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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 明星作戦前夜 黎明 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/06/02 22:42
1998年12月12日 0025 合衆国ワシントンD.C. ホワイトハウス ウェストウィング(行政府)大統領首席補佐官オフィス


「トニー(アンソニーの愛称)、では保守派は、兵站支援1本で纏まりそうなのか?」

深夜のホワイトハウス、その中の執務室でホワイトハウス・オフィスの長として、ホワイトハウス行政を取り仕切る首席補佐官、レオン・エドワード・マクラーティは念を押した。
その視線の先には、これも疲れた表情でソファに座りこんだ、国家安全保障担当補佐官―――アンソニー・レイカーが、頷いている。

「そうだ、レオン。 特に共和党保守派層は、歴史的にもモンロー主義の色が濃い。 ハイヴが出来た後の日本など、武力介入は何の益も無い、そう言っているよ」

合衆国の共和党保守派勢力は、伝統的に大企業・資本家層の代弁者でも有る。 極論すれば、利潤が出ればそれで良い、そう言う事だ。

「ハリルッラー・ハリルザイード(合衆国国連大使)からは、安保理始め、国連内保守派がヨコハマ・ハイヴ攻略支持に回ったと、そう連絡が有った。
安保理では恐らく英、仏、ソ連、中国は賛成に回るだろう。 提議国の日本は当然、英国の影響力が強いオーストラリアもな。 事実上、決定事項だ」

レオン・マクラーティの言う事は、単なる確認だった。 『喪われた四大国』―――英、仏、ソ連、中国は国内にハイヴを抱えるか、BETAの本土侵攻を経験している。
日本は本作戦の提議国だし、オーストラリアは未だ英連邦の一員。 そして東南アジア戦線の最大の後背地国家だ。 各国とも他人事ではない。
いずれも安保理では賛成票を投じるであろう、そうなれば合衆国1国だけが抵抗しても意味は無い。 拒否権を発動すれば国際外交上、最悪の事態も考え得る状況だ。

「今回は、日本の国連ロビーに上手く飛び回られた。 欧州連合には、戦術機第3世代機のコンバット・プルーフ・データを餌にしたとも聞く。
ソ連や中国には、海上戦力の応援の継続を確約したそうだ。 中国はパートナーの台湾からも、突き上げられたらしいな」

「オーストラリアは英国からの『要請』だけではなく、日本企業群の大規模工場建設と雇用、これを条件提示されたらしい。
あの国に多数流入した日本の難民、その問題の解決の為の方策の一環としてな。 ロナルド・カンター(合衆国商務長官)が警戒している、あの・・・」

「ああ、リムパック(RimPac)EPA(環太平洋自由貿易経済連携協定:Rim of the Pacific Economic Partnership Agreement)か、今年の10月に締結された」

「そうだ、合衆国に対抗して作られた『アレ』だ。 オーストラリアはその最大の恩恵国でも有るし、日本は最大の市場の一つでも有る。
それに最近は日中韓統合軍事機構と、大東亜連合軍統合作戦本部との連絡会議、これにアンザック(ANZAC:Australian and New Zealand Army Corps)がオブザーバー参加している。
頭が痛いよ、国防総省は頭から湯気を立てているし、国務省内にも警戒心が高まっている。 欧州連合の他に、アジア・オセアニアブロックも合衆国の統制下を離れかねん、とな」

合衆国の地域戦略見直しのひとつとして、アジア・オセアニアブロックの戦略見直しが急浮上している。 直接のきっかけは、日本帝国へのBETA侵攻だった。
この事態は、当事国の日本のみならず、隣接戦域の統一中華戦線、そして日本とは特に経済的に依存度の高い大東亜連合に、非常な危機感を抱かせた。
そして東アジア・東南アジア諸国への経済的影響力を、日増しに伸ばすオセアニアの2大国、オーストラリアとニュージーランドにとっても、他人事では無くなって来たのだ。
それは今年の9月末、合衆国の日米安保破棄・在日米軍の総撤退を見た時から、急加速した。 一気に広域ブロックでの経済連携協定の締結へと突き進んだ。
それ以外に従来の大東亜連合統合作戦本部と、日中韓統合軍事機構、この二つの同盟軍事協定にオセアニアの2大国が参加した、連合軍事連絡会議が立ち上がった。
経済・軍事両面でアジア・オセアニアブロックは、独自の道を進む模索を始めたと言って良い状況だ。

マクラーティ首席補佐官が、続ける。

「保守派はフィリピンに楔を打ち込んで、対抗しようとしている。 革新派―――民主党も合衆国経済に関する戦略は、実は保守派とは大差が無い、反対はしないだろう。
それに安保復活も、民主党を中心に革新派からも疑問の声が出ている。 元々は連中の支持基盤、特に中流家庭の主婦層から疑問の声が上がったものだからな」

「フィリピンはCOSEAN(大東亜連合)に参加していないが、あの地域では今やインドネシアに次ぐ経済大国に成りおおせた。 確かに揺さぶりを掛けるには、良い選択だ。
日本への再派兵は、保守、革新、双方とも反対のスタンスだ、兵站支援だけで良いとな。 ただし革新派は支持基盤のマイノリティーの中の、東アジア系の連中へのポーズは必要だ」

「国連軍枠内での、再派兵か?」

レイカー国家安全保障担当補佐官の話に、マクラーティ首席補佐官が確認する様に聞く。 レイカー補佐官は肯定の意を示し、革新派の考えを披露する。

「そうだ、無論のこと、指揮権は合衆国が握る。 だが最前線には部隊配備されない」

最前線で血を流すのは、日本帝国軍。 そしてそれに同調する他のアジア諸国軍。 合衆国軍は戦略予備主力として、『最後の果実』を手に入れる。

「それが落し所か。 支持率は8月までの急降下から一転、10月以降は回復傾向にある。 世論に対して、連邦政府は『対日甘やかし』だけでは無い事を示した結果だ」

「実際、国防総省内からも撤退論が噴き上がっていた。 国際協定を無視した命令違反、安保理軍事参謀委員会の戦略決定を覆す作戦行動。
お陰で我々は歴戦の第2、第25師団を事実上失った。 第2師団は損失65%、第25師団は48%、再建に時間がかかる、予算も、人的にも。
第3海兵師団も、かなりの損害を被った。 合衆国の母親たちは声を大にして叫んでいる、『息子を、娘を返して! エンペラーとショーグンに、返してと言って頂戴!』とな」

「朝鮮半島からの分を含めれば、損失は遥かに上回る。 我々は第1軍団を始め、多くの将兵を失った。
バークス(国連軍派遣第11方面軍司令官、大将)、ガードナー(米第1軍団長、中将)始め、多くの将星をも失った。
国内の厭戦気分の高まりは、そろそろ無視出来ないレベルになっている。 古臭いモンロー主義者も、外面の良い革新派も、正直その事では打開策を見出せていない」

レオン・エドワード・マクラーティとアンソニー・レイカーが思考の袋小路に入りかけたその時、オフィスのドアをノックする音がした。
職員が新たな来客を告げる。 非公式に呼び出していた相手が数人―――いずれも合衆国の最高決定を裏付ける政策、その担当官達だった。

「やあ、遅くなって申し訳ない。 なにせこの雪でね、車が往生して大変だったよ」

「こっちは国連軍事参謀本部の馬鹿共の、際限無いおねだりを宥めるのに苦労した。 合衆国軍は巨大だが、無尽蔵では無い事を理解しない輩の相手は苦労する」

入室して来た男達は5人。 国務省政治担当国務次官のエリオット・リチャードソン。 その部下で、東アジア・太平洋担当国務次官補のクリスティアン・アーチボルド・ハンター。
同じく国務省の軍備管理・国際安全保障担当国務次官である、ウィリアム・フィリップス。そして国防総省政策担当国防次官のノーマン・デイヴィスに、取得・技術・兵站担当国防次官のロバート・オーエン。

国務省に国防総省。 国務省は他国の外務省に相当するから、合衆国の外交・国防政策の実務最高責任者たちが、一堂に集った事になる。
ようやく揃ったメンバーを見渡し、この場の議長役である首席補佐官のマクラーティが口火を切った。

「ジェントルメン、お聞き及びと思うが、日本が国連にヨコハマ・ハイヴ攻略を提議した。 そして恐らくこれは、早々に承認されるだろう」

「戦術作戦としては妥当だな。 ヨコハマ・ハイヴはまだフェイズ2だ、若いハイヴのうちに叩いてしまおうと言うのは、戦術的に見ておかしくは無い」

マクラーティの声に、デイヴィス国防次官が答える。 その声に皆が頷く。 その様な事はここに居る男達は周知の事だ。
問題はその次だ。 合衆国国連大使―――ハリルッラー・ハリルザイードからの報告では、どうやら日本はその作戦を合衆国抜きで、そうロビー活動していると言う。
合衆国に存在する複数の勢力から見れば、ある意味願ったりの事態ではある。 どの道ハイヴ攻略作戦となると、アジアやオセアニア連中だけでは兵站は確保出来ない。
最終的には国連を通じ、合衆国に泣きついて来るだろう。 ならば精々高値で―――有償の兵站援助は、やぶさかではない。
あるいはアジア諸地域にルーツを持つ、マイノリティー市民層への支持を必要とする勢力は戦略予備としてでも再派兵を、そう言うかもしれない。
その時は、日本を始めとしたアジア諸国への『配慮』を考えて、戦略予備部隊として後方に引き籠るのも手だ。 わざわざ血を流す必要は無い。

「日本国内では、特に軍部内の民族主義者(国粋派)と、民間の民族主義者層で、合衆国に対する反発が増大しています。
他には歴史的伝統主義者層―――日本の貴族社会全般でも。 BETA侵攻による被災難民の間からも、似た声が。 こちらは、日本政府への不満の方が大きい様ですが」

東アジア・太平洋担当のハンター国務次官補が、日本帝国内の調査状況を告げる。 
他には日本の革新派政党―――民政党が議会で、与党と論戦を張っているらしい。

「ジェファーソン(トーマス・ジェファーソン統合参謀本部議長、陸軍元帥)が苦虫を潰している。 朝鮮半島に続き、今回も派遣3個師団を日本に潰されたと。
国防省内では極東防衛プランの見直しも、別プロジェクトで進行中だ。 ただしこれはメインでは無い、万が一の保険だがね」

「ノーマン、それは例の連中への牽制の為の、ブラフだったのではないか?」

「エリオット、もうブラフのレベルでは済まないよ」

デイヴィス国防次官の言葉に、リチャードソン国務次官が首を傾げるが、デイヴィス国防次官は苦笑と共に否定した。
合衆国内外の状況が要求しているのだった、日本を『放棄』するオプションの正式検討でさえも。 それは合衆国内のとある勢力に対しての、ブラフで有った筈なのだが。

「基本的には、日本は極東防衛戦略上、絶対に必要となる存在だ。 本来なら重点的にテコ入れする必要がある」

レイカー国家安全保障担当補佐官が、周りを見渡しながらゆっくりと、確かめるように言う。

「しかしながら、国内外の幾つかのファクターが要因となり、それも難しい状況となりつつある。 あまつさえ、日本は独自路線を展開しつつある状況だ。
そして今回の『合衆国抜き』でのハイヴ攻略作戦。 我々はこの状況に、どの様なプランを持って当たるべきか?」

合衆国国内世論は、派兵反対に傾いている。 政治の世界でも、伝統的保守勢力は反対、革新勢力も条件付き反対。
積極派兵を唱えているのは、『新保守主義』―――ネオコン勢力のみ。 しかしこの勢力は、連邦政府内で日増しに力を延ばしてきている。

「しかしここで、『かつての同盟国』をまるきり見離せば、今後は非常にやり難くなる事は確実だ」

リチャードソン国務次官が、苦虫を潰したように言う。 合衆国外交政策を担当する彼にとって、それは自分で自分の首を絞めるに等しい。
合衆国は保守・革新共に国益上必要とあらば、他国を無視した武力介入を是とする。 そこに保守・革新の差異は無い。
だが今回に至っては、強行的武力介入―――ヨコハマ・ハイヴ攻略戦への兵力派兵―――は、国内世論の支持は取り付けられないだろう。 支持率が地に落ちる。
大企業・軍需産業を支持基盤とする共和党は、兵站支援のみに止めるべき、そう言う論法だし、中産階級を中心に支持を集める民主党は、条件付き派兵のみ支持している。
但しそうなれば最後、アジア・オセアニアブロックは日本を見習い、一気に合衆国離れが加速する危険性が大きい。
新保守主義層―――ネオコンはそうした流れを、合衆国的自由主義の後退、危機としてアピールに利用し、盛んに影響力の回復を唱え始めている。

「どこかで、合衆国の力を示す必要は、確かに有るな」

「しかし通常兵力の派兵は難しい。 残るは・・・核か、それともあの『新兵器』しかないが?」

マクラーティ大統領首席補佐官の声に、デイヴィス国防次官が疑問を呈する。 残されたオプションはまさに『禁断の箱』だ。
2人の会話に、それまで無言だった国務省軍備管理・国際安全保障担当国務次官のウィリアム・フィリップが静かに挙手して話し始めた。

「あの『新兵器』は、そう簡単に使用する事は反対だ。 仮にハイヴの攻略に成功したとしよう、真っ先にハイヴ内に突入出来る軍は、どこだ? 
合衆国軍か? 違う、日本帝国軍であり、大東亜連合軍だ。 或いはあの雌狐の息のかかった国連軍の私兵共だ。 
諸君、まさか忘れてはおるまい? 日本にはオルタネイティヴ第4計画が存在する。 G元素を確実に確保出来る保障は、その作戦では保証の限りでは無いのだ」

「・・・作戦が失敗すれば、極東の要衝が確実に陥落するぞ?」

「何億リットルでも構わん、連中に血を流させ続けるのだ。 通常戦力でのフェイズ2ハイヴ攻略―――その名誉は呉れてやればよい。
あの『新兵器』の威力は隠匿したままで、合衆国軍はまっしぐらに『アトリエ』に突入し、G元素を確保するのだ」

広域・大量破壊兵器不拡散政策を担当する、フィリップ国務次官ならではの発言だった。
同時に第4計画に対する不信感―――合衆国内に根強い、ファンタジーと現実とを区別すべき、と言う考えからでもある。

「しかし今回、通常戦力での攻略の保証は一切ない。 むしろ失敗する確率は非常に高いと、国防総省では考えておる」

デイヴィス国防次官が憂慮を示す。 なにしろ未だかつて、ハイヴ攻略に成功した例は無いのだから。
そして合衆国では、今回の攻略作戦は失敗する、そう言う意見が多数を占めていた。 それに従い、深刻な問題も表面化しているのだ。

「ネオコン(新保守主義者)共が、『新兵器』の積極使用を唱え始めている。 兵力損失の低減、『合衆国の力』を示すパフォーマンス、対日介入の為のブラフとしても。
連中、最近はロスアラモス(ロスアラモス国立研究所。 世界最大・最高の研究機関であり、G元素研究の最先端)に頻りに接触している。
それだけではない、ローレンス・リバモア国立研究所にサンディア国立研究所、複雑適応系研究のサンタフェ研究所にまで」

「裏を取っているのか? 確かに公表成果以上の研究結果は出ている。 ロスアラモスのアクロイド博士のチームは、G元素臨界後の重力多重乱数指向の制御理論を確立させた。
ローレンス・リバモア国立研究所に、サンディア国立研究所と共同でな。 サンタフェ研究所は、G元素臨界後の複雑適応系研究を進めている」

「連中、本気で日本でG弾の実戦投入実験をやる気らしい。 一般公開情報と機密情報、その差異の確認も含めて」

「一度見せたカードは、ブラフにはならんぞ? 一応のデータは『モーフィアス実験』で得られている筈だ」

「連中の情報アクセスレベルは、その結果を見る事が出来ないレベルだよ。 どこまで本気でG弾によるハイヴ攻略を考えているか、判らん。
寧ろ、日本国内の反米分子の炙り出しと煽動に使おうとしている、そんな気がする。 連中、日本の軍需企業寄り政治家連中と、接触を持ち始めたようだ」

「CIA情報か?」

「他にどこが? CIAが経済情報に傾倒して久しい、今や国家介入工作は、DIA(米国防情報局)がかなり侵食している。 そして残念ながら、DIA副長官はネオコン寄りだ」

ノーマン・デイヴィス国防次官が、自嘲気味に笑う。

結論は出なかった。 もっともこの場で結論が出るレベルの話では無い、言ってみればホワイトハウスのリアリスト達の、現状確認の会合だった。
やはり現状では、条件付き派兵が妥当だろうか? その方向で政府・与党を調整し、議会対策の為に野党の望む方向性も、少しは考慮すべきだろうか。
『新兵器』―――G弾の投入は、最後の、そして最悪の事態での最終カードだ。 やはり簡単に切れるカードでは無い。


7人の男達は、そう認識して深夜の会合を締め括った。 これから国内外対策に、国連ロビー対策―――合衆国軍を捻じ込む仕事が残っているのだ。










1998年12月16日 日本帝国 仙台第2帝都 仙台新港


港にはひっきりなしに、様々な船が入港している。 コンテナ船、タンカーを始め、様々な船が、様々な物資を帝国に送り込み、そして送り出してゆく。
『仙台新港』、あるいは『新港』と称される仙台塩釜港。 メインは当然仙台区であって、塩釜区は元々は取り残された、さびれた港だった。
だが皮肉にも、戦火が塩釜港に活気を取り戻していた。 主に軍需物資の荷揚げ港として―――今の帝国には、無限に必要とされる最重要の戦略物資だ。

その港の一角、帝国軍の巨大な倉庫群が立ち並ぶ外れに、帝国陸軍も仙台需品支廠・塩釜支所が、意外に慎ましく存在している。
主役は軍需物資で有り、その主役を収める倉庫群が重要なので有り、軍の施設としての支所建物は、必要最低限で有ればいい。 誰かがそう考えたのだろう。

船上から埠頭へ、巨大なクレーンで荷揚げされる無数のコンテナ。 それを次々に運び出す車輌群。 巨大な倉庫は、膨大な量の物資を飲み込んで行く。
その様を、書類仕事(の、補助)をしながら支所の窓から見ていた兵隊―――まだ若い1等兵だった―――が、声を弾ませて言った。

「凄いですね、こんなにたくさんの軍需物資・・・ これだけあれば、帝国はまだまだ戦える・・・」

若い兵にはそう映るのだろう(実戦を経験した古参・中堅は別の見解を抱くだろう)、そして10代後半に入ったばかりに見えるその兵の呟きを、傍らの上級兵が聞き止めた。
その上級兵は、何やら書類に記入していたその手を止めて、若い兵を向いて半ばせせら笑うように、半ば悲観する様に、同じく窓の方を向いて、つまらなさそうに言った。

「うるせえ、サボるな、手を止めるな、馬鹿野郎が―――『これだけあれば』? 馬鹿、全然足りねえよ」

上級兵の言い草に、内心カチンと来た若い兵が、表情に出さず(いや、実際、顔に出ている)言い返した。

「それは・・・ 確かにこの港だけじゃ、足りないかもしれませんが。 しかし兵長殿、こんな港は東北や北海道には、まだまだ沢山ありますよ。
それを全部併せれば・・・ それにまだ、北関東の港は生きていますし、名古屋港も健在で、大阪港もまだ、南半分は生きていますよ」

「うるせえ、馬鹿。 お前、その今言った港の港湾能力がよ、かつての東京湾一帯の何分の一か、知ってんのか?
それに名古屋や、大阪の生き残りの港に陸揚げされた物資は、こっちには届かねえ。 向うの軍管区で必要な分しか、荷揚げされねえよ」

「それは、そうですが・・・」

悔しそうに、若い1等兵が言い募る。 彼はそこに、一筋の光を見出した思いだったのだ。 息苦しい国内情勢。 恐ろしいBETAの脅威。
家族は今、どこで難民生活を強いられているのだろうか? そんな内心の負の感情を、目前の光景は一時であれ、光の様に見せてくれたのだ。
それを否定されたように感じたのだ、上級兵に対して反抗的な表情になってしまったのは、そうした無意識からだった。
それを知ってか知らずか、上級兵―――兵の中の最古参でも有る陸軍兵長が、先程までの表情を消して、無機質な声で呟いた。

「お前よ・・・ 阪神から京都を防衛する戦いでな、一体どれだけの兵站物資が消費されたか、知ってるか?」

「・・・え?」

「弾薬だけでもな、帝国陸軍の総備蓄量の45%を消費したんだぞ? あの時の中部軍集団が、陸軍全兵力の43%を占める、23個師団も集まっていたとしてもだよ。
元々、中部軍集団の備蓄だけじゃ、全然追いつかなかったんだ。 ここからも大量の備蓄が送り出されたんだ、九州を入れたら優に、60%以上を消費したんだぜ?」

「そんなに・・・」

「そう、そんなにだ。 でも、それでもクソッたれなBETA共を追い出す事は出来なかった、このざまだ」

そう言って兵長は苦々しげに、1等兵は茫然とした表情で、無言で港湾を眺める。 そして2人の内心は同時に同じ事を叫んでいた―――もっと、もっと、物資を!

そして、静かに部屋に入って来た上官の気配に、2人とも気がつかなかった。

「おい、貴様ら。 儂の目の前でサボるとは、良い度胸だな」

低く太いその声に、2人の兵がまるで地獄の閻魔にでも出会ったかのように飛び上がり、最敬礼をする。
この部屋のヌシ―――最古参の陸軍下士官であり、兵にとっての『大佐』でもある曹長が入って来たのだから。
緊張した面持ちで敬礼に姿勢を続ける若い2人の兵に、最初は強面で睨みつけ、それからぞんざいな様子で手を振って、座れと告げる。
自席に座った曹長が、顔を強張らせた部下、特に年若い1等兵を見て何やら関心が湧いたのか、その曹長はどうしたのか聞いてきた。
最初は言い辛そうだった1等兵だが、チラッとみた兵長が目線で『言え! 何か話せ!』と言っている様にも見えたので、正直に話す事にした。
1等兵が話している間、茶を啜りながら黙って聞いていた曹長だったが、聞き終わると軽く溜息をつきながら、2人の部下を見据えて言った。

「・・・まあ、確かにな。 これまでの兵站物資の消費量は、半端な量では無い。 弾薬だけでも陸軍は、総備蓄量の60%以上は吐き出しておる。
この調子で消費し続ければ、来年の春先まで保たんわ。 前線戦力が枯渇する前に、兵站が枯渇する。 人や兵器が有っても、弾薬や燃料が無い」

その言葉に、若い1等兵が蒼白になる。 兵長も、自分よりも、より内実に詳しい曹長の言葉に、表情を強張らせている。
九州、山陰・山陽、そして阪神間の防衛戦に京都防衛戦。 帝国軍は力戦を重ねたが、徐々に後退して今は北関東・東北南部のラインと、西関東を死守するラインに押し込まれた。
九州南部と四国・近畿南部に至っては、もはや遊兵化しており状況だ。 それでもそこでの生産力を当てにせねばならない。 何とも歯痒い現実だ。

だが、それ以上に痛手なのは兵站物資の消耗、或いは損失だった。 BETAに冒された地域には多くの重工業地帯が有り、兵站物資の生産と集散場所でもあったのだ。
そして今、それがボディーブローの様に帝国を痛めつけている。 特に底が見え始めた兵站物資を遣り繰りしつつ、膨大な消費量を再現している西関東防衛線の存在が重荷だった。

「・・・心配するな、帝国は軍需企業の生産工場を、数年も前から海外に多数、移しておる。 そこでは日々、膨大な量の兵站物資が生産されておる。
それに同盟国・・・ 大東亜連合からも、大量の兵站物資が日々届き始めておるわ。 今までは帝国が、向うを支援して来た。 今度は向うが支援してくれよる。
おい、貴様ら。 戦っているのは儂らだけじゃないぞ。 海の向こうにも、一緒になって戦ってくれよる仲間が大勢おる」

その言葉に、若い1等兵は顔を綻ばせ、兵長も表面上は少し笑みを浮かべた。


やがて、所用を申しつけられた1等兵が、やや遠い場所の倉庫まで伝令に出て言ったのを見て、兵長が上官に改まって聞く。

「・・・曹長殿、あの噂は本当で有りましょうか?」

「どんな噂だ?」

曹長の態度は、変わらず動じない。 兵長は無意識に周囲を見渡し、他に誰も居ない事を確認してから、意を決して聞き始めた。

「・・・この、大量の兵站物資の出所です。 いくら帝国が海外に生産拠点を移していたとしても、これだけの量は生産できない筈だと。
それに大東亜連合からの支援が有ったとしても、連中だって最前線国家だ。 自分達の戦場で消費する量は、半端じゃありゃしません」

「何を言いたいんだ? 貴様は?」

「・・・噂が飛び交っています、『兵站物資の過半数は、メイド・イン・U.S.Aだ』と。 ラベルは『COSEAN(Consolidation of South-East Asian Nation:大東亜連合)』ですが。
中には大東亜連合じゃ、ほとんど生産量の無い物資も有ります。 もっぱら米国が主な生産国である物資まで、メイド・イン・COSEANじゃ、誰だって疑いますよ・・・」

言い終わり、疑わしげな視線を上官に向ける。 相変わらず表情も変えず、茶を啜っていた曹長が湯呑茶碗を机に置いて、少し渋い表情を見せる。
その表情を見た兵長は、これは少し突っ込んで言い過ぎたか? そう内心で恐怖した。 何せ話題が際どい、しかも相手は兵にとっては『神様』の曹長だ。

「まあ、なんだ・・・ おい、貴様。 確か今度、下候(下士官候補生課程)に行くのだったな?」

「は? はあ・・・ そうであります」

―――いったい、それとこれと、何の関係が有るんだ?

思わずそう疑問に思ったが、口にはしなかった。 
軍に入隊して以来、事ある毎に叩き込まれた服従精神。 特に兵にとって下士官は『絶対的』な存在だったから。

「あ~、うん、じゃあ、これから話す事は何だ。 貴様もこれから先、身に付けておくべき『分別』ってヤツの、良い実例だ、話してやろう」

―――分別? 一体何の事だ?

「薄々判っておるようだが、ありゃ、COSEAN製じゃない、帝国製は正真正銘だがな。COSEANと銘打っておる兵站物資は、実は9割方が米国からの兵站物資だ」

―――やっぱり!

兵長は疑問が氷解すると同時に、内心に激しい憎悪が生じるのを自覚した。 彼の同年兵の多く―――共に徴兵されたかつての学友も、多くが戦死していた。
その中のかなりの数が、昨年の米国による一方的な日米安保破棄、それに伴う在日米軍の総撤退によって生じた兵力の空白故に、戦線に穴が空き、少なからぬ部隊が消えて死んだ。
仲の良かった、かつてのクラスメイトでも有った同年兵も、そんな状況下で戦死している。 思わず目前が暗く霞んでいる事に、気付くのには少し時間がかかった。

「そっ・・・ それではっ! 帝国は、裏切り者のお情けを受けていると言うのは、本当だったのでありますか!? 曹長殿!」

「声がでかい・・・ それにお情けかどうか、貴様、いっぺん最前線で戦っている連中に聞いてみろ、連中が何て言うか」

「曹長殿・・・!?」

激昂する若い部下を宥める様に、そして叱責の形をとって、曹長が言い聞かすように続ける。

「帝国製だろうが、COSEAN製だろうが、米国製だろうが、BETAに叩き込んであのクソ共を葬ってやれれば、どこのでも一緒だ―――連中はそう言うだろうよ。
特に古参の連中、91年や92年あたりから戦っている様な、悪運も極まるような古参連中なら、特にな。 連中にとっちゃ、主義主張より武器弾薬だ、それでしかBETAは倒せない」

気勢を削がれた様に黙りこむ部下を横目に、まるで昔話をする様に曹長の話が続く。

「儂は91年から大陸派遣軍に居った。 兵站屋だから、直接戦闘に参加した事は殆どないがな、それでも最前線に補給物資を届ける任務は、嫌って程やったもんだ。
その最中に、群れからはぐれた小型種BETAと遭遇した事は、2度や3度じゃきかんよ。 軽機や軽迫、自動小銃を撃ちまくり、手榴弾さえ投げて殺りあったもんだ」

補給・輸送部隊が装備する火器など、最大でも車載機銃程度だ。 兵士級や闘士級BETAなら良い勝負だが、戦車級BETAが出てくれば、後は神か仏に祈るしか手は無い。
それをこの曹長は、何度も経験したと言う。 巌の様な顔に、苔むしたかの様な表情を張り付けた、如何にも古参下士官然とした外見は、伊達では無いと言う事か。

「補給コンテナをな、衛星軌道からばら撒くと言うがな、ありゃ、実は非常に拙いやり方だ」

「・・・何故でしょうか? 帝国も、各国軍も、常套手段として使っておりますが?」

急に話が飛んで、兵長は正直付いて行くのがやっとだった。 確か自分は、帝国に入ってくる兵站物資の話をしていたのではなかったか?
そんな兵長の困惑をよそに、曹長は話を続ける。 因みにこの曹長が昔話を始めると長い、と言うのは周囲の定評である。

「コンテナを宇宙に上げて、それを降下ポイントまで運んで・・・ 宇宙屋の船に、一体どれだけのペイロードが有ると思う? 一体どれだけの補給量が必要だ?
1隻あたりで10万ポンド(約45トン)程度か、大型でも15万ポンド(約68トン)程度だ、戦術機を2機、カプセルに収める程度だな。 それを通常で20隻程運用しとる」

では最大で300万ポンド、降下中の消耗を2割と計算しても、240万ポンド(約1万トン)は投下出来る事になる。 大した量だと思うのだが、上官の見解は違った。

「コストが合わんわ。 宇宙船1隻辺りの運用コストはどれほどになるものか・・・ 大規模作戦の度に、コスト度外視して運用する度に、大赤字なんだよ。
表向きはな、補給部隊を地上展開させるリスクとコスト面、双方を考慮すれば、そっちの方が良いとか言っているがな、実は逆よ」

コストとは何も、宇宙船(この場合、輸送シャトルか?)の建造コストだけでは無い。 
それを運用可能たらしめる各種支援施設、そちらの方が馬鹿にならない。 まさに天文学的コストだ。

「大陸でも半島でも、補給作戦の大半は貨物輸送と車輌補給でやったもんだ。 貨物輸送のコンテナ1個の積載量を知っておるか? 
大体で約20トン強だ、コンテナ車輌1両で2個運ぶ、それを普通は30輌程度で編成する。 大きな作戦だと、それを1日で80本は運用する、兵站物資は約9万6000トン。
大体、30日以上は兵站作戦に費やすからな、補給物資は約288万トン。 1日当たりの1個軍団への弾薬補給量だけで、最低でも1万トン以上だ」

説明される数字に、頭がくらくらする。 兵站部に勤務する兵長だが、こう言った専門的な数字は、下士官教育を受けない限り実際にはタッチしないものだ。
改めて戦場が、戦争が膨大な物資の消費の場だと実感する。 1日1万トン、一体どれ程の数になるのだろう? 想像がつかない。

「コンテナ車輌だと大型のトレーラー車輌で6万6000ポンド(約30トン弱) 中型トラックで4万ポンド(約20トン弱)だ。
20隻の宇宙屋が衛星軌道から投下する補給コンテナ、それを400輌から500輌でカヴァー出来る。 軍兵站部の補給部隊が保有するトラックの数、知っとるか?」

「・・・確か、軍兵站部の所属で、400輌程です」

シャトル20隻の建造・運用コストと、輸送トレーラー・トラック400~500輌の調達コストと運用コスト。 どちらが安いかは自明の理だ。

「そうだ。 これがアメちゃんだと800から900輌にもなる、我々の倍以上だ。 これで帝国軍は1日当たり8000トンから最大で1万2000トンの物資を、前線に運ぶ。
米軍は1日当たりで、2万トン前後が平均的な補給輸送量だ。 当然、最前線の戦闘戦域予定の場所にまで、ばら撒きに行く。 おい、一体何隻の宇宙屋が必要だ?」

答えに詰まる。 計算できない訳ではない、そんな計算は小学生にだって出来る。 20隻の宇宙船で投下する補給量は、約1万トン。
前線で必要とされる補給物資は、弾薬だけでも軍団規模で1日当たり1万トン、宇宙船が毎日20隻必要だ。 そしてそんな運用は、米国航空宇宙軍でさえ無理だ。
1個戦術機甲師団、または1個機甲師団が本格的な対BETA戦闘で消費する、或いは必要とする弾薬量は、約3500トンとされる。
3個師団から成る1個軍団では、1日で約1万トンの弾薬が消費される計算だ。 確かに衛星軌道からの投下分だけでは、特に長期戦では腹の足しにもなりはしない。

「・・・それは、良く判りました。 ですがその話が、一体どう・・・?」

「ま、最後まで聞け。 大陸の戦場じゃあな、アメちゃんは戦闘部隊の派遣は少数だったがな、兵站部隊はごっそり派遣しておったんだ。 半島にもな。
半島には最後は戦闘部隊も、精鋭部隊をごっそり派遣しおったが、実は98年初頭まで保ったのは、実に米軍の兵站支援に負うところが大きい、非常に大きい」

内心にどす黒い憎悪を有する兵長にとって、その言葉は耳に障る言葉であったが、上官の話の腰を折る事は出来ず、聞き続けるしかなかった。

「何万ものBETAの大群をな、押し止めるには何と言ってもこっちも物量だ。 それこそ連日、集中豪雨の様な面制圧砲撃を続ける事だ。 それを可能にする兵站支援だ。
だがな、当時の大陸派遣軍にゃ、そんな兵站能力は有りはせんかった。 自分の口を養う程度には、帝国軍の兵站組織も有能だ。 しかし『おまけ』の面倒は厳しい」

「・・・『おまけ』?」

「中国軍に、韓国軍よ。 中国軍はもう、当時には兵站が崩壊しておった。 韓国軍はな、ありゃあ、正面戦力は熱心に整備しとったが、兵站能力はお粗末な限りだった。
お陰さまで当時の大陸派遣軍は、言ってみれば安月給で大喰らいの養い子を2人抱えた、勤め人みたいなものよ。 『働ケド、働ケド、我ガ暮シ楽ニナラザリ、ジット手ヲ見ル』だな?」

その昔の、若くして病に夭折した詩人の一節を引用した、曹長の茶化した最後の言葉が少し癪に障ったが、当時を知る古参兵たちからは散々聞かされた事だ。
自身も新兵当時は、半島の戦いに参加していた、もっぱら補給作戦だったが。 だから曹長の言いたい事は、判るつもりだ。

「そんな中でな、いよいよBETAの大規模侵攻が始まるって時にな、アメちゃんの大規模コンボイが延々、列を為して現れた時は嬉しかったもんよ。
ああ、これで戦える。 これで無駄死にせずに済む、ってな。 ある衛士なんぞ、感極まって泣き出した奴さえいた。 それほど前線で補給が途切れる事は、恐ろしかった」

想像だが、何となく曹長の言いたい事が判って来た気がする。 今の帝国は、帝国内の各戦線は、まさにその『貧乏ヒマ無し』ばかりなのだ。

「さっきも言ったがな、帝国の国内外の生産量は壊滅って訳じゃないが、かなり落ち込んでいる。 海外の工場プラント群が本格稼働するには、まだ数年かかる。
そして軍の兵站総備蓄量は、もう危険なレベルまで落ち込んでいるんだ。 俺は補給廠本廠勤務の、同年兵のヤツに聞いたのだがな。
このままじゃ、本当に春まで保たない。 帝国はBETAに滅ぼされるんじゃない、餓死して滅びる羽目になっちまうんだ・・・」


所用で部屋を出て言った曹長の言葉を、頭の中で反芻する。 幸い、部下の1等兵はまだ帰ってこない。 兵長は思う存分、内心の葛藤と言う贅沢を味わっていた。
米軍は憎らしい。 米国は大嫌いだ。 だけど連中の兵站物資は、喉から手が出るほど欲しい。 『武士は食わねど、高楊枝』? 国が滅んでは、元も子も無い。

(・・・畜生。 だけどどうして、アメリカは帝国にこっそり兵站支援をしているんだ? 安保破棄、在日米軍総撤退までやらかした連中が、どうして?)


―――答えは見つからなかった。










1998年12月19日 日本帝国 福島県 帝国陸軍水原演習場 臨時管制塔


「・・・酷いな。 満足な動きは、まるで出来ていない」

目前のログを見つつ、司令部第3部訓練参謀で、統裁官を務める周防直衛大尉が呟く。 その声に訓練管制官を務めるCP将校の江上聡子大尉が、上唇を噛み、表情を曇らせた。
現在、第1大隊が戦闘機動訓練中だった。 第18師団第181戦術機動連隊の中では、最も練度が高いと言われる第1大隊。
しかしその大隊の結果ログは、訓練参謀の満足を得る程までには至っていない。 第1大隊でこうだ、第2、第3大隊は推して然るべし。

「・・・実弾訓練が、まともに出来ません。 推進剤も制限される状況で、シュミレーターも3個大隊でローテーションを組んで使用する有様です。
周防さん、そんな状況で練度は上がりません。 何とか訓練資材の追加は出来ないのですか? せめて、シュミレーターの追加配備だけでも・・・」

「済まんが江上、そっちは俺の範囲外だ。 兵站(司令部第4部兵站課)の長岡さん(長岡文親大尉)辺りに言ってくれないか?」

「だったら、あからさまに落胆の声なんか、上げないで下さい! こっちだって限られた資材と制約された方法の中で、最大限の努力をしているんです!」

そっけない周防大尉の言葉に、流石に江上大尉も声を荒げかける。 様々に制限を掛け、制約を課しているのは第3部と第4部ではないか!
それでいて、部隊がその制限下で苦労して少しでも練度を上げようとしているその結果を、バッサリと切り捨てるかのように!

(・・・この人だって、少し前までは戦術機甲中隊の指揮官だったのに!)

江上大尉としては、まるで周防大尉に『裏切られた』様な気分になった。 少し前までは同じく労苦を共にした戦術機中隊指揮官だった周防大尉だ。
何と言っても、この夏に生起したBETAの本土侵攻。 その中で阪神間を防衛する戦闘から、京都防衛戦にかけて死戦を戦い、奮戦した人だったのに!

「戦技基準で、B-からBが大半か。 限定戦闘しか、任せられん。 江上、評価報告は纏めて後で宇賀神中佐に渡す。
今夜中に確認して、明日の午前中には提出して欲しいと伝えてくれ。 それと、伝言。 『限界は有り、されど訓練に上限無し』、以上だ」

「・・・周防さん!」

江上大尉の恨みがましげな声を背中で聞き流し、周防大尉は管制塔を出て言った。 途中ですれ違う要員から敬礼を受け、答礼を返しつつ次第に表情が険しくなってゆく。
彼自身、実働部隊への様々な制約は理解している。 その中で最大限努力している事も。 だが、それだけでは足りないのだ。

(・・・精神論は、最低の手法だけどな。 それでも、そう言わざるを得ない程には、切羽詰まってきたか)

部隊側が気付いていない所も、少しは見えた。 せめてその点を指摘しておこう、宇賀神中佐や、同期の神楽大尉ならば即座に修正を入れるだろう。
ああ、そうだ。 どうせならば第2、第3大隊へも流しておこう。 第2の荒蒔少佐は以前の上官だし、第3の木伏少佐は自分が新米の頃からの付き合いだ。
2人の大隊長は、第1大隊の結果を見れば、自分の指揮大隊へどう言う修正を加えればいいか、即座に理解するだろう。 理解出来て然るべきだ。
隣接する14師団の状況も確認するべきか? 向うはどんな事をしている?―――14師団の訓練参謀は、同期の親友である長門大尉だ。 今夜あたり、探ってみるか。

演習場の空が、茜色に染まりつつある。 雪が積もった山々の陰影が濃い、日本に残された、少なくなった自然の風景。 残したい故国の風景。 守りたいもの。 

(・・・米軍が安保を破棄して以来、何もかもこの調子だ。 帝国単独では、到底国土を守り切れない。 大陸でも、欧州戦線でもそれは証明されている)

なのに、最近とみに声を大にして叫び出した、反米感情の嵐。 感情だけで結果が出せるものか、マキャベリズムは感情とは対極にある。
利用できるモノは、例え虫が好かない相手であっても、徹底的に利用する。 国を、国土を、国民を―――命を守ると言う事は、そう言う事だ。

(まあ、今の不自然な程の兵站物資の『充実』振りからすると、上の方は案外、裏で手を組んでいる・・・ いや、まだ綱は切っていないかもしれないけどな)

比較的、国外を知る周防大尉は、そう検討を付けている。 国家間に友誼など無い、あるのは国益だけ。 その損得のさじ加減で、敵にも味方にもなる。
ならば『表向き』安保を一方的に破棄した相手であっても、腹芸の一つ出来ない様では、国家運営は無理だ。 多分、イリーガルな連中を動かしているのだろう。
寧ろ遅かった位だ、そう思う。 今頃、かつて学んだN.Y.の街では、デモのひとつやふたつ、起こっているのではなかろうか?

いずれにせよ、当面は有力な友軍は見込めない。 大東亜連合や統一中華戦線も、帝国と同じく最前線国家だ。 余力など有りはしない。
だとすれば、今の自分がすべきことは・・・ 例えかつての上官・同僚の面子を潰す事になったとしても、その結果として部隊練度が向上するなら、そうすべきだ。
それが国と国民を守り、愛する人々を守り、そして自分達が生き抜く事の最短距離に繋がるのだから。 なら、恨み事のふたつ、みっつは甘受しよう。 それが仕事だ。


(・・・米国は、ヒュドラだ。 どの頭が舵を握っているのか、どの頭と組むべきか、そこを見誤ると、大変な事になる)

せめて、その辺を間違えないでくれよ・・・ 周防大尉は無意識に仙台の方向を向いて、嘆息していた。






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