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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/25 01:07
2日前―――1998年8月10日 1530 九州戦線 宮崎県北部 下赤付近国道326号線沿い 第9師団前線監視哨


照りつける太陽の光が暑い、既に季節は真夏であり、九州の夏は暑いのは当然の事。 しかしそんな事実は、最前線の将兵には何の慰めにもならない。
ましてや、樹木の生い茂る山岳地帯で、偽装した監視ポストの中で当直の間籠らねばならないとしたら、もう冗談では無い。
気温が上がる毎に、不快な湿度も急上昇している気分だ―――実際、上昇している。 しかも、つい先日またも中型の台風が掠めて行った。
地上から立ち上る水分は不快なまでに熱気を帯び、時間と共に体力と集中力を容赦なく奪ってゆく。

「―――ポイント・デルタ08、定時連絡。 現在までBETAを確認せず、異常無し」

無線機が暫く空電の音をたて、そして彼方から声を運んできた。

≪ザッ・・・ こちら・・・ 本部、ポイント・デルタ08、異常無し、了解。 デルタ08は・・・ ザッ・・・ 続き、警戒を続行せよ≫

随分と声が割れる。 山岳地帯だから? 馬鹿な、FM無線機だ。 型が古いから? それもない、85式携帯無線機だ、制式化からまだ13年だ。

(・・・くそっ、無線までかよ! いい加減、兵站をまともに直せよな!)

九州の防衛を担当する(実質は、阿蘇防衛ラインの南に引き籠っている)西部軍集団の目下最大の懸案事項は、兵站だった。

「・・・しかし、変だな」

傍らの班長である伍長が、双眼鏡を覗きこみながら訝しげな声を出す。

「・・・何がッすか? 班長?」

問いかけられた伍長は、双眼鏡を覗きこみながら傍らで無線機に忌々しげな視線を送っている部下(1等兵だ)に答えた。

「何がって・・・ 貴様、気がつかんか? BETAだよ。 つい3日前まで、あれほど元気に突っかかってきてやがったのに。
それがどうだ? 2日前から散発的になって、昨日はポツポツ、今日は全戦線で全く戦闘が発生していねぇ、おかしいと思わんか?」

「・・・BETAだって、年中無休って訳じゃねーでしょうよ。 たまの休みかもしれませんぜ? もしかして、夏休みとか」

「阿呆、だったら関西はどうなんだ? えらく元気らしいぞ、BETA共。 ・・・噂じゃあよ、帝都を放棄するらしい」

その言葉に、下っ端の一兵卒である1等兵がギョッとした表情を見せた。

「帝都を放棄!? マジですか!? じゃ、じゃあ、西日本は全滅・・・?」

「・・・通信に同年兵が居るんだけどよ、そいつが50師団(四国・愛媛、中部軍集団)の通信を盗み聞きしてな。
なんでも向う(中部軍集団)は大騒ぎらしい、もう神戸辺りまでやられたってよ。 京都の北にもBETAが上陸したらしい、ヤバいよな・・・」

上官の言葉に、1等兵が無意識にゴクリッ、と生唾を飲み込む。 その話が本当なら、帝国はいよいよ、その国土の半分をBETAに明け渡す事になる。
いや、それよりも本土防衛軍中で最大戦力を有し、最精鋭部隊で固めた中部軍集団でさえ、そんな有様だとは・・・

(・・・ヤバい、この国、ヤバい・・・)

亡命、難民、生活苦―――国を逃げ出そうか。 無意識に、様々な邪念が頭をよぎる。

「・・・でよ、ついでに司令部付きの同年兵の話だけどな。 どうも、九州全域でBETAの数が減っているらしい」

「・・・え?」

BETAが減っている? 九州で?―――生き残れるのか?

「そ、それって・・・ 戦果が上がっているって事じゃ・・・?」

そんな淡い期待を、戦場暮らしの長い下士官が、一言で無情にも砕く。

「違うな。 ほれ、あの人、戦術機甲科の・・・ 久賀大尉、あの人が言っていたぜ。 『自分の糞をBETAに投げつけるしか、もう方法が無い』ってよ。
弾薬が底を尽きかけてんだよ、実際の所。 戦術機は有る、戦車も残っている、大砲も有る・・・ でも弾が無え! どうやって戦えってンだ!?」

―――西部軍集団の目下最大の懸案事項は、兵站だった。
戦略的要衝、列島の中央部であるばかりか、昔からの政治・経済の中心地を抱え、大都市圏を形成する近畿地方を抱える中部軍集団への兵站の集中。
目下の最激戦地である事は明白だし、兵站が途切れればそれで近畿全域を失う事は目に見えている。
従って、統合幕僚総監部の戦略兵站計画部門は、まず近畿への兵站補給を最優先で計画したらしい。

話は判る、判るが、それ以外の軍管区(軍集団)にとっては、自分達の要求が常に後回しにされる事は、些か以上に腹立たしい。
ましてや、実際にBETAと対峙している西部軍集団は、他の軍集団(東海、東部、北部)とは違うのだ。 兵站が無ければ、辛うじて確保している南九州を失う事になる。
群中央もそれを認識している様だ、一応ではあるが、兵站優先序列は中部軍集団に次ぐ2番目ではある、しかし少ない、少ないのだ。
理由は―――やはり、中部軍集団だ。 目下の最激戦地帯、消費する兵站物資の量は日々膨大な量に達する。
そしてその膨大な浪費によってのみ、戦線を支えていると言うのが実情だ、近畿への兵站補給重視は変えられない。

お陰で西部軍集団は、爪の先に灯をともすかのような、涙ぐましい努力の結果の防衛戦闘を強いられている。
前線の将兵の中には、最早自分達は棄兵か、という気分さえ漂い始めていた。


「・・・まあ、BETAが少なくなってるってのは、大歓迎っすよ。 これで戦闘が無くなりゃ、万々歳だ」

「だよな。 ・・・しかし、どこへ消えやがったんだ? 観測班の連中から仕入れたネタじゃ、地中侵攻しかけている様子もなさそうだしよ?」

「案外、半島のねぐらに帰っちまったんじゃ?」

「鉄原ハイヴか? ・・・ま、そうなってくれりゃ、助かるけどよ」

相変わらず、視界にBETAは視認できない。 見えるのは夏の日差しを浴びて、鬱陶しい程生長した緑樹木ばかり。
そのずっと向うは―――BETAに喰い荒された土地だ。 まだ所々緑が残っている、連中は全部平らげる前に、どっかに消えたようだ。


「ま、戦術機さえ最近は出撃制限かかってるらしいからよ、もっけの幸いさ」

「ですね。 あ、戦術機って言えば・・・ 俺、最近の久賀大尉、怖いっすよ。 なんか、鬼気迫るって言うか・・・
前は結構気さくで、明るい感じの良い人だなぁって思ってたんすけど。 こっちに籠ってから、人が変わった様で」

「・・・ああ、あの人かぁ・・・ 確かにな、以前は良い兄貴分って感じの人だったけどな」

「やっぱ、BETAとの戦闘って、あんなに人が変わるンすかね? 俺達も小型種相手の戦闘は散々してきましたけど・・・」

その言葉に、言うまいかどうか、暫く思案している素振りの伍長が、ためらいがちに小さな声で話し始めた。 誰も居ない周りを見渡しながら。

「いいか? 滅多に言いふらすなよ?」

「な、なんですか・・・?」

「あのな、大尉はよ、92年から大陸や欧州で散々戦ってきた人だ、今更BERAとの戦闘で、あれほど人が変わるか?」

「か、変わりません・・・ よね?」

上官の静かな迫力に、少しばかり気押されながら1等兵が答える。
その言葉に小さく頷きながら、伍長は話を進めた。

「嫁さんが居ただろ? 通信科の。 その嫁さん・・・ 久賀優香子中尉な、どうやら戦死したってよ、それも友軍誤射って話だ」

「えっ・・・?」

初耳だった。 最も彼の様な下っ端に、そんな情報がそうそうはいって来る事は無い。 
伍長が知っているのは、要所要所に配された彼の同年兵―――全員、下士官だ―――からの『裏情報』と言う奴だ。

「新婚早々だぜ? それもよ、惚れて、惚れて、決死の想いでプロポーズして結ばれた新妻をよ? よりによって、友軍誤射とはよ」

確かに、無常だ。 未だ年若い独身の1等兵には、正直言ってどこまで理解できたか自信は無かったが、それでももし自分の親兄弟がそんな風に死んだら・・・

「やりきれませんよね・・・」

「ああ、やってられねぇぜ、正直よ・・・」




この日、西部軍集団が確認した九州全域に存在するBETAの総数は、熊本戦線で約6000、宮崎戦線で約5000、合計約1万1000であった。
8月に入ったばかりの5日前には、熊本方面に1万4000、宮崎方面に1万2000を数えていた。 総数で約2万6000
では、残りの1万5000は何処へ消えたのか? 将兵達の願望の通り、半島へ、鉄原ハイヴへ帰ったのか? それとも・・・

その答えは、2日後に別の場所で得られた。 多大な血と、そして死と引き換えにして。

そしてこの情報は即日、本土防衛軍総司令部に送られた。 しかし何故か中部軍集団には、情報が転送されなかった。
官僚主義の弊害か、或いはサボタージュか、はたまた偶然か。 後の世に、戦史上の謎のひとつとなる出来事であった。











1998年8月12日 1455 大阪湾 南港付近 第1艦隊第1戦隊 旗艦・戦艦『紀伊』


「第2防衛線前のBETA群、補足! 約3万5000! 距離、25,000!」

「防衛線管制より、照射危険域内に光線級多数!」

「主砲射撃指揮所、砲術長より、≪主砲発射準備よし≫」

「7戦隊、8戦隊より ≪砲撃準備完了≫」


大阪湾の奥深く、BETAが押し寄せる阪神間の沿岸を目視できる海域に、4隻の戦艦群が遊弋している。 その主砲は全て、陸地―――BETA群へ指向されていた。

「参謀長、琵琶湖の展開状況はどうかね?」

第1艦隊司令長官・近藤信武大将が、分離行動をしている指揮下戦隊ついて参謀長に尋ねた。 どこかしら、逡巡が伺える。
本音を言えば、あの2隻も手元に置きたかった事だろう。 琵琶湖へ分派させた第2戦隊の2戦艦、『信濃』と『美濃』
あの2隻が有する50口径460mm砲3連装4基の砲力は、陸軍6個師団の攻撃力に匹敵しよう。

「はっ、本日1300、伊勢水道を無事通過して湖南水面に到達した、と連絡がありました。 現在、本土防衛軍第1軍の面制圧支援任務に当っております」

「そうか・・・」

大口径砲を備え、充分な装甲を有する主力戦艦を、一時とはいえ分派してしまった事は、やはり痛い。
水上艦艇、それも砲撃戦を主任務とする戦艦や重巡とBETA、それも光線属種との殴り合いは、結局のところ根比べだ。 
光線級ならば内部装甲でも何とか保たせるが、重光線級の大出力レーザー照射にかかっては、当り所が悪ければ、などと言う問題では無い。 
一気に艦内部を破壊されてしまう、運が悪ければそれで誘爆・爆沈だ。 海軍は過去に渤海湾で『陸奥』を失う事で、それを実地で学んだ。

(しかし、それでもタフネスさこそが、戦艦の真髄だ)

最悪の場所に直撃を喰らわない限り、艦の全てが蒸発してしまわない限り、戦艦の頑丈さは瞬時に沈没まで至る事は無い。 
実際に先月、広島湾で沈没した『長門』がそうだったし、渤海湾で沈んだもう1隻の戦艦、『薩摩』もそうだった。
もっとも、徐々に嬲り殺しにされる状態である事は確かだが、こちらもそれまでの間は、奴等をまとめて葬り去る事が出来る。

(今考えても、仕方ない事だ)

我々は、海軍軍人。 乗艦は戦う為に生を受けた艦だ、ならばその宿命に従おうじゃないか。
想いに耽っていたその時、見張り長(旧来よりの役職名)がBETA発見の報を告げる。

「BETA群視認! 距離21,500! 約2万! 更に後続、約1万5000!」

『ホチ(砲術長)よりCIC(戦闘情報指揮所)。 第1射、発射します』

主砲射撃指揮所の砲術長の言葉が終わった瞬間、前部第1主砲塔から50.8cm砲が火を噴いた。 僚艦の『尾張』、第3戦隊の『大和』、『武蔵』も同様だった。

『弾着、5秒、4、3、2、1、だんちゃーくッ!』

第2防衛線の前面中程に赤と青、2色の砂柱が上がる。 各々が1戦隊、3戦隊の色だ、砲撃認識用染料が主砲弾に込められている。
直後に巨大な爆煙が発生する。 同時に衝撃波で周囲のBETAが、大型種、小型種の区別なく吹き飛ばされる光景が見えた。

「艦隊戦なら初弾挟差、と言ったところですな」

「陸上への砲撃なのだ。 外したらもう一度砲術学校の、少尉の普通科学生からやり直しだよ。
・・・っと、これは5年前に有賀君(有賀幸平中将、現第3艦隊司令長官)が言ったセリフだな」

参謀長の感想に、近藤大将が苦笑交じりに答える。

「よし、参謀長、統制砲撃戦でいく。 統制艦は本艦と『大和』だ。 移動しているとはいえ、あれだけ密集した地上目標だ、初手から斉射でいくぞ」

「はッ! 各戦隊の砲撃時間差は10秒とします。 各戦隊、通達します」

「良し。 では、大いにやってやろうではないか。 この土地が、この星が誰のものか、連中に教育してやれい!―――砲撃開始!」










8月12日 1500 六甲山系東部 第18師団第181戦術機甲連隊


大阪の北摂地帯から、六甲山系に至る山岳地帯は比較的低い山、と言うか丘陵と言うか。  そんな地形が折り重なった様な場所だ。
折り重なった小山や丘陵が連続して入り乱れ、遠方の視界を防いでいる。 お陰で視界は余り良くない。
もっともこんな地形の中を、それこそ機体が斜面を擦る様な地形追従・低空NOEをやらかすなど、戦闘行動以外ではあり得ない話だ。

≪フラガラッハ・マムよりフラガラッハ・リーダー。 1455、海軍第1艦隊が面制圧艦砲射撃を開始しました≫

―――始まったか。

当初の作戦手順では、大阪湾に遊弋する第1艦隊の戦艦群・巡洋艦群からの、主砲の艦砲射撃とVSLの発射を皮切りに攻勢が始まる。
続いて神崎川と淀川に挟まれた地域まで前進した陸軍砲兵部隊―――第2軍の砲兵旅団群が、全域に面制圧砲撃をしかける。
この大中小の砲弾の豪雨を『傘』にして、最終防衛線に張り付いている第31師団、第38師団、海軍連合陸戦第1師団が、初期突破攻勢をかける。
その後第2派として、開けた穴に第49師団と海軍連合陸戦第3師団が頭を突っ込み、戦線をねじ開け拡大する。
第2派に呼応して、六甲山系北部の山陰に隠れながら進出した第14、第18、第29師団の戦術機甲部隊が、山を飛び越え一気にBETA群後方へ殴りかかる予定だった。
なお、急速な山岳越えが出来ない遊撃部隊3個師団の他の戦闘兵科(機甲、機械化歩兵、機動砲兵)や支援兵科は、各々第1派、第2派と合流して攻撃に参加する。

「リーダー了解。 渡会、我々の攻撃開始予定は? 変更無いか?」

≪CPよりリーダー、変更は有りません。 攻撃発起点はエリアE8F、ポイント・デルタ。 攻撃開始は1600です≫

―――あと60分。 長い、長いな。 

もっともただじっと待っている訳ではない。 時折、稜線に登って来る小型種は確かにいる。 そう言った連中を野放しにすれば、後は芋蔓式で六甲を蹂躙されてしまう。
だから3個連隊の戦術機甲部隊(定数の3割減)は、各中隊単位で割り振られた警戒区域を、慎重に移動しつつ警戒しながら、作戦開始の時を待つ。

裏六甲の道路道、九十九折りで山頂付近から下って来る道の中ほどに、少しだけ開けた場所が所々存在する。
駐車場だったり、路線バスの停留所だったりした場所だ。 無論全機が駐機するスペースなど無い、それでも目印にはなる。
今もそうだ、有馬方面を見下ろす場所に俺が直率するA小隊が布陣し、右翼200mの地点にB小隊、少し下がった左翼180m付近にC小隊。


『・・・長いっすね、待つってのは』

不意に摂津から通信が入る、どうやら奴も内心の苛立ちに困っているようだ。

「ん・・・ 『急いては事を仕損じる』、摂津よ、貴様も散々見てきただろう? 統制のとれない攻撃を繰り返して、BETA共に喰われていった友軍の姿を?」

『確か孫子でしたっけ? 『天の時』とか何とか・・・ へっ、BETA相手にね・・・』

「俺としては、貴様から『孫子』なんて言葉を聞く事の方が驚きだ。 ・・・部下の手綱を緩めるな? 適度に集中力を維持させろ」

『相変わらず、難しい事を仰る・・・』

「給料分の仕事はしなきゃな? 俺は大尉で、貴様は中尉だ」

『つまり、そう言う事っすか?』

「つまり、そう言う事だ」

苦笑と、ふてぶてしさの交じった笑みで敬礼を返し、摂津が通信を切った。
ああは言ったが、俺自身この間の長さには辟易している。 時折確認する部下達のバイタルデータ、それにもいずれは如実に表れるだろう。
今はまだいい、集中力は維持できている。 だが人間の限界など、たかが知れている。 データによれば、最も集中力が高まるのは出撃後30分程してから。
しかしピークは、それ以降30分程しか続かない。 人間は機械では無いのだ、どうしても避けようが無い生理的な限界は存在する。

俺自身は今、軽く目を瞑り、体を休ませている。 この山の向こう、海岸沿いではいよいよ作戦が始まった、盛んに砲声が聞こえる。
しかし、だからと言って直ぐに出番が来る訳ではない。 周囲の警戒は各種センサーを充分にばら撒いている、BETAが現れれば即反応するように設置した。
部下達もそうだ、3個小隊のうち、警戒任務は常に1個小隊。 15分置きに交替させ、次直は定点監視、交替した3直は体を休ませる。

四六時中、緊張していては戦う前に体と神経が保たない。 戦場でも休める時は、1分でも2分でも、目を瞑り、両手を操縦スティックから離す。
色々と異論は有るかもしれない、しかしこれが、俺が長年の戦場経験で得た教訓だ。 こうして俺は生き残ってきた、部下を生き残らせたい。










8月12日 1530 大阪湾 南港付近 第1艦隊第1戦隊 旗艦・戦艦『紀伊』


『主砲、第28斉射―――撃ッ』

砲術長の号令と同時に、まず1戦隊の2戦艦、『紀伊』、『尾張』が、その巨砲から巨弾を吐き出す。 15秒後に3戦隊の『大和』と『武蔵』が。 
更にその15秒後、再び1戦隊の『紀伊』と『尾張』が砲撃を開始する。 全艦が一斉に砲撃しては、第2射までに光線級の12秒のインターバルが終了する。 
そして戦艦の主砲弾は、光線級のレーザー照射程度では1度では阻止できない。 何体かの光線級が連続照射をし続けてようやく、迎撃無効化出来るのだ。 
光線級が発射するレーザー直径に比較して、総重量1トンを超す戦艦の主砲弾が巨大だからだ。
光線級のレーザーは、砲弾に穴を穿つ事は出来ても蒸発さす事は出来ない。 単体での迎撃照射なら、砲弾を無力化する前に着弾してしまう。 
砲弾はそれ自体、高速で飛来する質量兵器でも有るのだ。 重光線級のレーザーであれば、その大出力・大直径で単体での迎撃も可能だが、個体の数が少ない。 
インターバル時間も長い。 それ故に戦艦の対BETA艦砲射撃は全艦一斉射撃では無く、光線級の照射インターバルより短い時間間隔での、交互射撃を基本とする。
第1艦隊は、対BETA砲撃戦のセオリーの通り、この砲撃パターンを繰り返していた。 BETA―――光線級の阻止レーザー照射を喰らわない為に。
一度レーザー照射を行った後、再度の照射まで光線級で12秒、重光線級で36秒のインターバルが有る。
そして4隻の戦艦の主砲発射速度は、各戦隊で15秒間隔―――1分間に2回の砲撃が可能―――だった。

『第1戦隊、第4戦隊、損害無し。 第7、第9戦隊、レーザー照射報告無し』

『1駆戦、VLS発射開始、艦砲射撃開始』

だがこれだけでは、重光線級はともかく光線級のインターバルは終了してしまう。 そこでより発射速度の速い巡洋艦戦隊がその間隙を担う。
イージス重巡の『高雄』、『愛宕』、『摩耶』、『鳥海』の4隻、そして対地攻撃力の重要性から、より打撃力の高い艦砲を搭載した打撃重巡の『加古』、『青葉』、その発展型の『利根』、『筑摩』の4隻。
この8隻が搭載する55口径203mm砲は、米海軍の在来型重巡の最高峰、『デ・モイン』級が搭載したMk16・203mm砲のパテントを買い取り改良した砲だ。
それを『高雄』級は連装2基4門、『加古』以下の艦は3連装2基6門。 モデルとなったMk16の発射速度毎分10発を上回る、毎分12発の高発射速度を可能にしている。

戦艦主砲に比べると半分かそれ以下の『中口径砲』だが、逆に陸軍の基準から見れば203mmと言う口径は、立派に『大口径野戦重砲』である。
8隻合計40門の203mm砲が、5秒に1回の割合で発射される様は、見る者に壮観ささえ与える光景だった。(203mm重砲40門という数字は、陸軍の師団砲兵の保有数を上回る)
その他に駆逐艦の127mm艦砲、そしてVLSから撃ち出される艦対地ミサイル。 第1派は確実にレーザーに捕捉されてしまうが、構わない。
第2派以降の艦砲射撃、艦対地ミサイルはごく短い間隔で、集中的に発射され続けるからだ。 短時間でもこの火力投射量は、陸軍にはそうそう真似の出来ないものだ。

『レーザー迎撃再開を確認。 レーザー本数―――約580本』

3万体前後のBETA群ともなると、想定される光線属種の数は大よそで700体前後。 30分近い艦砲射撃の間に、120体程は潰せたと言う訳だ。
砲撃開始から30分が経過した。 15秒毎に24発ずつ撃ち込まれる508mmの巨弾と、やや小振りながら充分な巨弾である460mmの巨弾。
そして巡洋艦、駆逐艦から撃ち込まれる203mmと127mm砲弾、そして無数の誘導弾。 第1射こそ殆ど迎撃阻止されたが、砲撃回数を追うご毎に阻止される数が減ってゆく。
反対に着弾によってなぎ倒されるBETAが急増し、迎撃に立ち上るレーザーの光の数が減ってゆくのがはっきりと判り始めた。

『陸軍防衛線管制より入電! ≪光線級、重光線級多数、海岸線へ移動しつつあり。 照射警戒を要す≫』

「来たか・・・」

近藤大将はその報告を、まるで予定調和の如く受け止めていた。 
BETAが大規模な破壊力を見せる艦隊を、第1に破壊する対象と認識するのは過去の戦例から明らかだ。
そしてこれからが、艦隊と光線属種BETAとの根比べが始まると言う訳だ。

(―――まあ、馬鹿正直に根比べをしていても、始まらん。 そろそろ、作戦第2段階と言う訳か)

このペースで行けば、艦砲射撃は後15分程もすれば一旦打ち切らねばならない。 弾薬消費量が半端ではないのだ、それに誘導弾のストックは尽きかけている。
代わりに戦線の後方に位置する、陸軍野戦重砲旅団群が今度は砲撃を開始する予定だ。 艦隊程の火力投射量は見込めないだろうが、それでも光線属種の『邪魔をする』位にはなる。
同時に、その火力の『傘』に守られた陸軍2個師団と海軍陸戦隊1個師団―――第1次攻勢部隊―――が、前線に突入する予定だ。
それに合わせて別動部隊の陸軍3個戦術機甲連隊が、六甲山系の裏からBETA群の背後を強襲する。

(さてさて、タイムスケジュール通りに事が運べば良いがな・・・)

戦場ではいったん走り出すと、修正は難しくなる。 そしてより修正を確実に―――よりミスが少なかった方に軍配が上がる。
BETA相手にミスをどうこう言う訳ではないが、より状況の変化に対応できるかどうかが、勝敗を左右する事は間違いない。

『陸軍第2群より入電―――第1派、攻勢開始しました!』

『陸軍野戦重砲部隊、砲撃を開始!』

東の方向から、濃密な火線が延びて来る。 やがてBETA群の戦闘集団上空で炸裂した。

「・・・艦砲射撃は、あと15分間継続。 その後、一旦泉州沖まで下がるぞ、補給を済ませたい」

「はっ! 了解しました」











1998年8月12日 1545 六甲山系東部 第18師団第181戦術機甲連隊


≪CP、フラガラッハ・マムよりリーダー! 攻勢任務第1派の3個師団、行動開始しました!≫

渡会の声が聞こえる。 目を開け、戦域情報を呼び出した。 第31師団、第38師団、海軍連合陸戦第1師団が初期突破攻勢を開始している―――15分経ったのか。

「・・・警戒交替、2直、C小隊」

『C小隊、了解。 Cリードより小隊各機、周辺警戒に入る、続け』

四宮の声。 うん、まだ平静だ。 他の部下のバイタルデータ―――よし、大丈夫。

「A小隊、その場で定点監視。 センサー情報を見落とすな?」

―――『了解!』

『B小隊、午睡の時間に入ります』

「寝過ごして、目が覚めたらBETAの腹の中、だけはすなよ?」

『渡会、優しく起こしてくれよ?』

≪中隊長にお願いします≫

『つれないなぁ・・・ そりゃ、BETAの方がマシだわ』

摂津が情けない声を出しながら、通信を切る。 その様子を聞いていた他の部下達から、小さく笑い声が漏れる。 うん、それで良い。
俺達の出番は、本当の地獄は、まだこれからだ。 それまでの間、どうやってコンディションを維持させるか―――全く、階級が上がるのも楽じゃない。

情報を確認したところでは、どうやら海軍さんは艦砲射撃をひと段落させたらしい。 残存する光線属種、約580体。 BETA総数、推定約3万2000体。
総数の割に光線属種の数が減っている、どうやら先手必勝の火力集中が功を奏したか。 だが問題はここからだ、艦隊は後ろに下がった。
そして陸軍の重砲では、現在光線属種が陣取る場所までは砲の射程が足りない。 前線への面制圧砲撃を、途中でレーザー迎撃されては・・・

≪CPよりリーダー、光線属種が移動を開始しました。 時速30km/hで東に向け移動中、現在位置、神戸市中央区付近≫

時速30km/h―――40分もすれば、前衛3個師団を照射できる場所まで前進されてしまう。
そう思った時、大隊系通信が入った。 相手は言わずもがな、大隊長の荒蒔少佐だ。

『周防、美園、光線属種の移動速度は想定内だ。 予定通り15分後に神戸市の東はずれ―――東灘区辺りで逆落としをかける』

戦術モニターに戦況MAPが表示される。 光線属種の頭を押さえる強襲役は、我々181連隊の3個大隊。
時間差を置いて中ほどから突っ込む急襲役は、291連隊の2個大隊(既に1個大隊分の戦力を失っている)
最後に後ろから方位の環を閉じるのが、141連隊の3個大隊。 都合8個大隊、246機の戦術機を投入し、残存する光線属種の殲滅を行う。

『タイミングが勝負だ、一気に懐に潜り込めれば、後はこちらのモノだ。 出来なければ・・・』

そう、出来なければ・・・

『こっちが、こんがりとローストにされる、と。 あ、その前に蒸発しちゃうか・・・』

「美園、ローストでも蒸発でも良いが、その前に仕事だけはし終わってから、くたばれよ?」

『つれないなぁ・・・』

その声に苦笑する。 まったく、さっきの摂津と言い、こいつと言い、この緊張感の無さはどうしたものか。 
これで祥子の指揮下に居たとは、到底思えない。 間宮辺りは、かなり影響を受けていると感じているが、この2人に関しては・・・

『そう言えば美園は、新任当時は周防の後任だったそうだな? 確か摂津中尉が美園の後任か。 『三つ子の魂、百まで』、とは良く言ったモノだ』

・・・断じて、俺のせいではない。

『さて、そろそろ第2派も準備完了と言った所か。 周防、美園、先に言っておく。 事が始まれば恐らく乱痴気騒ぎだ、大隊単位での戦闘管制は困難になるだろう』

右も左も、光線属種と恐らくは要塞級、それに小型種が多数。 その中に突っ込もうと言うのだ。

『最悪の場合は、各中隊長の判断で行え。 作戦目的を逸脱しない限り、私はその判断を支持する、いいか?』

「・・・了解」

『了解です』

特に我々第2大隊は、大隊長自らが中隊指揮を行う事になる。 祥子の負傷後送が、ここに来て響いていた。

『・・・下らん作戦だ。 用兵上の要求から策定された作戦ではない、恐らく政治上の要求から策定された、下らん作戦だ。
だが我々は軍人だ、一度下された命令には従わねばならん、それが軍人だ。 国家の番犬―――例え、死地に飛び込まされようともな』

誰に、と言う訳では無かろう。 恐らく少佐の本心の吐露か。

『だが、それで良い。 そう在るべきだ。 でなくば・・・ 軍人とは、殺戮の幻想に飢えた、只の狂人の集団に過ぎん』

それは暗に、上層部の一部を指しているのか。

『生き残れよ。 恐らく私は、今回も何人かの部下を失うだろう。 私自身、どうか判らん、しかしそれでも言う―――死ぬなよ、周防、美園』

俺と美園、その名の向こうには、大隊の部下たち全員の名前がある筈だ。

『攻撃開始まで、あと10分。 部下を掌握しろ、周防、美園』











1998年8月12日 1550 兵庫県尼崎市 第1派攻勢任務部隊


『戦術機部隊! 北から攻撃してくれ! こっちからじゃ、瓦礫が邪魔して阻止砲撃が出来ない!』

『第393機甲大隊、そっちにBETA群が行った! 突撃級、約30!』

『第392機械化歩兵大隊第2中隊! 武庫川の国道2号線を確保! 繰り返す、武庫川を確保! 急いでくれ、戦車級が向うにうじゃうじゃと居る!』

『第392機甲大隊だ、歩兵第2中隊、5分持ち堪えろ!』

『砲兵旅団群、面制圧砲撃第11射!』

『陸戦隊第1師団、43号線、武庫川を突破!』

『第31師団、甲東園に到達!』

『BETA群、更に突進を開始! 主力集団、今津から甲子園に向け突進を開始した!』

『阻止砲撃! 阻止砲撃乞う!』

『小型種の浸透だ! 自走高射部隊! 早く片付けてくれ!』

『こっちは手が一杯だ! 機械化歩兵装甲で何とか対応してくれ!』

『何てこった! おい、ありったけの重機を持って来い!―――MINIMI!? 馬鹿、5.56mmなんて豆鉄砲が効くか!
12.7mmだ、ありったけのキャリバー50を並べろ! 7.62mmでも構わん、62式持って来い!』

『はあ、『62式単発機関銃』ですか!?』

『単発でも、『無い方がマシンガン』でも、何でもいい! 火力だ、火力! 急げ!』



第31、第39師団と海軍連合陸戦第1師団からなる攻勢第1派は、3kmから5km程の距離を押し戻す事に成功していた。
武庫川の対岸までBETA群を押し戻し、その真ん中を第2派の2個師団が突撃をかける。  それに呼応して、3個戦術機甲連隊が六甲から逆落としをかけるのだ。

廃墟と化し、随分と見通しの良くなったかつての市街地に、戦車隊が横隊で陣を敷く。 やがて突撃してきた突撃級BETAに向け、105mm砲が火を吹く。
90式の120mm滑腔砲ほどの貫通力は見込めないが、それでも74式の51口径105mmライフル砲から放たれた105mmAPFSDS弾が、距離700で装甲殻を射貫する。
立て続けの連続射撃で、数10体の突撃級が沈黙する。 外見は派手な損傷こそないが、内部はズタズタに引き裂かれている為だ。
距離が縮まる、約500。 再度の砲撃でまた、10数体の突撃級BETAが停止した。 この調子でいけば、この調子で邪魔が入らなければ・・・

『ちっ! 要撃級だ、出てきやがった! 長車よりカク・カク! 後退しつつ、斉射3連! こちら第311機甲大隊! 後退する、要撃級のお出ましだ! 戦車級もいやがる!』

『311、600後退せよ。 311戦術機甲、第2大隊、阻止戦闘!』

『311、了解。 戦車隊、下がれ!』

74式戦車にとって―――いや、地上車両にとって、ある意味天敵とも言えるBETA種の出現に、機甲部隊が砲撃しつつ全速で後退する。
代わりに前線に出てきたのは戦術機甲部隊―――77式『撃震』の部隊だった。

『ストーム・ワンより大隊全機、ここは我々が支える! 中部の『不知火』や『疾風』乗りに、『撃震』乗りの意地を見せてやれ!』

―――『応!』

第1世代機―――度重なるヴァージョンアップによって、準第2世代機相当の性能を得ているとはいえ、第3、準第3世代機と比較すればその性能差は否めない。
だが半面、それらの機体には無い『力強さ』―――今次BETA大戦をその初期から支えてきた古強者が醸し出す力感が、地上部隊には頼もしい。

『ストーム・ワンより≪ハリケーン≫! 右翼の小型種を制圧しろ、掃除終了と同時に≪サイクロン≫と≪タイフーン≫が突撃。 前面の要撃級を始末する!』

『了解! ハリケーンB、突入! ハリケーンA、CはBの喰い残しを全て平らげろ! 行くぞ!』

12機の『撃震』が、小型種の群れに向かって突進をかける。 同時に大隊の全制圧支援機から誘導弾が発射され、接敵寸前の『ハリケーン』中隊前面で炸裂した。
戦車級を含む数10体の小型種が吹き飛ぶ。 間髪を入れず、突撃前衛小隊が120mmキャニスター弾を纏めて叩きこんだ。
大きく空いた穴に、4機の『撃震』が踊りこんだ。 それに続行する形で続く2個小隊8機もまた、突撃砲の36mmを放ちながら群れの中に踊りこむ。

『全周陣形! 周り中、BETAだらけだ、撃ちまくれ! 大型種は気にするな、こっちには居ない!―――1匹残らず消し飛ばせ!』

BETA群の輪に飛び込んだ1個中隊の『撃震』が、徐々にその輪を広げてゆく。 やがて、その外周が要撃級を主体とした中央集団と接触した。
10数体の要撃級が、接地旋回をかけて正対する。 そして『撃震』中隊に向かって飛びかかろうとしたその時―――

『よし! ≪サイクロン≫、≪タイフーン≫、かかれ!』

残る2個中隊の『撃震』が横合いから要撃級の集団に襲いかかった。 同時に小型種の脅威が排除された事で、急速前進をかけた戦車隊も砲撃を開始する。

『撃て、撃て!』

『足を止めるな! いくらこいつの装甲が分厚いからって、戦術機の装甲なんざ気休めだ!』

『1体撃破!』

『C小隊、側面に回れ! 挟みうちにするぞ!』

『くそ! 長刀が弾かれる!』

『無理に格闘戦をするな! 弾がある限り、砲戦に徹するんだ!』

機動につられて旋回を開始した要撃級の横腹に、エレメントを組む別の2機が120mmを叩き込み続け、反対側へ横噴射滑走で抜ける。
誘導弾が着弾する。 要撃級の隙間にいた戦車級や闘士級と言った小型種BETA群に、キャニスターの散弾が降り注ぐ。
背後から戦車隊が支援砲撃を行っている。 今しも戦術機の背後からその硬い前腕を振り上げていた要撃級―――その後方に105mm砲弾を叩き込んで始末した。


『陸戦第1師団、甲子園に到達! 球場跡を確保!』

『39師団先遣隊、西宮北口に到達した!』

『31師団、上甲子園付近! 名神高速道路跡を視認!』

上空には、盛んに砲弾と誘導弾が飛び交い、それを迎撃するレーザー照射が空中を舞っている。
重金属雲も盛んに発生していた、そろそろ光線級のレーザー照射も、その迎撃力が削がれる頃合いだった。


『HQより各級部隊に告ぐ! 第2派行動開始! 繰り返す、第2派行動開始!』

第2派として控えていた第49師団、そして海軍連合陸戦第3師団が、突破攻勢を開始したのだ。

『これより、全力面制圧砲撃を開始する! 各部隊は砲撃諸元を確認せよ! 間違っても巻き込まれるなよ!?』









1998年8月12日 1605 六甲山系東部 第18師団第181戦術機甲連隊


『―――攻撃開始!』

連隊先任大隊長―――第1大隊長の広江中佐の声が響いた。
同時に引き絞られた矢が放たれるかのように、裏六甲の山陰から一斉に戦術機が噴射跳躍をかけ、稜線を飛び越して海岸線へと襲いかかった。
第1大隊28機、第2大隊29機、第3大隊27機、合計84機―――定数120機の連隊戦力の内、生き残っているのは70%
稜線を飛び越えた所で、機体姿勢を制御する。 着地地点はもう少し先だ、同時に降下角を浅く持って行く、距離を稼ぐ為に。

「ッ! 照射警報・・・!」

早速見つかった。 まだだ、まだ距離がある―――まだ照射準備段階だ、まだ数秒は時間がある!
心臓が飛び跳ねる。 冷や汗が止まらない。 無意識に息を止め、目を見開いていた―――まだだ、まだ撃つな、撃つなよ、BETA!

「ランディング、用意―――パドル閉塞! 逆噴射!」

本照射が始まる直前、ギリギリで光線級の群れの直前に着地する。 同時に突撃砲の36mmを左右に薙ぎ払う様に撃ち込む。
中隊全機が無事に着地した。 左翼に第1中隊、右翼に第3中隊。 第1、第3大隊も寸前のタイミングでレーザー照射を受ける前に潜り込む事に成功する。

「中隊陣形、アローヘッド・ワン! 目標、1時の重光線級!」

全速サーフェイシングにかかる。 目前に数体の要塞級、重光線級の近くまで分散して動いている。 いい塩梅だ、照射避けに使わせて貰う!

「要塞級には突っかかるな、後回しだ! 盾にして重光線級までの突入経路に使え! 摂津、針路を転送した!」

『了解、受信しました! B小隊、露払いだ、行くぜ、続け!』

「四宮! 横合いからの光線級の照射に注意!」

『了解、12時方向、掃射します!』

10体程の光線級が、正面から狙っている。 四宮のC小隊が誘導弾と36mm砲弾を叩き込み、これを始末した。
同時に摂津のB小隊が突撃経路を変更し、再度突進にかかった。 俺の直率するA小隊をその後ろに付け、時折姿を見せる数少ない戦車級を始末して続行する。

「叩ける限り、ここで叩く! 前衛と中衛は向うの5個師団に任せろ! 光線属種を片付ける!」

―――『応!』


果たして、何処までやれるかな? 熱くなってゆく体とは別に、頭の芯はとことん冷えてゆく。 出来れば、出来る事ならば、損失に見合った戦果をあげたいモノだ。
戦場に願望など期待しない方が良い、そもそもそんなモノは存在しない。 まずは再補給までにどれだけ仕留められるか。 どれだけ損害を抑えられるか。

(―――恐らく俺は、今回も何人かの部下を失うだろう。 そして、これからも失うだろう)

それでも、それが番犬のせめてもの矜持だと、これまで戦ってきた。 戦い続けてきた。 それを―――下らない作戦だ!









1998年8月12日 1830 兵庫県淡路島 江崎燈台 第19師団偵察中隊


「・・・おい、何だ、あれは?」

「ん?」

傍らの同僚の声に、備え付けの大倍率双眼鏡を構えて西の方角を見る。 加古川辺りの海岸線だろうか、やけに土煙が舞い上がっている―――土煙!?
慌てて双眼鏡を見直す。 土煙だ、確かにそうだ。 しかしあの辺りは先月来、BETAに蹂躙されて久しい筈だ・・・
無意識に唾を飲み込む、やけにその音が大きく聞こえた。 暫く同僚と2人、声も出ずに硬直していたのだ。
やがて我に返る。 あの付近で、大規模な土煙。 あそこには、もう誰一人として居ない。  居るのは・・・

「・・・BETA、だ・・・」

間違いない、BETAだ。 それも恐らく万以上の個体数の。
一体どこから?―――九州しかない。 警報は? 有ったか?―――無かった、何も聞いていない!

「・・・馬鹿野郎! 西部軍集団の大ボケ共! あれだけのBETA群の移動に気付かないとは・・・ 底抜けの、大間抜け共め!」





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