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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/30 00:48
1998年8月14日 2215 大阪府高槻市北部


≪CP、フラガラッハ・マムよりフラガラッハ・リーダー! 第7軍団より緊急信! 対岸のBETA群から約3000が枚方付近で淀川を渡河、そのまま北西の進路をとっています!≫

≪ライトニング・マムよりライトニング・リーダー! BETA群、約9800に増加! 突撃級約900! 要撃級約1500! 南東方向、4km先です! 光線級はいません!≫

中隊CPを務める渡会と、大隊CPを務める富永大尉の報告は、極めつけの悪報だった。 
旅団規模のBETA群でさえ持て余すと言うのに、更に3000とは。 これでBETAは約9800、もう師団規模に達した。
目前の戦車級の小集団に向けて120mmキャニスター弾を叩き込み、霧散させたと同時に戦術MAPを確認する―――本当だ、南東方向が真っ赤に染まっている、クソ!

『ライトニング・リーダーより各中隊、まずは目前のBETA共、1100を叩き潰す! 突撃級100、要撃級160、大物は約360体! 第1大隊で潰す! 
第2大隊、第3大隊、小さい連中を掃討してくれ。 海軍部隊、賀陽中佐、後続の1800への陽動をお願い出来ますか!?』

『了解した、宇賀神少佐。 すこしでも長く足止めしよう、その間に1100、殲滅してくれ。  宮野君、君の第215は右翼から牽制してくれ、私の部隊は左翼から行く』

『了解です、中佐。 宇賀神少佐、森宮少佐、黒河内少佐、15分以内に殲滅してくれ。 どうやら東からの3900、速度を上げた様だ』

海軍第215戦術機甲隊長の宮野少佐の声に、もう一度戦術MAPを確認する。 各種データを読み取る、本当だ、移動速度を上げやがった。
自機の残弾数確認―――右、36mmが1350発、120mmが3発。 左、36mmが1415発、120mmは4発。 背部兵装ラックに予備突撃砲が1門、長刀1振。
予備弾倉は36mm弾倉が3本、120mm弾倉が1本。 流石に心もとなくなってきた。 補給をしたいが、その前に目前のBETAを片付けなければその余裕もない。

部下の機体ステータス―――生き残り中の最後任、鳴海と美園のトコから預かっている武藤の両少尉機の残弾がやや少ないが、戦闘に支障は無いだろう。 他は大丈夫。
機体の損傷―――無し。 各部ダメージ―――許容範囲。 推進剤残量―――平均で68%、最も多く残しているのは四宮の72%、少ないのは摂津の64%。
突撃前衛小隊の投入の仕方を、考えておかないといけないな。 余り前面に出し過ぎると、いざという時に推進剤の数%の残量が、生死を分ける事になってしまう。

『ライトニング02よりリーダー、各中隊ステータスチェック完了。 A-OK』

大隊副官役の緋色が、各中隊からのチェック情報を確認し報告する―――準備は整った。

『よし、大隊陣形アローヘッド・ツー。 ≪ガンスリンガー≫(第1中隊)は中央、≪ブリューナク≫(第2中隊)左翼、≪ロスヴァイセ≫(第3中隊)右翼。 
≪フラガラッハ≫(第4中隊)は指揮小隊と共に中央を後続、大型種の群れを突破する。  突破後、≪ガンスリンガー≫、≪フラガラッハ≫、指揮小隊は即時反転、ケツを蹴り上げろ!
≪ブリューナク≫は左翼側面に展開、≪ロスヴァイセ≫は右翼側面。 後背と側面から一気に叩く、接近する小型種、特に戦車級に気を付けろ!』

―――『了解』

「了解です」

俺を含めた4人の中隊指揮官が応答する。 目前のBETA群の中央を突破、即時反転・側面展開でBETAの防御力の弱い箇所を突く。 第2と第3大隊が小型種を近づけさせない。
49機の戦術機で大型種を360体―――1機当たり7体ちょっと、そう悪いレートじゃないな。 悲観するにはほど遠い。

『よし、突っ込む!』

『≪ガンスリンガー≫、いてもうたれや!』

『リーダーより≪ブリューナク≫全機、水平噴射跳躍開始!』

『≪ロスヴァイセ≫全機、右翼に展開!』

―――始まった。

「フラガラッハ各機、ダブル・トレイルで≪ガンスリンガー≫に続行。 摂津、指揮小隊のフォローに入れ」

『了解っス。 B小隊、先頭張ります』

『フラガC、最後尾に付きました!』

先頭を木伏さんの≪ガンスリンガー≫、中央左翼に源さんの≪ブリューナク≫、中央右翼が三瀬さんの≪ロスヴァイセ≫。
その直後に宇賀神少佐直率の―――実際の指揮は緋色が執っている指揮小隊が入り、最後尾を俺の≪フラガラッハ≫が固める。
前方には40機もの戦術機が一斉に跳躍ユニットから排気炎をたなびかせ、高速で水平跳躍を掛けてBETA群に向かっている。
普通は中隊戦闘で使用する突撃陣形を、大隊で行おうと言うのだ。 49機もの戦術機―――『不知火』と『疾風弐型』―――が一斉に吶喊する様は、陣形内から見ても圧巻だった。

そんな感覚を懐いたのもほんの数秒、瞬く間に前衛の≪ガンスリンガー≫がBETA群と接敵した。 同時に前の3個中隊から制圧支援機が、盛大に誘導弾を発射する様が見える。
後方からこうやって僚友の戦いざまを見るのは、実は初めてだ。 大体が、俺自身が今まではほとんど先頭にいたから。 三者三様、先任達の戦いぶりが良く把握できる。
木伏さんはその中隊名に反して、近接格闘戦を好む傾向のある人だ。 だがそれは個人戦闘の場合であって、部隊指揮はミドルからショートレンジを場合によって使い分ける。
源さんはミドルレンジの戦いを好む。 同時にサポートする時は、普段とは別人の様に突っ込み、一気にカタを付ける。
三瀬さんのスタイルは、前から思っていたが祥子と同じだ。 ミドルからアウトレンジでの部隊指揮を多用する。 性格か? しかし近接戦指揮もかなりこなす。

BETA群―――突撃級と要撃級の壁に、大隊が突っ込んで行く。
木伏さんはこの集団に光線属種は居ないと判断したのだろう、≪ガンスリンガー≫の先陣を切る突撃前衛小隊が、噴射跳躍でBETAを飛び越す様が見えた。
突撃級を無視して後方の要撃級の群れに、120mm砲弾を上からたたき込んでいる。 同時にAとCの両小隊が短距離噴射跳躍で、突撃級の群れの中に飛び込んで行った。
源さんの≪ブリューナク≫と、三瀬さんの≪ロスヴァイセ≫が、前方の2個小隊に続行して突入し、穴を広げてゆく。
俺は中隊を直ぐには突入させず、前の3個中隊が撃ち漏らした個体の掃討を指示しながら、≪ブリューナク≫、≪ロスヴァイセ≫の間隙を埋める。

『ちょっとホネやな! 思ったより分厚いで、この『壁』は!』

『木伏さん、上がります! 周防君、あと頼む!』

≪ガンスリンガー≫の間横に、≪ブリューナク≫が進出した。 源さんは前の『壁』を突き破るには、1個中隊では不足と判断したのだろう。

「―――中隊、左翼前方に出るぞ。 摂津、≪ブリューナク≫のケツに付けろ。 四宮、A小隊と左右代われ、俺が左翼に出る。 
貴様は指揮小隊との距離を保ちつつ、撃ち残しを片付けろ―――緋色、ウチの四宮と三瀬さん所のC小隊との連携指示、頼む」

『了解した。 四宮、支倉、そのまま距離50を維持』

―――『了解』

・・・支倉? 支倉か、あいつ、今は三瀬さんの中隊に居るのか。 かつての部下、中尉進級と同時に祥子の中隊に異動させた。
向うではA小隊2番機―――中隊副官をしていた筈だ。 祥子が負傷してからは、彼女の中隊は荒蒔少佐が直率していたが、その少佐も負傷したのだったな。
大体が、今はどの中隊も言わば『寄せ集め』だ。 祥子の中隊人員も、他の中隊に散らばって再配備されているのだろう。
一瞬だけそんな事を考えていた、二瞬後には目前にBETA。 突撃級だ、11時方向に13体。 全部相手取っている暇は無い。

「瀬間、松任谷、すり抜けざまに斉射3連、側面に叩き込め」

『了解です』

『判りました』

瀬間と松任谷の落ち着いた声が、即答で返ってくる。 普段と変わらぬ声に暫く気付かなかったが、不意に思った。
松任谷も随分と戦場慣れしたものだ。 昨年の遼東半島で負傷した時はまだ新米で、随分とショックを受けていたモノだが。

前方から5、6体の突撃級が突進してくる。 間合いを見計らい、寸前で噴射パドルを微調整して機体針路を捻じる。 
ケツを振る様に機体を左前方へ向けながら、スライドする様に機体を進行方向に流しつつ、すれ違いざまに突撃砲を撃つ。 
36mmの太い重低音が連続して鳴り響き、突撃級の側面や節足部に赤黒い孔が多数開く。 同時に体液や内臓物を吐き出しながら数十を惰性で進み、突撃級が停止した。

考えてみれば松任谷も生き残れれば、今年の10月には中尉に進級する予定だ。 瀬間は松任谷の半期先任だったな。 
大陸で最後に戦った時は2人ともまだ、新米かそれに近い少尉だった。 そいつらが―――瀬間が更に2体を片付けた。 同時にバックアップに入った松任谷が1体を。
あれからもう、1年半以上の時が経つのか、早いものだ―――ピパーが捉えた陰に、連続して36mm砲弾を叩き込む、短く3連射を3方向に。 突撃級が3体、行動不能になった。

「四宮、突撃級1体抜けた!」

『排除します!』

瀬間のC小隊から、36mm砲弾が放たれる。 側面を無茶苦茶に破壊された最後の突撃級は、着弾の衝撃で横転しながら停止した。

『ガンスリンガー・リーダーより全機! 『壁』を抜ける!』

『ライトニング・リーダーより各中隊、手筈通りだ、殲滅開始!』

視界が一気に開けた。 同時に≪ガンスリンガー≫、指揮小隊、そして俺の≪フラガラッハ≫全機がスピンターンで今度は群れの後背に肉薄する。
≪ブリューナク≫、≪ロスヴァイセ≫の2個中隊は、左右に急速展開し始めた。 指揮小隊を真ん中に挟み、木伏さんと俺の中隊が左右から押し上げる。

『周防! ワシのトコが突っつくさかいな、こっち向いた要撃級、片っ端からイテまえや!』

「了解。 木伏さん、陽動の間合いを間違えないで下さいよ?」

『アホンダラ! 新米のお前に戦闘教え込んだの、誰や思うてんねん! そんなヘマ打つかい!―――大隊長、周防がヘマ打った時のフォロー、頼んますわ!』

『承知した、その時には広江さんに『針小棒大』で報告してやろう―――嬉しかろう? 周防?』

『ライトニング02より≪ガンスリンガー≫、指揮小隊との距離を50詰めて下さい。 周防、≪フラガラッハ≫はそのまま距離200を維持―――私からも、言ってやろうか?』

『・・・止めて下さいよ、本気で。 緋色、貴様には情が無いのか!?』

突撃砲から鳴り響く重低音。 跳躍ユニットを吹かす甲高い轟音。 砲撃が始まったか、甲高い飛翔音と腹に響く着弾の破裂音。
禍々しいBETA、死闘を繰り広げる戦術機の群れ。 相互破壊、生と死。 御馴染みの戦場に、ちょっとした笑い声が通信回線に流れる。
オープン回線でやりあったのは、意味がある。 部下のバイタルデータ、少しは鎮まったか? うん、緊張感は維持している。 余計な強張りは無さそうだ。

目前に旋回中の要撃級。 側面に120mmを叩き込み始末した。

「向うが押せば、こっちは引いて。 こっちが押せば、向うが引いて。 リーダーより中隊各機、要撃級に狙いを定めろ、≪ガンスリンガー≫と連携する」

先頭で大旋回中の突撃級の群れに、側面後方から源さんと三瀬さんが部隊をぶつけ始めた。 その周囲で第2大隊と第3大隊が戦車級の掃討を始めている。
どうやら他の小型種は無視する様だ、このまま山岳地帯に入り込んでも、まだ上には斯衛の第2聯隊3個大隊が陣取っている。 連中が始末を付ける。

『大型種と戦車級を、最優先撃破目標とする! 光線属種と要塞級が出てくれば、順位は繰り上げだ! まずはこの群れ、殲滅するぞ!』

宇賀神少佐が大隊の戦闘方針を再決定した。 まずはこの群れだ、次に後続を―――本番はその後に来る。











2225 京都市内東部 第1軍司令部


「禁衛師団、二条まで後退しました!」

「第1師団防衛線、下京区まで後退! 油小路通で防戦中!」

「第3師団第34機械化歩兵連隊、全滅! 防衛線、堀川通まで下がりました!」

「第6師団、烏丸から御池通に展開。 阻止戦闘開始しました。 第57師団、五条通に到達、第3師団の支援に入ります!」

「第37師団、東本願寺跡付近に展開完了。 第1師団の支援、入ります。 第2師団残余、河原町五条に最終防衛線を展開完了!」

「戦術機甲兵団長、原田少将(原田祐一郎陸軍少将:第1師団戦術機甲旅団長兼務)より、『山間部の確保、30分が限界』です!」


押されている。 最初から判っていた事だ、行動の自由を著しく制限される市街地、それも大都市での市街戦で、BETAを相手にした戦がどれ程困難か。
大陸や半島での実戦内容は、実は良く研究されていた。 半島が陥落した時点で帝国軍、特に陸軍(本土防衛軍)は来るべき本土決戦で、市街戦だけは避けねばならない、と結論していたのだが。
大陸の様な広大な広さを見込める戦場は、帝国国内には存在しない。 恐らく陥落した半島での戦いに似た戦場になるだろうとも。
ソウル、平壌、光州・・・ 半島での都市の戦いは悲惨の一言だ、入り込まれたら最後、人類側は有効な手立てを打てぬままに、ズルズルと消耗して行った。

「・・・フェイズⅢへの移行、早めた方が良いか・・・?」

「軍集団司令部へ意見具申、なさいますか? 閣下」

第1軍司令官・岡村直次郎大将の呟きに、参謀長の笠原行雄中将が反応する―――傍目を気にしながら。
その言葉を聞きつけたか、傍らで超然と戦況の推移を見守っていた1人の高級参謀が、チラリと横目を向けたあと、正面のスクリーンを再び見据え、上級者を見ないで言い放つ。

「・・・全てはタイムスケジュールの通りにお願いします、岡村閣下。 意見を具申されても、変わりませんな、笠原閣下」

「変わらない? 何を根拠に、そう言い切れるのだ?」

「・・・軍集団司令部は、統合幕僚総監部の意向を了とされております。 現地軍の独断専行は、厳に慎んで頂きませんと」

「半世紀前の悪夢よ、再び、だな。 ええ? 河邉大佐?」

笠原中将の怒気の籠った声にも、その高級参謀―――統合幕僚総監部・作戦局第2部の作戦課長である河邉四朗陸軍大佐は、表情を変えずにスクリーンを見続けていた。
第1軍としては、これ以上の損失を出す前にフェイズⅢ―――京都放棄に移行したい。 今ならまだ、相当数の戦力を温存しつつ撤退が可能だ。
だがそれが5分、10分と経過するうちに、もしかしたら最悪の状況に陥るかもしれない。 戦況はそれ程までに予断を許さない。
何より腹立たしいのは、こうして『後方の』連中が前線司令部に出張って『督戦』している事だ。 連中は『スタッフ』であって、部隊指揮の『ライン』には属さない、命令権は無い。
しかしながら人事権を含め、作戦、予算、運用、補充・・・ そう言った組織を維持運営する為に必要不可欠な、『権限』を有する。
実際にあからさまに表立っては無いが、連中の意向に反した高級将校が、閑職に追いやられるケースは実際に在る。 
部隊指揮官の中にはそれを避ける為に、『スタッフ』の意向を最大限、便宜を払う者さえいる有様だ。 こうして最前線にまで足を運ぶ度胸と、労苦を厭わない点は認めてやるが。
それにしても気に食わない。 自分の、自分達の指示が達せられて当然と、信じて疑わない点が―――まるで、半世紀前に滅んだと思っていた参謀将校、そのものだ。

「・・・政威大将軍の脱出が完了するのは、2240の予定です。 それまで戦線が崩壊する事は、許されません」

「・・・統幕は随分と、将軍家と摂家の世話を焼く様になったものだ」

皮肉っぽく岡村大将が呟いた。 どちらかと言えば統合幕僚本部は『統制派』―――軍主流派が牛耳っている。 
連中は武家社会や摂家、将軍家とはあからさまな対立はしないが、支持者と言う訳では勿論ない。 どちらかと言えば『道具』として見ている筈だ。
道具―――そうか、道具か。 何をやらかすかは知らんが、兎も角も今後の政争の『道具』として使う為に、その安全は最大限保障されねばならない、そう言う事か?

「もし、ここで将軍家がBETAによって『名誉の戦死』を遂げられる事になれば・・・ 一時的に国民は奮い立ちましょうが、長期的に見て帝国全体にとって非常にマイナスです」

帝国にとって―――では無かろう? 軍にとって、いや違う。 軍部主流派・・・ 貴様達『統制派』と、官界の上級実務官僚団にとって、であろう?
実際の権力を縦横に振るいたいと思えば、出来れば裏に隠れてやりたいものだ。 表に立って様々な制約を受けたり、矢面に出たく無かろう。
そうした面倒は、将軍家や摂家、或いは政党政府、そう言った連中に今後宛がってやる、そう言う事か? つまりは便利扱いして、己たちは裏で全てを画策し、決定し、実行する。

岡村大将と笠原中将が、いみじくも同じ感想を抱いたその時、次なる凶報が飛び込んできた。

「第2軍、第7軍団司令部より緊急信! 釈迦岳付近に光線級出現!」










2230 京都・大阪府境 ポンポン山~釈迦岳山麓一帯


『これで、最後!』

突撃前衛小隊を指揮する摂津の声に、レーダーを確認する。 集団の中に居た重光線級は、ひとまず全て始末出来た様だ。

「リーダーより各小隊、ダメージ・レポート。 1分だ」

同時に直率小隊の状況を確認する。 瀬間の機体が左腕にダメージ、使用可能。 突撃砲は予備を入れて3門。 それに追加装甲。
松任谷―――機体の損傷は無さそうだが、関節各部への負担が大きい。 イエローが各所に点滅している、兵装は突撃砲が4門。 但し残弾は少ない。
俺の機体は・・・ 松任谷よりはマシだ。 壊れた箇所は無い、関節部のダメージもまだ許容範囲内で済んでいる。 残弾は半分と言った所か、突撃砲2門と長刀1振。

『B小隊、小破1機。 戦闘継続可能』

『C小隊、1機中破。 戦闘は・・・ 不可能と判断』

「1機。 四宮、誰だ?」

『森上です。 跳躍ユニットが半壊、右腕と左膝部がレッド』

森上か、確か松任谷と同期だったな、あいつは。 痛いな、実戦慣れした先任少尉を、ここで1人手放すのは。

「・・・よし、森上は山へ入れろ。 79号線から北東へ抜ければ長岡京市、40師団が居る。  向うに話を付けておく。 四宮、貴様はB小隊に入れ。 鳴海をA小隊に入れろ」

四宮のC小隊はこれで残存2機、最早小隊どころでは無い。 中隊の残存8機、中隊を2個小隊に再編するしかないな。
A小隊で俺のエレメントに松任谷を、瀬間のエレメントに鳴海を。 B小隊は小隊長の摂津と蒲生でエレメントを、四宮と水嶋さんの隊から預かった武藤少尉でエレメントを。
CPの渡会を呼び出し、緊急用の予備回線を繋がせる。 師団、いや、所属軍さえ異なる40師団に繋がるまで、少しタイムラグがあった。
繋がった40師団の師団参謀に話を付け、森上機を収容して貰う事で話がついた。 ここで無為に潰すより余程マシだ、向うもそう言って苦笑していた―――派遣軍上がりの参謀か?
暗闇の中、デジタル処理された調光スクリーンの視界は、何となく現実離れしている。 その中に多数のBETA―――戦車級、要撃級、そして光線級と重光線級が少数、骸を晒している。

『ったく、これだからBETAってのは、予測がつかねぇ・・・』

摂津の吐き出す様な声が聞こえた。 同感だ、予測がつかない。 だから人類はここまで追い込まれている。
5分前だ。 最初の1100程の集団を殲滅し終わり、海軍部隊が対応していた約1800程の集団にかかり始めた時だ。
5個大隊、200機以上の戦術機で約1800のBETA群。 想定では10分以内に殲滅出来る、そう踏んだ矢先。 
淀川沿いに展開していた27師団前面のBETA群の一部が、針路を左に逸らしたのだ。 その先には大阪北部・京都南部の山岳地帯。 BETAは約4000。
位置的に最も近かった第1大隊が河川敷方向へ急速展開した。 元々山頂一帯には斯衛第2聯隊が布陣していたが、BETAの数が多い。
第27師団と協同して、1匹でも多くのBETAを山麓で葬っておく必要があったからだ。 正直な所、斯衛の実戦での『継戦力』を、陸軍は誰もが疑問の目で見ていた。

何とか第1派の過半数を山麓で殲滅したものの、無視できない数を山中に入れてしまった。  中には光線級も居たその集団を、斯衛第2聯隊総出で山中で殲滅したのはつい先ほどだ。
そして第1大隊が抜けた結果、第2、第3大隊と海軍第215、第217で約8700ものBETA群を捌き切れる訳が無かった。 彼等は奮戦したが、真ん中を割られてしまった。
『最後の大隊』が抜けた防衛線に、かなりの無理がかかったのだ。 結果として無視出来ない数のBETAに突破を許した。 これ以上、斯衛の負担を増す事は得策じゃ無い。

『ライトニング02より各中隊、BETA群第2派! 約1880体。 戦車級約400、要撃級約120! 今度は要塞級も10体居ます!』

『≪ガンスリンガー≫、≪ブリューナク≫は27師団の支援! ≪ロスヴァイセ≫、≪フラガラッハ≫は、釈迦岳山麓の登り口を死守!』

副官の緋色が、状況を伝えて来る。 宇賀神少佐は、他の部隊指揮官との調整に忙しいか。
迂闊に顔を出せない。 恐らく目前のBETA群、その後方には光線属種が潜んでいると思われるからだ。 下手に跳躍などすれば、即座に狙い撃ちされてしまう。
明神ヶ岳、黒柄岳からポンポン山、釈迦岳にかけての山麓・尾根筋に展開した陸軍、海軍、斯衛の戦術機機甲部隊は、非常に難しい戦いを強いられていた。

≪フラガラッハ・マムよりリーダー! 中隊正面のBETA群、約420! 突撃級40、要撃級60、戦車級200! 後方に光線級10体を確認しました!≫

『周防君、こっちの正面には約400。 1000以上が27師団の方に行ったわね。 ま、それが何の慰めになるのか・・・って話ですけど』

三瀬さんが珍しく、呆れ果てた口調で話しかけて来る。 いや、呆れると言うより、もう感情も湧かないと言った方が正解なのか?
俺だってそうだ、一体何日間、こうやって戦い続けているのだろうか。 過去にも経験したが、人間次第に感情が麻痺してくる。

「少なくとも、あと500ずつ相手にする事は無いでしょう―――面制圧砲撃終了と同時に、水平噴射跳躍開始! 摂津、突撃級を始末しろ、1機で10体だ、喰い甲斐があるぞ?」

『大喰らいは、趣味じゃ無いっすよ・・・ 支援砲撃、頼みます! 面制圧終わった! B小隊、続け! 四宮、久々の突撃前衛だ、漏らすなよ!?』

『・・・下品!』

スクリーンの向こうで四宮が目一杯、『べぇー!』ってな顔をしている。 摂津は破顔していた―――大丈夫か、まだ。
B小隊の4機が、跳躍ユニットから排気炎を吐き出し水平跳躍に入った。 その一瞬後、A小隊に命令を下す。

「A小隊各機、B小隊と要撃級の間に入り込め。 突撃級を始末する間、要撃級を近づけさせるな。 中隊、あと10分だ! あと10分持ち堪えろ!」

近接戦に備えて、背部兵装ラックから長刀を取り出す。 それを見た松任谷がスクリーンの向こうで一瞬、ギョッとした表情を見せた。
自分の上官が普段から長刀を使った近接格闘戦を好まないと、知っているからだ。 やる時はもう、どうしようもない時だけ。
突撃級とほぼ同時に、要撃級が突進して来た。 あの中に突っ込む―――1機で要撃級10体以上の乱戦、格闘戦しか手段は無いな。

A小隊を水平噴射跳躍に持って行く。 B小隊の進路から僅かにずらして、突撃級の群れの最後尾、要撃級の群れの最前列に突っ込ませる。
急速に迫った要撃級に向け、右腕に保持した突撃砲の120mm砲弾を至近で叩き込む。 同時に噴射パドルの左右を閉塞・全開に切り替えベクトルを急激に変える。
機体が急回転するそのエネルギーを利用して、左の長刀をもう1体の要撃級、その後部胴体に叩き込み、斬捨てる。
背後から砲声。 松任谷が俺の機体前面に迫った要撃級に向け、120mmを放った。 命中、前腕の防御が間に合わず、胴体正面から体液をぶち撒けて転倒した。

『砲弾をけちるな! 蒲生、全部叩き込む気で始末しろよ!? 四宮ぁ! 右の12体、ケツを見せた、殺れ!』

『了解! 武藤、肉薄する、付いて来なさい!』

B小隊が突撃級を狩って行っている。 今の所7体を始末した、残り33体。

「瀬間! エレメント間の距離を開けるなよ!? 松任谷、小型種が多くなってきた、掃討しろ!」

『了解!』

強襲掃討機の強み―――4門の突撃砲を全門、全面展開した松任谷機が36mm砲弾のシャワーを戦車級の群れに叩き込む。
僅か数十秒で100体近い個体が霧散した、これで暫くスペースを稼げる。 近づいて来る要撃級4体を見据える。 前に2体、後ろに2体。
一気に水平噴射跳躍を掛け、前面の1体に肉薄する。 要撃級が前腕を大きく振りかぶって、俺の機体に叩き込む―――その半瞬前に、噴射パドルを片方全閉塞。
機体はクルリと急回転し、前腕をギリギリで交してもう1体との間に入り込ませる。 回転力を利用して長刀を叩き込み、一瞬機体が止まった際の安定を利用して避けた1体に120mmを叩き込んだ。
即座に逆噴射、迫って来た要撃級を回避しつつ、36mmをガラ空きになった右前腕の方向から後部胴体へ連射。

これでBエレメントと合せ、要撃級撃破は10体。 残り50体。

『突撃級、22体を撃破! 残り18体!』

「摂津! 5分でカタを付けろ! そろそろこちらがシャレにならん状態だ!」

松任谷とBエレメントの武藤が、戦車級の掃討に躍起になっている。 他の小型種のまだ居るのだ。 実質、俺と瀬間の2機で残る50体の要撃級を相手取る―――正直厳しい。

「ッ!」

『中隊長!』

咄嗟に視界の左隅に映った『何か』を咄嗟に避けて―――要撃級の硬い腕だった、ヤバかった。 そう思った時には36mm砲弾を叩き込んでいた、戦場で慣らされた条件反射。
松任谷も2門の突撃砲から120mm砲弾を別々の要撃級に撃ち込み、始末した。 これで俺が6体、松任谷が3体。 Bエレメントも8体を始末した、残り43体。 

『三瀬! 周防! そっちの状況は!?』

宇賀神少佐の声が響いた。 どうやら向うは『物量』で1000体のBETA群を潰せたようだ―――27師団と協同だしな。

『三瀬です、食い込まれています! 幾らか稜線上へ抜かれました! 光線級はまだ前に出てきていません!』

三瀬さんのトコも、似た様な状況か。

「周防です。 状況はまあ、三瀬さんとどっこい・・・ です。 光線級は河川敷方面に。 拙い事に、要塞級が動き出しました」

スクリーン視界の遠方、小高い山が動いている様だ。 光線級は渡会の報告では10体、しかしあの要塞級の腹の中に、もし他に光線級がいたら?―――中隊は全滅必至だ。
機体を右に、左に機動させ、エレメント間の距離を目測し、B小隊の状況を確認しつつ―――こんな時に、急に前に出て来るな! 要撃級!
咄嗟にバックステップで交し、36mmを叩き込む。 が、途中で空転音。 兵装情報を確認すると、残弾無し―――何処の新米衛士だ、貴様は!
止めを長刀で刺し、少し大きめに後ろに引く。 最後の予備兵装の突撃砲を取り出す。 同時にもう一方の突撃砲の弾倉を交換しないと・・・

「リロード!」

『了!』

俺が弾倉を行う数秒間、松任谷が機体を前面に押し出し、4門の突撃砲から弾幕を張る。 弾倉交換と同時に今度は俺が前面へ、弾薬消費の激しい松任谷が弾倉交換に入った。
見ると瀬間のBエレメントが、要撃級の一群に押され始めている。 足元の戦車級に気を取られ、要撃級への対応が出来ていない。
摂津のB小隊は突撃級を24体まで撃破した。 残り6体は・・・ よし、無視しよう。 他の部隊にも、仕事はして貰う。

「瀬間! 引け! 合流しろ! 摂津、残りはもういい! 戻れ!」

要塞級がゆっくりと動き出した。 その動きに合せ、BETA群全体が同じ方向に動き出す―――中隊前面からズレつつある。
三瀬さんの中隊も同様だ。 もっと西、第2、第3大隊が戦っている方向へと移動して行く。 その先には稜線への登り口。 拙いんじゃないか? どう見ても拙いだろう、これは。
大隊長に報告して、せめて背後から強襲を掛けるべき。 そう意見具申しようと思ったその時、通信回線に聞き慣れない声が響き渡った。

『斯衛第2聯隊だ! この数は捌き切れぬ! 艦隊に突撃破砕砲撃を要請する!』

斯衛? の、指揮官か? 聯隊長? 突撃破砕砲撃だと?―――食い込まれたこの状況で、寝言を抜かすな!

『陸軍第9軍団、混成第1大隊、宇賀神少佐であります! 大佐殿、この状況で突撃破砕砲撃だと友軍を巻き込む! 陸軍部隊が迂回して要塞級と光線属種の裏を取ります、それまで何とか!』

『何!? 少佐、貴様は山頂の状況を判っておるのか!? 3個大隊が各所で寸断されておる! 最早中隊単位では無い、小隊単位で防戦しておる状況だ!
貴様等、陸軍の奮戦は見ていて判っておる、よくぞその戦力で今まで抑えた! だが、もう限界だ、斯衛も万能ではない。 部下の半数近くが、殿下の御馬前に散りおったわ!』

山頂の斯衛部隊の損失、50%!? 光線級はまだ到達していない様だが、それも時間の問題か!?
そうなったら最悪の最悪だ、特に第7軍団は直近の頭上を光線級に抑えられる事になる。 京都市内防衛の第1軍にも、甚大な被害が出る。

『S-11砲弾による突撃破砕砲撃を要請する! この場で諸共に、BETA共を吹き飛ばす!』

『大佐殿!』

『し、しかし! それでは、これからの防衛戦力が・・・!』

『無茶だ! 我々だけじゃ無い、第7軍団にも大きな被害が出るぞ!』

斯衛大佐の言葉に、宇賀神少佐、森宮少佐、黒河内少佐が一斉に反発する。
命は惜しい、正直惜しい。 しかし我々とて、陸軍で最も実戦経験の長い部隊だ、戦場で思い切る事の重要さは身に染みて判っている。
だからこれは、命惜しさの反発では無い。 ここはまだ、我慢すべき時なのだ。 まだ粘り尽くす時なのだ。 諦めて命を捨てる時では、まだ無い。
しかしこちらの指揮官は3人とも少佐。 向うは2階級も上の大佐。 決定されたら拒否は出来ない―――その時だった。

『・・・斯衛は相変わらず、簡単に討死しようとなさるな。 清水谷伯爵』

海軍の第217戦術機甲隊指揮官、賀陽海軍中佐が苦笑交じりに言い放った。 
その口調は、荒くれが多いと言われる海軍戦術機甲部隊の指揮官に似つかわしくない、上品な口調だった。

『・・・どなたかな?』

自身の爵位で呼ばれた斯衛大佐が、改まった口調で聞き返してきた。 どうやら俺の様な庶民には与り知らぬ世界の覚えでも、あるようだ。

『海軍第217戦術機甲隊長、賀陽海軍中佐。 実亮(さねあきら)卿、相変わらず血の熱い事だ』

『賀陽侯、正憲王殿下・・・』

『殿下は止して頂こう。 私は既に帝籍を離脱し、臣籍降下をしている身。 賀陽侯爵家の当主に過ぎない』

―――思い出した。 賀陽正憲海軍中佐、兄貴の3期上に当る人で、東桂宮家の出身だ。 父親は先々帝の皇子親王で宮様、歴とした帝族だ。(今上帝の従兄だ)
海軍には帝族出身士官が結構いる。 現役でも6、7人いた筈だ。 それにしても、戦術機甲指揮官にさえいたとは、驚きだ・・・

『あと5分、持ち堪えて下さらんか、海軍からもお願いする。 あと5分、貴下の者共の骸を、晒してくれぬか。 それでフェイズⅢへ移行する』

『侯爵・・・!』

『お分かりか? 伯爵。 我等は藩屛なのだ、御国と陛下の御為に骸を晒す、藩屛なのだ。  今この地で煌武院殿の為に、斯衛が者共の骸を晒す事も同様よ。
大義に於いては御国と陛下の、そして陛下の赤子の為。 その場に在るは、貴公等の責務。  全うして骸を晒されよ』

―――この国の頂点の、薄暗い部分を見た気がした。 そうか、こうやって生き残って来たのか。

『くっ・・・ くくっ、藩屛、藩屛か! さては貴き方々が為され様、相も変わらぬ・・・  我等の次は、軍部でござるか。 宜しかろう、ここで骸を晒し、末代まで見届けていましょうぞ』

―――ここで古来からの軋轢を、表面に出さないで欲しいな。 そんな暇は無いんだから。
そんな事を一瞬思ったその瞬間、彼方から跳躍ユニットを全開で開く轟音が近づいてきた。 咄嗟にレーダーに映る部隊標識を確認する。

VFA-147≪アルゴノーツ≫、VFA-136≪ナイトホーク≫、VFA-137≪ケストレル≫

米海軍だ、第7艦隊。 いや、≪ケストレル≫だけは第3艦隊か、『ニミッツ』の搭載戦術機部隊だ。 F-14Dが27機、全機がフェニックス装備。
それだけでは無かった。 南方、大阪湾方向から帝国海軍の母艦戦術機部隊が4隊、33機。 こちらも面制圧誘導弾をフル装備だと、情報システムが言っている。

『VFA-147、≪アルゴノーツ≫だ。 フェニックスのデリバリーに来た! ターゲットは京都市内西部のBETA群―――本当にいいんだな!?』

『日本帝国本土防衛第1軍より≪アルゴノーツ≫、間違いない。 繰り返す、間違いない』

『後で文句は言うなよ!? オールハンズ! ゴー・トゥ・ヘル!』

米海軍機部隊が、大津から山科を抜けて、京都市内へ突入するコースを突進する。
同時に今度は、海軍部隊からの通信が入った―――聞き覚えのある声だ。

『海軍第205戦術機甲戦闘攻撃隊(VFA-205)だ! 陸軍、頭を低くして居ろ! 基地隊もね!』

『205・・・ 長嶺! エリアE5からD9までは攻撃するな、友軍誤爆になる!』

『げっ、賀陽さん!? ・・・『殿下』をこんなトコに出すなよ、誰だよ、出したの・・・』

『何か言ったか?』

『いいえ! 何も! 全隊、聞いての通りだ! 207、209、211! 高度50で突入する! 光線級が居るぞ、腹を据えろ! 突入!』

轟音が増した、日米の母艦戦術機甲部隊が2方向から、一斉に低空突撃に入ったのだ。 途端に、案の定、迎撃レーザー照射があちらこちらから撃ち上がる。
それを確認した砲兵部隊の内、発射速度の速い軽榴弾砲や迫撃砲を装備する部隊が、一斉に撃ちかかった。 何本かのレーザーが砲弾を認識してそちらにずれる。

『シット! ≪ミス・ディキシー≫が殺られた!』

『ダム! ≪マイティ・サム≫、≪グラマラス・バーバラ≫にレーザー直撃!』

『ファーック! エンジンが片肺だ! パワーが上がらねぇ!』

『火が! 火が! ・・・助けて、ママ・・・!』

『バスタード! ファッキン・ガイズ&ビッチ! ビビるな! 地獄へ突っ込め! クソBETA共を殲滅するんだ! ファイティング・スピリッツを見せろ!』

くそ、確認出来ただけで一気に5、6機のF-14Dが殺られた。 それでも20機程度に減った米軍機は、低空突撃を止めない。
今度は帝国海軍部隊の方向にも、レーザー照射が集中し始めた様だ。 通信回線に怒号と悲鳴が充満する。

『第2小隊長機、レーザー直撃!』

『だ、第2中隊第3小隊、3機撃墜されました!』

『攻撃目標地点まで、あと10秒!』

『全隊、もう少し持ち堪えな! ・・・ぐがっ!?』

『長嶺少佐!?』

『総隊長! 総隊長機、被弾!』

『207、鈴木大尉だ! 指揮を引き継ぐ! 全機、攻撃地点まで5秒!―――機体起こせ!―――攻撃! 放てぇ!』

『オールハンズ! オール・ファイア!』

日米の海軍機から、盛大に誘導弾が発射された。 陸軍が使用する只の誘導弾じゃ無い、これは・・・

「・・・リーダーより全機! 耐衝撃防御姿勢!」

同時に、凄まじい衝撃波が到来した。 100発以上のフェニックス、900発を越す95式自律誘導弾。 瞬間的に2箇所の戦域が鉄の暴風と、火炎地獄と化した。
思わず、無意識に頭を竦めてしまう。 頭では理解しているが、網膜スクリーンに映る情景に無意識に身構えてしまう。 それ程凄まじい、瞬間面制圧攻撃。

『俺達はこれで最後だ! あとフェニックスを残しているのは≪ダイヤモンド・バックス≫、≪ジョリー・ロジャーズ≫、それに第3艦隊の≪ブルー・ダイアモンズ≫と≪イーグルス≫!
残りはもう打ち止めだ! 機体も満足な奴は残っちゃいない! スマンがそれ以上はお国の海軍に頼んでくれ! 戦艦はまだ砲撃出来るそうだがな!』

米軍機が2/3程に機数を減らしつつ、攻撃終了と共に反転離脱して行く。

『陸軍! あと3派が限界だ! 支援要請はタイミングを見てしてくれ! それと、長嶺少佐の機体が鳥飼付近に突っ込んだ! 救助を要請する!』

『第217、賀陽中佐だ、承知した。 宇賀神少佐、頼まれてくれるか?』

『了解しました。 CP、コンバット・レスキュー要請だ。 場所は鳥飼付近、北岸だ。 淀川に突っ込んだかもしれん』

『CP、ライトニング・マム、了解です。 ・・・海軍部隊へ、コンバット・レスキュー申請しました。 C4D回線』

『助かる! 207リーダーより全隊、RTB!』

まるで通り魔の様な海軍部隊の攻撃の後に残ったのは、無数のBETAの残骸で埋め尽くされた大地だった。
ただこれでも所詮は『数千体』がミンチにされたに過ぎない、それが証拠にまた前方や左翼から、数千体のBETA群が蠢き始めた。

『あれだけ潰しても、まだ居やがるのかよ・・・』

誰かが呟いた、誰か―――武藤少尉か。 こいつは確か、24期のA卒だったな。 と言う事は、今年の3月に訓練校を卒業したばかり。
大陸や半島での実戦経験は無い、初めての実戦が本土防衛戦。 キツイな、キツイだろうな、正直な所。

『・・・いやがるんだよ、これが。 覚えておけよ、武藤。 これがBETAだよ、俺の同期生、何人喰われたかもう、覚えちゃいないよ』

『鳴海さん・・・』

鳴海―――コイツは23期のB卒、武藤の半期先任。 こいつの初陣は半島撤退戦、かの『広州の悲劇』だった。
そう言えば鳴海の同期の浜崎は負傷、半期先任の倉木と河内は死んだ、宇佐美は負傷した―――何人、若い連中を死なせたのだ、怪我させたのだ、俺は。

―――いかんな。

「・・・覚えておけ、忘れるな。 しかし気押されるな、これは貴様等が乗り越えるべき光景だ。 貴様等がくたばる光景じゃ無い」

無意識に出た言葉。 責任は持てるか? お前は連中をして、そうさせる事が出来るか?―――やらなきゃ、一体何の為に、今まで部下を死なせて来たのだ。
絶対に死なせない、そんな事は無理だ。 しかし連中が『死ぬより、のたうち回って足掻いて生きる方がマシ』と思う位には、なる様にしてやらなきゃならん。


≪CP、ライトニング・マムよりライトニング・リーダー! 現時刻、2240時をもって作戦はフェイズⅢへ移行しました!≫

―――来た、フェイズⅢ

≪大阪湾の艦隊から、全力支援砲撃が開始されます! まず第7軍団全部隊が淀川水道南岸へ撤退! 淀川南岸のBETA群を全力で駆逐!
その後に京都市内の第1軍全部隊が、琵琶湖水道南岸へ撤退します! 京都市内北部・北東部の戦術機甲部隊は比叡山を迂回して大津へ。 補給後は比良山系に展開します!≫

と言う事は、将軍家と護衛の斯衛部隊は無事、琵琶湖南部から信楽辺りの山岳部に入れたと言う事か。 多分途中で伊勢水道のどこかから、護衛艦艇に乗り込むのだろう。

『・・・ライトニング・リーダーより各中隊指揮官に告ぐ、これからが我々の本番だ! 部下を失うな、明日の為の戦力だ、生きて帰せ! いいか!?』

『了解ですわ』

『了解』

『はっ!』

木伏さん、源さん、三瀬さん、三者三様だ。

「・・・了解。 地獄の門の前で、見張っておきます」

陸軍の3個大隊が一斉に行動を開始した。 淀川南岸に至るにはまず、目前の厄介な8000体以上のBETA群の真っ只中を突っ切らねばならない。
再開された面制圧砲撃。 光線級の排除。 そして突破。 次いで海軍の2個大隊も行動を起こす、陸軍同様に淀川南岸に到達しなければならない。
中隊に命令を下し、面制圧砲撃の合間を縫って光線属種の側面へ、地形を利用して移動させる。 あの位置からなら、突ける。 今なら、位置を占める事が出来る。






『伯爵、フェイズⅢが発令されましたな。 貴隊も撤収されては如何か?』

『心にも無い事を、侯。 我等がここを引いたが最後、真下の数千のBETAを如何なさるか?』

『・・・斯衛の奮戦に、敬意を』

『行かれよ、侯』

それだけ言って、清水谷斯衛大佐は通信を切った。 眼下に陸海軍部隊が移動を開始した様が見える、どうやら光線属種の裏を突く気らしい。
しかし全滅は無理だろう、やはり幾ばかはこの稜線上へとやって来るだろう。 そして、斯衛第2聯隊はここに居る。

『偶然ではあるがな・・・』

乾いた、皮肉っぽい口調だった。

『偶然ではあるが・・・ やはり、天性の機会主義者よな、あの御方等は・・・』

やはりここで骸を晒す以外に、道は無かったのか。 いや、我等がここで死戦を演じる事は戦術上、無駄では無い。 まだ北の山々では現実に第1軍の者共が頑張っておる。
だが、何故我々だったのか。 いや、偶然なのは判っている。 宿命であったやも知れぬ、だが・・・

『我等が死なねば、あの御方等は殿下をも、使い捨てにして恥じぬわ・・・』

それこそ、最も貴き御一族の・・・ ならば、我等は死して殿下の『藩屛』となろう。 その御身を御護り致そう。

『・・・聯隊長より総員に告ぐ。 皆の者、これよりが我等の戦ぞ。 見事、殿を務めん! 斯衛の姿、満天下に刻みつけて逝けい!』










2355 第7軍団司令部


『南岸の残存BETA群、約8800。 北岸のBETA群、約8500は京都市内に突入開始しました』

『第40師団、南岸に渡河完了。 側面よりBETA群を叩きます』

『第5師団、第27師団、第40師団両翼に展開完了しました。 攻撃再開します!』

『海軍連合陸戦第3師団、北方より押し出します。 側面を米海兵隊第3師団』

『京田辺方面、国連軍2個師団(米軍、大東亜連合軍)が布陣完了。 海軍4個大隊戦闘団、奈良市方面を塞ぎに入りました』

一時は2万以上を数えた淀川南岸のBETA群。 フェイズⅢ発動と同時に行われた艦隊の全力砲撃と、砲兵旅団の突撃破砕砲撃、そして7個師団相当の全攻撃力を叩きつけ、半数以上が残骸と化した。
損失は大きい。 どの師団も30%以上の損失を出していた(日米の両海兵師団は、20%強) だが30分前に行われた、戦術機甲兵力の半数を投入した光線属種への攻撃で、大半の光線属種を排除する事に成功した。
それ以降は面制圧攻撃へのレーザー迎撃密度が急速に薄れ、反対に砲撃で吹き飛ばされる光線属種が多く出てきた。 そして10分前、BETA群後方に居た光線属種を確認せず、との報告が入った。
第7軍団はこの報を以って以後、全部隊による一斉攻撃に転じた。 京都市内には未だ多数のBETAが存在し、光線級も確認されているが、そっちは第1軍で何とかして貰うしかない。

「閣下、第9軍団より派遣された軍団直轄砲兵旅団群、砲撃を開始しました」

情報参謀の言葉に、第7軍団参謀長の鈴木啓次少将が頷く。 同時に内心で大きな安堵のため息を漏らした。
本来は九州を防衛する西部軍集団に属していた第7軍団、それが急な戦力移動で中部軍集団に鞍替えさせられ、あまつさえ帝都防衛戦に参加する事になった。
そればかりか、その帝都防衛戦で南北両戦線の間を繋ぐ、と言う重要な場面を任され、あろうことか国連軍や海軍陸戦師団さえその指揮下に―――7個師団だ、軍の規模だ。

(まさか九州者が、帝都を防衛する戦いに参加出来るとはなぁ・・・ 死んでも本望と思っとったが、まずは恥じる事の無い戦が出来たわ)

戦況スクリーンを見つつ、鈴木少将は満足だった。










8月15日 0020 大阪府茨木市 鳥飼付近 淀川


「・・・うう、水が冷たい・・・」

「少佐、骨折しているのにそうやって這いずり回るから、川に落ちるんですよ・・・」

「・・・うう、宮部も冷たい・・・」

跳躍ユニットの半分を焼かれ、機体制御も出来ず、かなり高速で淀川に突っ込んだと言うのに、搭乗衛士達は生きていた。
長嶺公子少佐は右足を骨折、アバラも何本か折ったようだ。 宮部雪子大尉はどうやら両脚の骨が折れた様だ、右腕もだらりと垂れている。

が、2人とも生きていた。

頭から淀川の水を被り、濡れそぼった長嶺少佐が観念したのか、宮部大尉の傍らに這いずり寄って寝転がる。 見上げれば、満点の星空―――重金属雲は流れ去った。
ああ、これが平和な時代で、横に居るのが見栄えの良い男だったらなぁ・・・ などと、些か軍人にあるまじき感想を長嶺少佐が抱いた時、宮部大尉が溜息をついた。

「ん? どした、宮部?」

「はあ・・・ どうして少佐は、そう楽天的なんでしょうかね? この辺、まだBETAがうろついているんですよ? デカイ連中はいない様ですけど、小型種は居ますよ?」

「ん~・・・ そうなったら、私の銃を貸したげるさ、先に」

「ま、それしか無いですけど・・・ どうして私が、先なんです?」

「だってさ、あの世までの航法指示も、RIOの仕事じゃない?」

「・・・嫌だなぁ・・・」

お互いに苦笑し合う。 もうこうなったら、死ぬ時は死ぬ、助かる時は助かる。 ジタバタしても始まらない。
歴戦の2人の衛士がそう達観した時、遠くからエンジンの駆動音が聞こえてきた。 どうやら、お迎えが来てくれたらしい。

「やれやれ、助かった様だね」

「陸軍さまさま、ですよ・・・」

1本だけ残った発煙筒を焚く。 赤い発煙が立ち上り、車輌のヘッドライトがこちらを照らした。
やがて車輌が停止する。 どうやらトラック改造の野戦救急車か? 歩兵戦闘車が1輌、随伴しているから1個分隊?

トラックから1人の士官が降り立った、傍らに衛生部隊の下士官。 ふと士官の野戦服を見る―――輜重兵科だ。

「海軍の長嶺少佐殿と、宮部大尉殿ですか?」

声の主は、20代後半くらいに見える女性士官だった。 陸さんにしては、雰囲気が柔らかい―――目つきは鋭いけど。

「そうだよ、レスキュー隊?」

「だと良いんですけどね、本職の連中は、あちこち引っ張りダコでしてね。 我々、臨時雇いの衛生搬送班が駆り出されました」

そう言って、衛生下士官に合図する。 何名かの部下と共にその下士官が手慣れた手つきで応急処置を施してくれた。
護衛分隊の兵士が担架を持ってくる。 それに乗せられ、まさにトラックの荷台そのものに乗せられた。
発進する直前、その指揮官―――陸軍の女性中尉―――が振り返って言った。

「ま、BETAと出くわしたら、それまでと思って下さい。 何しろ1個分隊しか護衛はいませんので」

「・・・中尉は、腹が据わっているね?」

「慣れました、毎度毎度、お門違いの事ばかりやらされますと。 全く、軍も府庁も一緒だ! 馬鹿ばっかしだ!」










8月15日 0135 京都市下京区 五条大橋


「早く! 早く渡れ! もう直ぐ橋を爆破するぞ!」

対岸の橋の袂―――向うはもう東山区だ―――で、工兵隊の指揮官が声を張り上げている。 軋む体に鞭打って、最後の力を振り絞る。
下京区で最後の遅滞防衛戦闘を続けていた機械化歩兵装甲部隊の、その最後の小隊が橋を通過した。 ここから後ろに友軍はいない、BETAだけだ。

「はあ・・・ はあ・・・ お、俺達で最後だ、後ろにはもう誰も居ない」

「よし、判った。 おい、爆破用意!―――爆破!」

轟音を立てて、軍用爆薬が仕掛けられた橋が落ちる。 BETA相手にはクソ程の痛がらせだが、やらないよりやった方がマシだ。

「よし、強化外骨格を脱げ、車輌で運んでやる」

「助かる、もう駆動系がイカレてしまって、どうしようもなかったんだ。 ところでこの先、殿はどの部隊がしているんだ? 禁衛か? 1師団か?」

「運転手、このまま1号線を突っ走れ! 京都東で名神に乗れ、草津JCTで新名神だ―――殿? おいおい、『帝都』の殿だぜ? 『清水の舞台』付近に、斯衛第16大隊が陣取っているよ」

―――よし、出発!

工兵隊指揮官の声に、車輌群が急発進した。 まるで直ぐそこまでBETAが迫っているかのように(実際この時、BETAは1500m先の山陰本線付近に到達していた)
機械化歩兵装甲部隊の生き残りの指揮官―――少尉だった―――は、工兵隊指揮官の言葉に、改めて認識した。

(・・・斯衛が殿かよ。 本当に、帝国は帝都を失ったんだな・・・)

空を見上げると、真夏のねっとりした空気と、満天の夜空が煌めいていた。










8月15日 0155 大阪府東大阪市 中韓連合兵団本部


「撤収・・・ ですか?」

「そうだ、決定した。 ああ、いい、言わんでも判っている。 だから何も言うな、美鳳。 文怜も」

周蘇紅少校(少佐)の様子で、趙美鳳大尉は大体の事が判った。 要は我が中国軍は、十分に面子を立てる事が出来た、そう言う事か。
だけど、どうだろう? この京都を巡る防衛戦では、我々は後方に待機する事が多かった。 唯一、日本第7軍団が行った昨夜の逆襲の直前に、孤立部隊への増援に駆けつけただけだ。
そうか、その点を強調する気なのだろう、羅蕭林中校(中佐)は。 それ以外はもっぱら日本軍と韓国軍を使っていたし。

「・・・では、これから台湾へ、ですか?」

年少の僚友―――朱文怜大尉が聞いた。 あまり嬉しそうでもない、果たして自分もそうだ、どうもあの雰囲気に馴染めない。
その言葉に、周少校はようやくこの人ならではの、人を食った様な、それでいて憎めない悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「安心しろ、我々の様な『政治的信頼性』の低い連中は、『本国』への帰還に及ばず、だと。 暫くはこの日本だ。 国連軍太平洋方面第11軍へ出向せよ、だと」

その言葉に、朱大尉が嬉しそうな、困った様な、何とも言えない表情をする。 多分、自分も同じだろう、そう趙美鳳大尉は思った。
日本か―――この国は、本当に縁があるわね。 親しい戦友も日本軍に何人かいる、彼等は無事だっただろうか?
何はともあれ、戦いはまだまだ続く。 今後も危なっかしい上官の手綱を引いて、年少の僚友の気分を奮い立たせて。

(―――あら? 今まで通りね?)

急に可笑しくなった。









8月15日 0225 大阪湾 帝国海軍第1艦隊旗艦 戦艦『紀伊』


『陸軍中部軍集団司令部より入電。 全部隊、所定位置に退避完了』

『観測データ、入りました。 CIC、及び主砲射撃指揮所への転送完了』

『気象データ、気温29.8℃、湿度70.5%、北北東2m/s・・・』

砲撃準備が着々と整いつつあった。 大阪湾に遊弋する日米の大艦隊が、その最後の砲撃を行う為に。

「参謀長、全艦艇、攻撃準備整いました。 米第7艦隊より入電、『砲撃準備よし』―――以上です」

通信参謀の報告に、参謀長が無言で頷く。 時計を見る、最後の攻撃開始予定は0230。 丁度5分前。 海軍の伝統、『何事も、5分前に』か!
そして傍らの司令長官―――帝国海軍最強の第1艦隊を率いる上官に告げる。

「長官、攻撃開始、5分前です」

その言葉に、司令長官―――近藤信武海軍大将も無言で頷く。 そして短く言った。

「・・・砲撃、開始」

声色には万感の揺らぎが感じられた、と思ったのは、参謀長だけでは無かった筈だった。









8月15日 0230 大阪府 帝国陸軍八尾基地


命からがら、何とか部隊を纏めて淀川の南岸に到達した。 その後は第9軍団司令部の命令によって、混成3個大隊はこの八尾に移動した。
最後の撤退戦(信じ難い事に、八幡周辺のBETA群は逆襲に転じ、中央を割られた第7軍団主力を無視して、京都市内に突入して行った)を何とか生き延びた。
今こうして基地のハンガー脇に仮設された士官室で、皆死んだようにヘタっている事が信じられない程だった―――最も他の部隊はまだ、第1級警戒態勢だったが。

「・・・生き延びた、な」

「何とかな、今の所はな・・・」

隣のソファで両足を投げ出して、大仰に息をつく圭介も、顔色が土色だ。 多分俺もそうだろう。
木伏さんは部屋の隅でソファをひとつ独占して、死んだように身動きもしない。 和泉さんと三瀬さんが、1台のソファベッドに2人で寝転がっている。
向うでは美園と仁科が力尽きて、床に毛布を敷いて倒れ込んでいた。 目前のソファに座った愛姫が、隣の緋色にもたれかかって眠っている。 緋色もだ、死んだように動かない。

思えば8月12日の六甲山系東部での(失敗した)逆撃作戦以来このかた、まともな休息など取っていなかった。
部下達には事ある毎に機会を見つけて、無理やりにでも休息を取らせてきたが、指揮官はその間にもやる事が多かった。
実に2日半ぶりに、こうやって体を休めている。 他の皆も似た様なものだった。

誰も、何も言わず、ただただ体を休めている―――それが必要なのだと、義務の一つなのだと。

突然、彼方から途方もない轟音が鳴り響いた。 同時に無数の甲高い飛翔音。 全員が直ぐ様、目を覚ました。 ばね仕掛けの人形の如く、勢いよく飛び起きる。
俺も含め、士官室に居た将校―――全員が中隊長の大尉―――が目にした光景。 輝く炎を引きながら、超高速で飛び去る無数の誘導弾。
それが見えなくなった一瞬後、腹に響く震動と重低音、そして爆発音が連続して発生した。 方角は―――京都だ。

「・・・海軍が、最後の砲撃を開始しましたよ」

暗闇の中から、葛城君が姿を見せ、呟いた。 後ろには佐野君と間宮も居る。 予備隊に回っていた3人だ。

「琵琶湖の戦艦群も、砲撃を開始したと連絡がありました。 その後で伊勢水道を脱出すると」

「最初は米艦隊だそうですが。 まあ、ここまで良く付き合ってくれましたよ・・・」

間宮が夜空を見上げながらそう言い、佐野君が疲れた表情で言う。
皆が夜空を見上げる。 相変わらず大阪湾の方角から誘導弾が飛び去ってゆく。 一体どれだけ撃ち込むつもりだろう?

不意に誘導弾の嵐が途切れた。 一瞬の静寂。 その直後、湾の方角から轟音が聞こえた―――戦艦主砲の発射音だ。

数秒後、京都の方角に夜目にも鮮やかな白球が立ち上った。 音は静かだった。


「ふっ・・・ ふぐっ・・・」

最初は誰がか判らなかった。 周りを見渡し、見つけた。 緋色が―――無言で、唇を噛みしめながら、大粒の涙を流してその光景を正視し続けていた。

「ぐっ・・・ うっ・・・ ぐふっ・・・」

故郷、愛しい人達、懐かしき想い出。 人として持つ、心の奥底の不可侵の背景。 
それが今や、戦艦主砲弾搭載型と言う、特大級のS-11弾頭の炸裂で喪われたのだ。

「うっ・・・ ううっ~・・・」

愛姫が、その肩にそっと手を添えていた。





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