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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/01/05 22:42
1998年8月13日 0430 大阪府摂津市


「・・・そうか、早坂さんが死んだか・・・」

広江中佐が、やや茫然とした声で繰り返し言う。 その前には宇賀神少佐が立っていた。

「最後のご命令は・・・ 『継戦せよ』でした」

「うん、あの人らしいな・・・ あの人らしい! 私に全部押し付けて! ご自分はさっさと楽隠居してしまわれた! 全く! 何時もながらあの引き際の良さには、腹が立つ!」

不意に広江中佐が爆発した。 いや、誰もが予想はしていたのだ、こうなると言う事を・・・

「本当に、腹が立つ! ご自分だけ、良い死に場所を見つけてさっさと! 私にこの小僧、小娘共を押し付けて・・・! 助ける為にッ、ご自分が・・・!」

拳をテーブルに叩きつける。 内心の感情が溢れて、コントロールが効かない様子だ。
暫く荒い息で、肩で息をしていた中佐だったが、やや落ち着いきたか声を整え、周囲を見渡して言った。

「・・・残存部隊の統一指揮はこの私、広江直美中佐が執る。 宇賀神さん、岩橋君、森宮君、手助けを頼む」

その言葉に、宇賀神少佐、岩橋少佐、森宮少佐が無言で叩頭する。
大隊指揮官は2人を失った。 141の早坂中佐は戦死。 181の荒蒔少佐は、撤退戦の最中に重傷を負った。

「残った大尉クラスの指揮官は、木伏大尉、水嶋大尉、源大尉、和泉大尉、三瀬大尉の5名が先任クラス。
伊達大尉、神楽大尉、周防大尉、長門大尉、永野大尉の5名が中堅。 葛城大尉、佐野大尉、間宮大尉、美園大尉、仁科大尉が後任。 合計15名」

「古村と伊崎も死んだのか・・・ 先月には、綾森が戦線を離脱してしまった。 それに早坂さんと荒蒔君か、痛いな・・・」

そして各中隊とも、残存機数は6機から9機。 中佐や少佐達の指揮小隊も、自身を入れて2機か3機。

「残存機数は119機です、2個連隊合計で」

「半数を失ったか・・・ 森宮君、291は?」

「さっき確認しましたよ、岩橋さん。 残存4個中隊、こっちも半分以上を失っている。  生き残りは纏めて我々に合流せよと、師団命令が出た」

「29師団は、本隊自体がかなり叩かれた。 残りは軍団予備に回ったらしい」

一度目を閉じた広江中佐が、ゆっくりした口調で3人に言った。

「作戦は、淀川前面を死守しつつ、BETA群を北東・・・ 京都方面に釣り上げる。 もっとも京都まで到達はさせん、淀川沿いを北上する間に、側面から叩き続ける」

京都の西では、未だに第1群が侵入阻止の死戦を展開中だった。

「・・・再編成をする、大至急で。 なるべく今までを弄らない様に」

原隊である14師団、18師団、そして29師団は今現在も、淀川防衛線を死守する戦いに投入されている。
その状況下で、移動は出来ない。 そして各連隊長からは、一部を淀川防衛線に至急回す様にとの命令が出ていた。

「・・・宇賀神さん、アンタの下に長門を入れる、古村の代わりだ。 水嶋と周防、美園の3人で臨時編成の大隊を作る、指揮官は水嶋にさせよう」

大隊と言っても、24、25機程度しか戦術機は無い。

「291の4個中隊は、それぞれ我々4人の指揮下に置く、1個中隊ずつだ。 『不知火』と『陽炎』、機動特性は多少異なるが・・・ 気にする程柔な神経は、持っていないだろう?」

3人の少佐が苦笑する。 そして宇賀神少佐が今後について質問を発した。

「で、都合5個大隊が出来上がりましたが・・・ どう展開します?」

命令では、京阪間を北上するであろうBETA群を、第7軍団と協同して可能な限り叩き、その数を削れ、だった。 しかし同時に、苦戦中の本隊に対する支援も必要だ。 
淀川防衛線は現在の所は8個師団と、洋上の艦隊からの支援でもって、BETAの攻勢正面を固めて何とか維持している。
例え定数を大幅に割った大隊戦力でも、今は猫の手も借りたい程らしい。

「・・・最低でも2個大隊は、本隊の支援に戻らねばならん。 宇賀神さん、森宮君、頼む」

「承知」

「了解しました」

「私の大隊はここ摂津市から、前方の吹田市にかけて布陣する。 岩橋君、君の大隊は対岸への突入阻止だ、淀川南岸の大阪市北東部から守口市にかけて布陣してくれ。
後方には第7軍団の4個師団が控えている、1000や2000、後ろに逸らした所で向うで片付けてくれる・・・ 兎に角、時間を稼ぐ、その時間で可能な限り削り取る」

「判りました」

「水嶋の所は、どの様にしますか?」

宇賀神少佐が、最後に残った部隊の配置を確認する。 暫く考えた末、広江中佐が地図上の1点を指して言った。

「ここに、増援の中韓連合旅団から派遣された戦術機甲部隊が、6個中隊居る。 茨木市だ」

そこは丁度名神高速道路、近畿自動車道が交差する地点だった。 古くは山陽道もそこを通っている。

「橋脚の爆破が進んでいない、下手をすればBETAのご一行様に格好の突撃路を提供する事になりかねん。 今は中国軍の周少佐が指揮を取っている、その下に入れる」

「・・・確か彼女、負傷で戦術機を降りたのでは?」

「指揮車両を、危険な程前面に出しながらも元気一杯だよ、我が朋友は・・・ 周防は彼女と顔馴染みだ、美園も大陸で一時指揮下に入った事がある、大丈夫だろう」

些か呆れた笑みを浮かべ、広江中佐は思う。 
負傷し、疑似生体移植を受け、衛士資格を失い、司令部幕僚に大人しく収まったかと思いきや・・・ 多分、自分と同類の女なのだな、と。
小柄な、しかし生気溢れる活発な友人を思う。 しかしそんな贅沢は一瞬、今はやるべき事が盛り沢山で、食い切れない程だ。

「よし、まずは整備と補給。 整備班の出張サービスは、何時頃になると?」

「1時間後に到着の予定、補給部隊も軍団直轄の連中が来てくれるそうです」

「ん。 では、整備完了と補給を済ませるのに・・・ 3時間?」

「急がせましょう、2時間半。 それと部下達には交替で、食事と休息を1時間づつ」

「判った、それで良いよ。 宇賀神さん、岩橋君、森宮君、君等も交替でな?」












8月13日 0910 大阪湾 米第7艦隊 第75任務部隊 (Task Force 75, CTF-75) 旗艦、BB-67・戦艦『モンタナ』


『第19斉射―――サルヴォー!(斉射)』

『2番艦『メイン』、3番艦『アラスカ』、第19斉射!』

『CTU-752(第75-2任務群)、『アイオワ』、『ニュージャージー』、『グアム』―――第20斉射!』

『4番艦、『ヒュー・シティ』より入電。 VSLにALM装填完了。 巡洋艦、駆逐艦群、ALM発射開始!』

『CTU-753(第75-3任務群)、CTU-754(第75-4任務群)、ALM発射開始しました!』

旗艦の奥深く、CICにまでその砲声が聞こえる様だ。 アメリカ海軍の誇る巨艦群の1隻、そのクラスのネームシップでも有るBB-67・戦艦『モンタナ』
彼女が今まさに、50口径18インチ砲(456mm砲)を放ったのだ。 外部モニターに映し出されている僚艦であり、姉妹艦でもある『メイン』も同様だ。
やや離れた海域では、『モンタナ』に比して小さくは有るが、それでも十分以上の大口径砲である55口径16インチ砲(406mm砲)を『アイオワ』、『ニュージャージー』の両艦が放っている。

やや小振りな、しかし小気味良い砲撃を継続するのはCB-1・大型巡洋艦『アラスカ』と、その姉妹艦であるCB-2・『グアム』の2隻が、55口径12インチ(305mm)砲を放つ。
その周囲では、戦艦群に付き従うタイコンデロガ級イージス巡洋艦、バージニア級ミサイル巡洋艦、アーレイバーク級イージス駆逐艦、スプルーアンス級ミサイル駆逐艦が、VSLから雨霰とALMを発射している。

別の外部モニターに目を移す。 そこには合衆国海軍艦艇―――合理性と機能美を突きつめた艦型の艦艇群―――とは別の艦艇群が映し出されている。
どこかしら、古の古武士の様子を想わせる。 威厳の様な雰囲気さえ、認めるに吝かではないその艦艇群―――日本帝国海軍が誇る、東太平洋での最強艦隊。 帝国海軍第1艦隊。

前代未聞である世界最大の巨砲、45口径508mm砲から、天雷の鉄槌の如く巨弾を叩き込んでいるのは、第1艦隊旗艦である戦艦『紀伊』、そして姉妹艦の『尾張』の2隻。
合衆国海軍の至宝、『ユナイテッド・ステーツ』級が搭載する50口径20インチ砲(508mm砲)より砲長身はやや短いものの、搭載門数は3門多い3連装4基12門。
その2艦に続くのが、就役当時合衆国海軍を恐慌に貶めた巨艦である『大和』級の2隻、ネームシップの『大和』、姉妹艦の『武蔵』
相次ぐ近代化改装により、全くの新型砲となった50口径460mm砲を3連装3基9門の巨砲から、負けじと巨弾を陸上に叩き込んでいる。

更には日本のイージス巡洋艦、ミサイル(打撃)巡洋艦、駆逐艦群からも、中小口径砲の豪雨の様な砲撃と、雨霰とばかりにALMが発射されていた。

日米両艦隊合わせて戦艦が8隻、大型巡洋艦が2隻、イージス巡洋艦10隻、ミサイル(打撃)巡洋艦6隻、イージス駆逐艦17隻、ミサイル(打撃)駆逐艦17隻。
合計60隻にも及ぶ大艦隊、それも『只の大艦隊』では無い。 世界第1位の海軍である合衆国海軍と、今や世界第2位の海軍である日本帝国海軍。
その両海軍が持てる艦隊戦力の主力として位置付ける、世界最強の水上打撃戦部隊―――現代の『アルマダ―無敵艦隊』だった。

「・・・流石に『紀伊』級の砲は規格外ですな、1撃で数百のBETA群が木っ端微塵です」

参謀長が、陸上を映し出した外部モニターを眺めながら、やや呆れた様な口調で呟く。
その呟きに少しだけ肩をすくめながら、CTF-75・第75任務部隊―――合衆国最強の水上打撃戦部隊を指揮する、スコット・ラムディン海軍中将が答えた。

「砲口径では、我が国の『ユナイテッド・ステーツ』も負けちゃいないさ。 ただ、惜しむらくは門数が少し少ない事と、姉妹艦が居ない事だな」

日本の『紀伊』級2隻に対抗して建造された、合衆国海軍最強戦艦である『ユナイテッド・ステーツ』
しかし残念ながら、その建造費用の余りの高額さに2番艦以降の建造計画は、議会の承認を得られなかった。 彼女は孤高の女王として、合衆国海軍に屹立する。

(―――そしてもう1点残念なのは、『ユナイテッド・ステーツ』が大西洋艦隊に配属された事だな)

2年前の4月、第2艦隊配属としてドーヴァー防衛戦で初陣を飾った『彼女』 しかしその時は地上部隊への支援艦砲射撃だった。
その後、ジュニア―――当時の第2艦隊司令長官であった、アレキサンダー・レイモンド・スプルーアンス・ジュニア米海軍中将からは、散々愚痴を聞かされたものだ。

(―――今時、戦艦同士の撃ち合いなど有るまいに。 合衆国最強の戦艦を指揮する事が出来ただけでも、ジュニアは幸運だ)

とは言え、この『モンタナ』も捨てたものではない。 いや、日本の『紀伊』級、合衆国の『ユナイテッド・ステーツ』、この3隻を除けば、『モンタナ』は正真正銘の『ディーヴァ(怪物)』だ。
日本帝国海軍の『出雲』級は、50口径460mm砲3連装4基12門と砲門数で勝り、『信濃』級はカタログ上では、『モンタナ』級とほぼ互角の性能を有する。 
しかし電子戦装備、戦闘情報管制システム、対レーザー防御、そしてダメージコントロール、総合力では『モンタナ』級が上回る。

第7艦隊が紀伊水道を通過し、大阪湾に突入して3時間。 砲撃開始から1時間。 日本海軍第1艦隊と協同しての対地攻撃支援は、想定の効果を発揮し始めたようだ。

「―――ロブリング(テッド・ロブリング海兵中将・第3海兵遠征軍司令官)から連絡は? デューイ(デューイ・ヴァン・ヴァスカーク海軍中将・第7艦隊司令長官)からは何も?」

「先程、『エセックス(強襲揚陸艦)』のCTF-76(第76任務部隊:第7艦隊水陸両用部隊/第7遠征打撃群)から連絡が入りました、海兵第3のジルマー少将(アイザック・C・ジルマー海兵少将)からです。
20分前に『Fighting Third(ファイティング・サード:米第3海兵師団)』が大阪湾沿岸への上陸に成功。 現在は防衛線のボトム・アップ中であると」

「確か陸軍はまだ、第25師団が残っていたな?」

「サー、京都の後背で戦略予備として控えている様です。 あのような事件(『三田事件』、米第2師団が壊滅)の後ですから、流石に日本軍も前面には出せないようですな」

「・・・議会には、日本からの撤兵を主張する声が未だ根強い。 従来の民主党だけでなく、本来対日協同を主張している共和党内からもな」

司令官と参謀長が溜息とも苦笑とも言えない表情をしたその時、通信士官が新たな報告を持ってきた。

「サー! CTF-70(第70任務部隊:空母打撃任務部隊)からです。 『0930、矢を放つ』―――以上で有ります」

「ん、ご苦労」

通信士官が敬礼をして下がる。 ふむ、そろそろ本格的な攻勢防御を開始する時か。

「・・・第1派は、海賊どもですか」

「それにぶっ壊し屋と、鉄壁のクォーターバックだね」

「期待出来そうですな、我が海軍の誇るオフェンス・ラインです」

「ファースト・タッチダウンは陸軍でも日本軍でも無く、我々が貰うとしよう」

「・・・『Anchors Aweigh』、まさにその様に」

合衆国海軍行進曲、『Anchors Aweigh(錨を上げて)』
1906年、アナポリス(米海軍兵学校)が、ウエストポイント(米陸軍士官学校)とのフットボール対抗戦で10対0の圧勝を収めた。 その時に初めて外部に演奏された、記念の曲だ。
そして今日のこの日、合衆国海軍は陸軍にも、日本陸海軍にも先立って、BETAに勝利を収めるだろう。 まさに『Anchors Aweigh』の如く。











8月13日 0920 大阪府大阪市北東部 淀川河川敷


対岸に現れた光線級、間には淀川の流れだけ、このままでは格好の的だ。

「下がれ! 一旦堤防の向こう側まで下がりなさい!」

永野蓉子大尉が、部下に向かって大声を上げる。

『ッ! 永野さん、左翼に突撃級!』

咄嗟に佐野慎吾大尉の声。

『永野! 危ない!』

これは先任である、三瀬麻衣子大尉の声か。

咄嗟の回避。 慌てて部下に退避を指示していた永野蓉子大尉だが、その時に崩れた大橋の残骸を乗り越え、突進してきた突撃級に一瞬気付かなかった。

「くっ、くそっ・・・!」

次の瞬間、機体のほんの数m先を突撃級が、掠める様に突進し過ぎさる。 咄嗟に機体を捻り、その突撃を交した永野大尉は突撃砲を反射的に放っていた。
36mm砲弾の連射で、突撃級の柔らかい後部胴体が吹き飛ばされた。 しかしまた後続の突撃級!―――隣で突撃砲が火を噴き、120mm砲弾の近距離射撃で装甲殻に大穴があく。
バックアップに入っていた『陽炎』の1個中隊―――291連隊の行き残り中隊が、突撃砲を両手と背部兵装ラックからも前面に展開し、全機が4門をフルに使って掃射する。

『中隊長! 今の内です、早く!』

エレメントを組む部下が、間一髪で突撃級を始末したのだ。 大急ぎで短く噴射跳躍をかけ、素早く堤防を盾にする―――機体は膝立て姿勢だ、まともに戦闘は出来ない。
機体ステータス・チェック―――OK、損傷は無い。 残弾確認―――まだ大丈夫、それに背後には補給コンテナも幾つかある。
部下は?―――残存6機、朝から2時間程の戦闘で、1機を喰われた。 今は4機と3機の変則2個小隊編成。 部下のバイタル・チェック―――OK、異常無し。

『・・・手詰まりだな』

上官である大隊長の岩橋譲二少佐が、忌々しげに呟く。 対岸に光線級に陣取られてしまった、このままでは頭を上げる事さえ出来ない。
そして南西―――大阪市内方面からは、続々とBETAが北上を開始し始めていた。 誘因作戦が功を奏しているのだが、逆に大隊は今までに無い圧力を受け始めていた。

≪CPより『アルヴァーク』リーダー! 東淀川区から北東へ移動中のBETA群、約4500! 他に一部が渡河! 『ライトニング』、『ホーネット』が殲滅戦を展開中ですが・・
約2500! 都島区から旭区に到達! 河川敷を北東方向に向けて移動中、速度を上げています!≫

BETAが2500! このままでは中隊の左側面を直撃されてしまう、しかしこっちは対岸の光線級が邪魔で・・・ 畜生!
やがて、土煙を盛大に上げてBETA群が姿を現した。 戦闘は突撃級、後方に要撃級も確認出来る。

『・・・大隊、戦闘態勢! アルヴァーク・リーダーより『雷神(第3砲兵連隊第3大隊)』! 面制圧砲撃要請! ポイントゴルフ・21、東淀川の河川敷一体だ!』

数瞬の空電、そして砲兵部隊から応答があった。

『こちら『雷神』! 無理だ、FH70(155mm榴弾砲)も、MLRSも、配達先が手一杯でそちらまで回せん!』

『何とかならんのか!? こっちは光線級に頭を押さえられている! BETA群が2500、直ぐそこまで接近中だ、このままじゃ随分と楽しい事になってしまう!』

『こっちだって支援してやりたい! してやりたいんだが・・・ おい、違う! 3中の目標は、ポイントジュリエット・09だ!』

頼みの面制圧砲撃が来ない、大隊長と砲兵部隊管制官との通信を聞いていた永野大尉は、一瞬目前が暗くなった気がした。
手詰まりだ、本当に手詰まりだ。 南へ戦線を移動する事は出来ない、精々直ぐ南の国道1号線のラインまで。 そこから数100m南の私鉄駅には、まだ避難民がいる!
ここが正念場―――知らず、操縦スティックを握る手に力が入る。 スキン・スーツ・グローブの下で汗がにじむ。 正面を見据え、攻撃のタイミングを計る・・・

『≪アルヴァーク≫! 10秒持たせろ! ≪ゲイヴォルグ≫制圧支援全機、兎に角ありったけ前に撃ちこめ! 木伏、神楽、両翼任す! 指揮小隊、大友大尉(291連隊)、続け!』

唐突に僚隊の指揮官の声が聞こえた。 181の先任大隊長、そして今現在は141、181、291の3個戦術機甲連隊の生き残りを統一指揮する、広江中佐だった。
網膜スクリーン、そのサブスクリーンを呼び出す。 見ると淀川の対岸、北東の摂津市から東淀川区の河川敷に向けて、20数機の戦術機がサーフェイシングで突入してくる。

数10発の誘導弾が白煙を引いてBETA群へ向かっている、案の定、迎撃レーザー照射。 しかし全弾が落とされた訳ではない。
何割かは生き残り、そして光線級の頭上や地表近くで炸裂した。 爆風に吹き飛ばされる光線級が見えた、他の小型種も。

『よし、今だ! ≪アルヴァーク≫全中隊、攻撃開始!』

岩橋少佐の号令に、それまで頭上を光線級に抑えられていた大隊の戦術機が一斉に飛び出した。
早く片付けなければ。 こちらはBETA群2500、しかし対岸の『ゲイヴォルグ』大隊の正面には、大型種と未だ残っている光線級を含め、4500近いBETA群が居る!

『―――中隊全機、一旦南の国道まで下がる! そこから南西に迂回、マンション群を盾にして一気に北西へ! BETA群の後ろに回る! 続け!』

まだだ、まだ間に合う、まだ何とかなる―――ここは通さない!










8月13日 0930 和歌山 紀伊水道南方 田辺沖 米第7艦隊 第70任務部隊 (Task Force 70, CTF-70) 旗艦、CVN-70・戦術機母艦『カール・ヴィンソン』


海面は多少荒れ始めていたが、それでも太平洋の真ん中の荒波に比べれば『さざ波』と言った所だった。
フライト・デッキの前半分―――前部カタパルト・デッキの後ろに、10機のF-14D『トムキャット』が並ぶ。 2機は既にカタパルトに具え付けられていた。
右舷艦尾近くに比較的コンパクトに纏められた艦橋構造物―――アイランドの頂点から『神託』が下る。 さあ、出撃だ。 地獄の大釜に向けて。

『エア・ボス(飛行長)より“Diamondbacks”(ダイヤモンド・バックス:VFA-102 第102戦術攻撃戦闘隊)、発艦を許可する。 オーヴァー』

『ダイヤモンド・バックス・リード、ラジャ。 リードより発艦する。 オーヴァー』

『OK、ダイヤモンド・バックス。 “QB”、見事なタッチダウンを期待するぞ。 ファースト・タッチダウンを奪い取れとの、司令官のお言葉だ』

『こちら“QB”、受け手による』

『はは! “RB”は“Dambusters”(ダムバスターズ:VFA-195、『ドワイド・D・アイゼンハワー』)、“WR”は“Jolly Rogers”(ジョリー・ロジャーズ:VFA-103、『セオドア・ルーズベルト』)だ、文句は有るまい?』

VFA-195にVFA-103。 ふむ、タッチダウンを取るのに、ランでもパスでも自由自在。 歴戦の僚友達だ。

『OK、エア・ボス。 見事に決めてきますよ』

『グーッド! 全員帰還しろよ? でないと軍法会議に送ってやるぞ?』

飛行長のセリフに、指揮官―――グイド・マクガイア少佐は思わず苦笑する。 『帰還せず』とはすなわち戦死と同意だ。 今更、軍法会議も何もない。
飛行長の声に滲んでいた含み笑いが全てを物語っていた。 “全員、何としても無事に戻って来てくれ” 彼の本心だろう。 勿論『タッチダウン』を決めてだ。

網膜スクリーンの中、イエロージャケットの誘導員が誘導方向に合図を送っている。 指揮官は戦術機の右腕をL字に曲げ、上下に振る―――脚部ロックを外せ。
誘導員は注意深く主脚に取り付けてあったロック解除ボタンを操作し、固定が外れたのを確認。 元の位置に戻り、右腕を水平に伸ばしてサム・アップする。
そして別の誘導員を指し示す。 誘導引き継ぎ。 誘導員が両腕を肘から先だけ上に曲げ、前後に揺らす―――前進せよ。

『タキシング―――デッキ・アプローチ』

誘導員の指示に従い、機体を発進甲板前部に設けられた2基のカタパルト、その左舷側真後ろへ進入さす。
すると今度は、レッドジャケットの兵装要員が機体各部の目視点検を行う。 搭載装備―――問題無し。 機体状態―――問題無し。
兵装要員が機体から離れるのを確認したグリーンジャケットのカタパルトクルーが、射出重量の書かれたボードを操縦衛士とカタパルト・コントロール・ステーションに示す。

『・・・チェック。 NAVI?』

『チェック、サー。 FCS(火器管制システム)、NDB(航法管制システム)、オール・グリーン。 LINK-11、チェック―――OK』

後席から柔らかい声が聞こえる。 後席のRIO(航法・火器管制担当衛士)の女性衛士、レティシア・バレーヌ中尉が鼻にかかった甘いフランス訛りの英語で報告する。
その声に、いい年をした30男が毎度毎度・・・ と苦笑しつつ、マクガイア少佐は網膜スクリーンの機体情報エリアからその数字を確認する。 
そしてボードとスクリーンの情報エリアに表された数字が、一致している事を確認した。機体の右腕を前に突きだし、肘から先を2度、上に曲げて同じ値である事を合図する。

カタパルト・オフィサーが少佐とコントロール・ステーションの確認を取り、この重量に合わせたカタパルト蒸気圧をセッティングする。
先ほどとは別のカタパルトクルーが、制御用のトレイルバーを主脚につける。 少佐はスティックの別のボタンを押し、機体のランチバーを下ろす。
カタパルトクルーがこれを、カタパルトシャトルのスプレーダーにくわえ込ませる―――発艦準備が完了した。

JBD(ジェット・ブラスト・ディフレクター)が立つ。 カタパルト・オフィサーが右手の人差し指と中指でV字を作って合図する。 
常用定格推力(ミリタリー推力)―――A/Bを使用しない最大推力だ。 指揮官はスロットルをミリタリーまで押し込む。 2基のF414-GE-400が咆哮を上げる。
推力値を確認し、異常が無い事を確かめ、網膜スクリーンに映るカタパルト・オフィサーに大きく敬礼を送る。

これを合図に、カタパルト・オフィサーが大きく脚を曲げ、甲板に倒れ込むようにしながら手を振りおろしカタパルト操作員に合図を送る。
カタパルト操作員が射出ボタンを押し―――カタパルト作動―――射出。 機体は僅かの間に充分に加速され、猛烈なGを衛士に加えながら中空へと舞い上がってゆく。


『んんっ・・・ くうう・・・』

後席から悩ましい声が聞こえる―――まったく、何時まで馬鹿の事を考えている、俺は。
暫く上空旋回を続け、部下の発艦を待つ。 数分後ようやくF-14D・12機、全機の発進が終わった。 空中集合を命令する。

『NAVI―――レティ、“RB”と“WR”は?』

務めて内心を隠した声で、後席に指示を出す。 ようやくGの呪縛から解放されたバレーヌ中尉が、後方スクリーンを呼び出し確認した。

『・・・“RB”、≪ダムバスターズ≫、 “WR”、≪ジョリー・ロジャーズ≫、発進完了。  定位置に着きます』

『よぉし、“RB”、ウィンクラー! “WR”、アイマール! このままJIN(日本帝国海軍)とのランデブー・ポイントまで直進する!』

左右後方の僚隊指揮官に告げる。 第1次攻撃隊の指揮官は、マクガイア少佐が指揮する事になっていた。
“RB”、≪ダムバスターズ≫指揮官・レイモンド・ウィンクラー少佐、“WR”、≪ジョリー・ロジャーズ≫指揮官・ジョゼフ・アイマール少佐から了解が入った。
ただしウィンクラー少佐からは、一言苦情が。

『ヘイ! “QB”、グイド! 何時も言っているだろう!? 俺は“ウィンクラー”じゃ無い! “ヴィンクラー”だ! いい加減に発音を覚えろ!』

ドイツ系のレイモンド・ウィンクラー・・・ ライムント・ヴィンクラー少佐が、うんざりした声で抗議する。
笑い声が通信回線に溢れかえる。 もっともウィンクラー少佐の抗議に耳を貸す者などいない、これは言わば何時もの“儀式”なのだから。
何時もの儀式を終え、紀伊水道上空に突入する。 そろそろ『危険な』空域だ、戦艦群が相手をしているとはいえ、何時なんどきレーザー照射を喰うか判らない。

『≪ダイヤモンド・バックス≫リーダーよりオール・アタッカーズ、高度を下げろ、エンジェル500(高度500フィート:約150m)』

機体姿勢を変え、降下角度を取った36機のF-14Dは、やがて高度500フィートで熊野灘上空を駆けていった。











8月13日 0935 大阪府大阪市北東部 淀川河川敷


『―――むん!』

長刀の一振りで、要撃級の後部胴体が切断された。 その勢いをそのままに、反動を付けて逆に振り切った。 もう1体の要撃級の前腕を切断する。

『ふう、はあ、ふう・・・』

息が荒い、喉が焼ける様だ。 情けない、息が上がりそうだ。 私ももう年かな? 何と言っても、もう30歳を過ぎた。 子供さえいる母親だ。
広江直美中佐は内心で自嘲とも、苦笑とも言えない換装を抱きつつ、戦場を睥睨する。 部下達はよく戦っていた、半数近い戦力にまで落ち込みながら、それでもまだ踏ん張っている。

『木伏! 葛城! 左右を固めろ! 国枝大尉(291連隊)、後ろ任す! 神楽、次が来るそ!』

『中佐、全面は私が!』

神楽大尉の機体が前に躍り出る。 まるで軽やかな舞踊を舞っているかのように、機体の慣性を利用して次々にBETAをその長刀で屠ってゆく。
彼女の部下が隊長機に続行する、この中隊は特に近接格闘戦をやらせれば、連隊で1番の実力を持つ隊だ。

『取りこぼしが有ろうかと! それを頼みます!』

凛とした声、相変わらず戦場でも、その雰囲気を壊さない女だな―――うん、佳い女になったな、神楽。
左右で木伏大尉と葛城大尉の中隊が、それぞれ阻止戦闘を行っている。 木伏大尉の中隊は神楽大尉の所に似ている、近接戦が主体だ。
葛城大尉の中隊は、どちらかと言えば2大隊の周防大尉の隊に似ているか。 機動力を駆使した近接砲戦が得手だった。
後方で291連隊の生き残り、国枝大尉の指揮する6機の『陽炎』が、4門の突撃砲を全て全面展開して、すり抜ける小型種に猛射を加えていた。

少しだけ息を整える、もう4時間以上戦い詰めだった。 流石に一息入れねば、酸欠で戦闘指揮まで頭が回らない。
実際には、整備・補給に要した明け方の2時間半以外、昨日の1600時からすっと戦い詰めだ。 そろそろ機体も、部下達も限界が近い。
無茶は承知、だが無理はしなくても良い、無謀は言語道断。 部隊の後方には、まだ第7軍団が控えている、第5師団が摂津市に入った。
その後方には第20師団が控えている、自分の役割は少しでも長く戦力を維持しつつ、京都方面へ北上するBETA群の数を削り続ける事。

対岸では森宮少佐の大隊が約2500のBETA群を相手に、支援砲撃も無いまま良く奮戦している。 向うは光線級が存在しない様だ、任せていても良かろう。
それにさっき、朗報が入った。 第7軍団から1個師団、第27師団が淀川を渡河して南岸に入った。 今は寝屋川市内だ、これで対岸にも後詰が出来た。


もう一度戦場を確認する。 神楽大尉の中隊が正面で大型種の相手をしている、余り突っ込み過ぎないよう、見張っておかねば・・・
両翼は? 左翼で木伏大尉の部隊が、淀川に入ろうとするBETA群を狙い撃ちしている、こちらは流石、危なげない。 
右翼で葛城大尉の部隊が、側面を突いた。 要撃級の1群がそれにつられ向きを変える―――神楽大尉の部隊がそこを突いて突っ込む。

後方から『陽炎』が6機、短距離噴射跳躍で一気に右前方に展開して行った。 国枝大尉の部隊が、右翼の更に右から迂回して、光線級の群れに急速接近する。
『仲間』と、葛城大尉の部隊がスクリーンになったのか、光線級はまだ気付いていない。 よし、そのまま・・・

その時、CP将校である江上聡子大尉の声が耳を打った。 

≪3時方向、内環状線道路上に重光線級3体! 照射危険範囲です!≫

咄嗟に頭を振る。 同時に網膜スクリーンの映像が連動して、『真横の』光景が飛び込んできた。 道路上に禍々しいその姿が見えた、あれか―――よし!

『―――指揮小隊、続け! 重光線級を狩る!』

その声と共に、広江中佐機を先頭にして指揮小隊の生き残り2機が続く。 
まだ重光線級はこちら気にづいていない、その内に距離を詰めなければ。

『な、何やて!? 無茶や! 中佐、そら無茶や!』

『中佐、引き返して・・・! むう! 中隊、続け!』

『神楽、馬鹿者! そこを放棄するな! 木伏、一時指揮を任す!』

む―――拙い、気付かれた。 3体の重光線級、そのレーザー発振器官がこちらを見据えていた。 途端に響き渡る、レーザー照射注意警報。 重光線級が照射準備態勢に入った。

『くっそ! 制圧支援機、まだ誘導弾は残っているか!? 残っている!? 木伏さん、神楽さん、支援はこっちで! 国枝さん、後頼みます!―――全弾発射だ! 中佐を支援しろ!』

『頼むで! 葛城!』

管制ユニット内に鳴り響く、レーザー照射の予備照射警報。 頭上を飛び去る誘導弾―――果たして、間に合うか?
距離1000、突撃砲の120mmを撃ち放つ。 意外に重光線級は防御が固い、この距離では射貫は無理か―――構わない、このまま距離を詰める!
跳躍ユニットを吹かし、一気に水平噴射跳躍をかける。 部下の2機も追従している。 問題はタイミングか・・・!

『ッ! 予備照射が終わる! 跳べ!』

道路上を突進して来た3機が咄嗟に片方の跳躍ユニットを閉塞し、その急激なモーメントで方向転換をかけるのと、重光線級からレーザーが照射されるのと、ほぼ同時に見えた。
最後の120mm砲弾が放たれる、急激な機体制動を行ったに関わらず、ロックオンは外していない。 重光線級のレーザー発振器官が光った気がした―――衝撃が走った。










8月13日 0940 和歌山市沖 紀伊水道 和歌浦湾上空


『・・・おい、見ろよ。 ごっつい眺めだぜ・・・』

≪ダイヤモンド・バックス≫のA小隊3番機・アルファ03、ロナード・フォックス少尉の声が聞こえた。 確かに『ごっつい』眺めだった。
大阪湾北部一帯に布陣する米日双方の巨艦群が、一斉に砲火を吐き出し、巨弾を陸上に叩き込んでいる。
少しのタイムラグで、地上にとてつもない火柱が上がる。 弾着したのだ。 そして50隻以上の巡洋艦・駆逐艦からは、中小口径砲が間断無く火線を送り続ける。
更にはVLSからは、ひっきりなしにALMが白煙を上げて放たれている。 その数は数百本も有ろうか。

そして東方に目を向ければ、陸上部隊―――砲兵部隊が203mm、155mmと言った野戦重砲(海軍で言えば、中口径砲だが)を多数、連続砲撃で面制圧砲撃をしかけている。
発射の際の白煙と、着弾の際のドス黒い土煙。 MLRSからはVLS同様、誘導弾が発射されている。

しかしその無尽蔵とも思える砲撃も、沿岸部から撃ち上げられるレーザー照射に絡め取られてゆく。 
不謹慎だが、美しいとさえ思える純白の光線が乱舞し、所々で赤い爆発の火球が発生する。
突き抜ける様な真夏の青い空、その下に暗灰色の重金属雲が発生していた。
その重金属雲の下で煌めく無数の砲火、時折小さく戦術機が跳躍する様まで確認出来た。

突然、通信回線に英語が入ってきた。 少し発音が変だが、正しいクィーンズ・イングリッシュだ―――嫌味な野郎だ。

『・・・ごっつい眺め、か。 確かにね! では―――ようこそ、地獄へ! 楽しいパーティーさ!
日本帝国海軍第205戦術機甲戦闘攻撃隊(VFA-205)指揮官、長嶺公子少佐だ。 まずは私がパーティー会場まで、エスコートするよ!』

同じく紀伊水道に展開する、日本帝国海軍母艦任務部隊から発進した、戦術戦闘攻撃部隊だった。 その指揮官と思しき衛士の姿が、スクリーンにポップアップする。
誰かが口笛を吹いた―――訂正、『野郎』では無い。 多少年は喰っているが、それでも十分魅力的な、妙齢のレディだった。
米海軍でも、女性衛士は存在する。 事実、後席のバレーヌ中尉がそうだ。 しかしそれは近年になってからの話で、実は大尉以上の指揮官に女性衛士は存在しない。
故に米海軍衛士にとっては、女性指揮官―――それも女性の海軍衛士少佐と言う存在は、全く珍しい存在だった。

瞬く間に、日本海軍の戦術機部隊が集合する。 3個戦闘中隊規模、36機。 マクガイア少佐は、その機体にまず関心が行った。

『・・・リュテナント・コマンダー・ナガミネ。 その機体は・・・ タイプ96か?』

タイプ96―――96式戦術歩行戦闘攻撃機『流星』 日本海軍が独自開発を行い、2年前から配備を進めてきた、第3世代戦術戦闘攻撃機だ。
米海軍が運用するF-14D、F-18Eはいずれも第2世代か、第2.5世代―――準第3世代機だった。 
それ故に純然たる第3世代機、それも艦上戦術機の開発・運用を行っている日本海軍の戦術機情報は、実は喉から手が出るほど欲しい情報だった。

『そうよ、マクガイア少佐。 ・・・残念ながら、寝物語でもこの機体情報は呟けないわ、ゴメンね?』

『・・・そいつは、残念』

その言葉に、部下達が一斉に笑う。 マクガイア少佐が敬虔なクリスチャンであり、ホノルルの官舎には、彼が愛してやまない愛妻と愛娘がいる事を知っているからだ。

『ご歓談中、失礼します、長嶺少佐。 そろそろポイントデルタ4―――変針点です。  右2時方向、和泉山脈。 金剛山を確認』

後席のRIO(火器・航法管制衛士)である、宮部雪子海軍大尉だ。 
大陸での初陣で撃破され、救助された際に泣きじゃくっていた新任少尉も、もう立派に歴戦の大尉になっていた。
米軍部隊から、誰かが口笛を鳴らしたのが聞こえた―――こちらはこちらで、まるで『日本人形』の様なジャパニーズ・ビューティだ。

『・・・ちっ、猫被りやがって・・・』

『何か?』

『何でも無いよ! 宮部、他の隊は? ちゃんと付いて来ているでしょうね!?』

そんな指揮官の我儘(?)にはすっかり慣らされた―――もうコンビを組んで4年だ―――宮部大尉は、そんな指揮官の様子を無視して報告をする。

『ご心配無く、皆、優秀ですから・・・ ≪ドライドン≫、≪ネプチューン≫、共に続航中です』

通信回線に忍び笑いが聞こえる。 VFA-207、≪ドライドン≫の鈴木裕三郎大尉、VFA-209≪ネプチューン≫の加藤瞬大尉だった。 彼等ももう4年来の部下達だ。
鈴木大尉の96式『流星』が微かに片腕を振って『問題無し』と合図を送って来る。 加藤大尉の機体もまた同様に―――古参連中は、これだから可愛くない!

『・・・ふん、マクガイア少佐、それに他の紳士淑女かぶれ! ここから一旦山脈の南を通って、奈良盆地の上空に入るよ。 そこを真っすぐ北上、生駒山地を隠れ蓑にしてね。
京田辺の辺り・・・ ポイント・ブラヴォー17で一気に西に変針、淀川沿いに南西へ突入! 守口の上空辺りで、フェニックスと95式誘導弾をありったけぶっ放す!
悪いけど、今回はギリギリまで突っ込むよ! 米軍お得意のアウトレンジ攻撃は無し! 戦線が入り乱れている、友軍誤射だけは避けたいからね』

『―――ウィルコ』

『ん。 で、その後は来たコースを逆戻り! ああ、そうだわ、M-88(M-88支援速射砲)持っているわね? そっちも。 じゃ、帰り道で適当に全弾ばら撒いて。 OK!?』

『了解!』

『イエス、マーム!』

その唱和に、ようやく長嶺少佐も破顔した。

『よぉし! じゃ、行くよ! 付いてきなさい!』

96式『流星』36機、F-14D『トムキャット』36機、合計72機の打撃戦力がBETA群の裏をかく為に、機体を急角度で変針させていった。






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