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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦前哨戦 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/07/18 21:49
1999年7月12日 1500 合衆国シアトル沖 合衆国海軍第5艦隊第59任務部隊 (CTF-59) 旗艦・強襲揚陸艦『ボノム・リシャール』


3時間前、盛大な見送りを受けて艦隊が出港した。 そして北太平洋に出た30分後、艦隊は陣形を整え一路、ハワイを目指している。
少し波が高い、7月とは言え北太平洋の海は冷たい、基本的に低い海水温度の為(寒流が走っている)泳ぐ事の出来ない海だ。

「サー、ハワイ到着はタイムスケジュール通りの予定だと、艦隊司令部運航セクションより連絡が有りました」

公室の船窓から、荒れる波濤を眺めていた第2師団長、ミシャエル・テュカー米陸軍少将に副官が報告する。

「予定通り。 であれば、パール・ハーバー到着は18日の正午か」

「イエス・サー。 その後ハワイで3日間の休養と補給、21日にグアムへ向け出港。 グアム・アプラ軍港到着は29日となります」

艦隊はハワイで、サンディエゴから出港した第5艦隊水上戦部隊(SCF-5)と合流する。 そしてその後、グアム島へ移動する。 最終目的地は『ヨコハマ』だ。
SCF-5は少し遅れての出撃になる、CTF-59と比べて小規模で高速なのだ。 イージス巡洋艦『ヴェラ・ガルフ』を旗艦とし、イージス駆逐艦3隻、ミサイル駆逐艦2隻の小艦隊だ。

CTF-59の規模が大きい事もある。 強襲揚陸艦『ボノム・リシャール』を旗艦とし、姉妹艦の『バターン』、『ボクサー』、3隻のワスプ級強襲揚陸艦。
他に強襲揚陸艦が5隻(タラワ級、イオー・ジマ級)、ドック型揚陸艦が6隻(ハーパーズ・フェリー級、ホイッドビー・アイランド級)
そして物資輸送能力を重視したドック型輸送揚陸艦が9隻(サン・アントニオ級、オースティン級)、戦術機輸送の主力である軽戦術機揚陸艦(インディペンデンス級)が8隻。
各種揚陸艦が31隻、それに『簡易港湾揚陸施設』とも言うべき、貨物揚搭能力強化型輸送艦(T-ACS)の『ゴーファー・ステート』と『フリッカーテイル・ステート』
この2隻は巨大なツインクレーン2組と艦載艇5隻を持ち、1070TEUの積載能力を持つ。 設備の貧弱な、或いは壊滅した港湾で迅速な揚搭を行える。
他に戦闘事前集積備蓄船隊から、ワトソン級大型中速貨物輸送艦が6隻、コンテナ貨物船が4隻、随伴している。 コンテナ船の貨物は、T-ACSのクレーンで揚陸を行う。
合計43隻に上る強襲上陸部隊・支援部隊。 これに直接護衛任務部隊で有るSCF-5の戦闘艦6隻を加えた49隻が、今回の第5艦隊の全容だった。
運ぶ『主要商品』はまず、米第2師団全部隊。 そしてグアムで大東亜連合軍を『拾い上げて』連れてゆく。 ハワイでは海兵隊も、途中乗船する事になっている。

「・・・第7艦隊は、確か25日に出撃だったか?」

「サー、そうであります。 アームストロング提督(ロジャー・アームストロング海軍少将)指揮の第75-2任務群 (CTU-752)
それにマクガイア提督(エリオット・マクガイア海軍少将)の『ドワイト・D・アイゼンハワー』戦闘団(第70-2任務群:CTU-702)は、25日にパールを出港します」

総指揮はアームストロング少将が執る。 CTU-752とCTU-702は戦艦『アイオワ』、『ニュージャージー』、空母『ドワイト・D・アイゼンハワー』を主力とする。
他に大型巡洋艦『グアム』、イージス巡洋艦『フィリピン・シー』、『レイテ・ガルフ』とイージス駆逐艦4隻、ミサイル駆逐艦4隻の14隻から成る。
第7艦隊の半分以下の戦力だが、この艦艇群で『第7艦隊東太平洋打撃任務部隊:EPSF-7』を形成する。 任務は当然ながら、上陸地点の制圧攻撃だ。
この艦艇群は高速巡航が可能な為、最も遅れてハワイから出撃する。 そして第5艦隊は大東亜連合軍を拾い上げる関係上、先に出港しなければならなかった。

最終的に7月31日にグアム・アプラ軍港を出港し、一路最大巡航速力で飛ばして、8月3日に『ボウソウ・ペニンシュラ(房総半島)』南端に到達する予定だ。
この日には同時に、日本帝国海軍連合艦隊(第1艦隊)と、大東亜連合軍合同艦隊も合流する。 日本艦隊は総数47隻の大艦隊、大東亜連合も18隻を出す。
この他に、日本が意地でかき集めた兵站維持の為の補給艦隊が、第1補給隊(連合艦隊専従)が33隻。 大東亜連合艦隊用に第3補給隊から11隻。 合計44隻。
最終的には房総半島の南沖合に、172隻もの大艦隊が終結する―――いや、日本や大東亜連合軍の戦術機輸送艦隊(殆ど全て輸送船)も含めれば、総数は300隻に達する。

「ちょっと見事な光景だろうな、だが問題は・・・」

「はい、問題は日本海軍に、大規模な敵前強襲上陸作戦の指揮能力が有るかどうか。 我が海軍は、日本の強襲上陸作戦の指揮能力を、低く見積もっております」

「彼等は歴史上、大規模上陸作戦の経験が無い。 半世紀前の戦争でさえ、そうだ。 昨今では全く、そのノウハウが無い―――参ったな、向うの指揮官は?」

「アドミラル・オオタ(太田畯(たおさ)海軍少将)です。 日本海軍の上陸戦指揮のオーソリティーですが・・・」

その言葉に、テュカー少将は少し顔を綻ばせた。 アドミラル・オオタ、彼なら知っている。 米日軍事交流会の中で紹介された事も有る。
何よりも、日本海軍の中では上陸作戦の数少ない専門家だ。 合衆国に留学中、海軍・海兵隊・陸軍を併せた研究会にもオブザーバー参加していた、会った事が有る。

「彼なら、少なくとも海岸線で渋滞したうえで、BETAを前に右往左往、等と言う事は有るまい。 合衆国が欲しがった人材だ、大丈夫だよ、君」

―――まあ、もっとも我が軍の専門家には、及ばないかもしれんが。

テュカー少将が、小さく付け加えた。 いや、太田少将自信は優れた上陸作戦指揮官だ。 問題は、彼をサポートできる人材がどれ程いるかだ。
超人的に優秀な指揮官が1人いた所で、現場はどうしようもない。 実際に現場を動かすのは部下達であり、スタッフ達だ。
如何に上が優れていたとしても、受信する下がダメでは、アウトプットは碌なものにならない。 果たして日本はどうなのだろう?

不意に艦が増速した様な気がした、いや実際に増速しているのだ。 今まで陣形を組む為に10ktから12kt程度で航海していたが、どうやら陣形が整ったのだろう。
これから艦隊は、巡航速力16ktで一路ハワイを目指す。 その先には遂に太平洋岸に達したハイヴ―――BETAの巣窟、横浜ハイヴが有る筈だった。

「・・・仮にも、今や世界第2位とも、第3位とも言われる軍事大国だ。 それなりの人材がいる事を、祈るしかないな」

「ええ、それに明後日にも、日本が橋頭堡確保の戦端を開きます。 精々、予行演習をしておいて貰いましょう」

部下の言い様に苦笑する。 荒れて来た波濤を眺めながら、その先の昏い『何か』を感じて、テュカー少将はうそ寒い感覚を感じていた。










1999年7月14日 0610 日本帝国三浦半島沖6km 浦賀水道 水深度150m 崇潮級強襲潜水艦『蒔潮』


光の届かない深海域で、30数隻の強襲潜水艦が懸吊(けんちょう)―――停止状態で一定の水深を保ち、バランスを取って潜んでいた。
仙台軍港を出港して、そろそろ1週間が経つ、潜航を開始して既に5日が経過した。 戦隊はゆっくりと、しかし確実に浦賀水道に侵入していた。
従来ならば4日が限界だった、通常動力潜水艦の連続潜航能力。 この崇潮級から導入されたAIP(非大気依存推進)スターリング機関のお陰で、最大2週間に伸びた。
もっとも『海神(81式強襲歩行攻撃機・A-6J)』の衛士達は別の感想を抱いている―――『死刑囚でさえ、末後の水を飲めるのに! 俺達は1週間も2週間も缶詰か!』と。

「・・・そろそろ時間か。 よし潜航長、深度50だ」

「よーそろー、深度50。 アップトリム15、メインタンク・ブロー」

艦内の圧縮空気タンクからメインタンクへの空気が開始される。と同時にタンク内から海水が排出されていき、艦体浮力が増加して艦が浮上を始めた。

「メインタンク、締めろ。 ネガティヴタンク、ベント(ベント弁)開け―――深度50到達。 フローティング・アンテナ、放ちます」

艦はゆっくりと深度50mまで浮上し、微調整を行ってバランスを保つ。 同時にフローティング・アンテナを海面に出し、司令部との通信を確立させる。

「・・・やれやれ、『安全な航海』が出来るのは、ここまでか」

「東京湾内は、水深が浅いですから」

艦長の呟く声に、潜航長が苦笑で答える。 東京湾内の水深は、精々30mから60mしかない。 未だ湾海底を渡海侵攻してくるBETA群は、出てきていない。
いないが、連中にとっては苦も無く渡ってこられる深度だろう。 潜水艦にとっても、30mや60mと言った水深では危険極まりない。
大型種BETAと出くわせば、確実に交戦深度だ。 要塞級だと下手をすれば、海面から露頂する。 護衛総隊の連中が言う所の『海坊主』だ。
反面、久里浜の南沖辺りからは急激に水深が深くなる。 最大で水深700m程にも達するのだ。 『東京湾海底谷』が有る為だ、そこから相模トラフに達する深海の世界だ。
そこだと逆に『安全』が確保出来る。 潜水艦部隊は通常、浦賀水道までしか侵入しない。 そこから北と南で、安全度が段違いになるからだ。

「司令部より通信、受信しました」

通信長(兼・航海長)が報告する。 スペースに限りの有る強襲潜水艦では、1人で何役もこなす事は昔から変わらない。

「・・・読め」

「はっ!―――『0630、攻撃開始』、『確認せる海岸線のBETA群、約4500』、以上です」

実に短い通信文。 しかしその意味する所は・・・

「現時刻、0620―――先任、『お客さん』と回線繋がっているか?」

「はい―――おい、受話器」

先任将校(他国の副長に相当)が、通信下士官に言って『海神』との直通回線艦内電話の受話器を、艦長に差し出す。
それを受け取った艦長だが、一瞬言葉に詰まる。 これから為される事の意味、予想されるであろう情景を思わず想像したからだ。
気を取り直し、受話器を握り返す。 相手はもう1時間前から、機体に乗り込んでいる。 最後に笑って『また、お世話になりますよ』そう言って、機内に姿を消していった。

「・・・艦長より強襲攻撃隊指揮官、畔木大尉」

『こちら畔木。 艦長、どうぞ』

強襲上陸部隊の指揮官の1人、畔木(くろき)博史大尉から、明るい声が帰って来た。 この男は何時でもそうだ、困難な状況下でも、いつも前向きな姿勢で立ち向かう。
同時に才気煥発の熱血漢で、部下達も畔木大尉を慕い、信頼し、尊敬している様が良く判る。 海軍にとっては是非とも生き残って、大成して欲しい人物だった。

「畔木大尉、あと10分で攻撃隊発進だ。 情報では海岸線付近には、約4500のBETA群が屯している、宜しく頼む―――何か、言いたい事は無いか?」

『・・・艦長以下、『蒔潮』の乗員の皆さんには乗艦以来、大変良くして頂きました、有難うございます。 心身ともに充実、必ずや橋頭堡を確保してみせます』

「大尉・・・」

『第201潜水戦隊の皆さんにも、感謝を。 部下達も何不自由なく、ここまで来れました。 隊司令へは、艦長からお伝えください。 畔木が感謝しておったと』

攻撃隊は、恐らく酷い損害を受けるだろう。 4500ものBETA群が待ち受ける、その海岸線への強襲上陸。 先日来、GF(連合艦隊)の一部が盛大に艦砲射撃を加えているが。
今回の作戦、強襲上陸を行い、橋頭堡を確保する任務は、帝国海軍海兵隊・第1強襲上陸第1大隊が担う。 続く本作戦に向け、例え全滅しようと必ず確保せねばならない。
その第1大隊を海岸線直前で発進させるのは、第201、第202、第203の3個潜水戦隊。 第2潜水艦隊が担う。 発進させた後は、持てる攻撃力全てで支援を行う。

まだ若い大尉の声に、艦長は思わず目を瞑る。 果たして俺は、ほぼ確実に死が待ち受ける場所へ突入するのに、これ程までに平静でいられるだろうか?
如何に洋上からの支援が有るとはいえ、たったの1個強襲歩行攻撃機大隊で、4500からのBETA群を殲滅しつつ、橋頭堡を確保せねばならない、引く事は許されない。
そう言えば、まだ仙台軍港に艦隊がいた頃、僚隊の第202戦隊の『嵩潮』艦長の話を聞いた。 あの艦には第1大隊第3中隊長機が搭載されている。
その中隊長、仁科碧雄大尉の事だ。 『沈思黙考の人物』、しかしながら部下への温情も篤い『不言実行』の人物。 その時、『嵩潮』艦長(兵学校の同期生)はこう言った。

―――『信じられるか? 20歳を少し越したばかりの若者が、生死を超越している。 俺は靖国へ行っても、先達に顔向け出来ん』

『蒔潮』艦長、織田善司海軍少佐も同感だった。 強襲潜水艦長の中には、出撃前に『ハッパを掛ける』艦長も少なくない。 
だが俺達は上陸戦闘の、一体何を知っているのだ? 所詮は水中からの援護攻撃を知っている位だ、海岸線の地獄は知らない。

「・・・時間だ、畔木大尉、攻撃隊発進せよ―――武運を祈る」

『お世話になりました、艦長。 『蒔潮』の武運と安全な航海を―――≪オルキヌス≫リーダーより全機、発進せよ! 
我々がこの星の頂点だと言う事を、忌まわしい異星起源種に教えてやれ! 目標、三浦海岸! 攻撃隊、発進!』

ガクン―――艦内に僅かな衝撃が走る。 ロッキングボルトが外れ、『海神』が艦から切り離され、発進したのだ。
『海神』の水中速力は最大で20kt、海岸線まで6分少々で到達する。 それまでに艦は海岸線まで3km地点まで進出し、潜望鏡深度で支援攻撃態勢を整えなければならない。

「よし、第2戦速! 攻撃管制システム、立ち上げろ! 深度12m!」

「了解、第2戦速!」

「アップトリム5! メインタンク・ブロー!」

「システム、スタートアップ完了!」

「隊司令部より通信! 『海神』、全機の発進を確認!」

静止状態から一気に増速し、攻撃予定海域まで突っ走る。 攻撃管制システム、オール・グリーン。 艦は緩やかな上昇勾配で、急速に海面付近まで上昇している。
やがて潜望鏡深度。 もう一度自動懸吊装置が働き、その深度で艦が停止する。 海岸線からの距離、3050m。 潜望鏡を上げる、織田艦長は飛びかかる様に潜望鏡に取り付いた。
潜望鏡から見える光景。 朝日を受けて、海岸線が輝いている。 水面が陽光の照り返しを受け、まるで光の乱舞だ―――美しい、一瞬、そう感じた。
そして見た、水中から一気に地上戦形態に機体姿勢を変えた『海神』が1個大隊、三浦海岸に殺到して上陸する様を。 その先には、約4500体を超すBETA群。

「ッ! 支援攻撃開始! SLM(潜水艦対地ミサイル)、一斉発射!」

「SLM、発射!」

「第1大隊、全機上陸! 交戦を開始しました!」

「第1艦隊、『大和』、『武蔵』、上陸点後方へ艦砲射撃開始! 5戦隊(大型巡洋艦『最上』、『三隅』)、12戦隊、15戦隊、面制圧攻撃開始!」

「懸吊深度、12m、変わらず!」

様々な声が飛び交う中、織田艦長は潜望鏡を除き続け、指示を飛ばし続けた。 第1中隊前面に、突撃級が見える。 目視で想定だが、50体は居る。
要撃級もほぼ同数、小型種となると目視では把握できない。 少なくとも事前の衛星偵察情報では、海岸線付近に4500体。 三浦半島全体で9000体を越すBETAがいる。

あッ―――第2中隊側面に突撃級が突っ込んだ、中隊が大きく乱れる。 第3中隊が支援を・・・ 駄目だ、正面からまた、突撃級の集団。

「SLM、座標B7R-11! 連続で叩き込め!」

「よーそろー・・・ 座標B7R-11、変更完了! 撃ッ!」

「戦隊司令部より入電! 光線級の存在を確認! 支援砲撃、AL砲弾に変更します! 約12分!」

戦艦などの大型艦故に、主砲弾種の変更にはそれなりの時間がかかる。 報告では12分間、攻撃隊は支援砲撃を受ける事が出来ない。
潜望鏡の限られた視界からでさえ、朝日に染まる海岸線に、幾条もの光線が立ち上る様が見えた。 同時に何機かの『海神』が爆散した姿も。

「砲雷長! ALMは!?」

「セッティング変更中! あと2分!」

あと2分、もどかしいほど長い。 第2潜水艦隊もALMへの変更を急いでいるのか、SLMの筈が半数近くに減っている。
兎に角、半分の艦だけでもALMを。 残りは通常ミサイルでも良いから、兎に角光線級に『空撃ち』をさせて攻撃隊への負担を減らそうとしている。
ああ―――第1中隊のど真ん中に、突撃級の集団が突っ込んだ。 第3中隊と連携で側面を取ろうとしている。 あ、今度は戦車級の群れ!

「・・・ALM発射準備完了! 撃ちます!―――撃ッ!」

砲雷長が、艦長への報告と発射命令とを、同時に行った。 この程度の判断は、各部署責任者に任している。 特に小所帯の艦なら尚更のこと。
艦砲射撃の範囲が、内陸の後続BETA群に対するモノから、徐々に海岸線付近へと近づいて来ている。 直接支援が絶対的に必要な戦況になりつつあった。

(―――あ、くそ! また1機・・・!)


海岸橋頭堡を巡る死闘は、その後30分近く続いた。 強襲上陸第1大隊は甚大な損害を受けつつ、辛うじて後続の上陸地点を確保する事に成功した。 0705時。

「上陸司令部より入電! 聯合陸戦第3師団、強行上陸を開始します!」

「後続の陸軍第14軍団(第7、第47、第49師団)、国連軍第2軍団(韓国陸軍第4、第7師団)、上陸準備開始!」

海軍聯合陸戦第3師団が強行上陸を行い、海兵隊が確保した橋頭堡から、支配地域拡大の為の突破・拡張戦闘を行う予定だ。
その後を受け、陸軍と国連軍(韓国軍)の5個師団が上陸を開始。 海岸線を確保した上で、陸軍部隊は旧横須賀市を。 聯合陸戦隊と韓国軍は、旧三浦市と旧逗子市を奪回する。
この先、横浜ハイヴまでの間に一体どれだけのBETA群が居るか、正確な情報は無い。 少なくとも三浦半島の約9000のBETA群は殲滅出来るだろう、6個師団の戦力が有れば。
そしてその戦力は、続く本作戦まで確保しなければならない。 この三浦半島はその為の最重要の後背地となるからだ、6個師団で本作戦まで維持する必要が有った。

(・・・だから海岸線への突入は、『海神』の1個大隊でなければ、ならなかったのだ)

後続の戦力を、初手で消耗する訳にはいかない。 その為には『たったの』1個大隊が戦力を磨り潰してもなお、橋頭堡を確保する必要が有った。
『蒔潮』からは相変わらず、SLMが発射されていた。 僚艦からも同様に、母が子を守るかのように、支援攻撃が続行されている。
やがて聯合陸戦第3師団の、敵前強行上陸が始まった。 戦術機揚陸艦から発艦した96式『流星』の大群が、一気に海岸線にNOEで迫る様が見えた。
艦砲が着弾し、震動が水中にまで伝わる。 BETAの最後の一群が、大きく宙を舞う姿が見えた。 艦砲射撃が、海岸線付近にまで支援の範囲を広げていたのだ。

その情景を、織田艦長は潜望鏡のハンドルを握り締めながら覗いていた。 艦砲射撃が海岸線付近にまで―――もう、友軍誤射を案じる事が無くなったから。
帝国海軍海兵隊、第1強襲上陸大隊はその任務を達成した。 その代償は、織田艦長が見ていた潜望鏡からの世界―――4500体のBETA群の殲滅と引き換えに、残存機数は9機。

その中には大隊長と、3人の中隊長は含まれていなかった。






1999年7月13日 0630 帝国海軍海兵隊(第1強襲上陸大隊) 三浦半島へ強襲上陸を敢行。 海岸線橋頭堡を確保、大隊残存9機(損失27機)
同日 0705 帝国海軍聯合陸戦第3師団、三浦半島へ上陸開始。
同日 0803 帝国陸軍第9軍第14軍団、国連太平洋方面総軍第2軍団、三浦半島へ上陸開始。
(この時点で確認された三浦半島全体のBETA群は増加し、約9200体)


『発:第7師団司令部 宛:第14軍団司令部  我、津久井浜、これより横須賀方面へ向け進軍す。 誓って所定の目的を果たさんとす』

『発:第14軍団司令部 宛:第7師団  天佑を信じ、突撃せよ』

同日 0930 第14軍団第7師団、聯合陸戦第3師団、横須賀方面へ進撃開始。
同日 0945 第14軍団第47、第49師団。 国連(韓国軍)第4師団、国道134号沿いに旧武山基地奪回行動開始。
同日 1005 国連(韓国軍)第7師団、三浦市内制圧行動開始。
(この間の制圧支援は、第1艦隊第3戦隊『大和』、『武蔵』と第5戦隊、第12、第15戦隊だった)


『発:第7師団司令部 宛:第14軍団司令部  我、横須賀を制圧せり。 師団損失、18%』

『発:第14軍団司令部 宛:第7師団  現在地を死守せよ。 繰り返す、現在地を死守せよ』

同日 1922 旧横須賀市域を確保する事に成功。


『発:第47師団司令部 宛:第14軍団司令部  旧三浦市、旧逗子市の制圧に成功せり。 現在地を以って防衛線と為す』

『発:第14軍団司令部 宛:第47師団  協同諸部隊共に、至急、防衛線構築と為せ』

同日 2025 旧三浦市域、旧逗子市域の確保に成功。


『発:第14軍団司令部 宛:第9軍司令部  我、三浦半島奪回に成功せり。 上陸部隊の損失、平均17%。 物資の補充を要請す―――2045』

『発:第9軍司令部 宛:第14軍団  貴信了解。 久里浜港跡周辺の安全を、絶対確保せよ。 海軍輸送部隊の入港予定時刻、翌0150』

14時間に及ぶ激戦の末、かつてBETAに奪われた国土の一部、その土地を1年ぶりに奪回する事に成功した。
翌15日から、横須賀=逗子防衛線の構築が始まった。 BETA支配地域に面していない東海岸の久里浜港跡に、次々と工作艦やクレーン船が入港し、物資を揚陸した。
同時に三浦半島への注意を北に引き付ける為、激戦続きにも関わらず西関東防衛線の各部隊は、BETA群に対し北への誘因間引き攻撃を開始する。

帝国軍大防令第十八号『明星作戦』、国連軍太平洋方面総軍作戦『Conbined Operation・Lucifer』―――その前哨戦が幕を上げた。










1999年7月18日 日本帝国 宮城県 『帝都』仙台 菖蒲田射撃演習場(旧菖蒲田海水浴場跡)


「ばーかーやーろー! 今江(今江美恵少尉)! そんな的を外すんじゃねー! 貴様、訓練校卒業してもう、半年以上経ってるんだろうが! 送り帰すぞ!? この馬鹿!」

『くっ! り、了解!』

海岸線から沖合に向けて、数機の戦術機が射撃訓練を行っている。 沖に停泊した支援艦から、続けさまに的がランダムに、かつ不規則な軌道で射出されている。
それを補足して撃破するのだ。 ふだんなら訓練校を卒業して半年、部隊で日々訓練を受けて来た衛士にとっては、そう難しい事では無い。 無いのだが・・・

「こらー! 饗場(饗場有希少尉)! 今度外したら貴様、連隊長・大隊長の前で、自分で事細かに失敗の報告させるぞ! 
貴様の猶予は後、18発だけだ! 残り18発、全部当てろ! 1発も外すな! いいか!? 1発もだぞ、いいな!」

『は、はい!』

「おいこら、美濃(美濃敬一郎少尉)! 目を離した途端、なに外してやがるんだ! 貴様の綽名は『射撃下手』だ! その看板背負って、駐屯地を5周させるぞ!?」

『ッ! 当てます! 次は当てます!』

「当然だ、この馬鹿野郎! 『射撃下手』! さっさと撃たんかー!」

指揮車両に隣接設置した指揮所で、第181戦術機甲連隊第11中隊の周防直秋中尉が、盛んに罵声を放っていた。
その横には同じく第22中隊の森上允中尉、第33中隊の蒲生史郎中尉が陣取り、同じように中隊の少尉達に罵声を浴びせかけている。

「下手糞! そんな下手な腕前で、BETA共を殺れると思っているのか!?」

「帰れ、帰れ! 貴様みたいな役立たず、訓練校に返品だ!」

「そらそら! 的が通り過ぎるぞ!―――ボケ! アホ! 大馬鹿野郎! 的を素通りさせやがったな、このクソッたれ!」

恐らく、海岸線から的に向かって射撃を行っている、戦術機に乗った衛士達―――第11、第22、第33中隊の24期B卒の8人の少尉達は、冷汗をかきまくっているだろう。
彼等とて、大規模作戦の経験は無いものの、佐渡島から渡海侵攻して来るBETA群の阻止攻撃に参加した経験が有る、『死の8分』を乗り越えた衛士達だ。
普段ならこんな『優しい』訓練で、的を外す筈が無い。 それ故に実際に的を外し、疑問から不信へと移る過程で上官が容赦なく浴びせる罵声に、更に平常心を失っている。
また1機、『簡単な的』を外した。 同時に指揮所からは3人の中尉達から一斉に、聞くに堪えない罵声が上がる。
そのすぐ脇で、バイタルモニターをチェックしていた3人の士官が、モニターと指揮所を交互に見比べて苦笑し合っていた。

「・・・意地が悪いですよね、本当に。 今回のパターン、高難易度の、しかも完全ランダムなのに」

33中隊第3小隊長の瀬間静中尉が、ちょっと気の毒そうな表情で言う。 それに無言で頷いたのが、同じ33中隊副官の松任谷佳奈美中尉。
彼女は最初、この設定に反対だった。 大攻勢作戦を目前にして、彼等の自信を奪う事になりかねない、そう言って反対したのだが・・・

「でも、あとで『ご褒美設定(通常設定)』を用意しているのでしょう? だったら良いんじゃないかしら?
確かに少尉達の鼻が高くなりかける時期だし、この辺で何かしら手を打っておかないと。 ・・・周防中尉の発案?」

少し呆れた声色で、2人の下級士官にそう言うのは、第31中隊第2小隊長の四宮杏子中尉。 ここの中尉の中では、最先任になる21期B卒。

「直秋の発案・・・ と言うより、やられたから、やりかえす、です。 根性が悪いったら・・・!」

「・・・ああ、そう言う事ね」

「私達も・・・ ですし」

松任谷中尉の憮然とした声に、四宮中尉と瀬間中尉が思い出したように首を竦め、苦笑する。 確かにあの姿は、数年前の自分達の姿だった。
96年の10月に新編された中隊、そこには少尉時代の自分達がいた。 当時の中隊長は、国連軍大西洋方面総軍の出向から帰国したての、新任の大尉。
とにかく扱かれた。 帝国軍では普段なら耳にしない様な罵声を、それこそ延々と浴びせかけられ、怒鳴られ、そして教え込まれたものだ。

「帝国軍でもやりますけど、あの罵声のボキャブラリーは、国連軍仕込みだったのでしょうね」

「最初は、管制ユニットの中で思わず赤面する様な、そんな言葉もあったわね・・・ あとで今の奥様から、注意されていたのよ?」

「本当ですか!? 知らなかったな」

「本当よ、注意したご本人から聞いたもの」

「直秋が真似しても、一向に似合わない」

女性将校3人が笑い合っているその間も、訓練は続いていた。 罵声が聞こえなくなっている、どうやら『ご褒美設定』に突入した様だ。
これが終われば、今度は各隊の中で半期先任の24期A卒の少尉達の訓練に移る。 彼ら24期生が今や部隊の数的主力になっているのだから、その練成は急務だった。

「周防中尉、森上中尉、蒲生中尉、次の訓練に移るわよ」

「了解です、瀬間さん」

「・・・3人とも、昔を思い出して一緒にやればいいのに」

ぼそっと松任谷中尉が、当てつけの様に小声で呟く。 周防中尉、森上中尉、蒲生中尉の3人は、松任谷中尉とは同期生同士だった。

「何か言ったかー? 松任谷?」

「おい、周防! 嫁が何か、不満がってるぞ?」

「嫁じゃねー!」

「・・・蒲生、あとでシメる」

場に笑い声が湧きあがる。 1級の実戦部隊の、それも出撃を直近に控えた部隊の雰囲気とは、似ても似つかわないかもしれない。
しかし不必要に肩肘張っても、気負っても、良い結果などではしない事を彼等は知っていた。 そう教えられてきたし、実感して来た。
第18師団―――第14師団と第18師団で構成される第13軍団は、来るべき『明星作戦』において最後に上陸し、最短距離で横浜ハイヴを目指す部隊に指定されていた。
当然ながら緊張は有る。 死への恐怖は誰しも内心に抱えている、何せハイヴへの最短攻略路を切り開く部隊に、指定されたのだから。

内部情報によれば、4日前の7月14日に前哨戦と言える『曙光(しょこう)』作戦が敢行され、三浦半島を確保したと言う。
作戦主力の第14軍団、国連軍第2軍団、海軍の陸戦師団の損失は『想定内』だったと言う。 その代わりに強襲上陸を敢行した海兵隊部隊は、ほぼ壊滅したとも聞く。
本作戦は、それ以上の激戦になる。 だが普段と変わらない事をする必要は無い、そうも考えていた。 今更何か、特別な事をしても仕方が無い。
18師団にしても、14師団にしても、伊達に大陸派遣軍の生き残りを、集中配備した部隊では無いのだ。


引き続き訓練が続行されていった。 予定では8月2日に上陸船団に乗艦し、連合艦隊(第1艦隊主力)の出撃と時を同じくして、第13軍団も房総半島沖に向け、出撃する。
いつも通りだ。 いつも通りの困難な作戦、いつも通りに戦い、いつも通りに生還する。 それ以外に、一体何をする必要が有ると言うのか?


『明星作戦』の本作戦発動まで、あと18日に迫っていた。





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