを見ていた。






「ああ、それで。 さっき102の長門大尉と会ったら、急に私を見て笑いだすモノだから、ちょっとムカっと来たんですけど。
長門大尉から、『いや、そっちの大隊長の事を思い出してだ、済まん』って言われて。 周中佐ですよね、京都防衛戦でも一緒に戦ったと聞いています」

「お前さんは、一緒は無かったか?」

「ご縁が無かったようで、今回初めてお会いしました」

12月に着任して来た新任の中隊長・真咲大尉(真咲櫻大尉、19期A)が、笑い含みで答える。 場所は大隊のハンガー。 
真咲は元々、第18師団に所属していた、中隊長をしていたのだ。 そして俺が18師団司令部第3部運用課から、作戦課に移った際に、後釜で運用課に移ったクチだ。
18師団解隊後は、練成部隊の教官をしていたが、今回引っ張って来た。 真咲が着任して中隊を引き渡し、遠野たち指揮小隊が来たお陰で、大隊指揮に専念出来る様になった。

「・・・J-10(殲撃10型)かぁ、向うの103と104大隊のハンガーには、F-18Cホーネット。 統一中華と大東亜連合の現行主力機ですね。
こっちの92式弐型と同世代、良い機体ですよね。 でも流石に、J-11(殲撃11型)とF-18Eスーパーホーネットは温存ですか、やっぱり」

「主力は本国に取っておくだろう、こちらも94式は出さない。 出したくとも、まだ数が揃わないけどな」

昨年夏の損失から、まだ立ち直れていない。

昨日まで降っていた粉雪は止んでいた、それでも気温はマイナス15℃を下回る。 その中を国連軍の、主にアジア諸国出身の将兵が、忙しく立ち回っていた。
主に亜熱帯、或いは熱帯で作戦行動を取っていた国の機体だ。 駐留基地の三沢は北国だが、まだ温帯気候だ。 しかしカムチャツカは亜寒帯気候からツンドラ気候に属する。
だもので、参加国の『弁当持参』が多い国連軍にあって、今回の2個大隊は特に寒冷地仕様・冬季戦仕様が不足していた。 その為の調整をここで行う必要が有ったのだ。
目前には統一中華戦線が使用している、J-10(殲撃10型)のUNカラー仕様の機体が、2個中隊分あった。 全体のフォルムは流石に、92式シリーズに似ている。

「あら、直衛? どうしたの? 偵察?」

聞き馴染みのある声、国連軍の冬季BDUに身を包んだ、朱文怜『国連軍』大尉だ。 彼女のこの姿を見るのも、欧州以来だな。

「いや、まあ。 大家としては、不備が無いか一応ね・・・」

「ふうん? 殊勝な事。 流石に大隊長ともなれば、その位の気は遣うんだ?」

「・・・文怜、まるで俺が、普段は気遣い無しに聞こえるけど?」

流石に、ちょっと腹が立つ。 でもそこは付き合いの長い戦友、文怜は全く気にもしちゃいない!
その時、真咲と目が合ったのだろう。 お互い敬礼して、挨拶を交し始めた。 真咲は彼女とは初対面だと言っていたっけな。

「日本帝国陸軍、独立第101戦術機甲大隊、第1中隊長、真咲櫻大尉です」

「極東国連軍、三沢基地所属。 第3戦術機甲大隊、第1中隊長、朱文怜大尉です。 宜しくね、真咲大尉」

―――文怜も、随分と日本語が上手くなったな・・・

その時更に、背後から複数の声がした。 振り返ると『国連軍』の指揮官が3人と、102の圭介が揃ってやって来た。

「お久しぶり、直衛。 今回は同じ大隊長と言う事で、宜しくね」

「了解です、趙少佐殿!」

「・・・それ、わざとやっているでしょう?」

美鳳に、軽く睨まれた。 はは、判るか、やっぱり。 祥子より1歳年長の美鳳、既に少佐に進級していて、今回の国連軍の1個大隊は、彼女が指揮していた。
他の2人は第2中隊長の陳桂英(ツェン クェンイン)大尉と、第3中隊長の王雪蘭(ワン シュエラン)大尉の2人。 第3戦術機甲大隊、『龍女(ロンニュイ)』大隊だ。
これに南ベトナム軍派遣の第4戦術機甲大隊『昇龍(タンロン)』とで、先遣隊を構成する。 『龍女』と言い、『昇龍』と言い、やはり『龍』は縁起モノだね。

懐かしさのあまり、つい無駄話になってしまった。 そろそろブリーフィングに行かないと。 1630から全体ブリーフィングが有る。
上官の都築准将は実直な武人だが、それだけに周中佐に無い事、無い事、言われては敵わないからな。 本気にされちゃ、堪らない。






2130時、基地での業務も終え、恐らく最後の外泊外出(3日後には、出撃する)で家に帰った。 せめてのんびり過ごしたかった・・・

「ほう? もう6カ月なのか、2人とも」

「もう随分、お腹も大きくなったのね、祥子。 愛姫も」

「あー、なんか羨ましい・・・」

―――どうしてこうなった?

「ふふ、もう赤ちゃんは、ママの声が聞こえるのよ?」

「だからね、赤ちゃんに語りかける胎教が良いんだって。 毎日、話しかけているわ」

―――で、どうして隣家の愛姫まで、居るのだ?

「やったな、周防」

「おめでとう、直衛」

「そして、順序が逆じゃない? 圭介?」

―――男2人、どうして針の筵の様に、部屋の片隅に追いやられるのだ!?

外出間際に捕まったのが、失敗だった。 3人には一応、報告はしていたんだ。 だけど樺太と三沢と、これだけ離れていたから、襲撃されるとは考えていなかった。
でもまあ、俺は良い、俺は。 ちゃんと結婚して、その後でちゃんと子供が出来たのだし。 哀れなのは圭介だ、散々、弄られているからな・・・

「これはもうね、翠華に知らせるしかないわね」

「あの子に知らせたら、まずはアルトマイエル少佐に、ファビオとギュゼルにも筒抜けよね。 ま、その日の内に、部隊中に知れ渡るわね」

「ほう? それ程なのか?」

「はい、中佐。 特にファビオ・・・ファビオ・レッジェーリ大尉は、この手の話題の喰いつきは、翠華と同類ですので」

「うむ、良い事だ」

「・・・俺は今後、何があっても絶対に欧州には行かん。 例え命令でも、営倉にぶち込まれても、拒否するぞ・・・」

―――うん、判るぞ圭介、その気持ち。

でもまあ、良いか。 出撃前最後の外泊外出で、こうして旧知の友人達と共にってのも。 祥子も愛姫も、旧友に会えて喜んでいるし。
夫が出陣する。 自分は後方で待つ。 祥子も愛姫も、このケースは実は初めての経験だ。 今までは共に戦ってきた、いざとなれば自分達が・・・という気構えで。
しかし今回は絶対に無理だ。 祥子は元々、衛士資格を失っているが、それでも2人とも無理は出来ない体だ。 そんな時に、歴戦の旧友たちが夫と共に戦う為に、やって来た。
随分とホッとした表情を、見せたモノだ。 祥子にしても、愛姫にしても、数万規模のBETA群との戦いで、怖気ついた事は無い。 だが今回は、別だったのだろうな。

と言う訳で、酒は妻たちが無理だから、酒抜きの『食事会』となった。 周中佐や美鳳、文怜まで付き合わなくても良いのに。
それでも会話は進む。 アルコールが無くとも、お互い話したい事は山ほどあった。 気がつけば、もう2200時を回っていた。

「ふむ・・・名残惜しいが、ここからは夫婦の時間だな」

「そうですね、これ以上のお邪魔は、野暮と言うものでしょう」

「じゃ、またね。 元気な良い子を産んでね、祥子、愛姫」

男達にとっては怒涛の、女達にとっては和やかな、そんなひと時が終わり、3人を見送った。 もう夜も更けて来た。
家に入ると、祥子と愛姫が後片付けを始めている。 祥子はいいと言ったのだが、愛姫が『それじゃ、申し訳無いですよ』と言って聞かなかった。
何だかんだ言っても愛姫は、実家はあれだけの家だし、結局は育ちが良いのだな。 旦那が言うには、結婚してからの方が、違う一面を見せる事が増えたそうだ。
手持ち無沙汰もあって、圭介と2人、茶なぞ飲みながら雑談でも・・・と思ったのだが、結局は数日後からの遠征に話になった。 小声でだが。

「事前情報では、ヴェルホヤンスクとエヴェンスク、併せてBETA群は4万以上。 ただし、まだ光線属種は確認されていないらしいな」

「奴らが居ると居ないで、天と地ほども違う。 冬のシベリアだ、天候不順が多いだろうが、逆に天候次第で航空戦力が使える。 これは大きいぞ」

まず、中高度からの絨毯爆撃を、ツポレフ Tu-95『ベア』が担当する。 ペイロード最大15トン、2重反転ペラを付けた4基のターボプロップエンジン。 世界最速のレシプロ機。
ソ連軍は相変わらず、比較的大規模な航空打撃戦力を保持している。 他に音速爆撃機のTu-22M(M2型)を保有するが、これは搭乗員の間で『ドヴォーイカ』と呼ばれるらしい。
『ドヴォーイカ』―――ロシア語で数字の2を表し、転じて『2番目の奴』、更には5段階評価の『2』、つまり『落第点』と言う意味らしい。
改良型のM3(Tu-22M3)の計画は、BETAの侵攻によって計画が中止されたそうだ。 Tu-22M2は運用評価が芳しくなく、実質ソ連航空戦力の主力は、変わらずTu-95だ。

Tu-95の後は、長距離砲撃部隊の出番だ。 2S5ギアツィント-S 152mm自走カノン砲、2S7ピオン 203mm 自走カノン砲、2S19ムスタ-S 152mm自走榴弾砲。
射程距離30kmを越す大射程自走砲群と、BM-21『グラート』、BM-27『ウラガン』、BM-30『スメルチ』の射程30km~90kmの長射程ロケット弾発射機が、集中豪雨を降らせる。

空からの攻撃の締めは、攻撃戦闘ヘリ部隊だ。 数的主力はMi-24シリーズ。 後継タイプもあるが、配備が進まない事と、Mi-24シリーズの改良継続で、まだまだ主力らしい。
23mm機関砲に換装したMi-24VP『ハインドF』 南アフリカが大規模改修した、逆輸入タイプのMi-24・Mk-Ⅲ『スーパーハインド』
更にはMi-24シリーズの完成形と言われる、Mi-28N。 全天候/夜間戦闘能力を持たせた『ノチュノーイ・オホートニク』 外国では『ハボック』のコードで知られる。
他にKa-50『チョールナヤ・アクーラ』、諸外国からは『ホーカム』と呼ばれる機体も配備されているが、これは珍しい単座の攻撃ヘリで、運用側は余り好いていないと聞く。
これだけでも、かなり叩ける。 光線属種さえいなければ、これらの攻撃全てが、非常に有効に機能する。 地上部隊は、安心してBETAを叩けるのだ。

「どうして光線属種が居ないのか、判らないが・・・ ま、楽は出来そうだな」

「新人たちに戦場度胸を付けさすのには、格好の戦場かもしれんな。 ソ連には悪いが、こちらは第2戦線の予備部隊だ。 少し楽をさせて貰おう」

ぼそぼそと話していたら、奥さん達が戻って来た。 知らん顔をしているが、2人とも修羅場を潜って来た衛士・元衛士だ。 旦那達の会話など、お見通しなのだろう。
それを知った上で、何も聞かない。 他愛ない会話ばかり。 夫に余計な気を遣わせないよう、『判っているから、何も言わなくて良いから』、雰囲気がそう言っている。

(・・・良い嫁さんだよ、2人とも)


そうそう、遅くまでお邪魔しても。 と言って、圭介と愛姫が家に帰って行った。 そうだ、ウチもそうだが、お隣さんも奥さんが来週には転勤だ。
祥子も愛姫も、もう6カ月に入った。 通常の参謀勤務や、師団司令部勤務が難しくなる。 第一、妊婦服の参謀や司令部要員ってのもな・・・
しかし今のご時世、軍は女性将兵の、特に妊婦へのケアは手厚いモノが有る。 2人は来週から、仙台に転勤する。 国防省の内勤部署だ。 任務は軽いものになると言う。
『明星作戦』から5カ月、移転準備は着々と進んでいるが、中央官庁の完全移転はまだ済んでいない。 恐らく今年の秋頃ではないかと言われている。
こちらとしても、安心だ。 仙台には俺の実家も、祥子の実家も、双方とも疎開している。 お袋に姉貴、義姉さん。 祥子のトコのお義母さん。 女手が4人も居れば。

「・・・作戦が終わる頃は、もう仙台に居るな」

「ええ、今まで何も出来なかったけれど、ようやくお義父様とお義母様に、親孝行できるわ」

「そんな事、無理しなくて良いから。 なんだったら、実家の方に戻っていても良いんだから」

「それはダメ」

―――こういう所、頑固だ、ホントに。

外はしんと静まり返っている、今夜も酷く冷え込むようだ。 だけど中は暖かい―――うん、温かいな。

「・・・じゃ、ちょっと行ってくる」

「・・・いってらっしゃい。 帰ってきたら、この子も大きくなっているわ」










2000年1月15日 1100 樺太・亜庭湾 大泊港


戦艦『駿河』、『遠江』がその巨体を湾内に姿を見せ、停止した。 向うには予備艦から復帰の為った僚艦の、戦艦『加賀』
イージス軽巡『矢矧』、『酒匂』、『阿賀野』 打撃(ミサイル)軽巡『長良』、『五十鈴』の5隻に、駆逐艦群が20隻。
その後方から、第6、第8航戦の戦術機母艦『飛鷹』、『準鷹』、『神龍』、『瑞龍』の4隻が湾内に入って来た。
帝国海軍第2艦隊。 そして2艦隊専従の、第2補給隊。 そして第4聯合陸戦師団を満載した、揚陸船団。

艦橋から薄暗い外を見ながら、第5戦隊司令官・周防直邦海軍代将(提督勤務大佐、陸軍准将に相当)は久しぶりに、海上勤務に戻れた幸運を噛みしめていた。
本人の希望にも関わらず、有能さから統帥幕僚本部勤務や、大使館付武官勤務など、陸上勤務が最近多かった。 この前の海上勤務では、忌むべき佐渡島防衛戦だった。
新編制の第5戦隊。 旗艦『出雲』、2番艦『加賀』、共に修理明けと予備艦明けだ。 どこまで実戦に耐えうる動きを乗員が出来るか、正直心もとない。
だからこその、今回の派兵だろう。 光線属種は確認されていない、精々がベーリング海からの支援砲撃任務くらいだ。 『リハビリ』にはもってこいの戦場と言う訳か。

手元には母港を出港前に各司令部に渡されていた、作戦のタイムスケジュールが有る。

『D-dayマイナス4、到着。 D-dayマイナス2、出港。 以後、変更無し』

―――変更は無い、このままか。 2日間しか無いしな、特にやる事もないか。

軍事的には、やるべき事は山ほどある。 周防司令官が言っているのは、作戦的にどうこうと、弄る事が無い、そう言う事だ。 4日後には作戦開始なのだから。
艦橋を見渡していたら、無意識に1人の若手士官の姿が目に入った。 そう言えば、初対面だったか。 浮つき気味の若手士官の中で、落ち着きが目立つ。
甥がその妻を連れて挨拶に来たのは、自分が武官として転出する直前だったな。 その甥の妻の弟。 ふと尋ねてみたくなったのは、身内と言う事だけでは無い。

「・・・砲術士、皆の様子はどうだ? 実戦は初めての者も多いだろう?」

ガンルーム士官(若手の中少尉)は、正規士官より学徒動員の予備士官の方が、圧倒的に多い。 そして予備艦(修理中は予備艦籍)上がりの『出雲』は、初陣の者が多かった。

「はあ、今はまだ、少し緊張が有る様ですが。 戦闘に入ったら、気にしなくなります。 緊張する暇も無いですから」

戦艦『出雲』の砲術士、綾森喬海軍少尉が、そう答える。 『明星作戦』の支援作戦で初陣を経験し、乗艦の『信濃』の大破時には、自身も負傷した経験を持つ。
傷が癒えた後は、対統一中華支援の第3艦隊で、大型巡洋艦『熊野』に乗り組み、実戦経験を積んできた。 まだ少尉とは言え、洋上支援作戦の経験は豊富だった。

「そうか。 まあ、多少緊張感が有る方が良い、その辺、しっかり頼むぞ」

その言葉に綾森少尉が答える前に、司令部付きの中尉が司令官に近づき、間もなく艦隊旗艦『駿河』での会議が始まる、そう伝えた。
周防司令官が頷き、艦橋を後にする。 しばらくして、舷側の艦載艇が発進し、『駿河』に向かって真冬の海を進んで行った。






夜、可燃物をすべて撤去し、空間だけが目立つガンルーム(第1士官次室)では、2日後に出向、4日後に作戦開始を控えた興奮と、緊張感が入り混じっていた。
少尉と少尉候補生の大半は、学徒動員の予備士官。 海兵出身者も大半が初陣だ。 流石に中尉クラスは、実戦経験者ばかりだったが。
そんな中で、5か月前に『明星作戦』で初陣を経験し、負傷が癒えた4カ月前からは、東シナ海での支援作戦を転戦して来た綾森少尉は、どこか覚めた目で同僚達を見ていた。

「あの、砲術士。 BETAとの実戦とは、どの様なものでしょうか?」

脇から声を掛けられ、振り向くと通信士のダブル配置にある女性少尉候補生が、遠慮がちに話しかけていた。 確か、女子師範学校から学徒動員された、予備士官だ。
手に持ったビール瓶をラッパ飲みし、少し考える。 実戦が、どのようなものかだって?―――そんなもの、経験してみなければ、万の言葉で言っても解らない。
そうは思うが、候補生の表情を見れば、何か言わなくては、そうも思う。 どうにも思いつめた表情だ、放っておくと変に気負ってしまいそうだった。

「・・・結局、海軍の戦いは、BETAを目視しないからな、大半の戦闘配置は。 始まるまでは緊張するけど、始まってしまえば無我夢中だよ。
何もかもが、あっという間に過ぎ去って行く。 恐怖とか、そんなモノを味わう暇もありゃしない」

海軍士官の大半の初陣は、それ以外に無いと言っても良い。

「ま、精々それらしく、恰好を付ける事だな、部下の前では。 後は・・・真っ先に駆けろ。 それこそ、水兵より先に。 若手士官の戦場働きって、そんなものだ」

それしか言い様が無かった。 果たして満足したかどうか判らないが、件の女性候補生は頷いて、候補生仲間の輪に戻って行った。
周りを見渡す。 ガンルームも艦によって大小異なる。 最新の自動化のお陰で、最も乗員の多かった戦艦も、今では少数での運用が可能になった。
戦艦『出雲』も、大昔は乗員3000名を越す大所帯だったが、今では2000名を割り、1800名の乗員しか居ない。
だが、巡洋艦などでは14、15名位のガンルームも、『出雲』などの戦艦ともなれば倍以上の35名が居る。 その3割は、女性士官だ。
BETA大戦後、女性の軍内への進出が顕著となった陸軍と違い、海軍はその速度は遅かった。 だがこの10年ほどで急速に増えた、戦闘艦艇にも乗組女性士官が居る現実だ。

ぐるりと見渡すと、大きく分けて3つのグループが有った。 ひとつは少尉・少尉候補生の初陣組。 その中でも海兵出と予備士官組で分かれている。
もう一つは、古参の中尉達。 実戦を経験して数年を経過した、ガンルームの元締め達だ。 そして自分の様な、実戦を経験している少尉達。 海兵、予備士官は関係無し。
数的には最初のグループが圧倒的に多い、次は中尉達、最後に自分達だ。 一瞬、『ケプガン』(キャプテン・オブ・ガンルーム、1次室最先任士官)と目が会った。
うるさ型の人で、ヤバいと思ったが遅かった。 声を掛けられ、仕方なく傍に移動する。 ケプガンの他に、『サブガン(1次室次席士官)』も居た。

「・・・なあ、鉄砲(砲術士の、ガンルーム内『愛称』)、こいつら、大丈夫かな? 君、どう思う?」

(・・・アンタが言うなよ、ケプガンだろう?)

CIC配備のケプガンは、ずっと『穴倉』に籠っているので、案外日焼けしていない。 その顔を見つつ、綾森少尉は嘆息しながら答えた。

「嫌でも、硝煙の匂いを嗅げば、腹も座りますよ。 それでダメな奴は・・・靖国の指定席行きでしょう」

「それしかないな、今更、気合を入れてもな、還って逆効果かもしれんしな。 ま、今日は酔わせちまえ、酔わせて寝させちまえ。 君、音頭取れ」

(―――ちぇ、面倒臭い事を・・・)

と思いつつも、若手士官の自治に任されているガンルーム内は、ケプガンの言葉は絶対だ。 致し方なく、これも少数派の実戦経験のある海兵同期と2人で、音頭を取る。
やがてガンルーム内は、ちょっとした喧騒に包まれた宴会の場と化した。 恐怖は誰だってある、未知への恐怖と戸惑いは、尚更だ―――自分もそうだった。
だから、面倒とは思いつつも、否定はしなかったのだ。 約半年前の自分を見ている気がしたから、尚更だった。





酔った頭を冷やそうと、舷側に出てみた―――馬鹿だった、外気温は氷点下22℃だ。 海上はもっと寒く感じる。
慌てて防火・防水扉を閉め、艦内通路を伝って喫煙場所―――『煙草盆』の場所まで行く事にした。 夜こんな時間だ、人はいないだろうと思いきや、先客がいた。

「ん? ・・・し、司令官ッ!」

慌てて敬礼してしまい、しまった、と思う。 海軍では、艦内では敬礼は朝の始めの敬礼だけだ。 後は例え2等水兵が連合艦隊司令長官とすれ違っても、頭を軽く下げるだけだ。
案の定、人の悪い笑みを司令官に浮かべさせる始末となった。 義兄から聞いた事がある、こう言う笑みの時は気を付けろ、と。

「おう、砲術士。 どうした? 遁走した口か?」

「はあ、いいえ、ちょっと酔い覚まししに、来ただけです」

無理に空元気を振り撒く初陣連中を見ているのが、ちょっとだけ、辛くなったと言うのが本音だ。 彼等はもしかしたら、数日後には居ないかもしれない。
もっともそれは、自分かもしれないが。 いやいや、今回は比較的楽な作戦だ、艦隊的には。 損失を受けることなく、終わるかもしれないな。 それより・・・

「・・・あの、司令官はどうしてここに?」

見れば煙草を吸っているが、そんなもの、司令官公室や、司令官私室で存分に吸えるんじゃないのか?
確か司令部会食が有ったよな、今夜は。 司令官ともなれば、欠席は返って許されない。 部下の参謀達とのコミュニケーションの場でも有るのだから。

「ん? ああ、年寄りは早々に出て行った方が良いのでな。 若い連中も、気を遣わんで済む」

(―――若い連中、と言っても、司令部の参謀たちともなると、若くて20代後半。 大半は30代、40代だろ?)

義兄も部隊の参謀職をしていたそうだが、まだ20代半ばの年だ。 それより年上で、『若手』と言う感覚が、綾森少尉にはまだ判らない。

「いえ、お邪魔しました。 自分はこれで・・・」

「おいおい、そう邪険にするなよ。 少し付き合えって」

案の定、捕まった。 そしてどうやら、周防司令官は司令官室でふんぞり返るより、こうした場所で下級士官や下士官兵と話す事が、好きな司令官の様だった。
仕方なく、煙草盆の脇で煙草に火を付け、1本吸い始めた。 任官してから覚えた煙草の味だが、最近ようやく美味さが判る気がして来た。

2人とも暫く無言で吸っていたが、不意に周防司令官が綾森少尉を見て、笑って言った。

「・・・『敷島』か。 珍しいな、軍では『誉』だろうに」

綾森少尉の吸っている銘柄は、民間で出回っている中流銘柄の『敷島』 翻って、陸海軍内では、士官用の酒保などで出回っているのは、主に高級銘柄の『誉』だった。
思わず自分の煙草をマジマジと見て、苦笑気味に綾森少尉が答えた。 そう言えばそうだ、それに自分が喫煙を始めたのは、実は軍内部の影響じゃないと言う事。

「・・・負傷から退院した頃、義兄から貰って初めて吸った銘柄なのです。 それ以来、なんだかずっとこの銘柄で。 手持ちが切れた時は、『誉』を吸いますが」

「はは、そうだったのか。 しかしあいつめ、陸軍大尉ならばもう少し、高級銘柄を吸えばいいモノを・・・」

確か、同じ事を義兄に聞いた気がする。 その時、『少しでも安いヤツの方が良いんだ。 『敷島』と『誉』じゃ、ひと月吸えば、食事2食分の差額が出る』とか言っていた。
結婚してから、妙に所帯臭くなった気がする。 姉と婚約中の義兄は、もう少し豪快に遊んでいた人の様な気もするのだが。 何だか、今では完全に姉の尻に敷かれているな。
それを言うと、司令官が大笑いしていた。 義兄は司令官にとっては、甥に当る。 幼い頃から知っている為だろうが、一体どこが司令官の笑いのツボを突いたのやら。
それにしても、軍内はやはり、将校が愛用する銘柄は、『誉』が殆どだ。 確かにつまらないとは思うが、軍人には『体面』と言うモノが付きまとう。 

(―――やっぱり、『誉』に変えた方が、良いのかな?)

ふと、司令官の煙草が目に入った。 普通の紙巻きたばこでは無い。 葉巻か? にしては、小さくて細い。

「・・・司令官、お吸いになっているのは、普通の煙草では無いのですか?」

「ん? ああ、これか? シガリロだ、『キング・エドワード・パナテラ』 合衆国産でな、今じゃ一番手軽に手に入る。
本当は、オランダの『ヘンリー・ウィンターマンズ』、あれのファウンダーズ・ブレンドが一番良いのだが。 残念ながら欧州失陥の余波で、出回らなくなった。
ハバナ葉を用いたような、甘味を秘めた深いコクと味わいが、何とも言えん。 美味いぞ、あのシガリロは・・・」

―――喫煙初級者の自分には、まだまだ縁遠い代物の様だ。

暫く雑談していると、艦載艇が戻って来た。 上陸用の定期便だ、帰艦者を満載している。

「砲術士、君は上陸しなかったのか?」

今日、明日と、2回に分けて外泊上陸が許可されていた。

「自分は、明日の番ですので。 しかし大泊は不案内ですし、どこへ行けばいいのやら・・・」

「少し足を延ばせば、豊原だ。 お姉さんに、会って来んのか?」

「・・・向うも、軍務が有るでしょうから」

嘘だ、本当を言えば会いたい、作戦前に。 姉にも会いたいし、義兄とも話したい。 しかし義兄は今回、遠征部隊を率いると聞いている、もう準備に大忙しだろう。
姉には会えるだろうが、その姉は義兄を戦場に送り出している。 自分が会いに行くのは、何だか我儘な気がして、気が引けるのだ。
そう言うと、周防司令官が破顔して、会って来い、そう言った。 会って、話して来い。 顔を見せて来い、姉孝行?をして来い、と。

「男兄弟とは、また違うだろうからな。 お姉さんも、弟の元気な姿を見れば、嬉しいだろうし、安心もするだろう。 なに、我が不肖の甥の事は気にするな」

―――何と言うか、この一族は・・・ 勁いと言うか、痩せ我慢と言うか。 司令官とて、息子の直秋中尉(周防直秋陸軍中尉)が遣欧派遣軍に選抜されて、心配だろうに。
帝国軍は、『明星作戦』後の再編成に注力しつつ、外国、特に米国との関係から、欧州諸国との関係を深めようとしている。 遣欧派遣軍は、その一環として正式派兵が決定した。
規模は旅団規模。 戦術機甲部隊2個大隊に、1個機動歩兵大隊と砲兵連隊、そして支援連隊。 規模で言えば師団以下だが、政治的な部隊だ、派遣するポーズこそ重要と言う事か。
普段はカンタベリー基地に駐留し、ドーヴァー基地やフォークストン基地、マーゲート基地への即応増援部隊として任に当る、と言う。

(・・・そうだな、会ってくるか。 実際、会うのも久しぶりだし)

姉は国内にいたが、自分は負傷復帰後の配属は第3艦隊で、ずっと東シナ海をかけずり回っていた。 寄港地は主に沖縄や台湾。 時に東南アジアまで航海した。
久々に帰国したら、今度は第2艦隊でベーリング海に。 いま会わなきゃ、今度いつ会えるか、本当に判らない・・・あ、司令官も、息子さんとそんな感じだったのかな?

「・・・判りました、会ってきます」










2000年1月19日 1030 カムチャツカ半島 ペトロパヴロフスク・カムチャツキー軍港


昼なお薄暗い、曇天と粉雪が舞う天候。 人々の表情が何となく覇気が無いのは、何も戦況だけでは無い気がして来た。
接岸した戦術機揚陸艦、輸送艦、徴用された輸送船からメガ・ガントリークレーンによって、各種コンテナの揚陸が行われている。
戦術機揚陸艦からの、機体揚陸はあと1時間ほど後の予定だ。 部隊の移動は明日の午前中の予定、優に8、9時間はかかるだろう。
濁った茶褐色の海面、汚れた汚物が岸壁に打ち寄せ、溜まっている。 お陰で悪臭が酷い。 舗装はひび割れ、所々凍土が顔を見せている。
湾内には錆付き、整備もままならないまま係留された艦艇群。 もしくは座礁したまま、航路の邪魔にならない為か、放置されたままの沈没艦艇。
建物も大きさだけが取り柄の様な、錆が浮き出た大型倉庫群が目につく。 全体にうすら寒い印象の場所だった。

「大隊長、揚陸完了予定、1400。 移動開始は明日1000、駐留地到着は、1930の予定です」

大隊副官の遠野中尉が報告に来た。 やれやれ、基地到着は、どっぷり日が暮れてからか。 移動に延々9時間以上。 まあ、贅沢は言えない。 この国は全く余裕が無いのだから。

「判った。 駐留基地はミリコヴォ、だったか?」

「はい、ミリコヴォ地区、Ц-04前線補給基地です。 ティギリ防衛戦区への、後方支援基地です」

今回、衛星情報から想定されるBETAの侵攻ルートは、コルイマ山脈を越え、半島北部を廻り込む『迂回ルート』だと判断されている。
しかしながらオホーツク海北東沿岸部―――シェリホフ湾西岸一帯にも、旅団規模のBETA群(E群・4200体前後)が確認されている。
オホーツク海は今、結氷期だ。 シェリホフ湾は完全に結氷し、多分、突撃級でさえ上を渡って侵攻してこられる程の厚さの氷に、湾一面が覆われている。
ティギリ、パラナ、レスナヤと言った半島中部西岸の要塞防備基地群は、そのE群に対応して臨戦態勢に入っている。
その為、Ц-04がティギリ、Ц-03がパラナ、Ц-02がレスナヤの、それぞれ支援態勢に入る。 帝国陸軍と極東国連軍先遣隊も、Ц-04とЦ-03に駐留する事になった。

問題は、向うの戦力だ。 ソ連軍の前線部隊、その定数割れ状況は有名だ。 協力は惜しまないが、全面的にあてにされても困る。
向うさんにも、『ジャール』、『ロジーナ』、『ヴォストーク』、『ザーパド』、『ユーク』、『セーヴェル』と言った精鋭大隊(半ば、宣伝用か?)が有るのは知っている。
それぞれが3つの戦区(ティギリ、パラナ、レスナヤ戦区)に分散配置されている。 勿論、他の部隊も多いが。 いや、そっちの方が多いか、『精鋭』は何時も少数だ。

「気にしても、仕方が無いな。 遠野、各中隊長に通達。 出発は明1000。 本日は1400まで指定の待機所にて、待機。 1430より各自機体確認。 
1600より指揮官ブリーフィングがある、大隊ブリーフィングはその後、1730より始める。 気温がかなり低い、体を冷やさすな」

「了解です」

命令を伝える為、部隊の方へ歩いてゆく遠野の後ろ姿を見ながら、脳裏では別の事を考えていた。
シェリホフ湾西岸のE群は、約4200 それがどう動くか不明だが、複数戦区にばらけてくれれば・・・
ソ連軍には悪いが、それこそ『予備隊』の投入は最終局面に限定出来るだろう。 俺としては、部下をここで潰したくない。

海軍聯合陸戦第4師団は、カムチャツカ半島の付け根付近、カラギン湾に面した半島東岸のオッソラに上陸した様だ。
あの辺はBETA群主力(C群、D群の2万2000余)が来襲すると想定されている。 ソ連軍と、極東国連軍主力とで迎え撃つ『主戦場』だ。
今回はそこから遠い、第2戦線。 同盟国への義理も大切だが、俺としてはその義理を果たしつつ、どうやって部下を日本に連れ帰るか。

(―――旅団長の判断次第で、大きく変わるが・・・ 念の為だ、圭介と棚倉、それに伊庭とも事前に確認し合っておくか)

出来る事は全力で果たすが、出来ない事の見極めだな。 冷酷に見られても良い、場合によっては必要な事だ。
轟音が響いた、戦術機だ。 チボラシュカ(MIG-23)・・・いや、アリゲートル(MIG-27)か。 8機、2個小隊。 もしかすると1個中隊。 定期哨戒か、スクランブルか。

(―――兎に角だ、最大にして唯一の目的は、部下を生きて日本に帰す事。 これだ)







1999年12月下旬。 ヴェルホヤンスクハイヴとエヴェンスクハイヴの『圧力』を懸念した国連側の提唱で、ソ連軍は極東国連軍、日本帝国軍との共同作戦に合意する。
2000年1月20日。 ソ連軍呼称『デシィタ・ヴォストーク(東の護り)』作戦、国連軍呼称『バシレイオス』作戦、日本軍呼称『極天作戦』が発令された。



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