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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/22 22:45
『中部軍集団 戦闘経過詳細 1998年8月14日
1650 中部防衛線 第7軍団、八幡市方面侵攻BETA群、第8派、撃退。
1710 北部防衛線 第1軍第2軍団第37師団、老之峠一部突破される。
1725 南部防衛線 米海兵隊第3師団、日本海軍連合陸戦第3師団、北上行動開始。
1805 中部防衛線 BETA群侵攻第9派、2万2000。
1815 中部防衛線 米25師団後退。 男山周辺戦力、孤立。 全周陣地防御戦闘開始。
1855 北部防衛線 西京区が戦場となる。 西北山岳地帯、一部に光線級出現。 将軍家脱出開始。 斯衛第1聯隊、光線級に大損害。 一時退避。
1915 大阪湾の艦隊、最大射程で砲撃支援再開。 琵琶湖の戦艦部隊、主砲一斉射撃開始。 大阪湾・伊勢湾の母艦戦術機部隊、全力出撃開始。
1940 中部防衛線 第7軍団、逆撃開始。 海兵隊第3師団・海軍連合陸戦第3師団、戦域突入。
1955 北部防衛線 第1軍、山岳部奪回作戦再開。 支援の母艦戦術機部隊、大損害。
2025 中部防衛線 米海兵第3師団、男山到達。 海軍連合陸戦第3師団、淀川渡河。 北岸の突破阻止に成功。
2035 北部防衛線 老之峠が完全に突破される。 京都市内戦開始。 山岳地帯は依然、奪回戦闘中』










1998年8月14日 2040 京都市内西部 第1軍司令部


土煙が上がった―――次の瞬間、地響きと共に押し倒された建物の構造材が宙を舞いながら、瞬く間にその幅を広げる。
そして信じがたい速度で『それ』が近づいて来る。 『それ』の下には異形の集団―――死と破壊のレギオン、BETA群が見え隠れしていた。

『BETA群、市内に侵入! 既に桂を抜かれました、BETA群主力約2万が西五条通で桂川を渡河! 西京極に侵入しました!』

『BETA群別動群、約8000、132号線を北上中。 太秦に達しました!』

『第1師団、葛野七条から西大路七条にかけて、七条通に展開完了。 阻止砲撃開始しました!』

『禁衛師団、天神川四条から西院(さいいん)の四条通に展開。 第3師団主力、天神川五条を中心に西大路通に展開を完了。 接敵しました!』

『第2軍団、第6師団が太秦方面、有栖川から帷子ノ辻(かたびらのつじ)に急行中! 第37、第51師団、天神川三条から太秦広隆寺にかけての三条通に展開しました!』

『斯衛第1聯隊第11、第16大隊、西院から西大路三条に展開。 後詰に入りました!』

『第2師団、洛西口に展開。 BETA群南下に備えます』

『第2軍第7軍団より入電! 中部防衛線淀川北岸の突破阻止に成功! 第40師団、向日市に北上展開しつつあり!』


BETAがとうとう、京都市街地へと侵入し始めた。 第1軍は保有する戦術機戦力と、機械化歩兵装甲部隊戦力の大半を、山岳地帯奪回作戦に投入。
そして山岳部での行動に適さない戦闘車両、機械化歩兵部隊と斯衛を主力とする戦術機部隊を市街地防衛に充てた。
戦略上の幸いと言うべきか、BETA群は亀岡から西京区へと侵入した後、山岳部を目指さず平地に溢れかえった。

さながら津波の如くビルや工場、住居を押し潰しながら突進を続けている。 その為に侵攻速度は僅かながらも低下していた、第1軍各部隊の展開が間に合ったのはこの為だ。
もっとも戦略上の幸運は、必ずしも戦術上の幸運とは成りえない。 よりによって市街地での対BETA戦闘を余儀なくされた第1軍司令部は、内心盛大な罵声を吐いた後、下命した。

―――『絶対死守!』と。

戦術機部隊の数は少ない、斯衛第1聯隊の2個大隊。 そして半減以下となった第2師団の生き残り。 残る6個師団から各1個大隊。 都合、9個戦術機甲大隊。
それだけが頼みの綱だった。 17個戦術機甲大隊が、BETAに奪われ光線属種が居座る山岳部の奪回作戦に投入されていたのだ(第1、禁衛両師団は甲編成師団で、3個戦術機甲連隊基幹)
第2師団の残余は、京都市内南部の抑えとして動かせない。 九条から十条の辺りを抜かれてしまえば、現在将軍家が避難している御稜まで直ぐに東進されてしまう。
斯衛第2聯隊は、大阪との境に位置する山岳部防衛に投入した。 あそこを守らねば、今度は南西方向からも光線級のレーザー照射を喰らってしまう。


轟音が木霊した。 市外東部に布陣した砲兵旅団群が、全力面制圧砲撃を開始したのだ―――京都市内に向けて。










2100 京都市右京区 四条通前付近


『第1中隊、外大校舎に陣取れ。 第2中隊は東のマンション、第3中隊は四条通南の車備品屋だ。 重迫中隊はマンション北側の駐車場跡、対装甲中隊は四条通東』

大隊長の声が85式携帯無線機から聞こえる。 布陣状況からして、どうやらここでキル・ゾーンを作って殲滅、と言うのが大隊長の腹積もりらしい。
照明弾がひっきりなしに打ち上げられている。 ゆらゆらと発光しながら、ゆっくりと周囲を照らして落ちてゆくその光に照らされた街並みは、まるでゴーストタウンだ。
周囲を見渡す、夜の帳が落ちた街はどこもかしこも瓦礫だらけだ。 夜の闇の中に、黒々と倒壊した建物の残骸が横たわっている。
背の高いビルは当然の事、一般住宅まで引き飛び、更地にされていた―――帝国軍がそうしたのだ。
ただでさえ、通りが入り組み行動の自由度が極端に低い京都市内。 そんな場所で機動戦闘など出来はしない、『都市は軍を飲み込む』の良い凡例になってしまう。
第1軍司令部はそう判断し、BETA群の市内突入が避けられないと判断した時点で、戦略予備の砲兵部隊群に対し、BETA針路上へ大量の砲弾を撃ち込ませた。
直撃によって倒壊するビル、吹き飛ばされる住居。 かつて『日常』が営まれていたその場所、場所には砲弾の暴風が吹き荒れ、吹き飛ばし、なぎ倒していった。
住民は避難した後の無人の街区だったが、自らの手で守るべきその情景を破壊する事は流石にいい気分では無い。 しかし、やらねばスペースの確保も出来ない。
軍は敢えて更地を作る事によってその場所にBETAを誘引し、予め配備しておいた部隊でキル・ゾーンを形成して殲滅しようとしていた。

(・・・果たしてBETA共が、素直に誘引されてくれれば、良いのだがな)

第1中隊の中隊長は、壊滅したかつての街並みを眺めながら、内心でそう呟いた。 誘引してくれなければ困る、折角潰して作った場所だ。
これで役に立たなければ、銃後の国民に何と言って詫びればいいのか判らない―――例え、BETAの腹の中に収まる予定の街区で有ろうと。

既に南の方では機甲部隊、機械化装甲歩兵部隊が接敵を始めた。 第1中隊が陣取った外語大学の校舎からも、戦術機や機械化装甲歩兵が噴射跳躍で瓦礫を飛び越す様が、噴射炎で判る。
不意に甲高い音が連続して聞こえた、隣接する第2戦車大隊の90式戦車がL44・120mm滑腔砲を発射したのだ。 方向は南東、突撃級が10体程節足部を撃ち抜かれ、往生していた。

「中隊長、各小隊配備完了」

不安も恐怖も見せない表情で、中隊先任曹長が落ち着き払った声で報告して来た。

「ご苦労。 どうだった? 連中は?」

「まあ、普通ですな。 普通に、適度に怯えております。 ですが、恐慌をきたす者はおりません。 いけますな」

過度に恐怖を持たず、過度に実戦を侮らず、適度の恐怖感と緊張感を維持して目前の戦場を正視している。 うん、良いじゃないか。
それでこそ、禁衛師団。 帝国陸軍全軍から選抜された最精鋭部隊、中隊長の過去の実戦歴から見ても、恐怖感と緊張感の無い兵隊は直ぐに死ぬ。
その辺、禁衛師団は安心出来る。 主に大陸派遣軍帰りの連中を中心に再編制され、より実戦的な猛訓練で音に聞こえた師団だ、対BETA戦を知る者が多い。

「どうやら、四条通と葛野大路通の交差付近をキル・ゾーンにする腹積もりらしい、大隊長は」

「戦車隊と自走高射部隊が、天神側四条と西小路四条の二手に分かれましたからな。 残る1個中隊が山ノ内池尻まで真っすぐ下がりました」

先任曹長の報告も、想定を裏付けるものだった。 戦車、自走高射砲、機械化歩兵、各1個大隊でキル・ゾーンを形成し、南から抜けてきたBETA群を殲滅する。
勿論、厄介な大型種は最前線で戦術機部隊が相手をしている。 戦車級なども機械化装甲歩兵が、あの暑苦しい強化外骨格を装着して相手取っている。
この戦闘団の任務は、最前線から抜け出た小型種の掃討。 大型種への対応の為、念の為に戦車1個大隊が付随している。

背後から空気の抜ける様な発射音が聞こえた、大隊重迫中隊の120mm迫撃砲が射撃を開始したのだ。

『大隊本管より各中隊、BETA群、高辻葛野大路交差点付近を北上中! 突撃破砕射撃、開始!』

「ッ! 迫撃砲、撃ち方始め!」

「迫撃砲、撃ち方始め、了解!」

大隊の重迫程ではないが、それでも小型種相手には十分に威力を見込める中隊迫撃砲小隊のL16・81mm迫撃砲がBETA群に向け、砲弾を発射し始めた。
第2、第3中隊も同様に突撃破砕射撃を開始する。 崩れ落ちた建物の瓦礫に半ば埋まった大通りの向うに、着弾の白煙が立ち上る。 あっという間に数十本に達した。

「・・・ありゃあ、いけませんな。 突撃級が2体、先頭にいやがります。 もっと着弾点を後ろに持って行かんと」

「1中より大隊本管、先頭に突撃級2体。 着弾点、上げ2(200m)」

双眼鏡を除きながら呟いた先任曹長の言葉を、中隊長は即時大隊本部への状況確認報告と弾着修正要請として伝える。
同時に部下の迫撃砲小隊長へ、弾着修正を行うように指示する。 やがて迫撃砲弾の弾着位置がやや後方に伸びた―――小型種が千切れて宙に舞う様が確認出来た。
よし、後は・・・ キャタピラの音が急に大きくなった。 北側に位置していた戦車中隊が全身を開始したのだ。 途端に甲高い戦車砲の発射音が響く。
感覚的には殆ど同時に、突進を続けていた突撃級BETAがつんのめる様に停止した。 1体は右によろけて、無人となった半壊したビルに突っ込む。

停止した2体の間隙から、戦車級を含む小型種BETAの1群が飛び出してきた。 凡そ500体。 距離にして300m。
四条通の左右に布陣した戦車2個中隊の90式戦車が、榴弾を撃ち込む。 自走高射中隊から87式自走高射砲が35mm機関砲弾を叩き込んだ。
同時に交差点脇に配置していた中隊の89式装甲戦闘車からも35mm砲弾が吐き出され、96式装輪装甲車から96式40mm自動擲弾銃から、40mm擲弾が連続発射される。
距離が近づくにつれ、やがて89式小銃や分隊支援火器・MINIMIの5.56mm銃弾も加わった。 大小の火力が、前方あらゆる方向からBETA群に降り注ぐ。
胴体を千切られて倒れ込む兵士級BETA、榴弾砲弾に吹き飛ばされ、粉々になる戦車級BETA、高初速35mm砲弾に霧散される闘士級BETA。

少なくとも今、この場では人類側が優勢な戦いを展開していた。 

『大隊本管より1中! そこを店じまいしろ! 急いで三条まで抜けて二条へ急行するんだ! 第3師団から通報だ、西院の巽町辺りで小型種が少数、北へ浸透した!
付近の住宅やビルの『掃除』が終わっていない地区だ、どの辺まで進んだか判らん! 第3師団と野戦憲兵隊からも各1個中隊を急派する、御池の付近で合流しろ。 将軍家居城に行かせるな!』

思わず内心で激しき舌打ちする。 あの辺は第3師団の受け持ちだ、あの連中は小型種の相手すら、満足に出来んのか!?

「1中より本管、了解―――先任曹長! 店じまいだ! 三条の御池辺りで合流して二条まで急ぐ、5分でやれ!」

「判りました、3分でやります―――貴様等ぁ! とっととケツを上げろ! ズベっている奴は、BETAの口の中に放り込む! 急がんかぁ!」










1998年8月14日 2125 『帝都』 将軍家居城


「にょ、女官長! お、お急ぎを・・・!」

部下の女官の声が青ざめている、当然だろう、報告によればBETA共が帝都内にとうとう侵入して来たと聞く。

「そなたはよい、早う斯衛の者共と共に、脱出致せ」

「し、しかし・・・!」

「良いのじゃ、ここは私一人で良い。 これ、早うせぬか。 誰ぞ、この者を!」

その声に応えてやって来たのは斯衛軍では無く、意外にも帝国陸軍の者達であった。

「・・・斯衛は、如何した?」

「全部隊、市内防衛に出撃しました。 我々は第1軍野戦憲兵隊です、司令部より将軍家居城に残留している方々の保護を命じられております」

「・・・左様か。 ならば、良しなに」

皮肉を感じないでもない。 常日頃から水面下では激しく衝突を続けている斯衛と軍部、それも正面装備の取り合いで上層部は実は不仲の斯衛と陸軍。
本来、この城の警護を務めるべき斯衛が全て、『帝都』の防衛戦闘に出払っており、今ここに居る者は陸軍の、しかも憲兵とは―――いや、憲兵は国家憲兵隊の所属であったか。
いずれにせよ、本来はこの城に在ってはならぬ者共。 しかし今の状況では、他に頼る者も居ない。 誇りだの、矜持だのと言ってみても、戦時では所詮軍部の指揮下で戦うより他無し、か。

部下の女官を、数名の野戦憲兵隊員に託し避難させる。 今ならまだ間に合う筈だ、御城の直ぐ南には、普段は将軍家や摂家、城内省高官と言った人々専用の地下鉄駅がある。
そこからならば、今現在殿下がご避難されている御陵まで路線が走っている、まだ動いている筈だった。 そこから山科まで行けば、大津までは逢坂の関を越すだけ。
大津から名神、そして山間部の新名神まで逃れれば、安心だ。 後は伊勢水道の途中で海軍の用意した艦艇に座上して頂く。 伊勢湾から洋上で『新帝都』まで。

西の丸御殿の大広間を抜け、式台の間を足早に。 表向きは平静に、しかし内心は未知の不安と恐怖と、責任感。 そしてなにより母性本能を隠しつつ進む。
とうにこの城を脱出した筈の文官―――それも、奥向きの女官が未だ将軍家居城に居残っている訳。 いや違う、戻ってきた訳。
神楽静子女官長は有る『モノ』を探しに戻ってきた。 場所は判っている、彼女の『姫さま』が脱出時の慌ただしさ故に、それすら持ち出す事を許されなかった為だ。

帝都の臣民の多くが、着の身着のままで脱出を余儀なくされ、己が家屋敷はおろかその財さえ碌に持ち出せなかった。
あまつさえ、作戦上の都合とはいえ軍はその家々を破壊しつつある。 そんな臣民の悲嘆を思えば、己が『ささやかな』我儘は一顧だにするべきでは無い。
政威大将軍―――女官長の『姫さま』はそう言った。 ならば自分が『それ』を取り戻そう。 この国の権力機構から『道具』として扱われ様が、心の支えは絶対に必要なのだから。
やがて目的の場所の前室、かつて己が執務室でも有った黒書院の間に入った。 そこで背後を振り返り、付き従う憲兵隊員―――重武装野戦憲兵隊―――に言う。

「そなたたちは、ここから先へ入る事は許されませぬ。 ここで暫し待つが良い」

「・・・我々の任務は、女官長殿、貴女の身辺警護で有ります」

鋭い視線の憲兵中尉が、無駄と知りつつ一応の『申し出』を行う。 しかし神楽女官長は首を縦には振らなかった。

「駄目じゃ。 この黒書院から先の白書院までは、ほんの1間(約1.8m) 何かあればすぐにこちらへ逃れられよう。 案ずるな、数分も有れば済む」

黒書院を出て廊下に移り、そして静かに白書院の間の障子を開ける。 つい先刻まで彼女の『姫さま』の居室で有った場所。 そこかしこに残り香を感じる事も出来る。
ほんの数瞬、目を瞑り感傷に浸った後、直ぐに目的のモノを探し始める。 大体がどこにあるかも判っている、本当に大切なものは愛用の手箱に入れている筈・・・ あった。
手箱を手に取り、そっと開けてみる。 大丈夫だ、有った。 それは外見が奈良の『身代わり猿』に似ている、群青と白の小さな人形。 幼児のお遊びの相手。

(・・・姫さまにとっては、あのお方の代り身同然の・・・)

そっと手箱の蓋を閉じる。 あだや疎かにする物ではない、それは只の人形に非ず、姫さまのお心の具現でもあるのだから。
手元に持った高麗組の伊賀組み紐で、大事に、そして確実に手箱を結ぶ。 そしてその手箱をそっと持ち上げ、胸に抱く。 まるで我が子の様に。

(・・・?)

不意に気配を感じた、室内を見回す―――誰も居ない。

「気のせい・・・ か?」

不意に庭に面した壁が崩れた、思わず振り返った視線の先には・・・ 禍々しい、見た事もない凶悪で醜悪な存在が、こちらに向かってゆっくり歩み寄って来ていた。

「あ・・・ ああ・・・」

(な、なんじゃ、『これ』は・・・!? 一体、何なのじゃ・・・?)

軍人でも無い神楽女官長は、当然ながらBETAに関する知識は無い。 そして近づいて来るその存在―――兵士級BETAの姿形さえ、知らなかった。

「あ・・・ ああ・・・・」





突然、大きな音が白書院から聞こえた。

「ッ! 突入!」

指揮官の憲兵中尉が先頭に立って、一気に黒書院から白書院に突入する。 そして隊員が手にしたM4A1カービンの銃口を向けつつ目にしたのは、蠢く1体の兵士級BETA。 
そして両脚を食い千切られ、畳を大量の鮮血に染めて倒れ伏す神楽女官長の姿だった。  『撃て!』 咄嗟に隊長の憲兵中尉が命令を下す。
至近距離からのフルオート射撃で、9丁のM4A1カービンから5.56mm NATO弾が吐き出される。 20発入りの弾倉が瞬く間に空になると同時に、兵士級BETAが倒れた。
訓練された条件反射で弾倉を交換しながら、憲兵中尉が倒れ伏した女官長に寄る―――駄目だ、太股の大動脈を食い千切られている、それにショック状態が酷い。

「こ・・・ これ、を・・・」

辛うじて声を絞り出した女官長が差し出したもの。 見事な彫刻が表面に彫られた優美な装飾の手箱だった。

「こ、これを・・・ で、殿下に・・・」

息も絶え絶えに、そう言う。 憲兵中尉はまるで聖上からの御下賜を賜るかの如く、真摯な態度と表情でそれを受け取った。

「・・・必ずや。 ご安心を」

「よ・・・ よしな・・・ に・・・」

そう、小さな声で神楽女官長が微かに微笑みながら言ったその時、部下の大声と射撃音が被さった。

「小隊長! 兵士級BETA、3体接近!」

見れば中庭の向う、土塀が崩れている。 恐らく市内防衛部隊の防衛網を掻い潜ってきた個体だろう、3体の兵士級BETAが急速接近中だった。

「グレネード!」

憲兵中尉の声と同時に、M4A1に装着されたM203 グレネードランチャーから40×46mmグレネード弾が発射される。
一瞬の間をおいて、5.56mm NATO弾が吐き出された。 3体の兵士級BETAは全身に数10発の5.56mm弾と3発ずつのグレネード弾を浴び、ようやく倒れる。

「撤収する! 即時撤収開始!」

部下達が無言で、しかし即座に反応し行動を始める。 訓練が行きとどいている、練度の高い部隊の証拠だ。 傍らの小隊軍曹が、小声で確認する。

「・・・あのお方、あのままで宜しいので?」

「既に、お亡くなりになっている。 ご遺体を運ぶ余裕は無い、了解して頂く」

それに―――倒れ込み、最早ピクリとも動かなくなった女官長を見下ろす。 それに、この場は多分この女性にとって、最も相応しい死に場所なのではなかろうか?
己の最も大切な何か。 命であり、家族であり、そして愛する者であり、それ以外の何か全生命を掛けるに値する何か。 多分ここにはそれが有ったのだと思う、この女性にとっての。

「・・・死に場所を得た者は、或いは幸運か・・・」

「は? 何か?」

「・・・いいや、何でも無い。 それより急ぐぞ、この調子では市内には『はぐれ』の小型種が結構いそうだ。 『御城の駅』の入口を何としても死守する―――禁衛と3師団は?」

「了解です。 駅周辺を警戒中です」

撤退するその寸前、憲兵中尉は一瞬だけ後ろを振り返った。 壊れた壁から差し込む月明かりに照らされた女官長の遺体が、そのまま昇って行きそうな気がしたからだ。
何を馬鹿な事を―――そう内心で自分を叱責し、野戦指揮官の顔に戻った憲兵中尉は遺体に向かって敬礼した後、部下と一緒に駈け出した。 手箱だけは、何があっても丁寧に抱きながら。










2145 大阪府高槻市北部 


『・・・どうやら向う(京都西部山岳奪回作戦)は、カタがついた様だ』

通信回線に上官の声が流れる。 その声を聞きながら、本当にカタを付けるのは、むしろこれからだと、周防直衛大尉は内心で毒づいていた。
17個戦術機甲大隊を投入し、一気に短時間で山頂を奪回した事はいい、それは戦術的に頷ける―――代わりに、京都市内のかなりの所まで、BETAに押されてしまった事を除けば。
戦術MAPを呼び出す。 現在の戦場の様子は、京都市内の西半分近くまでをBETA群に差し込まれている。 但し、北と西の山間部は第1軍が確保していた。
光線属種はまだ市内に侵入してきていない、こればかりは助かる。 山頂付近で下から狙い撃ちされては、逃げ場が無い。
市内南部では巨椋池を挟み、米海兵第3師団と海軍連合陸戦第3師団、そして第9軍団混成戦術機甲大隊2個の増援を受けた第7軍団が、何とかBETAの京都市内突破を阻止している。

「いよいよフェイズⅡ最終段階、そしてフェイズⅢへ移行・・・ ですか」

周防大尉の言葉に上官―――宇賀神少佐が、精悍な顔立ちを引き締めて頷く。 京都防衛戦、その総仕上げの時が近づいてきたのだ。
現在、この付近の山岳地帯防衛に当っている戦力は斯衛が1個連隊(第3、第9、第14大隊)で戦術機は『瑞鶴』が89機。
そして海軍第217機甲戦闘団(賀陽正憲中佐指揮)の『翔鶴』が29機と、第215戦術機甲戦闘団(宮野慶次郎少佐指揮)の『流星』が32機。 総計150機。 
その戦力が明神ヶ岳、黒柄岳からポンポン山、釈迦岳にかけて広く分散配備されていた。  そしてその山麓に布陣するのが、陸軍混成3個戦術機甲大隊と海軍2個機甲戦闘団。

『兎に角も周防、ご苦労だった。 後ろに下げてやりたいが、生憎余裕が無い。 貴様、そのまま第1大隊に入れ、第4中隊だ』

「了解です。 しかしウチの中隊だけ機種が異なります、どの様に?」

『大隊の突破戦力は、木伏の中隊に任す、もっとも突破戦闘などせぬがな。 両翼の源と三瀬との間隙を、後ろから塞げ』

「・・・支援戦闘は、久々です。 最近は先陣ばかり切っていましたので」

『ああ、そうなのか。 しかし、出来るだろう?』

「国連軍時代に。 判りました、遊軍もたまには良いですよ」

『間違っても、突っ込んでいくなよ? 貴様の中隊は定数を割っている。 まあ、今更言わんでも・・・ だろうが』

それだけ言って、宇賀神少佐が通信を切った。 
第7軍団の『逆撃』によって孤立状態から脱した後、『国連軍』に貸し出されていた2個中隊(1個中隊欠)が本隊に復帰した。
もっとも14師団、18師団の混成部隊故に、便宜上、周防大尉の中隊が第1大隊第4中隊に。 美園大尉の中隊が第2大隊第4中隊に、それぞれ臨時編入された。

(・・・他の連中も、それぞれ本隊に合流出来たか)

オーガスト・カーマイケル米陸軍大尉の中隊は、『居候』先の米第25師団に。 曹徳豊大尉の中隊は、台湾軍第251機甲旅団に。
趙美鳳大尉、朱文怜大尉の中隊は中国軍第331機甲旅団に復帰、周少佐も旅団司令部に復帰した。 それぞれ何とか生き残った。 カーマイケル大尉以外は南部戦線へ移動した。
(忌々しい事に、羅蕭林中佐も無傷で中韓合同司令部に復帰した。 第7軍団司令部から、増援に対する謝意を受けて、だ!)

目前に布陣する中隊が見える、機体は94式『不知火』 定数は充足しているのか、12機揃っている―――木伏大尉率いる、第1中隊だ。
心の中に僅かなわだかまりを感じる。 左翼第2大隊の先頭に位置する第1中隊は、1期先任の和泉沙雪大尉が率いている。 本来なら、あの場所には・・・
大きく息を吸い込み、無意識に両手を顔に当てながら長く息を吐き出した。 暫くそのままで沈思する。 やがてゆっくり目を開き、操縦スティックを握り直した。

(『―――周防、この馬鹿。 甘ちゃんだねぇ、幾つになっても、アンタは!』)

脳裏に自分を叱りつける姿が浮かんだ、確かにそう言いそうだ、あの人だったら。 それに、自分はもう一体何年、戦場で人の生き死にを見てきた?
一体どれだけの戦友の死を、見続けてきただろう。 一体どれだけの部下の断末魔を、聞いてきただろう―――生死自体に意味は無く、そのプロセスとリザルトだけが意味を持つ。

(・・・感傷は断ち切れ。 より良き結果の為の行動と、その方法に集中しろ。 そして―――生き残れ)


『―――周防、あと5分で最終段階に入る。 しかしそれからが本番だ、我々はこの戦力しか無い。 済まぬが支援、宜しく頼む』

大隊指揮小隊の指揮官―――今現在、大隊副官をしている神楽大尉から通信が入った。 網膜スクリーンに見慣れた強化装備姿の女性衛士の姿が、ポップアップして映し出された。
神楽緋色大尉。 本来は第18師団第12中隊長だが、現在は混成第1大隊副官・兼・指揮小隊長を務めていた。

「・・・緋色、ひとつだけ教えてくれ。 広江中佐の容体は?」

14師団も18師団も、かなりの損害を受けた、上級指揮官とて例外ではない。 周防大尉の直属上官である荒蒔少佐も負傷したが、比較的軽傷で有ると聞いた。
ただ第1大隊長―――広江中佐の負傷度合いは、『国連軍』に貸し出されていた間の事なので判らない。 公私に様々に恩義のある人だ、気にかかる。

『・・・全治、6か月。 師団の軍医はそう診断した。 詳しくは後方の軍病院に収容された後でないと判らぬが、負傷の様子からそう想定したとの事だ。』

「6か月―――戦術機は、もう無理なのか?」

『判らん、私は軍医では無い。 ただ・・・』

「ただ?」

『例え戦術機を降りようと、あの人は帝国陸軍の戦術機界にとって、必要な人だ』

2人の大尉の視線がぶつかる。 数瞬後、周防大尉の方が折れた。

『・・・判った、由もない事を聞いた。 支援は任せてくれ、先任達の戦闘指揮の癖は判っている』

「助かる。 今更ながらだが、貴様と美園が無事に復帰してくれて、ホッとした―――木伏さんは、何も言っておらんがな・・・」

少し気弱になっているな―――周防大尉はスクリーンに映る相手を見て、そう直感した。  恐らく神楽大尉にとっても、長らく精神的な支柱だったのだろう、水嶋大尉は。
そして思い返してみた。 本国から補充でやって来た新任当時の、大陸派遣軍時代の事を。そして初陣の衛士達が恐ろしい程の勢いで消耗し、戦死して行った事実を。
自分達が『死の8分』に称される、BETAとの最初の戦いの試練を無事に乗り越えられたのは、無論自分自身の運もあろう。 しかしそれだけでは無かった。
自分達の様に新米少尉時代から戦場を歴戦し、生き残って来た所謂『戦場叩き上げ』とは、叩き上げてくれた上官や先任がいてこそなのだ。
彼等はBETAとの戦闘をこなしつつ、そして後任のフォローや部隊指揮をもこなしてきたのだ。 全く称されて然るべき、そして今は自分達が。

「緋色、お互い思う事は山ほどあるな? しかしそれは後だ、後回しだ。 兎に角、支援は任せてくれ、何処をどう押さえれば良いかは察しがつく。 大隊の背中は安心していい」

『・・・それは、有り難い話だな。 それと、同期生と言うのは、厄介なものだな! 内心を見透かされていると言うのは!』

「だからな・・・ 最後まで足掻こう。 『最早これまで』などとは、考えないでな。 そんな贅沢は許されない、許される状況では無い」

『うむ、まさに。 それこそ、新任当時に戻って嫌という程、『修正』されるからな!』

帝国陸軍には、状況が切羽詰まってしまうと『吶喊!』をかける指揮官の比率が多い傾向がある。 そしてその傾向は、本土防衛軍で更に高まる事が判った。
かと言って今回、それを容認する気はお互いさらさらない。 容認してしまえば最後、いざという時に自分の周囲が丸裸になる。
フェイズⅡ最終段階から、フェイズⅢまで。 何とかして背後の、この山岳地帯を守り抜かねばならない、少ない戦力で。 思考停止の吶喊など、そんな贅沢が出来る境遇では無いのだ。

≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! 現在2150を以って、フェイズⅡ最終段階、発動しました!≫

―――来た。

と同時に、全方向から全制圧砲撃が開始された。 それまでの、目標を絞っての制圧砲撃では無い。 ほぼ戦域全域に対して、能限りの砲弾が撃ち込まれ始めた。
同時に立ち上るレーザー照射、そして空中爆発、発生する重金属雲。 夏の夜空に禍々しい影を落としながら、次第に夜空一面に広がってゆく。

と同時に、全方向から全制圧砲撃が開始された。 それまでの、目標を絞っての制圧砲撃では無い。 ほぼ戦域全域に対して、能限りの砲弾が撃ち込まれ始めた。
同時に立ち上るレーザー照射、そして空中爆発、発生する重金属雲。 夏の夜空に禍々しい影を落としながら、次第に夜空一面に広がってゆく。

≪CPよりリーダー! 前面3500、BETA群約750、接近中!≫

「渡会、光線級は? 重光線級位置、知らせ」

≪光線属種の位置、A群、茨木市北部、重光線級約80、光線級約120。 B群、枚方市南部、重光線級約100、光線級約130―――当方を照射認識する個体は、現在検知せず≫

「了解した。 摂津、四宮、西側の河川敷から前面に出る。 気を付けろ、光線属種の位置からすれば気付かれれば最後、格好の的になる」

『楽しい遊び場ですよ、まったく!』

『大陸や半島では、よくあった事ですね』

「拙いと思ったら、西側の稜線の陰に入れ。 そこなら陰になってレーザーは届かない」

『混成第1大隊、島本から南へ押し戻すぞ! 高槻市北部の山麓地帯を確保する、続け!』

混成第1大隊の戦術機、『不知火』40機と『疾風弐型』9機が跳躍ユニットを一気に吹かして水平噴射跳躍に入った。 次いで第2大隊の『不知火』48機と、第3大隊の『陽炎』40機も。
先任達が指揮する3個中隊が先行して水平噴射跳躍に入り、そして瞬く間に接敵した。 周防大尉は僚隊の動きを確認し、最後に直率中隊の投入ポイントを見極める。

「中隊全機、西南方向、距離500。 公園墓地の下を確保しろ、≪ガンスリンガー≫と≪ブリューナク≫の間隙を埋める。 そこから先には通すな―――叩け!」

最後の1個中隊―――周防大尉直率の92式『疾風弐型』が9機、市街の残骸を飛び越え、全力でパワーダイブに入った。
左右の気色が猛烈な勢いで視界の後方に流れる。 僅か数kmの距離、あっという間に地表が、そしてBETA群が迫る。

「―――誘導弾」

『07、FOX01!』

『09、FOX01、ファイア!』

2機の制圧支援機から、誘導弾が数10発全弾発射される。 数瞬後、BETA群の先頭を蠢いていた戦車級の一群が文字通り吹き飛んだ。
噴射パドルを全閉塞、同時に逆噴射パドルを全開にして落下速度を殺し、意外な程丁寧な着地を決める。 
同時に突撃砲をBETA群に指向し、120mmキャニスター弾と36mm砲弾を撃ち込む。 左右からは曹大尉と韓大尉の中隊が、側面からの猛射を加えていた。
弾け飛ぶ戦車級BETA。 霧散する兵士級BETAに闘士級BETA。 大型種の居ない、小型種ばかりの第1派と言うのは幸いだった。

「摂津、四宮、突っ込むな、半包囲で包みこめ」

『了解。 小隊、距離150! しっかり守れよ!?』

『判りました。 C小隊、A小隊の左翼100、BETA群との距離150。 間隙を突いて来る個体に注意!』

戦術機甲中隊の兵装は、基本は有るが作戦によって様々に変わる。 日本帝国陸軍の場合は、近接戦闘兵装を選択する指揮官が多い。
しかしこの中隊は指揮官の特色と言うか、帝国陸軍の標準とは少々異なる兵装を選択する事が多かった。 今回も両腕に突撃砲を装備している機体が殆どだ。
火力重視。 野戦では極力、近接格闘戦は行わない。 ハイヴ内では無いのだ、光線属種の脅威が無い、もしくは低い戦場でわざわざ近接格闘戦を行う必要は無い―――指揮官自ら、常日頃広言している。
エレメントを組む事が出来ない為、各小隊は3機1組で戦っていた。 2機が前面に出て、左右を掃討する。 1機はやや後方、前の2機の中間に位置し、撃ち漏らしを掃討している。

『周防! ≪ロスヴァイセ≫の西方に迂回するBETA群、100! 掃討しろ!』

大隊長・宇賀神少佐の声が響く。 見ると、三瀬大尉の指揮する中隊、≪ロスヴァイセ≫の西から一群のBETAが山間部に入り込もうとしていた。

「了解。 中隊陣形、アローヘッド・ワン! 頭を押さえろ!」

前面で阻止戦闘を行う3個中隊の背後を、猛烈な勢いで水平噴射跳躍をかけて移動しつつ、BETAの小集団の動きを見据える。

相対速度、距離、BETAの侵攻方向、中隊の突入角度―――決まった。

「針路このまま、距離500、射角0度、弾種36mm・・・ 撃て!」

9機の戦術機が装備する突撃砲から、一斉に36mm砲弾が吐き出される。 BETA群に向けてでは無く、その進行方向に向けて。
やがてBETA群が前方に張り巡らされた弾幕の中に突っ込むように突進し、瞬く間に砲弾によって霧散した。

『へっ! 戦闘機動中の見越し射撃ってのは、こうやるんだ! 覚えとけ、クソBETA共!』

『霧散しましたから、覚えておけも何も、無いですけれど?』

『気分だよ、気分! 四宮、相変わらずノリが悪ぃぞ!』

『摂津さん、私も四宮さんと同意見です』

『瀬間、お前もかよ・・・』

軽口を叩きながらも、周辺警戒を怠らない古参の部下達のやり取りに苦笑する。 そう言えば、この連中を叩き上げたのは自分だったなと―――ならば、もう思うまい。


数分後、約750体の小型種の群れは、原形を留めない腐肉の堆積と化していた。 
視界を東に転じれば、BETA群の主力の方割れ、約1万5000以上が第27師団、第40師団、海軍陸戦第3師団と激戦を展開中だった。
その更に河向こうでは、約2万のBETA群を相手に、第5師団、米海兵隊第3師団、米第25師団、インドネシア第2師団が死戦を展開中だろう。
果たしてどれだけのBETAが、稜線上を目指してやって来るだろうか? 山崎辺りの狭隘な地形を利用した防衛線は、予想以上に機能している様だ。

(・・・だとしたら、蓋をされて溢れかえった個体は・・・)

嫌な予想しか、思い浮かばない。 淀川を南岸に渡るか、それともこっちの稜線上に向けて谷筋を上って来るか、そのどちらかだろう。
その時轟音と共に上空―――東の方向から戦術機群が、低空突撃をして来る様が見えた。 日本海軍の機体では無い、F-14Dが8機。

『ヘイ! ≪フライング・イーグルス≫、VFA-122だ! フェニックスのデリバリー・サービスに来たぞ!―――ところで、どこに配達すれば良い?』

米海軍とて、かなりの被害を受けている筈だ。 それが証拠に12機が定数の筈が、8機しか居ない。

「間抜けな配達員め、住所くらい確認して来い―――知らん、海軍のFACはさっきくたばった様だ。 兎に角そこら中、大騒ぎだ。 適当にばら撒きな」

『冷たい野郎だ。 まあいい、頭を低くしてな、巻き添え喰らっても知らんぜ!』

次の瞬間、8機のF-14Dの両肩から白煙と共に、大型の誘導弾が発射される。 合計48発のフェニックスミサイルが、前方に群がっていたBETA群に向け殺到した。
そして次の瞬間、大きな花火が炸裂したかの如く、子弾をばら撒きながらBETA群を業火の元に焼きつくした。 クラスター誘導弾―――海軍機による瞬間的な局地面制圧。
フェニックスを撃ち尽くしたF-14Dは上空で急旋回を掛け、さらに高度を落としつつ高速でフライパスして行く。 レーザー照射の被害を極限する為の手段だ。

『・・・毎度ながら、派手だぜ。 それにぶっ放してそれでお終い、と言うのは少し羨ましいと、昔は思っていたよ』

摂津中尉が苦笑する様に呟いた。 実際、陸軍の戦術機衛士の中には、一撃離脱戦法を基本にする海軍戦術機乗りを『チキン野郎』と言う者も少なくない。
しかし実戦を重ねるにつれ、彼らが何を為し得ているのかを理解する。 光線級に睨まれ、そのレーザー照射に怯え、大小を洩らす程の恐怖と戦い生還した連中に、そう言う者はいない。
如何に一撃離脱とはいえ、光線属種に狙われ、レーザー照射警報が管制ユニット内に鳴り響く状況での、低空突撃。 全弾発射まで回避機動は取らない。
海軍母艦部隊の実戦参加頻度が、陸軍部隊のそれより低い理由だ。 一度の実戦で被る損害は、母艦部隊の方が遥かに大きい。
それを承知で、地獄の大釜に突っ込んで支援面制圧攻撃を掛ける。 それで助かった陸軍衛士も多い、歴戦の連中なら誰しも経験がある。

摂津中尉の苦笑は、彼自身が大陸や半島を失う戦いの最中で経験して来た事と、そして理解の上でだ。 陸軍部隊は、海軍母艦部隊より長時間、BETAと向き合って戦うのだ。

『どっちもどっちです、このクソみたいな戦争、戦場はクソだらけですよ。 皆が皆、クソに塗れて死に物狂い』

四宮中尉が、そのお淑やかそうな外見から想像もつかないセリフを吐く。 彼女も大陸派遣軍の一員として戦ってきた経験がある。 
帝国海軍や米第7艦隊は、渤海湾や黄海、日本海での支援も行っていたから、米母艦部隊の戦いは知っている。
そうこうするうちに、次のBETA群の移動が確認された。 CPから報告が入る、今度は少し厄介な連中がいるらしかった、渡会少尉の表情も緊張している。

≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! BETA群1100、距離2200! 大型種居ます、突撃級150、要撃級220! まもなく接敵します!≫

『木伏、中央。 源、左翼。 三瀬、右翼そのまま。 大隊陣形、ウィング・スリー。 2大隊! 3大隊! 現在位置!?』

CPの報告と同時に、大隊長・宇賀神少佐の声が響いた。 間髪いれずに、第2大隊・森宮少佐、第3大隊・黒河内少佐の声も。

『第2大隊、現在位置は第1大隊の東北2km! 小型種の群れの殲滅を終えた』

『第3大隊、現在第1大隊の南西1km地点。 海軍の2個大隊は淀川沿いにいるぞ、宇賀神さん』

『結構、大いに結構。 申し訳ないが、付き合ってくれないか? 大型種のお出ましだ、併せて370程居る』

『了解です。 但し第2大隊は1個中隊を稜線上に移します。 水無瀬の辺りから登って来る小型種を確認』

『判った、森宮君。 貴隊の位置、そこから西へ。 名神に沿ってBETA群の後ろを急襲して欲しい。 タイミングは任せる』

その時だった。 待ちに待った報告と、聞きたくもない報告が同時に入って来たのは。

『中部軍集団司令部より、全部隊各級指揮官通達! 2210、将軍家、脱出開始! 繰り返す、将軍家、脱出開始! 
全部隊は現時点より30分間、現在地を死守せよ! 後退は許可されない、現在地を死守せよ!』

≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! 接近中のBETA群1100の後方に、新たなBETA群1800! 更に東よりBETA群が約3900! 接近中!≫

―――BETA群6800、旅団規模。

奇妙に現実から乖離した気分だ。 その様な数、この戦力で対抗出来る訳が無い。 だが絶望しているかと言えば、そう言う訳でもなかった。
逆に、どうやってこの数を相手に戦おうか、そんな事を考えていた―――内心で湧きあがる高揚感も感じながら。

(―――俺はまだ当分、この戦場に身を置けそうだ)

今に始まった訳ではないが、自覚した今となっては妙に変な気分だった。 多分、自分はこの場では、死にはしないだろう。






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