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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 8話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/16 11:02
1999年8月6日 0820 横浜ハイヴ内第2層


「真部、バックアップ! 宮内、美濃、左翼を殺れ! 戦車級だ、他には目もくれるな、後続が始末する!」

『了解!』

『了解です。 美濃! 俺のバックアップだ!』

『はい!』

第2層から第1層へと、突き抜ける様に進む戦術機の一群。 狭い横坑をものともせず、水平噴射跳躍を目一杯かけて突進している92式『疾風』弐型。
先頭の2機が、突撃砲の36mmを薙ぎ払う様に連射する。 後続の2機は、横坑上部から落ちて来る小型種に向けて、やはり36mmの連射を浴びせかける。
1個中隊が小隊毎に縦に並んだトレイル陣形、突破が適うか否かは、第2小隊―――突撃前衛小隊の突破力次第だ。

やがて広い空間―――広間に出る。 途端に四方八方から、急速接近してくるBETAの大群。 それでも陣形は崩せない、そんな大群にかまける余裕は無い。
目前にひと塊になった、戦車級の群れが出現した、距離200。 咄嗟に網膜スクリーン上の兵装選択システムから、36mm砲から120mmキャニスター弾に弾種変更。
高速で突破をかける戦術機の速度が速すぎ、瞬く間に距離が詰まる。 距離150でキャニスターを2連射、鈍い反動と共に目前の戦車級の塊がはじけ飛ぶ。
大きく空いた空間に、脚部のスラスターを偏向させて急制動をかけ、潜り込む。 そこから更に前方へ。 攻撃をかけつつ、ハイヴ内地下茎情報から読み取れる脱出ルートへ。

『周防! ここから南西の方向だ! そちらならBETAの分布が薄い! 古郷! 後ろはまだ大丈夫か!?』

「前方南西方向、下から湧きあがって来ますよ! でもまあ、南東よりはマシか・・・! 畜生! B小隊、突っ込むぞ、続け!」

『後方、距離1200、BETAの団体さんです! もう、≪フラッグ≫も、≪ペガサス≫も、どこに居るのか判りませんよ!』

『ぬう・・・! ≪ライトニング≫はどうした!? 大隊長は!?』

『さっきまで、後ろに居られましたが・・・! ≪ペガサス≫との間に差し込まれて、現在は位置不明!』

「ぬ、うわっ!」

『周防!?』

唐突に、先陣を切っている第2小隊長・周防中尉の奇妙な声に、中隊長・神楽大尉が反応する。 返って来たのは、憤怒に似た周防中尉の声だった。

「前方300、横坑が詰まっています、戦車級! ・・・くそ! 連中、集ってやがる、『陽炎』だ! 軌道降下兵団の連中だ・・・!」

横坑の先、戦車級の群れが小山の様に集っている。 その僅かな隙間から、戦術機の腕部が、脚部が、そして破壊され、転がった頭部が点在していた―――89式『陽炎』だった。
前衛小隊が一瞬止まった。 小隊指揮官の周防中尉と、中隊長の神楽大尉が、網膜スクリーン越しに一瞬視線を交す。 後方の第3小隊長・古郷中尉も無言で頷いた。

「・・・B小隊、弾種、HEAT弾2連射、その後キャニスター2連射。 俺と宮内でHEAT、真部と美濃、キャニスター」

『小隊長・・・?』

『え? HEAT弾?』

周防中尉の命令に、真部少尉と、美濃少尉が訝しげに声を発する。 小型種に対してキャニスター弾は兎も角、HEAT弾など効果が薄い。 
宮内少尉は顔を顰めながらも、予備弾倉からHEAT弾をセットしている。 こちらはどうやら、小隊長の意図を掴んだようだ。

「・・・目標、前方の『陽炎』 道を塞いでいる機体を2機、破壊する」

『ゆ、友軍に砲弾を・・・!?』

『しょ、小隊長、でも・・・! もしかしたら、まだ・・・!』

『・・・いねえよ!』

真部少尉、美濃少尉の動揺に、宮内少尉が吐き捨てる様に言い放つ。

『もう、生きちゃいねえよ! 死んでいる! 喰い殺されるか、運が良ければ機体撃破の時に即死か! あれはもう、友軍じゃねえ! ただの『障害物』だ! ウダウダ言うな!』

若い2人の少尉が押し黙る。 間髪をいれずに、周防中尉が宮内少尉に命令する。

「俺が、右の機体を飛ばす。 宮内、貴様は左の機体を頼むな」

『・・・了解』

お互い、複雑と言うには過ぎる感情が有る。 如何に『国連軍』の臨時指揮下で軌道降下したとは言え、元々は同じ日本帝国軍戦術機甲部隊。
もしかすると、同じ釜の飯を食った同期生が居たかも知れない。 見知った上官、同僚が居たかも知れない。
2人の網膜スクリーンの射撃管制システム、そのレクチアルが僅かに震えながら、ピパーに次第に重なっていく。 
やがて2つが完全に重なり、連続音が長音に―――トリガーを引いた。 120mmHEAT弾が2発ずつ、破損した『陽炎』に吸い込まれた。

戦術機の装甲は薄い。 HEAT弾―――対装甲榴弾を2発も受ければ、機体は内部から破壊され、吹き飛んでしまう。
HEAT弾の直撃を受けた2機の『陽炎』が文字通り吹き飛び、その空間に戦車級だけの群れが現れた。 周防中尉が即座に命令する。

「真部! 美濃! キャニスター! 連中の仇を取ってやれ!」

その声に反射的に反応しながら、半ば茫然とした表情の美濃少尉が、悔しさに顔を歪めた真部少尉が、戦車級の群れにキャニスター弾を2連射、浴びせかける。
狭い横坑で4発のキャニスター弾は、絶大な効果を発揮した。 あっという間に数百体の戦車級BETAが子弾に切り刻まれ、吹き飛ばされ、霧散して行った。

『・・・中隊、移動開始! もう時間は無いぞ!』

様子を見守っていた神楽大尉の声が通信回線に響く。 そう、文字通り時間が無い。 数分前、唐突に復帰したハイヴ内情報制限の解除。
それと共に伝えられた悪夢の様な情報と戦況。 20分ほどでハイヴを脱し、半径10km圏を脱する命令が下されたのだ。
現在第2層。 脱出のリミットまで15分少々、間にあうか? 再び全機が噴射跳躍をかける。 10機―――2機が既に失われている。 健在は第2小隊のみ。

広間から次の広間へ。 その間を繋ぐ横坑を、高速で移動する戦術機群。 先頭を行く周防中尉の『疾風』弐型、その索敵管制システムが、不意にアラート音を発した。

(ッ! アラート! 何だ!? 横? BETA?―――スリーパー・ドリフト!?)

一瞬の数分の一の思考の直後、前方左の横坑壁面が弾けた。

『うおおおお!』

『み、宮内さん!』

「宮内!?」

余りに距離が近過ぎた、そして速度が出過ぎていた。 スリーパー・ドリフトから出現した要撃級BETAの先頭と、宮内少尉の機体が激突した、回避の余裕が無かった。
周防中尉の耳に、通信回路越しに宮内少尉の苦悶の声が聞こえた。 要撃級との激突で、恐らく酷い打撲を被ったか。 あれじゃ、重傷だ。
だが、周防中尉の機体は速度を緩めるでもなく、むしろ最大噴射をかけるかのように速度を増した。 2人の部下の機体がそれに続き、中隊長機や他の機体も続行する。

宮内少尉の機体は、既に後方遥か離された場所で、破損し、動かなくなっていた。

『しょ、小隊長・・・!』

「止まるな、振りかえるな、前に進め! ・・・宮内とあいつの機体が喰われる間は、連中の追撃が鈍る!」

『見捨てるのですか!? 小隊長! ・・・中隊長!』

宮内少尉とエレメントを組む美濃少尉は、動揺している。 周防中尉のエレメントである真部少尉は、必死になって先任の救助を、表情で訴えていた。

『見捨てる? そうだ、見捨てる。 周防中尉の言った通りだ、宮内少尉の『死の間』に、我々は脱出する! 真部少尉、宮内少尉の死の意義を、失わせない為だ!』

中隊長・神楽大尉の言葉に、真部少尉が絶句する。 年若い2人の少尉の言葉への、2人の上官の返答(直属上官は、無言だったが)は、余りに冷酷に感じられるものだった。

『・・・こりゃ、げふっ、む、無理だ・・・機体は動かねえし、肋骨が内臓をやってるぜ・・・がはっ!』

不意に大破した機体の中の、宮内少尉の声が聞こえた。 まだ生きていた―――重傷の様だった。

「・・・宮部、S-11の起爆は、もうチョイ待ってくれよ。 俺達を巻き込むからな・・・」

『・・・無理っすわ、小隊長。 俺の機体、それ積んでねえもん・・・』

「貴様、またかよ」

『スンマセンね、命令違反常習の部下で・・・ 拳銃は、持っています』

通信回線越しに、息苦しそうな宮内少尉の声と、BETAが装甲を齧る音が聞こえた。 要撃級だけでは無い、後方に置き去りにした戦車級の群れの残りも集って来たのだろう。
もう1分もしないうちに、宮内少尉は生きたままBETAに喰い殺されるか、拳銃自決するかの選択肢しか無くなるのだ。 想像を絶する恐怖だろう、人生の最後の時間が。

「・・・貴様のって、45口径だったよな。 なら、脳みそを一発で吹き飛ばせる。 一瞬だ、宮内、一瞬だ」

『最後の気遣い、アリガトさんです。 ・・・最後に朗報をひとつ。 お、俺の機体のレーダーに、げほっ・・・ さっき、大隊長機と、≪フラッグ≫が映りました・・・
がふっ! ・・・はあ、はあ・・・どうやら、同じ方向に、向かっている様ですぜ・・・機数はたったの、6機しか居なかったですが・・・』

咄嗟にハイヴ内地下茎情報を呼び出す。 中隊の進路と、宮内少尉の情報。 第1層のS-01-06広間、この辺りで合流できる!
それにしても、たったの6機とは・・・ 指揮小隊が2機失われ、≪フラッグ≫中隊も2機が失われた時点で、あの破局が訪れた。
それから僅か数分しか経過していないと言うのに、瞬く間に6機の戦術機が―――同じ大隊の戦友が死んだと言うのか。

一瞬の思考。 神楽大尉は死にゆく部下を内心で悼み、個人的に想う上官の無事を願う。 古郷中尉は戦友達の冥福を一瞬のうちに済ませ、次の瞬間、周囲の警戒を始める。

「・・・宮内、もういい」

『・・・世話になりました、小隊長・・・』

途端に、銃声が耳に響いた。 拳銃自決を遂げた宮内少尉の銃の音が、通信回線に流れたのだ。

「・・・もういい、宮内、もういい・・・」

周防中尉は、小さく呟き続けていた。











「器材も、装備も、全部捨てて行け! 人だ! 人員の確保だけを最優先するんだ!」

戦術機甲連隊の本部で、師団参謀の周防大尉が声を張り上げていた。 米軍のリエゾン・オフィサーからの『非公式』通達の直後、師団司令部から同様の正式伝達が為された。
同時に、即時撤収命令も下された。 こちらは20分以内に、ハイヴから半径10km圏以遠に脱出せよ、との命令だった。
連隊本部が有る場所からでさえ、7km程離れなければならない。 しかも、西から米軍部隊が南北に離脱した戦線から、1万前後のBETA群が迫る状況下でだ。

「BETA群はもうすぐ、東戸塚に達する! 時間が無い、CP要員は指揮通信車両に乗り込め! 磯子から鳥浜あたりまで、急行しろ!
整備、補給、医務隊は兎に角トラックでも何でもいい、車輌に乗り込め! 装備を持って行く時間は無いぞ!」

師団本部より、緊急かつ、臨時で撤退作業指揮官に任じられた周防大尉が、混乱を極める連隊本部内を、声を枯らしながら指示を出し続けていた。
元より、指揮通信車両での戦闘管制が主任務のCP将校達は、部下の要員をひきつれて、『各自の』車輌に飛び乗って、猛速で離脱して行く。
他の通信要員、更には整備や補給、医務隊要員達は、師団の差し向けたあらゆる種類の車輌に飛び乗って離れつつあった。
負傷者も、担架に乗せられ、そのままトラックの荷台に乱暴に上げられ、運ばれてゆく。 勇敢な少数の衛生兵たちが、付き添っていた。
重傷を負い、戦死した将兵の回収した遺体は、運ぶ余裕が無かった。 ドッグ・タグを割って回収だけして、戦友の敬礼だけを敬意の代りに、置き去りにされた。

8月6日、0810時、総軍司令部から各軍司令部へ。 軍司令部から軍団司令部、そして師団司令部へ。 信じられない早さで、撤退命令が下された。
各部隊は訳が判らず、だが上級部隊より『大規模破壊兵器が、使用される』との情報に総毛立ち、大混乱と共に撤収を開始し始めたのだ。

「周防参謀! 第1大隊18機、第1層S-01-02広間に到達! ハイヴ脱出まで、あと3分!」

第1大隊CP将校である、江上聡子大尉が大声で知らせて来る。 大隊CP将校だけはまだ、撤収していなかった。 最後の管制を続けていた。

「第2大隊、SE-01-03広間! あと3分20秒!」

「第3大隊、SW-01-02広間! 脱出まで2分50秒!」

第2大隊CP将校の富永凛大尉、第3大隊CP将校の月島瑞穂大尉もまた、『自分の』大隊への、最後の脱出管制を続けていた。
そして3人から報告を受けた周防大尉が、脇の戦況管制ボードを見やった。 3個大隊の脱出は、およそ3分少々で終わる。 
そしてBETA群は、急遽差し向けた軌道降下兵団の生き残り、40機の89式『陽炎』部隊の死闘により、僅かにその速度を鈍らせ、時間的距離で約7分の所まで来ている。

(・・・7分。 陸路での脱出は、無理だ。 このままここで管制を続ければ、途中で喰われる)

「・・・オービット・ダイバーズ、臨編第1大隊! 1号線を確保せよ! 繰り返す、0830まで1号線を確保せよ!
その後は南下、港南台から金沢区まで南下! 旧米軍横須賀基地跡地に集結せよ! 繰り返す! オービット・ダイバーズ臨編第1大隊・・・!」

目前で、連隊5科長の綾森大尉が、最後の阻止戦を張るべく抽出された軌道降下兵団の生き残り部隊へ、戦闘管制指示を出す姿が有った。
0830.まで1号線を確保。 それならばBETAの進撃速度を換算しても、ギリギリ陸路での脱出は適うか。 いや、どうだろう? 突撃級が最大速で突進すれば、危ない。
整った顔を、悲壮感を滲ませて戦闘管制を行う綾森大尉―――自分の妻の姿を見つつ、周防大尉は非常に場違いに思える記憶が蘇り、少しだけ苦笑した。
昨年の夏、京阪神と京都を巡る防衛戦の直前の記憶だ。 彼の上官で有った(今もだが)広江中佐が、夫君の藤田大佐の頬を張った場面に出くわした事が有った。
その直後に、事情を上官から聞いた時は、訳知りなセリフを吐いたものだったが・・・ いざこうして、自分の妻が生死の保障も定かでない窮地に身を置いていると・・・

(・・・藤田大佐の気持ちが、ようやく本当に判った気分だな・・・)

ほんの一瞬だけ、本気でそう思った。 いっそのこと、自分の妻だけ最優先で脱出させたい、そんな誘惑に囚われている事を自覚した。

「第1大隊、最後の横坑に突入しました!」

「第2大隊脱出路の直近、S-31ゲートよりBETA群! 要撃級11、戦車級33体、他小型種40体!」

「ゲート阻止の機甲部隊が居ません! 後退した後です! 自動銃砲座、8割損失!」

全員が戦慄する。 場所は近い、精々が2分ほどでここまでやってくる距離だ。 そしてここにはもう、自衛手段は無い。
全員が一瞬、撤退作業指揮官である周防大尉に視線を集中させた。 だが彼とて、この様な状況で都合良く妙手を出せるものではない。

「周防、連隊付き中隊が残っている。 歩兵だが、ハチヨン(カールグスタフ)も、LAM(パンツァーファウスト3)もある、要撃級はこれで相手をする。
小さい連中は・・・MINIMI(5.56mm軽機関銃・分隊支援火器)で何とかなるだろう。 戦車級だけは心もとないのでな、74式(7.62mm機銃)を降ろしてきた」

唐突な声に振り向くと、連隊長の名倉大佐がハチヨン(84mm無反動砲・カールグスタフ)を手に、現れた。 その姿を見た周防大尉が絶句する。

「・・・大佐、撤退は・・・」

「しとるよ。 主だった幕僚連中は、もう撤退させた。 だがまだ、ここには儂の部下が残っておるからな」

そう言って、少数残ったCP将校と、その直属要員達を見回す。 そして妙に晴れ晴れした表情で、周防大尉に向かって言い放った。

「まあ、満足に連隊指揮もできなんだ俺だが、最後に生き残った部下だけは、逃したい。 流石に戦術機部隊は勝手が違うな、周防。 貴様を折角、寄こしてくれたのになぁ・・・」

「・・・この状況では、誰でも同じだったはずです」

「そうかもしれん、そうでないかもしれん。 ま、判断は他のヒマな奴に任すさ。 でな、大半が女性将校のCP部隊を見捨てるのは、男の沽券に関わる、そう言いおってな」

名倉大佐がちらっと、後ろに控える連隊付き中隊の指揮官を見る。 余り言葉を交した事のない大尉だが、確か予備士官学校出身の歩兵大尉だ、まだ若い。
笑っている。 恐らく、確実に戦死するだろう任務に就くと言うのに。 目が合った、多分、周防大尉より1、2歳若いだろう、20代半ば前と言った所か。

「撤退作業指揮官は、本分を全うして下さい。 自分は、自分達は、己の本分を全うします」

生身でBETAと対峙する恐怖。 特に市街戦では発見しにくく、動きも俊敏な小型種は身近な恐怖だ。 なのに、若い大尉はそう言い切った。
大尉の後ろで、中隊先任曹長が不敵に笑っていた。 同じように、各小隊長達も―――まだ、20歳前後の若者たちもが。

「・・・お願いします、大佐殿」

「願われた、大尉。 おい、ところで俺の部下達は、どこまで脱出した?」

「もう、あと1分ほどで、ハイヴから出てきます」

「そうか。 ・・・随分と、死なせたな。 宇賀神や荒蒔、木伏に、俺が謝っていたと、そう伝えてくれ」

「・・・はっ」

最後にもう一度笑って、名倉大佐は1個歩兵中隊を率いて、連隊本部の西に、『最後の』防衛線を張りに出て行った。
その後の数分の事は、余り良く覚えていなかった。 3つのゲートから次々に181連隊の各戦術機甲大隊が脱出して来た。
定数はおろか、半数の機体を維持している大隊すら、無かった。 最後のハイヴ内のBETAによる奇襲、あれに大半がやられてしまった。

「第3大隊側面、BETA群1600出現!」

『第2大隊だ! 後ろからBETAが約4500! 直ぐ後ろだ!』

「オービット・ダイバーズ臨編第1大隊、1号線を支えきれないわ! 損失増加!」

「14師団141連隊、こっちに向かってきます!」

「141が!? 繋げ!―――181撤退作業指揮官です! 141、こっちは地獄の大釜だ!」

『こちら141! こっちはそれ以上だよ! その声、直衛!?』

「!? 愛姫!? 師団副官部のお前が、どうして!?」

『詳しい話は後で! 圭介が予備の1個小隊を連れて、さっき出撃したけど、たったの3機なのよ! 西は完全にBETAに押さえられたよ!』

「愛姫ちゃん・・? 伊達大尉! 181、綾森大尉です! オービット・ダイバーズの南から!?」

『そう! アメちゃんの抜けた大穴から、わんさかと! 海軍の1個戦術機戦隊が阻止線張っているけど、多分無理! BETAは1万以上! 予想以上に早いよ!』

もう、戦況がどうなっているのか、誰も判らない。 友軍の海軍聯合陸戦師団も大混乱だし、西方に布陣していた第1軍団がどうなったのかも、全く判らなかった。
その時、唐突に米軍の車輌が猛スピードで現れ、急停車した。 飛び出してきたのは、リエゾン・オフィサーのプリシラ・モードリン・オハマ大尉だった。
そして何故か、2名の衛士も同乗していた。 1人は見知った顔、米陸軍第2師団のオーガスト・カーマイケル大尉。

『直衛! 直ぐに南の製油所パースまで行って!』

『プリシラ!? 製油所パース?』

『海軍がLCAC(エア・クッション型揚陸艇)を2隻出すのよ! 製油所パースに! もう向かっているわ、時間が無い! 早く!』

『・・・やられてね、機体が大破した。 何とか脱出したは良いが、部隊に置き去り喰らってね』

急かすオハマ大尉の脇で、カーマイケル大尉が苦笑している。 米軍は被撃破された衛士の救出に熱心だが、それだけで2隻ものLCACを出す?

『ラッキーよ、どこをどう通ったか、奇跡的に海軍の艦隊司令部に、ここの連隊の救助要請が通ったのよ! 私も便乗! この下手糞な衛士もね!』

銃声がはっきりと、大きくなった。 どうやら名倉大佐の『中隊』が、押されている様だ。 時間が無い。

「・・・全員、どの車両でも良い、乗り込め! 製油所パースまで飛ばせ! 米海軍のLCACが待っている、急げ!」

その声に、全員が各車輌に飛び乗った。 指揮通信車両をスタンバイさせていたCP将校達は、最後の管制を行いつつ脱出する。

『第1大隊! 西は無理です! 南西もBETA群が接近中! 横浜港から低空NOEで東へ! 海上を房総半島まで脱出して下さい!』

『第2大隊、第1大隊に続行を!』

『141連隊と合流後、第3大隊は第1、第2大隊に続行せよ! 気を付けて下さい、光線級の所在確認が出来ていません! 高度制限、30です!』

『オービット・ダイバーズ! 脱出せよ! 阻止線維持任務は解除された! 脱出せよ! BETA群は南方に回った! 北部の西関東防衛線に合流せよ!』

西隣に布陣していた14師団の141連隊の残り―――師団副官部の伊達大尉が率いていた―――も合流する。
こちらは管制科や、極少数の整備や医務隊の連中さえいる。 何かの手違いか、脱出手順が狂ったか。
走り去って行く車輌群から、早口の管制指示が聞こえた。 その車輌群を見ながら、周防大尉は並走するジープの助手席に座り、自嘲した。

「・・・『撤退』作業指揮官としては、まだ居残っている連中がいるってのは、なあ・・・」

名倉大佐の『中隊』を振りかえる。 任務はほぼ、完遂したと言っても良い。 米軍は自分達を拾い上げ、安全な場所へ運んでくれるだろう。 予定された0835まで、あと10分。










『南と西に逃げ場は無い! 全機、東への突破口を開くぞ! 神楽! 貴様の中隊でこじ開けろ! 佐野、羽田! 貴様らは神楽の後に続け! 突破口を拡張しろ!』

ハイヴから地上に脱出したは良いが、周りは一面、BETAに埋め尽くされていた―――衛士達はもう、どんな悪夢も、悪夢と感じられなくなる程、疲弊していた。
隣接する区域で第2大隊が、僅か17機が残った戦力で、数千のBETA群の壁をこじ開けようとしていた。 それに第3大隊と141連隊の2個大隊が続く。

『宇賀神さん、そっちも手荒くやられたな』

網膜スクリーンから、かつての同僚で有る141連隊先任大隊長の、岩橋中佐が呼びかけてきた。 141も酷い有様だった、旧35師団生き残りの第3大隊は、全滅した。
残った第1、第2大隊も、半数以上を失っていた。 全ては最後の最後で、BETA共にしてやられた結果だった。 今や2個連隊で、健在な戦術機は80機もいない。

『やられたよ、最後の第3層から第2層で、決定打を打たれた。 そっちも似た様なものか―――海軍は?』

『さっき、這い出てきたのを見かけた。 だが、BETAに差し込まれて以降は所在不明だ。 何とかするだろう、連中は連中で。 こっちと同数は残っていたようだ』

先頭を切る神楽大尉の第1中隊が、吶喊をかけた。 第2大隊の第2中隊―――『吶喊娘』の美園大尉の中隊、それに第3大隊の摂津大尉が指揮する、第3中隊と共同で。
2方向から、一箇所に集約するように攻撃をかける。 BETA群の『壁』が、徐々にひび割れ始めていた。 半数強に減った3個中隊だが、更に突破の勢いを増す。

『悲惨なのは、突入機動大隊か・・・ 200機余りの内、3割しか残っていない計算だ。 30機はこっちの後ろに付いているが、残りは?』

『多分、海軍の方だ』

しかし一番悲惨なのは、国連軍の『極秘計画部隊』の直援に回された連中だった。 第3層で奇襲を受け、各々が完全に孤立した。
今尚、ハイヴ内で孤立している。 もう脱出は不可能だ、助ける余地は失われた。 2個大隊がじりじりと、全滅に向かってハイヴ内で勇敢だが、虚しい苦戦をしている。
同時に、例の『極秘計画』の専属部隊が6個中隊、同じ場所で孤立していた。 合計で4個大隊、突破は出来ないのか?―――出来なかった、数万のBETA群に進路を阻まれては。

『ステンノBよりソードB、フラガB! 正面の要撃級だ、20体! あれを潰す!』

『ソードB了解! 確かに、あれは蝶番だ。 あそこを突破しなきゃ、海上に出れないぜ!』

『フラガBも了解! つっても、こっちは2機だけだ、八神さん、組んでくれ!』

22中隊・八神中尉、11中隊・周防中尉、33中隊・蒲生中尉の各突撃前衛長達が、咄嗟に『壁』の突破口を見出し、攻撃に移った。

『おう、こっちも2機だけさ・・・下手打ち過ぎだ、2人死なせちまった。 蒲生、そっちは鳴海だけか?』

『そうっす。 周防の所がマシか、真部と美濃が生き残っている!』

『こっちも、先任の宮内を死なせた! 八神さん、蒲生! 先頭任せていいか!? こっちは新米込みの3機だ、バランス良く無い!』

22中隊B小隊と、33中隊B小隊は、それぞれ残存2機。 11中隊B小隊が3機。 合計7機の突破力、甚だ心もとない。

『しゃあねえ、こっちも先任の前崎を失っているが・・・おい、及河(及河奈緒少尉)! ケツについて来い!』

『周防、バックアップ頼むぞ! 鳴海、先任の意地、逝った連中に見せてやれ!』

『了解! エレメントを失って、意地もクソも無いですが!』

『バックアップ、了解! ヤバいぜ、本当に! 核かなんか知らんが、リミットまであと5分!』

背後から、各中隊の後衛小隊から誘導弾が撃ち出される。 前方に着弾、要撃級は余り損害を受けていないが、周囲の小型種は見事に吹き飛んだ。
そして各中隊の左右後衛小隊の生き残りも、一気に距離を詰めてきた。 流石に定数大幅割れの突撃前衛小隊だけでの突破は無理と、各中隊長が判断したのだ。

3個中隊で20機弱の戦術機の群れが、一気にBETAの群れの中に突入した。 先頭集団は見事な多角機動で要撃級の間をすり抜け、高速接地旋回での攻撃を交し、砲弾を叩き込む。
後続集団はその後を、拡張する様に左右に攻撃を仕掛ける。 やがて徐々にBETA群の『壁』がこじ開けられようとしていた。 その隙を、各大隊長達は見逃さなかった。

『よし、全力攻撃だ! 全ALM発射!』

『181に続け! 141残存全機、突入せよ!』

『先鋒に続け! 何としても突破するんや、ええな!?』

80機に近い戦術機が一丸状態になって、脱出ゲートの旧山手付近から一気に海岸線に向け、突破を図る。

『ソードB! 左から要撃級、行った!』

『やばっ! 気を付けろ、真部! ・・・真部!』

『ひっ! ぎゃ!』

廃墟の陰の至近から、突如現れた要撃級の前腕の一撃を、まともに管制ユニットに受けた11中隊B小隊の真部紗恵少尉機が、吹き飛ばされるように別の廃墟に激突して停止する。
一瞬目を瞑った上官の周防中尉が、次の瞬間ポジションを修正して部下にも伝える。 もう、部下は―――真部少尉は救えない。 宮内少尉の時と同様に。
部隊は猛速で、脱出ポイントに向けて高速移動中だ。 損傷機の確保など、そんな余裕は無い。 大隊長、中隊長もそう命じていた。

『美濃! 何が有っても、俺から離れるな! 絶対に離れるな!』

『りょ、了解!』

先に首都高の残骸が見えた。 あの向うが海岸線だ、脱出ポイントだ。

≪デリング11、デリング12! 引き返せ、命令違反だ!≫

不意に別部隊の通信が聞こえた、混線しているのか? 対するデリング11、12と呼ばれた機体の衛士の声は、良く聞こえなかった。

(・・・どこの物好きだ? 引き返せ? まさか逆襲しに行っているんじゃ、ないだろうな? だったら、そいつは勇敢でも何でもない、戦況の見えない、只の大馬鹿だ!)

人の事は言えないか。 ハイヴ内じゃ、スリーパー・ドリフトへの警戒が薄れた。 さっきは市街戦なのに、周囲の警戒を怠った。

(・・・そのお陰で、2人死なせた! 俺が、死なせた!)

やがて旧光菱の工場跡が見えた、その向うに東京湾。 更に減じて70機強になった141、181の2個戦術機甲連隊の生き残りが、一斉に超低空NOEで洋上へ脱出した。

―――タイムリミットまで、あと3分。













『本当に、どうにかしているよな、お前も。 よりによって、バッタ(歩兵の陸軍内の通称)の真似事かよ?』

轟音と共に、1機の92式『疾風』弐型が接近して来た。 エンブレムから14師団所属機と判る。 それ以上に、その声で誰か知れた。 
随分と機体にBETAの体液がこびりついている。 格闘戦は余りしない奴だったが? 単眼式の簡易ヘッドセットの網膜スクリーンに現れた姿―――14師団の同期生の姿が有った。

「いいよな、お前は。 戦術機に乗れて」

『役得。 それよりどうだ? 1機でも戦術機が居た方が、心強いだろう? それが3機だ、喜べ、敬え、感激しろ』

「と、言っておりますが、大佐殿?」

「・・・貴様らの様な大馬鹿者、見た事が無いわ!」

『生憎、この調子で生き残ってまいりましたもので―――14師団作戦課、長門大尉であります、大佐殿』

製油所パースの一角で、『半個中隊』の歩兵部隊と、1機の戦術機が押し寄せるBETA群を相手に、絶望的な防戦を繰り返していた。
途中で参戦した14師団の長門大尉率いる3機の92式『疾風』弐型の援護で、名倉大佐の『中隊』は全滅を免れた。
そしてその援護の元、製油所パースまで後退して来たのだが、LCACの安全圏離脱の為に、どうしても最後の防戦が必要となった。
そこで中隊はギリギリの場所で、阻止線を敷いた。 脱出する筈の周防大尉や、長門大尉の率いる3機も合流して。

―――あと1隻、米海軍がLCACの都合を付けて呉れる手はずだったのだ。

長門大尉の機体から、突撃砲が火を噴いた。 接近して来た数10体の小型種BETAが、一気に殲滅される。
同時に水平噴射跳躍をかけ、迫って来た要撃級の集団、その内の2体に急接近する。 直前でスピンターンをかけ、急速で側面を取り36mmの連射で2体を始末する。

『戦車級以外の小型種は、これで終いです! 戦車級も・・・これで終わり!』

120mmキャニスター弾を浴びせかけ、残った20体程の戦車級BETAの群れを片付けた。 後は要撃級が9体。

『ちとホネですが、殺れない数じゃないな。 誘導しますから、2、3体をハチヨンとLAMの集中射撃で仕留めて下さい。 残りは自分達が仕留めます』

「任せろ、長門大尉。 ・・・周防? 何をしている?」

指揮所(の代わりの廃墟)から長門大尉に向かって了解した名倉大佐が、横でヘッドセットを弄くりながら、難しい表情をしている周防大尉を振りかえって問いかけた。

「・・・長門大尉、貴様、6000体のBETA群相手に、3機で押さえる自信、有るか?」

『無い。 戦況に変化が?』

3機がシザースをかけ、ほぼ同時に4体の要撃級を左右から砲弾を浴びせかけ、始末する。 同時に背後を見せた3体の要撃級に対し、廃墟から10数発の対装甲弾が発射された。
脆弱な背後に対装甲弾の直撃を(それも何発も)受けた要撃級が、体液を撒き散らし、地響きを立てて倒れる。 その挙動に勘づいた残りが接地旋回をかけるが・・・

『―――それだと背後が、ガラ空きになるな。 これで終いだ!』

長門大尉の指揮する3機の戦術機から放たれた36mm砲弾が、残った要撃級の後部胴体に吸い込まれ、幾つもの弾痕を残して全ての要撃級が地に倒れた。

「常に変化している。 ウチの第1大隊の通信を傍受した、ハイヴ内から3万以上、4万未満のBETA群が湧き出てきた。
一部がこっちに向かっている、約6000前後。 こっちの戦力は歩兵半個中隊に、戦術機が3機―――なあ、圭介。 こんな状況、過去に有ったか?」

『無い。 最悪だな』

周防大尉の声が乾いている。 これっぽっちの戦力で守る拠点に、6000ものBETA群。 過剰殺戮も良い所だ、連中、自分と気前がいい。
BETAの残骸を見詰めながら、向かってくると言うBETAの大群の方向―――横浜ハイヴの方角を見ながら、長門大尉も乾いた声で言い返した。

「ふむ、もう脱出は不可能か? ならば長門大尉、貴様は離脱しろ。 14師団の貴様をここで死なせては、面目が立たんからのう」

『生憎と、LCACが安全圏に脱するまで、ここで頑張ってみます、名倉大佐。 光線級が居ればヤバいですし。 あ、部下達は脱出させます、これは自分の我儘ですので』

「・・・理由は?」

そこまでして、死守する理由は? 師団参謀ならば本来は、もうずっと前に脱出して居て然るべき。
予定では、米海軍のLCACが到着するのは5分後。 タイムリミットを若干過ぎているが、こう言う事は大体、数分の余分を見ているものだ。
何とかギリギリ、脱出できるかどうかの瀬戸際。 そんな場面に付き合う事は無いだろう。 もう西方は完全に脱出不可能、ルートはこの横浜港南部から、海に出るしかない。

『馬鹿な爆弾娘が・・・もうそんな年じゃないですが、まだ安全圏に達しきっていないようで。 よりによって、最後のLCACに乗船している様でして』

「長門大尉、貴官の相手か? 婚約者か、何かなのか?」

『その予定です―――周防大尉、笑うな』

澄ました表情だった長門大尉が、少しだけ顔を赤らめて周防大尉に文句を言う。 お互い、親友と言える同期生―――それ以前からの付き合いだ、ポーズも取れやしない。

「済まん。 だが、有難う、長門大尉。 俺の妻も、よりによって、付き合って残っていた様だ」

『お仕置きだな、後で』

「・・・全くだ」

さて、LCACが安全圏に達するのが先か。 6000体のBETA群、恐らく光線属種も居るだろうBETA群が殺到するのが先か、それもこの2、3分で始末がつく―――その時だった。


≪This is USSC(US SPACECOM:合衆国宇宙軍) We notify all-units in the war area!(こちら合衆国宇宙軍! 戦域内の全部隊に告ぐ!)≫

唐突に、全周波数域に強力な通信が割り込んできた。

「・・・USSC? 米宇宙軍が?」

「何事だ?」

『くそ、こっちの通信周波数帯まで押さえられている、司令部との通信が効かない・・・?』

≪Evacuate immediately! We have decided to use the new anti-hive weapon! Repeat! Evacuate immediately!≫

その声を聞いた周防大尉と長門大尉、そして少しでも語学に通じていた将兵は、顔色を変えた。

「即時撤退? 新型の・・・対ハイヴ兵器?」

「核じゃないのか? 戦術核とかじゃ? あれなら爆心から4kmも離れていれば、助かる可能性が有る・・・」

「ヤバいヤツ、なのか・・・? 米国の、新兵器?」

皆が口々に、異様な不安を表していた。 中でも周防大尉の顔色は、土色に近かった―――歴戦の大尉が、完全に血の気を引いていたのだ。

「やりやがった・・・G弾、だ・・・」

「周防、何だと? G弾? あの『五次元効果爆弾』と言われるヤツか!? まさか、本気で帝国本土に落すと言うのか、米国は!?」

「もう、投下されています、大佐! 全員、どこでも良い、物陰に身を隠せ! 体を固定しろ!―――圭介! 戦術機、対衝撃姿勢防御! BETAを気にするな!」

『BETAどころじゃない、か! 各機、対衝撃防御姿勢を取れ! 何か判らんが、兎に角身構えろ!』

周防大尉の声に、全員が廃墟の中のどこか―――階段の陰、部屋の片隅―――に身を寄せる。
丁度周防大尉と同じ場所に飛び込んできた名倉大佐が、顔を近づけて周防大尉に怒鳴った。

「周防! 貴様、『アレ』について、何か知っているのか!?」

「全容は知りません! ですが、国連軍時代に『アレ』に関する、著名な研究者の警護を務めました! その際に、少しだけ!」

「何と!?」

「実用化される時は、有効半径の制御が可能になった時だと! そして有効半径以外に効果は及ばない筈だと!
しかし、その後に『爆心』に向けて、急激な大気の流入が有る可能性が! もしかすると、FAEBの逆パターンが!」

FAEB―――燃料気化爆弾による被害の大半は、急激な気圧変化による内臓破裂や、急性無気肺に、一酸化炭素中毒と酸素分圧の低下による合併症、それによる窒息死である。
周防大尉の聞き及んだ限りでは、恐らく『爆心』内部は異常な低気圧化となっている可能性が有る事。 それによって周囲から大気の流入が、勢いよく生じる可能性が有る事だ。

「ガスマスクは無いぞ! それにこんな海の近くだ、海面上昇は!?」

「有っても無意味です! 可能性は有ります!」

2人して身を縮こませる、生きた心地がしなかった。 今している事は、『G弾』の有効半径外だと言う事が大前提だ。 もし半径内だったら・・・戦死者リストの仲間入りだ。
頭部は『ライナー(88式鉄帽)』で保護している、同時に両手を膨らませて合せ、口元に充てる。 生き埋めになっても、呼吸を可能にする為の方法だ。

≪・・・Repeat! Evacuate immediately! We have decided to use the new anti-hive weapon!・・・≫


唐突に、凄まじい圧力を伴った衝撃波と、呼吸すら出来ない程の暴風が吹き荒れ、襲い掛かって来た。





1999年8月6日0810、米宇宙軍は地球周回低軌道高度104kmで、2隻のHSST『キャハン』、『スコット』から、2発のG弾を軌道投下する。 

1発目は6日0838時、横浜ハイヴ上空256mで臨界制御を解放させた。 続く2発目はそれに遅れる事7秒後、高度242mで臨界制御を開放させた。




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