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No.20952の一覧
[0] Muv-Luv 帝国戦記 第2部[samurai](2016/10/22 23:47)
[1] 序章 1話[samurai](2010/08/08 00:17)
[2] 序章 2話[samurai](2010/08/15 18:30)
[3] 前兆 1話[samurai](2010/08/18 23:14)
[4] 前兆 2話[samurai](2010/08/28 22:29)
[5] 前兆 3話[samurai](2010/09/04 01:00)
[6] 前兆 4話[samurai](2010/09/05 00:47)
[7] 本土防衛戦 西部戦線 1話[samurai](2010/09/19 01:46)
[8] 本土防衛戦 西部戦線 2話[samurai](2010/09/27 01:16)
[9] 本土防衛戦 西部戦線 3話[samurai](2010/10/04 00:25)
[10] 本土防衛戦 西部戦線 4話[samurai](2010/10/17 00:24)
[11] 本土防衛戦 西部戦線 5話[samurai](2010/10/24 00:34)
[12] 本土防衛戦 西部戦線 6話[samurai](2010/10/30 22:26)
[13] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話[samurai](2010/11/08 23:24)
[14] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 2話[samurai](2010/11/14 22:52)
[15] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 3話[samurai](2010/11/30 01:29)
[16] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 4話[samurai](2010/11/30 01:29)
[17] 本土防衛戦 京都防衛戦 1話[samurai](2010/12/05 23:51)
[18] 本土防衛戦 京都防衛戦 2話[samurai](2010/12/12 23:01)
[19] 本土防衛戦 京都防衛戦 3話[samurai](2010/12/25 01:07)
[20] 本土防衛戦 京都防衛戦 4話[samurai](2010/12/31 20:42)
[21] 本土防衛戦 京都防衛戦 5話[samurai](2011/01/05 22:42)
[22] 本土防衛戦 京都防衛戦 6話[samurai](2011/01/15 17:06)
[23] 本土防衛戦 京都防衛戦 7話[samurai](2011/01/24 23:10)
[24] 本土防衛戦 京都防衛戦 8話[samurai](2011/02/06 15:37)
[25] 本土防衛戦 京都防衛戦 9話 ~幕間~[samurai](2011/02/14 00:56)
[26] 本土防衛戦 京都防衛戦 10話[samurai](2011/02/20 23:38)
[27] 本土防衛戦 京都防衛戦 11話[samurai](2011/03/08 07:56)
[28] 本土防衛戦 京都防衛戦 12話[samurai](2011/03/22 22:45)
[29] 本土防衛戦 京都防衛戦 最終話[samurai](2011/03/30 00:48)
[30] 晦冥[samurai](2011/04/04 20:12)
[31] それぞれの冬 ~直衛と祥子~[samurai](2011/04/18 21:49)
[32] それぞれの冬 ~愛姫と圭介~[samurai](2011/04/24 23:16)
[33] それぞれの冬 ~緋色の時~[samurai](2011/05/16 22:43)
[34] 明星作戦前夜 黎明 1話[samurai](2011/06/02 22:42)
[35] 明星作戦前夜 黎明 2話[samurai](2011/06/09 00:41)
[36] 明星作戦前夜 黎明 3話[samurai](2011/06/26 18:08)
[37] 明星作戦前夜 黎明 4話[samurai](2011/07/03 20:50)
[38] 明星作戦前夜 黎明 5話[samurai](2011/07/10 20:56)
[39] 明星作戦前哨戦 1話[samurai](2011/07/18 21:49)
[40] 明星作戦前哨戦 2話[samurai](2011/07/27 06:53)
[41] 明星作戦 1話[samurai](2011/07/31 23:06)
[42] 明星作戦 2話[samurai](2011/08/12 00:18)
[43] 明星作戦 3話[samurai](2011/08/21 20:47)
[44] 明星作戦 4話[samurai](2011/09/04 20:43)
[45] 明星作戦 5話[samurai](2011/09/15 00:43)
[46] 明星作戦 6話[samurai](2011/09/19 23:52)
[47] 明星作戦 7話[samurai](2011/10/10 02:06)
[48] 明星作戦 8話[samurai](2011/10/16 11:02)
[49] 明星作戦 最終話[samurai](2011/10/24 22:40)
[50] 北嶺編 1話[samurai](2011/10/30 20:27)
[51] 北嶺編 2話[samurai](2011/11/06 12:18)
[52] 北嶺編 3話[samurai](2011/11/13 22:17)
[53] 北嶺編 4話[samurai](2011/11/21 00:26)
[54] 北嶺編 5話[samurai](2011/11/28 22:46)
[55] 北嶺編 6話[samurai](2011/12/18 13:03)
[56] 北嶺編 7話[samurai](2011/12/11 20:22)
[57] 北嶺編 8話[samurai](2011/12/18 13:12)
[58] 北嶺編 最終話[samurai](2011/12/24 03:52)
[59] 伏流 米国編 1話[samurai](2012/01/21 22:44)
[60] 伏流 米国編 2話[samurai](2012/01/30 23:51)
[61] 伏流 米国編 3話[samurai](2012/02/06 23:25)
[62] 伏流 米国編 4話[samurai](2012/02/16 23:27)
[63] 伏流 米国編 最終話【前編】[samurai](2012/02/20 20:00)
[64] 伏流 米国編 最終話【後編】[samurai](2012/02/20 20:01)
[65] 伏流 帝国編 序章[samurai](2012/02/28 02:50)
[66] 伏流 帝国編 1話[samurai](2012/03/08 20:11)
[67] 伏流 帝国編 2話[samurai](2012/03/17 00:19)
[68] 伏流 帝国編 3話[samurai](2012/03/24 23:14)
[69] 伏流 帝国編 4話[samurai](2012/03/31 13:00)
[70] 伏流 帝国編 5話[samurai](2012/04/15 00:13)
[71] 伏流 帝国編 6話[samurai](2012/04/22 22:14)
[72] 伏流 帝国編 7話[samurai](2012/04/30 18:53)
[73] 伏流 帝国編 8話[samurai](2012/05/21 00:11)
[74] 伏流 帝国編 9話[samurai](2012/05/29 22:25)
[75] 伏流 帝国編 10話[samurai](2012/06/06 23:04)
[76] 伏流 帝国編 最終話[samurai](2012/06/19 23:03)
[77] 予兆 序章[samurai](2012/07/03 00:36)
[78] 予兆 1話[samurai](2012/07/08 23:09)
[79] 予兆 2話[samurai](2012/07/21 02:30)
[80] 予兆 3話[samurai](2012/08/25 03:01)
[81] 暗き波濤 1話[samurai](2012/09/13 21:00)
[82] 暗き波濤 2話[samurai](2012/09/23 15:56)
[83] 暗き波濤 3話[samurai](2012/10/08 00:02)
[84] 暗き波濤 4話[samurai](2012/11/05 01:09)
[85] 暗き波濤 5話[samurai](2012/11/19 23:16)
[86] 暗き波濤 6話[samurai](2012/12/04 21:52)
[87] 暗き波濤 7話[samurai](2012/12/27 20:53)
[88] 暗き波濤 8話[samurai](2012/12/30 21:44)
[89] 暗き波濤 9話[samurai](2013/02/17 13:21)
[90] 暗き波濤 10話[samurai](2013/03/02 08:43)
[91] 暗き波濤 11話[samurai](2013/03/13 00:27)
[92] 暗き波濤 最終話[samurai](2013/04/07 01:18)
[93] 前夜 1話[samurai](2013/05/18 09:39)
[94] 前夜 2話[samurai](2013/06/23 23:39)
[95] 前夜 3話[samurai](2013/07/31 00:02)
[96] 前夜 4話[samiurai](2013/09/08 23:24)
[97] 前夜 最終話(前篇)[samiurai](2013/10/20 22:17)
[98] 前夜 最終話(後篇)[samiurai](2013/11/30 21:03)
[99] クーデター編 騒擾 1話[samiurai](2013/12/29 18:58)
[100] クーデター編 騒擾 2話[samiurai](2014/02/15 22:44)
[101] クーデター編 騒擾 3話[samiurai](2014/03/23 22:19)
[102] クーデター編 騒擾 4話[samiurai](2014/05/04 13:32)
[103] クーデター編 騒擾 5話[samiurai](2014/06/15 22:17)
[104] クーデター編 騒擾 6話[samiurai](2014/07/28 21:35)
[105] クーデター編 騒擾 7話[samiurai](2014/09/07 20:50)
[106] クーデター編 動乱 1話[samurai](2014/12/07 18:01)
[107] クーデター編 動乱 2話[samiurai](2015/01/27 22:37)
[108] クーデター編 動乱 3話[samiurai](2015/03/08 20:28)
[109] クーデター編 動乱 4話[samiurai](2015/04/20 01:45)
[110] クーデター編 最終話[samiurai](2015/05/30 21:59)
[111] 其の間 1話[samiurai](2015/07/21 01:19)
[112] 其の間 2話[samiurai](2015/09/07 20:58)
[113] 其の間 3話[samiurai](2015/10/30 21:55)
[114] 佐渡島 征途 前話[samurai](2016/10/22 23:48)
[115] 佐渡島 征途 1話[samiurai](2016/10/22 23:47)
[116] 佐渡島 征途 2話[samurai](2016/12/18 19:41)
[117] 佐渡島 征途 3話[samurai](2017/01/30 23:35)
[118] 佐渡島 征途 4話[samurai](2017/03/26 20:58)
[120] 佐渡島 征途 5話[samurai](2017/04/29 20:35)
[121] 佐渡島 征途 6話[samurai](2017/06/01 21:55)
[122] 佐渡島 征途 7話[samurai](2017/08/06 19:39)
[123] 佐渡島 征途 8話[samurai](2017/09/10 19:47)
[124] 佐渡島 征途 9話[samurai](2017/12/03 20:05)
[125] 佐渡島 征途 10話[samurai](2018/04/07 20:48)
[126] 幕間~その一瞬~[samurai](2018/09/09 00:51)
[127] 幕間2~彼は誰時~[samurai](2019/01/06 21:49)
[128] 横浜基地防衛戦 第1話[samurai](2019/04/29 18:47)
[129] 横浜基地防衛戦 第2話[samurai](2020/02/11 23:54)
[130] 横浜基地防衛戦 第3話[samurai](2020/08/16 19:37)
[131] 横浜基地防衛戦 第4話[samurai](2020/12/28 21:44)
[132] 終章 前夜[samurai](2021/03/06 15:22)
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[20952] 本土防衛戦 京都防衛前哨戦 1話
Name: samurai◆b1983cf3 ID:cf885855 前を表示する / 次を表示する
Date: 2010/11/08 23:24
―――『有朋自遠方来 不亦楽乎(朋有り遠方より来る また楽しからずや)』(孔子)




1998年7月18日 1430 兵庫県須磨区 須磨寺 第18師団


初夏の海風が、海岸から山裾を通って心地良く吹き上げる。 
南に向かって眼前から左を向けば、陽光を湛えた大阪湾―――古来より『茅渟(チヌ)の海』と呼ばれた、産豊かな海が広がる。
そして僅かに右、西に目を向けると緑豊かな淡路島。 『古事記』、『日本書紀』で伊弉諾尊(いざなぎのみこと)、伊弉冉尊(いざなみのみこと)が産んだ、最初の『くに』を見渡せる。
そしてこの地は、古来より畿内と山陽道、そして淡路を経て四国に至る分岐であり、合流であり、多くの文物・人々が行き交ってきた―――今も変わらない。

2日前、第7軍団の3個師団(第5、第20、第27師団)と、第2軍団唯一の生き残りである第2師団が通過して行った。
俺の所属である第18師団自身、3日前に兵庫北部からこの南部に移動してきたばかりだ。が、結局まともなBETAとの交戦は無かった。
だが我々と異なり、西部に展開していた部隊はかなりの損害を出しつつ、ここまで撤退してきたのだ。

その中に見知った顔を見つければ、思わず安堵する。 それが、もう残り半数近くまで減ってしまった同期生ならば、尚更だ。

―――『おう、周防。 やられちまったよ・・・』

―――『久しいな、元気だったか?』

―――『・・・あいつもやられたよ。 それに、ほら、あいつと、あいつも』

―――『なぁに、こんな傷。 直ぐに直してやるさ。 それまでは周防、戦場を頼むぞ!』

―――『周防! 今はまさに国難! だがこれからだ! 大いにやってやろうぜ!』

―――『夫が戦死したわ・・・ 周防、貴方、結婚は? ああ、まだだったわね・・・』

―――『畜生、悔しいなぁ、こればっかりは・・・ まだ、助けを求める子供達の声が、耳を離れないぜ・・・』


国連軍から帝国軍に復帰して以来、途中の教育期間を除けば、大陸に半島にと、相変わらず前線を往来する日々だった。
同じ第9軍団の僚隊、第14師団や第29師団とは、何かと行き来も有り、長年の僚友や同期生達と顔を合わす事も多い。
そして畿内防衛の任に就いて以来、第1軍団配備になっている同期生達と、久方ぶりの再会を持てた事は嬉しかった。
だが、その他の軍管区に配属されている同期生達とは、久しく会っていない。 中には訓練校卒業以来、顔を見ていない同期生達も居た。
そんな同期生の近況を、混乱と敗色の色が濃い戦況の中で、訃報として―――戦死したと聞く。 正直、モチベーションが下がり気味なのは自覚している。


「帝国陸軍衛士訓練校、第18期A卒、卒業368名。 戦死182名、残存186名。 戦死率49.5%・・・ 卒業してから6年で、半数が逝っちまったな」

横で圭介―――長門圭介大尉が、神妙な表情で呟く。 その言葉に俺も内心で、神妙に頷いていた。
同師団ではない、14師団のこいつがどうして俺と一緒に居るのかと言うと・・・ 何の事はない、師団防衛戦区が隣接していて、今日は連絡将校としての用事が有ったから。
―――だけとは、俺は思っていない。 俺に会いに来る前に、ちゃっかり愛姫の所に顔を出していやがった。
連れだってやってきた、海の近くの小高い公園。 晴天の瀬戸内、程良い陽気、心地良い海風―――いずれ、血と硝煙に汚される。

そして再び、同期生の事に想いを馳せる。 未だ10代半ば過ぎの少年少女の頃に、志願して入校し、そして寝食を共にし、共に学び、共に訓練に励み・・・ 時には衝突もした。
だが、多感な10代後半の一時期の時間を、共有し合った同期生達だ。 思い入れは強く、時に親兄弟より深い絆が有ったとも言える。
その彼等が、もう半数がこの世に居ない。 もう、あの笑顔を、あの声を聞く事は適わないと言うのだ。 ふと思う、あの若い顔、顔、顔は、何処へ行ったのかと。

「・・・戦争だからな」

「ああ、そうだ、戦争だ。 俺達の商売だからな・・・」

俺の呟きに、圭介も達観の中に悲哀を込めた声色で呟いた。 多分、俺の声色も同じだっただろう。
手元に数通の手紙が有る、負傷した同期生から託されたモノだ。 中には封が破れ、血糊が付いたものさえある。
死に瀕した同期生達が、運よく死の間際に会えた他の同期生に託し、またそいつが死に際して他の同期生に託し・・・
西部方面戦線で死んで行った同期生達が、その想いを綴った遺書。 そして、何としても伝えたかった相手に、送りたかった想い。

『―――生前の恩顧を謝して、御挨拶に代えさせて頂きます。 御両親様、姉上様、妹達、宜しく御取計らい下さい。 残す妻子の事、宜しくお願い申し上げます・・・』

『国に報いる誓いを為す光栄を得るは、生を帝国に受けたる身に言を問わず。 
しかれど父母哺育の恩、兄姉庇護の情、恩師指導の鴻恩、先輩同僚鞭撻の好意に寄る所、明らか也。
不肖、恩情に報いるに道は唯一つ、帝国非常の今こそ一身を以って、帝国飛躍の一礎石たらんとす・・・』

『お母様へ。 娘が先立つ不孝、お許し下さい。 
弟達へ。 お母様を、宜しくお願いします。 
亡きお父様へ。 僅か数年でお父様の元に向かう娘の不孝、申し訳ございません。
私は、私は、皆様方に愛され、皆様方を愛し、幸せに生きてまいりました。 そして死の瞬間、その幸せを想い出す事とします。
―――私のバイオリンは、どうか処分しないで下さい。 そして・・・ たまの時で良いです、少しだけ、弾いてあげて下さい』

『・・・戦場に立つ身、生死は無きものと覚悟致候も、決して無為に終る事無きを確信致候間、御安心下され度候・・・』

『前線は、予想以上に厳しいものとなりましょうが、上官・同僚・部下、一体となって和気藹々、気分は清涼にして士気横溢です。
XX(姪)も大きくなった事でしょう、○○(甥)はもう、歩き出しましたか? 暑くなってまいりました、幼い甥姪達の事が気にかかります。
暑気益々厳しくなる折、御身御大切に。
隣家の□□さん(幼馴染の女性)に・・・ 幸せを願っていると。 そう、お伝え下さい。
照和63年7月1日     敬具
兄上様            雅彦
姉上様』

『―――亡き友を想いて
後々は いくさの庭に 散らす身は 君の仇討ち 地下に報ぜん。
―――故郷を想いて
雨蛙 鳴けるを聞きて ふるさとの いたく偲ばれ 耳そばだてる。
―――母上へ
ふるさとの さなかに立ちて 田植えする 老いたる母の 濡れじとぞ祈る。
照和63年7月9日     出撃10分前に詠む』

『○○(娘)へ。 お元気ですか? お父様はいたって元気、大いに頑張っています。 
この間、○○に会えた時は、お前はお父様の腕の中でぐっすり眠っていましたよ、抱っこしてあげたら、良く笑っていましたね。
(中略)
お前がこの手紙を読んでいる時、お父様は既にこの世にはおりません。 ですが、お父様はそれを悲しくは思いません。
どうして? お前はそう聞くでしょう! 考えて下さい、お前がこの手紙を読むと言う事は・・・ お父様は戦って、お前を守り、成長する時間を与えられたのですから!
(中略)
父親が居ないと、卑屈になってはいけませんよ。 お祖母様も、△△の叔母様(手紙主の妹)も、お前がお父様にそっくりと言っておられました。
ですから、お父様は何時でもお前の中で生きているのですよ。 それでももし、お前がお父様に会いたいと思ったのならば―――靖国に来なさい。
靖国で、強く想いなさい。 そうすれば必ず、お父様はお前の元に参る事でしょう。
辛い事は多々あると思いますが、お母様に孝行をして、素直に、真っすぐに育って下さい。
お前は幸せな女の子です、お前の周りには、お前の幸せを願う人達に溢れているのですから・・・
照和63年7月2日  
○○へ        父より』


俺も圭介も、何通かを渡された。 渡した奴は、昼前に野戦病院で息を引き取った。
今は国内全てが混乱している。 郵便網など、麻痺しているのも同然だ。 手堅いのは、こうやって手渡しで受け継いでいく事だけ・・・

初夏の陽光、心地良い潮風。 そして野郎が2人、黄昏ている―――絵にならないな、全く。
圭介がポケットから煙草を取り出し、俺にも1本勧める。 それを手にして・・・ ああ、何人かの同期は、子供が生まれたから禁煙した奴等も居たっけな・・・
オイルライターを取り出し、火をつける。 ゆっくりと一息吸い込んで、ゆっくり紫煙を吐き出し―――西の方角には、煙が上がっていた。

「・・・姫路か?」

「多分な。 既に加古川辺りでも、確認されたらしい」

3日前の7月15日、広島が陥落した。 
同時に岡山との県境で防衛戦闘を展開していた第7軍団も撤退を開始し、第2軍団の生き残りと共に兵庫県内に辛うじて撤退してきたのが先日の17日。
それを追う様にBETA群も移動速度を速め、16日には岡山市内にBETAが突入、17日には兵庫県内に侵入してきた。
そして昨日夜から今日の朝方にかけ、赤穂市、相生市、姫路市と言った兵庫県南部諸都市に、BETA群が次々に侵攻を始めたのだ。
その数、約4万4000。 その他にも、H20・鉄原ハイヴ周辺に集まっていた最後のBETA群、約5万の移動が確認されている。

「次、来ると思うか?」

「来るな、間違いなく」

現在の防衛線は、俺達のいる神戸市西部の須磨を基点に、北は三田、篠山を北上し、京都の福知山に抜ける。 福知山から北へ宮津へ抜け、丹後半島に至る再編第1次防衛ライン。
そして須磨の対岸に位置する淡路島を通って四国に入り、讃岐山脈を東西に貫き、香川と愛媛の県境で四国山地に合流する、四国山岳防衛線。
九州は随分と後退した。 今は阿蘇山を基点に、東は宮崎県北部防衛線、西は少し下って熊本県中部から宇土半島に抜ける。 熊本市内は陥落した。
長崎は松浦半島への上陸を許しはしたが、その後、BETA群の大半は佐賀平野へ流れて言った為、今は陸海軍残存部隊が佐世保付近に集結し、防衛線を張っている。
現在の所、対岸の佐賀や熊本のBETA群は、有明海や島原湾を渡海する動きは見せていない。

BETA群は九州西部に約1万4000と、西部に1万2000。 西部軍集団の生き残り戦力が、ざっと8個師団前後。 無理に攻勢をかけなければ、持久出来る状況だった。

「それなのに、俺達の前面にはBETAの団体様が4万4000。 俺達第9軍団は、たったの3個師団。 上はどうする気だろうな?」

「三田と篠山に第7軍団が陣取っている、3個師団。 
それに国連軍―――米軍第25師団も、俺達に合流した。 米軍の第2師団と第6空中騎兵旅団も三田だ。
いざとなれば、数時間で北から側面を突ける」

「・・・第2師団のあいつが言っていただろう? 広島方面の戦いで、米軍も結構損害を出した。
御得意の大規模砲撃戦じゃ無く、突っ込まれてからの近接戦闘を強いられた。 上層部同士で綱引きの結果だそうだが・・・ 米軍の連中の視線、冷たかった事!」

圭介が、共通の同期の友人の名を出して、そいつから聞いた西部戦線でのしこりの事を言っている。
漏れ聞くところによると、米国は戦術核の使用を求めたらしい。 これに対して帝国は断固拒否。 
結局、西日本に大規模なBETA群を迎え、米軍としては本意ではない戦闘を強いられた。
岡山から兵庫西部を経由し、先日通過して行った米軍第2師団の連中から、冷たい視線と罵声を聞かされたものだ。
余りのスラングに、他の連中は意味が判らなかったようだが―――N.Yの下町当りじゃ、よく耳にした下品なスラングだ。 経験も善し悪しだと思った。

「篠山と言えば・・・ 昨日、美鳳と文怜に会った。 珠蘭にもな」

圭介の言葉に、懐かしさがこみ上げた。 そう長く会っていない訳ではないが、それでも戦場で安否を確認出来たからだろうか。
中国軍の趙美鳳大尉に、朱文怜大尉。 そして韓国軍の李珠蘭大尉。 彼女達は本国軍から抽出され、極東国連軍に派遣されて帝国本土防衛戦を戦っている。
美鳳と文怜にとっては、2度目の国連軍出向だ。 もっとも部隊は母国軍で編成されている。前回の様な、完全な混成された国連軍固有部隊では無い。
圭介の第14師団は、俺の第18師団の北に隣接するから、途中で14師団戦区を通過して北上したのだろうか。

「ああ、あの3人か。 無事だったんだな、良かった・・・ 何か、言っていたか?」

「取り立てては。 今更、戦場に怯えるタマでも無いし。 時間も短かったから、お互い近況なんかをな」

短くなった煙草の先を見つめながら、圭介がぼそりと話す。
彼女達も、内情は大変の様だ。 美鳳と文怜は台湾に撤退したが、どうにも居心地が良く無いらしい。
USC(統一中華戦線)と言っても、彼女達、解放軍系は言わば居候だしな。 台湾軍とは微妙にズレが有ると言う。
珠蘭の韓国軍残存部隊は、半島撤退後は6割がマリアナ諸島に移動した。 残る2割は大東亜連合の援軍として東南アジアに転戦し、2割が帝国本土に残留している。
いずれも居候だ、そしていずれも最前線を任される。 亡国の軍の悲哀とは言え、彼等の消耗ぶりを見るのは痛ましい。


潮風に乗って、微かに土を踏みしめる音が聞こえた。 数人、近づいて来る。

「―――圭介、直衛」

愛姫だった。 それに緋色、永野と古村。 14師団、18師団に所属する同期生達。 他に2人いる、大友に国枝。 29師団(第9軍団)所属の同期生。

「手紙は、軍団司令部で預かって貰う事になった。 ほら、あいつ。 95年に負傷して、今は通信に転科した。 あいつが預かってくれる」

大友―――大友祐二大尉が、負傷して衛士資格を失い、今は通信将校となっている同期生の名を上げた。
そうか、確か今は軍団司令部付きの通信大隊に居たな。 後方支援部署なら、最前線部隊の俺達より生き残る確率は高いだろう。
もう一人の国枝宇一大尉が、公園から下を見渡し溜息をついてから振り返り、俺達同期生達に言う。

「・・・見ろよ、この光景を。 まさか、本土でお目にかかる事になるとはなぁ」

国枝の示す先には、長い、長い列が出来ていた。 
鉄道網は既にパンク状態、道路網も渋滞で動かない。 国鉄の幹線路と、主要な道路は軍が押さえている。 しかし、避難民の流れは終わらない。
国枝も大友も、長く大陸で戦った経験を持つ大陸派遣軍出身組だ。 何度も見慣れた光景だが、それでも本国で見る事はまた違う。

「大体が、つい数日前に慌てて近畿・東海・北陸に対して戒厳令が敷かれて、全面避難命令がようやく出されたていらくだ」 

「岡山、そして四国からの避難民も、続々と畿内に集まっているわ。 だと言うのに避難人口は、流入人口を下回っている・・・」

圭介と永野も、溜息をつきながら見降ろしている。

中国地方各県では、岡山県以外の県で全県民の75%が犠牲になった。 BETAの渡海侵攻を受けた四国の2県、愛媛と香川も50%から70%の民間人被害を出したと言う。
四国から200万人が、中国地方から命からがら100万人が、続々と畿内に流れ込んでいるのだ。
それだけでは無い、近畿だけでも未だ2000万人からが避難待ちをしている。 中部・東海地方で1200万人、北陸に280万人が、未だ残っていたのだ。

「・・・心配なのはさ、今日明日にもBETAが動き出そうかって、今の状況だよ。 下手したら、また数百万人単位で民間人を切り捨てる無様だよ・・・」

「九州だけじゃないわね、広島、岡山・・・ 中国地方全域もそうだし、四国じゃ松山と高松、それに直ぐ先の姫路も・・・」

「北九州や広島・山口じゃ、BETAに喰い付かれた数万の民間人ごと、砲撃で吹き飛ばしたらしいな」

愛姫、古村、大友も、うんざりした口調だった。 ここに居る8人、大陸派遣軍で長く戦ってきた連中だ。 過去にそんな光景は何度も見たし、経験もした。
今更、戦う自分の手が綺麗だなどと、世迷い事を言う連中じゃないが、それでもああ言った事態は出来れば勘弁したい―――大尉風情じゃ、根本の解決なんか出来やしないのだ。

「大体が、政府の対応が後手過ぎる。 半島陥落から一体、何カ月経っていると思っている?」

「―――当初、国防省が出したBETA上陸予想は、来年だった」

憤慨する国枝に、圭介が淡々と応える。 その口調が気に障ったか、やや嘲笑加減に国枝が切り返した。

「はっ! 来年! そう、来年だ、立った1年しか無い、そう言っていた!―――BETA上陸前の調子で、1年で一体どれだけの国民が疎開できた? 推定で800万人だ」

「・・・西日本の残留人口、約4000万人。 いずれにしろ、3200万人はBETAの直接脅威に晒された訳だ」

国枝の声に、大友も半ば同調する。 余り良い雰囲気じゃないな。
国枝も大友も、派閥と言う派閥に属している訳じゃないが、日頃の言動は統帥派に近いものがある。

「・・・全面戒厳令が出されていれば、強制執行で避難さす事は出来たわね。 議会の一部が強硬に反対した事と、城内省からもかなり横槍が入ったと聞くわ」

「あら、珍しい・・・ 優等生の永野の口から、そんなセリフを聞くとは、ね・・・?」

「茶化しているの? 古村? 私はひとつの可能性を言ったまでよ。 議会の反対勢力も、横槍を入れた城内省―――元枢府もね、代案さえ出さずに反対ばかり。
国民の権利を守る? 大いに結構! 民に犠牲を強いる事は慙愧に堪えぬ? 慈悲深い事で、涙が出ますわ!―――口ばっかりじゃね・・・」

こっちもこっちで、日頃は仲の良い永野と古村までが・・・

「はあ・・・ ちょっと、止めなよ、みんな・・・ アタシらは軍人で! 軍人は国家の番犬で! 国民の牧羊犬で!
どっかの口の悪い連中から、『狗』呼ばわりされても、その事だけは捨てたつもり、無いでしょう!? ここで政治議論しても、始まらないって!」

ついに愛姫がキレ始めた。
永野と古村が、ちょっと気拙そうに首をすぼめ、大友と国枝が、バツが悪そうに頭を掻いている。
圭介は―――横を向いて、シレっとしてやがった。 愛姫に睨まれて、片目つぶって謝っていたが。

何だか、言いたい事の大半を他の連中が一気呵成に行ってくれたお陰で、何となく話に割り込む隙が無くなったじゃないか。
みんな、内心で苛立っているんだ。 色々な問題山積みの現状だが、本当に同胞込みでBETAに対して『射撃命令』を出さねばならない場面は、確実にくる。
長年の実戦経験がそう言っている。 このまま避難民が無傷で脱出する時間を、現状の防衛戦力だけで作り出す事は不可能だ。 何処かを切り捨てない事には・・・


避難民の行列を見ながら、ぼんやりとそんな事を思っていた。
疲れ果て、BETAの恐怖に怯え、着の身着のままで避難してきた人々。 しかしその避難する先にさえ、彼等の安住の場はない。
これからも、彼等にとって苦難の避難行きは続く。 果たして今の日本に、安住の地が有るのか甚だ疑問だが。

「それより、部下の士気が心配よ・・・」

古村が眼下の避難民の行列を見ながら、溜息をつく。 言っている事は判る。 これまでに西日本全域で、推定でも1300万人が犠牲となった。
そしてその地域に住んでいた民間人の49.8%が犠牲になったのだ。 実に、2人に1人が。当然、軍人にも西日本出身者は居る。
俺の中隊の部下の中にも、家族を戦火の中に喪った連中がいる。 第3小隊長の四宮杏子中尉が岡山県、同小隊の鳴海大輔少尉が山口県の出身。
他には第1小隊2番機で、中隊副官の瀬間静中尉が鳥取県、第2小隊の河内武徳少尉が広島県―――岡山県は50%を犠牲にし、他の3県は75%の犠牲を出した。
心配の種は尽きない。 表向き平静を保って軍務に就いているが、鳥取の瀬間、広島の河内、山口の鳴海の家族は音信が途絶えた。 岡山の四宮の家族も未だ行方が知れない。

「・・・ここに居る8人は皆、実家や家族は、近畿以東ね」

「何とか言ってやりたいが、何とも言えん・・・」

永野と大友が溜息をつく。 指揮官の手前、彼等に特別な配慮はしてやれない。 しかしやはり指揮官として、部下の心情は痛いほど伝わる。
内心を押し殺し、必死に、健気に軍務に精勤する部下達を見るのが辛い。 しかし眼を反らす事は出来ない、指揮官としてしてはならない。

「暫く、様子を見てやる事ぐらいしか出来ないな。 何か変化があったら、それとなく個人的に接してやる位しか・・・」

「言い方は悪いが、他人の心中までは判らん。 指揮官とて、神様でも仏様でも無い、察してやること位までだ」

「部下が、必死で内心を押し殺して任務に就いているのだ。 上官が惑わす様な事は出来ぬ」

「頭、痛いよね、ホントに・・・ まさか自分にこんな出番が回ってくるとは、思ってみなかったよ・・・」

圭介、国枝、緋色、愛姫が口々に溜息をつきながら呟く。
こうして愚痴を言い合えるのも、同期生だからこそだ。 先任や後任の同僚はおろか、ましてや部下の前では、こんな態度すら見せられない。
ましてや、大義がどうの、名誉や忠節がどうのと、そんな世迷い言で言いくるめようなんて、したくも無い。

大義の為に、私事を殺せ―――国粋派連中が、良くがなりたてるお題目だが、ああ言った連中に限って口と行動が一致しちゃいない。
大体が、親しい間柄や身内・親族がBETAに喰い殺されて、そのセリフを叩けるのか、そう言いたい。
無論、俺達は正規軍人であり、士官だ。 私事を優先する事は許されないし、してはならない。
だが、それは己の内に秘めておくべきものであって、声高に口に出すものじゃない筈だ。 そして如何に軍人とて、生身の人間だと言う事だ。
お題目を声高に叫びたてる連中、それを強制しようとする連中、力を使ってまで己に酔う連中、俺はそんな連中は全く信用しない。


「にしても、今回は俺達軍人ばかりじゃ無い、寧ろ自治体や政府の避難計画担当者の方が、大戦(おおいくさ)じゃないか?」

ちょっと行き詰った空気を変えようと、圭介が無理して話題を変えようとする。 かなり無理な話題の変更のし方だが、皆は内心でホッとしていた。

「大阪府の防災室にな、知り合いがいるんだ」

折角、圭介の無理な(?)話題変更に感謝しつつ、ある事を思い出した。
そして先月ばったり出会った、昔の知り合いの事を思い出した。

「姉の古い知り合いでな、府の防災室で室長補佐をやっている人だが・・・」

いや、『元室長補佐』か。 あの人も召集令状が届いたと言う。 姉の縁で良くして貰ったし、関西に来てからも時々会っていた。
その時話してくれた事だが、関西の広域避難計画委員会の席上で、彼女は軍とかなり派手にやり合ったらしい。 いや、コテンパンにやりこめた、と言った方が良いか。
昔から女傑風で、それでいて何処か飄々として、動じず、揺るがず。 あの人が相手じゃ、話に聞いた参謀大尉もやり難かっただろうな。

一通り話す頃には、他の連中もニヤニヤしていた。 内心じゃ、司令部に収まった参謀大尉(エリート連中だ)より、その府防災室長補佐殿に拍手を送りたい心境だ。
前線に身を置く者としては、後方の司令部、それも上級司令部になる程に、『前線を見に来い!』と、何度言いたくなった事か。

「にしても、良い度胸だな、その室長補佐殿。 その席上にゃ、斯衛のお姫様も居たのだろう?」

国枝がひとしきり笑った後に、呆れたようにそう言う。
陸軍内にも、斯衛に対し微妙に距離を感じる者も多いが、地方自治体や民間では未だに『殿様、お姫様』な感覚が残っている。
ましてや、大阪府は帝都のお隣。 一見、武家に対する反発や、政府に対する反発は少なそうに思えるが・・・
そこは古くからの商人の街だ、『実益の無い権威』など、商売の種になりもしないと、結構反骨精神が根強い―――木伏さんを見れば、判り易いな。

「まあ、あの人は特別印だしな。 それに、元々は結構な家格の武家の出身だ、分家筋だそうだけどな」

「武家出身? それで、自治体の室長補佐?」

古村が怪訝そうに言う。 永野に愛姫もちょっと訝しげだ。 そうだろうな、あの人の家の本家は、赤を許された武家だった筈。
そこの分家筋ともなれば、普通は城内省の高級官僚、もしくは斯衛士官、その辺が妥当な線だろう。

「ちょっと待て、周防。 武家出身で、大阪府の地方公務員など・・・ 私は聞いた試しがないぞ?」

緋色が疑問を口にする。 流石は山吹の家格の武家の出だ、その辺はよく知っていると見える。
武家社会は狭い。 大抵の家は、本家・分家を問わず、誰それが、どこの役に就いているとか、その辺は大抵知っているらしい。
一般的な武家社会とは一線を画している緋色でさえ、実家の情報は把握しているようだ。
その彼女が『知らない』となると・・・ あの人、実家と絶縁したってのは、本当らしいな。

「普通の市民の男性と結婚して、家を飛び出し立って聞いた。 今も結婚後の姓を名乗っているし・・・」

「結婚前の姓は? 何処の家だ?」

緋色が喰いついてきた、なんだかんだで、この手の話には関心を捨てきれない様だな。
別に隠す事でも無いので、あの人の結婚前の姓を告げた。 緋色は酷く驚いていた、随分な名門一族らしい。

「で、普通の、名も無い市民の男性と恋をして・・・ 武家の実家と絶縁してまで、結婚を!?」

「やるわね・・・」

「むむむ・・・」

永野で、古村で、愛姫だ。 
なんだかんだと、女はこの手の話題に喰いつくね?

「いや、そこまで想われると、男冥利ってヤツか?」

「貴様に、そんな甲斐性は無かろう?」

「貴様も、だろう?」

国枝に、大友に、圭介だ。
いやはや、武家のお姫様に、実家と絶縁してまで慕われるとはね。 
でも、ちょーっと、重いかね? そう言うのは―――俺は、彼女が一番だ。

「まさか、そんな・・・ でも、この数年、顔も見ないし話も聞かなかった。 彼女が、そんな・・・ いや、在り得るかも・・・」

緋色が混乱している。 実際に知っているのだろう、あの人を。

何時の間にやら、話が変な方向に逸れて行ったけれど、これはこれで良しとするか。
それにあの人も良く言っていたな、『悲しみに効く薬は、時間薬だよ、直坊!』―――御主人が戦死された後、見舞った時にそう言って無視して笑っていた彼女。
今頃は、府民の避難計画を最後まで見届けられず、不本意な心地で軍務に就いているのだろうか? いや、多分それも割り切っているのかもしれないな。


風が少し冷たくなってきた。 もう1500時だ、何だかんだで30分程も経っていた。 いい加減、サボるのも拙い。

「そろそろ、仕事に戻るか。 中隊長が雁首揃えて8人も。 流石に拙いぞ?」

「お互い、先任や副官がしっかりしてくれているから」

「それは長門、貴様に限ってだ。 貴様の所の八神中尉、嘆いていたぞ?」

「・・・流石、圭介。 あの八神が、まともな中隊副官をやらざるを得んとは」

八神涼平中尉は、以前の俺の部下だ。 中尉進級と同時に、圭介の中隊に移動した。 今は中隊副官か、あいつがねぇ・・・

ひとしきり、圭介を話のネタにした後、本当に部隊に戻る事にした。
と言っても、2人を除いた6人が示し合わせたのだが。 この辺、流石は同期生同士だと思う。

「さて、俺は中隊に戻る。 緋色、行こうか」

「うむ」

同じ師団の緋色に声をかけ、公園を降りる階段に向かう。

「じゃ、私達も・・・ 古村、行きましょうよ」

「了解、先任」

永野に、古村がちょっと茶目っ気な態度で、止めてあった高機動車に向かって歩いてゆく。

「じゃ、俺達も・・・」

「手紙は俺から渡しておくよ」

国枝と大友も、乗って来た高機動車に乗り込んだ。
必然的に、その場には圭介と愛姫の2人が残された。 俺が愛姫を振り返って止めを刺す。

「おい、愛姫。 3大隊の当直、仁科に代わってくれるよう、言っておいたからな」

「はあ!?」

「あ、長門。 私と古村、29師団にちょっと寄って行くから。 帰りの足は、伊達に用意して貰いなさいよ?」

「なにぃ!?」

永野が、ナイスなアシストを決めた。

「因みに29師団の車輌は、士官は2人以上の乗車は拒否だ」

国枝と大友が笑っている。

同期生同士だ、俺がバラさなくとも、皆が何となく判っていたらしい。
別に事前に示し合せた訳じゃないが・・・ いいだろう、この位。 もう直ぐ本当に地獄の戦場が開幕する。 罰は当たらないさ。



圭介と愛姫を置いて中隊へ戻る道すがら、緋色と二人で73式小型トラック(市販車ベースの新型だ)に乗っていたら、助手席の彼女がポツリと呟いた。

「なあ、周防。 家柄とは、何だと思う・・・?」

海岸沿いの国道2号線、上り車線が避難民の行列で埋まっている。 疲れ果て、中には怪我をした人やお年寄りなんかも多い。
みな徒歩だ、軍が制限した下り車線を走る俺達の車輌を、恨みがましく見つめる視線がちょっときつい。 大陸や半島で、何度も経験した視線だったが。
ハンドルを握り、視線を前に向けたまま、緋色の問いに敢えて単純に応える。

「先祖の功績、子孫の自慢」

「・・・手厳しいな、相変わらず。 その子孫の、努力と言うモノは?」

「見合った努力と、結果を出しているのなら、逆に家柄なんて気にかけないだろうさ。 自分の実力と功績だ」

「つまり、普段から家柄云々を言う者とは、その双方を満たしていない、と・・・?」

何を気にしているのか? 確かにこいつの家は、それなりに高い家格を誇る武家の家だが。
暫く車輌を走らせる間、緋色は避難民の行列を眺めていた。 時折、首を回して目で追いかけるのは、家族での避難民だった。
やがて無言だった緋色が、小さく呟いた。 少し投げやりな口調に感じたのは、気のせいではないだろう。

「緋色、お前、何か悩みでもあるのか?」

「・・・いや」

何だよ・・・ 顔に思いっきり『悩み』って文字、張り付けた表情しておいて。 拙いな、この調子じゃ。 
今にもBETAの侵攻が開始されるかというこの時期に。 よりによって、中隊指揮官がこの調子じゃ。

「言ってみろよ。 何か引っかかったままで戦場に出る気か? 俺じゃ大したアドヴァイスは出来ないかもしれんが・・・ 聞いてやる位なら、出来る」

暫く無言を通していた緋色が、やがて小さな声で聞いてきた。

「・・・直衛、貴様はこの先どうするのだ?」

「どうする、とは?」

「・・・綾森大尉、祥子さんだ。 一緒になるつもりなのか?」

「・・・ああ、いずれ、そうなりたいと思っている」

何だと言うのだ、急に。 横目で緋色を見ても、表情がイマイチ掴み切れない。

「緋色、お前さん、実家から何か話が?」

「相変わらずだ、斯衛に転籍せよと。 それに・・・ 結婚話もな」

斯衛。 双子の姉と、弟が斯衛の士官だったな。 山吹の家格の武家だ、斯衛軍に、と言うのは不思議じゃないが・・・
それに向うも、歴戦の中堅指揮官を欲しいのだろう。 それが山吹の家格の武家ならばうってつけだ。
斯衛の現状、階位による進級速度の大幅な違い。 陸軍から移籍した実戦経験を積んだ衛士は、しかし所詮普通の市民出身が殆ど。 色は、『黒』だ。
少尉から中尉、中尉から大尉。 陸軍で有れば普通はそれぞれ2年から3年の経験年数、それに所定の教育を受けて進級する。
しかし、斯衛の『黒』は据え置かれる時間が長い。 聞いた話では、少尉を5年、中尉を6年やって、ようやく12年目にして大尉になれた『黒』の中隊長が居るとも。

反面、赤の家格の武家などは、少尉1年、中尉1年から1年半で大尉に進級するとも言われる。 山吹では少尉1年半、中尉2年で大尉だそうだ。
『蒼』など、斯衛の衛士養成所を卒業と同時に斯衛中尉に任ぜられ、1年後には大尉だと言う。

その結果として、前線の下級・中堅指揮官に若い、経験不足の武家貴族士官が主流を占める事となっている。
そして経験豊富な実力者だが、『黒』である為に長期間その下で指揮を受けるベテラン、と言う歪さが目立ってきているとも。
軍としては、望ましい姿では無い。 それを少しでも解消する為に、『黒』の士官の進級速度を速めようとしているらしいが・・・
格式社会の弊害だ、武家連中の反発も強いらしい。 その内情も聞こえてくる為か、以前なら『名誉』と考える者も少なからず居た斯衛への転籍も、最近はとんと不人気だ。
そので、緋色の様な武家出身でありながら陸軍に籍を置き、しかも実戦を経験している人材をしきりに誘っている様子だ。

「・・・希望を出したのか?」

転籍は基本、本人の合意が為されて初めて実現する。

「まさか! 私は・・・ 私は、斯衛に行く気などない!」

思わず声を荒げて、俺の方を振り向いて、緋色がムキになって否定する。
確かに、こいつの生い立ちを聞く限りでは、転籍しようとは思わないだろう。

「いや、済まん。 俺もお前が希望を出すとは思っていない。 ・・・結婚話は、そんな一環か?」

「ああ・・・ ここの所、実家が煩い。 相手は同じ家格の家なのだが・・・」

「お前、双子の姉がいただろう? 神楽緋紗斯衛大尉。 彼女には?」

「―――姉には、既に婚約者がいる。 赤の家柄の、総領息子殿がな」

緋色はそう呟いて、顔をそむける。 向う側の車線に避難民の行列が続いている。 
休憩しているのか、幼い子供を連れた若い夫婦が道端に座っていた。

「あの頃のままで、居たかったのだ・・・」

一瞬、その姿が目に入ったか、小さく、ポツリと緋色が呟いた。

「・・・家柄など、欲しく無かった。 普通の、市井の女でいたかった。 子供の頃のままで・・・ あの頃のままで、居たかったのだ・・・」

―――そうであれば、私もこんなに悩んだりするものか・・・

最後に小さく呟いた緋色の声が、微かに耳に聞こえた。

どうしようもねぇな―――山陽塩屋を過ぎ、滝の茶屋の前まで来た。 
このまま東垂水までいき、その先で488号線に折れて北上すると、特別支援学校の辺りが連隊本部だ。
緋色の第1大隊はその北、第2神明の名谷IC付近、俺の第2大隊は更に北の神戸市外大付近。

「―――あのな、お前も知っているあの人な、実家と絶縁したけどさ。 でも、不幸じゃ無かったとさ。 そう言っていた」

「・・・」

あれっていつの頃だった?―――ああ、確か斯衛との合同演習の直前だったか。
休暇で祥子と2人で大阪の街に出た時に、府庁の前でいきなり拉致されて・・・ 後で祥子に疑惑の目で見られて、酷い目に遭った・・・

「誤算は、旦那が思いのほか早くしんでしまって、『未亡人になるスケジュールが、かなり前倒しになってしまったわ』って、笑っていたけどな」

「・・・らしい、な・・・」

「旦那さんは結局戦死して、自分はその菩提を弔い続けているけれど、後悔していないと。
後悔すれば、旦那と出会えた事さえ、無にしてしまうと。 だから後悔はしていないとさ」

「後悔、か・・・」

いや、相変わらず竹を割った様な、男前な性格は健在で何より―――もう少し、その場の雰囲気を察して欲しかったけどね。

「1回きりの人生、しかもこんなご時世、自分の意に反した生き方なんてさ。 せめて、ひとつ位は自分の我を通しても良い、なんて思うけどな」

それが出来ない、決して許されない立場の人間もいるけどね。 
代わりに俺達は、名も無き墓標を戦場に立てる事を要求される訳で。 どっちもどっちか。

福田川の交差点が見えてきた。 川向うは完全な戦場予定地。 右折して488号線に入り北上する。
山陽本線の高架を潜り、車輌を走らせる。 暫く無言だった緋色が、不意に口を開いたのは、連隊本部を通り過ぎ、もうじき第1大隊の陣地、と言う時だった。

「―――決めた」

「ん?」

「決めたぞ、私は決めた。 もう、実家など知った事か。 私は市井の、京都の呉服屋の娘だ、そうして育ってきたのだ」

―――あ、何だか、複数人に恨み事を言われそうな予感がする・・・

「そんな市井の女が、想いのたけを告白して何が悪いと言うのだ!? いや、悪くない!」

―――謹厳実直、歴戦の衛士、それも男30代の分別盛りの顔に、困惑が浮かぶ様が想像されて・・・

「うむ! そうだ、その通りだ! このご時世、後悔して死んでしまっては、それこそ親不幸と言うものだ!」

―――いや、俺、そこまで言ってないし・・・

そんな俺の困惑をよそに、とうとう第1大隊陣地前に着いてしまった。 そこで緋色と別れた。
車輌を降りた緋色の顔は、吹っ切れて清々しかったとだけ、言っておこう・・・





1600時 第181戦術機甲連隊 第2大隊野戦陣地 神戸市垂水区


「愛姫ちゃんに、緋色。 何時の間に、恋のキューピット役をするようになったの?」

大隊指揮所のテントの外。 折椅子に腰かけ、コーヒーカップを両手に持った祥子が、可笑しそうに笑う。
同じ様に折椅子に腰かけ、だらしなく天を仰いでいる俺。 脳裏には、羽を生やし、小さな弓を持った自分の姿―――気持ち悪い。

「・・・成り行き、だよ」

軍団本部情報によれば、BETA群は今日の黎明時から動きを見せていない。 相変わらず30kmほど西の姫路に集まっているそうだ。
一部の小型種が数十体、20km先の加古川で確認されたが、強行機甲偵察隊との交戦で殲滅されたらしい。
嵐の前の静けさ、いずれ本格的な侵攻が始まる事は目に見えている。 せめてそれまでは静かに過ごしたい。 戦場での贅沢だ。

不意に祥子が椅子を持って、俺の直ぐ横に寄って来た。 周囲を見渡した後、顔を近づけて小声で聞いて来る。

「それでね・・・ どうなのかしら? 愛姫ちゃんと、緋色は?」

体温が感じられるほど近い。 良い香りがするのは、香水って訳じゃないよな、こんな戦場では。
艶やかで弾力のある唇、今日は赤い口紅か。 祥子の好きなブランド、なんだっけ・・・? 
そうだ、イヴ・サンローラン・ボーテ。 それのルージュピュール。 伝説のフューシャピンクNo.19。 散々聞かされたから、もう覚えてしまったよ・・・

お固いと言われる帝国軍であっても、特に前線では不問律の様に黙認される事は、実は結構ある。 衛士で言うと、女性衛士の場合が多い。 
祥子が今している、ちょっとした化粧。 これさえも、激戦続きで顔色を悪く見せない為に、大陸派遣初期に始めた事らしい。
確かに、指揮官が青白い顔色だったり、土色の顔色だったり、なんてのは士気を維持する上で、ちょっとな・・・ と言う気もする。

最も今は、女性衛士の『ストレス発散』としての側面もあるのだが。 それに少しだけ香水を振りかける女性衛士も多い。
長期間に及ぶ防衛戦闘にもなると、何日も強化装備を碌に脱ぐことすら出来ない。 汗と排泄物、その他諸々、その匂いたるや・・・ である。
男の場合、慣れてしまえば気にしない。 大体がそう言う生き物だろう、男ってのは。 だけど女性衛士の場合、そんな体臭を少しでも和らげようとしたいモノらしい。

俺個人としては、彼女がそうして身綺麗にしてくれるのは、嬉しい限りでは有るのだが。

「愛姫は・・・ 愛姫と圭介は、なるようになるんじゃないのか? 愛姫も結局、断る理由は持ってない様だし。 最近はよく、連絡つけ合っている様だしね」

「そう・・・ そう、よかったぁ・・・」

祥子にとっては、何だかんだで、新任の頃から一番可愛がってきた後任だしな、愛姫は。
ちょっと元気者の妹を見る様な感覚なのだろうか? あれが妹・・・ 遠慮する、胃が痛くなってきそうだ。

「緋色は・・・ そうだな、この大騒ぎが終わった頃には、宇賀神少佐の困惑顔を拝見出来るんじゃないかな?」

「それはそれで、楽しみね」

可笑しそうに、それでも嬉しそうに、祥子が頬を緩める。 祥子にとっては、緋色も新任少尉時代からの、付き合いが長い後任だ。
嬉しそうに笑った後で、不意に祥子が微妙な表情をして、ちょっと真顔で見つめて来る。

「でも、そうなったら・・・ 私、彼女達に先を越されちゃうのかしら・・・?」

―――やはり、そう来ましたか。
最近、意識して祥子の前でこの手の話を避けてきたのは、最後は必ずこうしてプレッシャーを受ける訳で。
それが嫌な訳ではなく。 ただ、柄にも無く戦場を目前にして、自制していただけの話で。

「この大騒ぎが収まったらさ、結婚しよう」

「・・・え?」

―――鳩が豆鉄砲を喰らった様な、って、今の祥子の表情だろうか? 何て言ったら怒るかな?

「せめてひと段落したら、結婚しよう、祥子。 今はまだ、2人だけの話しで。 ひと段落したら、皆にも話して」

「・・・な、直衛・・・」

「ああ、せめて君の御両親にもう一度ご挨拶に行かなきゃ・・・ ウチの両親にも報告か―――っと、その前に、返事を聞いてなかった・・・」

「バカ・・・ 返事だなんて・・・ OKよ、ええ、OKです・・・」


同期の事や、部下達の事。 悲惨を極め始めた本土防衛戦の事、多分まだやって来るだろう新手のBETA群も、頭が痛い。
色んな事が山積みだった本日。 どれ一つとして解決してはいないけれど。 俺個人だけでは、解決できない問題ばかりで頭が痛いけど。

―――良いじゃないか、こんな締めくくり方も。 
そろそろ夕日になりかけている、陽の光に照らされた祥子の泣き笑いの笑顔が、とても眩しかった。










1998年7月18日 1950 帝都・京都 二条堀川 本土防衛軍中部軍集団司令部


「何!? また渡海侵攻だと!?」

「はい、鉄原ハイヴ周辺で、最後まで残っていたBETA群の所在が判明しました。 G群、約2万6000と、H群、約2万4000。 日本海を渡海中です。 
舞鶴の第5護衛総隊、その早期哨戒ピケットラインに引っかかりました。 現在、対BETA水中戦闘を展開中です」

「・・・戦果は?」

「芳しくありません。 海軍から、海底地形が複雑で、効果が薄いと報告が有りました」

「予測される上陸地点は? 何処に来る?」

「このままの進路でBETAが侵攻すると仮定して・・・ 丹後半島から山陰海岸国立公園、香住の辺りと想定されます。 上陸推定時刻、2200から2230」

作戦室内の温度が、一気に下がったようだった。 一人の作戦参謀が、呻くように声を絞り出した。

「まずいぞ、北近畿は配備兵力が手薄だ・・・」

「手負いの第2師団が福知山に再配備された他には、舞鶴の海軍連合陸戦旅団しか配備されていない・・・」

「手持ちの予備は!? 即応戦力だ! 斯衛? 斯衛の第3聯隊戦闘団!? 出せ! 斯衛でも何でもいい、出せ!」

「後方からの増援はどうなっている!? 6個師団の増援は!?」

「まだ、1週間はかかる!」

「重点防御拠点は福知山、亀岡、篠山! 帝都への北と西の玄関口だ、守れ!」

「三田は!? 突破されれば南西から帝都の下腹を突かれる!」

「兵庫南部と連携させるしかない! 海軍部隊は!? それと国連軍にも緊急信!」

「京都の北部と兵庫の半分は、見捨てるしかないな・・・」










2030 帝都郊外 西京区 斯衛軍・桂分屯所


「“ブレイヴ”リーダーより全機! 噴射跳躍後はNOEで福知山まで急ぐぞ! 第2師団で推進剤の補給を受けた後、宮津へ急行! 遅れるな!」

―――『了解!』

中隊各機から、一斉に応答が帰って来た事に神楽緋紗斯衛大尉は、内心で満足した。
色々と言われる事も多いが、自分の中隊は陸軍に対しても遜色の無い程に、対BETA戦闘を叩き込んだという自負がある。
93年の『九-六』作戦当時、成り行きで大陸に渡り、これまた成り行きで国連軍の指揮下で、あの大規模防衛戦闘を戦った。
思えばあれ以来、自分の中で意識が変わったのだと思う。 それまで斯衛で重要視されてきた対人戦闘よりも、より対BETA戦闘を意識した訓練。
斯衛も『軍』を名乗るのであれば、その任務は国土の防衛であるべきだと。 もっとも、上層部には受けが悪く、神楽家の長女で有りながら傍流の第3聯隊所属であったが。

12機の82式『瑞鶴』が、跳躍ユニットから青白い焔を立ち上げ、次々に跳躍を開始する。 
先頭は彼女自身が操る、山吹色の『瑞鶴』 両脇の第2、第3小隊長機は『黒』の『瑞鶴』だった。

「宮本、佐倉、宜しく頼むぞ」

両腕と頼む2人の小隊長に、通信を入れる。 直ぐに2人の姿が網膜スクリーンにポップアップされた。

『お任せを、中隊長』

『なに、我々の初陣―――94年の大陸打通作戦に比べれば・・・ ですよ』

頼もしい。 わざわざ伝手を頼って、陸軍から願って転籍して貰っただけの価値はあった。
この2人は新任当時に、94年の大陸打通作戦を生き抜いた。 その後も大陸と半島で戦い、生き残った本物の歴戦の衛士だ。
陸軍側も随分と難色を示したものだったが、何としても引っ張って来たかった。 これからの斯衛の為にも。

後方映像を見ると、僚隊の2個中隊も追随していた。 
斯衛第3聯隊は、大隊長を置いていない。 9個中隊が聯隊長の指揮の元、自由度の高い行動を行う為だ。
果たしてそれが、BETAとの叩き合いの場でどう出るか、やってみるしか無かった。

(『彼女も、功を逸らなければ良いのですけれど・・・』)

後続する中隊の片方、その中隊長機―――『赤』を纏う『瑞鶴』を見て無意識に思う。
何時だったか、陸軍との合同演習の際、妹の戦友に言われた事が有った。 『―――なかなか、息苦しい生き方をしているのだな・・・』、と。

仕方がない、それが我々、武家の生き方なのだ。 不意に双子の妹の事が、思い浮かんだ。
多分、今頃は家からの話に、思い悩んでいるのではないか。 あの子は生真面目すぎるから。
言いたかった、会って、言いたかった。 家の事は考えなくとも良い、己が思う生き方をしなさい、と。

LANTIRN(夜間低高度 赤外線航法・目標指示システム)越しの視界は、妙に無機質な明るさを湛え、目前の脅威も、全ての感情さえも呑み込んでしまいそうな気がした。







この後1カ月に及ぶ、最終的に帝都・京都をめぐる戦いの、その前哨戦の幕が切って落とされた。






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