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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦 2話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/12 00:18
1999年8月5日 0525 三浦半島 旧横須賀市 横須賀新港 第13軍団第18師団


陽が昇る―――朝日が立ち上り、明星の青白い空が光に浸食され、光り輝き始めている。

東の空を見つめながら、そんな、柄でない事を思っていた。 気温はまだそれほど高くない、30度に達していない。 今日の予想気温は、師団気象班の予想では36度に達する。
港から見た光景、海は観音崎を回って続々と侵入してくる上陸支援艦隊、輸送船団で埋め尽くされている。 片舷に朝日を浴びながら、波を裂いて港に入ってくる。
瓦礫が撤去された旧埠頭には、次々に接岸された補給艦・輸送船から大量の戦略物資が功陸されている。 輸送トラックが走りまわり、その大量の物資を何処へと運び出している。

岸壁に立ち、周囲を見渡す。 楠ヶ浦町、泊町・・・横須賀米軍基地跡は、千葉から散々撃ち込まれた砲撃の為に、跡形も無いまっさらな更地になっている。
横須賀中央、汐入町の辺りもBETAに食い荒され、砲撃が散々撃ち込まれ、まるで話に聞く月面のクレーターだ―――昔、死んだ兄貴が住んでいた辺りも、跡形も無い。

防暑帽のつばを引っ張り、無意識に目深にかぶり直した。 ここで感傷に浸る為に上陸したのではない。
傍らに止めてあった1/2トラック(73式、小型汎用の軍用車両)に乗り込む。 既に3人の先客がいた。

「・・・揚陸作業は順調。 あと1時間で完了するよ」

後席に座る師団兵站課員(兵站参謀)の伊丹大尉(伊丹正友大尉)が、秀才然とした眼鏡の奥の瞳を光らせて(そんな感じで)言う。
帝大の経済学部から学徒動員で引っ張られ、各地の実戦部隊の主計部署を渡り歩いてきた男だ。 実際に歩兵部隊に混ざって、小型種BETAとやり合った経験を持つ。

「8軍団(第8軍、第28、第43師団)が湘南台まで進出した、第16軍団(第8軍、第19、第23師団)は大船だ」

ハンドルを握る師団情報課員(情報参謀)の渡部大尉(渡部公彦大尉)が、他部隊の進捗状況を伝える。
これで南北の外縁ラインのBETA誘導部隊は、全て布陣が完了した。 後は攻勢部隊―――第1軍団と第13軍団、そして第14軍団の一部の配置が完了すれば・・・

「軌道爆撃第2派開始は、0730。 あと2時間後か」

助手席に潜り込み、誰と話に呟いた俺の一言に、2人とも頷いた。 あと2時間、あと2時間で帝国は、これまでで最大級の大攻勢作戦を開始する。
目標は甲22号目標―――横浜ハイヴ。 国内に2箇所確認されたハイヴの方割れ。 佐渡島と異なり、本土の、それも国土の中枢近くに建設されたハイヴ。
最優先で、どれ程の犠牲を払ってでも、最優先で排除せねばならない戦略目標だ。 これが成長すれば・・・帝国は確実に亡国となる。

旧軍港地帯を右手に見ながら、横須賀街道を北上する。 現在、師団司令部は金沢八景の旧大学跡地に移っていた。
後続の上陸状況を確認するため、派遣された俺達3人の帰隊を待って、最後の作戦確認会議が開始されるのだ。
やがて追浜から旧金沢八景駅跡を横目に見て、瀬戸で左に折れる。 暫く進んでまた左折、正面に衛兵が立哨する師団本部―――旧大学跡地が見えた。
建物の前で車輌を止めて、そのまま本部に使用されているキャンパス建物(半分以上、BETAに齧られていたが)に入る。


1階の奥、数部屋を吶喊でブチ抜いた作戦室に入った。 既に師団長、参謀長以下、お偉方が揃っている。 取りあえず末席に座った。
それを合図に、師団主任作戦参謀―――司令部作戦課長の広江中佐が立ち上がり、プロジェクターに映し出された戦況図を前に説明を始めた。

「まず、現在の状況を再確認させて頂く。 『本土奪回総軍』は2個軍、19個師団(戦略予備2個師団)全てが、攻撃発起点に布陣を完了した」

―――おお。

あちこちから声が上がる。 上陸作戦開始後24時間で、19個師団もの大部隊が大きな混乱も無く、所定の行動予定通りとは。
先程の声も、少しばかり不信感が滲んだ疑問の声だ。 これはおかしい、幾らなんでも順調過ぎる。 BETAはどこに居る?
広江中佐の説明が続く。 プロジェクター画面は南関東一円を映し出している、奪回総軍と、本土防衛軍関東軍管区の西関東防衛線が映し出されていた。

「大東亜連合第3軍団(インドネシア軍団)は厚木・海老名・大和・町田に展開。 第18軍団(第32、第33、第33師団)、国連第4軍団(比軍第6、第9師団)は登戸から町田に」

8個師団が外縁部に展開を完了した、これらの部隊は横浜のBETA群を北方に引きずり上げる任務を担当する。 
作戦には戦略予備の第19軍団(第35、第36師団)も協同する。 西関東防衛線から出撃し、旧大和市付近で横浜からの扉を閉じる役目だ。
広江中佐がポインターを八王子街道沿いに、町田の辺りまで移動させる。 町田から相模原辺りまで引き上げ、そこを厚木・登戸の双方から南の出口を閉じる。
横浜から太い線が大和市の辺りで2手に分かれ、一方は北の町田へ、一方は南の綾瀬・海老名へ。 南には第8、第16軍団と第14軍団主力、それに韓国軍第2軍団。

「この様に、8個師団で包囲網を形成する、その『底』に聯合陸戦第1師団が控える。 合計9個師団でもって、『南の包囲網』でBETAの誘因・殲滅を図る。
合計20個師団が横浜ハイヴのBETA群を誘引し、引き釣りあげ、ハイヴ突入部隊の為に『時間』と『空間』を作る。 我々はそれを最大限に活用せねばならない」

広江中佐の説明が続く。 南北に合計20個師団が誘引・殲滅戦を仕掛け、空いたハイヴ周辺戦域に第2次軌道爆撃を行い、周辺BETA群の掃除を行う。
その隙に我々攻勢部隊、ハイヴ付近の戦域確保部隊が突入し、『戦域確保』を行う。 ハイヴ中枢から伸びるスタブの出口―――『門(ゲート)』周辺の確保だ。

「戦域突入第1派は、我々第13軍団(第14、第18師団)が行う。 具体的には第141と第181戦術機甲連隊だ、八景島から根岸に突入。 山手一帯を確保する」

そう、それが戦域突入作戦の第一弾。 その次に両師団の機甲部隊を主力とした機動部隊と、聯合陸戦第3師団の『瑞鶴』部隊が第2派として戦域拡張を行う。
それと同時に横浜横須賀道路を北上する第1軍団(禁衛、第1、第3師団)が、保土ヶ谷周辺戦域を確保。 軌道降下兵団は山手・保土ヶ谷、2箇所の戦域にある『門』から突入する。
最後に第7師団、統一中華2個師団(台湾第3、中国第110師団)の3個師団が他戦域の『門』を封鎖する。 戦域で言えば井土ヶ谷・弘明寺戦域、そして西横浜から旧横浜駅周辺が相当する。 止めは米軍の本牧ふ頭上陸だ、海岸線に展開する。

そして確保した戦域に天空から舞い降りるのは、帝国と国連(豪・印軍)のチキンズ―――オービット・ダイバーズが6個大隊。
更に地上からのハイヴ突入部隊である、独立機動大隊17個大隊(8個連隊相当)が大挙してハイヴに突入する予定だった。

「我々はその間、ハイヴ内と地上との間の通信・兵站線を確保しつつ、他の『門』からの逆襲に備える。
突入した『門』以外は熱硬化性樹脂で充填封鎖、或いはセントリーガン(設置型自動機関砲座)と機甲部隊を中心とした大隊戦闘団を張り付けるが、安心はできない」

逆襲されれば、充填封鎖した『門』以外は押し返す事は困難だろう。 所詮は警戒部隊―――『呼び鈴』を取り付けるに過ぎないのだから。


「・・・多いと思うか? 少ないと思うか?」

隣の席に座った渡部大尉が聞いて来る。 彼は半島で負傷する前まで、機甲中隊を率いていた戦車乗りだ。 声に不信感が籠っている。
多いと言えば多い、そう言えるだろうか。 日本と大東亜連合、中韓台、各国軍併せて20個師団の包囲網。 京都防衛戦でさえ、総戦力は22個師団に過ぎなかった。

「多いと言えば、多いだろうさ。 参加総兵力29個師団、米軍を入れれば31個師団だ。 93年の『双極作戦(40個師団)』、94年の『大陸打通作戦(40個師団以上)』に次ぐ」

ああ、他にも93年9月の『九-六作戦』、あの時の極東戦線全域で見れば、40個師団からの部隊が動いていた。
96年に欧州で経験した『第2次バトル・オブ・ドーヴァー』でさえ、参加総兵力は18個師団でしかなかった。

「ふん・・・本音か?」

白々しい表情で、渡部大尉が振って来た。 この男、根は悪い奴じゃないんだが、負傷復帰後は自虐趣味が酷くなってきた、そう言われる。
本音ね・・・ 本音を言えば、どれだけ部隊数が揃っていても、全く安心出来ない、それが本音だ。

「・・・聞きたいか?」

「是非に、な」

「ふん・・・ 『双極作戦』じゃ、40個師団が寄ってたかって叩き続けたが、間に合わなかった。 最後はS-11弾頭搭載弾道弾の嵐を降らせて始末した。
『九-六作戦』では何とか阻止したが、結局は兵力が枯渇した。 『大陸打通作戦』も結局は、40個師団以上の部隊が振りまわされて、最後はS-11弾頭弾の集中砲撃で始末した」

ここで少し話を切った。 渡部大尉の目の色が違っている、奥底に何か狂気を含んだ様な、そんな目だ。

「京都防衛戦は、22個師団で戦線を作って、最後は京都盆地にBETAを引きずり込んで、これまたS-11弾頭砲弾―――戦艦主砲弾で街ごと消し去った。
少ない―――フェイズ2ハイヴとは言え、帝国にとっては初のハイヴ攻略戦だ、少ない。 どんな不慮の事態が起きるか、想定出来ない。 これが本音さ」

「だったら、こんな『通常戦力』だけで、ハイヴを陥せると思うか?」

「・・・やってみなきゃ、判らんよ」

我ながら苦しい切り返しだ、本音では不安でしようが無い。 国連軍とも共用するデータシミュレーションで、フェイズ2ハイヴ攻略を想定した兵棋演習は何度も行われた。
各国のデータをも取り寄せ、フェイズ2からフェイズ3ハイヴ(初期)での想定ハイヴ内BETA個体数の算出、地上への出現率をも計算し続けた。
これに過去半年間、横浜での実際の飽和個体数の総数と出現間隔、1回の出現個体数、これらを勘案して、今回の作戦時での地上出現数とハイヴ内個体数を想定し、作戦を立案した。

「我々突入第1派に求められる事は、迅速な部隊展開、そして時間だ。 手間取れば手間取る程、南北の攻囲部隊の負担が増える。
更に言えば、その分ハイヴ内から湧いて出て来るBETA群の数が増える、戦域確保に手間取る訳だ。 各級指揮官には、この事を常に念頭に置いて頂きたい」

広江中佐の説明の声に、意識を作戦会議に戻した。 時間か、時間―――いつも、いつもそうだ、そうだった。 何よりも時間! 先手を打つ、でなければ失敗した。
立案を主導したのは帝国軍統帥本部第2部(作戦部)だが、国連軍太平洋方面総軍作戦部も参加して、多角度から検討をし続けた。
現時点では、恐らく他に検討のしようが無い、それほどまでに行われた、そう聞いている。 俺達師団級の司令部要員は、その大戦略に沿った師団作戦を練る。
その作業が延々と数か月間、行われてきた。 今回の参加戦力も、その計算された結果弾き出された最大公約数の筈だ。

そっと、囁く様に渡部大尉に切り返した。

「言い出したらキリが無い、カシュガル(フェイズ6ハイヴ)でも攻略する訳か?―――俺達は半年間以上、この日の作戦を練って来た、そうじゃないか?」

そう信じるしかない、そう思う。 後は手持ちの枠内で、どう柔軟に運用していくかだ、それだけだ。
8月5日、0605。 南北両戦線が動き出すまで、あと1時間半―――










1999年8月5日 0820 旧町田市 かしの木山自然公園跡


―――ごくり。 FO(前進観測班長)の少尉が双眼鏡を覗き込みながら、無意識に喉を鳴らす。 前線に布陣した機甲部隊の直ぐ脇、未だ辛うじて残っているかつての自然公園。
その『山頂』に砲兵大隊の前進観測班が陣取っている。 双眼鏡から見える『世界』に魅入られつつも、F10(個人用携帯無線機)を手に取り、送信ボタンを押す。

「・・・13、こちら26。 修正射、送レ」

『26、こちら13、送レ』

相手のFDC(砲兵大隊射撃指揮班)から、直ぐに返信が入った。 FOは先程まで、火力制圧案を共に練っていた機甲中隊長の、『要求』をFDCに伝える。

「座標1520-2350、標高20、観目方位角4700、送レ」

『続いて送レ』

「進撃中のBETA群は要撃級50を含む、約300。 陣地正面750。 縦深不明、光線属種は観測せず。 効力射には92CVT、送レ」

目標の位置・種類・状態、射撃方法の弾種。

『こちら13、了解、待て』





暫く空電。 この間にもFDC(砲兵大隊射撃指揮班)では大隊射撃指揮幹部以下、前線からの『要求』に一斉に動いている。 指揮所テントの中が、慌ただしくなる。

「アシスト! FOから射撃要求です! 修正射、座標1520-2350、標高20、観目方位角4700! 光線属種は観測されず!」

COP(射撃図下士官:伍長)がFOからの『射撃要求』を受け、アシスト(指揮班長、射撃指揮補佐将校:大隊運幹が兼務)に報告する。

「1中隊、FOから射撃要求。 まもなく射撃に入る」

COPの報告と同時に、Comp(算定下士官:軍曹)が速やかに射撃中隊(砲列)に予告を与え、準備を施す。
アシスト(指揮班長)の古参砲兵中尉が、瞬時に状況を脳裏に展開する。 現在空いているのは1中隊。 目標の座標は正確に取れていない、『修正射』でいく必要がある。
弾は? 当然M107榴弾だ、問題は信管だ。 敵は要撃級BETA群で、事態は切迫している、急速射撃が必要だ―――よし、ここはFOの言う通り、92CVTだ。
効力射弾数―――要撃級の数は50だ、効果25%として弾数10発。 いやいや、事態は切迫している、向うの部隊は90式が1個中隊。 なら効果50%で行くべき。

「大隊長! FOから要求の要撃級含むBETA群を、速やかに制圧する必要あり! 1中隊の修正射、効力射には92CVT、20発を撃ち込みます!」

瞬時のそれだけの判断を下したアシストが、奥に陣取る大隊長に報告と実施項目を伝える。 

「92CVTの予備は、大丈夫か?」

「まだ余裕があります」

「・・・よし、撃て!」

大隊長が『決断』を下した。 アシストは大隊長の命令を受け、FDCの各員に対し、『射撃命令』を下達する。

「射撃命令、1中! 1中修正基準砲、座標1520-2350、標高20、観目方位角4700! M557瞬発、装薬白6、効力射92CVT、20発!」

Comp(算定下士:軍曹)が野戦電話を掴み、射撃号令が射撃陣地の1中砲班長に達せられる。 同時にCompはFCE(射撃諸元算定装置)で、射撃諸元の計算に掛かっている。

「中隊修正射! 基準砲、M557瞬発、装薬白6」

『中隊修正射。 基準砲、M557瞬発、装薬白6』

射撃陣地から即、復唱が帰ってくる。 そして熟練の古参下士官であるCompは、射撃諸元の計算を同時進行して止めない。

「諸元、後から」

『了解・・・ おい、瞬発、装填!』

電話口の向こうから、砲班員の復唱する声が聞こえた。 
その間にもCompは射撃諸元を計算し、対面ではCOP(射撃図下士)が同様にFCEを用いて計算し、Compにミスが無いかチェックをしている。
やがて射撃諸元の計算が終わった、熟練の砲兵下士官の技か、僅かな時間しか経っていない。 Compが野戦電話を掴み、1中へ射撃諸元を伝える。

「方位角1058(ミル)、射角320(ミル)!」

『方位角1058、射角320』

「良し!」

Comp、1中砲班長の伝達状況を確認したCOPが、最終的に正常を確認した。 Compが最終的な射撃指示を出す。

「各個に撃て! なお、効力射にはCVT20発を準備!」

『了解。 ・・・よぉ~い、撃ッ! 基準砲、初弾発射!』






後方から重低音と共に、砲弾が迫りくる音が聞こえた。 途端に地表に炸裂する、同時に白煙が立ち上った。 場所は―――いいぞ、要撃級の群れのど真ん中。

「13、こちら26。 修正射確認、左右良好、前後良好、送レ!」

『26、こちら13。 修正射、左右、前後良好、良いか? 送レ』

良いも悪いも無い、まさにど真ん中にオン・ターゲットだ。

「13、こちら26。 ど真ん中にオン・ターゲット! 急いで効力射、やってくれ! クソッたれのBETA共を吹き飛ばせッ!」

『26、こちら13! 了解した! 大至急、出前を届ける!』











1999年8月5日 0933 西関東防衛線 第4軍団第13師団戦区


分厚い重金属雲が広範囲に空を覆っている。 背後からひっきりなしに撃ち込まれる重砲とMLRS、目標は南町田付近。
丘陵地帯だったあの辺り一帯も、今ではすっかり平坦な地形が多くなった。 その分、弾着観測はし易くなったが。

2時間前に軌道爆撃の第2波攻撃が行われた、同時に外縁部に展開していた各部隊が一斉に輪を閉じる様に突入を開始、東戸塚の辺りでBETA群と接敵、交戦を開始した。
観測されたBETA群の総数、約2万8000。 フェイズ2ハイヴからの飽和個体群とは思えない数が出てきた。 それを町田方面と海老名方面の2方向に誘導しつつある。
そしてつい先ほど、この西関東防衛線付近に布陣していた『奪回総軍』所属の第19軍団(第35、第36師団)が出撃して行った。 長駆、南町田付近で2方向の蓋をする為だ。

「・・・連中、大丈夫かね?」

「去年、富士と西神奈川で戦った経験のある部隊だ、全くの実戦処女じゃないぜ? もっとも部隊は半分やられて、最近まで再編成と練成中だったがね」

隣に陣取った2人の声が聞こえる。 今は六郷土手の河川敷、遥か彼方の戦場音楽を聴いている最中だ。

「・・・大友、国枝、貴様ら、部隊の方は良いのか?」

13師団の久賀大尉が、訓練校同期の大友大尉、国枝大尉に問いかける。 西関東防衛線第1級配備部隊の第13師団である久賀大尉は、強化装備姿だが他の2人は防暑服姿だ。
大友、国枝両大尉は、第1軍団が抜けた後を補う為に、東京都内に配された『守備隊』である第29師団(第17軍団)の所属だった。

「こっちは天王洲駐留だからな、何かあれば第1京浜すっ飛ばして戻ればすぐさ。 道路はガラ空きだ」

「それより久賀、暑くないのか? 貴様・・・ こんなクソ暑い最中、強化装備姿なんてよ?」

「・・・暑いに決まっているだろうが。 第1級警戒態勢だ、脱ぐ訳にも行かん。 それより貴様らこそ、こんな所で与太を飛ばしていていいのか?」

仮にも『東京守備部隊』なのだ、今頃はやはり第1級警戒態勢だろうに。 その言葉に大友・国枝両大尉が顔を見合わせ、疲れた様に苦笑する。

「無理だな、貴様ら西関東防衛戦が抜かれたら、後はもう千葉か茨城辺りで防衛戦を張るしかない」

「知らんのなら教えてやろう、25師団も29師団も、まともな戦闘力は持っていない。 確かに定数は揃えた、だが頭数を揃えただけだ」

どう言う事だ?―――視線で問いかけた久賀大尉に、国枝大尉が自嘲気味に答える。

「俺の中隊はな、実戦経験が有るのは俺と、2小隊長の2人だけだ。 3小隊長は特操上がりのテンプラ中尉、他は今年3月と、それに7月に繰り上げ卒業した新米だ」

「・・・なんだと?」

一瞬、絶句した久賀大尉に、今度は大友大尉が付け加えた。

「どこの中隊も、同じようなものさ。 使える奴は、いや、使えそうな奴は全て『奪回総軍』が持って行った。 残ったのは、練成もまともに出来ていないヒヨ子共ばかり。
こんな連中で戦えると思うか? 無理だ、精々全滅までの時間を稼ぐしか、他に道は無い。 北関東の第2軍団と、福島の第12軍団が展開するまでの時間稼ぎしか出来んよ」

だから、その時は俺達が死出の死装束をまとうまでの時間、稼いでくれ―――同期生達の冗談とも、本気とも取れない言葉に、久賀大尉が舌打ちする。
ここでもだ―――ここでも、この国の上の連中の、不備の皺寄せが来ている。 彼は全てを知る立場に無い、だが実戦で、肌で知っている。 この国が全て後手に回っている事が。

「それでも、周防や長門達よりマシか。 あいつらはハイヴ突入戦域確保の、第1派部隊だからな」

「14師団に18師団か、去年は京都で一緒に戦ったな。 まあ、しぶとい連中だし、何人かは生き残るだろうがな・・・」

久しぶりに聞く、かつて共に戦った同期生達の名前。 風の便りで、周防は結婚したと聞いた。 相手は・・・ああ、ようやく奴も年貢を納めたか。

(・・・貴様なら、どうする? どう思う? 俺の空虚は、埋まらんよ・・・)


『師団司令部より、各級部隊! 作戦はフェイズ2に移行した! 繰り返す、作戦はフェイズ2へ移行した! これより戦域確保部隊が突入する!』

網膜投影された機体からのシステムリンクで、時刻を確認する。 0945時、作戦開始から4時間15分が経っていた。









1999年8月5日 1015 旧横浜市金沢区 富岡総合公園跡 第181戦術機甲連隊本部


「第1大隊、根岸線磯子駅跡付近で接敵! BETA群、1200!」

「第2大隊、屏風浦駅跡から久良岐公園跡ラインでBETA群1500と交戦中です!」

「第3大隊、16号線横須賀新道を突破! 磯子台で第1、第3大隊の裏に出ます!」

「戦域内に確認されたBETA群、約4800! 誘引されたBETA群、町田方面へ1万2000、海老名方面へ1万6000が引き付けられています、誘引作戦は成功しつつあります!」

「師団司令部より入電! 『目標到達は、1045と為せ』、です!」

「・・・『了解』と伝えなさい。 連隊長、師団より所定通りの行動スケジュールを、との命令です」


本部付きのオペレーターである各大隊CP将校が、3個戦術機甲大隊の状況を伝える。 師団との中継は、管制主任で連隊管制幕僚(新設の連隊5科長)の綾森大尉が行っている。
戦況図と各大隊の進撃速度、確認されたBETA群の数、それぞれを見比べながら、連隊長の名倉大佐が背後を振り返り、少し渋い顔で言った。

「どうにも、師団は厳しい事を言ってくれるじゃないか? ええ? 周防よ」

その声に、戦術機甲連隊に同行していた師団作戦課員の周防大尉(戦術機甲担当)が、首を竦める。 
何せあと30分で旅団規模のBETA群を排除しつつ、4km強の突破と戦域の確保を求めているのだから。 

「・・・確認された横浜ハイヴ南部方面の出現BETA群は、約4800。 支援面制圧砲撃と艦砲射撃は継続されますし、隣の141連隊も同様に突っ込みます」

それだけの支援が有れば、2個連隊での突破は可能だろう、そう言っている。 問題は連隊が、どれだけ素早くBETA群を始末するか。
今の所光線級もまばらでしか出現していない、このまま突進をかけても、十分殲滅出来る戦況だ―――連隊本部が、適切な戦術指揮を取れば。
その言葉に名倉大佐が、ある種の肉食獣を想わせる笑みを浮かべ、周防大尉も同種の笑みを張り付け、一歩も引かない。


「・・・虎と狼の、威嚇のしあいかしら?」

「キツネとタヌキの化かし合いよ」

「やだな、余所でやって欲しいわ・・・」

連隊本部オペレーター(CP将校)の富永凛大尉、月島瑞穂大尉、江上聡子大尉が声を顰めて小声で言い合う。
ただでさえ、師団司令部から作戦参謀の周防大尉が連隊に同行する、と通達されて、連隊長の名倉大佐の機嫌は『いま二つ』なのだ。

「連隊長、各大隊はタイムスケジュールの通り、進撃しています。 このままの進軍速度を維持できれば、1040の前に山手まで到達可能です」

不意に、笑顔で子供じみた火花を飛ばす両者の間に、連隊第5科長の綾森大尉が割って入った。 そしてチラッと横目で作戦参謀を牽制しつつ、更に進言する。

「141連隊が上大岡に到達しました。 予定より若干速いですが、そのまま東進して貰っては? 磯子でBETA群を包囲可能です、そのまま我々は本牧山頂公園、141は根岸公園へ」

そうすれば横浜ハイヴの地下茎外縁部付近まで、一気に到達可能だ。 後は第2派が突入し、一気に周辺を固める。
第3派まで成功すれば、いよいよ軌道降下兵団の出番―――後は門番をすればよい。 横浜はフェイズ2ハイヴ、数時間前に出て行った3万近い個体群の他、そう数が居るとは・・・

「連隊長、小官も5科長の案に賛成です。 師団の要求は、隣接の14師団も同様でしょう。 であれば、この際141との連携を密にとり、一気に突破すべきです」

副連隊長格の連隊第3科長(作戦・訓練・警備担当)の若林中佐(若林一誠中佐)が、綾森大尉の案に賛同する。 やはり周防大尉には、良い顔をしていない。

「うん、よし、藤田(141連隊長・藤田伊予造大佐)に繋いでくれ。 なに、二言三言で済む、奴は俺とは同期の朋友だ」

判りました―――綾森大尉が部下に合図して、通信回線を隣接する141連隊へ繋ぐよう指示をし、連隊長を通信ブースへと促す。
その間、鉄面皮で突っ立っていた作戦参謀を振り返り―――手を取って、少し離れた場所に引きずって行き、苦情を言う。


「・・・ちょっと、あまり波風立てないで・・・!」

「・・・俺にそんなつもりは無い。 名倉大佐がどう思っているかは、与り知らん」

「・・・師団司令部から『督戦』されて、良い気分で有る訳、無いでしょう!?」

「文句は、作戦課長まで。 志願じゃない、命令だし」

「・・・それでなくとも、今までも図演だの野演だので、散々衝突してきたでしょ!?」

「お互い、本音で言い合えた事は、収穫だな」

「ッ! ・・・いい事? 余計な波風は立てない、連隊の指揮に口は挟まない、大人しくスタッフの『鉄則』を守る事! 破ったら、承知しないから・・・!」

「・・・どう、承知しないんだ?」

「・・・当分、別居させていただきます・・・!」

一瞬、呆けた表情を見せた作戦参謀―――周防大尉を横目に、綾森大尉はさっさと管制指揮に戻って行った。
その様子の一部始終を、盗み見していた3人のCP将校、富永大尉、月島大尉、江上大尉の3人は、大隊管制の途中に関わらず、こみ上げる笑いを押さえるのに真剣に苦労した。






噴射跳躍を使って、右翼のBETA群の真近まで一気に距離を縮める。 突撃前衛の4機が36mmをばら撒きながら、BETA群へ突進した。
直前で右に急速地表面噴射移動、そのまま右翼へ展開する。 その真後ろに位置したC小隊もまた、36mmで小型種を薙ぎ払い、こちらは左翼へ急速移動する。
2個小隊がシャワーのようにばら撒いた36mm砲弾で、大きく正面を削られたBETA群に対して、中隊指揮官直率のA小隊から、誘導弾が降り注いだ。

『A04! FOX01!!』

白煙を引いて、10数発の誘導弾が発射される。 BETA群のど真ん中に着弾、多数を吹き飛ばす。 そのまま36mmを乱射、間に割って入る―――分断成功!
要撃級の群れが割れる、そして向う側に展開した2個小隊からも、引き続き突撃砲が唸り、その度に確実にBETA群が斃れて行く。

「片付けろ! 1匹も逃すな!」

『イエーッス、マーム!』

『了ー解ッす! おら、突撃前衛の見せ場だ、やっちまえ!』

B、C小隊長から、場違いな程に陽気な声が帰って来た。 その声に、流石に中隊長も少しだけ不安になる。

「・・・古郷、周防、余裕が有るのはいいが・・・ あまり舐め過ぎるなよ?」

どうしても根が真面目な人間である中隊長―――神楽大尉にとって、かなり陽性の性格である2人の部下のノリに、時折付いて行けなくなる事が有る。
これから待ち受けると想定できる激戦場を前に、全く委縮もせず戦闘指揮を、それも大尉から見ても的確な指揮をし続ける所は、全く頼もしい限りなのだが・・・
突撃前衛小隊長の周防直秋中尉(22期B)、左翼迎撃後衛小隊長の古郷誠次中尉(22期A)、共に大陸派遣軍上がりの図々しさで、戦場を駆け抜けて行く。

『左翼、残存BETAは要撃級16、小型種38! 5分で仕留めます!』

『右翼は要撃級15に小型種40! んじゃ、こっちは4分だ。 古郷さん、一杯賭けるか!?』

『はしゃぐと火傷すんぞ!? 周防! 今夜の酒は、貴様持ちだな!』

『するかよ!―――B小隊! C小隊に負けたら、貴様ら今日のメシは抜きだからな!』

―――頭が痛くなってくる。 咄嗟に目前に現れた要撃級の前腕の一撃を、右の噴射接地旋回で交し、その遠心力で長刀を後部胴体に叩きつけ、切り落とす―――頭が痛い。
戦場では頼もしい部下達だが、ここまで図々しく育って欲しいとは、思っていなかった。 もっとこう、何と言うか・・・
帝国軍人たる者、節度を持った礼節は如何なる時でも大切と言うか・・・ ええい! 邪魔だ、そこの要撃級!

『―――中隊長、前方に根岸台、視認!』

B小隊長の周防中尉が、決定的な報告をしてきた。 旧16号を突進し、遂に根岸を視認する位置まで突進した。 連隊では神楽大尉の中隊が先陣を切っている。 
すなわち本作戦の全参加部隊中、最も横浜ハイヴに近づいた部隊なのだ! 流石の大尉も、知らず背筋が震えた。 同時に中隊に突進を命じる。

「周防! そのまま突っ切れ! 貴様、従兄殿に負けない所を見せてやれ!」

『了解! 言うにゃ及ぶ、ですよ! 宮内(宮内右近少尉)! 突っ込む、左翼を張れ! 真部(真部紗恵少尉)、俺のケツに付け! 
美濃(美濃敬一郎少尉)、貴様は宮内のケツから離れるな! いいか!? どんな事があっても離れるんじゃないぞ!』

『C小隊、左翼支援攻撃! 誘導弾、ありったけ撃ち込め! B小隊の前方だ!』

B小隊の突進に合せ、右翼のA小隊、左翼のB小隊から支援攻撃が開始される。 制圧支援機から誘導弾が飛翔し、前方の小型種BETAの群れを吹き飛ばしてゆく。
砲撃支援と打撃支援機からは、突撃前衛が突進するルート上のBETA個体群を撃ち抜き、キャニスターでミンチにしてゆく―――強襲掃討機が36mmのシャワーを浴びせかけた。
目標地点がまじかに迫った、突撃前衛小隊が真っ先に旧16号線を突進し、前方の根岸台に向けて突進する―――光線級が居る!

『ッ! ALM!』

『残弾!?―――4発? 構わねぇ、全部撃て!』

「制圧支援、何でもいい、前方の根岸台だ!」

A、C小隊、2機の制圧支援機から、残った全てのミサイルが放たれる。 途端に放たれる迎撃レーザー照射、発射された合計9発のミサイル全てが、あっという間に迎撃される。
狙いはそこだ、照射されたレーザーは9本。 光線級が10体以上いれば、あっという間にあの世行きだが・・・賭けるしかない。

『12秒だ! 12秒で根岸台に突っ込め! B小隊、吶喊!』

光線級のインターバルタイム、命の天秤の12秒。 どちらに傾くかは、己の過ち次第。 突撃前衛小隊の92式『疾風』弐型4機が、一気に噴射跳躍をかける。
その背後からA、C小隊の強数掃討機が2機、サーフェイシングで高速移動しつつ、左右にその火力を振り撒いて近づく小型種の群れを薙ぎ払う。 その後方から、砲撃支援。
ミサイル・コンテナをエジェクトした制圧支援機も加わり、迎撃後衛機・砲撃支援機と共に、後方から砲撃支援を行いつつ、前衛に続行する。

「B小隊! 周防! 突き抜けろ!」

前衛の右翼から接近する要撃級の一団。 神楽大尉機がその側面に120mm砲弾を立て続けに撃ち込み、足を止める。 後続の部下2機も同様に、高速移動での狙撃支援。
しかし全てを止める事が出来ない、要撃級の集団は60体程居る。 どうすべきか? 残り5秒、距離は1kmも無い―――咄嗟に判断を下す。

「B小隊、吶喊! 強襲掃討、続け! A、C小隊、要撃級を止めろ!」

近接格闘・近接砲戦能力に秀でたB小隊と、これも近接制圧火力に優れた強襲掃討機2機を突っ込ませる。 横合いからの要撃級は、A、Cの2個小隊で阻止する。
6機の92式『疾風』弐型が勢いを落とすことなく、根岸台に突っ込む。 その右翼から迫る要撃級の1団に、2個小隊6機が横合いから殴りかかった。
突撃砲の残弾を撃ち尽くした神楽大尉機が、リロードをする間もなく長刀を抜き放ち、勢いを殺さず要撃級の後部胴体を薙ぎ払う。
その背後から砲撃支援機が支援突撃砲で、接近する個体を撃ち抜いてゆく。 最後尾の制圧支援機は、戦車級以下の小型種をキャニスター弾で制圧して行く。

『中隊長! 後続のBETA、確認!』

≪CP、ソードダンサー・マムよりリーダー! 本牧方面よりBETA群、約1200! 突撃級100、要撃級150! 距離1500! 接敵まで90秒!≫

最も東に突出していたC小隊の古郷中尉と、戦域管制のCPから、同時に報告が入った。 しかも凶報だ、咄嗟にもう一人の部下に確認する。

「ッ!―――周防!?」

『あと、2体!―――終わり!』

B小隊を率いる周防中尉から、光線属種を殲滅した報告が入る。 部下のステータス・チェック―――損失機は無い、全12機が無事。 まだ戦える・・・!

「全機、根岸台に上れ! 上から叩き続けろ!」

残った6機が一斉に噴射跳躍をかける。 対面の本牧公園には・・・いいぞ、まだ光線級は顔を出していない。
地響きを立てて先頭の突撃級の集団が迫る。 100体、かなりの迫力だ。 後続の要撃級さえ150体。 他に厄介な戦車級が恐らく500体近く。
砲撃支援を頼むか?―――今から要請していては、砲弾が降り注ぐ頃には、彼我入り混じっての乱戦だ。 味方の砲弾に吹き飛ばされるなど、ゾッとしない。

あちこちで部下が『リロード!』を叫ぶ。 随分と無理を重ねてここまで来た、残弾が残っている者は少ないだろう。
神楽大尉は背部兵装担架にまた突撃砲を1門残しているが、それは最後まで取っておく事にした。 まずは自らBETAの群れに突っ込み、かき回す。
その後で部下達に『落ち着いて』砲撃を狙わせる。 彼女は格闘戦の方が得意だったし、元々突撃前衛上がりの血が騒いで来たのだ。

「周防、吶喊は私が預かるぞ?」

『・・・大人しく出来ねぇンかなぁ、このお人は・・・部下の仕事、取らんで下さい。 万一があったら、誰が中隊指揮を執るんですか?』

「貴様、日に日に、従兄殿に似て来るな・・・」

『血筋ですから。 でも、ちょっと心外です、傷つきます』

もう、土煙どころか、はっきり視認できる場所まで突撃級の集団が近づいていた。 地響きが大きくなる。
流石に若い部下達のバイタルが乱れて来る、1個戦術機中隊だけで相手取るには、ホネが折れる数だ。

『ちょいと、ホネが折れそうですね。 ま、やるしかねぇか・・・』

『握るか? 周防?』

『レートは?』

『1体、50円(※)で』

『乗った』

つまり、撃破した大型種の数が多いだけ、相手が総取りの『賭け事』をしよう、そう部下の小隊長達がよからぬ話をしている。
流石に神楽大尉も気付いた。 陽気で不遜な2人だが、普段はここまで馬鹿な事はしない。 ハイヴ攻略戦、流石にあの2人も与太を飛ばさないと、精神的にキツイと言う事か。
もっとも少尉連中は、そこまで思いつかないだろう。 古参少尉達は、薄々感づいているかもしれない。 しかし新任少尉達は小隊長の不逞な態度に、寧ろ安堵感を抱くだろう。

ふと、1機の『疾風』弐型が目に入った。 突撃前衛小隊の四番機、この春に配属されたばかりの新米衛士。

(・・・もう、6年半以上も経つのか。 早いな、楓)

93年に大陸で戦死した、神楽大尉の同期生。 その弟がまさか、自分の中隊に配属されようとは、思いもしなかった。
そう言えば、目前で与太を飛ばしている中隊の突撃前衛長は、これも同期生の従弟だ。 何と言うか―――私は保母では無いぞ?

(・・・いずれにせよ、死なせぬ)

今まで随分と部下を失った。 戦死した部下。 重傷を負った部下。 精神を病み、予備役に回された部下。 今日も誰かを失うかもしれない。

(・・・死なせはせぬ)

それでもそう思う、いや、祈る。 己が全力はまだ、未熟な故に。

≪CPよりリーダー! 接敵まで15秒!≫

いよいよだ―――グローヴの中で汗がにじむ。 歴戦? 練達? いいや、私は怖い。 怖いから、あらゆる注意を怠らない。 隙を見せてなるものか、この戦場で!

「・・・よし、中隊、突撃に・・・ッ!?」

『移れ』―――そう命じようとしたその瞬間、網膜スクリーンの端、戦術レーダーに新たな輝点を認識した。 色は青、友軍だ。

『神楽さん、独りで張り切り過ぎ!』

『俺の前の上官以上に、鉄砲玉な人だよな・・・』

第22戦術機甲中隊、美園大尉の『ステンノ』に、第33戦術機甲中隊、摂津大尉の『フラガラッハ(2代目)』の2個中隊が急速接近する。
既に補給を済ませていたのだろう、2個中隊4機の制圧支援機から、誘導弾の全力発射が行われる。 4機合計で128発の誘導弾が白煙を引きながら、BETA群に殺到した。
戦闘集団の突撃級にはあまり効果が無い、もっぱら第2陣以降の要撃級、そして小型種に向けての攻撃だ。 ランダム軌道の誘導弾が、一斉に着弾、炸裂する。

「突撃級は各前衛小隊が始末しろ! 先任は―――八神中尉?(八神涼平中尉、21期A) 八神、ここは任せる。 いいな? 美園?」

八神中尉は22中隊、美園大尉の部下だ。

『了解。 八神、派手に踊って来な!』

『ういっス。 おい、周防、蒲生(蒲生史郎中尉、33中隊。22期B)、どんだけマシになったか見てやる。 付いて来い!』

周防中尉は新任当時、先任少尉だった頃の八神中尉と同じ中隊に居た。 蒲生中尉もほんの僅かだが、ダブっている。

『へっ! 腰を抜かさんように? 先任!』

『以前みたくは、行きませんぜ!』

3人の突撃前衛長が、それぞれの部下を率いて突撃級の集団の中に切り込んで行く。 機体制御の腕を買われた衛士達だけあって、鮮やかな機動だった。
僅かな隙間を見つけてはそこに突っ込み、突撃砲で、そして長刀で、突撃級BETAの側面や脚を撃ち抜き、斬り裂き、その動きを止める。


『神楽さん、2個中隊で(各1個小隊欠)正面を押さえよう。 残り1個中隊を迂回させて背後に』

周囲の地形をザッと把握した美園大尉が、即座に提案する。 左は50mも無いが、それでも標高を稼げる地形がある。 右手は海岸線、旧横浜港の南端だ。
BETAは一直線にやってくる、そして地形に広さは無い。 であれば挟撃が一番だ。 今、前衛3個小隊が迎撃している戦場の後方に割って入って、要撃級以下の後続を迎撃する。

「・・・よし、美園、私と正面を押さえてくれぬか。 摂津、迂回を頼む」

流石に先任・後任はあれど、同じ大尉の中隊長同士、そこは『依頼』の形になる。 もっともこの場の先任指揮権は神楽大尉にあるから、美園大尉も摂津大尉も、否やは無い。

『了解。 公園(根岸公園)を北から迂回、ケツに付きますよ』

『私の中隊は、海側に布陣します。 丘側、宜しく!』

素早く『ステンノ』、『フラガラッハ』の各中隊が移動を開始する。 手慣れたものだ、それに長年共に戦ってきた間柄は、余計な説明が無くて良い。
要撃級の集団が接近する、もう10秒も無い距離だ。 今度こそ、操縦スティックを握り直す。 もう自分の中隊だけでは無い、3個中隊―――1個大隊分の戦力があれば。

「・・・よし! 攻撃開始!」










1999年8月5日 1055 旧横浜市港南区上大岡 久良岐公園跡 第181戦術機甲連隊本部


「第11中隊、第22中隊が根岸公園跡を確保。 本牧公園跡は、第3大隊が確保しました。 第1、第2大隊は根岸線山手駅跡を中心に、2kmの半園内を確保しました」

連隊5科長の綾森大尉が報告する。 連隊長・名倉大佐、3科長・若林中佐が作戦地図を覗き込みながら、状況を再確認していた。

「宇賀神中佐の最終報告次第ですが、少なくともこれで8箇所の『門』を押さえました。 戦域内に残存BETAは確認されず。
『門』から出て来るBETA群は、まだ確認されていません。 第14師団も7箇所を確保、これより封鎖予定の『門』を充填封鎖します」

「うん・・・ 5科長、後続は?」

「師団主力、及び13軍団は富岡公園付近です。 同じ第2派の聯合陸戦第3師団、それに第1軍団は港南台付近」

「よし、先手必勝だ。 ここで一気に保土ヶ谷も確保した方が良い、他の『門』の封鎖もだ、BETA群が地上に出て来る前に!」

その声を合図に、綾森大尉が師団司令部との通信に入った。 若林中佐は、前線の各部隊に『門』の警戒をより厳重に為すよう、通達している。
名倉大佐が振りかえると、相変わらず無言の周防大尉が立っていた。 一瞬大尉を見て、渋々ながら苦笑しつつ、声をかける。

「ま、今回は君に花を持たせてやろう。 あそこで第1、第2大隊から各1個中隊の抽出は、図に当ったな、人選もだ」

「・・・宇賀神中佐、荒蒔少佐、木伏少佐、いずれも2個中隊あれば、あの場面は確保出来る戦術指揮手腕を有しておられます。
それに最前線の状況は、あそこで勢いを殺すべきではないと判断しました。 ならばその勢いを生かす人選は、あの様になるかと」

美園大尉と、摂津大尉の中隊を抽出し、神楽大尉の中隊に協同させるべき、そう進言したのは周防大尉だった。

「付き合いは長いらしいな?」

「神楽大尉は同期です。 美園大尉、摂津大尉も、共に長く戦場で一緒でした」

そう言ってから、周防大尉が静かに頭を下げた―――僭越な意見具申で、申し訳ありません、と。 それを見た名倉大佐は一瞬驚き、そして大笑いした。

「なんだ、周防大尉! 貴様、えらく、しおらしいではないか! 普段の図々しさは、どこへ行った?」

頭を下げながら、その言葉を受けて周防大尉がちょっと顔を顰める。 その様子を見た名倉大佐の笑いが、更に大きくなる。

「広江君の直弟子が、そんな殊勝な真似をしても、似合わんぞ! まあ良い、頭を上げろ。 今回は君に花を持たせる、そう言っただろう?」

「はあ・・・ 大佐?」

普段から演習時の結果や検討会で、このやや豪放な連隊長と、戦術機甲部隊担当作戦参謀として、度々意見の衝突を繰り返してきた周防大尉が、少し訝しげな表情で見返す。

「俺は、別段君に含む所など、何も無いぞ? 本音で言い合える参謀と言うのは、貴重だからな」

―――本気で怒鳴る事の出来る参謀、の間違いじゃないのか? 一瞬そう思ったが、表情には出さなかった。 また黙って一礼する。

「それにな、あまり俺が怒る様だと、君の家庭にひと波乱、有りそうだしな!」

「くっ・・・」

どうやら、しっかり聞かれていたらしい。 

豪快に笑って離れて行く名倉大佐の後ろ姿を、苦笑しつつ眺めていた周防大尉に、通信の当番兵が通信電文を持って寄こした。
一読した周防大尉の表情が、不意に険しくなる。 もう一度読み直す―――文面は変わらない。 本部テントを飛び出し、隣接の仮設通信ブースに飛び込む。
険しい表情で通信ブースに早足で歩み寄る周防大尉を、本部内要員が何事かと振りかえっている。 大尉は意に介さず、手近な通信兵に回線を開けるよう命じた。

「181連隊本管派遣、周防大尉。 師団司令部、広江主任作戦参謀を!」

周りが何事かと、更に多くに要員が振り返る。 大尉はその視線を全く無視してブースに入り、通信に出た直属上官に噛みついた。

「中佐! どう言う事です!? 『確保すべき『門』の数、6箇所とせよ』とは!? 当初予定は2箇所です! 6箇所では戦力が分散され過ぎます!」

暫くして、通信機の向うから苦渋に満ちた感の、広江中佐の声が返って来た。

『・・・命令だ、周防。 名倉大佐にも伝えろ』

「命令? 師団命令ですか!?」

『・・・もっと上だ、厄介な事にな』

―――厄介な事。 こんな表現を使うのであれば、戦術的にでは無く戦略的か。 だとすると、下手をすると軍団司令部よりも上かも。

「・・・第9軍司令部からですか?」

『いや・・・ 総軍司令部からだ。 大元は『政治的判断』とやらのようだ』

―――総軍、政治的・・・ 少なくとも出所は、総軍司令部と同等か、それ以上のレベル。 もしかすると日本以外・・・

『従え、周防。 我々に拒否権は無いのだから』

「・・・了解。 連隊本部に伝えます。 しかし『不測の事態』となると、対処しきれないかもしれません。 ハイヴ内の兵站線確保と、『門』の確保にかなりの戦力が割かれます。
6箇所の『門』を、それも突入用の『門』をそれだけ確保するとなると、最低でも戦術機甲と機甲が各6個中隊必要です。 師団担当区を3個中隊だけで、確保せねばなりません」

突入用の『門』の確保と、そこから地下茎(スタブ)へと続く兵站線の確保には、各々戦術機と機甲1個中隊、それに機械化歩兵1個中隊が必要だろう。
その距離が延びれば延びるほど、兵站線確保に必要な戦力は増える。 だから当初は2箇所を除き、全て封鎖する予定だったのだ。

荒々しく、叩きつけるように受話器を戻して通信ブースから出てきた周防大尉を、周囲のオペレーターが不安気に見ている。
部下に指示を出していた綾森大尉が、そっと場を離れて近づいて来る。 周防大尉に追いついて、小声で聞いてきた。

「今の、広江中佐? 悪い知らせなの・・・?」

「・・・詳しくは、名倉大佐に伝える」

荒々しく通信ブースを飛び出し、連隊本部へ戻る途中、周防大尉は綾森大尉を捕まえ、脇に寄せた。 小さな声で呟く。

「・・・今まで、BETAとの戦いで、事前の予定通りに行った試しなんかなかった」

「・・・直衛?」

「いつも、いつも、どこかしらで破綻した。 いや、させられた。 BETAに、そして味方に・・・」

目の色が、哀しい様な、怒っている様な、自嘲している様な、達観している様な、様々な感情が一瞬、浮かんだ気がした。 綾森大尉はそう思った。

「京都防衛戦の時、藤田大佐が広江中佐から、強烈に頬を張られていた事があったけれど・・・ 今にして思えば、大佐の気持ちも判るよ」

「・・・何の事?」

綾森大尉が訝しげに、眉を顰めて言う。 彼女は当時、その直前の戦闘で負傷していた為、京都防衛戦は参加せず仕舞いだったから、知らないのだ。

「予想はつかない、不確定要素ばかり、BETAからも、味方からも・・・祥子、君だけでも後方に下がって欲しい。 これが今の、俺の本音だよ―――本部に戻る」

何か言いそうになった綾森大尉を振りきって、周防大尉は連隊本部テントへ足早に入って行った。
その後ろ姿を見送りながら、驚きと困惑と、少しばかりの怒りと、そして同量の嬉しさと。 綾森大尉も呟いた。

「・・・私は、その逆。 あなたには、前線に出て欲しくないわ」










1999年8月4日 2115(現地時間) 合衆国 ニューヨーク市マンハッタン 国連本部ビル 軍事参議委員会


「・・・作戦は、今のところ順調。 そう判断して良いと言う事かね?」

「うむ、まだまだ始まったばかりだ、ここで躓いていては国際的な立場が無い。 日本もそれは必死だ」

「それについては、あの国の必死さを有る程度は、信用しようじゃないか。 何せ失敗すれば、国が滅ぶ」

「それよりも、研究開発団からの『要望』は伝わったのか? 日本の軍部は難色を示していたが?」

「ハワイからの上級命令、と言う形で実行させるよ。 いやはや、現地部隊には同情するがね。 通常の2倍から3倍の『門』を確保せよとは!」

「仙台の小娘も、良くやるものだ。 如何に『計画』の為の実験作戦とは言え、あの国はあの小娘の故国であろうに」

「学者など、その様なものだ。 己の探究心・・・好奇心の為なら、何でも利用して恥じない。 
しかし、と言う事はあの小娘、手持ちの私兵の大半をハイヴ内に投入する気か? 随分と豪勢じゃないか」

「レポートを読んだ。 所詮、『護衛付きのハイヴ内旅行』と言う所だ。 護衛部隊の負担は、大きいだろうがな」

「ならば、日本の恨みはあの小娘と、それに米国に被って貰おう。 代わりに『人類』は、何かしらを得る」

「その為に払う犠牲は、何万ガロン単位で流して貰って結構だ。 我々は『種の存亡』をかけた戦いをしている」

参加者は皆頷き、臨時の会合はそれで閉会となった。










1999年8月5日 0255(GMT) 地球周回低軌道 高度348km 国連軍航空宇宙総軍 軌道降下兵団第5戦隊(第5軌道降下兵団)


『艦隊司令部より、オール・ダイバーズ。 本周回で降下を開始する!』

『現地情報、時刻1155、天候は晴れ、気温34.5℃、湿度69.2% 風向南西、風速5.5m/s・・・』

『現地戦況、戦域確保部隊第1派、戦域を確保。 現在第2派が侵攻中』

『再突入回廊、突入まで690秒・・・』

『艦隊角度、ダウン3度。 速度26,400km/hに落せ』

『降下ポイントはヨコハマ・シティ中心部。 ランディング・ゾーンはハイヴを中心に3km以内とせよ』

『第6軌道降下兵団、続航を確認』

そして作戦段階のフェイズ3が発令された。

『司令部より発令、軌道降下作戦、開始せよ!』










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※50円=旧円設定。実際現行貨幣価値で、1円=約200円程の価値で設定。 50円=1万円ほど。
第1部での設定(280円程の価値)からは、本土戦場化による円相場下落分を見込んでいます。


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