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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/31 20:42
1998年8月12日 2130 兵庫県芦屋市付近


夜の闇の中からBETAが飛び出してきた。 目前を要撃級の前腕が掠め過ぎる、無意識の操作でバックステップをしていなければ、管制ユニットごと持って行かれていた所だ。
次の瞬間、突撃砲の銃口を押し当てる位の距離から、120mm砲弾を叩き込む。 殆ど同時に射貫口から体液が噴き出た。
同時に追加装甲を、左手から迫ってきたもう1体の要撃級に押し当てる―――起爆。 体表のかなりの面積を吹き飛ばされ、要撃級が倒れ込んだ。

「リーダーより各機! エレメントを崩すな! 単機戦闘はするな、喰われるぞ!」

後方から曳航弾―――36mm砲弾が右に着弾する。 エレメントを組む松任谷機が、俺の機体に接近してきた戦車級を薙ぎ払ったのだ。
同時に正面から突進してくる突撃級が2体、距離300で1体目の左節足部を吹き飛ばし、250でもう1体の右節足部を吹き飛ばす。
2体の突撃級はそれぞれ撃ち抜かれた側に倒れ込み、接触して停止する。 止めは刺さない、そんな暇は無い。

「いいか! 大型種は行動を奪うだけで良い! 小型種―――戦車級を確実に始末しろ!  接近を許すな!」

周囲は既に夜の帳が落ちている。 夜間補正スクリーンモードの世界は、どことなく現実の世界とは違う感じがする。
スウェイキャンセラーを切っていた為、震動がダイレクトで伝わった。 要塞級だ、距離200、近い。 それも2体が接近してくる。
残弾確認―――右、36mmが1042発、120mmが2発。 背部兵装ラックに予備の突撃砲が1門、丸々残っている。 他は長刀が一振りだ。
どうする? 要塞級、仕留めるか? その向うに重光線級が4体、脅威度の高さは後者だ。  よし。

「瀬間、ここを倉木と維持しろ。 松任谷、付いて来い、重光線級狩りだ」

『了解です、3分は保たせます。 倉木、私の左後方に!』

『120mm、残弾1発です、中隊長』

「残りモノは俺が片付ける。 36mmで周囲を制圧しろ、松任谷―――いくぞ!」

全速サーフェイシングに移る。 途中で突撃級の残骸やら、戦車級の小集団に出くわすが、それは高速機動出回避する。
重光線級は2時の方向、要塞級2体は1時方向。 機体を暫く直進させ、機体と重光線級を結ぶレーザー照射射線上に、要塞級を置いて突進をかける。
感覚的にはほんの数秒の高速機動、あっという間に対要塞級戦闘の危険範囲内―――60m圏内に侵入する。
例の触角が一瞬、後ろに反りかえったのが見えた、同時に機体を左に一瞬だけ持って行く。 次の瞬間、元々機体の有った空間を触角が貫いていた。
松任谷の機体も、俺の機体機動をトレースする様に動いている。 良い動きだ、実戦に出てそろそろ2年、こいつも育ったな。

そんな意識は、俺の脳裏の片隅で生じていただけで。 思考の大半は要塞級の動きと重光線級の位置を掴みながら、攻撃経路の判断を行っていた。
触角が戻り始める、同時に機体を要塞級の前面に急機動で戻す。 そのまま反対側まで出た所で、一気に直進。
2体目の要塞級をそのまま盾にして、側面を素通りして重光線級の左前方直前に躍り出た。

「―――くたばれ」

距離にして10mも離れていない、殆どゼロ距離。 突撃砲の銃口を目玉―――照射粘膜に殆ど押し付け、トリガーを引く。
120mmのゼロ距離砲撃を喰らったその個体は、照射器官の殆ど全てを吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。
砲撃と同時に短距離噴射跳躍をかけ、そのまま後続の1体に迫る。 着地する直前に、ぶつかるかぶつからないかの距離で、最後の120mm砲弾を喰らわせ始末する。
その隙に松任谷も、1体の重光線級を始末していた。 残り1体、何処だ?―――いた、拙い、要塞級との射線上を外れてしまっている。
唐突に松任谷が、36mmを重光線級に浴びせかける。 意外に防御力の高い種だ、36mm程度では粘膜への直撃、それも連射でない限り倒せない。
しかし、注意を引く事が出来たようだ。 重光線級が松任谷機の方を向いた、そして彼女の機体と重光線級との延長線上には、要塞級―――レーザー照射は撃てない。

部下が作ってくれた一瞬の隙、その隙を逃す馬鹿はいない。 一気に距離を詰めて―――120mmは弾切れだった、追加装甲を振り上げ、そのまま重光線級の照射被膜に叩きつける。

1回、2回―――まだ壊れない。
3回、4回―――やっとの事で、被膜が壊れた。 重光線級が倒れ込む。

『中隊長! 後方、要塞級!』

「ッ! 離脱! Bエレメントと合流!」

背後に迫る要塞級、触角が至近に迫るその瞬間、片側だけ跳躍ユニットを吹かしスピンターンで高速急旋回をかけ、触角をやり過ごしてそのまま水平噴射跳躍。
松任谷は機体を俺とは反対側に持って行く、要塞級の目標認識が混乱した隙を突いて、そのまま一気にBエレメントが戦っている場所へ。
松任谷機が右後方につける、意識を正面と左側に集中させる。 その時に視認した、同時に戦術レーダーの警告音、戦車級の群れに光線級が混じっている。

「瀬間、倉木! 動け!」

足を止めて戦うのは拙い、特にこの状況では。 その俺の声に反応するかのように、瀬間機が水平噴射跳躍をかける。 一瞬遅れて倉木の機体も。
途端に鳴り響く、レーザー照射警報音。 しまった、ミスだ。 重光線級に気を取られ過ぎたか・・・!?

「撃て! スイープ(掃討射撃)!」

左右に薙ぎ払う様に、36mm砲弾をばら撒く。 瀬間も松任谷も、そして倉木も機動しながら36mmをばら撒いている。
お陰で命中率が落ちる、しかしひとつ所に留まっていたら、確実にレーザー照射を受ける。  警報音が断続的に続く。
高速機動でレーザー照射を外し、また捉えられ、また外し。 それを繰り返しながら、戦車級と光線級を掃討し続ける。

『ッ!―――弾切れ!』

倉木の声だった、悲鳴のような、焦った声。

「止まるな、倉木! 動け、動き続けろ! 予備弾倉は有るか!?」

『36mmが1本だけ、有ります!』

『瀬間、松任谷! 倉木の前面に出ろ! 周囲は俺が排除する!―――倉木、さっさと換装しろ!』

『りょ、了解!』

この超近距離だ、光線級は激しく動き回る動体目標を近距離で捉える事が苦手―――過去の戦訓から、俺はそう判断している。
重光線級になるともっと顕著だ、だから光線属種と出くわした時は距離を取って離脱するよりも、大きな高速多角機動で思いっきり接近した方が良い。

(―――連中は、言わば超大倍率のスコープを持った、超長距離狙撃銃だ)

高速サーフェイシングをかけながら、右に左に、3秒以上同じ直線機動をせず、兎に角動き回る。 5秒以上同じ直線機動をすれば、どこかからレーザーを喰らう。

『弾倉交換、完了!』

「よし、Bエレメントは北から頭を押さえろ! 松任谷、Aエレメントは西から南西に回り込む、半包囲で殲滅するぞ!」

―――『了解!』

短距離水平噴射跳躍で、一気に距離を消す。 そのままサーフェイシングに映り、急な弧を描きながら機動射撃を行う。
前面に戦車級の群れ。 最早デッドウェイトと化した追加装甲を叩きつける様に投げつけ、その群れを圧死さす。 同時に兵装ラックから予備の突撃砲を取り出す。
残弾確認―――右、36mmが412発。 左、36mmが2000発、120mmが6発。 120mmの内、最初の3発はキャニスター砲弾。
纏めて120mmキャニスター砲弾を叩き込む。 半径50m程の範囲で戦車級と光線級が吹き飛んだ―――その向うに、地表一杯に溢れた小型種の群れ。

『フラガBよりリーダー! 海側はダメっす! 光線属種がハーバーランド辺りに居る、洋上への脱出は狙い撃ちされます! いいカモですぜ!』

海岸線付近の様子を、探らせに行っていたB小隊が戻ってきた。 摂津の言う通り、洋上に向かって西の方からレーザー照射が飛び交っている。

『フラガCです。 後方の291連隊、141連隊、共に確認できません! 混戦状態過ぎて・・・!』

くそ、141と291も同じ状態か、無理も無いかもしれない、大隊が俺達181でさえ、どうなっているのか判らない状態だ。

「よし、摂津、四宮、戻れ! 損害は?」

『今ンとこ、無しです』

『損失無し、3機です』

B小隊は宇佐美を、C小隊は浜崎を、既に戦列から失っている。 それでも中隊残存10機とは、この状況で我ながら良く保っていると思う。

「こうなったら、何とかして光線属種の隙を突いて、六甲の山越えをかけるしかないか・・・」

噴射跳躍をかければ、ほんの1秒かそこらだ。 だがその1秒をどうやって生み出すか。 
こうしている間にも、断続的にレーザー照射警報がコクピットに鳴り響いている。

「ここに留まっていても埒があかんか・・・ 摂津、四宮、西宮まで下がるぞ」

『西宮、ですか・・・』

『・・・ここで訳の判らない乱戦で消耗するより、少なくとも目標だけははっきりしますね』

四宮は消極的賛成、摂津も他に手は無し、そう考えていると踏んだ。 従来のBETA群主力である3万余の個体群、そいつらが西宮に屯っている。
あそこはまだ光線属種の数は少ない、代わりに要撃級や戦車級が無数にいるが。 それでもここでジリジリと消耗するよりはマシだ。
中隊を終結させ、目的座標までの移動経路を設定しようとするが、どの経路もBETAが溢れかえって尋常には行きそうにない。

そんな思考を進めている間にも、戦場の様相は刻一刻と変わってゆく。 後続集団の一部から、突撃級を主体としたBETA群が直近に迫って来ていたのだ。
それに直前まで気付かなかった。 お陰で突撃級の突進を回避しながら、直ぐ傍まで接近してくる戦車級を排除し、光線級の照射警報を外す機動を強いられる。

「とにかく止まるな! 足を止めるな! 3秒以上、同じ機動をするな!」

もう何度、同じ事を叫んだか判らない。 目前に突撃級が迫る、回避しようと一瞬視線を右に移す―――駄目だ、右側の奥に光線級がいる。

『中隊長! 動いて!』

松任谷の声か、今は無視する。 距離100・・・ 80・・・ 50! 左側節足部に、残った120mm砲弾を2発、纏めて叩きこむ。
右側にバランスを崩した突撃級の進路が、一瞬右側に逸れる。 同時に短距離水平噴射跳躍―――直後に右跳躍ユニットの噴射をカット。 機体が急激に右に振り回される。

「ッ―――むぅ! くっ!」

コンマ数秒の差で、再び右跳躍ユニットを吹かす。 機体を強引に左に捻り、スパイラルを防ぐ、そのまま一気に直進―――射撃。
突撃級の奥に居た光線級の直ぐ直前まで、逆に突撃級を壁にして一気に迫り、36mmの掃射を叩きつける。
他に闘士級や兵士級もいた様な気がする、一瞬の射撃―――離脱の為に、どの種がどのくらいいたか咄嗟に把握は出来なかった。
だが、取りあえずのレーザー照射の危険だけは排除できた。 戦術レーダーを視界の隅に捉える、赤いエリアは随分と消えた。 少なくともこの戦区では。









1998年8月12日 2150 兵庫県尼崎市 神崎川前面防衛ライン


「奶奶的小孙子!(クソッたれ!)」

殲撃10型の管制ユニット内に、罵声が響く。

『小日本!(くそったれの日本人め!) 随意地死、别卷进我!(勝手にくたばれ! 俺を巻き込むな!)』

統一中華戦線派遣、第312機動旅団の第2戦術機甲大隊、その第3中隊長である梁光順(リォン・コァンション)大尉は、先刻命令を受けた作戦を罵り続けていた。

『なんだってこの俺が! こんな東海の僻地の島で、死ぬような想いをせにゃならんのだ!』

作戦内容は西宮の北部、苦楽園を死守し、そこに逃げ込んで来るであろう日本陸軍戦術機甲部隊の別動隊―――141、181、291の3個連隊の撤退を支援する事。

『割にあわねぇ! まだBETA共はウジャウジャ居やがるんだ! そんなトコに出張って行って、クソッたれの小日本人(シャオリーベンレン:蔑称)を助けろだと!?
くそっ! 俺が死んだら、どうしてくれるんだ! しかも、逃げ帰って来る連中を支援しろだと!? 連中は碌に戦い方も知らんガキ共かよ!?』

低空スレスレを高速NOEで移動中の殲撃10型、統一中華戦線の主力戦術機。 
隊長機を先頭に、12機が綺麗なダイアモンド・トライアングルを組んでいる様は、この部隊がかなりの手練である事を示している。

『青龍(チンロン)・リーダーより白虎(パイフー)リーダー! 光順! 何時まで愚痴っているんだい!?』

隣を進むもう1個の戦術機中隊―――こちらも殲撃10型だ―――の指揮官機から、少し呆れた声が流れる。

『ここで日本軍に踏み留まって貰わないと、僕らも大変な事になる! それにここは極東最終防衛線の要衝だ! 
だからこそ、上層部は我々を送り出したんじゃなかったのかい!?』

第312機動旅団の第1戦術機甲大隊、第2中隊長の曹徳豊(カオ・ドゥオフェン)大尉が諭す様に言う。

統一中華戦線は台湾本島と、その対岸の福建省―――福州(フーチョウ)、覆門(アモイ)、汕頭(シャントウ)に挟まれた『台湾海峡防衛線』の維持に必死になっている。
その彼等が、この日本本土防衛戦に2個旅団とは言え、戦術機甲大隊4個を含む増援部隊を送り込んでいる訳―――極東最大の兵站基地である日本を維持する為だ。
呉越同舟、そう巷で言われる2国制度が内包する諸問題は、この際遠い棚に置いておく。   台湾にしても、『友邦』である日本帝国の崩壊は死活問題だ。
そして、既にその国土のほぼ全てを失陥した共産党も、表向きのプロパガンダと実際にメシを食う為の手段は別物、そう心得ている。

『はっ!―――徳豊! お前さんも外国帰りのあの、小生意気な女共と同じ事を言いやがる!』

『趙大尉に、朱大尉の事か? おい、君と同じ解放軍出身だろう、あの2人は。 それに彼女達は、友軍の危地に立派に手助けをしている。
どうも君を見ていると、彼女達と同じ解放軍系の軍人とは思えないな』

『けっ! 同じだと!? 馬鹿抜かせ、あんな冷や飯食いの4野軍(第4野戦軍)上りと一緒にするな! 俺は軍主流の3野軍(第3野戦軍)だ!』

事実だった、解放軍は国共合作から国共内戦時の5軍(第1~第4野戦軍、華北軍区)が元となって拡大して行った。
そしてその主流は、権力闘争に勝ち抜いた第3野戦軍系の部隊が、主力精鋭部隊として維持されてきたのだ。


網膜スクリーンに映る僚隊指揮官機を横目で見ながら、曹徳豊大尉は何かやり切れない溜息と苦笑を洩らす。
台湾の少数民族、高砂族の出身であり、1940年に日本帝国陸軍の兵士として志願入隊した祖父を持つ彼にとって、日本とは常に親近感を抱く国だった。
実際、彼は日本語さえ流暢に操る。 この国に着任してからと言うもの、日本軍指揮官との打ち合わせは全て日本語でこなし、相手を驚かせたものだ。
それが、統一中華戦線結成後に大陸の連中がやってきて、その連中のなかには酷く日本を嫌う者達もいる事を知らされた。

(―――前の戦争なんて、もう何十年も前の話だろう? 僕たち自身どころか、父親の世代だって経験していない。
祖父や曾祖父の世代の話だ、なのにどうして彼等は、ああも自分自身が被害者であるかのように語るんだろうな・・・?)

もっとも曹大尉は、彼自身が台湾軍の中でも特異な感覚を持つ少数派である事は、薄々理解している。
台湾でも『本省人(国共内戦後に、大陸から移ってきた人々)』は、時として口汚く日本を罵る。

(ああ、そう言えば・・・ 後ろの韓国軍の片方、確か郭鳳基(カク・ボンギ)大尉だったか? 彼も日本嫌いだと言っていたな・・・)

中国軍2個中隊の後方に、韓国軍派遣旅団から抽出された2個戦術機甲中隊が続行している。 
機体はF/A-92K、日本軍の主力戦術機であるF/A-92『疾風弐型』の、韓国軍配備型だ。
その片方、ファラン(花朗)中隊を指揮する郭鳳基(カク・ボンギ)韓国軍大尉もまた、強烈な反日感情の持ち主だった。

(・・・おかしなものだな、それぞれこの国に対して否定的な指揮官と、肯定的な指揮官、それぞれが居るなんて)

韓国軍のもう一方の戦術機甲中隊で有る『チルソン(七星)』中隊指揮官の韓炳德(ハン・ビョンドク)大尉は、逆に『日本好き』と言われているらしい。
ああ、そう言えば向うにも日本贔屓の女性衛士が居たな。 確か・・・ 李珠蘭大尉。 なんだって言うんだろうな? 全く。

廃墟と瓦礫ばかりの、元は繁華であった市街地の跡を飛行する事暫し。 やがて4個戦術機甲中隊の前に、『死守拠点』と指定された苦楽園が見えてきた。

『あそこか。 チンロン・リーダーよりパイフー、ファラン、チルソン各リーダー! 前方に目標地点確認! 手筈通り、半円周防御陣形だな?』

『ファラン・リーダー、確認した』

『チルソン・リーダー、了解』

『・・・チッ! パイフー・リーダーだ、了解! 言っておくが、俺は中隊をここから一切動かさねぇぞ! 大事な部下を、こんな所で使い潰してたまるか!』










1998年8月12日 2200 兵庫県芦屋市付近


中隊陣形はもう、まともに組めない状況に陥っている。 
小隊単位、いや、もうエレメント単位で戦闘を強いられている状態だ。 お陰でジリジリと、押され始めてきた。

「ッ! くそ、このままでは手詰まりになる・・・!」

右の突撃砲が黙る、弾切れだ。 予備の弾倉も無い、目前の戦車級の群れに投げつける。  2、3匹は巻き込めたか。
左の突撃砲を放ちながら、兵装ラックから最後の武器―――長刀を取り出す。 コイツを遣う事になるとは。

『うっ、うわああああ!』

突然悲鳴が上がる、見ると倉木の機体がダウンしていた。 機体上部が焼け焦げている、レーザーが擦過したか!?

「瀬間! 松任谷! 倉木を! 俺が防ぐ!」

迫りくる戦車級の群れ、要撃級もいる。 36mmを放ち、120mmを叩き込むが数が多い、なかなか倉木に接近するBETA群の排除に行けない!

『倉木、倉木! 脱出よ! 脱出しなさい!』

瀬間が喚く。 どうやら瀬間も周りのBETAに邪魔をされて動けないらしい、松任谷も同じだ。 くそ、益々小型種―――戦車級が集まって来る。

『だ・・・ だめです、管制ユニットが変形しています、エジェクトが利きません! 助けて・・・ 助けて下さい、中尉! 助けて・・・ 中隊長ォ!』

「ッ! B小隊! C小隊!?」

『駄目っす! こっちも手が回りません!』

『こ、こいつら・・・!』

―――摂津も四宮も、自分と自分の小隊を守るのに必死だ。

『ッ! 松任谷! 下がれ! 下がって!』

『え? う、うわあ!』

咄嗟に後方にバックステップを打った松任谷機の、その直前まで位置していた場所を、突撃級が猛速で突進して行った。
見ると後続の大型種が次々にやってくる、瞬く間に小隊と倉木機の間に壁が出来た。 目前には絶望的なまでのBETAの壁。 くそ、何とかしないと・・・!

『うわっ! ぎゃあああ! 来るなあ! 畜生、畜生ォ!』

―――駄目だ、目前の要撃級数体と、戦車級の群れの向う。 ダウンした倉木の『不知火』に、次第に戦車級の群れがたかり始めた。

『畜生! 畜生ォ! こ、こんなところで・・・ 畜生ォォ!』

『倉木! 倉木! 脱出・・・ 脱出しろぉ!』

倉木の絶望と、瀬間の絶叫が聞こえる。

『ちゅ、中尉・・・ 無理っす、もう、無理・・・ 周りにBETAが山ほどいやがる・・・  俺、もう無理・・・』

36mmでありったけ横殴りに掃射する、瀬間と松任谷も同様に。 だが倒れるBETA、消し飛ぶBETA以上に、新たに現れるBETAの数の方が多い!
頭の中が切れそうだ、何とか、何とか方法は無いか? 正面突破? 駄目だ、大型種の向こう側に光線級。 飛んだら一発で蒸発させられる。
右側面? 要撃級の山だ、あそこを突破するのは難しい。 左は? 突撃級の壁、隙間に戦車級が居る。 こちらも小隊で突破する事は困難だ。

『中隊長・・・ 俺、食い殺されんの、ゴメンです』

「ッ! 倉木・・・」

不意に、倉木の静かな声が聞こえた。 
網膜スクリーンに映し出される部下の顔、妙な加減に歪んだその表情。

『スンマセン、中隊長。 スンマセン、俺・・・ お願いします・・・』

まだ生きている。 もう赤黒い戦車級に山の様に集られ始めているが、まだ倉木は生きている。

「・・・瀬間、松任谷、10秒保たせろ」

『中隊長!?』

『―――ッ!』

まだ、通信機能は生きている。 網膜スクリーンに映し出された倉木の表情が、一瞬変わった。
向うでも見えるのか、俺に気付いた倉木の表情は、『死』と言う未知への恐怖と、絶望と、哀しみと―――ほんの少しばかりの安堵の色が、見えたと思う。

(―――済まんな、文句は後で、あの世で聞いてやるからな)

泣き笑いの表情の倉木。 涙と鼻水と、涎も流れている。

『うっ・・・ ぐっ・・・ ぐふっ・・・』

照準を合わせる。 最後に残った120mmAPFSDS弾―――こんな事に使うとはな。 
時間がゆっくり流れる、まるでスローモーションのように。

『止めて! 止めて下さい、中隊長! あいつは、倉木はまだ生きています!』

『瀬間中尉! 射線に入ったら駄目ですってば!』

BETAを掃射しながら、瀬間が必死になって頼んでいる。 松任谷が120mmを迫る要撃級に叩き込みながら、瀬間機を制止していた。
耳にBETAが装甲を齧る音が聞こえた、倉木の機体の管制ユニットはもう保たないのか。

照準が合う、フレンドリーファイア防止の為のIFFは既に切った、もはや『あれ』はターゲットだ。

『ぐふっ・・・ ぐうぅぅぅ・・・!』

スクリーン越しに倉木と視線が合った、色んな事を俺に叫びかけているその目。
BETAに喰い殺されたくない、いっその事、早く楽に。 でも、助けて、助けて、助けて―――殺さないで、生きたい。 そう言っている。

「・・・俺を恨め、俺だけを恨め。 いいな、倉木? 俺だけをだ」

静かに、そっとトリガーを引いた。
120mmAPFSDS弾は、僅か100m程の距離をゆっくりと進み―――コクピットを直撃した。

『倉木ぃ!』

『駄目ですって、瀬間中尉! あいつは、倉木はもう駄目でした! 助けようが無かったんですってば! 落ち着いて!』

時間の流れが急激に戻った、周囲の砲声、怒声、悲鳴、そんな諸々が通信上に無秩序に乗って聞こえて来る。
戦車級ごと管制ユニットを撃ち抜かれ、大破した倉木の機体が視界の片隅に映る。 俺が失った部下、俺が最後を・・・

「・・・瀬間! 松任谷! トライアングルを組め! 摂津! 四宮! 下がるぞ、脱出経路を再設定し直す! 
ここに居ては全滅だ、何とか生還の確率の高いルートを探し出す! 暫く防御戦闘の指揮を取れ!」

『りょ、了解! B小隊、固まれ! AとCとの距離を保つんだよ!』

『C小隊、了解です!』

部下の小隊の動きを確認しつつ、迫ってきた戦車級の群れに36mm砲弾を浴びせかけ始末する。 残弾数、816発。 120mmは尽きた、もう長くは保たない。
視界の片隅、網膜スクリーンの一角に、憤怒と自制と、そして悔しさとを滲ませた表情の瀬間の姿を捉えた。

瀬間―――戦うとは、こう言う事だ。 部下を指揮して戦うとは、こう言う事だ。

「・・・軍人は、戦場に幻想を持ち込むな・・・」





その後の移動しつつの経路設定、摂津と四宮が俺の代わりに、中隊の防御指揮を続けている。 海岸線から西宮―――駄目だ、話にならない、BETAの数が多すぎる。
夙川方面から北東へ―――31師団と後続の49師団が激戦中だ。 一見良いように見えるが、叩き合いのど真ん中に飛び込むのも考えものだ。
ここは一旦夙川から真北に、苦楽園まで北上して一旦山間部に入るか。 そして、そこから宝塚まで出る―――よし。 その前に、目前の集団を片付けなければ。

―――では、どうする?

そう考えたその時、左後方から砲弾が降り注いだ。 少し離れた場所に固まっていた小型種の集団が吹き飛ぶ。
レーダーを見ると友軍部隊が接近してくる、コードを確認すると『181-A3』に、『141-B3』 181連隊第1大隊第3中隊と、141連隊第2大隊第3中隊。

(―――1大隊の葛城君(葛城誠吾大尉)に、141の佐野君(佐野慎吾大尉)か・・・)

ようやくお目にかかった友軍部隊だ、これで少しでも楽になる。 ・・・にしても、かなり叩かれているな。

「フラガラッハ・リーダーより≪ランサーズ≫、≪ソードマン≫、そのまま北東だ、ポイント・ゴルフ-8」

『ランサーズ・リーダーよりフラガラッハ! 無事でしたか!』

『フラガラッハ、周防さん! ソードマン・リーダーです、ようやく友軍と合流出来た!』

随分と叩かれている、6・・・ いや、7機ずつか? 他の隊はどうなった?

『ランサーズ、残存7機。 一気に2機を失いました』

『ソードマン、同じく7機。 こっちは1機を失いました・・・』

両中隊とも、残存機数は7機ずつか。 葛城君も佐野君も、俺とは半期違いの18期B卒だ。   92年の10月から大陸派遣軍で戦ってきた、歴戦の猛者だ。
あの、92年の末から93年初頭の大作戦にも参加した、そして生き残ってきた。 その彼等をして、今までの継続した戦闘でとはいえ、指揮中隊の半数近くを失わせるとは。

くそ、愚痴を言っても始まらない。 この場の3人の大尉の中で、最先任者は俺だ。 俺が方針を決めなければ。 その為には先ず、この重包囲とも言えるBETAの壁を抜かねば。
俺の隊が9機、葛城君の隊が7機で、佐野君の隊も同じく7機の合計23機。 これで何とかなるか? 何とかしないと、本当に手詰まりだ。
それにしても、一体戦況はどうなった? 大隊は? 連隊は? 共に突入した他の連隊は? 大隊長とも、美園の中隊とも連絡が取れない。

「こっちはついさっき、1機を失った。 どうだ? 一気に夙川から苦楽園まで抜けようと考える。 僅かだが、その方面のBETAの数が薄い。 葛城君、佐野君、手伝うか?」

『・・・戦線を放棄する事になりますが?』

『葛城、もう既に戦線は崩壊している、作戦は失敗だ。 これ以上、ここで踏ん張る必要は無いと思う』

『佐野、放棄命令は出ていないぞ?』

『出す上官の所在すら、全く不明だ。 葛城、貴様、ここで死ぬ気か?』

葛城君と佐野君、同期生同士のやり取りを聞いている内に、自分の同期生の事を思った―――大丈夫だ、あいつらは生き残る術を知っている。

「葛城君、佐野君の言う通りだ。 既に戦線は崩壊した、ここで戦っていても、援軍は来ないと思う」

『・・・周防さん』

俺が生き残ってきたのは、俺が戦場で学んだ生き残りの術は、『戦場を見極めろ』だ。 
命令に最後までしがみついて、自身と部下の命を無駄に捨てる気は無い。 捨てる場所と状況を見極めろ、そう言う事だ。
ほんの一瞬だけ、考え込む様子を見せた葛城君だが、今度は視線に力を込めて言う。

『・・・確かに、ここじゃ何も出来ません。 それに、他に経路は無いですね』

『仕方なし、ですか』

よし、これで脱出経路は決まった。 そして移動経路を設定する僅かな時間の間に、他の部隊の状況が判明した。 
141連隊は最後方に位置した為、1時間半前に突如現れた1万を超すBETA群の出現に咄嗟に対応が出来なかった。 

(『―――退け!』)

141連隊先任指揮官の早坂中佐が、咄嗟に連隊全部隊に発した命令は、その言葉だったと言う。 

その後は第1大隊『フラッグ』、第2大隊『アルヴァーク』、第3大隊『ライトニング』共に先鋒の突撃級に突っ込まれ、そしてこの初期段階で2個中隊が壊滅したと言う。 
141の13中隊長・伊崎真澄大尉、22中隊長で同期の古村杏子大尉が戦死したそうだ。 伊崎大尉は葛城君や佐野君の同期で、俺の半期下。 昔、広江少佐の大隊で一緒だった。
そして古村。 訓練校は別だったが、92年から大陸で一緒だった同期生の一人。 彼女も少尉時代に同じ大隊に所属して、共に戦った。

(―――くそ、これでまた、同期生が一人減った・・・)

141連隊はこの時点で、四分五裂状態に陥ったと言う。 帝国陸軍戦術機甲連隊中、最も歴戦の部隊のひとつをして、この様だとは。

俺の所属する181連隊は、恐らくその15分後にBETAの急襲を受けた。 
最初は何とか組織的な抗戦を維持できていたが、光線属種や要塞級に加え、後続集団の突撃級に突っ込まれた時点で混線に陥った。
大隊長・荒蒔少佐の指揮する第1中隊、美園の第3中隊とはそれから5分後には、お互いの場所を確認出来なくなっていた。
おまけに山間部に配置していたCPを撤退させた為に、状況がますます混乱した。 第1大隊も似た状況だと、葛城君が言う。

第1大隊長の広江中佐は、緋色の指揮する第2中隊と行動を共にしていたらしい。 
しかし木伏さんの第1中隊、葛城君の第3中隊も怒涛のBETAの突進を阻止している内に、各中隊の連携が不可能な状況に陥ったと言う。
他の大隊は、全く判らない。 森宮少佐指揮の第3大隊も、途中でロストしてしまった。   源さんに愛姫、それに仁科・・・ 簡単にくたばるタマではない筈だ。

291連隊については、全く情報が無い。 後方から抜けてきた141の佐野君が、その姿を見なかったというから・・・ 下手をすれば全滅か?
あそこにも同期生が居る、大友祐二大尉に国枝宇一大尉。 帝国では珍しい、89式『陽炎』に長く搭乗してきた『イーグル・ドライバー』の2人。
あの2人も、大陸派遣軍上がりだ。 折角、長い間大陸の地獄を戦い抜いてきたのだ、ここで死んでは、人生大損だぜ? 大友、国枝・・・

「・・・よし、葛城君、佐野君、D2回線を開いてくれ、この経路で行く。 大型種が比較的多いが、相手にしなければ返って脱出し易い」

『ですね、戦車級が多い戦区より、機動に気を付ければ・・・』

『賛成です、周防さん』

ランサーズを先頭に、ソードマン、フラガラッハの順でサーフェイシングを開始する。 針路上には大型種が多い、しかしそれを回避すれば何とかなる。
左右に120mm砲弾、36mm砲弾を叩き込みながら、しかも途中で群れの前で立ち往生しつつ、北東を目指す。
しかしもう、弾薬が少ない。 特に後方から突破してきた佐野君の中隊、≪ソードマン≫各機の残弾数はもう、致命的なまでに減っている。
くそ、どうするか。 このまま一気に飛び越すか? 光線級に何機か食われる、確実に喰われる。 しかしこのままでは、全機が喰われるかもしれない。
そんな手詰まり感で気付かぬうちに焦りが出ていたか。 要撃級の群れに半包囲されていた。 後方には光線級のレーザー照射危険範囲―――しまった。

『さっさと逃げろ、リーベンレン(日本人)!』

突如、前面に迫る数体の要撃級が、背後から次々に撃ち抜かれた。 僅かにできた隙間、そこに飛び込むしか手は無い。

「フラガラッハ! ランサーズ! ソードマン! あの隙間に突っ込め!」

群がるBETA群、その中に出来た一条の隙間。 その向うにBETAに向け突撃砲を撃ちかける戦術機の姿があった。









1998年8月12日 2300 大阪府合同庁舎内 第2軍司令部


「新たなBETA群、約1万5000! 神戸市内を突破、芦屋市内に突入しました!」

「第1派攻勢任務部隊、第2派攻勢任務部隊、後退しつつあります!」

「海軍第1艦隊より入電! 『これより艦砲射撃を開始す』、以上です!」

「別動部隊の戦術機甲3個連隊、応答有りません!」

「武庫川ラインを放棄! 全戦線で武庫川ラインを放棄! 神崎川ラインまで下がりつつあり!」


第2軍司令部に入る戦況報告は、どれもこれも作戦の失敗を知らせる報告ばかりだった。 オペレーターが声を枯らし、参謀達は彼我の状況の把握に追いまくられている。
それまで無言で、戦況の推移を映し出すプロジェクターを見つめていた第2軍司令官の嶋田豊作大将は、振り返り背後の参謀長に簡潔に命じた。

「―――作戦中止。 第9軍団は、淀川防衛線まで後退せよ。 第7軍団に下命、側面支援を為せ。 海軍第1艦隊に通達、洋上支援を乞う、以上」

場が一瞬、静まる。 そして数瞬の逡巡の後―――

「第9軍団司令部に伝達! 『作戦中止、淀川防衛線まで後退せよ』、急げ!」

「第7軍団司令部! 2軍司令部だ! 第9軍団が後退する、側面支援に出せる師団は!?―――2個? 5師と40師? よし、豊中から吹田にかけて、側面攻撃を為せ、だ!」

「最後の戦略予備を投入しろ! 海軍第5艦隊(基地戦術機甲部隊)に連絡! 第381、第323戦術機甲隊(大隊)の投入を乞う!」

「国連軍の連絡将校は!? どこだ!?―――サーマート中佐! 中韓の4個旅団、投入をお願いする!」

「海軍聯合陸戦総隊司令部! こちら陸軍第2軍司令部! 聯合陸戦第1、第3師団の後退を!―――そうです! 淀川防衛線です!」

「第1艦隊! 作戦中止! 作戦中止! 全力洋上支援を乞う!」

その様子を、司令部内の片隅で見つめる数名の参謀団が居た。 先程から無言で様子を見つめているが、時折小声で何かを話し合っている。
その様子を目にした嶋田大将が、冷ややかな目でその集団を見ていた。 やがて一人の大佐参謀が、その視線に気付いた。

「閣下、当初の予定では、14日の夜に淀川防衛線へ撤収との計画でしたが・・・」

「・・・見たまえ、部下達は殆ど奇襲に近い打撃を受けつつも、戦線を崩壊させる事無く後退戦闘を継続中だ。
これ以上を望めん、海軍と協同してもだ。 BETAの総数、4万8000だと? 1個軍で支えられる数を越しておる」

「第1艦隊の全力支援が有れば、あと1日は攻勢を掛けられるかと愚考致しますが?」

「ああ、まさに愚考だ。 攻勢、ああ、可能だよ、あと1日はな―――その後はどうする? 戦力は残らんぞ?」

両者が静かに、火花を飛ばした様な気がした。
大将と大佐、階級で4階級もの差がある事を思えば、その大佐参謀の態度は不遜にすら見える。
暫くして、大佐参謀の表情から張りつめた様な気が、不意に抜けた。

「・・・ですな、仰る通り。 淀川防衛線は、是が非でも支えなければなりません」

「ならば、帰って伝えたまえ」

「・・・失礼します、閣下」

にべも無い嶋田大将の口調に、少しばかりの苦笑を浮かべた大佐参謀は、形だけは見事な敬礼をし、その場を去って行った。






「宜しいのですか? 閣下」

参謀長が背後から、やや心配そうな声色で聞いて来る。 その声に振り向かず、しかし声は達観した声色で、大将は呟いた。

「・・・構わんよ、別に。 どうせ私は本省や、統合幕僚総監部に居座っている統制派の連中からは、煙たがられている。
あわよくば、ここで戦死してくれれば、そう思っているのだろう。 そうでなくとも、この戦場に当分は釘付になるしな」

その言葉に、参謀長は今現在、軍中央で主流となっている将官、高級将校達の顔ぶれを思い出す。
あの連中、確かに頭脳明晰では有るのだろうが。 その政治的行動は、どうにも反発を覚える。
海軍や航空宇宙軍の連中はあれ程でもないが、逆にその政治的行動を自ら制する事で、陸軍の『政治将校』達の行動に掣肘が効かない。
司令部を出て行った大佐参謀―――統合幕僚総監部作戦局第1部作戦課長、河邊四郎陸軍大佐の背を見送った参謀長は、彼らが逆に簡単に引き下がった事を気味悪く思えた。


「それよりも、最前線に出した3個連隊。 まだ連絡はつかんかね?」

「はい、9軍団司令部からも、消息不明との報告が・・・ 下手をすれば、あたら歴戦の3個連隊を・・・」

参謀長のその言葉と、後悔の表情を見ながら嶋田大将は、僅かな望みを探る様な声色で言う。

「・・・他の部隊なら、その可能性は有る。 しかし9軍団のあの3個連隊は、派遣軍上がりだ」

「と、仰いますと?」

「連中は多くの戦場で、勝者になった。 だがまた、多くの戦場で敗者の屈辱を舐めてきた。 つまりは打たれ強い連中だ。
戦況がこうなった段階で、現場指揮官の判断で退くべき時は、退いておろうよ。 それが出来る連中だ」

無論、無事では済まないだろう。 多くの衛士、それも指揮官クラスの戦死も有るかもしれない。 しかし、3個連隊全滅と言う最悪のケースは、回避してくれるはずだ。 
今や宝石よりも貴重な、長年大陸で経験を積んだ衛士達。 せめて、半数でも生き残ってくれれば・・・






「帝都に打電―――『京都放棄は、予定を1日繰り上げられたし』だ」

「はっ!」

「ああ、それともう1件。 内務省警保局の芝野特高公安部長に繋いでくれ、緊急の相談をしたいと」

「判りました」

宛がわれた一室、秘匿回線付きの通信装置をわざわざ持ち込んで、各所と連絡を付けている。
河邊四郎陸軍大佐は、秘匿回線が繋がった事を確認してから、相手と話し始めた。

「もしもし、河邉です。 ええ、その件で・・・ ええ、1日繰り上がります。 ついては、騒ぎ出すと予想される面々のネタを・・・ 
ええ、場合によっては、国家憲兵隊にも。 帝都管区憲兵司令官の右近充中将には、こちらから・・・ 予防拘禁も視野に入れましょう、ええ、全面戒厳令です」

暫く話した後で、通信を切る。 椅子の背にもたれかかり、軽く目を閉じて瞑想するかのように動かない。

(―――判っていない連中が多過ぎる)

議会? 連中は所詮、利益の分配を貪るだけの集団だ。 国家戦略の何たるかを理解し、その方向性を模索し、立案し、決定する能力も無ければ、その意志も無い。
政府に政党? 同じ事だ。 今の首相は、確かに政党政治家としては硬骨の人物だろう。  成程、確かに視野も広く、決断力も有る―――しかし、首相独りだけだ。
元老院? もうじき墓場に入る老いぼれ達に、何ができる? 元枢府? 浮世離れした前世紀の遺物に、もはや用は無い。
国政の実権を、政威大将軍に? 愚かな、何と言う愚かな冗談だ。 将軍家が政治を決定した時代は、もう3世紀以上も昔の話だ。

(―――判っていないのか? 連中は・・・ 己の、奴隷根性を? 己が意志をすら、他人に預けて喜ぶその滑稽さを?)

ああ、その前に米国のちょっかいは極力排除しておかねば。 何もあの国と断絶する訳ではない、それは亡国を意味する。
国際外交のパワーゲーム。 如何にこちらのカードを伏せたまま、向うにカードを出させるか。 片方が倒れては、或いは片方が隷属しては、成立しない。
帝国は、米国と袂を別つべきでは無い。 同盟とは外交の一手段だが、外交に敵も味方も存在しない。 在るのは国益だけだ。
もはや1国で世界に独り立てる国など存在しない。 その為には、互いに右手で握手しつつ、左手で相手の懐を探る、そう在るべきだ。

(―――判っていない連中が多過ぎる、本当に困った事だ・・・)

場合によっては、核の行使も辞さぬ。 彼と彼の派閥は、実はそう考えている。 そのままなら、どうせBETAに汚される事になる土地だ。
近年の核弾頭は、加速器駆動未臨界炉で長半減期物質を分離して、短半減期核種に変換されたものを搭載している。
その為にごく短時間に多量の放射線を発するが、逆に半減期はほんの数年、と言う所まで技術的に可能になっているのだ。
結果として核物質は、僅か数年の崩壊過程で、放射線を発しない鉛へと変わり果てる。 世で言われる程に、核弾頭攻撃は土地を長期間不毛にはしない。

(―――アサバスカに核を撃ち込んだ74年当時とは、技術の進歩は格段の差なのだ)

しかし、一度染みついた意識はなかなか変えられない。 そこが悩み所では有った。
恐らく、帝国本土に核を撃ち込めば、殆ど全ての日本人は激昂する事だろう。 例え、その被害が数年のうちに無効化されるとしても。
そして、今現在で核の運用能力を有する国家は、米国と英国、そしてシベリア・アラスカに逃げ込んだソ連が僅かにその能力を有する。
とすれば、帝国で核攻撃運用を可能にする国は米国に限られる、それは流石に拙い。 国家戦略―――米国との、つかず離れずの基本戦略が崩れてしまう。

帝国軍内の統制派高級将校団、各省庁の上級キャリア官僚団、既に国際企業と化した帝国内大企業群。 帝国における軍官産複合体の総意は、そうであった。










1998年8月12日 2340 兵庫県神戸市灘区付近 


目前の要撃級を交し、後部胴体に側面から長刀を振り降ろして引き切る。 スッと切り筋が出来、次の瞬間、体液を撒き散らしながら胴体が切断される。
同時に左側面から突っ込んで来た要撃級の前腕をスリ抜ける様に、もうひと振りの長刀を突き入れる。
突撃級が1体突進してくる。 僅かに機体をずらし、その突進を交すと同時に左の長刀をすれ違いざまに節足部に突き立てる。
突撃級は自身の持つ突進力によって、節足部全てを長刀によって根こそぎ切れ裂かれ、北面に倒れ込みながら停止した。

「・・・ふむ、これはもう、鈍らだな」

左の長刀を見る。 もう随分と刃こぼれが激しい、もはや殴打用にしか使えまい。 その長刀で群がってきた戦車級の1団を、下生えを刈り取る様に薙ぎ払う。
最後に闘士級や兵士級の群れに投げつけた、10数体が長刀の持つ物理エネルギー―――重量と投げつけた速度でもって、押し潰される。
周囲を見渡すと、破損した機体の傍らに突撃砲が転がっている。 チェック―――大丈夫だ、使える。
誰のであろうか。 破損した『不知火』の管制ユニットはもぬけの殻だ、どうやら衛士は無事脱出できたようだ、なら代わって自分が使ってやろう。

残弾数確認、36mmが1156発、120mmが4発、まだまだ戦える。

「・・・三方はBETA共、背後は山か。 この状態では万策尽きた、とでも言おうか?」

第14師団第141戦術機甲連隊の最先任大隊長、早坂憲二郎中佐は周囲を見渡し、いっそ呆れた様な口調で言う。
141連隊は当初、中央区付近で六甲の稜線を越え、BETA群の最後尾に対し攻撃をかけた。 当初は計画の通り、攻撃は順調にいくかに思えた。
しかし、あの時がやってきた。 重光線級を相手取り、何とか駆逐しつつあったその時、CPから悲鳴のような報告が入ったのだ。

(≪ッ! 後方にBETA群多数! 約・・・1万5000! 急速接近中!≫)

自分は一言、『―――退け!』としか言えなかった。 
直率する第1大隊、岩橋少佐の第2大隊、宇賀神少佐の第3大隊、それぞれが充分な迎撃態勢を整えられぬまま、BETAの大津波の中に飲み込まれてしまったのだ。
何とかして大隊だけでも掌握しようとしたが、余りにBETAの数が多過ぎ、その進撃速度が速すぎた。 気がつけば、第291戦術機甲連隊の受け持ち戦区まで押されていた。

そして撤退戦の最中、目前で部下の中隊長を一人失った。
第3中隊長の伊崎真澄大尉は、崩れそうになる部隊の先頭に進出し、部下を叱咤激励しつつ奮戦する途中に、光線級のレーザー照射の直撃を受けた。
今は早坂中佐が、中隊長亡き後の第3中隊を直率している―――指揮小隊を入れても、9機しかいない。

『大隊長、防御布陣完了です』

網膜スクリーンに部下の一人、第2中隊長である長門大尉の姿がポップアップする。 この騒ぎの中、最も早く冷静に状況を把握した男だ。 
あの初期の混乱の最中、『海岸線は駄目だ! 山腹に退くんだ!』と、この男の咄嗟の声が無ければ流石の歴戦連中でさえ、一瞬の隙を見せたであろう。

「生き残りは、どの位になった?」

途中で合流出来た友軍の数は、少ない。

『・・・ウチの1中隊(水嶋大尉指揮)が6機、自分の2中隊が7機。 指揮小隊と3中隊合わせて9機の、大隊戦力は22機です。
他に3大隊の2個中隊と指揮小隊。 宇賀神少佐が5機を直率しています、和泉大尉の中隊は7機、間宮大尉の隊が6機で18機です』

第2大隊は行方が判らない。 第141戦術機甲連隊は、把握出来ているだけで僅か40機にまで減少してしまった。

『3大隊の古村大尉が、戦死したと。 損傷した部下の機体を庇っての戦闘中、背後から要撃級の一撃を管制ユニットの真後ろに受けたと・・・』

声に悔しさが滲むのが判る。 確か古村は、長門の同期生だったな。 ならば、余計か・・・

戦車級の群れに36mm砲弾を1連射、赤黒い霧のように霧散する。 
しかしまだ突撃級と要撃級がそれぞれ数百体、小型種が数千体は居る。 そして・・・

「あの4か所の重光線級、あの連中を、どうにかせねばな・・・」

今丁度、残存部隊は六甲ケーブル直下に集結している。 
第3大隊長の宇賀神少佐が部隊を纏め、後は噴射跳躍ひとつで稜線を飛び越せば、そのまま山間部を利用して後方へ脱出できる・・・ 筈なのだ。

『合計で14体・・・ 周囲の光線級も30体程おります、最初の一撃で全ての機体が狙い撃ちにされます』

長門大尉が忌々しげに応える、そう、あの光線属種を何とかしなければ、今の集結地点から一歩も動けなず、ジリ貧に陥ってしまう。
早坂中佐は比我の位置関係を戦術MAPで確認した後、直率する部下の機体ステータスをチャックする。
無言で何度か頷き、秘匿回線で直属の部下に通信を入れる。

「おい、宮永、斎藤、松田。 貴様等、俺と付き合わんか?」

呼ばれた3人の衛士の姿が、網膜スクリーンにポップアップした。

『ここで置いてけぼりは、恨みますよ、中佐』

宮永総次郎中尉が答える。

『・・・ひよっこ共を守るのも、古参の役どころですからな』

斎藤信義中尉が、乾いた笑みを浮かべた。

『もうかれこれ10数年、中佐と一緒でした。 最後までお供しますよ』

松田三郎中尉が、にこやかに答える。

その顔を見て、感謝と自責と、そして静かに覚悟を決めた表情で笑い、早坂中佐は後方で生き残りを纏める宇賀神少佐を呼び出した。
何事かと訝しげな宇賀神少佐の姿を網膜スクリーンに認め、その顔に未だ諦めの表情が無い事に嬉しくなってくる。 この男も流石の、歴戦の古参衛士だったのだ。

「宇賀神君、君は生き残った若い連中を引き連れて脱出してくれ。 時間は俺が、直率の連中とで稼ぐ」

その一言で、宇賀神少佐は全てを悟ったようだ。 一瞬無言で絶句したが、直ぐに表情を引き締めて答えた。

『・・・了解です、長らくお世話になりました、早坂中佐』

その通信に、若い声が割り込んできた。

『中佐、4機だけでは早々時間も稼げません。 自分の中隊もお供します』

長門大尉だった。 その若々しい、そしてこの場に有っても絶望を感じていない、静かに自信に満ちた顔。
この男は、今のこの状況で有っても何とか戦い、そして生還しようとしている、そう出来ると自分を信じている。

「・・・残念だが、長門。 ここは大人の宴会場だ、20代の小僧は出入り禁止なのでな」

『確か、宇賀神少佐も30の声を聞いた筈ですが?』

「貴様の様な気の強い小僧を、引き留めて引率する大人も必要と言う訳だ。 良いから聞き分けろ、坊主」

ムッとした表情を見せる長門大尉。 それはそうだろう、彼とてもう6年も戦場で暮らしてきた歴戦の衛士で指揮官なのだから。
しかし、そう、しかしだからこそ、彼の様な実戦経験豊富な若い指揮官が、今後はずっと重要性を増す。 彼はこれからも、生きて戦って貰わねばならない。
ふと思い出す。 この若い大尉と初めて出会ったのは、何時の頃だったか・・・ ああ、92年、満洲。 自分はまだ大尉で、この青年は未だ少尉だった。

「聞き分けろ、長門大尉。 俺の機体の跳躍ユニットは、既に左右共に死んでおる」

『ッ! 中佐・・・』

長門大尉の絶句が聞こえる、同時に直属の部下達の声が通信に流れた。

『ついでに言えば、俺の機体は跳躍ユニットの推進剤切れだ。 斎藤の機体は左がオシャカで山頂まで跳躍出来ないし、松田は推進剤切れの上に右がやられている』

『と言う訳でな、長門大尉。 お子様は大人しくお家に帰ってくれ』

『じゃないと、引率の大人としてはだな、気が気でないんだよ』

宮永、斎藤、松田の3中尉が、おどけた口調で実情を話す。 その言葉を耳にした長門大尉が、悔しそうな声を絞り出す。

『・・・宮永さん、斎藤さん、松田さん・・・ それって、卑怯だぞ・・・』

その悔しがる若い長門大尉の顔を見つつ、早坂中佐も、宮永中尉も斎藤中尉も、そして松田中尉も、年の離れた負けん気の弟を見る様な表情で微笑む。
そして早坂中佐が、改めて宇賀神少佐に向かって『命令』を発した。

「宇賀神少佐、連隊最先任指揮官として命ずる。 残存全戦力を率い、後方へ後退せよ。 我々が恐らく最後尾だ、まだ291も181も幾らかは生き残っているだろう。
彼等と合流せよ、合流して継戦を果たせ。 ここでくたばる事は許さん、いいな?」

『・・・宇賀神少佐は、残存部隊を指揮の上、後方へ後退。 友軍との合流を果たした後、継戦を続行―――命令、受領しました。
長門大尉、貴様は私の下に付け。 中佐の指揮していた5機、貴様に預ける。 いいな?』

『・・・少佐』

『伊崎大尉・・・ 貴様の同僚で、後輩が死を賭して守った、その部下達だ。 貴様、まさか放っておくとは言わぬだろうな?』

『ッ! ・・・了解!』

悔しげな表情の長門大尉が、それまで早坂中佐の指揮下に入っていた第3中隊の生き残り5機を、自分の中隊の指揮下に纏めて後方へと下がってゆく。
その姿を見ながら、早坂中佐が宇賀神少佐に最後の通信を入れた。

「すまんな、宇賀神君。 岩橋君(第2大隊長・岩橋譲二少佐)の所在も知れん、君に全てを託す」

『・・・お任せ下さい』

「ああ、それとな、もう一つ・・・ 生きていたら、広江さんに謝っておいてくれ。 悪いが、先に楽隠居させて貰うとな。 ま、彼女がくたばるとも思えんが」

『・・・正直、あの怒声を浴びるのは敵いませんが。 他ならぬ中佐の頼みでは、致し方ありませんな、承知しました』

スクリーンから、宇賀神少佐が敬礼を送ってきた。 視線が少し左右に振れたのは、他の3人の中尉達に対しても敬礼していたのであろう。
感謝の気持ちを込めて、答礼を返す。 そして、お互い笑って通信を切った。


「さて・・・ これまた、盛大に集まったものだな」

『4000体はおりましょうか、しかしいつもに比べれば、大型種の壁はそう厚くありませんな』

目前に集まってきたBETA群を眺めながら、やや呆れた様な口調で呟く。 呆れているのはBETAの数か、それともこれから事を為す自分達にか。

「連中も移動途中だしな、返って幸いだ。 俺が中央右側をやる、宮永は中央左、斎藤は右翼、松田は左翼、いいな?」

『了解、指向性はどの範囲で?』

『重光線級の位置関係から見れば、角度は60度程ですか、距離200から250』

『起爆後の最大有効範囲からすれば、それが妥当か。 どうです? 中佐』

「それで良いよ、じゃ、行こうか」

―――『応』

4機の『不知火』がサーフェイシングを開始した。 後方へではなく、前方のBETA群の真っただ中に向かって。
突撃砲を放ち、36mmと120mm砲弾を見舞う。 近距離から装甲殻を撃ち抜かれ停止する突撃級、胴体をズタズタにされて倒れる要撃級。

部下の機体を見る。 もう10年以上、一緒に戦ってきた部下達であり、戦友だった。

『・・・兵隊から選抜されて、衛士資格試験に受かって。 ようやく准士官に任ぜられた時は、嬉しかったよなぁ』

宮永中尉が、懐かしそうに言う。 長刀で要撃級の前腕を切り落し、返す刀で後部胴体を切り落とす。

『もっとも、その後で待っていたのは鬼の万年中尉殿だった。 正直あの頃は怖かったぜ、この人』

斎藤中尉が笑いながら、突撃砲の120mmキャニスター砲弾を戦車級の群れに叩き込む。

『でもな、休みの度に隊でレス(待合、料亭)に連れて行ってくれたよな、万年中尉殿が先頭に立ってさ。 ・・・正直、嬉しかったよ』

松田中尉が、機体の脚で兵士級の小さな群れを踏み潰す。

その頃の自分は訓練校上がりの衛士で、何かと士官学校出身者を斜めに見ながら燻っていた。
そして軍内部の衛士増強案の一つとして、兵隊から部内選抜で選ばれ訓練を受けたこの3人を部下として任された時だ、小隊長だった。

『ま、そんな隊長と部下だからよ、よく喧嘩もしたな。 訓練校甲種(一般訓練校生)上りの子供や、士官学校上がりのボンボンともな』

『お陰さまで人事に睨まれた。 俺たちゃ、今や立派な万年中尉だ。 30歳なんかとうに過ぎたってのによ』

『お陰さまで、相変わらず中佐の子分だ』

重光線級まで、あと300m
部下の声を聞き、苦笑と共に懐かしさがこみ上げて来る。 些か問題のある部隊では有ったが、代わりに訓練は死ぬほどやった。
お陰で連隊の実機演習では、負け無しの小隊にまでなった。 一時とはいえ、帝都防衛第1聯隊にまで配属された程だった。
その褒美か何かは知らないが、91年の第1次大陸派遣部隊にも選ばれる栄誉を得た。

『そう言えば、長門大尉もようやく聞き分けたな』

『うん、覚えているか? 92年の満洲の事。 丁度さ、92式の戦場運用検証をしていた時期だ。 対抗戦であのひよっこ共に負けたのは、ちょいショックだった・・・』

『あった、あった、そう言えばそんな事が! あれは・・・ 当時の長門少尉に? ああ、伊達少尉に神楽少尉、それに周防少尉だったか。 今は181の中隊長殿だ』

『・・・嬉しいねぇ、あの、ピヨピヨのヒヨコだった新米少尉達が、今や中堅の大尉で中隊長殿かい』

思う事は皆、同じか。 あと240m、左翼の松田中尉の前進が止まった。 大型種に阻まれ、これ以上の前進が出来ないでいた。

「松田、少しだけそこで頑張ってくれ」

『ういっす』

疲労からだろうか、体が重い。 そう言えば自分も来年は42歳になる、立派な厄年だ。 
戦術機に乗って早21年か。 生きていたとしても、今年一杯で降ろされる羽目になるだろうな。 もう正直、昔の様には体が言う事を聞かない。 
ひと戦闘やらかした後は、翌日に疲労が溜るのを自覚するようになった。 もう10代、20代の若い連中と同じにはいかない。
しかし戦術機を降ろされて、後方のどこか場末の基地で細々と定年退官までの時間を潰すなど、到底考えられない。
運が良ければ、訓練校の教官職くらいは回って来るかも知れないが。 やはり自分は戦場に生きたい。 戦場で生きて、戦場で果てたかった。

(―――そう言えば、こいつらも最年長の宮永が37歳、斎藤が36歳。 一番若い松田でさえ、34歳だ―――まれに見る『年寄り小隊』だな)

『・・・どうやら、ここが最後の場所の様です』

右翼の斎藤中尉機の動きも止まる。 突撃砲は既に弾切れで、片腕に長刀、片腕に短刀を保持して近接格闘戦と展開していた―――あと、220m

自分の機体も、3人の部下の機体も、もはや跳躍ユニットが役立たずだ。 六甲の稜線を越すには、主脚歩行でえっちら、おっちらと山登りする羽目になる。
そうなったら、光線属種の格好の的だ。 中腹まで登り切らないうちに、レーザーで蒸発させられてしまうだろう。

『こっちも壁にぶち当たりました、中佐。 ・・・しかし、最後に良い死に場所を得た』

隣の宮永中尉が、会心の笑みを浮かべる。
そう、戦術機に乗り続けて自分は20年以上、部下達も15年から18年ほど。 今まで決して満足のいく戦いばかりでは無かった、負け戦も多かった。
それが、祖国を守る戦いの中、これからも祖国を守ってくれるであろう、年若い連中を生かす為に死ぬのだ。 これ以上の死に場所が、今の日本に有るだろうか。

「むう、こっちもここまでだ。 ・・・俺は、本望だよ」

重光線級まで195m、捉えた。
大型種の壁は相変わらず分厚いが、ここで起爆させればもはや距離は関係無い。

『中佐、全攻撃地点、確保』

宮永中尉の声が弾む。

「ご苦労。 後でな・・・ 向うで、一杯飲ろうか」

その言葉に3人が破顔する。 もう、一切の憂いも見受けられない。 自分はとうとう、結婚をしなかった。 両親は既に他界している、後顧の憂いは無い。

(―――そう言えば、こいつらも俺の悪い所を真似やがったな・・・)

宮永中尉が笑って敬礼をしている。 
斎藤中尉は静かに目を瞑って微笑んでいる。 
松田中尉はどこか楽しそうだ―――この男、BETAを倒す時はこんな表情をする。

「―――よし、S-11、起爆」






後方で強烈な光を放つ光球が4つ発生した。 指向性を持たせたのか、次の瞬間にそれは歪な形の円錐状になって放射していった。

『―――全機、噴射跳躍! 六甲を越せい!』

30数機の『不知火』が、次々と飛び上がる。 恐れていたレーザー照射は・・・ 1本も上がらなかった。

「・・・酷えですよ、中佐。 俺はアンタの背中を、追い続けなきゃならなくなった・・・」

そしてその壁は、決して乗り越えられるものではないと言う事も、長門大尉は背後に拡散してゆく光の帯を見つめながら、気が付いていた。







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