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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 横浜基地防衛戦 第4話
Name: samurai◆fb16190c ID:d442e510 前を表示する / 次を表示する
Date: 2020/12/28 21:44
2001年12月30日 0220 日本帝国 神奈川県旧川崎市川崎区 第1軍司令部


「第3隔壁が保たんか・・・」

情報参謀から渡された報告書を読みながら、第1軍司令官・福田中将は思案していた。 現在、第1軍は増援戦力もほぼ全力を投じて、町田と東戸塚を封じようとしている。
しかしその戦闘も、すべては横浜次第・・・横浜が如何に手早く『反応炉』を停止させるか。 その情報はすでに日本側に通達されている。 機密の壁をどうこう言う局面ではないのだ。

「現在、要員が保守点検口からラダーを伝い、反応炉制御室へ急行中、との事ですが・・・第1、第2隔壁を守っていた機械化歩兵中隊は2個とも全滅、第3隔壁も・・・」

傍らの久世参謀長も、憂慮の色が深い。

「こら、いよいよ『コード999』の発令かもなぁ・・・おい、今現在で横浜基地周辺におる部隊は?」

「はい。 横須賀の6個TSF大隊・・・こちらはかなり戦力減ですが。 それと増援に送り出した我が軍の3個TSF大隊です。 横浜と横須賀の航空戦力は、羽田に退避済み」

「その部隊は、直前に退避やな。 他は・・・まあ、何や・・・あそこの基地司令官と、副司令官・・・香月博士は、救出せな、あかんな。 あとは・・・研究者連中も」

「他は?」

「必要な犠牲、そう言うものや。 全員は無理やな・・・そう言うもんやろ、参謀長」

「はっ・・・致し方ありませんな」

G弾投下を前に、横浜基地要員の全てを脱出させることは不可能だ。 基地司令官と副司令官、基幹要員に、そして研究者達を脱出させる事が精いっぱいだろう。

「国連軍には、事前に筋は通してある。 そして今の現状や・・・通信、回復はまだか?」

未だ、横浜基地との通信途絶中―――通信参謀の報告に頷いた福田軍司令官は、参謀長を見返り行った。

「総司令部に繋げ。 岡村さん(本土防衛軍総司令官・岡村大将)と、話すよってに」





2001年12月30日 0230 神奈川県旧横浜市 国連軍横浜基地 第2滑走路


『ゲイヴォルグよりジューファ! 要塞級、2体撃破! 残存、2体!』

「ジューファよりゲイヴォルグ、ラジャ! ジューファよりステンノ! 南から突き上げ出来ますか!?」

『やってみましょう! ステンノ全機、今の照射が終わったら、インターバル開始と同時に飛び出すぞ! 遅れた奴は帰投後に腕立て300回と、酒代と甘味代を請求するよ!』

部下たちからの『酷い!』、『指揮官横暴!』のブーイングを無視した美園少佐が、レーザー照射が終わるや、いの一番に期待を跳躍させて突撃級BETAの残骸から飛び出す。

『ムーランよりステンノ! 援護するわ! 制圧全機、誘導弾! 砲撃支援は邪魔な戦車級以下を撃て!』

日本軍の増援到達から、およそ2時間が経過した。 戦況は好転しつつある。 あれから他にも、日本海軍の艦砲射撃支援が3回行われた(第5戦隊の戦艦『出雲』の艦砲射撃)
他にも東戸塚ゲートから抽出されてきた、特殊戦闘車両・・・第1001教導駆逐戦車大隊第3中隊(15輌)、第3001教導高射大隊第2中隊(24輌)が急行してきた。
駆逐戦車は105㎜単装ライトガスガンを、自走高射砲は57㎜単装ライトガスガンを装備している。 小型種なら距離8000以上で撃破、大型種も5000あれば十分撃破できる。
他にも少数だが、155㎜自走砲と多連装ロケットシステム(M270MLRS)の支援が復活しつつある。 他方面でのBETAの圧力が弱まった結果だろうか。

『ステンノ・ワンより2中隊! デカブツ(突撃級/要撃級)の上を跳び越せ! まだインターバルだ! 1中隊、3中隊、私と側面から崩す! 続け!』

『制圧支援! ポイント118-52-445から449に集中して叩き込め! 砲撃支援、左翼の要撃級を狙え! 他は私と左翼の戦車級を屠るわよ! 行け!』

要撃級と突撃級BETAの直上、攻撃が届かないすれすれの極低高度を噴射跳躍で飛び去ってゆく戦術機群。 その支援に側面から噴射滑走で砲撃を行いつつ、光線級に迫る本隊。
『ステンノ』大隊が光線級への攻撃を開始したと同時に、横須賀の『ムーラン』大隊から誘導弾多数が発射される。 120㎜滑腔砲から大型種の側面に砲弾が叩き込まれる。

『ステンノ! ムーラン! インターバル終了5秒前!』

統一指揮を執るジューファ・ワン―――趙美鳳少佐が注意喚起。 前面に出たステンノの美園杏少佐、ムーランの朱文怜少佐が即時に対応する。

『ラジャ! ステンノ全機、全力後方跳躍! 引き籠もりの巣に戻るよ!』

『ムーラン、ラジャ! 全機、ステンノの支援、2斉射! 撃て!』

積み重なったBETAの死骸(と連中が判断しているかは不明だが)の陰に舞い戻る。 BETAは同士撃ちをしない、それが活動を停止した個体であっても。

『何だかねぇ・・・こんなの、余り経験ないわ・・・おい! 迂闊に頭を出すな! 連中、結構な精密狙撃をするぞ!』

『ドーヴァーの拠点防衛戦で、経験したわ。 日本じゃ、こういったケースは無かったの?』

『基本、戦線の維持ですからね! それも機動戦で!』

撃破され、活動を大型種BETA数体の死骸を『防御壁』にして、そこから迫りくるBETA群を砲撃で排除する。 もうかなりの時間、こう言った戦法を取っている。

『言い出しっぺは、うちの先任ですが! ああ、そうか・・・あの人も、その頃は欧州でしたね・・・』

『直衛と圭介、それと・・・直人もね・・・』

『・・・そうですね』

国連軍の朱少佐、日本軍の美園少佐、ともに先だって発生した日本のクーデター騒動には、内心で含むところが多い。 否定的な面でだが。
そしてその首謀者と見做される(何せ、実行者の最高階級だったのだ)、死亡した元陸軍少佐、久我直人は、それこそ新米の少尉時代から知る古い知己だったのだ。

現在、第2滑走路南東部防衛は『ジューファ』大隊、『ステンノ』大隊、そして『ホンライ』大隊(韓炳德少佐)の日中韓連合部隊、この3個大隊。
ただし『ジューファ』、『ホンライ』は共に戦力の30%を、数時間前の地中侵攻による奇襲と、その後の消耗戦で失っている。 この方面の主力は、美園少佐の『ステンノ』大隊だ。

この傾向は他の方面でも言えた。 北西方面は『チンロン』大隊(郭鳳基少佐)と『パイフー』大隊(曹徳豊少佐)の台湾軍コンビに、日本陸軍の真咲櫻少佐の『フリッカ』大隊。 
しかし『チンロン』、『パイフー』共に戦力の35%以上を喪失している。 防衛線の主力は真咲少佐の『フリッカ』大隊が前面に出て、何とか抑えていた。

そして第2滑走路正面、Cゲート前は『ジューファ』大隊(趙美鳳少佐)、『ファラン』大隊(李珠蘭少佐)と、『ゲイヴォルグ』大隊(周防直衛少佐)
ここも『ジューファ』と『ファラン』が戦力の35%前後を喪失したため、周防少佐指揮の『ゲオヴォルグ』大隊が前面に立って流入を阻止していた。



「ゲイヴォルグ・ワンよりHQ、後続情報求む」

周防少佐が秘匿回線を用い、旅団本部へ問い合わせる。 無論、欲しているのは横浜基地内部の情報だ。 が、聞こえてきたのは聞きたくない情報。

『HQ、藤田だ。 周防、コード受信解除の準備をしておけ』

まさかの旅団長、藤田准将直々の応答だった。

『師団へ直通通信が入った、横浜からだ』

「師団へ。 直通」

周防少佐の声が思わず固まる。 こんな、指揮系統無視の通信連絡、有り得ない。

『保安要員による、反応炉停止は失敗した。 現在、『最終手法』による停止を試みる、との内容だ。 無論、軍団、軍司令部へ転送済。 軍司令部より本土防衛総軍司令部へも』

(コード999、そのカウントダウンが始まった、そういう事か・・・くそっ!)

『内部情報から、恐らく後・・・15分から20分が勝負だと考えられる。 それ以上かかれば、横浜内部の実行部隊戦力は消滅する。 命令だ周防、受信解除を』

「・・・了」

通信が切れると同時に、周防少佐は無意識にコクピットの側面障壁を拳で殴りつけていた。 痛みは感じない。 怒り、焦燥感、無力感、そして少量の絶望感。 痛みを感じない。
目が血走っている。 きつく食いしばった唇が破れ、かすかに血が滲んでいる。 昔、イベリア半島で受けた古傷の右頬の裂傷跡が、薄らと血の色に染まった。

ひとつ、大きく、荒い息を吸い込み・・・操作パネルに手を動かす。 受信解除コード、打ち込み。 識別個別コード、パスワード・・・すべて打ち込み、きつく目を閉じた。

「・・・ゲイヴォルグよりジューファ。 美鳳、話がある・・・」

この場の最先任指揮官、国連軍の超美鳳少佐へ、秘匿回線を開いた。






2001年12月30日 0235 川崎沖 帝国海軍第5戦隊 戦艦『出雲』 後部甲板


『シーバード501、テイクオフ』

『LSO、シーバード501、テイクオフ』

『続けてシーバード502、テイクオフ』

『シーバード502、テイクオフ、ラジャ』

戦艦『出雲』後部甲板から、LSO(Landing Signal Office)の指示で、2機のSH-60K哨戒ヘリが飛び立った。 乗員を除き、1機につき8名を収容出来る。
更には周囲の艦隊各艦のうち、ヘリ搭載能力を有する大型艦よりAH-1Wスーパーコブラが4機。 更にアグスタウェストランドMCH-101が1機。
アグスタウェストランドMCH-101は乗員の他に収容人員30名の能力がある。 SH-60Kと合わせれば46名を収容できる。

更には母艦戦術機甲部隊から、2個飛行隊(大隊)73機が飛び立った。 全機が95式Ⅲ型多目的誘導弾を装備している。 1機当り36発。
他にも館山沖に移動していた揚陸艦からは、LCAC-1級エア・クッション型揚陸艇が3艇、既に発進している。 2艇はLAV装輪装甲車を計8輛搭載している。
残る1艇は、車両甲板上に人員輸送用モジュール(personnel transport module, PTM)を設置し、最大180名を収容できる様にしていた。

『回収部隊、発進した』

『近接航空制圧部隊、高度30で横浜沖へ飛行中』

『戦術機甲部隊、間もなく横浜基地周辺へ広域飽和攻撃を開始する。 展開する陸軍部隊へは緊急通知済』

『回収部隊、近接制圧部隊は鶴見上空で待機。 『最終工程』実施確認後、速やかに収容作業に入れ』

射撃管制指揮所で、スピーカーから流れてくる情報を聞きながら、『出雲』砲術士の綾森喬海軍中尉は、ポーカーフェイスのその下で、激しく毒づいた。

(くそっ・・・だめなのか? やっぱり、だめなのか?)

艦隊から『回収部隊』が横浜へ・・・間違いない、国連軍横浜基地首脳部を『回収』するためだ。 つまり、横浜基地はもう救えない、上はそう判断したのだろうか。
情報では、義兄の部隊が展開しているはずだ。 隣でダブル配置について、あれこれと教えている後任・・・周防直純海軍少尉候補生の実兄の部隊も。

艦は砲撃目標を『町田ゲート』に移している。 砲戦距離3万5000、出雲の主砲にとって、然程遠い距離ではない。 艦対地ミサイルならば、指呼の間だ。
それがつい先ほどだ、目標の変更指示が入った。 変更目標は横浜基地。 その第2滑走路外周部。 少なくとも滑走路へ直撃弾は出すなと言う。 ゲート付近は厳禁だとも。

(見ればわかる・・・戦術機甲部隊が張り付いて防戦中だ。 滑走路よりゲート寄りに着弾すれば、戦術機でも爆風で大破する・・・それが戦艦主砲の艦砲射撃だ)

本当にダメなのか? もう手段はないのか? 狂おしい程の速さで、思考が脳内を巡る。 が、哀しいかな、綾森中尉は『中尉』だったのだ。






2001年12月30日 0240 神奈川県旧横浜市 国連軍横浜基地 第2滑走路


『艦砲射撃だ! 全機! 耐衝撃防御! 身を晒すなよ!?』

小隊長が怒声を張り上げている。 もう何が何だか、自分には判らなくなっていた。 無意識に耐衝撃防御姿勢を機体に取らせたのは、我ながら褒めてくれていいと思う。
彼方から地響きのような、重低音の轟音が連続した。 数秒後、まるで大地震に見舞われたような振動が襲ってきた。 激しく揺れる。 網膜スクリーンがぶれる。
スウェイ・キャンセラーを稼働させていなければ、コクピットでシェイクされただろう。 自分の機体、94式『不知火』壱型丙Ⅲ(壱型23型)が激しく揺れた。

「ふっ・・・ふっ・・・ふっ・・・」

教えられて以降、何度目か忘れた。 大きく口を開き、小刻みに大きく呼吸をする。 教えてくれたのは・・・誰だったかな?

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

気付けば振動が収まっている。 馬鹿、もっと周りを気にするべきだ。 死にたくなければ。

『02より04! 当麻! まだ正気か!?』

ペア―――分隊を組む2番機の先任少尉から通信が入る。 同時に網膜スクリーンに上半身姿がポップアップする。

「04・・・より02! 当麻少尉っ・・・だいっ・・・じょうぶっ、です!」

何とか声を出せた。 しかしもう、何が何なのか、自分には判らない。

元々、自分は東部軍・・・西関東防衛任務の第4軍団、第46師団に属する戦術機甲大隊に配属された新米少尉だった。 今年の9月末に訓練校を卒業したばかりだ。
最初の乗機は『撃震』だった。 そして、その習熟訓練中の12月初旬のあの日。 いきなり、友軍と思っていた連中に(後に第1師団の戦術機甲部隊と分かった)急襲された。

大隊はあっという間に壊滅された。 尊大な大隊長。 叩き上げで人情家だった中隊長。 気さくで、美人で、秘かに憧れた小隊長。 あれこれ面倒を見てくれた先任少尉。
皆が、あの夜に第1師団の『不知火』に撃破され・・・死んだ。 自分は最初に撃破された口だったが、幸運にもコクピットは無事。 自身も怪我ひとつ無かった。

だが、パニックになりながら、撃破された機体から脱出した時の光景は、今でも忘れない。 撃破され炎上し、夜空を焦がす多くの機体と、混乱する通信回線から上がる声。
そして・・・傲慢とも見えるほど、屹立した姿勢で戦場を見下ろす(様に感じた)第1師団の戦術機群。 訳も判らぬ激情にかられ、護身用の自動拳銃を何発も撃った。

その後は何も出来なかった。 師団司令部さえ壊滅状態で、臨時に指揮を引き継いだ上級将校が臨時司令部を開設し、自分はそこの警備要員に組み込まれた。 戦術機は無かった。

暫くは第46師団(の生き残り集団)に居たが、甲21号作戦終結後に、いきなり転属命令が出され・・・友軍にあっさり撃破される初陣だった、ヒヨコの自分が・・・

(まさかっ・・・15師団だとはっ!)

日本帝国陸軍第15師団。 緊急即応師団で、最精鋭師団の誉れも名高い部隊。 甲21号作戦にも参加し、最後まで全軍脱出の時間を稼ぐ遅滞戦闘で殿軍を演じ、生還した部隊。
その中でも中核大隊の一つ、第151戦術機甲大隊に転属。 それを知った時、自分は・・・誇らしさは無かった。 有ったのは、ただひたすら、畏怖と恐怖だったはずだ。

そして転属し、機種変換訓練も殆ど無かった今日、いきなりの出撃! 相手はBETAの大群! 何も考えられず、一切の余裕はなく、ひたすら、先任や小隊長の指示で動くだけ!

『01より04! 当麻! それだけしゃべれりゃ、上等だ! まだ来るぞ! 構えろ!』

小隊長の声。 見れば、あれほどの衝撃だった艦砲射撃から生き残ったBETAの群れが突っ込んでくる。 無意識にレクチュアルを合わせ、トリガーを引く。
指を引きっぱなしではなく、何度も拳を握り込むように、小刻みにトリガーを引く。 これも先任に教わった。 引きっぱなしだと、自分の様な新米はあっという間に撃ち尽くす。

「はあっ・・・はっ・・・はっ・・・せ、先任っ! これって・・・いつまでっ・・・はっ、はっ・・・」

もう何時間、こうしてBETAと戦っている? 何度、リロードした? 何度、後方までコンテナを拾いに行かされた? 覚えていない!

ペアを組む先任少尉から、返答はなかった。 代わりに聞こえてきたのは小隊長・・・半村真里中尉の声だった。

『いつまで? 中隊長の命令があるまでだ! 大隊長が判断されるまでだ! それまで、俺の指示に従え! お前は・・・お前らは俺の小隊だ! 死なせやしねぇよ!』

小隊長の声。 冷静に考えれば、ヒヨコの自分など、真っ先に戦死するだろう。 だけど、何故か安堵できた。 理由は判らない。

『小隊長! こいつ、やっぱり『持って』ますよ!』

『そうです。 初陣で1連隊に殴り掛かられて、『撃震』で生き残って。 今もこうして声が出せるんですから!』

2番機の渡部邦夫少尉、3番機の矢野桃子少尉。 1期上と半期上の先任少尉たち。 声が笑っている。 何故だろう? 自分、何かやらかしたか?

『ははっ! 確かにな! おい、当麻! 現時刻は?』

え? なに? 現時刻? 慌てて網膜スクリーンに集中する。

「はっ・・・はっ・・・げ、現時刻っ・・・0244です!」

訳が分からず、ヤケクソで答えた。 答えながら反射的に、突撃級の陰から迫ってくる戦車級BETAの小さな群れに、36㎜砲弾を浴びせかけた。

『はっ! そうだ! そして戦闘開始時刻は・・・えっと? 昨日の2208か、4時間40分ほど前だ。 つまりそれだけの時間、くそBETAと戦っている!』

「は? はい・・・?」

え? それが? え? 何だ? すぐそばで射撃音。 小隊長と渡部少尉、矢野少尉の機体から、36㎜砲弾が雨霰と発射され・・・小型種BETAの群れを赤黒い霧に変えた。

『おい当麻。 4時間40分て事はだ・・・ええと、何分だ・・・』

『280分ですね』

突撃級の死骸で作った『バリケード』を超そうとした戦車級BETA数体を、矢野少尉の機体がナイフで切り裂いている。

『・・・おい、矢野ぉ・・・ま、いい。 当麻! 280分ってことはだ、8分の何倍だ?』

「はっ!? ええと、ええと・・・」

『35倍ですね』

含み笑いを噛み締めたような声で言いながら、ペアを組んでいる先任の渡部少尉機が突撃砲の120㎜砲弾で、横腹を見せた突撃級を仕留めた。

『渡部ぇ、貴様ぁ・・・も、いいや・・・おい当麻、貴様は今晩、既に『死の8分』の35倍もの時間、BETAと戦い続けているってことだ!』

「・・・あっ!?」

忘れていた。 いや、気付かなかった。 そうか・・・『死の8分』、いつの間にか、とうに過ぎていたのか・・・小隊長機は36㎜砲弾で戦車級の群れを掃討している。

小隊長の半村中尉と、先任の渡部少尉が、戦いながら爆笑する。 矢野少尉も笑っていた。

『な、当麻。 実際、実戦で1時間を超す戦闘なんざ、大規模戦闘以外、そうそう無いぜ。 大抵は30分以内だ』

『280分・・・てことは、普通の戦闘出撃10回分は稼いでいるわね』

『戦闘出撃10回って、結構ベテランだぜ? 普通の部隊じゃ!』

先任2人から、『よっ! ベテラン衛士!』などと囃される。 信じられない、今はまさに戦場なのに! 目前にBETA群が迫っているのに! そう困惑しながらトリガーを引く。
左翼に小規模な要撃級の群れ。 こっちに向かってきていないけれど・・・中国軍の側面に迫っている。 アレを放置すれば、友軍が痛撃を受ける。

『11時! 要撃級10! 砲撃します!』

120㎜砲の狙いを付けて発砲する。 1発目、外れ。 2発目、命中! 3発目も命中! 要撃級1体撃破! 他の個体へも、小隊長や先任たちが攻撃を加えている。

『なかなか、良い目をしているなぁ』

通信回線に、不意に割り込んできた声。 あまり聞き慣れない声、誰だっけか・・・

『大隊長の言う通り、『何か持っている』奴でしたよ、中隊長』

中隊長・・・あ! 中隊長だ! 八神大尉の声だった!

『ハリーホークは、この巣穴に籠って制圧射撃続行だ。 多分、もう少しで大隊長から何かある』

『何かって? 何です? それより中隊長! いつまで続きますかね!?』

『我慢しろ、半村。 俺だって我慢している!』

『了解!』

何の事か、さっぱり判らない。 ただ、小隊長の声は少し苛立ちがある気がする。 中隊長も泰然としていながら、どこか焦燥感を感じるのは気のせいだろうか。

そんなことを考えながら、ひたすら、目に付いたBETA群を観察し、危険と感じた群れに36㎜と120㎜砲弾を浴びせかけ続けた。
多分、大隊長は何か、自分の考え付かない事を考えてらっしゃるのだろう。 中隊長はそれが何か判っているのかな? 小隊長は? 自分は判らない。

(判るのは・・・ここで手を止めたら最後、死ぬってことだけだ!)

少しだけ、まだやれる気がした。 そしてまた、トリガーを引く。







2001年12月30日 0248 神奈川県旧町田市南西部 第15師団戦術機甲旅団本部


「はっ・・・はっ! では師団長、横浜は・・・」

師団司令部・・・師団長と野戦通信で話している藤田准将の表情は、歴戦の猛者に違わずポーカーフェイスを保っている。 内心はどうであれ。

『最終手段に出たようだ。 反応炉をS-11で吹き飛ばす。 最後の戦術機部隊を突っ込ませたとの事だ』

「成功率は・・・低いかもしれません」

『戦術機乗りだった君がそう言うのなら、そうなのだろうな・・・周防へは?』

「先ほど、受信の封印解除命令を出しました」

『よし・・・発令された場合、衛星軌道から『あれ』が着弾するまでの10数分が勝負だ。 既に国連軍へは事前通達した。 横浜が失敗した時は、回収部隊が突っ込む』

「では、その援護を命じます。 その後は急速撤収」

『それで行く。 送れ』

「了解。 終わり」

通信機を置いて暫く、藤田准将は目を閉じたまま、微動だにしなかった。 旅団本部要員も、そんな准将に声をかけられない。

「・・・町田ゲート周辺の状況?」

「152、153を中心に、持ち堪えております。 横浜への流入率は、明らかに減少しています」

「判った」

指揮車両を出る。 彼方から聞こえる砲撃音。 今も部下たちが死闘を演じている。 そして自分は指揮車両で、様々な情報をもとにした戦況図を見て指揮するしかない。
戦術機を駆って、戦場で戦っていた頃が懐かしい。 まさに地獄、そのものだったが、そこには確かに仲間たちがいた。 今もその筈だ、その筈だ・・・

(責任は俺が・・・上層部がとる。 だが周防、貴様には色々と・・・嫌な思いをさせ続けたな・・・)

思えば少佐だったころ、今の妻が率いた中隊に所属する、元気な少尉だった。 色々と辛い思いをさせた。 半ば左遷のような形で、海外に出さざるを得なかったこともあった。
今現在は、自分の子飼いと言える数少ない戦術機甲部隊長の一人になっている。 言葉にしたことは無いが、長門少佐と共に、最も信頼する部下の一人だ。

(横浜の頭脳は、海軍が回収する。 周防、横須賀の部隊を壊滅させるな。 統一中華と、亡命韓国・・・このふたつと、今、摩擦を生じさせる訳にはいかない・・・)

それがどれほど困難でも、命令するしかなかった。






2001年12月30日 0252 神奈川県旧横浜市 国連軍横浜基地 第2滑走路


「っ!?」

スウェイ・キャンセラーが効いた。 機体のセンサーが僅かに拾った振動。 場所はほぼ直下。 波形は爆発時の波形。 大深度。

「美鳳!」

最早、コールサイン無しで呼びかける。 相手も同じだった。

『直衛! この振動! この波形! これなの!?』

「問い合わせる! ワンよりマム! 旅団本部から情報は!?」

『は、はい! 今のところ特には・・・っ! 旅団本部に問い合わせをしますっ! HQ! こちらゲイヴォルグ・マム! 横浜に関する最新リポートを! 繰り返すっ・・・』





2001年12月30日 0255 日本帝国 神奈川県旧川崎市川崎区 第1軍司令部


「総司令部より緊急信! 『巣穴は潰れた、獲物は這い出す』 以上です!」

「司令官閣下!」

「15師団に至急、伝えい!」





2001年12月30日 0257 神奈川県旧町田市南西部 第15師団戦術機甲旅団本部


「師団司令部より緊急入電!」

「緊急信、発信しろ! 151の周防少佐宛だ!」





2001年12月30日 0258 神奈川県旧横浜市 国連軍横浜基地 第2滑走路


『マムよりワン! 旅団HQより緊急信! 大規模なBETA群、逆流出現の危険あり! 現地点より1マイル(約1.6㎞)避退せよ、以上です! 大隊長!?』

「了解した! マム、長瀬! 貴様たちは八景島から横須賀へ抜けろ! 直ぐにだ! 横須賀基地まで退避しろ! 他のCP部隊もだ! 美鳳!」

『許可する! 全CPは八景島から横須賀へ避退せよ! 全戦術機甲部隊! 磯子まで後退する! 急げ!』

その頃には、全大隊指揮官機へ、C4Iシステムを通じて概要情報が共有されている。 各大隊長は異口同音に避退命令を出した。

「ゲイヴォルグよりジューファ! 連中が側面に散らばると面倒になる! 3個を上大岡へ! 3個を東戸塚へ!」

『判ったわ! ジューファより各大隊っ・・・』

暫くしてからの光景は、地獄であり、そして救いだった。 周防少佐はそう感じた。

横浜基地のメインゲート、そしてAからCゲート・・・それぞれから、無数のBETA群が湧き出てきた。 ハイヴより湧き出るBETAの大群、正に悪夢の光景。
しかし目前のその光景は同時に、この・・・無数のBETA群が、もはや横浜の大深度に存在する反応炉に『見切りをつけた』証左なのだ。

「こっ・・・これでっ・・・甲22号の悪夢は・・・回避したっ」

周防少佐も流石に、声が枯れている。 気を抜けば崩れそうな気がする。 同時に横浜基地に向け、その全基地要員に対し、無意識に敬礼をしていた。
基地内と言う極めて限られた閉鎖空間での、BETA群との死闘。 恐らく突入していった戦術機甲部隊は無論、肉弾戦を展開しただろう機械化歩兵部隊は全滅だろう。
どれだけの犠牲を出したのか、伺い知れない。 横浜基地は今なお、BETA群を吐き出し続けている。 その中で作戦を実行し、成功させ、地上の日本軍へ連絡した者達がいる。

―――敬意を賞さず、どうするか。

網膜スクリーンの片隅で、同僚の各大隊長たちも敬礼していた。 部下の中隊長たちもだ。 首脳部の考えなど、今は一顧だにせず。 ただ、勇敢だった者たちへ、敬意を。





地上に展開していた日本軍は、横浜基地から『脱出』したBETA群に対して、夜通し追撃戦を仕掛け続けた。 居住区域を避けるため、ルートを固定する作戦を仕掛けて。
甲府から松本平、大町を経て糸魚川まで。 西部軍管区の各部隊も動員し、BETA群を各所で削りつつ、日本海へ叩き出すことに成功する。





2001年12月30日 1352 日本海 隠岐の島北方100海里海域 第411護衛戦隊


汎用駆逐艦『竹』は、この艦名を持つ艦としては3代目である(初代は『樅』型駆逐艦の6番艦、2代目は『松』型駆逐艦の2番艦)
基準排水量3,500トン、満載5,200トン、全長137.00m COGAS方式機関を搭載し、最大速力は30ノット以上。 巡航20ノットで6,000海里の航続力。
兵装は62口径76㎜単装速射砲1基の他、20㎜CIWS、シースパロー、ハープーン、アスロック他。 旧式化しつつあるが、海上護衛戦隊としては使い勝手が良い。

弱い冬の日差しの、冬の日本海。 波の荒れた航海。 だが艦内は静まり返っているようでいながら、緊張感に包まれている。

「・・・水測より報告。 海底のBETA群、進路、旧江陵市方面へ向け移動中。 およそ1万8000」

「了解」

報告を受けた艦長は、艦橋左舷側の小さな椅子、通称『お猿の腰掛』と呼ばれる司令席に座る戦隊司令に対し、具申する。

「司令。 水測の聴音結果、変わらず。 連中は鉄原(チョルウォン)を目指しているようです。 追撃を行いますか?」

汎用駆逐艦だとて、海中のBETA群への攻撃手段は持っている。 僚艦の『槇』、『榧』、『椿』と共同すれば、数百体は『潰せる』筈だ。 しかし冬の海を見続ける司令は、違った。

「・・・いや、最終方向さえ確認できれば、それでよい。 この辺りは大和堆の最浅部だ。 飛び掛りはないと思うが、不注意に攻撃を仕掛けることもあるまい」

「・・・はっ」

「艦長、舞鶴へ連絡。 『BETA群進路、鉄原を確認』 以上だ」

「了解です」

これで・・・これで、国内のBETAの巣は無くなった。 1998年以前に戻せたのか? いや、国内の疲弊を考えれば、とてもそう思えない。 戦隊司令はそう思った。

「が・・・陸軍さんの貼り付け戦力は、整理できるか・・・」

恐らく数年後には、半島上陸・・・奪回作戦が立案されるだろう。 その後は? 満州、中国本土、東南アジア・・・悲願の最終目標まで。

「生きているうちに、能う事はあるまいが・・・」

灰色の空、冬の日本海を見つめながら、隊司令はそれでも、微かな光を見た気がした。




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