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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/21 20:47
1999年8月5日 1215 旧横浜市 山手付近 第13軍団第18師団 第181戦術機甲連隊本部


「師団本部より、『軌道降下作戦、開始』です!」

「戦域制圧地域は!? 降下兵団の着陸マージンは、確保出来ているのか!?」

「哨戒中の第12中隊より、『S-18ゲートより小型種BETA群、出現。 約200』です!」

「12中隊に対応させろ! 他は!? 他の『門』から出てきたBETA共は居るのか!?」

「現在、S-08、S-12の両ゲートから、BETA群の出現を確認! いずれも小型種ばかり、それぞれ200前後です! 第22、第32中隊が対応中!」


軌道降下兵団が、降下作戦を開始した。 予定では1時間45分後、彼等は遥か天空の高みから、この薄汚れたBETAとの殺戮の場に降り立つ筈だ。
それまでに何とかして、せめてハイヴ南面の戦域確保だけでもしなければ。 そうでなければ、連中の降着エリアがずっと南に逸れてしまう、それでは軌道降下の意味が無い。

「S-06ゲート警戒中の第13中隊より入電! 突撃級20、要撃級40、その他約400、地表に接近中! 現在位置、深度50m、A層A-06ホール!」

「近いのは何処の隊だ!?」

「11中隊がS-03ゲート付近の警戒中です!」

「11? 神楽大尉の隊か? ≪ソードダンサー≫だな!? よし、向かわせろ!」

「S-03ゲートは!?」

「第11機甲(中隊)に警戒させろ! BETA群を検知したら、一目散に後ろに下がれと言え!」

第18師団の警戒地域には、大小合わせて30個もの『門』があった。 隣の第14師団警戒地域には29個もの『門』が。
これまで観測されたフェイズ2ハイヴのデータ上では有り得ない程、多くの『門』が地表に表れていた。
大半は小さな、小型種BETAしか出入りできない様な『門』だったが、それでも数が尋常ではない、異常過ぎた。
モニュメントから半径2km圏でこの数だ、全体で一体どれ程の『門』が存在するのか。 現在は第1派の第13軍団がハイヴ南方地域を保持している。
14師団、18師団の両師団で12個の『門』を警戒中だ。 師団工兵部隊により、20個の『門』の熱硬化性樹脂での充填封鎖が完了したが、まだ28個の『門』が残っている。
そしてつい先ほど、第2派の第1軍団が保土ヶ谷付近の戦域を確保した。 ここの突入用の『門』は、都合11個(当初予定は5個だった) 全体で60個近い『門』が有る。

「第3師団、旧横浜駅西方で大隊規模BETA群と交戦中! 光線属種は確認されず!」

「第1師団、禁衛師団、突入用の『門』を確保。 他の『門』の充填封鎖作業に入りました!」

「師団司令部より、工兵部隊の周辺確保を厳にせよ、以上です!」

連隊本部では、本部要員が慌ただしく飛び回っている。 戦術機部隊への指示、情報の収集と確認、そして師団への報告。
警戒地域の対応、時折湧き出て来るBETA群への迎撃指示。 隣接部隊との連携。 各科長以下、要員は目の回る忙しさだ。

「各大隊の専用回線、確保は出来たの!? 違います、B-11からB-16回線を使いなさい! 師団通信用はバックアップ回線含めて、A-22からA-25回線で!
中隊通信系はそれぞれ支回線を! 機甲、機械化歩兵、工兵、砲兵各部隊本部との通信はB-20からB-50系回線よ、間違えないで!」

第5科長(通信管制)の綾森大尉が、あちこちから上がってくる報告をコントロールする合間に、部下に通信系の再確認をさせている。
他の科長達も、兵站、補給、情報整理、計画検討、等々で部下に大声で指示を出し続けていた―――大声でなければ、この喧騒で声が聞こえない。

「・・・そろそろ、チキンズが頭を逆さにして、突っ込む時間か?」

「現時刻、1220 あと10分で軌道離脱予定地点の筈です」

「だとすると、フライドチキンになるかどうかは兎も角、目出度く地表に到達するのは・・・」

「1時間45分後、1405の予定です」

「ふん・・・ 最低でもあと2時間、ここを確保せねばならんか」

連隊長・名倉大佐が卓上に広げた戦術地図(彼我の戦力展開が記載されている)を睨みながら、少し厳しい表情で言う。
現在、ハイヴ中心部より半径2km圏に無いにある『門』から、大隊・中隊規模の少数であるが、五月雨式にBETA群が地上に湧きだし始めている。
大半は戦術機甲中隊・機甲中隊・自走高射中隊で対応が可能なケースだが、いつ何時、大型種を含む大規模地上侵攻が有るか判らない。

大型種が出現可能だと判断された近辺の『門』のうち、S-03、S-06、S-10、S-13、S-17、S-20、この6箇所の『門』を突入用として確保していた。
残る24か所の『門』のうち、充填封鎖したのは10箇所。 うち4か所が大型種BETAの出現が可能と判断された、大規模『門』だ。
但し、戦力と資材、それに工兵作業の時間的余裕から、未だ14箇所の『門』は監視だけに留まっている。 その中で大規模『門』はS-11、S-16、S-23の3箇所。

「第3派が動き出しました、あと35分で台湾軍第3師団、中国軍第110師団が後詰に到着します」

師団本部から『連絡要員』として派遣され、何だかんだで、今や連隊の作戦幕僚『の、ようなもの』に収まっている周防大尉が、タイムスケジュールを確認しながら答える。
地図上で駒を動かしながら、横須賀方面から3つの駒を北上させて、1つを横浜ハイヴ東方面に。 2つを南方面―――第13軍団の直ぐ背後に。

「戦力は?」

「我々と、ほぼ同等です。 各々戦術機は1個連隊、それに機甲2個大隊と機械化歩兵1個連隊基幹。 台湾軍は福建橋頭堡で、中国軍は半島撤退戦まで戦った部隊です」

「頼もしき、歴戦の友軍と言う奴か。 まあ、今回は戦意の怪しいアメちゃんより、余程アテに出来そうだがな」

「第1軍団の後詰には、第7師団が向かいます。 ですので正味の所、あと35分が勝負かと」

35分すれば、この方面には第13軍団(第14、第18師団)の他に、統一中華2個師団が合流する。
そうなれば戦域確保任務―――『門』の確保の他にも、封鎖作業や警戒任務の負担も、半減する。

「数が増えたは良いが、兵站に混乱は起きんだろうな?」

「その辺は、師団G4(第4部・兵站部)が調整を取っているとの事です。 4科長(兵站担当)の嶋野大尉が先程、師団本部まで飛んで行きましたが・・・」

「統一中華も、規格はISO(国際標準化機構)準拠だったな?」

「はい、SATC(台湾・中国国家標準化管理委員会)は、JISC(日本工業標準調査会)同様、ISOに加盟しております。
ですので、部品のネジが合わないとか、ボルトナットが接続できないとか・・・ ふた昔前の『笑い話』は無いでしょう」

BETA大戦もあって、世界各国はその工業製品の『均質化』を目指し、その速度と規模を各大させてきた。 その規模は1999年現在、ほぼ全ての産業分野に及ぶ。
ISOの『技術委員会(Technical Committee)』の下で行う主要産業分野の標準化は、『TC1(ネジ)』、『TC2(ボルトナット類)』に至るまで、基準の標準化が図られていた。

「なら、あとはデポ(物資集積所)の場所争いだけか。 おい、嶋野が戻ってきたら、顔を出せと伝えておけ」

「了解です」

後方の本部の場合、前面の戦況のみならず、継戦の為のあらゆる方法の検討がなされる事は、当然だった。 特に兵站は最重要、次に情報。
この二つが十全に収集・確保されて初めて、全力で戦い得る。 戦術を語るのは、駆け出しのヒヨ子達。 実戦を経験した中堅以上は、情報と兵站を語る。

「・・・35分か。 何も無ければ、幸運だな・・・」

ポツリとつぶやいた名倉大佐の声が、意外に本部内に響いた。










TIME:-1:45:00 地球周回低軌道 高度340km 軌道降下兵団待機軌道 LR-225


再突入殻を背負ったHSSTが、軌道上を周回遊弋している。 既に軌道爆撃任務の第1、第2、第3戦隊はクソッたれな荷物を大気圏に放り出した。
と言う事は、行く筈だ。 この周回で突っ込む筈だ、重力の井戸のど真ん中に。 クソッたれなBETAの巣食う、忌まわしきハイヴへ。

『・・・とは言え、全員がVD『突入処女(ヴァージン・ダイバー)』とはね。 国連のクソッたれ共が憐れむ訳だ』

『まったく、神をも憐れむクソッたれさだ。 寄りによって国連のボケ共に、憐れみを掛けられるとはな! 帝国航空宇宙軍、初夜で全員身震いか?』

『ドラゴンバスター01より、ドラゴンバスター02! 大丈夫だ、貴様の様なむつけき熊の様な処女、誰も相手にせん』

『02より01! ケツの穴掘られてから、言うんじゃねぇぞ!』

歴戦の衛士なら恒例の、出撃前の『些か』以上に下品な会話。 しかし彼らをして、どこか声が上ずっていると感じるのは、気のせいでは無い。
軌道降下作戦―――今までリヨン、マンダレーなどの作戦で行われた、ハイヴ攻略戦の常套手段。 今ではハイヴ攻略戦の常道として定着した。
問題は『成功例が無い』事と、軌道降下兵団の生還率が2割を切ると言う事だ。 100機突入して、生還機は20機を割る。 普通の戦術機甲部隊なら『全滅』判定だ。
のみならず、今回軌道降下兵団を構成する6個大隊は、日本帝国と豪州・インドの各国軍が『国連軍軌道降下兵団(第5、第6)』として参加する。
そして今回の降下兵団の中には、軌道降下の経験者が『一人も居ない』と言う事。 そして軍隊と言う暴力組織の常で、それは一切問題視されていない事だ。

だが当の軌道降下兵団の衛士達にとっては、それの現実が全てだ。 2割の生をもぎ取るか、8割の望まぬ死に飲み込まれるか。

『・・・しっかしな、『空飛ぶ棺桶』たぁ、言ったもんだ。 しかも夜の闇からこっそり突入とはね! まるで話に聞く吸血鬼じゃねぇか』

『吸血鬼の棺桶にゃ、レーザーなんぞ照射されねえよ。 第一、こんな高度から投身自殺なんかしやしねぇ』

『違ぇねぇ! そう言や、国連のクソッたれが言っていたな! レーザー直撃宇宙葬、突入失敗火葬場代わり、着陸失敗土饅頭、鳥葬・風葬BETAのお好み次第!・・・ってか?』

『葬式代が浮いて良いや! どうせなら、三途の河原への相方は、美女がいいな!』

『全くだ! 貴様みたいな、厳つい野郎じゃ無くてな!』

降下待機中の与太話は、どこも同じだ。 今もあちらことらで―――6個大隊、216名の衛士達が内心の恐怖を押さえるべく、戦っている。
そんな減らず口を叩いている間にも、各々がステータス・チェックを行っている。 Feeder link(フィーダリンク)通信系、OK。 生命維持系、OK。
姿勢制御システム(Attitude Control Systems : ACS)、姿勢制御用ブースター、OK。 コントロール・モーメント・ジャイロ(Control Moment Gyros : CMG)異常無し。
Global Observation Information Network(地球観測情報ネットワーク)インフォメーション、フレア・アラート異常無し。 デブリセンサ・・・デカイのは無い、OK。
とは言え、もう何度も同じチェックを繰り返している。 はっきり言って、突入するまでは『やる事が無い』 それが余計に不安と恐怖を増長させる訳だが。


軌道降下兵団は既に昼と夜の狭間に差し掛かっている。 真下は真っ青な太平洋、遥か向うに見える光の帯は、北米大陸西海岸。 
行った事も、見た事も無いロスアンゼルスかサンフランシスコの光か。 ロッキー山脈中ほどの上空で、また南下する予定だ。
その光景を、美しい、そう思った。 皆がそう思った、2割を切る生還率、未だ一箇所も攻略出来ていないハイヴ。
それでも―――『身の程知らずの、投身自殺』と揶揄されようとも、その美しさには彼らをそこにかき立てる『何か』が有った。

軌道離脱予定地点まで600秒を切った。 突入なら戦隊司令官が一席ぶつ筈、突入しないなら、相変わらず『暇な恐怖』を味わう事になる―――空電が鳴った、次いで野太い声。

『司令官より第5、第6戦隊総員に次ぐ。 『明星作戦』は予定通りに推移している。 陸上・海上の友軍の奮戦は、ハイヴ周辺よりBETAを誘引、これを殲滅しつつある』

つまり、自分達の投身自殺の場所が、綺麗に掃き清められたと。 思う存分、恐怖に浸って突っ込んで行けと。
そう言う事か―――どうでも良いけど、第6戦隊はオージーとインド人だ、英語の方が良くないか?

『本周回にて再突入を開始する、全艦は所定の行動予定を厳守せよ。 最後に―――諸子の奮戦と、武運長久を祈る!』


司令官の訓示が終わった数分後、視界が反転した。 再突入に備え、HSSTが艦体を180度転じたのだ。
OMSロケットを進行方向に約3分間逆噴射、軌道周回速度を300km/hほど減速する。 第5、第6戦隊全艦は一斉に、軌道離脱の為の姿勢制御を開始し始めた。

ハイヴへの『着陸』完了まで、あと1時間45分。










1999年8月5日 1235 旧横浜市 横浜港跡 旧製油所付近 第13軍団第18師団 第181戦術機甲連隊本部


「21中隊より緊急入電! S-11ゲート付近で大規模地中震動を検知! 推定規模・・・約5000! 旅団規模のBETA群です!」

「22、23中隊、急行します! 13、33中隊反転、S-11ゲートに向かいます!」

「師団砲兵、『制圧砲撃準備中』です!」

五月雨式の小規模出現から一変、遂に旅団規模のBETA群が連隊正面に現れた。 即座に投入し得るのは、戦術機甲5個中隊と、機甲4個中隊、自走高射4個中隊。
これに師団砲兵があと数分で、面制圧砲撃を叩き込むだろう。 連隊の側面・後背には小型種の浸透阻止の為の、機械化歩兵装甲部隊が3個中隊展開している。

「21中隊、和泉大尉(第21中隊長)より報告。 『推定、突撃級400、要撃級800、その他4000弱。 恐らく光線属種を伴う』、以上です!」

とうとう、光線属種が地上戦闘に対して出現した。 今後の戦域確保が非常に難しくなってきた。

「14師団より、『戦術機甲3個中隊、機甲・自走高射各2個中隊、増援に回す』です」

「軍団司令部より、軍団予備より戦術機甲1個中隊、出ます!」

これで戦術機が9個中隊、機甲・自走高射中隊が各6個ずつ。 戦術機甲1個連隊に、機甲・自走高射各2個大隊の戦力―――いける、潰せる。

「師団司令部より入電! 『艦隊の支援艦砲射撃、5分後。 前線部隊は500下がれ』、以上です!」

海軍の戦艦部隊、その艦砲射撃か。 500で済むか? 年の為に1km下がるか?

「連隊長、艦隊の砲撃座標地点は、2km圏以内でしょう。 誤射・爆風の影響を考えますと、500で宜しいかと」

2科長(情報)、3科長(計画)、5科長(通信管制)と協議していた周防大尉が、名倉大佐に向かって進言する。 後ろの3人の科長も、頷いていた。
戦艦の艦砲射撃の威力は凄まじい、下手に近くに居たら、こちらまで被害を受ける。 だが砲撃座標と砲弾の危害半径を考慮すれば、500下がれば大丈夫、との結論が出た。

「・・・よし、ならその5分間で陣形を変更する。 艦砲射撃後の、最も効率的な殲滅陣形は・・・ふん、丁度S-11ゲートの地形、14師団との境界付近か。
なら向うの増援は、その場で待機して貰え、軍団の予備も同様だ。 艦砲射撃後に、3方向から押し包む。 師団砲兵は?」

「3分後に、面制圧射撃開始。 ゲート付近にです」

「そっちは引き続き、砲撃して貰え。 小型種の数を削る位はなる、大型種の殲滅は師団砲兵程度じゃ無理だからな。 よし、これで行こう」

全部隊に一旦500の後退、そして陣形の変更指示が飛ぶ。 底辺を500m下げ、旧首都高湾岸線跡の南に布陣する。
連隊本部は更にその南、旧製油所跡にある。 正面の本牧の市民公園跡には、弾着観測班が陣取っているが、彼等はそのまま。

「第1大隊、本牧公園。 第2大隊、県立高校跡。 第3大隊、本牧ふ頭入口」

「機甲部隊、配置転換完了しました。 自走高射部隊、同様です」

「機械化歩兵装甲部隊、旧首都高跡に展開」

「第14師団、側面援護位置に付きました!」

「地中震動音、増大! BETA群、出ます!」

S-11ゲートから旅団規模のBETA群が飛び出してきたのは、まさにその時だった。 突撃級BETAを先頭に、旅団規模のBETA群が『門』から飛び出す様に湧き出てきた。

「艦隊、艦砲射撃、開始しました!」

「師団砲兵、砲門開きます!」

南東方面の東京湾上、そして南西方面の陸上から、大小異なる砲声が鳴り響いた。 洋上からは恐らく第1艦隊だろう、腹に響くとんでもない重低音。
比較的距離が近いせいか、直ぐに着弾する。 同時にとんでもない大きさの火柱が立つ、戦艦の主砲弾だ。 続いてクラスター誘導弾が空中で炸裂、子弾をばら撒く。
師団砲兵からは155mm野戦榴弾砲が、ひっきりなしに撃ち込まれている。 こちらも『門』の直ぐ近くに集中的に着弾していた。
砲撃は順調に進んでいる、まだ光線属種によるレーザー迎撃照射が始まっていないからだ。 大型種は戦艦主砲の直撃や至近弾でミンチにされるか、吹き飛ばされる。
小型種BETAは洋上と陸上からの203mm、155mm砲弾に引き裂かれ、吹き飛ばされ、『門』を出て間もなくの内に赤黒い霧状の『何か』に変わって行く。

「海軍弾着観測班より、『艦砲射撃、あと10分間継続』、以上です」

「師団砲兵、砲撃継続あと15分」

「第1大隊長より、『砲撃効果大、前衛大型種の数、半数を切る。 続行されたし』です」

連隊本部内に、やや安堵の空気が漂い始める。 どうやら光線属種は群れの後尾付近、まだハイヴから出てこれない様だ。
このまま砲撃を続行すれば、連中が出現する頃には厄介な大型種は、大半を始末できる事だろう。 ならばその後の掃討は刺して困難ではない・・・

「ッ! 第1軍団正面に、師団規模BETA群、出現! 数、約1万1000!」

「海軍より緊急信! 『艦砲射撃を東戦域(第1軍団担当戦域)に変更す。 貴軍団の奮戦を期待す』です!」

師団規模!―――安堵した途端に、これだ! 判ってはいたが、BETA相手の戦いとは全く、先が読めない! 連中の手持ちカードは後、どれだけある!?

「師団本部より入電、『全機甲部隊を旧首都高跡に展開。 戦術機甲連隊は東側、本牧方面に展開せよ』です!」

「第14師団機甲部隊、旧首都高跡付近に全部隊、展開しつつあり!」

「第141戦術機甲連隊、西側、根岸公園付近に展開中!」

どうやら軍団司令部は、根岸公園・本牧公園を回廊の両端にし、旧首都高跡を底にしたキル・ゾーンを形成するようだ。 
そこにBETA群を誘引しての殲滅戦を企図したようだ。 だが浅い、ゾーンの縦深が浅い。 大丈夫か?

「第1、第2大隊、前衛突撃級BETA群と交戦開始! 機甲部隊、射撃開始しました!」

「第3大隊、側面突入! 要撃級BETA群と交戦を開始!」

「141連隊、西側面よりBETA群に突入開始しました!」

「師団砲兵群より、『制圧砲撃、15分間延長続行す』、です!」

「小型種の浸透、多い! 機械化歩兵装甲部隊、小隊毎に散開・殲滅に当ります!」

どうやら、最初の山場の様だ。 ここを凌げば反対に戦力が強化される、出来なければ・・・チキンズの降着地点の確保が出来ない、連中は袋叩きに遭う。
艦砲射撃が第1軍団戦域に移って以降、小さくなった砲声も心なしか、少し大きくなった気がする―――いや、大きくなった。
第18師団砲兵群以外に、第14師団砲兵群、第13軍団砲兵団も加わっての集中砲撃が開始されていた。 
戦艦主砲の様な大口径砲は無いが、155mm、203mm砲がひっきりなしに着弾する。 いつしかAL砲弾、ALMも加わっていた、光線属種が姿を表したからだ。

『11中隊、≪ソードダンサー≫! そのラインより後ろに突破を許すな! 13中隊、11中隊の側面を援護!』

『第2大隊、第1大隊の右側面から再度突っ込め! 後方の光線属種は第3大隊が受け持つ!』

『長車よりカク、カク! 目標、突撃級BETA群! 陣前780! 弾種APFSDS! 各個に―――撃ッ!』

『師団G5より全部隊、出現せしBETA群の数、6800に増加! なおも増大中!』

『第1中隊、ここで浸透を阻止しろ! 第2中隊、本牧南側一帯周辺をサーチ、発見次第殲滅しろ! 第3中隊は西側! 浸透した小型種は、1匹も撃ち漏らすな!』

『面制圧支援砲撃、第25射、開始した!』

『海軍! 支援砲撃要請! BETA群増大中! 現在・・・約7000を越えた!』

『護衛を回してくれ! そうだ、輸送部隊の護衛だ、丸裸で輸送が出来ん! デポの集積が進まないんだ!―――歩兵1個小隊が限界!? 馬鹿野郎!』

『師団G3だ、機械化歩兵連隊、1個中隊を輸送隊の護衛に回してくれ!―――構わん、いざとなったら司令部中隊で応戦する!』

騒然となって来た。 出現するBETA群の数が一気に増える、旅団規模を越し、師団規模に迫る勢いだ。 想定した作戦戦術戦域では収まらない。
おまけにそこかしこの小さな『門』から、光線級が出現している。 場所がばらけていて、攻撃の的を絞り難くしていた。

「・・・海軍はアテに出来ず、BETAは増える。 さて、どうしたものか・・・」

名倉大佐が、他人事のような口調で独り言のように呟く。 が、表情はその正反対だ、非常に厳しい。
連隊本部要員は、各科長以下全員が対応に追われている。 作戦地図の前に陣取っているのは、連隊長の名倉大佐と、師団参謀の周防大尉の2人だけだ。

「・・・どう見る? 周防」

「ゾーンが狭すぎます。 どうせ、どう動くかはBETA次第です。 なら連中の好物で釣ります」

「具体的には?」

「東の本牧ふ頭まで、戦術機部隊を餌に。 海軍からは1個戦隊(第2戦隊)の支援が来ます、旧首都高から横須賀街道までの包囲網を形成、集中砲撃を」

「現有戦力で、それが可能と考えるか?」

「・・・現在、1245です。 増援の統一中華2個師団到着まで、あと10分。 4個師団の戦力が有れば可能、そう判断します」

そう答えた周防大尉の顔を、面白そうに眺めた名倉大佐が最後に一言、聞いてきた。

「連隊全部は無理だ、精々1個大隊―――誰にやらせるつもりだ?」

その問いに、周防大尉が一瞬口ごもる。 大尉の腹の中では当りは付けていたが、この場での決定権は無い。 
それに今回進言した内容は、戦術機甲連隊から『囮の為の餌を出せ』と言っているのだから。 仮に釣れても、餌は飲み込まれかねない。

周防大尉のその表情を見た名倉大佐が、手で制して己から言った。

「判った、貴様は言うな。 うん・・・2大隊、荒蒔にやらせよう。 宇賀神(第1大隊長)は早々くたばって貰っては困るし、木伏(第3大隊長)の所は練度が一番低い。
荒蒔の第2大隊が一番、適任だろう。 アイツの部下の中隊長は全員、見事に大陸派遣軍上がりばかりだしな。 こういった無茶は、向うでは散々やって来たのだろ?」

「・・・やらざるを、得ませんでした」

「だろうよ、ならここでも同じだ。 覚えておけ、立案して命じる側の苦労もな」

苦労―――その一言で片づけられるのもだろうか? 部下の命、それも数百名の命を預かり、そして死地に飛び込めと命じる。

「通信を開け、第1大隊だ。 ・・・宇賀神か? どうだ、あと10分、陣地変更の間持ち堪えられそうか? いける? よし。 おい、次は師団司令部に繋げ!」

大佐なりの達観か? それとも自分への配慮か? その答えが出る前に(答えが出るモノでもないが)名倉大佐は師団本部へ上申を伝えた。


返答が届く10数分間の間、連隊の正面では必死の阻止戦闘が継続されていた。 機甲部隊は距離100を切る、至近距離での阻止砲撃を余儀なくされ、被害が拡大する。
自走高射砲部隊も小型種に気を取られた隙に、要撃級の前腕の一撃を車体上面に受け、破壊される車両が出始めた。
戦術機部隊がBETA群の中に割って入り、撹乱する。 次々にBETAを葬って行くが、戦場が狭いせいと光線属種の存在が機動を制限する。

1機、また1機、撃破される機体が出始めた。

「第1大隊、損失3機、中破2機! 残存35機、損耗率12.5%!」

「第2大隊、4機損失」

「第3大隊損失、3機! 中小破1機!」

全体で120機中、損失10機、中小破3機。 既に1個中隊分の戦術機を失った、序盤でこれでは目も当てられない。 どうやら隣接する141連隊も似た様な損失状況の様だ。 
もっともハイヴ直近で、7000以上のBETA群の直撃を受け、未だ1個中隊分の損失、と言う方が異常かもしれない。 過去の本土防衛戦闘では大隊丸ごと、と言うケースも有った。

「師団司令部より入電!」

ようやく指示が来た、内容は―――概ね、上申の通り。 

「よし、第2大隊に命令、手筈通りにとな。 第1、第3大隊は機を見て第2の支援に当れ、判断は各大隊長に任せる」

ひっきりなしに砲声が直ぐ近くで聞こえる、何せ連隊本部の有る場所から300m程先には、最初で最後の防衛ラインが存在するのだ。
攻撃を敢行しつつ、配置転換を行う。 困難な作業をしかし、指揮下の各大隊は何とかやりおおせつつあった。 その間に更に3機が損傷した。
14師団、18師団の戦術機甲部隊、機甲部隊の配置転換が終わり、師団砲兵、軍団砲兵団による支援砲撃が座標を変更して再開されたその時、ようやく待っていた報告が入った。

「海軍第2戦隊、支援砲撃位置に到達しました! これより艦砲射撃開始します! 台湾第3師団、中国第110師団、先鋒部隊が到着! 戦線に参加します!」

途端にとてつもない重低音が響く。 ややあって、頭上を特急電車が一気に通り過ぎてゆくかのような轟音。 同時に凄まじい音と、本部まで響く衝撃波。 戦艦の砲撃だ。
そしてBETA群に突進して行く台湾のF-CK-1『経国』、中国軍のJ-9Ⅱ(殲撃9型Ⅱ)J-10(殲撃10型)の混成部隊。 流石に最新鋭のJ-11(殲撃11型)は出し惜しみするか。
だが、出し惜しみでも何でもいい。 今ここで新たに、2個連隊の戦術機部隊の増援、何物にも代え難い。 じきに機甲部隊なども追いつくだろう。

「よし、まずはここを踏み止まる! 外縁部の誘因部隊が折角3万近いBETA群を引きだして、相手取っているのだ、この位はせねばな!」










TIME:-1:15:00 地球周回低軌道 高度282km


アンビリカル・コネクタ解放、再突入カーゴの全系統切り替え―――OK。 これで全コントロールはエレメント・リーダーの手に渡った。

≪天鳥船(アメノトリフネ)よりドラゴンバスターズ、本艦の軌道離脱噴射まで300―――頼む、横浜を、本土を取り戻してくれ≫

管制ユニットのコンソール・ライトに、網膜スクリーンに映った管制官の顔が、青白く見える。 祈り―――真摯な祈りの顔。
なるほどな、『天鳥船』―――日本神話に登場する神の乗る船、だとすれば俺達は、本土を奪還する八百万の神のひとつか? 
笑うな、それだけの数の神様がいりゃ、一神位は恐怖にションベンを漏らす、クソッたれなチキン・ダイバーズの神様だって居るだろう。

『ドラゴンバスター01、軌道離脱噴射、スタンバイOK ・・・頼まれた。 頼まれたぞ、戦友・・・!』

『ドラゴンバスター02、スタンバイ了解。 横浜は俺の故郷だ、やってやる・・・やってみせるぞ、戦友!』

西経40度、南緯35度、ウルグアイ東方・南大西洋上軌道高度260km。 速度26,500km/h。 軌道離脱噴射、開始―――高度250km・・・200km・・・150km・・・ 
もうHSSTとの通信は途切れている。 ユニット離脱タイミングを示すカウンターだけが、不気味にその数字を減じていく。
カウントダウン―――10、09、08・・・03、02、01、00! ロックボルトが爆発分離された、再突入殻分離!

『再突入殻分離、確認!』

『確認! 現在地、西経36度、南緯26度、南大西洋ど真ん中の上空!』

外部モニターに映し出される、軌道艦隊が見えた。 全艦がロケットブーストで、高度と速度を回復しつつ、低周回軌道へと復帰して行く。
暫しの別れ。 そう、暫しの別れだ。 生還率2割? それがどうした、それより低い生還率の作戦も有った! それを生き抜いてきたベテランだ、我々は!

眼下の(実際はそうでないが)地形がみるみる変わって行く。 長い航跡を引いて、この世で最も臆病で、そして見栄の何たるかを知る貴き愚者達が、流れ落ちて行く。









1999年8月5日 1315 旧横浜市 横浜港跡 旧製油所付近 第13軍団第18師団 第181戦術機甲連隊本部


「損失は?」

「3個大隊で16機が完全撃破されました、全員戦死。 他に14機が中小破、6機がスクラップです。 8機は応急修理の後、戦列に復帰、重傷4名。 残存90機」

「これまでの、出現BETAの総数は?」

「軍団正面の累計で9860体、師団規模です。 他に第1軍団正面に1万1800体、合計で2万1660体。 何とか撃破しましたが、それでも8個師団がかりで、です」

「その上に、外縁部に3万以上が向かいました、総数で5万体以上が出現した計算になります」

「・・・本当に、横浜はフェイズ2ハイヴなのか?」

「データ上では、フェイズ2ハイヴの攻略戦はミンスクだけですが・・・地上への出現BETA数は、当時で2万4000体前後でした」

「・・・多い、多過ぎるぞ。 一体どうなっている・・・?」










TIME:-0:35:00 熱圏 高度80.5km 第5軌道降下兵団


『はあ! はあ! はあ!』

荒い息、誰だ?―――自分だった。 もうかれこれ30分近い軌道降下の真っ只中。 そろそろ熱圏が終わり、中間圏に突入する高度だ。 全行程の中間地点はとっくに過ぎた。
先程眼下に、カスピ海が見えた―――周りは低地ばかりだった、本当ならカフカス山脈からアナトリア、イラン高原があった筈・・・

≪ザッ・・ザザッ・・・!≫

鈍いノイズと同時に、網膜スクリーンの視界がブラックアウト。 熱圏から中間圏に突入したのだ。 TIME、-00:25:00。 さあ、ここからいよいよ、最大の難関に差し掛かる。

『むっ・・・! ぐっ・・・!』

シートから押し出される様な、マイナスGが急激にかかる。 高度70km、速度23,700km/h、軌道降下に伴う減速を補う為に、ロケット加速が始まったのだ。
外部視界は全く取れない、なので自分がどこをどう『落ちて』いるか、想像するしかない。 なので予めプリセットされたプログラムで、再突入殻を制御するしかない。

『第1回ロール反転・・・開始・・・!』

ほんの僅かなスラスター噴射と、シェルに複数個所取り付けられたモーメンタム・フライホイールのトルクモーメントを使ってS字軌道を描く。 TIME、-00:20:00
着陸までに都合4回、強引に70度以上の深いバンク角度でS字軌道を開始する。 これも軌道降下戦術のひとつ。 現在推定地点、旧西安上空!
俗にBETAの予測を外す、等言われるが、チキンズにとって迷惑この上ない苦行だ。 瞬く間に、次のターンが迫ってくる。
TIME、-00:18:00 第2回ロール反転、想定位置・呼和浩特(フフホト)上空、高度66km。 更に減速した、ロケット加速第2段!
TIME、-00:16:00 第3回ロール反転、想定位置・大連上空、高度62km。 骨がきしみそうだ、だがまだ大丈夫、大丈夫な筈だ!
TIME、-00:14:00 第4回ロール反転、想定位置・ハルピン上空、高度58km。 ロール反転はこれで終わり。 さあ、次こそいよいよ・・・!

電子音が管制ユニットに鳴り響く、ブラックアウトが終わったのだ。 中間圏を何とか生きて抜けた。

『タイム、-00:12:00、高度55km、速度23,400km/h・・・ウラジオストク上空、成層圏突入用意・・・』

TIME、-00:10:00。 いよいよ成層圏に突入する。 さあ、『あれ』が始まる・・・!

『・・・高度50km、速度23,000km/h・・・ターミナル・エリア・エネルギー・コントロール! 成層圏突入! 大減速、開始!』

ドンッ!―――背中を一気に蹴飛ばされた、いや、とてつもない何かにブチ当たった感じ。
強化装備の耐G機能が無ければ、一気にこのマイナスGには耐えきれないだろう・・・

『マイナス4.0・・・4.5・・・5.0・・・高度40km、速度13,300km/h・・・最大減速・・・!』

目玉が飛び出しそうになる、内臓が押し上げられて、全てを吐き出しそうだ―――歯をくいしばって耐える。 マイナス8.0Gを超す、猛烈な大減速! 正気の沙汰じゃない!

一気に高度25,500m、速度2,740km/hまで、速度で20,000km/hもの大減速をかける!
頭から一気に血が引く、足元に全て集まる感じだ、視界が暗く狭まって意識が―――途絶えさせるものか!

日本海上空を、流星群さながらに猛速で降下して行く軌道降下兵団。 高度20,000・・・15,500・・・10,000・・・5,000・・・

『マニュアル・コントロール復帰! リエントリーシェル、離脱!』

ドッ!―――衝撃と同時に、背面で落下していたリエントリーシェルから、一気に戦術機ごと開放される。 
同時に最後の補助ブーストを自動で利かせ、リエントリーシェルがハイヴに向け急速突入して行った。 レーザー照射は・・・たったの20本!

『シックスよりドラゴンバスターズ! 全員居るか!? フライドチキンになった奴は居ないだろうな!?』

『ドラゴン05よりシックス! B小隊全機いますぜ!』

『シックス、ドラゴン09! C小隊、A-OK!』

『02より01、A小隊、しぶとく全機、居やがった! 焼き鳥屋は、これで廃業だぜ!』

腹の底から、何か判らない感情がせり出してきた―――全機、軌道降下をやり遂げやがった!

『OK! クソッたれ共! 重金属雲発生高度、1560m! 突入前フォーメーションを組め!』

―――『了解!』

跳躍ユニットを下方全開にして、減速着地態勢に入る。 真下に黒々とした重金属雲が広がる、あの中に入るのは嫌なものだ。 だがここではアレが唯一の『イージス』だ。

『重金属雲・・・突入!』

ボッ―――そんな音がした気がした。 途端に視界がブラックアウト、重金属雲は通信だけでなく、センサー系も異常を発生させる。 速度455km/h

『・・・む・・・う・・・ 抜けた!』

高度420m、重金属雲を抜けた。 どうやら海軍の艦隊と陸軍の重砲部隊は、念入りにAL砲弾での砲撃を実施してくれていたらしい。 予定より300mも分厚いとは!

『最大逆噴射! 着地に備えろ!―――待たせたな、陸軍!』

≪第18師団だ! フライドチキンじゃなくて、何より! 降下ポイントは山手より南だ! 北側の『門』の確保は、まだ出来ていない!≫

『頼もし過ぎて、涙が出る!―――ドラゴンバスターズ! さあ、地獄の門だ! 獄卒共を喰い尽せ!』

―――『応!』


1999年8月5日 1408 国連軍第5、第6軌道降下兵団、全216機中の195機が横浜ハイヴに軌道降下で降り立った。 



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