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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/03/08 07:56
1998年8月14日 1820 京都府南部 男山


『くそっ! BETAだ、喰い込まれた!』

『防げ! 弾幕だ、弾幕!』

『残弾僅少! 弾がもうない! 補給は無いのか!?』

『2時方向、小型種多数! 戦車級だ、機関砲!』

『正面の斜面に取り付かれた! 歩兵じゃ対応しきれない! 戦術機、取り払ってくれ!』

『無理だ、向う側に光線級が居る、これじゃ只の的だ!』

『9時方向、突撃級! 突っ込んで来るぞ!』

120mmAPFSDS弾を至近距離で喰らった突撃級が、体液と内臓物を吐き出しながらつんのめる様に急停止する。 36mm砲弾のシャワーが小型種を纏めて霧散させた。
要撃級がその硬い前腕を振り降ろし、戦車の上面装甲をブチ抜く。 乗員はあっという間にミンチか圧死だろう。 その背後から別の戦車が105mm砲弾を叩き込んで仇を討つ。
戦車級が10数体、戦車小隊に群がってきた、最後尾の1輌が取り付かれる。 通信回線に響き渡る悲鳴と絶望の声、やがて聞こえなくなる。
1機の戦術機が短刀を手にして、車輌に取り付いた戦車級の排除しようとする。 瞬く間にその周囲にも戦車級が群がり始め、そして僚機がそれを阻止する為、突撃砲が唸る。

狭隘な地形に戦術機、戦車、自走機関砲、そして機械化歩兵部隊がひしめき合う。 その中に左右からBETA群が突っ込んでは、至近距離で撃破されてゆく。
人類側としても、綱渡り以上の危うさだった。 撃破が半瞬でも遅れたら、あっという間に内部に喰い込まれ、掻き廻されて崩壊する。
男山近辺に『取り残された』第7軍団戦力―――第5師団の一部、米第25師団の一部、海軍第215戦術機甲戦闘団、独立機甲戦闘団の一部は、男山を中心とした全周陣形を張って必死の防御を展開していた。
BETAの『圧力』に抗し切れなくなった米第25師団が一歩後退した後にBETA群に踏み込まれた為、男山周辺の戦力は左翼をBETA、右翼と背後を河川に囲まれた。
更に間の悪い事に、右翼方向の淀川対岸では第20師団が壊滅的な打撃を受け、第27師団と第40師団が守る戦線が、若干後退した矢先の出来事だった。


≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! 淀方面の野戦砲兵群より、全戦域に対し全力面制圧支援砲撃を3分後に開始します!≫

「フラガラッハ・リーダー、了解した。 こっちには、どれだけ割り当てが有る?」

≪軍団直轄の2個砲兵旅団です! あと、米第25師団の砲兵部隊から1個砲兵大隊です!淀川北部に1個砲兵旅団と、各師団の砲兵連隊が支援に当ります!≫

孤立した部隊のひとつ、独機団戦術機甲第5中隊―――帝国陸軍第18師団第22戦術機甲中隊長の周防直衛大尉は、CPからの情報を頭の中で反芻していた。
支援は2個砲兵旅団。 旅団編成ならば5個大隊、その内1個大隊は203SPH―――M110A2・203mm自走榴弾砲8門を装備した砲兵中隊、3個で編成されている。
他の大隊は、第2から第4大隊が75式155mm自走榴弾砲装備で、各大隊27門を装備。  第5大隊は5個中隊編成で、各中隊は9組のMLRSを装備している筈だ。
2個旅団合計で203mm榴弾砲が48門、155mm榴弾砲が162門、MLRSは90組―――大火力だ、編制表の通りならば。
ああ、それに米軍の砲兵大隊? M110A2か? いや、違うだろうな、多分155mmのM109A6『パラディン』だろう、27門。
240門近い自走榴弾砲と、90組ものMLRS。 瞬間投射火力量はかなりモノになる、酷使で砲身摩耗分を含めても、8割は期待出来るだろうか。 190門程の火砲と、80組程のMLRS。

「判った。 おい渡会、下がっておけよ? 今はどの辺に居る?」

≪はい、淀付近です。 真後ろに競馬場が見えます! 周少佐の管制本部と合流しました!≫

「よし、そのまま一緒に居ろ。 間違っても少佐より前には出て来るな、いいな?」

≪了解です、砲兵群、射撃開始20秒前・・・ 10秒前・・・ 5、4、3、2、1、射撃、開始しました!≫

轟然と砲声が鳴り響き、連続した甲高い飛翔音が尾を引きながら近づいて来る。 同時に前方から赤く焼けた夕暮の上空に向け、レーザー光が立ち上る。
初弾は全弾が迎撃された。 しかしこれは想定の範囲内だ、迎撃された初弾は全弾がAL砲弾、又はALMだった、瞬く間に重金属雲が発生する。
砲兵部隊は最大連射速度での砲戦を行う腹積もりのようだ、初弾から10秒後には次弾が発射されていた。 これも全弾が迎撃されるが、迎撃地点が次第にBETA寄りに近づいてきている。
光線級相手の『対砲迫戦』、そのセオリー通り光線級のレーザー照射のインターバル時間―――光線級の12秒、重光線級の36秒―――を逆手に取った速射砲戦を展開するようだ。
次第に迎撃地点が奥へ、奥へと移動して行く。 そして遂に砲弾が地表に炸裂し、多数の光線属種が宙に舞う姿が観測された。

「―――よし、フラガラッハ全機、噴射跳躍! 山頂付近を掃討後に、逆落としで山の向う側を片付ける! 続け!」

中隊長機を先頭に、10機の『疾風弐型』が跳躍ユニットから排気炎を吐いて、一気に跳躍に移った。
幸いにも山頂付近のBETAは小型種ばかりで、数も少なかった。 突撃砲の120mmキャニスター砲弾、36mm砲弾の一斉射撃で一気に殲滅する。
全機が着地し、そして前方を確認する―――誰かが息を飲む音が、通信回線上に流れた。  遠く大阪湾まで続く大阪平野、その北端から無数と言いたくなる程のBETA群が群がる姿を見出したからだ。
東から夜の闇が迫る真夏の夕暮空、その中に乱舞するレーザー光と爆発光。 あちこちで乱れ飛ぶ火線、立ち上る土煙。
弾け飛ぶBETA、撃破される戦車や戦術機。 突進してくるBETAを迎撃する為、必死の戦闘機動を続ける戦術機とその支援に当る戦車や自走高射砲。
小型種との死闘を、残骸と化した市街地で繰り広げる機械化歩兵装甲部隊。 そして不意にとんでも無く太い火柱が立ち上り、多数のBETAが吹き飛ぶ―――大阪湾の戦艦の主砲弾が着弾したのだ。

フラガラッハ中隊に続き、他の2個中隊―――独機団の≪イシュタル≫、≪チンロン≫、各中隊も山頂付近に駆け上がって来る。
やがて3個中隊、30数機の戦術機が眼下を見下ろした。 そこには無数の小型種と、多数の大型種が群れ、今まさにこちらを押し潰すかのように蠢いていた。

『・・・ごっつい眺めねぇ、いつ見てもさ』

『好きな眺めじゃありませんがね、水嶋大尉』

『私だって好きじゃないよ、曹大尉。 で、周防?』

暫く無言で戦場を見下ろしていた周防大尉は、機体を一歩前進させ、全機の先頭に立った。  光線属種は砲兵部隊が拘束してくれている、こちらへのレーザー照射も無い。
突撃級はどうやら国道1号線―――米25師団前面と、インドネシア第2師団側面に集中しているようだ。 その方向へも多数の弾着を確認出来た。
眼下には戦車級を含む小型種が大半、要撃級が数百体。 要塞級は数10体程いるが、光線属種と共に最後尾をゆっくり動いている。 
何体かは砲撃の直撃を受け、斃れたようだ―――いいぞ、凄くいい。 これぞ、戦場。 人類が実現すべき戦場。

「―――心躍る、まさに。 あの姿は自分も大嫌いだが。 さて、楽しめる時間は少ないと思う。 どうでしょう、水嶋さん? どうだろうか? 曹大尉?」

『楽しむとは。 まあ、そうとも言えるけれどね・・・ 左翼、市役所跡から南に突き入れる、そのまま時計回りに戦闘機動。 どうだろう、水嶋大尉、周防大尉?』

「否応は無い、それしか俺も思い浮かばないね、曹大尉」

『思うんだけどさ、周防。 アンタ、昔とずいぶん変わったよ、そう言う所。 異論は無いね、そのまま大型種の背後を取りつつ殲滅、小型種は後続に任せる―――よし、行くよ!』










1845 第7軍団司令部 京都府 淀近辺


「淀川北岸はどうなっている? 第20師団は壊滅、第27と第40師団が継戦中? 阻止は? 前面のBETA群は約8000? 減少したのか?」

「対岸に渡った、南岸に約2万2000。 北岸には約1万6000、その内の半数弱が活発だ」

「南岸の個体群は全個体が活発に動いている。 主な侵攻方向は国道1号線、一部が木津川沿いに向かっている、約4000体。 インドネシア軍が阻止戦闘中だ」

「第5師団と米25師団だけでは、残る主力の1万8000を支えきれない。 いくら砲撃支援が有ってもな・・・」

「孤立した戦力はどうなった? 男山の北側の戦力だ―――未だ孤立状態? 側面から木津川沿いに1号線方向を叩けんか?」

「無理を言うな、北岸の戦線が後退している。 お陰で南岸河川敷方向からのBETA群の阻止が困難なのだ、北岸から光線級に狙い撃ちにされてしまう」

「・・・引き付けて、内懐で殲滅するしかないのか。 それでは確かに、1号線方面への突き入れ所では無いな」


部下の参謀達がモニターや戦力編制表を見比べつつ、苦しい台所事情で何とか遣り繰りしようと悩む様を、2人の高級将校―――将官達が見ていた。
第7軍団長、寺倉昭二中将。 参謀長・鈴木啓次少将、共に厳しい表情で視線を戦況を映し出すモニターに移し、睨みつけている。
元より第7軍団だけで、これだけの数のBETA群を撃退できる道理は無い。 そして戦線を支えるにしても、それ程長時間支えられる物でも無い事は判っていた。

「閣下、27師団、40師団とも、現状を支えるのが精一杯です。 20師団が壊滅した今となっては・・・」

「・・・永津君(永津久重少将、第20師団長)には、済まぬ事をした。 戦力の劣る丙師団であの数のBETAを、これまで防いで時間を作ってくれたと言うのに」

「勇躍、出撃して行きました、永津は。 及びはしませんでしたが、悔いはしていないでしょう、恨み事も言わない男です」

鈴木参謀長の声は確信と、どこか寂寥感と、そして羨ましさが感じられるものだった。

「君とは陸士同期だったね、永津君は・・・ 竹下君(竹下義輝少将、第27師団長)と天谷君(天谷直次郎少将、第40師団長)に伝えてくれ、『無理はしても、無茶はするな』と。
どだい、この戦力で4万近いBETA群を支え切れる道理は無い。 作戦がフェイズⅡの現在は、些かの無理も必要だがな。 それもフェイズⅢへ移行するまでの時間稼ぎだ」

「は、その事は重々。 しかし閣下、その時間を作る為の方策、考え直さねばなりませんな」

参謀長の言葉に、寺倉中将は改めて戦況モニターに視線をやり、そこに映し出される戦線の状況、そして指揮下各部隊の損害状況を再確認する。
現在BETA群は淀川北岸に約1万6000、南岸に約2万2000の、合計3万8000が行動を開始していた。
対して防衛戦力は、北岸に第27、第40の2個師団と、海軍機甲戦闘団が第323、第204、第217の3個戦闘団(各々増強大隊規模)
海軍部隊は各々、戦術機甲1個戦闘団(大隊)を基幹として、戦車、自走高射砲各1個中隊と陸戦隊(機械化歩兵)2個中隊から構成される。
陸軍式に言い直せば、合計で戦術機甲1個連隊と戦車・自走高射砲各1個大隊、機械化歩兵2個大隊、と言った所か。 旅団戦闘団に相当する戦力だ。 2個師団プラス1個旅団。
南岸の防衛戦力は、第5師団と米第25師団、大東亜連合(インドネシア)第2師団、そして南部から抽出された独立機甲戦闘団(増強連隊規模)と、海軍機甲戦闘団(第215)が各1個。 戦力は3個師団プラス1個旅団相当。

「ポンポン山から釈迦岳方面が手薄なのが、気に食わんな。 海軍部隊をそっち方面に喰われている。 第2軍団から抽出してくれんかな・・・」

「先程、内々にですが磯谷さん(第2軍団参謀長・磯谷和磨少将)に打診しました。 『市内南部への対応で、それどころでは無い』と断られましたが・・・」

「李殿下(李公 鍝(ぐう)中将、第2軍団司令官)も、市内入口の防衛に必死だ。 一部防衛線が破られて、1個師団をその対応に割かねばならないからな・・・」

現在京都西部(北部戦線)は、市内西方の入口である老ノ峠を一部BETA群に突破されていた。 
そしてその殲滅に、広島で『全滅』判定を受けた第2師団残余と、戦略予備の第51師団を割いて掃討戦を展開していた。
第7軍団としては、その状況がもどかしい。 下手をするとBETAに、後背の山間部に潜り込まれる可能性が出てきたのだ。 その為に海軍部隊をその警戒に充てねばならなかった。

「現在、第1軍司令部が調整中の様ですが、最終的には斯衛をその任に充てる方向であると」

「斯衛? 第1は動かせんだろう? フェイズⅢでは盾になって貰わねばならん、戦力が減るのは好ましくない。 第2か?」

「はい、斯衛第2連隊戦闘団。 支援兵科も少しは軍予備から回せるようで、現在進行中の市内南部の掃討戦が終了次第、ポンポン山から釈迦岳一帯の警戒に投入する様です」

「他には?」

「北近畿で半壊した斯衛第3聯隊から、生き残りを市内の掃討戦に投入すると。 これで第2軍団は第57師団を戦線に復帰させ、我々は後背の一応の安全を確保出来ます」

再び戦況モニターを見る。 部隊移動は左程の時間を有しないだろう。 であるならば・・・

「連絡の有った、南から突進してきている友軍。 到着予定時刻は?」

「米海兵隊は1920時には、南岸のBETA群の右翼後背に到達予定。 連合陸戦隊第3師団は、1935時に京田辺付近に到達予定です」

時計を見る―――あと30分から、最大45分。 第2軍団の手配も、あと30分有れば完了するだろう。 45分、そうすれば強力な増援2個師団が到着する。
そして第7軍団はここで一時にせよ、BETA群を押し返す必要が有った。 今のままジリジリ後退したのでは、フェイズⅢに移行した際、大きな支障が生じる。

「・・・よし、1940時を持って、全力で逆撃を加える。 フェイズⅢへの移行は予定では1時間から最大でも2時間の内の予定だ、それまで全力で時を稼ぐ」

「孤立している部隊の救出にもなります」

「ああ、あそこには第5師団の一部以外に、国連軍(米25師団の一部、独機団の一部)も取り残されておったな。 飯田君(飯田祥一郎少将、第5師団長)もやきもきしておるだろう」

「飯田は、今しも突入しかねない剣幕です。 が、暫し押さえておきましょう」

陸士後輩の猛る表情を思い浮かべ、鈴木参謀長が苦笑いを浮かべた。

「より、指揮下全部隊に通達。 『1940時、逆撃と為す。 総員、奮起せよ』だ」

「了解しました」










1855 京都 右京区 愛宕山(標高924m) 第1軍第1軍団 第3師団防衛戦区


『メイディ! メイディ! ブルー03! くそ、管制ユニットのエジェクトが効かない!』

取り付いた戦車級を何とか排除した『不知火』だったが、あちこちを齧られた時にどうやら機体に不調をきたした様だった。
既に跳躍ユニットは全損、両脚の関節部も完全に壊れていた。 脱出するしかないのだが、肝心の管制ユニットのエジェクト機能が死んでしまっていた。

『ブルー04! 03の管制ユニット前面装甲を引っぺがせ!』

『04より01! ダメです、戦車級が・・・! 近寄れない!』

『うっ、うわあああ! 畜生、来るな! 来るなぁ!』

小隊長が自分のエレメント機に指示を出すが、西の山麓から次々と這い上がって来る小型種BETA―――それも戦車級―――の群れに阻まれ、損傷機に近づけない。
今や10数体の戦車級BETAに囲まれた損傷機から、衛士の悲鳴が響く。 何とかしなければ、このまま喰い殺されてしまう。 小隊長は一時的に現位置の放棄を決意した。

『くそったれ! 04! 右から掃討しろ! 俺が左から行く! 03! もう少し頑張れ、必ず助ける!』

『隊長、中尉! た、助けて・・・!』

『助ける! 助けるから頑張れ! おい、04! 行くぞ!』

『了解! ・・・? ひっ!? ぐぎゃ!』

『? おい、04? ・・・04! 畜生! 要撃級かよ!?』

小型種ばかりと、油断した。 ゆっくりとではあるが、大型種も山麓から登ってきている事を失念していたのだ。
夕焼けの残光に照らされた歪で醜悪なその存在―――1体の要撃級BETAの前腕が部下の機体、その管制ユニットを完全に破壊した様子を歯ぎしりしながら睨みつける。

その直後、断末魔の悲鳴が小隊長の耳をうった。

『うわああ! くっ、喰うなぁ! お、俺を喰うなぁ! た、助けて! 中尉! 助けて・・・! ぎゃああああ!』

『ゼ、03!? くっそう、全滅かよ!? ブラヴォーよりシックス! ブラヴォー残存1機! 繰り返す、残存1機!』

≪・・・ザッ・・・ ザッ、ザッ・・・≫

『おい、まさか・・・? 冗談だろ!? シックス、応答を! シックス!―――中隊長!大尉!』

中隊長機からの応答は無かった、ただ虚しく空電が聞こえるだけ。 そして周囲に恐れていた大型種、要撃級BETAが10数体、姿を見せた。






凶報は瞬く間に第1軍司令部に飛び込んだ。 知らせを受けた司令部参謀団の顔色が変わる。

「山頂を取られた!」

「山頂!? どこだ!?」

怒声が渦巻くその中で、決して大きな声ではなかったが、誰ひとりその言葉を聞き逃した者はいなかった。
それ程現在の第1軍にとっては、悪夢以外の何物でもない状況を知らせる言葉だったからだ。

「愛宕山から地蔵山(標高948m)にかけての一帯だ! 布陣していた第3師団の第31戦術機甲中隊が全滅した!」

「・・・冗談じゃない! あの一帯からは、京都市内全域を見下ろせるんだぞ!?」

京都市西部、右京区の西端に聳える愛宕山と地獄山は、市内西部に位置する『高峰』である。 その山頂からは京都市内を一望に臨めた―――重光線級ならば。
司令部内が一瞬静まり返る。 真夏だと言うのに空気が冷たい、背中の冷汗が止まらない。 頭上を―――戦術的に非常に拙い位置を光線属種に占位される。
その想いが全員の認識する所となった瞬間、静寂は瞬時に怒号と化した。

「奪い返せ! 軍戦略予備をありったけ投入しろ! それと、市内南部の掃討は斯衛の2聯隊だけでやらせろ!」

「第2師団の生き残りと、斯衛3聯隊の生き残りも山頂奪回に投入するんだ! 全部磨り潰しても構わん! 奪い返せ!」

「斯衛の1聯隊、直接護衛の1個大隊を除いた2個大隊も、投入するんだ! 命令系統?  そんなもの―――文句があったら、直接言いに来いと言え!」

「砲兵兵団司令部! 愛宕山と地獄山に向けて、ありったけ撃ち込め! 何? 座標変更に10分?―――3分でやれ、馬鹿野郎!」

怒号と罵声が飛び交う最中、1人の高級参謀がふと壁にかかった時計に無意識に視線をやり―――顔色を変えた。

「・・・しまった」

「ん? どうした?」

「拙い・・・ おい、誰か! 斯衛第1聯隊本管に緊急電だ! 『脱出、待て!』―――下手すりゃ、蒸発しちまうぞ! 急げ!」





「皆の者、準備は整ったであろう哉?」

将軍家居城、その広大な敷地内にある専用ハンガー。 斯衛第1大隊指揮官が、乗機である82式戦術歩行戦闘機、その赤い『瑞鶴(Type-82F)』を見上げながら問う。

「はっ! 斯衛第1大隊総員、殿下の御側に!」

大隊副官である、山吹色の強化装備を身に纏った斯衛士官が、敬礼と共に報告をする。
その様子に頷き、大隊指揮官がチラリとハンガーから出てきたばかりの1機の戦術機―――将軍家専用機体の『瑞鶴(Type-82R)』を見る。
今まで脱出に時間がかかった理由。 誰もが己が不明を呆れる様な理由。 将軍家は未だ15歳にならず―――専用機を操縦出来ないと言う事に。
数日前に誰かがようやくその事に気付いた。 そして大慌てで複座の管制ユニットを―――斯衛にも、陸軍にもそんなモノは、有りはしなかった。
大至急、海軍省に打診が行われた。 海軍の現行機種、84式戦術歩行戦術機 『翔鶴』に使っている管制ユニットを1基、譲渡願うと。
陸軍の『撃震』改良機種として、海軍機は複座型の管制ユニットを使用している。 『瑞鶴』とのマッチングが懸念されたが、戦闘を行う訳では無いので黙殺された。
ようやくの事で管制ユニットが到着したのが、本日の未明。 突貫作業で機体への搭載、調整作業が進められ、ようやく30分前に終了したのだ。

「殿下の機体、誰が操縦するか?」

「はっ、将軍家警護小隊指揮官の月詠中尉が」

「・・・ふむ、宜しき哉。 しからば出撃致す! 皆の者、殿下の御盾とならん! 続けい!」





「斯衛第1大隊、既に出撃しました!」

「間に合わなかった!? くそう! だからこっちの管制に従えと、あれ程・・・! 戦闘管制通信系で呼び出せ!」

「観測班より緊急信! 愛宕山山頂に光線属種を確認! 個体数8! 重光線級、3! 光線級、5!」

「奪回部隊はどうした!」

「突入経路の162号線付近で接敵! 抗戦中!」





『ッ! 第1中隊、レーザー直撃! 全滅!』

『全機、全速! 粟田口の裏に飛び込めい!―――殿下! 暫しの御不便! 御寛恕の程、御許し下され!』

『レーザー照射第2射、来る!』

『皆の者! 総員、盾となれい! 殿下の御盾となりて、御護り致せ! 御護りして死ねい!』





「将軍機、御稜(みささぎ)付近で停止! 斯衛第1大隊、残存18機! 将軍警護小隊、残存2機!」

「御稜? 何とか東山の陰に隠れる事が出来たか・・・ よし、打電しろ、『待たれよ』だ」

「直接通信では無く、でしょうか?」

「・・・顔を見たら、どんな罵声を吐くか、自分に自信が無いのでな!」









1910 京都府南部 淀付近


『今から?』

「そうだ、周少校。 今ならまだ辛うじて、北岸の光線級に気取られずに戦術機部隊を『向う側』に進出さす事は可能だ」

『しかし、2個中隊だけでは押し返す戦力にもなりません! 無駄に消耗するだけに・・・!』

「日本軍は近く、逆撃を企図している。 貴様も聞いた筈だ。 その間に孤立部隊が全滅するのはいただけない。
あの場所をBETAに奪われる事は、戦術的に非常に拙い。 判るな? 周少校。 何としても、1分でも1秒でも長く、あの場所を確保せねばならない」

『それは、判りますが。 しかし・・・!』

「杜司令員(杜月栄上佐(大佐)、独機団司令)も承認下さった。 吐き違えるな、少校。  正式な命令だ」

『ッ! ・・・了解しました』


不承不承、言葉通りの表情を浮かべた『部下』が通信スクリーンから去った後、羅蕭林中校(中佐)は改めて戦力リストに視線を落とした。
孤立部隊に含まれる独立機甲戦闘団の部隊は第1中隊(日本)、第5中隊(日本)、第7中隊(台湾)の3個戦術機甲中隊。
第3中隊と第8中隊(共に韓国軍)は現在、米軍とインドネシア軍への支援に回している。 ここで孤立部隊の3中隊が壊滅したら・・・ 無傷は中国軍の3個中隊のみ。

(・・・流石に、それは外聞が悪かろう?)

中国軍の指揮下の元、日本、台湾、韓国の部隊が壊滅、或いは損害を受け、当の中国軍は無傷とあっては・・・
羅中校が手元に置いてある3個戦術機甲中隊の内、2個中隊を『孤立エリア』の増強に投入する決心をしたのは、そんな状況が大きな要因だった。
投入するのは第2中隊≪ジューファ≫、そして第4中隊≪ムーラン≫の2個中隊。 内々に『絶対死守』命令を下している。
例え日本と国連軍がその場を離れようと、最後まで留まって戦い続けよと。 全滅しても構わない―――いや、全滅してくれた方が有り難い。

(もし、この国がこのまま保ってくれたならば・・・ 美国(米国)の洋上支援に頼らず、連中の海軍を今後も当てに出来る。 
東南アジア・オセアニアに分散した生産工場からの海上輸送手段の融通も、日本の船団を融通してくれる様、交渉が出来る。
実績よ、実績。 連中のなかでも『特別な』存在である京都の防衛戦で、我が軍が為し得た協力。 実績を作れば・・・)

党にとっても、彼女自身にとっても、非常に有益な事となるだろう。










1915 琵琶湖 第1艦隊第2戦隊 戦艦『信濃』


『目標座標、N-35-88。 標定完了、主砲発射準備よし』

『主砲射撃指揮所、砲術長より、『斉射開始』です!』

50口径460mm砲3連装3基9門の巨砲から、一斉に発射炎が吐き出される。 同時に轟音と発射の衝撃波が、周囲の湖面に大きな波紋を生じさせた。
琵琶湖北部湖水面に布陣していた第1艦隊第3戦隊の2戦艦、『信濃』、『美濃』から、京都西部に向けて巨砲の制圧支援砲撃が為された。
一拍遅れて僚艦であり、姉妹艦でも有る『美濃』からも、同じく主砲の一斉射撃が開始された。 巨艦の巨砲、その発射音が湖面を囲む山々に殷々と木霊する。
同時に行き従うイージス巡洋艦『大淀』、『仁淀』、打撃巡洋艦『川内』、『神通』、『那珂』(いずれも2代目)から、多数のALMが発射される。

『米第3艦隊、発砲開始しました』

湖面中部に遊弋する米第3艦隊第35-1任務群(CTU35-1)の2戦艦『ミズーリ』、『ウィスコンシン』も、55口径406mm砲3連装3基9門の巨砲を振りかざし発砲している。
それに着き従うアラスカ級大型巡洋艦『ハワイ』は16インチ砲戦艦のそれより発射速度の速い55口径305mm砲を全力で比良山系の『向う側』に放り込み続けている。
更にはタイコンデロガ級イージス巡洋艦『ケープ・セント・ジョージ』、『ヴェラ・ガルフ』、『ポート・ロイヤル』の3艦からALMは白煙を挙げて飛翔してゆく。
戦艦4隻、大型巡洋艦(日本海軍呼称は『巡洋戦艦』)1隻、イージス巡洋艦5隻、打撃(ミサイル)巡洋艦3隻。 京都を防衛する第1軍への支援部隊が、全力砲撃を開始した。

『航空管制より司令部。 伊勢湾の3航戦、米第70-1、第70-2任務隊より支援第12派、野洲水道(琵琶湖運河野洲水道)を通過。 比叡山北方より鞍馬・貴船を迂回し攻撃ポイントへ接近中』

第1艦隊第3戦隊と、米第3艦隊第30任務部隊の戦術機甲打撃力、戦術機母艦『雲龍』、『翔龍』、『ニミッツ』、『エンタープライズ』から各々12機の戦術機が接近している。
大阪湾からも、戦艦群が最大射程で主砲の一斉射撃を開始し、全戦闘艦艇がVSLから誘導弾を雨霰と発射していた。 
日米の戦術機母艦群も大阪湾に突入し、堺市辺りの沖合からひっきりなしに攻撃隊を発進させている。

京都西部の山岳地帯に、光線属種出現―――その報を重く見た日米両艦隊司令部は、『フェニックス・ミサイル』と『95式自律誘導弾』の使用制限を全面解除した。
そして持てる全攻撃力を、一気に京都の南部と西部に向けて叩きつけ始めた。 戦術機部隊はこれまでの支援で少なからず被害を受けていたが、全力出撃を開始している。

『主砲第5斉射、撃ぇ!』

砲術長の声がスピーカーに流れる。 同時にCICの中まで僅かに震える程の、主砲発射の震動。 そして僅かながらの砲声。
外から見れば、夕日の僅かな残滓に薄暗く照らされる黒々とした艦体から、槍の様に突き出た主砲が真っ赤な炎を吐き出す様が、世紀末の世の様に見える事だろう。
実際、赤黒く照らされた湖面を、ウェーキ(航跡)を引きつつ遊弋する巨艦群から吐き出される、鮮烈な赤い発砲炎。
そして周りの中型艦から発射炎と共に、白煙を引きながら飛び去る多数の誘導弾、と言う光景はある種の荘厳ささえ醸し出している。


「参謀長、このまま暫く全力攻撃。 フェイズⅢまで継続する。 フェイズⅣ突入と同時に伊吹水道(琵琶湖運河伊吹水道)に突入する、全砲門を開きつつな」

「了解です。 米第3艦隊には、野洲水道を使う様、伝えてあります」

「うん、あっちの方が伊勢湾と直通な分、文句も無かろう。 我々は伊吹水道を経て本隊から分派、若狭湾の第3艦隊と合流する」


艦隊が火力支援砲撃を行っている最中、都合48機に及ぶ日米の戦術機甲部隊が、琵琶湖西岸の比叡山に向けて飛び去って行った。










1920 京都府久世郡 第7軍団司令部付近 第9軍団混成戦術機甲大隊


「待て?―――どう言う事です? 現に友軍が包囲下で、苦戦しておるのですぞ!」

通信スクリーン越しに怒声を浴びせかけられた第7軍団司令部参謀中佐は、ややうんざりした表情を一瞬だけ見せ、改めて説明調で言った。

『何もそのままにしておく訳ではない、と言っておるだろうが、宇賀神少佐! ここで小出しに、バラバラに少数戦力を逐次投入した所で効果は無いと言っておるのだ。
帝国と米国の海兵戦力(帝国は陸戦隊)、この2個師団が戦場に到達した時に、軍団全兵力を挙げて逆撃をかける、そう言っておるのだ』

それは判る。 その戦術意図は十分理解出来る、そして宇賀神少佐自身、戦術指揮官としての頭脳は、その案を是としている事も。
だが内心が抑え難い。 孤立部隊の中には連隊の下級指揮官達―――彼らが指揮する3個戦術機甲中隊も取り残されているのだ。
延々、阪神間の防衛戦からこの方、激戦に激戦を重ねて、報われぬ力戦を黙って戦ってきた連中。 そして連隊から引き抜かれ、他国軍指揮官の元で今尚、戦っている連中が。

「・・・せめて、淀から八幡への突入路確保を。 我々が切り開きます」

『却下だ。 未だ攻撃準備射撃中だ、光線属種共に対する火光標定も終わっておらん―――宇賀神少佐、気持ちは判る。 判るが、焦るな』

「・・・!」

『孤立部隊の中に、貴官と同じ連隊の部隊が居る事は承知しておる。 この状況で戦術機甲3個大隊の増援、誠に有り難い。
だからな、だから、突入第1陣は貴官等に任す。 だから、焦るな。 我々は見捨てはせん。 せぬよ、その様な事は』


そう言われては、上級士官相手にこれ以上我を通す事は出来ない。 無言で切られた通信網膜スクリーンの跡を見つめながら、無意識に歯ぎしりする。
視線を彼方に向ければ、南西方向に向けて盛大に撃ち込まれる砲弾の曳光が見える。 そして彼方から立ち上る迎撃レーザー照射と、爆発光。
立ち上り、広がりつつある重金属雲。 その下で今尚苦闘し続ける友軍、その中には負傷した先任者から後を託された、かつての部下達もいるのだ。

『大隊長、各中隊所定位置に着きました。 混成第2、第3大隊も配置完了―――3人とも、しぶとい古参です。 これまでも、今も、これからも』

「・・・貴様は、そう信じるのか?」

網膜スクリーンに現れた副官に向けて、そう問いかける。 戦場では時として、信じ込む、或いは思い込む事も必要だ。 結果がどうであれ。

『今となっては、そう信じる他に術は有りません。 彼らが、我等の突入まで部隊を掌握し、生き残るで有ろうと信じる以外』

「随分と冷静だな。 貴様の事だ、真っ先に吶喊しそうになると思ったが?」

『どなたかが普段と違い、我を忘れそうになられておりますので。 諌め役は必要かと、少佐』

普段と異なり、あくまで冷静に言い放つ『副官』に少しの苛立つを覚えつつ、逆に普段の練達の歴戦指揮官らしからぬ様子の宇賀神少佐が、苛立つ声で独り言のように言う。

「我を忘れる? はっ! 忘れたくもなる! 一体、何の為に奮戦を続けてきているのか。  軍集団の動き、余りに不自然過ぎるわ!
一体何時になったらフェイズⅢに移行するのだ!? 本来ならとうの昔に移行して然るべきだ! この不自然さ!」

吐き捨てる様に言い放つ。 少佐の『副官』は、その様子を制するでもなく、諌めるでもなく、静かに見つめている。

「政治だ、政治。 確かに軍事行動は政治の延長線に位置する、しかし軍事行動に、純然たる軍事作戦に政治が介入して良かった試しは無い!」

珍しいものだ。 常は静かに、しかし歴戦古参衛士の貫禄を以って、先任指揮官の後ろで睨みを利かせる役割の宇賀神少佐が、ここまで我を失するような言を吐くのは。

「その結果を見ろ、この有様だ! 早坂さんは逝き、広江さんと荒蒔君は重傷を負った。  死んだ古村や伊崎とて、普段ならばむざむざ殺られる程、柔な連中では無かった!
私は軍人だ、軍人としての誓約を誓った、その事に怖気づく事は無い。 しかしな、時として思うぞ、せめて意味のある死を迎えたいとな!」

彼方の戦場を見つめつつ、宇賀神少佐の声は、腹の底から絞り出す様な声になった。
大陸派遣軍、最初期からの古参衛士。 数々の戦場で、苦渋に満ちた敗北と死を見つめてきた衛士。 そして『死』そのものに意味は無いのだと。
そしてその想いを、自らの内に秘め、黙して来た衛士。 その彼が、恐らく初めて他人の―――それも部下の前で胸中の一部を吐露し続けていた。

少佐自身不思議だった、自分は何故、今、こうして話しているのか? 最早半ば諦観すら抱いている事に対して、どうしてこうまで?
今や祖国が戦場と化したからか? それもあるだろう。 上官や同僚、それに多くの部下を失ったからか? それもあるかもしれない。

(何を言っているのだ、俺は。 こんな時に、恨みがましい事をグダグダと・・・ さっさと指揮に戻らんか・・・!)

そうは思うが、一向に開いた口は閉まる様子を見せない。
何故だろう? どうも普段と違う気がする、違和感の様な何か。 そして不意に、スクリーン越しに自分をじっと見ている『副官』と目が会った―――これか。
普段は猛々しい程に攻性の女が、どう言う訳か今は静かに自分の『愚痴』を聞いてくれている。 そして何も言わず、ただじっと見ているだけ。
その雰囲気につい流されたのか? つい、普段は胸中に仕舞っている感情を吐き出してしまったのは、その為か?

「・・・やけに静かだな、貴様らしくない」

『時には、内心を吐き出す事も必要です。 誰も責めはしません。 ・・・責めさせません』

そう言った表情―――静かに微笑んでいる、その表情―――に、内心で思わず狼狽しそうになる。
全く、何と言う事だ。 この自分が、今まで散々戦場を見尽くしてきた自分が。 戦場での負の感情を。 この表情に。 くそ、自制が。
無意識に視線を外す。 何となく後ろめたい感情、いや、自分は何も後ろめたい所など―――違う、気恥ずかしいのだ、どうしようもなく。

「・・・もうじき、逆撃が始まる。 大隊のコンディションを再確認しろ!」

『了解しました』

最後まで物静かな笑みを浮かべて、副官は通信を切った。 






「・・・ふう」

(似合わない―――私には、似合わないな、本当に)

スクリーンアウトした後の周囲の情景を素早く確認しながら、神楽緋色大尉は少しだけ苦笑する。
思えばひと月ほど前、同期生の前で『想いのたけを告白して何が悪いと言うのだ!? いや、悪くない!』、などと啖呵を切ってみたものの・・・
やはり自分には、どうすればよいか判らなかった。 部隊の同期生に相談しようにも、あの女は自分の事で一杯、一杯だったし、先任に相談するのは何となく気恥ずかしかった。
そんな時、苦笑しつつアドバイスをくれたのは、他ならぬ直属上官―――広江中佐だった。  余りのギャップに面食らう自分に、中佐はこう言った。

(『いいか? 神楽。 男なんて生き物はな、本当は可愛いものだ。 少しだけ、黙って愚痴を聞いてやればよい。 何も言わずに、微笑みながらな』)

それに、こうも言っていたな。

(『世の妻や彼女でな、上手くいっている場合はな、女が妻や恋人の他に、男の母親役もしているのだよ。 ほんの少しだけでいい、そうしてやれば男はお前にひれ伏すだろうよ』)

ひれ伏すとは、如何にも中佐らしい言い様だと思ったが。 要は少しだけ引いて、向うを受け止めてやればいい、そう言う事かと思った。
思えば、自分の同期生と1期先任の彼女との間も、言われてみればそんな感じがする。 成程、そう言うものかと思った。
いつも、いつも、では無い。 そんな事、こっちの身が保たないし、男も何時も弱みを見せる訳でもない―――見せたくないだろう。
だけれど本当にまいっている時に、少しだけ黙って話を聞いてあげればいいのか、そう思った。 そしてそうしてみた―――第1撃は、見事に命中した気がする。

(嫌な女だな、私は。 ズルイ女だ、本当に・・・)

大隊各中隊の状況、戦況の確認、BETA群の侵攻方向と個体数、友軍部隊の配置状況とゼロ・アワーまでの残時間の確認。
大隊副官として必要な処理や確認を滞りなく行いつつ、神楽大尉は自分の内心の変化について、くすぐったい喜びを感じていた。










1925 京都府南部 男山


『もう保たない! 直衛、そっちに要撃級8体抜けたぞ!』

「抜けが多過ぎるぞ、オーガスト! 曹大尉、≪アタッカーズ≫のフォローを頼む!」

『了解した。 美国(アメリカ)はザルだよ、全く・・・』

『独機団1中隊、水嶋大尉です! 海軍第215戦闘団! 宮野少佐、右翼をお願いします!』

『宮野だ、陸軍部隊、左翼に専念してくれ、こっちは海軍が防ぐ―――菅野!(菅野直海大尉) 対岸に向けて長モノ(M-88支援速射砲)をありったけブチ込め!』

『もう、やってますって!』

『第1中隊、笹井(笹井醸次大尉)です。 隊長、2時方向に戦車級多数。 引き込んで殲滅します』

『よし、大野!(大野竹義大尉) 『軍鶏(笹井大尉のあだ名)』のバックアップは、君がやれ!』

『了解』

「5師団! ≪サンダーボルト≫、≪ムーンライト≫! 底を頼む、そこが最後の防御線だ!」

『了解した、≪フラガラッハ≫。 最後の取りこぼしは俺達で始末する!』

孤立エリアでの激戦が続いていた。 戦線前面に約2万2000のBETA群。 その内4000は、インドネシア群が陣取る木津川方面に侵攻していた。
残る1万8000の内、約1万4000が第5師団と米第25師団前面に。 最後の4000が『孤立地帯』を取り囲んでいた。
木津川を背後に控えた男山を中心に、左右両翼からの大型種の侵攻阻止と、男山南山麓から這い上がって来る小型種の掃討戦が並行して展開されている。
戦闘車両を円周の最内に入れ、外周を戦術機甲部隊が展開する陣を敷いて早1時間と20分。 戦術機部隊は各中隊とも、残存10機を割っている。

(・・・周少佐から連絡のあった、『逆撃』開始まであと20分。 それまで保つかどうか)

左翼で迎撃戦闘の指揮を執っている周防大尉は、中隊残存各機のステータスを横目で確認しつつ、内心暗澹たる思いに駆られていた。
中隊残存は9機。 美園大尉の中隊から抽出され編入した2機を失った1時間後、乱戦の最中で突撃前衛小隊の河内少尉(河内武徳少尉)が戦死した。
手薄になった突撃前衛の穴を埋める為左翼迎撃小隊から、美園大尉の部隊から預かっていた強襲掃討の武藤少尉(武藤剛久少尉)を充てた。
各小隊は3機。 エレメントは組めず、3機一体のトライアングル・フォーメーションで遣り繰りをしている。

「正面、戦車級20体! 薙ぎ払え!」

各機の突撃砲が唸り、36mm砲弾が吐き出される。 僅か20体程の戦車級BETAの群れが一瞬で霧散する。

『直衛! アウト・オブ・アンモ! 補給に一旦下がる!』

「了解した、オーガスト。 水嶋さん! ≪アタッカーズ≫が弾薬の補充に一旦下がる!  ≪フラガラッハ≫と≪イシュタル≫で全面展開、どうです!?」

『よし! 私の中隊が南側を守る! 周防、アンタのトコは北側を頼むよ! 曹大尉! アンタは300進出(300m前に出る)して!
エリアN-55-R、ポイントGT! ≪イシュタル≫と≪フラガラッハ≫の間隙を埋めて頂戴! いける!?』

『是(シー)! 没問題(メイウォンティ)!』

僅か9機と8機に減った『不知火』の2個中隊が、数千のBETA群の前に立ちはだかる。 その中間地点後方で8機の『経国』が左右を支援する位置に着いた。
突撃級の1群が突進してくる。 光線級の脅威が排除出来ていない現在、回避機動に縦方向の跳躍は選択出来ない。
各機が水平噴射跳躍で個体と個体の間隙を縫うように、多角機動ですり抜ける。 無論、その間に柔らかい横腹に36mm砲弾を叩き込んで。
突撃級の壁を突破した2個中隊は、そのまま中隊陣形を保ったまま、綺麗なスピンターンを決めて残る突撃級の群れの背後に喰いついた。

「全機、そのまま相対距離と速度を維持! 120mmと36mmを叩き込め!」

『無防備な後ろを晒し過ぎだよ! 全部喰いなさい!』

17機の『不知火』から120mm、36mm砲弾が吐き出される。 120mmの一撃を受けた個体が、胴体後部に大きな孔を開けて、体液を吐き出しつつ数10m進んで停止する。
36mm砲弾を多数受けた個体が、胴体内の圧力が弾けて内臓物をブチ蒔けながらつんのめる様に停止した。 他にも節足部を撃ち抜かれ、もがく様に停止している個体も有る。
突撃級と他のBETA種との速度差、そのタイムラグを最大限生かさないと、途中で背後を突かれてしまう。 各機は『撃破する』のではなく、『行動不能にする』戦いを選んだ。
目前で背後を見せる突撃級に120mm砲弾を撃ち込み、残る片腕に持った突撃砲を大旋回をかけつつある外縁部の突撃級、その節足部を36mmで狙い撃つ。
節足部を撃ち抜かれ、停止した突撃級BETAに内側から旋回中の別の個体がぶつかり、揉み合う形になった。 部下の機体がそれを狙って砲弾を撃ち込み、始末する。

殲滅は上手くいきそうだった、だが周防大尉の表情は厳しかった。 戦術MAPに映し出される後続BETA群の位置と数、その侵攻方向。
そして対岸をジリジリと北上する別の大規模BETA群―――27師団と40師団が押されている、このままでは真横から光線属種のレーザーを喰いかねない。

(・・・現在時間、1930。 あと10分、あと10分だが・・・ くそっ!)

正直、打つ手が見つからない。 大幅に定数割れした9個中隊の戦術機甲戦力と、残り少なくなった戦車を含む戦闘車両群、1個中隊にまで減った機械化歩兵部隊。
3方向から押し寄せる数千のBETA群相手に、あと10分―――永遠に等しいじゃないか。 そこまで考えて、自嘲した。 似たような状況は、今まで何度も有った。
何度も死地を経験した、その度に生き残った。 ならば、今度も同様だ。 生き残る手段を考えろ、無い知恵も絞り出せ、あらゆる手段を講じて見せろ。

(問題は、10km南に屯している重光線級、それに8km南西の光線級。 それより後ろと、北岸の光線属種は砲撃戦で拘束に成功している。
あの連中だけが、レーザーを撃っていない。 個体数は重光線級が6体と、光線級が16体。 距離と数なら、M-88で十分狙える・・・)

そこまで考えて、通信回線を繋ぐ。 相手は旧友の米軍部隊指揮官。 回線はオープン回線にしてある。

「オーガスト、男山の山頂部から10km先の重光線級、米軍なら狙えるか?」

『・・・6.25マイル。 場所を選んで、10秒の時間を貰えれば。 M-88で狙撃できる腕のヤツは、3人しか居ない、5機は周辺警護に使う。 でもM-88自体、今回装備していないぞ?』

「海軍さんが持っている。 宮野少佐?」

『残念だが、海軍にはそこまで狙撃できる者はおらんな。 菅野、貴様の部隊が持っているM-88を3基、米軍に渡せ』

『了解―――ちょっと悔しいけど、任せるよ。 カーマイケル大尉』

そこまで考え、次の手筈を考える。

『水嶋大尉、独立機甲団の支援火力は? どの位ある?』

『全く有りません。 直接砲撃力だけです』

『では、生き残った制圧支援機、都合8機で何とかするしかないか』

『―――12機です、少佐』

その時、聞き慣れた声が周防大尉の耳に飛び込んできた。 スクリーンの後部視界域に映し出される、サーフェイシングを行いつつ高速で迫る戦術機群。

『殲撃10型? 中国軍?』

宮野少佐が訝しげな声を挙げる。 予備として後方に控えていた独機団の中国軍戦術機甲部隊が2個中隊、途中で小型種BETAを蹴散らしつつ急速接近中だった。

「美鳳? 文怜? どうして?」

『どうして? お言葉じゃない、直衛? 援軍よ!』

『・・・今更か?』

台湾軍の曹大尉の声には、微かな毒が籠っている様に聞こえたのは、気のせいではあるまい。

『今更でも何でもいい、制圧支援機が12機―――3機ずつ、ランダム全力発射、96発。 タイムラグは10秒で3斉射、最後は12秒後。 光線級ならこれでいくらかは始末できる。
最低でも南西の光線級のタイムラグ、12秒は稼げる。 重光線級は気にするな、30秒以上のインターバルがあるからな―――どうだ? カーマイケル大尉?』

言い終わった宮野少佐の機体の直ぐ傍に、中国軍の2個中隊―――24機の『殲撃10型』が停止した。 即座に警戒陣形を取る。

『イエス・サー、リュテナント・コマンダー・ミヤノ』

海軍に敬意を称し、陸軍呼称である『メイジャー』では無く、海軍呼称で呼び、カーマイケル大尉がスクリーンの中で敬礼する。

『よし、山頂に≪アタッカーズ≫。 右翼は我々海軍部隊と中国軍―――超大尉、君の中隊。 左翼は陸軍と台湾軍、それと中国軍の朱大尉の中隊。
第5師団の2個中隊、真ん中で左右双方と≪アタッカーズ≫との調整を取ってくれ。 支援は随時、各中隊長の判断に任す』


米軍機の中で、カーマイケル大尉が『狙撃手で食っていける』と指名した3名の機体が、気を付けながら男山の斜面を主脚歩行で登ってゆく。
何しろ北岸には光線級が確認されている、下手に北寄りの登り口を選ぶと、瞬く間に蒸発させられてしまうからだ。
残る5機がそれに続く。 まずはカーマイケル大尉機。 最後は臨時に指揮下に入ったクロウ隊の4機。 狙撃手役の3機がポジションを取った、まだ山肌に隠れている。

『制圧支援、攻撃用意』

宮野少佐の声と同時に、残る10個中隊が散開した。 山頂へBETA、特に戦車級を近づかせない為にだ。

『攻撃―――開始! 撃て!』

3機の戦術機、そのランチャーから白煙が舞い、誘導弾が全弾発射される。 瞬く間にランダムな高速機動でBETA群に向け、飛び去ってゆく―――レーザー照射!
全弾が迎撃されるまで、約8秒。 2秒後に更に次の3機が全弾を発射。 更に2秒後から再度のレーザー照射、今度は重光線級の照射が無い為か、全弾迎撃に10秒。
その2秒前には第3弾が発射されていた―――『左翼、11時、要撃級40体!』 水嶋大尉の声と同時に、左翼に配された4個戦術機甲中隊が飛び出す。

(いける―――か!)

白煙を引きつつ飛び去る誘導弾を視界の片隅に、周防大尉は戦術的成功を確信した。 目前に迫った要撃級をサイドステップで交す。
大尉の機体につられた個体が急速接地旋回をかけた瞬間、後続する部下の2機が突撃砲から36mm砲弾の雨を降らせた。 
大尉自身は奥に居た1体に、120mm砲弾を直撃させている。 そのまま短距離噴射跳躍を使って多角高速機動をかける。
第3弾発射から12秒後、今度は重光線級も加わった迎撃レーザー照射が立ち上る―――これを待っていた。 第4弾が発射されるのを確認した。

―――同時に、有り得ない光景を目撃する。 南東1km、いや、数100m強の地点に重光線級が1体。

(―――くッ!)

背筋が凍った。 何故、ここに1体だけ。 殲滅し損ねた個体か? 考えられない、重光線級が単独で。 照射警報? こっちを向いている―――いや、違う。

「ッ・・・! 交せ、水嶋さん! 10時、800、重光線級1体!」

明らかに水嶋大尉の機体が狙いを付けられていた。 叫ぶと同時に、中隊指揮を放り出して全速水平跳躍をかけ、重光線級に迫る。

『!? 周防!? 重光線級!』

『ちゅ、中隊長!?』

『直衛! 何を!?』

『重光線級!? どこ!?』

『―――10時!』

(―――間に合え!)

水嶋大尉、摂津中尉、朱大尉、そして美園大尉と曹大尉の声を同時に聞きつつ、焦る内心を押さえ跳躍ユニットを全速で吹かす。 急激なGに、体がシートにめり込む様だ。
120mmAPCBCHE弾ならば、この距離なら重光線級なら1発で―――2回目の背筋が凍る思いを味わう、120mm砲弾が弾切れ!
咄嗟に36mm砲弾を両腕に持った突撃砲から弾幕の様に撃ち込む、同時に重光線級の照射粘膜の光度が増し、レーザーが照射された―――この間、僅か3秒弱。

「むううッ!」

至近距離に達して、36mm砲弾を数100発撃ち込み、ようやく重光線級のレーザー照射が止む。 そしてその巨体がゆっくりと倒れた。

「はあ・・・ ふう・・・」

息が荒い、遠くで呼ぶ声がする。 恐る恐る、スクリーンモニター越しに視線を転じてみた。 友軍部隊が要撃級の1群と死闘を展開している。
米軍機がどうやら長距離狙撃に成功した様だ。 第5師団の2個中隊と共に、男山南側斜面を駆け降りつつ、小型種の制圧と要撃級の側面攻撃に転じている。
向うから部下達の機体が急速接近してくる、周りに達すると同時にウィング陣形を取った。  迎撃には最適な陣形だ―――誰かが、何かを叫んでいる。

『ッ―――! ≪イシュタル≫は爾後、美園大尉が指揮を執る! 中隊、ウィング・スリー! 1時方向の要撃級を迎撃する!
繰り返す、水嶋大尉戦死! ≪イシュタル≫は爾後、美園大尉が指揮を執る! 周防さん!  アンタ、何時まで呆けているんだ! しっかりしろ、馬鹿野郎!』


水嶋大尉の『疾風弐型』、その機体の上半身部が蒸発していた。




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