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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/09/15 00:43
1999年8月5日 2015 日本帝国軍『奪回総軍』司令部 神奈川県三浦半島 旧三浦市内


「突入した軌道降下兵団6個大隊ですが、現時点での損失は72%に上ります。 後でハイヴ内に突入しました機動大隊群14個大隊で、損失58%。
残存戦術機は軌道降下兵団が、6個大隊で50機、 機動大隊群が14個大隊で208機、合計258機。 ハイヴ内で438機が失われました」

総軍G2(総軍司令部情報主任参謀・准将)が、沈痛な表情で報告する。 失われた戦術機、そして衛士の半数近くは、帝国軍の所属だ。
第5、第6軌道降下兵団の総指揮官、佐々木中佐も戦死した。 第12層突破を殿軍で戦い、そしてとうとう、第11層へ姿を見せなかったのだ。
他に帝国軍の前島少佐、豪州軍のクリフォード少佐が、第10層から第9層への後退途中に戦死し、インド軍のガウリ少佐は第9層で戦死した。
上級指揮官が相次いでハイヴ内で戦死し、第10層へ移動していた『チャーリー大隊』の森少佐と、第11層に移動していた『デルタ大隊』、豪州軍のマックベイ少佐しか残っていない。

「既にハイヴ突入部隊は、事実上戦闘能力を喪失しました。 第8軍、第9軍からは各々、第1軍団、及び第13軍団のハイヴ内投入が上申されております」

「全部隊をか? それとも戦術機甲部隊を?」

総軍参謀長(中将)が確認する。 現在は第8層でBETA群を阻止すべく、突入部隊の258機がハイヴ内で奮戦している。 が、それも突破されるのは時間の問題と思われた。
後から突入した17個の機動大隊群の内、14個大隊と軌道降下兵団の生き残り―――実質7個大隊では、余りに戦力が少な過ぎる。 残る3個大隊は国連に拘束されている。

「戦術機甲部隊を、です。 第1軍団から第11、第31戦術機甲連隊、及び第1禁衛戦術機甲連隊の、3個連隊・9個大隊の投入上申が。
第1軍団の基幹3個師団は全て、重装備の甲編制師団です。 編制内に3個戦術機甲連隊を有します、各々1個連隊を投入しても、2個連隊が余ります」

G2の説明に、作戦全般を担当するG3(総軍司令部作戦主任参謀・少将)が横から、作戦面での注意喚起を込めて、補足で説明する。

「第13軍団よりは第141、第181戦術機甲連隊と、海軍の聯合陸戦第3師団より第31戦術機甲団。 合計3個連隊、9個大隊となります。 
第13軍団の2個師団は、乙編制の戦術機甲連隊が1個だけなので、投入してしまえば南部の戦域確保が非常に困難に・・・ 
反面、聯合陸戦師団は編制師団と同戦力ですので、1個連隊(戦隊)を投入しても尚、2個連隊(戦隊)が残ります。 しかしそれでも、戦域確保には不足を来たします」

「他に北部戦域の、第7師団の第7戦術機甲連隊、中韓両軍の2個戦術機甲連隊の3個連隊・9個大隊を合せ、27個大隊を再投入すべし、と。
しかしこちらは全て乙師団ですので、投入してしまえば北部戦域確保が不可能となります。 これは無理です、戦術機部隊が居なくなってしまう」

現在、横浜ハイヴの周辺戦域確保任務は、第1軍団(甲編制3個師団)、第13軍団(乙編制2個師団、海軍陸戦1個師団)、臨編第20軍団(日中台・乙編制3個師団)
この内、第1軍団の3個師団と海軍聯合陸戦師団は3個戦術機甲連隊(戦術機甲戦隊)を有する、これらの師団で戦術機甲12個連隊・36個大隊。
他の師団は日中台の3カ国とも、1個戦術機甲連隊を師団の編制内に有する、乙編制師団であり、戦術機甲5個連隊・15個大隊。
合計で17個戦術機甲連隊・51個大隊の戦力の、実に半数以上の27個大隊を、ハイヴ内に最投入すべし―――戦況を切実に判っている最前線より、そう言ってきている。

国連に3個大隊を拘束されているとは言え、20個大隊を投入して今の惨状だ。 投入戦力を出し惜しみしていては、戦力の逐次投入で無駄にすり潰すだけになる。
やるなら一気に、大兵力を叩き込む。 兵站線の不安が残るが、短期決戦のつもりなら何とか保たせることは可能、総軍G4(総軍司令部後方主任参謀・少将)が言っている。

「・・・ハイヴ内の、推定残存BETA個体数は?」

「増えました、約4万2000。 これまでに推定で5000体を撃破しましたが、新たに1万1000体が増えました」

「4万2000・・・ 無理だ、ハイヴ内戦闘だけで、それだけの数のBETA群を殲滅するなどと・・・」

参謀長の問いに答えたG2の数字に、G3が呻き声を漏らす。 絶望感がにじみ出ている声だった。
出現当初は約3万6000、そこから大損害を出しつつ、ようやくの事で約5000体を殲滅したと言うのに。

「殲滅するならば、地上での方がまだしも可能性が有る。 重砲や艦隊の艦砲、そして誘導弾の面制圧砲撃が可能だ、地上ならば」

「ハイヴ内は結局、戦術機の固有武装でしか、攻撃オプションが無い。 攻撃力の面では、地上より非常に劣る。 判っていた事だがな・・・」

G1、G4の他の高級幕僚たちも、改めてハイヴ攻略作戦の難しさを実感し、驚愕していた。

「最前線の若手参謀達等からは、大規模破壊兵器の使用を、等と言う声も上がり始めています」

「大規模破壊兵器? 核の事か?」

「核、或いは戦艦主砲搭載型S-11の大量使用。 いずれにせよ、横浜を中心に半径10km圏は、数年はペンペン草も残りませんな」

再び唸り声が上がる。 判っているのだ、帝国軍とて判っている。 もう恐らく、通常戦力での『力押し』では、横浜ハイヴは攻略できないであろう事は。
当初、フェイズ2だと想定していた横浜ハイヴは、突入してみれば主坑の太さと深度が、フェイズ4ハイヴに匹敵する『異常な』ハイヴだった。
軌道降下兵団は、約400mもの深さまで潜って進撃したが、得られた結果はまだその2倍もの深さが有り、数万を越すBETA群がひしめいている、と言う事実だった。

「・・・外縁部に誘導した、他のBETA群は? どうなっている?」

町田、及び厚木方面の2方向に誘引した、約5万以上のBETA群の事だ。

「は、北部誘引個体群が約2万4000体、その内の約1万2500体の撃破に成功しました。 損失は34%
南部誘引個体群、約2万7000体の内、撃破数は約1万4000体。 残るは約1万3000、損失は31%」

残るは約2万4500体、殲滅は可能だろう。 何せ南北両戦線合わせて、17個師団を充てているのだから。 ハイヴ周辺戦力の倍近い大兵力を。
何とかしてその大戦力、ハイヴ攻略に回せないだろうか? 残り2万4500体の殲滅に、一体どれだけの時間を有する?
外縁部に5万を越すBETA群を釣り上げてから、今で13時間が経過した。 その間に約半数を撃破している。 単純計算すれば、全ての殲滅は明日の昼前。
そこから大部隊を急速移動させて、兵站線の確保に、補給と整備、兵員の休養も考慮せねばならない―――ハイヴ投入は早くとも、明日6日の夕方から夜。

「総司令官へは、私から報告する。 ハワイのウィラード大将(『国連軍』太平洋方面総軍司令官)に話を通さねばならん、『国連第11軍』の投入要請だ」

「では、参謀長閣下・・・」

「第1軍団と、第13軍団を投入する。 第1軍団は各々2個連隊を投入させる、聯合陸戦師団もだ。 10個連隊・30個大隊で、どれだけ保つか判らんが・・・」

「では、国連軍・・・いえ、『米軍』はどこへ?」

「南部だ、あそこの第13軍団は、1個戦術機甲連隊しか残らん。 南部の戦域確保を担って貰う様、要請する」

総軍内では一応、継戦の方向で固めている。 しかしこのままでは、まったく手詰まりだと言う事も認識していた。
更に言えば陸海軍の調整はまだ付いていないし、大東亜連合軍、統一中華連合、それに豪印軍、最終的には『上級司令部』の国連太平洋方面総軍との調整も、まだだ。
一体どうするのか? 通常戦力での継戦―――力押しで行くのか? 一旦ハイヴからBETA群を誘引し、殲滅後に再突入か?
或いは考えたくも無いが、大規模破壊兵器の使用を政府・国防省が認めるのか? まさか撤退は有るまい、それはまさに日本帝国の亡国を意味する。
国連・米国、大東亜連合、統一中華も、それだけは看過できないだろう。 日本の亡国は、それら国家・勢力にとっても、対BETA防衛戦略の根本が崩れる事になる。

「どちらにせよ、このまま地上にBETA共が湧きでて来る事は、好ましくない。 最終的な戦略の方向性が固まるまでは、何としても抑え込まんといかん」

参謀長の言葉に、居並ぶ高級幕僚たちが頷く。 そしてふと、G2が呟く様に聞いた。

「・・・大規模破壊兵器、使うのですか?」

その問いに少しだけ片眉を吊り上げた参謀長が、興味無さそうに言い放った。

「どうせ米軍は、戦略原潜を近海に展開させておるだろう。 それに浦賀水道の米艦隊も、恐らくごっそり持ち込んでおるだろうよ」

使用したとしても、既に横浜とその周辺市には『民間人』など居ない。 直線距離で40km程離れた東京府の東部、或いは東京湾をまたいで、50km以上離れた千葉県の内陸部。
民間人が居住する『限界南限』はその辺りだ、例え熱核弾頭を使用したとしても、直接的な被害はおろか、間接的な被害もほぼ無視できる範囲に収まるだろう。
部隊展開もNBCR防護をさせねばなるまいが、10km圏を離れればまず、大丈夫だ。 その後? 10年は間を置かねばなるまいな。

熱核兵器に使用される核種はプルトニウム239、その半減期は2万4000年にもなる(最も、もう一方の『主役』のウラン235の半減期は、約45億年だ!)
非常に強い放射線を有するし、化学的な毒性も非常に強い。 ダイオキシン類と並び、人類が創り出してしまった最悪の物質のひとつだ。
では2万4000年もの間、永久的に居住不可能か? 違う、プルトニウム粉塵は密度が高い故に、大気中でも水中でも沈降速度が大きく、余り遠くへは広がらない。
それに戦術核に使用される核物質重量は5kg程度、多くて10kg以内だ。 無論、起爆させないに限るが、起爆したとしても・・・1944年以降のベルリンは、死の都だったか?
1発、2発の戦術核より、米国などで使用されている原子力発電所の方が、余程怖いのだ。 ああ言った施設には『数トン』単位で、核物質が貯め込まれている。

(・・・問題は、使用状況だ。 BETAが拡散していたら、効果が薄い。 それと広範囲で移動中も、駄目だ。 出来る事なら、1箇所に集中している所で使用せねば)

意識的に思考を、純軍事方面に固定させる。 でなければ、我慢出来なかったからだ。 
如何に作戦上での選択肢とは言え、自国内で核を使用するオプションを検討するなど。










1999年8月5日 2255 横浜ハイヴ内 第7層 S-07-06広間 帝国陸軍第181戦術機甲連隊


もう1時間以上、ハイヴ内で遅滞阻止戦闘を続けている。 いい加減にお役御免にしてくれないかな、って、代わりの部隊が居ない以上、無理な相談か。

『第5派、来るぞ! 佐野(佐野慎吾大尉)、≪フラッグ(第12中隊)≫は南西のSW-07-05広間に通じる横坑を押さえろ!
羽田(羽田亮大尉)! ≪ペガサス(第13中隊)≫は東だ! 神楽(神楽緋色大尉)! ≪ソードダンサー(第11中隊)≫は正面を確保!』

大隊長・宇賀神中佐の、戦場で鍛えた胴間声が通信回線に響く。 自分の中隊は正面か、各種センサーで検知した限りでは、凡そ1500体前後が向かってきている。
第4波を撃退した後、少しだけ時間が空いた。 その隙にペットボトルに入ったビタミン配合の栄養飲料で、塩の錠剤を飲み干して腹拵えを済ましていた所だ。

『両隣のSW-07-06広間、SE-07-064広間も、第4波を撃破した。 このままここを維持する! 
軌道降下兵団と突入機動大隊群の生き残りは、第2層に上がった! 連中が地上に出るまでは、絶対死守だ!』

つい1時間前、自分達を追い越してほうほうの態で後退して行った『ハイヴ攻略部隊』 まったく、酷い有様だった。
連中は想定外の状況下で、そしてBETA群の大群の奇襲を喰らった。 なんとか文字通りの『全滅』を免れ、後退し続けた事は寧ろ称賛に値する。

『ペガサス、了解』

『フラッグ、了解です』

通信回線が開き、網膜スクリーンに『フラッグ(2代目)』の佐野大尉、『ペガサス』の羽田大尉の姿が映し出された。
もっともこれは大隊通信系だから、『受信』しか小隊長の自分には権限が無い。 もっぱら大隊長と各中隊長、そして大隊CP間の通信に使う通信系だ。

『ソードダンサー、了解。 大隊長、指揮小隊は100、後退を。 前に出過ぎです』

中隊長の神楽大尉の声には、普段と変わらない印象しか受けない。 流石は7年以上最前線で戦い、生き残って来た歴戦の衛士は違う、そう言う事か?
その想いに、無意識に部下達のバイタルチェックを行う。 2番機は落ち着いている。 3番機もOK。 4番機は・・・まあ、許容範囲か。
にしてもウチの中隊長、昔聞いていた風評とは、えらく異なるよな。 従兄に聞いた限りじゃ、まるきり『吶喊娘』だったけど。 ・・・『娘』って年でも無いか、もう。

『ライトニングよりソードダンサー、余計な心配をするな。 各中隊の間隔が空く、指揮小隊で塞ぐ』

『ならば、余計に後退を。 ≪ソードダンサー≫に接近し過ぎです。 ≪フラッグ≫、≪ペガサス≫への支援が、し難いでしょう』

スクリーンに映る大隊長が、ちょっとだけ鼻白んでいる。 まあ、あれだよな、普段は結構逆アプローチかましている中隊長だけど、ここ一番では『公人』に徹すると言うか。
男としちゃ、散々気にかけさせて、肝心な時につれない態度! そりゃもう、気になるよな! いやあ、見事だね、うん。 中隊長、恋愛上手! ってやつか!?

『・・・なんてよ、声に出して言うなんざ、クソ度胸有るじゃないか。 周防中尉殿?』

「それは、アンタの心の声だよ、古郷中尉殿」

『俺の心の声には、外部スピーカーは無いよ。 例え100%そう思ってもな!』

『・・・貴様ら、毎度毎度、そんなに私をダシにして、面白いか・・・!』

あ、やべ。 そろそろ仕舞いにした方がいいかね? うん、そうしよう。 中隊長は元より、大隊長に睨まれても損だしな。

「イエス、マーム! いいえ! その戦場度胸、見習うであります! B小隊、前面警戒! そろそろ、クソBETA共が来やがるぞ!」

『全てB小隊長の戯言で有ります、マーム! C小隊、連中が『広間』に入ったら面制圧開始だ!―――それで良いっすね? 中隊長?』

『どいつも、こいつも・・・≪ソードダンサー≫全機、BETA群が『広間』に入ると同時に、A、C小隊は面制圧攻撃! B小隊は先頭集団と後続との間を寸断しろ!―――かかれ!』

中隊長の声と同時に、横坑から広間に向かって突撃級の群れが突進して来た。 数は凡そ100体程、ちょっとホネだな。
あっという間に、突撃級が『広間』に入って来た。 同時に両翼のA、C小隊の制圧支援機から、誘導弾が盛大に発射された。
誘導弾が狙い通りに―――突撃級を飛び越して、後続の要撃級や、戦車級何かの小型種に着弾して、吹き飛ばした。 よし、今だ。

「よぉし! B小隊、噴射跳躍! 突撃級のケツに飛び込め!」

部下達3機も一斉に跳躍ユニットを吹かし―――広間内だから、高度に気を付けながら-――突撃級の群れのケツを取った。
そのまま前方に向けて射撃開始。 横坑から出てきたばかりの要撃級、8、9体を瞬く間に残骸に変える。 が、連中も数が多い!

『リロード!』

この声は、宮内(宮内右近少尉)か。 すぐさまエレメントを組む美濃(美濃敬一郎少尉)が前面に出て、バックアップを取っている。 
真正面から群がって来た戦車級の群れに、120mmキャニスター弾を2連射。 丁度いい間隔を開けている、広範囲に子弾がばら撒かれて戦車級が盛大に霧散した。
うん、新米、判って来たな。 『死の8分』を越したとは言え、初陣でこんな大作戦、しかもハイヴ突入。 まったくツイて無い奴だと思ったけど、なかなかどうして。

『残弾僅少!―――リロード!』

っと、今度はこっちか。 エレメントを組む真部(真部紗恵少尉)が弾切れか、早く済ませろよ、こっちもそろそろ、心もとないんだから―――ッて、くそッ!

「ソードダンサーBよりリーダー! 正面振動波検知! 追加の団体さんです! 推定個体数、約3800!」

今追い払おうとしている1500に加えて、今度は追加で3800、合計5300! 中隊でどうこう出来る数じゃないな、まともにぶつかったら、それで終わりだ。
一瞬、ボロボロになって地上へ戻って行った、機動降下兵団を思い出した。 連中、80%前後の損失を出していた。 きっとこんな状況の連続だったのだろうな、って。

『3800!? 冗談では無いな・・・ ソードダンサーよりライトニング、ここは後方に一旦・・・』

『ユニコーンよりライトニング! 振動検知、推定個体数、約2200!』

『フラッグです、推定個体数、約2500! 振動を検知しました、向かってきます!』

―――なんてった、真正面の5300に、東から2200の、西から2500。 都合1万! なんて言っている暇は無いぞ!

「ソードBリードより各機! 距離を取れ、50後退!」

≪CPよりライトニング・リーダー! SW-07-06広間の≪ユニコーン(第2大隊)≫、SE-07-064広間の≪ガンスリンガー(第3大隊)≫から急報!
それぞれ8000から9000のBETA群が出現! 広間の確保は困難! 連隊本部より第6層への後退命令が出ました!≫

『ライトニングよりCP! 本部に確認しろ、ここで第7層を放棄しても、戦力が無ければ6層でも同じだ!』

≪CPよりリーダー! 現在、S-07-03方面より、141連隊が第6層に向けて移動中! S-06-08広間で集結せよと!≫

S-06-08広間―――さっき通った場所だ、あそこは第7層への結束点になっていた。 あの広間から3方向に分岐して、下層の7層へ横坑が下っている。
ッて事は、あそこで2万6000から2万8000のBETA群を押さえようって事か? 戦力は俺達181連隊と、僚隊の141連隊。 足りるか?

≪CPよりリーダー。 西のW-07-03広間から海軍陸戦師団の302戦術機甲戦隊(連隊)が6層に向けて後退中です。 東は303戦隊が同じく。 
我々陸軍の2個連隊と、海軍陸戦隊の2個連隊、4個連隊で包囲すれば逆襲可能、軍団司令部の判断です! 海軍の2隊は、東西から挟撃出来る位置です≫

成程ね、そう言う事かよ。 S-06-08広間、あそこはSエリア第7層以外に、Wエリア、Eエリアの第7層とも繋がっていたな。
俺達181と、141の2個連隊で広間の『底』を塞いでいる間に、海軍の2個戦隊(連隊)が左右から突っ込む―――理想的な側面攻撃になる。

―――なら、方針は固まったも同じだな。

『よし、ライトニング・リーダーより全機、第6層に移動する! 先頭は≪ペガサス≫、次に≪フラッグ≫! 神楽、≪ソードダンサー≫は、済まんが指揮小隊に付き合って貰う』

『了解です!』

―――あ~あ、やっぱりかよ? ッて事は、俺の小隊が最後まで貧乏くじかね?

「ソードBよりソードA! 殿軍はお任せを!」

『・・・周防、頼む』

なんてね、せめてこれ位言わないと、俺としても格好付かないでしょ? でも内心はビビりまくりだ、何せ初めてのハイヴ突入戦で、後退の殿軍ときた。
無意識に一人の女の顔が、脳裏に浮かんだ。 あいつも今、このハイヴ内で戦っている。それも隣の中隊で―――情けねえ、もう少し痩せ我慢を通せよ。

「お任せを、って言いましたよ? なあに、ジタバタ足掻くやり方は、散々従兄から聞かされてますんで、ご安心を!」

『・・・それはそれで、一抹の不安が有るがな・・・ よし! 古郷! ソードCは左翼から援護! タイミングを合わせろ! 大隊長!?』

『せめてもだ、前衛のバックアップに入ろう。 周防中尉、後ろへの取りこぼしは気にするな、指揮小隊で片づける』

―――有り難い事で。

「頼みます!―――来るぞ! B小隊、ダイヤモンド・フォーメーション!」

『周防! 頭下げとけ!―――C小隊、支援攻撃始め!』

目前の空間が『爆発』した。 目前に突如として現れたBETAの大群、そこに向けて120mmをぶっ放す。 即座に噴射跳躍で後退する、後ろの突撃級を飛び越した。
背後からAとC小隊の面制圧攻撃が始まった、最後の誘導弾がすれ違いざま、白煙を引いて前のBETA群に向かって行く様が見えた―――着弾!
着地と同時に節足部を狙い撃ちする、立て続けに3、4体。 案の定後続が引っかかってくれた、そこを狙ってまた節足部を撃つ。 とにかく動きを止める事だ。

「宮内! 真部! 美濃! 撃破しようと思うな、動きを止めれば、それで良いからな!」

『『『 了解! 』』』

面制圧攻撃と、中距離狙撃で突撃級の足を止めたA、C小隊が後退に入る。 俺の小隊の役目は、2個小隊が予定地点に到達するまでの時間稼ぎだ。
見る見る内にBETA共が、後ろから玉付き状態になって、そしてどんどんと『天井』近くまで盛り上がっていく。 まるで『壁』だ。
それがこぼれ落ちてこない様に、120mm、36mmをありったけ撃ち込むが・・・向うの方が、数が多い! 1個小隊の火力だけじゃ、防げないか。
AとCからも支援攻撃が入るけど、後退しつつだから、次第に支援火力が小さくなってきた。 そろそろ潮時か?

『小隊長! 左翼から溢れ出ました! 向かってきます!』

宮内の声。 見れば『壁』から溢れてこぼれ落ちた小型種―――戦車級だ―――が数百体、向かってくる。 迎撃、120mmキャニスター? 駄目だ、全機弾切れ。 
レーダーに一瞬目をやる。 第2と第3大隊はもう既に、第6層へ上がりかけている。 AとC小隊の後退も進んだ、後は・・・

『周防中尉、そろそろ潮時だな』

背後から120mmキャニスター弾が数発撃ち込まれ、戦車級を数10体ミンチに変えた。 大隊長だ、プラス指揮小隊。

「ですね。 大隊長、下がって下さい。 自分の小隊も続きます―――中隊長! 下がりますよ!」

『了解した! S-07-04広間経由で下がって来い! それ以外のルートは、既に工兵隊が対BETA用クレイモアを仕掛けているぞ! 巻き込まれるな!』

「だ、そうです、大隊長」

『よし、事前に良い仕事をしたな、工兵の連中も。 下がるぞ!』

指揮小隊が噴射跳躍で後退を始めた。 さて、いよいよ俺の小隊の番か。 まずは陣形を弄らなきゃな。

「ソードB、フォーメーション・ウィング・ツー! いいか、一気に下がるなよ? 足を止めて下がって、また足を止めて、だ! 飲み込まれるなよ!?」

『了解! 美濃、俺より前に出るなよ!?』

『小隊長、何気に難しいです、それって!』

『りょ、了解です!』

「真部、俺の真似をしときゃ、問題ない! 美濃! 宮内の言う事、良く聞けよ!? 小隊、遅滞攻撃始め!」

―――まったく、こんなの俺のガラじゃないよ。 大尉連中に『周防は従兄に似てきた』何て言われてもさ、こんな修羅場ばっか、嬉しくないや!










1999年8月6日 0020 日本帝国 帝都・仙台 首相官邸地下3階 帝国国家安全保障会議(JNSC)


居並ぶ帝国政府の首脳・高官たち。 幾重にも盗聴防止措置を施されたTV電話の向こうには、合衆国国家安全保障会議の面々、そして国連安保理軍事参謀委員会の面々。
更には、大東亜連合常任理事会軍事参議会と、統一中華戦線代表部・統一軍事戦略委員会、豪州政府国防委員会、インド政府国防会議の面々。
普段では見られない、様々に利害が絡み合い、反発しあう面々が一堂に顔を揃えていた。 だからと言って、一致協力する、等と言う空気でも無い。

『では貴国は、あくまでもこのままハイヴ攻略を継続すると。 そう言われるのですな?』

国連安保理・軍事参謀委員会主席のサー・アリステア・デイヴィッド・ファーガソン卿が一見紳士風に、しかし国際外交での古狸さを隠さない視線で問いかける。

「こと、ここに至れば最早撤退は出来ません。 それは我が国にとって、亡国を意味しましょう。 ここに参集された皆様には、良くお判りの筈」

日本帝国内閣総理大臣・榊是親もまた、相手の腹を探ろうとする内心を隠したまま、実に穏便な態度で答える。
脇から首相首席補佐官が、メモをさっと、さりげなく渡す―――『安保理、ソ・中は包括済。 英仏中立。 豪州日和見』とある。 予想した通りか。
そのまま複数のモニターを見やる。 合衆国、大東亜連合、統一中華、豪州とインド、そして東南アジアで数少ない、米国の強い影響下にあるフィリピン、各首脳陣。

表向き、同意するかのように叩頭する大東亜連合と、統一中華戦線代表部。 この両地域には、日本帝国への軍需依存という側面が有る(合衆国からの比率は、それを上回るが)
日本が亡国となれば、『近場』で軍需全般を調達できる工業国は、最早合衆国しか無い(豪州は未だ、そこまで産業が成熟し切っていない) フィリピン? 所詮、下請産業だ。
台湾に本拠を置く統一中華戦線にしても、自分達の面倒を見る以外は、以外に余力が無い。 インドは最早、豪州の間借り人と化した。

大東亜連合としては何としても、日本には持ち堪えて欲しい。 日本列島が陥落すれば、新たに日本列島の2つのハイヴからのBETA群は、戦線の側面に突っ込んで来る。
それは統一中華戦線と、大東亜連合、それに北方戦線のソ連にとっては想像するのも憚れるほどの、極めつけの悪夢に違いなかった。
そうなれば最早、自陣営の対BETA防衛戦戦略の根本を、早急に見直す必要に迫られる羽目になる。

統一中華連合の場合は、これに政治が絡む。 いわば『呉越同舟』の第3次国共合作である統一中華戦線内では、特に共産党が米国の傘下に入りかねない事に、警戒を強めている。
台湾国民党にしても、戦線内で己のプレゼンスを示す上でも、米国の傘下という印象は極力薄めたい。 その為には日本帝国と大東亜連合との繋がりを、主導権を握って行いたい。
つまりは両勢力とも、己のスタンスを今後とも確立させる為には、是が非でも日本帝国には、ここで踏ん張って貰わなくては困るのだった。

―――『自分達の為に、日本よ、何とかここを凌いでくれ』

それが偽らざる本音だった。

『しかし、ヨコハマハイヴの状況は、想定を大幅に覆す事が判明しておりますな。 我が国としては、このまま通常の攻略戦を行う事の危惧を、看過し得ないのであります』

豪州連邦首相が、慇懃な声と態度で発言する。 機動降下作戦で、供出した2個戦術機動大隊をほぼ、『壊滅させられた』とは言え、僅かながらでも生き残りが居る。
であれば、ハイヴ攻略戦、そして宇宙空間作戦と言うものがどう言うものか、そのノウハウを得ただけでも、今回は戦力を『潰した甲斐があった』、と言うのが本音だろう。
よしんば最悪、日本が陥落したとしても、リムパックEPA(環太平洋自由貿易経済連携協定)や日豪安全保障協定により、日本の資本と技術、それに良質の労働力が手に入る。
生き馬の目を抜く様な国際社会での生き残り、ましてやBETA大戦での自国生き残りをかける各国にとって、目の前にぶら下がった格好のエサは逃がせない。

『かと言って、このまま日本の陥落を座視して待つのは愚の骨頂、ではありませんか、皆さん』

それまで一言の発言も無かった合衆国大統領が、重々しく(そう演技した)声で、各首脳を見渡しながら言う。
榊首相はその言葉に、静かに一礼しつつ、内心では反対の感想を抱く―――何と言う空々しさだ!
が、そんな思いはおくびにも出さない。 あるのは誠実な感謝の態度だけ。 日本とて、国際社会の協力を得る為には、悪魔ともダンスをして見せよう。

合衆国大統領の言葉が続く。

『・・・しかしながら、私は懸念するのです。 果たしてこのまま、我等が騎士と武士に刃を合せ続けさす事が、果たして国家の為すべき事なのか、と。
損害を一切顧みず、人類の剣と楯として果てよと命ずる事が、果たして正しいのかどうかと。 特に極東の最重要の要衝たる、日本の今後を見据えれば』

―――正論で来る気か。

合衆国大統領の言葉に、榊首相は想定したオプションの中でも、今後の国内・国際情勢の舵取り的に見て、まずい方向に傾きかねない、そう感じ取った。
そして徐に、統一中華戦線代表部の統一軍事戦略委員会主席が、重々しい表情に見合った、重々しい声で発言を始めた。 台湾国民党の人間だ。

『瞬く間に、軌道降下兵団は壊滅的な損害を被ったと、報告が上がっております。 これは皆さんもご存じでありましょう。
今まさに、ハイヴ内で『敵』の地上への逆襲を阻止すべく、日本の勇者たちが新たにハイヴ内へ突入し、奮闘しております。 その数、実に10個連隊』

そこで一旦言葉を切った、そして繋いで、紡ぐ。

『ここで故事に照らし合わせる事を、お許し頂きたい。 我が漢民族の祖、漢帝国の最初期、中原北方の草原には伸長著しい、匈奴の王が聳えておりました。
漢は数10万の大軍を持って、北への討伐に赴き―――匈奴の王はそれを見越し、わざと脆弱な弱兵だけで作った部隊で、漢軍を風雪吹きすさぶ場所に誘いました。
漢帝はまんまとその罠にはまり、周囲の僅かな者達だけで、匈奴の王の本隊に包囲され―――城下の盟を誓わせられたのであります』

漢族にしては、珍しい。 決して認めたがらない歴史的事実を、ここで開陳するか―――くそっ、本気か? 統一中華は!?

『これは、いつの時代も、為政者が忘れるべきではない事ではないかと』

―――緊急。 外務省情報。 在ワシントン帝国大使館より。 『米国務省、在米統一中華戦線代表部に接触。 内容不明』

新しい情報メモが渡された。 くそ、新たな軍事援助か!? 在日米軍で日本を離れた部隊の一部が、確か台湾に移動している筈だ。 しかし共産党は合意したのか!?

『ハイヴは、言わば蟻地獄の様なものでありましょう』

豪州連邦首相が、言葉を繋いだ。

『まともに当っては、足掻いても足掻いても、這いあがる事の出来ない蟻地獄。 ならばいっそ、何か『大きな力』でそれを壊すのも、ひとつの手で有りましょうな』

―――大量破壊兵器? 核か? 米軍が日本近海に、核配備艦艇をオン・ステージさせている事は周知の事実だ。
だが国防省や統帥幕僚本部からの指摘の通り、それがBETA相手の戦争でどこまで有効かと言うと、疑問も多い。
確かに大陸では、核による遅延戦術は行われた。 それが機能した例も少なからずある、だが注意書きにも有った『あくまで、野戦での戦術的選択肢に於いて有効』だと。
今回の様な、まさに今言った通りの、蟻地獄のようなハイヴ攻略戦で、果たして有効に機能するものなのか? 帝国の軍事専門家たちは、大いに疑問を示している。

『・・・私は、日本帝国首相として皆様に申し上げたい。 我が国は、国土をBETAの暴虐から守る戦いに、躊躇するものではない、と。
そして国際社会の理解と信頼を得る為の努力を、惜しむものではない、と。 そしてそれは、この時代に残された人類全てにとっての信義である、と』

―――くそ、国内を押さえきれなくなるぞ。 そうなれば最悪、米国との安保再開交渉は完全に頓挫する。 大東亜連合や統一中華戦線との距離も、微妙になる。
軍は、帝国軍は今回投入した陸海の『奪回総軍』の中の半数近い12個師団程度ならば、使い潰す覚悟を決めた。 最悪は再突入部隊全てを、帝国軍で固める覚悟を、だ。
だから頼む。 国家間の信義などクソ程も価値が無い事は、重々承知の上で頼む―――極東の防衛バランスを、そこまでして崩したいのか、と。


結局、緊急ホットラインを使った各首脳会談は未発に終わった。 相変わらず横浜では、参加部隊の苦闘が続いていた。










1999年8月6日 0235 横浜ハイヴ 第6層


「畜生! 小隊、後退だ、後退!」

『ソードBの横に付け! 一斉に後退するぞ!』

『なんだって、いつもいつも、貧乏くじはこの3小隊なんだよ!?』

「阿呆! 蒲生、貴様が瀬間さん(瀬間静中尉、33中隊C小隊長)前にして、摂津大尉に大見栄切ったからじゃねえか! 年上趣味も、大概にしろよな!」

『馬鹿言え、周防! 貴様が松任谷(松任谷佳奈美中尉、33中隊副官)を前にして舞い上がって、神楽大尉に恰好のいい事、言ったんじゃねえか!』

『うるせえ、この馬鹿ったれ共が! 周防! ソードBが真ん中張れ! 蒲生! フラガBは左翼! 俺のステンノBが右翼を張る! 損傷機は!?』

「ソードBは3番機がカスリ傷! 八神さん、アンタだって四宮さん(四宮杏子中尉、31中隊C小隊長)に、良いトコ見せたかったんじゃないのか!?」

『フラガBは、4番機の塗装が剥げた! そうだ、そうだ! この人絶対、四宮さんに気が有るぜ!』

『アホったれ! アイツが俺に気が有るんだよ! よーし! ステンノBも全機健在! まだ死ぬには早いぜ! さっさと本隊に合流するぞ!―――来た、BETAだ! 撃てッ!』

「良く言うぜ、この人!―――ソードB、残弾全部撃ち尽くせ! じゃねえとこいつら、排除できんぜ!」

『言ってやる! 生きて帰ったら絶対、四宮さんにバラしてやる!―――フラガB、撃て! 撃て! こんなトコで死んだら、先代(前中隊長・周防直衛大尉)が怖いぞ!?』



8月6日 0250 ハイヴ再突入・阻止任務の帝国軍各部隊は、第5層まで押し上げられてしまっていた。




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