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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 前兆 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:3fa3f4a1 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/09/04 01:00
1998年6月15日 1950 日本帝国 大阪 豊中駐屯基地 第18師団


「直衛。 そう言えばあんた、先月の演習の時、彼女と何を話していたのよ?」

中隊事務室に入るなり、愛姫の不機嫌そうな声が飛んできた。
しかし、よりによってお前が言うか? さっさとその場をトンずらしたお前が。

「彼女? 彼女って?」

「しらばっくれないでよ、緋色のお姉さんとよ」

あの時の話しか。

「大した事は話していない。 ちょっと愚痴を聞いていただけだ。 それと、四方山話をな」

本当は、四方山話と言う訳でもなかったのだが。

「・・・ふん、手を出したら駄目だからね?」

「誰が出すか、そんな恐ろしい事」

「恐ろしい? 彼女が?」

「彼女の双子の妹が」

―――何より、祥子が・・・

「どーせ、誰かさんにばれたら怖い、とか思っているんでしょう?」

「お陰さまでな」

「馬鹿! そこで惚気るな!」

―――話を振ったのは、お前だろうに。

「で? どうしてお前がここに居るんだ? ウチの中隊の連中は?」

ここは第22中隊の中隊事務室。 
そこにどうして部下達がいなくて、他の中隊のボス、しかも大隊まで違う愛姫が、何故堂々と居座っている?

「摂津は美園と一緒に、PXよ。 四宮と瀬間は、仁科の所ね。 今頃はのんびりお茶でも飲んでいるんじゃない?」

―――昔の部下や後任を使いやがったな? 半ば脅し、半ば物で釣ったか?

「じゃ、俺も・・・」

「却下」

一刀両断で却下かよ。

「・・・何か、話しか?」

「だから、わざわざ人払いをしたんだよ!」

―――何を怒っているんだ? こいつは?
それに珍しく、酒なんか飲んでやがる。 酒豪の緋色と違い、愛姫は酒が弱い。 下戸とまではいかないが、数杯ですっかり出来上がる。
なのに、酒の席が嫌いじゃないんだよな、こいつは。 多分、楽しい酒と言うか、そう言う雰囲気が好きなんだろう。
もっともこれには、某所から迷惑千万と苦情が出ても居るのだが。 特に、愛姫の元部下だった仁科辺りから。 
愛姫の酒には、部下だった頃の仁科は、さんざん苦労したらしい。

「余り急ピッチで飲むなよ。 弱いのに」

愛姫が持っているフラスコを取り上げ、ひと口飲る―――へえ、結構良いウィスキーじゃないか。

「・・・知ってるよね? アンタ・・・」

「何を?」

もう一口、飲む。 喉がカッと熱くなると同時に、口内に芳香が広がる。
うん、良い酒だ。 愛姫に飲ますのはもったいない。

「ッ・・・! もう・・・ 先日さ、休みの日に呼び出されてさ」

「誰に?」

「・・・判ってて、言っているでしょう!?」

「いいや? で? 誰に?」

「~~~ッ! 圭介にッ」

―――ふん、あの野郎、ようやく動いたか。
フラスコからひと口飲みながら愛姫を見ると・・・ 多分、アルコールのせいだろう、彼女の顔が赤らんでいるのは。
うん、多分そうだ。 絶対そうだ。 顔を赤らめて、戸惑う様な、恥じらう様な表情など、愛姫じゃ無い。

「で、呼び出されて? どうしたって?」

「・・・絶対、後で覚えてなさいよ。 言われたわ、『おまえが好きだ、俺の女になってくれ』って」

―――何と言う、直球ど真ん中な言い方だよ・・・

「いきなり、そんな事言われてもさ。 大体、今までそんな事、考えてもみなかったし・・・」

「・・・あのな、愛姫。 お前、あいつの事、嫌いか?」

「嫌いじゃないよ、どちらかと言われたら・・・ 好き、かな? でもそれは、何と言っても今まで付き合いの長い仲間だったし。
大体、初陣の頃から一緒の戦場這いずり回って、駆けまわって来た戦友だし。 途中で、中断は有ったけどさ?」

あいつも国連軍に、一緒に飛ばされたからなぁ・・・

「・・・お前自身は、そう言う相手、居るのか?」

「えっ!?」

「好きな相手。 相思相愛でも、一方的な片思いでも、どっちでもいいけど」

―――少なくとも、今まで聞いた試しが無いんだよな、そう言う話は。
などと思っていたら、何やら妙に愛姫が言い表し難い表情をしている。 困惑した様な、気恥ずかしい様な、何とも言えない表情だ。

「・・・昔の子供の頃以外、居ないわよ・・・」

―――それこそ、ガキか? お前は?

「お前さ、人へのお節介焼きは相当だけどさ。 ちょっとはお前自身を見てやれよ?」

「・・・同じ事、圭介にも言われたわよ。 『少しは自分を見ろ』って」

愛姫が恥ずかしさと、困惑が混ざった表情で、やや早口になって続ける。

「自分を見て、自分を見ている周りの人間を見ろ、って。 私、最初、何の事か判らなかったのよ。
そうしたら圭介、怒りだして・・・ 『お前の人生、他人の事ばかり気にかける事なのか!?』って。 多分、緋色の事言ってたんだろうけど」

―――神様、仏様。 こいつは酷い。

「・・・言うのよね、『お前の事を見ている奴がいる事にも気付かずに、他人へのお節介ばかりか!?』って。
しょうがないよ、それが私の性分だもん・・・」

―――ここまで言われる愛姫も、愛姫だが・・・ それより、内心相当テンパっていたんだなぁ、圭介の奴も。 まるで奴らしからぬ情景だ。

「でさ、私も流石に腹が立って・・・ 『何が言いたいのよ、アンタは!』って、やっちゃたのよね」

―――そうなったか、やっぱり・・・

「・・・そしたら?」

「そしたら、最初に戻る、よ。 いきなり告白されたのよ」


―――で、どうしたものか、俺に相談したと。 
少し茫然と呆れながらふと、無意識にさっきから愛姫が手に遊んでいるCDに目が行った。

「・・・そのCD、どうした?」

「え? ああ、これ? その時に、圭介から貰ったのよ。 良い曲だからって」

「ちょっと待て。 休みの日に、何処に行った? 何処でそう言われたんだ?」

「近くの、市内のBARよ。 ちょっと洒落た」

「店の名は?」

「え? ええと・・・ 『黒猫』とかってお店だったかな?」

「・・・そこで、そのCDを渡されたのか?」

「うん」

ちょっと記憶が怪しいが、おおよそ間違ってないだろう。 思い出しながらあのメロディーを口ずさむ。

「ああ・・・! それ、その曲! このCDの曲よ」

―――あのな? 圭介よ。 日本国外は、戦場の大陸しか国外経験の無い愛姫に、それは流石にハードルが高いだろう?
いくら作戦だとは言え、それは無茶だ。 愛姫は全く気付いていないぞ? それが通用するのは、向うの連中だけだって・・・

「はあ・・・ 『おまえが欲しい』、か。 まさにその曲通りだよな」

「えっ?」

―――『黒猫』か。 で、さっきの曲は『ジュ・トゥ・ヴー』
曲の中で男女がお互い言っているよな、『お前が、あなたが、欲しい』って。

「自分を見ている周りの人間を見ろ、か。 違うな、『おまえを見ている、俺に気付いてくれ』じゃないのかな?」

―――違うか? 気付いてくれない、『俺の苦しみを鎮める為に』、か。 
言っていたよな、あいつ。 『だから、俺はそんな、他人の事ばかり気遣っているあの馬鹿を、放っておけない』
放っておけないと言うか、ずっと見てきたというか。 欧州に居る間も気にかけていたのかね? 多分、そうなんだろうな。
きっかけは? 想像はつくが、確証は持てない。 でも多分あの頃からか、新任の頃、同期の美濃が戦死した時期からか。


「なあ、覚えているか? 昔の事だ、確か新任の頃の冬だ。 俺とお前、それに永野と、あいつの好きだった同期の奴―――戦死した奴だ、名前は忘れたけれど。
4人で臨編の小隊を組んで、偵察行動を行った事が有っただろう? 93年初頭の大混乱の直前だった」

「・・・あったね、そう言えば」

―――俺はあの時、臨時ながらも、そして同期生同士ながらも、初めて『部下』を喪った。

「あの後、お前ってさ、永野にフォロー入れてくれたんだよな?」

「ちょっ!? 何で知っているのよ!?」

「永野本人から聞いた。 同じ大隊になった直後かな? 93年の4月か5月だ。 ・・・愛姫、お前ってさ、仲間の事は本当に良く気遣う奴だよな?」

「な、何よ、急に・・・」

「祥子から聞いた事が有る。 何年か前、1期下の奴の事でも、お節介焼いてやったんだって?」

1期下の奴って、神宮司の事だ。 国連軍最後のご奉公、戦術機教程の教官をしていた頃に、彼女自身からも聞いた事が有った。
今はどうしているのだろうな? 相変わらず、鬼教官しているのかね? 元気でやっているといいのだけどね?

「だからさ、たまには自分自身の事も、気遣ってやれよ」

「・・・それって、圭介の言葉に応じろって事なの?」

「それはお前の自由。 そこまで言わない。 たださ、お前の事を気遣っている奴もいるって事だ。 それを知って、別に損は無いと思うぜ?」

―――そこから先は、自学自修しろよな? ただ生きて、ただ戦って、ただ死んで、じゃ、何も残らないぜ?

「・・・なんか、悔しいんですけど?」

「悪いが、こっちの方が先達だ。 悔しかったら、追いついてみな。 ああ、それと―――森宮少佐が心配していた、頭を切り替えろよ?」

「あ、うん。 そうだね、流石に拙いよね・・・」

「―――あと、広江中佐には話しておいた、お前と、緋色の事」

ちょっと見物だったな、愛姫の顔は。 
真っ赤になって。 ついでに真っ青になって。 で、また真っ赤になって。

「そろそろ、呼び出しでも有るんじゃないかね? ま、覚悟して行きな、骨は拾ってやる」

「むっ、無責任な事、言うなぁ!」

確かに想像するだに怖いけれど。 人生の先輩としては、まして今回の様な事に関しては、頼っても良いんじゃないかな?

そんな無責任な事を考えながら、五月蠅く騒ぐ愛姫を中隊事務室から追い出して、ふと独りで笑ってしまう。
良いじゃないか、別に。 『どんなに愛しているかを話す事が出来るのは、少しも愛していないからである』

「・・・直球勝負、結構な事じゃないか? 『愛とは2人のエゴイズムである』、か。 言葉なんて多く要らないと思うよ、ホントに」












1998年6月17日 日本帝国 国防省


「・・・何も、性急に部隊の再編成を行う必要は有るまい? 受け入れ先の準備も整っていないのだ」

「大体、小隊や中隊の移動とは訳が違うのだ、師団や軍団規模の再編成だぞ? 軍団長ともなれば、親輔職だ。 曲がりなりにも、陛下のご裁可と殿下のご承認が必要なのだ」

「軍政面でも、編制を変えるともなると、基本は勅命での事だ。 おいそれと叶わないよ」

集まった多くの軍官僚から、否定的な発言が相次いだ。
反対に軍令を司る多くの参謀将校達からは、それに反発する声が次々に上がる。

「今更それは無いでしょう! 再編成の話は随分と前から上がっていた! 国防省の怠慢でしょう!」

「衛星情報からでも判る、事態は切迫し始めている! 防衛計画の見直しが必要なのだ!」

「殿下の承認? 何を今更! これまでも事後承認だったじゃないか! 
該当する地方は既に行政戒厳令が敷かれている。 そこに展開する部隊の再編成に、今更承認が必要か!?」

「軍団長の罷免や任命では無いのだ。 殊更、親輔職がどうこう、そんな理由は無かろう!?」

様は縦割り官僚世界と、現場で暴走しがちな実戦部隊組織の対立、その縮図の様な会議になっていた。
九州に展開する19個師団の内、いつくかを山陽・山陰方面に移動させる計画。 だがそのためには軍集団(軍管区)に所属する軍、乃至、軍団を再編制する必要が有った。
『編成』ではなく、『編制』の変更。 軍令では無く、軍政の範疇。 実戦部隊が国防省の動きの悪さに苛立っているのは、そこが原因だった。

「そちらはそう言うが・・・ 今現在、活発化しているのは重慶ハイヴだろう? 無論軽視して良いハイヴでは無い。
軽視して良い訳では無いが、我が帝国にとって直接的に最も重要な関心は、鉄原ハイヴ、そしてブラゴエスチェンスクハイヴの2つだ」

「その2つのハイヴは、特に活発化しているという情報は無い。 ハイヴ周辺の飽和個体群も未だ僅かだ。
予想では、その2つのハイヴが飽和状態となり、帝国に対し直接的な脅威となるのは、明年以降との予想では無かったか?」

衛星情報、過去のハイヴ内個体群の増加統計、そこから弾き出された予想計算結果。 その全てが、明年以降の帝国本土への侵攻を予測していた。
それを受けて国防省は、更なる人員の動員計画を発令し、部隊の拡充と教育訓練計画の大幅な見直しに着手している。
そして関連各省庁と諮り、軍需生産の増加と生産動員計画の改定案の策定も、ようやく完成した所だった。

「腑抜けたか!? 重慶の飽和個体群がこの数カ月、どう言う経路を辿っているのか、EF(護衛艦隊)司令部から報告が入っているだろう!?」

「衛星情報からでもはっきりしている! 奴等は比較的距離の近い東南アジアに南下していない、渡海距離のずっと短い台湾海峡を押し渡るでもない!
未だ万単位の渡海は無いモノの、数千単位のケースはこの2、3カ月の間に頻発している、いずれも朝鮮半島へ向けてだ!」

「既に重慶ハイヴ周辺の飽和個体群は、10万に迫る勢いだ。 そこから弾き出された個体群は、江蘇省沿岸に集まりつつある、その数2万以上!」

「もし、その2つの個体群が弾けてみろ! 今までの経路からして最も確率が高いのは鉄原ハイヴへの移動!
鉄原ハイヴに10万以上の収容が可能か? 無理だ、フェイズ2ハイヴでは! では、そこからもあぶれた連中はどこへ?―――帝国本土しか、無いだろうが!」

状況から予想し、想定を元に実行に移る現場。 完全な裏付けが無ければ、何一つ稟議も申請も通さないお役所。
結局、最後は現場の統計資料がモノを言って、お役所側が折れた結果となった。 しかし、本格的な部隊移動開始は半月後。 書類仕事もそれなりに時間がかかる。

当てつけの嫌がらせと感じた現場組だったが、それでも自分達の主張が一応通った事で、矛を収めた。
但し、その事により貴重な半月の時間が無為に喪われたのは、事実なのだが。














1998年6月20日 2030 日本帝国 大阪 豊中駐屯基地 第18師団


「この前の演習の想定状況、やはり上は・・・」

その日の課業も終わった夕食後の、のんびりした時間帯。 
将校集会所で寛いでいたら、隣で酒を飲んでいた葛城大尉が、ぼそっと呟いた。

「部隊配備体制を、再検討している。 そう言う噂だね」

反対側でグラスを傾けていた源さんも、難しい顔だ。

「・・・九州から8個師団を引き抜く、あの話ですか」

現在、19個師団を集中配備している九州の西部軍集団。 
そこから8個師団を引き抜き、中部軍集団に再配備すると言う噂が、流れてきたのはこの数日だった。

「北九州での水際防衛は、不可能と踏んだのでしょうか?」

「葛城君、流石にそこまでは。 ただ、側面の山陽・山陰方面が手薄なのは確かだよ」

正面戦線の北九州に戦力が集中している半面、下関を渡った山口から山陽・山陰方面の戦力配備はお寒い限りだった。

「山口・広島に第2と第10師団、島根に第24師団と岡山に第15師団。 長い山陽・山陰に、4個師団しか配備されていない。
九州の戦力集中密度に比べたら、中部軍集団の西方守備兵力の密度は、確かにお寒い限りだね・・・」

他は四国に第12軍団(第19、第43、第50師団)が配備されているが、四国の3個師団は動かせない。 山陽方面の下腹を護ると同時に、貴重な戦略予備兵力だ。
近畿は第1軍団を構成する帝都の禁衛、第1師団に、大阪の第6、奈良の第3師団の4個師団が防衛戦力として配備されている。
そして中部軍集団戦略予備兵力で、遊撃軍的存在である、我々の第9軍団(第14、第18、第29師団)
長く手薄な山陽・山陰地方が突破されたら、畿内防衛は7個師団しか兵力が無い。

「確かに九州は、あれだけの戦力集中が出来ていれば、そう簡単には押し込まれないでしょう。 
それが8個師団減の11個師団でも何とかなるかと。 ですが、もしそこから脇に逸れて下関を越されたらと思うと・・・ ゾッとします」

「少なくとも、海軍は呉周辺に第2海兵師団を配備している。 陸軍の師団編成と違い、海兵師団は軍団規模に匹敵する大部隊だ。
岩国にも、国連軍第11軍指揮下の第3軍団がいる。 それを加えれば、山陽・山陰方面は約3個軍団相当の戦力だ、そうそう簡単に破られはしないだろうが・・・」

「しかし周防さん、程度問題ですよ。 今回の演習想定、あのBETA群の数は、確実に山陽・山陰方面の友軍が全滅したと言う想定ですよ。
海軍は、海岸線上陸後のBETA群殲滅には自信アリ、とか言っていますけど。 実際はどんなイレギュラーが生じるか、判ったモノじゃ無い・・・」

心配症と言うなかれ、俺達の様に戦場暮らしが長い程、その辺は疑わしく思えて来る。
だからだ、今回の話は。 九州から引き揚げた8個師団を2分して、山陽方面の広島・岡山に1個軍団(3個師団)を後詰に配備する。
山陰の島根に同じく1個軍団(3個師団)。 余った2個師団は戦略予備として、兵庫県西部に再配備する。
これに畿内防衛の7個師団と、山陽道側面支援の四国の3個師団とで、縦深防御を形成するという噂だった(山陰方面は、舞鶴から海軍が出張って来るらしい)


「オイコラ、何を辛気臭い面揃えて、辛気臭い愚痴言い合っとんねん。 やめい、やめい!」

「木伏さん」

突然の怒鳴り声に振り向くと、集会所の入口から、しかめ面の木伏さんが近付いてきた。どうやら酒の輪に入ろうとしたら、今の話を耳にした、と言う事らしい。

「お前らが辛気臭い面しとってみい! 連隊全体が辛気臭さなってまうわ! 判っとんのか!?」

「は、はあ・・・」 
「それは、そうですが」 
「はは・・・」

「忘れとるンやったら、思い出させたるで? ワシ等は連隊の中核の中隊長や、中隊を預かる身やで!?
シンドかっても、楽やって言えや! 痛かっても、痛ないって言えや! 絶望的でも、楽観せぇや!」

木伏さんも、俺たちと同じ心境の筈なんだが。 腐っても連隊最先任大尉と言った所か。

「何やったら、もう一回思い出させたんで? 新任の頃を。 どないや?」

「いえ、もう結構です」

「大丈夫ですよ」

「思い出しました、思い出しましたから」

3者3様で、思いっきりご遠慮する。
今更ながらに、あんな真似は情けなさ過ぎる。

「ふん。 そやったら、シャキッとせい。 頼むで、ホンマに・・・」

そう言いながら、片手に持った日本酒をテーブルの上にドンっ、と置く。 
手酌でグラスに注ぎながら、酒保で買ってきたと思しき肴をつまんで呑み始めた。

「それにしてもや、全くなぁ、いよいよこんな日が来るとはのぅ・・・」

「・・・腹括るしか有りませんね。 英国の例も有ります、本土を守り切れないと言う訳でもないでしょう」

残っていたウェスキーを一息で空けて、余っていたグラスに、木伏さんが持ち込んだ日本酒を拝借して注ぐ。
ビールに始まり、ウィスキー、そして日本酒。 明日が2週間ぶりの非番で良かった。

「そう、それ、その話。 聞かせてくれませんか、周防さん。 向うでドーヴァーの防衛戦を、経験しているんでしょう?」

葛城君が、ここぞと身を乗り出して聞いて来る。 彼自身も大陸での戦いが長かった歴戦だが、渡海侵攻阻止作戦は経験していない。
もっともこれは殆どすべての帝国軍将兵が同様だ。 お陰さまでこの手の話になると、俺も圭介もやたらと良く聞かれる羽目になる。

「・・・俺が経験したのは、英本土防衛戦じゃないよ?」

「何も、そこまで年寄り扱いしてませんって」

「年寄りって・・・ 君とは半期違うだけじゃないか。 うーん、ドーヴァーか。 
北九州に当て嵌めた場合、似ている部分と似ていない部分が有るから、必ずしも参考になるとは言えないと思うよ」

「例えば?」

「例えば・・・ そう、海峡を隔てた戦いと言う事では同じだけれど。 俺が経験したのは海峡の向う側、大陸側の橋頭堡維持の戦いだったから。
色んな意味で違う。 大体、あの時大陸側に民間人はもう、誰一人としていなかった。 戦火を避けるべく、避難する避難民の事を気遣う必要も無かった。
純粋に戦闘行動で言えば、戦域は北九州より広い。 戦略迂回も、縦深防御も、自由度は向うの方が大きいと思う。 
その反面、必要とされた戦力も半端じゃなかったけどね」

本当を言えば、かの英本土防衛戦が、一番条件的に参考になる戦いなのだろうけど。
果たしてあの戦いの教訓を、帝国が飲めるかどうかだ。 最悪は西日本全域を焦土と化してでも、BETAを殲滅する覚悟が有るのかどうか。

手段は問わない。 手段を選択できる贅沢は恐らく無い。 恐らくその事を最も早く、本能的に悟ったのが米国なのだろう。
カナダに戦略核を纏めて撃ち込んだ結果、あの広大な国土の半分が居住不可能になりはしたが、第2のオリジナルハイヴの出現だけは防いだ。
―――もっとも、こんな事を言ったら、今の帝国じゃ、何を言われるか判ったモノじゃ無い。 それでなくとも俺は国連寄りだと、陰で言われているしな。

「五月雨式に1万、2万で来襲してくるんやったら、何とか九州で撃退できるやろ。 せやけど、5万越したら危ないわ」

「大陸で発生した10万規模の個体群の侵攻が有った場合、九州や山陽・山陰地方では防げないね。
どうしても、畿内まで引き摺り込んでの、縦深防御戦闘を展開する事になると思う」

「瀬戸内海は、艦隊行動はとれませんからね。 英国南部と違って、艦隊支援が受けにくい。 日本の国土状況がネックになる・・・」

気がつくと、随分時間が経っていた。 
酒もビール瓶は全て空き瓶、ウィスキーもボトルが空いているし、日本酒もそろそろ底をつく。

「・・・まあ、大戦略は上層部の専管事項や。 ワシ等、前線の部隊指揮官の為す事は・・・な? 何時も通りや」

「何時も通りに戦って、何時も通りに生き抜いて、何時も通りに部下を生き残らせて・・・」

「何時も通りの人に会う、ですか? 源さん?」

「周防君、君に言われるとは」










2250 日本帝国 大阪 豊中駐屯基地 第18師団 第181戦術機甲連隊長室


「若い連中も、動揺は隠せないかね?」

「中隊指揮官連中は、あれで歴戦です。 今更泣き事を言う者はおりませんが、早く方針を示して欲しいとは思っているでしょう」

連隊長の曽我部大佐と、副連隊長・兼・先任大隊長の広江中佐が、連隊長室で話しこんでいた。

「軍団司令部で聞き込んで来たよ、君の旦那にね。 彼曰く、『少なくとも、現段階で大規模侵攻が生起すれば、九州・山陽山陰の維持は不可能』だと」

「・・・軍団では無く、軍司令部がそう判断していると?」

広江中佐が苦虫を潰した表情で確認する。 彼女の夫は、軍団司令部主任作戦参謀(作戦部長、G3)の藤田大佐であり、曽我部大佐が聞きこんだ相手である。
軍団G3である以上、上級司令部である軍司令部の作戦会議への出席は必須だ。 立場上、軍団参謀長でもあるのだから。

「本土防衛軍は、それなりに戦訓を理解しとるよ。 水際での防衛など絵に書いた餅以下だとな、海軍も聯合艦隊はそう思っておる筈だ。
英国で、かのGF(グランド・フリート:英国艦隊)は、BETA群の上陸を阻止出来たかね? ホッホ・ゼー・フロッセ(ドイツ大海艦隊)は?
勇ましいのは、国民向けのプロバカンダを連呼する国防省と、今更お上に真実を伝奏出来ない、軍首脳部だよ」

「その話は、ここだけで・・・」

「判っておる、判っておるよ、広江君。 でもなぁ、政争と国際政治と、省庁間のエゴに両手両足を縛られて戦う羽目になるのは、ゾッとしないぞ?
君のご主人、藤田君も随分とげっそりしていたよ。 無理も無い、軍や軍団の作戦参謀なんぞ、無理と無茶と無謀を形にして、尤もらしい言葉で部隊に押し付ける役目だしな」

「・・・それが、主人の責務です」

ここしばらくの夫の激務と、思い込んだ様子を見てきているせいか、普段の中佐の様子では無い。

行政戒厳令が発せられた今となっても、その地方に選挙基盤を有する議員や、その所属政党と与党との駆け引きが有り、更には政党内でのパワーゲームも生じている。
国内移動に関して衝突する、軍部と地方自治体、そして管轄省庁。 メディアがそれを煽っている。
より広範囲な指揮命令権を確立させようとする国連軍―――米軍と、それに反発し、何とか阻止しようとロビー活動を展開する、N.Yの帝国政府外交団。
国内避難民に関して対立する、内務省と国防省。 横から省利省益を守る為、そして責任を逃れる為に割り込んで来る商務省と農水省。
それに踊らされ、不安と焦燥に苛まれながらも、後ろ髪を引かれる思いで生まれ育った故郷を捨てて、避難してゆく国民。

帝国軍は未だ、計画当初の防衛線構築を半分どころか、その更に半分も完成出来ていない。

「兎に角だな、『畳の上の水練』でも何でもいい、忙しくさせておこう。 下手な心配事を抱えたままでは、いざと言うとき役に立たん。
指揮官連中には、その辺を言い含めてな? 僕から連中を集めて言い含めるよ、それが仕事だしな」

「内々のフォローは、私の方で。 荒蒔少佐、森宮少佐には?」

「うん、それについても僕から言おう。 彼らに隠し立てする事も有るまい」

本土防衛軍の、防衛方針が示された。 『縦深防御戦略』―――北九州での水際防衛は、放棄されたのだ。
様々な国内問題を抱えながら、様々な犠牲を許容する戦略方針が、軍内部でのみ、密かに策定され、決定した。


「・・・水際防衛か。 13世紀の『神風』同様の神風が吹かん限り、絵に書いた餅だ。 いや、なまじそんなモノが吹いたら最後、行動が制限されて終わりだよな」

深いため息をつきながら、曽我部大佐が独り言のように言う。
その言葉を聞きながら、つい今しがた報告の入ったハイヴ情報を目にした広江中佐は、内心の動揺を隠すのに困難を覚える程であった。








1998年6月15日 2013 北海道苫小牧市 帝国国家偵察局 衛星情報センター 北部受信管制局


『重慶ハイヴ周辺の飽和個体群、約9万に到達。 江蘇省沿岸部の個体群、約2万8000 双方の数字は、尚も増加する見込み』





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