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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 7話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/10/10 02:06
1999年8月6日 0505 旧横浜市西部 米第2師団


『16斉射・・・ファイア!』

M110 A2・203mm自走榴弾砲、M109A6・155mm自走榴弾砲『パラディン』の群れが、西方に向けて砲火を切った。 203mm、155mm砲弾が唸りを上げ、飛翔して行く。
隣の砲陣地では、CH-47チヌークや、CH-53Eスーパースタリオンの機体下に吊り下げての緊急空輸で運ばれ配置転換して来た、M198・155mm榴弾砲が砲火を放つ。
10km程南に離れた米海兵隊第3師団担当戦区からは、M198・155mm榴弾砲の他、より軽便な運用が可能になった、多数のM777・155mm榴弾砲が砲撃準備を整えた。
この砲は重量7000kg超のM198に比して、僅か3000kg超でしかない。 為にUH-60ブラックホークや、UH-1N ツインヒューイのような中型汎用ヘリでも空輸可能。
他にもティルトローター機のV-22 オスプレイでも、機外に吊り下げて輸送することが可能となった。 海兵隊や陸軍の山岳師団、空挺師団では主力となりつつある。

『BETA群、A群は約9000。 フィリピン軍の正面に向け侵攻中、距離1万2500。 B群、約1万1000、我が軍正面に向け侵攻中、距離1万3500』

反転した当初は、A群が1万1500、B群が1万3000の合計2万4500だった。 今は2万、凡そ4500体程を日本軍と国連軍が後背から追撃撃滅した計算だ。
連中とて、熱烈歓迎の土壇場で『振られた』のでは、立つ瀬も無いと言う所か。 冒険的な機動戦を得意とするジェネラル・シマダ(嶋田大将、第9軍司令官)は兎も角としてだ。
慎重な戦巧者として知られるジェネラル・オカムラ(岡村大将、第8軍司令官)までもが、指揮下全部隊を挙げて、全力で追撃戦を開始している。
もっとも、ここでBETA群をヨコハマハイヴに戻そうものなら、極東戦線はお終いだ。 この国も長く保たない。 戦術視点でなく、戦略視点で見れば両将軍の焦りは当然だ。

『弾着観測機(RF-4EファントムⅡ・アビオニクス、光学兵装を充実させた偵察型戦術機)からの着弾データ、受信』

『第20斉射、開始!』

『火力旅団(第210火力旅団)本部より、第30斉射まで継続予定との事です!』

『1st・BCT(第1旅団戦闘団)、2nd・BCT(第2旅団戦闘団)、3rd・BCT(第3旅団戦闘団)、配置に着きました。 4th・BCT(第4旅団戦闘団)、バックアップ、スタンバイ』

『海兵隊第3師団、オープン・ファイアリング!』

『海軍より入電! 『アイオワ』、『ニュージャージー』、『グアム』、ヨコハマ・ベイにオン・ステージ! JIN(日本帝国海軍)の1st・Fleet(第1艦隊)、続きます! 艦砲射撃開始!』

南東の海面から、とてつもない轟音が鳴り響いた。 海軍の2戦艦と1隻の大型巡洋艦が、長砲身の16インチ砲と12インチ砲を放ったのだ。
それだけでは無い、日本海軍の化け物戦艦群が、20インチ砲と18インチ砲を放ったのだろう。 陸軍の重砲など、比較にならない大口径砲を。
頭上を特急列車が轟音をあげて通過して言った様な感じだ、暫くしてこれまた大音声の着弾音。 ここまでズシンと響く。

『・・・RF-4Eより入電。 ≪BETAが纏めて1000体以上、吹き飛んだ。 迎撃レーザー照射は200本以上。 効力射を要請する≫、です』

『軍団司令部より命令、≪全力火力支援に移れ。 残弾を気にするな、砲身摩耗を気にするな、代わりは幾らでも有る≫、です』

おお、まさに物量こそ正義。 これぞ合衆国の戦争。 ならば―――その物量、BETA共に思い知らせてやる。 我々こそが、物量戦の元祖だと言う事を。

「師団長命令、全力で撃ち倒せ―――キル・BETA、キル・BETA、キル・モア・BETA!」

無数の203mm、155mm砲弾が更に勢いを増して放たれる。 MLRSからは多数のミサイルが発射され、海上からの攻撃も勢いを増した。
旧横浜市街西方地域は今や、光と炎の壁が、天と地を覆う業火に包まれていた。 その業火は迫りくる異星起源種の集団を包み込むように、次第に狭まりつつあった。









1999年8月6日 0525 旧横浜市南部 第13軍団第18師団司令部


「ハイヴ内戦況は、既に第4層まで押し返されております。 北部、西部戦域も同様」

師団作戦課の九重少佐が、上官である広江中佐に向い、やや憔悴の色を見せながら報告する。 宮元少佐と2人、全体の作戦経過の確認と修正を行ってきたストレスだ。
隣でその宮元少佐が無言で頷く。 彼らにしてみれば、打つ手、打つ手が次々に破綻していく様は、悪夢以外の何物でもないだろう。

「この1時間ほどの戦闘で喪った戦術機は、幸いにも3機だけで済んでおります。 ですが西部の第1軍団では13機が、北部も16機が喪われました。
他にも既に8時間以上、戦闘が続いております。 軌道降下兵団の生き残りを再編成して投入しましたが、それでも衛士達の疲労はピークを過ぎています。
それに整備が必要な機体も。 中には、だましだましで出撃している者も。 我々の継戦能力は、徐々にですが失われつつあります」

宮元少佐の指摘に、皆が戦況表示盤横の数字を見返す。 現在、181戦術機甲連隊は定数120機の内、25機が失われて95機。 141連隊もほぼ同じだ、93機。 合計188機。
他に海軍聯合陸戦第3師団が第31、第32、第33戦術機甲戦隊(連隊)。 こちらは最新の96式『流星(A/B-17A)』で固めている、残存は3個戦隊で291機(定数360機)。 
他に『突入機動大隊群』から生き残りが、14個大隊で残存208機。 これを帝国軍(陸海軍混成)の108機と、国連軍の100機に分けて第13軍団の臨時指揮下に置いている。
総数で687機。 数だけ見れば十分以上の戦力を維持しているが、半数以上は既に整備が必要な機体だったし、衛士の連続戦闘時間は限界に近付いている。

数字を見つめたまま、作戦課員の周防大尉が絞り出す様な声で言った。

「合計7個連隊。 その内、陸戦隊の1個連隊は米軍の2個連隊(第2師団第4旅団戦闘団指揮下)と、米海兵隊第3師団(指揮下の1個戦術機甲連隊)とで、戦域確保任務・・・
使えるのは、定数を割った6個連隊分の戦力。 交替で3個連隊毎に投入と後退・修理補給を継続していますが、正直言いまして、あと2時間が限界です。
それ以上は人が―――衛士が保ちません。 機体の前に、衛士の肉体的疲労が限界を超えます、次いで精神的疲労の限界も。 部隊は文字通り壊滅します」

自身も長い間、戦術機を駆って、戦場を往来した周防大尉の言葉だけに、同じ歴戦の衛士出身の広江中佐を除く全員が、その言葉に顔色を変える。
2時間―――今の戦力では押し返すどころか、それまでハイヴ内を維持できるかどうか、怪しい状況だ。 外の、つまり旧横浜市西部域で始まった、阻止戦闘の戦況も気にかかる。

師団は、いや、軍団は今や2つの状況を見据えて、指揮下の部隊を動かしていた。 いや違う、結局はひとつに集約されるか―――『通常攻撃での横浜ハイヴ攻略は、失敗した』

宮元少佐を主幹に、榊原大尉、周防大尉、仙波大尉で、ハイヴ内戦闘の把握と作戦の修正・変更を。 戦術機甲部隊と頻繁に連絡を取りつつ。
九重少佐を主幹に、佐久間大尉、田宮大尉と新井大尉で、現地点からの緊急離脱に関わる準備の全てを。 14師団や海軍陸戦隊と、連絡を密に取りつつ。
全てを広江中佐が承認し、師団長の許可を受けて他部署と連携を取りつつ、最悪の事態にならぬ様祈りつつ、準備に邁進していた。

「・・・せめて遊兵化している、あの3個大隊、あれを使えればな・・・」

仙波大尉が、ハイヴ内状況をモニターした表示盤を恨めしそうに見つつ、呟く。 3個大隊、1個連隊規模の余剰戦力が有れば、今少し余裕を持たせる事が出来るのに。
だが、それを耳にした2人の先任者が、窘め半分、同調半分で諫める様に言う。 その2人にしても同じ思いだが、あからさまに言うには、戦場を知り過ぎている。

「無い物ねだりだ、仙波君。 元々、突入機動大隊群は13軍団の指揮下じゃ無かった、ここで臨時に編入されただけ、幸運と思えよ」

榊原大尉が苦笑しながら、最後任の仙波大尉に言う。 第18師団指揮下に、突入大隊群のうち、帝国軍所属の108機が編入されていた。
そして第14師団指揮下には、国連軍の100機が編入され、一時的に戦力は倍増していた。 言うまでも無く、異常事態だ。
だが、上級司令部(今回は帝国軍『奪回総軍』司令部直轄)の命令によるものだ。 その中で他に3個大隊・108機が無傷で遊兵化して、第2層と第3層に留まっている。

「もっとも、そのお陰で補給と整備は大混乱だがな。 帝国軍の機体は89式だし、国連軍はF-18だ。 余所からかき集めた整備班は良いとして、保守部品はまだ不足している。
まあ、贅沢を言っちゃいけないのだろうな、今の状況では。 それに遊兵化している3個大隊、あれは諦める他ないな。 噂じゃ、例の『第4計画』が拘束しているらしい」

音声のみ使ったヘッドセットを耳に当てながら、周防大尉が難しい表情で言う。 どうやらハイヴ内の通信を確認しているらしい。
周防大尉のその言葉に、榊原大尉は舌打ちし、仙波大尉はフンッ、と鼻を鳴らす。 その様を見ていた宮元少佐でさえ、嫌そうに表情を歪めている。
ハイヴ突入後も、『観測任務』と称して一切の戦闘に関わらない、3個大隊もの直属部隊。 しかも帝国陸軍が喉から手が出るほど欲しい、94式『不知火』で固めた3個大隊。
それだけでも腹立たしいモノを、有ろう事かハイヴ突入部隊から3個大隊もの『直接護衛』部隊を引き抜いたとは。 合計6個大隊が第2層と第3層で、『洞ヶ峠』を決め込んでいる。
上層部でどの様なやり取りが有ったのか不明だが、現地部隊としては納得出来る話では無い。 ボロボロになって後退して行く部隊を横目に、一切の手助けをしようとしなかった。
宣伝では『国連主導の極秘計画に直属する、精鋭部隊』と言われるが。 少なくとも本作戦に参加している部隊、特に帝国軍第1、第13軍団将兵は別の異名で呼び始めている。

曰く―――『国連の、何にも≪せいへん≫部隊』だと。

雲の上のお偉方が何を考えているかとか、お偉い学者先生方が、どんな計画を捻っているのかとか、そんな事は最前線の将兵には全く関心が無い。
彼らの関心はひとつだけ―――生きて還る事。 その為に隣の戦友と共に戦う事。 反対に言えば、使えない奴が近くに居る事は、憎悪に近い感情となる。

「・・・ウチの連隊が還って来た。 損失4機、痛いな、これで91機か。 141は90機、海軍の31戦隊が92機。 273機か、11機が喰われた」

「次の海軍32戦隊と混成第1連隊(突入大隊の生き残り)、混成第2連隊(国連軍)は、296機か。 同じ位が喰われるとして、280機前後。
併せて550機か。 1時間で25から30機喰われる想定だ、2時間で50から60機の損失か・・・ 残るは500機弱か? それで計算出来るか? 周防君よ」

帰還した師団戦術機甲連隊の残存機数を確認した周防大尉に、榊原大尉が確認する。 だがそんな榊原大尉の言葉に、周防大尉は首を振った。

「いいや、もっと酷くなる。 榊原さん、機甲も同じだろう? 戦力が減れば減る程、時間当たりの消耗は激しくなる」

「・・・ああ、4輌で戦っていた所を、3輌で。 そしてすぐに2輌で。 機械化歩兵装甲部隊も同じだよな? 仙波君よ」

「ウチはもっと、劇的に数が減りますよ」

機甲科出身の榊原大尉も、機械化歩兵装甲部隊出身の仙波大尉も、同じような悪夢は何度も経験している。 大陸で、半島で、九州で、京都で。
だから3人の大尉は結論した、限界は2時間。 0730あたりまで。 それ以上は文字通り、実戦部隊に能力の限界を超えた命令を出さなくてはならなくなる。
それはつまり、作戦指導を行うべき作戦課の能力の限界―――無能さを示す事になる。 冗談じゃない、状況を見誤って、軍学校の教科書に引き際の失敗例に紹介されるのは勘弁だ。
文句を言いながらも、手だけは休めていなかった部下達が、纏めた内容を確認した宮元少佐が課長の広江中佐に報告しに行った―――『2時間以上は、師団の責任範疇を越す』と。

―――その時だった。 師団通信隊の指揮官の、素っ頓狂な声が響いたのは。

「何だって!? ハイヴ内情報を常時表示出来るのは、国連軍―――例の3個大隊だけだって!? どう言う事だ!?」

その声に、その場の全員が振り返った。 特に戦術機甲部隊に繋がりの深い周防大尉は、険しい形相で通信隊指揮官の少佐に詰め寄る。

「少佐、どう言う事です!? ハイヴ内で情報表示不可? どの範囲で、ですか!? 誰の命令で!?」

「お、おい、落ちつけよ、周防大尉。 出所は総軍司令部だ、いましがた軍団司令部経由で入った。 ハイヴ内地下茎情報の常時表示は、例の国連軍3個大隊だけ許可だと。
あとは各司令部毎に、指揮下突入部隊を逐次オペレートしろと。 師団、連隊本部での地下茎情報は、制限されていない。 連隊5科で全てさばけと言ってきている」

「5科だけで? 全部隊を? 確かに大隊と中隊には、専属のCP将校は居ます。 が、連中がその情報で、誘導指揮をこなせるとでも!?」

「ああ、そうだ、無理だ。 連中はオペレーターで有って、部隊指揮官じゃない。 我々の突入部隊は、地下茎情報を与えられずに盲目状態で戦えと、そう言ってきたのだ!」

―――総軍司令部は、一体何を考えている?

誰か、そう呟いた。

―――決まっている。 国連の『何にも≪せいへん≫部隊』の、ごり押しだろう。

別の誰かが、そう吐き捨てた。

「おい、周防! 貴様、直ぐにTSF(戦術機甲連隊)の方へ走れ!」

飛び込んできた作戦課長の広江中佐が、顔を朱に染めながら怒鳴る。

「181連隊長は、元々が機甲上がりだ。 こんな状況下では確実な補佐役が必要だ! 主任CP(第5科長)の綾森がいるが、あいつも管制指揮に専念せねばならん。
師団に入る情報は、全て回す。 14師団と軍団情報もだ。 場合によっては貴様の『個人的な情報』を使っても構わん! 何としても名倉大佐を補佐しろ!」

「・・・スタッフが、ラインを、と言っている余裕は有りませんね」

広江中佐と、師団司令部内の戦術状況表示盤―――ハイヴ内状況を示した情報盤を交互に見て、周防大尉も既に必要な端末その他を、手にしていた。

「そうだ、無い。 そんな贅沢を味わう暇など無い。 さっさと行け!」

「了解。 宮元少佐、榊原大尉、仙波大尉、情報、願います」

「願われた、周防大尉」

敬礼に答礼を返した宮元少佐が、同時にG2(師団司令部情報課)に連絡を付ける。 榊原大尉と仙波大尉は、TSFその他の部隊にとっての、提供情報順位を再確認し始めた。
司令部内が急に、慌ただしくなってきた。 戦場で理不尽と感じる命令は、いつもの事だ。 だが今回の、この状況での、この命令はどう言う事だ。
戦術機甲連隊本部に向かう高機動車に乗り込んだ周防大尉は、単にハイヴ内戦闘の困難さ以外に、何か得体の知れない状況が生じているのではないか、そう感じていた。









1999年8月6日 0555 横浜ハイヴ内 第3層最奥部 第181戦術機甲連隊第1大隊


『接近を許すな! 向うは戦車級の群れだ、引き付けるな! 出来る限り横坑(ドリフト)の中で殺れ! 広間に侵入されては、排除が難しくなる!』

第1大隊長・宇賀神中佐が指揮下の3個中隊それぞれに、迎撃指示を出す。 広間に直結する地下茎は3本、つい先程、突撃級と要撃級の小規模な群れを引き付けて殲滅した。
その間に連隊本部情報で、各1000体程の小型種の群れが3方向から接近中と、警告を受けた。 直ぐ様、部隊を広間と地下茎の接点付近まで前進させ、侵入阻止の陣形を敷いた。

≪CPよりライトニング・リーダー! 接近する小型種、S-03-15方向から約980体、距離880! S-03-20から約1000体、距離910! S-03-10から約900体、距離950!≫

あと15、16秒ほどで接敵か。 目前の地下茎がそれぞれ500程先で曲がっているから、10秒以内に目視できる筈。
くそっ、それにしても地下茎情報が判らないとは! 新米どもや精々がエレメント・リーダーならばそれも良いだろう。 最悪、小隊長クラスでさえも。
しかし、中隊長クラス以上の指揮官が、その情報を与えられないとは! 大隊長ともなれば、単機戦闘はほぼ有り得ない、それは指揮小隊の者達が片を付ける。
大隊長にとっての戦闘とは敵味方、彼我の状況とその動きを把握し、求められる戦術目的に対して部隊を押すか、引くか。 どこへ移動さすか、そのタイミングは?
そのレベルの判断と決断を求められる。 当然、陸軍での有効な戦術戦力単位のひとつである大隊の動きは、戦場での状況に大きな影響を与える。
だから通常は大隊長に対しては、最大限の情報を(洗い出された有効な情報を)常に与え続けるのが常なのだ。 この場合、ハイヴ内の地下茎情報が最たるものなのだ。

『ッ! BETA群、インサイト! 各中隊、制圧距離450! 250以内に近づけるな! 攻撃開始!』

途端に、3個中隊の戦術機から多数の誘導弾が発射され、120mmキャニスター弾、36mm砲弾が各機から撃ち込まれる。
深度はともかく、地下茎の広がりはフェイズ2ハイヴの通りである横浜ハイヴ内の戦闘は、特に地下茎内の戦闘で多くの制約を受ける。
そのひとつが、地下茎の直径の小ささだ。 100mも無い、噴射跳躍がまともに使えない程の『狭い』空間なのだ。 だから戦闘はおのずと『広間』に引き込んでの戦闘になる。
だがこれは大型種に限っての話だ、小型種を広間に誘ってしまっては、逆に空間が無くなってしまう―――相手の物量故に。
なので可能な限り、広間到達前で、地下茎内で殲滅する必要が有った。 ただしこちらは地下茎内に入る事は得策でない。
広間から可能な限り複数の射角を取って、キルゾーンを形成する。 対応出来る機数と射線の交差を最大限見込んで、攻撃をかけ殲滅しなければならない。

『リロード!』

『右だ! 右に集中させろ!』

『くそっ! くそっ!』

『馬鹿野郎! ばら撒き過ぎるな! トリガー引きっぱなしだ、貴様! 短い射線を連続して叩き込め!』

『残存BETA数、400を切った! このまま続行!』

リンクさせた、各中隊長機の光学情報を網膜スクリーンに呼び出す。 120mmキャニスター弾で戦車級が数10体、纏めて吹き飛ばされる。
36mmの横殴りの連射は、纏めて小型種BETAを赤黒い霧に変えていく。 各小隊が1機、乃至、2機のエレメントで3方向から射撃を行う。
残る半数は弾倉の補充と、念の為のバックアップ。 攻撃中の3エレメントが弾切れとなると、即座に交替して射線を途切らせる事が無い。

≪CPよりライトニング・リーダー! BETA群1800、SE-04-22からSE-03-21に向け移動中! 
第2大隊から1個中隊が出ます、ライトニングから1個中隊の抽出命令、出ました!≫

『リーダーよりCP、他の状況は?』

≪141の第3大隊担当区に、大規模なBETA群! 約4500! 141第2大隊と陸戦隊32戦隊第1大隊とで殲滅中です。 
他は何とか、落ち着いています、想定外のスリーパー・ドリフトからの奇襲は報告なし。 ただし第4層のBETA群は約4万!≫

『もどかしいな、周囲の状況が判らぬのは・・・よし、佐野! 貴様の中隊、掃討が終わり次第、SE-03-21に移動しろ。 第2と協同だ』

『了解。 中隊、ピッチを上げろ! 途中のS-03-16で補給を済ませる。 殲滅2分、移動に5分、補給に3分だ! 急げ!』










1999年8月5日 1705(現地時間。 日本時間6日 0605) 合衆国ワシントンD.C 駐米日本大使館付武官室


「足が消えているのは、国務長官と国防長官、統合参謀本部議長に国家情報長官か? 他には?」

「首席補佐官に国家安全保障補佐官、同次席補佐官も外に出ている形跡が有りません。 後は財務長官に国家経済会議議長、国連大使とホワイトハウス法律顧問。
この面子の足が消えています。 いずれも事前情報での会合場所に姿を見せていません、既に5時間が経過しています」

「定点観察の結果は?」

「ナンバー不明の、明らかに政府公用車が、護衛付きで5台まで確認しました」

「・・・決まりだな、NSC(合衆国安全保障会議)は明日では無い、今日、今この瞬間に開催されている」

「大使館付情報室(情報省分所。 外務省の情報組織では無い)の連中、動きが消えました。 姿を見せません」

「情報室への盗聴結果は?」

「イタチごっこですな。 あの手この手で、掃除されています。 こちらもそうですが。 特に目新しい情報は拾えませんでした。
それとDIA(米国防情報局)の『お友達』から連絡が途絶えたと、『中継員』から報告が入っております。 恐らくは『掃除』されたものかと。
直前情報ではSFIRA(合衆国航空宇宙軍情報部)が、本土周辺の気象データを受け取ったと。 特に関東南部の過去10年分の夏季気象データを」

「いつの時点だ?」

「1か月前。 判明したのは3日前です、報告は昨日」

「時間は十分にあったな、そしてNSCは今現在・・・ くそ、失敗したぞ、連中は『あれ』を落す気だ」

「・・・5次元効果爆弾、通称『G弾』・・・」

「横浜だ、横浜。 南関東の夏季気象情報の入手、打ち上げられた『極秘』の兵装、DIAの『掃除』、そしてNSCの開催にその議題に上がるだろう戦場!
全てはひとつの事を指し示しているぞ? 横浜ハイヴへのG弾投下だ。 情報省の連中も何か掴んだのだろう、だから飛び回っているのだろう」

「大至急、本国へ連絡します」

「国防省情報本部長宛だ、武官室からダイレクト・インフォメーションだ。 他にも、ここと、ここと・・・それと、ここにも入れておけ」

「了解。 ・・・外務省へは?」

「・・・一応、入れておけ。 どうせ連中、軍人の話など聞く耳は持たぬだろうがな」

と言いつつ、裏では義兄には情報を入れておこうか、とも思う。 義兄は外務省国際情報統括局の、局次長になっていたから。
さて、裏は十分に取れた。 後はこの情報を本国の連中がどう判断するか、だな。 いや、事前に予備情報は入れておいた―――どう決断するか、だ。

「・・・『結果さえ良ければ、手段は常に正当化される』、か・・・」

400年以上昔の、さるイタリア人の言葉だ。 いや、当時の感覚で言えばフィレンツェ人か。

武官室に入ってくる情報でも、戦局は困難の一言に尽きる。 恐らく最前線の部隊は、それ以上の困難さを感じている事だろう。
最早、当初の計画は破綻したのだ。 何よりも情報を―――ハイヴ内情報を得られなかったが為に。 過去の失敗事例に加わろうとしている。

「・・・合衆国が決定するのも、無理は無いか」

このままでは確実に、東アジア全域がBETAの支配権内に収まってしまうだろう。 そうなれば東南アジアと極東シベリアに与える影響が大きい。
合衆国は極東シベリアの後背地であるアラスカ、そして北米大陸への影響を重視しているだろう。 地図を見た、ちょっとだけ想像力のある人間なら判る事だ。

―――『ステイツが、危ない』

市民にそう思わせる事の危険性、それを十分認識しているからこそ、ホワイトハウスは決定するだろう。 何より生き残るために。
そして日本政府は認識すべきだ、『祖国の存亡がかかっているような場合は、いかなる手段もその目的にとって有効ならば、正当化される』と言う事を。

「・・・『弱体な国家は、常に優柔不断である』、ニッコロ・マキャベリ―――400年前の奴でさえ、こう言わしめたのだ。 それから成長が無いとは、情けない事なのだろうな」









1999年8月6日 0630 日本帝国 仙台市 首相官邸


朝早くから首相官邸には、首相の他に2人の重鎮が集まっていた。

「・・・この情報は、確かなのだろうか?」

「国防情報本部は、確度が高いと申しておりますな。 実の所、在米大使館付武官はかなりの遣り手で、切れ者ですぞ、首相」

「ハイヴを攻略出来たとなれば、我が国の国債も更なる追加発行が叶うでしょう。 海外避難民を受け入れている関係各国との、費用交渉にも好材料。
首相閣下、経済は何とか持ち直しましょう。 我が国は未だ、戦えましょう・・・ハイヴを攻略できさえすれば」

「・・・」

「確かに、懸念される事はご尤もです。 事が公表されれば、国民は首相、貴方を支持しますまい。 与党は議会で多数派を保つ事は、無理でしょう。 軍部は如何か? 国防相?」

「一部の馬鹿者どもは、激発しかねませんな。 しかしまあ、主流派の連中は理解するでしょう。 他は国家憲兵隊に委ねますか。
大山さん(奪回総軍司令官・大山陸軍大将)へは・・・まあ、儂から早々に乗り込みましょう。 こちらは経済程に、虹色ではありませんがな、蔵相」

「臨終間際の酸素吸入から、自家発呼吸に変わった、その位ですわ、国防相」

「ですが、まだ戦える」

「そう、それが肝要ですな。 それが駄目ならば・・・日本人は亡国の、流浪の民と化す」

2人の重臣の会話を、目を瞑り黙って聞いていた首相だったが、徐に目を見開き、言い切った。

「・・・この事はお二方、墓の中まで持って行って頂きたい。 私はG弾の投下を容認する、だが公表はしない。
そして米国に対しても、容認を伝える事は無いでしょう。 彼等は直前での急な通告か、或いは事前通告なしに、我が国土でG弾を使用する」

それによって得られる利益―――横浜ハイヴの攻略、それによる軍事的余裕。 その結果での、国際社会からの『経済的信用度』の回復。
更に言えば、対米交渉での切れるカードが増える事。 使い勝手は極端に悪そうだが、使い方によっては有効なカードたり得る。 間違えれば劇薬にもなるが。
そしてそれと表裏を一体とする、国内情勢の鎮静化。 昨年来より続いたBETAの本土侵攻による混乱を、少しでも鎮める事が出来るだろう。
その為には―――我が日本が享受すべき利益の為には、G弾投下の事前情報は、日本は、少なくとも政府は受けていなかったのだ。

「・・・『君主は、悪しきものである事を学ぶべきであり、しかもそれを必要に応じて使ったり使わなかったりする技術も、会得すべきなのである』・・・」

「ほう・・・マキャベリですかな?」

首相の言葉に、蔵相が面白そうな表情で聞いて来る。 どうやら、本当に腹をくくった様だな、と。 そのやり取りに、国防省が自嘲的な表情で言い加えた。

「ふむ・・・『怒り狂った民衆に平静さを取り戻させる唯一の方法は、尊敬を受け、肉体的にも衆に優れた人物が、彼らの前に姿を現すことである』か。
数年後には、尊敬は兎も角、見目麗しく成長されていそうですからな、あの姫君は。 我ながら、偽悪趣味とも思わぬではありませんが・・・」

日本国内閣総理大臣・榊是親。 同大蔵大臣・高橋是明。 同国防大臣・米内充正海軍予備役大将の3人は、無言で頷きあった。

―――我々は、これから悪事を為す。 日本帝国と日本国民、そして皇帝陛下の為に、決して明かされぬ悪事を為すのだ。










1999年8月5日 1745(現地時間。 日本時間6日 0645) 合衆国ワシントンD.Cホワイトハウス

「では、決定だ。 決定した以上、今更の反対表明は許されない。 良いかね?」

「承知しております、大統領閣下」


1755時(日本時間6日0655時)、国防総省より航空宇宙軍総司令部へ、最高度の極秘緊急命令が発せられる。


1805時(日本時間6日0705時) 地球周回低軌道 高度342km 米航空宇宙軍HSST『キャラハン』

「・・・命令受領、確認。 内容確認。 僚艦『スコット』、内容伝達」


1815時(日本時間6日0715時)、国務省より在米日本大使に対し、正式通達。


1845時(日本時間6日0745時)、在米日本大使館より帝国政府へ、緊急暗号電。









1999年8月5日 1550(現地時間。 日本時間6日 0750) 合衆国シアトル


「もう、風は冷たいわよ。 そろそろ帰らない? ジョゼ?」

問いかけに、亜麻色の髪を僅かに振って、否の意志表示をしている。 さっきからずっと、海岸線に立って海の向こうを見つめたままの少女。
その姿に苦笑する、20代前半の女性。 反抗期かな? とも思う。 この娘ももう、13歳になったのねと、時が過ぎるのは早いものねと、そう思う。

「ねえ、ジョゼ。 本当に良いの? バレージ大尉を帰してしまっても?」

「・・・良いの。 どうせドロテアは、お婆様の秘書役なだけだし。 ローズマリーもね。 私はオマケに過ぎないのだもの」

―――あ、何か反発しているわね。 この娘もそんな年頃なのね、初めて会った時は、素直な幼子だったけれども。
アクロイド博士がシアトルに来ていたのは偶然。 偶々の短い休暇でだ。 娘(ジョゼの母親だ)と孫娘を連れて。 2人の国連派遣の秘書役も一緒に。
そして私が偶々に、結婚してこの街に住んでいた、そう言う事。 夫は極東に派遣されている、なので見知った話し相手がいる事は歓迎なのだけれども。

「ねえ、ペトラ。 この海の向こう、日本なのよね?」

「そうね、そうなるわね」

「・・・ふぅ~ん・・・」

「直衛の事、思い出した?」

「・・・知らない!」

―――あら、本当に難しいお年頃だこと。

「ねえ、ご家族とケンカでもしたの?」

「・・・してない」

「じゃあ、どうして急に独りで? 泊める事は別に良いわ、お母様はご承知なの?」

―――黙りこくってしまったわ。 もう、本当にこの娘ったら!

「・・・嫌なの、お婆様やお母様と一緒に居る事が」

「え?」

「何時までも子供だと思って・・・ 私、知っているもの。 直接聞いたのじゃないわ、でも学校のクラスや周りの子達は、研究所の研究員や、職員の子供ばかりなのよ?
私が学校で、何て呼ばれているか知っている? ペトラ? 『破滅の聖母の孫娘』よ! 流石に中学生の私でも、お婆様の研究が何か、とてつもない事だと言う位、判るわ!」

「それで、虐められているの? 学校で?」

「・・・別に。 言ったでしょ、みんな私と同じ環境の友達ばかりよ。 悪し様に言う子なんて、居ないわ」

「じゃ、どうしたの? お婆様の研究の事で、何か悩みでも?」

「・・・7月に、夏休みに入ってからボランティアで、難民キャンプの慈善ボランティアに参加したの。 ちょっとした日用品を受け付けて、それを贈ったの。
その一環で、サイクリング・ツアーにね。 その時一緒だった女の子が、親が敬虔なカトリックで、環境保護団体の活動をしていて・・・」

―――まさか、民間の団体が『あれ』の事を、詳細に把握はしていないでしょうけれど。 何か言われたのかしらね?

「お婆様も変よ、この時期にいきなり休暇だなんて。 毎年、私独りだったのに。 今年に限って、急にお婆様とお母様が一緒だなんて。
大お婆様は、もうお体が大変だから、爺やがずっと付きっきりだけど・・・ ずっと、私は独りだったのに! 今更、何よ!」

―――杞憂だったわね、どうやら少女の反抗期なだけのようね。 でも本当、この年頃の少女の会話は、随分とあっちこっちと・・・人の事、言えないけれど。

でもどうしてかしら? アクロイド博士は、随分と多忙な方だったけれども。 言われてみれば、どうして今頃休暇を? 研究は?
不意に海の向こうを見つめた、何か夫の声がした気がしたからだ。 この向うには夫と、共通の友人がいる国が有る。 今まさに戦っている最中だろう。
無意識に首にかけたロザリオを握り締める―――父よ、天にまします父よ。 どうかあなたの愛を。 私の夫を。









1999年8月6日 0755 国防省より奪回総軍へ緊急電。


1999年8月6日 0805 横浜ハイヴ内第3層


『BETA群の大規模移動を検知! センサー計測不能!』

『CP! CP! 情報を!』

『下がれ! 下がれ! 後退だ、もう防ぎきれん!』

『SW-03-08とSW-03-06で、国連軍の6個中隊が孤立! 直援の2個大隊、壊滅!』

『S-02-06の国連軍3個中隊は、脱出完了!』

『どこだ!? どこからBETAが来ている!? くそう! 判らん!』

『とにかく、上がれ! 第1層まで後退しろ!』









1999年8月6日 0810 地球周回低軌道 高度104km 米航空宇宙軍HSST『キャラハン』


『高度104km、速度25,500km/h ウラジオストーク上空を通過、レーザー照射無し』

『隊司令より『キャラハン』、『スコット』、G弾分離せよ』

僅かに衝撃が走る。

『G弾の分離を確認!』

『艦角度、アップ2度、噴射開始。 周回軌道に復帰する』

『アイ・サー!』









1999年8月6日 0815 旧横浜市南部 第18師団第181戦術機甲連隊本部


「・・・私の責任で解除する。 5科長、綾森大尉、全部隊への情報制限を解いてくれ」

「周防参謀、明らかに命令違反よ・・・?」

「事、ここに至っては、だ。 せめて脱出路は明確にしない事には、生き残っている連中も、喰われてしまう」

「周防参謀、141連隊からです。 14師団作戦課の長門大尉です」

「おう・・・ ああ、そっちは? そうか、同じだ、うん。 判った、海軍にもそう伝える」

「周防参謀?」

「・・・綾森大尉、14師団も合意した、作戦課の長門大尉からだ、『情報封鎖を解除した』と。 海軍にも伝えて欲しい、師団本部にも」

「・・・了解。 5科長権限で、情報解除を行います! 各大隊長機、中隊長機への情報制限を全面解除! 小隊長機への限定解除も忘れずに!」

「「「了解です!」」」

―――さて、どれだけの戦力が逃げ出して来られるか? にしても、独断専行、やっちまったな。
まあ、仕方が無い。 そう内心で呟いた時、米軍リエゾン将校のプリシラ・モードリン・オハマ大尉が血相を変えて駆け込んできた。

『周防大尉! 米軍全地上部隊に、緊急退避命令が出たわ!』

『ッ!? 緊急退避!? どう言う事だ? 西部の阻止戦線はどうなる!?』

『全面放棄よ! 10分以内に人員だけでも横須賀方面へ至急移動せよと! もう戦闘部隊の移動が始まったわ! BETA群は10分もしないで、ここに殺到してくる!』

場が、凍りついた。






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