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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦前夜 黎明 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/26 18:08
1999年2月25日 オーストラリア連邦 オーストラリア首都特別地域(ACT) 首都・キャンベラ


―――『ザ・ロッジ (The Lodge) 』、オーストラリア連邦首相官邸を言い現わす。 人口わずか40万人弱の中小都市であるキャンベラが、首都である証だ。
その官邸の近く、街路の端に2人の男が真夏の暑さにうんざりしながら(ここは南半球だ)、汗を拭きつつ官邸を眺めていた。

「・・・さっき入って行った車、ありゃ、日本帝国大使館のだったな」

明らかにアジア系、それも東アジア系の男が目を細めて言う。 その声に片方の男(こちらは白人だ)が頷く。

「ああ、ありゃ、日本の特命全権大使だ。 どうやら色々、諸々の交渉事の大詰めと言った所かね?」

「アンタのトコ、ネタは掴んでいるのかい?」

「競合他社に、ネタを披露する馬鹿はおらんよ」

一見するとジャーナリスト、見掛けも雰囲気も。 だが時折見せる鋭さが、どうにも不信を覚える、そんな2人だった。
彼等は数日前から、『本社』の命令でここに張り付いている『支社』の連中だった。 『通信社』の特派員、と言う事になっている。

「が、まあ、一応は『本社』からネタはある程度教えろ、とも言われている。 いいさ、じゃあ開陳してやろう」

「むかつく奴だな」

手に持ったミネラルウォーターのペットボトルを持ち上げ、気障に笑う白人の男に、アジア系の男が鼻を鳴らして言う。

「ま、ま、聞けよ。 日本の大使がここに日参している訳はな、この国に仲介して欲しいからさ」

「・・・誰と?」

「ボツワナ」

「ボツワナ!? って、あれか? アフリカの・・・ ボツワナ共和国?」

「そうさ」

思いっきり不思議な顔をしているアジア系の男を見て、白人の男は一種の優越感を感じながら、彼の『ネタ』を開示し始めた。

「あんたさ、ダイヤモンドが工業用で使用される事、知っているかい?」

「・・・馬鹿にすんな、その位知っている。 研削(ダイヤモンドカッター)や研磨(ダイヤやすり)、他にもオールラウンドな加工が可能だ」

―――おお、良い答えだ。

少し馬鹿にしたような誉め方で、白人系の男は話を続けた。
ダイヤモンドは宝飾系以外の用途として、工業用途が有る。 主に固い材料の研削や研磨に使用されている。
だが、近年加速して来た材料学や化学の分野において、ひとつの画期的な成果が為されたのだ―――高品質ダイヤモンド薄膜の合成に成功したのだ。

「日本の国立研究所と、日本企業の連合体がな、この技術を確立させた。 元々この技術は昔、合衆国が匙を投げて以来、日本がコツコツと研究して来た分野だ」

「ほう? そりゃ目出度い。 誰しも努力は報われるべきだな―――で? それがどうかしたのか?」

「せわしない奴だ、続きを聞けよ―――で、だ。 その日本の開発した技術、一番おいしい応用例はな、『ダイヤモンド半導体』だ」

「ダイヤの半導体!? ダイヤって、不導体だろうが!?」

驚くのも無理は無い、確かの殆どのダイヤモンドは不導体だ。 しかしホウ素が微量含まれたⅡb型のダイヤ結晶はP型半導体の特性を持ち、燐だとN型半導体となる。
これを使用したMES(金属-半導体結合)型や、MIS(金属-絶縁体-半導体結合)型のFET(電界効果トランジスタ)半導体素子研究が為されている。

「FET(電界効果トランジスタ)ってのは、今や電子機器で使用される集積回路では、必要不可欠な素子となっているんだ。
そしてその開発・生産で、世界のトップをぶっちぎりで独走中なのが、日本帝国だ。 連中、ああ言う細かい分野が得意だよな、民族性かね?
ま、兎も角、ダイヤモンド半導体ってのは、シリコン半導体に比べて数十倍から数百倍の大幅な高速化が可能なんだ。
耐熱性や耐久性も極めて優れモノでな、宇宙空間みたいな過酷な環境下でも、まず間違いなく確実に動作する」

アジア系の男にも、段々と判って来た。 その技術が汎用技術のみならず、軍事技術としても極めて有効だと言う事に。
高速処理演算機、コンパクトで大容量送電が可能な電力ケーブル、高周波フィルタ。 それだけでも、例えば戦術機の基本性能の向上は容易くなる。

「それだけじゃねえ、最近は超伝導特性も発見された。 益々もって・・・だよなあ?」

超電動モーター、核融合炉、磁気シールド装置、磁気推進艦船・・・ キリが無い。

「ま、そんな夢の様なおめでたい技術だけどよ、ネックもあってな。 だいいち、日本じゃダイヤモンドは産出しねえ」

「・・・人工ダイヤが、有るじゃないか?」

人工ダイヤ自体は、1955年に合衆国で合成に成功している。 現在は世界の工業先進国では、普通に使われる技術だ。 だが問題も有る。

「それを作るのにはよ、静的高温高圧法だと鉄、ニッケル、マンガン、コバルトなんかの金属が必要だ。
大量に使用予定のダイヤモンド半導体用によ、それらの鉱物資源を割きたく無いんだろ? 日本は資源貧乏国だしな」

「・・・で!?」

いい加減、アジア系の男が苛立ってきた。 それと、自分達が真夏の昼間に立ちんぼをしている事と、どう関係が有るのだ?

「余計な資源を割きたくなきゃ、天然ダイヤを使えばいい。 宝石にはなれんクズダイヤでも、工業用には十分だ。 それに安いしな。
そこでこの国の出番だ。 なあ、アンタ。 今現在、ダイヤの年間産出量の上位5位の国って、知っているかい?」

―――ダイヤの産出量?

いきなりで、咄嗟に思い浮かばない。 確か南アフリカは有名だった記憶が有るが・・・

「ああ、南アも上位5位に入るさ。 昔はソ連が1位だった、今は産出地の大半はBETAの腹の中で、転落しちまったがね」

白人の男が言うには。産出量で世界5位がカナダ(1262万カラット=約2.54トン)。 4位が南アフリカ(1445万カラット)だ。

そして3位はオーストラリア(2062万カラット)、2位がコンゴ(2800万カラット)、現在世界1位の産出量を誇るのが、ボツワナ共和国(3110万カラット)だった。

「・・・じゃあ、ボツワナから買えばいいんじゃねえのか? 安いんだろう?」

「あのよ、お前さん、それでよくこの商売できるな・・・ ボツワナはAU(アフリカ連合)の一員だ。 最前線国家とは、ちょいとソリが宜しく無い。
日本としては、ちょっとばかし敷居の高い相手なんだよ。 それにダイヤモンド産出国はシンジケートを組んでいる、余所から来て、はいどうぞ、って訳にゃ、いかんよ」

それにAUは欧州諸国―――主に英国とフランス、ドイツ。 そして合衆国の草刈り場だ。 極東の新参者は、なかなか仲間に入れて貰えない。
だったら、オーストラリアから買えばいいのではないか、そう思うだろう。 日本とオーストラリアはリムパックEPA(環太平洋自由貿易経済連携協定)の一員だ。

「なかなか、そうもいかんのさ。 あれを買えば、これも買え、いやそれは買えん。 何やかんやとな、自国の産業保護も絡む。
特に日本はBETAに本土を荒されている、海外移転に関係して、オーストラリアの一部とは、完全に競合になっちまっている」

「・・・じゃ、何でその競合に、仲介を頼むんだよ!?」

「コモンウェルス(英連邦)さ」

―――コモンウェルス。 日本では英連邦と和訳される事が多い。 『Commonwealth』、最近では『独立主権国家連合』とも言う。
元々は英国、アイルランド(後に脱退)、カナダ(ニューファンドランド含む)、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカとで発足した。
当初の特色は、各国が『英連邦王国―――コモンウェルス・レルム(Commonwealth realm)』の構成国だった事だ。
その後に変化して、現在は54カ国が参加している。 その内、国土を保持しているのは51カ国(インド、バングラディシュ、パキスタンは国土喪失)
加盟国同士で、国民に国政および地方選挙における選挙権および被選挙権を認めおり、査証発給(免除)やワーキング・ホリデーに関する優遇措置がある。
また最近は、広域の自由貿易経済連携の動きも見せており、成立すれば世界最大の自由貿易協定になるだろう、そう言われている。

「ボツワナは、コモンウェルス加盟国だ。 オーストラリアは最初期からのメンバー。 この連中、些か英国流でな。 メンバーの紹介無しには、クラブに入れない」

日本としては、同じEPA加盟国のオーストラリアの顔を立てる為に、ある程度量のダイヤモンドは輸入するのだろう。 その見返りに『紹介』か。

「最も日本としちゃ、これを機会にAU内に橋頭堡を築きたいんだろうよ。 アフリカは資源の宝庫だしな」

「で、その動きにアンクル・サムは神経を尖らせている、と・・・」

「米日同盟の破棄、貿易最優恵国指定の解除、まあ政府も色々と、思う所が有ったんだろうけどね。 流石にそこまでやられると、日本もなあ・・・
で、『逆襲』に出てきた日本の動きが、今度はこっちの産業界を大いに慌てさせているのさ。 EPAにAUへの独自展開、合衆国の影響力―――儲けが消えて無くなる」

「・・・総貯蓄(国内所得-消費(家計消費+政府支出))-総企業投資=貿易収支(純輸出(輸出-輸入))だ。 
輸出が低調になっちまうと貿易赤字が発生する。 国内は苦しくなって、減税処置なんかが行われ、今度は財政赤字だ。
貿易赤字と、財政赤字のダブルパンチ・・・『双子の赤字』だ、1960年代の悪夢よ、再びってとこか? 国民は政府にNoを突き付けるだろうな」

アジア系の男の言葉に、白人の男が首を竦める。 
現在、合衆国の支配層が念頭に置いている事は、当然ながら合衆国の国益だ。 それが保障されて初めて、前線国家への全面的な支援が行える。
もしも合衆国の国益が大きく損なわれ、その力に影響力が生じると・・・ 支援体制に綻びが生じる、それは世界中の前線国家群にとっても悪夢と同義だ。
合衆国の独り勝ちは腹立たしいし、傲慢な上から目線は気に食わない事甚だしいが、まずは国土防衛、或いは国土奪回が最優先する。
当然ながら、合衆国もその辺は弁えており、決して下手には出ない。 だが必要以上に相手を追い込みはしない―――防波堤は必要だからだ。
その微妙な国際関係のバランス、綱渡りをする様なバランスが、今は少し綻びかけている。 言うまでも無く、日本帝国の動きだ。

日本としては、十分以上に言いたい事は山ほどある訳だが、他の国々―――特に最前線国家群にしてみれば、『その辺にしたらどうか?』と言うのが本音だ。
現場の人間、特に軍部などは日本に同情的、或いは同調的な声が大きいが、政府は違う。 これ以上、バランスを崩さないで欲しい、それが本音だった。

「で、今度はアンクル・サムがオーストラリアに揺さぶりを掛ける、と・・・ 大量の難民を抱え込んだこの国は今、慢性的な食糧不足だしな」

「元々、内陸部は耕作不能な大地が広がっている。 昔の人口ならともかく、難民を受け入れて1億人に迫る人口を抱える今は、純然たる食糧輸入国だ、この国は」

「その輸入食料は合衆国と、その影響下の中南米諸国から・・・ 昔懐かしい『白豪主義』も、またまた台頭してきているしな。
良い手だと思うよ、実際の話、大東亜連合も我々も、日本の暴走には正直言って、付き合いきれない所が有るしな」

「おたくは、アフリカ利権を奪われたくないからだろう? まともに競合しそうじゃないか、新参者が狙うのは、その市場の最下位をまず追い抜く事だしな」

白人系の男の言葉に、アジア系の男がフン、と鼻を鳴らして吐き捨てる。

「・・・俺個人としては、日本の肩を持ってやりたい気はするけどね。 俺は大連の出身だ、あの街が陥落した時、最後まで残ってBETAと戦っていたのは、日本軍だからな!」

「らしくないね、君ら共産党にとっては、日本は潜在的敵国だったんじゃないかい?」

「遠方の高利貸しより、近所の極道さ。 どっちもどっちだが、連中は我が祖国で血を流した。 ・・・にしても、CIAらしからぬ博識だな、いつから経済アナリストに転向した?」

「安企部(中国国家安全企画部)は、いつからそんなに、寝ぼけ始めたんだ? カンパニー(CIA)は今や、経済・国際関係情報に重心をシフトしている。
軍事関係情報はDIA(国防総省国防情報局)が専管しているよ、忌々しい事にな! マクナマラの遺産が、この軍拡の時代に台頭しやがった、クソ!」

事実、アメリカのインテリジェンス・コミュニティーは、国家情報長官の元に統括された。 CIAはその中の『中央』情報機関ではあるが、『絶対』では無くなった。
そして従来アメリカのインテリジェンスを牛耳って来たCIAは、その活動を制限されている。 外交・国防政策に関わる情報活動は行うが、以前ほど派手さは無い。
今では主に経済・国際情勢情報に限定され、軍事・国際軍事関連情報・工作の全般はDIAか管轄する事になっている。
この件も、いずれはDIAに移管される事にあるだろう。 CIA内部ではそれを不服と思う連中が多い、耕地を見つけ、耕し、種をまいたのは自分達なのに。

「ま、アンタらは、アンタらの苦労が有るってわけか。 ・・・最後の質問、ダイヤモンドって地上でもっとも硬い筈だな? 半導体にって・・・どうやる?」

「あん? 確かにモース硬度やヌープ硬度は飛び抜けて硬いが、ビッカース硬度は種類によりけりだ。 それに靭(じん)性はそれほど高くない。
確か7.5だったか、水晶と同じだ、ルビーやサファイアより脆い。 瞬間的な力には弱いのさ、ハンマーで叩けば割れるぞ、ダイヤモンドは」

「・・・それでかい? BETAでも突撃級の装甲殻や要撃級の前腕が、突撃砲弾で場合によっては貫通出来たりするのは?」

「ああ、モース硬度が15前後は有るそうだが、靭性は余り高くないそうだ。 高初速砲弾を続けて叩きこめば、イケるらしいな」

「人類社会の靭性も、さほど高くなさそうだな」

「そんなモノ、歴史を見れば判るだろうが」











1999年2月27日 1330 新潟県 旧村上市付近


腹に響く重低音が、冬の空に砲声が響く。 

北と東、そして南の3方向から同時に攻撃を掛けている。 雪混じりの土砂が火柱と共に宙に舞う、その中には爆風の衝撃波で粉砕されたBETAの残骸も多数、混じっていた。
この日、所謂『定期便』と呼ばれる、ハイヴ活性化に伴う飽和個体群の侵攻が生起した。 とは言え、その規模は約4000体程。 旅団規模の侵攻であって、さほど大規模では無い。
佐渡海峡の海底を定期探索していた、海軍の通常動力潜水艦(佐渡海峡は最大深度400m超、狭い佐渡海峡の哨戒には艦艇が使えない)が海底を移動する個体群を捉えたのだ。
即座に潜望鏡深度まで浮上した哨戒潜水艦から、本土防衛軍日本海警備管区(大湊鎮守府)に発せられた緊急信が北部軍管区に急転送された。
至急信を受けた北部軍管区は、即座に迎撃戦力を整えてひとつの作戦に出た。 BETAの注意を北方に引いて釣り上げる。 南下させては関東軍管区の苦労が増えるからだ。

「第21師団、側面攻勢に出ました」

「第54師団第541戦術機甲連隊、高根川から南進。 BETA群先鋒集団を殲滅中」

まず、山形県米沢に展開する第12軍団3個師団のうち、第21師団が緊急即応部隊として山形・新潟県境を突破。 そのまま日本海に出て南下し、新潟市北部でBETAと接敵した。
第21師団は無理押しせず、被害を最小に抑えつつ交戦しつつ、そのまま北上。 BETA群はその動きに釣り上げられ、村上市付近まで突進を続けた。
第21師団のその動きに呼応したのが、同じ山形の酒田市から鶴岡市に展開する第6軍団。 指揮下3個師団の中の第54師団が山間部を南下し、村上市北部で交戦を始めた。
北と東に『蓋をした』後に、最後に呼応したのが福島・会津若松の第16軍団指揮下の第23師団。 県境を越え、戦術機甲部隊を新発田方面から一気に北上させた。
3個師団の攻囲に晒され、旅団規模のBETA群の数が急速に減じていく。 その様子を少し離れた山間部から見ている部隊が居る、放棄された天文台跡付近に指揮所を張っている。

「第23師団第231戦術機甲連隊第1、第2大隊、旧新発田市から旧胎内市に突入! 坂町で光線属種捕捉に成功、これより殲滅戦に入ります。 第3大隊は新潟市内残存個体を殲滅中!」

「光線属種は胎内市だけか? 他の場所には居ないのか?」

「重光線級30体、光線級20体を胎内市で確認。 他は確認せず!」

その報告に、指揮官が首を傾げる。 そして傍らの幕僚に問いかけた。

「おい、作戦参謀、どう考える? 周防大尉?」

問われた幕僚―――周防直衛大尉は、考えるそぶりも見せずに、即答した。

「―――別動の連中がいます。 重光線級はネタ切れかもしれませんが、光線級の数が少ない。 森でなくとも、林に入られただけで上空からの補足は、非常に困難になります」

既に数機のUAVが撃墜されている。 しかしその空域は主に海岸線付近、つまり今現在、重光線級などが確認されている区域だった。
旅団規模、約4000体程のBETA群であれば、杓子定規に考えれば80体程の、少なくとも60体から70体の光線属種がいる事は、既に周知だ。
しかし現在確認されている光線属種の数は50体、最低でも残り10体から20体は残存光線属種が存在しているとみていいだろう、それも発見されにくい小型の光線級が。
そしてこの辺りは、昨夏のBETA侵攻によってかなり荒されてはいるが、未だ完全に荒野と化した訳ではない。 まだ山林はあちこちに残っている。

「だとしたら、どの辺に目星を付ける? 意見だ、意見を出せ、作戦参謀」

問われて周防大尉は、作戦地図を暫し見つめる。 そこには友軍部隊とBETA群、それぞれが情報の通りに駒の形で置かれている。
BETA群主力は村上市から胎内市にかけて、突進力を弱めながらも北上を続けている。 重光線級を含む光線属種は、確認されている個体は胎内市の南部に固まっている。
新発田市から新潟市にかけては、確認されていなかった。 新潟市内上空のUAVも未だ撃墜されていない―――今日は佐渡島の地上には、光線属種は出てきていないようだ。

「・・・海岸線から内陸に入り、新発田市と胎内市をまたぐ丘陵地帯の東側、そこから北上して関川村に入るルートが有ります。
関川村で付近の山頂を取られれば、主戦場の側面からレーザー照射をまともに浴びせかけられる・・・ 発見しづらい、山間部です。 見落としが有るとすれば、そこかと」

「うん・・・ 情報参謀?」

「確かにその付近は、UAVの索敵範囲外です。 索敵部隊も置いておりません、穴ですな」

「ふん・・・ で、連中がそのルートを北上してくれば、我々が居るこの場所の目と鼻の先と言う訳だ。 俺も同感だ、連中はここに来る」

戦闘団長の大佐が、我が意を得たりとばかりに、ニヤリと笑う。 そして即座に迎撃態勢を取るよう、指揮下部隊に下命した。

「ところで、主役は戦術機部隊になる。 1個大隊、どう展開させる?」

戦闘団長―――第18師団第181機械化歩兵連隊長の東海林源之輔大佐が、臨時に戦闘団幕僚に配された周防大尉を見て、問う。
戦術機甲部隊は、師団戦術機甲連隊で有る第181戦術機甲連隊第3大隊が、この戦闘団に配されている。 指揮官の木伏少佐は、即応態勢で戦術機の中だ。

「地形的に見て、主侵攻路は大長谷から越後大島でしょう、そこへ2個中隊。 更に東周りで湯沢温泉辺りに出る可能性も有ります、そこに1個中隊。
発見は戦術機部隊だけではかなり難しいですので、機装兵(機械化歩兵装甲部隊)を各1個中隊、随伴で。 本部は残る機装兵1個中隊と女川まで」

今回は戦術機甲1個大隊と、機械化歩兵装甲1個大隊、そして本部中隊に自走高射砲1個小隊で構成される、ささやかな派遣戦闘団だ。
今回のBETA侵攻を見た北部軍管区司令部は、格好の『練習台』だと判断した。 指揮下各師団には、実戦未経験の将兵が少なからずいる。
特に再編・新編された第12、第13軍団にその傾向が強かった。 既に数カ月の部隊訓練をこなしているが、実戦に勝る訓練は無い。
幸いにと言うべきか、来襲したBETA群の数は旅団規模。 3個師団を叩きつければ、殲滅は十分可能だ。 
そこに戦略予備の第14師団、第18師団からも戦闘団を編成して攻撃に参加させる。 第14師団派遣の戦闘団は、第23師団の1個戦術機甲大隊と共に新潟市内の掃討中だ。

だが山岳地形故に機甲部隊の急な展開は出来ず、戦術機部隊と機装兵部隊の臨時のチームを構成し、機械化歩兵装甲連隊長・東海林大佐が臨編戦闘団長として指揮を執る。
戦闘団本部には、師団幕僚団から情報参謀・内藤大尉、作戦参謀・周防大尉の両名が急遽、配された。 周防大尉は作戦課では無いが、戦術機甲指揮官としてのキャリアを買われた。
臨時で作戦参謀を務める周防大尉の意見に、東海林大佐は地図を凝視しながら頷く。 確かにその2本のルートが、最も怪しい。

「よし、それで行く。 木伏少佐へは周防大尉、君から詳細を連絡しておけ」

「判りました」






『UAVのアテは有るんか?』

「残念ながら、1機だけです。 他は主戦場に回しましたので」

『もう全部、墜されとるがな・・・ 1機でも有るだけマシか、レーザー照射させたら、呼び鈴代わりになるわな』

「想定される数は、光線級が20体前後。 最悪、重光線級も10体程」

『一回は近くをUAVが飛んどるんやろ? 重光線級は20m程の背丈があるさかいな、それで見落としは考えにくいわ。 多分、おらん』

「念の為です。 大長谷へ2個中隊、湯沢の南に1個中隊。 振り分けはお任せします」

大隊CPの指揮通信車両に乗り込み直接、大隊指揮官の木伏少佐とやり取りする。 概要は伝えたが、詳細な戦闘指示は伝えていない。
もう7年近い付き合いだ、お互いどう動いて、どう考えるか、ほぼ判る。 木伏少佐も詳しく聞いてこない。
今回は戦術機部隊の運用に就いては、周防大尉が作戦の全権を委ねられた様なものだ。 東海林大佐は機械化歩兵装甲部隊指揮のベテランだ、大陸や半島で死戦も経験した。
反対に戦術機部隊指揮は経験が無い、そして作戦参謀の周防大尉も、戦術機大隊の木伏少佐も、陸軍にあっては既にベテランの域に入る衛士達だ、任せて問題ないと判断したのだ。

『有馬(有馬奈緒大尉)と摂津(摂津大介大尉)の中隊を大長谷に入れる。 指揮小隊は恵那(恵那瑞穂大尉)の中隊と、湯沢の南や』

主攻勢路と判断される場所に、次席と三席の中隊長を配する。 当然そこが主力だ。 残る警戒攻勢路に先任中隊長指揮の1個中隊と、指揮小隊と共に大隊長が陣取る。
その指示が大隊長・木伏少佐から各中隊に下される。 同時に1個大隊の戦術機―――40機の77式『撃震』が跳躍ユニットから噴煙をたなびかせ、NOEに入った。
追随して動き出した指揮通信車用のモニターから、その姿を見ていた周防大尉は表情に出さず、木伏少佐の部隊配備決定について内心で眉を顰めていた。

(・・・本当なら、大長谷には木伏さんも陣取った方が、良いのだろうけどな)

それが不安な事情を、今の第3大隊は内包している。 最先任中隊長である恵那大尉、彼女の戦場での指揮に不安が有るのだ。
能力云々の話では無い、むしろ精神的な問題だった。 新潟を巡る戦いで初陣を迎えた恵那大尉だったが、軽度の戦場疲労症を発症している。
本来なら、後方と言わずとも連隊本部辺りに下げて(転属させて)、『ゆっくり戦場から遠ざける』事がベストなのだろう。
だが今の帝国軍には、戦術機甲中隊指揮官を早々に下げる余裕など無い。 従って恵那大尉は引き続き、中隊長に留まっている。

(普段は良いんだが・・・ この前のJIVESを使用した演習、恵那のバイタルの乱れは尋常じゃなかった)

最悪のケースを想像して、周防大尉も内心、気が滅入りそうになる。 恵那大尉は既に半数を割ってしまった生き残りの同期生、その一人なのだ。

「ッ! 作戦参謀! UAVからの通信途絶! エリアS5D、旧胎内市宮久上空!」

「情報は?」

「光線級、約14体を確認しました。 他に小型種が戦車級を中心に、300体前後が大長谷方面へ移動中。 湯沢方面への移動は不明です」

「第3大隊へ警報を、機装兵大隊にもだ。 それと追加だ、『湯沢方面への侵攻の警戒を要する』、以上」

「了解です」

第3大隊CPは月島瑞穂大尉。 奇しくも恵那大尉とは同名で、その関係でか仲が良い。 周防大尉より半年後任になる、以前から181連隊第3大隊CP将校を務めていた。

「CP、ガンスリンガー・マムより、ガンスリンガー・リーダー! BETA発見、エリアS5D。 小型種300、光線級14、北上中。 なお、引き続き湯沢南方への警戒を要す」

『ガンスリンガー・リーダー、了解。 ≪ベレッタ≫、≪ブローニング≫は大長谷でアンブッシュ! ≪コルト≫はワシについて来い!』

―――『了解!』

第32中隊≪ベレッタ≫、第33中隊≪ブローニング≫が大長谷北方の丘陵部の山頂付近に移動する。 第31中隊≪コルト≫は指揮小隊と共に、更に東に移動した。
その声を聞きながらふと、場違いな記憶を思い出して周防大尉が苦笑する。 第3大隊は中隊のコードネームを、何故か海外銃器メーカーの名前で統一していたのだった。
大隊のコードネームからして『ガンスリンガー』だから、とは巷の見解だが、どうにも納得いかない。 木伏少佐は砲戦より、近接格闘戦の方が得意なのだから。

(『ほっといたら、お前が大隊長になった時に取られそうやからな! ワシが先に唾付けといたんや!』)

何故かと聞いた時に、木伏少佐が周防大尉に言った言葉だが、額面通りに受け取る程、周防大尉も素直な人間では無い。
最近は『烈士』だの、『維新』だの、『士魂』だのと、随分と国粋的なコードも増えてきた。 同時に大陸派遣軍時代に有った空気―――リラベル的な空気が影を顰めている。
恐らくはそんな空気に対する、木伏少佐流の抵抗なのだろう。 故・水嶋少佐が戦死した時も、同じ戦場に居た米軍に対する恨み事は、一言も言わなかった人物だった。

「・・・≪ガンスリンガー≫、接敵しました! 大長谷付近!」

『ベレッタ・リーダーより、ガンスリンガー・リーダー! エンゲージ・ナウ! 小型種約320、光線級を含む! ≪ブローニング≫が光線級掃討戦を開始!』

『ブローニング・リーダーだ! 機装兵中隊、山を上がってくる小さい連中の掃射を頼む!』

月島大尉の報告と同時に、有馬大尉と摂津大尉の声が同時にヘッドホンに流れた。

『ガンスリンガー、了解。 ええか? 無茶はすんな、けど多少の無理は気張れや?』

『・・・相変わらず、無茶言うよ・・・』

『こら、摂津。 ワシが『元祖』や。 昔を思い出して、周防以上にしごいたろか?』

『結構です。 大尉になってまで、あんな思いはしたくありません―――≪ブローニング≫、手筈通りだ。 連中が予定位置まで進出したら・・・ 今だ! 突撃!』

摂津大尉にとって、新任少尉時代に扱かれたのは当時の中隊長・木伏大尉だった。 

『戦闘団本部より、戦術機甲第3大隊。 戦況は順調に推移、村上市付近のBETAはほぼ殲滅された。 残るは胎内市から関川村のBETA群だけだ』

戦闘団本部から主戦場の状況が入った、どうやら今回のBETA侵攻は大した損害を出さずに殲滅できそうだ。
指揮通信車両の中に、ホッとした空気が流れたその瞬間、通信回線に緊張した声が流れた。 音声の主は識別コードでは≪コルト≫の第2小隊長、突撃前衛長だ。

『BETA群、確認! 距離1500、小型種200、光線級10! 川沿いに北上中! 小隊、東の丘陵部を巻いて連中の側面に出るぞ!』

―――良い判断だ。 その声を聞きながら周防大尉はモニターに映し出された戦術MAPを見つつ、納得した。
光線級を含むBETAの小集団は、小山に挟まれた狭隘部を川沿いに北上中だ。 真正面から行けばレーザー照射の餌食に遭う。
逆に低いながらも、遮蔽物として利用できる地形なのだから、NOEで飛ばせば10数秒も有れば連中の側面に無理なく接近できる。

『―――待て! 第2小隊、待て! このまま待機! BETAがキル・ゾーンに入ると同時に、一斉射撃だ!』

中隊長である恵那大尉が制止する声が、通信回線に流れる。 それに反対する第2小隊長の声も。

『中隊長! キル・ゾーン付近は蛇行した地形です! 一気呵成の殲滅は無理です、僅かでも時間がかかります! 光線級へ認識時間を与えるべきでは・・・!』

『命令だ! 従え、四宮中尉!』

『・・・くっ! 了解・・・!』

周防大尉が師団参謀に転じた後、恵那大尉の中隊に転属となった四宮中尉が、指揮する小隊を止める。 
その表情を見た恵那大尉が、少し不機嫌そうな様子で、四宮中尉に注意を促した。

『四宮、私とて貴様の言わんとする事は理解している。 しかし迂回突入はあくまで事前状況の変化が無い事が前提だ。
今回はBETAの確実な数的情報が無い、僅かでも光線級の数に違いが有れば、もしも別に動いている個体が数体でも有れば、第2小隊はいきなりレーザー照射を受けかねない』

四宮中尉とても、逆にその位は理解している。 要は指揮スタイルの違いか。 恵那大尉は一部から『慎重に過ぎる』との評を受けるに至っている。
四宮中尉が以前まで所属していた中隊の指揮官―――周防大尉は逆に、『少し無茶』と言われる様な指揮振りだった―――実は計算された無茶だったが。

その時、第3者の声が通信回線に流れた。

『おい、恵那、それに四宮。 ワシの事、忘れとらんか? 貴様ら・・・?』

大隊長の木伏少佐だった。 部下達のやり取りにも、少しニヤケた表情で、笑って見ている。

『恵那、3個小隊でな、ここで火網を形成せい。 迂回索敵と、もしもの時の咄嗟戦闘は、指揮小隊がやるわ』

『大隊長!? いえ、指揮小隊はここで・・・! 迂回索敵は、私の隊が・・・!』

『恵那、慎重さはお前の持ち味や、誰も悪いなんぞ言わへん。 せやけどな、ここはひとつ側面の保障が欲しい。 ほんでな、こう言う事はワシの十八番なんや』

『し、しかし・・・!』

恵那大尉としては、上官に自分が封じた迂回索敵をやらせる訳にはいかない。 一度は反対した方法だが、こうなったら自分がやるしかない、そう考えている。
根が真面目なだけに、そして未だ初陣を引きずっている感が有るだけに、恵那大尉は納得しない。 初陣では同じような状況で(規模はもっと大きかった)上官を失っている。

『どないや? 作戦参謀、その辺は?』

―――いきなり自分に振るか? 相変わらずだな、この人は、この悪党め。

話を振られた周防大尉は、苦笑しつつヘッドセットのインカムを握り、通信に割り込んだ。

「・・・戦闘団本部としては、側面確保は重要と判断。 火網形成任務は第31中隊に、迂回索敵を指揮小隊が行うを、作戦参謀は至当と認む」

周防大尉がわざと、『作戦参謀』の語に力を入れてそう話す。 それを聞いた恵那大尉が、苦々しい唸り声を小さく漏らすのを聞きながら。
半世紀前の教訓から、参謀と言う『スタッフ』がラインの指揮に口を挟む事を阻止して来た帝国陸軍だが、DNAに刻み込まれた無意識はそう簡単には消えなかった様だ。
現に今でも、少なからぬ例で上級司令部の参謀が、指揮下部隊の指揮に口を挟んで問題視される、と言った事も生じている。
恵那大尉と周防大尉は同期生同士だが、士官序列は周防大尉の方が上席だったし、なにより現在、師団参謀だ。
一介の中隊長とでは『言葉の重み』が違う(あってはならない事だが)。 参謀の周防大尉が支持したのならば、恵那大尉はこれ以上大隊長の決定に、異を唱える訳にはいかない。

木伏少佐はその辺の含みを、周防大尉に『期待した』のだ。

『そう言う訳や。 もう時間はあらへん、そろそろ接敵時間や。 心配すんな、何もおらへんかったら、そのまま後ろ取って挟撃で殲滅戦や』

そう言い残して指揮小隊が跳躍ユニットに火を入れて、飛び去って行った。
戦闘通信車両のモニターで様子を見ながら、周防大尉は無意識に頭をかき混ぜている。

(・・・厄介で因果な仕事だよな、全く・・・)

帰還したら、飯でも奢ってやろうか。 確か恵那は、飲む方も大丈夫だったよな。 それと四宮だ、流石にあの態度は拙い、部下の前では尚更―――そんな事を考えながら。
戦況は既に終わりを迎えていた。 ≪ベレッタ≫、≪ブローニング≫の2個中隊は既にあらかた殲滅を完了していた。 ≪ブローニング≫が≪コルト≫の増援に駆けつけている。
主戦場は既に残存BETAの確認作業段階に入っている。 旧新潟市内に紛れ込んだ個体群も、23師団の第3戦術機甲大隊と14師団派遣戦闘団とが、殲滅を完了した。
洋上に駆けつけた海上護衛総隊の、警戒戦隊から報告が入っていた。 佐渡島から新たなBETA群の渡海の兆候は無し。 哨戒潜水艦でも、BETAらしき音紋は確認されなかった。

―――2月27日の、新潟でのBETA渡海阻止戦闘は、終結した。










1999年2月28日 オーストラリア連邦 首都・キャンベラ 連邦外務省


「・・・貴国は、一体何を言われたいのか? 外相閣下!?」

日本帝国全権大使が、思いっきり苦虫を潰した表情で相手を睨みつける。 その視線を豪州外相は、厚い面の皮で跳ね返す。

「我が国としては、貴重な戦力を派兵するにあたって、現行の兵站体制、及び戦力では本作戦の成功はおぼつかない、そう判断した次第です、大使閣下」

今更ながらの、そう、今更ながらの、オーストラリアの『変心』に、日本帝国全権大使が、顔を赤黒く染める―――籠絡されおって。
日本帝国大使館側でも、最近になって合衆国大使が頻繁に接触している事は把握していた、恐らく何かの圧力を掛けている事だろうと言う事も。
しかしオーストラリアとて、今や世界有数の経済大国であり、軍事大国である。 そして域内最大の勢力を誇る国家だ、そう簡単に屈するとは予想していなかった―――甘かった。

「ここは是非、『国連軍』の増派を検討すべきではないでしょうか? 兵站体制でも、戦力的にも。 あまりに脆弱だとは思いませんか?
我が国は憂慮しておるのです、このままでは『連合軍』に多大な損失が出るのではないかと。 ひいては貴国の災厄が、長引く事にもなりかねないと」

(―――何が、我が国の災厄、だ! 足元を見おって! それに『国連軍』だと!? 太平洋方面の『国連軍』は、実質的に米軍ではないか!)

怒りの余り、思わず視界が暗転しそうになる。 しかしそこは虚々実々の国際外交の世界に生きて来た者、言葉を飲み込み、反撃する。

「・・・我が軍の指揮権は、我が国に。 バンクーバー条約でも認められておる権利ですぞ。 
地勢的、数的条件からも、そして軍事条約面でも、大東亜連合と貴軍に対する指揮権は、我が軍にある・・・」

「ああ、その件ですが。 我が軍とインド軍は共に、『国連軍第1軌道艦隊』に属する事となりましょう」

「な・・・ なん、と・・・!」

今度こそ、大使は外交官としての仮面を脱ぎ棄て、感情も露わに怒気を発した。 事前の取り決めでは、豪・印両軍とも、帝国航空宇宙軍指揮下に入る予定だったのだ。
兵站は良しとしよう、米国の兵站組織を引っ張ってこれれば、これは逆に見れば僥倖となる。 参加兵力にしても、帝国軍を上回る派兵は無い。 ならば指揮権は確立できる。
だが軌道艦隊、そして軌道降下兵力、こればかりは頂けない。 ハイヴへの降下、突入戦力の要と言える所を、米国に奪われかねない―――国連軍第1軌道艦隊とは、合衆国軍だ。

そんな大使の内心を見透かしたように、豪州外相が平静な声で言う。

「考えても見られなさい、大使閣下。 我が国の国防省が弾き出した数字ですが、今回の作戦に参加予定の軌道降下兵団は9個大隊、324機の戦術機です。
リエントリー・シェルを乗せた再突入カーゴが162基、必要です。 それを運ぶHSSTも同数の162隻が。 一体どこに、そんな数のHSSTが?」

日本帝国全権大使が、ぐっと言葉に詰まる。 痛い所を突かれた、そこは帝国軍内でも未だ解決されていない、大問題だったからだ。
日本帝国航空宇宙軍の航空宇宙艦隊は、現在で合衆国宇宙軍に次ぐ戦力を保持している(3位は英航空宇宙軍、4位は仏宇宙軍、5位はソ連宇宙軍で、6位は同率のイスラエルとインド)
しかしその世界第2位の宇宙戦力をかき集めても、42隻のHSSTしかない。 今回参加予定のインド宇宙軍の保有数は、22隻だ。 合計64隻、128機の戦術機しか運用出来ない。
残り98隻、どこを探してもそんな大兵力は存在しない―――例え、合衆国宇宙軍でさえもだ(合衆国宇宙軍は、72隻を運用中)

「・・・コモンウェルスの線で、英国に打診はしました。 我が国もインドも、コモンウェルス加盟国です―――断られました、英航空宇宙軍のHSST、36隻は無理です」

3位の英国、36隻。 4位のフランス、30隻、5位のソ連、25隻と6位のイスラエルとインドが各々22隻。
日本帝国は国連ロビーを展開するに当たり、このうち英仏、そしてイスラエルに働きかけた。 この3カ国が有するHSSTは88隻。
そして現在、4隻が日本で新規就役している。 残り6隻はソ連に話を持ちかけていた。 それはもう、形振り構わぬ勢いで―――それ程、日本にとって今回の作戦は重要なのだ。
しかし早々に、英国の線が断ち切られてしまった。 実は最も期待していた英国がだ、多分、フランスとイスラエルも断るだろう。

「我が国とインドは、軌道艦隊と軌道降下兵団の参加戦力、その見直しを求めたい。 余りに非常識な数字だ、実現は不可能だと判断したのです。
貴国の軌道艦隊、そして軌道降下兵団戦力はHSSTが42隻。 このうち、国連軍への供出戦力は10隻、これは手を付ける事は出来ません。
とすれば32隻、再突入カーゴ32基にリエントリー・シェル64基。 2個大隊に達しません。 インドの参加戦力はHSSTが16隻、リエントリー・シェル32基。
我々だけで運用可能な軌道降下兵団は、戦術機が総数98機。 これでも3個大隊に達しない・・・」

豪州は近年、宇宙戦力の創設と拡大発展に力を注いでいる。 背景には亡命政府としての、インド政府が豪州内に『間借り』している事が理由だ。
インドとしては『大家』への発言権、或いは影響力を高めたい事情が有った。 只の間借り人では、その実『奴隷労働力』と変わらないからだ。
豪州は同様に、インドの持つ技術力と潜在的な能力が欲しい。 インド人は理系の人材の宝庫でもあるからだ―――『0(ゼロ)』の概念を確立させたのは、インド人だ。

現在では、豪州とインド、双方の2重国籍を有する者が増えている。 人口も爆発的に増加していた。 
多くは東南アジア系、または東アジア系の難民だが、正規の職についている『難民上がり』は、殆ど全てがインドからの難民だった。

そして豪州の宇宙戦力への注力(地上戦力と海上戦力も、大幅に増強されつつある)は、実は国連安保理常任理事国としての、影響力向上を狙ったモノでも有る。
現在の常任理事国は、米、英、仏、ソ連、中国に日本と豪州。 この中で豪州だけが、宇宙軍を有した歴史が無いのだ(中国は、宇宙戦力運用能力を完全喪失)
ハイヴ攻略作戦の要とも言える宇宙戦力。 当然ながら、その戦力を有する国家は大きな発言力を有する。 
イスラエルが常任理事国でも無いのに、大きな影響力を行使しているのはその為だし、中国の影響力が急激に低下しているのも、その為だ。

「では、貴国とインドは、どうせよと・・・?」

「ですから、申し上げた。 国連軍指揮下の航空宇宙総軍、その軌道艦隊を利用する以外に、手は有りません。
米国からの供出戦力が22隻、貴国と英仏両国から各10隻の30隻。 そしてソ連から8隻と、イスラエルにインドから6隻ずつの12隻。
国連軍軌道艦隊は、総数で72隻のHSSTを運用する。 これに『第1艦隊』―――合衆国の30隻と貴国の32隻、我々の16隻を加えると、総数150隻。 
その内の3割弱、40隻は軌道爆撃任務に就かねばならんでしょう、軌道降下兵団用には110隻、戦術機220機。
9個大隊に達しないが、6個大隊・216機は投入可能です。 残る3個大隊は地上からの突入戦力に回す事が出来ましょう、当初予定のハイヴ突入戦力は確保出来ます」

国別で見れば、最大数は合衆国の52隻。 次いで日本が42隻、インド(軌道降下戦力は豪州軍との連合)が16隻。 他はいい。
そうなるとやはり、イニシアティヴは合衆国が握る事になる。 恐らく軌道艦隊司令部、軌道降下兵団指揮権も、合衆国に移ってしまうだろう。

「・・・我が帝国軍は、不満と思う事でしょうな・・・」

力無く、帝国全権大使は豪州外相の案を追認した。 仕方が無いのだ、帝国だけでは不可能だ。 大東亜連合と豪州を巻き込んでさえ、結果は同じだ。
軍部は、その中の一部は激昂する事だろう。 国民の中で台頭しつつある、国粋主義勢力も暴発しかねない。 下手をすれば帰国後は、身辺警護が張り付きになるかもしれない。
しかし他に方法は無いのだ、日本の手に握られたカードは、既にない。 全て切り尽くした、相手のカードの方が優勢だっただけの話だ。 国際外交では良くある話・・・

見方を変えれば、国内にハイヴが存在すると言う異常事態を切り抜ける為に、手段を選ばない『成功』と称する事が出来るかもしれない。
もしも、もしも後の世に人類が生き残る事が出来たならば、或いは歴史はそう称するかもしれない。 だが『今は』違うのだ、舵取りは非常に困難となった。

(・・・申し訳ありませんな、首相。 どうやらこの辺が、私の器の限界だったようだ)

自分を全面的に信頼して、この交渉の全権を委ねた相手―――日本帝国首相・榊是親の顔を全権大使は彼の内心に浮かべ、深く頭を下げた。









1999年3月1日 2100 アメリカ合衆国 N.Y. マンハッタン


夜空に聳え立つ魔天楼の数々、その姿は合衆国が『今の世界』で唯一の超大国出る事を示している。
その中の一つの超高層ビル、その最上階付近に2人の男が夜景を眺めていた。 室内照明は極力落とされている。

「・・・では、日本は条件を飲んだ、そう言う事だな?」

アームチェアに身を沈めた男―――既にかなりの老境に入っている―――が、しわがれた声で確認する。

「ええ、背に腹は代えられない、そう言う事でしょう。 あの国の軍部がどう騒ごうが、それが現実です」

今一人の男が答える。 こちらは随分と若い、多分20代後半くらいだろう。 現実か、そうだ、我々は現実を追い掛ける。
夢は貧乏人に許された、最後の慰めだ。 我々には必要無い―――昔、目前の老人はそう言っていた。
摩天楼から見下ろす夜景。 その光景の真の意味を知る者は、我々だけで良いのだから。

「ふむ・・・ ホワイトハウスの連中も、納得した訳か」

「納得と言うより、リスク回避でしょう。 これ以上は流石に連中も面倒見切れない、そう言う所ですな。
流石にやり過ぎたのです、日本は。 連邦政府にとっても、政府歳入赤字は悪夢と同義ですからな」

ホワイトハウスのリアリスト達も、いや、リアリスト故に日本の『暴走』をあっさりと切り捨てたと言う事か。
今では逆に、ある程度の日本への干渉を是とする空気が大勢を占めつつある、それに『新型爆弾』の最終使用決定も、まもなくだろう。
小煩い軍備管理・国際安全保障担当国務次官のウィリアム・フィリップは、実にタイミングの良い『スキャンダル』が発覚して身動きが取れない。
政権内・官僚内でもっとも強硬な『G弾使用反対論者』だったウィリアム・フィリップが居ない今、まさに絶好の好機と言える。

「・・・使用すれば当然、その威力故に反対論者が出て来おる。 日本国内は反米感情が高まるじゃろう。 寧ろそれは好都合じゃ」

それが、フェイズ2段階だ。 そしてゆくゆくは、あの国に政情不安定な状況を作り出し、介入する。
無論、直接支配は行わない。 そんな手法は何世紀も前の遺物だ、我々は深く静かに、しかし確実に中枢を握る。
表向きはネオコンに属すると言われる2人、だが実際の所は別の顔も有るのだ。 軍産官複合体の『産』に属する老人、『官』に属する青年。
共通点はその遺伝的な繋がり―――公ではないが、実際は祖父と孫だ。 孫の親を、祖父が公式に認知していない、そう言うだけだ。

「・・・力の無い者は、力のある国を作れぬ。 そして弱者はいつの時代も、翻弄され嘆くしかないのじゃ。
儂は2度、祖国を失った。 今世紀のはじめと半ばにの・・・ 3度目は、無い。 この国を、3度目の亡国にはさせぬ・・・」






老人の呟きを聞きながら部屋を退室した青年は、廊下で大きく息を吐いた。 まったく、いつもながら何と言う得体のしれない威圧感だ、あれでもう90歳を過ぎていると言うのに。
廊下を歩きつつ、青年は頭の中をフル回転させていた。 必ずしも、あの老人の思い描くシナリオ通りに動く保証は無い。 保険は複数かけておくべきだ。
まさに自分の為に。 そうだ、あの女には接触をしておいた方が良いだろう。 CIAは警戒される、ユダヤロビーを通じて国連軍情報部辺りからアクセスするか。
成功する、しないは別として、あの女にも多少の見返りは与えてやらねば。 全てを回収する予定のG元素、その何割かは呉れてやっても良いだろう。
あの女は『それだけ』の為に、自分の私兵を投入する事になる。 それはつまり、AL4計画と日本帝国との関係に、微妙なヒビを入れる事にもつながる筈だ。

何にせよ、打てる手は全て打っておきたい。 ヴィクトリア・ラハト。 あの女であれば、日本への非公式なチャンネルに事欠かないだろう・・・






(日本帝国軍 統帥幕僚本部第1局(作戦局) 非公式資料より抜粋)
『大防令第十八号『明星作戦』に関する懸案事項について。
1.軌道艦隊、軌道降下兵団の編制、運用、指揮権の見直しを急務とすべし。 
1.兵站体制の見直しは、第4局これを主管すべし。
1.参加兵力の全般見直し、及び作戦計画全般見直しは、第1局これを主管すべし。
1.『AL』より打診ありし案件については、国防会議緊急検討議題とすべし。
1999年3月3日』









1999年3月4日 日本帝国 福島県福島市 第18師団


「おい、恵那。 今夜暇か? 暇だな? 飲みに行くぞ」

「・・・周防、勝手に私の予定を決めないで」

「予定は無いだろう? どうせ将集で飯食って、風呂入って寝るだけだろう?」

「・・・この男は、遠慮会釈も無い男ね・・・」

恵那大尉のこめかみが、少し痙攣している様に見える。 しかし周防大尉はそんな事、お構い無しだ。

「何よ? 貴様が誘うなんて珍しいわね。 最近は随分と大人しいらしいけど?」

「ま、良いじゃないか。 たまには同期同士で飲むのも」

「いいの? 神楽とか誘わなくて?」

「取りあえず、貴様を誘っているんだが?」

「変な噂はゴメンよ? 貴様だって、結婚が近いのでしょう?」

「その辺は大丈夫だ・・・と、思う」

「言っておくけど、変な噂が立ったら、責任持って消してよね?」

「承知した」





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