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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/12/05 23:51
1998年7月30日 0430 京都府亀岡市 第40師団

「―――動き出しやがった!」

「数は!?―――3万以上!? よし!」


1998年7月30日 0433 兵庫県川西市 第37師団

「震動センサー、音響センサー、共に感! 推定個体数、約1万5000!」

「デフコン1B!」


1998年7月30日 0438 兵庫県西宮市 第31師団

「BETA群、約3万! 再侵攻を開始!」

「面制圧! 全力阻止砲撃を要請!」


1998年7月30日 0455 大阪府大阪市 中部軍集団司令部

「BETA群、約8万、3方向より再侵攻を開始しました!」

「・・・よし、現時刻を以って、防衛計画、『捷三号作戦』、第3段階を発動する!」






1998年8月9日 0930 大阪湾 泉州沖 


「チョッサー(首席1等航海士)、入港予定は変更無しかな?」

船橋で当直に当っていた1等航海士の背後から、声が掛けられた。 
振り向くまでも無く船長だと判る、首席1等航海士とは、船のNo.2だからだ。

「はい、キャプテン。 1000、大阪南港に入港変わらず。 軍は一刻も早く入港して欲しい所でしょうが」

「だろうね、だが急げば良いってもんじゃないよ。 港の運用問題も有る、着いたは良いが、岸壁が空いてない、なんて事もな。
軍がせっつく気分は、判らんでも無いが・・・」

「本船を含む、輸送船団14隻。 兵站物資を満載しておりますからな。 軍にとっては、お宝の山ですが」

太陽はすっかり昇り、夏の日差しが海面を輝かせる。 気温は上昇し、強い日差しが甲板を照り付ける。
輸送船団は喫水を深く沈みこませ、12ノットの速度でゆっくりと進む。 間もなく針路上に入港予定の大阪南港が見えて来る筈だった。

「・・・あん? なんだ、ありゃ・・・?」

左ウイングで臨時に見張り員として付いていた船員が、備え付けの大型双眼鏡を覗いたまま素っ頓狂な声を上げる。
その声を耳にした船長と首席1等航海士が、訝しげな表情でウイングを見る。 見張り員は双眼鏡を覗いたまま、半ば硬直していた。

「どうした? 何か確認したのか?」

1等航海士の問いかけにも、口を開け閉めしながら双眼鏡を覗いている。 やがて、見張り員はようやくの事で声を出せた。

「ろ・・・ 六甲の山頂に、何か見えます!」

「何か? 何かとは、何だ? 報告は正確にせんか!」

1等航海士が叱責する。 怒鳴られた見張り員は、無意識に一旦双眼鏡から目を離した後、もう一度覗きこみ、悲鳴のような声を上げた。

「じゅ・・・ 重光線級! 重光線級です! BETAが居ます、複数!」

その声とほぼ同時に、山頂から複数の光の帯が湾上に降り注いだ。

「レ、レーザー照射!?」

「フル・アスターン(後進一杯!) ハード・ポート(取り舵一杯)!」

1等航海士の悲鳴と、船長の指示はほぼ同時だった。 悲鳴のような機関の音が聞こえる、しかし既に遅かった。 
先頭を進む輸送船の船体に、レーザーが直撃する。 そして次々とレーザーの直撃を受ける輸送船が続出した。

「左列先頭、『あるぜんちな丸』、行き足止まりました! 右列先頭、『第一佐渡丸』沈みます!」

益々船団の被害が大きくなる。 左右2列の並びで航行していた船団は、もう四分五裂の状態だ。
レーザーが船体を貫通し、大量の海水を飲みこみ、沈みつつつある船。 片側に横転して転覆した船。
やがて、とてつもない大音声と共に震動が襲いかかった。 咄嗟に視線を向ける、しかしそこには巨大は火柱しかなかった。

「・・・『信濃丸』だ、あの船は砲弾を満載していた・・・」


この日、本土防衛軍中部軍集団に向け大量の武器弾薬、食料医薬品を運んでいた輸送船団14隻が、重光線級のレーザー照射を受け、大阪湾上で全滅した。









1998年8月10日 1350 兵庫県南部 六甲山系山麓 芦屋市 第18師団第181戦術機甲連隊


瓦礫と化した、かつての高級住宅地。 明治の頃より関西の富裕層のステータスでも有ったこの土地も、度重なる防衛戦闘で瓦礫の山と化した。
南の低地から、さほど速く無い速度で突撃級が駆け上がって来る。 その後方に、大群から分派した数百の本隊も見える。
高度はこちらが上だ、引き付けて、頃合いを見て確保撃破。 大丈夫だ、もう何度もこなしてきた戦闘パターン。 光線級は居ない。

「―――来るぞ! 第12派! 中隊、フォーメーション・アローヘッド・ワン! 敵前衛を突破、後ろから叩く!」

―――『了解!』

突撃前衛小隊を矢じりの先として、中隊陣形を組み直し突進する。 前方に突撃級が30体程。 その後ろの要撃級はまだ距離が有る。
跳躍ユニットが咆哮を上げ、中隊の11機が一斉に水平噴射跳躍に移る。 瞬く間に距離が詰まり、同時に照準レクチュアルに目標をロックオン。
先頭を吶喊する突撃前衛小隊は1機を欠いた状態で、突撃級との接触の直前に小隊長機を頭に一直線の陣形にフォーメーションを変えた。
そのまま、サーフェイシングで突撃級の個体間をすり抜ける様な多角機動で、左右に砲撃を加えつつ、群れの中を突っ切る。

『フラガB、後ろを確保!』

「よし、そのまま攻撃を加えろ! フラガA、C、続いて突入!」

主機出力を一気に上げ、サーフェイシングで突撃級の群れの中に飛び込む。 小隊の先頭は俺だ。
B小隊が開けた突入路―――僅かに数体分の空間、それも次第に塞がりかけている―――に機体を滑り込ませ、左右に咄嗟砲撃を撃ち込みながら一気に突っ切る。
直後に位置する瀬間機が後方から、俺の機体に向かってくるやや遠間の突撃級に対して阻止砲撃を加える。 激しく動きながらの砲戦、120mmはまず当らない。
36mmの集中射撃で節足部に砲弾を叩き込み、行動の自由を奪ってゆく。 その間に瀬間後方の松任谷機と倉木機が、左右の突撃級を撃破して行く―――C小隊の行動範囲を広げる為に。

(右―――20m、射撃。 左前方―――35m、節足部を。 前方40m、2体―――右の方にスペース、節足部に叩き込んで、奴の針路を曲げる!)

考えている訳じゃない、咄嗟に頭に浮かんだ意識を行動に移す―――反射的に。 前方に空間が開けた、群れを突破したのだ。

「A小隊、左翼に展開! B小隊は右翼! C小隊、突破次第、中央を固めろ!」

『B小隊、了解! 突撃級残存、14体! ものの数分で仕留めますぜ!』

『C小隊、突破完了。 Bリード、後続との距離が詰まっています、数分後には接触』

≪CP、フラガラッハ・マムより、フラガラッハ・リーダー! 後続BETA群、約600! 球場跡地付近に出現! 接敵予想、3分20秒後です!≫

600体か。 光線級は居ない様だ、それならば何とかなる。

「リーダーより全機、突撃級は3分で仕留めろ! 120mmはまだ使うな、後ろを取っている、36mmで充分だ」

トリガーを引き、突撃級の柔らかい後部胴体に36mm砲弾を叩き込む。 2、3連射で動きが止まる、それ以上は無駄だ。
A小隊の目前には、旋回をかけつつある突撃級が4体。 部下に合図を送り、手近な2体を先に仕留めて行く。
水平噴射跳躍で機体をスライドさせ、旋回中の突撃級BETAの後方を占位する。 Bエレメントの瀬間中尉、倉木少尉の機体もピッタリ付いて来ている。
距離、25m―――ギリギリまで接近し、短い1連射を浴びせかける。 狙いすまして撃ち込んだ箇所から、体液が噴出しBETAが止まる。

「松任谷、残り1体、譲ってやろう」

『お任せ!―――くたばれっ!』

松任谷機の突撃砲から、シャワーのように36mm砲弾が吐き出され、突撃級の胴体に吸い込まれる。 
爆ぜた胴体から、大量の体液と内臓物を吐き出し、突撃級BETAが唐突に、つんのめるように停止する。


残る個体を片付けるのに、3分も必要無かった。 残り50秒、陣形をウイング・ワンに組み直し、A小隊を中央に置く。
40秒 ≪CPよりフラガラッハ、BETA個体数は588体。 要撃級は33体、戦車級が250体、他に闘士と兵士級≫

30秒 戦車級の数が少し厄介だ。 要撃級にかまけていれば、あっという間に集られる。

20秒 瓦礫の彼方から、粉塵が舞い上がって来た。 連中がやって来たのだ。 芦屋川の東岸に陣取らせたB小隊は、最後の突撃用に置いておくとしよう。

10秒 「面制圧、開始」 『了解! フラガラッハ07、FOX01!』 『フラガ09、FOX01!』 誘導弾が白煙を引きながら発射された。

5秒 BETA群に誘導弾が炸裂する。 要撃級は余り削れていないが、いい具合に戦車級の群れの中ほどで炸裂した。

3秒 「キャニスター!」 右翼迎撃後衛―――俺と、左翼迎撃後衛の四宮中尉、そして右翼打撃支援の瀬間中尉と、左翼打撃支援の森上少尉。 4機から120mmキャニスター砲弾を見舞う。

1秒 「―――叩け!」

中央のA小隊と、左翼のC小隊、併せて8機の『不知火』から、十字火網を形成したキル・ゾーンに向けて登って来るBETA群に、火力を叩きつける。
正面からの砲弾を、その硬い前腕で防いだ要撃級のその横腹に、今度は別方向から120mm砲弾が叩きこまれ体内で炸裂する。
前方と右手からの36mm砲弾のシャワーに対して、殆ど防御力を持たない戦車級以下の小型種BETAが多数、赤黒い霧に変わって霧散して行った。

やがて、生き残った要撃級が10数体ほど、東の方向に高速接地旋回をかけ、突撃する姿勢を見せた。 前方―――登り口には戦車級の群れが100体程。
BETAの群れが割れる。 要撃級の群れが左翼のC小隊へ、戦車級の群れが俺が直率するA小隊へ、それぞれ向かい始め、速度を上げたその時―――チャンスだ。

「―――B小隊! かかれ!」

芦屋川東岸の瓦礫の中に隠しておいたB小隊の3機が、一斉に飛び出して要撃級の群れの背後に迫る。 
そのまま柔らかい後部胴体に向け、36mmを叩き込んで要撃級を7、8体始末する。 残った個体が、後方からの攻撃に反応した。
接地旋回をかける、その瞬間を今度はC小隊が見逃さなかった。 B小隊が即座に移動したのと同時に、横腹を見せた要撃級に生き残りに砲弾を叩き込んで始末する。

俺は部下の小隊の戦闘、その様を視界の片隅に確認しつつ、目前の戦闘をこなしていた。

「松任谷、左の群れだ!」

―――『了解』

松任谷が120mmキャニスター砲弾を、至近に迫った戦車級の群れに叩き込む。 俺がその横から這い上がって来た10数体の戦車級に対し、36mm砲弾を横殴りの連射で薙ぎ払う。
その隙にBエレメントの2機は漏れ出した戦車級の個体を、狙いを付けて1体1体始末する。 120mmと36mmの近遠両方の掃討役を割り振って、戦車級の接近を許していない。

やがてBETA群の斜め後方から、B小隊が戦車級の掃討に加わり始めた。 C小隊はそれ以外の小型種の掃討にかかっている。
どうやら大型種の殲滅は完了した様だ、小型種の残り個体数も残り200を切った。 今回の掃討戦闘は終わり始めている。

≪CPよりフラガラッハ・リーダー。 機械化歩兵2個中隊、頂上付近に布陣完了。 攻撃開始は10分後、1420。 フラガラッハは所定の攻撃発起点に移動せよ!≫

「フラガラッハ・リーダー、了解」

CPの渡会少尉の姿が、網膜スクリーン上にポップアップする。 目は充血し、隈まで出来ている。
それも仕方が無い、この数日間休みなく戦闘管制を続けているのだから。 それにその様子は部下達や、俺自身も同じだ。

戦術レーダーで近づいて来る友軍部隊を確認する。 自走機関砲が1個中隊、それに有り合わせに重機を車輌に搭載させた部隊が2個中隊。
取りあえず大型種以外に対しては、突破阻止はできるだろう。 大型種が来れば退避すれば良い。 この先の山岳道は連中では進めない。
状況を再確認する。 攻撃目標、友軍制圧部隊の位置、遊撃部隊の布陣状況―――俺の中隊が位置する場所。

(・・・囮部隊か。 仕方が無いと言えばそれまでだが、いい気分じゃ無いな)

だが、機動力の高い戦術機甲部隊が囮にならなければ、他の兵科では接近する事も出来ない。

(地形を利用しろ・・・ 危ないのは、蛇谷から東お多福山を抜けた瞬間だ。 山頂から南に、一目瞭然に見下ろされる)

そこでまごまごしていると、あっという間に焼き殺されてしまう。

(一気に谷間を上って行くのは危険だ、その間ずっと照射を受ける、下策だ)

戦術地図を3D表示に直す。 等高線が浮き上がり、六甲山系の起伏が一目瞭然に判る様になった。

(東お多福山の北山麓を迂回して、本庄橋後まで一旦南下する・・・ そこから北西に針路を取り、西お多福山の西山麓を、頂上西側まで駆け上がる・・・)

目標が陣取る場所からは丁度、西お多福山の稜線が邪魔をして認識出来なくなる。 
ロープウェイ頂上付近に陣取った連中からも、300m程の高度を優位に立てる筈だ。


「・・・リーダーより各機、ポイントB7R-88まで移動開始。 攻撃経路は今転送した、C6回線を開いて受け取れ」

―――『了解』








1415 六甲山山頂付近 第18機械化歩兵連隊第2大隊第6中隊


『こちらシックス(中隊本部)、各小隊、良く聞け。 光線属種は山頂から一軒茶屋付近にかけて、重光線級が10体、光線級が26体確認されている。
他に戦車級が160体程と、闘士級、兵士級が400体前後。 小型種は光線属種の周りを囲む様に位置している、これを排除しない事には、光線属種を狩れん』

何人かが舌打ちした音が聞こえた。 あちこち砲弾の破片でささくれ立ち、なぎ倒された樹木の間に多数の機械化歩兵装甲兵が見え隠れする。
探知能力の高い小型種BETAを避ける様に、自動車道や開けた場所には陣取っていない。 中にはパイルバンカーを斜面に突き立て、辛うじて踏み止まっているのも居る。

『5分後に戦術機部隊が、頂上の光線属種相手に陽動を仕掛ける。 宝塚方面の砲兵隊も、一部をこっちに振り分け面制圧砲撃を行う。
だが、それだけで山頂の連中を片付けるのは無理だ、光線属種の数が多い。 砲弾は殆どが迎撃されるだろうし、戦術機部隊も小型種の掃討任務が有る』

そこで中隊長が一旦言葉を切った。

『だが、その時がチャンスだ。 目玉共(光線属種)がレーザー迎撃に気を取られ、小型種BETAも戦術機相手にかかったその時こそ。
チャンスは一度きりだ、合図と同時にフルブーストで噴射跳躍。 一気に光線属種の懐に潜り込め!』

機械化歩兵装甲部隊での、捨て身の殴りこみ作戦。

『六甲山頂は、この辺りじゃ最も標高が高い! そこを光線属種に陣取られたんじゃ、大阪湾も、大阪平野も、頭の上から狙い撃ちにされる!
何としても排除せねばならん―――例え中隊が全滅してでも、だ! いいか!? 覚悟を決めろ! 何としても、山頂を奪い返す!』

7月30日から再開した、BETA侵攻防衛戦闘。 その流れの中、中部軍集団は新たな増援を得て善戦を続けてきた。
しかし状況が変化したのは、3日前の8月7日。 まず最初に、六甲山系のなかでも神戸市街のすぐ北に位置する摩耶山山頂を、BETAに奪われたのだ。
以来、戦術機部隊と機械化歩兵装甲部隊との共同作戦で、何度か奪回作戦が行われた。 しかし南の神戸市街から這い上がって来る小型種、特に戦車級に行動を阻まれ、撤退を余儀なくされた。
以来、一進一退を続けるも、海岸線付近で大規模な波状侵攻が生起した結果、戦術機部隊がその阻止戦闘にかかりきりになってしまった。
機械化歩兵装甲部隊に、軽歩兵部隊まで投入しての山間部阻止戦闘を展開するも、物量と個々の攻撃力の差はいかんともしがたく、ズルズルと後退して行った。

そして昨日の朝、8月9日の0930時、最悪の場所に光線級が出現したのだ。 六甲山の山頂、標高931m地点。 
瀬戸内海東沿岸の最高峰から大阪湾と大阪平野に向けて、数本のレーザー照射が放たれた。  丁度、紀伊水道から北上する輸送船団が直撃を受け、轟沈している。

パニックに陥りかけた司令部を、一喝して落ちつかせた中部軍集団司令官の大山大将は、新たな増援部隊6個師団の内、3個師団まで阪神防衛線に張り付けた。
そして一時的に前線で奮闘していた第14、第18師団から一部の部隊を引き抜き、六甲山頂の奪回攻撃を命じた。
以来、29時間近い間に、都合11回も奪回したり、奪取されたりを繰り返している。 投入した機械化歩兵は6個大隊、戦術機6個中隊。
歩兵は残すところあと4個中隊のみ、戦術機部隊も30%を越す損害を受けている。 今回奪回できなければ、状況はかなり苦しくなってしまう。

『有馬からの韓国軍の1個中隊も、展開を完了させた、同時に飛びかかるぞ。 いいか! ここは本土だ! 日本の本土だ! 助っ人連中に主役をかっ攫われるなよ!?』

―――『応!』

やがて、麓から戦術機の跳躍ユニットから発する轟音とともに、数機の戦術機が一瞬姿を見せた。
機械化歩兵中隊の中隊長は、予め知らされてあった戦術機部隊との通信チャンネルに合わせ、相手と通信を行う。

『こちら、18機連6中、戦術機部隊、応答せよ』

『―――181戦術機甲、22中、≪フラガラッハ≫、これから西お多福山の山頂まで、一気に駆け上がる』

タイムラグが有り、やがて網膜スクリーンに1人の衛士の姿がポップアップした。 その姿を見て、ちょっとびっくりする。

『おい、22中、周防さんよ。 アンタは京都方面に、出稼ぎに行ってたんじゃなかったのかい?』

『向うは、お固い頭号師団や禁衛師団、それに斯衛ばかりでね。 粗野な庶民は稼がせてくれない』

『で? 結局は?』

『増援が来て、少し余裕が出来た。 それにこっちが悲鳴を上げていたから、呼び戻された』

『それは、ご愁傷様だ』

『全くだ―――光線属種の注意を惹き付ける時間は、精々3分が限度と思ってくれ。 それ以上は、戦車級と遊びながらの準備照射回避は無理だ』

3分―――それだけあれば、山頂付近の小型種は全て戦術機部隊に向かうだろう。 いや、1分で充分だ。 それだけあれば小型種は全て戦術機に向かう。
そうなればしめたものだ、光線属種は丸裸も同然だ。 自分達の手持ち兵器でも、充分仕留める事が出来る。

『3分、判った。 お前さんの隊が攻撃を開始した1分後に、こっちが強襲を仕掛ける。 光線属種の殲滅には、2分だ―――いいか? 崔中尉?』

付近に展開している(筈の)協同部隊である韓国軍機械化歩兵部隊に、確認の通信を入れる。
英語の苦手な彼だが、同時通訳機能が付いたヘッドセットのお陰で、概要は伝わっているだろう。

『―――了解した、大尉』

そっけない程簡潔に、韓国軍から返答が有った。 その声に動揺も何も感じる事は無い。

(―――そりゃ、そうだ。 連中はもう、何年も国境付近で戦ってきて、本国の陥落も経験しているのだしな)

帝国が失われるかどうかの、この瀬戸際で、援軍に駆け付けた各国軍部隊の中でも、韓国軍と統一中華戦線の旧解放軍系の連中は、何処か異色だった。
極東防衛戦、その最後の要の日本列島防衛にかける意気込みは変わらぬものの、彼らが帝国軍将兵を見る目は、何処か乾いた、そして複雑な目で見ている、そう思う。

(―――本国を失った連中が、今まさに本国を失うかどうかの、瀬戸際の帝国軍と共に戦っている。 ま、色々複雑だろうな)

やがて、轟音と共に突撃砲の射撃音が聞こえた。 彼方から203mm榴弾砲の発射音も聞こえる―――やがて、頭上付近でレーザー照射を受け蒸発した。

≪HQより6中隊、第3射からAL砲弾の連続砲撃を開始する。 酸素供給サイクルをクローズ系に切り替えろ≫

『了解。 シックスよりオールハンズ、酸素供給をクローズ系に切り替え』

呼気循環システムを、予備の酸素ボンベから供給される、クローズ系に切り替える。 
外気を取り込むオープン系にしたままだと、重金属雲が発生する下の戦場では、それだけで命取りだ。

耳障りな、砲弾が大気を切り裂く音。 戦術機の跳躍ユニットが咆哮する轟音。 突撃砲の射撃音。 そして切羽詰まった、悲鳴も聞こえる戦術機部隊の交信。

『稜線上に長く留まるな! 推進剤をけちるな、南北の谷間を使え!』

戦術機甲中隊の指揮官が、声を枯らして部下に指示を飛ばしている。 30秒が経過した。

『C小隊! 戦車級の突出を止めろ! B小隊、稜線から落ちてきた小型種を薙ぎ払え!  A小隊、噴射跳躍! 光線級の注意を惹きつける!』

流石に光線級に睨まれた状態で、その準備照射を回避しつつ、戦術機の装甲など軽く噛み破る戦車級を交しながらの交戦は、歴戦部隊でも手に余る―――45秒。

『準備照射来るぞ! 回避! 回避!』

殆どの光線属種が、戦術機部隊に目が行っている。 小型種もこぞって移動してしまった、チャンスだ―――5秒。

『・・・中隊、攻撃―――開始!』

2個中隊の機械化歩兵装甲部隊が、一斉にフルブーストで跳躍ユニットを吹かし、光線属種の裏に飛び出た。
目前に後背を晒す光線級に、12.7mm機銃弾を浴びせかける。 僅か67名に減じた中隊全員が、一斉に射撃を開始した。

『第1、第2小隊! 光線級の排除! 第3小隊続け! 重光線級を殺る! LAM(110mm個人携帯対BETA用装甲弾)だ!』

一軒茶屋から脇に逸れた頂上へ至る山道、そこをフルブーストで駆け上がる。 目前に重光線級、でかい!
韓国軍の1個小隊も加わった、こちらはTOWを装備している。 歩兵には大きすぎて不評だが、機械化歩兵装甲部隊には丁度良い、対装甲ミサイルだ。
攻撃位置に着いた時、群れの最後尾にいた小型種―――兵士級の群れが数10体、こちらに気付いた。 接近を許せば厄介だ、早く仕留めなければ。

『1体に最低でも3発叩き込め!―――発射!』

見上げる形で重光線級に向け、対装甲弾を撃ち込む。 至近距離だ、外しはしない。
次々に重光線級に命中する。 やがて8体の重光線級が全て、体液を撒き散らせながら倒れ込んだ。

『光線級の排除に成功!』

『兵士級、闘士級、約70体、向かってきます!』

『撃て! 撃て!』

『フラガラッハより6中! 退れ! あとはこっちで始末する!』

『6中よりフラガ、任せた! 中隊、後退だ! 後退しろ!』

迫りくる小型種の群れに、12.7mmを浴びせかけながら後退する。 その背後から戦術機部隊が、突撃砲の36mm砲弾を小型種の群れに叩き込んでいた。
やがて、山頂付近に陣取っていた全てのBETAの殲滅に成功する。 改めて戦術機部隊と合流を果たし、周囲の警戒を部下に命じた後、通信回線を開いた。

『・・・何とか、奪回出来たな。 今回は運が良かった、厄介な戦車級の数が少なかったよ』

『5派と9派の時は、かなり損害が出たらしいな?』

『ああ、酷かった、6個中隊が全滅した。 戦術機部隊も、2個中隊出張って来たが・・・ 4機やられた』

一部、米軍部隊や国連軍部隊も参加したが、繰り返される争奪戦と1回毎の損害の多さに、ある米軍兵士がこう叫んだ。
―――『マウント・ロッコウは、『ハンバーガー・ヒル』だ!』

こうして、12回目の六甲山山頂奪回作戦は終わった。 しかし、これで全てが終わった訳では無い。
多分、またBETAは群れを為してこの山頂に登って来るだろう。 そうしたら、また『ハンバーガー・ヒル』には、血肉がばら撒かれる事になるだろう。

『・・・明日からは、戦艦部隊が山頂付近に艦砲射撃を加えるらしい』

『そりゃ、いいや・・・ そうすれば、俺達も苦労して山登りせずに済む。 周防さんよ、アンタらも毎度毎度の綱渡りをしなくて済むな』

『・・・京都方面じゃ、そればかりやっていたよ』

京都西部と北部の山岳地帯と、盆地を巡る防衛戦。 
戦術機部隊にとっては戦闘機動がかなり制限される、苦しい戦いが続いていた。

―――そりゃ、大変だな。

そう言い返したその時、機械化歩兵装甲部隊の指揮官は、不意に気が付いた。 あれ? こいつ、こんな昏い目をした奴だったかな?









1998年8月10日 2315 大阪府守口市 臨時野戦基地


ハンガーは相変わらずの戦場だ。 帰還した戦術機、それに取り付き、損害状況を確認する整備兵達。
向うでは衛生班が負傷した衛士を、大急ぎで応急処置を加えながら野戦病院に搬送しようとしている。
一時的に京都方面の防衛線に駆り出され、そして呼び戻された途端に、六甲山頂を巡る戦いに投入された。
そして今、中隊は38時間ぶりにまともな整備を受ける機会を得た。 当然ながら、その間は断固として休む様、部下には厳命している。

俺自身疲れ切っていたが、まだ仕事も残っている上、妙に目が覚めている。 書類仕事に半ば嫌気がさし、気分転換にブラブラしているとハンガー前に来ていた。

中隊の戦術機を見上げる。 定数で12機、現在は10機。 神戸方面の戦闘で、B小隊4番機の浜崎(浜崎真弓少尉)が負傷した。
続く京都の北西、亀山盆地での戦いでは、損失無しで乗り切ったものの、今日の六甲山の戦闘で、C小隊3番機の宇佐美(宇佐美鈴音少尉)が負傷した。
戦死者はまだなく、負傷した宇佐美も浜崎も、骨折程度で済んだのは幸いだった。 師団軍医部に確認した所では、3ヵ月もすれば復帰出来るらしい。

(『・・・こ、怖い・・・』)

浜崎が搬送される直前、小さく漏らした呟きが耳に残っている。 あいつとて、遼東半島や、朝鮮半島での戦闘経験が有る。 昨日今日、初陣を迎えた新米じゃ無い。

(・・・浜崎は、復帰は難しいかな)

人には個体差があって当然だ、当然ながら精神面でも、その差は歴然と存在する。
衛士としての適性とは別に、戦場で受ける衝撃、死への恐怖、そう言った負の要素に対する抵抗力、或いは鈍感力と言う意味で、浜崎は繊細過ぎたのか。
復帰する、しないは軍が判断する事だが、もし復帰してきた場合は良く考えなければならないな、そう思う。
ただ闇雲に叱責して、無理やり戦闘に参加させるだけでは、無為に無駄死にさせるだけかもしれない。

そう考えた所で、急に可笑しくなった。 今現在、帝国は亡国の瀬戸際を戦っている。 無力な民間人を、数千万人も犠牲にしてまで。
その状況下で、1人の将兵の精神状態を云々する事が。 それを許される状況で無いと言う事が。 それを許容すべきと判断している自分が、妙に可笑しく思えた。

「周防」

背後から呼びかけられる。 振り向くと、今回の六甲山頂奪回作戦に抽出された6個戦術機甲中隊の先任指揮官である、和泉大尉が歩み寄って来ていた。

「和泉さん、アンタも書類仕事から逃げ出したクチですか?」

正直、気分がすぐれているとは言い難いからか、我ながら下手な言い様だ。 
もっとも当の和泉大尉も同じなのか、眉間にしわを寄せて鼻を鳴らしながら、言い返してきた。

「アンタ『も』って何さ。 私は少なくとも、アンタよりまともに中隊長やっているよ」

酷い言い草だ、まるで俺が中隊長職を、ちゃらんぽらんにやっている様に聞こえるじゃないか。
しかしそこで、毒舌合戦になる前に会話が途切れた。 普段の和泉さんらしくない。 まあ、俺もそうか。

暫く、2人してハンガー内の作業を無言で見つめていた。 整備の連中は、上は指揮官の大尉から下は1等兵まで、しゃかりきになって働いている。
腕を破損した戦術機、管制ユニットを半ば齧られた戦術機、跳躍ユニットが脱落した戦術機。 よく帰還したものだと思う。

「・・・アンタのトコ、今までの損失は何機?」

「・・・2機。 負傷2名ですね」

「ふうん、大したもの。 私のトコは、3名戦死で1名負傷、残り8機だよ」

「すっと、阪神防衛戦の最前線に張り付きでしょう、和泉さんのトコは。 ウチは京都で数日間楽させて貰いましたから」

京都方面は、ここ数日散発的な再侵攻以外、不気味なほどBETAの活動が振るわない。 お陰で中隊も、連続稼働での防衛戦闘から解放されていた。
しかし、阪神防衛戦は逆だった。 3万以上のBETA群が、繰り返し数千規模の波状突撃を仕掛けてきた。 そして決定的な戦果を出す前に引き上げる。
BETAに戦略戦術無し―――あの言葉は既に大陸や欧州の戦場経験から、誰が広めた戯言だと思っているが、今回もBETAは厄介な行動をしている。

「ウチの連隊じゃ、伊崎(伊崎真澄大尉)の13中隊は9機、佐野(佐野慎吾大尉)の23中隊は8機・・・」

そして、和泉大尉の31中隊も8機。 141戦術機甲連隊から抽出されている六甲山系防衛分遣部隊は、残り25機。
俺の属する181戦術機甲連隊分遣隊も、俺の指揮する22中隊は10機が残っているが、葛城君(葛城誠吾大尉)の13中隊は9機、仁科(仁科葉月大尉)の33中隊は8機。
181戦術機甲連隊分遣隊は、残す所27機。 141と181で合計52機。 20機を失った、25%以上の損耗率だ。

「・・・沿岸部も、そろそろヤバそうだよ。 さっき美弥さん(水嶋美弥大尉)と連絡が取れてね、ヤバいって。
29師団がボロボロ。 14と18師団も3割以上の損耗率。 増援の3個師団(第31、第38、第49師団)は頑張っているけど、ね・・・」

「海軍は? 確か堺の聯合陸戦師団が2個・・・ 第1と第3聯合陸戦師団も、戦闘序列に入った筈ですよね?」

海軍の地上戦力は、大別して2つに分かれる。 敵前強襲上陸専門の『海兵隊』、これは81式強襲歩行攻撃機『海神』装備の部隊だ。
この海兵隊の敵前上陸、そして橋頭堡確保の後で、拠点確保と支配地域拡張の為の戦闘を引き受けるのが、『聯合陸戦師団』―――陸軍の戦術機甲師団と、ほぼ同じ編成の部隊だ。

今回は、壊滅した呉から脱出してきた第3聯合陸戦師団と、横須賀から出張って来た第1聯合陸戦師団が、防衛線に参加している。
佐世保の第2聯合陸戦師団は、九州に張り付け状態。 舞鶴の第4聯合陸戦旅団(舞鶴のみ、規模の小さい旅団編成)は、福井県南部の嶺南地方に防衛戦を張っている。

「ああ、海軍さんの増援も、かなり助かっているよ。 他に中韓の2個旅団、都合8個師団に2個旅団。
・・・3万以上のBETA相手だと、これで何とか、かんとか、ってトコだよね」

既に第1防衛線は、8月5日に放棄されている。 
翌8月6日から始まった第2防衛線防衛戦闘は、激しさを増しながら今もなお継続中だった。
淀川以北の大阪市から京都府南部、そこから京都盆地の入口である明神ヶ岳と愛宕山の間、そこから鞍馬に抜けるライン。
嫌な出来事を思い出した。 無意識に顔が歪む。

「・・・どうしたんだい?」

「いや・・・ ちょっと、嫌な事を思い出しまして、京都で」

「聞いているよ。 こっちも同じ様なもんさ、私も経験した、皆もね」

とうとう、本国でも民間人に対し発砲する羽目になってしまった。 亀岡市内での事だ、逃げ遅れた数千人の民間人、迫りくるBETA群。
このまま民間人を保護しながらの、突破阻止戦闘は無理だった。 非難してくる民間人の最後尾は、既にBETAに喰い付かれていた。
悪夢の阿鼻叫喚、古い記憶が蘇った。 このままでは、BETAに突破される。 そう判断した瞬間、命令を下していた―――『射撃開始!』

BETA群は撃退した、しかし同時に数千人の民間人も全て死に絶えた。 あの時と異なるのは、同時に民間人とBETAに向け発砲したのは、俺の中隊だけじゃないと言う事か。
当時は第1師団、第3師団から抽出された部隊と共に、協同戦線を張っていた。 それらの部隊もまた、同時に発砲していたのだ。

「軍集団司令部の法務部は、今回の件は不問にすると・・・」

「アンタが国連軍に飛ばされた当時とは、帝国軍自身も勝手が違うよ。 もう、そんな『人道的』な判断を下せる余裕なんて、ありゃしないんだから・・・」

阪神防衛戦に於いても、複数の部隊がBETAに喰い付かれた民間人を、BETA毎吹き飛ばすと言う事態が発生したと言う。
此処にいる和泉さんもその一人だし、ウチの連隊でも木伏さんに愛姫、それと仁科がその命令を下さざるを得なかったようだ。

「ウチ(141連隊)じゃ、私に美弥さんと伊崎・・・ ああ、長門もね。 アイツはアンタと同じだね、真っ先に判断を下したよ。
29師団じゃ、地元出身の指揮官がね、命令下した後、基地に帰還してから拳銃で頭を撃ち抜いたってさ。 見知った顔でも居たのかね・・・」

経験の浅い少尉と、経験豊富な大尉との差か。 俺が初めて経験した少尉当時の混乱は、和泉さんからは窺い知れなかった。
しかし彼女も、血の通った人間だ、何も感じていない筈はない。 

「・・・俺の、国連軍時代の戦友が言っていましたよ。 『マッキナになるしかねぇ』って。 出来れば後悔もしたくない、人生、そんなに長く無いのだから、とね。
死んでから、あの世とやらでゆっくり苦情を受け付けたらいい、後悔や悔悟なんて贅沢、楽しんでいる暇は無いから、ってね」

確か、イベリア半島の戦闘の後だったか。 うん、94年の夏が終わった頃だ。 負傷が癒えて退院したあと、酒場で飲んだ時だ。
ファビオと・・・ ああ、スペイン軍のあのおっさん、レオン・ガルシア・アンディオン中尉―――欧州を離れる直前、便りを貰った時は少佐になっていた―――も居た。
その時、珍しく酔っ払ったファビオが、そう言っていたんだったか。 ファビオ自身、満洲で民間人に向けて発砲した事がある、俺と一緒に。

「・・・じゃ、そうするよ、私も。 何時まで生きてられるか、判んないけどね」

「憎まれっ子、世に憚る、そう言いますが?」

「長生きするよね、周防、アンタは!」

少しだけ、普段の調子が出てきたか? 苦笑しつつ肩をすくめる。

「ま、私が滅入ってられないのも確かよね。 部下達の手前、あいつらのフォローもしなきゃね」

「141の方は、和泉さんに任せますよ。 伊崎はこっちに居るのでしょう?」

「うん、そうだね。 ま、あの娘も満洲や半島の経験が長いから。 目撃経験はいくらでも有るしね」

中国軍や韓国軍が、同様に除隊に陥った時に自国民ごとBETAを吹き飛ばす場面は、多々有った。
大陸派遣軍で戦った者にとって、自分で経験してはいないが、友軍がそう言った処置を行う場面に遭遇した経験を有するの者は多い。

「ウチの仁科は、俺の方から」

「頼んだよ」

そう言って、和泉さんはその場を離れて行った。 時計を見ると、もう2400に近い。 流石に俺も休まないと体が保たない。
粗末な作りの将校用兵舎に向かう事にした。 少しでも休まないと。 その前に、仁科に一言掛けておくか。 ああ、部下達にも明日の朝、それとなく・・・

そんな事を思いながら歩いていた。 そして無意識に思っていた―――祥子が、こんな思いを経験せずに済んだのは、或いは幸いだったか、と。
恐らく彼女が聞いたら、顔を真っ赤にして怒るだろう。 もしかしたら、悔し涙さえ浮かべるかもしれない。 或いは彼女を、貶める事になるのか?

―――全ては俺の本音で、全ては正鵠を得ているのか。

ああ、俺の我儘な本音だ。 彼女の負傷を差し引いても、この負の感情は味あわせたくない、それが本音だ。 例え部下が味わったとしても、だ。


「・・・一生、口に出来ないな」

気が付いたら、自嘲しつつ独り言を呟いていた。

砲声が聞こえる、今夜もまた間引き砲撃か。 
真夏の熱帯夜が鬱陶しい、星が曇って良く見えない、朧月が霞んでいる―――我儘で、何が悪い。










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